(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571291
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】被膜の製造方法及び静電スプレー装置
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20190826BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20190826BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20190826BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20190826BHJP
B05D 1/04 20060101ALI20190826BHJP
B05B 5/025 20060101ALN20190826BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/35
A61K8/81
A61Q1/00
B05D1/04 Z
!B05B5/025 A
【請求項の数】9
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2018-540489(P2018-540489)
(86)(22)【出願日】2018年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2018016216
(87)【国際公開番号】WO2018194143
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2018年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-83247(P2017-83247)
(32)【優先日】2017年4月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-83248(P2017-83248)
(32)【優先日】2017年4月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-83249(P2017-83249)
(32)【優先日】2017年4月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
(72)【発明者】
【氏名】福田 郁夫
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−104211(JP,A)
【文献】
特表2003−507165(JP,A)
【文献】
特開2016−043306(JP,A)
【文献】
特開2006−095332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
B05B 5/00− 5/16
D06M 13/00−15/715
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電スプレー装置を用いて皮膚の表面に液状組成物を直接静電スプレーして、該皮膚上に繊維の堆積物からなる被膜を形成する静電スプレー工程を具備する被膜の製造方法であって、前記静電スプレー装置が、
前記液状組成物を収容可能な収容部と、
前記液状組成物を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源と、を備え、
前記液状組成物が、以下の成分(a)、成分(b)及び成分(c)を含み、
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質、
(b)前記成分(a)に溶解可能であり、且つ繊維の堆積物からなる被膜形成能を有し、前記液状組成物中の含有量が5質量%以上40質量%以下である水不溶性ポリマー、
(c)前記液状組成物中の含有量が0.2質量%以上25質量%以下である水、
前記静電スプレー工程は、前記電源によって前記ノズルに5kV以上50kV以下の電圧を印加して、前記液状組成物を0.4mL/h以上30mL/h以下の流速で吐出して皮膚の表面に静電スプレーする工程であって、前記流速F(mL/h)と電圧P(kV)との比(流速F/電圧P)が0.8以下である、被膜の製造方法。
【請求項2】
静電スプレー装置を用いて皮膚の表面に液状組成物を直接静電スプレーして、該皮膚上に被膜を形成する静電スプレー工程を具備する被膜の製造方法であって、前記静電スプレー装置が、
前記液状組成物を収容可能な収容部と、
前記液状組成物を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源と、を備え、
前記液状組成物が、以下の成分(a)、成分(b)及び成分(c)を含み、
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質、
(b)被膜形成能を有する水不溶性ポリマー、
(c)0.2質量%以上25質量%以下の水、
前記静電スプレー工程は、前記電源によって前記ノズルに5kV以上50kV以下の電圧を印加して、前記液状組成物を0.4mL/h以上30mL/h以下の流速で吐出して皮膚の表面に静電スプレーする工程であって、前記流速F(mL/h)と電圧P(kV)との比(流速F/電圧P)が0.8以下であり、
前記成分(b)は、部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、オキサゾリン変性シリコーン、ポリ乳酸からなる群より選択された少なくとも1種である、被膜の製造方法。
【請求項3】
前記液状組成物における前記成分(b)の配合割合が2質量%以上20質量%以下である、請求項2に記載の被膜の製造方法。
【請求項4】
前記液状組成物の25℃における粘度が5mPa・s以上3000mPa・s以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の被膜の製造方法。
【請求項5】
前記成分(b)と前記成分(c)との含有質量比(b/c)が、0.4以上50以下である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の被膜の製造方法。
【請求項6】
前記静電スプレー工程において、前記ノズルと皮膚との距離を10mm以上160mm以下とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の被膜の製造方法。
【請求項7】
前記静電スプレー工程において、前記被膜の坪量が皮膚1m2当たり、0.05g/m2以上50g/m2以下である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の被膜の製造方法。
【請求項8】
前記静電スプレー工程において、皮膚に前記液状組成物を静電スプレーして、繊維状となった該液状組成物を堆積させて多孔性被膜を形成する、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の被膜の製造方法。
【請求項9】
前記静電スプレー工程と、水、ポリオール及び20℃で液体の油から選ばれる1種又は2種以上を含有する前記液状組成物とは異なる液剤を皮膚に施す液剤適用工程とを具備する、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の被膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電スプレーによって被膜を形成する方法が種々知られている。例えば特許文献1には、皮膚に組成物を静電スプレーすることを含む皮膚を処理する方法が記載されている。この方法で用いられる組成物は、液体絶縁性物質と、導電性物質と、粒子状粉末物質と、増粘剤とを含んでいる。この組成物としては、典型的には顔料を含む化粧品やスキンケア組成物が用いられている。具体的には、組成物として化粧用ファンデーションが用いられている。すなわち、特許文献1に記載の発明は、美容の目的で化粧用ファンデーションを静電スプレーして、皮膚を化粧することを主として想定している。
【0003】
特許文献2には、化粧品の静電スプレー装置に使用するための使い捨てカートリッジが記載されている。この静電スプレー装置は、手持ち式の自蔵型のものである。この静電スプレー装置は、前記の特許文献1と同様に化粧用ファンデーションを噴霧するために用いられる。
【0004】
特許文献3には、電気流体力学的方法により、生物学的活性を有する原料を含む固体又はゲル状の物質を皮膚に形成させる方法及びそれに用いる装置が記載されている。この装置は、手持ち式の携帯可能な装置である。
【0005】
特許文献4には、ナノファイバーを安定的に大量生産することを目的として、高電圧印加下で高分子溶液を噴出し紡糸するナノファイバーの製造方法及びその製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 01/12139 A1
【特許文献2】WO 01/12335 A1
【特許文献3】WO 98/03267 A1
【特許文献4】特開2012−107364号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、静電スプレー装置を用いて皮膚の表面に液状組成物を直接静電スプレーして、該皮膚上に被膜を形成する静電スプレー工程を具備する被膜の製造方法であって、前記静電スプレー装置が、
前記液状組成物を収容可能な収容部と、
前記液状組成物を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源と、を備え、
前記液状組成物が、以下の成分(a)、成分(b)及び成分(c)を含み、
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質、
(b)被膜形成能を有する水不溶性ポリマー、
(c)0.2質量%以上25質量%以下の水、
前記静電スプレー工程は、前記電源によって前記ノズルに5kV以上50kV以下の電圧を印加して、前記液状組成物を0.4mL/h以上30mL/h以下の流速で吐出して皮膚の表面に静電スプレーする工程であって、前記流速F(mL/h)と電圧P(kV)との比(流速F/電圧P)が0.8以下である、被膜の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明で用いられる静電スプレー装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明で用いられる静電スプレー装置の別の実施形態の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す静電スプレー装置に備えられたカートリッジ部及び本体部の構造を示す概略図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す静電スプレー装置に備えられたカートリッジ部及び本体部の別の実施形態を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明で用いられる静電スプレー装置の更に別の実施形態の構成を示す概略図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す静電スプレー装置に備えられたカートリッジ部の構造を示す模式図である。
【
図7】
図7は、静電スプレー装置を用いて静電スプレー法を行う様子を示す模式図である。
【0009】
特許文献1ないし3に記載の方法に従い静電スプレーを行い皮膚に被膜を形成した場合、皮膚と静電スプレーによって形成された被膜との密着性が十分でなく、摩擦等の外力に起因して被膜が損傷したり剥離したりすることがある。また、被膜形成の際に、湿度などの周囲の環境に影響され、被膜形成用液体に印加する電圧が安定せず、安定的に皮膚上へ被膜を形成させることが困難となる。更に、静電スプレーの使用時における絶縁性の担保については何ら言及されていない。
【0010】
特許文献4に記載の方法は工業生産を目的とした製造方法であるため、特許文献4に記載の方法に従い静電スプレーを行い皮膚に被膜を形成した場合、工場での製造と比較して湿度等の周囲の製造環境を制御しづらい家庭等では、被膜を製造する場合に静電スプレーを使用した際の電圧が安定せず、安定的に皮膚上へ被膜を形成させることが困難となる可能性がある。
【0011】
したがって本発明は、静電スプレーの使用時における絶縁性を担保しつつ、湿度等の周囲環境に依存せず、品質が安定した被膜を製造する方法に関する。
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明においては、所定の成分を含む組成物を皮膚に直接施して被膜を形成する。被膜の形成方法として、本発明では静電スプレー法を採用している。静電スプレー法は、組成物に正又は負の高電圧を印加して該組成物を帯電させ、帯電した該組成物を対象物に向けて噴霧する方法である。噴霧された組成物はクーロン反発力によって微細化を繰り返しながら空間に広がり、その過程で、又は対象物に付着した後に、揮発性物質である溶媒が乾燥することで、対象物の表面に被膜を形成する。
【0013】
本発明において静電スプレー法に用いられる組成物は、静電スプレー法が行われる環境下において液体のものである(以下、この組成物のことを「液状組成物」ともいう。)。この液状組成物は、以下の成分(a)及び成分(b)を含んでいる。
(a)アルコール及びケトンからなる群より選択される1種又は2種以上の揮発性物質。(b)被膜形成能を有するポリマー。
以下、各成分について説明する。
【0014】
成分(a)の揮発性物質は、液体の状態において揮発性を有する物質である。液状組成物において成分(a)は、電界内に置かれた該液状組成物を十分に帯電させた後、ノズル先端から皮膚に向かって吐出され、成分(a)が蒸発していくと、液状組成物の電荷密度が過剰となり、クーロン反発によって更に微細化しながら成分(a)が更に蒸発していき、最終的に乾いた被膜を形成させる目的で配合される。この目的のために、揮発性物質はその蒸気圧が20℃において0.01kPa以上、106.66kPa以下であることが好ましく、0.13kPa以上、66.66kPa以下であることがより好ましく、0.67kPa以上、40.00kPa以下であることが更に好ましく、1.33kPa以上、40.00kPa以下であることがより一層好ましい。
【0015】
成分(a)の揮発性物質のうち、アルコールとしては例えば一価の炭素数1〜6の鎖式脂肪族アルコールや、一価の炭素数3〜6の環式脂肪族アルコールや、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。それらの具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フェニルエチルアルコール、プロパノール、ペンタノールなどが挙げられる。これらのアルコールは、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
成分(a)の揮発性物質のうち、ケトンとしては例えば炭素数3〜6の鎖式脂肪族ケトンや、炭素数3〜6の環式脂肪族ケトンや、炭素数8〜10の芳香族ケトンが好適に用いられる。それらの具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどが挙げられる。これらのケトンは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
成分(a)の揮発性物質は、より好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、及び水から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはエタノール、及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはエタノールである。
【0018】
液状組成物は、成分(a)とともに、成分(b)である被膜形成能を有するポリマーを含有する。成分(b)である被膜形成能を有するポリマーは、一般に、成分(a)の揮発性物質に溶解することが可能な物質である。ここで、溶解するとは20℃において分散状態にあり、その分散状態が目視で均一な状態、好ましくは目視で透明又は半透明な状態であることをいう。
【0019】
