(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571384
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】車両用前照灯の点灯制御装置、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20190826BHJP
F21S 41/663 20180101ALI20190826BHJP
F21S 41/153 20180101ALI20190826BHJP
F21S 41/25 20180101ALI20190826BHJP
F21W 102/145 20180101ALN20190826BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20190826BHJP
【FI】
B60Q1/14 A
F21S41/663
F21S41/153
F21S41/25
F21W102:145
F21Y115:10
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-99427(P2015-99427)
(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公開番号】特開2016-215692(P2016-215692A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中谷 昭広
【審査官】
下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−016773(JP,A)
【文献】
特開2015−016774(JP,A)
【文献】
特開2013−246968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
F21S 41/153
F21S 41/25
F21S 41/663
F21W 102/145
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を基準とした左右方向に配列された複数の照射ゾーン毎に個別に光照射可能であって、当該複数の照射ゾーンへの照射光を用いることで複数の領域に対する選択的な光照射を行うことが可能な車両用前照灯システムであって、
点灯制御装置と、
前記点灯制御装置によって制御される車両用前照灯と、
を含み、
前記点灯制御装置は、
前方車両の位置を検出する車両検出部と、
前記複数の領域のうち、前記前方車両の位置に応じた少なくとも1つの領域を光の非照射範囲として設定し、残りの領域を光照射範囲として設定する光照射範囲設定部と、
前記光照射範囲設定部によって設定される前記光照射範囲及び前記非照射範囲に対応した制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力する配光制御部と、
を含み、
前記複数の領域は、前記車両を基準とした左右方向において相互間に隙間なく配置されており、かつ、少なくとも、
前記車両を基準とした左右方向における左端に位置しており前記複数の照射ゾーンのうちの1つである第1照射ゾーンへの前記照射光の一部分で形成される左端領域と、
前記車両を基準とした左右方向における右端に位置しており前記複数の照射ゾーンのうちの1つである第2照射ゾーンへの前記照射光の一部分で形成される右端領域と、
前記左端領域と前記右端領域の間に位置しており、前記第1照射ゾーンと当該第1照射ゾーンの右隣の照射ゾーンの各々への前記照射光の一部分を重ねて形成される第1中間領域及び前記第2照射ゾーンと当該第2照射ゾーンの左隣の照射ゾーンの各々への前記照射光の一部分を重ねて形成される第2中間領域と、
を有し、
前記配光制御部は、前記複数の照射ゾーンのうちで、前記非照射領域に対応する照射ゾーンへの照射光を相対的に暗くするとともに、前記光照射領域であって前記非照射領域と隣り合う領域が前記第1中間領域又は前記第2中間領域である場合にこれらに対応する前記照射ゾーンである前記第1照射ゾーン若しくは前記右隣の照射ゾーン又は前記第2照射ゾーン若しくは前記左隣の照射ゾーンへの照射光の各一部分の重ね合わせによる照射光を相対的に明るくするようにして前記制御信号を生成する、
車両用前照灯システム。
【請求項2】
前記第1照射ゾーンと前記右隣の照射ゾーンの各々の前記左右方向における幅の略1/2の部分同士が重なり合うことで前記第1中間領域に対する光照射が行われ、
前記第2照射ゾーンと前記左隣の照射ゾーンの各々の前記左右方向における幅の略1/2の部分同士が重なり合うことで前記第2中間領域に対する光照射が行われる、
請求項1に記載の車両用前照灯システム。
【請求項3】
前記複数の照射ゾーンの各々への照射光の左右幅が略一定である、
請求項1又は2に記載の車両用前照灯システム。
【請求項4】
前記複数の照射ゾーンの各々への照射光の左右幅が当該照射光の明るさを変えても略一定である、
