特許第6571413号(P6571413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571413ディスプレイ用ガラス板の製造方法、及び、ガラス板製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571413
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】ディスプレイ用ガラス板の製造方法、及び、ガラス板製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 25/087 20060101AFI20190826BHJP
   B65G 49/06 20060101ALI20190826BHJP
   C03B 35/20 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C03B25/087
   B65G49/06 Z
   C03B35/20
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-131071(P2015-131071)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-14045(P2017-14045A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小山 昭浩
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/022632(WO,A1)
【文献】 米国特許第02259741(US,A)
【文献】 実開昭63−177076(JP,U)
【文献】 特開昭53−136280(JP,A)
【文献】 特開2007−051038(JP,A)
【文献】 特開2014−205579(JP,A)
【文献】 特開2014−125376(JP,A)
【文献】 特開2014−210682(JP,A)
【文献】 特開2005−320180(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/018322(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0324950(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 25/06 − 25/087
C03B 29/06 − 29/10
C03B 35/20
B65G 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイ用ガラス板の製造方法であって、
成形されたガラス板に対し熱処理を行う熱処理工程と、
前記熱処理中に複数の前記ガラス板を、互いに間隔をあけて、前記ガラス板の一端を保持しながら搬送する搬送工程と、を備え、
搬送される前記ガラス板の下方に、前記搬送工程において前記ガラス板から離脱して落下したガラス片を受ける受け部が、前記ガラス板の搬送方向にわたって配置され、
前記製造方法は、前記受け部に落下したガラス片を検知する検知工程をさらに備え
前記検知工程では、搬送される前記ガラス板と前記受け部との上下方向間の高さ位置で、前記搬送方向の一方の側からレーザ光を照射し、前記搬送方向の他方の側で受光されたレーザ光の強度に基づいて、前記受け部に落下した前記ガラス片を検知し、
前記高さ位置は、前記検知工程において、前記受け部に落下した前記ガラス片のうち、搬送される前記ガラス板と接触しうるガラス片は検知され、搬送される前記ガラス板と接触しないガラス片は検知されないよう調整されており、
前記搬送工程では、前記検知工程において前記ガラス片が検知されると、前記搬送を停止することを特徴とするディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記搬送工程において、前記ガラス板は、前記ガラス板の搬送方向にわたって吊り下げられた状態で搬送される、請求項1に記載のディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記搬送工程において、前記ガラス板を搬送方向に搬送する搬送ベルトに取り付けられたクランプによって前記ガラス板の上端部が把持されることによって、前記ガラス板は前記搬送ベルトに吊り下げられている、請求項に記載のディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理は、隣り合う前記ガラス板間の隙間に加熱された気体を送風することで行われる、請求項1からのいずれか1項に記載のディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【請求項5】
