特許第6571153号(P6571153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571153スパッタリングターゲット接合体及びこれを用いた成膜方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571153
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット接合体及びこれを用いた成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-232028(P2017-232028)
(22)【出願日】2017年12月1日
(62)【分割の表示】特願2013-147194(P2013-147194)の分割
【原出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2018-53371(P2018-53371A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2017年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】海野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】柴山 卓眞
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−064952(JP,A)
【文献】 特開平10−130827(JP,A)
【文献】 特開平09−041132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲットに前記スパッタリングターゲットを保持するバッキングプレートが接合され、
補強材として、アルミニウム、ステンレスまたは銅からなるバッキングプレートが、前記バッキングプレートの下面にさらに接合され、
前記スパッタリングターゲット及び前記バッキングプレートは同一材質からなり、いずれも、焼結体からなり、該焼結体がマグネシアであり、かつ、比誘電率が2〜1500の誘電体であることを特徴とするスパッタリングターゲット接合体。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲット接合体を用いて、前記スパッタリングターゲットをスパッタすることにより基板表面に成膜することを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーティクルの発生が少ないスパッタリングターゲットを提供するためのスパッタリングターゲット接合体及びこれを用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板上への薄膜形成技術としてスパッタリング法が知られている。このスパッタリング法では、真空容器内に導入されたアルゴン等の希ガス元素がプラズマ化し、このプラズマ化された希ガス元素がスパッタリングターゲット(以下、単に、ターゲットともいう)に衝突することによって、スパッタ粒子がターゲットから飛び出し、これが基板上に堆積して薄膜が形成される。
【0003】
このようなスパッタリング法が適用されるターゲットの製造工程には、大きく分けて溶解法と焼結法の2種類がある。溶解法は、金属及びその合金に多く用いられ、原材料を溶解して鋳造して製造する方法である。一方、焼結法は、融点が比較的高いため溶解が困難である酸化物や窒化物、硫化物等のセラミックスに多く用いられ、固体粉末等の原材料を焼結させて製造する方法である。
【0004】
一般に、ターゲットのスパッタにより被処理基板上に発生するパーティクルは、溶解品よりも焼結品の方が多い。焼結品の方が、相対密度が低く、ターゲット中に内部空孔が多数存在するため、スパッタによる内部空孔の表出時に、該空孔を起点とするスプラッシュや異常放電が発生しやすくなるためである。
この対策としては、ターゲットの相対密度をほぼ100%にすることにより、ターゲットの内部空孔をなくすことが求められる。
【0005】
また、ターゲットを構成する結晶粒の粒径が大きい場合にも、ランダム配向している結晶粒の結晶面方位によるスパッタ速度の違いから、表面に凹凸が生じ、これを起点としてパーティクルが発生しやすくなる。
結晶粒が大きくなる原因としては、高温で長時間保持して焼結させることが考えられる。ターゲットの相対密度を高めるためには、高温で長時間焼結する必要があるが、結晶粒の成長を抑制する観点からは、焼結温度を必要以上に高く、また、焼結時間を必要以上に長くするべきではない。
このような観点から、特許文献1には、原料粉の融点より50〜200℃低温で1〜3時間保持するホットプレスにより、Cu−Ga合金焼結体スパッタリングターゲットを製造する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたような方法で製造されたターゲットを用いた場合であっても、スパッタによるパーティクルの発生を完全に防止することは困難である。ターゲットから飛び出したスパッタ粒子が、被処理基板上のみならず、ターゲットのスパッタ効率が低い部分、いわゆる非エロージョン領域や、ターゲットを保持するバッキングプレート、あるいはまた、スパッタリング装置の真空容器内の各部にも堆積し、皮膜が形成され、この堆積皮膜が部分的に剥離し、不要な微粒子や粗大粒子を含むパーティクルとなって、被処理基板上の薄膜内に異物として混入し、薄膜の品質低下を招くことがある。
【0007】
