【文献】
Jin Cら,Human Synovial Lubricin Expresses Sialyl Lewis x Determinant and Has L-selectin Ligand Activity,Journal of Biological Chemistry,,20121019,,2012年,Vol: 287, Nr: 43,Page(s): 35922 - 35933
【文献】
Fareed Jawed, ら,Effect of Recombinant Lubricin on Coagulation Parameters in Human Blood,The FASEB Journal,,20150401,,2015年,Vol: 29, Nr: suppl. 1,Page(s): 609.8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0004] 出願人らは、ラブリシンが、関節、腱及び軟骨、並びに眼の表面を潤滑する能力以外にも、ラブリシンの有用性が今まで認められてこなかった様々な症状の治療、防止又は回復のための治療薬として有用な可能性があることを見いだしてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[0005] 完全長ラブリシン又はPRG4は血清中に低濃度で存在し、いくつかの病理生化学的プロセスに関与する細胞結合を物理的に阻害する力学的遮断分子として作用し得ることが今では発見されている。これらには、転移、プラーク形成及び血栓形成が含まれる。PRG4は、フィブリン表面に添加したとき血小板及びマクロファージの凝集をうまく妨害する。その効果の機構はまだ完全に解明されておらず深く調べられてもいないが、本明細書の本発明者らはPRG4はビトロネクチンが通常結合する基質に結合すると推測している。このようにして、PRG4はビトロネクチン結合阻害剤として機能するだけでなく、露出した重度にグリコシル化された中央ドメインが露出したECM及び細胞表面(多形核顆粒球)に結合する保護コーティングとして機能し、表面潤滑剤及びマスキング剤として作用する。これらの実施形態では、これは多糖外被として機能し、天然の細胞−細胞及び細胞−マトリクス相互作用を阻害する。
【0006】
[0006] ビトロネクチンは、血清及び細胞外マトリクスに豊富に見いだされる分泌型糖タンパク質である。その他の生体分子の中でも、細胞表面、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、コラーゲン及び細胞外マトリクス(ECM)に結合し、細胞接着及び運動性を促進する。止血及び腫瘍悪性度に関与すると推測されている。これは、3つのドメイン:N末端ソマトメジンBドメイン、ヘモペキシンと相同な中央ドメイン及びヘモペキシンとまた相同なC末端ドメインを含む。
【0007】
[0007] 本発明は、免疫細胞、新生細胞又はがん細胞の結合、運動性及び凝集を力学的に妨害するために、適切にグリコシル化された、好ましくはチャイニーズハムスター卵巣などの宿主細胞におけるPRG4遺伝子の発現によって製造されたPRG4タンパク質を利用する。したがって、生理学的表面にPRG4をコーティングすると、いくつかの病理プロセスを妨害し、したがって、PRG4は治療及び予防的な状況におけるいくつかの新たな方法で使用することができる。
【0008】
[0008] したがって、本発明は、血栓症を軽減し、循環器の機能及び健康を改善する方法を包含する。負荷がかかる状況において境界潤滑として例示される境界層又は層形成によって転移を阻害する方法も提供する。これは固形腫瘍から脈管構造及び脈管構造から末梢へのがん細胞の運動性を妨害することができる。これはまた、血管内外科手術後の血管の再狭窄を遅らせるか又は阻害する。本発明はまた、移植拒絶反応を低下させるか又は排除する方法を提供する。本発明はさらに、手術後の線維症の発症を低下させる方法を提供し、例えば、術後に外科的切開又は経路を開放した状態にすることを企図する状況において、外科的に作製された穴、溝及び切開における瘢痕組織及び線維性増殖の形成を阻害するために使用することができる。多くの例の中でも、線維柱帯形成術において眼からの眼液の流動を維持し改善するために使用することができる。
【0009】
[0009] 特定の一態様では、本発明は、体の区画の表面に外来性PRG4境界潤滑剤が豊富なコーティングを適用することによって、体の区画へ、又は区画からの細胞の所望しない遊走を低下、阻害又は防止するための組成物及び方法を提供する。基本的に、PRG4は、細胞−細胞及び細胞−マトリクス相互作用を力学的に阻害し、それによって細胞−細胞接着を阻害する方法を提供する。PRG4は、ほ乳類において運動性細胞と組織との間の一時的な結合相互作用を阻害することができる。したがって、一態様では、本発明は、組織を通過する、組織内への、又は組織表面を横切る細胞の運動性が阻害されるように細胞と組織との間の一時的な引力相互作用を阻害するコーティングを提供するのに十分な量で、PRG4を運動性細胞又は組織の表面に適用することを含む。細胞は、新生細胞、非悪性新生細胞、がん細胞、線維芽細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球又は単球であってもよい。
【0010】
[0010] 一実施形態では、本発明は、それを必要とする患者の循環器系からの細胞の血管外漏出を低下させるか又は阻害する方法であって、PRG4の組成物を、PRG4と脈管構造の活性化した上皮細胞表面とが接触するのに十分な量で血管系に直接又は間接的に注射することによって投与して、生理学的に適合する媒体及び表面の少なくとも一部に結合したPRG4膜を生成することによる、方法を提供する。結果として、血管外漏出プロセスを阻害するか又は低下させるために有効な境界潤滑層が提供される。
【0011】
[0011] 一実施形態では、細胞は白血球又は新生細胞で、一方、別の実施形態では、細胞はがん細胞、例えば、前立腺がん細胞、乳がん細胞、肺がん細胞又は卵巣がん細胞である。別の実施形態では、投与したPRG4の量は、患者に0.3mg/kg〜3.0mg/kgのPRG4の服用量を提供する。この方法によれば、投与は、患者への直接又は間接的な注射によってなされる。注射には、局所的又は全身投与を実現する静脈内注射を含めることができる。注射は、患者の体の区画、例えば、患者の循環器系又は血管系に行ってもよい。
【0012】
[0012] 一実施形態によれば、阻害する又は低下させる血管外漏出現象は、がんの転移における1工程である。例えば、がん細胞の骨、リンパ、肺、脳又は肝臓への転移が、阻害されるか又は低下する。別の実施形態によれば、例えば、残存するがん細胞が体のその他の領域に転移するのを阻害するために、PRG4の投与は、がんの外科的処置、化学療法又は放射線療法と併用して行われる。
【0013】
[0013] 別の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者の血管外区画から循環器系への細胞の血管内侵入を低下させるか又は阻害する方法であって、生理学的に適合する媒体及びPRG4を含む組成物を、PRG4と細胞又は細胞を取り囲むマトリクスとが接触するのに十分な量で血管外区画に直接又は間接的に注射することによって投与して、細胞の表面又は取り囲むマトリクスに結合したPRG4膜を生成することによる、方法を提供する。結果として、細胞運動性又は血管内侵入の天然プロセスを阻害するか又は低下させるために有効な境界潤滑層が形成される。