ディスプレイ用ガラス板製造装置であって、
成形されたガラス板に対し熱処理を行う熱処理装置と、
前記熱処理中に複数の前記ガラス板を、互いに間隔をあけて、前記ガラス板の一端を保持しながら搬送する搬送装置と、を備え、
搬送される前記ガラス板の下方に、搬送される前記ガラス板から離脱して落下したガラス片を受ける受け部が、前記ガラス板の搬送方向にわたって配置され、
前記ディスプレイ用ガラス板製造装置は、さらに、前記受け部に落下したガラス片を検知する検知装置を備え
前記検知装置は、搬送される前記ガラス板と前記受け部との上下方向間の高さ位置で、前記搬送方向の一方の側からレーザ光を照射し、前記搬送方向の他方の側で受光されたレーザ光の強度に基づいて、前記受け部に落下した前記ガラス片を検知し、
前記高さ位置は、前記検知装置が、前記受け部に落下した前記ガラス片のうち、搬送される前記ガラス板と接触しうるガラス片を検知し、搬送される前記ガラス板と接触しないガラス片を検知しないよう調整されており、
前記搬送装置は、前記検知装置が前記ガラス片を検知すると、前記搬送を停止することを特徴とするディスプレイ用ガラス板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ用ガラス板の製造方法、及び、ガラス板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの分野では、画質の向上のために画素の高精細化が進展している。この高精細化の進展に伴って、ディスプレイに用いられるガラス基板にも寸法精度が高いことが望まれている。例えば、ディスプレイの製造工程中に、ガラス基板が高温で熱処理されても寸法が変化しにくいように、熱収縮率の小さいガラス基板が好ましい。
【0003】
一般に、ガラス基板の熱収縮率は、ガラスの歪点が高いほど小さくなる。また、ガラス基板が切り出されるガラス板の製造工程中の徐冷速度を小さくするほど、ガラス基板の熱収縮率は小さくなることが知られている。しかし、徐冷速度を小さくするとガラス板の徐冷工程を行う徐冷炉を長くする必要があるが、製造ライン上の徐冷装置を長くすることは困難である。
【0004】
そこで、製造ラインで作製された複数のガラス板に対し、オフラインにおいて時間をかけて熱処理を施すことで、熱収縮率をより低くすることが行われる。オフラインでの熱処理に関する技術として、例えば、複数のガラス板を互いに間隔をあけて熱処理炉内を搬送させながら熱処理を行うことが知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の方法では、搬送方向に移動するクランプにガラス板の上端部が把持されることで、主表面が搬送方向を向くよう立てられた状態でガラス板は搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/022632号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オフラインでの熱処理は、一般的に、ガラス板の端面を加工する工程の前に行われるため、熱処理時におけるガラス板の端面強度は低い。このため、クランプの把持の仕方によってはガラス板の端部が割れる場合がある。また、搬送方向に隣り合って搬送されるガラス板同士が接触することでガラス板が割れる場合がある。特に、液晶ディスプレイに用いられるガラス板は、近年の液晶ディスプレイの大型化に伴って比較的サイズが大きく、かつ、薄いため、搬送中に揺れやすく、このような割れが生じやすい。このようにして割れたガラス片は落下して、搬送されずに落下位置に留まるため、後続するガラス板と接触して傷や割れを生じさせ、他のガラス板を損傷させるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、複数のガラス板を搬送する工程において、ガラス板から落下したガラス片によって他のガラス板が損傷を受けることを回避することのできるディスプレイ用ガラス基板の製造方法およびディスプレイ用ガラス板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記(1)〜()を提供する。
(1)ディスプレイ用ガラス板の製造方法であって、
成形されたガラス板に対し熱処理を行う熱処理工程と、
前記熱処理中に複数の前記ガラス板を、互いに間隔をあけて、前記ガラス板の一端を保持しながら搬送する搬送工程と、を備え、
搬送される前記ガラス板の下方に、前記搬送工程において前記ガラス板から離脱して落下したガラス片を受ける受け部が、前記ガラス板の搬送方向にわたって配置され、
