(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571075
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】アンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを、それを必要とする対象の網膜において行うための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20190826BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20190826BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20190826BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20190826BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20190826BHJP
【FI】
A61K31/7105ZNA
A61K31/711ZMD
A61K31/7125
A61P27/02
!C12N15/113 Z
【請求項の数】17
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-524795(P2016-524795)
(86)(22)【出願日】2014年7月8日
(65)【公表番号】特表2016-523946(P2016-523946A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】EP2014064604
(87)【国際公開番号】WO2015004133
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年6月30日
(31)【優先権主張番号】13305968.3
(32)【優先日】2013年7月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(73)【特許権者】
【識別番号】509033033
【氏名又は名称】ユニベルシテ・パリ・デカルト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
(73)【特許権者】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク−オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE − HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ロゼ,ジャン−ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ペロー,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ジェラール,グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】カプラン,ジョスリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ミュニ,アーノルド
【審査官】
山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/168435(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/036105(WO,A1)
【文献】
特表2011−512145(JP,A)
【文献】
Am.J.Hum.Genet.,2000年,Vol.67,p.800-813
【文献】
GENOMICS,1998年,Vol.48,p.139-142
【文献】
nature genetics,1997年,Vol.15, No.3,p.236-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7105
A61K 31/711
A61K 31/7125
A61K 31/7088
A61P 27/02
C12N 15/113
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを、それを必要とする対象の光受容細胞において硝子体内注射により行うための配列番号25、配列番号30又は配列番号31からなる配列を含む、裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む医薬組成物であって、
対象は、光受容細胞の機能及び/又は生存に重要な遺伝子において、スプライシングを改変し、及び/又は中途終止を生成する突然変異により引き起こされる網膜疾患を患っており、
裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、対象の光受容細胞内で、突然変異が網膜疾患を引き起こす遺伝子からのプレmRNAにおけるアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを行う、
医薬組成物。
【請求項2】
網膜疾患が、網膜変性疾患又は網膜停止性疾患である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
網膜疾患が、色素性網膜炎、加齢黄斑変性、錐体杆体ジストロフィー、レーバー先天黒内障、シュタルガルト病からなる群より選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
網膜疾患が、c.2991+1655 A>G突然変異に関連するレーバー先天黒内障である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、オリゴデオキシリボヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)オリゴヌクレオチド、モルホリノオリゴヌクレオチド、トリシクロ−DNA−アンチセンスオリゴヌクレオチド、U7−又はU1−介在性アンチセンスオリゴヌクレオチド、それらのコンジュゲート産物、例えばペプチドコンジュゲーション型、ナノパーティクル複合型アンチセンスオリゴヌクレオチド、2’−O−Me RNA/ENAキメラオリゴヌクレオチド、及び2’−O−メチル−ホスホロチオアートオリゴヌクレオチドからなる群より選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
疾患が、シュタルガルト病であり、そして裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、配列番号:25である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
網膜疾患が、レーバー先天黒内障であり、そしてアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングが、Cep290プレmRNAのエクソン36で行われる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
網膜疾患が、レーバー先天黒内障であり、そして裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、配列番号30又は配列番号31からなる配列を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
光受容細胞の機能及び/又は生存に重要な遺伝子において、スプライシングを改変し、及び/又は中途停止を生成する突然変異により引き起こされる網膜疾患のそれを必要とする対象における処置のための配列番号25、配列番号30又は配列番号31からなる配列を含む裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む医薬組成物であって、
ある量の裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドを、対象の硝子体内に注射する工程を含み、
ここで、裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、対象の光受容細胞内で、突然変異が網膜疾患を引き起こす遺伝子からのプレmRNAにおいてアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを行う、
医薬組成物。
【請求項10】
裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、対象の光受容細胞の核内でアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを行うために使用される、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
網膜疾患が、網膜変性又は網膜停止性疾患である、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項12】
網膜疾患が、色素性網膜炎、加齢黄斑変性、錐体杆体ジストロフィー、レーバー先天黒内障、シュタルガルト病からなる群より選択される、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項13】