【0014】
[0014] 一実施形態では、細胞は循環する新生細胞で、一方、別の実施形態では、細胞はがん細胞、例えば、前立腺がん細胞、乳がん細胞、肺がん細胞又は卵巣がん細胞である。別の実施形態では、投与したPRG4の量は、患者に0.3mg/kg〜3.0mg/kgのPRG4の服用量を提供する。この方法によれば、投与は、患者への直接又は間接的な注射による。注射には、局所又は全身投与を実現する静脈内注射を含めることができる。注射は、患者の血管外区画、例えば、腹腔内空間、組織又は器官又は腫瘍部位又は転移の可能性のある部位に行ってもよい。一実施形態では、阻害した又は低下させた血管内侵入現象とは、原発腫瘍の循環器系又はリンパ系への転移である。
【0015】
[0015] さらに別の態様では、本発明は、循環器系の機能及び健康を維持又は改善する方法であって、PRG4及び生理学的に適合する媒体を含む組成物の維持量を、循環器系に直接又は間接的に注射することによって投与することによる、方法を提供する。この量は、血管系内のストレスを与えられた内皮表面又はプラークにPRG4の境界潤滑層を形成するのに十分な濃度を送達するために十分である。
【0016】
[0016] この方法の一実施形態では、投与したPRG4の量は、患者において0.3mg/kg〜3.0mg/kgの間の濃度を提供するために十分である。別の実施形態では、注射は、全身静脈内注射であるか、又は血管系内のストレスを与えられた内皮表面若しくはプラークの部位での局所的な注射である。さらに別の実施形態では、PRG4は、血管系内の流動の不安定性を低下させることによって循環器系の機能を改善する。
【0017】
[0017] 別の実施形態によれば、本発明は、血管血栓形成を阻害するか又は低下させる方法であって、PRG4及び生理学的に適合する媒体を含む組成物の維持量を、患者の循環器系に直接又は間接的に注射することによって投与することによる、方法を提供する。この量は、フィブリン及び/又はその中に存在する血小板にPRG4の境界潤滑層を形成するのに十分な濃度を送達するために十分である。
【0018】
[0018] この方法の一実施形態では、投与したPRG4の量は、患者において0.3mg/kg〜3.0mg/kgの間の濃度を提供するために十分である。別の実施形態では、注射は、全身静脈内注射であるか、血栓症の部位又は血栓症を発症する危険性のある部位での局所的な注射である。例えば、この部位は、凝固形成が起こり得る損傷又は組織損害の部位、深部静脈血栓症を発症する部位であってもよく、又は胚塞栓症の形成を防止若しくは低下させるために肺においてであってもよい。
【0019】
[0019] さらに別の実施形態では、本発明は、血管内手術後の血管再狭窄を阻害する方法であって、PRG4及び生理学的に適合する媒体を含む組成物を、患者の循環器系に全身的に又は手術の部位に局所的に注射することによって投与することによる、方法を提供する。PRG4は、血管系内の部位の内皮表面にPRG4の境界潤滑層を形成するのに十分な濃度を提供するのに十分な量で提供される。
【0020】
[0020] 別の実施形態では、血管内手術は、バルーン血管形成術又はステント挿入である。さらに別の実施形態では、投与したPRG4の量は、患者において0.3mg/kg〜3.0mg/kgの間の濃度を提供するために十分である。
【0021】
[0021] さらに別の態様では、本発明は、切開の開存を維持して切開部位での線維症を防止又は制限するための、患者における外科的切開を治療する方法であって、生理学的に適合する媒体中のPRG4を切開部位に投与することを含み、それによってラブリシンがマクロファージの外科的切開部位への接着を防止し、その部位での線維症が防止又は制限される、方法を提供する。一実施形態によれば、ECM及び/又は組織の細胞に非共有的に接着し、潤滑ドメインが組織表面から上方に向いた、好ましくは最密ラブリシン分子のコーティングを組織表面に提供するのに十分な媒体中の濃度でPRG4を投与する。
【0022】
[0022] 一実施形態では、外科的切開は眼の線維柱帯網においてである。したがって、本発明は、手術によって導入された眼の線維柱帯構造体を通過する経路の開存及び機能を改善するために、高眼圧症又は緑内障に罹患している患者を治療する方法を提供する。この方法には、線維柱帯網を通過する、又は近くにある手術部位の表面に、手術によって導入された経路を通過する眼房水の流動を促進するのに十分な濃度で生理学的に適合する媒体中のPRG4を含む組成物を適用することが含まれる。この方法は、線維柱帯網内の経路の部位での線維による目詰まり及び閉塞の症例を低下させる。
【0023】
[0023] さらなる実施形態では、本発明は、器官又は組織の線維症を治療、防止する又はその進行を遅らせる方法であって、線維症に罹患した、又は線維症の危険性がある患者に、好ましくは局部的に、生理学的に適合する媒体中のPRG4を線維症の危険性がある部位に直接又は間接的に投与することを含み、それによってPRG4がその部位でのマクロファージの接着を阻害し、線維症が予防される又はその進行を遅らせる、方法を提供する。
【0024】
[0024] さらに別の実施形態では、本発明は、移植拒絶反応を阻害する方法であって、移植した器官又は組織の外面及び/又は移植した器官又は組織を含有する体の区画の表面及び/又は移植した器官又は組織を有する患者の脈管構造に、PRG4及び生理学的に適合する媒体を含む組成物を、細胞表面とPRG4とが接触するのに十分な濃度で投与して、表面に結合したPRG4膜を生成し、それによって正常な細胞−細胞相互作用を阻害するのに有効な境界潤滑層を提供して前記移植した器官又は組織の拒絶反応を阻害することを含む、方法を提供する。本発明によれば、移植した器官又は組織は、限定はしないが、肝臓、腎臓、心臓、肺、眼の組織、腱又は皮膚であってもよい。
【0025】
[0025] 本発明の実施形態のいずれにおいても、患者はヒト患者であってもよい。
【0026】
[0026] さらなる実施形態では、本発明は血液を処理する装置、特に、血液と接触する装置の部分又は区画を対象とし、ラブリシンでコーティングする。この装置には、透析装置又は人工心肺装置又は輸血及び血液試料を処理する装置を含めることができる。さらに別の実施形態では、バイアル、IV袋又はその他の容器などの血液試料を保持し、処理するための容器をPRG4でコーティングする。
【発明を実施するための形態】
【0028】
説明
[0035] これまでPRG4の機能のほぼ全てが、接合する関節の間の摩耗防止及び眼の角膜と結膜との間などの境界組織の潤滑に関連するものであった。おそらく、血管内皮多糖外被の主要な成分(シンデカン、グリピカン、ペルレカン、バーシカン、デコリン、バイグリカン及びミメカンと共に文献で報告されたヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸及びヒアルロン酸などのGAG(例えば、Weinbaum S, Tarbell JM, Damiano ER, Annu. Rev. Biomed. Eng. 2007. 9:121-67 & Pflugers Arch - Eur J Physiol (2007) 454:345-359))はPRG4に含まれないので、本発明において記載した目的及び使用のためにPRG4タンパク質などの全身性の境界潤滑剤を使用することは、本出願人の知る限りでは今までに示唆されたことはない。
【0029】
