(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)ガラス基板の製造方法
以下、本発明のガラス基板の製造装置およびガラス基板の製造方法について説明する。
本実施形態において製造されるガラス基板は、特に制限されないが、例えば縦寸法及び横寸法のそれぞれが、500mm〜3500mm、1500mm〜3500mm、1800〜3500mm、2000mm〜3500mmなどが挙げられ、2000mm〜3500mmであることが好ましい。
ガラス基板の厚さは、例えば、0.1〜1.1(mm)が挙げられ、より好ましくは0.75mm以下の極めて薄い矩形形状の板で、例えば、0.55mm以下、さらには0.45mm以下の厚さがより好ましい。ガラス基板の厚さの下限値としては、0.15mm以上が好ましく、0.25mm以上がより好ましい。
まず、熔融されたガラスが、例えばフュージョン法あるいはフロート法等の公知の方法により、所定の厚さの帯状ガラスであるシートガラスが成形される(ステップS1)。
次に、成形されたシートガラスが所定の長さの素板であるガラス基板に採板される(ステップS2)。採板により得られたガラス基板は、搬送機構により、ピンチング保持されつつ、熱処理工程に誘導され搬送される(ステップS3)。次に、この搬送されたガラス基板に対し熱処理を行なう(ステップS4)。
このステップS3の処理およびステップS4の処理が、本実施形態のオフラインアニール工程である。オフラインアニール工程ついては後述する。
【0016】
熱処理後のガラス基板は切断工程に搬送され、製品のサイズに切断され、ガラス基板が得られる(ステップS5)。得られたガラス基板には、端面の研削、研磨およびコーナカットを含む端面加工が行われた後、ガラス基板は洗浄される(ステップS6)。洗浄されたガラス基板はキズ、塵、汚れあるいは光学欠陥を含む傷が無いか、光学的検査が行われる(ステップS7)。検査により品質の適合したガラス基板は、ガラス基板を保護する紙と交互に積層された積層体としてパレットに積載されて梱包される(ステップS8)。梱包されたガラス基板は納入先業者に出荷される。
【0017】
このようなガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。つまり、以下のガラス組成のガラス基板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
SiO
2 55〜80モル%、
Al
2O
3 8〜20モル%、
B
2O
3 0〜12モル%、
RO 0〜17モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)。
【0018】
SiO
2は60〜75モル%、さらには、63〜72モル%であることが、熱収縮率を小さくするという観点から好ましい。
ROのうち、MgOが0〜10モル%、CaOが0〜15モル%、SrOが0〜10%、BaOが0〜10%であることが好ましい。
【0019】
また、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びROを少なくとも含み、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.5以上であるガラスであってもよい。また、MgO、CaO、SrO、及びBaOの少なくともいずれか含み、モル比(BaO+SrO)/ROは0.1以上であることが好ましい。
【0020】
また、モル%表示のB
2O
3の含有率の2倍とモル%表示のROの含有率の合計は、30モル%以下、好ましくは10〜30モル%であることが好ましい。
また、上記ガラス組成のガラス基板におけるアルカリ金属酸化物の含有率は、0モル%以上0.4モル%以下であってもよい。
また、ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5モル%含み、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないということは必須ではなく任意である。
