特許第6571094号(P6571094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571094積層体およびフレキシブルデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571094
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】積層体およびフレキシブルデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20190826BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20190826BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20190826BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20190826BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B32B27/34
   H01L27/12 B
   G02F1/1333 500
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-548892(P2016-548892)
(86)(22)【出願日】2015年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2015076118
(87)【国際公開番号】WO2016043180
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2018年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-190758(P2014-190758)
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】細田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】 塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−022459(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/114685(WO,A1)
【文献】 特開2013−168445(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/041816(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/119648(WO,A1)
【文献】 特開2011−142168(JP,A)
【文献】 特開2007−251080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G02F 1/1333
G06F 3/03
3/041−3/047
H01L21/02
21/70
21/74−21/764
23/52
27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密着性向上処理されたガラス基板および該ガラス基板上に形成されたポリイミドフィルムを有する積層体であって、以下の特徴を有する積層体:
(1)ポリイミドフィルムがフレキシブル基板層および該フレキシブル基板層の外縁部に設けられた犠牲層を有する;
(2)フレキシブル基板層と前記ガラス基板との接着強度が2N/cm以下である;
(3)犠牲層と前記ガラス基板との接着強度が3N/cm以上である;
(4)犠牲層と前記ガラス基板との接着強度が、後処理により、2N/cm以下となる。
【請求項2】
密着性向上処理が粗面化処理である請求項に記載の積層体。
【請求項3】
密着性向上処理が粗面化処理シランカップラ処理とを併用したものである請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
後処理が水吸収処理である請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
ガラス基板の一部において、密着性向上処理が施されている表面に犠牲層が形成されている請求項1〜のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の積層体におけるポリイミドフィルムのフレキシブル基板層の表面に、電子素子および配線から選択される1以上の部材を形成した後、該積層体を後処理することにより、ガラス基板から、前記部材を備えたポリイミドフィルムを剥離し、その後、犠牲層の部分を切断除去することによりフレキシブルデバイスを得ることを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機基板上にポリイミド系樹脂等の耐熱樹脂フィルムが形成された積層体およびフレキシブルデバイスの製造方法に関するものである。本発明の積層体は、例えば、フレキシブル基板の表面に電子素子を形成したフレキシブルデバイスおよびフレキシブル配線板を製造する際に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELディスプレイ(OLED)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)および電子ペーパー等の電子デバイスの分野では、主としてガラス基板等の無機材料からなる基板(無機基板)上に電子素子を形成したものが用いられている。しかしながら、無機基板は剛直であり、しなやかさに欠けるため、フレキシブルになりにくいという問題がある。
【0003】
そこで、フレキシブル性を有しかつ耐熱性を有するポリイミド等の有機高分子材料を基板として用いる方法が提案されている。すなわち、フレキシブル性を有する耐熱樹脂フィルムを、キャリアとして使用する無機基板上に積層し、この耐熱樹脂フィルムを電子素子形成のための基板または配線基板として利用する技術が実用化されている。ここで、例えば、無機基板として光透過性に優れたガラス基板を用いると、電子素子を形成する際および配線基板作成の際の検査工程が容易となる上、既存のガラス基板上に電子素子を形成するフレキシブルデバイス生産用の設備がそのまま転用できるという利点を有する。
【0004】
このような耐熱樹脂フィルムからなるフレキシブル基板層が積層された無機基板においては、無機基板をキャリア用の基板として利用するので、耐熱樹脂フィルムの表面に電子素子を形成後、最後に耐熱樹脂フィルムを無機基板から剥離して分離する必要がある。従い、電子素子を形成後は良好な剥離性が要求される。しかしながら、電子素子の形成工程において耐熱樹脂フィルムが無機基板から剥落してしまうのを防止する観点からは、耐熱樹脂フィルムを無機基板に強固に密着させなければならない。この密着性を向上させる方法としては、例えば、ガラス基板のような無機基板の表面をシランカップラで処理する方法が提案されている(特許文献1、2)。また、ガラス基板のような無機基板の表面を粗面化処理する方法も提案されている(特許文献3,4)。このように無機基板に強固に密着している耐熱樹脂フィルムの無機基板からの剥離を工業的に行う方法として、例えば、ガラス基板に接したポリイミド系樹脂等耐熱樹脂フィルムの界面にレーザー光を照射する方法(特許文献5)、ガラス基板に接したポリイミドフィルムの界面をジュール熱で加熱する方法(特許文献6)、誘導加熱する方法(特許文献7)、キセノンランプからのフラッシュ光を照射する方法(特許文献8)等により、剥離を行う方法が提案されている。しかしながら、これらの方法は、その工程が複雑で長時間を要し、設備が高価なため高コストであるだけでなく、無機基板の再利用が困難という問題点があった。