[0036] 関節の維持におけるPRG4の機能的重要性は、ヒトにおける屈指症−関節症−内反股−心膜炎(CACP)疾患症候群を引き起こす変異によって示された。CACPは、内反股変形、心膜炎及び胸水滲出を伴う屈指症、非炎症性関節症及び肥大性滑膜炎によって顕在化する。また、PRG4欠損マウスでは、軟骨劣化及びその後の関節症が認められた。したがって、PRG4発現は、健康な滑膜関節に必要な成分である。
【0030】
[0037] 本明細書で主張した本発明では、PRG4を使用して局所的(体の特定の区画内)又は全身的(脈管構造内)に境界潤滑を補給することによって転移の低下を実現する。PRG4は内皮表面に結合し、細胞運動性機構を阻害し、例えば、表面を横切る、組織を貫通する、又は生理学的区画の間の細胞の所望しない遊走を防止するためのインビボにおける装置又は薬剤として使用することができる。
【0031】
[0038] 潤滑の物理化学的形態は、「流体層」又は境界に大別されたことがある。生物システムにおいて、作動潤滑形態は、接合組織に対する垂直応力及び接線力、これらの表面間の接線運動の相対速度、並びに負荷及び運動両方の時間履歴に左右される。摩擦係数μは、定量的基準を提供するものであり、垂直応力に対する接線の摩擦力の比として定義される。流体が媒介する潤滑形態の1種は流体静力学である。負荷の開始時及び通常長期にわたって、組織の2相性の性質によって、間質液が加圧され、流体はまた滲出機構によって関節表面間の凸凹に押し出されることがある。したがって、加圧された間質液及び捕捉された潤滑剤プールは、剪断力に対してほとんど抵抗せずに垂直荷重を受け、容易にμを低くするように著しく寄与し得る。また、負荷及び/又は運動開始時に、水力学的及び弾性水力学的な流体層潤滑であるスクイーズフィルムが生じ、相対運動における2つの表面の間の隙間から、及び/又は隙間を通って粘稠な潤滑剤を追い出すように加圧、運動及び変形作用が伴う。
【0032】
[0039] 場合によっては、流体圧力/層対境界潤滑が生じる適切な範囲は、いくつかの要素に左右される。潤滑層が整合する摺動面の間を流動し、弾力的に変形することができるとき、弾性水力学的潤滑が生じる。完全な流体潤滑が破壊し始めて潤滑が新たな状況に入るとき、圧力、表面粗さ及び相対的滑り速度が求められる。速度がさらに減少すると、接合表面に接着する潤滑層が寄与し始め、混じり合った潤滑の状況が生じる。速度がさらにもっと減少する場合、2、3個の分子から構成される超薄な1層のみの潤滑層が残存し、境界潤滑が生じる。したがって、ある種の場合では、境界形態の潤滑は、相対的滑り速度及び軸負荷などの流体層の形成に影響を及ぼす要素とは関係のない定常滑り中の摩擦係数によって示される。関節軟骨などの体内のある種の組織では、境界潤滑が生じ、流体加圧及びその他の機構が境界潤滑を補うと結論づけられた。伝統的な境界潤滑理論では、負荷時間が増加し、静水学的圧力が散逸すると、潤滑剤でコーティングした表面は、加圧された流体に対する負荷のますます多くの部分に耐えられるようになり、結果的にこの形態はますます有力になり得る。
【0033】
[0040] 本明細書の本発明者らは、脈管構造を通過する血流及びリンパ流の速度特性は、境界潤滑に理想的な状態を作り出すには速度が半径方向に低下し、同時に血管壁近くの血圧が増加することを説明するために、流体力学で使用される滑りなし条件に近いことを認識した。糖タンパク質が結合した表面は内皮細胞への剪断応力の伝達に大いに関与すること、及びこの剪断の力学的シグナル伝達は細胞形態、一酸化窒素(NO)産生、細胞骨格再構築及びヒアルロナン含量の適切な制御に必要であることも認識される(Pflugers Arch - Eur J Physiol (2007)454:345-359)。特に、剪断力の低い、不安定な振動流の領域は、アテローム性動脈硬化になりやすく、NO産生が不十分で、ヒアルロニダーゼが増加する。同様に、剪断伝達の改善には多糖外被の厚さ及びヒアルロナン含量の増加が関連する。正常組織内の層流は厚さ約400nmの多糖外被を生じ、一方、乱流に晒された流域は、100ナノメートル未満の薄いコーティングを示した(van den Berg BM, et al. (2006) Am J Physiol Heart Circ Physiol 290:H915-H920)。
【0034】
[0041] したがって、本発明は、その他の態様の中でも、通常脈管構造に導入することによって外来性の組換え型表面結合潤滑剤PRG4を適用して、1)細胞と細胞界面との間に境界潤滑の増加(並びにその下にある受容体、インテグリン及びセレクチンなどの立体的遮蔽)を提供して、区画間の細胞の血管外漏出(例えば、回転、接着、遊出/血管外遊出)を防止又は実質的に低下させること、2)内在性の露出した内皮細胞に結合して、下にある細胞への剪断の伝達を改善すること(例えば、力学的シグナル伝達を改善し、一酸化窒素産生を改善し、内在性多糖外被の産生を改善する)、3)多糖外被をさらに管腔に伸長させ、流動を滑らかにし、振動、不安定さを低下させ、層流を改善すること、並びに4)多形核顆粒球上のL−セクレチンへの結合を防止するために、内在性の異常なPRG4と置換、遮蔽又は競合することを企図する。
【0035】
[0042] 本明細書で開示したように、PRG4は脈管構造の壁に沿って境界潤滑を形成することができる。いくつかの実施形態では、PRG4はがん細胞などの細胞の血管外漏出から末梢組織を保護し、下にある内皮への剪断応力の伝達を助け、表面粗さを低下させて流体の不安定性を低下させる。
【0036】
[0043] この方法及び組成物を使用して、様々な特異的療法及び組成物を開発することが可能で、病理の発生に以下の作用形態、1)体の1つの区画から別の区画への細胞の経路、2)露出した細胞外マトリクス又はフィブリンへのマクロファージの接着、3)フィブリンへの血小板の結合、或いは4)露出した上皮細胞表面、例えば、脈管構造内での多糖外被の機能不全の1つ又は複数が関与する場合、外科手術に利用することができる。これらの場合、PRG4タンパク質は細胞外マトリクス又は細胞表面に接着し、細胞運動性、血管外漏出又は血管内侵入の機構を遮断する短い多糖鎖でグリコシル化された表面を提示し、血小板の固着を阻害し、及び/又は天然の多糖外被の代わり又は模倣体として役立つ。例として、PRG4は、がんの転移を阻害し、それによって体の生理学的区画内への、又は区画外へのがん細胞の所望しない遊走を防止するために使用することができる。別の例として、PRG4は、免疫細胞の結合、運動性及び凝集を力学的に妨害し、血管内血栓症の形成を阻害するために利用することができる。最も一般的には、本発明は、インビボにおいて境界潤滑剤として振る舞う外来性PRG4タンパク質を組織表面に直接又は間接的に適用することによってこれらの効果を実現する。
【0037】
[0044] 本明細書で主張した本発明では、PRG4を使用して局所的(特定の体の区画内)又は全身的(脈管構造内)に境界潤滑を補給することによって転移の低下を実現する。PRG4は内皮表面に結合し、細胞運動性機構を阻害し、例えば、生理学的区画の間の細胞の所望しない遊走を防止するためのインビボにおける装置又は薬剤として使用することができる。
【0038】
[0045] 本明細書では、「体の区画」又は「生理学的区画」とは、組織によって物理的にその他から分離され、関心のある組織又は系を収容する任意の場所のことである。固形腫瘍の場合、この区画は腫瘍境界を直に取り囲む組織である。外科的に適用された切開の場合、例えば、低侵襲緑内障手術中に、切開によって残された空隙を含む。閉塞角緑内障手術の場合、区画は前房と定義される。移植拒絶反応を防止する場合、区画は移植を取り囲む組織である。再狭窄を阻害する場合、区画はステント又はその他の外科的侵襲を受ける血管の内側である。