【0021】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、またはカーブドパネルディスプレイ用ガラス基板で、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板あるいは、有機ELディスプレイ用のガラス基板として好適である。さらに、本実施形態で製造されるガラス基板は、高精細ディスプレイに用いるLTPS(Low-temperature poly silicon)・IGZO(Indium-Gallium-Zinc-Oxide)・TFTディスプレイ用ガラス基板として特に好適である。
【0022】
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法は、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。本実施形態の熱処理により熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率は、50ppm以下であり、好ましくは40ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更により好ましくは20ppm以下である。熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率の範囲としては、10ppm〜40ppmが好ましい。
【0023】
(2)オフラインアニール工程
本実施形態のオフラインアニール工程の熱処理について詳細に説明する。
前述のとおり、本実施形態のオフラインアニール工程は、採板により得られたガラス基板を搬送機構によりピンチング保持してから、熱処理へ誘導し搬送する(ステップS3)、及び、この搬送されたガラス基板に対し熱処理を行なう(ステップS4)、を含む。
【0024】
(2−1)ステップS3(S2から熱処理炉へのガラス基板の導入工程)
ステップS3の搬送機構を説明する。ステップS2で採板されたガラス基板は、受渡装置により、ガラス基板の平面が鉛直方向(Z方向)になるように支持される。受渡装置はガラス基板の平面が鉛直方向に制御するための姿勢制御機構を備えている。
方向が調整されたガラス基板は、その平面が鉛直方向に支持された状態で、ガラス基板の上縁が保持部に固定され吊り下げられる。保持部に固定されたガラス基板は、次工程の熱処理工程の入口側まで搬入手段により誘導され、熱処理炉の入口に導入される。
次のガラス基板の受け渡しのため、受渡装置は採板工程(ステップS2)に備えられた所定の位置へ戻る。これにより連続的にガラス基板の受け渡しを行う。
【0025】
本発明のステップS3は、ステップS2から搬送されたガラス基板11を熱処理炉へ導入する導入工程であり、ステップS2で採板されたガラス基板を、保持部へ固定し吊り下げた状態とする保持プロセスと、吊り下げられた状態を維持しつつ搬送手段により熱処理炉へと導入する導入プロセスとを備える。
さらに、この導入プロセスは、ガラス基板の搬送を速度V1(搬送速度V1)まで加速させる加速搬入工程と、速度V1を調整して(たとえば減速して)速度V2(搬送速度V2)を得て熱処理炉にガラス基板を導入する揺れ防止工程と、からなる(
図1)。
【0026】
図
3に、ステップS2からステップS3の保持プロセスを経たガラス基板について、ガラス基板の初速度(
図2では初速度0m/秒)をV1(加速搬入工程)まで加速させた後、減速させてV2(揺れ防止工程)を得るときの速度と時間の関係を示す。
【0027】
まず、加速搬入工程を説明する。加速搬入工程では、ステップS2からステップS3の保持プロセスを経たガラス基板について、搬送速度をV1まで加速させる。そのときの加速度aは、次の式より得られる。
加速度a=(重力加速度g)×(揺れ防止工程におけるガラス基板の間隔D)/(ガラス基板の鉛直方向の長さL)
上記式において、「揺れ防止工程におけるガラス基板の間隔D」は、「熱処理における隣り合う2枚のガラス基板11の対向する主表面間の距離」を指し、
「ガラス基板の鉛直方向の長さL」とは、「熱処理に施すガラス基板の平面の鉛直方向の長さ」であり、さらに、