被膜形成能を有するポリマーとしては、成分(a)の揮発性物質の性質に応じて適切なものが用いられる。具体的には、被膜形成能を有するポリマーは水溶性ポリマーと水不溶性ポリマーとに大別される。本明細書において「水溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が水に溶解する性質を有するものをいう。一方、本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g超が溶解しない性質を有するものをいう。
【0020】
水溶性である被膜形成能を有するポリマーとしては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン酸、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性ポリマーのうち、被膜の製造が容易である観点から、プルラン、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。水溶性ポリマーとしてポリエチレンオキサイドを用いる場合、その数平均分子量は、5万以上300万以下であることが好ましく、10万以上250万以下であることが一層好ましい。
【0021】
一方、水不溶性である被膜形成能を有するポリマーとしては、例えば被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン−64等のポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性ポリマーのうち、被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリ乳酸、ツエイン等を用いることが好ましい。
【0022】
液状組成物における成分(a)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、65質量%以上であることがより一層好ましい。また95質量%以下であることが好ましく、94質量%以下であることがより好ましく、93質量%以下であることが更に好ましく、92質量%以下であることがより一層好ましい。液状組成物における成分(a)の配合割合は、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、55質量%以上94質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上93質量%以下であることが更に好ましく、65質量%以上92質量%以下であることがより一層好ましく、或いは55質量%以上92質量%以下であることが好ましい。この割合で液状組成物中に成分(a)を配合することで、静電スプレー法を行うときに液状組成物を十分に揮発させることができる。
【0023】
一方、液状組成物における成分(b)の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以上であることが一層好ましい。また成分(b)の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、成分(b)がポリビニルブチラールを含む場合には、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、25質量%以下であることが一層好ましい。液状組成物における成分(b)の含有量は、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、或いは1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、2質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上30質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上25質量%以下であることが一層好ましく、或いは5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。この割合で液状組成物中に成分(b)を配合することで、目的とする被膜を首尾よく形成することができる。
【0024】
液状組成物中には、成分(a)及び成分(b)に加えて、更に成分(c)として水が含まれていることが好ましい。水としては、イオン交換水、精製水又は蒸留水が好適に用いられる。
【0025】
液状組成物に成分(c)である水が含まれていることによって、水の電離に起因して液状組成物の導電率を高めることができる。液状組成物の導電率が高いことによって、後述する静電スプレーを実施した場合に、皮膚等の適用部位の表面上に繊維状の被膜を安定して形成することができる。また、水は静電スプレーにより形成される被膜の皮膚等への密着性の向上に寄与する。
【0026】
このような作用効果を得る観点から、成分(c)は、液状組成物中に0.2質量%以上25質量%以下含有することが好ましい。同様の観点から、液状組成物中の成分(c)の含有量は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.35質量%以上であることがより好ましく、0.4質量%以上であることが更に好ましい。また、液状組成物中の成分(c)の含有量は、繊維状の被膜を安定した形成性の観点から、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、19質量%以下であることが更に好ましく、18質量%以下であることがより更に好ましい。また、液状組成物中の成分(c)の含有量は、0.2質量%以上25質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、0.35質量%以上19質量%以下が更に好ましく、0.4質量%以上18質量%以下がより更に好ましく、或いは0.3質量%以上18質量%以下がより更に好ましい。
【0027】
静電スプレー法による被膜形成を安定的に行う観点から、成分(a)と成分(c)との含有量の質量比(a/c)は、3以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましく、4以上であることが更に好ましい。また、成分(a)と成分(c)との含有質量比(a/c)は、300以下であることが好ましく、250以下であることがより好ましく、210以下であることが更に好ましい。成分(a)と成分(c)との含有質量比(a/c)は、3以上300以下であることが好ましく、3.5以上250以下であることがより好ましく、4以上250以下であることが更に好ましく、4以上210以下であることが更に好ましい。
【0028】
また同様の観点から、成分(b)と成分(c)との含有質量比(b/c)は、0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることが更に好ましい。また、成分(b)と成分(c)との含有質量比(b/c)は、140以下であることが好ましく、成分(b)がポリビニルブチラールを含む場合には、50以下であることが好ましく、45以下であることがより好ましく、40以下であることが更に好ましい。成分(b)と成分(c)との含有質量比(b/c)は、0.4以上140以下であることが好ましく、或いは0.4以上50以下であることが好ましく、0.5以上45以下であることがより好ましく、0.6以上40以下であることが更に好ましく、或いは0.6以上140以下であることが好ましい。
【0029】
液状組成物における成分(b)の分散性の観点、被膜の形成性向上の観点から、成分(b)と成分(a)との質量比(b/a)は、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.04以上であることが更に好ましく、0.07以上であることが一層好ましい。また、成分(b)と成分(a)との質量比(b/a)は、0.70以下であることが好ましく、成分(b)がポリビニルブチラールを含む場合には、0.55以下であることが好ましく、0.50以下であることがより好ましく、0.30以下であることが更に好ましく、0.25以下であることが一層好ましい。具体的には、成分(b)と成分(a)との含有質量比(b/a)は、0.01以上0.70以下であることが好ましく、0.02以上0.70以下であることがより好ましく、0.07以上0.70以下であることが更に好ましく、或いは0.01以上0.55以下であることが好ましく、0.02以上0.50以下であることがより好ましく、0.04以上0.30以下であることが更に好ましく、0.07以上0.25以下であることが一層好ましい。
【0030】
また、液状組成物中には、上述した成分(a)、成分(b)及び成分(c)に加えて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば成分(b)の被膜形成能を有するポリマーの可塑剤、着色顔料、体質顔料、染料、界面活性剤、UV防御剤、香料、忌避剤、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、各種ビタミン等が挙げられる。噴霧用組成物中に他の成分が含まれる場合、当該他の成分の配合割合は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。液状組成物中に着色顔料、体質顔料などの20℃で粒径が0.1μm以上の粉体の成分を含む場合、該粉体の成分の含有量は、後述する静電スプレー装置のノズルの詰まりを抑制する観点、及び被膜の密着性の観点から、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、含有しないことが一層好ましい。
【0031】
特に、液状組成物中に成分(c)を含む場合は、液状組成物の導電率を向上させ、静電スプレー法における被膜を首尾よく形成させる観点から、更に成分(d)として塩を添加することができる。成分(d)は、導電率向上性の観点から、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩であることが好ましい。成分(b)を含む液状組成物中への分散性をより向上し、導電率をより向上させる観点から、成分(d)は、イオン性化合物及びアシルアミノ酸エステルから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、ベタイン化合物、アシルアミノ酸エステルから選ばれる1種又は2種以上であることがさらに好ましい。
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0032】
カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、アシルアミノ酸塩が好ましい。成分(d)としては、第4級アンモニウム塩及びアシルアミノ酸塩から選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0033】
第4級アンモニウム塩としては、例えばテトラアルキルアンモニウム塩、ベンジルアルキルアンモニウム塩、ベンジルトリアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、モノ長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジ長鎖アルキルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。第4級アンモニウム塩の具体例としては、例えば塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化ジステアリルジアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジセチルメチルアンモニウム、セチルトリエチルアンモニウムメチルサルフェート、ベンザルコニウムクロリド等が挙げられる。
【0034】
アシルアミノ酸塩としては、アシルグルタミン酸塩、アシルアスパラギン酸塩、アシルサルコシン塩、アシルタウリン塩、アシルメチルタウリン塩等が挙げられ、塩としてはアルカリ金属塩、アンモニウム塩が好ましい。これらのアシルアミノ酸塩としては、例えば、ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、ミリストイルアスパラギン酸ナトリウム、ココイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、パルミトイルサルコシンナトリウム等が挙げられる。
【0035】
両性界面活性剤としては、ベタイン型、スルホベタイン型が挙げられ、具体的にはコカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等が挙げられる。
【0036】
イオン性ポリマーとしては、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、両性ポリマーのいずれも挙げることができる。アニオン性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸単位を有するホモポリマー又はコポリマーが挙げられ、例えばアクリレート/C1−18アルキルアクリレート/C1−8アルキルアクリルアミドコポリマーAMP等が挙げられる。カチオン性ポリマーとしては、第1級〜第3級アミノ基又は第4級アンモニウム基を有するホモポリマー又はコポリマーが挙げられ、例えばエチルアクリレート/N−〔3−(ジメチルアミノ)プロピル〕アクリルアミド/N−tert−ブチルアクリルアミド/メタクリレート−α−メチルポリ(オキシエチレン)−ω−イル−コポリマー、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)−グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサンコポリマー−モノエチルサルフェート塩等が挙げられる。両性ポリマーとしては、アルキルベタイン単位又はスルホベタイン単位を有するホモポリマー又はコポリマーが挙げられ、具体的にはN−メチルアクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン/アルキルメタアクリレートコポリマーが挙げられる。
【0037】
ベタイン化合物としては、アミノ酸のアミノ基に3個のメチル基が付加した化合物が挙げられ、例えばトリメチルグリシン、カルニチン(ビタミンBt;3−ヒドロキシ−4−(トリメチルアンモニオ)ブタン酸エステル)、及びアシル化されたカルニチンが挙げられる。
【0038】
アシルアミノ酸エステルとしては、アシルアミノ酸(フィトステリル/オクチルドデシル)が挙げられ、具体的にはラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)等が挙げられる。
【0039】
特に、成分(d)としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アシルアミノ酸エステル、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、両性ポリマー及びベタイン化合物から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、第4級アンモニウム塩、アシルアミノ酸塩、アシルアミノ酸エステル塩、(メタ)アクリル酸単位を有するホモポリマー又はコポリマー、第1級〜第3級アミノ基を有するホモポリマー又はコポリマー、第4級アンモニウム基を有するホモポリマー又はコポリマー、アルキルベタイン単位又はスルホベタイン単位を有するホモポリマー又はコポリマー、及びトリメチルグリシンから選ばれる1種又は2種以上が更に好ましい。
【0040】
成分(d)として更に塩を添加する場合、液状組成物における成分(d)の含有量は、被膜を安定して形成させる観点、及び後述する導電率の過度な上昇を防止する観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましく、2.5質量%以下が一層好ましく、2質量%以下がより一層好ましい。具体的には、成分(d)の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上8質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上6質量%以下が更に好ましい。
【0041】
