特許第6571156号(P6571156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571156
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】非発熱部のあるマイクロヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/02 20060101AFI20190826BHJP
   H05B 3/18 20060101ALI20190826BHJP
   H05B 3/48 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   H05B3/02 Z
   H05B3/18
   H05B3/48
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-247672(P2017-247672)
(22)【出願日】2017年12月25日
(65)【公開番号】特開2019-114446(P2019-114446A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2018年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140454
【氏名又は名称】株式会社岡崎製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100130144
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健壱
(72)【発明者】
【氏名】酒井 直人
(72)【発明者】
【氏名】西川 豪人
【審査官】 西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−218947(JP,A)
【文献】 特開2016−207431(JP,A)
【文献】 特開2017−032554(JP,A)
【文献】 特開2000−173801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02− 3/18
H05B 3/40− 3/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鞘管内に通電によりジュール熱を発生する金属を材質とする発熱線が収容され、該金属鞘管内と該発熱線との間に無機絶縁材粉末が充填されたマイクロヒータにおいて、
前記発熱線の一部に、該発熱線の材質より電気抵抗率が低い材質の金属が表面周方向全体にメッキされていて、該メッキのされていない発熱線より該メッキによって発熱量が少なくなっている、該メッキのされた発熱線の存在する部分が非発熱部となっていることを特徴とする非発熱部のあるマイクロヒータ。
【請求項2】
前記発熱線の材質は、ニクロムであり、
前記発熱線の表面をメッキしている金属の材質は、銅であることを特徴とする請求項1記載の非発熱部のあるマイクロヒータ。
【請求項3】
前記発熱線の表面をメッキしている金属の厚さは、該発熱線の外径の3.5%以上の厚さである請求項2記載の非発熱部のあるマイクロヒータ。
【請求項4】
前記発熱線の表面をメッキしている金属の厚さは、該発熱線の外径の20%以上の厚さである請求項3記載の非発熱部のあるマイクロヒータ。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属鞘管内に無機絶縁材粉末を介在させて、通電によりジュール熱を発生する発熱線を収容したマイクロヒータのうち、非発熱部のあるマイクロヒータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロヒータは、金属鞘管内に無機絶縁材粉末を介在させて、通電によりジュール熱を発生する発熱線を収容した可撓性のあるヒータで、基本的な構造として、図4図5に示す2種類がある。図4は従来のマイクロヒータの基本的な第1の構成を示す断面図、図5は従来のマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図である。
【0003】
図4(a)、図5(a)は長手方向断面図であり、図4(b)、図5(b)は其々、図4(a)のE−E断面、図5(a)のF−F断面の図である。但し、端末スリーブ7及び電気を供給するリード線80、81の絶縁被覆13,15は外形で描いており、また、見易くするために、図4(b)、図5(b)は図4(a)、図5(a)より大きい縮尺で描いている。
