特許第6571290号(P6571290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571290
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】三相貫通形変流器
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/38 20060101AFI20190826BHJP
   H01F 27/36 20060101ALI20190826BHJP
   G01R 15/18 20060101ALI20190826BHJP
   H02B 13/035 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   H01F38/38
   H01F27/36 170
   G01R15/18
   H02B13/035
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-540248(P2018-540248)
(86)(22)【出願日】2016年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2016077650
(87)【国際公開番号】WO2018055664
(87)【国際公開日】20180329
【審査請求日】2019年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】片岡 誠治
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 知英
(72)【発明者】
【氏名】米田 真人
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−293512(JP,A)
【文献】 特開昭58−022970(JP,A)
【文献】 特開2000−156327(JP,A)
【文献】 特開昭55−068604(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/064118(WO,A1)
【文献】 特開2011−243773(JP,A)
【文献】 特開2001−015365(JP,A)
【文献】 特開昭63−048463(JP,A)
【文献】 国際公開第94/027157(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/38
G01R 15/18
H01F 27/36
H02B 13/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相の電流の大きさを変換する貫通形変流器を1つの収容体に3つ収容してなる三相貫通形変流器であって、
前記貫通形変流器は、
単相の導体が孔を貫通する環状鉄心と、
前記環状鉄心の周囲に巻回された二次巻線と、
を備え、
前記環状鉄心は、他の前記環状鉄心を貫通する前記導体に流れた事故電流により発生する磁界によって磁気飽和する箇所に設けられた第1のギャップと、前記箇所を基点に等配位置に設けられた第2のギャップとを含み構成された三相貫通形変流器。
【請求項2】
前記環状鉄心は、その中心が正三角形の頂点に位置するようにそれぞれ配置され、
前記第1のギャップは、当該ギャップが設けられる前記環状鉄心の、当該環状鉄心と他の2つの前記環状鉄心との最近接点間に設けられ、
前記第2のギャップは、前記第1のギャップに対向する位置に設けられた、請求項1記載の三相貫通形変流器。
【請求項3】
前記第1のギャップは、前記最近接点間の中央位置に設けられ、
前記第2のギャップは、前記中央位置と対向する位置に設けられた請求項2記載の三相貫通形変流器。
【請求項4】
前記環状鉄心は、前記第1のギャップと前記第2のギャップをそれぞれ1つのみ設けられた請求項1〜3のいずれかに記載の三相貫通形変流器。
【請求項5】
前記貫通形変流器の相間には、遮蔽板が設けられ、
前記遮蔽板は、導電率が35×10S/m以上の導電体からなり、厚みが5mm以上、高さが前記貫通形変流器の高さ以上である請求項1〜4のいずれかに記載の三相貫通形変流器。
【請求項6】
各前記貫通形変流器に前記貫通形変流器を覆う遮蔽筒が設けられ、
前記遮蔽筒は、導電率が35×10S/m以上の導電体からなり、厚みが5mm以上、高さが前記貫通形変流器の高さ以上である請求項1〜4のいずれかに記載の三相貫通形変流器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、三相交流の各相の電流の大きさを変換する三相貫通形変流器に関する。