前記製造方法は、前記受け部に落下したガラス片を検知する検知工程をさらに備え
前記検知工程では、搬送される前記ガラス板と前記受け部との上下方向間の高さ位置で、前記搬送方向の一方の側からレーザ光を照射し、前記搬送方向の他方の側で受光されたレーザ光の強度に基づいて、前記受け部に落下した前記ガラス片を検知し、
前記高さ位置は、前記検知工程において、前記受け部に落下した前記ガラス片のうち、搬送される前記ガラス板と接触しうるガラス片は検知され、搬送される前記ガラス板と接触しないガラス片は検知されないよう調整されており、
前記搬送工程では、前記検知工程において前記ガラス片が検知されると、前記搬送を停止することを特徴とするディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【0010】
)前記搬送工程において、前記ガラス板は、前記ガラス板の搬送方向にわたって吊り下げられた状態で搬送される、前記(1に記載のディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【0011】
)前記搬送工程において、前記ガラス板を搬送方向に搬送する搬送ベルトに取り付けられたクランプによって前記ガラス板の上端部が把持されることによって、前記ガラス板は前記搬送ベルトに吊り下げられている、前記()に記載のディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【0012】
)前記熱処理は、隣り合う前記ガラス板間の隙間に加熱された気体を送風することで行われる、前記(1)から前記()のいずれか1つに記載のディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【0013】
ディスプレイ用ガラス板製造装置であって、
成形されたガラス板に対し熱処理を行う熱処理装置と、
前記熱処理中に複数の前記ガラス板を、互いに間隔をあけて、前記ガラス板の一端を保持しながら搬送する搬送装置と、を備え、
搬送される前記ガラス板の下方に、搬送される前記ガラス板から離脱して落下したガラス片を受ける受け部が、前記ガラス板の搬送方向にわたって配置され、
前記ディスプレイ用ガラス板製造装置は、さらに、前記受け部に落下したガラス片を検知する検知装置を備え
前記検知装置は、搬送される前記ガラス板と前記受け部との上下方向間の高さ位置で、前記搬送方向の一方の側からレーザ光を照射し、前記搬送方向の他方の側で受光されたレーザ光の強度に基づいて、前記受け部に落下した前記ガラス片を検知し、
前記高さ位置は、前記検知装置が、前記受け部に落下した前記ガラス片のうち、搬送される前記ガラス板と接触しうるガラス片を検知し、搬送される前記ガラス板と接触しないガラス片を検知しないよう調整されており、
前記搬送装置は、前記検知装置が前記ガラス片を検知すると、前記搬送を停止することを特徴とするディスプレイ用ガラス板製造装置。
【発明の効果】
【0014】
上述のディスプレイ用ガラス板の製造方法等によれば、複数のガラス板を搬送する工程において、ガラス板から落下したガラス片によって他のガラス板が受けることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のガラス板の製造方法の工程を示す図である。
図2】本実施形態の熱処理工程で用いられる熱処理炉の内部構造を説明する図である。
図3】本実施形態の搬送工程を説明する図である。
図4】本実施形態の搬送工程でクランプに把持されたガラス板を側方から見て示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態のディスプレイ用ガラス板の製造方法およびディスプレイ用ガラス板製造装置について説明する。
本実施形態のディスプレイ用ガラス板の製造方法は、成形されたガラス板に対し熱処理を行う熱処理工程と、熱処理中に複数のガラス板を、互いに間隔をあけて、ガラス板の一端を保持しながら搬送する搬送工程と、搬送工程においてガラス板から離脱して落下したガラス片を検知する検知工程と、を備える。そして、搬送工程では、検知工程においてガラス片が検知されると、搬送を停止する。この方法では、ガラス板から離脱したガラス片が検知されると、ガラス板の搬送が停止される。このため、後続して搬送されるガラス板がガラス片と接触するのを回避し、他のガラス板が損傷を受けることを未然に防ぐことができる。
【0017】
(ガラス板の製造方法の概略説明)
図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の工程の一例を示す図である。
