【実施例】
【0067】
実施例1
以下に示される化合物1(
13C−
15N−ラベル化グリシン)を出発物質として用い、式:
【0068】
【化18】
【0069】
【化19】
【0070】
(式中、CbzClは塩化ベンジルオキシカルボニル、Cbzはベンジルオキシカルボニル基、TEBACは塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、t−BuBrは2−ブロモ−2−メチルプロパン、DMAはN,N−ジメチルアセトアミド、t−BuOはtert−ブチルオキシ基、Pd/Cはパラジウム/炭素、EtOHはエタノール、Ph
2C=NHはベンゾフェノンイミン、Phはフェニル基、BnOはベンジルオキシ基、Tolueneはトルエン、citric acidはクエン酸、THFはテトラヒドロフラン、Et
3SiHはトリエチルシランを示す)
で表わされる反応にしたがって、化合物8(
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ)を調製した。より具体的には、以下の操作を行なうことにより、化合物1(
13C−
15Nラベル化グリシン)から化合物8(
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ)を調製した。
【0071】
(1)前記式における化合物2の調製
2M水酸化ナトリウム水溶液6.8mLに2−
13C−
15Nグリシン(1.04g,13.5mmol)を加えて溶解させた後、得られた溶液を0℃に冷却した。前記で得られた溶液に塩化ベンジルオキシカルボニル2.3mL(16.2mmol)を加えた後、当該溶液に4M水酸化ナトリウム水溶液(3.4mL)をゆっくりと滴下し、0℃で20時間撹拌した。前記で得られた溶液をジエチルエーテルで3回洗浄し、水層を分取した。得られた水層に5M塩酸を加えて当該水層のpHを1に調製した後、得られた懸濁液を0℃に冷却し、白色沈殿物を生成させた。前記白色沈殿物を濾別し、減圧下に乾燥させることにより、化合物2〔収量:2.51g(11.89mmol)、収率:88%〕を得た。
【0072】
なお、生成した化合物が前記式における化合物2であることは、以下の
1H−NMR、
13C{
1H}−NMR、
15N{
1H}−NMRおよびESI−TOF−MSによって確認された。
【0073】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) δ: 7.37-7.32 (5H), 5.28 (d, J
CH= 93 Hz, 1H), 5.14 (2H), 4.05 (dd, J = 138 Hz, 5.4 Hz, 2H)
13C{
1H}-NMR (CDCl
3, 75 MHz) δ: 42.4 (d,
1J
CN= 14 Hz)
15N{
1H}-NMR (CD
3OD, 40 MHz) δ: 71.4 (d,
1J
CN= 14 Hz)
ESI-TOF-MS
[M + Na]
+: 234.0484.
【0074】
(2)前記式における化合物3の調製
前記で得られた化合物2(2.26g、10.7mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(75mL)に加えて溶解させた。得られた溶液に、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム2.44g(10.7mmol)と2−ブロモ−2−メチルプロパン67.1g(490mmol)とを加えた後、あらかじめ乾燥させておいた炭酸カリウム36g(260mmol)を加え、55℃で24時間加熱しながら撹拌した。得られた溶液に超純水(1L)と酢酸エチル(250mL)とを加えて抽出を行ない、有機層を分取した。得られた有機層を超純水(100mL)で2回洗浄し、さらに飽和塩化ナトリウム水溶液(100mL)で洗浄した。洗浄後に得られた溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した後、エバポレーターで溶媒を留去し、減圧下に乾燥させることにより、オイル状の化合物3〔収量:2.73g(9.99mmol)、収率93%〕を得た。
【0075】
なお、生成した化合物が前記式における化合物3であることは、以下の
1H−NMR、
13C{
1H}−NMR、
15N{
1H}−NMRおよびESI−TOF−MSによって確認された。
【0076】
1H-NMR (CDCl
3, 400 MHz) δ: 7.38-7.27 (5H), 5.21 (d, J
CH = 88 Hz, 1H,
15NH), 5.12 (s, 2H), 3.87 (dd, J = 140, 3.9 Hz, 2H), 1.47 (s, 9H)
13C{
1H}-NMR (CDCl
3,
75 MHz) δ: 43.4 (d, J
CN = 14 Hz)
15N{
1H}-NMR (CDCl
3,
40 MHz) δ: 68.8 (d, J
CN = 14 Hz)
ESI-TOF MS [M + Na]
+: 290.1355.
