特許第6571097号(P6571097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571097スルホン化合物に基づく非水電解質を含む特定のリチウム電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571097
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】スルホン化合物に基づく非水電解質を含む特定のリチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20190826BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190826BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20190826BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20190826BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190826BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190826BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20190826BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/485
【請求項の数】23
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-550190(P2016-550190)
(86)(22)【出願日】2015年2月4日
(65)【公表番号】特表2017-505521(P2017-505521A)
(43)【公表日】2017年2月16日
(86)【国際出願番号】FR2015050268
(87)【国際公開番号】WO2015118264
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2017年12月25日
(31)【優先権主張番号】1450928
(32)【優先日】2014年2月6日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ガリアーノ, エルヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ル ディジャベル, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ビエ, アグネス
(72)【発明者】
【氏名】ペノー, ネリ
(72)【発明者】
【氏名】マルタン, ショーン フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】デュティセー, クリストフ
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187487(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103378360(CN,A)
【文献】 Julien DEMEAUX et al.,Physical Chemistry Chemical Physics,2013年,pp.20900-20910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のスルホン溶媒と、無水物化合物の中から選択される少なくとも1種の添加剤と、少なくとも1種のリチウム塩とを含むリチウムイオン伝導性電解質を含む電気化学セルを少なくとも1つ含むリチウム電池であって、前記電解質は、活物質として式LiNi0.4Mn1.6又はLiNi0.5Mn1.5のリチウム化酸化物を含む正極と、活物質としてLiTi12を含む負極との間に位置するリチウム電池。
【請求項2】
前記スルホン溶媒が、環状スルホン溶媒、又はさらに直鎖スルホン溶媒である、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記環状スルホン溶媒が、下記式(I):
(式中、
− R、R、R、R、並びに必要に応じてR及びRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、
− nは1から3の範囲の整数である)
に一致する、請求項2に記載の電池。
【請求項4】
前記スルホン溶媒が、テトラメチルスルホンである、請求項1から3の何れか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記電解質が、環状スルホンの混合物を含む、請求項1から4の何れか一項に記載の電池。
【請求項6】
前記スルホン溶媒が、対称又は非対称直鎖スルホン溶媒である、請求項1又は2に記載の電池。
【請求項7】
前記スルホン溶媒が、下記式(V):
−SO−R
(V)
(式中、R及びRは、互いに独立して、1種又は複数種のハロゲン原子を任意選択的に含み1から7個の炭素原子を含むアルキル基、1種又は複数種のハロゲン原子を任意選択的に含むアリール基を示す)
に一致する直鎖スルホン溶媒である、請求項1、2、又は6に記載の電池。
【請求項8】
前記直鎖スルホン溶媒が、エチルメチルスルホン、ジ(n−ブチル)スルホン、メチルイソプロピルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、ジエチルスルホン、ジ−n−プロピルスルホン、ジメチルスルホン、2−フルオロフェニルメチルスルホンである、請求項1、2、6又は7に記載の電池。
【請求項9】
前記スルホン溶媒が、エチルメチルスルホン、メチルイソプロピルスルホンの中から選択される直鎖スルホン溶媒である、請求項1又は2又は6から8の何れか一項に記載の電池。
【請求項10】
前記電解質が、スルホン溶媒ではない、1種又は複数種の共溶媒を含む、請求項1から9の何れか一項に記載の電池。
【請求項11】
前記(1種又は複数種の)共溶媒が、炭酸エステル溶媒である、請求項10に記載の電池。
【請求項12】
前記(1種又は複数種の)共溶媒が、直鎖炭酸エステル溶媒及び環状炭酸エステル溶媒の中から選択される炭酸エステル溶媒である、請求項10又は11に記載の電池。
【請求項13】
前記環状炭酸エステル溶媒が、炭酸エチレン(頭字語ECで知られる)、炭酸プロピレン(頭字語PCで知られる)又はこれらの混合物の中から選択される、請求項12に記載の電池。
【請求項14】
前記直鎖炭酸エステル溶媒が、炭酸ジメチル(頭字語DMCで知られる)、炭酸ジエチル(頭字語DECで知られる)、炭酸エチルメチル(頭字語EMCで知られる)及びこれらの混合物の中から選択される、請求項12に記載の電池。
【請求項15】
前記電解質が、前記(1種又は複数種の)スルホン溶媒と混合物を形成する、1種又は複数種の共溶媒を含み、前記混合物は、
− EMS−DMC混合物(例えば、質量比率1:1)、
− EMS−DEC混合物(例えば、質量比率1:1)、
− TMS−DMC混合物(例えば、質量比率1:1)、
− EC−EMS−DMC混合物(例えば、質量比率1:1:3)、
− EMS−MIS−DMC混合物(例えば、質量比率2:3:5)、
− EMS−EMC混合物(例えば、質量比率1:1)、又は
− MIS−DMC混合物(例えば、質量比率2:3)の中から選択される、請求項10から14の何れか一項に記載の電池。
【請求項16】
前記無水物添加剤が、環状又は非環状カルボン酸無水物化合物である、請求項1から15の何れか一項に記載の電池。
