【実施例】
【0173】
(実施例1)
網膜前駆細胞の単離および培養
約16〜19週の妊娠期間(GA)の胎児の胎児眼全体を、ドナーから得、L−グルタミンを含むRPMI−1640培地(BioWhittaker)を含有する15mlの管内に入れた。眼は、4.5時間〜約21.5時間の期間にわたって氷上で発送した。同時に、上記ドナーから血液試料を抜き取り、外来性物質への曝露についての試験に送った。到着時に、各眼球を検査して、角膜が透明であり、通常の形状のものであることを確認し、次いで滅菌条件下の層流フード下に置いた。胎児眼全体を、別個の50mlの管内で、抗生物質を含有する冷リン酸緩衝食塩水(PBS)40ml中で3回すすいだ。次いで視神経および残った間葉組織を解剖によって取り出した。網膜分離物(retinal isolate)が非網膜起源の望まれない細胞で汚染される可能性を回避するために、この手法を採用した。解剖後、抗生物質を含有する冷PBS中で眼をさらに1回すすいだ。
【0174】
双眼解剖顕微鏡下で、25−5/8ゲージの注射針が取り付けられた1mlの「TB」型シリンジを使用して、外科的輪部(surgical limbus)において各眼に穴を穿刺した。次いで眼球を、縁に沿って精巧なハサミで切断することによって、円周方向に開いた。前部構造物(角膜、レンズ)およびあらゆる残った硝子体を、眼杯から取り出した。次いで網膜を、網膜色素上皮(RPE)から慎重にそぐことによって離し、冷DMEM/F12培地約2mlを含有する小ペトリ皿内に移した。ペトリ皿内で1mlのチップで穏やかに粉砕することによって、網膜組織を手作業で小片へと壊した。網膜の塊を、15mlの冷コニカルボトムチューブ(conical bottom tube)内に懸濁物で移し、あらゆる残った組織を、冷DMEM/F12 1ml中で2〜3回ペトリ皿をすすぎ、これを15mlの管に加えることによって収集した。1000rpm(179×g)で5分間遠心分離することによって組織を沈降させ、上清を廃棄した。
【0175】
次いで組織を、TrypLE Express原液(Invitrogen)0.8ml中で、室温で40秒間インキュベートすることによって酵素消化にかけた。次いで、トリプシン処理された組織を、1mlのピペットチップによって上下させた。冷新鮮無血清細胞培養培地10mlを引き続いて添加することによってトリプシンを中和し、1000rpm(179×g)で4分間遠心分離することによって混合物を収集した。上清を除去し、ペレットを冷新鮮細胞培養培地中に再懸濁し、次いで細胞生存能および細胞数をトリパンブルー(Invitrogen)色素排除によって求め、Countess(Invitrogen)を使用して、または手作業で計数した。約10×10
6個の細胞群が得られ、ここで、約80%が小さい/中程度のクラスターであり、約9〜18%が単細胞であり、約1〜2%が大きいクラスターであった。この技法により、約92%の細胞生存能がもたらされた。
【0176】
次いで、ヒト(異種由来成分不含有)フィブロネクチンで予め被覆された2つのT75培養フラスコ内に細胞を播種した。ヒト血漿フィブロネクチン(Invitrogen)をいくつかの実験で使用した。他の実験では、オルニチン、ポリリシン、ラミニン、またはマトリゲルを使用した。次いで、37℃で、5%のCO
2および大気酸素下で、または代わりに3%のO
2中で、LowOxインキュベーターを使用して細胞をインキュベートした。培養中、細胞が引き続いて継代される際の早すぎる分化を防止するために、トリプシン処理および/または粉砕によってクラスターをさらに解離するように注意を払った。1日または2日毎に、細胞培養培地の90%を交換し、37℃で5〜6分間、TrypLE Expressを使用して、60〜80%のコンフルエンス、必要に応じて40〜90%のコンフルエンスで細胞を継代させた。冷培地または冷PBS 10mlを添加することによってトリプシン処理を停止した。細胞生存能をトリパンブルー染色によって求め、細胞数を計数した。解離した細胞を、新しいフィブロネクチン被覆フラスコまたはプレート内に、1〜6.7×10
4/cm
2の密度で引き続いて播種した。
【0177】
細胞を、TrypLE Expressでこれらを最初に回収することにより、凍結するために調製した。1000rpm(179×g)で5分間遠心分離することによって細胞を収集した。上清を除去し、細胞ペレットを新鮮培地または冷PBS中で再懸濁させた。細胞生存能および細胞数を求めた。1000rpmで5分間、細胞を引き続いて再び沈降させ、クライオバイアル1つ当たり0.5〜5×10
6細胞でアリコートして、細胞凍結保存用培地(90%の新鮮な完全培地、10%のDMSO)中に再懸濁させた。クライオバイアルを冷凍容器内に1℃で置き、次いで、−80℃のフリーザー、液体窒素タンク、または他の持続的低温貯蔵庫に移動させた。
【0178】
細胞を解凍するために、クライオバイアルを液体窒素/貯蔵庫から取り出し、氷晶が消失するまで、37℃の水浴中に2〜3分間置いた。次いで解凍した細胞を、1mlのピペットチップを使用して直ちに15mlの冷コニカルチューブに移し、バイアルを冷新鮮培地で2回すすいだ。冷新鮮培地10ミリリットルを、15mlの管内に穏やかに振盪しながら液滴で添加した。次いで、800rpm(115×g)で3分間遠心分離することによって細胞を収集し、上清を廃棄し、得られた細胞ペレットを新鮮培地に再懸濁させた。細胞数および生存能を本明細書に記載したように求め、次いで細胞を新しいフィブロネクチン被覆フラスコ内に播種し、上記した条件下でインキュベートした。
【0179】
ネコ網膜由来前駆細胞の形態を
図1に示す。この図から分かるように、形態は、培養を持続する過程の異なるタイムポイントで維持された。
図2は、2つの異なるタイプの細胞培養培地で増殖したネコRPCの増殖曲線を例示する。SM中のネコRPCは、継代10日目(P10)で老化し、一方UL中の同じ細胞は、増殖し続けた。P14後に、増殖の上向きの変曲があった。
【0180】
図3中のヒト細胞の形態は、最初に認められた細胞の小クラスターを示し、これらは、第1週の最後までに接着性単細胞培養物に系統的に変換された。これは、上記した継代手順の間の解離によって実現した。一般に、小サイズまたは中サイズのクラスターを最初に使用すると、細胞生存能が増進され、これは、血清の完全な非存在下で有利であった。相対的に高い細胞密度を維持しながら引き続いて完全に解離すると、分化を回避しながら増殖を促進することができる。
【0181】
図4および
図5において、hRPCの増殖動態が認められる。供与物に由来する細胞を、P4で臨床的に使用した。大気酸素下で認められる増殖は相当であり、少なくとも10継代(P10)にわたって持続したが、増殖は無限ではなかった。無制限の増殖特性は、多能性、不死化、および腫瘍形成のリスクの増大を示し得るので、禁忌である。
【0182】
DMEM/F12(標準、Advanced and KnockOut;Invitrogen)、Neurobasal(Invitrogen)、Ultraculture(Lonza)、およびReNcell(Chemicon)を含めた様々な無血清細胞培養培地および異種由来成分不含有細胞培養培地を試験して、RPC繁殖の最適条件を求めた。RPCの培養で使用した細胞培養培地は、最初の2週間にわたって、N2補充物(Invitrogen)、B27(Invitrogenまたは他のブランド)、Stempro(Invitrogen)、ビタミンC、アルブミン、組換えヒト上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、GlutaMAX I、L−グルタミン、および/またはペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen)を時折補充した。本明細書で示す「SM」は、DMEM/F12に基づく標準増殖培地を指す。「UL」は、基礎培地としてUltracultureを使用する増殖培地として本明細書で指す。無血清培地を抗生物質の非存在下で、または抗生物質とともに、最初の2週間使用し、その後、抗生物質不含培地を約6週間使用した。抗真菌剤は、使用しなかった。
図5は、RPCの最適培地を求めるために行った実験結果を示す。基礎培地、標準DMEM/F12について、N2補充物、増殖因子、グルタミンもしくはGLUTAMAX(商標)(GlutaMax(商標))を補充した培地を、同様に補充した「アドバンストDMEM/F12」と比較した。
図6Aで分かるように、補充のビタミンCおよびアルブミンも含有する「アドバンスト」バージョンは、より有効であることを証明し、hRPCの収率を18〜29%増大させた。
【0183】
細胞培養物補充の効果も探索した。そのために、N2補充物もB27異種由来成分不含有補充物と比較した。
図6Bは、B27異種由来成分不含有を補充すると、RPCの収率が確かに増大することを示す。N2により収率が適度に増大し、これらの量は、治療効力について十分である。追加のビタミンCの効果も試験した。ビタミンC補充物を2日毎に培地に添加した。
図7Aは、ビタミンCが、hRPCの収率を約30%改善することを示す。アドバンストDMEM/F12は、追加されたビタミンCを含有するが、追加の補充によってもたらされるレベルがより高いと(0.05mg/ml〜0.1mg/ml)、hRPC増殖に有用であることが明白である。2日毎に新鮮なビタミンCを追加することで十分であり、毎日の添加は、必要であると認められなかった。最後に、アルブミンの補充を試験した。異種由来成分不含有ヒト組換えアルブミンを1.0mg/mlで培地に添加し、標準DMEM/F12ベース培地に添加したとき、増殖の増強が観察された(最大27%)が、この情況で好都合な基礎培地である(かつ既に追加されたアルブミンを含有する)アドバンストDMEM/F12ベース培地に追加のアルブミンを添加したとき、検出可能な改善は観察されなかった。
図7Bおよび
図7Cを参照。
【0184】
細胞培養培地の容量オスモル濃度も、異なる市販の補充物と組み合わせて、異なる容量オスモル濃度(osm)の培地を使用することによって検査した。