【0077】
(3)前記式における化合物4の調製
前記で得られた化合物3(2.67g、9.99mmol)を、アルゴンガス雰囲気下でエタノール20mLに溶解させた後、得られた溶液に5%(パラジウム基準)パラジウム炭素(Pd/C)(300mg)を加え、アルゴンガスを0℃で水素に置換し、室温で5.5時間激しく撹拌した。その後、得られた反応液を珪藻土濾過助剤〔アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社製、商品名:Filter aid、Celite Standard Super−cel〕で濾過して当該反応液に含まれるパラジウム炭素を除去し、得られた濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と酢酸エチルとを加えて抽出を行ない、有機層を分取した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、エバポレーターで濃縮した後、減圧下に乾燥させることにより、化合物4〔収量:0.92g(6.92mmol)、収率:69%〕を得た。
【0078】
なお、生成した化合物が前記式における化合物4であることは、以下の
1H−NMR、
13C{
1H}−NMR、
15N{
1H}−NMRおよびESI−TOF−MSによって確認された。
【0079】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) δ: 3.31 (d, J = 136 Hz, 2H), 1.47 (s, 9H)
13C{
1H}-NMR (CDCl
3, 75 MHz) δ: 44.7 (d, J
CN = 4.5 Hz)
15N{
1H}-NMR (CDCl
3, 40 MHz) δ = 7.4 (d, J
CN = 4.5 Hz)
ESI-TOF MS [M + H]
+ 134.1025.
【0080】
(4)前記式における化合物5の調製
前記で得られた化合物4(0.92g、6.92mmol)を塩化メチレン溶液(20.4mL)に溶解させた後、得られた溶液にベンゾフェノンイミン1.26g(6.98mmol)を加え、室温で24時間撹拌し、沈殿物を生成させた。生成した沈殿物を濾過して除去した後、得られた濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた残渣にジエチルエーテル30mLを加えた後、生成した不溶物を濾過して除去した。得られた濾液を超純水30mLで洗浄した後、得られた溶液からエバポレーターで溶媒を減圧下に除去した。得られた固体をエタノールで再結晶させることにより、化合物5〔収量:1.73g(5.
82mmol)、収率:84%〕を得た。
【0081】
なお、生成した化合物が前記式における化合物5であることは、以下の
1H−NMRおよびESI−TOF−MSによって確認された。
【0082】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) δ: 7.68-7.16 (10H), 4.11 (d, J
= 136 Hz, 2H), 1.46 (s, 9H)
ESI-TOF MS [M + H]
+ 298.1497.
【0083】
(5)前記式における化合物6の調製
前記で得られた化合物5(0.450g、1.53mmol)をトルエン溶液(9mL)に溶解させた後、得られた溶液に(R,R)−3,4,5−トリフルオロフェニル−NAS=ブロミド14mg(1.0mol%)と50質量%水酸化カリウム水溶液3mLとを加え、溶液を0℃に冷却した。得られた溶液に、4−ブロモメチル−1,2−ビスフェニルメトキシベンゼン(0.711g、1.86mmol)を加え、0℃で3時間撹拌した。得られた反応液に超純水とジエチルエーテルとを加えて抽出を行ない、有機層を分取した。得られた有機層をエバポレーターで濃縮した後、得られた残渣にテトラヒドロフラン(15mL)と1Mクエン酸水溶液(15mL)とを加え、室温で16時間撹拌した。
得られた反応液からテトラヒドロフランを減圧下に留去し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和(pH7)した。得られた溶液に塩化メチレンを加えて抽出を行ない、有機層を得た。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、エバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー〔酢酸エチル/ヘキサン(体積比)=6/4〕で精製することにより、オイル状の化合物6〔収量:0.339g(0.779mmol)、収率:51%、光学純度:95%ee〕を得た。
【0084】
なお、生成した化合物が前記式における化合物6であることは、以下の
1H−NMR、
13C{
1H}−NMR、
15N{
1H}−NMR、ESI−TOF−MSおよび高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって確認された。HPLCは、分析カラム〔(株)ダイセル製、商品名:CHIRALCEL OD〕および展開用溶媒〔ヘキサン/2−プロパノール(体積比)=4/1〕を用い、流速0.5mL/分の条件で行なった。
【0085】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) δ: 7.46-7.27 (10H), 6.87 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 6.82 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 6.72 (dd, J = 8.0, 2.0 Hz, 1H), 5.13 (s, 4H) 3.52 (d, J = 140 Hz, 1H), 2.93 (m, 1H), 2.72 (m、1H), 1.47 (br, 2H), 1.42 (s, 9H)
13C{
1H}-NMR (CDCl
3, 75 MHz) δ: 56.3 (d, J
CN = 4.3 Hz)
15N{
1H}-NMR (CDCl
3, 40 MHz) δ: 21.9 (d, J
CN = 4.3 Hz)
ESI-TOF MS
[M + H]
+ 436.2179.
