(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流路は、第1温度に維持される第1温度領域と、前記第1温度よりも高い第2温度に維持される第2温度領域と、前記第1温度領域と前記第2温度領域とを接続する接続領域とを備え、
前記第1蛍光検出装置によって検出された蛍光信号に基づいて、前記流路内における試料の移動が制御され、
前記第1蛍光検出領域は、前記接続領域の略中間点に設定されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の反応処理装置。
第3励起光を前記流路に設定された第3蛍光検出領域中の試料に照射するとともに、前記第3励起光の照射により試料から生じた第3蛍光を検出する第3蛍光検出装置をさらに備え、
前記第3蛍光検出装置は、前記第3励起光として赤色光を照射し、且つ前記第3蛍光として赤外光を検出することを特徴とする請求項8に記載の反応処理装置。
前記第1蛍光検出装置の第1光学ヘッドが中央に配置され、前記第2蛍光検出装置の第2光学ヘッドおよび前記第3蛍光検出装置の第3光学ヘッドが前記第1光学ヘッドの両側に配置されることを特徴とする請求項10に記載の反応処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る反応処理装置について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理装置で使用可能な反応処理容器10を説明するための図である。
図1(a)は、反応処理容器10の平面図であり、
図1(b)は、反応処理容器10の正面図である。
【0026】
図1(a)および
図1(b)に示すように、反応処理容器10は、基板14と、流路封止フィルム16とから成る。
【0027】
基板14は、温度変化に対して安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン(Si)等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリプロピレン、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィン
ポリマーが好適である。基板14の寸法の一例は、長辺75mm、短辺25mm、厚み4mmである。
【0028】
基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されており、この流路12は、流路封止フィルム16により封止されている。基板14の下面14aに形成される流路12の寸法の一例は、幅0.7mm、深さ0.7mmである。基板14における流路12の一端の位置には、外部と連通する第1連通口17が形成されている。基板14における流路12の他端の位置には、第2連通口18が形成されている。流路12の両端に形成された一対の第1連通口17および第2連通口18は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。このような基板は射出成形やNC加工機などによる切削加工によって作製することができる。
【0029】
図1(b)に示すように、基板14の下面14a上には、流路封止フィルム16が貼られている。実施形態に係る反応処理容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を封止して流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。
【0030】
流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性や接着性を備えていてもよいし、押圧や紫外線などのエネルギー照射、加熱等により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィン
ポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、反応処理容器10の反りや変形防止に役立つ。
【0031】
流路12は、後述する反応処理装置により複数水準の温度の制御が可能な反応領域を備える。複数水準の温度が維持された反応領域を連続的に往復するように試料を移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる。
【0032】
図1(a)および
図1(b)に示す流路12の反応領域は、曲線部と直線部とを組み合わせた連続的に折り返す蛇行状の流路を含んでいる。後述の反応処理装置に反応処理容器10が搭載された際に、流路12の紙面右側が比較的高温(約95℃)の領域(以下、「高温領域」と称する)となり、流路12の左側がそれより低温(約60℃)の領域(以下、「低温領域」と称する)となることが予定されている。また流路12の反応領域は、高温領域と低温領域の間に両者を接続する接続領域を含む。この接続領域は、直線状の流路であってよい。
【0033】
本実施形態のように高温領域および低温領域を蛇行状の流路とした場合、後述の温度制御手段を構成するヒータ等の実効面積を有効に使うことができ、反応領域内での温度のばらつきを低減することが容易であるとともに、反応処理容器の実体的な大きさを小さくでき、反応処理装置を小さくできるという利点がある。
【0034】
サーマルサイクルに供される試料は、第1連通口17および第2連通口18のいずれか一方から流路12に導入される。導入の方法はこれらに限られないが、例えばピペットやスポイト、シリンジ等で該連通口から適量の試料を直接導入してもよい。あるいは、多孔質のPTFEやポリエチレンからなるフィルタが内蔵してあるコーン形状のニードルチップを介してコンタミネーションを防止しながらの導入方法であってもよい。このようなニードルチップは一般的に数多くの種類のものが販売され容易に入手でき、ピペットやスポイト、シリンジ等の先端に取り付けて使用することが可能である。さらにピペットやスポイト、シリンジ等による試料の吐出、導入後、さらに加圧して推すことにより流路の所定の場所まで試料を移動させてもよい。
【0035】
試料としては、例えば、一または二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として蛍光色素、耐熱性酵素および4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。さらに反応処理対象のDNAに特異的に反応するプライマー、さらに、場合によってはTaqMan等の蛍光プローブを混合する(TaqMan/タックマンはロシュ ダイアグノスティックスゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの登録商標)。市販されているリアルタイムPCR用試薬キット等も使用することができる。
【0036】
図2は、本発明の実施形態に係る反応処理装置30を説明するための模式図である。
【0037】
本実施形態に係る反応処理装置30は、反応処理容器10が載置される反応処理容器載置部(図示せず)と、温度制御システム32と、CPU36とを備える。温度制御システム32は、
図2に示すように、反応処理容器載置部に載置される反応処理容器10に対して、反応処理容器10の流路12における紙面右側の領域を約95℃(高温領域)、紙面左側の領域を約60℃(低温領域)に精度よく維持、制御できるように構成されている。
