【文献】
NIWA, Eiki et al.,Conductivity and sintering property of LaNi1-xFexO3 ceramics prepared by Pechini method,Solid State Ionics,2011年,Volume 201, Issue 1,p.87-93
【文献】
JULPHUNTHONG, Phongthorn et al.,The Effects of Firing Temperatures and Dwell Time on Phase and Morphology Evolution of LaNi0.6Fe0.4O,Ferroelectrics,2013年,Volume 454, Issue 1,p.135-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.導電性酸化物焼結体及びその組成
本発明の一実施形態としての導電性酸化物焼結体は、少なくともLa、Fe、及びNiを含むペロブスカイト型導電性酸化物で形成された主相と、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相(但し、M=Co、Fe、Ni)で形成された副相と、を含む焼結体である。ここで「主相」とは、XRD測定において、最大ピーク強度を示す結晶相を意味する。各種のペロブスカイト型酸化物のうち、La、Fe、及びNiを含む導電性酸化物は、導電率が高く、B定数(温度係数)の絶対値が小さいという好ましい特性が得られるので、電極材料として好適である。本願の発明者は、導電性酸化物焼結体が、このようなペロブスカイト型導電性酸化物で形成された主相と、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相(但し、M=Co、Fe、Ni)で形成された副相とを含む場合に、特に高い導電率を有することを見出した。なお、ペロブスカイト型導電性酸化物の結晶相(単に「ペロブスカイト相」と呼ぶ)が主相でなくなると焼結体全体の導電率が低下するので、ペロブスカイト相が主相であることが好ましい。
【0015】
一実施形態による導電性酸化物焼結体は、以下の組成式を満たすことが好ましい。
La
aCo
bFe
cNi
dO
x …(1)
ここで、a+b+c+d=1、1.25≦x≦1.75である。また、係数a,b,c,dは以下の関係を満たすことが好ましい。
0.487≦a≦0.512 …(2a)
0≦b≦0.200 …(2b)
0.050≦c≦0.230 …(2c)
0.200≦d≦0.350 …(2d)
【0016】
上記(2a)〜(2d)式の関係を満たすようにすれば、300S/cm以上の十分に高い室温導電率を達成できる。ここで、「室温導電率」とは25℃における導電率を意味する。係数a,b,c,dがこれらの範囲外になると、300S/cm以上の室温導電率が得られないか、又は、La
4M
3O
10相とLa
3M
2O
7相がいずれも出現しない場合があるので好ましくない。
【0017】
なお、上記係数a,b,c,dは、以下の関係を満たすことが更に好ましい。
0.487≦a≦0.510 …(3a)
0≦b≦0.200 …(3b)
0.050≦c≦0.230 …(3c)
0.250≦d≦0.300 …(3d)
係数a,b,c,dがこれらの関係を満足すれば、更に高い室温導電率を達成できる。
【0018】
O(酸素)の係数xに関しては、上記組成を有する酸化物焼結体がすべてペロブスカイト相からなる場合には、理論上はx=1.50となる。但し、酸化物焼結体は、ペロブスカイト相の主相の他に、ペロブスカイト相では無い副相も含むので、典型的な例として、xの範囲を1.25≦x≦1.75と規定している。
【0019】