HPLC retention time: 15.9 min (S), 18.0 min (R).
【0086】
(6)前記式における化合物7の調製
前記で得られた化合物6(0.339g、0.779mmol)をテトラヒドロフラン溶液(8mL)に加えて溶解させた。得られた溶液に、アルゴンガス雰囲気下に0℃で10(パラジウム基準)パラジウム炭素(40mg)を加えた。さらに、アルゴンガスを0℃で水素に置換し、50℃で4時間加熱しながら撹拌した。得られた反応液を珪藻土濾過助剤〔アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社製、商品名:Filter aid、Celite Standard Super−cel〕で濾過して当該反応液に含まれるパラジウム炭素を除去し、得られた濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製することにより、化合物7〔収量:75.4mg(0.299mmol)、収率:38%〕を得た。
【0087】
なお、生成した化合物が前記式における化合物7であることは、以下の
1H−NMR、
13C{
1H}−NMR、
15N{
1H}−NMRおよびESI−TOF−MSによって確認された。
【0088】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) δ: 6.68 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.60 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 6.48 (dd, J = 8.1, 1.8 Hz, 1H), 5.21 (br, 4H), 3.52 (d, J
= 141 Hz, 1H), 2.93 (m, 1H), 2.67 (m, 1H), 1.44 (s, 9H)
13C{
1H}-NMR (CDCl
3, 75 MHz) δ: 55.4 (d, J
CN = 4.5 Hz)
15N{
1H}-NMR (CDCl
3, 40 MHz) δ: 26.2 (d, J
CN = 4.5 Hz)
ESI-TOF-MS
[M + H]
+ 256.1319.
【0089】
(7)前記式における化合物8の調製
前記で得られた化合物7(75.4mg、0.299mmol)を塩化メチレン(0.82mL)に加えて溶解させた。得られた溶液に、アルゴンガス雰囲気下にトリフルオロ酢酸(0.39mL、5.3mmol)とトリエチルシラン(0.16mL、1.0mmol)とを加え、室温で19時間撹拌した。得られた反応液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をジエチルエーテルで洗浄した後、当該濃縮物をろ過して溶媒を除去した。得られた固体を混合溶媒(水/2−プロパノール(体積比)=6/4)で再結晶させることにより、化合物8(収量:25.3mg(0.127mmol)、収率:42%、光学純度:94%ee)を得た。
【0090】
なお、生成した化合物が前記式における化合物8(
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ)であることは、以下の
1H−NMR、
13C{
1H}−NMR、
15N{
1H}−NMR、ESI−TOF−MSおよびHPLCによって確認された。HPLCは、分析カラム〔(株)ダイセル製、商品名:CROWNPAK CR(+)〕および展開用溶媒〔過塩素酸水溶液(pH2)〕を用い、流速0.5mL/分の条件で行なった。
【0091】
1H-NMR (D
2O, 300 MHz) δ: 6.75 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.67 (d, J = 0.9 Hz, 1H), 6.59 (dd, J = 8.1, 0.9 Hz, 1H), 3.77 (d,
1J
CH = 141 Hz 1H), 3.00 (m, 1H), 2.85 (m, 1H)
13C{
1H}-NMR (D
2O, 75 MHz) δ: 54.9 (d, J
CN = 5.9 Hz)
15N{
1H}-NMR (D
2O, 40 MHz) δ: 33.6 (d, J
CN = 5.9 Hz)
ESI-TOF MS [M + H]
+ 200.0707.
HPLC retention time: 5.7 min (R, d-dopa) and 6.6 min (S, l-dopa).