網膜疾患が、c.2991+1655 A>G突然変異に関連するレーバー先天黒内障である、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項14】
裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、オリゴデオキシリボヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)オリゴヌクレオチド、モルホリノオリゴヌクレオチド、トリシクロ−DNA−アンチセンスオリゴヌクレオチド、U7−又はU1介在性アンチセンスオリゴヌクレオチド、ペプチドコンジュゲーション型、ナノパーティクル複合型アンチセンスオリゴヌクレオチド、2’−O−Me RNA/ENAキメラオリゴヌクレオチド、及び2’−O−メチル−ホスホロチオアートオリゴヌクレオチドからなる群より選択される、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項15】
網膜疾患が、シュタルガルト病であり、そして裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、配列番号25である、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項16】
網膜疾患が、レーバー先天黒内障であり、そしてアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングが、Cep290プレmRNAのエクソン36で行われる、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項17】
網膜疾患が、レーバー先天黒内障であり、そして裸のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、配列番号30又は配列番号31からなる配列を含む、請求項9記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを、それを必要とする対象の網膜において行うための方法に関する。
【0002】
発明の背景:
ヒトゲノムは、タンパク質をコードする遺伝子20,000〜25,000個からなるが、各遺伝子から発生された複数のRNAアイソフォームの結果として、mRNA配列及びコードされるタンパク質のレパートリーは、はるかに大きい。RNA転写物の多様性は、いくつかのメカニズムから進展するが、RNAの選択的スプライシングは、高等真核生物における表現型多様性を推進する主要な要因に相当する。実際にスプライシング事象は、高度に普及しており、全ての多エクソン遺伝子の95%について起こると推定されている。観察されるRNA選択的スプライシングには数多くの様式があるが、そのうち最もよく見られるものは、エクソンスキッピングである。この様式では、一部の条件下又は特定の組織において特定のエクソンがmRNA中に含まれる場合もあれば、他ではmRNAから除外される場合もある。大多数のスプライシング事象は、コードされるタンパク質を変更するが、半数超がmRNAのリーディングフレームをシフトさせる。よく見られる遺伝的変異体は、選択的スプライシングにおける変化を「正常な」生理学的範囲内に収めることができる。しかし、スプライシングにおける異常な変動が、大部分のヒト遺伝障害において、特に網膜疾患において意味づけられており、遺伝要素を有する疾患の最大50%超がスプライシング突然変異を伴う。コドンの位相シフトが中途終止シグナルを導入するならば、異所性スプライシングを引き起こす突然変異は、典型的には、非機能性タンパク質又はナンセンス介在性RNA崩壊を招く。
【0003】
網膜内層に特異的な遺伝子における突然変異は、遺伝性網膜疾患(IRD)、例えば先天性停止性夜盲(双極細胞)、遺伝性視神経症(網膜神経節細胞)を招くおそれがあるが、大部分の場合、その原因は光受容細胞又は網膜色素上皮(RPE)細胞において発現される遺伝子における突然変異である。200個を超える遺伝子においてIRDを引き起こす突然変異が同定されており(http://www.sph.uth.tmc.edu/RetNet/)、一連の遺伝パターンが表示されている。最もよく見られるIRDは、少なくとも30個の遺伝子が関連している色素性網膜炎である。網膜疾患の症例の約10%は、早期発症型網膜ジストロフィーの結果である。例えば、レーバー先天黒内障(LCA、MIM204000)は、小児における失明のよく見られる原因である(10%)。それは、出生時又は生後1ヶ月における失明又は重度の視覚不全の原因となる最も重症の遺伝性網膜ジストロフィーである。その疾患は、その後数ヶ月に極めて乏しい視力(VA≦光覚;I型)を有する劇的に重症で停止性の錐体杆体疾患、又は生後10年を超えて測定可能な視力(20/200≦VA≦60/200;II型)を有する、進行性で、なお重症の錐体杆体ジストロフィーのいずれかとして現れる。今までに、高度に多様なパターンの組織分布及び機能を有する遺伝子18個の変更が、LCAにおいて報告されている(Kaplan, J. Ophthalmic Genet. 29, 92-8 (2008); den Hollander, AI et al. Prog Retin Eye Res. 27, 391-419 (2008); Perrault, I et al. Nat Genet (2012))。西洋諸国では、中心体タンパク質290(CEP290)を冒す突然変異が、本疾患の主因である(20%)(den Hollander, AI et al. Am J Hum Genet. 79, 556-61 (2006); Perrault, I et al. Hum Mutat. 28, 416 (2007).)。それらの中で、c.2991+1655 A>G突然変異は、LCAの全症例の10%超を占め、この変化を治療のための重要な標的にしている。この突然変異は、イントロン26中に深く局在し、強い隠れたアクセプタースプライス部位下流に強いドナースプライス部位を作る。結果として、野生型メッセンジャーに加えて突然変異型mRNAが、突然変異型対立遺伝子から転写される。突然変異型mRNAは、停止コドンをコードする追加的なエクソンを含む。
【0004】
突然変異に起因するタンパク質短縮化をバイパスする手段としてのエクソンスキッピングの潜在性を考慮して、網膜疾患を患う対象の網膜における異所性スプライシングを修正するためにアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピング戦略が現在検討されている。このアプローチは、特に有望と思われる。実際に:1)DMD突然変異型エクソンをスキップするために治療用アンチセンスオリゴヌクレオチドの筋肉内注射を受けたデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する患者において目を見張る結果が最近報告された(Heemskerk et al., Ann N Y Acad Sci.. 2009)、2)野生型タンパク質が突然変異型対立遺伝子から(少量)発現され、エクソンスキッピング後の免疫応答のリスクを予防しているので、LCA患者の線維芽細胞でよく見られるディープイントロンCEP290突然変異を修正するためのアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングの概念実証が最近報告され、それらの細胞は、対照の野生型のmRNA及びタンパク質の存在量及び繊毛形成能(ciliation ability)を回復した(Gerard et al., 2012 MTNA)、3)眼は小型で、限られた免疫特権器官であるので、治療効果を得るために要するAONは低用量であり、それによって全身循環に生成物が散在するリスクが低下している、4)ネズミ科、ウサギ、及び霊長類において、安定化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドの硝子体内注射は、全網膜層にわたり数週間濃度が持続する広い分布を可能にする(Rakoczy et al., 1996; Leeds et al., 1998; Shen et al., 2002)、5)網膜炎に冒された免疫低下患者においてサイトメガロウイルスmRNAを干渉するためのFDA承認済みAONであるVitravene(登録商標)の硝子体内反復注射は安全及び有効である、並びに6)その代わりにAONは、独特な硝子体内注射又は網膜下注射を用いて送達することができ、その中期有効性及び安全性はRPE65臨床試験において実証されている(Bainbridge et al., N Engl J Med. 2008; Hauswirth et al., Hum Gene Ther., 2008, Maguire et al., N Engl J Med. , 2008; Maguire et al., Lancet. , 2009)。
【0005】
外側網膜細胞(光受容器及びRPE)中へのAONのアデノウイルス送達の主要な欠点は、1)技術的偏見:重大な有害作用を有する網膜剥離を引き起こす可能性のある網膜下注射によってのみ、網膜の外側細胞の形質導入に達することだけが可能である、2)技術的限界:網膜剥離を限定しようとすると、アデノウイルス粒子の分布が限定される;標的網膜細胞に効率的に形質導入するAAV血清型を適合させる必要がある(Dalkara et al., Gene Ther., 2012)、並びに3)医学的不確実性:網膜中のアデノウイルス粒子が排除されない;網膜特異的タンパク質が異所性発現する可能性により、網膜を傷害するおそれがある抗体の増加に繋がり得る(Stieger et al., Mol Ther., 2008)(例えば、腫瘍によるリカバリンの異所性発現によるガン関連網膜症、Matsubara et al., Br J Cancer., 1996)。
