特許第6571069号(P6571069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニアの特許一覧

特許6571069環状アデノシン一リン酸−インコンピテントアデニリルシクラーゼならびに心不全を処置するおよび心機能を増大させるための組成物および方法
<>
  • 特許6571069-環状アデノシン一リン酸−インコンピテントアデニリルシクラーゼならびに心不全を処置するおよび心機能を増大させるための組成物および方法 図000015
  • 特許6571069-環状アデノシン一リン酸−インコンピテントアデニリルシクラーゼならびに心不全を処置するおよび心機能を増大させるための組成物および方法 図000016
  • 特許6571069-環状アデノシン一リン酸−インコンピテントアデニリルシクラーゼならびに心不全を処置するおよび心機能を増大させるための組成物および方法 図000017
  • 特許6571069-環状アデノシン一リン酸−インコンピテントアデニリルシクラーゼならびに心不全を処置するおよび心機能を増大させるための組成物および方法 図000018
  • 特許6571069-環状アデノシン一リン酸−インコンピテントアデニリルシクラーゼならびに心不全を処置するおよび心機能を増大させるための組成物および方法 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571069
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】環状アデノシン一リン酸−インコンピテントアデニリルシクラーゼならびに心不全を処置するおよび心機能を増大させるための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/51 20060101AFI20190826BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190826BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20190826BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20190826BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20190826BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20190826BHJP
【FI】
   A61K38/51
   A61P9/00
   A61P9/04
   A61P43/00 111
   A61K48/00
   !C12N15/60ZNA
   !C12N9/88
【請求項の数】10
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2016-517971(P2016-517971)
(86)(22)【出願日】2014年6月4日
(65)【公表番号】特表2016-521708(P2016-521708A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】US2014040948
(87)【国際公開番号】WO2014197624
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2017年6月2日
(31)【優先権主張番号】61/832,759
(32)【優先日】2013年6月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ハモンド, エイチ. カーク
(72)【発明者】
【氏名】ガオ, メイ フア
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 Gao,M.H. et al.,Beneficial effects of adenylyl cyclase type 6 (AC6) expression persist using a catalytically inactive AC6 mutant.,Mol. Pharmacol.,2010年12月 2日,Vol.79, No.3,p.381-8
【文献】 Sugano,Y. et al.,Activated expression of cardiac adenylyl cyclase 6 reduces dilation and dysfunction of the pressure-overloaded heart.,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2010年12月30日,Vol.405, No.3,p.349-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異6型アデニリルシクラーゼ(AC6mut)ポリペプチドまたはAC6mutコード核酸を含む製剤であって、
該AC6mutが、ATPのcAMPへの分解を触媒しない、または野生型AC6によるATPからcAMPへの触媒活性と比較してATPのcAMPへの分解を触媒する能力が損なわれており、
AC6mutをin vivoの心筋細胞において発現させた場合に、左心室(LV)収縮機能が影響を受けずもしくは低下せずまたはLV収縮機能が実質的に影響を受けずもしくは低下もしない、製剤であって、
(1)心疾患または心不全を有するまたはそれを有するリスクがある被験体を処置するため、
(2)心疾患、
心不全、
心機能または心拍出量の低下、
心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下
に対して個体または患者を処置する、好転させる、その影響を逆転させる、保護する、または予防するため、あるいは
(3)心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させること;または心不全のための入院の頻度を低下させることにおいて使用するため、または
(4)心臓障害または心血管疾患を処置する、好転させる、逆転させる、保護する、または予防することを必要とする個体または患者における心臓障害または心血管疾患を処置する、好転させる、逆転させる、保護する、または予防することにおいて使用するため
の製剤であって、該AC6mutがCa2+の取り込みを増加させる、製剤
【請求項2】
前記AC6mutが、
(a)アデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コア内の荷電または酸性アミノ酸の非荷電または非極性アミノ酸による置換を有するACポリペプチドであって、
該非荷電または非極性アミノ酸がアラニン(Ala)であり、該酸性アミノ酸がアスパラギン酸(Asp)である、または該非荷電または非極性アミノ酸がAlaであり、かつ該酸性アミノ酸がAspである、ACポリペプチド、または
(b)配列番号16に基づいてマウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの前記触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有する該ACポリペプチド;もしくは
配列番号11に基づいてACポリペプチドの前記触媒コアの436位におけるAspのアラニン(Ala)による置換を有するマウスAC6mutポリペプチド
を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
(a)前記AC6ポリペプチドが、配列番号10に基づいてAC6ポリペプチドの前記触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有するヒトACポリペプチドを含み;
(b)前記AC6mutポリペプチドが配列番号17もしくは配列番号12もしくは配列番号13を有し;
(c)該AC6mutが、細胞の染色体に安定に挿入されるAC6mutコード核酸にコードされるか、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクターもしくは組換えウイルスにコードされ、
ここで、該AC6mutコード核酸が調節性または誘導性転写調節配列に作動可能に連結し、
前記心疾患が心収縮機能障害、うっ血性心不全、心臓線維症、心筋細胞疾患、または心筋細胞機能障害であり;
(d)該AC6mutは、アデノ随伴ウイルス、組換えAAVウイルスもしくはベクター、AAVビリオン、アデノウイルスベクター、またはそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体によってコードされ、または
(e)該AC6mutは、AAV血清型AAV5、AAV6、AAV7、AAV8もしくはAAV9;アカゲザルAAV(AAVrh)、もしくはAAVrh10;またはそのハイブリッドもしくは誘導体によってコードされる、
請求項に記載の製剤。
【請求項4】
(a)前記転写調節配列に作動可能に連結した前記AC6mutコード核酸前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスを、それを必要とする前記個体または患者に、経口投与によって、筋肉内注射によって、静脈内注射によって、皮下注射によって、皮内注射によって動脈内注射によって、冠内もしくは心臓内注射によって吸入によって、または微粒子銃粒子送達系によって、または「遺伝子銃」、または空気銃を使用することによって投与または送達するために製造され、
またはコードされる該AC6mutポリペプチドを組織内の細胞から分泌させ血流中に放出させるように、前記血流に面するまたは該血流による流出を受ける身体内の任意の細胞、器官、組織または液腔に導入することによって投与または送達するために製造され:または
(b)前記製剤が、該AC6mutの発現を誘導する経口用抗生物質、ドキシサイクリンもしくはラパマイシンを含む、請求項に記載の製剤。
【請求項5】
(a)前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが凍結乾燥物、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤中にまたは凍結乾燥物、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤として製剤化され、
(b)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが、小胞、ヒドロゲル、ゲル、リポソーム、ナノリポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子を含む、またはその中に製剤化され、
(c)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが単離された細胞または培養細胞において製剤化され、場合によって該細胞が哺乳動物細胞、心臓細胞、またはヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、サル細胞、マウス細胞、ラット細胞、モルモット細胞、ウサギ細胞、ハムスター細胞、ヤギ細胞、ウシ細胞、ウマ細胞、ヒツジ細胞、イヌ細胞またはネコ細胞であり、
(d)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが医薬品または滅菌物として製剤化され、
(e)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが、製造製品、人工臓器または埋没物と一緒に、それの上に、またはそれと共に製剤化または送達され、場合によって、該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスは、in vitroまたはex vivoにおいてAC6mutポリペプチドを発現する、
請求項に記載の製剤。
【請求項6】
前記心臓障害または心血管疾患が、冠動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎、結節性多発性動脈炎、チャーグ・ストラウス症候群、高安動脈炎、川崎病、リケッチア性血管炎、アテローム硬化性動脈瘤、心筋肥大、先天性心疾患、虚血性心疾患、アンギナ、後天性弁膜症もしくは心内膜疾患、原発性心筋疾患、心筋炎、不整脈、移植片拒絶、代謝性心筋疾患、心筋ミオパチー、うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症、および心臓移植からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
心疾患の処置あるいは心疾患または心不全を有するリスクの処置において使用するため、あるいは
心疾患、
心不全、
心機能または心拍出量の低下、
心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下、
心臓障害、または
心血管疾患
に対して個体または患者を処置する、好転させる、その影響を逆転させる、保護する、または予防することにおいて使用するための、あるいは
心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させる、または心不全のための入院の頻度を低下させることにおいて使用するための、
製剤であって、前記製剤が変異6型アデニリルシクラーゼ(AC6mut)ポリペプチドまたはAC6mutコード核酸を含むことを特徴とし、
該AC6mutが、ATPのcAMPへの分解を触媒しない、または野生型AC6によるATPからcAMPへの触媒活性と比較してATPのcAMPへの分解を触媒する能力が損なわれており、該AC6mutがCa2+の取り込みを増加させる
製剤。
【請求項8】
(a)前記AC6mutがアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コア内の荷電または酸性アミノ酸の非荷電または非極性アミノ酸による置換を有するACポリペプチドを含み、
該非荷電または非極性アミノ酸がアラニン(Ala)であり、該酸性アミノ酸がアスパラギン酸(Asp)であり、または該非荷電または非極性アミノ酸がAlaであり、かつ該酸性アミノ酸がAspであり、好ましくは、マウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドは、配列番号16に基づいて該ACポリペプチドの該触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有し、または
マウスAC6mutポリペプチドは配列番号11に基づいて該ACポリペプチドの該触媒コアの436位におけるAspのアラニン(Ala)による置換を有し;
(b)ヒトAC6ポリペプチドが、配列番号10に基づいて該ACポリペプチドの該触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有するヒトAC6ポリペプチドを含み、または該AC6mutポリペプチドが配列番号17もしくは配列番号12もしくは配列番号13を有し;
(c)該AC6mutが、細胞の染色体に安定に挿入されるAC6mutコード核酸にコードされるか、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、組換えAAVウイルスもしくはベクター、AAVビリオン、アデノウイルスベクター、またはそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体、特に、AAV血清型AAV5、AAV6、AAV7、AAV8もしくはAAV9;アカゲザルAAV(AAVrh)、もしくはAAVrh10;またはそのハイブリッドもしくは誘導体にコードされ;または
該AC6mutコード核酸が、調節性または誘導性転写調節配列に作動可能に連結し、前記心疾患が心収縮機能障害、うっ血性心不全(CHF)、心臓線維症、心筋細胞疾患、または心筋細胞機能障害であり、あるいは
(d)該転写調節配列に作動可能に連結した該AC6mutコード核酸該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスは、それを必要とする患者に、
経口投与によって、筋肉内(IM)注射によって、静脈内(IV)注射によって、皮下(SC)注射によって、皮内注射によって動脈内(IA)注射によって、冠内もしくは心臓内注射によって吸入によって、または微粒子銃粒子送達系によって、または「遺伝子銃」、または空気銃を使用することによって投与または送達するためのものであり、
または、コードされる該AC6mutポリペプチドを組織内の細胞から分泌させ血流中に放出させ得るように前記血流に面するまたは該血流による流出を受ける身体内の任意の細胞、器官、組織または液腔に導入することによって投与または送達するためのものである、
請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
(a)前記製剤が、該AC6mut発現を誘導する経口用抗生物質、ドキシサイクリンもしくはラパマイシンを含み、
(b)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが、凍結乾燥物、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤中にまたは凍結乾燥物、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤として製剤化され、
(c)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが、小胞、ヒドロゲル、ゲル、リポソーム、ナノリポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)を含む、またはその中に製剤化され、
(d)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが単離された細胞または培養細胞において製剤化され、好ましくは、該細胞が哺乳動物細胞、心臓細胞、またはヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、サル細胞、マウス細胞、ラット細胞、モルモット細胞、ウサギ細胞、ハムスター細胞、ヤギ細胞、ウシ細胞、ウマ細胞、ヒツジ細胞、イヌ細胞またはネコ細胞であり、
(e)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが医薬品または滅菌物として製剤化され、
(f)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスが、製造製品、人工臓器または埋没物と一緒に、それの上に、またはそれと共に製剤化または送達され、あるいは
(g)該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、または組換えウイルスは、in vitroまたはex vivoにおいてAC6mutポリペプチドを発現する、
請求項に記載の製剤。
【請求項10】
前記心臓障害または心血管疾患が、冠動脈疾患(CAD)、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎、結節性多発性動脈炎、チャーグ・ストラウス症候群、高安動脈炎、川崎病、リケッチア性血管炎、アテローム硬化性動脈瘤、心筋肥大、先天性心疾患(CHD)、虚血性心疾患、アンギナ、後天性弁膜症もしくは心内膜疾患、原発性心筋疾患、心筋炎、不整脈、移植片拒絶、代謝性心筋疾患、心筋ミオパチー、うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症、および心臓移植からなる群から選択される、請求項7〜のいずれかに記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
特許協力条約(PCT)に基づく本国際出願は、米国特許法§119(e)のもとで、2013年6月7日に出願された米国仮出願第61/832,759号の優先権の利益を請求する。前記出願は、あらゆる目的についてその全体が参照によって本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、概して、細胞分子生物学、遺伝子療法および医学に、より詳細には、心不全または心疾患を有するまたはそれを有するリスクがある被験体を、環状アデノシン一リン酸−インコンピテント(cAMP−インコンピテント)6型アデニリルシクラーゼ(AC6)タンパク質またはポリペプチド(「AC6mut」とも称される)、またはAC6mutコード核酸配列を投与することによって処置するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
心筋細胞および他の細胞の膜貫通タンパク質であるアデニリルシクラーゼは、細胞内cAMPの生成によってp−アドレナリン作動性シグナル伝達を行う重要なエフェクター分子である。サイクリックAMPは、プロテインキナーゼA活性化を含めた下流の事象に関する二次メッセンジャーである。心不全は心機能と密接に関連するcAMP産生が損なわれることに関連する。哺乳動物の心筋細胞で発現する優性ACアイソフォームである心臓の6型AC(AC6)の増加には不全左心室(LV)に対する不定形の有益な効果があることが示されている。これらの効果としては、1)心筋症および急性心筋梗塞における生存の増加、2)AVブロックの低下に関連する活動電位持続時間の短縮および房室伝導の容易化、3)LV拡張および病的肥大の両方の軽減、4)SERCA2a活性の改善、ホスホランバン活性の上昇によるカルシウムハンドリングに対する有益な効果、ならびに5)心トロポニンIリン酸化の増加が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、cAMPの細胞内レベルを上昇させる薬物がいくつか生成されており、心不全の患者において試験されている。しかし、これらの薬物により、一般には死亡率が上昇する。現行のドグマでは、細胞内cAMPのレベルを上昇させる薬物およびタンパク質が不全心臓に対して有害であり、したがって、心不全の処置には不適当であることが示されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