【背景技術】
【0002】
変流器は、電流検出に用いられ、電流の大きさを変換する機器である。この変流器の種類として、従来から貫通形変流器が知られている。貫通形変流器は、単相の導体が貫通する環状鉄心と、当該環状鉄心に巻回された二次巻線とを備え、導体が環状鉄心を少なくとも1ターンして一次巻線として機能し、一次巻線に入力された電流の大きさが、一次巻線と二次巻線の巻線比に応じて変換され、二次巻線から変換された大きさの電流が、二次巻線に接続された機器に出力される。また、三相交流の電流の大きさを変換する三相貫通形変流器が知られている。三相貫通形変流器は、1つのケースに貫通形変流器を3つ収納して構成された変流器であり、各貫通形変流器の環状鉄心に、単相の導体がそれぞれ一次巻線として貫通してなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−175062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の三相貫通形変流器において、当該変流器に保護継電器が接続されている場合、例えば一相に地絡電流相当の大電流が流れた際、この地絡電流により発生する外部磁界の影響で健全な二相に誘導電流が流れてしまい、保護継電器が誤動作する可能性がある。
【0005】
特に、三相貫通形変流器において、一相に大電流が流れることにより発生する外部磁界は、他の二相の環状鉄心を均一に磁化させるのではなく、局所的に磁化させ、環状鉄心が部分飽和することで誘導電流が増加するという問題があった。また、環状鉄心に残留磁束がある場合、その残留磁束を起点に磁束が変化するため、電流投入時の電圧の位相によっては誘導電流が急増する。従って、誘導電流を抑制するためには、外部磁界の影響と残留磁束を抑制する必要があった。
【0006】
本発明の実施形態は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、誘導電流を抑制することのできる三相貫通形変流器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本実施形態の三相貫通形変流器は、単相の電流の大きさを変換する貫通形変流器を1つの収容体に3つ収容してなる三相貫通形変流器であって、次の構成を有する。
(1)前記貫通形変流器は、単相の導体が孔を貫通する環状鉄心と、前記環状鉄心の周囲に巻回された二次巻線と、を備える。
(2)前記環状鉄心は、他の前記環状鉄心を貫通する前記導体に流れた事故電流により発生する磁界によって磁気飽和する箇所に設けられた第1のギャップと、前記箇所を基点に等配位置に設けられた第2のギャップとを含み構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図である。
図2】従来の三相貫通形変流器において、一相に大電流が流れたときに発生する外部磁化の分布を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る三相貫通形変流器において、一相に大電流が流れたときに発生する外部磁界の分布を示す図である。
図4】(a)は、第2の実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図であり、(b)は、第2の実施形態に係る三相貫通形変流器の斜視図である。
図5】第2の実施形態に係る三相貫通形変流器の作用を説明するための図である。
図6】第2の実施形態の三相貫通形変流器(遮蔽板あり)における磁界解析の結果を示す図である。
図7】従来の三相貫通形変流器(遮蔽板なし)における磁界解析の結果を示す図である。
図8】遮蔽板の導電率、厚みを変えた場合の事故電流と誘導電流との関係を示すグラフである。
図9】(a)は、第3の実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図であり、(b)は、第3の実施形態に係る三相貫通形変流器の斜視図である。
図10】他の実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図である。
図11】他の実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.第1の実施形態]
[1−1.構成]
以下では、図1図3を参照しつつ、本実施形態に係る三相貫通形変流器について説明する。図1は、本実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図である。図1に示すように、本実施形態は、単相の電流の大きさを変換する3つの貫通形変流器10a〜10cと、1つの収容体3と、を備えた三相一括貫通形変流器である。