【0006】
発明の概要:
本発明者らは、今回驚くことにアンチセンスオリゴヌクレオチドの硝子体内注射を用いて網膜におけるアンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを行うことが可能であると実証することによって、これらの偏見及び限界を克服する。結果は、予備的であるものの、光受容器細胞を含む全ての網膜細胞層の核内プレmRNAのスプライシングを改変するためにこの戦略を使用するという概念実証に最初で高度に説得力のある根拠を提供している。したがって、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0007】
発明の詳細な説明:
定義:
本明細書に使用される用語「前駆mRNA」又は「プレmRNA」は、1つ以上の介在配列(イントロン)を含有するメッセンジャーリボ核酸(mRNA)の未熟1本鎖を表す。プレmRNAは、細胞核内のDNAテンプレートからRNAポリメラーゼによって転写され、イントロン及びコード領域(エクソン)の交互配列からなる。イントロンが除去され(splicing out)、エクソンが結合されることによってプレmRNAが完全にプロセシングされた後、それは、エクソンのみからなるRNAである「メッセンジャーRNA」又は「mRNA」と呼ばれる。真核生物プレmRNAは、mRNAに完全にプロセシングされる前に一過性にだけ存在する。プレmRNAがmRNA配列に適正にプロセシングされたとき、プレmRNAは核から搬出され、最終的に細胞質中のリボソームによってタンパク質に翻訳される。
【0008】
本明細書に使用される用語「スプライシング」は、イントロンが除去されエクソンが結合される、転写後のプレmRNAの改変を表す。スプライシングは、スプライセオソームと呼ばれる5つの核内小型リボ核タンパク質(snRNP)及び100個を超える他の因子から構成される大型RNA−タンパク質複合体によって触媒される一連の反応において起こる(Will et Luehrmann, Curr Opin Cell Biol. 2001)。イントロン内で、3’スプライス部位、5’スプライス部位、及び枝分かれ部位がスプライシングのために必要である。スプライシング補因子(例えばセリン−アルギニンタンパク質、SR;ヘテロ核リボヌクレオタンパク質、hnRNP)は、プレmRNAにあるそれらの認識モチーフ(イントロン及びエクソン配列)に結合し、UsnRNPの動員を管理する。snRNPのRNA成分はイントロンと相互作用し、触媒作用に関与し得る。プレmRNAのスプライシングは、2つの連続的生化学反応を伴う。両方の反応は、RNAヌクレオチド間のスプライセオソームのエステル交換を伴う。第1の反応において、スプライセオソーム集合の途中に決定されるイントロン内の特異的枝分かれ点のヌクレオチドの2’−OHが、イントロンの第1ヌクレオチド上の5’スプライス部位で求核攻撃を行い、ラリアット中間体が形成される。第2の反応において、開放された5’エクソンの3’−OHが、イントロンの最終ヌクレオチドの3’スプライス部位で求核攻撃を行い、それによってエクソンが連結し、イントロンラリアットが開放される。プレmRNAのスプライシングは、また、イントロン及びエクソンの調節配列、すなわちイントロン配列サイレンサー(ISS)配列、イントロン配列エンハンサー(ISE)配列、エクソン配列サイレンサー(ESS)配列、エクソン配列エンハンサー(ESE)配列、及び末端ステムループ(TSL)配列によって調節される。本明細書に使用される用語「イントロン配列サイレンサー(ISS)」、「イントロン配列エンハンサー(ISE)」、「エクソン配列サイレンサー(ESS)」、「エクソン配列エンハンサー(ESE)」、及び「末端ステムループ(TSL)」は、プレmRNA内のトランス作用性タンパク質因子の結合により選択的スプライシングを制御することによってスプライス部位の差次的使用を招く、イントロン又はエクソン内の配列エレメントを表す。典型的には、イントロンのサイレンサー配列は、ヌクレオチド8個から16個の間であり、スプライス部位よりもエクソン−イントロン接合部で保存性が低い。末端ステムループ配列は、典型的にはヌクレオチド12個から24個の間であり、相補性による二次ループ構造を形成し、よってヌクレオチド12〜24個の配列内に結合する。他の調節配列の存在も示されており、それらの配列は、エクソンスプライシングエンハンサー(ESE)及びエクソンスプライシングサイレンサー(ESS)を含む(Liu et al, Genes Dev., 1998 ; Cartegni et Krainer, Nat Genet, 2002 ; Wang et Burge, RNA, 2008)。
【0009】
本明細書に使用される用語「エクソンスキッピング」は、1つ以上の相補的アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を用いてプレmRNA内のスプライスドナー及び/又はアクセプター並びに枝分かれ部位をターゲティングすることによる、プレmRNAのスプライシングの改変を表す。1つ以上のスプライスドナー、アクセプター又は枝分かれ部位へのスプライセオソームの接近を遮断することによって、AONは、スプライシング反応を防止することができ、それにより、完全にプロセシングされたmRNAから1つ以上のエクソンの排除を引き起こす。エクソンスキッピングは、プレmRNAの成熟過程の途中に核内で達成される。エクソンスキッピングは、スプライスドナー/アクセプター、枝分かれ点の配列に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を使用することによって、及び/又はプレmRNA内のESE(エクソン中)/ISE(イントロン中)を重複させることによって、ターゲティングされたエクソンのスプライシングに関与する鍵配列を遮蔽することを含む。
【0010】
本明細書に使用される用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)」は、相補的ヌクレオチド配列を有するプレmRNA又はmRNAと相互作用及び/又はハイブリダイゼーションすることによって遺伝子発現を改変する能力があるオリゴヌクレオチドを表す。典型的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、隠れたエクソン、補足的なエクソン、偽エクソン又はスプライシング後に維持されたイントロン配列を含むターゲティングされたエクソンのスプライシングを防止するために必要な核酸配列に相補的である。
【0011】
本明細書に使用される「相補的」は、相補的ヌクレオシド又はヌクレオチド間の伝統的なワトソン−クリック塩基対形成又は他の非伝統的な種類の対形成(例えばフーグスティーン又は逆フーグスティーン水素結合)のいずれかによって別の核酸分子と水素結合を形成することができる核酸分子を表す。本開示のAONに関して、AONとその相補的配列についての結合自由エネルギーは、AONの関連機能を行わせるために十分であり、特異的結合が望ましい条件で、すなわちインビボ治療的処置の場合に生理条件で、非ターゲット配列に対するAONの非特異的結合を回避するために十分な相補度がある。核酸分子に対する結合自由エネルギーの決定は、当技術分野において周知である(例えば、Turner et ah, CSH Symp. Quant. Biol. 1/7:123-133 (1987); Frier et al, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 83:9373-77 (1986);及びTurner et al, J. Am. Chem. Soc. 109:3783-3785 (1987)参照)。それゆえに、「相補的」(又は「特異的にハイブリダイゼーション可能」)は、AONとプレmRNA又はmRNAターゲットとの間に安定で特異的な結合が起こるために十分な度合いの相補性又は精密な対形成を示す用語である。当技術分野において、核酸分子は、特異的にハイブリダイゼーション可能であるために、ターゲット核酸配列と100%相補的である必要がないことが了解されている。すなわち、2つ以上の核酸分子は、完全に相補的であることに満たなくてもよい。相補性は、第2の核酸分子と水素結合を形成できる核酸分子中の連続する残基のパーセンテージによって示される。例えば、第1の核酸分子がヌクレオチド10個を有し、第2の核酸分子がヌクレオチド10個を有するならば、第1の核酸分子と第2の核酸分子との間のヌクレオチド5、6、7、8、9、又は10個の塩基対形成は、それぞれ50%、60%、70%、80%、90%、及び100%の相補性を表す。「完璧に」又は「完全に」相補的な核酸分子は、第1の核酸分子の全ての連続残基が第2の核酸分子中の同数の連続残基と水素結合する核酸分子を意味し、その際、両方のどちらの核酸分子も、同数のヌクレオチドを有する(すなわち同じ長さを有する)か、又は2つの分子は異なる長さを有する。
【0012】
本発明に関連して、本明細書に使用される用語「処置する」又は「処置」は、そのような用語があてはまる障害若しくは状態、又はそのような障害若しくは状態の1つ以上の症状(例えば、網膜変性又は停止性疾患)を後退させること、緩和すること、その進行を阻害すること、又は予防することを意味する。
【0013】
本発明による用語「対象」又は「それを必要とする患者」は、網膜疾患に冒された又は冒される見込みのあるヒト又は非ヒト哺乳動物を意図する。
【0014】
発明の方法:
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチド介在性エクソンスキッピングを、それを必要とする対象の網膜細胞において行うための方法であって、ある量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを対象の硝子体内に注射する段階を含む方法に関する。
【0015】
典型的には、本発明の方法が実施され得る網膜細胞は、非限定的に、双極細胞、ミュラー細胞、光受容細胞(錐体及び杆体)、又は網膜色素上皮(RPE)細胞、神経節細胞、水平細胞、アマクリン細胞を含む。
【0016】
本発明の方法は、特に、網膜疾患の処置に適する。実際、本発明の方法は、特に、網膜疾患を引き起こしている突然変異遺伝子に適する。例えば網膜疾患は、非限定的に、表Aに報告された疾患を含む。一実施態様では、網膜疾患は、網膜停止性疾患又は網膜変性疾患である。
【0017】
網膜変性疾患は、非限定的に、色素性網膜炎、加齢黄斑変性、バルデー−ビードル症候群、バッセン−コーンツヴァイク症候群、ベスト病、脈絡膜欠如(choroidema)、脳回転状萎縮症、レーバー先天黒内障、レフサム症候群(Refsun syndrome)、シュタルガルト病、アッシャー症候群又は遺伝性視神経症(HON)を含む。停止性網膜疾患は、非限定的に、先天性停止性夜盲(CSNB)、色覚異常又は1色覚を含む。
【0018】
一実施態様では、網膜疾患は、c.2991+1655 A>G突然変異に関連するレーバー先天黒内障である。
【0019】
本発明の実施に使用されるAONは、任意の適切な種類、例えばオリゴデオキシリボヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、モルホリノ、トリシクロ−DNA−アンチセンスオリゴヌクレオチド、U7−若しくはU1−介在性AON又はペプチド性コンジュゲーション型若しくはナノパーティクル複合型AONなどのそのコンジュゲート生成物であり得る。本発明の実施に採用されるAONは、一般的に約10〜約50ヌクレオチド長であり、例えば約10以下、又は約15、又は約20又は約30以上のヌクレオチド長であり得る。ターゲティングされた相補的配列に最適なAONの長さは、一般的に、使用される化学骨格及びターゲット配列に応じて約15〜約30ヌクレオチド長の範囲である。典型的には、モルホリノ−AONは、約25ヌクレオチド長であり、2’PMO−AONは約20ヌクレオチド長であり、トリシクロ−AONは、約15ヌクレオチド長である。
【0020】
本発明に使用するために、本発明のAONは、当技術分野において周知の任意のいくつかの手順を使用してデノボ合成することができる。例えば、b−シアノエチルホスホルアミダイト法(Beaucage et al., 1981);ヌクレオシドH−ホスホナート法(Garegg et al., 1986; Froehler et al., 1986, Garegg et al., 1986, Gaffney et al., 1988)。これらの化学反応は、市販されている多様な自動核酸合成装置によって行うことができる。これらの核酸は合成核酸と呼ばれ得る。あるいは、AONを、プラスミドの状態で大規模産生させることができる(Sambrook, et al., 1989参照)。AONを、制限酵素、エクソヌクレアーゼ又はエンドヌクレアーゼを採用している技法などの、公知の技法を用いて既存の核酸配列から調製することができる。このように調製されたAONは、単離された核酸と呼ばれ得る。
【0021】
インビボ使用のために、AONは、安定化され得るか、又は安定化される。「安定化された」AONは、インビボ分解(例えばエクソヌクレアーゼ又はエンドヌクレアーゼによる)に比較的耐性のAONを表す。安定化は、長さ又は二次構造の関数であり得る。あるいは、AONの安定化を、リン酸エステル骨格の改変を介して果たすことができる。本発明の好ましい安定化されたAONは、改変された骨格を有し、例えば、最大の活性を与え、細胞内エクソヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼによる分解からAONを保護するためにホスホロチオアート結合を有する。他の可能な安定化改変は、ホスホジエステル改変、ホスホジエステル改変とホスホロチオアート改変の組み合わせ、メチルホスホナート、メチルホスホロチオアート、ホスホロジチオアート、p−エトキシ、及びそれらの組み合わせを含む。AONの化学的に安定化された改変バージョンは、また、「モルホリノ」(ホスホロジアミダートモルホリノオリゴマー、PMO)、2’−O−Metオリゴマー、トリシクロ(tc)−DNA、U7核内低分子(sn)RNA、又はトリシクロ−DNA−オリゴアンチセンス分子(米国仮特許出願第61/212,384号、名称:Tricyclo-DNA Antisense Oligonucleotides, Compositions and Methods for the Treatment of Disease、2009年4月10日出願、その全内容は、参照により本明細書に組み入れられる)を含む。
【0022】
特定の一実施態様では、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、2’−O−Me RNA/ENAキメラオリゴヌクレオチドであり得る(Takagi M, Yagi M, Ishibashi K, Takeshima Y, Surono A, Matsuo M, Koizumi M. Design of 2'-O-Me RNA/ENA chimera oligonucleotides to induce exon skipping in dystrophin pre-mRNA. Nucleic Acids Symp Ser (Oxf). 2004;(48):297-8)。
【0023】
この効果のために使用され得る他の形態のAONは、非限定的にレンチウイルス又はアデノ随伴ウイルスに基づくウイルス導入法と組み合わせた、U1又はU7などの核内低分子RNA分子と結合されたAON配列である(Denti, MA, et al, 2008; Goyenvalle, A, et al, 2004)。
【0024】
特定の一実施態様では、AONは、また、ペプチドと結合されて(例えば透過性ペプチド)、細胞取り込みを促進し得る(Fletcher et al. Mol Ther 2007)。
【0025】
別の特定の実施態様では、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、2’−O−メチル−ホスホロチオアートオリゴヌクレオチドである。
【0026】
当業者は、本発明の方法を実施するために適し得るアンチセンスオリゴヌクレオチドを容易に同定し得る。述べられた多数の方法が、実際、関心対象のエクソンをターゲティングすることができるAONを設計するために開発されている。例えば、mfoldソフトウェア及びESEfinderプログラム(詳細にはGerard et al., 2012参照)が使用され得る。さらに、多数の適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドも、先行技術において記載されている。例えば、国際公開公報第2012168435号に記載されたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、c.2991+1655 A>Gをターゲティングするために適切であり得る。
【0027】
本発明の不可欠な一特徴は、アンチセンスオリゴヌクレオチドがウイルスベクターに関連して送達されないことである。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、患者の硝子体内に単独で(すなわち「裸で」)注射され、ウイルスベクターの使用は本発明の範囲から除外される。典型的には、ウイルスベクターは、非限定的に、以下のウイルスからの核酸配列を含む:レトロウイルス(例えばモロニーマウス白血病ウイルス及びレンチウイルス由来ベクターのような)、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳がんウイルス、及びラウス肉腫ウイルスなどのRNAウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン−バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス。特に、遺伝子療法におけるヒトへの使用について既に承認されているDNAウイルスであるアデノウイルス及びアデノ随伴(AAV)ウイルスの使用は、本発明の範囲から除外される。
【0028】
典型的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、患者の硝子体内に治療有効量で注射される。本明細書に使用される「治療有効量」という用語は、網膜疾患を治療又は予防するためにAONが投与される対象(例えばヒト)において十分であるその量を意味する。当業者は、投与されるべきAONの量が、望まれない疾患症状の改善を誘導するために十分な量であることを認識している。そのような量は、とりわけ、患者の性別、年齢、体重、全身の状態などの要因に応じて変動し得るし、ケースバイケースで決定され得る。量は、また、処置される状態の種類及び処置プロトコールの他の要素(例えば、ステロイドなどの他の医薬の投与)に応じて変動し得る。
【0029】