代替の実施形態では、本発明は、心疾患または心機能の低下に対して、個体または患者を処置する、好転させるまたは保護する(予防する)ための方法であって、環状アデノシン一リン酸−インコンピテント(cAMP−インコンピテント)6型アデニリルシクラーゼ(AC6)タンパク質もしくはポリペプチド(「AC6mut」とも称される)、または転写調節配列に作動可能に連結したAC6mutコード核酸もしくは遺伝子;またはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を含有する発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物を提供し、発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物により、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を細胞内でまたはin vivoにおいて発現させることができるステップと、AC6mut、または転写調節配列に作動可能に連結したAC6mutコード核酸もしくは遺伝子、または発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物を、それを必要とする個体または患者に投与または送達するステップとを含み、それにより、心疾患または心機能の低下に対して個体または患者を処置する、好転させるまたは保護する(予防する)方法を提供する。代替の実施形態では、AC6mutは、アデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コア内に荷電または酸性アミノ酸の非荷電または非極性アミノ酸による置換を有するACポリペプチドを含む。
【0006】
代替の実施形態では、本発明は、
(1)心疾患または心不全を有するまたはそれを有するリスクがある被験体を処置すること、
(2)心疾患、
心不全、
心機能または心拍出量の低下、
心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下
に対して個体または患者を処置する、好転させる、その影響を逆転させる、保護する、または予防すること、
(3)インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強すること、
(4)心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成を阻害すること、
(5)心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護すること、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させること、または
(6)心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させること;または心不全のための入院の頻度を低下させること、
のためのもしくはそれに関する方法およびin vivoにおけるそのためのもしくはそれに関する方法であって、
(a)
(i)環状アデノシン一リン酸−インコンピテント(cAMP−インコンピテント)6型アデニリルシクラーゼ(AC6)タンパク質またはポリペプチド(「AC6mut」とも称される)であって、場合によって、組換え、合成、ペプチド模倣または単離されたAC6mutポリペプチドまたはペプチドであるAC6mut;または
(ii)AC6mutコード核酸もしくは遺伝子であって、
場合によって、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が転写調節配列に作動可能に連結しており、場合によって、転写調節配列がプロモーターおよび/もしくはエンハンサー、または心臓細胞に特異的なプロモーターもしくは筋細胞に特異的なプロモーターである;または、
場合によって、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が転写調節配列に作動可能に連結しており、場合によって、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物に含有され、送達ビヒクル、発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物が細胞内でまたはin vivoにおいてAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を発現することができ、
場合によって、細胞が心臓細胞または筋細胞である、
AC6mutコード核酸もしくは遺伝子
を提供するステップであって、
AC6mutがATPのcAMPへの分解を触媒しない、またはATPのcAMPへの分解を触媒する能力が損なわれており、場合によって、ATPのcAMPへの分解を触媒する能力が損なわれていることが、AC6mutが、野生型AC6によるATPからcAMPへの触媒活性の約1%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%しか有さないと定義され、
AC6mutを心筋細胞において発現させた場合に、in vivoにおける左心室(LV)機能が影響を受けずもしくは低下せずまたはLV機能が実質的に影響を受けず、低下もしない、
場合によって、心筋細胞におけるAC6mut発現により、筋小胞体によるCa2+の取り込みが増加し、
場合によって、心筋細胞におけるAC6mut発現により、SERCA2a活性化についてのEC50が低下し、
場合によって、心筋細胞におけるAC6mut発現により、ホスホランバンタンパク質の発現が減少し、
場合によって、置換により、Mg2+の結合が阻害され、触媒コアのGsα−媒介性活性化の効率が変更される、
ステップと、
(b)AC6mut、またはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を心臓細胞または心筋細胞に送達または投与する、またはAC6mutを心臓細胞または心筋細胞において発現させる、またはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を心臓細胞または心筋細胞において発現させるステップであって、
場合によって、AC6mutコード核酸が転写調節配列に作動可能に連結しており、または場合によって、送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物を心筋細胞、または、それを必要とする個体もしくは患者に送達または投与し、
場合によって、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を心臓細胞または心筋細胞にin vivoで送達または投与することが、心筋もしくは心筋細胞への標的化送達である、または、心臓への直接送達もしくは投与を含む、または、心臓内注射もしくは注入を含む、
ステップと
を含み、
それにより、
心疾患または心不全を有するまたはそれを有するリスクがある被験体を処置すること、
心疾患、心不全、心機能または心拍出量の低下、心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下に対して、個体または患者を処置する、好転させるまたは保護する(予防する)こと、
インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強すること、
心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成を阻害すること、
心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護すること、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させること、または
心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させること
のためのもしくはそれに関する方法およびin vivoにおけるそのためのもしくはそれに関する方法を提供する。
【0007】
代替の実施形態では、AC6mutは、アデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コア内に荷電または酸性アミノ酸の非荷電または非極性アミノ酸による置換を有するACポリペプチドを含み、
場合によって、非荷電もしくは非極性アミノ酸はアラニン(Ala)であり、場合によって、酸性アミノ酸はアスパラギン酸(Asp)である、または場合によって、非荷電もしくは非極性アミノ酸はAlaであり、酸性アミノ酸はAspである。
【0008】
代替の実施形態では、AC6mutは、
配列番号16に基づいてマウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有し、配列番号17がD→A置換後の該ポリペプチドのアミノ酸配列である(配列番号16はD→A置換前のアミノ酸配列である)ACポリペプチド;または
配列番号11に基づいてマウスAC6mutポリペプチドの触媒コアの436位におけるAspのアラニン、またはAlaによる置換を有し、配列番号12がD→A置換後の該ポリペプチドのアミノ酸配列である(配列番号11はD→A置換前のアミノ酸配列である)ACポリペプチド
を含む。
【0009】
代替の実施形態では、AC6は哺乳動物AC6ポリペプチドである、またはAC6はヒトAC6ポリペプチドである。代替の実施形態では、ヒトAC6ポリペプチドは、配列番号10に基づいてヒトAC6ポリペプチドの触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有し、配列番号13がD→A置換後の該ポリペプチドのアミノ酸配列である(配列番号10はD→A置換前のアミノ酸配列である)ACポリペプチドを含む。
【0010】
当該方法の代替の実施形態では、
(a)AC6mutコード核酸もしくは遺伝子は細胞の染色体に安定に挿入される、
(b)送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物が、アデノ随伴ウイルス(AAV);組換えAAVウイルスもしくはベクター;AAVビリオン、またはアデノウイルスベクター、または任意のそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体であるまたはそれを含む、
(c)(b)の方法で、アデノ随伴ウイルス(AAV)、組換えAAVウイルスもしくはベクター、AAVビリオン、またはアデノウイルスベクターは、AAV血清型AAV5、AAV6、AAV7、AAV8もしくはAAV9;アカゲザルAAV(AAVrh)、もしくはAAVrh10;または任意のそのハイブリッドもしくは誘導体であるまたはそれを含む、
(d)AC6mutコード核酸もしくは遺伝子は、調節性または誘導性転写調節配列に作動可能に連結している、
(e)(d)の方法で、調節性または誘導性転写調節配列は、調節性または誘導性プロモーターである、
(f)(a)から(e)までのいずれかの方法で、転写調節配列に作動可能に連結したAC6mutコード核酸もしくは遺伝子、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物を、それを必要とする個体または患者に投与すると、心筋細胞におけるAC6mutの標的化送達および発現をもたらし、またはAC6mutが血流または全身循環中に放出される、または
(g)(a)から(f)までのいずれかの方法で、in vivoにおけるAC6mutレベルの上昇に応答する疾患、感染症または状態は、心収縮機能障害;うっ血性心不全(CHF);心臓線維症;心筋細胞疾患;心筋細胞機能障害または心筋細胞アポトーシスである。
【0011】
当該方法の代替の実施形態では、
(a)転写調節配列に作動可能に連結したAC6mutコード核酸もしくは遺伝子;または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物を、それを必要とする個体または患者に、経口投与によって、筋肉内(IM)注射によって、静脈内(IV)注射によって、皮下(SC)注射によって、皮内注射によって、くも膜下腔内(intrathecal)注射によって、動脈内(IA)注射によって、冠内もしくは心臓内注射によって、眼内注射もしくは塗布によって、吸入によって、または微粒子銃粒子送達系によって、または「遺伝子銃」、空気銃もしくはHELIOS(商標)gene gun(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)を使用することによって投与または送達し、
場合によって、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子をAAVベクターまたはAAV−9ベクターの静脈内(IV)注射によって送達する、または、
(b)転写調節配列に作動可能に連結したAC6mutコード核酸もしくは遺伝子;または発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物を、それを必要とする個体または患者に、血流に面するまたは血流による流出を受ける身体内の任意の細胞、器官、組織または液腔(fluid space)に導入することによって投与または送達し、その結果、コードされるAC6mutタンパク質を組織内の細胞から分泌させ、血流中に放出させることができる。
【0012】
当該方法の代替の実施形態では、
(a)個体、患者または被験体に、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する、または、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子の発現を誘導するもしくはその発現を上方制御するプロモーター(例えば、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結したプロモーター)を誘導もしくは活性化する刺激物またはシグナルを投与する、
(b)個体、患者または被験体にプロモーターの活性化因子の合成を誘導する刺激物またはシグナルを投与し、場合によって、プロモーターは、AC遺伝子プロモーター、または筋細胞に特異的なプロモーターである、
(c)個体、患者または被験体に、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に特異的なプロモーターの天然または合成活性化因子の合成を誘導する刺激物またはシグナルを投与し、場合によって、天然活性化因子は内因性転写因子である、
(d)(c)の方法で、合成活性化因子は、内因性または外因性の標的遺伝子を特異的かつ選択的にオンにするように設計されたジンクフィンガーDNA結合性タンパク質であり、場合によって、内因性標的は、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子またはAC6mutの活性化因子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結したプロモーターの活性化因子である、
(e)(a)から(c)までのいずれかの方法で、刺激物またはシグナルは、生物学的刺激物またはシグナル、光刺激物またはシグナル、化学的刺激物またはシグナルまたは医薬的刺激物またはシグナルを含む、
(f)個体、患者または被験体に、AC6mutの転写後活性化因子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結したプロモーターの活性化因子の発現を刺激または誘導する刺激物またはシグナルを投与する、または
(g)個体、患者または被験体に、AC6を発現する核酸もしくは遺伝子の転写抑制因子または転写後抑制因子を阻害するまたはそれの阻害を誘導する刺激物またはシグナルを投与する。
【0013】
代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結した調節性もしくは誘導性プロモーターの発現を誘導する化学物質または医薬品は、経口用抗生物質、ドキシサイクリンまたはラパマイシンであるもしくはそれを含む、または、ドキシサイクリンを使用するtet調節系を使用してAC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子またはその等価物の発現を誘導する。
【0014】
代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物は凍結乾燥物(lyophilate)、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤中にまたは凍結乾燥物、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤として製剤化される。
【0015】
代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物は、小胞、ヒドロゲル、ゲル、リポソーム、ナノリポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)を含む、またはその中に製剤化される。
【0016】
代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物は単離された細胞または培養細胞について製剤化されており、場合によって、細胞は、哺乳動物細胞、心臓細胞、またはヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、サル細胞、マウス細胞、ラット細胞、モルモット細胞、ウサギ細胞、ハムスター細胞、ヤギ細胞、ウシ細胞、ウマ細胞、ヒツジ細胞、イヌ細胞またはネコ細胞である。
【0017】
代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物は医薬品または滅菌物として製剤化される。
【0018】
代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物を、製造製品、人工臓器または埋没物(implant)と一緒に(with)、それの上に(on)、またはそれと共に(in conjunction with)製剤化するまたは送達する。
【0019】
代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物は、in vitroまたはex vivoにおいてAC6mutポリペプチドを発現する。
【0020】
代替の実施形態では、本発明は、AC6mut応答性の病態、感染症、疾患、疾病、または状態に対して、個体または患者を処置する、好転させる、逆転させる、保護する、または予防するための方法であって、本発明の方法を実施することを含む方法を提供する。
【0021】
代替の実施形態では、本発明は、それを必要とする個体または患者における心臓障害または心血管疾患を処置する、好転させる、逆転させる、保護する、または予防するための方法であって、本発明の方法を実施することを含む方法を提供する。代替の実施形態では、心臓障害または心血管疾患は、冠動脈疾患(CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎;結節性多発性動脈炎;チャーグ・ストラウス症候群(Churg-Strass syndrome);高安動脈炎;川崎病;リケッチア性血管炎(Rickettsial vasculitis);アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;先天性心疾患(CHD);虚血性心疾患;アンギナ;後天性弁膜症もしくは心内膜疾患;原発性心筋疾患;心筋炎;不整脈;移植片拒絶;代謝性心筋疾患;心筋ミオパチー;うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症;および/または、心臓移植を含む。
【0022】
代替の実施形態では、本発明は、
(1)心疾患または心不全を有するまたはそれを有するリスクがある被験体を処置するための、
(2)心疾患、
心不全、
心機能または心拍出量の低下、
心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下
に対して個体または患者を処置する、好転させる、その影響を逆転させる、保護する、または予防するための、
(3)インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強するための、
(4)心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成を阻害するための、
(5)心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護する、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させるための、
(6)心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させる;または心不全のための入院の頻度を低下させるための、
(7)心臓障害または心血管疾患のための、または
(8)冠動脈疾患(CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎;結節性多発性動脈炎;チャーグ・ストラウス症候群;高安動脈炎;川崎病;リケッチア性血管炎;アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;先天性心疾患(CHD);虚血性心疾患;アンギナ;後天性弁膜症もしくは心内膜疾患;原発性心筋疾患;心筋炎;不整脈;移植片拒絶;代謝性心筋疾患;心筋ミオパチー;うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症;および/または、心臓移植のための