【0004】
図4に示すマイクロヒータ10では、金属鞘管3の内に発熱線4が無機絶縁材粉末6を介在して収容されており、その両端には端末スリーブ7が設けられていて、端末スリーブ7にはリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、16が繋がれている。端末スリーブ7の金属外枠内において、発熱線4の末端と導体14、16の先端とが接続されており、また、無機絶縁材粉末6に湿分が侵入して絶縁抵抗が低下しないようにシールが設けられている。
【0005】
図5に示すマイクロヒータ20は、図4のマイクロヒータ10と異なり、往復した発熱線4が金属鞘管3内に無機絶縁材粉末6を介在して収容されており、このため、端末スリーブ7は片側にのみ設けられている。端末スリーブ7の役割は図4の端末スリーブ7と同じで、金属外枠内で発熱線4の末端とリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、16の先端とが接続されており、また、無機絶縁材粉末6に湿分が侵入して絶縁抵抗が低下しないようにシールが設けられている。
【0006】
図4図5のマイクロヒータ10、20の発熱線4の材質としては、特殊な例外を除き、電気抗率が大きく発熱量の多いニクロムが用いられる。
【0007】
図4図5における端末スリーブ7の内部の具体的構造は、本特許出願と同一出願人による特許文献1の図1に示されているものが代表的である。同図に示されているように、金属製外枠(符号11)内における発熱線(符号22)の末端とリード線の導体(符号13)は、絶縁材(符号14、17)を介在して同外枠(符号11)内に収容されており、金属製外枠(符号11)端部にはシール(符号15)が設けられている。なお、図4の構造における各端末スリーブ7では、特許文献1の図1の発熱線(符号22)と導体(符号13)は各1本となる。ここで、括弧内の符号は、特許文献1の図1に示されている符号である。
【0008】
加熱対象物と端末シールが離れている場合、例えば、加熱対象物が容器内にある場合、図4図5の端末スリーブ7は通常、容器外に置かれ、発熱線4と無機絶縁材粉末6を収容した金属鞘管3が容器内で加熱対象物まで敷設される。この場合、金属鞘管3内の全長に亘って発熱線4がある図4図5のマイクロヒータ10、20では、加熱が必要ない部分も加熱することになり、マイクロヒータ10、20の不要な電力の消費、また、加熱対象物以外の耐熱温度が低い容器内機器を加熱することによる当該機器の損傷などの弊害が生じる。
【0009】
加熱対象物と端末シールが離れている場合のこのような弊害を避けるために、従来、加熱対象物に接触して加熱する部分のみ発熱し、他の部分は発熱しない構造とした図6図7に示すマイクロヒータ11、21が用いられる場合も多い。図6は従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第1の構成を示す断面図、図7は従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図で、図6図7は、図4図5と同様、端末スリーブ7及びリード線80、81の絶縁被覆13,15を外形で示している。
【0010】
図4図5のマイクロヒータ10、20では高電気抵抗率であるニクロムを材質とする発熱線4が全長に亘って発熱するのに対し、図6図7のマイクロヒータ11、21は、ニクロム線を材質とする発熱線4が収容された発熱部、電気抵抗率が小さいために発熱量の小さい銅を材質とする非発熱線17が収容された非発熱部、及びニクロムと銅の合金部18が存在する中間発熱部に分けることができる。この非発熱線17と合金部18が存在する以外は、図4図5のマイクロヒータ10、20と同じ構造で、同じ構成部品は同じ符号を使用して図6図7に示している。
【0011】
図6図7のマイクロヒータ11、21において、加熱対象物に接触して加熱する部分のみを発熱部にすることにより、無駄な消費電力が抑制され、また不要な加熱による機器の損傷を避けることができる。
【0012】
図4乃至図7に示される、金属鞘管3に無機絶縁材粉末6を介在させて発熱線4、非発熱線17等の金属線を収容した部分はマイクロヒータケーブルと称されることが多く、以下、マイクロヒータケーブルはこの部分を指す。マイクロヒータケーブルは、特許文献2の図7図8に示されるように仕上がり径より太いものを先ず作り、これをダイス引きやスエージングにより縮径して同文献の図6に示される所定の径のマイクロヒータケーブルに仕上げられる。