ガラス板の製造方法は、成形工程(S1)と、徐冷工程(S2)と、採板工程(S3)と、熱処理工程(S4)と、切断工程(S5)と、端面加工工程(S6)と、洗浄工程(S7)と、検査工程(S8)と、梱包工程(S9)と、を備える。
【0018】
成形工程(S1)では、熔融ガラスをシートガラスに成形する。成形方法には、フュージョン法(オーバーフローダウンドロー法)、フロート法等の公知の方法が用いられる。このうち、フュージョン法は、製造ラインに含まれる徐冷装置を長くすることが困難であることから、オフラインアニールを行う本実施形態の方法に適している。
徐冷工程(S2)では、成形されて搬送されるシートガラスの内部歪および反りが生じないよう、徐冷装置において冷却する。
採板工程(S3)では、徐冷されたシートガラスを所定の長さごとに切断して複数のガラス板を得る。ガラス板は、矩形形状に採板されることが好ましく、サイズは、特に制限されないが、例えば、縦長さおよび横長さがそれぞれ500mm〜3500mmである。ガラス板の板厚は、例えば、0.1〜1.1mmである。
熱処理工程(S4)では、後述する熱処理炉を用いてガラス板の熱処理を行う。なお、熱処理炉を用いて、ガラス板を搬送する搬送工程、および、ガラス板から離脱して落下したガラス片を検知する検知工程が、熱処理工程(S4)と並行して行われる。
切断工程(S5)では、搬送されたガラス板を所定のサイズに切断して複数のガラス基板を得る。ガラス基板は、矩形形状に切断されることが好ましく、サイズは、特に制限されないが、例えば、縦長さおよび横長さがそれぞれ500mm〜3500mmである。
端面加工工程(S6)では、ガラス基板に対し、端面の研削、研磨およびコーナーカットを含む端面加工を行う。
洗浄工程(S7)では、ガラス基板を洗浄する。
検査工程(S8)では、洗浄されたガラス基板に対し、表面に傷、塵、汚れがないか、あるいは、気泡、異物等の内部欠陥がないか、光学的検査を行う。
梱包工程(S9)では、検査の結果、所望の品質に適合するガラス基板を梱包する。梱包されたガラス基板は納入先業者に出荷される。
【0019】
(ガラス板製造装置)
本実施形態のガラス板製造装置は、上記説明した成形工程(S1)〜採板工程(S3)の各工程を行う装置として、成形装置、徐冷装置、切断装置を備えている。このうち、成形装置は、オーバーフローダウンドロー法による成形が行われる場合、熔融ガラスを成形するための成形体を有している。ガラス板製造装置は、さらに、後述する、熱処理工程を行う熱処理ユニット(熱処理装置)、搬送工程を行う搬送ユニット(搬送装置)、検知工程を行う検知ユニット(検知装置)、を備えている。
【0020】
(ガラス板)
本実施形態で製造されるガラス板は、ディスプレイに用いられるディスプレイ用ガラス板であり、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス板、曲面ディスプレイ用ガラス板である。また、本実施形態で製造されるガラス板は、例えば、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス板、LTPS(低温ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス板である。また、本実施形態で製造されるガラス板は、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス板、有機ELディスプレイ用ガラス板である。
本実施形態で製造されるガラス板は、熱収縮率は10ppm以下であることが、ディスプレイに用いられる点から好ましく、熱収縮率は6ppm以下であることがより好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、2ppm以下であることがより好ましい。ガラス板の熱収縮率を2ppm以下にすることにより、ガラス板の面内の熱収縮のばらつきを2ppm以下にすることができる。
ガラス板の歪点は、高精細なディスプレイ用ガラス板とするために、600℃〜760℃であることが好ましい。例えば、歪点は、661℃である。
このようなガラス板は、高精細なディスプレイに用いられる、LTPS(低温ポリシリコン)・TFTディスプレイ用ガラス基板、あるいは、酸化物半導体・TFTディスプレイ用ガラス基板、を作製するのに特に好適である。
【0021】
このようなガラス板として、以下のガラス組成のガラス板が例示される。つまり、本実施形態の方法では、以下のガラス組成のガラス板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
SiO2 55〜80モル%、
Al23 8〜20モル%、