医薬の調製における、
請求項1から16のいずれかに記載のAC6mut;AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子;送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物;アデノ随伴ウイルス(AAV);組換えAAVウイルスもしくはベクター;またはアデノウイルスベクター、または任意のそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体を含む使用であって、
場合によって、AAVまたは組換えAAVウイルスもしくはベクターがAAV血清型AAV5、AAV6、AAV7、AAV8もしくはAAV9;アカゲザルAAV(AAVrh)、もしくはAAVrh10;または任意のそのハイブリッドもしくは誘導体、またはAC6mutを発現する細胞または心筋細胞を含む、
使用を提供する。
【0023】
代替の実施形態では、
(1)心疾患、心不全、心機能または心拍出量の低下、心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下の処置において使用するための、またはそれのための、
(2)インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強する処置において使用するための、またはそれのための、
(3)心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成を阻害する処置において使用するための、またはそれのための、
(4)心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護する、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させる処置において使用するための、またはそれのための、
(5)心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させる;または心不全のための入院の頻度を低下させる処置において使用するための、またはそれのための、
(6)心臓障害または心血管疾患の処置において使用するための、またはそれのための、または
(7)冠動脈疾患(CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎;結節性多発性動脈炎;チャーグ・ストラウス症候群;高安動脈炎;川崎病;リケッチア性血管炎;アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;先天性心疾患(CHD);虚血性心疾患;アンギナ;後天性弁膜症もしくは心内膜疾患;原発性心筋疾患;心筋炎;不整脈;移植片拒絶;代謝性心筋疾患;心筋ミオパチー;うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症;および/または、心臓移植の処置において使用するための、またはそれのための、
本明細書において使用されるもしくは記載される、または本発明の任意の方法における治療用製剤。
【0024】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、付属図および以下の記載に示される。本発明の他の特徴、目的、および利点は、該記載および図から、また特許請求の範囲から明らかになる。
【0025】
本明細書において引用される、刊行物、特許、特許出願は全て、これによりあらゆる目的について明白に参照により組み込まれる。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
(1)心疾患または心不全を有するまたはそれを有するリスクがある被験体を処置すること、
(2)心疾患、
心不全、
心機能または心拍出量の低下、
心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下
に対して個体または患者を処置する、好転させる、その影響を逆転させる、保護する、または予防すること、
(3)インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強すること、
(4)心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成を阻害すること、
(5)心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護すること、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させること、または
(6)心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させること;または心不全のための入院の頻度を低下させること
のためのもしくはそれに関する方法またはin vivoにおけるそのためのもしくはそれに関する方法であって、
(a)
(i)環状アデノシン一リン酸−インコンピテント(cAMP−インコンピテント)6型アデニリルシクラーゼ(AC6)タンパク質またはポリペプチド(「AC6mut」とも称される)であって、場合によって、組換え、合成、ペプチド模倣または単離されたAC6mutポリペプチドまたはペプチドである該AC6mut;または
(ii)AC6mutコード核酸もしくは遺伝子であって、
場合によって、該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が転写調節配列に作動可能に連結しており、場合によって、該転写調節配列がプロモーターおよび/もしくはエンハンサー、または心臓細胞に特異的なプロモーターもしくは筋細胞に特異的なプロモーターである;または、
場合によって、該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が転写調節配列に作動可能に連結しており、場合によって、該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物に含有され、該送達ビヒクル、発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物が細胞内でまたはin vivoにおいて該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を発現することができ、
場合によって、該細胞が心臓細胞または筋細胞である、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子
を提供するステップであって、
該AC6mutがATPのcAMPへの分解を触媒しない、またはATPのcAMPへの分解を触媒する能力が損なわれており、場合によって、ATPのcAMPへの分解を触媒する該能力が損なわれていることが、該AC6mutが、野生型AC6による該ATPからcAMPへの触媒活性の約1%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%しか有さないと定義され、
前記AC6mutを心筋細胞において発現させた場合に、in vivoにおける左心室(LV)機能が影響を受けずもしくは低下せずまたはLV機能が実質的に影響を受けず、低下もせず、
場合によって、心筋細胞におけるAC6mut発現により、筋小胞体によるCa2+の取り込みが増加し、
場合によって、心筋細胞におけるAC6mut発現により、SERCA2a活性化についてのEC50が低下し、
場合によって、心筋細胞におけるAC6mut発現により、ホスホランバンタンパク質の発現が減少し、
場合によって、置換により、Mg2+の結合が阻害され、触媒コアのGsα−媒介性活性化の効率が変更される、
ステップと、
(b)該AC6mut、または該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を心臓細胞または心筋細胞に送達または投与する、または該AC6mutを心臓細胞または心筋細胞において発現させる、または該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を心臓細胞または心筋細胞において発現させるステップであって、
場合によって、該AC6mutコード核酸が転写調節配列に作動可能に連結しており、または場合によって、該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物を心筋細胞、または、それを必要とする個体もしくは患者に送達または投与し、
場合によって、該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を該心臓細胞または心筋細胞にin vivoで送達または投与することが、心筋もしくは心筋細胞への標的化送達である、または、心臓への直接送達もしくは投与を含む、または、心臓内注射もしくは注入を含むステップ
とを含み、
それにより、
心疾患または心不全を有するまたはそれを有するリスクがある該被験体を処置すること、
心疾患、心不全、心機能または心拍出量の低下、心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下に対して個体または患者を処置する、好転させるまたは保護する(予防する)こと、
インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強すること、
心筋細胞における細胞内cAMPレベルの該生成を阻害すること、
心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護すること、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させること、または
心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させること
のためのもしくはそれに関する方法またはin vivoにおけるそのためのもしくはそれに関する方法。
(項目2)
前記AC6mutがアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの前記触媒コア内に荷電または酸性アミノ酸の非荷電または非極性アミノ酸による置換を有するACポリペプチドを含み、
場合によって該非荷電または非極性アミノ酸がアラニン(Ala)であり、場合によって該酸性アミノ酸がアスパラギン酸(Asp)である、または場合によって該非荷電または非極性アミノ酸がAlaであり、該酸性アミノ酸がAspである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記AC6mutが、
配列番号16に基づいてマウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの前記触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有し、配列番号17が該D→A置換後の該ポリペプチドのアミノ酸配列である(配列番号16は該D→A置換前のアミノ酸配列である)該ACポリペプチド;または
配列番号11に基づいてマウスAC6mutポリペプチドの前記触媒コアの436位におけるAspのアラニンまたはAlaによる置換を有し、配列番号12が該D→A置換後の該ポリペプチドのアミノ酸配列である(配列番号11は該D→A置換前のアミノ酸配列である)該ACポリペプチド
を含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記AC6が哺乳動物AC6ポリペプチドである、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記AC6がヒトAC6ポリペプチドである、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記ヒトAC6ポリペプチドが、配列番号10に基づいてヒトAC6ポリペプチドの前記触媒コアの426位におけるAspのAlaによる置換を有し、配列番号13が該D→A置換後の該ポリペプチドのアミノ酸配列である(配列番号10は該D→A置換前のアミノ酸配列である)該ACポリペプチドを含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
(a)前記AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が細胞の染色体に安定に挿入されている、
(b)前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物が、アデノ随伴ウイルス(AAV);組換えAAVウイルスもしくはベクター;AAVビリオン、またはアデノウイルスベクター、または任意のそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体であるまたはそれを含む、
(c)(b)の方法で、該アデノ随伴ウイルス(AAV)、組換えAAVウイルスもしくはベクター、AAVビリオン、またはアデノウイルスベクターが、AAV血清型AAV5、AAV6、AAV7、AAV8もしくはAAV9;アカゲザルAAV(AAVrh)、もしくはAAVrh10;または任意のそのハイブリッドもしくは誘導体であるまたはそれを含む、
(d)該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子が調節性または誘導性転写調節配列に作動可能に連結している、
(e)(d)の方法で、該調節性または誘導性転写調節配列が調節性または誘導性プロモーターである、
(f)(a)から(e)までのいずれかの方法で、転写調節配列に作動可能に連結している該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子、または該送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物を、それを必要とする個体または患者に投与すると、心筋細胞における前記AC6mutの標的化送達および発現をもたらし、またはAC6mutが血流または全身循環中に放出される;または
(g)(a)から(f)までのいずれかの方法で、in vivoにおけるAC6mutレベルの上昇に応答する疾患、感染症または状態が、心収縮機能障害;うっ血性心不全(CHF);心臓線維症;心筋細胞疾患;心筋細胞機能障害または心筋細胞アポトーシスである、
項目1に記載の方法。
(項目8)
(a)前記転写調節配列に作動可能に連結した前記AC6mutコード核酸もしくは遺伝子;または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物を、それを必要とする前記個体または患者に、経口投与によって、筋肉内(IM)注射によって、静脈内(IV)注射によって、皮下(SC)注射によって、皮内注射によって、くも膜下腔内注射によって、動脈内(IA)注射によって、冠内もしくは心臓内注射によって、眼内注射もしくは塗布によって、吸入によって、または微粒子銃粒子送達系によって、または「遺伝子銃」、空気銃もしくはHELIOS(商標)gene gun(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)を使用することによって投与または送達し、
場合によって、前記AC6mutコード核酸もしくは遺伝子をAAVベクターまたはAAV−9ベクターの静脈内(IV)注射によって送達する、または
(b)該転写調節配列に作動可能に連結した該AC6mutコード核酸もしくは遺伝子;または該発現ビヒクル、ベクター、組換えウイルス、または等価物を、それを必要とする該個体または患者に、前記血流に面するまたは該血流による流出を受ける身体内の任意の細胞、器官、組織または液腔に導入することによって投与または送達し、その結果、コードされる該AC6mutタンパク質を該組織内の細胞から分泌させ、該血流中に放出させることができる、
項目1に記載の方法。
(項目9)
(a)前記個体、患者または被験体に、前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する、または、該AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子の発現を誘導するもしくはその発現を上方制御するプロモーター(例えば、該AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結したプロモーター)を誘導もしくは活性化する刺激物またはシグナルを投与する、
(b)該個体、患者または被験体にプロモーターの活性化因子の合成を誘導する刺激物またはシグナルを投与し、場合によって、該プロモーターがAC遺伝子プロモーター、または筋細胞に特異的なプロモーターである、
(c)該個体、患者または被験体に、該AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子または該AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に特異的なプロモーターの天然または合成活性化因子の合成を誘導する刺激物またはシグナルを投与し、
場合によって、該天然活性化因子が内因性転写因子である、
(d)(c)の方法で、該合成活性化因子が内因性または外因性の標的遺伝子を特異的かつ選択的にオンにするように設計されたジンクフィンガーDNA結合性タンパク質であり、場合によって、該内因性標的が、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子またはAC6mutの活性化因子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結したプロモーターの活性化因子である、
(e)(a)から(c)までのいずれかの方法で、該刺激物またはシグナルが、生物学的刺激物またはシグナル、光刺激物またはシグナル、化学的刺激物またはシグナルまたは医薬的刺激物またはシグナルを含む、
(f)該個体、患者または被験体に、AC6mutの転写後活性化因子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、またはAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結したプロモーターの活性化因子の発現を刺激または誘導する刺激物またはシグナルを投与する、または
(g)該個体、患者または被験体に、AC6を発現する核酸もしくは遺伝子の転写抑制因子または転写後抑制因子を阻害するまたは阻害を誘導する刺激物またはシグナルを投与する、
項目1から8のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する、または該AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子に作動可能に連結した前記調節性もしくは誘導性プロモーターの発現を誘導する前記化学物質または医薬品が、経口用抗生物質、ドキシサイクリンもしくはラパマイシンであるもしくはそれを含む、または、ドキシサイクリンを使用するtet調節系を使用して該AC6mutまたは該AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子またはその等価物の発現を誘導する、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物が凍結乾燥物、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤中にまたは凍結乾燥物、液剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、散剤、噴霧剤、軟膏剤、または水性もしくは食塩水製剤として製剤化される、項目1から10のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物が、小胞、ヒドロゲル、ゲル、リポソーム、ナノリポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子(NLP)を含む、またはその中に製剤化される、項目1から11のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物が単離された細胞または培養細胞について製剤化され、場合によって該細胞が哺乳動物細胞、心臓細胞、またはヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、サル細胞、マウス細胞、ラット細胞、モルモット細胞、ウサギ細胞、ハムスター細胞、ヤギ細胞、ウシ細胞、ウマ細胞、ヒツジ細胞、イヌ細胞またはネコ細胞である、項目1から11のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物が医薬品または滅菌物として製剤化される、項目1から13のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物が、製造製品、人工臓器または埋没物と一緒に、それの上に、またはそれと共に製剤化または送達される、項目1から14のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記AC6mutまたは前記AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子、または前記送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物は、in vitroまたはex vivoにおいてAC6mutポリペプチドを発現する、項目1から15のいずれかに記載の方法。
(項目17)