【0039】
[0046] がん細胞は転移部位にうまくコロニー形成するために、細胞外マトリクス分解プロテアーゼを使用して原発腫瘍から脱離し、血管内に侵入し、循環中生存し、免疫応答を回避し、脈管構造から血管外へ遊出して、標的組織実質に侵入し、そこで転移巣を確立しなければならない。本発明の方法を使用して、血管内侵入、すなわち、細胞の組織から血液又はリンパへの移動の発生を防止するか又は低下させることができる。これらの細胞に関して、本発明の方法を使用して、血管外漏出、すなわち、血液から体の組織及び器官への細胞の移動の発生を防止するか又は低下させることもできる。特に、本発明の方法を使用して、がん及び新生細胞のリンパ、肺、肝臓、脳及び/又は骨への転移を防止することができる。これらは、原発腫瘍による転移の最も一般的な体の組織であるが、本発明の方法を使用してその他の器官及び組織への転移を防止又は低下させることができる。
【0040】
活性化PRG4部分
[0047] ラブリシンは潤滑ポリペプチドであり、ヒトにおいて巨核球刺激因子(MSF)遺伝子から発現し、PGR4としても知られている(NCBI寄託番号AK131434−U70136を参照のこと)。ラブリシンは、体の接合表面をコーティングする遍在性の内在性糖タンパク質である[Jay GD 2004]。ラブリシンは、高い表面活性を有する分子で(例えば、水上で保持される)、主に強力な細胞保護的抗接着剤及び境界潤滑剤として作用する。分子が組織表面に接着して組織表面を保護するのを可能にする、末端タンパク質ドメイン間に位置する中央の長いムチン様ドメインが特徴である。調査したほ乳類全てにおいて、その天然型は、KEPAPTTと少なくとも50%同一のアミノ酸配列の複数の反復を含有する。天然のラブリシンは通常、この反復の複数の重複型を含むが、通常、プロリン及びトレオニン残基を含み、ほとんどの反復において少なくとも1個のトレオニンがグリコシル化されている。トレオニンにアンカーされたO結合糖側鎖はラブリシンの境界潤滑機能に不可欠である。側鎖部分は通常、β(1−3)Gal−GalNAc部分で、β(1−3)Gal−GalNAcは通常、シアル酸又はN−アセチルノイラミン酸で覆われている[Jay GD 2001]。ポリペプチドはまた、N結合オリゴ糖を含有する。天然に生じる完全長ラブリシンをコードする遺伝子は、12個のエキソンを含有し、天然に生じるMSF遺伝子産物は、1,404個のアミノ酸を含有し、ヘモペキシン様及びソマトメジン様領域を含むビトロネクチンに対して複数のポリペプチド配列相同性を有する。中央に位置するエキソン6は、940個の残基を含有する。エキソン6は、反復が多いO−グリコシル化ムチンドメインをコードする。
【0041】
[0048] 潤滑ポリペプチドのタンパク質主鎖のアミノ酸配列は、ヒトMSF遺伝子のエキソンの選択的スプライシングによって異なっていてもよい。ラブリシンは基本的な力学的機能を果たすので、その微細な3次構造は受容体への結合を制御する巧妙な立体化学に依存するサイトカイン又は抗体などのタンパク質ほど重要ではない。この不均一性に対するロバスト性は、研究者らが中央ムチンドメインの474個のアミノ酸が欠如したラブリシンの組換え型を生成したときでも、弱くなってはいるが適当な潤滑を実現することによって例示された[Flannery CR 2009]。PRG4は、単量体としてだけではなく、N及びC末端の両方が保存されたシステイン豊富なドメインによってジスルフィド結合した二量体及び多量体としても存在することが示された[Schmidt TA 2009]。Lμbris、LLCは、ヒトラブリシンの完全長組換え型を開発した。この分子は、Selexisチャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO-M)を使用して発現させ、最終的な見かけ上の分子量は450〜600kDaで、多分散系多量体はしばしば2,000kDa以上で測定され、いずれもSDSトリス−酢酸3〜8%ポリアクリルアミドゲルで分子量標準物に対して比較することによって概算した。グリコシル化全体のうち、分子の約半分が2つの糖単位(GalNAc-Gal)を含有し、半分は3つの糖単位(GalNAc-Gal-シアル酸)を含有する。
【0042】
[0049] 様々な天然及び組換えPRG4タンパク質及びアイソフォームのいずれか1つ又は複数を、本明細書で記載した様々な実施形態で利用することができる。例えば、米国特許第6,433,142号、第6,743,774号、第6,960,562号、第7,030,223号及び第7,361,738号は、ヒトPRG4発現生成物の様々な形態の作製方法を開示しており、参照によりそれぞれを本明細書に組み込む。本発明の手法で使用するために好ましいのは、CHO細胞で発現した完全長、グリコシル化、組換えPRG4又はラブリシンである。このタンパク質は、1404個のアミノ酸(
図6;配列番号1参照)を含み、O結合β(1−3)Gal−GalNAcオリゴ糖で様々にグリコシル化された配列KEPAPTTの反復を含む中央エキソン並びにビトロネクチンと相同なN及びC末端配列を含む。この分子は、個々の分子のグリコシル化パターンが変化した多分散系で、単量体種、二量体種及び多量体種を含むことができる。
【0043】
[0050] 本明細書では、「PRG4」という用語は、「ラブリシン」という用語と同義に使用する。広義には、これらの用語は、任意の機能的に単離された、又は精製された天然又は組換えの適切にグリコシル化されたPRG4タンパク質、それらのホモログ、機能的断片、アイソフォーム及び/又は変異体を意味する。有用な分子はいずれも、エキソン6によってコードされる配列、又はそれらのホモログ若しくは切断変種、例えば、この中央ムチン様KEPAPTT反復ドメイン内の反復が少ない変種を、O結合グリコシル化と共に含む。有用な分子はいずれも、エキソン1〜5及び7〜12によってコードされる配列、すなわち、ECM及び内皮表面に対する親和性を分子に付与することに関与する配列の少なくとも生体活性部分も含む。ある種の実施形態では、好ましいPRG4タンパク質は、平均モル質量が50kDa〜500kDaの間、好ましくは224〜467kDの間で、PRG4タンパク質の1個若しくは複数の生体活性部分又は潤滑断片などの機能的断片又はそれらのホモログを含む。より好ましい実施形態は、PRG4タンパク質は、平均モル質量が220kDaから約280kDaの間の単量体を含む。
【0044】
[0051] PRG4タンパク質の単離、精製及び組換え発現の方法は当業界では周知である。ある種の実施形態では、この方法は、PCR又はRT−PCRなどの標準分子生物学技術を使用して、PRG4タンパク質又はアイソフォームをコードするmRNA及びcDNAのクローニング及び単離で開始する。PRG4タンパク質又はアイソフォームをコードする単離されたcDNAは次に、発現ベクターにクローニングし、組換えPRG4タンパク質を産生するために宿主細胞で発現させ、細胞培養上清から単離する。
【0045】
[0052] PGR4構築物の特定の形態は、化学走性及び細胞運動性を生体外で効率的に阻害する能力を容易に試験することができる。細胞運動性を妨害するかどうかの測定及び応答の強度の測定の測定を可能にする多種多様な定性的及び定量的アッセイ技術が知られている。例えば、Boydenの独創的な研究、The Chemotactic Effect Of Mixtures Of Antibody And Antigen On Polymorphonuclear Leucocytes、J Exp Med.1962 February 28;115(3):453〜466を参照のこと。