【0013】
図6図7の非発熱部のあるマイクロヒータでは、縮径前の仕上がり径より太いマイクロケーブルを作る際に収容する金属線は、ニクロムを材質とする仕上がり径より太い発熱線4の両端に略同径の銅を材質とする非発熱線17を突合せ溶接したものである。
【0014】
発熱線4と非発熱線17の突合せ溶接において、発熱線4の材質であるニクロムと非発熱線17の材質の銅との合金部が不可避に生じ、この合金部が縮径後、伸張された合金部18となって、当該部の存在する部分がニクロムと銅の中間的な抵抗を持つ中間発熱部となる。
【0015】
なお、銅線であってもジュール熱の発生は零ではない。単位長さ当りの発熱量は印加電流の2乗と単位長さ当りの抵抗値に比例するので、同じ電流が流れる繋がれた2種類の線の単位長さ当りの発熱量は単位長さ当りの抵抗値に比例する。2種類の線が同径であれば、単位長さ当りの抵抗値は電気抵抗率に比例することから、単位長さ当りの発熱量は電気抵抗率に比例する。図6図7の非発熱部は、銅の電気抵抗率はニクロムの約1.6%であるので、単位長さ当りの発熱量が、発熱部の単位長さ当りの発熱量の約1.6%になっている。このように非発熱線、非発熱部であっても、発熱線、発熱部に比べて微小ではあるが発熱がある。以下においても、発熱線、発熱部に比べて発熱が微小である線、部分を、其々、非発熱線、非発熱部と言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−257582号公報
【特許文献2】特開2017−112079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
よく知られているように、異種金属の溶接は難しい。前述ように、図6図7に示した従来の非発熱部のあるマイクロヒータでは、材質がニクロムの発熱線4と銅を材質とする非発熱線17の縮径前の突合せ溶接が必要である。
【0018】
この突合せ溶接部において、図8(b)に示すような合金部18の膨らみと非発熱線17の凹み22が生じることが多い。この原因としては、銅の融点はニクロムより低く、また銅の熱伝導率は高いので、突合せ溶接時、ニクロムの融点まで昇温される前に銅は広範囲に溶融し、表面張力によって溶融した銅が未だ固体のニクロム側に移動し、溶接後は概略、図8(a)に示す形、つまり、合金部19の非発熱線17側が全周に膨らみ、非発熱線17の合金部19との境近くに全周に凹み23が生じた形になると考えられ、これを仕上がり径に縮径すると概略、図8(b)の合金部18の膨らみと非発熱線17の凹み22となる。
【0019】
ニクロムの発熱線4、銅の非発熱線17の熱膨張率と、無機絶縁材粉末6、金属鞘管3の熱膨張率が異なるために、マイクロヒータの使用時に発熱線4、非発熱線17には引張り、圧縮応力が生じる。この応力は、金属鞘管3との温度差が大きくなる昇温時、降温時に特に大きくなり、昇降温を繰り返すと、銅の非発熱線17の凹み22が生じて径が細くなっている箇所で断線が生じることがあるという問題が、従来の非加熱部のあるマイクロヒータにはあった。
【0020】
この問題の対策として従来の非発熱部のあるマイクロヒータにおいて、銅とニクロムの中間的な熱伝導率もしくは融点を持つ、ニッケルを主成分とする合金線、銅を主成分とする合金線、あるいは銅にニッケルがクラッドされた線などを発熱線と非発熱線の中継線とする場合もあった。この場合、ニクロムを材質とする発熱線に短い中継線を突合せ溶接し、この中継線に銅の非発熱線を突合せ溶接するので、非発熱線の凹みは小さくなる。しかし凹みが全く無くなることはなく、断線問題の完全な解消には至らない。また、この方法では、中継線の電気抵抗率は通常、ニクロムと銅の中間的な値になるため、中継線が図6図7に示す中間発熱部になって、中間発熱部が長くなる問題が生じる。中間発熱部が長くなると当部での無駄な消費電力が増し、加熱すべきでない箇所が加熱される可能性が高まるという弊害が付随して生じるのである。
【0021】
本発明は、従来の非発熱部のあるマイクロヒータにおける、異種金属の溶接で生じる非発熱線の凹みに起因する断線問題に鑑みてなされたもので、非発熱線に凹みのない非発熱部のあるマイクロヒータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(第1の態様)
本発明による非発熱部のあるマイクロヒータは、
金属鞘管内に通電によりジュール熱を発生する金属を材質とする発熱線が収容され、金属鞘管内と発熱線との間に無機絶縁材粉末が充填されたマイクロヒータにおいて、