上記式の「重力加速度g」は約9.8m/s
2とする。
【0028】
「揺れ防止工程におけるガラス基板の間隔D」を特定するための、「熱処理における隣り合う2枚のガラス基板11の対向する主表面間の距離」を、次の(1)から(3)を含む事項により定める。
(1)熱処理においてガラス基板11に予め設計された温度プロファイルが形成されるよう、熱処理の制御として、制御装置により発熱装置の温度、風力、風向き等の制御、さらに炉40内の温度分布がほぼ一様となるように発熱量、発熱時間の制御、を決定して、これらの制御内容に基づいて、熱処理に適合するガラス基板11どうしの距離を特定する。
(2)熱処理の制御内容が決定されると、炉40内の風速などの環境条件が特定され、熱処理炉40内におけるガラス基板の最大振れ幅が特定される。
(3)その他の要素として、搬送方向に対し反対向きの風圧(搬送速度に関係する)、ガラス基板11の保持部の大きさ(例えば、進行方向の長さサイズ)、熱処理炉40内のスペース、要求される生産スピード、ガラスのヤング率、熱流の循環による加熱方式を採用する場合の流体が妨げられない間隔、など、制約的な要素を考慮し、熱処理におけるガラス基板どうしの距離が最適に調整される。
【0029】
本実施形態の熱処理を実施する「熱処理における隣り合う2枚のガラス基板どうしの主表面間の距離」(以下、間隔Gとも言う)は、10mm〜300mmの範囲であればよく、熱処理および生産効率の観点から、好ましくは30mm〜200mm、より好ましくは50mm〜150mm、更により好ましいのは50mm〜100mmである。
間隔Gが狭いほど、生産性は高くなるが、熱風の熱がガラス基板によって奪われやすくなる。後述するように、本実施形態の製造方法では、ガラス基板の面内での熱収縮率のバラつきを低減できることから、ガラス基板の間隔が狭い場合にも好適である。
【0030】
このようにして得られた「揺れ防止工程におけるガラス基板の間隔D」に基づいて、ステップS3の導入プロセスにおける、加速搬入工程の加速度aが決定され、加速搬入工程の搬送速度VI、加速搬入工程における搬送時間、距離を定めることができる。
【0031】
次に、揺れ防止工程を説明する。揺れ防止工程では、ガラス基板は、搬送で生じた揺れ幅が一定の範囲に収まるまで、搬送が誘導される。
すなわち、揺れ防止工程の搬送時間は、搬送で生じた揺れ幅が一定の範囲に収まるように決められる。例えば、揺れ防止工程の搬送時間は、加速搬入工程の搬送時間(加速時間)よりも長く設定することができる。
【0032】
例えば、本実施態様を行ったところ、加速時は70mmの後ろ振れが発生し、他方、減速時は30mm以下の前振れになり、既に導入されている一つ前のガラス基板11と接触せずに所望の間隔で隣接することが可能となった。
【0033】
前工程から搬送されたガラス基板11に対し、加速搬入工程および揺れ防止工程において、上述の搬送速度V1及び搬送速度V2により速度コントロールして搬送することで、ガラス基板11の熱処理炉40への導入において、ガラス基板11どうしの間隔が熱処理における最適な間隔へと調整されつつ、ガラス基板11どうしの接触を抑制し、さらに、熱処理におけるガラス基板11の揺れによる破損も防ぐことが可能となる。
【0034】
本発明の実施形態における、アニール工程を行う熱処理炉を備えた熱処理装置を含むディスプレイ用のガラス基板の製造装置は、該熱処理装置にガラス基板を導入する導入機構を備え、熱処理装置および導入機構は複数のガラス基板を一枚ずつ保持して順次搬送する保持手段有し、さらに、導入機構は、加速搬入手段と、揺れ防止手段とを備える。
【0035】
ステップS2から搬送されたガラス基板を熱処理炉40へ搬入する前に、ガラス基板11を一枚ずつ保持手段によりガラス基板の平面を鉛直方向にして吊り下げた後、導入機構の加速搬入手段によりガラス基板11を一枚ずつ加速させながら搬送し、さらに、導入機構の揺れ防止手段により、ガラス基板11を減速させながら、搬送で生じた揺れ幅が一定の範囲に収まるまで搬送を誘導しつつ、熱処理炉へのガラス基板11の導入において、ガラス基板11の熱処理炉へ導入する位置から、熱処理炉にすでに導入されている一つ前のガラス基板11までの距離が、熱処理炉内におけるガラス基板の最大振れ幅よりも大きくなるように設定して導入する。