当業者は、そのようなパラメーターが普通は臨床試験の途中にチェックされる(worked out)ことを認識している。さらに、当業者は、疾患の症状が本明細書記載の処置によって完全に緩和される場合があるものの、そうである必要はないことを認識している。症状の部分的又は間欠的な軽減でさえも、レシピエントに大きな利益になり得る。加えて、患者の処置は、通常、単一の事象ではない。それどころか、本発明のAONは、得られた結果に応じて数日間隔、数週間隔、若しくは数ヶ月間隔で、又は数年間隔でさえあり得る、複数の機会に注射される見込みがある。実際、アンチセンスオリゴヌクレオチドの長期硝子体内注射は、長期的に治療効果に達するために必要であり得る。これは、レーバー先天黒内障の処置が関係する場合に特にあてはまる。それは、この疾患がその処置によって治癒されず、すなわち、タンパク質をコードする遺伝子にまだ欠陥があり、本発明のAONが投与されない限り、コードタンパク質が、露出したタンパク質分解性認識部位などの望まれない不安定化な特徴をまだ有するからである。
【0030】
本発明は、また、硝子体内注射にとって適合性の本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する医薬組成物を提供する。典型的には、本発明の医薬組成物は、食塩水、リン酸ナトリウムなどの薬学的又は生理学的に許容される担体を含む。とはいえ、これは、必ずしもあてはまる必要はない。適切な担体、賦形剤及び希釈剤は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、シロップ水、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル及びヒドロキシ安息香酸プロピル、ミネラルオイルなどを含む。製剤は、また、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、保存料、緩衝剤などを含むことができる。
【0031】
本発明は、以下の図面及び実施例によってさらに例示される。しかし、これらの実施例及び図面は、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】マウスにおける野生型Cep290プレmRNAに対する2’−OMePSオリゴヌクレオチドによって誘導されるエクソン23(A)及びエクソン36(B)のスキッピングを示す図である。言及された各エクソンについて、2種のAONを設計してドナースプライス部位及びエクソンスプライスエンハンサー(ESE)配列をターゲティングした。これ以降、m23D(+11−18)
5’−GUUUUCAAAAUAUAAAUACCUUAGGUAUUC−3’(配列番号28)、m23ESE(+50+70)
5’−GAUGACGAAUCACUGCAAAC−3’(配列番号29)、m36D(+8−16
)5’−GUUCUCAGAAUCUUACCUGAGCUG−3’(配列番号30)及びm36ESE(+23+44)
5’−CAUGAAGGUCUUCCUCAUGC−3’(配列番号31)AONをそれぞれm23D、m23ESE、m36D及びm36ESEと呼んだ。m23ESEsenseは、m23ESE(+50+70
)5’−GUUUGCAGUGAUUCGUCAUC−3’(配列番号32)のセンスバージョンであり、対照として使用する。
【
図2A】野生型メッセンジャーRNA(mRNA)に対するCep290エクソン23及び36のAON介在性スキッピングの作用を示す図である。(A)それぞれ無処理NIH3T3、150nM m23ESE AON、m23D AON及びm23ESEsense ON対照をトランスフェクションされた細胞[左];並びに150nM m36ESE及びm36Dをトランスフェクションされた細胞[右]からトランスフェクションの24時間後に抽出されたmRNAのPCR分析の提示。処理後のエクソン23及び36の特異的スキッピングを確認するために、バンドを配列決定により分析した。
【
図2B】野生型メッセンジャーRNA(mRNA)に対するCep290エクソン23及び36のAON介在性スキッピングの作用を示す図である。(B)上記と同じ条件下における未処理NIH3T3に比べたトランスフェクション済み細胞におけるCep290遺伝子の野生型(WT)及び突然変異型(Δex23[左];Δex36[右])転写物の相対発現を示すRT−qPCR分析。エラーバーは、3つの独立した実験から導き出された平均の標準偏差を表す。参照としてGusb及びPpia遺伝子を使用して結果を規準化した。
【
図2C】野生型メッセンジャーRNA(mRNA)に対するCep290エクソン23及び36のAON介在性スキッピングの作用を示す図である。(C)cep290(+)のC末端残基に対して産生されたウサギポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロット(WB)分析。未処理NIH3T3細胞又はm23ESE AONをトランスフェクションされた24時間後の細胞からの総タンパク質150μgの古典的ウエスタンブロット分析が適切な結果を与えなかったので(−)、両方の条件について総タンパク質800μgを免疫沈降(IP)に供した(+)。少なくとも3つの独立した実験から類似の結果を得た。
【
図3A】C57BL/6Jマウスの硝子体内への単回注射後のAONの動態を示す図である。(A)未処理の網膜及びm23D AON 10nmolを含有する食塩水1μlを注射後の網膜から抽出された、それぞれ注射の2、6又は10日後に採取されたCep290 mRNAのRT−PCR分析。上のバンドは、野生型Cep290のスプライス産物を表し、下のバンドは突然変異型Δex23 Cep290スプライス産物を表す。処理後のエクソン23の特異的スキッピングを確認するために、バンドを配列分析により解析した。
【
図3B】C57BL/6Jマウスの硝子体内への単回注射後のAONの動態を示す図である。(B)C57BL/6Jマウス、1、2又は3匹のシリーズを未処置とするか、又は上記のように注射を行った。対照網膜及び注射後網膜におけるCep290遺伝子の野生型(WT)及び突然変異型(Δex23)転写物の相対発現を示すRT−qPCR解析。参照としてTbp及びHprt1遺伝子を使用して結果を規準化した。
【
図4】注射2日後のAONの用量依存的作用及び分布を示す図である。C57BL/6Jマウス、2又は3匹のシリーズに、蛍光標識(6−FAM)m23D AONを1nmol、5nmol又は10nmol含有する食塩水1μlを硝子体内注射した。対照網膜及び注射後網膜におけるCep290遺伝子の野生型(WT)及び突然変異型(Δex23)転写物の相対発現を示すRT−qPCR分析。参照としてTbp及びHprt1遺伝子を使用して結果を規準化した。
【
図5】光受容器におけるエクソンスキッピングを示す図である。注射されていない対側網膜に比べた、10nmol AON注射から2、6及び10日後の2匹の異なるマウスの網膜から抽出されたmRNAのPCR分析の提示。処置後のAbca4転写物に対する特異的作用を確認するために、配列決定によってバンドを分析した。
【0033】
実施例:
ここで、本発明者らは、所与の網膜細胞型の機能及び/又は生存に重要な遺伝子においてスプライシングを改変及び/又は中途終止を生成する突然変異による網膜疾患を患う患者を処置する新しい方法を説明する。該方法は、網膜表面全体に到達するための、及び突然変異が遺伝性網膜疾患を引き起こす遺伝子からのプレmRNAをターゲティングするための、安定化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドの硝子体内注射によって、ヌクレオチド配列をスキッピングすることにある。
【0034】
この新規な治療戦略の実現可能性を実証するために、本発明者らは、マウスにターゲティングするために、広範に発現される遺伝子及び網膜細胞特異的な発現パターンを有する遺伝子を選択した。
− CEP290:本遺伝子は、エクソン54個にまたがり、290kDaの中心体タンパク質をコードする7.9kb mRNAとして転写される。網膜において、該遺伝子は、少なくとも神経節細胞層、内顆粒層及び光受容細胞層に発現される(Baye et al., 2011)。光受容細胞に関して、該タンパク質は、内節と外節との間の分子輸送を可能にする結合繊毛の構造及び機能を維持することに重要な役割を果たす。CEP290は、最も早期で最も重症の網膜ジストロフィーであるレーバー先天黒内障に関与することが最も多い(Perrault et al., 2007)。
− ABCA4:本遺伝子は、エクソン50個にあり、分子量256kDaを有するタンパク質をコードする7.3kbのメッセンジャーに転写される。ABCA4の発現は光受容細胞(杆体及び錐体)に限られる。最もよく見られる黄斑ジストロフィーであるシュタルガルト病は、光受容器ATP結合カセット(ABC)輸送体であるABCA4をコードする遺伝子における突然変異によって引き起こされる。該タンパク質は、光励起後の光受容器からの潜在的に毒性のレチナール化合物の除去を促進するフリッパーゼとして介在する(Molday et al., 2004)。
− TMEM126A:エクソン5個にある本遺伝子は、21.5kDaの膜貫通ミトコンドリアタンパク質をコードする0.7kbメッセンジャーに転写される。網膜において、TMEM126Aは、ミトコンドリア中に特に濃縮されている神経節細胞層、視神経乳頭、内顆粒層、及び外網状層に強く発現される。これまでのところ、TMEM126Aの機能は未知であるが、その変化は、視神経線維の変性によって特徴付けられる常染色体劣性視神経症の原因である(Hanein et al., 2013)。
