【実施例1】
【0030】
図1は本発明の一実施例の車両用空気調和装置1の構成図を示している。本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電気自動車(EV)であって、バッテリに充電された電力で走行用の電動モータを駆動して走行するものであり(何れも図示せず)、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリの電力で駆動されるものとする。即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路を用いたヒートポンプ運転により暖房を行い、更に、除湿暖房や冷房除湿、冷房等の各運転モードを選択的に実行するものである。
【0031】
尚、車両として係る電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明は有効であり、更には、エンジンで走行する通常の自動車にも適用可能であることは云うまでもない。
【0032】
実施例の車両用空気調和装置1は、車両の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられ、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒が冷媒配管13Gを介して流入し、この冷媒を車室内に放熱させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁(電子膨張弁)から成る室外膨張弁6と、冷房時には放熱器として機能し、暖房時には蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電動弁(機械式膨張弁でもよい)から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9と、この吸熱器9における蒸発能力を調整する蒸発能力制御弁11と、圧縮機2の冷媒吸込側に位置する気液分離器(冷媒液溜め)としてのアキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。
【0033】
尚、室外熱交換器7には、室外送風機15が設けられている。この室外送風機15は、室外熱交換器7に外気を強制的に通風することにより、外気と冷媒とを熱交換させるものであり、これにより停車中(即ち、車速VSPが0km/h)にも室外熱交換器7に外気が通風されるよう構成されている。
【0034】
また、室外熱交換器7は冷媒下流側にレシーバドライヤ部14と過冷却部16を順次有し、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは冷房時に開放される冷房用の開閉弁としての冷房用の電磁弁17を介してレシーバドライヤ部14に接続され、過冷却部16の出口が逆止弁18を介して室内膨張弁8に接続されている。尚、レシーバドライヤ部14及び過冷却部16は構造的に室外熱交換器7の一部を構成しており、逆止弁18は室内膨張弁8側が順方向とされている。
【0035】
また、逆止弁18と室内膨張弁8間の冷媒配管13Bは、吸熱器9の出口側に位置する蒸発能力制御弁11を出た冷媒配管13Cと熱交換関係に設けられ、両者で内部熱交換器19を構成している。これにより、冷媒配管13Bを経て室内膨張弁8に流入する冷媒は、吸熱器9を出て蒸発能力制御弁11を経た低温の冷媒により冷却(過冷却)される構成とされている。
【0036】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される暖房用の開閉弁としての暖房用の電磁弁21を介して内部熱交換器19の下流側における冷媒配管13Cに連通接続されている。尚、この電磁弁21は後述する如く、暖房時には冷媒流に対してアキュムレータ12の上流側に位置することになる。
【0037】
更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前で分岐しており、この分岐した冷媒配管13Fは除湿時に開放される除湿用の開閉弁としての除湿用の電磁弁22を介して逆止弁18の下流側の冷媒配管13Bに連通接続されている。即ち、電磁弁22は室外熱交換器7に対して並列に接続されている。
【0038】
また、室外膨張弁6には並列にバイパス配管13Jが接続されており、このバイパス配管13Jには、冷房モードにおいて開放され、室外膨張弁6をバイパスして冷媒を流すためのバイパス用の開閉弁としてのバイパス用の電磁弁20が介設されている。尚、これら室外膨張弁6及び電磁弁20と室外熱交換器7との間の配管は13Iとする。
【0039】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されており(