請求項3に記載の車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯の点灯状態を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間に車両を走行させる際に、運転者は、基本的に前照灯によりハイビームを照射させることにより車両の前方を確認し、必要に応じてロービームに切り換えるが、切り替えの煩わしさや道路環境によりロービームを用いる場合も多い。このとき、いわゆるカットオフラインより上側に光を照射すると、対向車両や先行車両(以下、これらを「前方車両」という。)にグレアを与えるおそれがある。このため近年では、自車両に搭載されたカメラによって前方車両を撮影して得られる画像を用いて前方車両の位置(例えば、テールランプまたはヘッドランプの位置)を検出し、前方車両の位置が遮光範囲となるようにしてハイビームの照射パターンを制御する配光制御(ADB制御)が種々提案されている。この技術によれば、前方車両へのグレアを抑制するとともに歩行者の早期発見や遠方視認性の向上を図ることができる。
【0003】
上記した配光制御は、例えば、左右方向に配列された複数のブロックごとで個別に光を照射することによって実現される(一例として、特開2015−16774号公報参照)。このとき、各ブロックへの光照射は、例えば複数の発光素子を用いる等によって別々に生成される複数の光を部分的に重ね合わせることによって実現される。一例として、ある1つのブロックへの光照射は、それぞれ左右方向に一定幅を持つ2つの光を幅方向において半分ずつ重ね合わせることによって実現される。
【0004】
ところで、上記したような光照射を行う場合、前方車両の位置に応じて、例えばある1つのブロックaを光照射状態から非照射状態に切り替えるとすると、そのブロックaに関わる2つの光をともに消す必要がある。しかし、この場合にはブロックaに隣り合う他のブロックbの明るさも半減することになる。ブロックaへの光照射に用いられる2つの光のうち1つがブロックbへの光照射にも用いられているためである。このように、あるブロックを非照射状態にすることに伴って隣のブロックまで明るさが低下することは、前方の視認性を低下させるため望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−16774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明に係る具体的態様は、車両前方の視認性をより向上させることが可能な配光制御技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の点灯制御装置は、(a)車両を基準とした左右方向に配列された複数の照射ゾーン毎に個別に光照射可能であって、当該複数の照射ゾー
ンへの照射光
を用いることで複数の領域に対する選択的な光照射を行うことが可能な車両用前照灯
システムであって、(b)
点灯制御装置と、前記点灯制御装置によって制御される車両用前照灯と、を含み、(c)前記点灯制御装置は、(c1)前方車両の位置を検出する車両検出部と、
(c2)前記複数の領域のうち、前記前方車両の位置に応じた少なくとも1つ
の領域を光の非照射範囲として設定し、残り
の領域を光照射範囲として設定する光照射範囲設定部と、
(c3)前記光照射範囲設定部によって設定される前記光照射範囲及び前記非照射範囲に対応した制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力する配光制御部と、を含み、(d)
前記複数の領域は、前記車両を基準とした左右方向において相互間に隙間なく配置されており、かつ、少なくとも、(d1)前記車両を基準とした左右方向における左端に位置しており前記複数の照射ゾーンのうちの1つである第1照射ゾーンへの前記照射光の一部分で形成される左端領域と、(d2)前記車両を基準とした左右方向における右端に位置しており前記複数の照射ゾーンのうちの1つである第2照射ゾーンへの前記照射光の一部分で形成される右端領域と、(d3)前記左端領域と前記右端領域の間に位置しており、前記第1照射ゾーンと当該第1照射ゾーンの右隣の照射ゾーンの各々への前記照射光の一部分を重ねて形成される第1中間領域及び前記第2照射ゾーンと当該第2照射ゾーンの左隣の照射ゾーンの各々への前記照射光の一部分を重ねて形成される第2中間領域と、を有し、(e)前記配光制御部は、前記複数の照射ゾーンのうちで、前記
非照射領域に対応する照射ゾーンへの照射光を相対的に暗くするとともに、前記
光照射領域であって前記
非照射領域と隣り合う領域
が前記第1中間領域又は前記第2中間領域である場合にこれらに対応する前記照射ゾーン
である前記第1照射ゾーン若しくは前記右隣の照射ゾーン又は前記第2照射ゾーン若しくは前記左隣の照射ゾーンへの照射光
の各一部分の重ね合わせによる照射光を相対的に明るくするようにして前記制御信号を生成する、車両用前照灯
システムである。
【0008】
