(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
【0011】
(1)リチウムイオン二次電池
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例の概略を示す斜視図である。
図2は、
図1に示したリチウムイオン二次電池のI−I線に沿った模式的な断面図である。本実施形態は、ラミネートフィルムで外装されたリチウムイオン二次電池である。
【0012】
図1および
図2に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素10が、電池外装材であるラミネートフィルム22の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートフィルムを電池外装材として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素10を収納し密封した構成を有している。
【0013】
発電要素10は、負極集電体111の両主面(発電要素の最下層用および最上層用は片面のみ)に負極合剤層110が配置された負極と、電解質層13と、正極集電体121の両主面に正極合剤層120が配置された正極12とを積層した構成を有している。具体的には、1つの負極合剤層110とこれに隣接する正極合剤層120とが、電解質層13を介して対向するようにして、負極11、電解質層13、正極12がこの順に積層されている。
【0014】
これにより、隣接する負極11、電解質層13および正極12は、1つの単電池層を構成する。したがって、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、単電池層が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。発電要素10の両最外層には、負極が設けられている。
【0015】
負極集電体111および正極集電体121には、各電極(負極11および正極12)と導通される負極タブ18および正極タブ19がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム22の端部に挟まれるようにラミネートフィルム22の外部に導出される構造を有している。負極タブ18および正極タブ19は、必要に応じて負極端子リード20および正極端子リード21を介して、各電極の負極集電体111および正極集電体121に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい(
図2にはこの形態を示す)。ただし、負極集電体111が延長されて負極タブ18とされ、ラミネートフィルム22から導出されていてもよい。同様に、正極集電体121が延長されて正極タブ19とされ、同様に電池外装材から導出される構造としてもよい。
【0016】
以下、本形態のリチウムイオン二次電池を構成する部材について簡単に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態も同様に採用されうる。
【0017】
(1−1)正極または負極
(1−1−1)集電体
集電体は導電性材料から構成され、その両面に活物質層が配置されて電池の電極を構成する。
【0018】
集電体を構成する材料に特に制限はないが、金属からなるものが好ましい。具体的には、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅等が挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属を組み合わせためっき材等が好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、銅が好ましい。
【0019】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はないが、通常は1〜100μm程度である。
【0020】
(1−1−2)正極合剤層
正極合剤層は正極活物質を含む。正極活物質は、放電時にイオンを吸蔵し、充電時にイオンを放出する組成を有する。好ましい一例としては、遷移金属とリチウムとの複合酸化物であるリチウム−遷移金属複合酸化物が挙げられる。具体的には、LiCoO
2等のLi・Co系複合酸化物、LiNiO
2等のLi・Ni系複合酸化物、スピネル構造を有するLiMn
2O
4等のLi・Mn系複合酸化物、LiFeO
2等のLi・Fe系複合酸化物およびこれらの遷移金属の一部を他の元素により置換したもの等が使用できる。これらリチウム−遷移金属複合酸化物は、反応性、サイクル特性に優れ、低コストな材料である。そのためこれらの材料を電極に用いることにより、出力特性に優れた電池を形成することが可能である。この他、前記正極活物質としては、LiFePO
4等の遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V
2O
5、MnO
2、TiS
2、MoS
2、MoO
3等の遷移金属酸化物や硫化物;PbO
2、AgO、NiOOH等、を用いることもできる。上記正極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0021】