【0005】
そこで、前記方法に代わる剥離方法として、特許文献9には加圧水蒸気中に長時間放置することにより、ポリイミド積層体の剥離性を向上させる方法が提案されている。また、特許文献10には、ポリイミド積層体の剥離性を向上させるために、水中に浸漬する方法が提案されている。これらの方法は、ポリイミドフィルム表面からの吸水または吸湿によりポリイミドフィルムが急激に膨張することより生じる応力が、ポリイミドフィルムと無機基板の界面に作用することを利用する。その結果として、この界面での密着性を低減させ剥離性を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2010/071145明細書
【特許文献2】国際公開WO2011/030716明細書
【特許文献3】特開2012−247633号公報
【特許文献4】特開2013−149406号公報
【特許文献5】特表2007−512568号公報
【特許文献6】特開2012−189974号公報
【特許文献7】特開2014−86451号公報
【特許文献8】特開2014−120664号公報
【特許文献9】特開2000−196243号公報
【特許文献10】米国特許第7575983号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した吸湿または吸水を利用する方法では、フレキシブル基板層表面からの吸湿または吸水を利用するので、例えば、フレキシブル基板層表面にガスバリヤ層(水蒸気および/または酸素の透過を阻止するための層であり、これによりOLED等でフレキシブル基板層上に形成される電子素子の劣化を防止するための層である)を形成した場合、吸湿または吸水が充分に行われず、充分な剥離性向上の効果が得られないという問題があった。また、特許文献9に開示されているような加圧水蒸気中に長時間放置するような方法では、ポリイミドの加水分解が進行し、フィルムの劣化が起こるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、フレキシブル基板層を含む耐熱樹脂フィルムと無機基板との密着性が良好であり、容易にかつ短時間でフレキシブル基板層を無機基板から分離できる積層体、および該積層体を用いたフレキシブルデバイスの製造方法の提供を目的とする。
【0009】
本発明はまた、フレキシブル基板層を含む耐熱樹脂フィルムと無機基板との密着性が良好であり、かつ、フレキシブル基板層上にガスバリア層を形成しても、容易にかつ短時間でフレキシブル基板層を無機基板から分離できる積層体、および該積層体を用いたフレキシブルデバイスの製造方法の提供を目的とする。
【0010】
本発明はまた、フレキシブル基板層を含む耐熱樹脂フィルムと無機基板との密着性が良好であり、かつ、フレキシブル基板層上に電子素子、配線等の部材を形成しても、容易にかつ短時間でフレキシブル基板層を無機基板から分離できる積層体、および該積層体を用いたフレキシブルデバイスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、無機基板上に耐熱樹脂フィルムが形成された積層体(以下「積層体」と略記することがある)を特定の構成とすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は下記を趣旨とするものである。
無機基板および該無機基板上に形成された耐熱樹脂フィルムを有する積層体であって、以下の特徴を有する積層体:
(1)耐熱樹脂フィルムがフレキシブル基板層および該フレキシブル基板層の外縁部に設けられた犠牲層を有する;
(2)フレキシブル基板層と前記無機基板との接着強度が2N/cm以下である;
(3)犠牲層と前記無機基板との接着強度が2N/cm超である;
(4)犠牲層と前記無機基板との接着強度が、後処理により、2N/cm以下となる。
【0013】
耐熱樹脂がポリイミド系樹脂である前記積層体。
【0014】
後処理が水吸収処理である前記積層体。
【0015】
無機基板の一部において、予め密着性向上処理が施されており、その密着性向上処理が施されている表面に犠牲層が形成されている前記積層体。
【0016】
密着性向上処理が粗面化処理またはシランカップラ処理の少なくとも一方の処理である前記積層体。
【0017】
前記積層体における耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層の表面に、電子素子および配線から選択される1以上の部材を形成した後、該積層体を後処理することにより、無機基板から、前記部材を備えた耐熱樹脂フィルムを剥離し、その後、犠牲層の部分を切断除去することによりフレキシブルデバイスを得ることを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【0018】
前記積層体における耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層の表面に、電子素子および配線から選択される1以上の部材を形成し、前記部材を備えた耐熱樹脂フィルムにおけるフレキシブル基板層の外周に沿って切り込みを入れて、耐熱樹脂フィルムにおけるフレキシブル基板層の部分と、犠牲層の部分とを分割した後、耐熱樹脂フィルムにおけるフレキシブル基板層の部分を剥離して、フレキシブルデバイスを得るとともに、犠牲層を後処理することにより無機基板から剥離して除去することを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【0019】
フレキシブル基板層の表面に、前記部材を形成する前に、ガスバリア層を形成する前記フレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層体においては、フレキシブル基板層は何らの処理なしに簡単に剥離できる一方で、当該フレキシブル基板層の外縁部に一体的に形成された犠牲層はそのままでは簡単に剥離できないが、後処理により、簡単に剥離できるようになる。このため、この積層体を用いて、容易にフレキシブルデバイスおよびフレキシブル配線基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)は、本発明に係る一実施態様の積層体の模式図(断面図)であり、(B)は、図1(A)の積層体における無機基板のみを、図中、上方から見たときの概略見取り図である。
図2】(A)および(B)は、図1(A)の積層体を用いてフレキシブル基板を製造する方法の一例を説明するための耐熱樹脂フィルムの模式図(断面図)である。
図3】(A)および(B)は、図1(A)の積層体を用いてフレキシブル基板を製造する方法の別の一例を説明するための耐熱樹脂フィルムの模式図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
[積層体]