AC6mut応答性の病態、感染症、疾患、疾病、または状態に対して、個体または患者を処置する、好転させる、逆転させる、保護する、または予防するための方法であって、項目1から16のいずれかに記載の方法を実施することを含む方法。
(項目18)
心臓障害または心血管疾患を処置する、好転させる、逆転させる、保護する、または予防することを必要とする個体または患者における心臓障害または心血管疾患を処置する、好転させる、逆転させる、保護する、または予防するための方法であって、項目1から16のいずれかに記載の方法を実施することを含む方法。
(項目19)
前記心臓障害または心血管疾患が、冠動脈疾患(CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎;結節性多発性動脈炎;チャーグ・ストラウス症候群;高安動脈炎;川崎病;リケッチア性血管炎;アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;先天性心疾患(CHD);虚血性心疾患;アンギナ;後天性弁膜症もしくは心内膜疾患;原発性心筋疾患;心筋炎;不整脈;移植片拒絶;代謝性心筋疾患;心筋ミオパチー;うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症;および/または、心臓移植を含む、項目18に記載の方法。
(項目20)
(1)心疾患または心不全を有するまたはそれを有するリスクがある被験体を処置するための、
(2)心疾患、
心不全、
心機能または心拍出量の低下、
心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下
に対して個体または患者を処置する、好転させる、その影響を逆転させる、保護する、または予防するための、
(3)インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強するための、
(4)心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成を阻害するための、
(5)心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護する、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させるための、
(6)心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させる;または心不全のための入院の頻度を低下させるための、
(7)心臓障害または心血管疾患のための、または
(8)冠動脈疾患(CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎;結節性多発性動脈炎;チャーグ・ストラウス症候群;高安動脈炎;川崎病;リケッチア性血管炎;アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;先天性心疾患(CHD);虚血性心疾患;アンギナ;後天性弁膜症もしくは心内膜疾患;原発性心筋疾患;心筋炎;不整脈;移植片拒絶;代謝性心筋疾患;心筋ミオパチー;うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症;および/または、心臓移植のための
医薬の調製における、
項目1から16のいずれかに記載のAC6mut;AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子;送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物;アデノ随伴ウイルス(AAV);組換えAAVウイルスもしくはベクター;またはアデノウイルスベクター、または任意のそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体の使用であって、
場合によって、該AAVまたは組換えAAVウイルスもしくはベクターが、AAV血清型AAV5、AAV6、AAV7、AAV8もしくはAAV9;アカゲザルAAV(AAVrh)、もしくはAAVrh10;または任意のそのハイブリッドもしくは誘導体、またはAC6mutを発現する細胞または心筋細胞を含む、使用。
(項目21)
(1)心疾患、心不全、心機能または心拍出量の低下、心臓の感染症または心臓の状態に起因する心機能または心拍出量の低下の処置において使用するための、またはそれのための、
(2)インタクトな心筋細胞における筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇によってインタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングを増強する処置において使用するための、またはそれのための、
(3)心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成を阻害する処置において使用するための、またはそれのための、
(4)心筋細胞をプログラム細胞死(アポトーシス)シグナルから保護する、またはアポトーシスシグナル後にプログラム細胞死(アポトーシス)のシグナルを受ける心筋細胞の数を減少させる処置において使用するための、またはそれのための、
(5)心不全患者においてまたは心機能もしくは心拍出量の低下が生じる心臓の感染症もしくは心臓の状態を有する個体において、心機能もしくは心拍出量を増加させ、症状を軽減し、かつ/または死亡率を低下させる;または心不全のための入院の頻度を低下させる処置において使用するための、またはそれのための、
(6)心臓障害または心血管疾患の処置において使用するための、またはそれのための、または、
(7)冠動脈疾患(CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;血管炎、自己免疫性またはウイルス性血管炎;結節性多発性動脈炎;チャーグ・ストラウス症候群;高安動脈炎;川崎病;リケッチア性血管炎;アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;先天性心疾患(CHD);虚血性心疾患;アンギナ;後天性弁膜症もしくは心内膜疾患;原発性心筋疾患;心筋炎;不整脈;移植片拒絶;代謝性心筋疾患;心筋ミオパチー;うっ血性心筋症、肥大性心筋症もしくは拘束型心筋症;および/または、心臓移植の処置において使用するための、またはそれのための、
項目1から16までのいずれかにおいて使用または記載されている治療用製剤。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、下記の実施例1において詳細に考察されている、本発明の例示的なAC6mutの設計、発現、活性および細胞分布を例示する図である。図1Aには、本発明の例示的なマウスAC6mutの構築における、C1ドメイン(細胞内ループ)の426位(配列番号17に基づく位置番号、配列番号16はD→A置換前の配列である)におけるアスパラギン酸(asp)のアラニン(ala)による置換(D→A置換)の部位を示す図が概略的に例示されている。図1Bには、内因性AC6と導入遺伝子AC6mutに共通のプライマーを使用したqRT−PCRによって評価されるAC6mut mRNAの発現がグラフで例示されている。図1Cには、抗AC5/6抗体を使用してAC6mutタンパク質を検出し、抗AU1タグ抗体を使用して確認した免疫ブロットが例示されている。図1Dには、cAMP酵素イムノアッセイによって測定される、AC6mutマウスおよび対照マウスから単離した心筋細胞における、イソプロテレノールを用いた刺激前(基底)および刺激後のサイクリックAMP産生がグラフで例示されている。図1Eには、抗AU1抗体(赤色);抗カベオリン3(Cav−3)抗体(緑色、カベオラについて);抗タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)抗体(緑色、筋小胞体について);抗ラミンA抗体(緑色、核エンベロープについて)、および抗電位依存性アニオン選択チャネルタンパク質(voltage dependent anion selective channel protein)(VDAC)抗体(緑色、ミトコンドリアについて)を使用した、AC6mutマウスから単離した心筋細胞と、対照マウスから単離した心筋細胞におけるAC6mutタンパク質の2重免疫蛍光染色が例示されている。核は青色である。
【0027】
図2図2は、下記の実施例1において詳細に考察されている、PKA、PKSおよびPDEの活性および発現を例示する図である。図2Aの上のグラフには、刺激していない(基底)またはイソプロテレノールもしくはNKH477を用いて刺激した、単離した心筋細胞におけるPKA活性のレベルがグラフで例示されており、図2Aの下の図には、左心室(LV)ホモジネート中のPKAタンパク質を示すゲル免疫ブロットが例示されている。図2Bには、AC6mutマウスおよび対照マウス由来の左心室ホモジネートを使用した、重要なシグナル伝達タンパク質のリン酸化を示す免疫ブロットが例示されている。ホスホ(P)および総(T)PKA調節性サブユニットII−αおよびII−β、PKCα、3A型ホスホロジエステラーゼ(phosphor−diesterase type 3A)(PDE3A)、ホスホトロポニンI(phospho−troponin I)(P22/23−TnI)、および総TnIが示されている。図2Cには、各群から単離した心筋細胞の培養物において評価したイソプロテレノール刺激の前後のRyR2、PLBおよびTnIのリン酸化を示す免疫ブロットが例示されている。図2Dには、AC6mutマウスにおけるイソプロテレノール刺激に伴って心筋細胞におけるRyR2、PLB、およびTnIのリン酸化が増加したことを示す図2Cからのデータがグラフで例示されている。データは、ローディング(GAPDH)に対して正規化したものである。
【0028】
図3図3は、下記の実施例1において詳細に考察されている、左心室収縮機能をグラフで例示する図である。AC6mut TGマウスから単離した心臓(黒塗りの丸)では、広範囲のイソプロテレノール用量によるイソプロテレノール刺激に応答してLV dP/dtの保持が示された。白抜きの丸は、導入遺伝子陰性対照マウスを示す。
【0029】
図4図4は、下記の実施例1において詳細に考察されている、SRによるCa2+の取り込み、Ca2+シグナル伝達タンパク質、および転写因子を例示する図である。図4Aの上のグラフには、AC6mutマウスおよびTG陰性同胞対照マウス由来のプールしたLV試料におけるCa2+の取り込み活性がグラフで例示されており、図4Aの下のグラフには、AC6mutの発現により、Ca2+に対するSERCA2aの親和性が低下したことがグラフで例示されている。図4Bの上のグラフには、AC6mut発現に伴ってLVにおけるホスホランバン(PLB)発現が減少したことがグラフで例示されており、図4Bの下のグラフには、AC6mut発現に伴ってLVにおけるCREM−1タンパク質の発現が増加したことがグラフで例示されている。図4Bの下の図には、タンパク質レベルを示すゲルの免疫ブロットが例示されている。データは、ローディング(GAPDH)に対して正規化したものである。図4Cの上のグラフには、AC6mut発現に伴ってLVにおけるS100A1タンパク質の発現が増加したことがグラフで例示されている。図4Cの下のグラフには、AC6mut発現に伴ってLVにおけるP133−CREBタンパク質の発現が増加したことがグラフで例示されている。図4Cの下の図には、タンパク質レベルを示すゲルの免疫ブロットが例示されており、データは、ローディング(GAPDH)に対して正規化したものである。図4Dには、AC6mut発現がSERCA2a、カルレティキュリン、カルセケストリンまたはホスホ−S16−PLBタンパク質のLVにおける発現に影響を及ぼさなかったことを示すゲルの免疫ブロットが例示されている。図4Eには、AC6mutマウスおよび対照マウスから単離した心筋細胞における抗AU1抗体(赤色)および抗CREM−1抗体(緑色)または抗AU1および抗ホスホ−CREB(S133、緑色)を使用した、AC6mutタンパク質の2重免疫蛍光染色が例示されており、核は青色で示した。
【0030】
図5図5は、下記の実施例1において詳細に考察されている、AC6mutマウスおよび対照マウスから単離した心筋細胞における細胞質ゾルのCa2+トランジェントを例示する図である。図5Aには、放出された基底のCa2+(収縮期Ca2+−拡張期Ca2+)には、AC6mutと対照の間で群間の差異は示されなかったことを示すデータがグラフで例示されている。図5Bには、イソプロテレノールを用いて刺激した心筋細胞における代表的なIndo−1 Ca2+トランジェント記録が、AC6mutマウス由来の心筋細胞の方が高かったことを示すデータがグラフで例示されている;要約データが図5Cに示されている。図5Cには、イソプロテレノールの存在下で放出されるCa2+がAC6mutマウス由来の心筋細胞では増加したことを示すデータがグラフで例示されている。図5Dには、イソプロテレノールの存在下でのピークCa2+トランジェントまでの時間がAC6mutマウス由来の心筋細胞では短くなったことを示すデータがグラフで例示されている。図5Eには、イソプロテレノールの存在下での50%弛緩までの時間(tau)がAC6mutマウス由来の心筋細胞では短くなったことを示すデータがグラフで例示されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
種々の図における同様の参照記号は同様の要素を示す。
【0032】
本発明は、組成物、ならびに、in vivoにおいてインタクトな心筋細胞におけるcAMPの減少、筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの増加および/または弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇に応答する心疾患、心機能もしくは心拍出量の低下、または心臓の感染症もしくは状態を有する個体を処置する、好転させるまたは保護する(予防または予防法として)ために、環状アデノシン一リン酸−インコンピテント(cAMP−インコンピテント)6型アデニリルシクラーゼ(AC6)タンパク質またはポリペプチド(「AC6mut」とも称される)、またはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を投与するステップを含むin vivoにおける方法およびex vivoにおける方法を提供する。
【0033】
代替の実施形態では、本発明は、細胞内cAMPを阻害するまたはその量を実質的に減少させる、またはその生成を触媒しないAC6mutを提供する。代替の実施形態では、本発明のAC6mutにより、細胞内シグナル伝達が、1)インタクトな心筋細胞におけるカルシウムハンドリングが増強される様式、2)心筋細胞における細胞内cAMPレベルの生成が阻害される様式、および3)心筋細胞がプログラム細胞死(アポトーシス)から保護される様式で変更される。代替の実施形態では、上記AC6mutが患者の不全心臓において発現するまたはそこに送達されると、心機能が増大し、症状が軽減され、死亡率が低下する。したがって、本発明のAC6mutを心臓に送達することにより、cAMP生成に起因する悪影響を伴わずに心機能が増大する。したがって、代替の実施形態では、本発明は、心不全および心機能の低下に対する理想的な療法を提供する。
【0034】
代替の実施形態では、本発明は、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子、またはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を含む(その中に含有する)発現ビヒクル(例えば、ベクター、組換えウイルスなど)を送達し、発現させ(例えば、制御された発現)、その結果、AC6mutタンパク質を心筋細胞において選択的に発現させる、または心筋細胞にのみ送達する、あるいは、心血管疾患を処置する場合では、例えば心臓などの身体内に有益な効果があり得る血流または全身循環中に放出させるための組成物および方法を提供する。
【0035】
代替の実施形態では、本発明は、本発明の方法を実施するために、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子のin vivoにおける発現のための送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなどを提供する。代替の実施形態では、AC6mutまたはAC6mut核酸もしくは遺伝子を発現する送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなどを、筋肉内(IM)注射によって、心臓への直接注射によって、静脈内(IV)注射によって、皮下注射によって、吸入によって、微粒子銃粒子送達系(例えば、いわゆる「遺伝子銃」)などによって、例えば外来患者として、例えば来院の間に送達することができる。
【0036】
代替の実施形態では、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子(例えばそれらを「ペイロード」として保有する送達ビヒクル(例えばリポソームなどの)、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなどを含める)を誘導されたcAMP−インコンピテントAC発現または標的心臓器官における直接発現のために筋細胞、心筋細胞にターゲティングするまたは直接心筋細胞に送達する。
【0037】
代替の実施形態では、この「末梢」方式の送達、例えば、送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなどをIM注射またはIV注射することにより、遺伝子または核酸を器官(例えば、心臓、肺または腎臓)自体において直接発現させた場合に遭遇する問題を回避することができる。血流または全身循環中への所望のAC6mutタンパク質(複数可)、または送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなどの持続分泌により、タンパク質、送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなどを、身体内での半減期が非常に短い多くのタンパク質、送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなどに関して特に問題があり得る注入によって投与することの困難および出費も回避される。
【0038】
代替の実施形態では、本発明は、目的に合わせる(tailored)処置および最適な安全性の確保のために、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子発現を容易にかつ効率的にオンにすることおよびオフにすることができる方法を提供する。
【0039】
代替の実施形態では、AC6mutを発現する核酸(複数可)または遺伝子(複数可)によって発現されるAC6mutタンパク質(複数可)は、それらの部位または作用部位から離れた(例えば、解剖学的に遠隔の)血液または全身循環中に分泌されるにもかかわらず、組織または器官、例えば、心臓、血管、肺、腎臓、または他の標的に対して有益なまたは好都合な効果(例えば、治療的または予防的なもの)を有する。
【0040】
本発明の例示的な実施形態では、cAMP−インコンピテントACをコードするAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子を使用して、これに限定されないが、例えば、心疾患、心不全、うっ血性心不全(CHF)、心拍出量もしくは機能のあらゆる低下、またはそれらの任意の組合せを処置することを含めた本発明の方法を実施する。
【0041】
例えば、代替の実施形態では、送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなど、例えば長期ウイルス(long−term virus)またはウイルスベクターを、例えば、全身静脈内に(例えばIV)、または筋肉内(IM)注射によって、吸入によって、または微粒子銃粒子送達系によって(例えば、いわゆる「遺伝子銃」)、例えば、外来患者として、例えば診察室において、注射することができる。代替の実施形態では、数日または数週間後(例えば、4週間後)に、個体、患者または被験体に、AC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子の発現を誘導する化学物質または医薬品を投与する(例えば、吸入する、注射するまたは嚥下させる);例えば、経口用抗生物質(例えば、ドキシサイクリンまたはラパマイシン)を1日1回(またはそれよりも多いもしくは少ない頻度で)投与し、それにより、遺伝子の発現が活性化される。代替の実施形態では、核酸もしくは遺伝子の「活性化」、または発現の誘導(例えば、誘導性プロモーターによる)後、AC6mutタンパク質が合成され、被験体の循環中(例えば、血液中)に放出され、その後、該タンパク質は、個体または患者に有益な(例えば、心機能に有益な)好都合な生理学的効果、例えば治療的または予防的な生理学的効果を有する。医師または被験体が処置の中止を望んだ場合、被験体は単に活性化用の化学物質または医薬品、例えば、抗生物質の接種を止める。
【0042】
代替の実施形態では、本発明の適用は、重症低駆出率心不全の処置、肺高血圧症の処置、駆出率が保持された心不全の処置、肺高血圧症および心不全を処置するために入院および血管作用性ペプチドの持続的な静脈内注入を必要とする現行の療法の置換え、ならびにAC6mutの発現またはAC6mut核酸もしくは遺伝子の制御により身体内での好都合な効果が促進される他の状態の処置を含む。
【0043】
核酸の生成および操作