【請求項17】
前記無水物添加剤が、電解質の総質量に基づき0.01質量%から30質量%の範囲の含有量で存在する、請求項1から16の何れか一項に記載の電池。
【請求項18】
前記無水物添加剤が、コハク酸無水物、マレイン酸無水物、グルタル酸無水物、フタル酸無水物、安息香酸無水物、エタン酸無水物、プロパン酸無水物、ブタン酸無水物、cis−ブテン二酸無水物、ブタン−1,4−ジカルボン酸無水物、ペンタン−1,5−ジカルボン酸無水物、ヘキサン−1,6−ジカルボン酸無水物、2,2−ジメチルブタン−1,4−ジカルボン酸無水物、2,2−ジメチルペンタン−1,5−ジカルボン酸無水物、4−ブロモフタル酸無水物、4−クロロホルミルフタル酸無水物、3−メチルグルタル酸無水物、ヘキサフルオログルタル酸無水物、酢酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、2,3−ジフェニルマレイン酸無水物、2,3−ピラジンジカルボン酸無水物、3,3−テトラメチレングルタル酸無水物、ジフルオロフタル酸無水物、ベンゾグルタル酸無水物、フェニルコハク酸無水物、クロトン酸無水物、イサコ酸(isacoic)無水物、ペンタフルオロプロピオン酸無水物、プロピオン酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、イタコン酸無水物、2−メチレンブタン−1,4−ジカルボン酸無水物及びこれらの混合物の中から選択される、請求項1から17の何れか一項に記載の電池。
【請求項19】
前記無水物添加剤が、コハク酸無水物である、請求項1から18の何れか一項に記載の電池。
【請求項20】
前記電解質が、
− EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−DEC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− TMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EC−EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3:5)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−EMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、又は
− MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質である、請求項1から19の何れか一項に記載の電池。
【請求項21】
少なくとも1種のスルホン溶媒と、なくともコハク酸無水物添加剤と、少なくとも1種のリチウム塩とを含み、(1種又は複数種の)スルホン溶媒と混合物を形成する1種又は複数種の共溶媒をさらに含むリチウムイオン伝導性電解質であって、前記混合物は、EMS−DMC混合物、EMS−DEC混合物、TMS−DMC混合物、EC−EMS−DMC混合物、EMS−MIS−DMC混合物、EMS−EMC混合物又はMIS−DMC混合物の中から選択される、電解質。
【請求項22】
前記コハク酸無水物添加剤が、電解質の総質量に基づき0.01質量%から30質量%の範囲の含有量で存在する、請求項21に記載の電解質。
【請求項23】
− EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−DEC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− TMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EC−EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3:5)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−EMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、又は
− MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質である、請求項21または22に記載の電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のスルホン溶媒に基づく非水電解質と、1種又は複数種の特定の添加剤とを含む特定のリチウム電池に関し、これらの電池は、より具体的にはリチウムイオン電池である。
【背景技術】
【0002】
コンピュータサイエンス、ビデオ、携帯電話、電気自動車やハイブリッド自動車などの輸送手段の分野、さらに医療、宇宙、マイクロエレクトロニクスの分野における場合など、自律性が根本的基準である分野にとって、リチウム電池は特に興味深い。
【0003】
機能の観点から、リチウムイオン電池は、電池の電気化学セルの電極の構成材料内におけるリチウム挿入脱離の原則に基づいている。
【0004】
より具体的には、電流生成源における反応(すなわち、電池が放電モードにある場合)により、リチウムイオン伝導性電解質を通じて、負極からのリチウムカチオンの移動が始まる。リチウムカチオンは、正極のアクセプタ格子に挿入されることになる一方、負極における反応による電子は、正極及び負極が接続されている外部回路に供給されることになる。
【0005】
これらの電解質は、少なくとも1種の有機溶媒と、前記リチウムイオンの伝導を確保するための少なくとも1種のリチウム塩とを含む混合物であってよいが、リチウム塩は前記有機溶媒に溶解している必要がある。
【0006】
現在使用されているリチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiRSO、LiN(RSO、LiC(RSO(Rは、フッ素原子、又は1から8個の炭素原子を含むペルフルオロアルキル基である)、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、リチウムビス(ペルフルオロエチルスルホニルイミド)(LiBETI)、フルオロアルキルリン酸リチウム(LiFAP)であってよいが、これらのリチウム塩は、環状及び/又は直鎖炭酸エステルに基づく有機溶媒の混合物に慣例的に溶解している。このような電解質は、高伝導率(例えば、1mS/cmを超える)、及び(Li/Liに対して表される)0から4.2Vの範囲の電位窓において優れた電気化学的性能を有する。4.2Vを超えると、J.Electrochem.Soc.、138、(1991)2864で説明されているように、この電位を超えるとこれらの電解液が酸化によって劣化し、それによりガスが発生し、部分又は全自己放電及び寿命の低下によって表される電池の性能が悪化する。
【0007】
電池の容量の増加を可能にする新たな電極材料を改良するために、高い電位差(例えば、5V程度)にさらされた場合に劣化しない、(1種又は複数種の)溶媒に基づく新たな電解質の設計に研究活動を集中させた。
【0008】
上記の炭酸エステル溶媒の代替として、スルホン溶媒が優れた候補となり得る。
【0009】
スルホンは2つのグループ、環状スルホン及び直鎖スルホンに分類することができ、これらのスルホンは、−SO−基の両側に位置する基が同一である場合には対称性、−SO−基の両側に位置する基が異なる場合には非対称性と記載される。
【0010】