23 0〜12モル%、
RO 0〜17モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)。
【0022】
SiO2は60〜75モル%、さらには、63〜72モル%であることが、熱収縮率を小さくするという観点から好ましい。
ROのうち、MgOが0〜10モル%、CaOが0〜15モル%、SrOが0〜10%、BaOが0〜10%であることが好ましい。
【0023】
また、SiO2、Al23、B23、及びROを少なくとも含み、モル比((2×SiO2)+Al23)/((2×B23)+RO)は4.5以上であるガラスであってもよい。また、MgO、CaO、SrO、及びBaOの少なくともいずれか含み、モル比(BaO+SrO)/ROは0.1以上であることが好ましい。
【0024】
また、モル%表示のB23の含有率の2倍とモル%表示のROの含有率の合計は、30モル%以下、好ましくは10〜30モル%であることが好ましい。
また、上記ガラス組成のガラス基板におけるアルカリ金属酸化物の含有率は、0モル%以上0.4モル%以下であってもよい。
また、ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5モル%含み、As、Sb及びPbOを実質的に含まないということは必須ではなく任意である。
【0025】
(熱処理炉の構造、および、熱処理炉で行われる工程)
ここで、熱処理工程(S4)、搬送工程、および検知工程を、これらの工程で用いられる熱処理炉を説明しながら説明する。図2に、熱処理炉1の内部構造を示す。
熱処理炉1は、ガラス板Gが搬入されるよう開口された入口3と、炉1内を通過したガラス板Gが搬出されるよう開口された出口5と、入口3と出口5とを炉1内で接続するように延びる搬送路7と、を有している。ガラス板Gの搬送方向は、図2において左方から右方に向かう方向であり、矢印Aで示す方向である。なお、図2では、便宜のため、入口3と出口5の間の熱処理炉1の部分を省略している。
【0026】
ガラス板Gは、熱処理炉1の上流側を、主表面が上下方向を向いた状態で搬送され、入口3において、図示されない吸着機構によって、主表面が吸着され支持されながら、主表面が搬送方向を向くよう立てられる。
ガラス板Gは、出口5において、図示されない他の吸着機構によって、主表面が吸着され支持されながら、主表面が上下方向を向くよう寝かせられる(倒される)。寝かせられたガラス板Gは、熱処理炉1の下流側において、主表面が上下方向を向いた状態で搬送される。
搬送路7は、搬送方向に3つに分けてなる3つの区間を有しており、ガラス板Gが3つの区間を搬送されることで、ガラス板Gに対し、昇温、キープ、降温の各熱処理が順に行われる。3つの区間は、温度、ガラス板Gが搬送される時間等の熱処理条件は異なるが、装置構成は同様である。なお、図2には、昇温区間7a、降温区間7cの各一部が示され、後で参照する図3には、キープ区間7bの一部が示される。
【0027】
熱処理炉1は、搬送されるガラス板Gに対し熱処理を行う熱処理ユニットと、搬送路7上で複数のガラス板Gを搬送する搬送ユニットと、搬送されるガラス板Gから離脱して落下したガラス片Pを検知する検知ユニットと、を備える。
【0028】
(a)熱処理ユニット
熱処理ユニットは、熱処理工程を行うためのものであり、搬送されるガラス板Gの上方および下方のそれぞれに搬送方向に並ぶよう配置された複数のファン付きヒータ31と、複数のヒータ33と、を有している。ファン付きヒータ31およびヒータ33は、搬送されるガラス板Gに、予め設計された温度プロファイルが形成されるよう、図示しない制御装置によって制御される。
【0029】
ファン付きヒータ31は、ヒータで加熱された気体をファンで送風するよう、ヒータとファンが互いに隣接して配置された一体の装置であり、熱処理炉1内では、ヒータに対してファンを下方にして配置される。ファン付きヒータ31のヒータには、例えば、バーナーヒータ、電気ヒータが用いられる。ファンは、熱処理工程の間、ヒータで加熱された空気を、図3に示されるように下方に向けて送風するよう駆動される。図3において、熱風が流れる向きを太い矢印で示す。熱処理炉1内の雰囲気中に粉塵が浮遊している場合であっても、このようなダウンフローの熱風によって大きな粉塵(例えば、最大長さが、数μm以上、0.5μm以上)は炉1の底部に運ばれて堆積する。また、小さな粉塵(例えば、最大長さ0.5μm未満)はフィルタ(図示せず)によって除去される。このため、粉塵が雰囲気中を浮遊し続けてガラス板Gの表面に付着するのを抑えることができる。なお、フィルタは、熱風にさらされるため、耐熱性を有するフィルタが好ましい。フィルタは、例えば、後述するベルト27の下方でかつファン付きヒータ31の上方に配置される。また、ダウンフローの熱風は、熱処理炉1内を循環する空気流を形成できる点で好ましい。熱風は、ガラス板G間を下方に流れた後、熱処理炉1の底部に沿って熱処理炉1の図示されない側壁まで流れて、側壁に沿って上昇し、さらに熱処理炉1の天井に沿って流れることで、搬送路7の周りを循環する。