代替の実施形態では、本発明の方法を実施するために、本発明は、単離された、合成のおよび/または組換えのAC6mutポリペプチドをコードする核酸もしくは遺伝子を提供する。代替の実施形態では、本発明の方法を実施するために、本発明は、in vivoにおける発現のための発現ビヒクルにおける(例えば、スプライスした)、例えば、ベクター、例えば、AAV、もしくは任意のそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体、または組換えウイルスにおける組換え型のAC6mutを発現する核酸もしくは遺伝子を提供する。
【0044】
代替の実施形態では、哺乳動物、例えば、ヒトまたはマウスのAC6mutを使用して本発明を実施することができ、AC6mutは、アデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コア内に荷電または酸性アミノ酸の非荷電または非極性アミノ酸による置換を有するACポリペプチドを含む。ヒトAC6ポリペプチド(配列番号10)の触媒コア(触媒領域1(C1)とも称される)は、アミノ酸残基307から675までである。マウスAC6ポリペプチド(配列番号11)の触媒コアはアミノ酸残基315から683までである。
【0045】
代替の実施形態では、非荷電もしくは非極性アミノ酸はアラニン(Ala)であり、場合によって、酸性アミノ酸はアスパラギン酸(Asp)である、または場合によって、非荷電もしくは非極性アミノ酸はAlaであり、酸性アミノ酸はAspである。
【0046】
代替の実施形態では、本発明は、マウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コアの436位におけるアスパラギン酸、またはAsp(または「D」)のアラニン、またはAla(または「A」)による置換を有するACポリペプチドを含む(マウス)AC6mutポリペプチド(配列番号12)を提供する。すなわち、この実施形態では、マウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドは、マウスACポリペプチドの触媒コアの436位における置換D→A、またはAspのAlaによる置換を有する(配列番号11はD→A置換前のアミノ酸配列である)。
【0047】
代替の実施形態では、本発明は、マウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コアの426位におけるアスパラギン酸、またはAsp(または「D」)のアラニン、またはAla(または「A」)による置換(すなわち、D→A置換)を有するACポリペプチドを含む(マウス)AC6mutポリペプチド(配列番号17)を提供する。配列番号17ポリペプチドは、配列番号12ポリペプチドとは、配列番号17ポリペプチドでは配列番号12ポリペプチドの最初の10アミノ酸が欠けているという点で異なり、他の点ではポリペプチドは同一である。配列番号16はD→A置換前のマウスアミノ酸配列である。アミノ末端を欠くアイソフォームは、配列番号11および配列番号12の最初の10アミノ酸が翻訳されない野生型マウスポリペプチドと考えられる。
【0048】
代替の実施形態では、本発明は、ヒトアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドの触媒コアの428位におけるアスパラギン酸、またはAsp(または「D」)のアラニン、またはAla(または「A」)による置換を有するACポリペプチドを含む(ヒト)AC6mutポリペプチド(配列番号13)を提供する。すなわち、この実施形態では、マウスアデニリルシクラーゼ(AC)ポリペプチドはマウスACポリペプチドの触媒コアの428位における置換D→A、またはAspのAlaによる置換を有する。
【0049】
ヒトAC6核酸コード配列(配列番号14)とマウスコード配列(配列番号15)との相同性は86%である。ヒトAC6ポリペプチド(配列番号10)とマウスAC6ポリペプチド(配列番号11)とのアミノ酸レベルでの相同性は94%である。
【0050】
以下に例示されている通り、AC6mut D→A置換は、ヒトAC6mutの触媒コアとマウスAC6mutとで全く同じ相対的な構造的位置にある(以下で下線が引かれている通り野生型がそれでもアスパラギン酸、または「D」残基を有することを示す:
【化1-1】
【化1-2】
【0051】
代替の実施形態では、ヒトACmut核酸コード配列(配列番号13)とマウスACmut核酸コード配列(配列番号12)の両方を、以下に示されている通りアデノシン(または「A」)をシトシン(または「C」)に変化させることによって作製した。以下で「C」に変化させる前の「A」残基に下線が引かれている。すなわち、以下には野生型ヒトAC6(配列番号10)および野生型マウスAC6(配列番号11)が例示されている:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0052】
代替の実施形態では、本発明の核酸を、例えば、cDNAライブラリーのクローニングおよび発現、メッセージまたはゲノムDNAのPCRによる増幅などによって作製、単離および/または操作する。DNA、RNA、iRNA、アンチセンス核酸、cDNA、ゲノムDNA、ベクター、ウイルスまたはそのハイブリッドを含めた、本発明を実施するために使用する核酸および遺伝子は、種々の供給源から単離すること、遺伝子操作すること、増幅すること、および/または組換えによって発現させること/生成することができる。これらの核酸から生成した組換えポリペプチド(例えば、本発明を実施するために使用するcAMP−インコンピテントACキメラタンパク質)を個別に単離またはクローニングし、所望の活性について試験することができる。例えば、細菌細胞、真菌細胞、哺乳動物細胞、酵母細胞、昆虫細胞または植物細胞の発現系または発現ビヒクルを含めた任意の組換え発現系を使用することができる。
【0053】
あるいは、本発明を実施するために使用する核酸は、例えば、Adams(1983年)J. Am. Chem. Soc. 105巻:661頁;Belousov(1997年)Nucleic Acids Res. 25巻:3440〜3444頁;Frenkel(1995年)Free Radic. Biol. Med. 19巻:373〜380頁;Blommers(1994年)Biochemistry 33巻:7886〜7896頁;Narang(1979年)Meth. Enzymol. 68巻:90頁;Brown(1979年)Meth. Enzymol. 68巻:109頁;Beaucage(1981年)Tetra. Lett. 22巻:1859頁;米国特許第4,458,066号に記載の通り周知の化学合成技法によってin vitroで合成することができる。
【0054】
本発明を実施するために使用する核酸を操作するための技法、例えば、サブクローニング、標識用プローブ(例えば、Klenowポリメラーゼ、ニックトランスレーション、増幅を使用したランダムプライマーによる標識)、配列決定、ハイブリダイゼーションなどは、科学文献および特許文献に十分に記載されている、例えば、Sambrook編、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL(第2版)、1〜3巻、Cold Spring Harbor Laboratory、(1989年);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、Ausubel編 John Wiley & Sons, Inc.、New York(1997年);LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY: HYBRIDIZATION WITH NUCLEIC ACID PROBES、Part I. Theory and Nucleic Acid Preparation、Tijssen編 Elsevier、N.Y.(1993年)を参照されたい。
【0055】
本発明の方法を実施するために使用する核酸を得、操作する別の有用な手段は、ゲノム試料からクローニングし、所望であれば、例えばゲノムクローンまたはcDNAクローンから単離または増幅された挿入断片をスクリーニングし、再クローニングすることである。本発明の方法において使用する核酸の供給源としては、例えば、哺乳動物人工染色体(MAC)、例えば、米国特許第5,721,118号;同第6,025,155号を参照されたい;ヒト人工染色体、例えば、Rosenfeld(1997年)Nat. Genet. 15巻:333〜335頁を参照されたい;酵母人工染色体(YAC);細菌人工染色体(BAC);P1人工染色体、例えば、Woon(1998年)Genomics 50巻:306〜316頁を参照されたい;P1由来ベクター(PAC)、例えば、Kern(1997年)Biotechniques 23巻:120〜124頁を参照されたい;コスミド、組換えウイルス、ファージまたはプラスミドに含有されるゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーが挙げられる。
【0056】
代替の実施形態では、本発明の方法を実施するために、AC6mut融合タンパク質およびそれらをコードする核酸を使用する。任意のAC6mutポリペプチドを使用して、本発明を実施することができる。代替の実施形態では、AC6mutタンパク質を、ポリペプチドを心筋細胞などの所望の細胞型にターゲティングするためのペプチドなどの異種ペプチドまたはポリペプチドと融合することができる。
【0057】
代替の実施形態では、本発明を実施するために使用するタンパク質とつながったまたは融合した異種ペプチドまたはポリペプチドは、蛍光による検出、安定性の増大および/または精製の簡易化などの所望の特性をもたらすN末端同定ペプチドであってよい。本発明を実施するために使用するペプチドおよびポリペプチドは、組換えによって合成されたペプチドをより容易に単離するため、抗体および抗体発現B細胞を同定および単離するためなどに、例えば免疫原性がより高いペプチドを生成するために1つまたは複数の追加的なドメインと連結した融合タンパク質として合成し、発現させることもできる。検出および精製を容易にするドメインとしては、例えば、固定化した金属上での精製を可能にするポリヒスチジントラクト(polyhistidine tract)およびヒスチジン−トリプトファンモジュールなどの金属キレート化ペプチド、固定化した免疫グロブリン上での精製を可能にするプロテインAドメイン、およびFLAGS伸長/アフィニティー精製系(Immunex Corp、Seattle WA)で利用されるドメインが挙げられる。精製を容易にするために精製ドメインとモチーフを含むペプチドまたはポリペプチドとの間に第Xa因子またはエンテロキナーゼ(Invitrogen、San Diego CA)などの切断可能なリンカー配列を含める。例えば、発現ベクターは、6つのヒスチジン残基と連結したエピトープコード核酸配列、その後にチオレドキシンおよびエンテロキナーゼ切断部位を含んでよい(例えば、Williams(1995年)Biochemistry 34巻:1787〜1797頁;Dobeli(1998年)Protein Expr. Purif. 12巻:404〜414頁を参照されたい)。ヒスチジン残基により検出および精製が容易になり、一方で、エンテロキナーゼ切断部位によりエピトープを融合タンパク質の残りから精製する手段がもたらされる。融合タンパク質をコードするベクターおよび融合タンパク質の適用に関する技術は、科学文献および特許文献に十分に記載されている。例えば、Kroll(1993年)DNA Cell. Biol.、12巻:441〜53頁を参照されたい。
【0058】
本発明を実施するために使用する核酸または核酸配列、例えば、AC6mutコード核酸は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、もしくはこれらのいずれかの断片、一本鎖であっても二本鎖であってもよくセンス鎖であってもアンチセンス鎖であってもよいゲノムもしくは合成起源のDNAもしくはRNA、ペプチド核酸(PNA)、または天然もしくは合成起源の任意のDNA様もしくはRNA様材料であってよい。本発明を実施するために使用する化合物は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはこれらのいずれかの任意の断片を含めた「核酸」または「核酸配列」を含み、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、センス鎖であってもアンチセンス鎖でもよいゲノムもしくは合成起源のDNAもしくはRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、iRNA)、またはペプチド核酸(PNA)、または、例えばiRNA、リボ核タンパク質(例えば、例えば、二本鎖iRNA、例えば、iRNP)を含めた天然もしくは合成起源の任意のDNA様またはRNA様材料を含む。本発明を実施するために使用する化合物は、核酸、すなわち、天然のヌクレオチドの公知の類似体を含有するオリゴヌクレオチドを含む。本発明を実施するために使用する化合物は、合成骨格を有する核酸様構造を含む。例えば、Mata(1997年)Toxicol. Appl. Pharmacol. 144巻:189〜197頁;Strauss-Soukup(1997年)Biochemistry 36巻:8692〜8698頁;Samstag(1996年)Antisense Nucleic Acid Drug Dev 6巻:153〜156頁を参照されたい。本発明を実施するために使用する化合物は、化学的に合成することができる一本鎖ポリデオキシヌクレオチドまたは2つの相補的なポリデオキシヌクレオチド鎖を含めた「オリゴヌクレオチド」を含む。本発明を実施するために使用する化合物は、5’リン酸を有さず、したがってキナーゼの存在下でATPを用いてリン酸が付加されなければ別のオリゴヌクレオチドとライゲーションしない合成オリゴヌクレオチドを含む。合成オリゴヌクレオチドは脱リン酸化されていない断片とライゲーションし得る。
【0059】
代替の態様では、本発明を実施するために使用する化合物は、AC6mutポリペプチドの産生に関与する遺伝子、またはDNAの任意のセグメントを含む。これは、コード領域の前後の領域(リーダーおよびトレーラー)、ならびに適用可能な場合には、個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含み得る。「作動可能に連結した」とは、2つまたはそれ超の核酸(例えば、DNA)セグメント間の機能的な関係を指し得る。代替の態様では、「作動可能に連結した」とは、転写調節配列と転写された配列の機能的な関係を指し得る。例えば、プロモーターが適切な宿主細胞または他の発現系におけるコード配列の転写を刺激または調整するものであれば、そのプロモーターは本発明を実施するために使用する核酸などのコード配列に作動可能に連結し得る。代替の態様では、プロモーター転写調節配列が転写された配列に物理的に近接している、すなわち、それらがシス作用性であり得る場合、それらは転写された配列に作動可能に連結し得る。代替の態様では、エンハンサーなどの転写調節配列は、それにより転写が増強されるコード配列に物理的に近接しているまたは極めて近傍に位置する必要はない。
【0060】
代替の態様では、本発明は、核酸、例えば、構造遺伝子または転写物(例えば、AC6mutタンパク質をコードする)の、そのような配列に適合する宿主における発現に影響を及ぼすことが可能であり得る、本発明を実施するために使用するヌクレオチド配列を含む「発現カセット」の使用を含む。発現カセットは、ポリペプチドコード配列または阻害配列と、および一態様では他の配列、例えば転写終結シグナルと作動可能に連結したプロモーターを少なくとも含むものであってよい。発現をもたらすのに必要なまたは役立つ追加的な因子、例えばエンハンサーも使用することができる。
【0061】
代替の態様では、本発明を実施するために使用する発現カセットは、プラスミド、発現ベクター、組換えウイルス、任意の形態の組換え「裸のDNA」ベクターなども包含する。代替の態様では、本発明を実施するために使用する「ベクター」は、細胞に感染させる、トランスフェクトする、一過性にまたは恒久的に形質導入することができる核酸を含んでよい。代替の態様では、本発明を実施するために使用するベクターは、裸の核酸であってもタンパク質または脂質と複合体を形成した核酸であってもよい。代替の態様では、本発明を実施するために使用するベクターは、ウイルスもしくは細菌の核酸および/もしくはタンパク質、ならびに/または膜(例えば、細胞膜、ウイルス脂質エンベロープなど)を含んでよい。代替の態様では、本発明を実施するために使用するベクターとしては、これに限定されないが、DNAの断片を結合させ、複製されるようにすることができるレプリコン(例えば、RNAレプリコン、バクテリオファージ)を挙げることができる。したがって、ベクターとしては、これらに限定されないが、RNA、自律的な自己複製性の環状または直鎖DNAまたはRNA(例えば、プラスミド、ウイルスなど、例えば、米国特許第5,217,879号を参照されたい)が挙げられ、発現プラスミドと非発現プラスミドのどちらも含み得る。代替の態様では、本発明を実施するために使用するベクターは、細胞に有糸分裂の間に自律的な構造として安定に複製させることもでき、宿主のゲノム内に組み入れることもできる。
【0062】
代替の態様では、本発明を実施するために使用する「プロモーター」は、細胞、例えば、心臓細胞、肺細胞、筋肉細胞、神経細胞または脳細胞などの哺乳動物細胞におけるコード配列の転写を駆動することができる全ての配列を含む。したがって、本発明のコンストラクトにおいて使用するプロモーターは、遺伝子の転写のタイミングおよび/または速度の調節または調整に関与するシス作用性の転写制御エレメントおよび調節配列を含む。例えば、本発明を実施するために使用するプロモーターは、転写調節に関与するエンハンサー、プロモーター、転写ターミネーター、複製開始点、染色体組み込み配列、5’および3’非翻訳領域、またはイントロン配列を含めたシス作用性転写制御エレメントであってよい。これらのシス作用性配列は、一般には、タンパク質または他の生体分子と相互作用して転写を行う(オン/オフにする、調節する、調整するなど)。
【0063】
代替の実施形態では、本発明を実施するために使用する「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境条件および発生または細胞分化の状態の下で発現を継続的に駆動するものであってよい。代替の実施形態では、本発明を実施するために使用する「誘導性」または「調節可能な」プロモーターは、環境条件、投与される化学薬品、または発生条件の影響の下で本発明の核酸を直接発現させることができるものである。
【0064】
アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)の送達
代替の実施形態では、送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルス、または等価物は、アデノ随伴ウイルス(AAV);組換えAAVウイルス、ベクターもしくはビリオン;または、アデノウイルスベクターであるまたはそれを含む。代替の実施形態では、AAV、組換えAAVウイルスもしくはベクター、またはアデノウイルスベクターは、AAV血清型AAV5、AAV6、AAV7、AAV8もしくはAAV9;アカゲザルAAV(AAVrh)、もしくはAAVrh10;または任意のそのシュードタイプ、ハイブリッドもしくは誘導体であるまたはそれを含む。
【0065】
代替の実施形態では、これらのベクターのいずれか(または本発明のいずれかの送達ビヒクル)は、特定の細胞、組織もしくは器官に対して向性である、または特定の細胞、組織もしくは器官に特異的に送達するために設計されたものである。例えば、代替の実施形態では、本発明を実施するために使用するAAV(または本発明を実施するために使用する任意のベクターもしくは送達ビヒクル)は心臓に対して向性である(または向性を有する)。他の実施形態では、本発明を実施するために使用するAAV(または任意のベクターまたは送達ビヒクル)は、別の組織または器官、例えば肝臓に対して向性である、または別の組織または器官、例えば肝臓に特異的に送達するために設計されたものである。代替の実施形態では、この「末梢」方式の送達、例えば、送達ビヒクル、ベクター、組換えウイルスなどをIM注射またはIV注射することにより、遺伝子または核酸を器官(例えば、心臓、肺または腎臓)自体において直接発現させた場合に遭遇する問題を回避することができる。例えば、AAV5、AAV6、およびAAV9は、心臓に対して向性であることが見いだされている。例えば、Fangら、Hum Gene Ther Methods 2012年10月17日;Zincarelliら、Clin Transl Sci. 2010年6月;3巻(3号):81〜9頁を参照されたい。
【0066】
本発明を実施するために使用するアデノ随伴ウイルス(AAV)は、小さな、エンベロープを有さない一本鎖DNA動物ウイルスであるParvoviridae科の任意の非病原性メンバーであり得る。AAVは複製のためにヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)を必要とし、したがって、本発明を実施するために使用するAAVは被験体に投与した際に複製されない。AAVは比較的広範囲の細胞型に感染し、特にアデノウイルスなどのいくつかの他のウイルスと比較してほんの軽度の免疫応答を刺激することができる。本発明を実施するために使用するAAV血清型としては、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12が挙げられる。本発明を実施するために使用するAAVは、例えば、鳥類(例えば、トリAAVまたはAAAV)、ウシ(例えば、ウシAAVまたはBAAV)、イヌ、ウマ、ヒツジ、およびブタを含めた他の動物由来のものであってよい。
【0067】