− GRM6:代謝型グルタミン酸受容体6遺伝子は、10個のエクソンを含有し、95.5kDaと予想される分子量を有するタンパク質をコードする6kbのメッセンジャーに転写される。GRM6の局在は、双極細胞のシナプス後終末に限定される。このグルタミン酸受容体は、光受容器から隣接する双極細胞へのシグナル伝達に関与し、その破壊は先天性停止性夜盲に至る(Maddox et al., 2008)。
【0035】
実施例1:Cep290 mRNAのスプライスモジュレーション
材料及び方法
Cep290エクソン23及びエクソン36のスキッピングに対するターゲット配列の同定。Cep290プレmRNAのエクソン23及びエクソン36並びにそれらの周辺イントロン配列(スプライス部位)内からターゲティング可能な配列を見つけるためのバイオインフォマティクス解析を、http://mfold.rna.albany.edu/及びhttp://rulai.cshl.edu/cgi-bin/tools/ESE3/esefinder.cgiを使用して実現した。
【0036】
マウス線維芽細胞培養物。NIH−3T3細胞(マウス線維芽細胞系)を、American Type Culture Collection(Rockville, Md.)から得た。これらの細胞を、10% FCS、50U/mlペニシリン及び50mg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)を含有するDMEM(Invitrogen)からなる標準培地中で培養した。15回よりも少ない継代回数の細胞培養物のみを本発明者らの研究に使用した。
【0037】
AON及びトランスフェクション。ドナースプライス部位及び2個のエクソン周囲のESEに特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、ESEfinder 3.0プログラム(Cartegni and Krainer, 2003)によって同定した。対応する選択された配列を
図1に示す。全てのAONを、Sigma-Aldrich(St Quentin Fallavier, France)が合成したが、これらのAONは、2’−O−メチルRNA及び全長ホスホロチオアート骨格を含有する。DMEM中でLipofectamine2000(Invitrogen)を使用して、製造業者の説明書に従って、集密度80%のNIH−3T3細胞にトランスフェクションを行った。少なくとも3回の別々の実験において各2’−OMePS AONを150nmol/lでトランスフェクションした。AONの特異性を判断するために各ESE AONのセンスバージョンを対照として使用した(
図1)。37℃で4時間インキュベーション後に、トランスフェクション培地を新鮮な培養培地と交換した。
【0038】
トランスフェクション効率。トランスフェクションの24時間前に、12ウェルプレート内のカバーガラス上にNIH−3T3細胞を蒔いた。5’末端フルオレセイン基を担持するアンチセンスm23D(xx)、m23ESE(xx)、m36D(xx)及びセンスm23ESEsense(xx)オリゴヌクレオチドを、Sigma Aldrichから得た。前記のように線維芽細胞にトランスフェクションを行った。未処理の線維芽細胞を同条件で加工した。4時間インキュベーション後に、細胞をPFA 4%(室温で15分)で固定し、PBS中で2回洗浄した。4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を含有する封入剤(DAPI含有ProLong Gold褪色防止試薬;Invitrogen)を核標識のために使用した。免疫蛍光像を、ZEISS LSM700共焦点顕微鏡(Carl Zeiss, Germany)を使用して得た。最終的な画像をImageJ(National Institutes of Health, Bethesda, MA)を使用して作製した。各オリゴヌクレオチドのトランスフェクションについて3回の独立した実験から蛍光細胞のパーセンテージを計算した(全細胞の90%超が標識された)(各トランスフェクションについて計数された細胞数n>100)。
【0039】
実験動物のAON硝子体内注射。全ての動物実験は、眼及び視力の研究における動物の使用について、視覚と眼科学研究協会会議(Association for Research in Vision and Ophthalmology)の声明書に準拠した。8週齢のC57BL/6Jマウスをこれらの実験のために使用した。ケタミン(100mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)の混合溶液の筋肉内注射によって動物に麻酔した。10% フェニレフリン及び0.5% トロピカミドで瞳孔を散大させた。30ゲージ針を使用して強膜の最初の穿刺を行った。5μlハミルトンシリンジに装着された33ゲージ針を、この穴を通して硝子体腔内に通過させた。針の先端が硝子体腔内にあるときに、針の進行を両眼で直接観察した。6−FAMオリゴヌクレオチド(m23D)をそれぞれ1、5又は10nmol含有する食塩水(NaCl 9g/l、pH=8.7)1μlを左眼に硝子体内注射した。針を硝子体腔内に約20秒間保ち、次に静かに引き抜き、感染を予防するために抗生物質軟膏を塗布した。右眼には注射せず、対側の対照として使用した。注射の2、6又は10日後に、注射された眼及び対側の眼を摘出し、さらなる分析のために加工した。採取された眼は、4% PFA中で浸漬して切断し、ガラススライド上に乗せ、DAPI(DAPI含有ProLong Gold褪色防止試薬;Invitrogen)を使用して核染色後に共焦点顕微鏡法(ZEISS LSM700)によって検査するか;又は網膜を取り出して下記のようにARNを回収するかのいずれかとした。2から5匹の間の動物を各実験設定のために使用した。
【0040】
RNAの抽出及びcDNAの合成。トランスフェクションの24時間後に、トランスフェクションされた細胞及び未処理の細胞を加工した。同様に、注射された眼及び注射されていない眼の両方について、注射の2、6及び10日後に下記のように網膜からのRNAを得た。RNeasy Mini Kit(Qiagen, Courtaboeuf, France)を製造業者のプロトコールに従って使用して総RNAを抽出した。RNaseフリーDNaseセット(Qiagen, Courtaboeuf, France)によって全ての試料をDNase処理した。−80℃で保存する前に、Nanodrop-1000分光光度計(Fisher Scientific, Illkirch, France)を使用して総RNAの濃度及び純度を判定した。Verso cDNAキット(Thermo Fisher Scientific)を使用して、ランダムヘキサマー:アンカーオリゴ(dT)プライマーを3:1(vol:vol)で用いて、製造業者の説明書に従って抽出された総RNA 500ngから第一鎖cDNA合成を行った。試料1つについて非RT反応(酵素なし)を調製して、RT−qPCR実験における対照として役立てた。
【0041】
逆転写PCR(RT−PCR)。AON介在性エクソンスキッピングの有効性を判定するために、5mM dNTP(Fischer Scientific, Illkirch, France)、PhusionハイフィデリティーDNAポリメラーゼ0.02ユニット(Fischer Scientific, Illkirch, France)、並びにCep290(ex22)フォワード、
5’−gaccaccttgagaaggaaac−3’(配列番号1)及びCep290(ex24)リバース、
5’− catcctgctcagcttgatc−3’(配列番号2)、又はCep290(ex35)フォワード、
5’−cccaccaaactattgccaac−3’(配列番号3)及びCep290(ex37)リバース、
5’−gagagtcatcttgttctgctac−3’(配列番号4)の各プライマー10μMを含有する1×Phusion HF緩衝液50μl中でcDNA(5μl)を増幅させた。2720サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Courtaboeuf, France)を用いて以下の条件でPCRを実施した:初回変性98℃で5分、続いて98℃で10秒変性、60℃で30秒アニーリング及び72℃で30秒伸長を30サイクル。3% アガロースゲルでの電気泳動によってPCR産物を分離し(20μl)、エチジウムブロマイドで染色し、UV光下で可視化した。陰性対照としてテンプレートなし(NTC)の反応を使用した。これらの産物の同一性の最終確認を、サンガー配列決定によって実施して、正確で予想通りのエクソン接合部が維持されていることを確証した。
【0042】
リアルタイム定量PCR(RT−qPCR)。Cep290 mRNAの発現レベルを測定するために、野生型及び突然変異型転写物をそれぞれ102及び75bpのフラグメント(エクソン23のスキッピング)として増幅させるか;又は野生型及び突然変異型転写物をそれぞれ100及び62bpのフラグメント(エクソン36のスキッピング)として増幅させた。マウスTATAボックス結合タンパク質mRNA(Tbp)、マウスβ−2ミクログロブリンmRNA(B2m)、マウスβ−グルクロニダーゼmRNA(Gusb)、マウスヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1 mRNA(Hprt1)、及びマウスペプチジルプロリルイソメラーゼA mRNA(Ppia)を規準化のために使用した。マウスアルブミン遺伝子(Alb)を使用して、cDNAにゲノムDNAが混入していないことを管理した。http://www.oligo.netから入手可能なOligo Primer Analysis Software v.7を使用してプライマーを設計した。PCRテンプレート配列に対するプライマー対の特異性を、Primer-BLASTソフトウェア(http://www.ncbi. nlm.nih.gov/tools/primer-blast)を使用してNCBIデータベースに対してチェックした。プライマー配列は以下の通りであった:Cep290ex23wtフォワード、