被膜の形成性や紡糸の安定性向上の観点から、成分(d)と成分(c)との含有質量比(d/c)は、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が更に好ましく、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。具体的には、成分(d)と成分(c)との含有質量比(d/c)は0.01以上6以下が好ましく、0.02以上5以下がより好ましく、0.03以上4以下が更に好ましい。
【0042】
静電スプレー法を行う場合、液状組成物として、その粘度が、25℃において、好ましくは5mPa・s以上、更に好ましくは10mPa・s以上、一層好ましくは20mPa・s以上、より一層好ましくは30mPa・s以上であるものを用いる。また粘度が、25℃において、好ましくは3000mPa・s以下、より好ましくは2000mPa・s以下、更に好ましくは1500mPa・s以下、一層好ましくは1000mPa・s以下、より一層好ましくは800mPa・sであるものを用いる。液状組成物の粘度は、25℃において、好ましくは5mPa・s以上3000mPa・s以下であり、より好ましくは5mPa・s以上2000mPa・s以下であり、更に好ましくは10mPa・s以上1500mPa・s以下であり、一層好ましくは20mPa・s以上1000mPa・s以下であり、より一層好ましくは30mPa・s以上800mPa・s以下である。この範囲の粘度を有する液状組成物を用いることで、静電スプレー法によって多孔性被膜、特に繊維の堆積物からなる多孔性被膜を首尾よく形成することができる。多孔性被膜の形成は、皮膚への追従性及び皮膚の蒸れ防止等の観点から有利なものである。液状組成物の粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される。E型粘度計としては例えば東京計器株式会社製のE型粘度計を用いることができる。その場合の測定条件は、25℃、コーンプレートのロータNo.43、回転数は粘度に応じた適切な回転数が選択され、500mPa・s以上の粘度は5rpm、150mPa・s以上500mPa・s未満の粘度は10rpm、250mPa・s未満の粘度は20rpmとする。
【0043】
被膜を皮膚上に安定して形成させる観点から、静電スプレー法を行う場合における液状組成物の25℃における導電率は、8μS/cm以上が好ましく、10μS/cm以上がより好ましく、20μS/cm以上が更に好ましく、25μS/cm以上がより更に好ましい。また、同様の観点から、液状組成物の導電率は、300μS/cm以下が好ましく、260μS/cm以下がより好ましく、220μS/cm以下が更に好ましく、200μS/cm以下がより更に好ましい。より具体的には、液状組成物の25℃における導電率は、8μS/cm以上300μS/cm以下が好ましく、8μS/cm以上260μS/cm以下がより好ましく、10μS/cm以上260μS/cm以下が更に好ましく、10μS/cm以上220μS/cm以下がより更に好ましく、25μS/cm以上200μS/cm以下がより一層好ましい。液状組成物の導電率はインピーダンス測定装置(SI1260、ソーラトロン社製)により、測定端子(SH―Z)、25℃、φ10mm、距離1mmの条件により測定することができる。液状組成物の25℃における導電率は、前述の各成分の混合範囲を満たすことを条件として、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び/又は成分(d)の混合比を変更することによって適宜調節することができる。
【0044】
また、液状組成物において、25℃の粘度X(mPa・s)に対する導電率Y(μS/cm)との関係(Y/X)は、繊維状の被膜を安定して得る観点、及び被膜の密着性向上の観点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、3.3以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、2以下が一層好ましい。具体的には、25℃の粘度X(mPa・s)に対する導電率Y(μS/cm)との関係(Y/X)は、0.1以上3.3以下が好ましく、0.2以上3以下がより好ましく、0.3以上2.5以下が更に好ましい。
【0045】
液状組成物は静電スプレー法によって、対象物であるヒトの皮膚における適用部位に直接噴霧される。静電スプレー法は、静電スプレー装置を用いて皮膚の表面に液状組成物を静電スプレーする工程を含む。
図1には、本発明で好適に用いられる静電スプレー装置の構成を表す概略図が示されている。同図に示す静電スプレー装置10は、低電圧電源11を備えている。低電圧電源11は、数Vから十数Vの電圧を発生させ得るものである。静電スプレー装置10の可搬性を高める目的で、低電圧電源11は1個又は2個以上の電池からなることが好ましい。また、低電圧電源11として電池を用いることで、必要に応じ取り替えを容易に行えるという利点もある。電池に代えて、ACアダプタ等を低電圧電源11として用いることもできる。
【0046】
静電スプレー装置10は、高電圧電源12も備えている。高電圧電源12は、低電圧電源11と接続されており、低電圧電源11で発生した電圧を高電圧に昇圧する電気回路(図示せず)を備えている。昇圧電気回路は一般にトランス、キャパシタ及び半導体素子等から構成されている。
【0047】
静電スプレー装置10は、補助的電気回路13を更に備えている。補助的電気回路13は、上述した低電圧電源11と高電圧電源12との間に介在し、低電圧電源11の電圧を調整して高電圧電源12を安定的に動作させる機能を有する。更に補助的電気回路13は、後述するマイクロギヤポンプ15Aに備えられているモータの回転数を制御する機能を有する。モータの回転数を制御することで、後述する液状組成物の収容部14からマイクロギヤポンプ15Aへの液状組成物の供給量が制御される。補助的電気回路13と低電圧電源11との間にはスイッチSWが取り付けられており、スイッチSWの入り切りによって、静電スプレー装置10を運転/停止できるようになっている。
【0048】
静電スプレー装置10は、ノズル15を更に備えている。ノズル15は、金属を初めとする各種の導電体や、プラスチック、ゴム、セラミックなどの非導電体からなり、その先端から液状組成物の吐出が可能な形状をしている。ノズル15内には液状組成物が流通する微小空間が、該ノズル15の長手方向に沿って形成されている。ノズル15の目詰まりを防ぐ観点から、この微小空間の横断面の大きさは、直径で表して、その最小径として100μm以上2000μm以下であることが好ましく、100μm以上1400μm以下であることがより好ましく、250μm以上1400μm以下であることが更に好ましく、300μm以上1400μm以下であることがより更に好ましい。また同様の観点から、ノズル15の流路長さは、1mm以上25mm以下であることが好ましく、1mm以上20mm以下であることがより好ましく、5mm以上20mm以下であることが更に好ましく、5mm以上15mm以下であることが更に好ましい。
【0049】
ノズル15の流路は、少なくとも管状に形成されていればよく、液状組成物が吐出可能であれば、流路の途中が分岐していてもよい。また、流路の横断面は、流路の横断面の面積がほぼ同じ筒状(チューブ状)のものであってもよく、流路の横断面の面積が液状組成物の吐出する方向に向けて狭くなるか、又は広くなるものであってもよい。
【0050】
ノズル15は、管路15Bを介してマイクロギヤポンプ15Aと連通している。管路15Bは導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。また、ノズル15は、高電圧電源12と電気的に接続されている。これによって、ノズル15に高電圧を印加することが可能になっている。この場合、ノズル15に人体が直接触れた場合に過大な電流が流れることを防止するために、ノズル15と高電圧電源12とは、電流制限抵抗19を介して電気的に接続されている。ノズル15と高電圧電源12とは、電極等の導電体(図示せず)を介して電気的に接続されていてもよい。
【0051】
管路15Bを介してノズル15と連通しているマイクロギヤポンプ15Aは、収容部14中に収容されている液状組成物をノズル15に供給する供給装置として機能する。マイクロギヤポンプ15Aは、低電圧電源11から電源の供給を受けて動作する。また、マイクロギヤポンプ15Aは、補助的電気回路13による制御を受けて所定量の液状組成物をノズル15に供給するように構成されている。
【0052】
マイクロギヤポンプ15Aには、フレキシブル管路15Cを介して収容部14が接続されている。収容部14中には液状組成物が収容されている。収容部14は、カートリッジ式の交換可能な形態をしていることが好ましい。
【0053】
液状組成物をノズル15から吐出する流速は、液状組成物の組成や皮膚における適用部位にも依存するが、0.1mL/h以上であることが好ましく、0.2mL/h以上であることがより好ましく、0.4mL/h以上であることが更に好ましい。また、液状組成物をノズル15から吐出する流速は、100mL/h以下であることが好ましく、50mL/h以下であることがより好ましく、30mL/h以下であることが更に好ましく、12mL/h以下であることが一層好ましく、11.5mL/h以下であることがより一層好ましい。より具体的には、液状組成物をノズル15から吐出する流速は、0.1mL/h以上100mL/h以下であることが好ましく、0.2mL/h以上50mL/h以下であることがより好ましく、0.4mL/h以上30mL/h以下であることが更に好ましく、0.4mL/h以上12mL/h以下であることが一層好ましく、0.4mL/h以上11.5mL/h以下であることがより一層好ましい。この流速で液状組成物を吐出することによって、被膜の形成性を向上し、被膜と皮膚との密着性を向上させることができる。
【0054】
また、高電圧電源12によってノズル15に印加する電圧は、静電スプレー工程における液状組成物の吐出流速を維持する観点から、5kV以上であることが好ましく、9kV以上であることがより好ましく、10kV以上であることが更に好ましい。また、ノズル15に印加する電圧は、50kV以下であることが好ましく、30kV以下であることが更に好ましい。より具体的には、液状組成物をノズル15から吐出する流速は、5kV以上50kV以下であることが好ましく、9kV以上30kV以下であることがより好ましく、10kV以上30kV以下であることが更に好ましい。ノズル15に印加する電圧は、液状組成物の組成や、液状組成物を吐出する所望の速度によって適宜選択することができるが、流速が上がるにつれて、高い電圧を印加することが好ましい。なお、上述のノズル15に印加する電圧の範囲は絶対値であり、印加する電圧は接地に対して正の電圧でもよく、負の電圧でもよい。
【0055】
液状組成物に成分(c)を含む場合、静電スプレーを首尾よく行うとともに、被膜の皮膚等への密着性を一層向上させる観点から、液状組成物をノズル15から吐出する速度(流速F)とノズル15に印加する電圧Pとが、流速及び電圧が上述の範囲となっていることを条件として、特定の関係になっていることが好ましい。ノズル15に印加する電圧P(kV)に対する液状組成物の吐出速度F(流速:mL/h)の比(流速/電圧)が、上述した流速及び電圧の範囲を満たすことを条件として、0.8以下となっていることが好ましく、0.6以下となっていることが更に好ましく、また、その下限は、0.06以上であることが好ましく、0.1以上であることが更に好ましい。このとき、流速は0.2mL/h以上であることが好ましく、0.4mL/h以上であることがより好ましく、1mL/h以上であることが更に好ましく、2mL/h以上であることが一層好ましい。
【0056】
詳細には、ハンディタイプの静電スプレー装置を用いて皮膚に直接静電スプレーを行う場合、静電スプレー時における湿度等の周囲環境の変動や、人手によるノズルと皮膚との距離の変動が生じうる。このような変動要因に依存せず被膜の皮膚への形成性を確保する観点から、ノズル15に印加する電圧P(kV)と、流速F(mL/h)との関係は、好ましくは(1≦F≦0.6P)であり、より好ましくは(1≦F≦0.5P+2)であり、更に好ましくは(1≦F≦0.3P+2.5)であり、或いはより好ましくは(2≦F≦0.5P+2)であり、より更に好ましくは(2≦F≦0.3P+2.5)である。かかる関係式は、後述する実施例から支持される。
【0057】
静電スプレー装置10のハンドリング性と、液状組成物の良好な吐出とを両立させる観点から、収容部15の容積は、1mL以上が好ましく、1.5mL以上がより好ましく、3mL以上が更に好ましく、また、25mL以下が好ましく、20mL以下がより好ましく、15mL以下が更に好ましい。具体的には、収容部15の容積は、1mL以上25mL以下が好ましく、1.5mL以上20mL以下がより好ましく、3mL以上15mL以下が更に好ましい。収容部15の容積がこのような範囲となっていることによって、該収容部15がカートリッジ式の交換可能な形態となっている場合に、小型でより簡便に交換可能であるという利点もある。
【0058】
次に、本発明で用いられる静電スプレー装置の別の実施形態を
図2ないし
図6を参照しながら説明する。
図2ないし
図6に示す静電スプレー装置10は、カートリッジ部と本体部とを備えている点で
図1に示す静電スプレー装置と異なる。
図2ないし
図6に示す実施形態に関して、特に説明しない点については、
図1に示す実施形態についての説明が適宜適用される。また
図2ないし
図6において、
図1と同じ部材には同じ符号を付した。
【0059】
図2及び
図3に示す実施形態の静電スプレー装置10は、大別してカートリッジ部10Aと本体部10Bとを備えている。カートリッジ部10Aは、収容部14、ガスケット141、プランジャ142及びノズル15を備えている。本体部10Bは、低電圧電源11、高電圧電源12、補助的電気回路13、直流モータ160及びモータ減速機161を備えた動力源16、及びネジシャフト171及び送りネジ172を備えた動力伝達部17を備えている。
【0060】
カートリッジ部10Aは、本体部10Bから着脱可能になっている。このことに起因して、本実施形態の静電スプレー装置10によれば、液状組成物の詰め替えを容易に行うことができ、且つノズル15の清潔さを保つことができる。カートリッジ部10Aが本体部10Bから着脱可能な形態としては、例えばプランジャ142及び送りネジ172に嵌合部を形成し嵌合させる方法や、プランジャ142及び送りネジ172に螺条を形成し螺合させる方法が挙げられるが、これらの方法に限られない。
【0061】
図3に示すとおり、カートリッジ部10Aは、液状組成物を収容可能な筒状の収容部14を備えている。収容部14の一端は開口部を形成している。収容部14の他端にはノズル15が設けられている。収容部14の内部にはガスケット141が配されている。ガスケット141は収容部14の横断面の形状と同一の輪郭を有する形状となっている。それによってガスケット141は収容部14の内面と液密に接触しつつ、収容部14の内部を摺動可能になっている。ガスケット141はプランジャ142の前端と結合している。プランジャ142は収容部14の開口部を越えて収容部14の外部へ延出している。プランジャ142の後端は送りネジ172と係合している。収容部14は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0062】
本実施形態におけるノズル15は、収容部14と連通している。ノズル15は、高電圧電源12と電気的に接続されている。これによって、ノズル15に高電圧を印加することが可能になっている。この場合、ノズル15に人体が直接触れた場合に過大な電流が流れることを防止するために、ノズル15と高電圧電源12とは、電流制限抵抗器19を介して電気的に接続されている。ノズル15と高電圧電源12とは、電極等の導電体(図示せず)を介して電気的に接続されていてもよい。
【0063】
以上は、本実施形態の静電スプレー装置10におけるカートリッジ部10Aの説明であったところ、本実施形態の本体部10Bについては以下に述べるとおりである。
本体部10Bは、低電圧電源11を備えている。低電圧電源11は、数Vから十数Vの電圧を発生させ得るものである。静電スプレー装置10の可搬性を高める目的で、低電圧電源11は1個又は2個以上の電池からなることが好ましい。また、低電圧電源11として電池を用いることで、必要に応じ取り替えを容易に行えるという利点もある。電池に代えて、ACアダプタ等を低電圧電源11として用いることもできる。
【0064】