【0092】
製造例1
以下に示される化合物9(4−ブロモメチル−1,2−ビスフェニルメトキシベンゼン)を出発物質として用い、式:
【0093】
【化20】
【0094】
(式中、BnOはベンジルオキシ基、NMPはN−メチル−2−ピロリドン、Pd(OH)
2/Cは水酸化パラジウム/炭素、EtOHはエタノールを示す)
で表わされる反応にしたがって、化合物11(
13C/
15N−ラベル化ドーパミン塩酸塩)を調製した。より具体的には、以下の操作を行なうことにより、化合物9(4−ブロモメチル−1,2−ビスフェニルメトキシベンゼン)から化合物11(
13C/
15N−ラベル化ドーパミン塩酸塩)を得た。
【0095】
4−ブロモメチル−1,2−ビスフェニルメトキシベンゼン(510mg、1.33mmol)をN−メチルピロリドン(3mL)に溶解させた。得られた溶液に[
13C,
15N]−シアン化カリウム(152mg、2.26mmol)を加え、100℃で20時間加熱しながら攪拌した。得られた反応液に飽和重曹水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー〔ヘキサン/酢酸エチル(体積比)=6/1〕で精製することにより、化合物10(収量:320mg)を得
た。
【0096】
得られた化合物10(320mg)を、アルゴンガス雰囲気下で、エタノール(4mL)/クロロホルム(2mL)混合溶液に、0℃で20%水酸化パラジウム/炭素(80mg)を加えた。さらに、アルゴンガスを0℃で水素に置換し、50℃で終夜加熱撹拌した後、反応溶液を珪藻土濾過助剤〔アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社製、商品名:Filter aid、Celite Standard Super−cel〕で濾過して、Pd(OH)
2/Cを濾過除去した後、濾液をエバポレーターで濃縮した。残渣を水に溶解し、塩化メチレンで洗浄後、水層を濃縮した。得られた濃縮物を逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)で精製することにより、化合物11〔収量:7.7mg(0.05mmol)、収率:3.8%〕を得た。
【0097】
なお、生成した化合物が前記式における化合物11であることは、以下の
1H−NMR、
13C{
1H}−NMRおよびESI−TOF−MSによって確認された。
【0098】
1H-NMR (D
2O, 400 MHz) δ: 6.77 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 6.70 (s, 1H), 6.62 (d, J = 7.8 Hz), 3.09 (dt, J = 144.3, 6.8 Hz, 2H), 2.73 (m, 2H)
13C{
1H}-NMR (D
2O, 100 MHz) δ: 41.3 (d, J = 4.1 Hz).
ESI-TOF-MS [M]
+ 156.0887.
【0099】
実施例2
実施例1で得られた
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ(2.0mM)または製造例1で得られた
13C/
15N−ラベル化ドーパミンと、5mm TCIクライオプローブを装備した核磁気共鳴装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker BioSpin)社製、商品名:Bruker Avance 600(600MHz)〕とを用い、重水中における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを測定した(積算回数16回)。実施例2において、
1H−{
13C−
15N}三重核磁気共鳴法に用いられたパルスシーケンスを
図1に示す。図中、細いバーが90°パルス、太いバーが180°パルスを示す。CHおよびCNのカップリング定数
1J
CHおよび
1J
CNに基づき、順に
1Hから
13Cへの磁化移動、当該
13Cから
15Nへの磁化移動、さらに当該
15Nから
13Cへの磁化移動、最終的に
13Cから
1Hへの磁化移動により、シグナルを検出するように設定し、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパと
13C/
15N−ラベル化ドーパミンの同時観測を目的として、
1J
CH=149Hzおよび
1J
CN=6.2Hzをパラメータとして設定した。実施例2で得られた
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを
図2(A)、実施例2で得られた
13C/
15N−ラベル化ドーパミンの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを
図2(B)に示す。
【0100】
図2(A)に示された結果から、化学シフト値3.84ppmの位置に、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属される
1H−{
13C−
15N}三重共鳴NMRシグナルが見られることがわかる。また、
図2(B)に示された結果から、化学シフト値3.13ppmの位置に、
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属される
1H−{
13C−
15N}三重共鳴NMRシグナルが見られることがわかる。これらの結果から、
図1に示されるパルスシーケンスを用いることにより、代謝基質である
13C/
15N−ラベル化L−ドーパとその代謝産物である
13C/
15N−ラベル化ドーパミンとを同時に、かつ高い選択性で検出することができることがわかる。
【0101】
実施例3
芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素などの代謝酵素が高発現しているマウス肝臓組織内では、前記芳香族脱炭酸酵素によってL−ドーパからドーパミンを生成する代謝反応が行なわれている。そこで、マウス肝臓組織の抽出液と、実施例1で得られた
13C/
15N−ラベル化L−ドーパとを用い、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの代謝反応を調べた。より具体的には、以下の操作を行なうことにより、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの代謝反応を調べた。
【0102】
マウス(C57BL/6Jマウス、体重:15g)の肝臓組織を20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中でホモジナイズすることにより、肝臓組織抽出液を得た。得られた肝臓組織抽出液を、その濃度が10体積%となるように、反応用混合液〔組成:500μM