本発明の積層体は、無機基板上に耐熱樹脂フィルムが形成されたものである。ここで用いられる無機基板としては、ガラス基板、銅、アルミ等の金属基板、アルミナ等のセラミック基板等制限はないが、光透過性に優れたガラス基板が好ましく用いられる。ガラス基板としては、例えば、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等を用いることができ、これらのなかで、無アルカリガラス基板を好ましく用いることができる。
【0024】
前記無機基板の厚みとしては、0.3〜5.0mmが好ましい。厚みが0.3mmより薄いと基板のハンドリング性が低下することがある。また、厚みが5.0mmより厚いと生産性が低下することがある。
【0025】
本発明の積層体100は、図1(A)に示すように、無機基板1上に耐熱樹脂フィルム2が積層されており、耐熱樹脂フィルム2は、フレキシブル基板として使用され得るフレキシブル基板層21および該フレキシブル基板層21の外縁部に設けられた犠牲層22から構成されている。図1(A)は、本発明に係る一実施態様の積層体の模式図(断面図)である。図1(B)は、図1(A)の積層体における無機基板のみを、図中、上方から見たときの概略見取り図である。
【0026】
積層体100において、犠牲層22と無機基板1との接着強度は、フレキシブル基板層21と無機基板1との接着強度よりも大きい。このような接着強度の勾配を達成するために、犠牲層22と接する無機基板1の表面は後述の密着性向上処理が施されていることが好ましい。図1(A)における「×××××」および図1(B)における格子領域220は、無機基板1の表面において犠牲層22が形成される領域であって、密着性向上処理が施されていることを示している。
【0027】
犠牲層22が形成されない場合、耐熱樹脂フィルム2の無機基板1に対する密着性が低下する。このため、耐熱樹脂フィルムの無機基板からの剥離前に耐熱樹脂フィルム上に電子素子等の部材を形成するとき、耐熱樹脂フィルムに剥落が生じて作業効率が低下する。
【0028】
犠牲層22の面積は、耐熱樹脂フィルム2の無機基板1への密着性の観点から、耐熱樹脂フィルム2の面積に対し、10%以上とすることが好ましく、20%以上とすることがより好ましく、50%以上とすることがさらに好ましい。犠牲層22の面積の上限値は、特に限定されるものではないが、材料ロス低減の観点から、犠牲層の面積は、耐熱樹脂フィルムの面積に対し、通常は100%未満であり、好ましくは80%以下であり、より好ましくは60%以下である。犠牲層の面積とは、無機基板1の表面における犠牲層22の形成領域の面積のことであり、図1(B)中、額縁状の格子領域220(以下、「額縁領域」と略記することがある)の面積に等しい。耐熱樹脂フィルムの面積とは、無機基板1の表面における樹脂フィルム2の形成領域の面積のことである。
【0029】
図1(B)において、犠牲層22の形成領域220は額縁形状を有し、当該犠牲層22はフレキシブル基板層21の全ての外縁部に形成されているが、本発明は犠牲層22をフレキシブル基板層21の全ての外縁部に形成しなければならないというわけではない。本発明において犠牲層22は、耐熱樹脂フィルム2の密着性が確保される限り、フレキシブル基板層21の外縁部の一部で形成されていなくてもよい。
【0030】
図1(A)および(B)において耐熱樹脂フィルム2の形状は正方形状を有しているが、本発明の積層体から得られるフレキシブル基板層21の形状に応じていかなる形状を有していてもよい。例えば、円形状、長方形状を有していてもよい。フレキシブル基板層21をそのままフレキシブル基板として使用する場合、耐熱樹脂フィルム2およびフレキシブル基板層21の形状は通常、正方形状または長方形状である。
【0031】
犠牲層22の幅W1(図1(B)参照)は、通常は2mm以上、特に2mm以上100mm以下であり、耐熱樹脂フィルム2の密着性と剥離性とのより一層良好なバランスの観点から、好ましくは3mm以上80mm以下、より好ましくは4mm以上50mm以下である。
【0032】
フレキシブル基板層21の幅W2(図1(B)参照)は、所望のフレキシブル基板またはフレキシブルデバイスの寸法に応じて決定されればよく、通常は10〜300mmであり、耐熱樹脂フィルム2の密着性と剥離性とのより一層良好なバランスの観点から、好ましくは100〜200mmである。
【0033】
フレキシブル基板層21の無機基板1との接着強度は、2N/cm以下であり、1N/cm以下とすることが好ましく、0.5N/cm以下であることがより好ましい。フレキシブル基板層が、このような接着強度を有することにより、フレキシブル基板層と無機基板との良好な剥離性を確保することができる。フレキシブル基板層の無機基板との接着強度が2N/cmを超えるとフレキシブル基板層の無機基板からの剥離が困難になる。フレキシブル基板層の無機基板との接着強度の下限値は特に限定されず、低ければ低い程よい。フレキシブル基板層の無機基板との接着強度は通常、0N/cm以上である。
【0034】
犠牲層22の無機基板1との接着強度は、2N/cm超であり、3N/cm以上とすることが好ましく、4N/cm以上であることがより好ましい。犠牲層がこのような接着強度を有することにより、犠牲層と無機基板との良好な密着性を確保することができるので、犠牲層を含む耐熱樹脂フィルム全体と無機基板との密着性を確保することができる。当該接着強度が2N/cm以下であると、フレキシブル基板層の無機基板からの分離前にフレキシブル基板層上に電子素子等の部材を形成するとき、フレキシブル基板層に剥落が生じて作業効率が低下する。犠牲層の無機基板との接着強度の上限値は特に限定されず、高ければ高い程よい。このような接着強度を確保するためには、犠牲層に接している無機基板、例えばガラス基板の額縁領域220の表面を密着性向上処理することが好ましい。このような処理により、犠牲層の接着強度が増加する。犠牲層の無機基板との接着強度は通常、50N/cm以下、特に10N/cm以下である。
【0035】
密着性向上処理とは、耐熱樹脂フィルム2との密着性を向上させるための無機基板の表面処理のことである。無機基板上に形成された耐熱樹脂フィルムにおいて当該密着性向上処理表面に形成された部分が犠牲層22となる。従って、無機基板表面において犠牲層の形成が望まれる領域に密着性向上処理が施される。
【0036】
密着性向上処理としては、例えば、粗面化処理またはカップラ処理の少なくとも一方の処理を行う。密着性のさらなる向上の観点から好ましくは粗面化処理した後、カップラ処理を行う。
【0037】
粗面化処理としては、例えば特開2013−149406で開示されているような公知の処理法を用いて、無機基板の粗面化を達成することができる。具体的には、化学的エッチング処理、研磨処理、サンドブラスト処理、プラズマ処理、レーザ処理等で粗面化を行うことができる。粗面化処理により、無機基板の表面積が増加するので、物理的に接着強度の増加が達成される。これらの粗面化処理の中で、化学的エッチング処理が好ましい。
【0038】
化学的エッチング処理では、例えば、0.5〜8重量%のフッ酸を含有する水溶液を、使用して、20〜40℃で、1〜60分間程度のエッチング処理を行うことが好ましい。
【0039】
粗面化処理された無機基板の表面粗度(JIS B 0601−1994に基づくRa)は、0.05〜0.8μm程度が好ましい。
【0040】
無機基板表面の犠牲層を形成する部分のみ粗面化するには、ほかの部分を離形フィルム等でマスクして粗面化処理を行えばよい。
【0041】