【0038】
温度制御システム32は、反応領域の各温度領域の温度を維持するものであって、具体的には、流路12の高温領域を加熱するための高温用ヒータ60と、流路12の低温領域を加熱するための低温用ヒータ62と、各温度領域の実温度を計測するための例えば熱電対等の温度センサ(図示せず)と、高温用ヒータ60の温度を制御する高温用ヒータドライバ33と、低温用ヒータ62の温度を制御する低温用ヒータドライバ35とを備える。温度センサによって計測された実温度情報は、CPU36に送られる。CPU36は、各温度領域の実温度情報に基づいて、各ヒータの温度が所定の温度となるよう各ヒータドライバを制御する。各ヒータは例えば抵抗加熱素子やペルチェ素子等であってよい。温度制御システム32はさらに、各温度領域の温度制御性を向上させるための他の要素部品を備えてもよい。
【0039】
本実施形態に係る反応処理装置30は、さらに、反応処理容器10の流路12内に導入された試料20を流路12内で移動させるための送液システム37を備える。送液システム37は、第1ポンプ39と、第2ポンプ40と、第1ポンプ39を駆動するための第1ポンプドライバ41と、第2ポンプ40を駆動するための第2ポンプドライバ42と、第1チューブ43と、第2チューブ44とを備える。
【0040】
反応処理容器10の第1連通口17には、第1チューブ43の一端が接続される。第1連通口17と第1チューブ43の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン45やシールが配置されることが好ましい。第1チューブ43の他端は、第1ポンプ39の出力に接続される。同様に、反応処理容器10の第2連通口18には、第2チューブ44の一端が接続される。第2連通口18と第2チューブ44の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン46やシールが配置されることが好ましい。第2チューブ44の他端は、第2ポンプ40の出力に接続される。
【0041】
第1ポンプ39、第2ポンプ40は、例えばダイアフラムポンプからなるマイクロブロアポンプであってよい。第1ポンプ39、第2ポンプ40としては、例えば株式会社村田製作所製のマイクロブロアポンプ(型式MZB1001T02)などを使用することができる。このマイクロブロアポンプは、動作時に一次側より二次側の圧力を高めることができるが、停止した瞬間または停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる。
【0042】
CPU36は、第1ポンプドライバ41、第2ポンプドライバ42を介して、第1ポンプ39、第2ポンプ40からの送風や加圧を制御する。第1ポンプ39、第2ポンプ40からの送風や加圧は、第1連通口17、第2連通口18を通じて流路内の試料20に作用し、推進力となって試料20を移動させる。より詳細には、第1ポンプ39、第2ポンプ40を交互に動作させることにより、試料20のいずれかの端面にかかる圧力が他端にかかる圧力より大きくなるため、試料20の移動に係る推進力が得られる。第1ポンプ39、第2ポンプ40を交互に動作させることによって、試料20を流路内で往復式に移動させて、反応処理容器10の流路12の各温度領域を通過させることができ、その結果、試料20にサーマルサイクルを与えることが可能となる。より具体的には、高温領域において変性、低温領域においてアニーリング・伸長の各工程を繰り返し与えることにより、試料20中の目的のDNAを選択的に増幅させる。言い換えれば高温領域は変性温度域、低温領域はアニーリング・伸長温度域とみなすことができる。また各温度領域に滞留する時間は、試料20が各温度領域の所定の位置で停止する時間を変えることによって適宜設定することができる。
【0043】
本実施形態に係る反応処理装置30は、さらに、第1蛍光検出装置50および第2蛍光検出装置54を備える。上述したように、試料20には所定の蛍光色素が添加されている。DNAの増幅が進むにつれ試料20から発せられる蛍光信号の強度が増加するので、その蛍光信号の強度値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。
【0044】
第1蛍光検出装置50および第2蛍光検出装置54としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明るい場所か暗い場所かにもかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE−510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料20の発する蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能であり、さらに光ファイバ型蛍光検出器によってもたらされる光線の径の小ささから、流路などの小さいまたは細い領域に存在する試料からの蛍光を検出するのに適している。
【0045】
第1蛍光検出装置50は、第1光学ヘッド51と、第1蛍光検出用励起光源/検出器モジュール52と、第1光学ヘッド51と第1蛍光検出用励起光源/検出器モジュール52とを接続する光ファイバF12とを備える。同様に、第2蛍光検出装置54は、第2光学ヘッド55と、第2蛍光検出用励起光源/検出器モジュール56と、第2光学ヘッド55と第2蛍光検出用励起光源/検出器モジュール56とを接続する光ファイバF22とを備える。
【0046】
第1蛍光検出用励起光源/検出器モジュール52、第2蛍光検出用励起光源/検出器モジュール56にはそれぞれ、励起光用光源、波長合分波器、蛍光検出器、これらを制御するためのドライバ等が含まれている。第1光学ヘッド51、第2光学ヘッド55はそれぞれ、レンズ等の光学系からなり、励起光の試料への指向性照射と試料から発せられる蛍光の集光の機能を担う。第1光学ヘッド51、第2光学ヘッド55で集光された蛍光はそれぞれ、光ファイバF12、F22を通じて第1蛍光検出用励起光源/検出器モジュール52、第2蛍光検出用励起光源/検出器モジュール56内の波長合分波器により励起光と分けられ、蛍光検出器によって電気信号に変換される。蛍光検出装置の構成の詳細については後述する。
【0047】
本実施形態に係る反応処理装置30においては、高温領域と低温領域とを接続する接続領域内の一部の領域12a(「第1蛍光検出領域12a」と称する)を通過する試料20から蛍光を検出することができるように第1光学ヘッド51が配置される。また、接続領域内の別の一部の領域12b(「第2蛍光検出領域12b」と称する)を通過する試料20から蛍光を検出することができるように第2光学ヘッド55が配置される。試料20は流路内を繰り返し往復移動させられることで反応が進み、試料20に含まれる所定のDNAが増幅するので、検出された蛍光の量の変動をモニタリングすることで、DNAの増幅の進度をリアルタイムで知ることができる。
【0048】
図3は、蛍光検出装置の構成を説明するための図である。
図3では、第1蛍光検出装置50の構成を説明するが、第2蛍光検出装置54もバンドパスフィルタの中心波長が異なる点を除き、同じ構成である。
【0049】