正極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、正極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、二次電池は、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。なお、正極活物質が2次粒子である場合には該2次粒子を構成する1次粒子の平均粒子径が10nm〜1μmの範囲であるのが望ましいといえるが、本発明では、必ずしも上記範囲に制限されるものではない。ただし、製造方法にもよるが、正極活物質が凝集、塊状等により2次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる正極活物質の粒径および1次粒子の粒径は、レーザー回折法を用いて得られたメディアン径が使用できる。なお、正極活物質の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状等が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性等の電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。
【0022】
(1−1−3)負極合剤層
負極合剤層は負極活物質を含む。負極活物質は、放電時にイオンを放出し、充電時にイオンを吸蔵できる組成を有する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSn等の金属、あるいはTiO、Ti
2O
3、TiO
2、もしくはSiO
2、SiO、SnO
2等の金属酸化物、Li
4/3Ti
5/3O
4もしくはLi
7MnN等のリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボン等の炭素材料等が好ましく挙げられる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0023】
なお、負極活物質の粒子径や形状は、特に制限されない。
【0024】
活物質層には、必要であれば、その他の物質が含まれてもよい。例えば、導電助剤、バインダ等が含まれうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0025】
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)等の種々の炭素繊維、膨張黒鉛等が挙げられる。しかし、導電助剤がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0026】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド、PTFE、SBR、合成ゴム系バインダ等が挙げられる。しかし、バインダがこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0027】
活物質層に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより調整されうる。活物質層の厚さについても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、活物質層の厚さは、好ましくは10〜100μm程度であり、より好ましくは20〜50μmである。活物質層が10μm程度以上であれば、電池容量が充分に確保されうる。一方、活物質層が100μm程度以下であれば、電極深部(集電体側)にリチウムイオンが拡散しにくくなることに伴う内部抵抗の増大という問題の発生が抑制されうる。
【0028】
(1−1−4)電解質層
本形態に係る電解質層は、セパレータに液体電解質または高分子ゲル電解質が保持されてなる。
【0029】
(1−1−5)セパレータ
セパレータは、電解液を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。本形態のセパレータを構成する材料は、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、電解質(特に電解液)を吸収、保持、または担持することができる高分子材料からなる多孔性シートセパレータや、不織布セパレータ等が好適に用いられうる。また、これ以外にも、セルロースやセラミックからなるセパレータを用いてもよい。
【0030】
多孔性シートセパレータに用いられる高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、およびポリイミド等が挙げられる。また、不織布セパレータに用いられる材料としては、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリイミド、ならびにアラミド樹脂等が挙げられる。
【0031】
セパレータの製造方法も特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照して製造することができる。例えば、高分子材料からなる多孔性シートセパレータの場合は、高分子材料を一軸または二軸延伸することにより、微多孔を作製することができる。
【0032】
(1−1−6)電解質
液体電解質は、溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解したものである。溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4−メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびγ−ブチロラクトン(GBL)等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせた混合物として使用してもよい。
【0033】
また、支持塩(リチウム塩)としては、特に制限はないが、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiTaF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、Li
2B
10Cl
10、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF
2、LiSCN等の無機酸陰イオン塩、LiCF
3SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(C
2F
5SO
2)
2Nとも記載)等の有機酸陰イオン塩等が挙げられる。これらの電解質塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0034】
高分子ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PEO)、ポリプロピレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVdF−HFP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルアクリレート)(PMA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)等が挙げられる。また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体等も使用できる。これらのうち、PEO、PPOおよびそれらの共重合体、PVdF、PVdF−HFPを用いることが望ましい。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩等の電解質塩がよく溶解しうる。また、マトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。
【0035】
(1−2)タブ
図1および
図2に示すリチウムイオン二次電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続されたタブ(正極タブおよび負極タブ)が外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出されている。
【0036】
タブを構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用のタブとして従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極タブと負極タブとでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0037】
(1−3)正極端子リードおよび負極端子リード
図1および
図2に示すリチウムイオン二次電池1においては、負極端子リード20および正極端子リード21をそれぞれ介して、集電体はタブと電気的に接続されている。リードは、正極合剤層や負極合剤層が設けられていない集電体部分をそのまま延長したものであることが好ましい。
【0038】
(1−4)外装材
外装材としては、
図1に示すようなラミネートフィルム22を外装材として用いて、発電要素10をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。そのほか、従来公知の金属缶ケースを用いてもよい。
【0039】
(2)正極の端部
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池の断面視における正極の端部について説明する。
【0040】
(2−1)正極の端部の形状
まず、本実施形態の正極の端部の形状について、
図3を参照して説明する。
図3は、
図2のII線で囲まれた部分の拡大図である。
【0041】
図3に示すように、本実施形態の正極12の端部では、正極集電体121の両方の主面121a上に形成された正極合剤層120は、正極合剤層120の上面120aから正極集電体121の主面121aに向かって厚みが漸減する部分(以下「漸減部」という)を有する。
正極合剤層120は、正極集電体121の主面121aに正極活物質を含む正極合剤のペーストを吐出するコーターを用いて塗着することで形成することができる。漸減部の断面形状は、コーターのノズルから吐出されるペーストの量を調節するバルブを開閉すること(例えば、当該バルブを閉じる速度を調整すること等)によって形成される。
【0042】
以下、正極合剤層120の厚みが漸減し始める点Psを「漸減始点」といい、正極合剤層120の漸減部の表面(以下「漸減面」という)120bと正極集電体121の主面121aとの交点(つまり、正極合剤層120の厚みが0になる点)Peを「漸減終点」という。
本実施形態の正極の端部では、正極合剤層120の漸減面120bに対して接線を引いた場合に2点と接するように漸減面120bが形成されている。当該接線Tと、漸減面120bとの2点のうち、正極集電体121の主面121a側(つまり、漸減終点Pe側)の接点P1を「第1接点」といい、正極合剤層120の上面120a側(つまり、漸減始点Ps側)の接点P2を「第2接点」という。
【0043】
図3に示すように、本実施形態の正極の端部では、正極合剤層120の漸減面120bは、第1接点P1と第2接点P2との間において凹んだ形状を有している。
【0044】
正極集電体121の主面121aのうち、正極合剤層120が設けられていない部分(つまり、漸減終点Peに対して、正極合剤層120とは反対側の部分)から、正極合剤層120の漸減面120bの一部までの領域は、絶縁体122によって覆われている。
【0045】
以下、絶縁体122の正極集電体121の主面121a上の両端122a及び122bのうち、正極合剤層120の漸減面120b側の端122aを「第1端」といい、正極集電体121の主面121a側の端122bを「第2端」という。
【0046】
絶縁体122の第1端122aは、第1接点P1と第2接点P2との間に位置している。
【0047】
正極合剤層120の漸減面120bのうち、絶縁体122の第1端122aから漸減終点Peまでの領域は、絶縁体122によって覆われた面(以下「被覆面」という)である。第1接点P1は、被覆面に含まれる。