なお、本発明の実施形態に係る導電性酸化物焼結体は、導電性に影響を与えない範囲で極微量のアルカリ土類金属元素を含有することが許容されるが、アルカリ土類金属元素を実質的に無含有とすることが好ましい。ここで、「実質的に無含有」とは、ICP発光分析により構成元素の含有割合を評価した場合に、アルカリ土類金属元素の含有割合が0.3%以下であることを意味する。このICP発光分析は、JISK0116に基づいて行い、試料の前処理は塩酸溶解法を用いる。Sr等のアルカリ土類金属元素を含んだ導電性酸化物焼結体を電極として用いたガスセンサ(例えば酸素センサ)は、高温の実使用環境下で長期間使用することにより、アルカリ土類金属元素がガスセンサの基材(例えばイットリア安定化ジルコニア)に拡散し、アルカリ土類金属元素の拡散による電極自体の特性の劣化や、又は、ガスセンサの性能(インピーダンス等)低下を招く可能性がある。このため、導電性酸化物焼結体は、アルカリ土類金属元素を実質的に無含有とすることが望ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る酸化物焼結体は、例えば、各種の電極や、電気配線、導電用部材、ガスセンサ、熱電材料、ヒータ材料、及び、温度検知用素子に、金属の代替物として用いることができる。例えば、導電用部材は、セラミックス製の基材の表面に、導電性酸化物焼結体で形成された導電体層を有するものとして実現可能である。また、ガスセンサは、導電性酸化物焼結体で形成された電極を備えるものとして実現可能である。
【0021】
B.製造方法
図1は、本発明の一実施形態における導電性酸化物焼結体の製造方法を示すフローチャートである。工程T110では、導電性酸化物焼結体の原料粉末を秤量した後、湿式混合して乾燥することにより、原料粉末混合物を調整する。原料粉末としては、例えば、La(OH)
3、Co
3O
4、Fe
2O
3及びNiOを用いることができる。これらの原料粉末としては、すべて純度99%以上のものを用いることが好ましい。なお、La原料としては、La(OH)
3の代わりにLa
2O
3を利用することも可能であるが、La(OH)
3を用いることが好ましく、La
2O
3を用いないことが好ましい。この理由は、La
2O
3には吸水性があるので正確に調合することが困難であり、導電率の低下や再現性の低下を招く可能性があるためである。工程T120では、この原料粉末混合物を大気雰囲気下、700〜1200℃で1〜5時間仮焼して仮焼粉末を作成する。工程T130では、この仮焼粉末に適量の有機バインダを加え、これを分散溶媒(例えばエタノール)と共に樹脂ポットに投入し、ジルコニア玉石を用いて湿式混合粉砕してスラリーを得る。工程T130では、得られたスラリーを80℃で2時間ほど乾燥し、さらに、250μmメッシュの篩を通して造粒し、造粒粉末を得る。工程T140では、得られた造粒粉末をプレス機によって成形する。工程T150では、大気雰囲気下、工程T120における仮焼温度よりも高い焼成温度(1300〜1600℃)で1〜5時間焼成することによって導電性酸化物焼結を得る。焼成の後には、必要に応じて導電性酸化物焼結体の平面を研磨してもよい。
【0022】
図2(A)は、導電性酸化物焼結体を用いたガスセンサの一例を示す正面図であり、
図2(B)はその断面図である。このガスセンサ100は、長手方向に延びるとともに、有底筒状をなすセラミック(具体的には、イットリアを安定化剤としてドープさせたジルコニア)製の基材110と、基材110の外面に形成された貴金属の外部電極120と、基材110の内面に形成された基準電極130(参照電極)とを有する酸素センサである。基準電極130は、導電性酸化物焼結体で形成された導電体層である。この例では、基準電極130は、基材110の内面のほぼ全面にわたって形成されている。なお、外部電極120は、排気ガス等の被測定ガスに接する一方、基準電極130は酸素濃度検出にあたって基準となる酸素濃度を含んだ参照ガス(例えば、大気)に接する。
【0023】
図3は、ガスセンサ100の製造方法を示すフローチャートである。工程T210では、基材110の材料(例えばイットリア安定化ジルコニア粉末)をプレス成形し、
図2に示す形状(筒状)となるように切削し、生加工体(未焼結成形体)を得る。工程T220では、生加工体の表面に、PtやAuペーストを用いて、印刷またはディップ法により、外部電極120を形成する。工程T230では、
図1の工程T110,T120に従って作成された導電性酸化物の仮焼粉末を、ターピネオールやブチルカルビトール等の溶媒に、エチルセルロース等のバインダとともに溶解してペーストを作成し、焼結済みのイットリア安定化ジルコニア筒状焼結体の内側に塗布する。工程T240では、乾燥を行った後、大気雰囲気下、1250〜1600℃で1〜5時間焼成することによってガスセンサを得る。なお、上述した
図1及び
図3の製造方法における各種の製造条件は一例であり、製品の用途等に応じて適宜変更可能である。
【0024】
C.実施例及び比較例