図3に示すように、第1蛍光検出装置50は、第1光学ヘッド51と、第1蛍光検出用励起光源/検出器モジュール52と、第1光学ヘッド51と第1蛍光検出用励起光源/検出器モジュール52とを接続する光ファイバF12とを備える。第1蛍光検出用励起光源/検出器モジュール52は、第1励起光源64と、第1波長合分波器65と、第1蛍光検出器66とを備え、これらの機能性要素は光ファイバで接続されており、励起光および蛍光は光ファイバ内を伝搬する。
【0050】
第1励起光源64の近傍には、第1励起光源64から出射された励起光が透過するようにバンドパスフィルタA1が配置される。第1波長合分波器65は、バンドパスフィルタB1を有している。第1蛍光検出器66の近傍には、第1蛍光検出器66に入射する蛍光が透過するようにバンドパスフィルタC1が配置される。これらのバンドパスフィルタの波長特性は、例えばFAMなどの蛍光色素の励起/蛍光に関わる波長特性に応じて設計される。それぞれのバンドパスフィルタは、特定の波長の範囲の光を高い効率で透過(例えば透過率75%以上)させ、それ以外の波長の光を高い効率で反射させる(例えば反射率が75%以上;望ましくは85%以上)分光機能を有する。
【0051】
本実施形態において第1蛍光検出装置50は、FAMを蛍光色素として含有する試料からの蛍光を検出可能に構成される。
【0052】
第1励起光源64は、後に目的の波長の光を分光することができる光源であれば特に限定されず、例えばLDやLED、白色光源などを用いることができる。第1励起光源64から出射した励起光は、バンドパスフィルタA1によって分光され、中心波長を約470nmとする所定の範囲の波長の光(以下「励起光OE1」と称する)のみが光ファイバF11内を伝搬する。
【0053】
励起光OE1は、第1波長合分波器65に入射し、レンズL1によってコリメートされたのちにバンドパスフィルタB1に到達する。バンドパスフィルタB1は励起光OE1を反射するように設計されているので、励起光OE1はレンズL1によって再び集光され、光ファイバF12に入射する。励起光OE1は光ファイバF12内を伝搬し、第1光学ヘッド51に到達する。第1光学ヘッド51内には対物レンズOB1が備えられており、励起光OE1は所定の作動距離で試料20に励起光として照射される。
【0054】
励起光OE1が試料20に照射されると、試料20内の蛍光色素が励起され、試料20から蛍光OF1が出射される。蛍光OF1は第1光学ヘッド51の対物レンズOB1によって集光され、光ファイバF12に入射し、光ファイバF12内を伝搬する。蛍光OF1は、第1波長合分波器65に入射し、レンズL1によってコリメートされたのちにバンドパスフィルタB1に到達する。
【0055】
一般的に、励起光の照射により生じる蛍光の波長は、励起光の波長よりも長くなる。すなわち、励起光の中心波長をλeとし、蛍光の中心波長をλfとすると、λe<λfである。そこで、蛍光OF1のみを第1蛍光検出器66に導くために、バンドパスフィルタB1として、波長λeの光を反射し、波長λfの光を透過させるようなスペクトル特性を有するものを用いる。バンドパスフィルタB1は、蛍光OF1のうち励起光OE1の波長と重ならない範囲の波長の光を透過するように設計されている。バンドパスフィルタB1を通過した蛍光OF1は、レンズL2によって集光され光ファイバF13に入射する。また、バンドパスフィルタB1は、励起光を反射し蛍光を透過させる機能を有するので、それらの中心波長に対応して、λeを含む波長範囲の光を反射しλfを含む波長範囲の光を透過させることのできるエッジフィルタをバンドパスフィルタの代わりに使用することができる。
【0056】
光ファイバF13内を伝搬した蛍光OF1は、第1蛍光検出器66に到達する。波長域を厳密に調整するために、蛍光OF1は第1蛍光検出器66に入射する前にバンドパスフィルタC1を通過してもよい。第1蛍光検出器66には、バンドパスフィルタB1とC1を通過した、中心波長を約530nmとする所定の範囲の波長の光のみが入射する。第1蛍光検出器66は、例えばPDやAPD、フォトマル(フォトマルチプライヤー)などの光電変換素子である。第1蛍光検出器66によって電気的信号に変換された信号は、後述の信号処理がなされる。
【0057】
図3に示す第1蛍光検出装置50において、各要素は、光を効率よく伝送や結合をさせたり、バンドパスフィルタの利用効率を向上させるためのレンズを含んでもよい。レンズとしては屈折率分布レンズ、ボールレンズや非球面レンズなどを用いることができる。また、
図3に示す第1蛍光検出装置50において、光ファイバF11、F12およびF13はシングルモードファイバまたはマルチモードファイバなどを用いることができる。
【0058】
上記のように構成された第1蛍光検出装置50は、中心波長が470nmであり波長範囲が約450〜490nmの光を第1励起光OE1として試料に照射し、試料から発せられた、中心波長が530nmであり波長範囲が約510〜550nmである第1蛍光OF1を検出する。波長に関する特性は、上記のように各バンドパスフィルタの透過または反射特性の組み合わせによって決定され、それらの変更やカスタマイズも可能であることは当業者が理解できるところである。
【0059】
一方、本実施形態において第2蛍光検出装置54は、ROXを蛍光色素として含有する試料からの蛍光を検出可能に構成される。第2蛍光検出装置54は、中心波長が530nmであり波長範囲が約510〜550nmの光を第2励起光OE2として試料に照射し、中心波長が610nmであり波長範囲が約580〜640nmである第2蛍光OF2を検出する。
【0060】
図4は、第1蛍光検出装置50の第1光学ヘッド51と第2蛍光検出装置54の第2光学ヘッド55が配置された状態を示す。第1光学ヘッド51は、流路12の第1蛍光検出領域12aを通過する試料20から蛍光を検出できるように配置される。第2光学ヘッド55は、流路12の第2蛍光検出領域12bを通過する試料20から蛍光を検出できるように配置される。また、第1蛍光検出装置50の第1光学ヘッド51と、第2蛍光検出装置54の第2光学ヘッド55のいずれかが接続領域の中間もしくは低温領域と高温領域との中間付近に配置されてもよい。
【0061】
図4に示すように、第1光学ヘッド51は、光ファイバF12内を伝搬した第1励起光OE1を対物レンズOB1で集光して第1蛍光検出領域12aを通過する試料20に照射し、試料20から発生した第1蛍光OF1を対物レンズOB1で集光して光ファイバF12に入射させる。同様に、第2光学ヘッド55は、光ファイバF22内を伝搬した第2励起光OE2を対物レンズOB2で集光して第2蛍光検出領域12bを通過する試料20に照射し、試料20から発生した第2蛍光OF2を対物レンズOB2で集光して光ファイバF22に入射させる。
【0062】
第1光学ヘッド51、第2光学ヘッド55の径は例えば1〜4mmであり、第1光学ヘッド51と第2光学ヘッド55はそれ以上の任意の間隔で配置される。ここでは、第1光学ヘッド51から第1励起光OE1が照射される第1蛍光検出領域12aの中心と、第2光学ヘッド55から第2励起光OE2が照射される第2蛍光検出領域12bの中心との間の距離を「蛍光点間距離tp」と称する。
【0063】
対物レンズOB1、OB2としては、パワーが正のレンズまたはレンズ群、例えば屈折率分布レンズであるセルフォック(登録商標)マイクロレンズを使用することができる。対物レンズOB1、OB2は、例えば直径が1.8mm、開口数(NA)が0.23、WDが1mm〜3mmのものを使用できる。
【0064】
本実施形態において、第1蛍光検出装置50の第1励起光源は、第1変調信号によって変調され、点滅発光する。同様に、第2蛍光検出装置54の第2励起光源は、第2変調信号によって変調され、点滅発光する。