カップラ処理とは、無機基板表面に、カップラ等の密着性向上剤を塗布し、カップラの被膜を形成する処理である。カップラ処理により、無機基板表面と耐熱樹脂フィルム、特に犠牲層とがカップラ被膜を介して化学的に結合するため、接着強度の増加が達成される。
【0042】
カップラとしては、シランカップラ、チタンカップラ、アルミカップラ等を用いることができるが、シランカップラを用いたシランカップラ処理が好ましい。
【0043】
シランカップラとしては、その種類に制限はなく、例えば、アミン系シランカップラ、エポキシ系シランカップラ、ビニル系シランカップラ、スチレン系シランカップラ、(メタ)アクリル系シランカップラ、クロロ系シランカップラ、メルカプト系シランカップラ、スルフィド系シランカップラ、イソシアネート系シランカップラ、イソシアヌレート系シランカップラが挙げられる。具体例としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3―トリエトキシシリルーN−(1,3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシラン等のアミン系シランカップラ;2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系シランカップラ;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系シランカップラ;p−スチリルトリメトキシシラン等のスチレン系シランカップラ;3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル系シランカップラ;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルフェネチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン等のクロロ系シランカップラ;3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系シランカップラ;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップラ;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップラ;トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート系シランカップラ等が挙げられる。このうち好ましいものとして、アミン系またはエポキシ系シランカップラ、特にN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3―トリエトキシシリルーN−(1,3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシラン等のアミン系シランカップラ;2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系シランカップラ等が挙げられる。
【0044】
シランカップラは1種類でも、複数種類を組み合わせて用いても良い。なお、前記粗面化された無機基板の表面にシランカップラ処理することによりさらに接着強度を増加させることができる。
【0045】
シランカップラの被膜を形成するには、シランカップラを溶媒に溶解して溶液とし、これを無機基板に塗布して乾燥すればよい。用いる溶媒に制限は無いが、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒を好ましく用いることができる。シランカップラ溶液のシランカップラ濃度は、0.5〜5質量%とすることが好ましい。形成されるカップラの被膜量は、10〜1000mg/mとすることが好ましく、100〜500mg/mがさらに好ましい。
【0046】
無機基板表面の犠牲層を形成する部分のみカップラ処理するには、ほかの部分を離形フィルム等でマスクしてカップラ処理を行えばよい。
【0047】
前記したような接着強度を有する犠牲層22は、後述の後処理を行うことにより、無機基板から剥離可能となる。犠牲層は、例えば吸湿処理後において、例えば以下に示すような接着強度を示すようになる。犠牲層の無機基板との後処理後の接着強度は、2N/cm以下であり、1N/cm以下とすることが好ましく、0.5N/cm以下であることがより好ましく、0.1N/cm以下であることがさらに好ましい。犠牲層は、後処理により、このように低い接着強度で無機基板と接着するようになるので、犠牲層が無機基板から容易に剥離できるようになる。後処理後において犠牲層の無機基板との接着強度が2N/cmを超えると、犠牲層の無機基板からの剥離が困難になる。犠牲層の無機基板との後処理後の接着強度の下限値は特に限定されず、低ければ低い程よい。犠牲層の無機基板との後処理後の接着強度は通常、0N/cm以上である。
【0048】
本発明で言う接着強度とは、層間の接着強度をJIS K6854−2に基づいて180°剥離試験を行うことにより測定された値を言う。
【0049】
本発明は、フレキシブル基板層21および犠牲層22が、無機基板との所定の接着強度を達成するように調製された別々の構成材料からなることを妨げるものではないが、フレキシブル基板層21および犠牲層22は通常、同一の構成材料からなっている。フレキシブル基板層21および犠牲層22が、以下に説明するように、同一の構成材料からなる場合、フレキシブル基板層21と無機基板1との接着強度は当該構成材料を選択することにより制御され、犠牲層22と無機基板1との接着強度は、当該構成材料を選択することおよび前記密着性向上処理を行うことにより制御される。
【0050】
フレキシブル基板層21および犠牲層22に用いられる耐熱樹脂フィルム2は、耐熱樹脂をフィルム化したものである。耐熱樹脂とは、DSC(示差走査熱量測定)で測定されたガラス転移温度が200℃以上の樹脂を言い、耐熱樹脂のガラス転移温度は300℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましい。耐熱樹脂として、ポリイミド系樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂等が挙げられる。耐熱樹脂としては、ポリイミド系樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
ポリイミド系樹脂は、主鎖にイミド結合を有する樹脂であり、具体例としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、主鎖にイミド結合を有する樹脂であれば如何なる樹脂も使用することができる。これらの樹脂は通常は単独で用いられるが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
ポリイミドとしては、溶媒に溶解したポリアミック酸等のポリイミド前駆体を熱硬化してポリイミドとする前駆体型ポリイミドまたは溶媒可溶型のポリイミドを用いることができ、前駆体型ポリイミドを好ましく用いることができる。
【0053】
前記ポリイミド系樹脂としては、イミド結合に由来する構成単位を50モル%以上有する(但し、全構成単位を100モル%とする。)ことが好ましい。
【0054】
