特許第6571311号(P6571311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571311
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】発酵麦芽飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20190101AFI20190826BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C12G3/02
   C12C5/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-272136(P2013-272136)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-123067(P2015-123067A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年8月8日
【審判番号】不服2018-12177(P2018-12177/J1)
【審判請求日】2018年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩一郎
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 菅原 洋平
【審判官】 齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/106483号(WO,A1)
【文献】 特開2005−204585号公報(JP,A)
【文献】 特開2012−125205号公報(JP,A)
【文献】 特開2013−128464号公報(JP,A)
【文献】 特開2009−077730号公報(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/077054号(WO,A1)
【文献】 特開2013−201976号公報(JP,A)
【文献】 谷村修也,「ビールのこくについて」,日本味と匂学会誌,2002年 8月,Vol.9,No.2,pp.143−146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00-13/06
C12G 3/00-3/12
A23L 2/00-35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、総ポリフェノール含有量が130〜150ppmであり、リナロール含有量が0.5〜3ppbであり、ビールテイスト飲料であることを特徴とする、発酵麦芽飲料。
【請求項2】
リナロール含有量が0.5〜1.0ppbである、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項3】
ホップを原料とする、請求項1又は2に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項4】
ポリフェノール又はリナロールが原料として含有されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低く、麦芽オフフレーバー(麦芽由来のオフフレーバー、麦芽臭)が少ないにもかかわらず、ボディ感が強く、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは古くから世界中で愛飲されている、代表的な酒類である。また、ビールに続く新たなアルコール飲料として、発泡酒等の麦芽以外にも様々な副原料を使用したビールテイスト飲料の開発が盛んである。ビール等の発酵麦芽飲料に特有の飲み応えやコク感は、その多くを麦芽由来の香味成分に依存している。例えば、麦芽の使用比率が低い発酵麦芽飲料では、すっきりした味感を達成できるが、ビールに比べ、味わいやコク感が不足し易いという傾向がある。
【0003】
一方で、麦芽には、「麦臭さ」や「穀物臭」といわれる特有の臭いの成分も多く含まれており、麦芽を原料とする麦芽飲料においては、この麦芽オフフレーバーが官能的に問題となっている。特に、止渇感・ドリンカビリティーを主たる特徴とする発酵麦芽飲料では、麦芽オフフレーバーはよりネガティブに働く傾向がある。
【0004】
麦芽の使用比率が低いビールテイスト飲料には、味わいやコク感の不足等の問題の他にも、製造工程上の問題もあり、その解決方法も提案されている。例えば、特許文献1には、原料として使用するホップに含まれるα酸と、当該ホップに含まれるポリフェノールの比率が特定の範囲内に調整することにより、ワールプールタンクを用いた清澄化工程における濁度の低下や沈殿したトリューブ(凝固したタンパク質)の形成を改善することができ、収率よく麦芽の使用比率が50質量%未満の発酵麦芽飲料を製造できることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−125291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低く、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、ボディ感が強く、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽オフフレーバーを抑えるべく発酵原料に対する麦芽の使用比率を50質量%未満に抑えた発酵麦芽飲料において、飲料における総ポリフェノール含有量とリナロール含有量を所定の範囲内に調整することにより、ボディ感と軽快感の両方を改善し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明に係る発酵麦芽飲料は、下記[1]〜[]である。
[1] 発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、総ポリフェノール含有量が130〜150ppmであり、リナロール含有量が0.5〜3ppbであり、ビールテイスト飲料であることを特徴とする、発酵麦芽飲料。
] リナロール含有量が0.5〜1.0ppbである、前記[1]発酵麦芽飲料。
] ホップを原料とする、前記[1]又は[2]の発酵麦芽飲料。
] ポリフェノール又はリナロールが原料として含有されている、前記[1]〜[]のいずれかの発酵麦芽飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、麦芽オフフレーバーが少ない上に、ボディ感が強く、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、発酵麦芽飲料とは、発酵原料として麦芽を使用し、かつ発酵工程を経て製造される飲料を意味する。本発明に係る発酵麦芽飲料は、アルコール含有量に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティーを有する発泡性飲料である。すなわち、本発明に係る発酵麦芽飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。発酵麦芽飲料としては、具体的には、ビール、麦芽を原料とする発泡酒、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等のビールテイスト飲料が挙げられる。その他、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、スピリッツ等の一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。
【0011】