【0065】
図5は、蛍光検出器からの蛍光信号を処理するロックインアンプの回路構成を説明するための図である。
【0066】
本実施形態において、第1蛍光検出装置50の第1蛍光検出器66からの第1蛍光信号は、第1ロックインアンプ68によって処理される。第1ロックインアンプ68は、IVアンプ70と、ハイパスフィルタ80と、反転・非反転アンプ81と、ローパスフィルタ82とを備える。第1蛍光検出器66から出力された第1蛍光信号は、IVアンプ70で適切に増幅されたのち、ハイパスフィルタ(HPF)80でDC成分を除去される。この信号は、さらに反転・非反転アンプ81により第1変調信号と同期検波されて直流化される。直流化された信号は、次にローパスフィルタ(LPF)82でノイズを除去され、最終的に第1蛍光検出装置50に係る第1信号出力が得られる。
【0067】
第2蛍光検出装置54の第2蛍光検出器67からの第2蛍光信号は、第2ロックインアンプ69によって処理される。第2ロックインアンプ69の構成は第1ロックインアンプ68と同様であり、第2蛍光検出器67からの第2蛍光信号を第2ロックインアンプ69で処理することにより、最終的に第2蛍光検出装置54に係る第2信号出力が得られる。
【0068】
本実施形態では、一本の流路12を通過する試料20を検出するために、第1光学ヘッド51および第2光学ヘッド55が並んで配置される。上述したように、第1蛍光検出装置50は、中心波長が470nmであり波長範囲が約450〜490nmの第1励起光OE1を照射し、中心波長が530nmであり波長範囲が約510〜550nmである第1蛍光OF1を検出する。また、第2蛍光検出装置54は、中心波長が530nmであり波長範囲が約510〜550nmの第2励起光OE2を照射し、中心波長が610nmであり波長範囲が約580〜640nmである第2蛍光OF2を検出する。したがって、第2励起光OE2の波長範囲(約510〜550nm)と、第1蛍光OF1の波長範囲(約510〜550nm)は、重複している。この場合、第2光学ヘッド55から照射された第2励起光OE2の一部が第1光学ヘッド51で検出されると、この第2励起光OE2は第1光学ヘッド51の後段のバンドパスフィルタB1、C1では除去されず、第1蛍光検出器66に到達する虞がある。この第2励起光OE2は第1蛍光検出器66においてはノイズであり、本来検出すべき第1蛍光OF1を検出できない虞がある。
【0069】
第1光学ヘッド51と第2光学ヘッド55を十分離間して配置すればこのような問題は生じないが、この場合は反応処理装置30のサイズが大型化する。本発明者は、このような背反する課題を解決すべく、2つの光学ヘッドを並べて配置した場合に蛍光の検出にどのような影響が生じるかを鋭意検討および調査した。
【0070】
本発明者は、第1蛍光検出装置50に係る第1変調信号(第1励起光源の変調信号)と、第2蛍光検出装置54に係る第2変調信号(第2励起光源の変調信号)の位相差、言い換えると、第1励起光と第2励起光の点滅の位相差が、試料からの蛍光の検出にどのような影響を及ぼすかを実際に調べた。実験の条件を以下に示す。
【0071】
(1)第1光学ヘッド51および第2光学ヘッド55は、
図4に示すように、流路12中の試料20からの蛍光を集光できるように並べて配置した。第1蛍光検出領域12aの中心と第2蛍光検出領域12bの中心との間の距離である蛍光点間距離tpは4.5mmとした。
(2)パルスジェネレータ等により第1変調周波数(110Hz)の第1変調信号を発生させ、該第1変調信号を用いて第1励起光源からの第1励起光を変調させた。同様に、第2変調周波数(110Hz)の第2変調信号を発生させ、該第2変調信号を用いて第2励起光源からの第2励起光を変調させた。第1変調信号と第2変調信号のDuty比はともに50%とした。
(3)第1変調信号による変調と第2変調信号による変調との位相差Δφを変化させ、第1蛍光検出装置50に係る第1信号出力を計測した。
なお、本実施例では、蛍光信号に対して位相差のみの依存性を検出するので、サーマルサイクルは行っていない。
【0072】
図6は、第1変調信号と第2変調信号の位相差を変化させたときの、第1蛍光検出装置50に係る第1信号出力の計測結果を示す。
図6において、黒丸のプロットは、試料としてFAM水溶液を用いた場合の計測結果を示す(「FAM水溶液」と表示)。反応処理容器10の流路12中にFAM水溶液(濃度30nM)を配置し、第1変調信号と第2変調信号の位相差Δφを0°から360°まで変化させ、第1蛍光検出装置50に係る第1信号出力を計測した。また、
図6において、白丸のプロットは、反応処理容器10の流路12中に何も入れない状態(すなわちブランク状態)において第1信号出力を計測した結果を示す(「ブランク」と表示)。
【0073】
図6から分かるように、「FAM水溶液」と「ブランク」の場合共に、位相差Δφの変化に応じて第1信号出力も変化し、位相差Δφが0°および360°(すなわち位相差が無い)ときに第1信号出力が最大となり、位相差Δφが180°のときに第1信号出力が最小となる。
【0074】
試料としてのFAM水溶液から出射される蛍光信号に基づく信号出力は、
図6に示す「FAM水溶液」のときの第1信号出力の値から、「ブランク」のときの第1信号出力の値を差し引いたものとなる。この演算により、正味のFAM水溶液からの蛍光信号に基づく信号出力を求めることができる。この信号出力と位相差Δφ[°]との関係を
図7に黒四角のプロット(FAM水溶液(ブランク除く)と表示)で示す。
【0075】
図7から、第1励起光源の第1変調信号と第2励起光源の第2変調信号との位相差Δφの値によって、正味のFAM水溶液からの蛍光信号に基づく信号強度が変動することがわかる。これは、第2励起光が第1蛍光検出装置50の蛍光検出に影響を及ぼしていること、さらにその影響度が位相差Δφによって異なることを意味している。
【0076】
次に、第2励起光源を停止させたうえで、「ブランク」と「FAM水溶液」について、第1信号出力の強度を計測して両者の差をとり、正味のFAM水溶液からの蛍光信号に基づく信号強度を求めた。この場合は第2励起光源を停止しているので位相差Δφの観念はなく、第1信号出力は一定(4.0)であった。この値は、ブランクを除いたFAM水溶液からの蛍光信号に基づき、且つ他の励起光/蛍光検出系に影響されない値である。この値を
図7に実線で示す(「正味信号s」と表示)。
【0077】
ここで、「FAM水溶液(ブランク除く)」の値から、「正味信号s」の値を差し引いたものの絶対値は、ノイズに相当する。このノイズ(N')と位相差Δφ[°]との関係を
図8に示す。
図8から、第2蛍光検出装置54に係る第2励起光の存在下においても、位相差Δφが90°及び270°のときには、第1蛍光検出装置50に係る第1蛍光検出器66から第1ロックインアンプ68を通じて得られる蛍光信号のノイズが最小となることが分かる。
【0078】
図9は、第1変調信号と第2変調信号のDuty比がともに30%のときの、ノイズと位相差との関係を示す。
図10は、第1変調信号と第2変調信号のDuty比がともに40%のときの、ノイズと位相差との関係を示す。
図9と
図10のいずれにおいても、蛍光点間距離tpは4.5mmとした。
図9に示すように、Duty比が30%のときのノイズN'が最小となる位相差Δφは、約76°及び約284°であった。また