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ、2mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、0.1mMエチレンジアミン四酢酸、0.1mM2−メルカプトエタノールおよび100μMピリドキサールリン酸〕に加え、得られた混合液を37℃で45分間インキュベーションすることによって反応を行なった。
【0103】
得られた反応液と、5mm TCIクライオプローブを装備した核磁気共鳴装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker BioSpin)社製、商品名:Bruker Avance 600(600MHz)〕とを用い、重水中における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−NMRスペクトル、
1H−{
13C}−NMRスペクトルおよび
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルのそれぞれを測定した。パルスシーケンスとして
図1に示されたパルスシーケンスを用いた。実施例3において、肝臓組織抽出液を含む溶液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−NMRスペクトル、
1H−{
13C}−NMRスペクトルおよび
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを
図3に示す。図中、(a)は
3C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−NMRスペクトル、(b)は
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C}−NMRスペクトル、(c)は
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを示す。
【0104】
図3に示された結果から、
1H−{
13C−
15N}三重共鳴NMRによれば、代謝基質である
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(3.84ppm)と、
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(3.13ppm)との双方がみられることがわかる。また、
図3に示された結果から、代謝基質である
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(3.84ppm)よりも、
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(3.13ppm)が多くなっていることから、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの代謝反応の進行が確認された。これに対し、
1H−NMR〔図中、(a)参照〕では、多数の
1Hシグナルがみられることから、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの代謝反応を調べることは困難であることがわかる。また、
1H−{
13C}−二重共鳴NMR〔図中、(b)参照〕では、
1H−NMRに比べて
1Hシグナルの数が少なくなっているが、肝臓抽出液中の夾雑物由来の
1Hシグナルが見られることがわかる。これらの結果から、夾雑物が多数存在する生体系においても、
1H−{
13C−
15N}三重共鳴NMRを用いることにより、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパと
13C/
15N−ラベル化ドーパミンとを同時に、かつ高い選択性で検出することができることがわかる。
【0105】
実施例4
マウス(C57BL/6Jマウス、体重:15g)の肝臓組織を20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中でホモジナイズすることにより、肝臓組織抽出液を得た。
【0106】
得られた肝臓組織抽出液を、その濃度が10体積%となるように、反応用混合液〔組成:500μM
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ、2mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、0.1mMエチレンジアミン四酢酸、0.1mM2−メルカプトエタノールおよび100μMピリドキサールリン酸〕に加え、得られた溶液を37℃で45分間インキュベーションした。一方、前記において、肝臓組織抽出液を前記反応用混合液の代わりにブランクとして超純水を加え、得られた溶液を37℃で45分間インキュベーションした。
【0107】
インキュベーション後に得られた各溶液と、5mm TCIクライオプローブを装備した核磁気共鳴装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker BioSpin)社製、商品名:Bruker Avance 600(600MHz)〕とを用い、重水中における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルのそれぞれを測定した。パルスシーケンスとして
図1に示されたパルスシーケンスを用いた。実施例4において、肝臓組織抽出液を含む溶液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを
図4(A)、肝臓組織抽出液を含まない溶液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを
図4(B)に示す。図中、ピークAは
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル、ピークBは
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナルを示す。
【0108】
図4に示された結果から、肝臓組織抽出液を含む溶液においては、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークA)および
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークB)の双方がみられるが、肝臓組織抽出液を含まない溶液においては、
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークB)がみられないことがわかる。
【0109】
これらの結果から、
1H−
13C−
15N結合を有する
13C/
15N−ラベル化L−ドーパを用いることにより、マウスの肝臓組織抽出液中に含まれる芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素による
13C/
15N−ラベル化L−ドーパから
13C/
15N−ラベル化ドーパミンへの代謝を調べることができることがわかる。また、
1H−{
13C−