本発明に係る発酵麦芽飲料を製造するための発酵原料は、麦芽を含有するが、麦芽比率は50質量%未満である。麦芽を発酵原料として用いることにより、ビールテイストがよりはっきりとした発酵麦芽飲料を製造することができる。また、発酵原料に占める麦芽比率が低いことにより、麦芽オフフレーバーの少ない発酵麦芽飲料が得られる。発酵原料に用いる麦芽は、大麦麦芽であってもよく、小麦麦芽であってもよい。また、シロップ、エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる麦芽粉砕物として用いることが好ましい。麦芽粉砕物としては、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものが挙げられる。
【0012】
麦芽由来の成分の中には、ビールテイストを実現するために重要な役割を果たすものもある。このため、麦芽比率が低いビールテイスト飲料は、ビール等の麦芽比率の高いビールテイスト飲料よりも、麦芽オフフレーバーは低いものの、ビールテイスト特有の香味が低下してしまうという問題がある。中でも麦芽由来のポリフェノールは、ビールテイスト飲料におけるボディ感や苦味を実現するための重要な成分である。
【0013】
本発明に係る発酵麦芽飲料は、総ポリフェノール含有量が130〜170ppmと高いため、麦芽の使用比率が低いにもかかわらず、充分なボディ感を有する。本発明に係る発酵麦芽飲料の総ポリフェノール含有量としては、130〜150ppmがより好ましく、140〜150ppmがさらに好ましい。
【0014】
なお、本発明及び本願明細書において、ポリフェノールとは、1分子中に複数のフェノール性水酸基を有する化合物の総称を意味する。ポリフェノールは、麦芽以外にも、ホップ、りんご、お茶、ぶどう、カカオなど様々な植物に含まれており、特徴的な苦味や渋味を有する。
【0015】
本発明に係る発酵麦芽飲料の総ポリフェノール含有量は、改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)編)の「8.19 総ポリフェノール」に記載されている方法に従い測定できる。
【0016】
総ポリフェノール含有量を、従来の麦芽比率50質量%未満の発酵麦芽飲料よりも高い130〜170ppmに調節する方法としては、例えば、元々ポリフェノール含有量の多い品種の麦芽を原料として用いる方法が挙げられる。また、ポリフェノールはホップにも多く含まれているため、原料として用いるホップの量を調節したり、ポリフェノール含有量の多いホップを原料として用いることによっても、発酵麦芽飲料中の総ポリフェノール含有量を高めることができる。さらに、茶成分等のポリフェノール含有量の高い物質を原料として添加してもよく、合成の又は天然物から抽出・精製されたポリフェノール自体を添加剤として添加してもよい。天然物から抽出・精製されたポリフェノールとしては、茶から抽出されたカテキン類や、麦芽やホップから抽出されたポリフェノール等が挙げられる。例えば、麦芽穀皮部分を80℃以上の温水に接触させることにより、ポリフェノールを溶出させることができ、この溶出されたポリフェノールを原料として添加してもよい。
【0017】
本発明に係る発酵麦芽飲料は、リナロール含有量が0.5〜3ppbである。リナロール含有量を前記範囲内に調節することにより、軽快感が増強され、嗜好性の高い発酵麦芽飲料となる。本発明に係る発酵麦芽飲料のリナロール含有量としては、0.5〜1.0ppbがより好ましい。なお、発酵麦芽飲料中のリナロール含有量は、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量することができる。
【0018】
リナロール含有量を前記範囲内に調節する方法としては、リナロールを含有する物質を原料として用いる方法が挙げられる。例えば、リナロールを含有する品種のホップを適当量、原料として用いることにより、発酵麦芽飲料のリナロール含有量を0.5〜3ppbに調節することができる。また、合成の又は天然物から抽出・精製されたリナロール自体を添加剤として添加してもよく、リナロールを含有する香料を添加剤として添加してもよい。
【0019】
本発明に係る発酵麦芽飲料は、総ポリフェノール含有量とリナロール含有量を所定の範囲内に調整する以外は、その他の麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造されるビールや発泡酒等の製造方法と同様にして製造することができる。具体的には、例えば、仕込(糖液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0020】
まず、仕込工程(糖液調製工程)として、麦芽を含有する発酵原料から糖液を調製する。具体的には、麦芽を含む発酵原料と原料水とを含む混合物を調製して加温し、発酵原料の澱粉質を糖化させる。
【0021】
麦芽以外の発酵原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦等の麦芽以外の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。また、本発明において用いられる麦芽以外の穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、麦芽粉砕物と、米やトウモロコシの粉砕物を混合したものを発酵原料として用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0022】
発酵原料と原料水とを含む混合物には、その他の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0023】
糖化処理は、麦芽をはじめとする穀物原料由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵麦芽飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、麦芽等を含む混合物を35〜70℃で20〜90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0024】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、麦芽エキスとその他の糖液の混合液に温水を加えたものを、糖化処理後に得られた糖液の濾液の替わりに、又は当該濾液に加えて用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0025】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵麦芽飲料を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ポリフェノールをはじめとするホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。前述のように、ホップには多くのポリフェノールが含有されている。そこで、ホップの添加量や添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)、煮沸条件等は、最終製品たる発酵麦芽飲料中の総ポリフェノール含有量が130〜150ppm、好ましくは140〜150ppmとなるように適宜調整することが好ましい。
【0026】
仕込工程後、発酵工程前に、調製された煮汁から、沈殿により生じたタンパク質等の粕を除去することが好ましい。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50〜80℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。
【0027】