前記ポリイミド系樹脂としては、市販品を用いてもよい。即ち、例えば、「UイミドAR」、「UイミドAH」、「UイミドBH」、「UイミドCR」、「UイミドCH」(いずれもユニチカ社製)およびUワニスA(宇部興産社製)等のポリアミック酸型ワニス、「リカコートSN−20」(新日本理化社製)および/または「マトリミド5218」(ハンツマン社製)等を溶媒に溶解させた溶媒可溶型ポリイミドワニス、バイロマックスHR−11NN(東洋紡社製)等のポリアミドイミドワニスを使用することができる。
【0055】
前記前駆体型ポリイミドは、原料となるテトラカルボン酸および/またはその二無水物とジアミンの略等モルを、溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体溶液であり、これを塗布して、乾燥、熱硬化(イミド化)してポリイミド層を得ることができる。
【0056】
このポリイミド前駆体溶液を製造する際の、反応温度としては、−30〜60℃が好ましく、−15〜40℃がより好ましい。またこの反応において、モノマー及び溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。
【0057】
ここでテトラカルボン酸および/またはその二無水物としては、例えばピロメリット酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルメタンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,4,9,10−テトラカルボキシペリレン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸および/またはこれらの二無水物等を単体もしくは混合物として使用することができるがこれらに限定されるものではない。
【0058】
ここで、ピロメリット酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸もしくはこれらの二無水物が特に好ましく用いられる。
【0059】
ジアミンとしては例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス(アニリノ)エタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノベンゾエート、ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,5−ジアミノナフタレン、ジアミノトルエン、ジアミノベンゾトリフルオライド、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノアントラキノン、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシフェニル)ジフェニルスルホン、1,3−ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(アニリノ)オクタフルオロブタン、1,5−ビス(アニリノ)デカフルオロペンタン、1,7−ビス(アニリノ)テトラデカフルオロヘプタン、1,2−エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7―ヘプタンジアミン、1,8―オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1、10―デカンジアミン、1,12―ドデカンジアミン、cis−1,4―ジアミノシクロヘキサン、trans−1,4―ジアミノシクロヘキサン、1,4―ジアミノシクロヘキサン異性体混合物、cis−cis−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、cis−trans−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、trans−trans−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン異性体混合物、cis−1,3−ビス(アミノエチル)シクロヘキサン、trans−1,3−ビス(アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノエチル)シクロヘキサン異性体混合物、cis−trans−4,4’−メチレンビス(2ーメチルシクロヘキシルアミン)、trans−trans−4,4’−メチレンビス(2ーメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2ーメチルシクロヘキシルアミン)異性体混合物、cis−cis−4,4’−ジアミノジシクロヘキシレンプロパン、cis−trans−4,4’−ジアミノジシクロヘキシレンプロパン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシレンプロパン等を単体もしくは混合物として使用することができるがこれらに限定されるものではない。
【0060】
ここで、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが特に好ましく用いられる。
【0061】
ポリイミド前駆体の固形分濃度としては1〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。このポリアミック酸溶液は部分的にイミド化されていてもよい。
【0062】
本発明のポリイミド前駆体溶液の25℃に於ける粘度は1〜150Pa・sが好ましく、5〜100Pa・sがより好ましい。
【0063】
ポリイミド前駆体溶液に用いられる溶媒としては、ポリイミド前駆体を溶解する溶媒であれば制限はないが、例えば、アミド系溶媒、エーテル系溶媒、水溶性アルコール系溶媒が挙げられる。
【0064】
アミド系溶媒の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。
【0065】
エーテル系溶媒としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0066】
水溶性アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0067】
これらの溶媒は2種以上を混合して用いることができる。これらの溶媒のうち、特に好ましい例としては、単独溶媒としてはN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられ、また、混合溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミドとN−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンとメタノール、N−メチル−2−ピロリドンと2―メトキシエタノール等の組み合わせが挙げられる。
【0068】
耐熱樹脂フィルムを、ポリイミド前駆体溶液を用いて製造する方法について説明するが、耐熱樹脂として前記したポリイミド系樹脂以外の他の樹脂を用いる場合についても、以下の説明を準用することにより、フレキシブル基板層21および犠牲層22を有する耐熱樹脂フィルム2を製造できることは明らかである。
【0069】