図8を参照。低osm培地(KnockOut DMEM/F12;276 mOsm/kg)は、一般に使用される神経細胞用補充物(neural supplement)N2またはB27にとって有益でなく、いくつかの場合では、通常のosm培地(DMEM/F12;300〜318mOsm/kg)と比較して著しく低い収率をもたらした。あまり一般的ではない補充物を組合せて使用した場合(STEMPRO(商標)キット、Invitrogen、データを示さず)、低osmに利益の徴候があった。
【0185】
%生存能および増殖速度に加えて、「落下までの時間」と本明細書で呼ぶ、最初の回収の最適な(例えば、in vitroで)結果を予言する追加の測定基準を策定した。「落下までの時間」は、解離した細胞がインキュベートされた増殖培地でフラスコの底に沈殿するまでの時間を特に指す。懸濁物の保持(落下の欠如)は、単離プロセスによる損傷から生じる細胞の傷害または非生存能と関連する場合があり、しかも細胞による自己修復が成功すると、膜恒常性、通常の容量オスモル濃度などを回復し、それによって、負の浮力およびしたがって「落下」を回復する能力の観察と関連する。自己修復が遅延すると、細胞にとってストレスが多くなり、あまり活性でない/あまり健康でない培養物をもたらす。報告判定基準として約90%の落下(集団の%に基づいて)を使用して、輸送時間が21.5時間であった組織からの細胞について約6時間の落下時間が観察され、輸送時間が4.5時間であった組織からの細胞で約1.5時間に短縮した。直ちに蒔かれたネコRPCおよび脳前駆細胞は、1時間の落下時間をもたらした。約1時間以下の落下時間は、ヒト細胞で達成可能であった。
【0186】
RPを用いたヒトにおける視覚の改善を実証するのに使用する細胞を、大気酸素の条件下で培養した。妊娠の間に発生中の胎児網膜の酸素レベルをより密接に模倣する低酸素条件、この場合、3%の酸素(「lowOx」)下の増殖中のRPCの分枝(ramification)を探索した。
図9が示すように、3%の酸素(「lowOx」)により、hRPCの増殖が顕著に改善されるとともに増殖がより長く持続し(56日目、P10で)、所与の供与物からの全体的な細胞収率が大いに増大した。大気酸素(20%)下での増殖特性は、比較のために示されており、活発性が著しく低い増殖速度、および増殖のより早期の老化(47日目、P7)、および劣った全収率を露呈する。
図9は、lowOxにおけるhRPCの増殖の加速に対応する変曲点も示し、これは、約40%のコンフルエンスレベルで起こり、最適なhRPC増殖に対する高密度培養条件の重要性を強調している。同様の結果が、低酸素条件下で増殖した細胞において認められる(
図10)。低酸素条件下で増殖したWCB細胞の増殖特性は、再現可能であった(
図11)。
【0187】
ステロイドは、移植の時点で患者に使用されることが多いので、細胞をステロイド毒性試験にもかけた。
図12は、眼科用途において、しかし予想される臨床的利用を超えるレベルでのみ一般に使用されるステロイドのトリアムシノロンアセトニドのhRPCに対する毒性を示す。臨床用量のトリアムシノロンアセトニドは、細胞増殖に影響するようではなかったが、用量が多いと(予期される臨床用量の約10倍超)、ドナー細胞生存能を低下させ得る。
【0188】
液体窒素中で以前に凍結された細胞を解凍し、生存能について試験した。
図13は、凍結融解実験の結果を示す。これらの以前に凍結された細胞は、低酸素および正常酸素細胞培養条件の両方の下で生存可能であった。細胞の生存能は、両酸素条件について約94%であることが判明した。解凍後の細胞は、連続培養条件下で維持されたhRPCと同様の増殖動態を呈した。
【0189】
(実施例2)
RPCの特徴付け
免疫細胞化学検査
細胞を解離し、4または8ウェルチャンバースライド上で1〜3日間増殖させ、次いで4%のパラホルムアルデヒド中で15分間固定し、PBS中で3回洗浄した。スライドを、5%のロバ血清および/または0.3%のTriton X−100を含有する溶液中で1時間ブロッキングし、その後、別のPBSで洗浄した。次いで抗体のパネルを4℃で一晩インキュベートして、前駆細胞によって発現された抗原を検出した。これらは、抗ネスチン(Chemicon 1:200)、抗ビメンチン(Sigma 1:200)、抗Sox2(Santa Cruz 1:400)、抗SSEA−1(BD 1:200)、抗GD2(Chemicon 1:100)、抗Ki−67(BD 1:200)、抗β3−チューブリン(Chemicon 1:400)、抗GFAP(Chemicon 1:400)、および抗GDNF(Santa Cruz 1:200)を含んでいた。これを、その後、抗マウスAlexa546(Invitrogen 1:400)、抗ヤギAlexa488(Invitrogen 1:400)、または抗ウサギFITC(Chemicon 1:800)二次抗体とともにインキュベートした。蛍光を、Leica逆顕微鏡(converse microscopy)を使用して検出し、Metamorphソフトウェアによって視覚化した。DAPIを使用して総細胞数を求めて、6つのランダムに選択した視界内で特異的な免疫反応性を発現するプロファイルを計数することによって、陽性プロファイル率を計算した。
【0190】
RNA抽出
トータルRNAを、製造者の指示に従って、RNeasyミニキット(Qiagen、CA、USA)を使用することによって抽出し、DNase Iで処理した。分光光度計(ND−1000;NanoDrop Technologies Inc.、Wilmington、DE)により、260nm/280nmにおける光学密度(OD) 1.90〜2.10および260nm/230nmにおける光学密度(OD) 1.90〜2.20を測定することによって、RNAを定量化した。
【0191】
マイクロアレイ分析
すべての出発トータルRNA試料の品質を評価した後、RNA 6000 Nano LabChip上に少量の各試料(一般に25〜250ng/ウェル)を流すことによって標的調製/処理ステップを開始し、Agilent Bioanalyzer 2100(Agilent Technologies、Palo Alto、CA)で評価した。GeneChip WT cDNA Synthesis Kit(Affymetrix,Inc.、Santa Clara、CA)、およびT7プロモーター配列でタグを付けたランダム六量体を使用して、単離したトータルRNA中に存在するポリ(A)+mRNAから二本鎖cDNAを合成した。一般に、トータルRNA出発原料100ngを、各試料の反応に使用した。次いで、二本鎖cDNAを鋳型として使用することによって、Affymetrix Genechip WT cDNA Amplification Kitを使用して、T7 RNAポリメラーゼの存在下で16時間in vitroで転写反応させることにより、アンチセンスcRNAの多数のコピーを生成した。cRNA 10マイクログラムを、センス配向で一本鎖DNAを生成するように逆転写されたランダム六量体との第2サイクルのcDNA反応に使用した。
【0192】
定められたプロトコール(Affymetrix GeneChip WT Sense Target Labeling Assay Manual)に従って、一本鎖DNA試料を断片化して(WT Terminal Labeling Kit、Affymetrix)60塩基(40〜70bpの範囲)の平均鎖長にした。断片化した一本鎖DNAを、組換えターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ、およびビオチンに共有結合的に連結されたAffymetrix専売DNA Labeling Reagentで引き続いて標識した。推奨手順に従って、この断片化した一本鎖標的cDNA 0.54μgを、Affymetrixヒト遺伝子1.0 STアレイ上に存在するプローブセットに、回転させながら45℃で17時間ハイブリダイズした(Affymetrix GeneChip Hybridization Oven 640)。Affymetrix Fluidics Station 450(FluidicsプロトコールFS450_007)において、GeneChipアレイを洗浄し、次いでストレプトアビジン−フィコエリトリンで染色した。GeneChip Scanner 3000 7GおよびGeneChip Operating Software v1.4を使用してアレイをスキャンすることによって、CEL強度ファイルを生成した。
【0193】
付随したソフトウェアアルゴリズム内に分位数正規化プロトコールを含む、プローブ対数強度誤差(probe logarithmic intensity error)(PLIER)推定法を使用して正規化を実施した。簡単に言えば、上記で生成したプローブセル強度ファイル(*.CEL)を、PLIERアルゴリズムを使用する、Affymetrix Expression Console ソフトウェアv1.1を使用して分析することによって、プローブ−レベル要約ファイル(*.CHP)を生成した。使用したアルゴリズムは、PLIER v2.0(定量化の目盛り:線形;定量化のタイプ:信号および検出 p値;バックグラウンド:PM−GCBG;正規化方法:スケッチ(sketch)−分位数)からのものであった。次いで、JMP Genomics 4.1(SAS Americas)を使用してマイクロアレイデータを評価した。事後t検定とともに一元配置ANOVAによってデータを分析し、FDR α<0.05を使用して得られたp値を補正した。得られたデータ表をアノテートした。ANOVAの結果からのボルケーノプロットに加えて、デフォルトの高速Ward法を使用する、JMPソフトウェアも使用することによって、主成分分析、ベン図、ならびに階層クラスターおよびヒートマップを生成した。
【0194】
リアルタイムqPCRアッセイ
候補マーカーの選択は、本試験の潜在的な適切性ならびに、このタイプの細胞での以前の仕事の結果に基づいた。神経系列の未熟細胞に関連するマーカー、ならびに神経分化およびグリア分化についての選択したマーカーを特に重視した。試料調製物からのトータルRNA 2マイクログラムを、製造者の指示に従って、Omniscriptase Reverse Transcriptaseキット(Qiagen、CA、USA)および10μMのランダムプライマー(Sigma、MO、USA)を用いて逆転写した。Power SYBRグリーン(Applied Biosystems、Irvine、USA)またはTaqman遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を使用して、7500 fast Real−Time PCR System(Applied Biosystems、Irvine、USA)を使用して、定量的PCRを実施した。