図10に示すように、Duty比が40%のときのノイズN'が最小となる位相差Δφは、約86°及び約274°であった。
【0079】
以上の実験結果から、第1変調信号と第2変調信号のDuty比の違いによって、ノイズN'が最小となる最適な位相差が変わることが分かる。このことは、以下の考察から導き出される通り、数式を用いて表すことができる。
【0080】
図11(a)〜(d)は、2つの蛍光検出装置のうち一方を停止させたときのロックインアンプの動作を説明するための図である。ここでは、第1蛍光検出装置50と第2蛍光検出装置54のうち第2蛍光検出装置54を停止させ(第2励起光源を点滅発光させないで)、第1蛍光検出装置50の第1蛍光検出器66が受光した信号を第1ロックインアンプ68で処理する場合を考える。第2蛍光検出装置54を停止させているので、第1蛍光検出装置50で検出すべき第1蛍光信号は第2蛍光検出装置54の第2励起光の影響を受けない。
【0081】
図5に示す第1ロックインアンプ68において、IVアンプ70を通過後の出力をV
11とし、ハイパスフィルタ80を通過後の出力をV
12とし、反転・非反転アンプ81を通過後の出力をV
14aとし、ローパスフィルタ82を通過後の出力をV
14とする。なお、以降の説明も含めてロックインアンプの説明における、Vを含む出力に係る記号は、電圧(Volt)に準じた任意単位である。
【0082】
図11(a)は、IVアンプ通過後の出力V
11を示す。
図11(b)は、ハイパスフィルタ通過後の出力V
12を示す。
図11(c)は、反転・非反転アンプ通過後の出力V
14aを示す。
図11(d)は、ローパスフィルタ通過後の出力V
14を示す。
図11(a)〜(d)において、横軸は位相を表し、縦軸は信号出力を表す。いわゆる1周期は360°または2πradである。任意の位相φ[°]はφ×π/180[rad]の関係がある。ここでは、計算のし易さを考慮して位相を主としてrad(ラジアン)で表す。
【0083】
ここでは、簡単のために、IVアンプ通過後の出力V
11が
図11(a)に示すような矩形信号である場合を考える。V
11は、一定の周波数のもとで、1周期のうち、区間αに対応する位相の領域において出力値1、区間βに対応する位相の領域において出力値が0である矩形信号である。この矩形信号のDuty比はd=α/(α+β)(0<d<1)またはd=α/2πで表される。なお、ここではIVアンプ通過後の出力V
11のDuty比について述べているが、このDuty比は、同一の周波数のもとでオン/オフする第1励起光源64から出射される第1励起光のDuty比と同じである。
【0084】
図11(a)に示すような矩形信号がハイパスフィルタ80を通過すると、直流成分がカットされるので、
図11(b)に示すような出力信号が得られる。
図11(b)に示す信号が反転・非反転アンプ81を通過すると、上記の区間βに対応する位相の領域に属する出力信号の符号が反転されるので、
図11(c)に示すような出力信号が得られる。さらに
図11(c)に示す信号がローパスフィルタ82を通過すると、交流成分がカットされるので、
図11(d)に示すような出力信号が得られる。ローパスフィルタ通過後の出力値V
14は、Duty比dを用いて以下の(1)式のように表すことができる。
V
14=2・d・(1−d) ・・・(1)
【0085】
図12(a)〜(f)は、2つの蛍光検出装置を両方とも作動させたときのロックインアンプの動作を説明するための図である。ここでは、第1蛍光検出装置50と第2蛍光検出装置54を作動させ、第1蛍光検出装置50の第1蛍光検出器66が受光した信号を第1ロックインアンプ68で処理する場合を考える。第2蛍光検出装置54を作動させているので、第1蛍光検出装置50で検出すべき第1蛍光信号は第2蛍光検出装置54の第2励起光の影響を受ける。
【0086】
図12(a)は、第2蛍光検出装置54に係る第2励起光の影響がない場合の第1ロックインアンプ68のIVアンプ70通過後の出力V
11を示す。ここでも、
図11(a)と同様に、一定の周波数のもとで、1周期のうち、区間αに対応する位相の領域において出力値1、区間βに対応する位相の領域において出力値が0である矩形信号であり、
図11(a)と同じDuty比dを有する矩形信号を考える。
【0087】
図12(b)は、第2蛍光検出装置54に係る第2励起光に由来する光が第1蛍光検出器66で受光され、第1ロックインアンプ68のIVアンプ70を通過後の信号を示す。この信号は、V
11と同じ周波数のもとで、1周期のうち、区間αに対応する位相の領域において出力値a(0<a<1)、区間βに対応する位相の領域において出力値が0である矩形信号とした。この信号は、V
11と同じDuty比dを有する。但し、第2励起光に由来する信号は、
図12(a)に示す出力信号V
11よりも2πp[rad](pはパラメータであり、0<p<1とする)だけ遅延しているものとする。上述のΔφ[°]で表される位相差と、2πp[rad]で表した位相差との間には、Δφ=360×pの関係がある。
【0088】
図12(c)は、実際にIVアンプ70から出力される出力V
11を示す。これは、
図12(a)に示す出力信号と
図12(b)に示す出力信号の和である。
【0089】
図12(d)は、ハイパスフィルタ80を通過後の出力V
12を示す。ハイパスフィルタ80の通過による直流成分のカットに伴うバイアスを(−x)と仮定した。
出力と位相で囲まれた領域の面積のうち、0を境にして正側と負側との領域の面積が等しいことから、以下の(2)式が成り立つ。
(1−x)・p+(1+a−x)・(d−p)+(a−x)・p+(−x)・{1−(d+p)}=0から、
x=(1+a)・d ・・・(2)
【0090】
図12(e)は、反転・非反転アンプ81を通過後の出力V
14aを示す。
図12(f)は、ローパスフィルタ82を通過後の出力V
14を示す。
図12(d)に示す信号が反転・非反転アンプ81を通過すると、第1蛍光検出装置に係る区間βに対応する位相の領域に属する出力信号の符号が反転されるので、
図12(e)に示すような出力信号が得られる。さらに
図12(e)に示す信号がローパスフィルタ82を通過すると、交流成分がカットされるので、
図12(f)に示すような出力信号が得られる。
【0091】
(2)式の関係を考慮して、ローパスフィルタ82を通過後の出力(すなわち第1信号出力)V
14を表すと以下の(3)式のようになる。
V
14=−2・(1+a)・d
2+2・(1+a)・d−2・a・p ・・・(3)
【0092】
以上の考察から、第1信号出力において、(3)式から(1)式を差し引いた分(の絶対値)が、ノイズとして第1信号出力に重畳することになるので、ノイズ成分V
1Nの値は以下の(4)式のように表される。
V
1N=|−2・a・(d
2−d+p)| ・・・(4)
【0093】
(4)式において、d
2−d+p=0のとき、V
1Nが最小(0)となるので、このときのパラメータpの値p
mは以下の(5)式で表される。
p
m=d−d
2 ・・・(5)
【0094】
この(5)式から、Duty比が、0.5(50%)、0.4(40%)及び0.3(30%)のときのp
mの値は、それぞれ0.25、0.24および0.21と算出できる。さらに、これらのp
mに対応したノイズ成分V
1Nを最小にする最適な位相差は、0.5πrad、0.48πradおよび0.42πradと求めることができる。また、度(°)を単位とした表記では、Δφ