【0030】
ファン付きヒータ31およびヒータ33は、発熱する領域の横方向(図2の紙面奥行き方向)長さが、搬送されるガラス板Gの幅方向長さより長いことが好ましい。また、搬送方向に隣り合うファン付きヒータ31の間隔は、搬送方向にわたって熱風の温度にムラが生じないよう調整される。
【0031】
(b)搬送ユニット
搬送ユニットは、搬送工程を行うためのものであり、搬送されるガラス板Gの搬送方向の両側に掛け渡された2本のチェーンベルト(搬送ベルト)21と、チェーンベルト21とともに搬送方向に移動する複数のバー23と、バー23に取り付けられた複数のクランプ25と、駆動機構(図示せず)と、制御装置(図示せず)と、を有している。
【0032】
チェーンベルト21は、例えば、搬送方向の両端のそれぞれにおいて複数のローラに架け渡され、図2に示されるように駆動される。なお、図2には、便宜のため、搬送方向の上流側の複数のローラのうちの一部のローラのみを示す。チェーンベルト21は、搬送されるガラス板Gの幅方向の両端のそれぞれと対応するよう1本ずつ設けられ(図3参照)、搬送工程の間、駆動機構によって駆動される。駆動機構は、チェーンベルト21の搬送方向の両端が掛け渡される軸、および、軸を回転駆動させるためのモータを有しており、制御装置に制御されることによって、あるいは、不図示の操作装置を操作することによって駆動および駆動停止される。制御装置は、検知ユニットと接続されており、後述する受光部43から出力された検知信号を受けて、チェーンベルト21が駆動停止されるよう駆動装置を制御する。図3は、本実施形態の搬送工程を説明する図である。図3では、チェーンベルト21のうちの搬送方向に移動する部分を示し、搬送方向と反対方向に移動する部分を省略している。また、図3では、説明の便宜のため、クランプ25の図示を省略し、バー23およびガラス板Gを、互いに間隔をあけた状態で示している。
【0033】
なお、搬送されるガラス板Gを挟んでチェーンベルト21と対向する位置には、熱処理炉1の底部を構成するベルト27(受け部)が、搬送方向の両側に掛け渡されている。ベルト27には、例えば、厚み方向に貫通する開孔が面方向に並ぶよう形成されたメッシュベルトが用いられる。ベルト27には、搬送中のガラス板Gが割れてガラス片Pが落下した場合に、ガラス片Pを受ける受け部として機能する。ベルト27は、搬送工程の間は駆動されないが、必要に応じて操作装置を操作して駆動させることができる。
ベルト27としてメッシュベルトを用いた場合は、メッシュベルトの開孔を通過しうる比較的サイズの小さいガラス片やガラス屑に関しては、開孔を通過させて熱処理炉1の床面2に落下させ、比較的サイズの大きいガラス片Pのみを排出ベルト27上に受けることができる。これにより、後続するガラス板Gと接触する可能性の高い比較的サイズの大きいガラス片Pのみをベルト27上に残し、後続するガラス板Gと接触する可能性の低い比較的サイズの小さいガラス片が検知ユニットによって頻繁に検知されてしまうのを回避できる。また、メッシュベルトを用いることによって、熱処理工程において送風されるダウンフローの熱風をメッシュベルトを通過させて下方に流すことができ、熱風の下方向への流れを安定させることができる。
ベルト27は、ガラス板Gから離脱したガラス片Pをより確実に受け止める観点からは、搬送されるガラス板Gの幅方向長さよりも長い横幅(図2の紙面奥行方向の長さ)を有していることが好ましい。なお、熱処理炉1の底部は、ベルト27の代わりに、駆動されない板状部材によって構成されてもよい。この場合、駆動されない板状部材が受け部として機能する。
【0034】
バー23は、例えば金属を材質とする板状部材である。バー23は、搬送工程において、長手方向の両端が、搬送方向に移動するチェーンベルト21の部分に載置され、チェーンベルト21に追従するように搬送方向に移動する。バー23には、クランプ25が取り付けられており、熱処理炉1の入口3において、把持機構4によってガラス板Gがクランプ25に把持されることでガラス板Gはバー23に吊り下げられる。図4に、バー23およびクランプ25をより詳細に示す。図4は、クランプ25に把持されたガラス板Gを側方から見て示す図である。ガラス板Gを吊り下げたバー23は、搬送路7においてガラス板Gを所定の間隔(ピッチ)で搬送するために、搬送路7の上流側の端に配置されたロード機構8によって、1本ずつ、互いに間隔をあけてチェーンベルト21に載置される。これによって、ガラス板Gは、バー23を介してチェーンベルト21に吊り下げられた状態で搬送(縦吊り搬送)される。ガラス板Gの間隔は、狭いほど、生産性は高くなるが、隣り合うガラス板G同士が接触する可能性が高くなる。このため、ガラス板Gの間隔は、20〜200mmであることが好ましく、さらに好ましくは50mm〜150mmである。なお、図2および図4では、説明の便宜のため、複数のガラス板Gの間隔を詰めて示す。
