特許第6571223号(P6571223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 佐々木商工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6571223-貝類の養殖籠 図000002
  • 特許6571223-貝類の養殖籠 図000003
  • 特許6571223-貝類の養殖籠 図000004
  • 特許6571223-貝類の養殖籠 図000005
  • 特許6571223-貝類の養殖籠 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571223
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】貝類の養殖籠
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/55 20170101AFI20190826BHJP
【FI】
   A01K61/55
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-18487(P2018-18487)
(22)【出願日】2018年2月5日
(65)【公開番号】特開2019-134691(P2019-134691A)
(43)【公開日】2019年8月15日
【審査請求日】2018年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】595072181
【氏名又は名称】佐々木商工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 章
【審査官】 後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−018030(JP,A)
【文献】 特開2009−159898(JP,A)
【文献】 特開2008−022773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−61/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に形成されたフレームと、フレームの内面に張設された底網と、フレームの外周部に立ち上げ状態に張設され、その一部を開閉可能にした側網とを備え、フレームの内側には前記底網を支える撚りロープよりなる補強材を十字状に設け、補強材を構成する撚りロープの延長端部をフレームに結束したことを特徴とする貝類の養殖籠。
【請求項2】
前記補強材は、天然繊維又は合成繊維による複数の子綱をより合わせた撚りロープであることを特徴とする請求項1に記載の貝類の養殖籠。
【請求項3】
前記底網は、その編み目の少なくとも一部を前記補強材の底面から上面に縫うように係止させる係止部を形成して、張設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の貝類の養殖籠。
【請求項4】
前記底網の前記補強材との前記係止部は、略十字状に設けられた補強材の、中心部からの四方の片のそれぞれ一部に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の貝類の養殖籠。
【請求項5】
前記フレームは被覆鋼線からなり、被覆鋼線の両端が重合した状態で無端状に形成し、被覆鋼線の両端の重合部を結束手段により固定するとともに、前記補強材を形成する撚りロープの延長端部を結束することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の貝類の養殖籠。
【請求項6】
前記側網は、その略円筒形とした下端縁部を前記フレーム外周に折り曲げて固定し、側網の中間網部をほぼ載頭円錐形に立ち上げ、側網の略円形とした頂部開口を巾着状に開閉可能としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の貝類の養殖籠。
【請求項7】
前記フレームと前記底網は、フレームの周囲を包囲する前記側網を介して上下多段に連結された連段籠をなし、かつ側網の少なくとも一部を開閉可能としたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載の貝類の養殖籠。
【請求項8】