図1では吸込口25で代表して示す)、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環モード)と、車室外の空気である外気(外気導入モード)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0040】
また、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、内気や外気の放熱器4への流通度合いを調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、フット、ベント、デフの各吹出口(
図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0041】
次に、
図2において32はマイクロコンピュータから構成された制御手段としてのコントローラ(ECU)であり、このコントローラ32の入力には車両の外気温度Tamを検出する外気温度センサ33と、車両の外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO
2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力Pdを検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒圧力を検出する吸込圧力センサ44と、放熱器4の温度TCI(放熱器4を経た空気の温度、又は、放熱器4自体の温度)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力PCI(放熱器4内、又は、放熱器4を出た直後の冷媒の圧力)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度Te(吸熱器9を経た空気の温度、又は、吸熱器9自体の温度)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た直後の冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、設定温度や運転モードの切り換えを設定するための空調(エアコン)操作部53と、室外熱交換器7の温度(室外熱交換器7から出た直後の冷媒の温度、又は、室外熱交換器7自体の温度)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力(室外熱交換器7内、又は、室外熱交換器7から出た直後の冷媒の圧力)を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0042】
一方、コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、各電磁弁22、17、21、20と、蒸発能力制御弁11が接続されている。そして、コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御する。
【0043】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では大きく分けて暖房モードと、除湿暖房モードと、内部サイクルモードと、除湿冷房モードと、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する。先ず、各運転モードにおける冷媒の流れについて説明する。
【0044】
(1)暖房モード
コントローラ32により、或いは、空調操作部53へのマニュアル操作により暖房モードが選択されると、コントローラ32は電磁弁21を開放し、電磁弁17、電磁弁22及び電磁弁20を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒(冷媒には圧縮機2から吐出されたオイルが含まれる)は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0045】
放熱器4内で液化した冷媒は放熱器4を出た後、冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる。即ち、冷媒回路Rがヒートポンプとなり、室外熱交換器7は冷媒の蒸発器として機能する。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13A及び電磁弁21、冷媒配管13Dを経て冷媒配管13Cからアキュムレータ12内に入る。
【0046】
アキュムレータ12は所定容量を有したタンクであり、その出口は当該アキュムレータ12内に貯留される液冷媒とオイルの液面より上に位置している。従って、このアキュムレータ12内に流入した冷媒(オイルを含む)のうち、液冷媒はアキュムレータ12内に一旦貯留される。そして、気液分離されたガス冷媒がアキュムレータ12の出口から出て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す(アキュムレータ12については他の運転モードも同様)。
【0047】