上記構成によれば、複数の光を部分的に重ね合わせることによって特定の領域への選択的な光照射が行われる車両用前照灯において、ある領域を非照射状態としたときにその領域に隣り合う領域に対応した光の明るさが増すように点灯制御が行われる。このため、車両前方の視認性をより向上させることが可能
な車両用前照灯システムが得られる。
【0009】
上記の車両用前照灯システムにおいては、前記第1照射ゾーンと前記右隣の照射ゾーンの各々の前記左右方向における幅の略1/2の部分同士が重なり合うことで前記第1中間領域に対する光照射が行われ、前記第2照射ゾーンと前記左隣の照射ゾーンの各々の前記左右方向における幅の略1/2の部分同士が重なり合うことで前記第2中間領域に対する光照射が行われる、ことも好ましい。
【0010】
上記の車両用前照灯システムにおいては、前記複数の照射ゾーンの各々への照射光の左右幅が略一定である、ことも好ましい。さらに、前記複数の照射ゾーンの各々への照射光の左右幅が当該照射光の明るさを変えても略一定である、ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、ランプユニットからの出射光について説明するための図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の車両用前照灯システムの動作を説明するための概念図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す動作の実行時における具体的な数値例を示す図である。
【
図5】
図5は、各ゾーンの明るさの切り替え方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。
図1に示す車両用前照灯システムは、自車両の前方の空間(対象空間)を撮像して得られる画像に基づいて配光パターンを設定して自車両の前方へ光照射を行うものであり、カメラ10、車両検出部11、制御部12、一対のランプユニット(車両用前照灯)20R、20Lを含んで構成されている。
【0018】
カメラ10は、自車両の所定位置に設置されており、自車両の前方の空間を撮影し、その画像(画像データ)を出力する。
【0019】
車両検出部11は、カメラ10から出力される画像データを用いて所定の画像処理を行うことにより、前方車両の位置を検出してその位置情報を制御部12へ出力する。ここでいう「前方車両」とは、先行車両または対向車両である。この車両検出部11は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることにより実現される。車両検出部11は、例えばカメラ10と一体に構成されていてもよい。なお、車両検出部11の機能は制御部12において実現されてもよい。
【0020】
制御部12は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることにより実現されるものであり、機能ブロックとしての光照射範囲設定部13と配光制御部14を備える。
【0021】
光照射範囲設定部13は、車両検出部11によって検出される前方車両の位置に応じて光照射範囲および光の非照射範囲を設定する。
【0022】
配光制御部14は、光照射範囲設定部13によって設定された光照射範囲および非照射範囲に基づいてその配光パターンに応じた制御信号(配光制御信号)を生成し、各ランプユニット20R、20Lへ出力する。
【0023】
ランプユニット20Rは、自車両の前方右側に設置され、自車両の前方を照らす光を照射するために用いられるものであり、LED点灯回路21とマトリクスLED22を有する。同様に、ランプユニット20Lは、自車両の前方左側に設置され、自車両の前方を照らす光を照射するために用いられるものであり、LED点灯回路21とマトリクスLED22を有する。
【0024】
LED点灯回路21は、配光制御部14から出力される制御信号に基づいて、マトリクスLED22に含まれる複数のLED(発光ダイオード)に対して駆動信号を供給することにより、各LEDを選択的に点灯させる。
【0025】
マトリクスLED22は、マトリクス状に配列された複数のLEDを備えており、LED点灯回路21から供給される駆動信号に基づいて複数のLEDが選択的に点灯する。このマトリクスLED22は、複数のLEDをそれぞれ独立に点灯させ、かつその照射強度(明るさ)を制御することが可能である。このマトリクスLED22の複数のLEDを選択的に点灯させることによって出射する光が図示しないレンズによって自車両の前方へ投影されることでADB制御による配光パターンを有する光が自車両の前方に照射される。
【0026】
図2は、ランプユニットからの出射光について説明するための図である。ランプユニット20R、20Lのそれぞれは、それぞれ個別に生成される複数の光を選択的に照射することができる。これら複数の光は、各々、