【0010】
貫通形変流器10a〜10cは、それぞれ同一の構成であり、環状鉄心2a〜2bと、環状鉄心2a〜2cの外周に全周等配となるように巻回された二次巻線(不図示)とを備える。貫通形変流器10a〜10cは、本実施形態では、二次巻線を介して保護継電器と接続されている。環状鉄心2a〜2cは、円環状形状を有する磁性体であり、中央に孔を有する。当該孔の中心部には、単相の電流が流れる導体1a〜1cがそれぞれ貫通している。
【0011】
収容体3は、例えばアルミニウムや鉄などの金属からなる、両端が有底の円筒体であり、3つの貫通形変流器10a〜10cが収容される。図1に示すように、貫通形変流器10a〜10cは、導体1a〜1cが正三角形の頂点に位置するように収容体3内に配置されている。換言すれば、環状鉄心2a〜2cの中心が正三角形の頂点に位置するようにそれぞれ収容体3内に配置されている。そのため、環状鉄心2a〜2cには、他の2つの環状鉄心2a〜2cと最も近接する箇所である最近接点P,Q(図1中の太線部分)がある。なお、収容体3の両端には、導体1a〜1cが貫通するための開口が設けられている。
【0012】
環状鉄心2a〜2cには、他の環状鉄心2a〜2cを貫通する導体1a〜1cに流れた事故電流により発生した磁界によって磁気飽和する箇所にギャップ4a〜4cが設けられ、当該箇所を基点に等配位置にギャップ5a〜5cが設けられている。ギャップ4a〜4c、5a〜5cは、環状鉄心2a〜2cにおいて透磁率の低下する部分である。ギャップ4a〜4c、5a〜5cの数は、特に限定されるものではなく、3以上でも構わないが、ここでは、環状鉄心2a〜2cにそれぞれ2つのギャップが設けられている。
【0013】
ギャップ4a〜4cは、当該ギャップが設けられる環状鉄心2a〜2cと他の2つの環状鉄心2a〜2cの最近接点PQ間に設けられ、本実施形態では、当該最近接点PQ間の中央位置に設けられている。ギャップ5a〜5cは、ギャップ4a〜4cに対向する位置に設けられており、各環状鉄心2a〜2cにおいて、ギャップ4a〜4cを基点にすると、環状鉄心2a〜2cの中心周りに180°回転した位置であり、本実施形態では、最近接点PQ間の中央位置に対向する位置である。そのため、例えば、環状鉄心2aにおいて、ギャップ4aからギャップ5bまでの右回りの磁路長と左回りの磁路長は等距離となる。
【0014】
本実施形態では、各環状鉄心2a〜2cにギャップ4a〜4cとギャップ5a〜5cとをそれぞれ1つのみ設け、合計2つのギャップを設けるようにしたが、各環状鉄心2a〜2cは、3つ以上のギャップを設けるようにしても良い。
【0015】
[1−2.作用]
本実施形態に係る三相貫通形変流器の作用について、図2及び図3を用いて説明する。図2は、従来の三相貫通形変流器において、一相に大電流が流れたときに発生する外部磁化の分布を示す図である。なお、従来の三相貫通形変流器の環状鉄心102a〜102cには、ギャップが設けられていない。図3は、本実施形態に係る三相貫通形変流器において、一相に大電流が流れたときに発生する外部磁界の分布を示す図である。
【0016】
まず、従来の三相貫通形変流器では、導体1aに事故電流などの大電流が流れると、図2に示すように、一相の導体1aの周囲に外部磁界7が発生し、他の二相を貫通する。このとき、他の二相の環状鉄心2b、2cは、通電相である導体1aに最も近い部分及びその対向部の磁束密度が高くなり、その位置で部分飽和が起きやすくなる。このように部分飽和が生じると誘導電流が増加してしまう。
【0017】
また、導体1aに最も近い部分である内側部分の磁束8b、8cと、その対向部分である外側の磁束9b、9cとでは磁束の方向が逆になり,磁束8bと磁束9bによって発生した電流差、磁束8cと磁束9cによって発生した電流差で、各導体1b、1cに誘導電流が流れる。また、環状鉄心2b、2cが部分飽和すると励磁インピーダンスが急激に低下し、電流が増加するため、磁束8b、9bと磁束8c、9cの磁束の差がわずかでも差電流が大きくなり誘導電流が増加してしまう。つまり、環状鉄心2b、2cに残留磁束があると、当該残留磁束を起点に磁束が変化するため、電源投入時の電圧の位相によっては誘導電流が増加してしまう。
【0018】
これに対し、本実施形態では、図3に示すように、磁束密度の高くなる箇所に低透磁率のギャップ4a〜4cを設けて磁気抵抗を大きくすることで磁束密度を低減させ、かつ、当該箇所と対向する位置にギャップ5a〜5cを設けて、磁束8b、9bと磁束8c、9cとをバランスさせている。仮に、環状鉄心2a〜2cに設けられるギャップが、ギャップ4a〜4cのみである場合、磁束8b、8cの磁束密度は、当該ギャップにより低減することが可能であるが、磁束9b、9cの磁束密度の低減には効果がなく、環状鉄心2b、2c内における磁束のバランスが崩れてしまうため、誘導電流の低減は期待できない。