5’−tgactgctaagtacagggacatct tg−3’(配列番号5);Cep290ex23wtリバース、
5’−aggagatgttttcacactccaggt−3’(配列番号6);Cep290ex23mtフォワード、
5’−ctggccccagttgtaatttgtga−3’(配列番号7);Cep290ex23mtリバース、
5’−ctgttcccaggcttgttcaatagt−3’(配列番号8);Cep290ex36wtフォワード、
5’−tgactgctaagtacagggacatct tg−3’(配列番号9);Cep290ex36wtリバース、
5’−aggagatgttttcacactccaggt−3’(配列番号10);Cep290ex36mtフォワード、
5’−ctggccccagttgtaatttgtga−3’(配列番号11);Cep290ex36mtリバース、
5’−ctgttcccaggcttgttcaatagt−3’(配列番号12);参照遺伝子Tbpフォワード、
5’−tgacctaaagaccattgcacttcgt−3’(配列番号13);Tbpリバース、
5’−ctgcagcaaatcgcttggga−3’(配列番号14);B2mフォワード、
5’−cctgtatgctatccagaaaacccct−3’(配列番号15);B2mリバース
5’−cgtagcagttcagtatgttcggctt−3’(配列番号16);Gusbフォワード、
5’−ctgcggttgtgatgtggtctgt−3’(配列番号17);Gusbリバース、
5’−tgtgggtgatcagcgtcttaaagt−3’(配列番号18);Hprt1フォワード、
5’−gttggatacaggccagactttgtt−3’(配列番号19);Hprt1リバース、
5’−aaacgtgattcaaatccctgaagta−3’(配列番号20);Ppiaフォワード、
5’−ccaaacacaaacggttcccagt−3’(配列番号21);Ppiaリバース、
5’−gcttgccatccagccattca−3’(配列番号22);Albフォワード
5’−gggacagtgagtacccagacatcta−3’(配列番号23);Albリバース
5’−ccagacttggtgttggatgctt−3’(配列番号24)。MasterCycler epgradients Realplex
2(Eppendorf, Germany)を用いて以下の条件で、cDNA(ヌクレアーゼ不含水に1:25希釈したもの5μl)を、SYBR GREEN PCRマスターミックス(Applied Biosystems, Courtaboeuf, France)及び300nmol/lのフォワード及びリバースプライマーを含有する緩衝液(20μl)中でリアルタイムPCR増幅に供した:Taqポリメラーゼ活性化及び初回変性95℃15分、続いて95℃15秒及び62℃1分を50サイクル。増幅産物の特異性を、95℃15秒、60℃15秒、及び95℃15秒のサイクルを用いた各運転の終わりに行われた融解曲線解析から決定した。Realplexソフトウェア(Eppendorf, Germany)を使用してデータを解析した。各cDNA試料について、定量サイクル(Cq)値の平均を3つ組から計算した(SD<0.5Cq)。4倍系列希釈曲線(1:5、1:25、1:125、1:625)を使用して各プライマー対について計算された最も安定な参照遺伝子及び増幅効率の推定値を利用する、Microsoft Excel用geNormソフトウェアから得られた「規準化因数」に対してCep290の発現レベルを規準化した。逆転写酵素なし(non−RT)、テンプレートなし対照(NTC)反応、及びゲノムDNAによるcDNAの非混入(ALBh)を各運転における陰性対照として使用した(Cq値:NTC=未決定、non−RT>38及びALBh>38)。定量データは、3つの独立した実験の平均±SDであり、これらを、個別のmRNAについての値の間の比として表す。
【0043】
タンパク質の抽出、免疫沈降及びウエスタンブロット分析。トランスフェクションの24時間後に細胞を採集し、コンプリートプロテアーゼ阻害剤カクテル(1%;Sigma)を含有するRIPA緩衝液(Sigma)中で氷上において1時間繰り返し混合しながら細胞を溶解させた。氷上での15秒の超音波処理(Bioblock Scientific VibraCell 72434)によって溶解を行い、溶解液を遠心分離した(13,000rpm、4℃10分)。タンパク質抽出物800μgを、μMacs分離カラム及びμMacsプロテインGマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)をウサギポリクローナル抗cep290(1:100;Novus Biologicals, Littletown, CO)と共に供給業者の推奨に従って使用する免疫沈降法(IP)によって分析した。初回タンパク質抽出物150μg(10% β−メルカプトエタノールを有するLDS試料緩衝液1×(Life Technologies, USA)で再懸濁)及び免疫沈降物を90℃で10分間加熱し、4〜15%Mini-PROTEAN TGXプレキャストポリアクリルアミドゲル(BioRad)上にロードした。電気泳動後に、Trans-Blot Turbo移行システム(BioRad)を使用してタンパク質を0.2μm PVDFメンブランに移行させ、そのメンブランを以下の一次抗体:ウサギポリクローナル抗ヒトCep290(1:1800; Novus Biologicals, Littletown, CO)及び二次抗体:ヤギ抗ウサギIgG−HRP(1:5,000、Abcam, France)で探索した。SuperSignal(登録商標)West Dura Extended Duration Substrate(Thermo Scientific, USA)及びChemiDoc XRS+イメージングシステム(Bio-Rad, USA)を使用してブロットを明らかにした。Image Labソフトウェア3.0.1ビルド18(Bio-Rad, USA)を用いてウエスタンブロット像を取得及び解析した。
【0044】
結果
治療用AONの単回硝子体内注射の安全性及び有効性の評価
ヒト突然変異型イントロン26(c.2991+1655A>G)を有するトランスジェニックマウス系統がまだ入手できないことを考慮して、本発明者らは、AON配列を設計して野生型マウスエクソンをスキップした。本発明者らは、それぞれエクソン23及びエクソン36をスキップすることを選択した。エクソン23のスキッピングは、リーディングフレームの移動及び安定ならば切断型タンパク質の産生を招くと予想される(
図1A)。対照的に、エクソン36のスキッピングは、リーディングフレームを保存すると予想される(
図1B)。
【0045】
NIH−3T3マウス線維芽細胞系を使用してMTNAで報告された本発明者らのプロトコールに従って(Gerard et al., 2012)、2つのエクソン周辺のドナースプライス部位及びESEに特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチド(m23ESE、m23D、m36ESE、m36D;
図2)をインビトロで試験した。未処理NIH−3T3細胞及びトランスフェクションされたNIH−3T3細胞から抽出されたmRNAを使用する逆転写PCR(RT−PCR)分析によって、AONがスキッピングを誘発する潜在性を最初に決定した。サンガー配列決定がそれぞれエクソン23及び36の欠失を実証した、より短いPCRバンドの出現によって示されたように、150nM AONを使用したNIH−3T3細胞のトランスフェクションは、スキッピングを招いた。
【0046】
トランスフェクションされていないNIH3T3線維芽細胞に対してトランスフェクションされたNIH3T3線維芽細胞における野生型及び突然変異型転写物の発現レベルを、リアルタイム定量PCR(RT−qPCR)を使用して測定することによって、スキッピング効率を定量した。トランスフェクションされていない細胞又はセンスONをトランスフェクションされた細胞に比べて、AONで処理されたNIH−3T3細胞は、野生型mRNA発現の有意な減少を示し、効率的なスキッピングを裏付けた。したがって、処理された細胞系において突然変異型mRNAが検出された。エクソン23を欠如する突然変異型mRNAの存在度は、可能性のあるナンセンス介在性mRNA分解、すなわちNMD(中途終止コドンの出現に伴うフレームシフトのスキッピング)により過小評価されるおそれがある。加えて、これらの結果がセンスオリゴヌクレオチドの送達減少が原因でなかったことを確かめるために、蛍光標識されたm23D及びm36Dアンチセンスオリゴヌクレオチド並びにm23ESEセンスオリゴヌクレオチドを使用してNIH−3T3にトランスフェクションした。類似のトランスフェクション効率が測定された(>90%)。
【0047】
免疫沈降したcep290(プルダウンアッセイ法)のウエスタンブロット分析は、m23ESE AONを使用した細胞のトランスフェクションがcep290の存在度における減少を引き起こしたことを示したが、そのことは、野生型転写物レベルの低下がタンパク質の量の低下を招いたという見解の強固な裏付けを与えている。