代替の実施形態では、本発明を実施するために使用するAAVベクターは、AAVゲノムの少なくとも一部分を異種核酸分子で置き換えた組換え核酸分子である。約4.7キロベース(kb)のAAVゲノムDNAを、例えば、ウイルスの複製遺伝子およびカプシド遺伝子を除去することによって置き換えることができる。代替の実施形態では、異種核酸分子は、単に各末端上のAAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接している。ITRは複製開始点としての機能を果たし、レスキュー、組み込み、クローニングベクターからの除去、およびパッケージングのために必要なシス作用性エレメントを含有する。代替の実施形態では、本発明を実施するために使用するAAVは、発現を制御するために異種核酸分子に作動可能に連結したプロモーターを含む。
【0068】
AAVベクターを、in vitroにおいて、細胞で発現させたヘルパーウイルスまたはヘルパー機能の助けを借りてAAVカプシド内にパッケージングしてAAVビリオンを得ることができる。ウイルスカプシドタンパク質の性質によりAAVビリオンの血清型および細胞の向性が付与される。AAVベクターおよびAAVビリオンを、分裂細胞と非分裂細胞のどちらも含めた細胞に効率的に形質導入することができる。AAVベクターおよびビリオンは、安全であること、および長期のin vivoにおける持続および種々の細胞型における発現をもたらすことが示されている。
【0069】
代替の実施形態では、ITRはAC6mutコード核酸分子の5’末端につながっており、ITRはAC6mutコード核酸分子の3’末端につながっていた。ITRの例としては、これらに限定されないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAAV、BAAV、および当業者に公知の他のAAV ITRが挙げられる。一実施形態では、AAV ITRは、AAV2 ITR、AAV5 ITR、AAV6 ITR、およびBAAV ITRから選択される。一実施形態では、AAV ITRはAAV2 ITRである。一実施形態では、AAV ITRはAAV5 ITRである。一実施形態では、AAV ITRはAAV6 ITRである。一実施形態では、AAV ITRはBAAV ITRである。
【0070】
代替の実施形態では、本発明を実施するために使用するAAVベクター(および他のベクター、組換えウイルスなど)は、発現制御配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、転写ターミネーター配列、およびマイクロRNA結合部位などの他の配列を含む。プロモーターの例としては、これらに限定されないが、AAVプロモーター、例えば、p5、p19またはp40プロモーター、アデノウイルスプロモーター、例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、パピローマウイルスプロモーター、ポリオーマウイルスプロモーター、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)プロモーター、肉腫ウイルスプロモーター、SV40プロモーター、他のウイルスプロモーター、アクチンプロモーター、アミラーゼプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、カリクレインプロモーター、メタロチオネインプロモーター、熱ショックプロモーター、内因性プロモーター、ラパマイシンまたは他の小分子によって調節されるプロモーター、他の細胞のプロモーター、および当業者に公知の他のプロモーターが挙げられる。一実施形態では、プロモーターはAAVプロモーターである。一実施形態では、プロモーターはCMVプロモーターである。含める発現制御配列の選択は当業者が成すことができる。
【0071】
代替の実施形態では、血清型が異なるAAVベクター(そのようなベクター内のITRの血清型によって決定して)、例えばAAV1ベクター、AAV2ベクター、AAV3ベクター、AAV4ベクター、AAV5ベクター、AAV6ベクター、AAV7ベクター、AAV8ベクター、AAV9ベクター、AAV10ベクター、AAV11ベクター、AAV12ベクター、AAAVベクター、およびBAAVベクターを使用する。代替の実施形態では、AAVベクターは、AAV2ベクター、AAV5ベクター、AAV6ベクターまたはBAAVベクターである。
【0072】
代替の実施形態では、ウイルスベクターに1つまたは複数の所望の機能性をもたらすために、キメラAAV誘導体、シャッフルAAV誘導体またはカプシド改変AAV誘導体を使用する。代替的な実施形態では、これらの誘導体は、天然に存在するAAVゲノムを含むAAVウイルスベクターと比較して、遺伝子送達の効率の上昇、免疫原性(体液性または細胞性)の低下、向性範囲の変更および/または特定の細胞型へのターゲティングの改善を示し得る。代替の実施形態では、遺伝子送達の効率の上昇は、細胞表面における受容体または補助受容体の結合の改善、内部移行の改善、細胞内および核内への輸送の改善、ウイルス粒子の脱外被の改善および/または一本鎖のゲノムの二本鎖形態への変換の改善によって実現される。代替の実施形態では、特定の細胞集団の向性範囲の変更またはターゲティングにより、効率が上昇し、したがって、ベクター用量がそれを必要としない組織への投与によって薄まることがない。
【0073】
代替の実施形態では、例えば米国特許出願第20140107186号に記載の通り、カプシドを有さないAAVベクターを使用する。代替の実施形態では、例えば米国特許出願第20140056854号に記載の通り、心臓または肝臓に対して向性であるAAV9ベクターを使用する。代替の実施形態では、例えば、米国特許出願第20130310443号;同第20130136729号に記載されているAAVベクターを使用して本発明を実施する。
【0074】
代替の実施形態では、例えば米国特許出願第20120220492号に記載の通り、例えば、ウイルスの向性または他の特徴を改善または変更するために、例えば、性能の改善または変更のためにAAVベクターをシュードタイピングする。例えば、特異的なまたは改善されたターゲティングにより、送達ビヒクル(例えば、AAVウイルス粒子)を感染が意図された細胞のみに感染させ、治療用核酸(例えば、AC6mut)を送達し、したがって、遺伝子療法に由来する望ましくない副作用のリスクを減少させ、遺伝子療法の効能を増大させることが可能になる。
【0075】
代替の実施形態では、ウイルスベクターの投与量は、処置される状態、患者の年齢、体重および健康状態などの因子によって決定され、したがって、患者間で変動し得る。例えば、ウイルスベクターの治療的に有効なヒト投与量は、一般に、ゲノムウイルスベクター約1×10個から1×1016個の濃度を含有する溶液約0.1mlから約100mlまでの範囲である。大きな器官(例えば、肝臓、筋肉、心臓および肺)に送達するための例示的なヒト投与量は、約1〜100mLの体積で1kg当たりAAVゲノム約5×1010〜5×1013個であり得る。投与量は治療的利益とあらゆる副作用を釣り合わせるために調整され、そのような投与量は、組換えベクターを使用する治療的適用に応じて変動し得る。導入遺伝子の発現レベルをモニターして、ウイルスベクター、例えばAAVベクターがもたらされる投薬の頻度を決定することができる。
【0076】
製剤
代替の実施形態では、本発明は、AC6mutをin vivoで心筋細胞に送達し、発現させるための組成物および方法を提供する。代替の実施形態では、これらの組成物は、これらの目的のために製剤化されたAC6mutコード核酸、例えば、緩衝液中、生理食塩水溶液中、粉末中、エマルジョン中、小胞中、リポソーム中、ナノ粒子中、ナノリポ粒子(nanolipoparticle)中などに製剤化された発現ビヒクルまたはAC6mutコード核酸を含む。
【0077】
代替の実施形態では、組成物は、所望のin vivoまたはex vivoにおける投与の方法などを含めた所望のin vivoまたはex vivoにおける条件に応じて、どのようにでも製剤化することができ、種々の濃度および形態で適用することができる。in vivoまたはex vivoにおける製剤化および投与のための技法に関する詳細は、科学文献および特許文献に十分に記載されている。
【0078】
本発明を実施するために使用するAC6mutコード核酸の製剤および/または担体は当技術分野で周知である。本発明を実施するために使用する製剤および/または担体は、例えば、in vivoまたはex vivoにおける適用に適した錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などの形態であってよい。
【0079】
代替の実施形態では、本発明を実施するために使用するAC6mutコード核酸は、水溶液および/または緩衝溶液の混和物であってもよく、あるいは、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの懸濁化剤、および天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)などの分散剤もしくは湿潤剤、アルキレン酸化物と脂肪酸の縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールに由来する部分エステルの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)を含む水性懸濁液および/または緩衝懸濁液であってもよい。水性懸濁液は、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシ安息香酸などの1種または複数の防腐剤も含有してよい。製剤は、例えば適切な緩衝液を使用することによって容量オスモル濃度に関して調整することができる。
【0080】
本発明の実施において、本発明の化合物(例えば、製剤)は、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を医薬的に許容される担体、例えば、水および等張性の塩化ナトリウムであるリンゲル液を含めた使用することができる許容されるビヒクルおよび溶媒に溶解させた溶液を含んでよい。さらに、滅菌不揮発性油を溶媒または懸濁媒として使用することができる。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリド、またはオレイン酸などの脂肪酸を含めた任意の不揮発性油を使用することができる。一実施形態では、本発明を実施するために使用する溶液および製剤を滅菌し、望ましくない物質を一般に含まないように製造することができる。一実施形態では、これらの溶液および製剤を従来の、周知の滅菌技法によって滅菌する。
【0081】
本発明を実施するために使用する溶液および製剤は、生理的条件に近づけるために必要な、例えば、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどの補助物質を含んでよい。これらの製剤中の活性薬剤(例えば、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子)の濃度は広範に変動し得、選択されたin vivoまたはex vivoにおける投与の特定の方式および所望の結果、例えばin vivoにおけるAC6mut発現の増加に応じて、主に液量、粘度などに基づいて選択することができる。
【0082】
本発明を実施するために使用する溶液および製剤を凍結乾燥することができる。例えば、本発明は、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子を含む安定な凍結乾燥製剤を提供する。一態様では、この製剤は、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子ならびに増量剤、例えば、マンニトール、トレハロース、ラフィノース、およびスクロースまたはそれらの混合物を含む溶液を凍結乾燥することによって作製される。安定な凍結乾燥製剤を調製するためのプロセスは、約2.5mg/mLのタンパク質、約15mg/mLのスクロース、約19mg/mLのNaCl、およびpHが5.5超6.5未満のクエン酸ナトリウム緩衝液の溶液を凍結乾燥することを含み得る。例えば、米国特許出願第20040028670号を参照されたい。
【0083】
本発明の組成物および製剤は、リポソームを使用することによって送達することができる(以下の考察も参照されたい)。特に、リポソーム表面に標的細胞、例えば心筋細胞に特異的なリガンドが担持されている、または他のやり方で特定の組織または器官型、例えば心臓を優先的に対象とする場合に、リポソームを使用することにより、in vivoまたはex vivoにおける適用において活性薬剤の標的細胞、例えば心筋細胞への送達に取り組むことができる。
【0084】
ナノ粒子、ナノリポ粒子およびリポソーム
本発明は、本発明の方法を実施するため、例えば、in vivoまたはex vivoにおいてAC6mutまたはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を心筋細胞に送達するために使用する化合物(例えば、AC6mutまたはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子)を含むナノ粒子、ナノリポ粒子、小胞およびリポソーム膜も提供する。代替の実施形態では、これらの組成物を、例えば、所望の細胞型、例えば、哺乳動物心臓細胞、心筋細胞などを標的とするための細胞表面ポリペプチドを含めたポリペプチドなどの生物学的分子を含めた特定の分子を標的とするように設計する。
【0085】
本発明は、例えば、Parkら、米国特許公開第20070082042号に記載の通り、本発明を実施するために使用する化合物を含む多層リポソームを提供する。多層リポソームは、例えば、cAMP−インコンピテントACコード核酸もしくは遺伝子を閉じ込めるために、スクアラン、ステロール、セラミド、中性脂質または油、脂肪酸およびレシチンを含む油相成分の混合物を使用して、約200〜5000nmの粒子サイズに調製することができる。
【0086】
リポソームは、例えば、Parkら、米国特許公開第20070042031号に記載の通り、活性薬剤(例えば、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子)を封入することによってリポソームを生成する方法であって、第1のレザバー中に水溶液を準備するステップと、第2のレザバー中に有機脂質溶液を準備するステップと、次いで、水溶液と有機脂質溶液を第1の混合領域において混合してリポソーム溶液を生成するステップであって、有機脂質溶液と水溶液を混合して実質的に即時的にリポソーム封入活性薬剤を生成するステップと、次いで、すぐにリポソーム溶液と緩衝溶液を混合して希釈されたリポソーム溶液を生成するステップとを含む方法を含めた、任意の方法を使用して作製することができる。
【0087】
一実施形態では、本発明を実施するために使用するリポソーム組成物は、例えば米国特許公開第20070110798号に記載の通り、例えば、本発明を実施するために使用する化合物(例えば、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子)を所望の細胞型にターゲティング送達するための置換されたアンモニウムおよび/またはポリアニオンを含む。
【0088】
本発明は、例えば、米国特許公開第20070077286号に記載の通り、本発明を実施するために使用する化合物(例えば、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子)を、活性薬剤を含有するナノ粒子(例えば、二次ナノ粒子)の形態で含むナノ粒子も提供する。一実施形態では、本発明は、二価または三価の金属塩と一緒に作用させるための本発明の脂溶性活性薬剤または脂溶化された水溶性活性薬剤を含むナノ粒子を提供する。
【0089】
一実施形態では、例えば、米国特許公開第20050136121号に記載の通り、固体脂質懸濁液を使用して、本発明を実施するために使用するAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を製剤化すること、およびそれを哺乳動物細胞にin vivoまたはex vivoで送達することができる。
【0090】
送達ビヒクル
代替の実施形態では、任意の送達ビヒクルを使用して、本発明の方法または組成物を実施すること、例えば、in vivoまたはex vivoにおいてAC6mutまたはAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を送達して本発明の方法を実施することができる。例えば、例えば米国特許公開第20060083737号に記載の通り、例えば、ポリエチレンイミン誘導体などのポリカチオン、カチオン性ポリマーおよび/またはカチオン性ペプチドを含む送達ビヒクルを使用することができる。
【0091】
一実施形態では、例えば、例えば米国特許公開第20040151766号に記載の通り、例えば、乾燥ポリペプチド−界面活性物質複合体を使用して本発明の組成物を製剤化し、この場合、界面活性物質は非共有結合により核酸と会合している。
【0092】
一実施形態では、例えば米国特許第7,413,739号に記載の通り、本発明を実施するために使用する核酸をポリマーヒドロゲルまたは水溶性共重合体として細胞に適用することができる。例えば、核酸を強力な求核試薬と、コンジュゲートした不飽和結合またはコンジュゲートした不飽和基との間の求核付加による反応によって重合させることができ、ここで各前駆成分は、少なくとも2つの強力な求核試薬または少なくとも2つのコンジュゲートした不飽和結合もしくはコンジュゲートした不飽和基を含む。
【0093】
一実施形態では、例えば、米国特許第7,306,783号;同第6,589,503号に記載の通り、細胞膜浸透性ペプチドコンジュゲートを伴うビヒクルを使用して核酸を細胞に適用する。一態様では、核酸自体を細胞膜浸透性ペプチドとコンジュゲートする。一実施形態では、核酸および/または送達ビヒクルを、例えば、高度に塩基性でありポリ−ホスホイノシチドに結合する輸送媒介ペプチドが記載されている米国特許第5,846,743号に記載の通り輸送媒介ペプチドとコンジュゲートする。
【0094】
一実施形態では、電気による透過処理を、例えば、例えば米国特許第7,109,034号;同第6,261,815号;同第5,874,268号に記載の、例えば任意の電気穿孔系を使用してAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を細胞に送達するための主要なまたは補助的な手段として使用する。
【0095】
in vivoにおける細胞の埋め込み
代替の実施形態では、本発明の方法は、本発明を実施するために使用するAC6mutコード核酸もしくは遺伝子を含むまたは発現する細胞、例えば、心臓細胞または心筋細胞を埋め込むまたは生着させるステップも含み、一態様では、本発明の方法は、AC6mutコード核酸もしくは遺伝子(もしくはそれらを発現する細胞)をex vivoもしくはin vivoで血管、組織もしくは器官、例えば、心臓もしくは心筋細胞に埋め込むもしくは生着させるステップ、または、再プログラミングされた分化細胞を、それを必要とする個体に埋め込むもしくは生着させるステップを含む。
【0096】
本発明の組成物および/または方法を使用した処置を受けた個体から細胞を取り出し、任意の公知の技法またはプロトコールを使用して組織、器官中にまたは個体中に再挿入する(例えば、注射するまたは生着させる)ことができる。例えば、脱分化し再プログラミングされた細胞、幹細胞、または再プログラミングされた分化細胞を、例えば、例えば米国特許第7,442,389号に記載の通りミクロスフェアを使用して再度埋め込む(例えば、注射するまたは生着させる)ことができ、例えば、一態様では、細胞担体は、混合および送達系内にプレロードされた円形の滑らかなポリメチルメタクリレート微小粒子を含む増量剤ならびにこれらの細胞を含む自己由来の担体を含む。別の実施形態では、例えば、米国特許出願公開第20050027070号に記載の通り、細胞を組織、器官、例えば心臓に、かつ/またはそれを必要とする個体に、生体適合性の架橋結合したマトリックスに入れて再投与する。
【0097】
別の実施形態では、本発明の細胞(例えば、本発明の方法を実施することによって作製された細胞)を、例えば、例えば、AC6mutを、一級アミノ基またはチオール基などの複数の求核基を含有するように改変されたポリエチレングリコールとコンジュゲートすることができるプロトコールが記載されている米国特許第6,969,400号に記載の通り、例えば、その表面が生体適合性、非免疫原性コーティングされた合成埋没物の中に入れてまたはそれにより保護して、組織、器官および/またはそれを必要とする個体に再投与する(例えば、注射するまたは生着させる)。
【0098】
一実施形態では、本発明の細胞(例えば、本発明の方法を実施することによって作製された細胞)を、例えば米国特許第7,442,390号;同第5,733,542号に記載されている移植方法を使用して組織、器官および/またはそれを必要とする個体に再投与する(例えば、注射するまたは生着させる)。
【0099】
ポリペプチド、核酸および/または細胞を組織または器官(例えば、心筋細胞、心臓)に送達するための任意の方法を使用することができ、これらのプロトコールは、例えば、ポリペプチド、核酸および/または細胞の、in situにおける心臓に対する、例えば、冠内(IC)、静脈内(IV)、および/または局所送達(心筋への直接注射)の使用が記載されている米国特許(USPN)第7,514,401号に記載の通り、当技術分野で周知である。例えば、代替の実施形態では、肺中および血流中へのエアロゾル薬物粒子、遺伝子療法、持続注入、注射の繰り返しならびに/または持続放出ポリマーを、ポリペプチド、核酸および/または細胞を組織または器官(例えば、肺、腎臓、心臓)に送達するために使用することができる。代替の実施形態では、核酸および/または細胞は、カテーテルを通じて冠状動脈中に、または限定的な開胸術を介して直接注射によって左心房または心室の心筋層内に与えることもでき、心臓カテーテル留置の間に通したカテーテルを通じて心筋層に送達することもでき、心膜腔に送達することもできる。