m=90.0°、Δφ
m=86.4°およびΔφ
m=75.6°と求めることができる。上述の実験結果とほぼ一致しており、実験結果の妥当性が確認された。また、上述の実験結果と照らし合わせると、位相差が2π(1−p
m)[rad]およびΔφ
m=360(1−p
m)[°]のときにもノイズ成分V
1Nが最小となることが理解できる。
【0095】
このように、本実施形態に係る反応処理装置30においては、第1光学ヘッド51から照射される第1励起光と、第2光学ヘッド55から照射される第2励起光の点滅の位相差を、(5)式で設定されるp
mを用いて2πp
m[rad]又は2π(1−p
m)[rad](度(°)を単位とした表記では360p
m[°]又は360(1−p
m)[°])とすることにより、第1蛍光検出装置50と第2蛍光検出装置54との間の干渉を抑制することができる。
【0096】
図13は、上記のノイズの表記V
1NをN'とし、ノイズN'の信号出力の最小値に対応するp
mにおける許容幅Δp
mの決め方を説明するための図である。
図13は、ノイズN'の信号出力と位相差2πp[rad]との関係を表している。
【0097】
位相差2πpが0radのときのノイズN'をN
0'とし、ノイズN'の許容値をN
m'とし、第2蛍光検出装置54が作動していない場合の第1蛍光検出装置50に係る第1信号出力をV
10としたとき、パラメータpのp
mにおける許容幅Δp
mは上記の(5)式を考慮して、以下の(6)式で表される。
Δp
m=(N
m')・(d−d
2)/(N
0')=(N
m'/V
10)・(d−d
2)/{(N
0')/V
10} ・・・(6)
【0098】
第2蛍光検出装置54が作動していない場合の第1蛍光検出装置50に係る第1信号出力V
10に対するN
m'の比は0.05(5%)であることが求められるので、許容幅Δp
mは以下の(7)式で求められる値に設定される。
Δp
m=(d−d
2)/{20・(N
0')/V
10} ・・・(7)
【0099】
例えば、V
10=4であり、N
0'=50程度が求められるとき、蛍光検出装置のDutyが0.4であるとすると、p
m=0.24であり、位相差2πp
m=0.48πrad(86.4°)である。(7)式からΔp
m=0.00096となり、位相差の許容幅は、0.00192πrad(0.35°)と求められるので、適切な位相差の範囲は、0.48π±0.00192π[rad](86.4±0.35[°])とすることができ、さらに1.52π±0.00192π[rad](273.6±0.35[°])とすることができる。
【0100】
また、第1信号出力V
10に対するN
m'の比は、0.03(3%)であることがより望ましいので、許容幅Δp
mは以下の(8)式で求められる値に設定される。同様にV
10=4、N
0'=50及びd=0.4であるとすると、Δp
m=0.00058となり、位相差の許容幅が0.00116πrad(0.21°)と求められるので、適切な位相差の範囲は、0.48π±0.00116π[rad](86.4±0.21[°])とすることができ、さらに1.52π±0.00116π[rad](273.6±0.21[°])とすることができる。
Δp
m=3・(d−d
2)/{100・(N
0')/V
10} ・・・(8)
【0101】
加えて、第1信号出力V
10に対するN
m'の比が0.01(1%)であることがさらに望ましいので、許容幅Δp
mは以下の(9)式で求められる値に設定される。同様にV
10=4、N
0'=50及びd=0.4であるとすると、Δp
m=0.00019となり、位相差の許容幅が0.00038πrad(0.07°)と求められるので、適切な位相差の範囲は、0.48π±0.00038π[rad](86.4±0.07[°])とすることができ、さらに1.52π±0.00038π[rad](273.6±0.07[°])とすることができる。
Δp
m=(d−d
2)/{100・(N
0')/V
10} ・・・(9)
【0102】
以上の検討結果から、望ましい位相差の範囲は、rad(ラジアン)を単位とする表記で2π(p
m−Δp
m)[rad]〜2π(p
m+Δp
m)[rad]または2π{(1−p
m)−Δp
m}[rad]〜2π{(1−p
m)+Δp
m}[rad]であり、度(°)を単位とする表記で360(p
m−Δp
m)[°]〜360(p
m+Δp
m)[°]または360{(1−p
m)−Δp
m}[°]〜360{(1−p
m)+Δp
m}[°]と一般的に記載することができる。ただし、dをDuty比として、p
m=d−d
2であり、Δp
m=(d−d
2)/{20・(N
0')/V
10}であり、より望ましくはΔp
m=3・(d−d
2)/{100・(N
0')/V
10}であり、さらに望ましくは Δp
m=(d−d
2)/{100・(N
0')/V
10}である。
【0103】
一方で、Δp
mは、p
mとの関係から、Δp
m=0.01×p
mとしてもよい。このようにΔp
mを、一義的にp
mの1%と設定してもよい。
【0104】
下記の実験および考察から、ノイズが最小になるように、第1蛍光検出装置50に係る第1励起光および第2蛍光検出装置54に係る第2励起光の点滅の位相差を設定したとしても、試料が蛍光検出領域を通過した際に蛍光検出器で検出された蛍光信号をロックインアンプで処理した信号にノイズが生じることが分かる。
【0105】
図14および
図15は、
図2に示す反応処理装置30において、試料を流路12内で移動させて、所定の蛍光検出領域を通過させたときの第1蛍光検出装置50からの信号出力と時刻との関係を示す。
図14は、第2蛍光検出装置54を停止させて(すなわち、第2励起光源を点滅させずに)、試料を流路12内で移動させたときの第1蛍光検出装置50からの蛍光信号出力を表したものである。一方、
図15は、第2蛍光検出装置54を作動させて(すなわち、第2励起光源を点滅させて)、試料を流路12内で移動させたときの第1蛍光検出装置50からの蛍光信号出力を表したものである。
【0106】
第1励起光および第2励起光は、いずれも同一周波数(110Hz)且つ同一Duty比0.5(50%)で点滅させ、それらの位相差Δφを0.5πrad(90.0°)とした。さらにそれぞれの励起光と蛍光検出器は、流路12中の試料からの蛍光強度が最大になるように独立して流路に対して配置を定めた。
【0107】
まず、試料の蛍光検出領域の通過時の蛍光信号の挙動に関して、
図14を参照して説明する。
図14に示す蛍光信号の強度は、時刻とともにベースラインを推移し、ある一定の時刻(11×1/10秒)において立ち上がっている。この時刻において試料は第1蛍光検出領域12aに侵入したと考えることができる。さらに蛍光信号は時刻とともに略一定値(任意強度で略14)を推移している。これは、流路12内で一定の長さを有する試料が、第1蛍光検出領域12aを通過している時間に対応していると考えることができる。その後、ある時刻において蛍光信号は再びベースラインに立ち下がる。この時刻(18×1/10秒)において試料は第1蛍光検出領域12aから脱したと考えることができる。その後、蛍光信号はベースラインを推移している。
【0108】
上記の説明は、試料が第1蛍光検出領域12aを一回だけ通過したときの蛍光信号の挙動である。PCRの場合には試料は繰り返し流路12を往復移動し、あらかじめ設定された異なる水準の温度領域に対して繰り返してさらされること(すなわち、サーマルサイクル)により、試料に含まれる特定のDNA等が増幅される。