【0195】
非特異的生成物増幅からの対象とする生成物の弁別は、SYBRグリーン法を使用するときの融解曲線分析によって実現した。β−アクチンまたはGDNPHを内在性コントロールとして使用して、遺伝子発現を正規化した。以下の一般的なリアルタイムPCRプロトコールを使用した:変性プログラム(95℃ 10分間)、40サイクル繰り返した定量化プログラム(95℃ 15秒間および60℃ 130分間)、融解曲線プログラム(連続的に蛍光を測定して、95℃ 15秒間および60℃ 1分間)、ならびに最後に40℃での冷却プログラム。各反応を三つ組で実施した。ΔΔC
t法(7500 Fastシステムソフトウェア1.4およびDataAssist 2.0、Applied Biosystems、Irvine、USA)ならびにJMPソフトウェア4.1(SAS Americas)によって、グラフをプロットし、分析を実施した。すべてのデータ点を平均値±標準誤差(SE)で表す。統計的差異は、t検定を使用して求めた。データは、p<0.05であるとき、有意であるとみなした。
【0196】
細胞毒性試験
Cell Counting Kit−8(CCK−8;Dojindo Molecular Technologies Inc.、Gaithersburg、MD)を使用して、RPCの細胞毒性を判定した。このキットはWST−8を使用し、これは、電子キャリア1−メトキシPMSの存在下で生物学的還元されると、水溶性着色ホルマザンを生成する。1ウェル当たり細胞懸濁物90μlを含有する96ウェルプレートに、CCK−8事前パッケージ(pre−packaged)溶液10μlを接種した。プレートを2時間インキュベートし、上清のOD
450を測定した。各実験を、少なくとも3つの別個の実験で、四つ組で実施した。
【0197】
免疫細胞化学(ICC)マーカーによって染色したネコRPC細胞は、ビメンチンの高レベルの発現を示した。
図14を参照。同じことがヒトRPCで観察された。ネスチン、ビメンチン、Ki−67、β3−チューブリン、グリア細胞原線維タンパク質(GFAP)、およびロドプシンを含む系列マーカーにより、神経細胞、光受容体、グリアの存在が明らかになり、RPC培養物の多能性および異種性の保持が実証される。マーカー転写物のqPCRを使用して経時的にネコRPC遺伝子プロファイルを観察した。ヒトRPCでも認められるような、発現プロファイルの動的変化:培養における経時的なマーカー発現の下向きの定量的変化の一般底な傾向。例えば、
図15を参照。遺伝子発現は、qPCRによってUL細胞培養培地条件とSM細胞培養培地条件との間でも比較した(
図16A)。ネコ前駆細胞(RPCおよびBPCの両方)の増殖は、SM培養物であまり持続的でなかったので、調査を比較による遺伝子発現にした。13日目のSMを比較のベースラインとして使用して(「1.0」に設定)、SMおよびUL中で増殖したネコRPCを31日目の培養で比較した。検査したほとんどのマーカーは、培養において経時的に発現の減少を示したが、SM培養物において、GFAP発現の顕著な上昇を示し、このことは、多分化能の進行性消失およびグリア系列に沿って制限に向かう傾向と一致した。UL培地中の細胞は、これを示さなかった。
【0198】
ネコRPC対脳前駆細胞(BPC)も比較した。
図16Bを参照。ネコRPCは、BPCと比べていくつかのマーカーの相対的に増大した発現を示し、これらは、網膜の特殊化(specification)および発達に関与する転写因子であるDach1、Lhx2、およびPax6を含んでいた。同様に転写因子Hes1およびHes5も網膜発達に関与した。CD133、ネスチン、Sox2、ビメンチンは、一般的なCNS前駆細胞マーカーであり、一方、β3−チューブリン、Map2、およびPKCαは、系列マーカーである。
【0199】
ネコRPCを、ジストロフィーのアビシニアンネコの網膜下腔に移植し、単離した移植後の細胞を染色にかけた。
図17を参照。細胞は、網膜下腔への移植を生き延び、さらに、レシピエントの網膜内に遊走する能力を示した。移植された細胞は、形態学的に、かつビメンチン標識化によってミュラーグリアのようであるものに分化する能力を示した。ミュラー細胞は、網膜に特異的であり、網膜の全層にわたって広がって構造的安定化をもたらすグリアである。これらは、神経細胞の生存を含めた多数の網膜機能に重要である。
【0200】
ICCによるマーカー発現を使用するヒトRPCの形態を求めた。
図18および
図19は、培養集団内のある特定の重要なマーカーの発現の百分率を示す。ネスチンの発現が確認された。これは、神経幹細胞/前駆細胞、およびRPCに関連すると考えられる。ビメンチンは、この集団によって非常に大量に発現されたが、その発現は、RPCに非特異的であると考えられた。Sox2は、神経発達にも関連する転写因子であり、hRPCにも存在した。SSEA−1(CD15、LeXとしても公知)は、ES細胞における多能性と関連付けられており、研究により、多能性でない、多分化能の脳前駆細胞および網膜前駆細胞(RPC)のサブセットによるこのマーカーの発現が示された。GD2−ガングリオシドの発現も、hRPCに認められた。Ki−67は、活発な増殖のマーカーであり、本実施形態の細胞が、臨床用途の時点で、増殖性で有糸分裂的に活性であることを確認するのに使用した。このマーカーの存在により、hRPCが有糸分裂後の前駆体の集団と区別される(Surani, M.A.およびMcLaren A.(2006年)Nature 443巻(7109号):284〜285頁)。OCT4発現の相対的非存在下でのKi−67は、RPCを、さらなる分化を受けなければ移植にとって安全ではない有糸分裂的に活性な多能性幹細胞(ES、iPS)と区別する。Ki−67活性のレベルはまた、単離されるhRPC培養物の品質(健康および適性)のモニタリングを可能にした。β3−チューブリンは、神経細胞発達のマーカーである。これは、培養物で中等度のレベルで発現されることが判明し、このことにより、神経系列決定および神経細胞への分化の潜在性が示唆される。神経細胞形成は、高い継代数で失われる傾向があるので、このマーカーの発現により、培養物による多分化能の保持を確認することができる。GFAPは、グリア分化、特に星状細胞と一般に関連するマーカーであるが、様々な摂動の後に、または培養中に網膜ミュラー細胞によっても発現される。やはり、認められるGFAP発現の百分率が低いことは、グリア細胞への自発的分化の割合を示唆し、培養物による多分化能の保持を確認するのに役立つが、GFAPは、未熟前駆細胞によっても同様に発現されることが公知である。GDNFは、いくつかの動物モデルにおいて、光受容体を含めた神経細胞の救済に関連した神経栄養因子であり、本明細書に記載されるように単離されるhRPC集団は、ICCによってこの因子を発現することができるが、陰性のELISAデータは、この因子は、必ずしも分泌されないことを示す。追加の因子は、RPC媒介光受容体救済に、より重要である可能性がある。
【0201】
特に、hRPCは、RNAレベルでのマーカー発現によって示されるように、線維芽細胞(hFB)と区別され得る。
図20を参照。この図は、ビメンチンが、線維芽細胞ではなくhRPCによって非常に高度に発現されるが、培養において、経時的に相対的なプロファイルの発現の動的変化をさらにあらわすマーカーであることを実証するqPCRヒートマップを示す。
図21A〜21Cは、hRPC対hFBを比較し、マーカー検出を拡張するqPCR実験の結果を示す。RPCでより多い(AQP4、CD133、GFAP、MAP2、MASH1、ネスチン、Notch1、リカバリン(recoverin)、SIX6、SOX2)複数の遺伝子、およびより少ない(したがってhFBでより多い)1つ(KLF4)が同定されている。発現レベルは、培養において経時的に変化するが、細胞型間で相対的に優勢であることは、かなり一貫しているようである。
図22は、異なる供与物間で一貫した挙動(hRPC対hFBにおいて)を呈する11遺伝子(使用した約26のプロファイルから)のリストを含む。3つすべての供与物にわたって一貫した遺伝子は、黄色で強調されており、以下の通り、すなわち、KLF4(RPC<FB)、ならびにGFAP、MAP2、ネスチン、リカバリン、SIX6、およびSOX2(RPC>FB)である。
【0202】
選択したマーカーの発現レベルを、リアルタイムqPCRによって培養における時間の関数として追跡した。
図23に示したように、高度に発現されるマーカーは、経時的にピーク発現レベルから緩和する傾向がある。例えば、Ki−67は、経時的に低下する傾向があり、それは、前駆細胞状態および不死化の欠如と一致する。MHCおよびGDNF発現は、培養において、経時的に中程度の増大を示す。早期対後期継代細胞におけるマーカーの発現レベルの変化を試験した。その結果を
図24に示す。細胞周期遺伝子およびSix6(網膜発達に決定的な転写因子)は、後期継代細胞において最も強く下方制御されている。反対に、神経保護因子GDNFは、おそらく細胞ストレスの結果として、後期継代で上方制御される傾向がある。
【0203】
(ヒト)RPCを神経幹細胞(BPC)と区別するマイクロアレイデータの概要を