【0046】
[0053] 本発明の手法で使用するために、PRG4は担体中で製剤化し、例えば、リン酸緩衝生理食塩水に1μg/mL〜10mg/mL、より好ましくは100〜500μg/mLの濃度範囲で懸濁してもよい。特定の使用に応じて、PRG4は非経口的に、例えば、注射によって、毎日、毎週、又は毎月投与する。バルーン血管形成術及び/又はステント挿入などの血管手術の間に、全身に配分するために脈管構造を通じて、又は脈管構造内で局所的に投与してもよい。例えば、内視鏡手術又は開放創手術中に、体の区画に注射してもよい。それぞれの場合におけるその効果は、細胞又はECM表面に結合して細胞の運動性及び化学走性の阻害を引き起こすことである。さらにその他の実施形態では、PRG4はヒアルロン酸(HA)などの境界潤滑系のその他の成分、ヘパリンなどの抗凝固剤、コンドロイチン硫酸若しくはヘパラン硫酸などのGAG、又はTIMP(メタロプロテイナーゼの組織阻害剤)、好ましくは、TIMP1、TIMP2、TIMP3若しくはTIMP4と組み合わせる。
【0047】
[0054] このようなPRG4組成物は、以下の方法で、以下の効果を実現するために使用することができる。
【0048】
アテローム性動脈硬化の阻害
[0055] 様々な研究によって、アテローム性動脈硬化は動脈の脈管構造内の剪断応力が低い領域で見いだされることが明らかになった。このような位置では、内皮における一酸化窒素合成酵素産生の低下及び同時に生じるVCAM−1接着因子の上方制御によって、動脈硬化プラークにおける単球の接着の増加が引き起こされる(Cheng C., et al. Cell Biochemistry and Biophysics, 2004;41:279-294)。この増加の原因は、マクロファージの蓄積であることを確かめることができる。本発明の実施形態は、PRG4がマクロファージ蓄積を阻害し、実際にほとんど完全に防止し(
図5A〜C)、それによって動脈硬化プラークの形成及び成長を妨害し、さらにプラーク破裂の可能性を低下させる能力を利用する。
【0049】
[0056] 本発明の実施形態では、脈管構造全体に注射されたPRG4はまた、マクロファージが蓄積しやすいプラークの上流及び下流に結合し、接着因子を遮蔽し、流動の不安定さを低下させ、粒子凝集を防止し、したがってその滑りやすい特性に加えてこれらの要素によってさらなるマクロファージ結合を防止する。
【0050】
ステント手術及びバルーン血管形成術における再狭窄及び血栓症の軽減
[0057] 再狭窄は部分的には、マクロファージ蓄積を助長しやすい低い剪断応力が原因である。次に、マクロファージは、弾力のある膜の分解を媒介し、最終的に新生内膜過形成、血管細胞接着分子−1の発現増加及び一酸化窒素産生の減少を引き起こす。対照的に、より高い剪断応力はマクロファージ蓄積及び弾力のある膜のタンパク質分解を低下させる(Carlier SG, et al. Circulation 2003;107:2741-2746)。したがって、本発明の一実施形態では、循環器系に注射した、又は手術中に血管内手術部位に灌注したPRG4は、内皮及び露出された細胞外マトリクスに局所的に結合する。これは、マクロファージ蓄積を阻害又は防止し、「再構築された」多糖外被による剪断力学的シグナル伝達を改善し、適切な内皮遺伝子発現を回復させて再狭窄を著しく阻害する結果をもたらすのに役立つ。
【0051】
転移の軽減
[0058] 1次接近において、転移性腫瘍細胞は遊走及び侵入を実現するために機能的な細胞運動性機構を必要とする。がん細胞遊走は正常な遊走に類似しているが、よりランダムな様式である。転移細胞は、糸状仮足又は幅の広い葉状仮足を伸ばし、細胞外マトリクス又は、膜貫通受容体によって隣接する細胞のアクチン細胞骨格に接着し、それによって細胞自体を接着した突起の方向へ引っ張るか、又はLauffenburger DAらによって記載されたように、運動には形態極性化、膜伸展、細胞と基層との付着の形成、収縮力及び牽引、並びに付着の分離が必要である(Lauffenburger DA, et al. Cell 1996; 84(3):359-369 and Hongyu Z, Crit Rev Eukaryot Gene Expr. 2010; 20(1): 1-16)。基本的に、がん細胞は接着指を伸ばし、自分自身を前へ引っ張ることによってゆっくり動く。通常、悪性腫瘍のみが転移すると考えられているが、今では非悪性腫瘍も転移することができると考えられている。したがって、この方法は悪性及び非悪性の新生細胞両方に適用することができる。本発明によれば、細胞界面をコーティングし、がん細胞が細胞と基層との付着を形成するのを防止するために、腫瘍を切除した空間の周辺、又は普通ならば手術不能の、若しくは位置が突き止められた固形腫瘍の周囲、又は循環器系内に、強力な境界潤滑剤であるPRG4を注射する。この実施形態によれば、目的は、腫瘍細胞が付着できず、ゆっくり動くことができず、したがって遊走又は侵入が実現できないように、運動阻害剤としてPRG4を提供することである。腫瘍には、転移のプロセスを反復するために、通常、広範な血管内侵入及び血管外漏出、その後の増殖及び血管新生が関与することも認識されている。本発明の実施形態では、全身又は局所的に適用したPRG4は、腫瘍細胞の血管内侵入又は血管外漏出を防止するために使用する。
【0052】
[0059] 一連の研究はまた、血栓症とがんの進行との間には強い関係があることを示唆しており、いくつかの研究は血液凝固系の乗っ取りは腫瘍細胞の生存及び拡散に不可欠であり得ることを示唆しており、特に、フィブリン及び血小板はナチュラルキラー細胞による腫瘍細胞の排除を妨止するものと考えられる(Palumbo JS, et al. Blood 2005; 105: 178-85, Bakewell SJ, et al. PNAS 2003;100:14205-14210, Lazo-Langer A, et al., Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2007;5:729-737)。臨床研究によっても、フィブリノーゲン欠損動物モデルでは、原発腫瘍増殖及び血管新生は影響を受けなかったが、肺及び局部リンパ節における自発性の肉眼的転移の発生が低下すること示された(Palumbo JS, et al., Cancer Res 2002;62:6966-6972)。また腫瘍細胞は、局所的な血小板-フィブリン沈着を使用して、高剪断環境内での腫瘍細胞の持続的接着を支持し、細胞増殖の手段を提供する可能性があるという仮説も立てられている(Palumbo JS, et al. Blood 2005; 105: 178-85)。したがって、本発明は、PRG4が血小板及びフィブリンの結合をほぼ完全に阻害し(
図2A〜B、3A〜C)、循環する腫瘍細胞又は固形腫瘍細胞の転移の可能性を妨害する能力を使用する。さらに、本発明は、PRG4をコーティングした表面の境界特性はまた、腫瘍侵入に不可欠のセレクチン及びインテグリンが媒介する血小板活性を妨げることを示唆する。好ましい一実施形態では、腫瘍の転移の可能性を最小限に抑え、周囲の区画への腫瘍細胞の血管外漏出を防止するために、PRG4タンパク質を手術不能の固形腫瘍、例えば、位置づけが不十分な脳腫瘍又は喉の重要臓器近くの腫瘤の部位の周辺に注射することができる。特に、本発明は、原発腫瘍の血管外漏出及び転移性腫瘍の最も一般的な位置である肺、リンパ、肝臓、骨及び脳への転移の防止又は低下を企図する。