環状スルホンとしては、テトラメチルスルホン(頭字語TMSでも知られている)が、リチウム電池用、より具体的にはリチウムイオン電池用電解液において使用するために既に研究されている。特に、Watanabeら(Journal of Power Sources 179 (2008)、770−779)では、(TMS単独よりも粘度が低い混合物を得るために)TMS及び酢酸エチルを含む混合物を試験した。その混合物には、添加剤(炭酸ビニレン)が添加され、それぞれ異なる電極対Li/LiCoO及びLiLiNi0.5Mn1.5を用いる。酸化における優れた化学的安定性にもかかわらず、サイクル数が増加すると試験した電池の電気化学的性能が低下するため、サイクル時間の結果はまだ改善されていない。また、クーロン効率(すなわち、充電容量に対する放電容量の比率)もまだ改善されていない。
【0011】
直鎖スルホンもまた、リチウム電池における電解質としての用途向けに研究の対象となっている。
【0012】
特に、非対称性スルホンであるエチルメチルスルホンにより、とりわけリチウム塩としてLiPFと共に用いた場合に、5V超での電気化学的安定性に関してその効率が実証されている(Seelら、J.Electrochem.Soc. 147 (2000)、892によって示されているように)。しかしながら、エチルメチルスルホンを単独で使用すると、室温で固体であるという欠点があるため、その単一溶媒としての使用は制限される。
【0013】
要約すると、特に高電位(例えば、5V程度の電位)における電池の作動における耐久性に対するスルホンの寄与にもかかわらず、とりわけ以下の問題を解決することができる、(1種又は複数種の)スルホン溶媒に基づく電解質を含む特定のリチウム電池の必要性が存在する。
− とりわけ、高電圧(例えば、4.2Vより高い電圧)を供給する電極対に基づく電池についての貯蔵時自己放電問題。
− 電池の寿命(例えば、サイクル性及びクーロン効率に関して)。
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、スルホン類から少なくとも1種の溶媒を含む電解質に特定の添加剤を添加することによって、上記必要性を満たすことが可能であることを見出した。
【0015】
したがって、本発明は、少なくとも1種のスルホン溶媒と、無水物化合物の中から選択される少なくとも1種の添加剤と、少なくとも1種のリチウム塩とを含むリチウムイオン伝導性電解質を含む電気化学セルを少なくとも1つ含むリチウム電池であって、前記電解質は、有利には活物質として式LiNi0.4Mn1.6又はLiNi0.5Mn1.5のリチウム化酸化物を含む正極と、有利には活物質としてLiTi12を含む負極との間に位置するリチウム電池に関する。
【0016】
正極とは、上記及び下記において、電池に電流が生じている(すなわち、電池が放電過程にある)場合にはカソードとしての機能を果たし、電池が充電過程にある場合にアノードとしての機能を果たす電極を慣例的に意味すると規定される。
【0017】
負極とは、上記及び下記において、電池に電流が生じている(すなわち、電池が放電過程にある)場合にはアノードとしての機能を果たし、電池が充電過程にある場合にカソードとしての機能を果たす電極を慣例的に意味すると規定される。
【0018】
上記電解質と上記一対の電極との間のこのような関連性により、本発明者らは、前記添加剤の存在以外は同じ成分を含む電解質と比較して、とりわけ、サイクル性、自己放電(この現象は、本発明の電解質により大幅に削減される)に関して、リチウム電池の性能の著しい向上を実証することができた。さらに、その特性の向上により、これらの電解質を含有する電池の耐久性が影響を受けることはない。
【0019】
サイクル性及び自己放電に関する電解質の特性は、同じ添加剤を含むが炭酸エステル溶媒のみの電解質と比較して強化されているため、本発明者らは、上記関連性によって相乗効果現象も実証することができた。
【0020】
さらに、本発明の電池に含まれる電解質は、とりわけLi/Li対に対して表される5Vを超える電位を受けた場合、酸化現象に対する安定性を有している。
【0021】
最後に、本発明の電池に含まれる電解質により、それらの電解質が組み込まれたリチウム電池にクーロン効率に関して優れた結果を与える可能性がもたらされる。
【0022】
上記のように、電解質は、少なくとも1種のスルホン溶媒、すなわち、−SO−官能基を少なくとも1つ含む溶媒を含む。
【0023】
このスルホン溶媒は、環状スルホン溶媒であっても、又はさらに直鎖スルホン溶媒であってもよい。
【0024】
環状スルホン溶媒の例として、下記式(I):
(式中、
− R、R、R、R、並びに必要に応じてR及びRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素又は臭素)、又はアルキル基を示し、
− nは1から3の範囲の整数を示す)
に一致するスルホン溶媒を挙げることができ、換言すると、
− nが1に等しい場合、スルホン溶媒は下記式(II):
(R、R、R及びRは上記定義の通りである)
に一致し、
− nが2に等しい場合、スルホン溶媒は下記式(III):
(RからRは上記定義の通りである)
に一致し、
nが3に等しい場合、スルホン溶媒は下記式(IV):
に一致する。
【0025】
環状スルホン溶媒の具体例として、テトラメチルスルホン(スルホランの名前でも知られている)又は3−メチルスルホランを挙げることができる。
【0026】
電解質は、環状スルホンの混合物、例えば、2種の環状スルホンの混合物を含むことができる。
【0027】
直鎖スルホン溶媒である場合、対称性又は非対称性直鎖スルホン溶媒であってよい。
【0028】
「対称性」とは、−SO−基の両側に同一基を含む直鎖スルホン溶媒を意味する。
【0029】
「非対称性」とは、−SO−基の両側に異なる基を含む直鎖スルホン溶媒を意味する。
【0030】
直鎖スルホン溶媒の例として、下記式(V):
−SO−R
(V)
(式中、R及びRは、互いに独立して、1種又は複数種のハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子)を任意選択的に含む1から7個の炭素原子を含むアルキル基、1種又は複数種のハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子)を任意選択的に含むアリール基を示す)
に一致するスルホン溶媒を挙げることができる。
【0031】
例えば、R及びRは、互いに独立して、メチル基(−CH)、エチル基(−CH−CH)、n−プロピル基(−CH−CH−CH)、n−ブチル基(−CH−CH−CH−CH)、n−ペンチル基(−CH−CH−CH−CH−CH)、n−へキシル基(−CH−CH−CH−CH−CH−CH)、n−ヘプチル基(−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH)、イソ−プロピル基(−CH(CH)、イソ−ブチル基(−CHCH(CH)を示していてもよい。
【0032】
具体的な直鎖スルホン溶媒は、エチルメチルスルホン、ジ(n−ブチル)スルホン、メチルイソプロピルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、ジエチルスルホン、ジ−n−プロピルスルホン、ジメチルスルホン、2−フルオロフェニルメチルスルホンであってもよい。
【0033】
有利には、直鎖スルホン溶媒は、エチルメチルスルホン(頭字語EMSで表記してもよい)、メチルイソプロピルスルホン(頭字語MISで表記してもよい)であってもよく、これらの溶媒は高誘電率を有する。
【0034】
(1種又は複数種の)スルホン溶媒は、電解質の質量に基づき10質量%から90質量%の量で電解質中に含まれていてよい。
【0035】
電解質は、単一種のスルホン溶媒又はスルホン溶媒の混合物を含むことができ、とりわけそれらスルホン溶媒は、混合物の構成溶媒の融解温度を低下させる可能性をもたらす共融混合物を構成することができる。
【0036】