このような課題に対しては、例えば、特許文献2〜4に、ターゲットの表面又はバッキングプレートの表面をブラスト処理により粗面化することが提案されており、スパッタリングの際、このブラスト処理を施した部分が、上記のようなパーティクルをトラップし、被処理基板上に飛散させることを防止することができることが記載されている。
【0008】
また、特許文献5〜7には、ターゲットの側面又はバッキングプレートの表面に溶射皮膜を施したり、表面粗さを調節した金属箔又は板を接合したりすることによって、該皮膜や金属箔又は板のアンカー効果により、これらに付着したターゲット成分の膜の剥離が防止されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2011/010529号
【特許文献2】特開平4−301074号公報
【特許文献3】特開平10−30174号公報
【特許文献4】特開2009−191324号公報
【特許文献5】特許第3791829号公報
【特許文献6】特許第3895277号公報
【特許文献7】特許第4566367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2〜4に記載された方法では、ターゲットやバッキングプレートに対してブラスト処理等の表面処理を施す必要があり、ターゲットの製造工程が煩雑となる。
【0011】
一方、上記特許文献5,6に記載された方法では、ターゲットの側面又はバッキングプレートの表面に形成した溶射皮膜自体が剥離することがあり、これがパーティクル発生の原因となることがある。
また、上記特許文献7に記載されたような方法でも、ターゲットの側面又はバッキングプレートと金属箔又は板との間に空隙を生ずる場合があり、該空隙に入り込んだスパッタ粒子は容易に剥離するため、これがパーティクル発生の原因となる。
【0012】
以上のような事情に鑑み、スパッタリング法により被処理基板上に形成される薄膜の品質及び製造効率の向上を図るために、スパッタリングの際、ターゲットの側面又はバッキングプレートから、上記のようなパーティクルの発生を効果的かつ簡便に低減させることができる方法が求められていた。
【0013】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、スパッタリングの際のパーティクルの発生をターゲットの寿命の初期から末期を通じて効果的に低減することができ、かつ、簡便に得ることができるスパッタリングターゲットとバッキングプレートの接合体及びこれを用いた成膜方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るスパッタリングターゲット接合体は、スパッタリングターゲットに前記スパッタリングターゲットを保持するバッキングプレートが接合され、補強材として、アルミニウム、ステンレスまたは銅からなるバッキングプレートが、前記バッキングプレートの下面にさらに接合され、前記スパッタリングターゲット及び前記バッキングプレートは同一材質からなり、いずれも、焼結体からなり、該焼結体がマグネシアであり、かつ、比誘電率が2〜1500の誘電体であることを特徴とする。
このような接合体によれば、その側面がスパッタされやすくなるため、この部分にターゲット表面からのスパッタ粒子が付着して堆積したものが剥離することによるパーティクルの発生が低減される。
【0015】
のような構成であれば、スパッタリングの際にプラズマがターゲットの側面から入り込み、バッキングプレートの露出部がスパッタされた場合であっても、ターゲット成分以外の物質が基板上に飛散して薄膜が汚染されることがより一層防止される。
【0016】
また、本発明に係る成膜方法は、上記のスパッタリングターゲット接合体を用いて、前記スパッタリングターゲットをスパッタすることにより基板表面に成膜することを特徴とする。
このような成膜によれば、ターゲットの寿命の初期から末期を通じてパーティクルの発生が少ないため、高品質な薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスパッタリングターゲット接合体は、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとを接合体とするための複雑な構成を要することなく、簡便に得ることができ、スパッタリングの際のパーティクルの発生を、ターゲットの寿命の初期から末期を通じて効果的に低減させることができる。
また、本発明に係る成膜方法によれば、上記のような本発明に係るスパッタリングターゲット接合体を用いることにより、スパッタリング法により基板上に形成される薄膜の品質及び製造効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るスパッタリングターゲット接合体を模式的に示した断面図である。
図2図1に示すスパッタリングターゲット接合体の適用例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係るスパッタリングターゲット接合体は、図1に示したように、スパッタリングターゲット1がこれを保持するバッキングプレート2上に接合されているものである。スパッタリングターゲット1及び前記バッキングプレート2はいずれも、焼結体からなり、かつ、比誘電率が2〜1500の誘電体である。
このような接合体であれば、全体が誘電体であることから、該接合体の側面が負に帯電し、側面付近に存在するプラズマの密度はターゲット表面ほど高くはないものの、側面がスパッタされやすくなる。このため、ターゲット側面にターゲット表面でスパッタされたスパッタ粒子が付着して堆積し、これが剥離してパーティクルとなって被処理基板上に飛散することが抑制される。