次いで、発酵工程として、冷却した濾液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した濾液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0028】
また、発酵工程におけるアルコール発酵を抑制することにより、発酵により生成されるアルコール量がより低減される。したがって、特に、アルコール濃度が1容量%未満のノンアルコールビール等の非常にアルコール濃度が低い発酵麦芽飲料を製造する場合には、発酵工程における発酵度を下げることも好ましい。
【0029】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵麦芽飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が4〜5μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0030】
また、所望のアルコール濃度とするために、濾過後に適量の加水を行って希釈してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、通常、充填工程により瓶詰めされて、製品として出荷される。
【0031】
その他、酵母による発酵工程以降の工程において、例えばスピリッツと混和することにより、酒税法におけるリキュール類に相当する発酵麦芽飲料を製造することができる。スピリッツの添加は、アルコール濃度の調整のための加水前であってもよく、加水後であってもよい。添加するスピリッツは、より好ましい麦感を有する発酵麦芽飲料を製造し得ることから、麦スピリッツが好ましい。
【0032】
合成の又は天然物から抽出・精製されたポリフェノールや、合成の又は天然物から抽出・精製されたリナロールを原料として添加する場合、これらを添加する時期は、最終製品中にポリフェノールやリナロールが残留可能な添加時期であれば特に限定されるものではない。添加後に分解や変性、揮発による損失等のリスクが小さいため、ポリフェノールやリナロールは、糖化処理後の糖液や、発酵後の発酵液、濾過後の濾液に添加することが好ましい。より詳細には、糖液に添加する場合には、糖化処理後に直ちに添加してもよく、煮沸後の糖液(煮汁)に添加してもよく、煮沸後沈殿物除去後の糖液に添加してもよく、酵母接種前の冷却済の糖液に添加してもよい。
【実施例】
【0033】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0034】
[参考例1]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを用いて、ビールテイストの発酵麦芽飲料における麦芽オフフレーバーの強さに対する麦芽比率の影響を調べた。具体的には、麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用いた。
まず、200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵麦芽飲料の製造を行った。仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80〜99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、目的の発酵麦芽飲料を得た。
【0035】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバーについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、麦芽比率60質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーが感じられたが、麦芽比率40質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーはあまり感じられず、麦芽比率20質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーは感じられなかった。すなわち、発酵原料に対する麦芽比率の低下により、麦芽オフフレーバーが低減されることが確認された。
【0036】
[実施例1]
ポリフェノール及びリナロールを適宜添加することにより濃度を調整した麦芽比率50質量%未満のビールテイストの発酵麦芽飲料について、ボディ感、軽快感等の官能評価を行った。
具体的には、麦芽比率が49質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い、ビール酵母接種前の冷麦汁に、麦芽穀皮部分を80℃以上の温水に接触させて溶出・単離した麦芽ポリフェノールとリナロール(香料)を飲料中の最終濃度が表1に示す濃度になるように添加した以外は参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した。
【0037】
なお、発酵麦芽飲料中の総ポリフェノール含有量(濃度)は、改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)編)の「8.19 総ポリフェノール」に記載されている方法に従い測定した。
【0038】
また、発酵麦芽飲料中のリナロール含有量(濃度)は、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量した。具体的には、香気成分を供試サンプルからC18固相カラムで抽出し、得られた抽出物をGC/MSに供した。定量は内部標準法を用いた。内部標準物質にはBorneolを用い、試料中50ppbになるように添加した。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は、以下の通りであった。
【0039】
[GC/MS分析条件]
キャピラリーカラム:商品名「DB−WAX」(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)、
オーブン温度:40℃(10分)→3℃/分→240℃(20分)、
キャリアガス:He、10psi低圧送気、
トランスファーライン温度:240℃、
MSイオンソース温度:230℃、
MSQポール温度:150℃、
フロント注入口温度:200℃、
定量に用いたイオン:m/z=110(borneol)、m/z=93(linalool)。
【0040】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバー、ボディ感、軽快感について、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、いずれの発酵麦芽飲料においても、麦芽オフフレーバーはあまり感じられなかった。また、各発酵麦芽飲料についてのボディ感、軽快感、及び総合評価について、6名のパネリストの評価の平均を表1示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、発酵麦芽飲料のボディ感は、総ポリフェノール含有量が80ppmでは良くない(低い)が、130ppmでは良好であり、140〜150ppmでは非常に良好であった。総ポリフェノール含有量が200ppmになると、発酵麦芽飲料のボディ感は130ppmのものよりも低くなっていた。また、発酵麦芽飲料の軽快感は、リナロール含有量が6ppbの発酵麦芽飲料ではリナロール特有の香味が強く、軽快感が悪くなったが、3ppbでは良好であり、0.5〜1.0ppbでは非常に良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、ボディ感が強く、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料を得ることができるため、本発明は特に発酵麦芽飲料及びその製造分野で利用が可能である。