【0053】
[0060] 例えば、本発明の特定の一実施形態では、ラブリシンは、原発腫瘍の骨への侵入から生じる転移性骨疾患としても知られている骨転移の治療、緩和又は防止に使用する。骨組織は、がん転移の一般的な位置である。転移を引き起こす原発腫瘍は、例えば、肺がん、前立腺がん又は乳がんであってもよい。本発明によれば、骨転移の治療は、骨転移に罹患した、又は骨転移を発症する危険性がある患者に対するラブリシンの投与を含む。ラブリシンは、例えば、患者において非骨原発腫瘍が診断されたとき、骨転移の可能性を防止又は低下させるための予備治療として患者に投与してもよい。ラブリシンはまた、骨転移を防止、治療又は緩和するために、原発腫瘍又は転移性がんを治療するための化学療法剤又は放射線療法の投与と併用して患者に投与してもよい。一実施形態によれば、ラブリシンは、転移部位若しくは可能性のある転移部位に注射することによって骨に局所的に投与されるか、又は患者に全身投与される。一実施形態では、患者は好ましくはヒト患者である。
【0054】
[0061] ラブリシンはまた、卵巣がん転移を治療又は防止するために使用してもよい。卵巣がんは、腫瘍細胞を腹膜の内側を覆う中皮層に播種することによって転移すると考えられている。したがって、一実施形態では、ラブリシンは卵巣がんを有する患者に投与する。一実施形態では、ラブリシンは全身的に投与し、別の実施形態では、ラブリシンは患者の卵巣腫瘍領域の腹膜に投与する。患者は、一実施形態ではヒト患者である。
【0055】
[0062] 本発明によるラブリシンの投与によって転移を防止又は低下させることができるがんの非限定的リストには、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイングファミリーの腫瘍、眼がん、胆嚢がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽種、頭部及び頸部がん、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞癌、黒色腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、上咽頭がん、神経内分泌がん、骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症及びウィルムス腫瘍が含まれる。
【0056】
線維症の防止
[0063] 線維芽細胞が器官又は組織において、ときには過剰に結合組織、すなわち、瘢痕組織を生成するとき、線維症が生じる。一般的に、線維症は、修復プロセスの結果として生じる。例えば、外科的手段又はその他の物理的損傷によって組織が損傷したとき、損傷部位にマクロファージが動員され、損害を受けた組織に沿ってTGF−ベータが生成され、これが創傷の近くに結合組織を生成するように線維芽細胞に信号を送る。場合によっては、線維症は組織への外科的侵襲又は物理的損傷がなくても生じる。例えば、ウイルス若しくは細菌感染又は遺伝子異常が線維症を引き起こすことがある。線維症の多くの例が原因不明である。それにも関わらず、物理的損傷であってもなくても、本発明はPRG4を使用することによって線維症を緩和し、防止し、又は遅くすることを実現する。基本的に、PRG4は、線維症を防止又は制限するために、又はすでに線維化した器官若しくは組織の場合、その部位でのさらなるマクロファージの蓄積を低下させるか、若しくは防止することによって、線維症の進行を制限するか若しくは遅延させるために、組織損傷部位でのマクロファージ蓄積を防止又は制限する力学的障壁を形成する。
【0057】
[0064] 一実施形態によれば、本発明は、器官又は組織において線維症を発症する危険性のある、又は線維症を経験した患者に医薬担体中の有効量のPRG4を投与することによって、線維症を防止、緩和又は遅らせるための方法を提供する。PRG4は、患者に直接又は関節的に注射によって投与することができる。例えば、PRG4は、患者の脈管構造に全身的に投与してもよく、又は線維症を発症する危険性がある部位又は線維症が存在する部位に局所的又は局部的に投与してもよい。局所投与の部位は、器官若しくは組織又は器官若しくは組織の表面であってもよい。
【0058】
[0065] 場合によっては、前述したように、線維症は外科的又は物理的組織損傷の結果ではなく、むしろ感染、基礎にある遺伝子異常など別の原因又は原因不明の結果である。外科的侵襲によって必ずしも引き起こされない線維症のいくつかの例には、肝硬変、肺線維症、心筋線維症、縦隔線維症、関節線維症、骨髄線維症、腎性全身性線維症、ケロイド線維症、強皮症線維症、嚢胞性線維症、腎線維症、リンパ組織線維症、動脈、毛細血管及び血管線維症並びに膵線維症が含まれる。
【0059】
[0066] 別の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体中の有効量のPRG4を患者に投与することによって、外科的切開の開存を維持するために、患者の外科的切開の部位の線維症を防止又は遅らせる方法を提供する。PRG4は、患者に直接又は関節的に注射によって投与してもよい。例えば、PRG4は、患者の脈管構造に全身的に投与してもよく、又は外科的切開の部位に局所的又は局部的に投与してもよい。
【0060】
[0067] 例えば、いくつかの手術の目的は、閉鎖しない組織に開口部を形成することである。これは、圧力を開放するため、若しくは液体を除去するため、老廃物を廃棄するため、又は最終的には取り外す装置、すなわち、「全治」するために装置が望ましくない場合の一時的な装置を設置するために、組織又は器官からのドレナージを実現するために有用である。したがって、これらの場合、外科的切開の部位に局所的にPRG4をもたらすと、その部位での線維症の症例の防止又は低下の一助となる。
【0061】
[0068] 閉鎖を目的としない切開を形成するための外科的方法には、外科的に生成される、涙嚢鼻腔吻合術(鼻と涙嚢との間に外科的に形成される接続)などのストーマ;盲腸瘻造設術、人工肛門造設術、十二指腸瘻造設術、回腸瘻造設術、空腸瘻造設術、食道瘻造設術、胃瘻造設術などの消化管ストーマ;胆嚢瘻造設術;総胆管造瘻術;強膜瘻造設術;気管切開術、尿路変更術、腎瘻造設術、尿管造瘻術、膀胱造瘻術、膀胱瘻造設術及び腸瘻造設術;回腸肛門貯留嚢;経皮的カテーテル若しくはステントの設置部位;又は頭蓋骨及び副鼻腔における手術用開窓部(外部及び内部の両方)が含まれる。例えば、Caldwell−Luc手術は、上顎洞と鼻とを接続するために「窓」を形成し、したがって眼の下の腔の1つである上顎洞のドレナージを改善することによって慢性副鼻腔炎を軽減する。
【0062】
[0069] さらに、本発明は、癒着剥離術又は外科的開放後の組織、器官及び/又は腱の分離を維持するための方法を提供する。接着は術前の結果又はその他の症状から形成され、普通ならば接続しない組織及び/又は器官との間に瘢痕組織を形成させることがある。接着は、外科的に「溶解」又は切断することができる。不適切に付着し、普通ならば付着が痛みを引き起こす腱及び結合組織を取り外すために外科的開放を実施してもよい。したがって、本発明は、PRG4を投与することによって癒着剥離術又は外科的開放によって分離される組織、腱及び/又は器官の再接続を防止するための方法を提供する。PRG4は、患者に直接又は関節的に注射によって投与してもよい。例えば、PRG4は、患者の脈管構造に全身的に投与してもよく、又は癒着剥離術若しくは外科的開放の部位に局所又は局部的に投与してもよい。手根管症候群の場合、PRG4は、支帯の切断部位に投与してもよい。