電解質は、(1種又は複数種の)溶媒として、1種又は複数種のスルホン溶媒を排他的に含むことができるが、スルホン溶媒ではない1種又は複数種の共溶媒を含むこともできる。
【0037】
特に、(1種又は複数種の)共溶媒は炭酸エステル溶媒、
− 炭酸ジメチル(頭字語DMCで知られている)、炭酸ジエチル(頭字語DECで知られている)、炭酸エチルメチル(頭字語EMCで知られている)、又はこれらの混合物などの直鎖炭酸エステル溶媒、
− 炭酸エチレン(頭字語ECで知られている)、炭酸プロピレン(頭字語PCで知られている)、又はこれらの混合物などの環状炭酸エステル溶媒などであってよい。
【0038】
直鎖炭酸エステル溶媒は、電解質の粘度を低減させるために使用することができ、一方環状炭酸エステル溶媒は、電解質が接触することになる電極の表面におけるパッシべーション層の生成に寄与するために使用することができる。
【0039】
上記炭酸エステル溶媒のリストは網羅的なものではない。
【0040】
電解質は単一の共溶媒又は共溶媒の混合物を含むことができ、この共溶媒又は共溶媒の混合物は、電解質の総質量に基づき10質量%から90質量%の量で存在することができる。
【0041】
電解質の組成となることができる溶媒の混合物の具体例は、
− EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)
− EMS−DEC混合物(例えば、質量比率が1:1)
− TMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)
− EC−EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1:3)
− EMS−MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3:5)
− EMS−EMC混合物(例えば、質量比率が1:1)又は
− MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3)である。
【0042】
上記のように、電解質は、無水物化合物である添加剤を必須要素として含む。
【0043】
より具体的には、添加剤は環状又は非環状カルボン酸無水物であってよい。特に、添加剤はジカルボン酸無水物であってよい。添加剤は、フッ素原子、臭素原子又は塩素原子などの、1種又は複数種のハロゲン原子を含むことができる。添加剤は単独で使用することも、又は混合物として使用することもできる。
【0044】
この添加剤は、電解質の総質量に基づき0.01質量%から30質量%の範囲の含有量で電解質中に存在することができる。
【0045】
例として、コハク酸無水物(頭字語ASで知られている)、マレイン酸無水物(頭字語AMで知られている)、グルタル酸無水物(頭字語AGで知られている)、フタル酸無水物(頭字語APhで知られている)、安息香酸無水物、エタン酸無水物、プロパン酸無水物、ブタン酸無水物、cis−ブテン二酸無水物、ブタン−1,4−ジカルボン酸無水物、ペンタン−1,5−ジカルボン酸無水物、ヘキサン−1,6−ジカルボン酸無水物、2,2−ジメチルブタン−1,4−ジカルボン酸無水物、2,2−ジメチルペンタン−1,5−ジカルボン酸無水物、4−ブロモフタル酸無水物、4−クロロホルミルフタル酸無水物、3−メチルグルタル酸無水物、ヘキサフルオログルタル酸無水物、酢酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、2,3−ジフェニルマレイン酸無水物、2,3−ピラジンジカルボン酸無水物、3,3−テトラメチレングルタル酸無水物、ジフルオロフタル酸無水物、ベンゾグルタル酸無水物、フェニルコハク酸無水物、クロトン酸無水物、イサコ酸(isacoic)無水物、ペンタフルオロプロピオン酸無水物、プロピオン酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、イタコン酸無水物、2−メチレンブタン−1,4−ジカルボン酸無水物及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0046】
有利には、無水物化合物はコハク酸無水物でよく、コハク酸無水物は、電解質の総質量に基づき0.1質量%からの含有量で効率的に存在することができ、電解質の総質量に基づく1質量%の含有量についてより効率的であることが立証されている。
【0047】
本発明に関するリチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(頭字語LiBOBで知られている)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド(頭字語LTFSIで知られている)、0≦n≦10及び0≦x≦6である式LiP(C2n+1)F6−xなどのペルフルオロアルキルリン酸リチウム、リチウムビス(ペルフルオロエチルスルホニル)イミド(頭字語LiBETIで知られている)、0≦n≦10及び0≦x≦4である式LiB(C2n+1)F4−xのようなペルフルオロアルキルフルオロホウ酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(頭字語LiLmで知られている)、(ジフルオロオキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビスペンタフルオロエチルスルホニルイミドであってよい。リチウム塩は単独で使用することも、又は混合物として使用することもできる。
【0048】
好ましくは、リチウム塩は、例えば濃度1MのLiPFである。
【0049】
本発明による具体的な電解質は、
− EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−DEC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− TMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EC−EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3:5)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−EMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、又は
− MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質であってよい。
【0050】
特に、本発明の電解質は、高電圧(例えば、セル当たり5V程度)を提供することができるリチウム電池において特に効率的で、したがってこれらの電解質は高電位の電極と適合するである。
【0051】
特に、正極は、リチウム又は活物質を挿入するための物質として、式LiNi0.4Mn1.6又はLiNi0.5Mn1.5のリチウム化酸化物を有利に含む。
【0052】
これらの物質は、リチウムを挿入するための物質の一般的区分の一部で、その放電電圧は、Li/Li対に対して表される4.5Vを超える。より具体的には、スピネル構造を有するリチウム化物質型の物質、これらの物質が「スピネル5V」の名前で知られ、より具体的には、これらの物質は、下記式(VI):
LiNi1−xMn1+x
(VI)
(式中、0<x<1である)
のスピネル構造を有するマンガンを含むリチウム化酸化物の区分に入る。
【0053】
より具体的には、式LiNi0.4Mn1.6又はLiNi0.5Mn1.5の酸化物には、リチウム挿入/放出電位が4.7V程度(この電位は参照対Li/Liに対して表される)であるという特殊性がある。
【0054】