【0036】
ステップS2の搬送、ステップS3の導入機構の搬送、およびステップ4の熱処理の搬送は、連続した一つの手段で搬送してもよいし、別々の手段でそれぞれを制御し搬送することもできる。
ステップS3の導入機構における加速手段の搬送と、揺れ防止手段の搬送は、導入機構による導入プロセスの搬送速度をV1からV2へ滑らかに制御するためには、連続した一つの手段で搬送するのがより好ましい。
ステップS3の導入機構は、さらに、緩衝材供給手段を備えるのがより好ましい。緩衝材として、ガラス基板11のパーティクル付着防止という観点から、圧縮エアーが好ましい。
【0037】
(2−2)ステップS4(熱処理工程)
ステップS4の熱処理について説明する。本実施形態の熱処理工程(ステップ4)は、例えば、ダウンドロー法により成形されたシートガラスを温度管理された状態で冷却する第1徐冷工程を経て得られたガラス基板を、再度加熱し、所定の温度まで昇温させた後、再度冷却する第2徐冷工程を行う処理である。
【0038】
本実施形態では、1枚ずつガラス基板11を搬送しながら加熱する枚葉方式の熱処理が行われる。枚葉方式の熱処理を行う熱処理装置について説明する。
【0039】
図2は、本実施形態の熱処理装置101の断面の概略図である。
熱処理装置101は、主に、熱処理炉40と駆動部102とを備える。熱処理炉40は、ガラス基板11の熱処理が行われる熱処理空間40aを内部に有する。駆動部102は、熱処理炉40内の熱処理空間40aをガラス基板の搬送方向に走行し設置される。駆動部102がガラス基板11を吊り下げて熱処理空間40aを走行し、ガラス基板11が熱処理される。
【0040】
ガラス基板11の上端部は保持部112に把持されていて、駆動部102と接する保持部112が搬送方向へと移動することで、保持部11に吊り下げられているガラス基板11が搬送される。保持部112は、ガラス基板11を吊り下げつつ、ガラス基板11の平面を鉛直方向に維持する。
【0041】
保持部112は、ガラス基板の上端部を挟み込んで把持するためのクランプを有する。
クランプの種類は、特に制限されないが、例えば、バネ力によってガラス基板11の両主表面を挟むバネクランプを採用することができる。1つの保持部112(例えば、保持バーなど)に取り付けられるクランプの数は、1つであってもよいが、搬送中のガラス基板の姿勢をより安定させるために、2つ以上であることが好ましい。2つ以上のクランプが保持部112に取り付けられている場合、クランプは、保持部に対し幅方向にスライドできるよう構成されていることが好ましい。金属材料で構成された保持部は、ガラス基板11よりも熱膨張率が高く幅方向に延びやすい。このため、クランプが保持部112に対して幅方向に移動することで、保持部(保持バーなど)が熱膨張してもガラス基板11上端部に撓みや変形が生じるのを防止することができる。
【0042】
駆動部102は、複数のガラス基板11を所定の間隔Gを空けて連続して搬送する。ガラス基板11の間隔Gは、ガラス基板11の搬送方向において、隣り合う2枚のガラス基板11の対向する一対の主表面の間の距離である。
ガラス基板11の間隔Gは、狭いほど、生産性は高くなるが、熱風の熱がガラス基板によって奪われやすくなる。本実施形態の製造方法では、後述するようにガラス基板の面内での熱収縮率のバラつきを低減できることから、ガラス基板の間隔が狭い場合にも好適である。
また、熱処理空間40aにおいて熱流を循環させてガラス基板11を加熱する方式を採用する場合、熱流の流れが妨げられないように、ガラス基板11の間隔を定めることができる。
本実施形態では、ガラス基板の間隔Gは、10mm〜300mmの範囲であればよく、生産効率の観点から、好ましくは200mm以下、より好ましくは150mm以下、更により好ましいのは100mm以下である。ガラス基板の間隔Gの下限値として、50mm以上が好ましい。
【0043】