放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。また、上記の如き冷媒の流れにより、電磁弁21は冷媒流に対してアキュムレータ12の上流側に位置する。
【0048】
コントローラ32は放熱器圧力センサ47が検出する放熱器の冷媒圧力、即ち、放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧側圧力)に基づいて圧縮機2の回転数Ncを制御すると共に、放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度TCI)及び放熱器圧力PCIに基づいて算出される冷媒の過冷却度に基づいて室外膨張弁6の弁開度ECCVを制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度SCを制御する。暖房モードにおけるこれら圧縮機2及び室外膨張弁6の制御については後に詳述する。
【0049】
(2)除湿暖房モード
次に、除湿暖房モードでは、コントローラ32は上記暖房モードの状態において電磁弁22を開放する。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、電磁弁22を経て冷媒配管13F及び13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至るようになる。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0050】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cにて冷媒配管13Dからの冷媒と合流した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。コントローラ32は吐出圧力センサ42又は放熱器圧力センサ47が検出する冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数Ncを制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0051】
(3)内部サイクルモード
次に、内部サイクルモードでは、コントローラ32は上記除湿暖房モードの状態において室外膨張弁6を全閉とする(全閉位置)と共に、電磁弁20、21も閉じる。この室外膨張弁6と電磁弁20、21が閉じられることにより、室外熱交換器7への冷媒の流入、及び、室外熱交換器7からの冷媒の流出は阻止されることになるので、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒は電磁弁22を経て冷媒配管13Fに全て流れるようになる。そして、冷媒配管13Fを流れる冷媒は冷媒配管13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0052】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを流れ、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになるが、この内部サイクルモードでは室内側の空気流通路3内にある放熱器4(放熱)と吸熱器9(吸熱)の間で冷媒が循環されることになるので、外気からの熱の汲み上げは行われず、圧縮機2の消費動力分の暖房能力が発揮される。除湿作用を発揮する吸熱器9には冷媒の全量が流れるので、上記除湿暖房モードに比較すると除湿能力は高いが、暖房能力は低くなる。
【0053】
コントローラ32は吸熱器9の温度、又は、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数Ncを制御する。このとき、コントローラ32は吸熱器9の温度によるか高圧圧力によるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方を選択して圧縮機2を制御する。
【0054】
(4)除湿冷房モード
次に、除湿冷房モードでは、コントローラ32は電磁弁17を開放し、電磁弁21、電磁弁22及び電磁弁20を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0055】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てレシーバドライヤ部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0056】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0057】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱(暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数Ncを制御すると共に、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力PCI)を制御する。