上記式(VI)の上記リチウム化酸化物の代替として、下記式(VII):
Li1−x2Mn1.5−y2Ni0.5−z2y2+z2
(VII)
(式中、
− x2<1、0≦y2+z2<0.15、
− Mは、Cr、Mg、Al、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Nb、Sn、Zr及びTaから選択される元素である)
のリチウム化酸化物を、正極活物質として挙げることができる。
【0055】
他の正極活物質として、
− Mが遷移元素である式LiMPOの物質(このタイプの物質はLiCoPO又はLiNiPOであってよい)、
− Mが遷移元素、Xがハロゲン元素である式LiMSOの物質(このタイプの物質はLiCoSOF又はLiNiPOFであってよい)、
− Mが遷移元素、Xがハロゲン元素である式LiPOの物質(このタイプの物質はLiCoPOF又はLiNiPOFであってよい)、
− 式Li(PO、LiCoP、LiNiSiO、LiNiVOの物質、
− 0≦x<1、MeがNi、Co、Mnの中から選択される元素である式xLiMnO、(1−x)LiMeOの複合材料も挙げることができる。
【0056】
リチウムの挿入用物質の存在に加え、正極は、
− 少なくとも1種の電子伝導性物質と、
− 前記リチウム挿入物質と前記電子伝導性物質との間の粘着力を確保するための少なくとも1種の結合剤と、
− 任意選択的に、電子伝導性繊維と
を含むことができる。
【0057】
電子伝導性物質は、好ましくは炭素質物質、すなわち、元素状態で炭素を含む物質であってよい。
【0058】
炭素質物質として、カーボンブラックを挙げることができる。
【0059】
結合剤は、好ましくは高分子結合剤であってよい。使用することができる高分子結合剤の中から、
*ポリテトラフルオロエチレン(頭字語PTFEで知られている)、ポリフッ化ビニリデン(頭字語PVDFで知られている)のようなフッ素化ポリマーなどのフッ素化(コ)ポリマー、任意選択的にプロトン伝導体、
*スチレン−ブタジエンコポリマー(頭字語SBRで知られている)などのエラストマーポリマー、
*カルボキシメチルセルロース(頭字語CMCで知られている)などのセルロース類からのポリマー、及び
*これらの混合物を挙げることができる。
【0060】
電子伝導性繊維は、存在する場合には、さらに正極の優れた機械的強度に関与することができ、このため、非常に高いヤング率となるように選択される。この特異性に適応する繊維は、Tenax(登録商標)タイプ又はVGCF−H(登録商標)の炭素繊維などの炭素繊維であってよい。Tenax(登録商標)炭素繊維は、機械的特性の向上に寄与し、優れた電気伝導率を有する。VGCF−H(登録商標)炭素繊維は、水蒸気によって合成される繊維であり、熱及び電気特性、分散性並びに均質性の向上に寄与する。
【0061】
負極は、活物質として、LiTi12などの、混合リチウム酸化物である物質を有利に含む。
【0062】
代替負極活物質として、例えば、グラファイト、リチウム、リチウム合金などの同素形の炭素を挙げることができる。
【0063】
活物質の存在に加えて、負極は、
− 少なくとも1種の電子伝導性物質と、
− 前記リチウム挿入を伴う物質と前記電子伝導性物質との間の粘着力を確保するための少なくとも1種の結合剤と、
− 任意選択的に電子伝導性繊維と
を含むことができる。
【0064】
電子伝導性物質、結合剤及び任意選択的電子伝導性繊維は、正極について説明した上記と同じ性質であってよい。
【0065】
有利には、上記のように、正極はLiNi0.4Mn1.6又はLiNi0.5Mn1.5を活物質として含み、負極はLiTi12を活物質として含む。
【0066】
正極であろうと負極であろうと、集電体を伴うことができ、集電体は金属シートとして出現することができる。この集電体は、とりわけアルミニウムの集電体であるとよい。
【0067】
本発明による電池においては、本発明の電解質は、リチウムイオン電池などのリチウム電池の電気化学セルでは、電気化学セルの正極と負極との間に位置するセパレータを含浸させるようにすることができる。
【0068】
このセパレータは、液体電解質をその多孔質部で受け入れることが可能であるガラス繊維材料や、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等の高分子材料などの、多孔質材料製であってよい。より具体的には、このセパレータはCelguard2400(登録商標)タイプの膜でattendよい。
【0069】
本発明の電池の構成に含むことができる電解質の中で、いくつかは新規であり、これらの電解質は、少なくとも1種のスルホン溶媒と、無水物化合物の中から選択される少なくとも1種の添加剤と、少なくとも1種のリチウム塩とを含み、(1種又は複数種の)スルホン溶媒と混合物を形成する1種又は複数種の共溶媒をさらに含む、リチウムイオン伝導性電解質である。前記混合物は、EMS−DMC混合物、EMS−DEC混合物、TMS−DMC混合物、EC−EMS−DMC混合物、EMS−MIS−DMC混合物、EMS−EMC混合物、又はMIS−DMC混合物の中から選択される。
【0070】
特に、無水物添加剤は、環状又は非環状カルボン酸無水物化合物であってよく、無水物添加剤は、電解質の総質量に基づき0.01質量%から30質量%の範囲の含有量で存在することができる。
【0071】
より具体的には、コハク酸無水物、マレイン酸無水物、グルタル酸無水物、フタル酸無水物、安息香酸無水物、エタン酸無水物、プロパン酸無水物、ブタン酸無水物、cis−ブテン二酸無水物、ブタン−1,4−ジカルボン酸無水物、ペンタン−1,5−ジカルボン酸無水物、ヘキサン−1,6−ジカルボン酸無水物、2,2−ジメチルブタン−1,4−ジカルボン酸無水物、2,2−ジメチルペンタン−1,5−ジカルボン酸無水物、4−ブロモフタル酸無水物、4−クロロホルミルフタル酸無水物、3−メチルグルタル酸無水物、ヘキサフルオログルタル酸無水物、酢酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、2,3−ジフェニルマレイン酸無水物、2,3−ピラジンジカルボン酸無水物、3,3−テトラメチレングルタル酸無水物、ジフルオロフタル酸無水物、ベンゾグルタル酸無水物、フェニルコハク酸無水物、クロトン酸無水物、イサコ酸(iscoic)無水物、ペンタフルオロプロピオン酸無水物、プロピオン酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、イタコン酸無水物、2−メチレンブタン−1,4−ジカルボン酸無水物及びこれらの混合物の中から無水物添加剤を選択することができる。
【0072】
有利には、無水物添加剤はコハク酸無水物である。
【0073】
(1種又は複数種の)スルホン溶媒に関する特徴から、そのような電池についての説明に関する部分で(1種又は複数種の)リチウム塩について繰り返して言及することもある。
【0074】
本発明による特定の電解質が、
− EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−DEC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− TMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EC−EMS−DMC混合物(例えば、質量比率が1:1:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3:5)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、