駆動部102のほかの搬送ユニットとして、ガラス基板の搬送領域の下方に、熱処理炉40の底部を構成するようなベルト機構を設けてもよい。ベルト機構は、熱処理の間は駆動させず、必要に応じ、駆動させることができる。ベルト機構には、例えば、厚み方向に貫通する開孔が面方向に並ぶよう形成されたメッシュベルトが用いられる。メッシュベルトを用いることによって、熱処理で送風されるダウンフローの熱風はメッシュベルトを通過し下方に流れることができ、熱風の下方向への流れを安定させることができる。厚み方向に貫通する開孔を有しないベルトを用いた場合、熱風がベルトに衝突することでベルト上の粉塵が舞い上がって、搬送中のガラス基板Gに付着する可能性あるが、他方、メッシュベルトを用いた場合は、ベルト表面に粉塵が溜まる可能性が低いため、粉塵による不都合の発生を抑えることができる。なお、ベルト機構の代わりに、駆動しない板状部材(メッシュなどの部材を含む)で、熱処理炉40の底部を構成してもよい。
【0044】
熱処理炉40には、炉40の雰囲気(空気)を加熱するための熱処理ユニット(複数の発熱装置)が設けられ、上から下への一方向の熱流(ダウンフロー)が形成され、炉40の雰囲気が温められる。
【0045】
加熱ユニットとして、搬送されるガラス基板11の上方および下方のそれぞれに搬送方向に並ぶよう配置された複数のファン付きヒータが備えられる。ファン付きヒータは、搬送されるガラス基板11に、予め設計された温度プロファイルが形成されるよう、制御装置によって温度、風力、風向きなどが制御され、さらに、炉40内の搬送方向の各位置では温度分布はほぼ一様となるように、発熱量を制御する。
ガラス基板11の上面と下面との間で熱履歴に差が生じると、上面と下面とで熱収縮率が異なり、引っ張りと圧縮応力が生じるために反りが発生する。このため、ガラス基板11の上面と下面の温度変化の差をなくす、つまり、熱履歴の差を小さくする。
【0046】
ファン付きヒータは、ヒータで加熱された気体をファンで送風するよう、ヒータとファンが互いに隣接して配置された一体の装置であり、熱処理炉40内では、ヒータに対しファンを下方にして配置される。ファン付きヒータのヒータには、例えば、セラミックヒーター、金属線シーズヒーター等、が用いられる。ファンは、熱処理の間、ヒータで加熱された空気を、下方に向けて送風するよう駆動される。熱処理炉空間40aの雰囲気中に粉塵が浮遊している場合であっても、このようなダウンフローの熱風によって粉塵は炉40の底部に運ばれるため、粉塵が雰囲気中を浮遊し続けてガラス基板11の表面に付着するのを抑えることができる。また、ダウンフローの熱風は、熱処理空間40a内を循環する空気流を形成できる点で好ましい。熱風は、ガラス基板11間を下方に流れた後、熱処理空間40aの底部に沿って側壁まで流れて、側壁に沿って上昇し、さらに熱処理空間40aの天井に沿って流れることで、熱処理空間aの中を循環する。
【0047】
ファン付きヒータは、発熱する領域の横方向の長さが、搬送されるガラス基板11の幅方向長さより長いことが好ましい。また、搬送方向に隣り合うファン付きヒータの間隔は、搬送方向にわたって熱風の温度にムラが生じないように調整され設置される。
【0048】
次に、ステップS4の熱処理について説明する。熱処理(オフラインアニール処理)では、ガラス基板11を所定の熱処理温度の雰囲気下に所定の時間曝すことで、ガラス基板11の主表面11a内の熱分布および歪分布が一様になるように、ガラス基板11の熱処理が行われる。
【0049】
ステップS3により搬送されたガラス基板11に対し、製造ラインから外れたオフラインで熱処理が行われる。切断装置により幅方向の端部(耳部)の切断された板状のガラス基板11は、必要に応じ、表面等に付着した切断屑(パーティクル、カレット等)の除去が行われた後、ガラス基板11は、熱処理炉40の入口側の所定位置まで搬送される。
熱処理炉40では、ファン付きヒータを制御して、炉内の雰囲気温度が、熱処理温度になるよう処理する。ここで、熱処理温度とは、高精細ディスプレイに用いるLTPS、IGZOから構成される半導体層をガラス基板11に形成する形成温度であり、具体的には400℃〜600℃の範囲の温度である。高精細ディスプレイを製造する際のガラス基板Gの加工処理温度は、ガラスの歪点(10