発熱線の一部に、発熱線の材質より電気抵抗率が低い材質の金属が表面周方向全体にメッキされていて、メッキのされていない発熱線よりメッキによって発熱量が少なくなっている、メッキのされた発熱線の存在する部分が非発熱部となっていることを特徴とするものである。

【0023】
このメッキされている部分は、メッキされていない部分より電気抵抗率が小さいためジュール熱の発生が抑制され、非発熱部となる。
【0024】
本発明による非発熱部のあるマイクロヒータでは、従来のように発熱線と非発熱線との突合せ溶接を行わないので、突合せ溶接で生じる非発熱線の凹みがなく、当凹みに起因する断線が発生しない。また、発熱線と非発熱線との突合せ溶接を行わないので、発熱線と非発熱線の合金部がなく、そのため中間発熱部が有意に存在せず、そこでの無駄な電力消費がない。
【0025】
(第2の態様)
上記の非発熱部のあるマイクロヒータにおいて、発熱線の材質はニクロムであり、発熱線の表面をメッキしている金属の材質は、銅であることが望ましい。
【0026】
このような材質とすることにより、メッキされていない発熱線の発熱量が従来のマイクロヒータと同等になり、また、メッキの材質を電気抵抗率の低い銅とすることにより、非発熱部の発熱量を効率的に抑制できる。
【0027】
(第3の態様)
この発熱線の材質をニクロム、メッキの材質を銅とした非発熱部のあるマイクロヒータにおいて、発熱線の表面をメッキしている金属の厚さは、発熱線の外径の3.5%以上の厚さであることが望ましい。
【0028】
前出のように、単位長さ当りの発熱量は単位長さ当りの抵抗値に比例する。ニクロム線の表面に銅がメッキされた線の抵抗値は、ニクロム線の抵抗と銅メッキの抵抗が並列に繋がれた回路の抵抗として求めることができ、銅の電気抵抗率がニクロムの約1.6%であることと、単位長さ当りの抵抗値は電気抵抗率を断面積で除した値であることを用いて、発熱線と同じ径のニクロム線に銅がメッキされた線の単位長さ当りの抵抗値を求めると、銅メッキの厚さがニクロムを材質とする発熱線の径の3.5%の厚さの場合に、メッキされている部分の存在する非発熱部の単位長さ当り抵抗値は、メッキされていない発熱線の存在する発熱部の単位長さ当り抵抗値の10%になる。
【0029】
したがって、メッキされている銅の厚さを発熱線の外径の3.5%以上とすることにより、非発熱部の単位長さ当りの発熱量を、発熱部の単位長さ当りの発熱量の10%以下に抑えることができる。
【0030】
(第4の態様)
さらに、発熱線の材質をニクロム、メッキの材質を銅とした非発熱部のあるマイクロヒータにおいて、発熱線の表面をメッキしている金属の厚さは、発熱線の外径の20%以上の厚さであることが、より望ましい。
【0031】
メッキされている銅の厚さが発熱線の外径の20%の場合、上記と同様に非発熱部の単位長さ当りの抵抗値を求めると、メッキされていない発熱線の存在する発熱部の単位長さ当り抵抗値の約1.6%であり、これは、従来の銅の非発熱線の単位長さ当りの抵抗値と同等である。
【0032】
そのため、メッキされている銅の厚さをニクロムの発熱線の外径の20%以上とすることにより、発熱部の単位長さ当りの発熱量に対する非発熱部の単位長さ当りの発熱量を、従来の銅を材質の非発熱線の場合の約1.6%と同等もしくはそれ以下の割合にすることができる。非発熱部の発熱量が小さくなった分、無駄な電力消費がなくなり、また、加熱が不要な箇所の加熱も減少する。
【0033】
金属鞘管内に無機絶縁材粉末を介在して発熱線とそれにメッキがなされた部分を収容したマイクロヒータケーブルと言われる部分のこれまで工業界で使用されてきた外径は、1.6mm乃至6.4mmが主流で、そのニクロムの発熱線の外径は0.25mm乃至1.25mmが一般的である。銅メッキの厚さが発熱線外径の20%の場合、φ1.25mmの発熱線ではメッキ厚さが0.25mmである。
【0034】
ここで、本発明の非発熱部のあるマイクロヒータケーブル製作においても従来と同様に、仕上がり径より太いものを先ず作り、これをダイス引きやスエージングにより縮径して所定の径のマイクロヒータケーブルに仕上げられる。非発熱部のないマイクロヒータでは縮径率を小さくして長尺のマイクロヒータケーブルを作り、これを切断して多本数のマイクロヒータが製作される。対して、非発熱部のあるマイクロヒータでは、発熱部の位置が使用する場所によって異なるため、また、発熱部と非発熱部があることから長尺のマイクロヒータケーブルを切断して多本数のマイクロヒータを製作することができないため、縮径率は通常2分の1から3分の1程度で、本発明による非発熱部のあるマイクロヒータも同程度の縮径率になる。仕上がり径での銅のメッキ厚さを0.25mmとするには、縮径前の銅メッキ厚さは、縮径率を2分の1として0.5mm、縮径率を3分の1として0.75mmが必要であるが、この厚さは特別の困難を伴わずに銅メッキができる厚さである。