【0063】
線維柱帯形成術又は線維柱帯切除術の改善
[0070] 本発明の実施形態は、例えば、眼の圧力を開放することによって緑内障を治療するために、眼の手術中にヒト眼において実施した線維柱帯形成術又は線維柱帯切除術の再狭窄を防止するためのPRG4の灌注又は注射を提供する。線維柱帯網の一部における切開又は切除によって、眼房水が眼から排出されるようになり、圧力が開放される。しかし、線維柱帯網における切開は、損害を受けた上皮の露出及び組織修復を促進する部位へのマクロファージの遊走によって、閉鎖及び線維症が起こりやすくなることがある。
【0064】
[0071] したがって、本発明の一実施形態には、切開へのマクロファージ及び組織修復に関与するその他の細胞の遊走を防止するために、緑内障手術中のPRG4の使用が含まれる。したがって、好ましい一実施形態では、PRG4でコーティングした組織の境界潤滑及び境界層形成能力を使用して低侵襲の線維柱帯形成術又は線維柱帯切除術を達成する。この方法の一態様では、円蓋又は角膜縁ベースの結膜被覆術又はリスクの高い患者における脈絡膜下のステントの移植よりも、PRG4を充填した非常に小さい針(例えば、27〜34ゲージ)を線維柱帯網から前房に通し、その後、境界潤滑剤を含むシリンジによって形成された流路を充填及びコーティングするためにPRG4を送達しながら後退させる。放射状にこのプロセスを反復することによって、眼に与える損害は最小限で、眼に外来性の物質を導入することなく、ドレナージを放射状に配分することができ、ブレブの必要性を低下させ、ドレナージがさらに必要ならば追加の流路を容易に追加することができ、PRG4でコーティングした流路は再狭窄を防止する。
【0065】
一酸化窒素産生の増加
[0072] 本発明はまた、剪断応力を下の内皮細胞により良好に伝達するために、血管の多糖外被の補充を提供する。これは、一般的に血管の健康及び維持を増強し、内皮NO産生を保持するために役立つ。不十分なNO産生の興味深い後遺症の1つは、質の高い又は持続性の勃起を維持できないことである。特に、一酸化窒素はグアニル酸シクラーゼ受容体に結合し、cGMPを上方制御し、血管拡張、陰茎海綿体平滑筋弛緩及び最終的に陰茎勃起を引き起こす(Webb, D.J., et al. Am. J. Cardiol 1999;83(5A): 21C-28C)。本実施形態では、PRG4による血管内皮多糖外被の補充/増強は、より良好でより持続的な勃起を引き起こす。本実施形態はまた、外来の上皮PRG4を使用して補足効果を実現することを想定する。
【0066】
移植拒絶反応の軽減
[0073] 伝統的な免疫抑制療法、例えば、組織移植手術後の副腎皮質ステロイド、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤及び増殖阻害剤は、様々な望ましくない副作用を有する。本発明の一実施形態は、超急性、急性及び慢性拒絶反応の発生を劇的に低下させるように、境界層形成に基づいた力学的障壁を形成するために、移植した組織の周囲へのPRG4の断続的注射を使用する。PRG4でコーティングされた表面は、移植片に結合し、移植片を認識する細胞性及び体液性免疫細胞を防止するが、体の残りの部分においては免疫系が正常に機能を果たすようにする。本発明によれば、この方法は、移植した心臓、肝臓、腎臓、肺、皮膚又は腱又は任意のその他の移植した器官若しくは組織を治療するために使用することができる。
【0067】
血栓症の阻害
[0074] PRG4は、血管を閉塞し、脳卒中、心筋梗塞、胚塞栓症又は体のその他の部分への血管を遮断するような現象を引き起こす血管内血栓症の形成を阻害するために有用であり得る。
【0068】
[0075] PRG4の抗血栓症効果を示すために、フィブリン表面への血小板の接着を妨害するPRG4の能力を試験した。結果を
図2A〜Bに示す。
【0069】
[0076] プラスティック製細胞培養皿を水10mLに懸濁したトロンビン50U/mL 10μL及びフィブリノーゲン270mg/mL 120μLでコーティングし、37℃で3時間インキュベートした。3時間後、高加圧滅菌処理した脱イオン水で皿をすすいだ。次に、水10mL中のPRG4 1.42mg/mL 10μLを
図203及び204に示した皿に添加し、37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、加圧滅菌処理した脱イオン水で皿を再度洗浄し、滅菌PBS中の血小板6×10
5個を各皿に添加し、混合し、室温でインキュベートした。
【0070】
[0077]
図201は、24時間後のフィブリンのみの皿を示し、一方、
図202は48時間後のフィブリンのみの皿を示しており、フィブリンのみの両図において、大量の溶液中に非接着性血小板(例えば、小さな黒い円)が少し認められることに注意されたい。
図203は、24時間後のPRG4及びフィブリンの皿を示し、一方、
図204は48時間後のPRG4及びフィブリンの皿を示しており、非接着性血小板の数が著しく多い。
【0071】
[0078] PRG4の血小板接着に対する効果(元の試料のパーセンテージとしての細胞の回収率を定量)を
図2Bに示している。例示したように、PRG4でコーティングされた皿からの血小板の非常に優れた回収率は、血小板がフィブリン表面に結合するのを防止するPRG4の能力を示している。
【0072】
[0079] 第2の実験では、血栓形成を阻害するPRG4の能力は、インビトロにおいてPRG4の存在下及び非存在下で凝固形成を試験することによって観察した。全血30mLの3つの試料は、静脈穿刺によって入手し、焼結ガラスコアを有するCLOTMASTER(商標)Hulaカップ(Pierce Surgical Corp. Stowe, VT)に入れた。抗凝固効果が予測されないときの結果を示すために1試料にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)1.5mLを陰性対照として添加し、第2の試料には1mg/mLの濃度のrhPRG4 080 1.5mLを添加した。第3の試料を対照として使用し、処理を行わなかった。各試料を60秒間かき混ぜ、かき混ぜを停止し、凝固形成を促進するために容器を9分間静置した。次に凝固の質を評価し、凝固をデカントし、ホルマリンに入れた。結果は、
図3A〜Cに示し、この写真は、対照において凝固形成は焼結ガラスコア上及びカップの底に粘稠な塊として認められ、確認することができた(
図3A)。カップの底における粘稠な塊によって証明されるように、PBS試料では凝固形成が生じた(
図3B)。対照的に、存在下では、血液はまだ流体で、傾けるとカップの片側に流動したので、凝固形成は認められなかった(
図3C)。このデータは、PRG4の抗血栓特性を強く示している。
【0073】
[0080] 第3の実験では、正常及び病的血漿のフィブロキネティック特性に対するPRG4の効果を試験した。正常なヒト血漿(「NHP」)にラブリシン(2mg/mL)を1:10希釈して添加した。その後、1:2及び1:4希釈を正常なヒト血漿で作製した。肝臓疾患患者から得られたプール血漿(「病的血漿」)にもラブリシン(2mg/mL)を1:10希釈して添加した。その後、1:2及び1:4希釈をプールした肝臓疾患血漿で作製した。フィブリン凝固の形成は、CaCl
2(0.25mM)25μL及びトロンビン(5U/mL)25μLと混合した各希釈液の血漿試料200μLについて、405nmでの吸光度を30分間15秒間隔で読み取ることによって試験した。ラブリシンを添加しない(0mg/mL)試料を対照として使用した。