図2に示すように略一定の左右幅を持っており、明るさを増減させたとしてもこの左右幅がほとんど変化しない。このような指向性を有する光は、例えば、発光素子の光出射面に筒状体を設けることで、発光素子からの光の進行方向を一定の方向に絞り、かつその光を投影レンズに通すことによって生成することができる。このような光を生成するランプユニットは、例えば特開2012−190755号公報において詳細に開示されている公知技術を用いて構成することができる。
【0027】
図3は、本実施形態の車両用前照灯システムの動作を説明するための概念図である。また、
図4は、
図3に示す動作の実行時における具体的な数値例を示す図である。車両用前照灯システムの基本的動作として、
図3(A)〜
図3(C)に示すように、各ランプユニット20R、20Lは、5つのゾーンA〜Eでそれぞれ個別に光照射を制御する。このとき、各ゾーンA〜Eの照射光は、それぞれ左右方向に幅nを有しており、かつ隣り合うゾーンが互いにn/2の幅で重なっている。具体的には、ゾーンAの右側とゾーンBの左側がn/2幅で重なり、ゾーンBの右側とゾーンCの左側がn/2幅で重なり、ゾーンCの右側とゾーンDの左側がn/2幅で重なり、ゾーンDの右側とゾーンEの左側がn/2幅で重なっている。なお、図中では説明のため各ゾーンを上下にずらして示しているが、実際には各ゾーンは、左右方向に列をなし、隣り合うもの同士が部分的に重なっている。また、各ゾーンへの光は、上記した
図2にて示したように明るさを変えても左右幅がほとんど変化しないという特性を有している。
【0028】
上記した各ゾーンA〜Eでそれぞれ個別に制御可能な照射光を用いることで、車両前方の仮想鉛直面における6つの分割領域(個別領域:Area)1〜6についてそれぞれ個別に光照射状態とし、または非照射状態とすることができる。具体的には、分割領域1への照射光は、ゾーンAへの照射光を用いて形成され、分割領域2への照射光は、ゾーンA、Bへの照射光を用いて形成され、分割領域3への照射光は、ゾーンB、Cへの照射光を用いて形成され、分割領域4への照射光は、ゾーンC、Dへの照射光を用いて形成され、分割領域5への照射光は、ゾーンD、Eへの照射光を用いて形成され、分割領域6への照射光は、ゾーンEへの照射光を用いて形成される。このため、各ゾーンA〜Eの全てに照射光が与えられている場合には、各ゾーンでの照射光の強度を仮に相対的数値として50と表したとすると、
図4(A)〜
図4(C)の各々における「全点灯時」の欄に示すように、分割領域1、6のそれぞれでの照射光の強度は50となり、分割領域2〜5のそれぞれでの照射光の強度は100となる。すなわち、全体としてみれば左右方向に配列された6つの分割領域のうち、中央寄りの分割領域2〜5での照射光が相対的により明るい状態となる。本実施形態ではこのような明るさ分布を理想的な配光パターンと想定している。
【0029】
次に、前方車両が存在する場合における制御部12による配光制御について説明する。
図3(A)に示すように、自車両から比較的遠くに前方車両100が存在し、分割領域3のみに入っているとする。このとき、光照射範囲設定部13は、分割領域3を非照射範囲(光を照射しない範囲)に設定し、それ以外の分割領域1、2、4〜6を光照射範囲に設定する。この場合に、分割領域3に照射光が与えられないようにするためには、図示のようにゾーンB,Cへの照射光をゼロにするか、あるいはゼロに等しい状態に減光すればよい。このときの各分割領域における明るさは、特に調整を施さないとすれば、
図4(A)において「マスク時未調整」の欄で示すように、左側(分割領域1)から順に、50、50、0、50、100、50となる。しかし、この場合には非照射範囲とした分割領域3の両隣の分割領域2、4の明るさが50に低下してしまう。
【0030】
このため、本実施形態では、分割領域2、4の明るさの低下を防ぐために、
図4(A)において「調整1」の欄で示すようにゾーンA、Dの照射光の明るさを100に設定する。それにより、各分割領域における明るさは左側(分割領域1)から順に、100、100、0、100、150、50となる。したがって、前方車両100の存在する領域の両側における照射光の明るさ低下を防ぐことができる。
【0031】
ここで、分割領域5の明るさが150と突出しているため、運転者に違和感を与える可能性もある。このため、明るさ分布がより均等になるように、他のゾーンの照射光の明るさについても調整することがより好ましい。一例として、
図4(A)において「調整2」の欄で示すように、照射光の明るさをゾーンAでは100、ゾーンB、Cでは0、ゾーンDでは70、ゾーンEでは30と設定することができる。それにより、各分割領域における明るさは左側(分割領域1)から順に、100、100、0、70、100、30となる。この例では、前方車両100の存在する領域の両側の各2つの分割領域1、2、4、5における照射光の明るさをより均等にし、かつ前方車両から遠い分割領域6における照射光の明るさを相対的に低くすることで、運転者に対して違和感を与える可能性をより低減している。
【0032】