【0109】
蛍光色素を含む試料の場合、所定のDNA等が増幅するとともに、試料から発せられる蛍光強度も増加する。そしてその増加する蛍光強度を、試料が蛍光検出領域を通過したときに得られる蛍光信号の最大値をモニタすることによって、所定のDNAの増幅に伴うリアルタイムPCRを実現することができる。
【0110】
次に、試料の蛍光検出領域の通過時の蛍光信号の挙動に関して、
図15を参照して説明する。
図15に示す蛍光信号の挙動は、
図14に示す蛍光信号のそれとは異なる。
図15に示す蛍光信号は、立ち上がりの部分において大きくオーバーシュートしており、その後の時間における略一定の蛍光強度に比して高い蛍光強度となっている。このように蛍光信号に大きなオーバーシュートが生じると、蛍光信号がばらつくことになるため、正確な蛍光信号の強度をモニタすることが難しくなり、リアルタイムPCRに支障をきたす虞がある。
【0111】
以上のことから、複数の励起光/蛍光の組み合わせにおいて、いずれかの組み合わせに属する励起光に対応する波長範囲と、それ以外の組み合わせに属する蛍光に対応する波長範囲とが重なる場合は、ロックインの位相差を最適化しても、蛍光信号の検出に影響が生じることが示唆される。
図15に示す蛍光信号の挙動は、第1蛍光検出装置50および第2蛍光検出装置54に係る励起光の点滅位相差を最適なものにしても存在する可能性がある。
【0112】
そこで本発明者は、このような蛍光信号のオーバーシュートを低減すべく鋭意考察、実験したところ、蛍光点間距離tpにオーバーシュートの原因があることを突き止めた。具体的には、光学ヘッドの光学系の試料に対するNAが所定の範囲内にある場合、蛍光点間距離tpが4mm以上であるときに、ノイズ値(Nv)が好適な0.2以下となることを見出した。
【0113】
図16は、本発明の実施例を説明するための図である。上述の実施形態と同様に、反応処理容器10の流路12中に配置された試料20からの蛍光を検出できるように、第1光学ヘッド51および第2光学ヘッド55を並べて配置した。第1光学ヘッド51は対物レンズOB1を備え、第2光学ヘッド55は対物レンズOB2を備える。流路12には第1蛍光検出領域12aおよび第2蛍光検出領域12bが設定される。第1光学ヘッド51は第1蛍光検出領域12aに位置する試料20に励起光を照射し、蛍光を受光する。第2光学ヘッド55は、第2蛍光検出領域12bに位置する試料20に励起光を照射し、蛍光を受光する。第1光学ヘッド51および第2光学ヘッド55から照射される励起光は、周波数を共に110Hz、Duty比を共に0.5として点滅させた。第1光学ヘッド51および第2光学ヘッド55で受光された蛍光は、後段のロックインアンプ(
図5参照)でロックイン処理を行って蛍光信号が出力されるようにした。さらに、第1光学ヘッド51および第2光学ヘッド55から照射される励起光の点滅は、その位相差が0.5πrad(90.0°)となるようにそれぞれの位相を調整した。
図16に示すように、第1蛍光検出領域12aの中心と第2蛍光検出領域12bの中心の間の距離が蛍光点間距離tpである。
【0114】
(実施例1)
実施例1では、第1光学ヘッド51の対物レンズOB1および第2光学ヘッド55の対物レンズOB2として、開口数(NA)が0.23のものを用いた。第1蛍光検出装置は青励起/緑蛍光の組み合わせでFAMに対応したもので、第2蛍光検出装置は緑励起/赤蛍光の組み合わせでROXに対応したものとした。
【0115】
図17は、実施例1において、蛍光点間距離tp=4mmとしたときの第1蛍光検出装置50から出力された蛍光信号を示す。試料はFAM水溶液を用いた。
図17において、横軸は時刻[×1/10秒]を表し、縦軸は蛍光強度[任意単位]を表す。
図17に示す蛍光信号においては、ピークが二個を一組として略一定時間毎に現れている。試料は流路12を繰り返し往復移動する(ただし、試料の第1蛍光検出領域12aの通過時間は約0.5秒になるように移動速度を調整した)。従って、
図17の蛍光信号のように、往路と復路における蛍光強度の値が一組として現れる。
【0116】
(実施例2)
実施例2では、第1光学ヘッド51の対物レンズOB1および第2光学ヘッド55の対物レンズOB2として、開口数(NA)が0.18のものを用いた。
(実施例3)
実施例3では、第1光学ヘッド51の対物レンズOB1および第2光学ヘッド55の対物レンズOB2として、開口数(NA)が0.12のものを用いた。
(実施例4)
実施例4では、第1光学ヘッド51の対物レンズOB1および第2光学ヘッド55の対物レンズOB2として、開口数(NA)が0.07のものを用いた。
【0117】
実施例1〜4において、蛍光点間距離tpを2.5mm、2.75mm、3mm、3.5mm、4mm、4.5mm、5mmと変化させ、それぞれの蛍光点間距離tpに関して第1蛍光検出装置50から出力される蛍光信号を得た。試料の往復移動に応じて得られた蛍光強度のばらつきを評価するために、50回の試料の往復移動によって得られた各ピークにおける蛍光強度の最大値の標準偏差をノイズ値Nvとして算出して指標とした。
【0118】
以下の表は、実施例1〜4に関して得られた、蛍光点間距離tp[mm]とノイズ値Nvとの関係をまとめたものである。
【表1】
【0119】
開口数(NA)が0.23の実施例1に関しては、蛍光点間距離tpが4mm〜5mmの場合はノイズ値Nvが0.2未満となって良好な結果が得られた。開口数(NA)が0.18の実施例2に関しては、蛍光点間距離tpが4mm〜5mmの場合はノイズ値Nvが0.2未満となって良好な結果が得られた。開口数(NA)が0.12の実施例3に関しては、蛍光点間距離tpが3.5mm〜5mmの場合はノイズ値Nvが0.3未満となって良好な結果が得られ、蛍光点間距離tpが4mm〜5mmの場合はノイズ値Nvが0.2未満となってさらに良好な結果が得られた。開口数(NA)が0.07の実施例4に関しては、蛍光点間距離tpが2.5mm〜5mmの場合はノイズ値Nvが0.3未満となって良好な結果が得られ、蛍光点間距離tpが2.75mm〜5mmの場合はノイズ値Nvが0.2未満となってさらに良好な結果が得られた。これらの実験結果から、本発明者は、光学ヘッドの開口数NAが0.07〜0.23の範囲内にある場合、蛍光点間距離tpが4mm以上であるときに、ノイズ値Nvが好適な0.2以下となることを見出した。
【0120】
本実施例の効果を確認するために、
図2に示す反応処理装置30を用いて、下記の表に示す試料について実際にPCRを行い、リアルタイムで蛍光信号を測定した。ベロ毒素VT1の検出を企図し、KAPA Biosystems社のPCR酵素であるKAPA3G Plant PCRキットを使用し、以下の表に掲げる要領でPCR用試料を調整した。
【表2】
【0121】
ここでは、対物レンズの開口数NAを0.23とした実施例1に関してPCRを行った。
図18は、実施例1におけるPCRの増幅結果を示す。
図18において、横軸はサイクル数であり、縦軸は蛍光強度[任意単位]である。上述の反応処理装置30を用いて、サイクル数に対する第1蛍光検出装置50で検出される蛍光信号の強度を測定した。試料中の検体が増幅すると、蛍光強度が増加する。
図18に示すように、30サイクル付近から蛍光強度が急激に立ち上がっている。このような蛍光強度の急激な立ち上がりは、試料中の検体が増幅していることを示しており、実施例1を用いた場合に良好なPCRを行うことができることが分かる。