【0058】
(5)冷房モード
次に、冷房モードでは、コントローラ32は上記除湿冷房モードの状態において電磁弁20を開き(この場合、室外膨張弁6は全開(弁開度を制御上限)を含む何れの弁開度でもよい)、エアミックスダンパ28は放熱器4に空気が通風されない状態を含み通風量を制御する状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4に空気流通路3内の空気が通風されない場合には、ここは通過するのみとなり、通風される場合には空気に放熱される。放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て電磁弁20及び室外膨張弁6に至る。
【0059】
このとき電磁弁20は開放されているので冷媒は室外膨張弁6を迂回してバイパス配管13Jを通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てレシーバドライヤ部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0060】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却される。
【0061】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過することなく、あるいは若干通過し、吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房モードにおいては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数Ncを制御する。
【0062】
コントローラ32は起動時には外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAO(後述する)とに基づいて運転モードを選択する。また、起動後は外気温度Tamや目標吹出温度TAO等の環境や設定条件の変化に応じて前記各運転モードを選択し、切り換えていくものである。
【0063】
(6)暖房モードでの圧縮機及び室外膨張弁の制御ブロック
次に、
図3は前記暖房モードにおけるコントローラ32による圧縮機2と室外膨張弁6の制御ブロック図を示す。コントローラ32は目標吹出温度TAOを目標放熱器温度演算部57と目標放熱器過冷却度演算部58に入力させる。この目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気温度の目標値であり、下記式(I)からコントローラ32が算出する。
【0064】
TAO=(Tset−Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・(I)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。
【0065】
コントローラ32は、目標放熱器温度演算部57にて目標吹出温度TAOから目標放熱器温度TCOを算出し、次に、この目標放熱器温度TCOに基づき、目標放熱器圧力演算部61にて目標放熱器圧力PCOを算出する。そして、この目標放熱器圧力PCOと、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器4の圧力(放熱器圧力PCI)とに基づき、コントローラ32は圧縮機回転数演算部62にてF/B制御により圧縮機2の目標回転数TGNcを算出し、この回転数TGNcとなるように圧縮機2の回転数Ncを運転制御する。即ち、コントローラ32は圧縮機2の回転数Ncにより放熱器圧力PCIを制御することになる。
【0066】
また、コントローラ32は、目標放熱器過冷却度演算部58にて目標吹出温度TAOに基づき、放熱器4の目標過冷却度TGSCを算出する。一方、コントローラ32は、放熱器圧力PCIと放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度TCI)に基づき、放熱器過冷却度演算部63にて放熱器4における冷媒の過冷却度(放熱器過冷却度SC)を算出する。そして、この放熱器過冷却度SCと目標過冷却度TGSCに基づき、目標室外膨張弁開度演算部64にてF/B制御により室外膨張弁6の目標弁開度(目標室外膨張弁開度TGECCV)を算出する。そして、コントローラ32はこの目標室外膨張弁開度TGECVVに室外膨張弁6の弁開度ECCVを制御する。
【0067】
コントローラ32の目標放熱器過冷却度演算部58は目標吹出温度TAOが高い程、目標過冷却度TGSCを上げる方向に演算を行うが、それに限らず、室内送風機27の風量が小さい程、目標過冷却度TGSCを下げる等の制御を行う。
【0068】
(7)暖房モードでの圧縮機起動時の制御(その1)