図25に示す。主成分分析により、BPC(3)からのRPCデータセット(3)の明らかな分離が示され、それは細胞集団型としてののRPCは、BPCなどの類似の脳由来細胞型と、これらのトランスクリプトームに基づいて区別され得るということを実証している。ボルケーノプロットは、BPCと比較してRPCで著しく上方制御される1000に近い転写物、および著しく下方制御される約600の転写物の形態におけるこの差異の基礎を示す。特定の遺伝子カテゴリーによる転写物の樹状図を使用してこの比較をさらに表わし、特定の遺伝子を同定する。例えば、転写因子BHLHE41(ベーシックヘリックス−ループ−ヘリックスファミリー、メンバーe41)は、RPCによって高度に発現され、BPCによって非常に低く発現される。この遺伝子は、ベーシックヘリックス−ループ−ヘリックス因子のヘアリー/エンハンサーオブスプリットサブファミリー(Hairy/Enhancer of Split subfamily)に属する転写因子をコードする。コードされるタンパク質は、転写抑制因子として機能する。BPCよりもRPCによって優先的に発現される他の転写因子としては、HHEX、SOX3およびSOX13、HOXB2、LHX2、KLF10、TLE4、MYCBP、TFAP2A、FOSL1および2、FOXD1、NHLH1、GBX2、NEUROD、METなどが挙げられる。シグナル伝達分子の観点から、WNT5AおよびB、KDR、LIF、CALB1、RGS4、CAV2、IL11、IL1R1、IL1RAP、IL4R、IL21R、CXCL6および12、CXCR7、DKK1、HBEGF、SMAD7、BMP2などを含めて、多数の転写物が、BPC/神経幹細胞内より著しく高いレベルでRPCによって発現されることが示される。同様に、ECMマトリックス遺伝子のフィブロネクチン、LUM、ALCAM、TGFBI、ECM1、PARVA、およびコラーゲン:4A1、4A2、5A1、5A2、7A1、9A2、13A1、18A1、および様々な他のECM遺伝子も、RPCによって優先的に発現される。
【0204】
hRPCにおいてレチノイン酸(RA)を用いて分化させた後のマーカー発現を試験する実験を行った。結果を
図26に示す。標準増殖培地(SM)で増殖させたhRPCの遺伝子プロファイルを、RAベースの分化条件(GFを含まないSM+RA)と比較した。増殖マーカーKi−67は、ビメンチンと同様に減少し、一方、腫瘍抑制遺伝子p21は、AIPL−I、MAP2、NRL、CRALBP、GFAP、およびリカバリンのような系列マーカーとともに上昇する。グリアマーカーおよび神経細胞マーカーの両方における増大は、培養RPC集団の多分化能と一致する。hRPC細胞を同定するために本発明を実施するのに使用することができる他のマーカーは、米国特許第7,419,825号に記載されている。
【0205】
さらに、大気Oxと比較してlowOx条件下で増殖させたhRPCの遺伝子発現を試験した(
図27)。データは、遺伝子発現の検出可能な変化があり、表面マーカーCD9およびCD73は上方制御されたが、腫瘍抑制遺伝子p21、ならびに系列マーカーCRALBP、GFAP、MAP2、NRL、およびリカバリンを含めてほとんど、遺伝子の下方制御が観察されたことを示す。これらの変化は、細胞がこれらの許容的な条件下で、持続的様式で増殖する際の非必須遺伝子の発現の減少と最も一致する。GDNFも、おそらくオートクリン神経保護の必要性の減少のために下方制御される。
【0206】
異なるドナーから得、様々な細胞培養培地条件およびタイムポイントで培養したhRPC間の遺伝子発現の差異を試験した。結果を
図28〜30に示す。
図28Aは、異なるタイムポイントで、SM条件でqPCRによって遺伝子発現を検出した実験の結果を示し、
図28Bは、異なるタイムポイントにおけるSM−UL(最初のUL、次いでSM)条件でのqPCRによる遺伝子発現を例示し、
図29Aは、異なるタイムポイントにおけるSM−FBS(最初のSM+FBS、次いでSM)条件でのqPCRによる遺伝子発現を例示する。
図29Bは、SM単独、2つの異なるタイムポイントでのqPCRによる遺伝子発現を例示する。試験したマーカーのほとんどは、培養中に、経時的に発現の減少を示した一方、いくつかは、おおよそのレベルのままである。特に、試験したマーカーのうちで、GDNF発現のみが培養中に、経時的に増大した。
図29Cは、SM(最初のSM+FBS後)の同じ2つのタイムポイントでのqPCRによる遺伝子発現を例示する。
図29Bに示したように、GDNFのみが上昇する。
図30は、これらのタイムポイントの比較の概要を表す。
【0207】
qPCRは、増殖因子経路に関してhRPCをさらに特徴付けるために使用し、分泌因子の相対的発現を対象とした。特定のパネルは、新脈管形成およびWNTシグナル伝達経路を含んでいた。これらの実験に使用した細胞は、正常酸素(20%の酸素)および低酸素(3%の酸素)条件下で増殖した低継代のhRPCから、低酸素条件下で増殖したより高い継代のhRPCを含むワーキングセルバンクから、またはhRPCのベースライン起始部を代表する0日目(供与日)におけるヒト胎児網膜組織から得た。ヒト胎児RPE(hRPE)細胞およびヒト胎児線維芽細胞(hFB)を比較のために使用した。
【0208】
図31は、増殖因子経路試験についてのqPCRデータのヒートマップ分析である。各縦の列は、異なる細胞型または処理条件である。ヒト胎児RPEおよび線維芽細胞をコンパレーターとして使用した(最初の2つの列)。右の3つの列はhRPCである。3つのhRPCバンクのうち2つで発現が特に高く、他のバンクにおいて中程度であるが、RPEまたはFBによって発現されていない1つのサイトカインは、SPP1(オステオポンチン、OPN)であり、これは現在、栄養作用機序因子(trophic mechanism of action factor)の一次候補である。別の候補は、PTN(プレイオトロフィン)であり、これも高度に発現されるが、この因子は、SPP1(OPN)より特異的でないようである。発現レベルに関して、このデータからの他の潜在的な候補は、MDK(ミッドカイン)、TGFB1(TGFβ1)、JAG1、VEGFA(VEGF A)、PGK1(ホスホグリセリン酸キナーゼ1)であり、使用される判定基準に応じて、GDF11、DKK1、PPIA(ペプチジルプロリルイソメラーゼA)、およびLIFなどのような様々な範囲まで他の候補を主張することができる。また、B2M(β2−ミクログロブリン、MHCクラスIの成分)は、それ自体サイトカインではないが、hRPCによって強く発現され、MHCクラスIの成分である。
【0209】
特異性が強調される場合、樹状図クラスター化は、HBEGF(ヘパリン結合性EGF様増殖因子、HB−EGF)、JAG1、からSPP1(OPN)に至るまで列挙されるものはすべて、胎児hRPEおよび胎児hFBよりもhRPCに対して全般的特異性を示し、したがって、異種「カクテル」効果に寄与し得ることを示す。これは、PTN、および低レベルのIL1B(インターロイキン1β)を含む。20%のMCBが最大の栄養有効性を有することもあり得、この場合、MDKからLEFTY2に至るまで列挙される因子が対象とするものである。UBC(ユビキチンC)も検出された。GDF11、レフティ、ノーダル、DKK1、LIFなどを含めたいくつかのこれらの遺伝子は、網膜発達に役割を果たすことが公知である。多くが、SPP1、NTF3、HB−EGFを含めて神経栄養性であり、または、例えばミッドカイン、ニューレグリン(NRG1、3)、JAGなど、神経発達に関係することが公知である。
【0210】
増殖因子経路試験からのqPCRデータの別の一覧を
図32に示す。ここではヒストグラムとして示される。ヒト胎児RPE細胞を比較のために使用した。発現レベルに関して定量的に検査すると、hRPCによって特に高い発現を示した、分泌された遺伝子には、FGF9、GDF10、IL−1A(インターロイキン1α)、PTN、およびSPP1(オステオポンチン、OPN)が含まれた。これらの遺伝子のすべては、上記の、ヒートマップの相対的にhRPC特異的なクラスターであるようであるものにおいてグループ化することが判明したので、栄養機構を媒介するための候補と考えられる。より低い相対的な発現であるが、依然として高い発現を示す他の遺伝子には、BMP2、FGF7、13、14、レフティ1、2、ノーダル、NTF3、トロンボポエチン、および潜在的にVEGF A、Cが含まれる。hRPEと比べてhRPCによって優先的に下方制御された遺伝子は、JAG2、NGF、インヒビンβ B(INHBB)、およびIL−10であった。
【0211】
RPCは、網膜脈管形成期間の前および間に活性であり、したがって、特にこれらが分化し始める際に、新脈管形成において役割を果たすことが予期され得る。新脈管形成を調節する分子経路に関与する因子および受容体も、変性網膜の状況で潜在的に神経栄養性であり得る。また、これらの経路の活性化または阻害は、有利に、または望まれない副作用として、AMDを含めた一連の網膜状態において重要となり得る。
【0212】
図33Aに示したすべての遺伝子は、少なくとも10倍、RPEと比較して上方制御された。100倍超上方制御された遺伝子には、VEGF受容体KDR、コンドロモジュリン/LECT1(低酸素条件のみ)、転写因子PROX1、および受容体TEK(TIE2)が含まれた。RPEと比べて発現が最高であった因子は、プレイオトロフィン(PTN)であり、低酸素hRPCについて10,000倍超であり、正常酸素細胞について10,000倍に近かった。
【0213】
新脈管形成関連遺伝子の発現の増大の明らかな証拠、および高レベルのPTN発現の追加の確認、上位栄養因子候補遺伝子の1つが検出された。ともに以前のスクリーニングで同定された表面マーカーKDRおよびTEKの発現の上昇もここで確認された。VEGF受容体KDRは、他の細胞型に対してRPCにおいて上昇することが一貫して見出された。マイクロアレイデータも、hBPC(脳前駆細胞)より80倍hRPCにおいて、かつBPCより106倍ブタRPCにおいてKDR発現を示した。したがって、KDRは、RPCの同定および富化に潜在的に有用な表面マーカーであり、RPCをBPC(神経幹細胞)と区別する方法であり、RPCの機能に重要でありそうなものである。
【0214】
WNT経路は、神経細胞およびグリアの分化を含めて、CNS全体にわたって、かつ網膜を含めて、神経発達に重要であると考えられている。ゲノム試験により、WNT、「フリズルド(frizzled)」受容体、およびWIF(WNT阻害因子)を含めたWNT関連遺伝子の遺伝子発現レベルに基づいてhRPCにおけるWNT経路活性のかなりの証拠が以前に特定されている。
図33Bでは、示したすべての遺伝子が、少なくとも10倍、RPEと比較して上方制御された。100倍超上方制御された遺伝子には、FRZB、SFRP4(正常酸素)、TLE2(低酸素のみ)、およびWNT7B(正常酸素)が含まれた。SFRP4(低酸素)およびWNT7B(低酸素)はともに、1000超のレベルで上方制御された。10,000倍の変化にかろうじて到達したのは、約10,000倍の発現の変化を示したWIF1(低酸素のみ)であった。