− EMS−EMC混合物(例えば、質量比率が1:1)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質、又は
− MIS−DMC混合物(例えば、質量比率が2:3)と、コハク酸無水物(電解質の総質量に基づき1質量%)と、1MのLiPFとを含む電解質であってよい。
【0075】
限定としてではなく指標として与えられる以下の実施例を参照して、本発明についてこれから説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】実施例1の試験について、サイクル数Nによる20℃における容量C(mAh/g)の時間依存性変化を示すグラフであって、曲線a)は本発明による電池についての充電−放電曲線を示し、一方、曲線b)は本発明に準拠していない電池についての充電−放電曲線を示すグラフある。
図2】実施例2の試験について、充電段階及び放電段階を含む最初のサイクル中の電池の、20℃における容量C(mAh/g)に対する電位U(V)の時間依存性変化を示すグラフであり、前記段階は、20℃の開回路において14日間で中断され、(曲線a)は、本発明の第1の電池についての充電−放電、曲線b)は、本発明による第2の電池の充電−放電、曲線c)は、本発明に準拠していない電池についての充電−放電である)グラフある。
図3】実施例3の試験について、充電段階及び放電段階を含む最初のサイクル中の電池の、20℃における容量C(mAh/g)に対する電位U(V)の時間依存性変化を示すグラフであり、前記段階は、20℃の開回路条件において14日間で中断され、(曲線a)は、本発明の第1の電池についての充電−放電、曲線b)は、本発明による第2の電池の充電−放電、曲線c)は、本発明に準拠していない電池についての充電−放電である)グラフある。
図4】実施例4で説明する2つの試験を受けた本発明による電池の、20℃における容量C(mAh/g)に対する電位U(V)の時間依存性変化を示すグラフである。
図5】30サイクル時の時間t(秒で表す)に対する電位U(LTOに対するV)の時間依存性変化を、実施例5について示すグラフであって、各サイクルの曲線は本発明による電池についての上昇段階(これが充電段階に相当する)と、下降段階(これが放電段階に相当する)とを含むグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0077】
高電位電極を含むリチウムイオン電池用の少なくとも1種のスルホン化合物に基づく電解質における、添加剤としての無水物化合物の寄与を説明するために、以下の実施例を適用した。
【0078】
これらの実施例が目標とする目的は、
− (1種又は複数種の)炭酸エステル溶媒に基づく電解質と比較して、リチウムイオン電池における(1種又は複数種の)環状又は直鎖スルホン化合物に基づく電解質の性能を実証すること、
− リチウムイオン電池における(1種又は複数種の)直鎖又は環状スルホン化合物に基づく電解質における無水物添加剤の寄与を実証すること、
− 常に(1種又は複数種の)直鎖又は環状スルホン化合物に基づくが、炭酸エステル型の電解質用の従来の添加剤を含む電解質と比較した、(1種又は複数種の)直鎖又は環状スルホン化合物に基づく電解質における無水物添加剤の寄与によるリチウムイオン電池の性能向上を実証することである。
【0079】
これらの実施例においては、電解質の組成となる各構成要素の純度に対して特に注意を払う。とりわけ溶媒では、純度が99.9%未満となった瞬間から、蒸留した後分子ふるいで乾燥させる。
【実施例】
【0080】
実施例1
比較を目的とする本実施例は、
− 本発明による電解質(すなわち、1MのLiPF及び1質量%のコハク酸無水物(以後ASと記号で表す)を含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質)を用いたリチウムイオン電池の性能と、
− 本発明に準拠していない電解質(すなわち、1MのLiPF及び1質量%の炭酸ビニレン(以後VCと記号で表す)を含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質)を用いたリチウムイオン電池の性能とを比較する目的を有する。
【0081】
本実施例の提示は3つに分割される。
1°)本発明による電解質またその電解質を含む電池の作製
2°)本発明に準拠していない電解質またその電解質を含む電池の作製
3°)サイクル性能に関する結果
【0082】
1°)本発明による電解質またその電解質を含む電池の作製
a)成分の供給及び調製
エチルメチルスルホン(EMS)はTCI社(東京化成工業株式会社、日本)によって供給される。この溶媒を、質量分析と一体となったガスクロマトグラフィーによって確認される99.9%を超える純度を得るために蒸留する。
【0083】
次いで、エチルメチルスルホン(EMS)を、乾燥剤(分子ふるいとして)を含有するアルゴン下ガラス製バイアル内で調整する。HO濃度をカール−フィッシャー法によって定期的に測定する。HO濃度は20ppm未満である。
【0084】
その使用前に、その融点が高い(34℃程度)ため、エチルメチルスルホン(EMS)をあらかじめ60℃まで加熱する。
【0085】
「電池級」(すなわち、99.9%の純度)の炭酸ジメチル(DMC)はメルク(Merck)社のものである。溶媒は、その初期包装(すなわち、アルミニウム瓶)のままグローブボックス内において調整し、特別な処理を行うことなく使用する。
【0086】
コハク酸無水物(AS)がAlfa Aesar社によって供給される。添加剤は、その元の包装(すなわち、アルミニウム瓶)のままグローブボックス内において調整し、特別な処理を行うことなく使用する。
【0087】
塩LiPFはFluorochem社からである。この塩は、その元の包装(すなわち、プラスチック瓶)のままグローブボックス内において調整し、特別な処理を行うことなく使用する。
【0088】
b)電解質の開発
電解質の開発及び調製は、グローブボックス内乾燥アルゴン下で実現させる。
【0089】
第1段階において、溶媒EMS及びDMCを質量比率1:1に従って結び付ける。1Mの濃度が得られるまでLiPF塩を添加する。次に、電解質の総質量に基づき1質量%のコハク酸無水物の含有量が得られるように、コハク酸無水物を添加する。
【0090】
こうして得られる電解質をアルミニウムフラスコの中で調整し、その使用前に数時間保存する。
【0091】
この電解質は、誘電率が30近くであまり粘度が高くない(塩を含まない粘度が2mPa・s未満)解離混合物を形成する。
【0092】
ボタンセルにおける電気化学的評価前に電解質のHO含有量及びHF含有量(Schmidt−Oesten法によって測定される)を確認する。HO含有量は20ppm未満、HF含有量は50ppm未満である。
【0093】
c)電池の製造
2032型のボタンセルに電解質を導入する。
【0094】
ボタンセルの正極は、活物質LiNi0.4Mn1.6、Super Pカーボン、Tenax繊維及びポリフッ化ビニリデン結合剤(PVDF)をそれぞれ、質量含有率:89%、3%、3%及び5%の量で含み、これらの含有量は、正極の総質量に基づき表される。正極は、直径が14mmのディスクとして生じ、この電極はアルミニウムの集電体によって支持される。
【0095】
ボタンセルの負極は、活物質LiTi12、Super Pカーボン、Tenax繊維及びポリフッ化ビニリデン結合剤(PVDF)をそれぞれ、質量含有率:82%、6%、6%及び6%の量で含み、これらの含有量は、負極の総質量に基づき表される。負極は、直径が16mmのディスクとして出現し、この電極はアルミニウムの集電体によって支持される。
【0096】