本体部10Bは、高電圧電源12を更に備えている。高電圧電源12は、低電圧電源11と接続されており、低電圧電源11で発生した電圧を高電圧に昇圧する電気回路(図示せず)を備えている。昇圧電気回路は一般にトランス、キャパシタ及び半導体素子等から構成されている。
【0065】
本体部10Bは、補助的電気回路13を更に備えている。補助的電気回路13は、上述した低電圧電源11と高電圧電源12との間に介在し、低電圧電源11の電圧を調整して高電圧電源12を安定的に動作させる機能を有する。更に補助的電気回路13は、後述する動力源16に備えられているモータの回転数を制御する機能を有する。モータの回転数を制御することで、液状組成物が収容されている収容部14から液状組成物を吐出するノズル15への液状組成物の供給量が制御される。補助的電気回路13と低電圧電源11との間にはスイッチSWが取り付けられており、スイッチSWの入り切りによって、静電スプレー装置10を運転/停止できるようになっている。
【0066】
本体部10Bは、動力源16及び動力伝達部17を更に備えている。動力源16は、収容部14中に収容されている液状組成物をノズル15から吐出させる動力を発生させるものである。動力源16は、低電圧電源11から電源の供給を受け、補助的電気回路13による制御を受けて動作する。動力源16から発生した動力は、動力伝達部17によってカートリッジ部10Aに伝達され、所定量の液状組成物を収容部14からノズル15に供給できるように構成されている。
【0067】
本体部10Bは、直流モータ160及びモータ減速機161を備えた動力源16と、ネジシャフト171及び送りネジ172を備えた動力伝達部17とを備えている。
【0068】
直流モータ160は、直流モータ160の回転動力を減じて出力するモータ減速機161に連結されている。モータ減速機161は、回転可能なネジシャフト171に連結されており、直流モータ160から発生した回転動力がモータ減速機161を介してネジシャフト171へ伝達され、ネジシャフト171が回転する構造となっている。ネジシャフト171に伝達された回転動力は、ネジシャフト171に連結された送りネジ172によって、送りネジ172の位置を長手方向Xに沿って移動させる直線的な動力に変換される。直線運動する送りネジ172はプランジャ142及びガスケット141を収容部14へ押し込み、それによって、収容部14内に収容されている液状組成物をノズル15を通じて外部へ向けて噴射できるようにする。
【0069】
図3では、送りネジ172とプランジャ142とが分離し、プランジャ142とガスケット141とが一体となった構造となっているが、送りねじ172とプランジャ142とが一体となっており、プランジャ142とガスケット141とが分離した構造となっていてもよく、送りネジ172とガスケット141とが直接接触し、ガスケット141に直線的な動力を伝達する構造となっていてもよい。
【0070】
本発明に用いられる液状組成物が導電性であることに起因して、ノズル15に印加された高電圧が収容部14内に収容されている液状組成物や動力伝達部17を介して動力源16に印加されてしまい、静電スプレー装置10がダメージを受けたり、電荷が漏えいしてスプレーされないことがある。そこで、静電スプレー装置10の使用時における絶縁性を担保し、静電スプレー装置10がダメージを受けないようにする観点、及び液状組成物を介した電流の漏えいを防いで紡糸の安定性を担保する観点から、動力伝達部17は動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していることが好ましい。これによって、ノズル15に印加された高電圧が意図せず動力源16に印加されることを効果的に防止できる。動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁する方法としては、例えばプラスチックやセラミックなどの非導電体からなるネジシャフト171や送りネジ172を動力伝達部17として使用する方法が挙げられる。動力伝達部17が動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していれば、ガスケット141やプランジャ142は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0071】
図4には、本発明で好適に用いられる静電スプレー装置10の別の実施形態が示されている。
図4に示す実施形態に関し、特に説明しない点については、
図2及び
図3に示す実施形態に関する説明が適宜適用される。また、
図4において、
図2及び
図3と同じ部材には同じ符号が付してある。
【0072】
図4に示すとおり、カートリッジ部10Aは収容部14、ガスケット141及びノズル15を備えている。一方、本体部10Bは、リニアステップモータ162を備えた動力源16と、ネジシャフト171を備えた動力伝達部17とを備えている。これらの構成を有することによって、収容部14からノズル15への液状組成物の供給量を精密に制御できるとともに、本体部10Bの小型化に起因して静電スプレー装置10の可搬性をより高めることができる。
【0073】
リニアステップモータ162は、その内部にメネジを有するロータ(図示せず)を有する。ロータのメネジにはオネジとなっているネジシャフト171が螺合している。リニアステップモータ162は本体部10Bのフレーム(図示せず)に固定されている。リニアステップモータ162内のロータが回転することによって、ロータのメネジに螺合されているネジシャフト171が長手方向Xに沿って直線的に移動する。直線移動するネジシャフト171は、ネジシャフト171の一端と接触しているガスケット141を収容部14内に押し込み、それによって、収容部14内に収容されている液状組成物をノズル15を通じて外部へ向けて噴射できるようにする。
【0074】
図5には、静電スプレー装置の更に別の実施形態が示されている。同図に示す静電スプレー装置10は、大別してカートリッジ部10Aと本体部10Bとを備えている。カートリッジ部10Aは、収容部14、ノズル15及びポンプ部15Pを備えている。本体部10Bは、低電圧電源11、高電圧電源12、補助的電気回路13、動力源16及び動力伝達部17を備えている。
【0075】
カートリッジ部10Aは、本体部10Bから着脱可能になっている。このことに起因して、本実施形態の静電スプレー装置10によれば、液状組成物の詰め替えを容易に行うことができ、且つノズル15の清潔さを保つことができる。カートリッジ部10Aが本体部10Bから着脱可能な形態としては、例えば後述する動力伝達部17に嵌合部を形成し、ポンプ部15Pと動力源16とを動力伝達部17を介して嵌合させる方法が挙げられるが、これらの方法に限られない。
【0076】
収容部14は液状組成物を収容可能なものであり、カートリッジ部10Aから着脱可能になっている。このことに起因して、本実施形態の静電スプレー装置10によれば、液状組成物の詰め替えをより容易に行うことができる。収容部14がカートリッジ部10Aから着脱可能な形態としては、例えば収容部14及びポンプ部15Pに嵌合部を形成し嵌合させる方法が挙げられるが、これらの方法に限られない。
【0077】
図6には、本実施形態におけるカートリッジ部10Aが示されている。カートリッジ部10Aは、袋状の収容部14を備えている。収容部14はポリエチレン等の液不透過性且つ可撓性の材料からなる2枚のシートを重ね合わせ、それらの外縁を液密に接合することによって平坦な袋状に形成されている。これによって、収容部14は変形可能な構造を有し、且つ収容部14の内部に液状組成物を収容することができる。収容部14はその外縁の一部に、ポンプ部15Pへ液状組成物を供給するために、ポンプ部15Pと連通可能な開口部14aを有している。収容部14は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0078】
本実施形態におけるノズル15はポンプ部15Pと連通している。また、ノズル15は、高電圧電源12と電気的に接続されている。これによって、ノズル15に高電圧を印加することが可能になっている。この場合、ノズル15に人体が直接触れた場合に過大な電流が流れることを防止するために、ノズル15と高電圧電源12とは、電流制限抵抗器19を介して電気的に接続されている。ノズル15と高電圧電源12とは、電極等の導電体(図示せず)を介して電気的に接続されていてもよい。ノズル15は、ポンプ部15Pとの間を連通する管路を更に有していてもよい。管路は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0079】
カートリッジ部10Aは、ポンプ部15Pを備えている。ポンプ部15Pは、収容部14とノズル15との間に介在し、それぞれと連通している。ポンプ部15Pは、収容部14の開口部14aとの接続部15aを有している。これによって、収容部14とポンプ部15Pとの間の流路の液密性を保ちつつ、収容部14中に収容されている液状組成物をノズル15に供給することができる。ポンプ部15Pは、後述する動力源16の動力が動力伝達部17を介して伝達されることによって駆動する。
図6に示すポンプ部15Pは、動力源16の動力を動力伝達部17を介してポンプ部15P内のギヤ等の内部機構(図示せず)に伝達するための回転可能な動力伝達凹部15bが更に設けられている。ポンプ部15Pとしては、液状組成物の吐出定量性向上の観点、及び静電スプレー装置10の可搬性向上の観点から、ギヤポンプ等が用いられる。ギヤポンプとしては、例えば
図1に示す実施形態において説明したマイクロギヤポンプ等を用いることができる。
【0080】
収容部14とポンプ部15Pとの間の流路の液密性が保たれていることに起因して、ポンプ部15Pの動作により収容部14からノズル15へ液状組成物を吐出すると、収容部14内の液状組成物はノズル15への供給に伴って減少し、収容部14内の内圧が低下する。これによって、可撓性を有し変形可能な材料からなる収容部14は、内圧に応じてしぼむように変形する。
【0081】
以上は、本実施形態の静電スプレー装置10におけるカートリッジ部10Aの説明であったところ、本実施形態の本体部10Bについては以下に述べるとおりである。
本体部10Bは、低電圧電源11を備えている。低電圧電源11は、数Vから十数Vの電圧を発生させ得るものである。静電スプレー装置10の可搬性を高める目的で、低電圧電源11は1個又は2個以上の電池からなることが好ましい。また、低電圧電源11として電池を用いることで、必要に応じ取り替えを容易に行えるという利点もある。電池に代えて、ACアダプタ等を低電圧電源11として用いることもできる。
【0082】
本体部10Bは、高電圧電源12を備えている。高電圧電源12は、低電圧電源11と接続されており、低電圧電源11で発生した電圧を高電圧に昇圧する電気回路(図示せず)を備えている。昇圧電気回路は一般にトランス、キャパシタ及び半導体素子等から構成されている。
【0083】
本体部10Bは、補助的電気回路13を備えている。補助的電気回路13は、上述した低電圧電源11と高電圧電源12との間に介在し、低電圧電源11の電圧を調整して高電圧電源12を安定的に動作させる機能を有する。更に補助的電気回路13は、後述する動力源16に備えられているモータの回転数を制御する機能を有する。モータの回転数を制御することで、液状組成物が収容されている収容部14からポンプ部15Pを介して液状組成物を吐出するノズル15への液状組成物の供給量が制御される。補助的電気回路13と低電圧電源11との間にはスイッチSWが取り付けられており、スイッチSWの入り切りによって、静電スプレー装置10を運転/停止できるようになっている。
【0084】
本体部10Bは、動力源16及び動力伝達部17を更に備えている。本実施形態の動力源17は、収容部14中に収容されている液状組成物を、ポンプ部15Pを介してノズル15から吐出させる動力を発生させるものである。本発明における動力源16にはモータ等が設けられており、低電圧電源11から電源の供給を受け、補助的電気回路13による制御を受けて動作し、動力を発生させる。動力源16から発生した動力は、該動力をポンプ部15Pに伝達する動力伝達部17によって、所定量の液状組成物を収容部14からポンプ部15Pを介してノズル15に供給できるように構成されている。
【0085】
本体部10Bに備えられた動力伝達部17は、モータ等の動力源16から発生した動力をポンプ部15Pに伝達するものである。これによって、収容部14中に収容されている液状組成物をポンプ部15Pを介してノズル15に供給することができる。動力源16からの動力をポンプ部15Pに伝達する方法は特に制限はないが、例えばシャフトからなる動力伝達部17の先端に凸部構造(図示せず)を形成し、該凸部構造と、ポンプ部15Pに設けられた動力伝達凹部15bとを嵌合させることによって、動力源16内のモータの回転動力をポンプ部15Pに伝達させることができる。
【0086】
本発明に用いられる液状組成物が導電性であることに起因して、ノズル15に印加された高電圧がポンプ部15Pや動力伝達部17を介して動力源16に印加されてしまい、静電スプレー装置10がダメージを受けたり、電荷が漏えいしてスプレーされないことがある。そこで、静電スプレー装置10の使用時における絶縁性を担保し、静電スプレー装置10がダメージを受けないようにする観点、及び液状組成物を介した電流の漏えいを防いで紡糸の安定性を担保する観点から、動力伝達部17は動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していることが好ましい。これによって、ノズル15に印加された高電圧が意図せず動力源16に印加されることを効果的に防止できる。動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁する方法としては、例えばプラスチックやセラミックなどの非導電体からなる部材を動力伝達部17として使用する方法が挙げられる。動力伝達部17が動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していれば、他の構成材料は導電体であってもよく、非導電体であってもよい。
【0087】
以上の構成を有することによって、収容部14からノズル15への液状組成物の供給量を精密に制御できるとともに、本体部10Bの小型化に起因して静電スプレー装置10の可搬性をより高めることができる。
【0088】
図1ないし
図6に示す実施形態に示す構成を有する静電スプレー装置10は、例えば
図7に示すように使用することができる。
図7には、片手で把持可能な寸法を有するハンディタイプの静電スプレー装置10が示されている。同図に示す静電スプレー装置10は、
図1、
図2又は
図5に示す構成図の部材のすべてが円筒形の筐体20内に収容されている。なお、
図7に示す筐体20は円筒形であるが、片手で把持可能な寸法を有しており、且つ
図1に示す構成部材のすべてが収容されていれば筐体20の形状は特に制限されず、楕円筒型や正多角筒形等の筒形であってもよい。「片手で把持可能な寸法」とは、静電スプレー装置10が収容された筐体20の重量が2kg以下であることが好ましく、筐体20の長手方向における最大長は40cm以下であることが好ましく、筐体20の体積は3000cm
3以下であることが好ましい。筐体20の長手方向の一端10aには、ノズル(図示せず)が配置されている。ノズルは、その液状組成物の吹き出し方向を、筐体20の縦方向と一致させて、肌側に向かい凸状になるように該筐体20に配置されている。ノズル先端が筐体20の縦方向においてに肌に向かい凸状になるように配置されていることによって、筐体に液状組成物が付着しにくくなり、安定的に被膜を形成することができる。
【0089】
静電スプレー装置10を動作させるときには、使用者、すなわち静電スプレーによって自己の適用部位上に被膜を形成する者が該装置10を手で把持し、ノズル(図示せず)が配置されている該装置10の一端10aを、静電スプレーを行う適用部位に向ける。
図7では、使用者の前腕部内側に静電スプレー装置10の一端10aを向けている状態が示されている。この状態下に、装置10のスイッチをオンにして静電スプレー法を行う。装置10に電源が入ることで、ノズルと皮膚との間には電界が生じる。