額縁領域220に密着性向上処理が施されている無機基板1上に、ポリイミド前駆体溶液を塗布し、乾燥後、熱硬化してイミド化する。ポリイミド前駆体溶液の塗布領域230は図1(B)上、額縁領域220を含むその内側領域全体であるが、額縁領域220を含むその内側領域全体を包含する領域であれば、額縁領域220を超えて塗布されてもよい。ここでいう乾燥とは、加熱等の手段によりポリイミド前駆体溶液における溶媒量を減少させることをいう。この際、塗膜中の固形分濃度が50質量%以上、90質量%以下となるまで溶媒の除去を行うことが好ましい。乾燥には任意の装置を用いることができ、熱風乾燥機が好ましいが、赤外線加熱、電磁誘導加熱等を使用してもよい。乾燥のためには50〜200℃の温度範囲が適当である。また、ここでいう熱硬化とは、ポリイミド前駆体をポリイミドに変換する工程をいう。熱硬化のためには300〜450℃の温度範囲が適当である。
【0070】
ポリイミド前駆体溶液には、前記接着強度を得るために、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸、そのアミドおよび/または金属塩等の離形剤を配合することができる。これらの中で、ステアリン酸が好ましい。離形剤の配合量が多いほど、耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層および犠牲層の接着強度は小さくなる。一方、離形剤の配合量が少ないほど、耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層および犠牲層の接着強度は大きくなる。
【0071】
ポリイミド前駆体溶液における離形剤の配合量としては、耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層および犠牲層が所定の接着強度を達成する限り特に限定されず、通常はポリイミド質量に対して0.01から2質量%添加することが好ましく、より好ましくは0.1から1質量%である。本明細書中、ポリイミド質量とは、ポリイミド前駆体溶液に含まれるポリイミド換算でのポリイミド全質量という意味である。
【0072】
ポリイミド前駆体溶液には、前記接着強度を得るために、必要に応じ、前記したシランカップラ等の密着性向上剤を溶液中に配合することができる。シランカップラとしては、その種類に制限は無いが、前記したアミン系またはエポキシ系が好ましい。密着性向上剤の配合量が多いほど、耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層および犠牲層の接着強度は大きくなる。一方、密着性向上剤の配合量が少ないほど、耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層および犠牲層の接着強度は小さくなる。
【0073】
ポリイミド前駆体溶液における密着性向上剤の配合量としては、ポリイミド質量に対して0.05から0.5質量%添加することが好ましく、より好ましくは0.05から0.2質量%、さらに好ましくは0.1から0.2質量%である。
【0074】
ポリイミド前駆体溶液の塗布は、連続もしくは枚葉で行うことができる。
【0075】
連続塗布は、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等の塗工機を用いておこなうことができる。
【0076】
連続塗布は、バーコータ、ドクターブレードコーター、スピンコーター等の塗工機を用いて行うこともできる。
【0077】
ここで連続塗布は、無機基板が剛直であるため、困難を伴うことが多いので、工業生産の観点からは枚様での塗布が好ましい。
【0078】
耐熱樹脂フィルムの塗布厚みとしては、熱硬化後の厚さを、5から200μmとすることが好ましく、10から100μmとすることがより好ましい。耐熱樹脂フィルムの厚みはフレキシブル基板層および犠牲層の厚みであり、フレキシブル基板層および犠牲層の厚みは等しい。
【0079】
前記したように、フレキシブル基板として耐熱樹脂フィルムを使用した電子デバイスでは、OLED発光層等への水蒸気等の侵入を防ぐため、ガスバリア層を設けることが一般的である。本発明で用いられる積層体においては、フレキシブル基板層21の表面に、このガスバリア層を設けることができる。ガスバリア層としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、炭化珪素、酸化炭化珪素、炭化窒化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素等の無機酸化物からなる被膜を用いることができるが、酸化珪素からなる被膜が好しい。これらの被膜を形成させる方法としては、スパッタ法、真空蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等公知の方法挙げられるが、スパッタ法が好ましい。ガスバリア層の厚みとしては、10から100nmとすることが好ましく、20から50nmがより好ましい。
【0080】
本発明においては、耐熱樹脂フィルム2を構成する犠牲層22が、強固に無機基板1と密着しているので、耐熱樹脂フィルム2全体の無機基板1との密着性が確保できる。
【0081】
本発明の耐熱樹脂フィルム2、特にフレキシブル基板層21は、透明であることが好ましい。透明性の指標である500nmでの光線透過率としては、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0082】
[フレキシブル基板またはフレキシブルデバイスの製造方法]
本発明に係る積層体100は、その特有の構造および後述する後処理により、フレキシブル基板層21および犠牲層22を無機基板1から容易に剥離させることができる。剥離されたフレキシブル基板層21はフレキシブル基板として有用である。このとき、積層体100において少なくともフレキシブル基板層21を剥離する前に、フレキシブル基板層21表面に、電子素子および配線から選択される1以上の部材(本明細書中、単に「電子素子等の部材」という)を予め形成しておくことにより、剥離されたフレキシブル基板層をフレキシブルデバイスとすることができる。フレキシブルデバイスの製造に際し、電子素子等の部材形成前には、フレキシブル基板層21の表面に前記したガスバリア層を形成しておくことが好ましい。
【0083】
電子素子等の部材の形成方法は、耐熱樹脂フィルムをフレキシブル基板として用いる電子デバイスの分野で公知の方法を採用することができる。
ガスバリア層の形成方法は、前記した方法と同様である。
【0084】
(実施態様1)
まず、本発明の積層体100に対して後述の後処理を行う。しかる後、図2(A)に示すように耐熱樹脂フィルム2を剥離する。具体的に剥離する方法としては、手で端部から引きはがす方法および駆動ロール、ロボット等の機械装置を用いる方法を採用することができる。その後、犠牲層22の部分を切断除去することにより、フレキシブル基板としてのフレキシブル基板層21を得る(図2(B))。図2(A)および(B)は、図1(A)の積層体を用いてフレキシブル基板を製造する方法の一例を説明するための耐熱樹脂フィルムの模式図(断面図)である。
【0085】
本実施態様1においては、後処理前に、積層体100のフレキシブル基板層21表面に、電子素子等の部材(図示せず)を予め形成しておくことにより得られたフレキシブル基板21層はフレキシブルデバイスとして有用である。電子素子等の部材形成前には、フレキシブル基板層21の表面にガスバリア層(図示せず)を形成しておくことが好ましい。
【0086】
(実施態様2)