図4は、実施例及び比較例としての複数のサンプルの組成及び特性を示している。図面において、サンプル番号に「*」が付されたサンプルは比較例であり、「*」が付されていないサンプルは実施例である。各サンプルの酸化物焼結体は、
図1で説明した製造方法に従ってそれぞれ作製し、最後に平面研磨を行って、3.0mm×3.0mm×15.0mmの直方体状のサンプルを得た。なお、工程T110では、
図4に示す組成に従って原料を秤量・混合した。
【0025】
図4には、各サンプルの組成の他に、焼結体に含まれる結晶相の同定結果と、室温導電率の分析結果を示している。結晶相の欄の「LaMO
3」は、ペロブスカイト型酸化物を意味している。また、「La
2MO
4」は、いわゆるA
2BO
4型構造を有する複合酸化物である。A
2BO
4型構造を有する複合酸化物は、「層状ペロブスカイト型複合酸化物」とも呼ばれている。本明細書において、「層状」の接頭語を付すことなく単に「ペロブスカイト型酸化物」と言う場合には、ABO
3型構造を有する酸化物を意味する。表中の「○」印は、その結晶相が検出されたことを意味しており、「−」印は、その結晶相が検出されなかったことを意味している。結晶相の同定と室温導電率の分析は、以下のように行った。
【0026】
<XRD測定>
各サンプルの焼結体を粉砕して粉末とし、粉末X線回折(XRD)測定を行い、結晶相の同定を行った。測定条件は以下の通りである。
・測定装置:リガク社製RINT−TTR−III(ゴニオ半径285mm)
・光学系 :集中型光学系ブラッグ−ブレンターノ型
・X線出力:50kV−300mA
・その他の測定条件:
発散SLIT:1/3°、発散縦制限SLIT:10mm、散乱SLIT:1/3°、受光SLIT:0.3mm、走査モード:FI、計数時間:2.0sec、ステップ幅:0.0200°、走査軸:2θ/θ、走査範囲:20.00°〜120.00°、回転:有
【0027】
図5は、サンプルS2のXRDパターンを示している。
図5の最上段はサンプルS2のXRD強度Iを示し、中段はその平方根√Iを示し、最下段はペロブスカイト相(具体的にはLaFe
0.6Ni
0.4O
3)のXRDパターン(JCPDSカード)を示している。このサンプルS2では、ペロブスカイト相以外の結晶相は検出されなかった。
【0028】
図6は、サンプルS6のXRDパターンを示している。
図6の最上段はサンプルS6のXRD強度Iを示し、上から2段目はその平方根√Iを示し、3段目はその拡大図を示し、4段目はペロブスカイト相(具体的にはLaFe
0.6Ni
0.4O
3)のXRDパターンを示し、最下段はLa
4M
3O
10相(具体的にはLa
4Ni
3O
10)のXRDパターンを示している。このサンプルS6では、ペロブスカイト相の他に、La
4Ni
3O
10相が検出された。また、最大ピークを示す結晶相はペロブスカイト相であった。
【0029】
図7は、サンプルS7のXRDパターンを示している。
図7の最上段はサンプルS7のXRD強度Iを示し、上から2段目はその平方根√Iを示し、3段目はその拡大図を示し、4段目はペロブスカイト相(具体的にはLaFe
0.6Ni
0.4O
3)のXRDパターンを示し、5段目はLa
4M
3O
10相(具体的にはLa
4Ni
3O
10)のXRDパターンを示し、最下段はNiO相のXRDパターンを示している。このサンプルS7では、ペロブスカイト相の他に、La
4Ni
3O
10相とNiO相が検出された。また、最大ピークを示す結晶相はペロブスカイト相であった。
図4の結晶相の同定結果の欄は、各サンプルについての以上のような分析結果を示したものである。
【0030】
<導電率の測定>
導電率は、直流4端子法により測定した。測定に用いる電極及び電極線にはPtを用いた。また、導電率の測定には、電圧・電流発生器(エーディーシー社製のモニタ6242型)を用いた。
【0031】
図4に示した実施例のサンプルS4〜S7,S12〜S14,S17〜S19,S21〜S23は、いずれも上記(1),(2a)〜(2d)式で与えられる組成を満たしている。これらのサンプルは、すべて300S/cm以上の高い室温導電率を有している点で好ましい。一方、比較例のサンプルS1〜S3,S8〜S11,S15〜S16,S20は、実施例のサンプルに比べて室温導電率が低いことが理解できる。
【0032】