14.5ポワズの粘度に相当する温度、例えば661℃)より低い温度である。この加工処理温度より低い温度領域において、ガラス基板の熱収縮率が大きいと、ガラス基板は高精細ディスプレイを製造するためのガラス基板として適さない。このため、高精細ディスプレイを製造するガラス基板の加工処理温度と等しい温度領域である400℃〜600℃の範囲の熱処理温度において、ガラス基板11を熱処理し、熱処理温度以下の温度領域において、熱収縮率が0〜15ppm、好ましくは0〜10ppm、より好ましくは0〜6ppm、さらに好ましくは0〜3ppmとなるようにする。
なお、歪点はガラスの種類によって異なるが、ガラス基板11は、熱収縮を小さくするために、歪点が高いガラス組成を有することが好ましく、ガラス基板11のガラスの歪点は、600℃以上であることが好ましく、より好ましくは655℃以上であり、例えば661℃が挙げられ、更に690℃以上であることがより好ましい。
歪点が661℃である場合、熱処理温度は、歪点(661℃)−(60℃〜260℃)=601℃〜401℃であることが好ましい。しかし、ガラス基板11の熱収縮率を小さくして、ガラス基板11を高精細ディスプレイ用ガラス基板として用いるためには、上記の温度範囲に限定されない。例えば、熱処理温度は、400℃〜550℃でもよい。
【0050】
以下、
図7とともに熱処理について説明する。
熱処理空間40aは、主として、昇温空間、維持空間および降温空間から構成される。駆動部102によって搬送されるガラス基板11は、熱処理工程において、昇温空間40a、維持空間40aおよび降温空間40aを順に通過する。
【0051】
ガラス基板11は、熱処理炉内に搬送されると、昇温区間(加熱区間)40aにおいて室温(例えば、25℃)から熱処理温度になるよう加熱される。
図5は、ガラス基板11の熱履歴を示す図である。ガラス基板11は、昇温区間40a内で搬送されながら、室温から400℃〜600℃の範囲の熱処理温度Tm1になるまで加熱される。ガラス基板11の温度を熱処理温度になるまで加熱する工程が、加熱工程である。昇温区間40aでは、例えば、6.7℃/分以上〜60℃/分以下の昇温速度S1、加熱時間10分〜60分で加熱する。
【0052】
次に、ガラス基板11は、搬送されながら維持区間40aに入り、維持区間40aにおいて400℃〜600℃の範囲の熱処理温度Tm1が維持される。加熱工程を経た後、維持工程では、ガラス基板11の温度を熱処理温度Tm1で、維持時間60分〜150分維持する。ガラス基板11の温度を熱処理温度Tm1のまま維持し続ける工程が、維持工程である。維持工程では、ガラス基板11の温度が400℃〜600℃の範囲で変化してもよく、ガラス基板11の温度が一定でなくてもよい。
【0053】
次に、ガラス基板11は、搬送されながら降温区間(冷却区間)40aに入り、降温区間40aにおいて中間温度Tm2を経て室温まで冷却される。ガラス基板11の温度を、熱処理温度Tm1から中間温度Tm2、中間温度Tm2から室温まで冷却する工程が、冷却工程である。降温区間では、熱処理温度Tm1から熱処理温度Tm1より50℃〜150℃低い中間温度Tm2(例えば、400℃)になるまでの区間と、中間温度Tm2から室温になるまでの区間とで、ガラス基板Gの降温速度を変化させて冷却する。具体的には、熱処理温度Tm1から中間温度Tm2までの降温区間では、0.8℃/分以上〜2.5℃/分以下の第1降温速度S3、冷却時間60分〜120分で冷却する。中間温度Tm2から常温までの降温区間では、第1降温速度S3より速い第2降温速度S4で冷却する。第2降温速度S4は、第1降温速度S3より速い速度であれば任意である。降温区間においては、熱処理温度Tm1から中間温度Tm2までの第1降温速度を、中間温度Tm2から常温までの第2降温速度より速くすることにより、ガラス基板11の生産効率性を高めつつ、ガラス基板11の熱収縮率を低減することができる。
【0054】
図中に示す温度は、室温(常温)<Tm2<Tm1であり、Tm1=熱処理温度(例えば、500℃)、Tm2=中間温度(例えば、400℃)である。
加熱工程、維持工程、冷却工程における速度、時間の範囲を以下に示す。