図3(B)に示すように、自車両から比較的近くに前方車両100が存在し、分割領域3と分割領域4に入っているとする。このとき、光照射範囲設定部13は、分割領域3、4を非照射範囲(光を照射しない範囲)に設定し、それ以外の分割領域1,2,5,6を光照射範囲に設定する。この場合に、分割領域3、4に照射光が与えられないようにするためには、図示のようにゾーンB、C、Dへの照射光をゼロにするか、あるいはゼロに等しい状態に減光する必要がある。このときの各分割領域における明るさは、特に調整を施さないとすれば、
図4(B)において「マスク時未調整」の欄で示すように、左側(分割領域1)から順に、50、50、0、0、50、50となる。しかし、この場合には非照射範囲とした分割領域3、4の両隣の分割領域2、5の明るさが50に低下してしまう。
【0033】
このため、本実施形態では、分割領域2、5の明るさの低下を防ぐために、
図4(B)において「調整1」の欄で示すようにゾーンA、Eの照射光の明るさを100に設定する。それにより、各分割領域における明るさは左側(分割領域1)から順に、100、100、0、0、100、100となる。したがって、前方車両100の存在する領域の両側における照射光の明るさ低下を防ぐことができる。この場合には、特定の分割領域の明るさが突出しているということはないので、「調整2」の欄は「調整1」と同じとなる。すなわち、さらなる調整はしていない。
【0034】
図3(C)に示すように、自車両から比較的遠くに前方車両100が存在し、分割領域6のみに入っているとする。このとき、光照射範囲設定部13は、分割領域6を非照射範囲(光を照射しない範囲)に設定し、それ以外の分割領域1〜5を光照射範囲に設定する。この場合に、分割領域6に照射光が与えられないようにするためには、図示のようにゾーンEへの照射光をゼロにするか、あるいはゼロに等しい状態に減光すればよい。このときの各分割領域における明るさは、特に調整を施さないとすれば、
図4(C)において「マスク時未調整」の欄で示すように、左側(分割領域1)から順に、50、100、100、100、50、0となる。しかし、この場合には非照射範囲とした分割領域6の隣の分割領域5の明るさが50に低下してしまう。
【0035】
このため、本実施形態では、分割領域5の明るさの低下を防ぐために、
図4(C)において「調整1」の欄で示すようにゾーンB、Dの照射光の明るさを100に設定し、ゾーンA、Cの照射光の明るさを0に設定する。それにより、各分割領域における明るさは左側(分割領域1)から順に、0、100、100、100、100、0となる。したがって、前方車両100の存在する領域の両側における照射光の明るさ低下を防ぐことができる。
【0036】
ここで、分割領域1の明るさが0と突出して暗いため、運転者に違和感を与える可能性もある。このため、明るさ分布がより均等になるように、他のゾーンの照射光の明るさについても調整することがより好ましい。一例として、
図4(C)において「調整2」の欄で示すように、照射光の明るさをゾーンAでは20、ゾーンBでは80、ゾーンCでは20、ゾーンDでは90、ゾーンEでは0と設定することができる。それにより、各分割領域における明るさは左側(分割領域1)から順に、20、100、100、110、90、0となる。この例では、前方車両100の存在する領域の両側の各2つの分割領域2〜5における照射光の明るさをより均等にし、かつ前方車両から遠い分割領域1における照射光の明るさを相対的に低くしつつも0ではない状態とすることで、運転者に対して違和感を与える可能性をより低減している。
【0037】
なお、上記したいずれの例においても、調整1から調整2へ遷移するように配光制御してもよいし、調整1と調整2のいずれか一方のみで配光制御してもよい。
【0038】
図5は、各ゾーンの明るさの切り替え方法について説明する図である。配光制御部14によって各ゾーンの明るさを切り替える際には、一瞬で切り替える場合のほか、図示のように時間をかけて切り替えることもできる。
図5に示す例では、ゾーンAは時間をかけて明るくしており、ゾーンBは時間をかけて暗くしている。さらに、暗くするゾーンについては一瞬で切り替え、明るくするゾーンについては時間をかけて切り替えるようにしてもよい。
【0039】
以上のような実施形態によれば、複数の光を部分的に重ね合わせることによって特定の領域への選択的な光照射が行われる車両用前照灯において、ある領域を非照射状態としたときにその領域に隣り合う領域に対応した光の明るさが増すように点灯制御が行われる。このため、車両前方の視認性をより向上させることが可能となる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、5つのゾーンA〜Eでそれぞれ個別に照射光を制御する場合を例示していたが、ゾーン数はこれに限定されない。同様に、分割領域の数も6つに限定されない。
【符号の説明】
【0041】
10:カメラ
11:車両検出部
12:制御部
13:光照射範囲設定部
14:配光制御部
20R、20L:ランプユニット
21:LED点灯回路
22:マトリクスLED