正極及び負極は、その直径が16.5mmで厚さがそれぞれ20μm及び230μmであるディスクCelGard2400(登録商標)及びディスクViledon(登録商標)によって分離されている。2枚の上記ディスクで形成されるセパレータに、グローブボックス内でのボタンセルの組立時に電解質(150μm)を含浸させる。
【0097】
2°)本発明に準拠していない電解質の、またその電解質を含む電池の作製
コハク酸無水物(AC)を炭酸ビニレン(VC)に置き換えること以外は上記段落1°)と同様にして、電解質及びその電解質を含む電池を作製する。
【0098】
炭酸ビニレン(VC)はACros Organics社によって供給される。この炭酸ビニレンは、その元の包装(すなわち、ガラス瓶)のままグローブボックス内において調整し、特別な処理を行うことなく使用する。
【0099】
3°)サイクル性能に関する結果
段落1°)及び2°)で作製した電池を用い、充電容量及び放電容量の時間依存性変化を決定するために試験を行う。これらの試験は、C/5−D/5の条件下20℃で行う。
【0100】
結果は、サイクル数に対する容量C(mAh/g)の時間依存性変化を示す図1に示す。曲線a)は、本発明による電池についての充電−放電曲線を示し、一方曲線b)は、本発明に準拠していない電池についての充電−放電曲線を示す。
【0101】
本発明による電池は、添加剤として炭酸ビニレンを含む電池と比較して、優れたサイクル性を有すると明らかに思われる。
【0102】
実際、30サイクル後の容量は、本発明による電池では約123mAh/gであるが、添加剤として炭酸ビニレンを含む電池では、90mAh/g未満の値しか得られない。
【0103】
実施例2
比較を目的とする本実施例は、
− 本発明による電解質(すなわち、1MのLiPF及び1%のコハク酸無水物(以後ASと記号で表す)を含む質量比率で、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物を含む電解質)を用いたリチウムイオン電池の性能と、
− 本発明に準拠していない電解質(すなわち、1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質)を用いたリチウムイオン電池の性能とを比較する目的がある。
【0104】
本発明の電池は、実施例1の電池と同様にして作製する。
【0105】
本発明に準拠していない電池は、コハク酸無水物を添加しないこと以外は本発明による電池と同様にして作製する。
【0106】
これらの電池を用い、充電段階及び放電段階を含む最初のサイクル中の、上記電池の20℃における容量の時間依存性変化を決定することを目的として試験を行う。前記段階は20℃の開回路において14日間で中断され、図2に示すように、(曲線a)は、容量C(mAh/g)に対する本発明の電池についての充電−放電U(V)、曲線b)は、容量C(mAh/g)に対する本発明に準拠していない電池の充電−放電U(V)である。
【0107】
この図を考慮すると、本発明の電池は、本発明に準拠していない電池に対して自己放電現象(すなわち、開回路におけるその期間中の容量の損失)を低減させる可能性をもたらすことが明らかなようである。後者についての容量の損失は40%程度である。
【0108】
理論に束縛されることなく、様々な現象に対する最初のサイクルにより電池の自己放電(例えば、電解質の劣化、電気化学的ボート現象)が生じるとすぐに、本発明の電池により効率的な電極−電解質界面が形成される。
【0109】
実施例3
比較を目的とする本実施例は、
− 本発明による電解質(すなわち、1MのLiPF及び1質量%のコハク酸無水物(以後ASと記号で表す)を含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質)を用いた第1のリチウムイオン電池の性能と、
− 本発明による電解質(すなわち、1MのLiPF及び0.1質量%のコハク酸無水物(以後ASと記号で表す)を含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質)を用いた第2のリチウムイオン電池の性能と、
− 本発明に準拠していない電解質(すなわち、1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質)を用いたリチウムイオン電池の性能とを比較する目的がある。
【0110】
本発明による第1の電池は、実施例1の電池と同様にして作製する。
【0111】
本発明による第2の電池は、0.1質量%のコハク酸無水物しか添加しないこと以外は、実施例1の電池と同様にして作製する。
【0112】
本発明に準拠していない電池は、コハク酸無水物を添加しないこと以外は本発明による電池と同様にして作製する。
【0113】
これらの電池を用い、充電段階及び放電段階を含む最初のサイクル時の、上記電池の20℃における容量の時間依存性変化を決定することを目的として試験を行う。前記段階は20℃の開回路において14日間で中断され、図3に示すように、(曲線a)は、本発明の第1の電池についての容量C(mAh/g)に対する充電−放電U(V)、曲線b)は、本発明による第2の電池の容量C(mAh/g)に対する充電−放電U(V)、曲線c)は、本発明に準拠していない電池についての容量C(mAh/g)に対する充電−放電U(V)である。
【0114】
この図を考慮すると、本発明の電池は、本発明に準拠していない電池に対して自己放電現象(すなわち、開回路におけるその期間中の容量の損失)を低減させる可能性をもたらすことが明らかなようである。このことは、少量のコハク酸無水物(例えば、0.1%)の添加からでさえ明らかであって、1%のコハク酸無水物の添加についてこの場合効率は同じである(図3において曲線a)と曲線b)とは重畳している)。
【0115】
実施例4
本実施例は、実施例1で定義する本発明による電解質を含む電池の自己放電に、貯蔵前のサイクリングが及ぼす影響を実証することを目的とする。
【0116】
本実施例では2つの試験
− 電池を充電すること、電池を開回路に14日間置くこと、その後電池を放電することで構成される第1の試験(充電段階及び放電段階を示す図4の曲線a)U(V)対容量C(mAh/g)参照)と、
− 充電−放電4サイクル、電池の充電、電池を開回路に14日間置くこと、その後の電池の放電を行うことで構成される第2の試験(図4の曲線b)U(V)対容量C(mAh/g))とを進める。
【0117】
これらの試験は、充電ではC/5の条件を、放電ではD/5の条件を伴って20℃で行う。
【0118】
これらの試験の結果を図4に示す。
− 曲線a)、第1の試験の充電段階及び放電段階については、これらの充電過程が共に、電池を開回路に14日間置くことによって中断されている。
− 曲線b)、第2の試験の充電段階及び放電段階については、これらの充電過程が共に、電池を開回路に14日間置くことによって中断されている(充電−放電4サイクル過程はこの図には示されていない)。
【0119】
開回路に電池を置く前の電池の予備サイクル過程により、とりわけ、電極−電解質界面の改善によって、自己放電をより効率的に低減させる可能性がもたらされるように思われる。
【0120】
実施例5
本実施例は、実施例1で定義する本発明による電解質を含む電池のサイクル性能を実証することを目的とする。
【0121】
このために、該当する電池を、C/5−D/5の条件下、30回の充電−放電サイクルにかけた。
【0122】
充電−放電曲線は図5に示す。図5は、30サイクルの間の電位U(LTOに対するV)対時間t(秒で表す)の時間依存性変化を示し、各サイクルの曲線は上昇段階(これが充電段階に相当する)と下降段階(これが放電段階に相当する)とを含む。
【0123】
各曲線が同一の形状を有し、本発明による電解質を含む電池の優れたサイクル性能が認証される。
【0124】