【発明の効果】
【0035】
以上のとおり、本発明による非発熱部のあるマイクロヒータは、非発熱線に、従来生じることがあった発熱線との溶接部近くの凹みによる径の減少がなく、そのため、使用時に発生する応力によって、そこが断線する懸念がない。加えて、従来あった、発熱線と非発熱線の溶接部に生じる不要な中間発熱部がないという付随的効果も持っている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第1実施形態を示す断面図
図2】本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第2実施形態を示す断面図
図3】本発明の第1実施形態における発熱線と非発熱線の境界部を示す断面図
図4】従来のマイクロヒータの基本的な第1の構成を示す断面図
図5】従来のマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図
図6】従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第1の構成を示す断面図
図7】従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図
図8】従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第1の構成における発熱線と非発熱線の境界部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を実施するための第1と第2の2つの実施形態について説明する。
【0038】
(第1実施形態)
図1は本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第1実施形態を示す断面図で、図1(a)は長手方向断面図であり、図1(b)(c)は其々、図1(a)のA−A断面、B−B断面である。但し、図1(a)の端末スリーブ7とリード線80、81の絶縁被覆13,15は外形で描いており、見易くするために、図1(b)(c)は図1(a)より大きい縮尺で描いている。また、図中の符号は、図4乃至図7に示した従来のマイクロヒータと同じ機能の構成部品は図4乃至図7と同じ符号を付しており、これは後掲載の図3も同様である。
【0039】
この第1実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ1は、金属鞘管3内に無機絶縁材粉末6を介在させて、金属を材質とし、通電によりジュール熱を発生する発熱線4が収容されおり、この発熱線4には、発熱線4の材質より電気抵抗率の低い金属を材質とするメッキ5が表面にされた部分があり、このメッキ5がされた部分が非発熱線となっている。メッキ5がされている部分は、メッキ5がされていない部分より電気抵抗率が小さいためジュール熱の発生が抑制されて非発熱線となり、この部分が非発熱部となる。また、メッキ5がされていない部分が正規の発熱をして発熱部となるのである。
【0040】
金属鞘管3、無機絶縁材粉末6、ならびに金属鞘管3の両端部に端末スリーブ7が設けられていて、端末スリーブ7には通電のためのリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、16が繋がれている構造は、図6に示した従来の非発熱部のあるマイクロヒータ11と同じである。なお、端末スリーブ7内の構造は、本特許出願と同一出願人による特許文献1の図1おいて符号22で示されている発熱線と符号13で示されている導体を各1本とした構造である。
【0041】
この非発熱部のあるマイクロヒータ1では、従来のように発熱線と非発熱線との突合せ溶接を行わないので、突合せ溶接で生じる非発熱線の凹みがなく、当凹みに起因する断線が発生しない。また、発熱線と非発熱線の合金部がないため中間発熱部が有意に存在せず、そこでの無駄な電力消費がない。
【0042】
使用材質に関し、本実施形態における発熱線4の材質はニクロムで、メッキ5の材質は銅である。発熱線4の材質としては、電気抵抗率が高く発熱量の多いニクロムが従来から使用されており、本実施形態においても発熱線4の材質をニクロムとすることにより、発熱部の発熱量を従来のマイクロヒータと同等にしている。また、メッキ5の材質を電気抵抗率の低い銅とすることにより、非発熱部の発熱量を効率的に抑制している。