前記フレームがほぼ四角形であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載の貝類の養殖籠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に吊り下げるようにして内部の稚貝を成育させて養殖する、貝類の養殖籠に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタテ貝に代表される貝類の養殖には、ヒトデやミズダコなどの天敵のいる海底ではなく、稚貝などを養殖籠に入れ、適度な海水温の海中に単に懸垂保持しておくことにより、稚貝は安全を保たれた状態で海流によって運ばれる栄養塩類や、プランクトンを摂取して順次生育し、水揚げして出荷する。
【0003】
下記特許文献に示される貝類の養殖籠は、円形またはほぼ四角形に形成された被覆鉄線からなる成育室外形保持用の外周フレームと、外周フレームの内側に縦横十字状に掛け渡された同じく被覆鉄線からなる略十字状補強材と、フレームの内側に張設され、補強材の上面に保持される底網と、フレームの外周より立ち上げられた側網と、側網の一部に設けられた貝類出し入れ用の開口部を備え、網内部における底網の上部空間となる成育室に稚貝を入れて養殖する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−22773号公報
【特許文献2】特開2009−159898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の貝類の養殖篭では、特許文献1に示すように、鉄線からなる略十字状補強材の先端を略U型に折り返すようにして、成育室の外周フレームに結合させるようにしていた。このため、フレームと補強材よりなる枠組みが鋼材よりなる剛体を構成し、本願図3に示すように、潮流等によりフレームが圧縮方向又は伸長方向の強い外圧を受けると、枠組み自体が変形し、上記略U型折り返しがフレームから分離して、破損するという事故があった。また、このような剛構造の枠組みが変形し破損することにより、底網が破損し、成育室内の稚貝が外海に放出される。さらに、底網と十字状補強材との間に稚貝が挟まって損傷するという事故があった。
【0006】
さらに、成育室の底部を、鋼材よりなる外周フレームと略十字状補強材により構成させる従来の構造であると、一つあたりの養殖籠の重量が重くなり、特に大型の籠や、特許文献2に示す何段もの籠を一体化した連段籠の場合には、海中に対する上げ下ろし毎の労力が過大なものとなっていた。
【0007】
本発明は以上の課題を解決するものであり、その目的とするところは、軽量であっても海流圧力によるフレームの変形を効率よく抑制できるようにした貝類の養殖籠を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
次に、上記課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
【0009】
本発明は、無端状に形成されたフレーム1と、フレーム1の内面に張設された底網4と、フレーム1の外周部に立ち上げ状態に張設され、その一部を開閉可能にした側網5とを備え、フレーム1の内側には前記底網4を支える撚りロープよりなる補強材2を十字状に設け、補強材2を構成する撚りロープの延長端部をフレーム1に結束(結束部2a)したことを特徴とする貝類の養殖籠である。
【0010】
請求項2に係る本発明は、前記補強材2は、天然繊維又は合成繊維による撚りロープであることを特徴とする請求項1に記載の貝類の養殖籠である。補強材2は、2本又は3本など複数本の子綱を、右撚り若しくは左撚りに撚ったもので、ポリエチレンなどの合成繊維又は天然繊維により形成される。上記複数本の子綱の中心に芯子綱が設けられていても良い。
【0011】
請求項3に係る本発明は、前記底網4は、その編み目の少なくとも一部を前記補強材2の底面から上面に縫うように絡げて係止させる係止部4aを形成して、張設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の貝類の養殖籠である。
【0012】
請求項4に係る本発明は、前記底網4の前記補強材2との前記係止部4aは、十字状に設けられた補強材2の、中心部からの四方の片のそれぞれ一部に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の貝類の養殖籠である。
【0013】
請求項5に係る本発明は、前記フレーム1は被覆鉄線からなり、被覆鉄線の両端が重合した状態で無端状に形成され、被覆鉄線の両端の重合部1cを連結手段8により固定するとともに、前記補強材2を形成する撚りロープの延長端部を結束(結束部2a)することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の貝類の養殖籠である。
【0014】