一方、正極合剤層120の漸減面120bのうち、漸減始点Psから絶縁体122の第1端122aまでの領域は、絶縁体122によって覆われた面(以下「非被覆面」という)である。第2接点P2は、非被覆面に含まれる。
【0048】
(2−2)正極の端部におけるリチウムイオンの動き
次に、本実施形態の正極の端部におけるリチウムイオンの動きについて、
図3を参照して説明する。
【0049】
以下、正極合剤層120のうち、第1端122aから正極集電体121の主面121aに下ろした垂線V1と、正極集電体121の主面121aと、正極合剤層120の漸減面120bと、によって囲まれる領域A1を「第1領域」という。正極合剤層120の第1領域A1は、被覆面に対応する。つまり、正極合剤層120の漸減面120bのうち、第1領域A1に対応する部分は絶縁体122によって覆われている。
また、正極合剤層120のうち、垂線V1と、漸減始点Psから正極集電体121の主面121aに下ろした垂線V2と、正極集電体121の主面121aと、正極合剤層120の漸減面120bと、によって囲まれる領域A2を「第2領域」という。正極合剤層120の第2領域A2は、非被覆面に対応する。つまり、正極合剤層120の漸減面120bのうち、第2領域A2に対応する部分は絶縁体122によって覆われていない。
また、正極合剤層120のうち、正極合剤層120の上面120aと主面121aとの間の領域A3を「第3領域」という。正極合剤層120の第3領域A3の表面、つまり、正極合剤層120の上面120aは絶縁体122によって覆われていない。
【0050】
正極合剤層120の第1領域A1〜第3領域A3には、それぞれ、正極合剤層120の厚さに応じた量の正極活物質が含まれている。
【0051】
正極合剤層120の第1領域A1に含まれる正極活物質が放出するリチウムイオンは、第1領域A1の表面上に絶縁体122が設けられているため、正極合剤層120の漸減面120bのうち第1領域A1に対応する部分(つまり、被覆面)からは放出されず、第2領域A2に移動する。
一方、正極合剤層120の第2領域A2に含まれる正極活物質が放出するリチウムイオンは、正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する部分(つまり、非被覆面)から放出される。また、第1領域A1から第2領域A2に移動したリチウムイオンも、正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する非被覆面の一部から放出される。
換言すると、正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する部分(つまり、非被覆面)からは、第2領域A2に含まれる正極活物質からリチウムイオンが放出されるだけでなく、第1領域A1に含まれる正極活物質から移動したリチウムイオンも放出される。
【0052】
(3)本実施形態の比較例および本実施形態の効果
次に、本実施形態の比較例および本実施形態の効果について、
図4を参照して説明する。
図4は、本実施形態の比較例の正極活物質層の端部の拡大図である。
【0053】
図4に示すように、本実施形態の比較例の正極12の端部は、正極合剤層120の漸減面120bが一定角度で傾斜する(つまり、凹んでいない)形状を有している点において、
図3に示す本実施形態の正極12の端部と異なる。
【0054】
上記のとおり、本実施形態の比較例の正極合剤層120の漸減面120bは凹んでいない形状を有している。したがって、リチウムイオン二次電池の断面視において、
図3に示す本実施形態の第1領域A1および第2領域A2の面積は、
図4に示す本実施形態の比較例の第1領域A1および第2領域A2の面積より小さくなるように形成されている。
そのため、本実施形態の第1領域A1および第2領域A2に含まれる正極活物質から放出されるリチウムイオンの量は、本実施形態の比較例の第1領域A1および第2領域A2に含まれる正極活物質から放出されるリチウムイオンの量より少ない。
したがって、本実施形態の第2領域A2から放出されるリチウムイオンの量は、本実施形態の比較例の第2領域A2から放出されるリチウムイオンの量より少ない。
【0055】
一般に、正極合剤層120から放出されたリチウムイオンは、正極合剤層120に対向する負極合剤層110に含まれる負極活物質によって吸蔵される。そのため、負極活物質が吸蔵できるリチウムイオン量の上限(以下「上限吸蔵量」という)は、正極合剤層120の最も厚い部分(つまり、上面120a)から放出されるリチウムイオンの量を基準として決められている。しかし、比較例では、正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する部分から放出されるリチウムイオン(つまり、第1領域A1および第2領域A2に含まれる正極活物質から放出されるリチウムイオン)の量は、負極活物質の上限吸蔵量を超える場合がある。
正極合剤層120から放出されたリチウムイオンの量が負極活物質の上限吸蔵量を超えた場合、当該リチウムイオンは、リチウムイオン化合物となって負極の表面に析出する可能性が増大する。 負極の表面に析出したリチウム化合物は、電池性能を低下させる要因になる。すなわち、比較例のリチウムイオン二次電池は、絶縁体122の第1端122aの位置次第では、その電池性能が低下する可能性がある。
【0056】
本実施形態の比較例の場合とは異なり、本実施形態では、正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する部分から放出されるリチウムイオンの量が、本実施形態の比較例の正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する部分から放出されるリチウムイオンの量より少なくなるように、正極12の端部の形状が形成され、かつ、絶縁体122の第1端122aの位置が設定されている。