ガラス板Gを吊り下げたバー23は、搬送路7の下流側の端に配置されたアンロード機構9によって、チェーンベルト21から取り外され、熱処理炉1の出口5において、抜き取り機構6によってガラス板Gはクランプ25から抜き取られる。
【0035】
クランプ25は、ガラス板Gの上端部を把持する部材である。クランプ25は、特に制限されないが、例えば、バネ力によってガラス板Gの両主表面を挟むバネクランプを採用することができる。1つのバー23に取り付けられるクランプ25の数は、1つであってもよいが、搬送中のガラス板Gの姿勢をより安定させるために、2つ以上であることが好ましい。2つ以上のクランプ25がバー23に取り付けられている場合、クランプ25は、バー23に対し幅方向にスライドできるよう構成されていることが好ましい。金属材料で構成されたバー23は、ガラス板Gよりも熱膨張率が高く幅方向に延びやすい。このため、クランプ25がバー23に対して幅方向に移動することで、バー23が熱膨張してもガラス板Gの上端部に撓みや変形が生じるのを防止することができる。
【0036】
(c)検知ユニット
検知ユニットは、レーザ光Lを搬送方向に照射するレーザ光照射部41と、レーザ光照射部41から照射されたレーザ光Lを受光する受光部43と、を有している。図2において、レーザ光照射部41および受光部43は、便宜のため四角形状で示す。
【0037】
レーザ光照射部41は、搬送路7の上流側の炉1底部に配置されている。レーザ光照射部41は、レーザ光Lを照射する図示されないレーザ光源を有している。レーザ光源は、搬送されるガラス板Gの下端より下方の高さ位置に配置されており、レーザ光Lを搬送されるガラス板Gに遮られることなく搬送方向に照射するようになっている。レーザ光照射部41は、搬送されるガラス板Gのサイズに合わせて、高さ位置を調節できるようになっていることが好ましい。レーザ光源の高さ位置は、搬送されるガラス板Gの下端の高さ位置よりわずかに低いことが好ましく、例えば、ガラス板Gの下端から1〜300mm下方の高さの範囲内となるよう高さ位置が調整される。このような高さ位置であることにより、レーザ光Lが、後続するガラス板Gと接触する可能性の高い比較的大きいサイズのガラス片Pによって確実に遮られるようにすることができる。一方で、ガラス板Gと接触する可能性の低い比較的サイズの小さいガラス片やガラス屑によってレーザ光Lが遮られることで、ガラス片がベルト27上にあることを頻繁に検知されないようにすることができる。この理由は、ガラス片がベルト27上にあることが検知されると、チェーンベルト21が駆動停止され、例えば、ガラス片をベルト27上から取り除くことが行われるため、このような駆動停止や作業が必要でない場合にまで頻繁に検知が行われると、生産効率が低下するためである。
【0038】
受光部43は、搬送路7の下流側の炉1底部に配置されている。受光部43は、レーザ光照射部41から照射されたレーザ光Lを受光できる高さ位置に配置された受光デバイスを有している。受光部43は、レーザ光Lの透過率、つまり、受光したレーザ光Lの強度に応じて、ベルト27上にガラス片Pがあることを検知する。具体的に、受光部43は、受光したレーザ光Lの強度が所定の閾値より小さい場合に、ガラス片Pがベルト27上にあることを検知する。ベルト27上に落下したガラス片Pは、比較的サイズの大きいものであれば通常レーザ光Lを遮ることができるため、レーザ光Lは受光されない。また、例えば、落下したガラス片Pの主表面が搬送方向を向いている場合は、レーザ光Lの一部はガラス片Pを透過して受光部43に受光されるが、その強度は上記閾値を下回る。閾値は、特に制限されないが、例えば、出射されたレーザ光Lの強度の90%に設定される。なお、受光部43は、ガラス片Pがベルト27上にあることを検知すると、検知信号を、熱処理炉1の炉壁の外側に設けられた報知手段に向けて出力し、検知信号を受けた報知手段にガラス片Pを検知したことを報知させる。報知手段には、特に制限されないが、例えば、ディスプレイ、警告灯を採用することができ、ディスプレイに表示される画面上にガラス片Pを検知したことを表示することや、警告灯の点灯によって報知を行うことができる。
【0039】