請求項6記載の本発明に係る貝類の養殖籠は、本発明を1段の丸籠、実施例では巾着籠に適応したものであり、前記側網5は、その略円筒形とした下端縁部を前記フレーム1外周に折り曲げて固定し、側網5の中間網部をほぼ載頭円錐形に立ち上げ、側網の略円形とした頂部開口部3を巾着状に開閉可能としたことを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の本発明に係る貝類の養殖籠は、前記フレーム1と前記底網4は、フレーム1の周囲を包囲する前記側網5を介して上下多段に連結された連段籠をなし、かつ側網の少なくとも一部を開閉可能としたことを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の本発明に係る貝類の養殖籠は、前記フレーム1がほぼ四角形である、所謂座布団籠であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上により、本発明に係る貝類の養殖籠では、底網を支える略十字状の補強材を、撚りロープにより形成させるとともに、撚りロープの延長端部を外周フレームに結束させた柔構造とすることにより、海中において、強い海流の圧力が作用して外周フレームを水平方向に変位させる力が加わると、その方向に直交する補強材となる補強用ロープが伸長して引張り力が生ずることにより、フレームの元の形が保持される柔構造となる。これにより、従来の鉄線の結合よりなる剛構造の養殖籠に比較して破損が少なくなり、破損などによる稚貝の損失もなく、経済性が向上する。
【0018】
さらに従来の鉄製の補強材では、錆の発生により劣化しやすいが、本発明の撚りロープの場合、錆びることがない。また、本発明では、補強材の端部と外周フレームの結合を補強材の延長端部を結束部による結束により行わせており、その結束作業が容易となり、製造補修なども容易となる。
【0019】
本発明では、底網を支える略十字状補強材が撚りロープによる柔らかい材質であって、外周フレームとの結合も柔軟性があって強固であり、補強材と底網との間に稚貝が挟まれることによる稚貝の損傷が防止され、安定した養殖に寄与することができる。
【0020】
本発明に係る貝類養殖籠は、鉄製の補強材を用いる従来の養殖籠に比較し、養殖籠の重量が格段に軽くなり、養殖現場の作業者の肉体的疲労を軽減して、作業能率が向上する。 例えば、実施例に示す、直径38cmで30段の連弾籠の場合、従来の鉄製剛構造の連弾籠に比較し、本発明の撚りロープを用いる柔構造の連弾籠では、約25.8%の重量を軽減できた。
【0021】
本発明では、底網の編み目の少なくとも一部、望ましくは、十字状に設けられた補強材の中心部からの四方の片のそれぞれの一部を、補強材の底面から上面に縫うように絡げて係止させる係止部を形成しているところから、底網の補強材からの浮き上がりがなく、安定する。補強材は柔軟な撚りロープにより形成されており、上記係止部の形成も容易で確実である。
【0022】
上記本発明の作用効果は単独の籠であっても、連段籠であっても同様であり、フレームの形状も円形だけでなく四角形若しくは多角形でも同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施の形態による養殖籠の一部を拡大して示す平面図である。
図2】同斜視図である。
図3】(a),(b)はフレームに縦横の変形圧力が加わった場合の作用を示す説明図である。
図4】本発明を連段籠に適用した第二の実施の形態を示す斜視図である。
図5】本発明を所謂座布団籠に適用した第三の実施の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
図1〜3は本発明の第1実施形態による養殖籠Aを示している。
第1実施形態の養殖籠Aは、所謂巾着籠である。
【0025】
図1、2において、養殖籠Aは、円環状のフレーム1と、フレーム1の内側に互いに十字形となるように張設状態に懸架された合成繊維撚りロープよりなる補強材2と、フレーム1の内側全体に展張された底網4と、上部がフレーム1の外周から上部中心に向けてほぼ載頭円錐形に絞り込まれた状態で立ち上げられた側網5とを有している。
【0026】
養殖籠Aは、側網5の上縁開口部3を巾着状に開閉する開閉用ロープ6と、吊り下げ用ロープ7を有している。吊り下げ用ロープ7は、その中間部を十字形縦横一対の上記補強材2の交点の結束部7aにおいて結束し、その上部を側網5の開口部3より突出させて、その上端を海上の固定部に連結するとともに、底網4の下部を錘などに連結することにより養殖籠を海中に安定に懸垂吊下するようにしている。底網4と側網5とは、底網4の外周においてフレーム1の外周部から上方に立ち上げられて連続する。底網4と側網5に囲まれた内部が稚貝の育成室11となる。補強材2の十字形交点は、合成樹脂よりなる結束手段8により結束されている。
【0027】