実施例のサンプルS4〜S7,S12〜S14,S17〜S19,S21〜S23のうち、サンプルS7,S14,S23を除くサンプルS4〜S6,S12〜S13,S17〜S19,S21〜S22は、いずれも上記(1),(3a)〜(3d)式で与えられる組成を満たしている。これらのサンプルは、350S/cm以上の更に高い室温導電率を達成できる点で特に好ましい。
【0033】
図8は、Ni含有量と室温導電率との関係を示すグラフである。このグラフは、
図4に示したサンプルのうち、係数aがa=0.500であり、係数cがc=(0.500−b−d)の関係にあるサンプルについての結果をまとめたものである。塗り潰しマークは実施例のサンプルを示し、白抜きマークは比較例のサンプルを示す。このグラフから、Niの係数dは、0.200≦d≦0.350の範囲が好ましく、0.250≦d≦0.300の範囲が特に好ましいことが理解できる。
【0034】
図9は、
図4のサンプルから選択した代表的なサンプルS6,S12,S18,S21と、追加的な1つのサンプルS24(比較例)に関して、B定数と熱起電力とを示している。これらのサンプルは、a=0.500で共通しており、係数bの値が互いに異なる点が最も大きな相違点である。B定数と熱起電力の値は以下のように測定した。
<B定数の測定方法>
上記<導電率の測定>で説明した方法で測定した25℃と870℃の導電率から、次式に従ってB定数(K
-1)を算出した。
B定数=ln(ρ1/ρ2)/(1/T1−1/T2) …(4)
ρ1=1/σ1
ρ2=1/σ2
ρ1:絶対温度T1(K)における抵抗率(Ωcm)
ρ2:絶対温度T2(K)における抵抗率(Ωcm)
σ1:絶対温度T1(K)における導電率(S/cm)
σ2:絶対温度T2(K)における導電率(S/cm)
T1=298.15(K)
T2=1143.15(K)
【0035】
<熱起電力の測定>
熱起電力は、定常直流法により測定した。各サンプル(3.0mm×3.0mm×15.0mm)の長手方向両端よりもやや中央寄りで互いに所定距離だけ離れた2箇所にPt線を巻きつけ、導電率の電位差測定用電極として利用した。また、サンプルの両端にスパッタでAuを蒸着し、その両端にPt板またはPt網で形成された外側白金電極をそれぞれ設けた状態でサンプルの両端を石英管で挟み込んでサンプルを固定した。測定時には、2つの外側白金電極の間に定電流を印加するとともに、片側の石英管に高温の空気を送り込むことによって外側白金電極間に温度差を発生させた。さらに、外側白金電極にR熱電対(Pt−Pt13Rh)を取り付けて、温度差を読み取った。空気流量を変化させることによって温度差を段階的に生じさせ、電位差−温度差の相関関係を求め、最小二乗法により770℃における熱起電力を算出した。なお、測定にはオザワ科学社製RZ2001kを用いた。また、測定は大気雰囲気下で行った。
【0036】
図9に示した代表的なサンプルでは、B定数の絶対値が200K
-1以下であって十分に小さく、温度が変化しても十分に高い導電率が得られる。実施例の他のサンプルについては図示を省略しているが、ほぼ同様の傾向を示すことが確認された。すなわち、実施例のサンプルS4〜S7,S12〜S14,S17〜S19,S21〜S23は、導電体層として使用するのに適したB定数を有する。
【0037】
図9に示した代表的なサンプルでは、更に、770℃における熱起電力の絶対値が15μV/K以下であり、特に、実施例のサンプルS6,S18,S21では11μV/K以下の良好な特性が得られた。このように、770℃における熱起電力の絶対値が十分に小さな導電性酸化物焼結体は、酸素センサの電極用の導電性酸化物焼結体として特に適したものである。すなわち、酸素センサでは、電極の両端に約500℃にも達する温度差が生じる可能性があるが、770℃における熱起電力の絶対値が小さな導電性酸化物焼結体を電極材料として用いることにより、電極の両端の温度差に応じて発生するノイズが十分に小さくなるので、測定誤差の増大を抑制することができる。実施例の他のサンプルについては図示を省略しているが、いずれも熱起電力の絶対値が11μV/K以下であることが確認された。
【0038】
図10は、代表的なサンプルS2,S6,S7に関して、結晶相の比率を比較して示している。結晶相の比率は、多相リートベルト解析により算出した。
<リートベルト解析>
リートベルト解析には、Rietan−FPコードを用いた。上述したXRD測定によって得られたXRDパターンに対して、Rietan−FPコードにより多相リートベルト解析を行い、主相と副相の比率を算出した。精密化に用いたピーク関数には分割型Pearson VII関数を選択し、斜方晶LaMO