図7に示す実施形態では、ノズルに正の高電圧が印加され、皮膚が負極となる。ノズルと皮膚との間に電界が生じると、ノズル先端部の液状組成物は、静電誘導によって分極して先端部分がコーン状になり、コーン先端から帯電した液状組成物の液滴が電界に沿って、皮膚に向かって空中(大気中)に吐出される。空間に吐出され且つ帯電した液状組成物から溶媒である成分(a)又は成分(a)と成分(c)とが蒸発していくと、液状組成物表面の電荷密度が過剰となり、クーロン反発力によって微細化を繰り返しながら空間に広がり、皮膚に到達する。この場合、液状組成物の粘度を適切に調整することで、噴霧された該組成物を液滴の状態で適用部位に到達させることができる。あるいは、空間に吐出されている間に、溶媒である揮発性物質を液滴から揮発させ、溶質である被膜形成能を有するポリマーを固化させつつ、電位差によって伸長変形させながら繊維を形成し、その繊維を適用部位に堆積させることもできる。例えば、液状組成物の粘度を高めると、該組成物を繊維の形態で適用部位に堆積させやすい。これによって、繊維の堆積物からなる多孔性被膜が適用部位の表面に形成される。繊維の堆積物からなる多孔性被膜は、ノズルと皮膚との間の距離や、ノズルに印加する電圧を調整することでも形成することが可能である。
【0090】
静電スプレー法を行っている間は、ノズルと皮膚との間に高い電位差が生じている。しかし、インピーダンスが非常に大きいので、人体を流れる電流は極めて微小である。例えば通常の生活下において生じる静電気によって人体に流れる電流よりも、静電スプレー法を行っている間に人体に流れる電流の方が数桁小さいことを、本発明者は確認している。
【0091】
静電スプレー法によって繊維の堆積物を形成する場合、該繊維の太さは、円相当直径で表した場合、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましい。また3000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることが更に好ましい。繊維の太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(繊維の塊、繊維の交差部分、液滴)を除き、繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0092】
前記の繊維は、製造の原理上は無限長の連続繊維となるが、少なくとも繊維の太さの100倍以上の長さを有することが好ましい。本明細書においては、繊維の太さの100倍以上の長さを有する繊維のことを「連続繊維」と定義する。そして、静電スプレー法によって製造される被膜は、連続繊維の堆積物からなる多孔性の不連続被膜であることが好ましい。このような形態の被膜は、集合体として1枚のシートとして扱えるだけでなく、非常に柔らかい特性をもっており、それに剪断力が加わってもばらばらになりにくく、身体の動きへの追従性に優れるという利点がある。また、皮膚から生じた汗の放散性に優れるという利点もある。更に、被膜の剥離が容易であるという利点もある。これに対して、細孔を有さない連続被膜は剥離が容易でなく、また汗の放散性が非常に低いので、皮膚に蒸れが生じやすい。
【0093】
繊維状となった液状組成物は、帯電した状態で適用部位に到達する。先に述べたとおり皮膚も帯電しているので、繊維は静電力によって適用部位に密着する。皮膚の表面には肌理等の微細な凹凸が形成されているので、その凹凸によるアンカー効果と相まって繊維は適用部位の表面に一層密着する。このようにして静電スプレーが完了したら、静電スプレー装置10の電源を切る。これによってノズルと皮膚との間の電界が消失し、皮膚の表面は電荷が固定化される。その結果、被膜の密着性が一層発現する。
【0094】
上述のとおり、液状組成物は、帯電した状態で静電スプレー装置のノズル先端から空中(大気中)へ噴霧される。静電スプレー使用時の周囲湿度が高い場合には、大気中の水分によって電荷が漏えいし、ノズルへ実際に印加される電圧が設定値よりも低下してしまう。それに起因して液状組成物の帯電性が低下し、液状組成物の噴霧性が低下してしまうことがある。特に、組成物を吐出して液滴を堆積させて被膜を形成する特許文献1及び2の技術と異なり、本発明では、液状組成物のクーロン反発力により連続繊維形成し、かかる繊維を堆積させて被膜を形成するので、印加電圧及び液状組成物の帯電性が低下すると、形成された被膜の品質に影響を及ぼす可能性がある。液状組成物に、成分(c)を含むことによって、静電スプレーにおける湿度の影響を受けにくくすることができる。
【0095】
本発明の液状組成物は、成分(c)を含むことによって、湿度による噴霧の影響を防止しつつ、形成された被膜に水分を担持させることができる。具体的には、液状組成物中の成分(c)の含有量が、概ね0.2質量%以上であり、成分(b)と成分(c)との質量比(b/c)が0.4以上であれば、皮膚と被膜との密着性が高くなることに加えて、被膜が透明化する傾向にあり、自然な見た目に近づく。密着性の効果は、後述する静電スプレー工程の前又は後に液剤適用工程を行うことにより更に増強される。
【0096】
温度や湿度などの被膜の製造環境が管理されている工業生産においては、製造環境の振れが小さいことと対照的に、本実施形態のようなハンディタイプの静電スプレー装置を用いる環境は温度や湿度が変動しやすく、それに起因して被膜の形成を安定的に行い難いというハンディタイプに特有の課題があるところ、液状組成物中に成分(c)に加えて更に成分(d)を含むことによって、該液状組成物の導電率が上昇し、そのことに起因して、被膜の製造環境に変動が生じたとしても、本発明の静電スプレー装置による液状組成物の噴霧を安定的に行うことができ、皮膚との密着性の高い被膜を形成させることができる。
【0097】
以上の説明は、被膜として繊維の堆積物からなる多孔性被膜についてのものであったが、被膜の形態はこれに限られず、細孔を有さない連続被膜を形成してもよく、繊維の堆積物以外の形態を有する多孔性被膜、例えば連続被膜に不規則に又は規則的に複数の貫通孔が形成されてなる多孔性被膜、すなわち不連続被膜を形成してもよい。上述のとおり、液状組成物の粘度、ノズルと皮膚との間の距離、及びノズルに印加する電圧などを制御することで任意の形状の被膜を形成することができる。
【0098】
ノズルと皮膚との間の距離は、ノズルに印加する電圧にも依存するが、被膜を首尾よく形成する観点から、10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、40mm以上であることが更に好ましく、60mm以上であることが一層好ましい。またノズルと皮膚との間の距離は、160mm以下であることが好ましく、150mm以下であることがより好ましく、120mm以下であることが更に好ましい。より具体的には、ノズルと皮膚との間の距離は、10mm以上160mm以下であることが好ましく、20mm以上150mm以下であることがより好ましく、40mm以上150mm以下であることが更に好ましく、60mm以上120mm以下であることが更に好ましい。ノズルと皮膚との間の距離は、一般的に用いられる非接触式センサ等で測定することができる。
【0099】
静電スプレー法によって形成された被膜が多孔性のものであるか否かを問わず、被膜の坪量は皮膚1m
2当たり、0.05g/m
2以上であることが好ましく、0.1g/m
2以上であることがより好ましく、1g/m
2以上であることが更に好ましい。また50g/m
2以下であることが好ましく、40g/m
2以下であることがより好ましく、30g/m
2以下であることが更に好ましく、25g/m
2以下であることが一層好ましく、20g/m
2以下であることがより一層好ましい。例えば被膜の坪量は皮膚1m
2当たり、0.05g/m
2以上50g/m
2以下であることが好ましく、0.1g/m
2以上40g/m
2以下であることがより好ましく、0.1g/m
2以上30g/m
2以下であることが更に好ましく、0.1g/m
2以上25g/m
2以下であることが更に好ましく、1g/m
2以上20g/m
2以下であることが一層好ましい。被膜の坪量をこのように設定することで、被膜が過度に厚くなることに起因する該被膜の剥離を効果的に防止することができる。
【0100】
静電スプレー法によって形成された被膜が多孔性のものであるか否かを問わず、被膜の剥離を効果的に防止する観点から、静電スプレー法による静電スプレー時間は、液状組成物の各成分の混合比率や、ノズルに印加する電圧にも依存するが、皮膚10cm
2当たり、5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることが更に好ましい。また静電スプレー法による静電スプレー時間は、120秒以下であることが好ましく、60秒以下であることが更に好ましい。具体的には、静電スプレー法による静電スプレー時間は、5秒以上120秒以下であることが好ましく、10秒以上60秒以下であることが更に好ましい。
【0101】
なお、皮膚に液状組成物を直接に静電スプレーして被膜を形成する静電スプレー工程とは、皮膚に直接静電スプレーして、被膜を形成する工程を意味する。液状組成物を皮膚以外の場所に静電スプレーして繊維からなるシートを作製し、そのシートを皮膚に塗布又は貼付する工程は、前記静電スプレー工程とは異なる。
【0102】
本発明においては、上述した静電スプレー法によって被膜を形成する静電スプレー工程の前に、若しくはその後に、又は該静電スプレー工程の前後に、粉体を含む化粧料を皮膚又は被膜に施す化粧料適用工程を更に備えていてもよい。静電スプレー工程において繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成する工程の前、及び/又は後に、化粧料適用工程を行うことにより、粉体を含む化粧料が皮膚又は被膜に施された部位(以下、この部位のことを「化粧料適用部位」ともいう。)が衣類等に擦過された場合であっても、衣類等への化粧料の色移りや付着が防止される。これに対して、先に背景技術の項で述べた特許文献1及び2に記載の技術は、静電スプレー法によって皮膚の表面に直接にファンデーションの被膜を形成することを開示するのにとどまり、形成されたファンデーションの被膜の保護に関しては何らの手当もなされていない。
【0103】
本発明においては、特に、化粧料適用部位の上に、液状組成物を施して被膜を形成することによって、化粧料の表面を覆い、該化粧料を保護することが好ましい。すなわち、化粧料適用工程の後に、前述の静電スプレー法によって被膜を形成する静電スプレー工程を備えていることが好ましい。更に、化粧料適用部位の全域にわたって被膜を形成することが、皮膚に接触する、衣類等の物体への化粧料の色移りや付着を確実に防止し、皮膚上に化粧料を保持させる観点から好ましい。しかし、場面に応じ、化粧料が施された部位の一部にのみ被膜を形成してもよい。あるいは化粧料適用部位、及び化粧料を施していない部位の双方に跨がるように被膜を形成してもよい。
【0104】
化粧料としては、メイクアップ化粧料、UV化粧料、美容液等の皮膚に好ましい効果を示す外用剤が挙げられる。メイクアップ化粧料としては、ベースメイクアップ化粧料、口唇化粧料、化粧下地、BBクリーム、CCクリーム等が挙げられる。ベースメイクアップ化粧料としては、ファンデーション、コンシーラー及び白粉が挙げられる。ベースメイクアップ化粧料は着色顔料や体質顔料等を含有し、その剤型、例えば液状、ジェル状、乳化物、又は固形であるかは本質的な相違にはならない。
【0105】
化粧料中における粉体の含有量は、その目的に応じて異なるが、静電スプレー法によって形成された被膜と皮膚との密着性の向上の点から、0.1質量%以上が好ましく、100質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。また、本発明において、メイクアップ化粧料、UV化粧料、美容液等の皮膚に好ましい効果を提供する観点から、粉体は着色顔料やパール顔料であることが好ましい。本発明において、着色顔料とは、有色顔料と白色顔料を意味する。着色顔料の平均粒径は、同様の観点から、0.1μm以上のものが好ましく、0.1μmを超えるものがより好ましく、20μm以下のものが好ましく、15μm以下のものがより好ましい。なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910(株式会社堀場製作所製)で測定される個数平均粒径である。
【0106】
ベースメイクアップ化粧料に含有される着色顔料及び体質顔料としては、通常の化粧料に用いられるものであれば制限されない。例えば、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、ベンガラ、クレー、ベントナイト、雲母、チタン被膜雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化鉄、群青、酸化クロム、水酸化クロム、カラミン、カーボンブラック、チッ化ホウ素これらの複合体等の無機粉体;ポリアミド、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ビニル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体、シルクパウダー、セルロース、長鎖アルキルリン酸金属塩、N−モノ長鎖アルキルアシル塩基性アミノ酸、これらの複合体等の有機粉体;及び前記無機粉体と前記有機粉体との複合粉体などが挙げられる。これらの体質顔料や着色顔料は、着色しているか又は非着色(例えば、白色又は本質的に透明)であり、組成物又は皮膚に、着色、光の回折、油分吸収、半透明性、不透明性、光沢、光沢のない外観、すべすべ感などのうちの一つ以上の効果を提供し得る。
【0107】
また、本発明における化粧料に含有される着色顔料及び体質顔料としては、通常の化粧料に用いられるものであれば制限されない。例えば、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、ベンガラ、クレー、ベントナイト、雲母、チタン被膜雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化鉄、群青、酸化クロム、水酸化クロム、カラミン、カーボンブラック、チッ化ホウ素これらの複合体等の無機粉体;ポリアミド、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ビニル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体、シルクパウダー、セルロース、長鎖アルキルリン酸金属塩、N−モノ長鎖アルキルアシル塩基性アミノ酸、これらの複合体等の有機粉体;及び前記無機粉体と前記有機粉体との複合粉体などが挙げられる。これらの体質顔料や着色顔料は、着色しているか又は非着色(例えば、白色又は本質的に透明)であり、組成物又は皮膚に、着色、光の回折、油分吸収、半透明性、不透明性、光沢、光沢のない外観、すべすべ感などのうちの一つ以上の効果を提供し得る。
【0108】
なお、衣服への付着を効果的に防止できる観点から、化粧料として、着色顔料やパール顔料を含有する化粧料が好適であり、かかる着色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、黄酸化鉄、赤酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック、群青、紺青、紺青酸化チタン、黒色酸化チタン、酸化クロム、水酸化クロム、チタン・酸化チタン焼結物等の無機系顔料;赤色201号、赤色202号、赤色226号、黄色401号、青色404号等の有機顔料;赤色104号、赤色230号、黄色4号、黄色5号、青色1号等のレーキ顔料;有機顔料をポリメタクリル酸エステル等の高分子で被覆したものなどが挙げられる。また、パール顔料としては、雲母チタン、ベンガラ被覆雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化鉄被覆雲母チタン、有機顔料被覆雲母チタン、ケイ酸・チタン処理マイカ、酸化チタン被覆タルク、二酸化ケイ素・ベンガラ処理アルミニウム、酸化チタン被覆ガラス末等の無機粉体、薄片状のアルミニウム表面にポリエチレンテレフタレート等の有機樹脂を被覆したもの等が挙げられる。なお、これらの着色顔料、体質顔料、パール顔料としては、汗や皮脂に対する持続性等の観点から、フッ素化合物やシリコーン化合物により表面処理したものを用いることもできる。
【0109】