なお、レーザ光照射部41および受光部43は、ベルト27上に落下したガラス片Pをより確実に検知するために、搬送されるガラス板Gの幅方向(図2の紙面奥行き方向)領域にわたって、レーザ光を照射し、受光するよう構成されていることが好ましい。
例えば、レーザ光照射部41は、ガラス板Gの幅方向に沿って配置された複数のレーザ光源を有していてもよい。この場合、受光部43には、各レーザ光源から照射されたレーザ光を受光デバイスに収束させるためのレンズを含む光学系がレーザ光の光路上に配置されてもよく、レーザ光源から照射されたレーザ光のそれぞれを受光する複数の受光デバイスが備えられてもよい。この場合、複数のレーザ光源、および、1または複数のデバイスのそれぞれは、ガラス板Gの幅方向の全域にわたって配置されることが好ましい。
また、例えば、レーザ光照射部41は、レーザ光を平面方向(図2の上下方向と直交する方向)に拡げてシート状のレーザ光を照射するよう、レーザ光の光路上に複数のシリンドリカルレンズを含む光学系をさらに有していてもよい。この場合、受光部43には、シート状のレーザ光を受光デバイスに収束させるためのレンズを含む光学系が、レーザ光の光路上に配置される。
また、例えば、レーザ光照射部41は、搬送方向に照射されたレーザ光を、図2の紙面奥行方向にスキャンするよう構成され、受光部43は、スキャンされたレーザ光を受光できるよう構成されていてもよい。
【0040】
本実施形態のガラス板の製造方法では、ガラス板から離脱したガラス片Pが検知されると、ガラス板Gの搬送が停止される。このため、後続して搬送されるガラス板Gがガラス片Pと接触するのを回避し、他のガラス板が損傷を受けることを未然に防ぐことができる。ガラス板Gの搬送が停止された後、受け部に落下したガラス片Pは、ガラス板Gの搬送を再開させるために、搬送路7上から取り除かれる。
特に、液晶ディスプレイ用ガラス板は、近年の液晶ディスプレイの大型化に伴って比較的サイズが大きくなっているために、ガラス板Gの端部に傷や割れが生じることよって、よりサイズの小さいガラス板と比べて歩留まり率は悪化しやすい。本実施形態の方法では、ガラス片Pが落下した場合にガラス板Gの搬送が停止されるため、後続するガラス板が損傷を受けるのを未然に防ぐことができるので、歩留まり率の悪化を抑えることができる。
【0041】
また、複数のガラス板Gを、搬送ベルトを用いて縦吊り搬送した場合、揺れて隣り合うガラス板G同士で接触して割れて、ガラス片Pがベルト27上に落下するおそれがある。さらに、液晶ディスプレイに用いられるガラス板は、近年の液晶ディスプレイの大型化に伴って比較的サイズが大きく、かつ、薄いため、搬送中により揺れやすく、このような割れが生じやすい。また、ガラス板Gの上端部を、搬送ベルトに取り付けられたクランプ25によって把持して搬送した場合には、クランプによる把持の仕方によって割れて、ガラス片Pがベルト27上に落下するおそれがある。このような場合であっても、本実施形態の方法によれば、ガラス片Pが落下した場合にガラス板Gの搬送が停止されることで、後続するガラス板Gが損傷を受けるのを未然に防ぐことができる。
【0042】
なお、検知工程では、上記説明した検知ユニットを用いる代わりに、光電センサ等の他の検知手段を用いてもよい。好ましい光電センサのタイプとして、例えば、透過型、反射型を挙げることができる。いずれのタイプの光電センサも、搬送方向に沿って複数配置されることで用いられる。透過型の光電センサを用いる場合、光電センサのそれぞれの発光素子および受光素子は、搬送路7を挟むよう対向させて配置される。反射型の光電センサの好ましいタイプとしては、拡散反射型、挟視界反射型、回帰反射型を挙げることができる。このうち、拡散反射型、挟視界反射型の光電センサは、搬送されるガラス板Gの幅方向のより広い範囲にわたってガラス片が検知されるよう、幅方向の両側に設けられることが好ましい。回帰反射型の光電センサは、反射板と搬送路7を挟むよう反射板7と対向させて配置される。ここで例示した光電センサはいずれも、搬送方向の全域にわたって複数配置されていてもよく、搬送方向のうち、ガラス板Gの割れが特に発生しやすい領域(例えばキープ区間)にだけ複数配置されていてもよい。
【0043】
以上、本発明のディスプレイ用ガラス板の製造方法およびディスプレイ用ガラス板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0044】
1 熱処理炉
3 入口
5 出口
7 搬送路
21 チェーンベルト(搬送ベルト)
23 バー
25 クランプ
27 ベルト
31 ファン付きヒータ
33 ヒータ
41 レーザ光照射部
43 受光部
G ガラス板
P ガラス片
図1
図2
図3
図4