【0215】
要約すると、WNT阻害遺伝子の顕著な発現を含めたWNT経路遺伝子発現の明らかな証拠が、マイクロアレイ分析によって観察された。前のマイクロアレイデータは、WIF1は、hBPC(脳)より45倍hRPCによって優先的に発現されることをすでに示していた。SFRP4および特にWIF1(これらの両方は、FRZB活性化から生じ得る)の顕著な上方制御は、低酸素条件下で増殖したhRPCに特徴的であるようである。これは、hRPCが未成熟状態をより良好に維持し、低酸素条件下で長期間増殖し、それによって、成長することが困難なこれらの細胞の収率を大いに増大させる、hRPCの能力に関係する。上記に提示したqPCRデータは、マイクロアレイから得た前の結果と有意義に交差する。これらは、LIFは、hBPC(脳)より65倍、HB−EGFは30倍、DKK1(dickkopf 1)は23倍、オステオポンチン(SPP1、OPN)は6倍、TGF β1およびBMP2は5倍、かつJAG1は3倍、hRPCにおいて優先的に発現されることを示した。これらの遺伝子のそれぞれは、KDRが、さらにより大きい程度に(80倍)寄与するように、またWIF(45倍)が寄与するように、類似の脳幹細胞/前駆細胞(神経幹細胞)と比べてhRPCの組成/素性に寄与する。
【0216】
マイクロアレイデータからの主(principle)成分分析(PCA)データは、全体的な遺伝子発現パターンに基づいて細胞集団(治療的、非治療的/対照)を区別する能力を示す。これは、試料がどの程度密接に関係しているか、および世代(培養中の時間)および培養条件(正常酸素対低酸素)が発現パターンに影響する程度を示すことによって、hRPCの特徴付けにも関係する。
【0217】
3対の胎児の眼(生物学的な複製物)を同日に入手し、0日目にRNAを供給し(網膜組織)、RPC(正常酸素および低酸素)、ならびに強膜線維芽細胞を増殖させるのにも使用した。RNAを培養細胞集団から後に抽出し、すべてを同時マイクロアレイ分析に送った。
【0218】
図34Aは、PCAデータを表し、これは、培養RPCは、これらが由来した胎児網膜組織と遺伝子発現が異なるが、強膜線維芽細胞とも遺伝子発現が異なることを明確に示す。RPCは、線維芽細胞がそうであるよりも、胎児網膜により近い。さらに、正常酸素および低酸素RPCは、区別することができるが、これらは、一端でより若い細胞および他端でより古い細胞を伴った連続体を形成するようである。
図34Bでは、hRPCは、起源のP0網膜組織と明確に区別されている。
【0219】
培養中の時間の影響は、最古の細胞(低酸素症WCB)が他のより若い試料から区別され得るという点で明白である。正常酸素条件と低酸素条件との差異は、強い分離を示していない。
【0220】
hRPCが起源の組織(胎児網膜)とどの程度異なり、肉眼的に障害を受けた危険な腫瘍形成性類似体、すなわち、網膜芽細胞腫(RB)とどの程度異なるかを含めて、他の細胞型と比べてhRPCの組成を特徴付けるために、全ゲノムマイクロアレイ試験を行なった。また、正常酸素hRPC培養物と低酸素hRPC培養物との間の類似性および差異を表すための試験を行なった。細胞集団の全体的な遺伝子発現をAffymetrixヒト遺伝子チップで比較した。
【0221】
主成分分析(PCA)は、細胞試料集団間の全体的な類似性および差異を即時に3次元で視覚化するものである。
図34Cを参照。同様の試料(全て同じ色、三つ組のすべて)を一緒に分類することにより、データの信頼性が実証される。胎児網膜組織(「網膜」)間の明らかな分離が、4つの異なるhRPC試料と比較して認められた。RPCは、各処理条件の間で幾分異なったが、試験した他の眼の細胞型、すなわち、胎児RPE、胎児FB、およびRBと分別する。神経網膜および神経網膜由来細胞(左)を非神経網膜細胞(右上)と分離するのに線を引くことができる。最後に、正常酸素および低酸素hRPCは、互いに相対的に近いが、これらをある程度区別することが可能であり得、これらは、密接に関係しているようである。示したデータは、これらの異なる細胞型の相対的な類似性/差異に関する前のデータと一致する。
図35は、3つのhRPC集団(順番に:低酸素MCB、正常酸素MCB、低酸素WCB)対胎児網膜組織(各集団に使用した三つ組)のクラスター分析を示す。
図35は、低酸素MCBと組織との間の比較実験結果を示すボルケーノプロットである。データは、hRPC集団が、元の組織集団と区別可能であることを示す。ほとんど例外なく、組織で赤色として認められる遺伝子(右列)は、RPCで緑色であり、逆の場合も同様である。
【0222】
図37Aは、hRPC群間で異なって発現された遺伝子の数を処理条件の関数として示す(胎児網膜組織をコンパレーターとして使用した)。差異の大部分は、組織に対する変化によって占められ(11、706、中心、灰色)、これらは、RPC集団の中で共有され、その一方で個々が重なり、差異が図の周辺で認められる。各hRPC集団は、約1300〜2100の間の別個の遺伝子を発現する。hRPC群間で異なって発現された遺伝子の数を、継代および処理条件の関数として測定した。
図37Bを参照。正常酸素条件下で増殖させた細胞も比較した。低酸素MCBは、正常酸素MCB(同じ継代数)と、後の継代数におけるものである低酸素WCBが異なるほど異なっていない。したがって、培養中の時間は、hRPCにおける遺伝子発現に対して実証できる影響を確かに有するが、これは、細胞型間、またはhRPCと起源の組織との間よりはるかに低い。
【0223】
図38Aおよび
図38Bは、異なるhRPC対起源の組織を示すボルケーノプロットであり、一方、
図39Aおよび
図39B中のボルケーノプロットは、低酸素hRPC対正常酸素hRPCを示す。「ボルケーノ」は、倍率変化(上または下、X軸)および統計的有意性(p値の関数、Y軸)に対してプロットされた、各遺伝子をデータ点として示すプロットのスタイルを表し、いくつの遺伝子が、どの程度およびどの方向に(上対下)変化しているかの概要をもたらす。結果は、より多数の遺伝子が、hRPC条件間より、組織からhRPCに進んで一貫して変化することを示す。前者では、おそらく、組織中に存在するより多くの分化細胞型が、より多くの原始的な増殖性の型によって培養中に失われ、または異常増殖するために、より多くの遺伝子が上方制御されるより下方制御される。しかし、低酸素と正常酸素を比較すると、より多くの遺伝子が、正常酸素に対して低酸素条件において上方制御される。
【0224】
特定の遺伝子および経路をマイクロアレイ分析によって同様に検査した。hRPC、胎児網膜組織(0日目)、およびヒト胎児線維芽細胞(正常酸素)を比較した。アドレノメデュリンは、組織に対してhRPCで上方制御された。プレイオトロフィンは、組織およびhFBに対してhRPCで上方制御されることが判明した。オステオポンチンは、hFBに対してhRPCで上方制御された。新脈管形成経路も上方制御されることが判明した。アンジオポエチンは一般に、組織に対してhRPCで上昇し、hFBにおいてより低い程度に上昇した。ANGPTL4は、組織に対してhRPCで30〜60倍上方制御され、hFBに対して約20倍上方制御される。BAI3(阻害剤)は、組織に対してhRPCで約30分の1に減少して下方制御される。トロンボスポンジン1は、組織に対してhRPCで約100倍上方制御され、一方トロンボスポンジン2は、組織に対してhRPCで約40倍上方制御される。マトリックスメタロペプチダーゼ1は、組織に対してhRPCで約200倍上方制御される。接着分子NCAN(ニューロカン)は、組織に対してhRPCで16〜21分の1に下方制御される。発がん遺伝子/増殖関連遺伝子MYC、MYCN、およびNBL1も測定した。MYCは、組織に対してhRPCで8〜9倍上方制御され、hRPCの増殖と一致する。MYCN(v−myc関連、神経芽細胞腫)は、組織に対してhRPCで25〜40分の1に下方制御される。NBL1は、3〜4分の1に下方制御される。ATP合成酵素H
+トランスポーターおよび溶質キャリアファミリー25を含めた広範囲のミトコンドリア/代謝関連遺伝子は、すべて一般に、組織に対してhRPCで2〜4倍上方制御されたが、SLC25A27(メンバー27)は、約20分の1に下方制御された。これらのデータは、培養hRPCは、起源の胎児網膜組織における細胞より代謝的に活性で、増殖性であるという概念と一致する。
【0225】
増殖因子発現も検査した。CTGF(結合組織増殖因子)は、組織に対してhRPCで強く(70倍超)上方制御される。LIF(白血病抑制因子)は組織に対してhRPCで同様に上方制御される。BDNFおよびEGFは、組織に対してhRPCで中程度に(2〜14倍)上方制御される。CNTFは、組織に対してhRPCで約25分の1に下方制御される。前の試験に基づいて候補栄養因子であるFGF9は、hFBに対してhRPCで上方制御された(4〜6倍)が、組織に対して14〜25分の1に減少することが確認される。FGF5は、組織と比較してhRPCで最も強く上方制御される(20〜40倍)ファミリーメンバーであるが、発現は、hFBに対してより低い。FGF14は、組織に対して16〜38分の1に、最も下方制御される。HGF(肝細胞成長因子)は、hFBに対して30分の1に下方制御される。インスリン様成長因子結合タンパク質ファミリーのメンバー、すなわち、IGFBP3、−5、および−7は、一般に、組織に対してhRPCで上方制御される。メンバー3、5、7はすべて、強く上方制御される(15〜110倍)。IGFBP3および5は、特に低酸素細胞(MCB、WCB)で最も強く上方制御される。候補因子のNTF3は、組織に対して上昇しなかったが、hFBに対して正常酸素hRPCで8倍上昇した。NTRK2(神経栄養性チロシンキナーゼ、受容体、2型)は、組織に対して低酸素hRPCで中程度に上方制御され、hFBに対してすべてのhRPCで強く上方制御された(50〜180倍)。別の候補栄養因子のPDGFC(血小板由来増殖因子C)は、組織に対して20倍上方制御された。VEGFA(VEGF A)は、低酸素hRPCによって中程度に上方制御された。DACH1は、hFBに対して中程度により高かったが、組織に対してhRPCで強く下方制御された。DLG2(シナプスマーカー)も、組織に対してhRPCで強く下方制御された。KLFファミリーメンバーは、hFBに対してKLF4の下方制御(3〜4倍)、組織に対してKLF5の上方制御(4〜5倍)を示した。