更に、衣服への付着を効果的に防止できる観点から、化粧料として、着色顔料やパール顔料を含有する化粧料が好適であり、かかる着色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機系白色顔料、黄酸化鉄、赤酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック、群青、紺青、紺青酸化チタン、黒色酸化チタン、酸化クロム、水酸化クロム、チタン・酸化チタン焼結物等の無機系有色顔料;赤色201号、赤色202号、赤色226号、黄色401号、青色404号等の有機顔料;赤色104号、赤色230号、黄色4号、黄色5号、青色1号等のレーキ顔料;有機顔料をポリメタクリル酸エステル等の高分子で被覆したものなどが挙げられる。また、パール顔料としては、雲母チタン、ベンガラ被覆(酸化チタン・水酸化アルミニウム)混合物、ベンガラ被覆雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化鉄被覆雲母チタン、有機顔料被覆雲母チタン、ケイ酸・チタン処理マイカ、酸化チタン被覆タルク、二酸化ケイ素・ベンガラ処理アルミニウム、酸化チタン被覆ガラス末等の無機粉体、薄片状のアルミニウム表面にポリエチレンテレフタレート、酸化チタン・黄酸化鉄・ベンガラ/メタクリル酸ラウリル・ジメタクリル酸EG共重合体混合物等の有機樹脂を被覆したもの等が挙げられる。
【0110】
中でも、着色顔料として、少なくとも酸化チタン、黄酸化鉄、赤酸化鉄、黒酸化鉄を含むことで、メイクアップ効果に優れつつ、衣服への付着性を効果的に防止できる。なお、これらの着色顔料、パール顔料としては、汗や皮脂に対する持続性等の観点から、疎水化処理して用いることもできる。疎水化処理としては、フッ素化合物処理、シリコーン化合物処理、アルキル処理、アルキルシラン処理、金属石鹸処理、水溶性高分子処理、アミノ酸処理、N−アシルアミノ酸処理、レシチン処理、有機チタネート処理、ポリオール処理、アクリル樹脂処理、メタクリ樹脂処理、ウレタン樹脂処理等の表面処理が好ましく、中でも、フッ素化合物やシリコーン化合物により表面処理したものがより好ましい。
【0111】
着色顔料やパール顔料は、1種又は2種以上を用いることができ、衣服への付着を効果的に防止できる観点から、含有量は、全組成中に0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が更に好ましい。また、着色顔料やパール顔料は、全組成中に0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1〜25質量%が更に好ましい。
【0112】
更に、メイクアップ化粧料は、着色顔料や体質顔料等の粉体に加え、25℃において液体の油、あるいは25℃で固体のワックス等を含有してもよい。更にメイクアップ化粧料に、増粘剤、皮膜剤、界面活性剤、糖、多価アルコール、水溶性高分子、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、アミノ酸、有機アミン、pH調整剤、皮膚コンディショニング剤、ビタミン、酸化防止剤、香料、防腐剤等の通常の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。
【0113】
UV化粧料としては、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等の紫外線防御能を有する成分を含有することが好ましい。紫外線吸収剤としては、例えばジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸塩、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノンジスルホン酸塩等のベンゾフェノン誘導体、メトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル等のメトキシ桂皮酸誘導体、から選ばれる1種又は2種以上の有機系紫外線吸収剤が好ましく、メトキシケイ皮酸2−エチルヘキシルがより好ましい。紫外線散乱剤としては、例えば平均粒径が0.1μm以下の微粒子からなる酸化亜鉛、酸化チタン及びシリカ等が挙げられる。なお、本発明における化粧料を皮膚に塗布する前、又はその後に、本発明における化粧料以外の化粧料等を皮膚に施してもよい。
【0114】
本発明においては、上述した化粧料適用工程に代えて、静電スプレーによって皮膚上に被膜を形成する静電スプレー工程の前に、若しくはその後に、又はその前後に、水、20℃で液体のポリオール及び20℃で液体の油から選ばれる1種又は2種以上を含有する前記液状組成物とは異なる液剤を、皮膚又は被膜に施す液剤適用工程を行ってもよい。液剤適用工程を行うことで、静電スプレー工程で形成される被膜が、皮膚になじみやすくなり、該被膜が皮膚に高密着化することが可能となり、透明化することもできる。例えば、被膜の端部と皮膚との間に段差が生じにくくなり、それによって被膜と皮膚との密着性が向上する。その結果、被膜の剥離や破れ等が生じにくくなる。また、メイクアップ化粧料の色彩が隠蔽されにくくなり、より自然な外観、被膜の存在を視認しにくくすることができる。より好ましい態様である、被膜が繊維の堆積物からなる多孔性被膜である場合、高い空隙率であるにもかかわらず皮膚との密着性が高く、また大きな毛管力が発生しやすい。更に、繊維が微細である場合には多孔性被膜を高比表面積化することが容易となる。液剤適用工程は、更に静電スプレーによって液剤を皮膚又は被膜に施すこともできるが、簡便性の観点から、後述するように、人手による塗布等といった静電スプレー以外の方法で液剤を皮膚又は被膜に施すことが好ましい。
【0115】
特に、静電スプレー工程において繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成した後に、液剤適用工程を行うことにより、該多孔性被膜を形成する繊維間、及び/又は繊維表面に該液剤が存在する液剤担持被膜が形成される。これによって、被膜の密着性が向上し、目視における被膜の透明性が維持又は向上する。特に被膜が無色透明あるいは有色透明である場合には、より被膜を視認しにくくなることによって、自然な皮膚のように見せることができる。また、被膜が有色透明である場合には、被膜に透明感が出るため、皮膚の一部のように見せることができる。
【0116】
液剤適用工程において用いられる液剤が水を含む場合、該液剤としては、例えば水、水溶液及び水分散液等の液体、増粘剤で増粘されたジェル状物、極性油、極性油を10質量%以上含有する油剤、極性油を含む乳化物(O/Wエマルジョン、W/Oエマルジョン)などが挙げられる。
【0117】
液剤適用工程において用いられる液剤が20℃で液体のポリオールを含む場合、該ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール等のアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、重量平均分子量が2000以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類等が挙げられる。これらのうち、塗布時の滑らかさなどの使用感の点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、重量平均分子量が2000以下のポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリンが好ましく、更にプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセリンがより好ましく、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオールが一層好ましい。
【0118】
一方、液剤適用工程において用いられる液剤が20℃において液体の油(以下、この油のことを「液体油」ともいう。)を含む場合、該20℃において液体の油としては、例えば流動パラフィン、軽質イソパラフィン、流動イソパラフィン、スクワラン、スクワレン等の直鎖又は分岐の炭化水素油;モノアルコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル等のエステル油;ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン油などが挙げられる。これらのうち、塗布時の滑らかさなどの使用感の点から、炭化水素油と、エステル油、シリコーン油等の極性油が好ましく、炭化水素油、及びエステル油がより好ましい。また、これらから選ばれる液体油を1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
前記炭化水素油としては、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、n−オクタン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、軽質イソパラフィン、流動イソパラフィン等が挙げられ、使用感の観点から流動パラフィン、スクワランが好ましい。また、静電噴霧された被膜を皮膚に密着させる観点から、炭化水素油の30℃における粘度は、好ましくは10mPa・s以上であり、より好ましくは30mPa・s以上である。かかる観点から、30℃において粘度が10mPa・s未満である、イソドデカン、イソヘキサデカン、水添ポリイソブテンの液剤中の合計の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下であり、より更に好ましくは0.5質量%以下であり、含有しなくてもよい。
同様に、静電噴霧された被膜を皮膚に密着させる観点から、エステル油及びシリコーン油の30℃における粘度は、好ましくは10mPa・s以上であり、より好ましくは30mPa・s以上である。
ここでの粘度は、30℃においてBM型粘度計(トキメック社製、測定条件:ローターNo.1、60rpm、1分間)により測定される。
なお、同様の観点から、セチル−1,3−ジメチルブチルエーテル、ジカプリルエーテル、ジラウリルエーテル、ジイソステアリルエーテル等のエーテル油の液剤中の合計の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0120】
また、前記液体油として、20℃において液体の極性油も好ましく用いることができ、その例としてはエステル油、エステル油を含む植物油(トリグリセライド)、分岐脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸の高級アルコール、防腐剤、シリコーン油等が挙げられる。これらの液体油は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
前記エステル油としては、直鎖又は分岐鎖の脂肪酸と、直鎖又は分岐鎖のアルコール又は多価アルコールからなるエステル、トリグリセリン脂肪酸エステル(トリグリセライド)が挙げられる。具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、12−ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジ2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N−アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、セチル2−エチルヘキサノエート、2−エチルヘキシルパルミテート、ナフタレンジカルボン酸ジエチルヘキシル、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、セテアリルイソノナノエート、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、(ジカプリル酸/カプリン酸)ブチレングリコール、トリラウリン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリ2−ヘプチルウンデカン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、トリヤシ油脂肪酸グリセリル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸オレイル、パルミチン酸2−ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−2−オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ2−ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバシン酸ジ2−エチルヘキシル、ミリスチン酸2−ヘキシルデシル、パルミチン酸2−ヘキシルデシル、アジピン酸2−ヘキシルデシル、セバシン酸ジイソプロピル、コハク酸ジ2−エチルヘキシル、クエン酸トリエチル、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0122】
これらの中では、静電噴霧された被膜を皮膚に密着させる観点及び皮膚に塗布した際の感覚に優れる点から、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、セテアリルイソノナノエート、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジ2−エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0123】
トリグリセライドとしては、脂肪酸トリグリセライドが好ましく、例えばオリーブ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、メドフォーム油、ヒマシ油、紅花油、ヒマワリ油、アボカド油、キャノーラ油、キョウニン油、米胚芽油、米糠油などに含まれる。
【0124】
高級アルコールとしては、炭素数12〜20の液状の高級アルコールが挙げられ、具体的にはイソステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0125】
防腐剤としてはフェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸メチル、パラアミノ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、エチルヘキサンジオール等が挙げられる。
【0126】
シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
25℃におけるシリコーン油の動粘度は、静電噴霧された被膜を皮膚に密着させる観点から、3mm
2/sが好ましく、4mm
2/sがより好ましく、5mm
2/s以上が更に好ましく、30mm
2/s以下が好ましく、20mm
2/s以下がより好ましく、10mm
2/s以下が更に好ましい。
これらの中でもでは、静電噴霧された被膜を皮膚に密着させる観点から、ジメチルポリシロキサンを含むことが好ましい。
【0127】
液剤は液体油を含有することが好ましく、該液剤中の液体油の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上である。また、好ましくは100質量%以下である。液剤中における液体油の含有量は、好ましくは0.1質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上100質量%以下である。
【0128】
特に、液剤が極性油を含有する場合、該液剤は、水と極性油を含有することが、被膜の皮膚への密着性を高める観点から好ましく、水と極性油を合計で40質量%以上100質量%以下含有することが好ましい。また安定性の観点から、液剤は、界面活性剤、ポリマー、増粘剤を含有するものであってもよく、皮膚への密着性、被膜への保湿性能を向上する観点から、ワセリン、セタノール、ステアリルアルコール、セラミド等の30℃で固体の油剤を含有するものであってもよい。
同様に、液剤がポリオールを含有する場合、該液剤は、水とポリオールを含有することが、被膜の皮膚への密着性を高める観点から好ましく、水とポリオールを合計で40質量%以上100質量%以下含有することが好ましい。また安定性の観点から、液剤は、界面活性剤、ポリマー、増粘剤を含有するものであってもよく、皮膚への密着性、被膜への保湿性能を向上する観点から、ワセリン、セタノール、ステアリルアルコール、セラミド等の30℃で固体の油剤を含有するものであってもよい。
【0129】
液剤が水、20℃で液体のポリオール及び液体油のうちのいずれを用いる場合であっても、液剤は、25℃において5000mPa・s程度以下の粘性を有することが、静電スプレー法によって形成された被膜と化粧料適用部位との密着性の向上の点から好ましい。液体の粘度の測定方法は、上述したとおりである。