まず、耐熱樹脂フィルムの所定の部位に切り込みを入れて、耐熱樹脂フィルムにおけるフレキシブル基板層21の部分と犠牲層22の部分とを分割する。すなわち、図3(A)に示すように、フレキシブル基板層21の外周211に沿って切り込み200を形成する。切り込み200は必ずしもフレキシブル基板層21の外周211に沿って形成されなければならないというわけではなく、所望寸法のフレキシブル基板が得られる限り、フレキシブル基板層21の内部領域で形成されてもよい。切り込み方法は無機基板1まで到達する切り込み200を形成できる限り特に限定されず、例えば、市販のカッターを用いる方法およびレーザ光の照射を用いる方法が挙げられる。図3(A)および(B)は、図1(A)の積層体を用いてフレキシブル基板を製造する方法の別の一例を説明するための耐熱樹脂フィルムの模式図(断面図)である。
【0087】
本実施態様2において切り込み200により分割を行った後は、図3(B)に示すように、フレキシブル基板層21を剥離して、フレキシブル基板を得る。具体的に剥離する方法としては、本実施態様においても、手で端部から引きはがす方法および駆動ロール、ロボット等の機械装置を用いる方法を採用することができる。
【0088】
本実施態様2においては、切り込みによる分割前に、積層体100の耐熱樹脂フィルムのフレキシブル基板層21表面に、電子素子等の部材(図示せず)を予め形成しておくことにより得られたフレキシブル基板層はフレキシブルデバイスとして有用である。本実施態様においても、電子素子等の部材形成前には、フレキシブル基板層21の表面にガスバリア層(図示せず)を形成しておくことが好ましい。
【0089】
本実施態様2においては、無機基板1に残存している犠牲層22(図3(B))を、後述の後処理により無機基板1から剥離して除去することができる。犠牲層22を、具体的に剥離する方法としては、前記したような手で端部から引きはがす方法および駆動ロール、ロボット等の機械装置を用いる方法を採用することができる。
【0090】
[後処理]
後処理法としては、水吸収処理法を用いることが好ましい。水吸収処理とは、吸湿もしくは吸水処理により、犠牲層22に体積膨張を生じせしめ、この体積膨張に起因する界面での応力により界面での接着強度を低下させる処理である。本発明においては、犠牲層22は水吸収処理、特に吸湿処理により剥離することが好ましいが、後処理として、例えば、犠牲層22に、レーザ光、赤外線光、紫外線光、フラッシュ光等を照射することにより剥離を行うこともできる。
【0091】
(吸湿処理)
吸湿処理は高温高湿環境下で少なくとも犠牲層を保持する吸湿処理工程を含む。
【0092】
吸湿条件としては、特に限定されないが、好ましくは相対湿度70%以上、より好ましくは80%以上の条件下、吸湿温度は好ましくは70℃以上、より好ましくは、80℃以上で吸湿処理工程を行う。また、100℃超の加圧水蒸気を用いることもできるが、100℃以下で吸湿処理工程を行うことが好ましい。吸湿処理時間としては、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上行う。吸湿処理時間の上限は、犠牲層の剥離が達成される限り特に限定されないが、通常は20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは12時間以下で吸湿処理工程を行う。
【0093】
この吸湿処理においては、前記吸湿処理工程後、減圧または常圧による脱湿を行うことが好ましい。吸湿により体積が膨張した耐熱樹脂フィルムを、脱湿により急速に収縮させることができる。この吸脱湿操作により、膨張、収縮する犠牲層に応力が発生し、吸脱湿で殆ど体積変化しない無機基板に接した犠牲層の界面での強度を著しく低下させる。この作用により、犠牲層をより一層、簡単に剥離することができる。この吸脱湿は、2回以上繰り返すことにより、剥離性をさらに向上させることもできる。本発明においては通常、吸脱湿を1〜3回行うことにより、犠牲層を簡単に剥離することができる。
【0094】
減圧条件としては、特に限定されないが、好ましくは減圧度を100Torr以下、より好ましくは50Torr以下、さらに好ましくは10Torr以下、温度を好ましくは70℃以上、より好ましくは、80℃以上で減圧処理を行う。なお、減圧処理の際の温度は前記吸湿処理温度と同じあっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。減圧処理時間としては、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上行う。減圧処理時間の上限は、犠牲層の剥離が促進される限り特に限定されないが、通常は20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは12時間以下で減圧処理工程を行う。
【0095】
(吸水処理)
吸水処理は少なくとも犠牲層を水浴中に浸漬し保持する吸水処理工程を含む。
【0096】
吸水条件としては、特に限定されないが、水温としては、20℃以上、80℃とすることが好ましく、30℃以上、60℃以下とすることがより好ましい。吸水処理時間としては、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、さらに好ましくは10時間以上行う。吸水処理時間の上限は、犠牲層の剥離が達成される限り特に限定されないが、通常は20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは12時間以下で吸水処理工程を行う。
【0097】
この吸水処理においては、前記吸水処理工程後、減圧もしくは常圧による乾燥により脱水を行うことが好ましい。吸水により体積が膨張した犠牲層を、脱水により急速に収縮させることができる。この吸脱水操作により、膨張、収縮する犠牲層に応力が発生し、吸脱水で殆ど体積変化しない無機基板に接した犠牲層の界面での強度を著しく低下させる。この作用により、犠牲層をより一層、簡単に剥離することができる。この吸脱水は、2回以上繰り返すことにより、剥離性をさらに向上させることもできる。本発明においては通常、吸脱水を1〜3回行うことにより、犠牲層を簡単に剥離することができる。
【0098】
減圧条件による脱水条件としては、特に限定されないが、好ましくは減圧度を100Torr以下、より好ましくは50Torr以下、さらに好ましくは10Torr以下、温度を好ましくは70℃以上、より好ましくは、80℃以上で減圧処理を行う。なお、減圧処理の際の温度は前記吸水処理温度と同じあっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。減圧処理時間としては、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上行う。減圧処理時間の上限は、耐熱樹脂フィルム2の剥離が促進される限り特に限定されないが、通常は20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは12時間以下で減圧処理工程を行う。
【0099】
以上、述べたように、本発明の積層体は、特有の構造により、簡単な後処理で無機基板から犠牲層を容易に剥離することができるので、フレキシブルデバイスおよびフレキシブル配線板デバイスの製造に好適に用いることができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
[参考例1]