3相には空間群P n m a(#62)を、菱面体晶LaMO
3相には空間群R−3c(#167)を、La
4M
3O
10相には空間群F m m m(#69)を、NiO相には空間群Fm−3c(#225)を用いた。「分割型Pearson VII関数」については、 H. Toraya, J. Appl. Crystallogr. 23, 485 (1990)を参照。
【0039】
図10に示したサンプルS2,S6,S7は、a=0.500,b=0.0である点で共通しており、Feの係数cとNiの係数dとが異なる。係数cが減小し係数dが増加するに従って、ペロブスカイト相(LaMO
3相)の比率が低下して、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相(但し、M=Co、Fe、Ni)が出現し増加する傾向にある。また、係数dが0.35近傍にまで大きくなると、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相に加えてNiO相も出現する。La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相が出現すると、室温導電率が急激に上昇する点で好ましい。なお、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相の含有割合は、36wt%以下であることが好ましい(サンプルS7参照)。この理由は、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相の含有割合が36wt%を越えると、導電性であるペロブスカイト相の含有割合が過度に小さくなって、焼結体の導電率が低下する可能性があるからである。例えば、
図4のサンプルS8は、サンプルS7よりも係数dが大きいので、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相の含有割合が36wt%よりも高い。サンプルS8の室温導電率がサンプルS6よりも低い理由は、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相の含有割合が36wt%を越えているからであると推定される。
【0040】
図10に即して説明した上述の傾向は、a=0.500,b=0.0の場合に限らず、他の組成の場合にも同様に存在すると推定される。すなわち、一般に、上記(1)式の組成を有する酸化物焼結体は、係数aと係数bが一定の場合、係数cと係数dの比率の変化に伴って、焼結体に含まれる結晶相も変化する。係数dが小さい(すなわち、Niが少ない)組成領域では、焼結体はペロブスカイト相の単一相で形成され、副相が現れない。一方、係数dの増大(係数cの減小)に伴って、ペロブスカイト相に加えて、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相(但し、M=Co、Fe、Ni)が出現する。さらに、係数dが増大する(係数cが減小する)と、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相に加えて、NiO相が出現し、ペロブスカイト相が更に減少する。係数dが更に増大する(係数cが減小する)と、ペロブスカイト相が消失し、La
2NiO
4相が生成する(
図4のサンプルS9,S10参照)。
【0041】
このような結晶相の変化の中で、導電率は、焼結体が、主相のペロブスカイト相に加えて、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相を含む場合に最も高くなる。一方、ペロブスカイト相が主相ではなくなると導電率は低下する。導電率は、係数cと係数dの比率(結晶相の割合)にのみ依存するのではなく、係数bにも影響を受ける。しかし、係数bが一定の場合は、係数bがいずれの値であっても同様に、係数cと係数dの比率に依存して導電率と結晶相が変化する。但し、係数bが減少するに伴って、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相が出現し始める係数dの値は増大する(係数cの値は減小する)。
【0042】