次に、
図4を参照しながら前述した暖房モードにおける圧縮機2の起動時の制御の一例について説明する。
図4はこの場合にコントローラ32が実行する圧縮機2と室外膨張弁6の制御を説明するタイミングチャートである。コントローラ32は暖房モードで圧縮機2を起動する場合、先ず圧縮機2の回転数Ncを比較的低い所定の起動回転数Ncstまで上昇させ、当該起動回転数Ncstで所定時間T1の間運転した後、所定の上昇速度Vupで圧縮機2の回転数Ncを前述した如く算出した目標回転数TGNcまで上昇させる起動時制御を実行する。
【0069】
また、室外膨張弁6については、圧縮機2の起動時は弁開度ECCVを比較的大きい所定の固定開度X1とする弁開度制限制御を実行し、圧縮機2の回転数Ncが目標回転数TGNcに到達した後に、この弁開度制限制御を解除し、前述したF/B制御によって算出した目標弁開度TGECCVに弁開度ECCVを調整する制御に移行する。
【0070】
この場合、コントローラ32は外気温度センサ33が検出する外気温度Tamに基づき、実施例では前述した圧縮機2の起動回転数Ncst、所定時間T1、上昇速度Vup、及び、室外膨張弁6の固定開度X1を変更する。この様子を
図4のタイミングチャートを参照しながら説明する。
【0071】
今、
図4の時刻t1で圧縮機2が起動されるものとすると、コントローラ32はこの時刻t1までに室外膨張弁6の弁開度ECCVを前述した固定開度X1まで開く。この固定開度X1は、室外膨張弁6の弁開度ECCVの制御範囲内における弁開度ECCVの大きい領域で決定されるものであるが、コントローラ32は外気温度Tamが高い程、固定開度X1を大きくし、外気温度Tamが低い程、固定開度X1を小さくする方向で変更する。
【0072】
そして、
図4の時刻t1で圧縮機2を起動し、回転数Ncを起動回転数Ncstまで上昇させる。この起動回転数Ncstは圧縮機2の回転数Ncの制御範囲内における回転数Ncの低い領域で決定されるものであるが、コントローラ32はこの起動回転数Ncstについても、外気温度Tamが高い程、起動回転数Ncstを低くし、外気温度Tamが低い程、起動回転数Ncstを高くする方向で変更する。
【0073】
このように圧縮機2を起動し、
図4の時刻t2で起動回転数Ncstまで上昇したものとすると、コントローラ32はこの時刻t2から所定時間T1後の時刻t3まで圧縮機2の回転数Ncを起動回転数Ncstで維持する。これにより、暖房モードでの圧縮機2の起動時における回転数Ncの急激な上昇を防止する。また、コントローラ32はこの所定時間T1についても、例えば30秒〜60秒の範囲内で、外気温度Tamが高い程、所定時間T1を長くし、外気温度Tamが低い程、所定時間T1を短くする方向で変更する。
【0074】
そして、
図4の時刻t3で所定時間T1が経過すると、コントローラ32は所定の上昇速度Vupにて圧縮機2の回転数Ncを上昇させていく。コントローラ32はこの回転数Ncの上昇速度Vupについても、外気温度Tamが高い程、上昇速度Vupを遅くし(
図4に破線で示す)、外気温度Tamが低い程、上昇速度Vupを早くする(
図4の実線で示す)方向で変更する。
【0075】
今は上昇速度Vupを
図4の実線のように早くしたものとし、時刻t4で圧縮機2の回転数Ncが目標回転数TGNcに到達したものとすると、コントローラ32は室外膨張弁6の弁開度制限制御を解除し、前述したF/B制御による弁開度の調整に移行する。
【0076】
このように、本発明ではコントローラ32は圧縮機2の起動時に、所定の起動回転数Ncstでの運転を所定時間T1継続した後、所定の上昇速度Vupにて圧縮機2の回転数Ncを所定の目標回転数TGNcに上昇させると共に、外気温度Tamに基づき、当該外気温度Tamが高い程、低くする方向で圧縮機2の起動回転数Ncstを変更するので、冷媒密度が高くなる環境では、圧縮機2の起動回転数Ncstを低くしてアキュムレータ12内の急激な圧力低下を抑制することが可能となる。
【0077】
これにより、圧縮機2の起動時におけるアキュムレータ12内での冷媒の突沸を的確に防止若しくは抑制し、圧縮機2での液圧縮やアキュムレータ12内での騒音の発生を効果的に解消若しくは抑制することができるようになり、車両用空気調和装置1の信頼性を向上させ、搭乗者の快適性も効果的に改善することができるようになる。
【0078】
また、コントローラ32は外気温度Tamに基づき、当該外気温度Tamが高い程、長くする方向で所定時間T1を変更するので、冷媒密度が高くなる環境では、圧縮機2が起動回転数Ncstで運転される所定時間T1を長くして、アキュムレータ12内の急激な圧力低下を一層抑制することが可能となる。これにより、外気温度Tamに基づいて圧縮機2の起動回転数Ncstでの運転時間を的確に調整し、一層確実にアキュムレータ12内での突沸を抑制して信頼性と快適性の向上を実現することができるようになる。
【0079】