【0226】
NeuroD1(分化に関連した転写因子)は、NeuroD4ならびにニューロゲニン1(および2)、ならびにニューロナチン(2〜10分の1)が下方制御されたのと同様に、組織に対して非常に強く下方制御された(300分の1未満)。発生運命特定関連因子のNOG(ノギン)は、組織に対してhRPCによって強く発現される(10〜21倍)。OTX2(眼の転写因子)は、組織に対してhRPCで非常に強く下方制御された。PAX6、SIX3、SIX6、RAX、RAX2(眼の転写因子)は、組織に対してhRPCで中程度にのみ下方制御された。PAX6は、少なくともいくつかのRPCによって発現されることが少なくとも公知である。
【0227】
DCX(有糸分裂後神経芽細胞マーカー)および遊走性神経芽細胞マーカーのRELN(リーリン)は、組織に対して強く下方制御された(後者は低酸素hRCで)。重要な神経発生転写因子のSOX2は、組織に対して変化しなかったが、hFBに対してhRPCで非常に強く上方制御された(100倍超)。成体網膜シナプスマーカーのバスーン(basoon)およびリカバリン(成体網膜細胞マーカー)は、組織に対して強く、または非常に強く下方制御された(それぞれ、20分の1および50〜450分の1)。
【0228】
表面糖タンパク質のCD44は、組織に対してhRPCで6倍上方制御された。CCL2ケモカイン(MCP−1)は、組織に対してhRPCで強く上方制御された(68〜105倍)。CXCL12(SDF−1)は、(非特異的な)hRPC表面マーカーCXCR4のリガンドである。SDF−1は、hFBと比較して下方制御され、したがって発現は低い(ELISAから分かるように)が、これは、組織に対してhRPCで4〜12倍上昇する。CXCR4は、hRPCの表面マーカーであり、hFBに対してhRPCで明らかに上方制御された。組織との比較は、正常酸素MCBが、組織より低かったが、低酸素細胞は同様であったという点で重要であった。これにより、両hRPC条件によりCXCR4が発現され、低酸素でより多く発現し、網膜組織は低酸素細胞と同様であることが確認される。
【0229】
IL−11およびIL−18は、組織に対して上方制御された。IL−1A(IL−1α)は、組織に対して上方制御されたが、低酸素MCBでは「上方制御されなかった」。いくつかのIL受容体、最も顕著にはIL−7R(60〜105倍)、IL−31RA(28〜80倍)、およびIL−4R(18〜40倍)は、組織に対して上方制御された。これらはすべて、起源の組織に対してhRPCの潜在的な陽性マーカーを代表する。
【0230】
組織に対して上方制御されたWNT経路遺伝子には、WNT7B、およびSFRP4を含めて、qPCRによって以前に同定されたいくつかが含まれていた。DKK2、FZD6、SFRP1、WNT5Aも組織に対してhRPCで上方制御された。WIF1は、hFBに対して強く上方制御された(低酸素について)が、組織に対して強く下方制御された(正常酸素について)。Notch経路遺伝子は、Jag1を除いて、組織に対して下方制御され、または変化しなかった。Jag1は、候補hRPC栄養マーカーであり、上方制御された(8〜13倍)。DLL4およびHEYLが最も強く下方制御された。
【0231】
JAK−STAT遺伝子は、FBに対して低酸素について変化しなかったSTAT3を除いて、hFBに対して中程度であるが均一に下方制御された(2〜5分の1)。これらは、組織に対して変化しなかった。アポトーシス遺伝子は、混ざったもの(mixed)であった。組織に対して最も上昇されたのは、GADD45Bであった。GADD45GおよびDAPL1は、より顕著に下方制御された(20〜56分の1)。BMP2(候補)は、hFBに対して上方制御されたが、組織に対して変化は認められなかった。他のBMPは一般に、FBに対して減少し、やはり組織に対して変化しなかった。TGFβ遺伝子は、全体にわたって変化しなかった。
【0232】
HIF1A(HIF1α)は、組織に対して中程度に減少した(4分の1)。ニューロピリン1および特に2は、増大するようである(低酸素MCBを除く)。RICTORは、組織に対して中程度に減少した(2分の1)。トール様受容体3〜7、および9は、組織に対して変化しなかった。DCXは、いくつかの他の神経マーカーがより低い程度に下方制御されたのと同様に、組織に対して強く下方制御され、NRXN1(ニューレキシン1、25分の1未満)が次に最も下方制御された。GFAPは、hFBに対して明らかに上方制御され、胎児網膜組織に対してそれほど明らかでなく上方制御された。多数の網膜関連遺伝子は、起源の胎児網膜組織に対してhRPCによって強く下方制御される。これらには、CRX、EYS、IMPG1、2;NRL、リカバリン、RGR、RP1、およびVSX1、2が含まれる。検査した98の低分子非コードRNA(SNORD)のうちで、114〜6、49B、75、および78を除いて、場合によって大量に、ほとんどすべてが組織に対して下方制御され、114〜2、44、49A、74、79、96Aは、示唆的であるが、条件間で幾分矛盾していた。とにかく、上方制御は、高レベルまでではなかった。
【0233】
要約すると、データは、CTGFがhRPCマーカーであり、治療有効性の基礎をなす栄養機構を判定するのに有用となり得ることを示す。他のこのようなマーカーとしては、SPP1(OPN)、PTN、LIF、FGF9、JAG1、IL−1A、IL−11、IL−18、およびノギンが挙げられる。NTRK2ニューロトロフィン受容体は、インターロイキン受容体IL7R、IL−31RA、およびIL−4Rがそうであるように、hRPC表面マーカーである。特に、HGFは、hRPCについての、または代わりに汚染細胞型を検出するための方法における陰性マーカーとしての潜在性を有するようである。眼の転写因子DACH1、OTX2、CRX、NRL、VSX1、2、ならびに分化転写因子NeuroD1(および4)、有糸分裂後芽細胞マーカーダブルコルチン(DCX)、シナプスマーカーDLG2、多くのnotch経路遺伝子、ニューレキシン1、ならびに成体網膜マーカーリカバリン、ならびに光受容体間マトリックス遺伝子IMPG1、2の下方制御も、培養hRPCを起源の組織と区別するのに有用である。これらのマーカーを発現する細胞は、より特定されており、成熟しており、あまり増殖性でなく、したがって増殖性hRPC培養物におけるものよりはるかに少ない。CPA4は、高度に上方制御され、一方、PAR4および多くのSNORDは、下方制御される。
【0234】
同様のデータをネコRPCについて得た。
図40において、経時的に細胞培養条件を試験する実験の表形式の概要を示す。
図41〜44は、様々なタイムポイントで、UL培地でqPCRによってネコRPCにおける遺伝子発現を測定する実験の結果を示す。特に、UL培地で、試験したマーカーは下方制御され、前駆細胞マーカーネスチンおよびビメンチンは、0日目のベースラインに対して発現の上昇を示した。サイクリンD2は、0日目のベースライン後のタイムポイントで、UL中で上昇した。ネコcRPCについて試験したプロファイル内の発現の変化のパターンを、
図45に放射状グラフとして提示する。高コピー数を有する遺伝子は、グラフの中心に向かっており、一方、より低い発現を有する遺伝子は、周辺にある。前駆細胞マーカーは、12時のネスチンから時計回りに(放射状グラフ上で)約6:30のビメンチンまで列挙されている。系列マーカーも示されている。発現は、0日目(紺青色)でマーカー全体にわたって最も高く、すべてではないがいくつかのマーカーについて、経時的に減少する傾向があることに留意されたい。発現の最大の減少は、0日目から測定した培養中の最初のタイムポイント(31日目)までに起こるようである。発現の減少は、系列マーカーおよび前駆細胞マーカーの両方のサブセットにおいて認められる。ネコRPCの発現データを要約するチャートを、異なるドナーおよび培養条件にわたるqPCRデータを表す
図46に提示する。
【0235】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を、hRPCおよび潜在的な作用機序(すなわち、神経保護)を特徴付ける目的で実施した。これらの試験は、マルチプレックスアッセイまたはサンドイッチELISAによって実施した。マルチプレックスELISAアッセイについては、アッセイ緩衝液を96ウェルフィルタープレートに添加し、プレートをシェーカー上に10分間置いた。次いでプレートを真空によってきれいにし、アッセイ緩衝液または他の適切な緩衝液25μlを各ウェルに添加し、標準物質/試料/対照25μlを適切なウェルに添加した。次いで、ビーズにコンジュゲートされた、要求されたサイトカインを含有する混合物25μl(1:50の希釈)を添加した。次いでプレートを4℃で一晩シェーカー上に置いた。次いでプレートを3回洗浄した。検出抗体を添加し、プレートを室温で1時間シェーカー上に置いた。次いでフィコエリトリン25μl(1:25希釈)をシェーカー上の各ウェルに30分間にわたって添加した。次いでプレートを3回洗浄し、シース液(Sheath Fluid)150μlを各ウェルに添加した。次いでLuminex100リーダーおよびSoftmax Proソフトウェアを使用してプレートを読み取った。MilliporeのBeadLyte Softwareを使用してデータを計算した。
【0236】
サンドイッチELISAについては、ビオチン−ストレプトアビジン(strepavidin)−ペルオキシダーゼ検出を使用する2抗体ELISAによってマーカーを測定した。捕捉抗体で、25℃で一晩ポリスチレンプレートを被覆した。プレートを、50mMのTris、0.2%のTween−20、pH7.0〜7.5で4回洗浄し、次いでアッセイ緩衝液を用いて25℃で90分間ブロッキングした。プレートを4回洗浄し、アッセイ緩衝液50μlを、アッセイ緩衝液で調製した試料または標準物質50μlとともに各ウェルに添加した。次いでプレートを37℃で2時間インキュベートした。プレートを4回洗浄し、アッセイ緩衝液中のビオチン化検出抗体100μlを添加し、25℃で1時間インキュベートした。プレートを4回洗浄した後、カゼイン緩衝液中のストレプトアビジン−ペルオキシダーゼポリマー(RDI)を添加し、25℃で30分間インキュベートした。プレートを4回洗浄し、商業的に調製された基質(TMB;Neogen)100μlを添加し、25℃で約10〜30分間インキュベートした。2NのHCl 100μlで反応を停止し、A450(−A650)をマイクロプレートリーダー(Molecular Dynamics)で読み取った。コンピュータープログラム(SoftPro;Molecular Dynamics)を使用して標準物質に対して曲線をフィッティングし、各試料中のサイトカイン濃度を検量線式から計算した。データは、平均した試料からのタンパク質分泌を反映する。5つの候補栄養因子GDNF、BDNF、VEGF、OPN、およびSDF−1の発現を、標準的な正常酸素(20%のO