(1)加熱工程:t1−0=10分〜60分、Tm1−室温=400℃〜600℃、昇温速度S1は、(Tm1−室温)/(t1−0)=6.7℃/分〜60℃/分。
(2)維持工程:t2−t1=60分〜150分、Tm1−Tm1=0、速度S2=(Tm1−Tm1)/(t2−t1)=0℃/分、
(3)第1冷却工程:t3−t2=60分〜120分、Tm1−Tm2=50℃〜150℃、第1降温速度S3=(Tm1−Tm2)/(t3−t2)=0.8℃/分〜2.5℃/分
(4)第2冷却工程:t4−t3>t3−t2、Tm2−室温=350℃〜450℃、第2降温速度S4は、(Tm2−室温)/(t4−t3)>第1降温速度S3。
ここで、室温は、25℃に限定されず、例えば、0℃〜30℃である。また、熱処理温度は、500℃に限定されず、400℃〜600℃の任意の温度であり、中間温度は、400℃に限定されず、熱処理温度−(50℃〜150℃)の任意の温度である。また、昇温速度・降温速度は、ガラス基板G全体を昇温・降温する平均速度である。
【0055】
熱処理炉内において、ガラス基板11の平面方向の周囲(上方)からの熱風加熱によりガラス基板11が加熱されると、ガラス基板11において、発熱装置に近い風上側部分と発熱装置から遠い風下側部分とでは、温度のずれが生じる。このため、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値が小さくなるように、熱処理温度で維持する維持時間を、60分〜150分、より好ましくは、90分〜120分にする。熱処理温度で維持する時間を一定時間以上にすることにより、ガラス基板11に加えられる熱量が多くなり、ガラス基板11が熱収縮し、熱収縮率の絶対値が小さくなる。ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を小さくすることにより、ガラス基板11の面方向の熱収縮率のばらつきを抑制することができる。
図8は、熱処理温度で維持する維持時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示した図である。同図に示すように、維持時間が60分を過ぎるとガラス基板11の熱収縮率の絶対値は3ppm以下になり、維持時間が120分を過ぎるとガラス基板11の熱収縮率の絶対値は1ppm以下になる。ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を3ppm以下にすることにより、面方向の熱収縮のばらつきは3ppm以下になり、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を1ppm以下にすることにより、面方向の熱収縮のばらつきは1ppm以下になる。維持時間を60分以上、90分以上、120分以上にすることにより、面方向の熱収縮のばらつきを3ppm以下、2ppm以下、1ppm以下にすることができる。維持時間を120分以上にすることにより、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を1ppm以下にすることができるが、維持時間が150分であっても、維持時間が120分と比べて、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値はほとんど変化しない。維持時間が150分より長くすると、熱処理効率が悪くなり、ガラス基板11の生産効率が低下する。このため、熱処理温度で維持する維持時間を、60分〜150分、より好ましくは、90分〜120分にすることにより、ガラス基板11の生産効率を高めつつ、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を小さくして、面方向の熱収縮のばらつきを抑制することができる。
【0056】
次に、ガラス基板11を熱処理温度から中間温度まで冷却する冷却時間とガラス基板11の熱収縮率の絶対値との関係を示す。