【0020】
本発明においては、スパッタリングターゲットは接合体として形成される。
比誘電率が2〜1500の溶射材を用いて、ターゲットの側面又はバッキングプレートの表面に溶射皮膜を形成する場合も、ターゲットの上部側面がスパッタされやすくなるが、溶射皮膜自体が剥離しやすくなるため、これがパーティクル発生の原因となるおそれがある。
これに対して、本発明のような接合体とすれば、溶射皮膜のように、その剥離によるパーティクルが発生することはない。
【0021】
また、ターゲットとバッギングプレートとを一体成形した、いわゆる一体型ターゲットとすると、接合体におけるターゲット及びバッギングプレートのそれぞれよりも厚い状態で成形や焼成が行われるため、ターゲットの高密度化が困難になったり、結晶粒が粗大化したりする等により、パーティクル発生の抑制に効果的なターゲットを得ることが困難である。
これに対して、本発明においては、ターゲットとバックプレートを個別の焼結体として作製し、これらを接合することにより、簡便かつ均質な接合体を得ることができる。
【0022】
前記スパッタリングターゲット接合体の接合は、ターゲット及びバッキングプレートの材質により異なるが、一般に用いられている方法で行うことができ、具体的な方法としては、例えば、ロウ付け、接合剤等による接合及び拡散接合等が挙げられる。
【0023】
本発明におけるターゲットの材質は、スパッタにより被処理基板上に形成させる薄膜の材料であり、特に限定されるものではなく、単一金属もしくは合金又はこれらの酸化物もしくは窒化物等のセラミックスが一般的に用いられる。
また、ターゲットの形状は、バッキングプレートと同様に、通常は平板状であり、バッキングプレートよりもサイズが小さい。
【0024】
一方、バッキングプレートの材質は、比誘電率が2〜1500の誘電体であれば、ターゲットと同一の材質であっても、あるいはまた、異なる材質であってもよい。
比誘電率が2未満である場合、該スパッタリングターゲット接合体が誘電体であることによるスパッタ粒子のターゲット側面への付着及び堆積の抑制効果が十分に得られず、パーティクル発生の抑制効果が十分に得られない。一方、比誘電率が1500を超える焼結体を工業的に製造することは極めて困難であり、実用的でない。
【0025】
前記ターゲット及びバッキングプレートは、いずれも、高融点材料であっても比較的簡便に均質に製造できることから、焼結体により構成する。
焼結方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレス法、常圧焼結法、熱間等方圧加圧法(HIP法)、放電プラズマ焼結法(SPS法)等により、所望の焼結体を得ることができる。
【0026】
前記スパッタリングターゲット接合体は、バッキングプレートの補強のために、図2に示すように、補強材3として、通常使用されているアルミニウムやステンレス、銅等からなるバッキングプレートが、バッキングプレート2の下面にさらに接合されていてもよい。
このような構成でも、本発明のパーティクル発生の抑制効果を得ることができる。
【0027】
上記のような本発明に係るスパッタリングターゲット接合体を用いて、前記スパッタリングターゲットをスパッタして基板表面に成膜を行うことにより、ターゲット寿命の初期から末期を通じて、スパッタ速度が一定であり、パーティクルの発生も安定的に抑制することができるという効果が得られ、高品質な薄膜を形成することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
マグネシアからなるターゲットと同一材質からなるバッキングプレートとをインジウムにより接合した図1に示すようなスパッタリングターゲット接合体を作製した。
この接合体を用いてスパッタリングを行った。基板としてシリコンウェーハを用い、アルゴンガス雰囲気下、前記シリコンウェーハ上に膜厚0.8nmのマグネシア薄膜を形成した。
【0029】
参考例2]
実施例1において、バッキングプレートの材質をアルミナに変更して、それ以外は実施例1と同様にして、スパッタリングターゲット接合体を作製し、これを用いてスパッタリングを行った。
【0030】
[比較例1]
実施例1において、バッキングプレートの材質を銅に変更して、それ以外は実施例1と同様にして、スパッタリングターゲット接合体を作製し、これを用いてスパッタリングを行った。
【0031】
[比較例2]
ターゲット部分及びバッキングプレート部分のいずれの材質もマグネシアである一体型ターゲットを作製し、これを用いて、実施例1と同様にしてスパッタリングを行った。
【0032】
上記実施例及び比較例のスパッタリングにおいてシリコンウェーハ上に形成された薄膜表面を電子顕微鏡で観察し、粒径0.2μm以上のパーティクルをカウントした。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示したように、ターゲットと同一材質であるマグネシア又はアルミナからなるバッキングプレートを用いた接合体(実施例1及び2)においては、ターゲット寿命の初期、中期、末期において、基板上のパーティクル数の大きな変化は見られなかった。
一方、バッキングプレートを通常使用されている銅にした場合(比較例1)は、ターゲット寿命の中期から末期にかけて、基板上のパーティクル数が増加した。
また、マグネシア製の一体型ターゲット(比較例2)では、ターゲット寿命の末期において、基板上のパーティクル数がやや増加する傾向が見られた。
【符号の説明】
【0035】
1 スパッタリングターゲット
2 バッキングプレート
3 補強材
図1
図2