2)および低酸素(3%のO
2)条件下で評価した。
【0237】
図47において、GDNF発現は、分泌タンパク質のレベルで検出不可能(0.1ピコグラム/ml未満)であることが判明した。BDNF発現は、低い側の範囲外(OOR)であったが、正常酸素条件について1.58pg/mlおよび低酸素条件について0.55pg/mlの平均濃度でかろうじて検出可能であった。VEGFは、正常酸素(20%のO
2)条件について低い側のOORであったが、92pg/mlの平均濃度で低酸素(3%のO
2)について検出可能であった。OPN(オステオポンチン、SPP1)発現は、両条件下で強く陽性であり(ピコグラムの代わりにナノグラムの範囲)、低酸素に対して正常酸素について約2倍であった(平均=それぞれ31.3ng/mlに対して72.2ng/ml)。これらは、両例において注目すべきレベルであり、この公知の神経保護/抗アポトーシス因子の役割を示唆する。SDF−1(間質細胞由来因子1)は、低い側のOORであったが、正常酸素培養および低酸素培養の両方について約48pg/mlの平均濃度で検出可能であった。
【0238】
オステオポンチン(OPN、SPP1)は、hRPCによって高度に発現され、生理学的に有意な濃度であると予測される濃度で周囲の培地中に分泌される。他の発現データは、他の細胞型に対してこの遺伝子の差次的発現を示した。総合すると、これらのデータは、OPNがhRPCの神経保護/錐体再活性化効果に役割を果たし得ることを示唆する。試験した他の因子は、このような役割を果たす可能性は低い(これらが、硝子体/変性網膜の微小環境に応答して移植後に大規模に上方制御されることが起こらない限り、これは可能性が低い)。
【0239】
hRPCを特徴付け、集団内のマーカー発現の程度を明らかにするために蛍光活性化細胞分取を実施した。培養細胞または解離した網膜単細胞を、コンジュゲートされた表面抗体マーカー/アイソタイプ対照(BD)によって染色するか、または固定および透過処理し、その後、コンジュゲートされた細胞内抗体マーカー/アイソタイプ対照(BD)染色するかのいずれかを室温で30分間行う。染色緩衝液(BD)中で3回洗浄した後、細胞をBD Aria II Sorterにかけた。データを、マイクロアレイ試験に使用した同じ3つの同時に供与された胎児の眼から得た。
【0240】
図48は、正常酸素(20%)条件または低酸素(3%)条件下で増殖させた培養hRPCと比較した、0日目の網膜組織における系列に関連した、または潜在的に関連した表面マーカーもしくは遺伝子マーカーのいずれかである10種のマーカーの発現を示す。データは、起源の網膜組織と培養RPCとの差異、Fas(CD95)の大きな増加を伴った、MHCクラスIIではなく、特にMHCクラスIの大規模な上方制御を示す。GFAPは、低いがより少ない程度に増加する。他のマーカーは、様々な程度で変化する。
【0241】
(実施例3)
RPCのIn vivo効力
RPCを、TrypLE Expressを用いて最初に回収し、1000rpmで5分間遠心分離して収集することによって移植用に調製した。細胞をHBSS中で1回洗浄し、次いで冷HBSS中で再懸濁して細胞生存能および細胞数を求めた。ヒトへの移植のために、HBSS 100μl中0.5×10
6細胞を使用した。ラットへの移植のために、HBSS 2μl中4000〜75,000細胞の範囲の様々な用量を使用した。
【0242】
ヒトRPCを、ジストロフィーを罹患した(hooded)RCSラットの硝子体または網膜下腔に懸濁物として移植した。異種移植片の拒絶反応を回避するために、ラットをシクロスポリンAおよびステロイドで維持した。ビヒクル単独からなるシャム(sham)注射(網膜下、硝子体内)を対照の眼に投与した。視運動反応(OR)を定量化するために設計された市販器具を使用して、移植された動物を拘束のない覚醒状態で機能的に試験した。動物のサブセットを視野全体にわたる輝度閾値について試験した。これは、対側性の上丘において細胞外記録法を介して電気生理によって行った。試験の最後に眼を収集し、固定し、宿主光受容体救済およびドナー細胞生存の証拠について組織学的に分析した。
【0243】
図49は、in vivo移植で使用する本発明の方法の概念実証を例示する。hRPC(またはビヒクル単独、「シャム」)をジストロフィーRCSラット(遺伝性光受容体変性のモデル)の眼に注射した。注射は、硝子体または網膜下腔のいずれかに行った。いずれかの位置にhRPC移植片を有する動物は、生後60日で、シャムまたは未処置対照より有意に良好に行動した。そのタイムポイントの組織診断では、広範囲の救済が示され、これは、網膜下注射の領域に位置し(
図50〜51)、または硝子体内移植の場合では網膜全体に広がっていた(
図52〜53)。対側性の上丘における電気生理学的記録を使用して、視野全体にわたる生後90日の輝度閾値について、いくつかの場合をさらに検査した。移植片を有する動物は、シャムまたは未処置対照と比較して、感度の有意な改善を呈した。90日における組織診断により、宿主光受容体の持続的な高レベルの救済が示された。
図54〜55は、RCS全標本に実施した免疫細胞化学検査の結果を示す。
【0244】
in vivoデータにより、hRPC移植が、ラットモデルにおいて機能的および解剖学的レベルで成功していることが確認および実証される。このデータは、ある特定の状況では、硝子体内注射は、救済される宿主網膜の程度に関して、網膜下移植に対して利点を有し得ることも示す。RPCはまた、網膜下に配置される場合、たとえより制限された様式であっても有効である(救済のこのような制限は、様々な研究者が全部ではないがほとんどの非悪性細胞を使用した網膜下配置にも当てはまる)。
【0245】
(実施例4)
患者におけるhRPC移植の臨床試験
予備安全性データを得るための、網膜疾患を有する患者におけるRPCの眼内注射の前向き、非盲検、実施可能性試験を実施した。細胞および組織を安全性について最初に評価した後、臨床試験を開始した。組織は、Advanced Bioscience Resources,Inc.(ABR)から供給された。この会社は、この技術に基づいてCGMPマスターセルバンクを確立する基礎を形成することが期待されるGTPレベルの組織試料を提供することもできる。外来性物質(例えば、HIV、B型肝炎およびC型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス)への曝露についてのドナー試料の病理検査および血液試験を実施し、エンドトキシン、マイコプラズマ、および真菌についての試験、例えば、エンドトキシン検出のためのカブトガニアメーバ様細胞溶解物(LAL)試験(動的比濁法)、および真菌汚染の検出のためのFungitell動的色素法(kinetic chromogenic method)、または直接接種(inobulation)による最終容器滅菌性試験(final container sterility test)を培養ドナー試料に対して実施した。細胞培養培地は、LookOutマイコプラズマPCR検出キット(Sigma)またはMycoAlertマイコプラズマ検出キット(Lonza)を使用して、本発明者らの研究所またはマイコプラズマコアサービスで収集および測定した。培養ドナー試料は、腫瘍形成能について試験するために軟寒天アッセイにもかけた。異なる供与物および異なるタイムポイントからの0.2×10
5細胞または1.0×10
5細胞の細胞懸濁物を、0.35%の寒天を含有する増殖培地中に播種し、次いで0.7%の寒天ゲル上においた。28日間インキュベートした後、コロニーを0.005%のクリスタルバイオレットで染色し、陽性および陰性対照と比べて増殖についてスコアを付けた。移植用の細胞は、テロメラーゼ活性についての試験にもかけた。培養における異なる供与物および異なるタイムポイントからの細胞タンパク質1マイクログラムを、製造者の指示に従って、TITANIUM Taq DNA Polymerase(BD Clontech)とともにTRAPEZE RT Telomerase Detection Kit(Chemicon)を使用して試験した。さらに、細胞は、いずれの異常の存在についても検出するために第三者企業によって核型決定された。その理由は、これらの異常の存在が培養前駆細胞の自発的不死化およびがん性挙動を示し得るためである。最後に、細胞生存能および細胞数を、トリパンブルー(Invitrogen)染色によって、Countess自動細胞計数器(Invitrogen)によって、または血球計数器(Fisher Scientific)を使用して手作業で計数して求めた。
【0246】
臨床検査室の結果は、ドナーからの血液試料は、致死性ウイルスおよび他の外来性物質に対して陰性であることを示した。移植用細胞は、エンドトキシン、マイコプラズマ、および真菌感染に対しても同様に陰性であった。さらに、移植用に調製した細胞は、軟寒天中でコロニーを形成せず、これらが腫瘍形成能を欠いていることを示した。核型分析も実施して、培養hRPC(確立したFDAの評価の高い供給業者のCell Line Geneticsに外注した)の臨床的安全性を保証した。核型決定によっても異常はまったく現れなかった。細胞生存能および細胞数に関して、回収した細胞を、様々な長さの時間にわたって、インキュベーターの外の氷上で移植培地中に放置した。サブセットも27gの皮下針によって排出して、生存に対するその効果を評価した。皮下組織を通じた排除では、検出可能な効果がなかった。予想される実際の手順時間は、1時間未満である。インキュベーターの外での生存は、2.5時間で認め得るほどに低下し始めたが、3.5時間まで90%超(許容される)残った。これにより、臨床移植手順には、ドナー細胞生存に対する重大な効果がないことが示唆された。