図9は、冷却時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示した図である。同図に示すように、冷却時間が60分を過ぎるとガラス基板11の熱収縮率の絶対値は1ppm以下になり、冷却時間が90分を過ぎるとガラス基板11の熱収縮率の絶対値はほぼ0ppmになる。冷却時間を60分以上にすることにより、ガラス基板Gの熱収縮率の絶対値は1ppm以下になり、面方向の熱収縮のばらつきを1ppm以下にすることができる。冷却時間が120分であっても、冷却時間が90分と比べて、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値はほとんど変化しない。冷却時間が120分より長くすると、熱処理効率が悪くなり、ガラス基板11の生産効率が低下する。このため、熱処理温度から中間温度まで冷却する冷却時間を、60分〜120分、より好ましくは、約90分にすることにより、ガラス基板11の生産効率を高めつつ、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値を小さくして、面方向の熱収縮のばらつきを抑制することができる。
【0057】
次に、ガラス基板11を室温(常温)から熱処理温度まで加熱する加熱時間とガラス基板11の熱収縮率の絶対値との関係を示す。
図10は、加熱時間とガラス基板の熱収縮率の絶対値との関係を示した図である。同図に示すように、加熱時間が10分、30分、60分のいずれであっても、ガラス基板11の熱収縮率の絶対値はほとんど変化しない。ガラス基板11の熱収縮率の絶対値は、加熱時間によってほとんど変化しないため、加熱時間が短いほど、ガラス基板11の生産効率は高くなる。室温から熱処理温度まで加熱する加熱工程では、ガラス基板11の温度を熱処理温度まで高めることができれば、加熱時間は任意であり、例えば、加熱時間を、60分以下、より好ましくは、10分〜30分にすることにより、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。
【0058】
このような熱処理により、高精細液晶ディスプレイを製造するのに好適な熱収縮率を有するガラス基板を製造することができる。また、ガラス基板の熱収縮率を0〜15ppmとすることができる。ガラス基板Gの熱収縮率は、0〜10ppmとすることが好ましく、0〜6ppmとすることがより好ましく、更に0〜3ppmとすることがより好ましい。このような熱収縮率が、ガラス基板のガラス組成と、熱処理の温度と熱処理時間を調整することにより達成することができる。また、ガラス基板の熱収縮に対して影響が小さい温度領域においては、処理時間を短くし、昇温速度・降温速度を速めることにより、ガラス基板の生産効率を高めることができる。
【0059】
なお、本実施形態におけるステップS3及びステップS4については、ガラス基板11を一枚ずつ保持部で固定し吊り下げる方法で製造する、という製造方法だけでなく、ガラス基板を積層させた方法で製造する、など、ほかの方法でガラス基板を保持し製造してもよい。
【0060】
以上のように、導入機構を備えたアニール工程を行う熱処理装置を含むディスプレイ用のガラス基板の製造装置である、本実施形態によれば、熱処理工程の前工程から搬送されるガラス基板11に対し、加速搬入工程で搬送速度V1まで加速させた後、揺れ防止工程において、搬送速度V2まで減速し、振れ幅が一定の範囲に収まる状態になるまでガラス基板11を搬送することで、ガラス基板11の熱処理炉40への導入において、ガラス基板11どうしの間隔を熱処理における最適な間隔へと調整しつつ、ガラス基板11どうしの接触を抑制し、さらに、熱処理における(炉40への搬入、熱処理および搬出まで)ガラス基板11の破損を防ぐことが可能となる。
【0061】
さらに、このような導入機構を備えたアニール工程を行う熱処理装置を含むディスプレイ用のガラス基板の製造装置によれば、ガラス基板の接触による破損を抑制しつつ、熱収縮率が低減したガラス基板を、連続式で効率的に製造することができる。このため、高精細ディスプレイに有用なガラス基板を、経済的に優れた方法で提供することができる。
【0062】
以上、本発明のガラス基板の製造装置、およびガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。