ユニチカ社製UイミドAR(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとから得られるポリアミック酸型のポリイミド前駆体溶液であり、溶媒はNMP、固形分濃度は18質量%)を準備した。この溶液(ポリイミド溶液A−1とする)を厚さ0.7mmの表面が平滑な無アルカリガラス板(ガラス板G−1とする)の表面上に、熱硬化後のフィルムの厚さが30μmになるようにバーコータによって塗布し、130℃で10分間乾燥してポリイミド前駆体被膜を形成した。次いで、窒素ガス気流下で、100℃から360℃まで2時間かけて昇温した後、360℃で2時間熱処理し、ポリイミド前駆体を熱硬化させてイミド化した。これによって、ガラス基板と厚さ30μmのポリイミドフィルム層を有する積層体L−1を得た。
【0102】
[参考例2]
ガラス板G−1の表面を5質量%のフッ酸を含有する水溶液で30℃で30分浸漬して粗面化処理した。表面粗度Raは0.08μmであった。このガラス板の表面に、2質量%のシランカップラ(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)を含有するNMP溶液を塗布、乾燥して、シランカップラの塗膜を形成した。ここで、シランカップラの被膜量は、300mg/mであった。このガラス板を用い、参考例1と同様にして、ガラス基板と厚さ30μmのポリイミドフィルム層を有する積層体L−2を得た。
【0103】
[参考例3]
ポリイミド溶液A−1に、シランカップラ(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)を、ポリイミド質量に対し0.05質量%を加え、均一に混合してポリイミド溶液A−2を得た。これを用いたこと以外、参考例1と同様にして、ガラス基板と厚さ30μmのポリイミドフィルム層を有する積層体L−3を得た。
【0104】
[参考例4]
ポリイミド溶液A−2を用いたこと以外は、参考例2と同様にして、ガラス基板と厚さ30μmのポリイミドフィルム層を有する積層体L−4を得た。
【0105】
<密着性の評価>
前記積層体L−1〜L〜4のガラス基板と耐熱樹脂フィルム層との層間の接着強度をJIS K6854に基づいて180°剥離試験により測定した。また、積層体のポリイミドフィルム端部に切り込みをいれ、そこから手で引っ張って容易にガラス板から剥離することができない場合、界面での密着性が「良好」、容易に剥離できる場合を密着性が「不良」と判定した。その結果を表1に示す。なお、表1において、接着強度が0.1N/cm以下の場合は正確な接着強度を特定することが困難なので、「0.1以下」と表記した。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示す様に、積層体L−2、L−4は、密着性が良好であった。これに対し、積層体L−1、L−3は、密着性が不良、すなわち、剥離性が良好であった。
【0108】
<剥離性(後処理後)の評価>
密着性が良好であった積層体L−2、L−4を、相対湿度95%、温度90℃の条件で10時間保持し、ポリイミドフィルムを吸湿させた。その後、同温度で、5Torrの減圧下で10時間の減圧処理を行い、吸湿していたポリイミドを脱湿した。得られた積層体の層間の接着強度をJIS K6854に基づいて180°剥離試験により測定した。また、切り込みをいれたポリイミドフィルム端部から手で引っ張って容易にガラス板から剥離することができる場合、界面での剥離性が「良好」、容易に剥離できない場合を剥離性が「不良」と判定した。その結果を表2に示す。なお、表2において、接着強度が0.1N/cm以下の場合は正確な接着強度を特定することが困難なので、「0.1以下」と表記した。
【0109】
【表2】
【0110】
表2に示す様に、吸湿処理前は、密着性が良好であった積層体L−2、L−4は吸湿処理を行うことにより、剥離性が良好な積層体とすることができる。
【0111】
[実施例1]
図1(B)に示すように、厚さ0.7mmの無アルカリガラス板1の額縁領域220のみを参考例2と同様にエッチング処理およびシランカップラ処理を行い、額縁領域220のみに密着性向上処理が施されたガラス板G−3を得た。ここでこの密着性向上処理が施された部分の幅(すなわち額縁領域220の幅W1)は4cmとし、額縁領域220を含む塗布領域230の面積は、約576cm(24cm(W3)×24cm(W3))、額縁領域220を含まないフレキシブル基板層形成領域210の面積は約400cmとした。この額縁領域220を含む塗布ガラス板G−3の塗布領域230(約576cm)に対して、参考例1と同様のポリイミド溶液A−1を、熱硬化後のフィルム全体の厚さが30μmになるようにバーコータによって塗布し、130℃で10分間乾燥してポリイミド前駆体被膜を形成した。次いで、窒素ガス気流下で、100℃から360℃まで2時間かけて昇温した後、360℃で2時間熱処理し、ポリイミド前駆体を熱硬化させてイミド化することにより、ポリイミド層を積層一体化し、積層体M−1を得た。
【0112】
[実施例2]
ポリイミド溶液A−1をポリイミド溶液A−2としたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体M−2を得た。
【0113】
[実施例3]
積層体M−1、M−2において、図3(A)に示すように、フレキシブル基板層21の外周211に沿って切り込み200を入れ、フレキシブル基板層21と犠牲層22を分割した。分割されたフレキシブル基板層21の外周211の一部を手で引っ張った所、フレキシブル基板層21は、図3(B)に示すように、ガラス基板1から容易に剥離することができた。しかる後、犠牲層22が残ったガラス基板1(図3(B)参照)を、相対湿度85%、温度80℃の条件で8時間保持することにより、犠牲層22を吸湿させた。その後、常圧下、100℃で2時間乾燥を行い、吸湿していたポリイミドを脱湿したところ、積層体M−1、M−2共に、犠牲層22を手で容易に剥離できた。
【0114】
[実施例4]
積層体M−1、M−2を、相対湿度95%、温度90℃の条件で10時間保持し、ポリイミドフィルム2を吸湿させた。その後、同温度で、5Torrの減圧下で10時間の減圧処理を行い、吸湿していたポリイミドフィルム2を脱湿した。ポリイミドフィルム2の外周の一部を手で引っ張った所、ポリイミドフィルム2は、図2(A)に示すように、ガラス基板1から容易に剥離することができた。その後、犠牲層22の部分を切断除去することによりフレキシブル基板層21を得た。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上述べたように、本発明の積層体においては、耐熱樹脂フィルム2が無機基板1上に強固に接着しているにも拘わらず、例えば水吸収処理により、犠牲層22を無機基板1から容易に剥離できるので、フレキシブル基板層21を容易に得ることができるし、無機基板1を容易に再利用可能である。従って、本発明の積層体は、電子デバイス用フレキシブル基板の製造に有用である。本発明の製造方法は、当該積層体を構成する耐熱樹脂フィルム2、特にフレキシブル基板層21の表面にガスバリア層が形成されている場合であっても、後処理前の密着性、後処理後の剥離性共に良好である。従って、フレキシブル基板としてのフレキシブル基板層21に電子素子等の部材を形成したフレキシブルデバイスおよびフレキシブル配線板が容易に製造できる。
【符号の説明】
【0116】
1:無機基板
2:耐熱樹脂フィルム
21:フレキシブル基板層
210:フレキシブル基板層形成領域
211:フレキシブル基板層の外周
22:犠牲層
220:額縁領域(犠牲層形成領域)
図1
図2
図3