【0100】
代替の実施形態では、例えばUSPN7,501,486に記載の通り、組織または器官(例えば、肺、腎臓、心臓)に対する、本発明を実施するために使用する核酸、または本発明を実施するために使用する核酸を含むベクター(例えば、アデノウイルス関連ウイルスもしくはベクター(AAV)、またはアデノウイルス遺伝子療法ベクター)、または本発明の小胞、リポソーム、ナノ粒子もしくはナノ脂質粒子(NLP)など。
【0101】
本発明を実施するために使用する組成物は、他の治療剤、例えば、血管新生剤、抗血栓剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、抗不整脈剤、腫瘍壊死因子阻害剤、エンドセリン阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、カルシウムアンタゴニスト、抗生剤、抗ウイルス剤およびウイルスベクターと組み合わせて使用することができる。
【0102】
本発明を実施するために使用する組成物は、種々の心臓障害および心血管疾患、例えば、心臓障害および心血管疾患、例えば、冠動脈疾患(CAD);アテローム性動脈硬化症;血栓症;再狭窄;結節性多発性動脈炎、チャーグ・ストラウス症候群、高安動脈炎、川崎病およびリケッチア性血管炎などの、自己免疫性およびウイルス性血管炎を含めた血管炎;アテローム硬化性動脈瘤;心筋肥大;先天性心疾患(CHD);虚血性心疾患およびアンギナ;後天性弁膜症/心内膜疾患;心筋炎を含めた原発性心筋疾患;不整脈;および移植片拒絶;うっ血性心筋症、肥大性心筋症および拘束型心筋症などの代謝性心筋疾患および心筋ミオパチー、ならびに/または心臓移植のいずれかを好転させるまたは処置するために使用することができる。
【0103】
キットおよび指示
本発明は、本発明の組成物および方法を含み、その使用のための指示を含むキットを提供する。そのように、本発明の細胞、送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなども提供され得る。
【0104】
例えば、代替の実施形態では、本発明は、(a)AC6mutコード核酸、(b)本発明の送達ビヒクル、ベクター、発現ベクター、組換えウイルスなど、(c)本発明の液体または水性製剤、または(d)本発明の小胞、リポソーム、ナノ粒子またはナノ脂質粒子を含む組成物を含むキットを提供する。一態様では、キットは、本発明の任意の方法、例えば、所望のAC6mutまたはAC6mutを発現する核酸、ベクターなどを心筋細胞に送達するためのin vitroまたはex vivoにおける方法を実施するための指示をさらに含む。
【0105】
本発明を、以下の実施例を参照してさらに記載する;しかし、本発明はそのような実施例に限定されないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0106】
(実施例1)
cAMP−インコンピテントACの送達により心機能が増大する
この実施例では、本発明の例示的な実施形態:心不全を処置するためにcAMP−インコンピテントACを心筋細胞に送達することの有効性が実証される。この研究では、本発明者らは、LVにおけるcAMP産生を減少させるAC変異体分子が、Ca2+ハンドリングに対するその効果のみによって左心室(LV)機能に対する好都合な効果を有するかどうかを検討した。
【0107】
陽性変力物質の多くの臨床試験が失敗しており、現在はcAMPを増加させる薬剤は不全心臓に対して有害であることが自明である。代替戦略は、cAMPに影響を及ぼさない薬剤を使用して心筋のCa2+ハンドリングまたはCa2+に対する筋フィラメント応答を変更させることである。左心室(LV)機能はアデニリルシクラーゼ(AC)活性と密接に関連するが、ACの有益な効果はcAMPには依存せず、その代わりにCa2+ハンドリングに対する効果から生じる可能性がある。
【0108】
この研究では、本発明者らは、環状アデノシン一リン酸−インコンピテント(cAMP−インコンピテント)6型アデニリルシクラーゼ(AC6)ポリペプチド、いわゆる「AC6変異体」または「AC6mut」の心臓を対象とする発現を有するトランスジェニックマウスを生成した。これらのAC6mutトランスジェニックマウスの心筋細胞ではイソプロテレノールに応答したcAMP産生が損なわれたが(74%の低下;p<0.001)、LVのサイズおよび機能は正常であったことが示された。単離した心臓ではイソプロテレノール刺激に応答したLV機能の保持が示された。AC6mut発現に伴って筋小胞体によるCa2+の取り込みが増加し、SERCA2a活性化についてのEC50が低下した。AC6mutマウスから単離した心筋細胞では、イソプロテレノールに応答したCa2+トランジェントの振幅の増加が示された(p=0.0001)。AC6mut発現には、LVにおけるS100A1の発現の増加(p=0.03)およびホスホランバンタンパク質の発現の減少(p=0.01)も伴った。この研究では、cAMP生成が損なわれているにもかかわらず、LVにおけるAC変異体の発現に正常な心機能が伴うことが決定された。この機構は、cAMPの減少にもかかわらず生じる効果であるCa2+ハンドリングに対する効果によるようである。
【0109】
以前の研究からのデータにより、哺乳動物の心筋細胞で発現する優性ACアイソフォームである心臓の6型AC(AC6)の増加[6]には不全左心室(LV)に対する不定形の有益な効果があることが示された[7]、[8]、[9]、[10]、[11]、[12]。これらの予想外の有益な効果は、ベータ(β)アドレナリン作動性受容体(βAR)刺激および細胞内cAMPの上昇の心臓に対する悲惨な結果と一致するはずである[13]、[14]、[15]、[16]、[17]、[18]。実際に、不全心臓におけるAC6発現の明らかな利益は逆説的なものである。以前の研究からのデータにより、薬理学的阻害剤を使用すると、心臓におけるAC6発現の増加の有益な効果のいくつかはcAMP生成の増加に依存するものではないことが示唆される[2]、[3]。培養した心筋細胞における薬理学的阻害を使用した研究の固有の限界が原因で、Mg2+の結合を変更させるが、Gタンパク質のダイナミクスには影響を及ぼさないことが予測される変化である触媒コアの426位(426位:配列番号16に基づく位置番号)におけるAspのAlaによる置換によって、本発明者らは、触媒として不活性なマウスAC6変異体(AC6mut)分子を生成した[4]。このマウスAC6mut分子は、in vitroにおいて研究した場合には、cAMP生成を著しく損なうが、AC6に関連する細胞分布パターンを保持する[4]。そのようなin vitroにおける研究は、そのような分子がin vivoにおいて心機能にどのように影響し得るかを確立するには程遠いものである。
【0110】
したがって、本発明者らは、心臓を対象とするAC6mutの発現を有するトランスジェニックマウス系列を生成した。そのような系列により、インタクトな正常な心臓の機能に対するcAMPの効果とCa2+ハンドリングの効果の区別に対するさらなる洞察がもたらされることが期待された。さらに、そのような研究により、AC6mutによってcAMPの増加の潜在的な悪影響がない変力的刺激がもたらされるかどうかも示される可能性があった。本発明者らの仮説は、cAMP生成力の顕著な減少にもかかわらず、AC6によって付与されるCa2+ハンドリングに対する有益な釣り合わせ効果によりLV機能は正常なままであることであった。
【0111】
方法
AC6mutトランスジェニックマウスの生成(図1A)。動物の使用は、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Careガイドラインに従い、Institutional Animal Care and Use Committee of VA San Diego Healthcare Systemに認可されたものであった。心臓を対象とするAC6mutの発現を有するマウスを生成するために、C末端にAU1タグを有するマウスAC6mut cDNA[4]をα−ミオシン重鎖プロモーターとSV40ポリAの間にサブクローニングした。カリフォルニア大学(University of California)、San Diegoのトランスジェニックマウス設備(近交系C57BL/6)において行われた前核注射のために、発現カセットを含有する9.2kbの断片を使用した。尾部先端から調製したゲノムDNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってファウンダーマウスを同定した。
【0112】
AC6mut遺伝子を、α−MHCプロモーターと相同なプライマーを使用して検出した(フォワード:5’CACATAGAAGCCTAGCCCACACC)(配列番号1);リバースプライマーはAC6領域についてのものであった(5’CAGGAGGCCACTAAACCATGAC)(配列番号2)。
【0113】
以下のプライマーを使用してAC6mut mRNAを検出し、内因性AC6 mRNAに対してAC6mut mRNAの倍数増加の定量を可能にした:(フォワード:5’TGGGCCTCTCTACTCTGCAT(配列番号3);リバース:5’TGGATGTAACCTCGGGTCTC)(配列番号4)。
【0114】
内因性AC6 mRNAを、その3’非翻訳領域と相同なプライマーを使用して検出した(フォワード:5’GGCATTGAGTGGGACTTTGT(配列番号5);リバース:5’TCTGCATCCAAACAAACGAA)(配列番号6)。この3’非翻訳領域はAC6mut cDNAには存在しないものであり、これにより内因性AC6の定量が可能になった。
【0115】
ファウンダー動物を同じ系統の野生型マウスと交雑し、選択された動物を心臓における導入遺伝子の発現の分析のために使用した。本発明者らは、本発明者らの研究に関して、独立した系列および選択された系列においてAC6mutタンパク質の発現が17倍に増加するという(内因性AC6に対して)多様な導入遺伝子の発現を実証した。以前に記載の通り定量的RT−PCRを使用して2型〜9型のACのLVにおける発現レベルを決定した[5]。
【0116】
心エコー検査。5%イソフルランを用いて麻酔を誘導し(酸素1L/分の流速)、酸素中1%イソフルランで維持した。以前に報告されている通り、16L MHzのリニアプローブおよびSonos 5500(登録商標)Echocardiograph system(Philips Medical Systems、Bothell、WA)を使用して画像を得た[7]。データを獲得し、群同一性に関する知見を用いずに解析した。
【0117】
単離した灌流心臓:LV収縮機能。以前に報告されている通り、反射活性化または麻酔に影響されない様式でLV収縮機能を評価するために、単離した灌流心臓において心機能を評価した[7]。室内バルーンカテーテルを配置して等容性LV圧を測定した(LV拡張終期圧10mmHg;1.7mMのイオン化Ca2+)。イソプロテレノールをボーラス用量(0.1nMから300nMまで)、5分間隔で送達し、LV圧を記録した。その後、LV圧の最初の導関数(LV dP/dt)が得られ、これをLV収縮機能の代用物として使用した。データを獲得し、群同一性に関する知見を用いずに解析した。
【0118】
カルシウムの取り込み。LVホモジネートにおけるATP依存性の筋小胞体(SR)によるCa2+の取り込みの初速度を以前に記載の通り改変Millipore濾過技法によって測定した[11]。
【0119】
カルシウムトランジェント。細胞質ゾルのカルシウムトランジェントを以前に記載の通りIndo−1を使用して測定した[19]。心筋細胞を、ラミニンをコーティングしたカバーガラス上にプレーティングし、indo−1/AM(3μM、Calbiochem、La Jolla CA)および分散剤プルロニックF−127(0.02mg/ml、Calbiochem、La Jolla CA)を30分にわたってローディングした。色素をローディングした後、カバーガラスを表面灌流(superfusion)チャンバーに載せ、すすいで過剰なindo−1/AMを除去し、モノクロメータを介して励起波長を365nmに設定したPhoton Technologies photometry system(Birmingham NJ)とインターフェースで接続した40×対物レンズを備えるNikon DIAPHOT(商標)落射蛍光顕微鏡に載せた。蛍光発光を分割し、それぞれ405および485nmに集中した20nmのバンドパスフィルタによって2つの光電子増倍管に導いた。F405/F485比は、[Ca2+]iについての測定基準を表す。これらの測定の間に、心筋細胞を、2mMのCaClを含有する25mMのHEPES(pH7.3)を用いて表面灌流した。筋細胞を0.3Hzで電界刺激した。イソプロテレノールにより刺激されたCa2+トランジェントを、イソプロテレノール(10μM)を緩衝液に添加することによって決定した。群当たり少なくとも3つの心臓について、心臓当たり少なくとも20個の細胞からカルシウムトランジェントを記録した。拡張期および収縮期の細胞内Ca2+レベルを、それぞれサイクル毎の基底のF405/F485比および最大のF405/F485比から得た。
【0120】
心筋細胞単離。心筋細胞単離を以前に記載の通り実施した[4]。
【0121】
サイクリックAMP測定。単離した心筋細胞をイソプロテレノール(10μM、10分)または水溶性フォルスコリン類似体NKH477(10μM、10分)で刺激し、次いで、溶解させた(2.5%臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、0.05Mの酢酸ナトリウム、pH5.8、および0.02%ウシ血清アルブミン)。以前に報告されている通り、cAMP BIOTRAK(商標)酵素イムノアッセイ系(GE Healthcare、Pittsburgh、PA)を使用してサイクリックAMPを測定した[4]。
【0122】
PKA活性アッセイ。単離した心筋細胞をイソプロテレノール(10μM、10分)またはNKH477(10μM、10分)で刺激した。心筋細胞を緩衝液A:20mMのトリス−HCl(pH7.4)、0.5mMのEGTA、0.5mMのEDTA、およびInvitrogenからのプロテアーゼ阻害剤カクテル)中にホモジナイズし、遠心分離した(14,000×g、5分、4℃)。上清を、[γ−32P]ATPの存在下、PKAビオチン化ペプチド基質(SignaTECT(登録商標)(SIGNATECT(登録商標))cAMP−Dependent Protein Kinase Assay System(Promega、Madison WI))と一緒にインキュベートした。ストレプトアビジンマトリックスを用いて32P標識したビオチン化基質を回収し、PKAの特異的活性を決定した。
【0123】
心筋細胞におけるリアノジン受容体−2、PLB、およびトロポニンIのイソプロテレノールにより刺激されたリン酸化。本発明者らは、重要なCa2+調節タンパク質の動的リン酸化を決定するために、各群から単離した心筋細胞の培養物におけるRyR2、PLBおよびTnIの基底のリン酸化およびイソプロテレノールにより刺激されたリン酸化の研究を行った(図2C)。これらの研究では培養した心筋細胞(ウェル当たり細胞100,000個)を使用し、イソプロテレノール(10μM、10分)と一緒にインキュベートする前およびその後に免疫ブロッティングを実施した。細胞を溶解緩衝液:20mMのトリス−HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、1mMのNa2EDTA、1mMのEGTA、1%トリトン、2.5mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのβ−グリセロリン酸塩、1mMのNa3VO4、1μg/mlのロイペプチン)中に溶解させた。Bradford法を使用してタンパク質の濃度を測定した。免疫ブロットをGAPDHに対して正規化し、比較した(図2D)。
【0124】
PDE活性アッセイ。Cyclic Nucleotide Phosphodiesterase Assay Kit(Enzo)を使用してホスホジエステラーゼ活性をアッセイした。LV組織を、10mMのトリス−HCl(pH7.4)、1mMのPMSF、10mMの活性化オルトバナジン酸塩、1×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Life Sciences)を含有する緩衝液中にホモジナイズし、微量遠心機中、10,000rpmで遠心分離した(10分)。組織ホモジネートを、Desalting Column Resin(Enzo)を使用したゲル濾過によって脱塩した。タンパク質(Bradford)20μgを各ウェルに加え、PDE活性を測定した。
【0125】
免疫蛍光法。単離した心筋細胞をラミニンコーティングした2ウェルチャンバースライドに1時間にわたって付着させ、洗浄し、固定し(10%ホルマリン、15分、23℃)、正常ヤギ血清を用いてブロッキングし(1時間)、抗AU1抗体(Fitzgerald、1:300;AC6mut導入遺伝子タンパク質を検出するため);抗Cav3抗体(BD Pharmagen、1:100;カベオラを検出するため);抗PDI抗体(Invitrogen、1:1000;SRを検出するため);抗ラミンA(Abcam、1:200;核エンベロープを検出するため);抗CREM−1抗体(Santa Cruz、1:50);または抗ホスホ−CREB抗体(Upstate、1:100)と一緒にインキュベートした(4℃、一晩)。心筋細胞をPBSで洗浄し、次いで、二次抗体(Alexia Fluo 488または594コンジュゲート、1:1000希釈)と一緒に1時間インキュベートした。核を同定するために、細胞をHoechst色素と一緒にインキュベートした(1:1000希釈、20分)。次いで、心筋細胞を以前に記載の通り画像化した[2]。
【0126】
mRNAの検出および免疫ブロッティング。定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−qPCR)を使用してmRNAを定量し、免疫ブロッティングを使用してタンパク質含有量を定量した[4]。RyR2に対するプライマーを含めた(フォワード:5’AACCTACCAGGCTGTGGATG)(配列番号7);および(リバース:5’GACTCGATGGGCAAGTCAAT)(配列番号8)。
【0127】
本発明者らは、抗AC5/6抗体を使用して内因性AC6およびAC6mutを同定した(Santa Cruz、1:200希釈)。AC5/6抗体に対するエピトープはAC6およびAC6mutのC末端にある(配列:KGYQLECRGVVKVKGKGEMTTYFLNGGPSS(配列番号9);タンパク質受託番号O43306およびQ01234)。本発明者らは、AU1抗体(Fitzgerald、1:2,000)を使用してAC6mutタンパク質を検出した。使用した追加的な抗体には:カルレティキュリン(ABR Affinity、1:1,000);カルセケストリン(Novus Biologicals、1:1,000);GAPDH(Fitzgerald、1:20,000);PDE3A(Advam);PKA触媒サブユニット(BD Transduction、1:1,000);p−PKA触媒サブユニット(Cell Signaling、1:1,000);PKA−RIIαおよびPKA−RIIβ(BD Transduction、1:1,000);ホスホ−PKA−RIIα(S96)およびホスホ−PKA−RIIβ(S114)(Santa Cruz、1:200);PKCα触媒サブユニット(Santa Cruz、1:200);PLB(Affinity Bioreagents、1:5,000);ホスホS16−PLB(Badrilla、1:3,000希釈);ホスホ−RyR2(S2808)(Abcam、1:1,000);S100A1(Epiyomics、1:1,000);SERCA2a(Enzo、1:1,000);トロポニンIおよびホスホ−TnI(S22/23)(Cell Signaling、それぞれ1:1,000)が含まれた。
【0128】
統計解析。データは平均±SEを示す;ANOVA、続いてボンフェローニt検定、または、適切な場合には、スチューデントのt検定(対応のない、両側)のいずれかを使用して群間の差異を統計的有意性について検定した。p<0.05の場合に帰無仮説を棄却した。
【0129】
結果
AC6mutトランスジェニックマウス。AC6mutマウスは、それらの導入遺伝子陰性同胞とは物理的に区別できなかった。成体マウスの剖検により、体重、脛骨の長さ、LVの重量、および肺の重量に群間の差異は示されなかったことが示された(表1)。
【0130】
LVにおけるAC6mutの発現。内因性AC6のレベルに対してAC6mut mRNAは62倍増加し、タンパク質は17倍増加し、これは、内因性AC6と導入遺伝子AC6mutの両方に共通の領域に対するプライマーおよび抗体をRT−PCRおよび免疫ブロッティングにおいて使用して検出した(図1Bおよび1C)。
【0131】
内因性AC型のLVにおける発現。内因性AC2型〜9型のmRNAに群間の差異は示されなかった(データは示していない)。
【0132】
LVにおけるcAMP産生。AC6mutマウス由来のLV試料では、イソプロテレノール(74%の低下;p<0.001)または水溶性フォルスコリン類似体であるNKH477(52%の低下;p=0.05)を用いて刺激した場合にcAMP産生の減少が示された(図1D);基底のcAMP産生は変化しなかった。したがって、トランスジェニック系列は、AC6mut発現の増加の存在下、βARにより刺激されるcAMP産生の減少の、LV機能に対する全体的な効果を試験するために適したものであった。
【0133】