図4A及び4Bに示したように、ラブリシンは200μg/mLの濃度で正常なヒト血漿及び病的血漿の両方において吸光度を減少させ、フィブリン(凝固)形成速度は、各試料において減少したことを示している(
図4A及び4Bそれぞれの下のデータ線参照)。これらの実験は、ラブリシンがフィブリン凝固形成を妨げたことを示唆している。したがって、このデータは、ラブリシンが抗血栓特性を有することを示唆している。
【0074】
[0081] PRG4は、その抗血栓特性によって抗凝固剤として有用となる。例えば、PRG4は抗凝固剤として診断適用において使用することができる。例えば、一実施形態では、PRG4は血液試料の捕捉又は収容又は処理のために設計された容器及びバイアルをコーティングするために使用する。別の実施形態では、透析装置、手術装置、ステント又はヒト若しくは動物の体に移植するためのその他の装置を、抗凝固剤として作用するラブリシンでコーティングする。
【0075】
[0082] 別の実施形態では、PRG4は、例えば、注射又は本明細書で記載した別の投与方法によって、抗凝固剤療法として患者に投与する。例えば、PRG4は、深部静脈血栓症;胚塞栓症;第V因子ライデン、プロトロンビン20210変異、高ホモシステイン血症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、アンチトロンビン欠乏症、フォンビルブランド因子障害、又は高レベルのVIII、IX、XI、VII、フィブリノーゲン及びフォンビルブランド因子などのプロコアグラントタンパク質などの凝固障害;心房細動、機械弁若しくは人工弁、又は卵円孔開存症などの心臓の状態によって血栓症に罹患している、又は危険性がある患者における凝固形成を防止又は低下させるために患者に投与することができる。PRG4の投与は、このような患者における凝固形成を防止又は低下させる。PRG4は、全身的に又は血栓症の危険性がある部位若しくは血栓症が存在する部位に局所的に投与することができる。これらの場合、PRG4は、ヘパリン、ワルファリン、クマリン又はダビガトランなどの別の抗凝固剤療法と併用して患者に投与することができる。PRG4は、患者の状態による凝固を防止するために、前述の状態の患者に予防的に投与することができる。
【0076】
ラブリシンの投与
[0083] 一般的に、全身的に投与するためのラブリシンの治療有効量は、0.1mg/kg〜100mg/kg又は1mg/kg〜100mg/kg又は1mg/kg〜10mg/kgの範囲である。一実施形態では、ラブリシンの用量は、0.25mg/kg〜2.5mg/kgの間又は0.25〜3.0mg/kgの間である。投与する量は、治療する症状の種類及び範囲、患者の健康全般、医薬製剤及び投与経路などの変数に左右される。初回投与量は、所望する血液レベル又は組織レベルを迅速に実現するために、上位レベルを超えて増加させることができる。或るいは、初回投与量は最適より少なくてもよく、その投与量は治療期間中累進的に増加させてもよい。最適な用量は、所定の実験によって決定することができる。非経口投与の場合、0.1mg/kg〜100mg/kgの間、又は0.5mg/kg〜50mg/kgの間、又は1mg/kg〜25mg/kgの間、又は2mg/kg〜10mg/kgの間、又は5mg/kg〜10mg/kgの間の用量を投与し、例えば、治療回数は週1回、隔週、3週間に1回、又は月に1回与えられてもよい。
【0077】
[0084] 投与のために、ラブリシンは好ましくは薬学的に許容される担体と一緒にする。本明細書では、「薬学的に許容される担体」とは、適切な対危険便益比に見合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、又はその他の問題若しくは合併症を起こすことなく、人類及び動物の組織に接触して使用するために適した緩衝液、担体及び賦形剤を意味する。担体は、製剤のその他の成分に適合して、レシピエントに対して有害ではないという意味で「許容」されなければならない。薬学的に許容される担体には、薬剤投与に適合した緩衝液、溶媒、分散媒体、コーティング、等張な吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性のある物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は、当業界では公知である。有用な製剤は、薬学業界で周知の方法によって調製することができる。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18版(Mack Publishing Company, 1990)を参照のこと。非経口投与に適した製剤成分には、注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又はその他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などの緩衝剤及び塩化ナトリウム又はデキストロースなどの浸透圧を調節するための薬剤が含まれる。
【0078】
[0085] 投与するためのラブリシンは、投与単位形態で存在することができ、任意の適切な方法で調製することができ、企図する投与経路に適合するように製剤化するべきである。投与経路の例は、経口、静脈内(IV)、皮内、皮下、筋肉内、吸入、経皮、局部、経粘膜、直腸投与、非経口、鼻腔内、局部、経口、又は局所投与であり、例えば、治療的療法のための経皮手段によってなされる。他の投与経路には、血管内、動脈内、腫瘍内、腹腔内、脳室内、硬膜内(intraepidural)並びに鼻、眼、強膜内、眼窩内、直腸、局部又はエアロゾル吸入投与が含まれる。
【0079】
[0086] 静脈内投与のために、適切な担体には、生理的食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF、Parsippany、NJ)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。担体は、製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、微生物から保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール)、及び適切なそれらの混合物を含有する溶媒又は分散媒体であってもよい。
【0080】
[0087] 本明細書では本発明の好ましい実施形態について示し記載したが、このような実施形態が例としてのみ示されていることは当業者には明らかであろう。当業者であれば、本発明を逸脱することのない数多くの変更、変化及び置換に気づくであろう。本明細書で記載した本発明の実施形態の様々な代替法が本発明の実施で使用できることを理解されたい。以下の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義するものであり、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造物並びにそれらの同等物が特許請求の範囲の対象となるものとする。
【0081】
[0088] 本発明のその他の特徴及び利点は、本発明の好ましい実施形態及び特許請求の範囲の以下の記載から明らかとなるだろう。これら及び本発明のその他の多くの変種及び実施形態は、説明及び実施例を検証することによって当業者には明らかとなろう。