更に、コントローラ32は外気温度Tamに基づき、当該外気温度Tamが高い程、遅くする方向で上昇速度Vupを変更するので、冷媒密度が高くなる環境では、圧縮機2の回転数Ncが起動回転数Ncstから上昇する速度を遅くして、アキュムレータ12内の急激な圧力低下をより一層抑制することが可能となる。これにより、外気温度Tamに基づいて圧縮機2の回転数Ncの上昇速度Vupを的確に調整し、より一層確実にアキュムレータ12内での突沸を抑制して信頼性と快適性の向上を実現することができるようになる。
【0080】
更にまた、コントローラ32は圧縮機2の起動時に、室外膨張弁6の弁開度ECCVを比較的大きい所定の固定開度X1とする弁開度制限制御を実行し、圧縮機2の回転数Ncが目標回転数TGNcに到達した後に、弁開度制限制御を解除するので、圧縮機2の起動時における吸込側の圧力低下を抑制することが可能となる。また、室外膨張弁6が固定開度X1に維持されることで、室外膨張弁6の動作に伴うアキュムレータ12内の圧力変化も抑制されるので、これらにより、アキュムレータ12内での突沸を効果的に抑制して信頼性と快適性の向上を実現することができるようになる。
【0081】
この場合も、コントローラ32は外気温度Tamに基づき、当該外気温度Tamが高い程、弁開度制限制御における固定開度X1を大きくする方向で変更するので、冷媒密度が高くなる環境では、室外膨張弁6の固定開度X1を大きくして、圧縮機2の起動時における吸込側の圧力低下をより一層抑制することが可能となる。これにより、外気温度Tamに基づいて室外膨張弁6の固定開度X1を的確に調整し、一層効果的にアキュムレータ12内での突沸を抑制して信頼性と快適性の向上を実現することができるようになる。
【0082】
(8)暖房モードでの圧縮機起動時の制御(その2)
次に、
図5を参照しながら暖房モードにおける圧縮機2の起動時の制御の他の例について説明する。
図5はこの場合にコントローラ32が実行する圧縮機2と室外膨張弁6の制御を説明するタイミングチャートである。尚、圧縮機2の起動時制御については
図4の例の場合と同様なので説明を省略する。
【0083】
この場合、コントローラ32は室外膨張弁6について、圧縮機2の起動時は弁開度ECCVを比較的大きい所定開度X2とし、その後、徐々に弁開度ECCVを拡張していくこの場合の弁開度制限制御を実行し、圧縮機2の回転数Ncが目標回転数TGNcに到達した後に、この弁開度制限制御を解除し、前述したF/B制御によって算出した目標弁開度TGECCVに弁開度ECCVを調整する制御に移行する。
【0084】
そして、この場合もコントローラ32は外気温度センサ33が検出する外気温度Tamに基づき、室外膨張弁6の所定開度X2を変更する。この様子を
図5のタイミングチャートを参照しながら説明する。今、
図5の時刻t1で圧縮機2が起動されるものとすると、コントローラ32はこの時刻t1までに室外膨張弁6の弁開度ECCVを前述した所定開度X2まで開く。この所定開度X2も、室外膨張弁6の弁開度ECCVの制御範囲内における弁開度ECCVの大きい領域で決定されるものであるが、コントローラ32は外気温度Tamが高い程、所定開度X2を大きくし、外気温度Tamが低い程、所定開度X2を小さくする方向で変更する。
【0085】
また、係る所定開度X2から弁開度ECCVを拡張していく方式は、実施例では二種類あり、一つは時刻t1で所定開度X2にしてから圧縮機2の回転数Ncが目標回転数TGNcになる
図5の時刻t4まで連続して所定の拡張率で開いていく方式(
図5の上側の傾斜した線)であり、圧縮機2の回転数Ncを起動回転数Ncstに維持する所定時間T1が経過する
図5の時刻t3までは所定開度X2を維持し、そこから時刻t4になるまで所定の拡張率で開いていく方式(
図5の下側の水平線と傾斜した線)である。
【0086】
何れの場合にも、圧縮機2の起動時における吸込側の圧力低下を抑制することができるようになる。また、室外膨張弁6の動作に伴うアキュムレータ12内の圧力変化もできるだけ小さくすることができるので、これらにより、アキュムレータ12内での突沸を効果的に抑制して信頼性と快適性の向上を実現することができるようになる。
【0087】
また、この場合もコントローラ32は外気温度Tamに基づいて当該外気温度Tamが高い程、弁開度制限制御における所定開度X2を大きくする方向で変更するので、冷媒密度が高くなる環境では、室外膨張弁6の所定開度X2を大きくして、圧縮機2の起動時における吸込側の圧力低下をより一層抑制することが可能となる。これにより、この例の場合にも外気温度Tamに基づいて室外膨張弁6の所定開度X2を的確に調整し、一層効果的にアキュムレータ12内での突沸を抑制して信頼性と快適性の向上を実現することができるようになる。
【0088】
(9)暖房モードでの圧縮機停止時の制御(その1)
次に、
図6を参照しながら暖房モードにおける圧縮機2の停止時の制御の一例について説明する。