フレーム1は従来と同様に、図1のa−a部に拡大して示すように、鉄線1a(針金)の外周をビニルなど樹脂製被覆材1bで被覆したもので、その両側を一部重合し、重合部1cを金属製の一対の連結環よりなる結束手段8を介して連結固定することにより、ほぼ真円形状に保持される。また、両端の鉄線1aむき出し部分を防錆材9により被覆している。
【0028】
前記側網5のフレーム1からの立ち上げ部の一部は合成樹脂糸(図略)を介してフレーム1に結束固定されている。また、前記補強用の十字型一対のロープよりなる補強材2は、底網4を下支えするとともに、図1中b部に拡大して示すように、底網4の一部を絡げた状態で底網4に連結している。
すなわち、底網4は、その編み目の少なくとも一部を補強材2の底面から上面に縫うように絡げて係止させる係止部4aを形成して、張設されている。係止部4aは、十字状に設けられた補強材2の、中心部からの四方の片のそれぞれ一部に形成されている。
【0029】
従来の貝類養殖籠を構成するフレームと十字型補強材は、剛構造であって、水流により変形し、破損することがあるが、本願発明では、柔構造であって、図3(a),(b)に示すように、水流などの圧力によりフレームが横または縦方向に変形する力が作用すると、これに直交する一方のロープが緊張し、他方のロープが緩むことを繰り返すことにより、フレーム1をほぼ真円に保持する機能を有する。
前記補強材2用の一対のロープ、開閉用ロープ6、吊り下げ用ロープ7はいずれも同一径の子綱を二つ撚り、三つ撚りなどした合成繊維による撚りロープにより形成する。芯子綱の周囲に上記子綱を二つ撚り、三つ撚などすることにより補強材2を形成させるようにしても良い。
特に補強材2となる一対のロープは、従来では合成樹脂被覆鉄線などの剛体であり、重量がその分増すことにより籠の上げ下げなどの作業が重労働化するなどの問題が生ずるが、撚りロープに代替することで格段に軽量化することができる。
【0030】
前記底網4及び側網5は一体に編み上げられた合成樹脂紐又は天然繊維紐よりなる網であって、稚貝の籠からの脱落を防止するものであり、当初は稚貝の大きさに応じて小さなメッシュのものが選ばれ、従って海流の圧力がその分強増加するが、成貝に成長するまでの間、順次大きなメッシュとなるべく複数メッシュの網の養殖籠に交換され、交換毎に海流の圧力が順次削減される。なお、十分な大きさの成貝になったほたて貝は縄張り性が強く、複数混在すると貝自体にストレスが与えられるので、最終的には底網上における前記一対のロープ2で区画される4箇所でそれぞれの底網4のハンモック効果によりストレスを生ずることなく棲み分けがなされ、その状態で水揚げが可能となる。
【0031】
(第2実施形態)
図4は本発明の養殖籠Bを連段籠に適用した場合の第2実施形態を示すものである。
図4において、連段籠は十字形に張設された合成繊維撚りロープよりなる補強材2で下支えされ、周囲を円形の各フレーム1に固定された状態で展張された2段以上複数段の底網4と、各フレーム1の周囲にあって、各底網4を所定高さに保った状態に包囲する側網5と、各籠を縦通した状態で底網及び前記一対の補強材2の中心に固定された吊り下げ用ロープ7とから構成されている。側網5の一部は開閉可能に重ねられて開閉部5aとされている。この開閉部5aを縫合糸、マジックファスナなどで閉塞し、必要に応じて縫合糸を解くか、マジックファスナを引きはがすことにより内部をワンタッチで開口して、貝の取り出しを可能としている。
【0032】
本実施の形態ではその段数に応じて更に多数の貝の養殖が可能である。
【0033】
本実施形態の連段式丸籠の具体例として
直径38cm,30段の場合、
PVC被覆鉄線の補強材を使用した場合の養殖籠の重量=約6.6kg
繊維撚りロープの補強材を使用した場合の養殖籠の重量=約4.9kg
以上約25.8%の重量を軽減できた。
【0034】
(第3実施形態)
図5は本発明に係る養殖籠Cを所謂座布団籠と称するほぼ四角形状のフレーム10に適用した場合の第3実施形態を示すものである。
第3実施形態においても、フレーム10に膨張または圧縮変形力が加わった場合には、縦横一対の合成繊維撚りロープよりなる補強材2が互いに緊張、弛緩することにより元形状に戻す力が加わり、形状保持されるものとなる。この座布団籠は、図2に示す単独籠、または図4に示す連段籠にも適用可能である。
【0035】
上記第2実施形態及び第3実施形態において、上記第1実施形態と共通する図の構成部分には、共通の符号を付して、その詳細な説明は省略した。
【符号の説明】
【0036】
A,B,C 養殖籠
1,10 フレーム,1a 鉄線,1b 被覆材,1c 重合部
2 補強材,2a 結束部
3 開口部
4 底網,4a 係止部
5 側網
5a 開閉部
6 開閉用ロープ
7 吊り下げ用ロープ
7a 結束部
8 結束手段
9 防錆材
11 育成室
図1
図2
図3
図4
図5