これにより、負極の表面にリチウム化合物が析出する可能性を低減することができる。その結果、負極11の表面に析出したリチウム化合物に起因する電池性能の低下を回避することができる。
特に、絶縁体122と正極合剤層120の重複幅を所定寸法確保したまま、第2領域A2から放出されるリチウムイオンの量を少なくできるので、絶縁性を確保したい領域を広くとれる 。
【0057】
(4)本実施形態の変形例
以下、本実施形態の変形例について、
図5〜
図8を参照して説明する。なお、本実施形態の変形例の正極の端部におけるリチウムイオンの動きについては、本実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
(4−1)本実施形態の変形例1
本実施形態の変形例1の正極の端部の形状について、
図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態の変形例1における
図2のII線で囲まれた部分の拡大図である。
【0059】
図5に示すように、本実施形態の変形例1の正極12の端部は、次の点において本実施形態(
図3)と異なる。
・漸減終点Peと第1接点P1が一致する点
・漸減始点Psと第2接点P2が一致する点
・正極合剤層120の漸減面120bは、第1接点P1と第2接点P2との間において凹んだ形状を有し、かつ、2本の線の組み合わせによって構成される点
【0060】
(4−2)本実施形態の変形例2
本実施形態の変形例2の正極の端部の形状について、
図6を参照して説明する。
図6は、本実施形態の変形例2における
図2のII線で囲まれた部分の拡大図である。
【0061】
図6に示すように、本実施形態の変形例2の正極12の端部は、次の点において本実施形態(
図3)と異なる。
・漸減始点Psと第2接点P2が一致する点
・正極合剤層120の漸減面120bは、第1接点P1と第2接点P2との間において凹んだ形状を有し、かつ、2本の線の組み合わせによって構成される点
【0062】
(4−3)本実施形態の変形例3
本実施形態の変形例3の正極の端部の形状について、
図7を参照して説明する。
図7は、本実施形態の変形例3における
図2のII線で囲まれた部分の拡大図である。
【0063】
図7に示すように、本実施形態の変形例3の正極12の端部は、次の点において本実施形態(
図3)と異なる。
・漸減終点Peと第1接点P1が一致する点
・漸減始点Psと第2接点P2が一致する点
・正極合剤層120の漸減面120bは、第1接点P1と第2接点P2との間において凹んだ形状を有し、かつ、円弧によって構成される点
【0064】
(4−4)本実施形態の変形例4
本実施形態の変形例4の正極の端部の形状について、
図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態の変形例4における
図2のII線で囲まれた部分の拡大図である。
【0065】
図8に示すように、本実施形態の変形例4の正極12の端部は、次の点において本実施形態(
図3)と異なる。
・第1接点P1と第2接点P2との間に、接線Tに接する第3接点P3が存在する点
【0066】
本実施形態の変形例1〜4のいずれにおいても、正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する部分から放出されるリチウムイオンの量が、本実施形態の比較例の正極合剤層120の漸減面120bのうち第2領域A2に対応する部分から放出されるリチウムイオンの量より少なくなるように、正極12の端部の形状が形成され、かつ、絶縁体122の第1端122aの位置が設定されている。
これにより、本実施形態と同様に、負極11の表面に析出したリチウム化合物に起因する電池性能の低下を回避することができる。
【0067】
(5)本実施形態の小括
以下、本実施形態について小括する。
【0068】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極集電体121の主面121aに設けられ、かつ、リチウムイオンを吸蔵または放出する正極活物質を含む正極合剤層120と、負極集電体111の主面に設けられ、かつ、リチウムイオンを吸蔵または放出する負極活物質を含む負極合剤層110と、正極合剤層120と負極合剤層110との間に設けられた電解質層13と、正極集電体121の主面121aのうち正極合剤層120が設けられていない部分から、正極合剤層120の厚みが漸減する漸減部の表面の一部までの領域を覆う絶縁体122と、を備えている。正極合剤層120の漸減部の表面は、当該表面に引かれた接線Tと接する少なくとも2つの接点P1,P2の間において凹んだ形状を有している。絶縁体122の端122aは、2つの接点P1,P2の間に位置している。
【0069】
本実施形態によれば、上記の構成により、リチウム化合物の析出に起因するリチウムイオン二次電池の電池性能の低下を防ぐことができる。
【0070】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、集電体の一方の面に正極活物質層、他方の面に負極活物質層を形成し、電解質層を介して交互に積層した双極型電池に適用してもよい。
【0071】
また、例えば、絶縁体122の端部122aが、漸減部の中央より上方にあってもよい。この場合でも、絶縁体122によって覆われた被覆表面に対応する部分から放出されるリチウムイオンの量は、正極12の端部が凹んでいる分、従来よりも少なくなる。つまり、絶縁体122と正極合剤層120の重複幅を所定寸法確保したまま、絶縁体122によって覆われた被覆表面に対応する部分から放出されるリチウムイオンの量を少なくできるので、絶縁性を確保したい領域を広くとれる。