15N}三重共鳴NMRを用いることにより、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパと
13C/
15N−ラベル化ドーパミンとを同時に、かつ高い選択性で検出することができることがわかる。なお、式(I)で表わされ、かつ
1H、
13Cおよび
15Nからなる群より選ばれた少なくとも2種類の核磁気共鳴活性核を有するとともに異なる共鳴周波数を有する少なくとも3個の核磁気共鳴活性核からなる結合を有する他の神経伝達物質の前駆体アミノ酸を多重共鳴用のプローブとして用いたときにも同等の傾向が見られる。
【0110】
実施例5
臨床で用いられているL−ドーパ製剤は、脳内での薬効を高めるため、肝臓、腎臓などの臓器における代謝分解を抑制するための脱炭酸酵素阻害剤と併用されている。そこで、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの脱炭酸代謝反応に対する脱炭酸酵素阻害剤の効果を、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを測定することによって調べた。より具体的には、以下の操作を行なうことにより、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの脱炭酸代謝反応に対する脱炭酸酵素阻害剤の効果を調べた。
【0111】
マウス(C57BL/6Jマウス、体重:15g)の肝臓組織を20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中でホモジナイズすることにより、肝臓組織抽出液を得た。得られた肝臓組織抽出液をその濃度が10体積%となるように反応用混合液〔組成:500μM
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ、2mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、0.1mMエチレンジアミン四酢酸、0.1mM2−メルカプトエタノールおよび100μMピリドキサールリン酸〕に加えるとともに、カルビドパ(0.125当量)またはベンゼラジド(0.125当量)を加え、得られた混合液を37℃で45分間インキュベーションすることによって反応を行なった。一方、肝臓組織抽出液をその濃度が10体積%となるように反応用混合液〔組成:500μM
13C/
15N−ラベル化L−ドーパ、2mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、0.1mMエチレンジアミン四酢酸、0.1mM2−メルカプトエタノールおよび100μMピリドキサールリン酸〕に加え、得られた混合液を37℃で45分間インキュベーションすることによって反応を行なった。
【0112】
得られた反応液と、5mm TCIクライオプローブを装備した核磁気共鳴装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker BioSpin)社製、商品名:Bruker Avance 600(600MHz)〕とを用い、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを測定した。パルスシーケンスとして
図1に示されたパルスシーケンスを用いた。実施例5において、カルビドパを含む反応液およびカルビドパを含まない反応液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを
図5に示す。
図5中、(a)はカルビドパを含まない反応液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトル、(b)はカルビドパを含む反応液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを示す。また、実施例5において、ベンゼラジドを含む反応液およびベンゼラジドを含まない反応液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを
図6に示す。
図6中、(a)はベンゼラジドを含まない反応液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトル、(b)はベンゼラジドを含む反応液における
13C/
15N−ラベル化L−ドーパおよび
13C/
15N−ラベル化ドーパミンそれぞれの
1H−{
13C−
15N}−NMRスペクトルを示す。また、
図5および
図6中、ピークAは
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル、ピークBは
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナルを示す。
【0113】
図5に示された結果から、カルビドパを含まない反応液においては、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークA)および
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークB)の双方がみられるが、カルビドパを含む溶液においては、
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークB)がみられないことがわかる。また、
図6に示された結果から、ベンゼラジドを含まない反応液においては、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパのメチンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークA)および
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークB)の双方がみられるが、ベンゼラジドを含む溶液においては、
13C/
15N−ラベル化ドーパミンのメチレンの
1H−
13C−
15Nの
1Hに帰属されるシグナル(ピークB)がみられないことがわかる。これらの結果から、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパを用いることにより、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパの脱炭酸代謝反応に対する脱炭酸酵素阻害剤の効果を調べることができることがわかる。
【0114】
以上の結果から、
13C/
15N−ラベル化L−ドーパに代表される式(I)で表わされる神経伝達物質の前駆体アミノ酸を多重共鳴用のプローブとして用い、
1H−{
13C−
15N}三重共鳴NMR法を行なうことにより、代謝基質であるL−ドーパなどの神経伝達物質の前駆体とその代謝産物であるドーパミンなどの神経伝達物質とを同時に、かつ高い選択性で検出することができ、しかも神経伝達物質の前駆体(代謝基質)から神経伝達物質(代謝産物)への代謝過程を調べることができることが示唆される。