【0019】
なお、導体1aに大電流が流れる場合、環状鉄心2b、2cの磁束密度が最も高くなる箇所は、環状鉄心2bでは導体1aとの最近接点Pであり、環状鉄心2cでは導体1aとの最近接点Qである。このため、ギャップ4bは最近接点Pに設け、ギャップ4cは最近接点Qに設けることが望ましい。但し、事故電流などの大電流が流れるのは、導体1aに限らず、導体1b、1cにも流れる可能性がある。例えば、導体1bに大電流が流れる場合、環状鉄心2cにおいて、導体1bとの最近接点Pが、磁束密度が最も高くなる箇所となる。そのため、ギャップ4cは、最近接点Pに設けることが好ましい。
【0020】
このように、貫通形変流器10cから見て、他の導体1a、1bのいずれに大電流が流れた場合でも、環状鉄心2cの最近接点Pと最近接点Qとの間にギャップ4cを設けることで、磁束密度の低減効果及び誘導電流の低減効果を得ることができる。本実施形態では、最近接点PQ間の中央位置にギャップ4cを設け、導体1aに大電流が流れた場合も、導体1bに大電流が流れた場合も、磁束密度の低減効果及び誘導電流の低減効果を得ることができる。本実施形態によれば、誘導電流は最大で従来の三相貫通形変流器の10%程度低減することが可能であり、かつ、誤差特性への影響はほとんどない。
【0021】
[1−3.効果]
(1)本実施形態の三相貫通形変流器は、単相の電流の大きさを変換する貫通形変流器10a〜10cを1つの収容体3に3つ収容してなる三相貫通形変流器であって、貫通形変流器10a〜10cは、単相の導体1a〜1cが孔を貫通する環状鉄心2a〜2cと、環状鉄心2a〜2cの周囲に巻回された二次巻線と、を備え、環状鉄心2a〜2cは、他の環状鉄心2a〜2cを貫通する導体1a〜1cに流れた事故電流により発生する磁界によって磁気飽和する箇所に設けられたギャップ4a〜4cと、当該箇所を基点に等配位置に設けられたギャップ5a〜5cとを含み構成するようにした。
【0022】
特に、本実施形態では、環状鉄心2a〜2cは、その中心が正三角形の頂点に位置するようにそれぞれ配置され、ギャップ4a〜4cは、当該ギャップ4a〜4cが設けられる環状鉄心2a〜2cの、当該環状鉄心2a〜2cと他の2つの環状鉄心2a〜2cとの最近接点PQ間に設け、ギャップ5a〜5cは、ギャップ4a〜4cに対向する位置に設けるようにした。
【0023】
これにより、最も磁気飽和が起きやすい箇所にギャップ4a〜4cを設けるので当該箇所における磁束密度を低減できるとともに、当該箇所を基点に等配位置にギャップ5a〜5cを設けることにより、事故電流が流れる導体を中心として同方向の磁束を打ち消し合うようにバランスさせることができ、誘導電流を低減させることができる。その結果、三相貫通形変流器が保護継電器に接続される場合には、当該保護継電器の誤動作を防止することができる。
【0024】
(2)ギャップ4a〜4cは、最近接点PQ間の中央位置に設け、ギャップ5a〜5cは、当該中央位置と対向する位置に設けるようにした。これにより、誘導電流の低減効果を得ることができる。特に、ある一つの環状鉄心2a〜2cの、他の2つの環状鉄心2a〜2cとの最近接点PQ間の中央位置は、他の2つの環状鉄心2a〜2cを貫通する導体1a〜1cのいずれに事故電流が流れた場合でも、磁束密度を低減させることができる位置である。従って、当該位置にギャップ4a〜4cを設けることで当該位置における磁束密度を低減させることができる。さらに、中央位置と対向する位置にギャップ5a〜5cが設けられているので、環状鉄心2a〜2c内の磁束のバランスを取ることができる。これにより、誘導電流は、何れの導体1a〜1cに事故電流が流れても誘導電流を低減させることができる。
【0025】
(3)環状鉄心2a〜2cは、ギャップ4a〜4cとギャップ5a〜5cをそれぞれ1つのみ設けるようにした。これにより、最小限の数のギャップ4a〜4c、5a〜5cしか設けないので、三相貫通形変流器の誤差特性の悪化を防止することができるとともに、ギャップを設けるための製造コストを削減でき、経済性を向上させることができる。
【0026】
[2.第2の実施形態]
[2−1.構成]
第2の実施形態は、図4図8を用いて説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態の基本構成と同じである。以下では、第1の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0027】