図11は、ペロブスカイト相からなる主相と、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相からなる副相が共存する範囲のNi含有量を示すグラフである。Coの係数bがb=0の場合には、0.270≦d≦0.350の範囲において両者が共存する。b=0.050の場合には、0.250≦d≦0.350の範囲において両者が共存する。b=0.150の場合には、0.200≦d≦0.300の範囲において両者が共存する。このように、上記(1)式で与えられる組成のうちで、Coの係数bに応じて、Niの係数dを適宜設定することによって、ペロブスカイト相からなる主相と、La
4M
3O
10相又はLa
3M
2O
7相からなる副相とを共存させることが可能である。
【0043】
図12(A)は、
図4に示したサンプルのCo,Ni,Feの比率を示す三角図である。ここでは、
図4に示したサンプルS1〜S23のうち、Laの係数aが同一のサンプルS1〜S21について、他の3つの成分Co,Ni,Feの係数b,c,dの比率を示している。ここでは図示の便宜上、(1)式の係数b,c,dの代わりに、それらを2倍した係数B,C,Dを使用した。すなわち、a=0.500であり、B=2b,C=2c,D=2d、B+C+D=1.0とした。黒丸は実施例のサンプルに相当し、黒三角は比較例のサンプルに相当する。
【0044】
図12(B)は、上述した(2c)〜(2d)式で区画される組成領域R2をハッチングで示したものである。この組成領域R2は、次式で与えられる。
0≦B≦0.400 (0≦b≦0.200) …(5b)
0.100≦C≦0.460 (0.050≦c≦0.230) …(5c)
0.400≦D≦0.700 (0.200≦d≦0.350) …(5d)
【0045】
この(5b)〜(5d)式は、上述した(2c)〜(2d)と等価である。また、この組成領域R2は、
図4に示した実施例のサンプルS4〜S7,S12〜S14,S17〜S19,S21を包含する領域に相当する。この組成領域R2では、主相のペロブスカイト相に加えて、La
4M
3O
10相またはLa
3M
2O
7相が副相として生成し、また、高い導電率を有する。
【0046】
図12(C)は、上述した(3a)〜(3d)式で区画される組成領域R3をハッチングで示したものである。この組成領域R3は、次式で与えられる。
0≦B≦0.400 (0≦b≦0.200) …(6b)
0.100≦C≦0.460 (0.050≦c≦0.230) …(6c)
0.500≦D≦0.600 (0.250≦d≦0.300) …(6d)
【0047】
この(6b)〜(6d)式は、上述した(3c)〜(3d)と等価である。また、この組成領域R3は、
図4に示した実施例のサンプルS4〜S6,S12〜S13,S17〜S19,S21を包含する領域に相当する。この組成領域R3では、
図12(B)の組成領域R2に比べて更に高い導電率が得られる。
【0048】
なお、係数B(=2b)に関しては、B>0.400(b>0.200)となると、770℃における熱起電力の絶対値が過度に大きくなる可能性がある(
図9参照)。
【0049】
係数C(=2c)に関しては、C<0.100(c<0.050)となると、770℃における熱起電力の絶対値が過度に大きくなる可能性がある(
図9参照)。また、C>0.460(c>0.230)になると、La
4M
3O
10相またはLa
3M
2O
7相が消失し、導電率が低下する可能性がある(
図4のサンプルS3,S4参照)。
【0050】
係数D(=2d)に関しては、
図10でも説明したように、D>0.700(d>0.350)となると、La
4M
3O
10相またはLa
3M
2O
7相の含有割合が36wt%よりも多くなり、導電率が低下する可能性がある。また、D<0.400(d<0.200)となると、La
4M
3O
10相またはLa
3M
2O
7相が消失し、導電率が低下する可能性がある(
図4のサンプルS16,S17参照)。
【0051】
図12に即して説明した上述の好ましい組成領域R2,R3は、係数aがa=0.500の場合に限らず、係数aが他の値を取る場合にも同様に適用できるものと推定される。この理由は、係数aの好ましい範囲が0.487〜0.512と比較的狭い範囲に限られているので、係数aがこの範囲内で多少変わっても、好ましい組成領域R2,R3に与える影響が小さいと推定されるためである。
【0052】
・変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。