PKA活性および発現。AC6mutマウスから単離した心筋細胞では、基底のPKA活性の48%の低下が示された(p=0.01)。さらに、イソプロテレノールにより刺激されたPKA活性の低下(38%の低下;p=0.006);およびNKH477により刺激されたPKA活性の低下(38%の低下;p=0.001)が見られた(図2A、上)。AC6mut発現により、PKA触媒サブユニットのLVにおける発現(図2A、下)も、PKA−RII−αおよびβの発現、リン酸化も(ホスホ−PKA−RIIα:AC6mut、0.32±0.04du;Con、0.30±0.03du、p=0.7;ホスホ−PKA−RIIβ:AC6mut、7.1±1.1du;Con、10.6±01.4du;p=0.09;図2B)変更されなかった。PKC触媒サブユニットの発現にも群間の差異は示されなかった(PKCα:AC6mut、0.8±0.1du;Con、0.7±0.1du、p=0.4;図2B)。
【0134】
心筋細胞におけるリアノジン受容体−2、PLBおよびトロポニンIのイソプロテレノールにより刺激されるリン酸化。RyR2、PLBおよびTnIの基底のリン酸化に群間の差異は示されなかった(P−RyR2:AC6mut、4.4±0.6対Con、2.4±0.5du、p=0.06;P−PLB:AC6mut、0.3±0.03対Con、0.2±0.1du、p=0.8;P−TnI:AC6mut、0.8±0.2対Con、1.0±0.01du、p=0.24、図2C)。両群でイソプロテレノール刺激に伴ってRyR2、PLB、およびTnIのリン酸化が増加したが(無刺激に対して)、リン酸化の程度は、一般にAC6mutマウス由来のLVにおいて高かった(P−RyR2:AC6mut、30.0±1.1対Con、7.4±1.1du、p=0.001;P−PLB:AC6mut、16.8±2.4対Con、5.3±0.1du、p=0.01;P−TnI:AC6mut、5.8±1.4対Con、2.2±0.7du、p=0.07;図2C)。TnIタンパク質の発現は群間で異ならなかった(AC6mut、0.9±0.1対Con、0.7±0.2du;p=0.5;図2B。RyR2 mRNAの発現に群間の差異は示されなかった。
【0135】
PDE活性およびPDE3A発現。LV試料におけるPDE活性に群間の差異はなかった(AC6mut:1252±23単位/mg、n=7;対照;1293±39単位/mg、n=6;p=0.38)。LVにおけるPDE3Aタンパク質の発現に群間の差異は示されなかった(AC6mut:0.3±0.1対Con、0.4±0.1du、p=0.6、図2B)。
【0136】
AC6mutの細胞内分布。AC6mutタンパク質をカベオラ(主に原形質膜に関連する)、SR、および核エンベロープに関連して同定した(図1E)。
【0137】
心エコー検査。心エコー検査により、基底の心臓の構造および機能は心臓を対象とするAC6mutの発現によって変化しないことが示された。LVの寸法は群間で異ならず、基底のLV駆出率および周辺の線維の短縮の速度は同様であった(表2)。したがって、AC6mutマウスではLVにおけるcAMP生成力の顕著な低下にもかかわらず、LVの構造および基底の機能は変更されなかった。
【0138】
イソプロテレノールに応答したLV収縮機能。自律神経の影響、内因性カテコールアミン、および麻酔に依存しない様式での心臓の収縮性を評価するために、単離した灌流心臓におけるLV圧の発生を測定した。LVにおけるcAMP生成力の顕著な低下にもかかわらず、基底LV dP/dtおよびイソプロテレノールで刺激したLV dP/dtに群間の差異は示されなかった(図3)。
【0139】
Ca2+の取り込みおよびCa2+関連タンパク質。AC6mutマウスおよび導入遺伝子陰性同胞対照マウス由来のプールしたLVホモジネートにおけるATP依存性のSRによるCa2+の取り込み速度を決定した。AC6mut発現の増加に伴ってSRによるCa2+の取り込みが増加した(図4A、上のパネル)。さらに、SERCA2aのCa2+に対する親和性の増加は、最大半量効果に必要なCa2+濃度の低下に反映された(EC50:AC6mut 1.1μmol/L;対照3.7μmol/L、n=6、図4A、下のパネル)。
【0140】
Ca2+ハンドリングにおけるこれらの生理的変化に伴って、SRによるCa2+の取り込みを調節するタンパク質のLVにおける発現が変更された。例えば、AC6mut発現に伴って、LVにおけるPLBタンパク質の発現が43%低下し(p=0.01)、LVにおけるS100A1タンパク質含有量が73%増加した(p=0.03)(図4Bおよび4C)。LV SERCA2a、カルレティキュリン、およびカルセケストリンの含有量は変化せず、Ser16におけるPLBリン酸化は変化しなかった(図4D)。
【0141】
転写因子。AC6mut発現に伴って、CREM−1のLVにおける発現が2倍増加し(p=0.03、図4B)、Ser133におけるCREBのリン酸化が1.7倍増加した(p=0.01、図4C)。総CREBタンパク質含有量は変更されなかった。核においてCREM−1およびホスホ−CREBが増加したかどうかを決定するために、単離した心筋細胞の免疫蛍光染色を、抗CREM−1抗体および抗ホスホ−CREB(S133)抗体を使用して実施した。本発明者らは、AC6mutマウスにおいてCREM−1およびホスホ−CREBの核への局在化の増加を検出した(図4E)。
【0142】
カルシウムトランジェント:AC6mut発現に伴うSRによるCa2+の取り込みの増加が細胞質ゾルの[Ca2+]iに影響を及ぼすかどうかを決定するために、心筋細胞リアルタイム[Ca2+]iを、レシオメトリック色素Indo−1を使用して評価した。収縮の間の基底のCa2+放出は変化しなかった(図5A)。しかし、AC6mut発現に伴って、イソプロテレノール刺激後のピーク収縮期Ca2+トランジェント振幅が増加し(p=0.0001、図5Bおよび5C)、ピーク振幅までの時間が短くなった(p=0.03、図5D)。さらに、AC6mutマウス由来の心筋細胞では50%弛緩までの時間(tau)が短くなった(p=0.04)(図5E)。したがって、SERCA2a活性、PLBおよびS100A1の発現、ならびにイソプロテレノールにより刺激されるCa2+トランジェントの全てが、AC6mut発現により、LV機能に好都合に影響を及ぼす様式で変更された。
【0143】
考察
この研究の最も驚くべき重要な知見は、βARにより刺激されるcAMP産生を著しく損なう変異体AC6分子の心臓を対象とする発現に伴ってイソプロテレノール刺激に応答したLV機能が保持されることである。これは心エコー検査および単離した灌流心臓における収縮機能の研究によって確認された。他の状況では心臓におけるcAMP生成の顕著な減少に比例してLV収縮機能が低下する。例えば、cAMPの損失が一般に50%低下する心不全の大多数のモデルでは、LV dP/dtおよびβAR応答性が同様に低下する[10]、[11]、[12]、[13]、[14]。さらに、cAMP生成力の60%の低下が伴うAC6の欠失には、LV収縮機能の同様の低下も伴った[5]。それでは何によってイソプロテレノールで刺激したLV収縮機能の保持が説明されるだろうか。
【0144】
AC6mut系列において、cAMP生成が著しく損なわれているにもかかわらずLV機能が保持されることに関する最も近い機構は、Ca2+ハンドリングの好都合な変化であった。本発明者らは、AC6の心臓を対象とする発現により不全心臓の機能が増大するが、AC6のβARシグナル伝達に対する影響が著しいので、これらの有益な効果がCa2+ハンドリングに対するβARシグナル伝達自体の増強を反映する程度を決定することは不可能であることを以前報告した[10]、[11]。AC6欠失にはCa2+ハンドリングに対して著しい有害作用があるが[5]、AC6欠失後にはcAMP生成力が低下したので、AC6のCa2+ハンドリングに対する独立した影響を確認するのは難しかったという知見により、AC6とCa2+ハンドリングの関連が裏付けられる。しかし、TGマウスにおいて、AC6変異体分子がCa2+ハンドリングに対する親分子の好都合な効果を模倣し、それにより、たとえcAMP生成力が著しく減弱していてもLV機能が保持されるようであることが本研究で新たに実証される。Ca2+ハンドリングに対するAC6の影響は、cAMP生成を必要とせず、したがって、代替機構によって生じるに違いないことは明らかである。
【0145】
本発明者らは、AC6mut発現にLVホモジネートにおけるSRによるCa2+の取り込みの増加およびインタクトな心筋細胞における弛緩時間の短縮を伴うCa2+トランジェントの上昇が伴うことを見出した。これらの生理的に好都合なAC6mut発現の効果に伴って、SERCA2a活性を阻害するCa2+調節物質であるPLBの発現が減少した。PLB含有量の減少またはSer16におけるPLBリン酸化の増加に伴って、その阻害効果が低下し、それによりSERCA2a活性が増加する[20]、[21]、[22]。本発明者らは、AC6またはAC6mutを発現する培養した心筋細胞ではPLB発現が減少することを以前に見いだしたが[4]、本研究はこの効果がin vivoでも認められることを最初に実証するものである(図4B)。AC6mutマウスから単離した心筋細胞におけるRyR2、PLB、およびより少ない程度に、TnIのイソプロテレノールにより刺激されるリン酸化の程度の上昇(図2C)により、LV収縮機能も増加することが予測される。
【0146】
AC6mut発現に伴って、CREB/ATFファミリーの転写抑制因子であるCREM−1の発現および核移行が増加した(図3Bおよび3E)[23]。本発明者らは、AC6発現の状況で、新生児ラット心筋細胞におけるATF3の増加により、PLBプロモーターのCRE部位を通じてPLBプロモーターが負に調節されることを以前に同定した[2]。本発明者らは、本研究では、AC6mut発現に伴うATF3発現の増加を認めなかった。しかし、ATF3とCREM−1はどちらも同じCRE部位を認識し、したがって、CREM−1のAC6mutに関連する増加がPLB発現の減少において機構的に重要であり得ることはもっともらしい。これにはさらなる研究が必要である。
【0147】
AC6mut発現に伴って、RyR2およびSERCA2aを調整することによって収縮機能を増加させるCa2+感受性タンパク質であるS100A1のLVにおける発現が予期せず増加した[24]。AC6mut発現がLVにおけるS100A1発現の増加にどのように関連し得るのだろうか。AC6mut発現に伴って、CREB活性化に必要なプロセスであるCREBのリン酸化および核移行が増加した(図4Cおよび4E)。CREBは、多くの遺伝子を、それらのプロモーターのCRE部位(複数可)を通じて調節する転写活性化因子である[25]。S100A1プロモーターはCRE部位を有し[26]、これは、S100A1発現がAC6mut発現によって活性化され得たことが妥当であることを示している。さらに、PKAおよびcAMPの区画化も因子になり得る[27]、[28]。
【0148】
Ca2+ハンドリングの実質的な改善により、cAMP生成の顕著な減少にもかかわらずLV機能が保持されたようである。AC6mutの量の増加が転写調節ならびに最終的に心筋細胞の生理的挙動およびLV機能に影響を及ぼす正確な経路に関してはさらなる研究が必要である。組織学的研究(図1E)により、相当量の導入遺伝子AC6mutが原形質膜だけではなく複数の細胞内区画に存在することが確認される。これにより、AC6mutタンパク質が、細胞内シグナル伝達に影響を及ぼし、それにより生理機能に影響を及ぼす重要な細胞内のタンパク質と相互作用することが可能になる。
【0149】
Ca2+ハンドリングに対するAC6の重要性が最近AC6欠失によって強調された[5]。この状況では、本研究におけるものほどではないとはいえcAMP生成力が低下したが、Ca2+ハンドリングが著しく損なわれた。本研究では、本発明者らは、cAMP生成がより顕著に損なわれるが、Ca2+ハンドリングが低下するのではなく増加することを認めている。これは、AC6欠失とは異なり、cAMP生成力が欠損しているとはいえAC6分子がCa2+ハンドリングに影響を及ぼし得る細胞質内に存在するからである。
【0150】
本発明者らは、生理学的効果がAC6mut発現のレベルに比例するかどうかを決定するための、AC6mutの発現量が減少しているトランスジェニック系列の調査は行わなかった。AC6mutタンパク質の17倍の増加(内因性AC6に対して)が非特異的な様式でシグナル伝達に影響を及ぼす可能性があることを示すことができる。本発明者らのデータではこの可能性を無視することができないが、内因性AC6が、存在量が非常に少ないタンパク質である−例えばGsαのおよそ100分の1の存在量であることを認識することが重要である[29]。したがって、内因性AC6よりも17倍高いレベルで発現したとしても、なおGsαよりも相当に少ない存在量である。さらに、触媒として活性な(正常な)AC6の同様の増加に伴って、動員可能なcAMP産生が顕著に増加する[30]。これらの観察結果により、この知見が特異的なものであることが示唆される。
【0151】
結論。Ca2+ハンドリングの実質的な改善により、cAMP生成の顕著な減少にもかかわらずLV機能が保持されるようである。免疫蛍光法により、AC6mutが核エンベロープ上に位置し、それによりAC6muが転写因子の発現および機能に影響を及ぼす機会がもたらされることが示される。転写抑制因子であるCREM−1の増加およびホスホ−CREBの増加(図4E)がそれぞれPLBおよびS100A1の発現の変更に関与し得る。本発明者らは、AC6mutにより、cAMP生成の減少にもかかわらず、Ca2+ハンドリングが増加し、タンパク質の発現が変更されることによって心機能が保持されると結論づける。これらの結果により、LV機能に対するCa2+ハンドリングとβARシグナル伝達の間の相互作用に関する洞察がもたらされ、AC6mutにより、cAMPの増加の潜在的な悪影響のない変力的刺激がもたらされ得ることが示される。データにより、心筋細胞アポトーシスの減少に伴って不全心臓においてAC6mutが発現することが示され、これは本発明者らの研究室で進行中の研究の焦点である。
【0152】
図の説明文
【0153】
図1.AC6mutの設計、発現、活性および細胞分布
A.この図には、AC6mutの構築における、C1ドメイン(細胞内ループ)の426位(配列番号16に基づく位置番号)におけるアスパラギン酸(asp)のアラニン(ala)による置換の部位が示されている。この置換により、Mg2+の結合が阻害され、触媒コアのGsα媒介性活性化の効率が変更され、これによりAC6の酵素活性が損なわれ、その結果、cAMP産生が減少する。M1およびM2はAC6の膜貫通ドメインであり、C1およびC2は、触媒コアを形成するAC6の細胞質ドメインであり、βARはβ−アドレナリン作動性受容体であり、βYおよびαは、グアノシン5’−三リン酸(GTP)結合性タンパク質、Gsの成分である。
B.AC6mut mRNAの発現を内因性AC6と導入遺伝子AC6mutに共通のプライマーを使用したqRT−PCRによって評価した。GAPDH mRNAを検出するためのプライマーをqRT−PCR反応の内部対照として使用した。AC6mut mRNAは内因性AC6に対して62倍増加した。棒中の動物数+SE;スチューデントのt検定、対応のない、両側。
C.抗AC5/6抗体を使用した免疫ブロッティングでAC6mutタンパク質を検出し、抗AU1タグ抗体を使用して確認した。AC6mutタンパク質は内因性AC6に対して17倍増加した。
D.AC6mutマウスおよび対照マウスから単離した心筋細胞における、イソプロテレノール(Iso;10μM、10分)またはNKH477(NKH;10μM、10分)を用いた刺激前(基底)および刺激後のサイクリックAMP産生;cAMP酵素イムノアッセイ。AC6mutマウス由来の心筋細胞(M対C、対照)ではIsoおよびフォルスコリン類似体であるNKH477に応答したcAMP産生が損なわれたことが示された。棒は平均+SEを示す;一元配置ANOVA、続くボンフェローニの事後検定からのp値(n=6、各群)。
E.抗AU1抗体(赤色);抗カベオリン3(Cav−3)抗体(緑色、カベオラについて);抗タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)抗体(緑色、筋小胞体について);抗ラミンA抗体(緑色、核エンベロープについて)、および抗電位依存性アニオン選択チャネルタンパク質(VDAC)抗体(緑色、ミトコンドリアについて)を使用した、AC6mutマウスから単離した心筋細胞と、対照マウスから単離した心筋細胞におけるAC6mutタンパク質の2重免疫蛍光染色。核は青色である。AC6mut導入遺伝子はカベオラ、SR、および核エンベロープにおいて検出されたが、ミトコンドリアに関連しなかった。
【0154】
図2.PKA、PKSおよびPDEの活性および発現
A.上のグラフ:刺激していない(基底)またはイソプロテレノール(Iso;10μM、10分)もしくはNKH477(NKH;10μM、10分)を用いて刺激した、単離した心筋細胞におけるPKA活性。AC6mut発現により、基底のPKA活性が低下し(p=0.01)、Iso活性(p=0.001)とNKH活性(p=0.001)の両方も低下した(n=3、各群)。
下のゲル:LVホモジネート中のPKAタンパク質。LVにおけるPKA触媒サブユニットタンパク質の発現はAC6mut発現によって変更されなかった。
B.AC6mutマウスおよび対照マウス由来の左心室ホモジネートを使用した免疫ブロットにおいて、重要なシグナル伝達タンパク質の発現およびそれらのリン酸化が示されている。群間の差異は観察されなかった。ホスホ(P)および総(T)PKA調節性サブユニットII−αおよびII−β、PKCα、ホスホジエステラーゼ3A型(PDE3A)、ホスホトロポニンI(P22/23−TnI)、および総TnIが示されている。
C.イソプロテレノール刺激の前後のRyR2、PLBおよびTnIのリン酸化を各群から単離した心筋細胞の培養物において評価した。RyR2、PLBおよびTnIの基底のリン酸化に群間の差異は示されなかった。イソプロテレノール刺激に伴って両群でRyR2、PLB、およびTnIのリン酸化が増加したが、AC6mutマウス由来の心筋細胞の方が広範囲にわたった(図2C)。
D.AC6mutマウス由来の心筋細胞においてイソプロテレノール刺激に伴ってRyR2、PLB、およびTnIのリン酸化が増加したことを示す図2Cからのデータがローディング(GAPDH)に対して正規化したグラフ形式で示されている。TnIリン酸化の増加は統計的に有意ではなかった(p=0.07)。
【0155】
図3.左心室収縮機能
AC6mut TGマウスから単離した心臓(黒塗りの丸;n=11)では、広範囲のイソプロテレノール用量によるイソプロテレノール刺激に応答してLV dP/dtの保持が示された。データを獲得し、群同一性に関する知見を用いずに解析した。白抜きの丸、導入遺伝子陰性対照マウス(n=12)。群間の差異はなかった(二元配置ANOVA)。データ点は平均±SEを示す。
【0156】
図4.SRによるCa2+の取り込み、Ca2+シグナル伝達タンパク質、および転写因子
A.上:AC6mutマウスおよびTG陰性同胞対照マウス由来のプールしたLV試料におけるCa2+の取り込み活性(n=6、両群)
下:AC6mutの発現により、Ca2+に対するSERCA2aの親和性が低下した。50%最大効果(EC50)のためのCa2+の有効濃度を、異なる遊離のCa2+濃度における最初のATP依存性のCa2+の取り込み速度から算出した。
B.上:AC6mut発現に伴ってLVにおけるホスホランバン(PLB)発現が減少した。
下:AC6mut発現に伴ってLVにおけるCREM−1タンパク質の発現が増加した。
C.上:AC6mut発現に伴ってLVにおけるS100A1タンパク質の発現が増加した。
下:AC6mut発現に伴ってLVにおけるP133−CREBタンパク質の発現が増加した。総CREB発現は両群で同様であった。
D.AC6mut発現は、SERCA2a、カルレティキュリン、カルセケストリンまたはホスホ−S16−PLBタンパク質のLVにおける発現に影響を及ぼさなかった(n=4、両群)。
E.AC6mutマウスおよび対照マウスから単離した心筋細胞における抗AU1抗体(赤色)および抗CREM−1抗体(緑色)または抗AU1および抗ホスホ−CREB(S133、緑色)を使用した、AC6mutタンパク質の2重免疫蛍光染色。核は青色で示された。AC6mut発現により、CREM−1およびホスホ−CREBの核への局在化が増加した。
グラフ(A、B、C)中、棒は平均+SEを示し、棒の中の数字は群のサイズを示し、棒の上の数字(member)はスチューデントのt検定(対応のない、両側)からのp値を示す。
【0157】
図5.AC6mutマウスおよび対照マウスから単離した心筋細胞における細胞質ゾルのCa2+トランジェント
A.放出された基底のCa2+(収縮期Ca2+−拡張期Ca2+)に群間の差異は示されなかった。
B.イソプロテレノール(Iso;10μM)を用いて刺激した心筋細胞における代表的なIndo−1 Ca2+トランジェント記録はAC6mutマウス由来の心筋細胞の方が高かった。要約データがパネルCに示されている。
C.イソプロテレノールの存在下で放出されるCa2+がAC6mutマウス由来の心筋細胞では増加した。
D.イソプロテレノールの存在下でのピークCa2+トランジェントまでの時間がAC6mutマウス由来の心筋細胞では短くなった。
E.イソプロテレノールの存在下での50%弛緩までの時間(tau)がAC6mutマウス由来の心筋細胞では短くなった。
実験を4回繰り返した。棒は平均+SEを示し、棒の中の数字は心筋細胞の数を示し、棒の上の数はスチューデントのt検定(対応のない、両側)からのp値を示す。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0158】
【表1】
【表2】
【0159】
本発明のいくつかの実施形態が記載されている。それにもかかわらず、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく種々の改変を行うことができることが理解されよう。したがって、他の実施形態が以下の特許請求の範囲の範囲内に入る。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]