図4(a)は、第2の実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図であり、図4(b)は、第2の実施形態に係る三相貫通形変流器の斜視図である。図4(a)及び図4(b)に示すように、本実施形態では、収容体3内に、貫通形変流器10a〜10cの相間に遮蔽板13が設けられている。
【0028】
遮蔽板13は、Y字型形状の板状体である。遮蔽板13の形状は、ここではY字型形状とし、遮蔽板13の各貫通形変流器10a〜10cを遮蔽する板部分が中心側で繋がる形状である。遮蔽板13は、収容体3の有底円筒の一端部の壁面に、溶接やネジ締結等により固定されている。遮蔽板13の板状部分は、ここでは、相間の真ん中に位置している。
【0029】
なお、遮蔽板13は、Y字型のように必ずしも中心側で繋がっている必要はなく、図11に示すように、各貫通形変流器10a〜10c間に板状体15a〜15cがそれぞれ配置されていても良い。
【0030】
遮蔽板13は、導電率が35×10S/m以上の導電体からなる。このような導電体としては、アルミニウム、銅、アルミニウム合金などの金属として構成することができる。遮蔽板13は、その板厚が5mm以上であり、高さが貫通形変流器10a〜10cの高さ以上である。
【0031】
[2−2.作用]
本実施形態の三相貫通形変流器の作用について、図5図8を用いて説明する。図5に示すように、導体1aに例えば一線地絡電流が流れたとすると、導体1aの周囲に外部磁界12が発生し、遮蔽板13の板部分を貫通する。そうすると、例えば、遮蔽板13の貫通形変流器10bと貫通形変流器10cとを隔てる板状部分には、外部磁界12によって当該磁界12を中心とした渦電流10が発生し、外部磁界12を打ち消す方向に磁界11が発生し、貫通形変流器10b、10cへの外部磁界12の影響を低減させることができ、他相の地絡電流の影響から発生する誘導電流を低減することができる。導体1b、1cに地絡電流が流れた場合も同様の作用効果を得ることができる。
【0032】
図6は、本実施形態の三相貫通形変流器(遮蔽板あり)における磁界解析の結果を示す図であり、図7は、従来の三相貫通形変流器(遮蔽板なし)における磁界解析の結果を示す図である。図6及び図7は、導体1aに40kAの事故電流を流した場合の磁界解析の結果である。なお、図7の環状鉄心102a〜102cには、ギャップ4a〜4c、5a〜5cは設けられていない。図6の環状鉄心2a〜2c及び図7の環状鉄心102a〜102cのグレーの着色は、磁束密度を示しており、色が濃くなる程、磁束密度が高いことを示している。図6の環状鉄心2a〜2cは、図7の環状鉄心102a〜102cに比べ、全体的に着色が薄まっており、磁束密度が低減していることが分かる。
【0033】
図8は、遮蔽板13の導電率、厚みを変えた場合の事故電流と誘導電流との関係を示すグラフである。環状鉄心2a〜2cは、外径が29cm、内径が19cmであり、高さが10cmである。三相貫通形変流器の大きさは、直径が62cm、高さH(図4(b)参照)が62cmである。なお、高さHは、直径方向と直交し、かつ、導体1a〜1cの延び方向の大きさである。図8に示す実施例1〜3及び比較例1〜3の遮蔽板の導電率、厚み、素材は次の通りである。実施例1は、導電率60×10S/m、板厚8mmの銅であり、実施例2は、導電率60×10S/m、板厚5mmの銅であり、実施例3は、導電率35×10S/m、板厚5mmのアルミニウム合金である。比較例1は、遮蔽板なしであり、比較例2は、導電率60×10S/m、板厚3mmの銅であり、比較例3は、導電率35×10S/m、板厚3mmのアルミニウム合金である。なお、実施例1〜3及び比較例2、3の遮蔽板の高さは貫通形変流器以上である。
【0034】
図8に示すように、比較例1、3は、事故電流が35kA超を超えると、誘導電流により保護継電器が誤動作する可能性があるレベルを超えてしまう。特に、遮蔽板なしの比較例1では、事故電流が25kA付近より誘導電流が増加、つまり部分飽和が始まっていく。これに対し、実施例1〜3では、誘導電流の抑制効果が大きい。板厚が5mm以上、高さが貫通形変流器の高さ以上、導電率が35×10S/m以上の導電体からなる遮蔽板13を設けた場合、環状鉄心2a〜2cの部分飽和開始電流(図9では、事故電流25kA)を1.2倍以上の裕度を持たせることができる。事故電流が40kAとなっても、保護継電器の誤動作を防止することができることが確認できる。一方、厚さが3mmの比較例2は、実施例1〜3と同様に、事故電流が40kAとなっても保護継電器の誤動作を防止できるが、遮蔽効果が弱く、部分飽和開始電流に変化がなかった。
【0035】
[2−3.効果]