また、液剤中の着色顔料の含有量は、静電スプレー法によって形成された被膜と皮膚との密着性の向上の点から、0.1質量%未満が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が好ましく、0.001質量%以下が好ましい。本発明において、着色顔料とは、透明な顔料を含まないことを意味し、白色の顔料は着色顔料に含まれるものである。
【0130】
水、ポリオール又は液体油を含む液剤を皮膚に施すには種々の方法を用いることができる。例えば、滴下や振りかけ等の方法によって液剤を皮膚に施し、該液剤を塗り広げる工程を備えることにより、皮膚又は被膜になじませることが可能となり、該液剤の薄層を形成することができる。液剤を塗り広げる工程は、例えば使用者本人の指や、アプリケータ等の道具を用いた擦過などの方法を採用することができる。液剤を単に滴下したり振りかけたりしただけでもよいが、塗り広げる工程を備えることにより、皮膚又は被膜になじませることが可能となり、被膜の密着性を十分に向上させることができる。別法として、液剤を皮膚に噴霧して該液剤の薄層を形成することもできる。この場合には、別途の塗り広げは格別必要ないが、噴霧後に塗り広げの操作を行うことは妨げられない。なお、被膜の形成後に液剤を施す場合には、十分な液剤を皮膚に適用し、余分の液剤はシート材を液剤の施した範囲に接触させる工程により、余剰の液剤を除去することができる。
【0131】
液剤を皮膚に施す量は、皮膚と被膜との密着性が向上するのに必要十分な量とすればよい。液剤中に液体油が含まれている場合には、皮膚と被膜との密着性を確実にする観点から、液剤を皮膚に施す量は、液体油の坪量が皮膚1m
2当たり、好ましくは0.1g/m
2以上であり、より好ましくは0.2g/m
2以上となるような量とし、好ましくは40g/m
2以下であり、より好ましくは35g/m
2以下となるような量とする。例えば、液剤を皮膚に施す量は、液体油の坪量が皮膚1m
2当たり、好ましくは0.1g/m
2以上40g/m
2以下、より好ましくは0.2g/m
2以上35g/m
2以下となるような量とする。
また、液剤を皮膚に、又は被膜に施す量は、皮膚と被膜の密着性を向上させる観点、及び透明性を向上させる観点から、好ましくは5g/m
2以上であり、より好ましくは10g/m
2以上であり、更に好ましくは15g/m
2以上であり、好ましくは50g/m
2以下であり、より好ましくは45g/m
2以下である。
更に、前記液剤を皮膚に塗布する前、又はその後に、前記液剤以外の化粧料を皮膚に施してもよい。
【0132】
なお、本発明においては、上述した静電スプレーによって皮膚上に被膜を形成する静電スプレー工程の前に、若しくはその後に、又はその前後に、化粧料適用工程及び液剤適用工程の双方を行ってもよい。この場合、各工程の順序は特に制限されないが、化粧料適用工程の後に静電スプレー工程を備え、更に静電スプレー工程の後に液剤適用工程を備えることが好ましい。この工程の順序で被膜を形成することにより、化粧料適用部位の擦過等による衣類等への化粧料の色移りや付着を効果的に防止し、且つ静電スプレー工程で形成される被膜が、化粧料適用部位になじみやすくなり、該被膜が皮膚に高密着化することが可能となり、透明化することもできる。また、被膜の端部と皮膚との間に段差が生じにくくなり、それによって被膜と皮膚との密着性が向上する。その結果、被膜の剥離や破れ等が生じにくくなる。更に、メイクアップ化粧料の色彩が隠蔽されにくくなり、より自然な外観、被膜の存在を視認しにくくすることができる。
【0133】
以上のとおりの被膜の製造方法は、人体の手術、治療又は診断方法を目的としない各種の美容方法として有用なものである。例えば本発明の被膜の製造方法を、美容の目的で、適用部位における皮膚の美白、皮膚のシミの隠蔽、皮膚のくすみ・くまの隠蔽、皮膚の皺の隠蔽、皮膚のぼかし、紫外線からの皮膚の保護、皮膚の保湿に適用することができる。これ以外に、家庭内で個人的に行う皮膚の保護のための各種の行為、例えば擦過傷、切創、裂創及び刺創等の各種の創傷の保護、褥瘡の防止、などに本発明の被膜の製造方法を適用することもできる。
【0134】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、自己の皮膚に被膜を形成させたい者が静電スプレー装置10を把持し、該装置10の導電性ノズルとその者の皮膚との間に電界を生じさせたが、両者間に電界が生じる限り、自己の皮膚に被膜を形成させたい者が静電スプレー装置10を把持する必要はない。
【0135】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の被膜の製造方法を開示する。
【0136】
<1>
静電スプレー装置を用いて皮膚の表面に液状組成物を直接静電スプレーして、該皮膚上に被膜を形成する静電スプレー工程を具備する被膜の製造方法であって、前記静電スプレー装置が、
前記液状組成物を収容可能な収容部と、
前記液状組成物を吐出するノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電源と、を備え、
前記液状組成物が、以下の成分(a)、成分(b)及び成分(c)を含み、
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質、
(b)被膜形成能を有する水不溶性ポリマー、
(c)0.2質量%以上25質量%以下の水、
前記静電スプレー工程は、前記電源によって前記ノズルに5kV以上50kV以下の電圧を印加して、前記液状組成物を0.4mL/h以上30mL/h以下の流速で吐出して皮膚の表面に静電スプレーする工程であって、前記流速F(mL/h)と電圧P(kV)との比(流速F/電圧P)が0.8以下である、被膜の製造方法。
【0137】
<2>
前記液状組成物の25℃における粘度が5mPa・s以上3000mPa・s以下である、前記<1>に記載の被膜の製造方法。
<3>
前記成分(b)は、部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、オキサゾリン変性シリコーン、ポリ乳酸からなる群より選択された少なくとも1種である、前記<1>又は<2>に記載の被膜の製造方法。
<4>
前記液状組成物における前記成分(b)の配合割合が2質量%以上20質量%以下である、前記<1>ないし<3>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<5>
前記成分(b)と前記成分(c)との含有質量比(b/c)が、0.4以上50以下である、前記<1>ないし<4>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<6>
前記静電スプレー工程において、前記ノズルと皮膚との距離を10mm以上160mm以下とする、前記<1>ないし<5>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【0138】
<7>
前記液状組成物の25℃における導電率が8μS/cm以上260μS/cm以下である、前記<1>ないし<6>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<8>
前記静電スプレー工程において、前記被膜の坪量が皮膚1m
2当たり、0.05g/m
2以上50g/m
2以下である、前記<1>ないし<7>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<9>
前記静電スプレー工程において、皮膚に前記液状組成物を静電スプレーして、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成する、前記<1>ないし<8>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<10>
前記静電スプレー工程と、水、ポリオール及び20℃で液体の油から選ばれる1種又は2種以上を含有する前記液状組成物とは異なる液剤を皮膚に施す液剤適用工程とを具備する、前記<1>ないし<9>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【0139】
<11>
前記静電スプレー工程において繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成し、次いで
前記液剤適用工程において、前記液剤を、前記多孔性被膜上に施し、該多孔性被膜を構成する繊維間及び/又は繊維表面に該液剤が存在する液剤担持被膜を形成する前記<10>に記載の被膜の製造方法。
<12>
前記液剤適用工程において、前記液剤を、前記被膜上に施し、前記被膜の透明性を維持する前記<10>又は<11>に記載の被膜の製造方法。
<13>
粉体を含む化粧料を皮膚の表面に施す化粧料適用工程を更に具備し、該化粧料適用工程の後に前記静電スプレー工程を備える、前記<1>ないし<12>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<14>
前記静電スプレー装置は、前記収容部と、前記ノズルと、前記電源とを収容する片手で把持可能な筐体を更に備える、前記<1>ないし<13>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【0140】
<15>
前記静電スプレー装置は、カートリッジ部と本体部とを備えており、
前記カートリッジ部は、前記収容部と、前記収容部の内面に沿って摺動可能なガスケットと、前記収容部から前記液状組成物を吐出するノズルと、を備え、
前記本体部は、前記液状組成物を吐出させる動力源と、前記動力源の動力を前記カートリッジ部に伝達する動力伝達部と、を備え、
前記動力伝達部は、前記動力源と前記カートリッジ部とを電気的に絶縁しており、
前記カートリッジ部は、前記本体部から着脱可能である、前記<1>ないし<14>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<16>
前記静電スプレー装置は、カートリッジ部と、本体部と、を備えており、
前記カートリッジ部は、前記液状組成物を収容可能且つ内圧に応じて変形可能な収容部と、前記ノズルと、該収容部に収容されている前記液状組成物を該ノズルに供給するポンプ部と、を備え、
前記本体部は、前記ポンプ部を駆動させることで前記液状組成物を吐出させる動力源と、該動力源の動力を前記ポンプ部に伝達する動力伝達部と、を備え、
前記動力伝達部は、前記動力源と前記カートリッジ部とを電気的に絶縁しており、
前記カートリッジ部は、前記本体部から着脱可能である、前記<1>ないし<14>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<17>
前記収容部は、前記カートリッジ部から着脱可能である、前記<16>に記載の被膜の製造方法。
【0141】
<18>
前記収容部の容積が1mL以上20mL以下である、前記<15>ないし<17>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<19>
前記ノズルの微小空間の横断面の大きさが、100μm以上1400μm以下である、前記<1>ないし<18>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<20>
前記ノズルの流路長さが、1mm以上25mm以下である、前記<1>ないし<19>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<21>
前記静電スプレー工程は、前記電圧P(kV)に対する前記流速F(mL/h)の比(流速F/電圧P)が0.06以上0.6以下となるように、前記電源によって前記ノズルに9kV以上30kV以下の電圧を印加して、前記液状組成物を0.4mL/h以上12mL/h以下の流速で吐出して皮膚の表面に静電スプレーする工程である、前記<1>ないし<20>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<22>
前記静電スプレー工程は、前記電圧P(kV)と前記流速F(mL/h)との関係が、(1≦F≦0.3P+2.5)となるように、前記電源によって前記ノズルに9kV以上30kV以下の電圧を印加して、前記液状組成物を吐出して皮膚の表面に静電スプレーする工程である前記<1>ないし<20>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【0142】
<23>
静電スプレー装置を用いて皮膚の表面に液状組成物を直接静電スプレーして、該皮膚上に被膜を形成する静電スプレー工程を具備する被膜の製造方法であって、
前記静電スプレー装置は、カートリッジ部と本体部とを備えており、
前記カートリッジ部は、前記液状組成物を収容可能な収容部と、前記収容部の内面に沿って摺動可能なガスケットと、前記収容部から前記液状組成物を吐出するノズルと、を備え、
前記本体部は、前記液状組成物を吐出させる動力源と、前記動力源の動力を前記カートリッジ部に伝達する動力伝達部と、を備え、
前記動力伝達部は、前記動力源と前記カートリッジ部とを電気的に絶縁しており、
前記液状組成物が、以下の成分(a)及び成分(b)を含む、被膜の製造方法。
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質。
(b)被膜形成能を有するポリマー。
【0143】
<24>
前記液状組成物が、更に成分(c)として水を含み、
成分(b)と成分(c)との含有質量比(b/c)が、0.4以上140以下である、前記<23>に記載の被膜の製造方法。
<25>
前記カートリッジ部は、前記本体部から着脱可能である、前記<23>又は<24>に記載の被膜の製造方法。
<26>
前記静電スプレー工程において、皮膚に前記液状組成物を静電スプレーして、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成する、前記<23>ないし<25>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<27>
前記静電スプレー工程と、水、ポリオール及び20℃で液体の油から選ばれる1種又は2種以上を含有する前記液状組成物とは異なる液剤を皮膚に施す液剤適用工程とを具備する、前記<23>ないし<26>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【0144】
<28>
前記静電スプレー工程において繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成し、次いで
前記液剤適用工程において、前記液剤を、前記多孔性被膜上に施し、該多孔性被膜を構成する繊維間及び/又は繊維表面に該液剤が存在する液剤担持被膜を形成する前記<27>に記載の被膜の製造方法。
<29>
前記液剤適用工程において、前記液剤を、前記被膜上に施し、前記被膜の透明性を維持する前記<27>又は<28>に記載の被膜の製造方法。
<30>
粉体を含む化粧料を皮膚の表面に施す化粧料適用工程を更に具備し、該化粧料適用工程の後に前記静電スプレー工程を備える、前記<23>ないし<29>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<31>
前記静電スプレー装置は、前記カートリッジ部と前記本体部とを収容する片手で把持可能な筐体を更に備える、前記<23>ないし<30>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【0145】
<32>
静電スプレー装置を用いて皮膚の表面に液状組成物を直接静電スプレーして、該皮膚上に被膜を形成する静電スプレー工程を具備する被膜の製造方法であって、
前記静電スプレー装置は、カートリッジ部と本体部とを備えており、
前記カートリッジ部は、前記液状組成物を収容可能且つ内圧に応じて変形可能な収容部と、前記液状組成物を吐出するノズルと、該収容部に収容されている前記液状組成物を該ノズルに供給するポンプ部と、を備え、
前記本体部は、前記ポンプ部を駆動させることで前記液状組成物を吐出させる動力源と、該動力源の動力を前記ポンプ部に伝達する動力伝達部と、を備え、
前記動力伝達部は、前記動力源と前記カートリッジ部とを電気的に絶縁しており、
前記液状組成物が、以下の成分(a)及び成分(b)を含む、被膜の製造方法。
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質。
(b)被膜形成能を有するポリマー。
【0146】
<33>
前記液状組成物が、更に成分(c)として水を含み、