【0122】
次に、比較例を示す。比較例では、蛍光点間距離tpを3mmとし、他の条件は実施例1(
図17参照)と同じにした。
【0123】
図19は、比較例において第1蛍光検出装置50から出力された蛍光信号を示す。
図19に示す蛍光信号を
図17に示す実施例1の場合と比較すると、
図19に示す比較例では非常に大きなオーバーシュートが発生していることが分かる。
【0124】
図20は、比較例におけるPCRの増幅結果を示す。
図20に示すPCRの増幅結果を
図18に示す実施例1の場合と比較すると、
図20に示す比較例では蛍光強度のばらつきが非常に大きいことが分かる。このように蛍光強度のばらつきが大きい場合、蛍光強度の立ち上がりを検出することが難しくなるので、リアルタイムPCRの精度が低下する虞がある。この比較例との比較から、本実施例の優位性が実証された。
【0125】
図21は、本発明の別の実施形態に係る反応処理装置130を説明するための図である。
図21に示す反応処理装置130は、3つの蛍光検出装置(第1蛍光検出装置131、第2蛍光検出装置132および第3蛍光検出装置133)を備える点が、
図2に示す反応処理装置30と異なる。
図21では、3つの蛍光検出装置および反応処理容器10の一部のみ図示しており、他の構成の図示は省略されている。
【0126】
第1蛍光検出装置131は、FAMを蛍光色素として含有する試料からの蛍光を検出可能に構成される。第1蛍光検出装置131は、第1光学ヘッド134を備え、中心波長が約470nmであり波長範囲が約450〜490nmの第1励起光(青色光)を流路12の第1蛍光検出領域12aに照射し、中心波長が約530nmであり波長範囲が約510〜550nmである第1蛍光(緑色光)を検出する。
【0127】
第2蛍光検出装置132は、ROXを蛍光色素として含有する試料からの蛍光を検出可能に構成される。第2蛍光検出装置132は、第2光学ヘッド135を備え、中心波長が約530nmであり波長範囲が約510〜550nmの第2励起光(緑色光)を流路12の第2蛍光検出領域12bに照射し、中心波長が約610nmであり波長範囲が約580〜640nmである第2蛍光(赤色光)を検出する。
【0128】
第3蛍光検出装置133は、Cy5を蛍光色素として含有する試料からの蛍光を検出可能に構成される。第3蛍光検出装置133は、第3光学ヘッド136を備え、中心波長が約630nmであり波長範囲が約610〜650nmの第3励起光(赤色光)を流路12の第3蛍光検出領域12cに照射し、中心波長が約690nmであり波長範囲が約660〜720nmの第3蛍光(赤外光)を検出する。
【0129】
本実施形態に係る反応処理装置130は、3つの蛍光検出装置の光学ヘッドの配列順序に特徴がある。具体的には、低温領域側から、第2蛍光検出装置132に係る第2光学ヘッド135、第1蛍光検出装置131に係る第1光学ヘッド134、第3蛍光検出装置133に係る第3光学ヘッド136の順序で配列されている。言い換えると、中央に第1光学ヘッド134が配置され、第1光学ヘッド134の低温領域側に第2光学ヘッド135が配置され、第1光学ヘッド134の高温領域側に第3光学ヘッド136が配置されている。第2蛍光検出装置132と第3蛍光検出装置133の位置は逆であってもよい。すなわち、第1光学ヘッド134の低温領域側に第3光学ヘッド136が配置され、第1光学ヘッド134の高温領域側に第2光学ヘッド135が配置されていてもよい。
【0130】
上述したように、蛍光検出装置間の干渉は、励起光の波長範囲と蛍光の波長範囲とが重複することによって生じる。従って、複数の光学ヘッドを並べて配置する場合、励起光の波長範囲と蛍光の波長範囲とが重複する光学ヘッド同士が隣接するような配置は避ける。例えば、仮に第2光学ヘッド135を中央に配置し、その両側に第1光学ヘッド134と第3光学ヘッド136を配置した場合、第2光学ヘッド135に係る第2励起光の波長範囲(約510〜550nm)と第1光学ヘッド134に係る第1蛍光の波長範囲(約510〜550nm)とが重複する。また、第2光学ヘッド135に係る第2蛍光の波長範囲(約580〜640nm)と第3光学ヘッド136に係る第3蛍光の波長範囲(約610〜650nm)とが一部重複する。この場合、第1蛍光検出装置131と第2蛍光検出装置132の間と、第2蛍光検出装置132と第3蛍光検出装置133の間で干渉が生じ易い。
【0131】
一方、本実施形態のように、第1光学ヘッド134を中央に配置し、その両側に第2光学ヘッド135と第3光学ヘッド136を配置した場合、第2光学ヘッド135と第3光学ヘッド136が隔離されるので、第2蛍光検出装置132と第3蛍光検出装置133の間の干渉を生じ難くすることができる。
【0132】
また、第3光学ヘッド136を中央に配置し、その両側に第1光学ヘッド134と第2光学ヘッド135を配置してもよい。この場合も第1光学ヘッド134と第2光学ヘッド135が隔離されるので、第1蛍光検出装置131と第2蛍光検出装置132の間の干渉を生じ難くすることができる。
【0133】
反応処理装置においては、複数の蛍光検出装置のうち、いずれかの蛍光検出装置による蛍光強度の変動を、流路を繰り返し往復移動する試料の動き(試料の移動と停止)を制御するためのパラメータとする場合がある。そのような目的を担う蛍光検出装置の光学ヘッドは、流路における高温領域と低温領域との間の接続領域の略中間点に配置することが望ましい。仮に試料の移動制御に利用される光学ヘッドが流路の接続領域のうち高温または低温領域のいずれかの側に偏って配置された場合、送液やその停止の制御が煩わしくなる虞がある。流路の接続領域の略中間に試料の移動制御に利用される光学ヘッドを配置することにより、試料の送液や停止の制御が容易となる。また、制御の容易性は、精度の向上にもつながる。
【0134】
一方で、PCRなどの反応処理に供される試料においては、FAMをはじめとした波長約470nmを中心とした励起光で試料を励起する蛍光色素を添加するケースが多い。波長約470nm付近の光で励起することにより、それに対応する蛍光は必然的に波長約500〜560nm付近の波長の光を含む。これは第1蛍光検出装置131の仕様に該当するものであり、結果的にこのような励起光/蛍光の波長特性を有する蛍光検出装置が、反応処理装置に多く使用される。
【0135】
以上のような事情により、3つの光学ヘッドのうち中央に配置される第1光学ヘッド134は、流路12の接続領域の略中間点Cに配置されることが適切である。上記の事情は、2つの蛍光検出装置のみを備える上述の反応処理装置30においても同様である。すなわち、
図2に示す反応処理装置30において、第1光学ヘッド51は、流路12の接続領域の略中間点Cに配置されてよい。
【0136】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
反応処理装置30は、反応処理容器10と、第1励起光を試料に照射するとともに、試料から生じた第1蛍光を検出する第1蛍光検出装置50と、第2励起光を試料に照射するとともに、試料から生じた第2蛍光を検出する第2蛍光検出装置54とを備える。第1蛍光の波長範囲と第2励起光の波長範囲は、少なくとも一部が重複している。第1励起光および第2励起光は所定のDuty比で点滅発光し、第1励起光と第2励起光の点滅のDuty比をdとしたときに、第1励起光と第2励起光の点滅の位相差が、2π(p