図6はこの場合にコントローラ32が実行する圧縮機2と電磁弁21の制御を説明するタイミングチャートである。コントローラ32は暖房モードにおいて圧縮機2を停止する場合、先ずアキュムレータ12の冷媒上流側に接続されている暖房用の電磁弁21を閉じ(閉弁)、その後、所定時間圧縮機2を運転した後、停止する。
【0089】
この様子を
図6のタイミングチャートを参照しながら説明する。暖房モードで圧縮機2を停止する場合、コントローラ32は先ず、
図6の時刻t1で破線で示すように電磁弁21を閉じる(閉弁)。この電磁弁21の閉弁により、以後アキュムレータ12への冷媒の流入は阻止されることになる。その後、所定時間圧縮機2を運転した後、
図6の時刻t2から規定の降下速度で圧縮機2の回転数Ncを下げていき、時刻t3で圧縮機2を停止する。
【0090】
このように、コントローラ32は圧縮機2を停止する場合、冷媒流に対してアキュムレータ12の上流側に接続されて暖房時に開放される電磁弁21を閉じた後、圧縮機2を所定時間運転し、その後圧縮機2を停止するので、電磁弁21を閉じた後はアキュムレータ12への冷媒の流入が阻止され、圧縮機2が停止した時点でアキュムレータ12内に貯留される冷媒量は低減されることになる。
【0091】
これにより、次の起動時におけるアキュムレータ12内での冷媒の突沸やアキュムレータ12からの液冷媒の流出も抑制されるかたちとなり、車両用空気調和装置1の信頼性と快適性の向上を図ることができるようになる。
【0092】
(10)暖房モードでの圧縮機停止時の制御(その2)
尚、上記の制御において圧縮機2の回転数Ncを一旦下げてから電磁弁21を閉じるようにしてもよい。
図6中には係る制御が実線で示されている。即ち、この場合コントローラ32は、時刻t1で電磁弁21を閉じず、時刻t2から時刻t3までの間に先ず圧縮機2の回転数Ncを低い値である所定回転数Nc1まで低下させる。そして、所定回転数Nc1まで低下させた後、この時刻t3で電磁弁21を閉じる(閉弁)。
【0093】
その後、コントローラ32は時刻t4まで所定時間圧縮機2を回転数Nc1で運転した後、停止させることになる。このように、コントローラ32により、圧縮機2の回転数Ncを低下させた後、電磁弁21を閉じるようにすれば、アキュムレータ12内の冷媒量をより一層低減することが可能となる。
【0094】
(11)暖房モードでの圧縮機停止時の制御(その3)
次に、
図7を参照しながら暖房モードにおける圧縮機2の停止時の制御の他の例について説明する。
図7はこの場合にコントローラ32が実行する圧縮機2と電磁弁21と室外膨張弁6の制御を説明するタイミングチャートである。この場合、コントローラ32は暖房モードにおいて圧縮機2を停止するとき、先ずアキュムレータ12の冷媒上流側に接続されている暖房用の電磁弁21を閉じ(閉弁)、その後、室外膨張弁6の弁開度ECCVを縮小しながら、所定時間圧縮機2を運転した後、停止する。
【0095】
この様子を
図7のタイミングチャートを参照しながら説明する。暖房モードで圧縮機2を停止する場合、コントローラ32は先ず、
図7の時刻t1で破線で示すように電磁弁21を閉じる(閉弁)。この電磁弁21の閉弁により、以後アキュムレータ12への冷媒の流入は阻止されることになる。その後、
図7に破線で示すように室外送風機6の弁開度ECCVを全閉または最小開度まで縮小しながら所定時間圧縮機2を運転した後、
図7の時刻t2から規定の降下速度で圧縮機2の回転数Ncを下げていき、時刻t3で圧縮機2を停止する。
【0096】
このように、コントローラ32は圧縮機2を停止する場合、暖房用の電磁弁21を閉じた後、室外膨張弁6の弁開度ECCVを縮小しながら圧縮機2を所定時間運転し、その後圧縮機2を停止するので、圧縮機2の停止時に冷媒を室外膨張弁6より上流側(冷媒回路Rの高圧側)に溜め込むことができるようになる。これにより、次の圧縮機2の起動時に電磁弁21を開いた際にアキュムレータ12に流入する冷媒量を低減することができるようになり、これによっても圧縮機2の起動時における液圧縮の発生を抑制し、信頼性を向上させることが可能となる。
【0097】
(12)暖房モードでの圧縮機停止時の制御(その4)
尚、上記の制御においても圧縮機2の回転数Ncを一旦下げてから電磁弁21を閉じるようにしてもよい。
図7中には係る制御が実線で示されている。即ち、この場合コントローラ32は、時刻t1で電磁弁21を閉じず、時刻t2から時刻t3までの間に先ず圧縮機2の回転数Ncを低い値である所定回転数Nc1まで低下させる。そして、所定回転数Nc1まで低下させた後、この時刻t3で電磁弁21を閉じる(
図7中実線で示す。閉弁)。
【0098】
その後、コントローラ32は時刻t3から室外膨張弁6の弁開度ECCVを全閉または最小開度まで縮小しながら(
図7中実線で示す)時刻t4まで所定時間圧縮機2を回転数Nc1で運転した後、停止させることになる。このように、コントローラ32により、圧縮機2の回転数Ncを低下させた後、電磁弁21を閉じるようにすれば、アキュムレータ12内の冷媒量をより一層低減することが可能となる。