【0043】
本実施形態の他の材質は、金属鞘管3がSUS316、無機絶縁材粉末6がマグネシアである。勿論、発熱線4、メッキ5、金属鞘管3及び無機絶縁材粉末6の材質は、メッキ5の材質の電気抵抗率が発熱線4の材質より低い条件を満たしておれば、これらに限ったものではなく、温度等の使用条件によって材質を変えてもよい。
【0044】
断面形状に関し、本実施形態の金属鞘管3の外径は3.2mm、内径は2.56mmで、発熱線4の外径は0.77mm、メッキ5の厚さは0.16mmで、非発熱線の外径は1.09mmである。この金属鞘管3の内径、発熱線4の外径は其々、図4に示した従来の金属鞘管3の外径が3.2mmのマイクロヒータ10及び図6に示した従来の金属鞘管3の外径が3.2mmの非発熱部のあるマイクロヒータ11の、金属鞘管3の標準的な内径、発熱線4及び非発熱線17の標準的な外径と略同じに合わせている。
【0045】
単位長さ当りの発熱量は単位長さ当りの抵抗値に比例する。ニクロムを材質とする外径0.77mmの発熱線4の表面に銅のメッキ5が厚さ0.16mm、つまり発熱線4の外径の約20%の厚さでなされた非発熱線の抵抗値は、ニクロム線の抵抗と銅メッキの抵抗が並列に繋がれた回路の抵抗として求めることができ、銅の電気抵抗率がニクロムの約1.6%であることと、単位長さ当りの抵抗値は電気抵抗率を断面積で除した値であることを用いて、非発熱線の単位長さ当りの抵抗値を求めると、発熱線4の抵抗値の約1.6%で、これは、従来の外径0.77mmの銅を材質とする非発熱線の単位長さ当りの抵抗値と同等である。したがって、本実施形態の発熱線4の単位長さ当りの発熱量に対する非発熱部の単位長さ当りの発熱量は、従来の銅の非発熱線の場合の約1.6%と同等である。
【0046】
メッキ5の厚さを増せば、メッキ5がなされた部分である非発熱線の単位長さの発熱量はさらに少なくなるし、メッキ5の厚さを薄くすれば、非発熱線の単位長さの発熱量は増える。本実施形態において、メッキ5の厚さを0.03mm、つまり発熱線4の外径0.77mmの約3.5%とすれば、非発熱線の単位長さ当りの発熱量は、発熱線の10%程度に抑えることができる。
【0047】
本実施形態でも従来と同様、金属鞘管3内に無機絶縁材粉末6を介在して発熱線4とそれにメッキ5がなされた部分を収容したマイクロヒータケーブルと言われる部分の製作において、前出のように、仕上がり径より太いものを先ず作り、これをダイス引きやスエージングにより径を2分の1乃至3分の1に縮径して外径3.2mmのマイクロヒータケーブルに仕上げられる。本実施形態では、縮径率2分の1の場合は、縮径前の金属鞘管3の外径は6.4mm、発熱線4の外径は約1.5mm、銅のメッキ5の厚さは約0.32mmであり、3分の1の場合は、縮径前の金属鞘管3の外径は9.6mm、発熱線4の外径は約2.3mm、銅のメッキ5の厚さは約0.47mmである。
【0048】
図3は本発明の第1実施形態における発熱線と非発熱線の境界部を示す断面図で、図3(a)はマイクロヒータケーブル製作時の縮径前の断面、図3(b)は縮径後の断面、図3(c)は図3(b)の鎖線で囲んだ縮径後の発熱線4と銅のメッキ5がなされた非発熱線との境界部の拡大図である。図3(a)に示すように、銅のメッキ5がなされた部分と、メッキ5がなされていない発熱線4のみの部分は、従来のような合金部がないので明確に分かれており、これを図3(b)のように縮径しても図3(c)に示す如く、銅のメッキ5が徐々に薄くなった図6の中間発熱部に相当する部分の範囲は極めて短く、中間発熱部の存在は無いに等しい。
【0049】
(第2実施形態)
図2は本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第2実施形態を示す断面図で、図2(a)は長手方向断面図であり、図2(b)(c)は其々、図2(a)のC−C断面、D−D断面である。但し、図2(a)の端末スリーブ7とリード線80、81の絶縁被覆13,15は外形で描いており、見易くするために、図2(b)(c)は図2(a)より大きい縮尺で描いている。また、図中の符号は、図4乃至図7に示した従来のマイクロヒータと同じ機能の構成部品は図4乃至図7と同じ符号を付している。
【0050】