成分(b)と成分(c)との含有質量比(b/c)が、0.4以上50以下である、前記<32>に記載の被膜の製造方法。
<34>
前記カートリッジ部は、前記本体部から着脱可能である、前記<32>又は<33>に記載の被膜の製造方法。
<35>
前記収容部は、前記カートリッジ部から着脱可能である、前記<32>ないし<34>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<36>
前記静電スプレー工程において、皮膚に前記液状組成物を静電スプレーして、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成する、前記<32>ないし<35>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<37>
前記静電スプレー工程と、水、ポリオール及び20℃で液体の油から選ばれる1種又は2種以上を含有する液剤を皮膚に施す液剤適用工程とを具備する、前記<32>ないし<36>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【0147】
<38>
前記静電スプレー工程において繊維の堆積物からなる多孔性被膜を形成し、次いで
前記液剤適用工程において、前記液剤を、前記多孔性被膜上に施し、該多孔性被膜を構成する繊維間及び/又は繊維表面に該液剤が存在する液剤担持被膜を形成する前記<37>に記載の被膜の製造方法。
<39>
前記液剤適用工程において、前記液剤を、前記被膜上に施し、前記被膜の透明性を維持する前記<37>又は<38>に記載の被膜の製造方法。
<40>
粉体を含む化粧料を皮膚の表面に施す化粧料適用工程を更に具備し、該化粧料適用工程の後に前記静電スプレー工程を備える、前記<32>ないし<39>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
<41>
前記静電スプレー装置は、前記カートリッジ部と、前記本体部とを収容する片手で把持可能な筐体を更に備える、前記<32>ないし<40>のいずれか一に記載の被膜の製造方法。
【実施例】
【0148】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」は「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0149】
〔実施例1−1〕
(1)液状組成物の調製
液状組成物の成分(a)として99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製)を、成分(b)としてポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製、S−LEC B BM−1)を、成分(c)としてイオン交換水を用いた。各成分の配合割合は、表1のとおりとした。これらの成分を、常温にて12時間程度プロペラミキサーを用いて撹拌し、均一透明な混合溶液を得た。これを液状組成物とした。
(2)静電スプレー工程
図1に示す構成を有し、
図7に示す外観を有する静電スプレー装置10を用いて、50mm×50mmに切り出した皮膚モデル(人工皮革、プロテインレザー PBZ13001BK、出光テクノファイン社製。)に向けて静電スプレー法を20秒間行った。静電スプレー法の条件は以下に示すとおりとした。
・印加電圧:30kV
・ノズルと皮膚モデルとの距離:100mm
・液状組成物の吐出速度(流速):4mL/h
・ノズルの直径:0.3mm
・環境:25℃、40%RH
【0150】
〔実施例1−2及び1−3〕
以下の表1に示す条件を採用した以外は実施例1−1と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。
【0151】
〔実施例1−4〕
成分(a)ないし(c)、及び成分(d)としてジステアリルジモニウムクロリドを以下の表1に示す条件で配合した。印加電圧を10kVとし、吐出流速を5mL/hとした以外は実施例1−1と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。
【0152】
〔実施例1−5〕
成分(b)としてポリビニルブチラール及びアクリル酸系ポリマーを使用し、成分(a)ないし(c)を以下の表1に示す条件で配合した。吐出流速を3mL/hとした以外は、実施例1−1と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。
【0153】
〔比較例1−1〕
以下の表1に示す条件を採用し、吐出流速を0.05mL/hとした以外は実施例1−1と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。
【0154】
〔比較例1−2〕
以下の表1に示す条件を採用し、印加電圧を3kVとした以外は実施例1−1と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。
【0155】
〔被膜の形成性評価〕
図1に示した静電スプレー装置10に、表1の割合で調製した液状組成物を充填し、皮膚モデルに静電スプレーを20秒間行った。下記の基準で被膜の形成性を目視で判断した。その結果を表1に示す。
○:被膜が1分間以上安定的に形成される。
×:紡糸が安定的に行われず、被膜が形成されない、又は被膜にムラがある。
【0156】
【表1】
【0157】
表1に示す結果から明らかなとおり、本発明に用いられる静電スプレー装置によって被膜が安定的に形成できることが判る。また各実施例の被膜は、皮膚モデルとの密着性が高い被膜が形成されていることが判る。
【0158】
〔実施例1−6ないし1−9〕及び〔比較例1−3〕
実施例2と同様の割合で成分(a)、(b)及び(c)を混合し、液状組成物を得た。得られた液状組成物を、
図2に示す構成を有し、
図7に示す外観を有する静電スプレー装置10を用いて、50mm×50mmに切り出した皮膚モデル(人工皮革、プロテインレザー PBZ13001BK、出光テクノファイン社製。)に向けて静電スプレー法を30秒間行った。静電スプレー法の条件は、ノズルの直径を0.3mm、静電スプレーの環境を23.5℃、30%RHとしたほかは、表2に示すとおりとした。
【0159】
〔実施例1−10及び1−11〕
成分(b)としてポリウレタン樹脂(Covestro Deutschland AG製、Baycusan C2000)を用い、以下の表2に示す条件及びスプレー条件を採用した以外は実施例1−6と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。静電スプレー法の条件は以下のとおりとした。
・印加電圧:30kV
・ノズルと皮膚モデルとの距離:100mm
・液状組成物の吐出速度(流速):5mL/h
・ノズルの直径:0.3mm
・環境:25℃、70%RH
【0160】
〔被膜の形成性評価〕
図2に示した静電スプレー装置10に、表2の割合で調製した液状組成物を充填し、皮膚モデルに静電スプレーを30秒間行った。下記の基準で被膜の形成性を目視で判断した。その結果を表2に示す。
○ :皮膚モデルに被膜が良好に形成される。
××:液状組成物の液滴が吐出され、被膜にムラがある。
【0161】
【表2】
【0162】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例の被膜は
図1に示す静電スプレー装置によって被膜が安定的に形成できることが判る。実施例1−6〜1−9の被膜は、比較例1−3の被膜と比較して、皮膚モデルとの密着性が高い被膜が形成されていることが判る。
【0163】
〔実施例2−1〕
(1)液状組成物の調製
液状組成物の成分(a)として99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製)を、成分(b)としてポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製、S−LEC B BM−1)を、成分(c)としてイオン交換水を用いた。各成分の配合割合は、成分(a)を79.5%とし、成分(b)を14%とし、成分(c)を0.5%とした。これらの成分を、常温にて12時間程度プロペラミキサーを用いて撹拌し、均一透明な混合溶液を得た。これを液状組成物とした。
(2)静電スプレー工程
図2及び
図3に示す構成を有し、
図7に示す外観を有する静電スプレー装置10を用いて、50mm×50mmに切り出した皮膚モデル(人工皮革、プロテインレザー PBZ13001BK、出光テクノファイン社製。)に向けて静電スプレー法を20秒間行った。
図2及び
図3に示す静電スプレー装置10の本体部10Bにおけるネジシャフト171及び送りネジ172には、プラスチック製の非導電性部材を使用した。静電スプレー法の条件は以下に示すとおりとした。
・印加電圧:10kV
・ノズルと皮膚モデルとの距離:100mm
・液状組成物の吐出速度:5mL/h
・ノズルの直径:0.3mm
・環境:25℃、40%RH
【0164】
〔実施例2−2ないし2−6〕
以下の表3に示す条件を採用した以外は実施例2−1と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。
【0165】
〔絶縁性評価〕
ノズル15の先端まで実施例又は比較例の液状組成物を装填した状態で、ノズル15に10kVの電圧を印加し、漏えい電流を測定することで行った。その結果を表3に示す。評価基準は以下のとおりとした。
○:漏えい電流が0.1mA以下であった。
×:漏えい電流が0.1mA超であった。
【0166】
〔紡糸性評価〕
図2に示した静電スプレー装置10に、表3の割合で調製した液状組成物を充填し、静電スプレーを行った。下記の基準で紡糸性を目視で判断した。その結果を表3に示す。
○:被膜が、1分間以上安定的に形成される。
×:紡糸が安定的に行われず、被膜が形成されない。
【0167】
〔密着性評価〕
実施例及び比較例で形成された被膜について、皮膚モデルとの密着性を評価した。密着性評価は、皮膚モデルと垂直な方向から被膜に指で触れて微細振動荷重を与え、また皮膚モデルと平行な方向に指を往復させて被膜に剪断力を加え、その後の被膜の状態を目視観察することで行った。その結果を表3に示す。評価基準は以下のとおりとした。
1:指で垂直方向に微細振動荷重を与えると被膜がほぼすべて剥離する。
2:指で垂直方向に微細振動荷重を与えると被膜を形成する繊維が一部剥離する。
3:垂直方向は剥離しないが、平行方向に剪断力を与えると被膜がほぼすべて剥離する。
4:垂直方向は剥離しないが、指で平行方向に剪断力を与えると被膜又は繊維が一部剥離する。
5:垂直方向に剥離せず、且つ平行方向に剪断力を与えても、被膜又は繊維が剥離しない。
【0168】
【表3】
【0169】
表3に示す結果から明らかなとおり、
図2及び
図3に示す構造を有する本発明の静電スプレー装置は絶縁性が高く、且つ安定的に紡糸できることが判る。実施例の被膜は、皮膚モデルとの密着性が高い被膜が形成されていることが判る。
【0170】
〔実施例3−1〕
(1)液状組成物の調製
液状組成物の成分(a)として99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製)を、成分(b)としてポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製、S−LEC B BM−1)を、成分(c)としてイオン交換水を用いた。各成分の配合割合は、成分(a)を79.5%とし、成分(b)を14%とし、成分(c)を0.5%とした。これらの成分を、常温にて12時間程度プロペラミキサーを用いて撹拌し、均一透明な混合溶液を得た。これを液状組成物とした。
(2)静電スプレー工程
図5及び
図6に示す構成を有し、
図7に示す外観を有する静電スプレー装置10を用いて、50mm×50mmに切り出した皮膚モデル(人工皮革、プロテインレザー PBZ13001BK、出光テクノファイン社製。)に向けて静電スプレー法を20秒間行った。動力伝達部18には、プラスチック製の非導電性部材を使用した。静電スプレー法の条件は以下に示すとおりとした。
・印加電圧:10kV
・ノズルと皮膚モデルとの距離:100mm
・液状組成物の吐出速度:5mL/h
・ノズルの直径:0.3mm
・環境:25℃、40%RH
【0171】
〔実施例3−2ないし3−6〕
以下の表1に示す条件を採用した以外は実施例3−1と同様にして、静電スプレー工程を行い、繊維の堆積物からなる多孔性被膜を得た。
【0172】
〔絶縁性評価〕
ノズル15の先端まで実施例又は比較例の液状組成物を装填した状態で、ノズル15に10kVの電圧を印加し、漏えい電流を測定することで行った。その結果を表4に示す。評価基準は以下のとおりとした。
○:漏えい電流が0.1mA以下であった。
×:漏えい電流が0.1mA超であった。
【0173】
〔紡糸性評価〕
図1に示した静電スプレー装置10に、表1の比率で調製した液状組成物を充填し、静電スプレーを行った。下記の基準で紡糸性を目視で判断した。その結果を表4に示す。
○:被膜が、1分間以上安定的に形成される。
×:紡糸が安定的に行われず、被膜が形成されない。
【0174】
〔密着性評価〕
実施例及び比較例で形成された被膜について、皮膚モデルとの密着性を評価した。密着性評価は、皮膚モデルと垂直な方向から被膜に指で触れて微細振動荷重を与え、また皮膚モデルと平行な方向に指を往復させて被膜に剪断力を加え、その後の被膜の状態を目視観察することで行った。その結果を表4に示す。評価基準は以下のとおりとした。
1:指で垂直方向に微細振動荷重を与えると被膜がほぼすべて剥離する。
2:指で垂直方向に微細振動荷重を与えると被膜を形成する繊維が一部剥離する。
3:垂直方向は剥離しないが、平行方向に剪断力を与えると被膜がほぼすべて剥離する。
4:垂直方向は剥離しないが、指で平行方向に剪断力を与えると被膜又は繊維が一部剥離する。
5:垂直方向に剥離せず、且つ平行方向に剪断力を与えても、被膜又は繊維が剥離しない。
【0175】
【表4】
【0176】
表4に示す結果から明らかなとおり、
図5及び
図6に示す構造を有する本発明の静電スプレー装置は絶縁性が高く、且つ安定的に紡糸できることが判る。実施例の被膜は、皮膚モデルとの密着性が高い被膜が形成されていることが判る。
【0177】
〔実施例4−1ないし4−9〕
実施例4−1ないし4−9の液状組成物は、成分(a)、(b)、(c)、(d)及び他の成分を表5に示す割合で配合した他は、実施例2−1と同様の方法で調製した。配合割合を以下の表5に示す。静電スプレー法は以下の条件で行ったほかは、実施例2−1と同様に行った。
静電スプレー法の条件は以下に示すとおりとした。
・印加電圧:10kV
・ノズルと皮膚モデルとの距離:80mm
・液状組成物の吐出速度:5mL/h
・環境:30℃、70%RH
【0178】
〔粘度評価〕
表5に示す組成で製造した実施例4−1ないし4−9の液状組成物を、25℃で24時間保存した後に、E型粘度計を用いて25℃で粘度を測定した。E型粘度計としては東京計器株式会社製のE型粘度計(VISCONIC EMD)を用い、ロータNo.43、回転数は20rpmで測定した。但し、粘度が150mPa・s以上である場合は、回転数10rpmで測定した。測定結果を表5に示す。
【0179】
〔導電率評価〕
表5に示す組成で製造した実施例4−1ないし4−9の液状組成物を、25℃で24時間保存した後に、インピーダンス測定装置(SI1260、ソーラトロン社製)を用いて、測定端子(SH―Z)、25℃、φ10mm、距離1mmの条件で導電率を測定した。測定結果を表5に示す。
【0180】
〔噴霧性評価〕
静電スプレー装置を用いて、液状組成物の噴霧性の評価を行った。測定結果を表5に示す。
A:紡糸が安定しており、被膜の形成が良好。
B:紡糸の際に繊維がややふわつく。被膜の形成は可能。
C:紡糸の際に繊維がふわつく。被膜の形成はなんとか可能。
D:紡糸の際に繊維が周囲に飛散するほどふわつく。被膜の形成が困難。
【0181】
【表5】
【0182】
表5に示すように、実施例4−1ないし4−9の液状組成物は、参考例10ないし12の液状組成物と比較して、湿度が70%RHの環境においても被膜を形成することが可能であった。特に実施例4−2ないし4−9の液状組成物は良好に噴霧でき、被膜形成が可能であることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明によれば、静電スプレー装置の使用時における絶縁性を担保しつつ、湿度などの周囲の環境変化に依存せず、品質が安定した被膜を皮膚上へ製造することができる。