【0247】
移植用に調製した細胞は、低いまたは中等度であるが高いレベルでないレベルのテロメラーゼ活性を呈する。テロメラーゼ活性は一般に、有効に不死であるはずであり、無期限に伝達されるはずである生殖系列の細胞を含むある特定の細胞内を除いて、初期胚発生を越えた哺乳動物細胞内で下方制御される。テロメラーゼ活性の通常の喪失は、生物の寿命の制限に関連するが、腫瘍形成能の低い確率も示唆する。テロメラーゼ活性の増大は、哺乳動物がん細胞、および多能性幹細胞、および培養中の不死化されたヒト細胞において認められる。悪性活性との強い関連は、これが、テロメラーゼレベルが上昇した移植細胞にとって潜在的に危険であることを意味する。安全性試験は、移植用細胞を調製するための条件が、97日までの培養中の一連のタイムポイントにわたって(すなわち、現在の使用可能な限界を越えて)、テロメラーゼ活性の上昇を誘導しないことを示す。実際に、テロメラーゼ活性は、経時的に低下する傾向があり、それは発達「老化」と一致する。言い換えれば、細胞は、最終的に老化状態になり、増殖する能力を失う。
【0248】
適格患者に細胞を片側性に与えた。適格性は、重度の末期の網膜もしくは視神経疾患、補正レンズを使用して20/200以下の芳しくない残留中心視力、および/または陰鬱な視覚予後のいずれか1つを有する患者を選択することによって判定した。患者はまた、立体眼底撮影を可能にするような適切な瞳孔拡張および透明な中間透光体、21mmHg以下の眼内圧、ならびに広い前房隅角を有していなければならない。患者は、狭い前房隅角、前房癒着または新生血管形成、閉塞隅角緑内障の履歴や、処置、眼底検査、視力の測定、毒性の一般的な評価の間に観察を妨げる著しい既存の中間透光体混濁(media opacity)、試験に入る前の3カ月以内の同じ眼における任意の眼内手術;血管造影に使用されるフルオレセイン色素に対する公知の深刻なアレルギーを有すること;重度の心疾患(NYHA機能クラスIIIまたはIV)、6カ月以内の心筋梗塞、または処置の継続を必要とする心室頻拍性不整脈、または不安定狭心症の前歴または証拠を呈した場合除外した。
【0249】
網膜疾患(すなわち、網膜色素変性症)、および視覚の改善の予後不良とともに20/200以下の視力を有する3人の法律上失明している患者を選択した。登録した患者は、46〜57の年齢の範囲であり、二人が女性であり、一人が男性であり、彼らのすべてがRPの診断を伴った。二人はIOLを有し、一人は白内障を有していた。
【0250】
早期継代胎児ヒト網膜前駆細胞を転写物およびタンパク質発現プロファイルによって特徴付け、正常核型について試験した。細胞はまた、真菌、細菌(エンドトキシン)、マイコプラズマに対して陰性であった。組織は、外来性ウイルスについてもスクリーニングし、HIV1およびHIV2抗体、B型肝炎抗原、C型肝炎抗体、梅毒、単純ヘルペスウイルスIgM抗体、ウエストナイルウイルスTMA:シングレット、およびEBV IgM VCA抗体に対して陰性であることが判明した。細胞懸濁物100μlの用量(これは、眼に約50万細胞を送達した)での硝子体内の(intravitral)ボーラス注射用に細胞を調製した。
【0251】
0日目の前に3日間、患者は、家で、局所的抗生物質滴下で自己処置した。0日目に、患者を、眼底写真撮影を含むベースライン臨床検査にかけた。眼を洗浄し、局所的に抗生物質を投与し、次いで瞳孔を拡大させ、局所麻酔薬(anesthesic )滴下を施した。覚醒した、鎮静剤を投与されていない患者に、滅菌手術条件下で外科用顕微鏡によって直接視覚化した下で、セルフシール入口通路を作り、移植片の逆流を回避するために標準的な斜め侵入手法を使用して、硝子体腔内に「外科的輪部」のレベルで眼球の壁を通じて細胞を1回注射した。眼内圧の医原性上昇を防止するために前房穿刺を実施した。免疫抑制療法、縫合や創傷閉鎖手順は必要としなかった。注射後の抗生物質をその後投与し、眼内圧を慎重にモニターした。すべての患者を同伴者とともに同日に解放し、入院の必要はなかった。黄斑上に細胞が大量に集合するのを回避するために、注射後に少なくとも45度で少なくとも2時間、頭を上げた状態に保つように患者にアドバイスした。病院から解放する前に、患者に、注射後2〜3日間頭をわずかに上げて家で眠るように指示した。
【0252】
臨床経過観察を、処置後1日、3日、1週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年、および5年間毎年するように指定した。眼の有害事象の発生率および重症度を、眼底検査、最良矯正視力(BCVA)、IOP、細隙灯検査、蛍光眼底血管造影(FA)、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)、ステレオ眼底写真撮影、および錐体フリッカー網膜電図検査(electroetinography)(ERG)応答を含めた標準的な眼科検査技法によって特定した。
【0253】
すべての患者の経過観察の細隙灯検査により、移植片の細胞は、硝子体内で視覚化することができ、一部は凝固して鎖様構造になり、移植細胞が、眼に入り、そこに留まることが裏付けられ、硝子体配置により硝子体細胞の集合がもたらされることが明らかになった。特に、これにより、理論的に起こり得るような視線が遮光されること(眼から被験体の視界を遮断すること)に起因して視覚の改善は打ち消されなかった。
【0254】
経過観察のBスキャンを実施し、超音波デバイスにより術後4カ月における硝子体細胞を追跡した。結果は、眼内に腫瘍形成がないことおよび前方眼窩(眼の裏)内に腫瘍形成がないことを示す。移植片細胞の持続(および視覚改善の持続)は、移植細胞を受けた患者に慣例的な免疫抑制の必要がないことを示唆する。腫瘍、血管の合併症や網膜剥離の証拠は、検査でも眼底撮影によっても認められなかった。特に、手順に起因した視覚の喪失を経験した患者はなく、すべての患者で視覚の検出可能な改善が報告された。改善は、疾患の重症度に関係し、初期の視覚が悪いほど改善がより制限され、初期の視覚が良好であるほど改善はより大きく、より急速であった。ハンドモーションビジョン(hand motion vision)を有する一人の患者(002)は、4カ月目で再び視力検査表を見ることができた。別の患者(003)は、中心固視およびある程度の黄斑機能(これは、20/200より良好な視力を実現するのに必要とされる)を再獲得した。患者003は、視力検査表で「20文字」の視力の改善を実現した。これは、非常に大きく、有意な改善である。視覚の改善は維持され、視力の獲得は、少なくとも1.5年まで持続した。患者は、より良好な一般的な視覚機能および日常生活の活動の改善も報告した。
【0255】
患者間の傾向を比較するのに使用した視力試験の結果を
図55に示す。いずれの目盛りも正確に線形ではない。視覚の急速な改善の証拠が、3例すべてで第1週以内に観察され、宿主網膜に対する臨床的に有意な栄養作用とほとんど一致した。また、生着および網膜細胞交換を含み得るさらなる改善への傾向が1カ月後に認められた。患者に伴ったいくつかの問題は、データの傾向におけるある特定の明らかな偏向に対応する。患者002(青色)は、術後の滴剤滴下に準拠せず、前部ブドウ膜炎を発症し、これは、標準的な術後薬物療法で急速に解決した。特に、彼女の長期間進展は、改善を示す。患者001(桃色)は、既存の白内障を有しており、これは、おそらく手技に起因して移植後最初の数カ月にわたって悪化し、彼女の視覚の二次的低下に関係した可能性がある(しかし視覚は初期レベルよりも改善された)。hRPCの移植に関連したIOPの異常は見い出されなかった(表1を参照)。
【表1】
【0256】
視野試験において、3人すべての患者は、末期網膜色素変性症に起因する黄斑機能の喪失に関連した芳しくない視力のために、処置前に中心固視を失っていた。患者003は、3日目に中心固視を再獲得し、自動視野試験を実施することができ、これにより、20DB感度を伴った小2度範囲(small 2−degree area)(正常)が明らかになった。この患者の視覚感度も、中心窩固視点(foveal fixation point)の鼻側の別の範囲で上昇した。この患者は、中心固視を再獲得したので、自動視野測定(HVF)を使用して彼の視野を試験することが可能であった。この試験は、彼が、中心窩領域内で小さいが高感度の視覚の島を再獲得していたことを示した。データは、この処置が、硝子体を通じて網膜に分布した移植細胞からの急速な栄養作用を伴い、残留する宿主の錐体に機能を回復させるようであるという概念を支持する。暗視の改善(複数の患者)およびERG性能の改善(患者003)の報告は、桿体光受容体機能の改善の役割も同様に支持する。これらの改善は、宿主網膜への機能的な細胞集積にも起因し得る。他の網膜検査、例えば、網膜トポグラフィー、RNFL、OCTなども実施した。腫瘍形成または免疫学的組織拒絶反応の証拠は認められなかった。
【0257】
要約すると、臨床試験におけるすべての患者は、処置により視力の改善を経験した。視覚の利益は、注射後、少なくとも20カ月間持続した。少なくとも一人の患者は、中心固視の復帰に特徴付けられる視野の改善を有した。免疫抑制をしなかったまたは免疫抑制薬の投与をしなかったにもかかわらず、術後合併症や免疫拒絶の証拠は観察されなかった。すべての臨床検査、すなわち、細隙灯、間接検眼鏡検査、眼および眼窩の超音波(Bスキャン)、ならびに眼底写真に基づいて、in vivoで有意なドナー細胞増殖は認められなかった。腫瘍形成は、最大少なくとも20カ月間、認められなかった。
【0258】
いくつかのバリエーションを上記で詳細に説明してきたが、他の改変または付加も可能である。特に、さらなる機能および/またはバリエーションを、本明細書に示したものに加えてもたらすことができる。例えば、上記に記載の実施は、開示した特徴の組合せおよびサブコンビネーションならびに/または上記に開示したいくつかのさらなる特徴の組合せおよびサブコンビネーションを対象とする場合がある。さらに、添付の図面に表し、かつ/または本明細書に記載したロジックフローは、望ましい結果を実現するのに、示した特定の順序または連続した順序を必要としない。他の実施形態も以下の特許請求の範囲の範囲内となり得る。