【0048】
全体的に見て、本発明者らの結果は、同定されたAONがスキッピングを誘導する有効性及び配列依存的能力を実証している。
【0049】
マウス光受容器におけるCep290 mRNAに対するAON誘導型改変
硝子体内注射後のスキッピング効率を判断するために、本発明者らは、蛍光標識m23D AONを使用した。AON 10nmolを8週齢C57BL/6Jマウスの左眼の硝子体内に注射した。注射の2、6及び10日後に動物を屠殺し、注射された(左)眼及び注射されていない(右)眼の両方を解剖して視神経網膜を単離した。処置された網膜及び未処置の網膜からメッセンジャーRNAを調製した。野生型及び改変型Cep290転写物の両方を増幅することができるプライマーを使用してRT−PCRを行い、一方で、エクソン23を欠如する野生型mRNA及び突然変異型転写物に特異的なプライマーを使用してRT−qPCRを行った。RT−PCR産物のアガロース電気泳動分析から、注射されていない眼とは対照的に、2、6及び10日処置された眼は、野生型産物に加えてサイズのより小さな産物を表したことが示された(
図3A)。サンガー配列決定から、両方の産物(野生型mRNA及びエクソン23を欠如する突然変異型mRNA)の同一性が確認された。
【0050】
RT−qPCR分析は、RT−PCRの結果と一致しており、処置されていない眼に比べて処置された眼において野生型mRNAの発現が減少し、処置されていない眼ではなく、処置された眼において突然変異型mRNAが検出可能であった(
図3B)。
【0051】
続いて、同じ手順を用いて漸増用量の蛍光標識m23D AON(1、5、10nmol)を注射した。注射の2日後に動物を屠殺した。注射された眼及び注射されていない眼を取り出し、解剖して網膜を回収するか、又はPFA中で固定し、組織分析のためにパラフィン中に包含させた。RT−qPCR分析は、スキッピング効率とAONの注射用量との間の相関関係を証明した(
図4)。組織分析から、網膜切片全体にわたるAONの広い分布が示された(全載網膜の組織分析が予定されている)。
【0052】
Cep290は、至る所に発現されている(Papon et al., 2010)。網膜においてCep290は、神経節細胞層、内顆粒層及び光受容細胞層を含むいくつかの細胞層中に発現されている(Baye et al.、2011)。しかし、CEP290タンパク質の量が最も豊富であるのは、網膜のこの最後の細胞層の中である(Chang et al., 2006)。網膜中の蛍光AONの分布の組織分析から、光受容器顆粒層における蛍光の存在が実証された(
図4B)。しかし、スキッピングが光受容器において起こったことを確認するために、本発明者らは、注射されていない眼及び注射された眼の光受容器層を、ビブラトームを使用して単離するために、M.P. Felder(Institute of Cellular and Integrative Neurosciences, CNRS UPR 3212, University of Strasbourg)との共同研究を準備した。これは、次の数週間に行われる。
【0053】
全体的に、本発明者らの結果は、m23ESE AONが網膜細胞におけるスキッピングを誘発する有効性を実証している。
【0054】
実施例2:Abca4 mRNAのスプライス改変
材料及び方法
Abca4エクソン10のスキッピングに対するターゲット配列の同定。http://mfold.rna.albany.edu/及びhttp://rulai.cshl.edu/cgi-bin/tools/ESE3/esefinder.cgiを使用して、Abca4プレmRNAのエクソン10及びそれらの周辺イントロン配列(スプライス部位)内のターゲティング可能な配列を見出すためのバイオインフォマティクス解析を実現した。
【0055】
AON。エクソン10上のESE部位に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、ESEfinder 3.0プログラム(Cartegni and Krainer, 2003)によって同定した。対応する選択された配列:m10ESE(+60+88)5’−CAAAGAAGTACCAGATCTGGGGCCCTAC−3’。AONは、Sigma-Aldrich(St Quentin Fallavier, France)によって合成されたが、2’−O−メチルRNA及び全長ホスホロチオアート骨格を含有する。
【0056】
実験動物のAON硝子体内注射。全ての動物実験は、眼及び視力の研究における動物の使用について、視覚と眼科学研究協会会議の声明書に準拠した。8週齢のC57BL/6Jマウスをこれらの実験のために使用した。ケタミン(100mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)の混合溶液の筋肉内注射によって動物に麻酔した。10% フェニレフリン及び0.5% トロピカミドで瞳孔を散大させた。30ゲージ針を使用して強膜の最初の穿刺を行った。5μlハミルトンシリンジに装着された33ゲージ針を、この穴を通して硝子体腔内に通過させた。針の先端が硝子体腔内にあるときに、針の進行を両眼下で直接観察した。オリゴヌクレオチド(m10ESE)を10nmol含有する食塩水(NaCl 9g/l、pH=8.7)1μlを左眼に硝子体内注射した。針を硝子体腔内に約20秒間保ち、次に静かに引き抜き、感染を予防するために抗生物質軟膏を塗布した。右眼には注射せず、対側の対照として使用した。注射の2、6又は10日後に、注射された眼及び対側の眼を摘出し、さらなる分析のために加工した。網膜を取り出して下記のようにARNを回収した。動物2匹を各実験設定のために使用した。
【0057】
RNAの抽出及びcDNAの合成。注射された眼及び注射されていない眼の両方について、注射の2、6及び10日後に、RNeasy Mini Kit(Qiagen, Courtaboeuf, France)を製造業者のプロトコールに従って使用して、網膜から総RNAを抽出した。RNaseフリーDNaseセット(Qiagen, Courtaboeuf, France)によって全ての試料をDNase処理した。−80℃で保存する前に、Nanodrop-1000分光光度計(Fisher Scientific, Illkirch, France)を使用して総RNAの濃度及び純度を判定した。Verso cDNAキット(Thermo Fisher Scientific)を使用して、ランダムヘキサマー:アンカーオリゴ(dT)プライマーを3:1(vol:vol)比で用いて、製造業者の説明書に従って抽出された総RNA 500ngから第一鎖cDNA合成を行った。
【0058】
逆転写PCR(RT−PCR)。AON介在性エクソンスキッピングの有効性を判定するために、5mM dNTP(Fischer Scientific, Illkirch, France)、PhusionハイフィデリティーDNAポリメラーゼ0.02ユニット(Fischer Scientific, Illkirch, France)、並びにAbca4(ex9)フォワード、5’−tgatccagagcctggagtcaa−3’及びAbca4(ex11)リバース、5’−ttcttctccgagctgcctatt−3’の各プライマー10μMを含有する1×Phusion HF緩衝液50μl中でcDNA(5μl)を増幅させた。2720サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Courtaboeuf, France)を用いて以下の条件でPCRを実施した:初回変性98℃5分、続いて98℃10秒変性、60℃30秒アニーリング及び72℃30秒伸長を30サイクル。3% アガロースゲルでの電気泳動によってPCR産物を分離し(20μl)、エチジウムブロマイドで染色し、UV光下で可視化した。陰性対照としてテンプレートなし(NTC)の反応を使用した。これらの産物の同一性の最終確認を、サンガー配列決定によって実施して、正確で予想通りのエクソン接合部が維持されていることを確証した。
【0059】
結果
マウス光受容器におけるAbca4 mRNAに対するAON誘導型改変
本発明者らは、光受容器特異的Abca4遺伝子のプレmRNAのスプライシングを妨害するために2’−OMePS AONを設計した(Molday et al., 2000)。mfoldソフトウェア及びESEfinderプログラムを使用して(詳細についてはGerard et al., 2012参照)、本発明者らは、エクソン10をターゲティングするAONを設計した。研究所で光受容細胞系統が入手できないので、本発明者らは、予めインビトロ検証を行わずにC57BL/6Jマウスの左眼の硝子体内に2’−OMePS AON 10nmolを硝子体内注射することに着手した。注射の2、6及び10日後にマウスを屠殺し、注射された眼及び注射されていない眼の両方の網膜を前記のように調製した。それぞれエクソン9(フォワード)及びエクソン11(リバース)において設計されたプライマーを使用したRT−PCR分析によってスキッピングを分析した。アガロースゲル電気泳動によって、全ての処置後の眼においてスキッピングの成功が裏付けられ、未処置の眼に不在のより短いPCR産物が出現していた(
図5)。そのことをサンガー配列決定によって確認した。
【0060】
【表1】
【0061】
参考文献:
本出願にわたり、本発明が属する技術分野の現状を様々な参考文献が説明している。これらの参考文献の開示は、本開示の参照により本明細書に組み入れられる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]