この第2実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ2は、金属鞘管3内に無機絶縁材粉末6を介在させて、金属を材質とし、通電によりジュール熱を発生する発熱線4が収容されており、この発熱線4には、発熱線4の材質より電気抵抗率の低い金属を材質とするメッキ5が表面にされた部分があり、このメッキ5がされた部分が非発熱線となっているのは、第1実施形態と同様である。このメッキ5がされている部分は、このメッキ5がされていない部分より電気抵抗率が小さいためジュール熱の発生が抑制されて非発熱線となり、この部分が非発熱部となる。また、メッキ5がされていない部分が正規の発熱をして発熱部となるのも第1実施形態と同じである。
【0051】
この非発熱線以外の、金属鞘管3、無機絶縁材粉末6、ならびに金属鞘管3の端部に端末スリーブ7が設けられていて、端末スリーブ7には通電のためのリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、16が繋がれている構造は、図7に示した従来の非発熱部のあるマイクロヒータ21と同じである。端末スリーブ7内の構造は、特許文献1の図1に示されている構造である。
【0052】
発熱線4、メッキ5、金属鞘管3及び無機絶縁材粉末6の材質は第1実施形態と同じである。メッキ5の材質の電気抵抗率が発熱線4の材質より低い条件を満たしておれば、これらに限ったものではなく、使用条件によって材質を変えてもよいのも第1実施形態と同じである。
【0053】
断面寸法については、本実施形態の金属鞘管3の外径は3.2mm、内径は2.56mmで、発熱線4の外径は0.31mm、メッキ5の厚さは0.07mmで、非発熱線の外径は0.45mmである。この金属鞘管3の内径、発熱線4の外径は其々、図5に示した従来の金属鞘管3の外径が3.2mmのマイクロヒータ20及び図7に示した従来の金属鞘管3の外径が3.2mmの非発熱部のあるマイクロヒータ21の、金属鞘管3の標準的な内径、発熱線4及び非発熱線17の標準的な外径と略同じに合わせている。
【0054】
非発熱線の単位長さ当りの抵抗値を求めると、第2実施形態も第1実施形態と同じく発熱線4の抵抗値の約1.6%で、これは、従来の外径0.31mmの銅の非発熱線の単位長さ当りの抵抗値と同等である。したがって本実施形態も、発熱線4の単位長さ当りの発熱量に対する非発熱部の単位長さ当りの発熱量は、従来の銅の非発熱線の場合の約1.6%と同等である。
【0055】
メッキ5の厚さを増せば、メッキ5がなされた部分である非発熱線の単位長さの発熱量はさらに少なくなるし、メッキ5の厚さを薄くすれば、非発熱線の単位長さの発熱量は増えることも第1実施形態と同じで。この第2実施形態において、メッキ5の厚さを0.01mm、つまり発熱線4の外径0.31mmの約3.5%とすれば、非発熱線の単位長さ当りの発熱量は、発熱線の10%程度に抑えることができる。
【0056】
また本実施形態でも第1実施形態及び従来と同様、マイクロヒータケーブルの製作において、仕上がり径より太いものを先ず作り、これをダイス引きやスエージングにより径を2分の1乃至3分の1に縮径して、外径3.2mmのマイクロヒータケーブルに仕上げられる。本実施形態では、縮径率2分の1の場合は、縮径前の発熱線4の外径は6.4mm、銅のメッキ5の厚さは約0.13mmであり、3分の1の場合は、縮径前の発熱線4の外径は9.6mm、銅のメッキ5の厚さは約0.19mmである。
【0057】
従来のような合金部がないので縮径前のマイクロヒータケーブルでは発熱線4と非発熱線が明確に分かれており、これを縮径しても中間発熱部は無いに等しいのは、本実施形態においても、第1実施形態と同じである。
【0058】
以上、2つの実施形態でのマイクロヒータケーブルの仕上がり径つまり金属鞘管3の外径は3.2mmであるが、従来、工業界で使用されてきたマイクロヒータケーブルの主流は前出のように、1.6mm乃至6.4mmであり、本発明の非発熱部のあるマイクロヒータのマイクロヒータケーブルも従来と同様のこれらの外径としてもよく、外径に合わせて発熱線4の径、メッキ5の厚さが変えられる。上記金属鞘管3の外径の範囲で銅のメッキ5の厚さ等が制限になることはないのは前出のとおりである。
【0059】
なお、マイクロヒータケーブルの全長、発熱部の位置と長さについては、端末スリーブと加熱対象物との距離や、加熱対象物の大きさなどの使用条件によって決められるもので、予め定まった制約はない。
【0060】
1 非発熱部のあるマイクロヒータ(第1実施形態)
2 非発熱部のあるマイクロヒータ(第2実施形態)
3 金属鞘管
4 発熱線
5 メッキ
6 無機絶縁材粉末
7 端末スリーブ
80、81 リード線
13、15 リード線の絶縁被覆
14、16 リード線の導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8