さらに、30サイクル後の電池のクーロン効率は99.3%である。
【0125】
実施例6
本実施例は、
1°)無水物添加剤を含む(1種又は複数種の)スルホン溶媒に基づく電解質が、同じ(1種又は複数種の)スルホン溶媒を含むが添加剤を含まない電解質に対して、とりわけ、特定数のサイクル過程後の容量の損失に関して優れた性能を有することを、また
2°)無水物添加剤を含む(1種又は複数種の)スルホン溶媒に基づく電解質が、炭酸エステル型の電解質用の従来の添加剤を含む同じ(1種又は複数種の)スルホン溶媒を含む電解質と比較して、とりわけ、特定数のサイクル過程後の容量の損失に関して優れた性能を有することを実証する目的がある。
【0126】
項目1°)を実証するために、下記電解質を試験した。
− 1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質、
− 1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジエチル(以後DECと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質、
− 1MのLiPFを含む、テトラメチレンスルホン(以後TMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質、
− 1MのLiPFを含む、炭酸エチレン(以後ECと記号で表す)、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)、炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)の混合物(質量比率が1:1:3)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質、並びに
− 1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)、メチルイソプロピルスルホン(以後MISと記号で表す)、炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)の混合物(質量比率が2:3:5)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質。
【0127】
電解質は試験を適用する前に調製する。
【0128】
1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質は、実施例1及び2で説明したことに従って調製する。
【0129】
1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジエチル(以後DECと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質は、炭酸ジメチルを炭酸ジエチルに置き換えること以外は、実施例1及び2の実施態様と同様にして調製する。
【0130】
1MのLiPFを含む、テトラメチレンスルホン(以後TMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質は、エチルメチルスルホンをテトラメチレンスルホンに置き換えること以外は、実施例1及び2の実施態様と同様にして調製する。
【0131】
1MのLiPFを含む、炭酸エチレン(以後ECと記号で表す)、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)、炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)の混合物(質量比率が1:1:3)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質は、炭酸エチレンを添加すること以外は、実施例1及び2の実施態様と同様にして調製する。
【0132】
1MのLiPFを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)、メチルイソプロピルスルホン(以後MISと記号で表す)、炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)の混合物(質量比率が2:3:5)を含む電解質、及び同じ成分と、加えて1質量%のコハク酸無水物を含む電解質は、メチルイソプロピルスルホンを添加すること以外は、実施例1及び2の実施態様と同様にして調製する。
【0133】
実施例1で説明した電池と同じ性質のリチウムイオン電池について、これらの異なる電解質を試験する。20℃における最初の放電と30回目の放電との間の容量の損失の百分率を、条件C/5−D/5でそれぞれ決定する。クーロン効率も決定する。
【0134】
結果を以下の表に示す。
【0135】
この表を考慮すると、溶媒の少なくとも1種がスルホン溶媒である溶媒の混合物を含む電解質では、無水物添加剤の添加により、かなりの回数のサイクル過程後の電池の容量の損失を低減させる可能性がもたらされると明らかに思われる。
【0136】
クーロン効率に関しては、無水物添加剤が存在するかどうかにかかわらず同じ桁数のままである。これにより、この添加剤は今回の基準に悪影響を及ぼさないことが確認される。
【0137】
項目2°)を実証するために、1MのLiPF及び1質量%のコハク酸無水物を含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質、並びに1MのLiPF及び1質量%の炭酸ビニレンを含む、エチルメチルスルホン(以後EMSと記号で表す)と炭酸ジメチル(以後DMCと記号で表す)との混合物(質量比率が1:1)を含む電解質を試験した。
【0138】
後者については、容量の損失が30%で、これにより、炭酸ビニレン添加剤と比較して電解質における無水物添加剤の効率が確認される。
【0139】
実施例7
本実施例は、
1°)無水物添加剤を含む(1種又は複数種の)スルホン溶媒に基づく電解質が、同じ(1種又は複数種の)スルホン溶媒を含むが添加剤を含まない電解質と比較して、とりわけ、特定数のサイクル過程後の容量の損失に関して優れた性能を有することを、また
2°)無水物添加剤を含む(1種又は複数種の)スルホン溶媒に基づく電解質が、炭酸エステル溶媒を含むだけの電解質と比較して、とりわけ、自己放電及び不可逆性に関して優れた性能を有することを実証する目的がある。
【0140】
項目1°)を実証するために、実施例6の項目1°)の電解質と同じ電解質を、加えてAs0.1%を含むEMS/DMCでLiPFが1Mの電解質と共に使用する。
【0141】
これらの電解質は、実施例6の電解質と同様に電池に組み込まれる。20℃で、開回路に置いて14日後の充電容量C充電14OCV(mAh/g)、開回路に置いて14日後の放電容量C放電14OCV(mAh/g)、自己放電パーセント%自己、及び第1の充電過程の容量と開回路に置いて14日後の第2の充電過程の容量との間の不可逆性パーセント%不可逆がそれぞれ決定された。
【0142】
結果は以下の表に記載されている。
【0143】
無水物添加剤の導入により、自己放電の性能が大幅に改善され、とりわけ、スルホン溶媒を含む二元混合物により自己放電現象が約半分に低減される。
【0144】
項目2°)を実証するために、1MのLiPF及び1質量%のコハク酸無水物を含む炭酸エステル溶媒の混合物EC/DMC(質量比率が1:1)を含む電解質を試験した。EMS/DMC電解質に対して、自己放電パーセントは明らかにより著しく(24対16)、これにより炭酸エステル溶媒を含むだけの電解質と比較して、(1種又は複数種の)スルホン溶媒に基づく電解質における無水物添加剤の添加の効率が実証される。
図1
図2
図3
図4
図5