本実施形態に係る三相貫通形変流器は、貫通形変流器10a〜10cの相間に、遮蔽板13を設けた。遮蔽板13は、導電率が35×10S/m以上の導電体からなり、厚みが5mm以上、高さが貫通形変流器10a〜10cの高さ以上とした。これにより、導体1a〜1cのいずれか一相に地絡電流などの大電流が流れて外部磁界が発生しても、遮蔽板13に外部磁界を打ち消す磁界が発生するので、他相の貫通形変流器10a〜10cへの外部磁界の影響を低減することができ、誘導電流の抑制効果を得ることができる。
【0036】
本実施形態では、遮蔽板13の形状をY字型としたが、3枚の遮蔽板を相間にそれぞれ1枚ずつ設けるようにしてもよい。遮蔽板13の導電率が高く、その面積も広い方が当該遮蔽板13に循環電流が流れやすく、外部磁界との打ち消し効果が高いと考えられるが、3枚の遮蔽板をバラバラに設け、Y字のように中央で繋がっていなくても、Y字型の遮蔽板13の誘導電流の抑制効果と同等の効果を得ることができる。
【0037】
[3.第3の実施形態]
[3−1.構成]
第3の実施形態は、図9を用いて説明する。第3の実施形態は、第1の実施形態の基本構成と同じである。また、第3の実施形態は、第2の実施形態の遮蔽板13の変形例である。以下では、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態、第2の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0038】
図9(a)は、第3の実施形態に係る三相貫通形変流器の断面図であり、図9(b)は、第3の実施形態に係る三相貫通形変流器の斜視図である。本実施形態では、第2の実施形態の遮蔽板13に変えて、遮蔽筒14a〜14cを設ける。すなわち、貫通形変流器10a〜10cの周囲に当該変流器10a〜10cを覆う遮蔽筒14a〜14cが配置される。遮蔽筒14a〜14cは、ここでは、円筒形状であり、当該円筒内部に導体1a〜1c及び環状鉄心2a〜2cが位置するため、各貫通形変流器10a〜10cは、他相から遮蔽される。遮蔽筒14a〜14cは、導電率が35×10S/m以上の導電体からなり、厚みが5mm以上、高さが貫通形変流器10a〜10cの高さ以上である。
【0039】
[3−2.作用・効果]
本実施形態の遮蔽筒14a〜14cを設けることにより、第2の実施形態の作用効果に加えて、小型化及び低コスト化を図ることができる。すなわち、従来から、外部磁界の影響を低減させ、鉄心の部分飽和を抑制する方法として、貫通形変流器の相間距離の拡大、鉄心断面積の拡大、及びシールド巻線の追加などの方法が知られているが、これらの方法は、収納スペースを拡大させるものであり、大型化及び高コストであるという問題があったが、本実施形態によれば、三相貫通形変流器の小型化及び低コスト化を図ることができる。外部磁界の影響は、導体1a〜1cが三相一括であり、導体1a〜1c間の距離が近いことから生じる三相交流特有の問題であり、本実施形態によれば、効果的に対応することができる。
【0040】
[4.その他の実施形態]
本明細書においては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0041】
(1)他の実施形態としては、第1乃至第3の実施形態では、導体1a〜1cが正三角形の各頂点に位置するように配置されていることを前提としたが、図10に示すように、導体1a〜1cが同一平面上に並列して平行するように配置されていても良い。この場合、ギャップ4a〜4c、5a〜5cは、同一直線上に設けられる。
【0042】
例えば、導線1cで事故電流相当の大きな電流が流れると、他相においてはギャップ4a、4bの位置が最も磁束密度が高くなる箇所であるが、当該箇所にギャップ4a、4bが設けられているので磁束密度を低下させることができる。さらにギャップ4a、4bに対向する位置、言い換えるとギャップ4a、4bの箇所を基点に等配位置にギャップ5a、5bを設けているので、各環状鉄心2a、2b内に同方向の磁束を打ち消し合うようにバランスさせることができ、誘導電流を低減させることができる。
【0043】
なお、導体1aに事故電流相当の大きな電流が流れた場合、ギャップ5b、4cが磁気飽和する箇所に設けられたギャップとなり、環状鉄心2bに設けたギャップの機能は導体1a、1cのいずれに大きな電流が流れるかで反転し得る。
【0044】
(2)第2の実施形態では、遮蔽板13は、相間に位置していれば良く、導体1a〜1c間の真ん中に設けられる必要はない。例えば、導体1a、1b間に設けられた遮蔽板13は、導体1aとの距離と導体1bとの距離が等しくなくても良い。また、第2の実施形態で遮蔽板13はY字型形状としたが、T字型形状としても良い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11