(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571435
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】沸騰冷却装置用媒体
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20190826BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
C09K5/04 D
C09K5/04 E
C09K5/04 F
F28D15/02 104A
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-148388(P2015-148388)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2016-69632(P2016-69632A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2018年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-203395(P2014-203395)
(32)【優先日】2014年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】菊地 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小川 素右
【審査官】
小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−535529(JP,A)
【文献】
特開2014−005418(JP,A)
【文献】
特表2008−506819(JP,A)
【文献】
特開2014−005419(JP,A)
【文献】
Registry (STN) [online],2014年2月3日(検索日:2019年4月8日), CAS 登録番号:1536296-42-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
F25B 1/00− 7/00
F25D 1/00− 9/00
F28D 15/00− 15/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が100℃以上であって、パーフルオロアルケンの炭素数が5〜8であり、アルコキシ基の炭素数が1〜3である、アルコキシパーフルオロアルケンを含む、沸騰冷却装置用媒体。
【請求項2】
アルコキシパーフルオロアルケンがメトキシパーフルオロヘプテンである、請求項1に記載の沸騰冷却装置用媒体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の沸騰冷却装置用媒体と、それより沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンを混合してなる、沸騰冷却装置用媒体。
【請求項4】
沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンが1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンのいずれかである、請求項3に記載の沸騰冷却装置用媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の沸騰冷却装置用媒体を用いた沸騰冷却装置。
【請求項6】
半導体冷却に用いる、請求項5に記載の沸騰冷却装置。
【請求項7】
自動車搭載半導体冷却に用いる、請求項6に記載の沸騰冷却装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の沸騰冷却装置用媒体と、それより沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンを混合することによる、沸騰冷却装置用媒体の沸点調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸点が100℃以上であって二重結合を有するハイドロフルオロカーボンを含む、沸騰冷却装置用媒体、それを用いた沸騰冷却装置、および沸騰冷却装置用媒体の沸点調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の発熱体から熱を除去し、冷却するために、内部に毛細管構造(ウィック)を備えたヒートパイプなどの沸騰冷却方式の熱交換器(以下、「沸騰冷却装置」ともいう。)が用いられてきた。沸騰冷却装置とは、装置内に封入された熱媒体(冷媒)が、冷却対象部にて気化することで、蒸発潜熱として吸熱して対象部を冷却する装置である。
【0003】
沸騰冷却装置は、例えば、電子機器に内蔵される半導体デバイスの冷却に用いられているが、近年、半導体は、微細化・高集積化に伴って発熱量が増加しており、さらなる冷却性能の向上が求められている。例えば、電力制御に用いられるパワー半導体、およびパワー半導体デバイスを組み込んだパワーモジュールでは、発熱量が特に大きく、ある温度を超えると半導体デバイス自体が機能停止してしまうことから、安定した迅速な冷却が求められている。
【0004】
特に、近年の電気自動車やハイブリッド車の普及に伴い、これらに搭載される発熱量の大きなパワー半導体の冷却に用いられる沸騰冷却装置の開発が望まれており、これには、安全性、耐久性はもちろんのこと、低温から高温までの幅広い温度環境下での安定した迅速な冷却性能が求められている。
【0005】
沸騰冷却装置に用いられる熱媒体(以下、「沸騰冷却装置用媒体」という。)としては、使用する目的・条件に応じて、例えば、水とグリコールの混合物(特許文献1、特許文献2)が知られている。水は、安全性、取り扱い易さの点で優れているが、金属に対して反応性を有し、また、氷点下で凍結してしまう(凝固点が高い)ことから、使用環境に制限があるという欠点を有する。一方、グリコールは、凝固点は低いものの、可燃性であり、毒性の点でも問題がある。
【0006】
沸騰冷却装置用媒体として、フッ素系溶剤、例えば、クロロフルオロカーボン(特許文献3)、ハイドロフルオロカーボン(特許文献4)、フルオロエーテル(特許文献5)、フルオロオレフィン(特許文献6)も知られている。これらの従来のフッ素系溶剤は、金属に対する低い反応性、熱安定性、不燃性、低い凝固点、小さい比熱、低毒性、低粘度である点で優れている。しかしながら、沸点がそれほど高くないことから、高温下での使用に制限があり、また、オゾン破壊係数(ODP)や地球温暖化係数(GWP)の値の高さから、近年の環境重視の情勢において満足なものとはいえない。
すなわち、従来より様々な沸騰冷却装置用媒体が存在してはいるが、より優れた沸騰冷却装置用媒体の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−251178
【特許文献2】特開昭61−240094
【特許文献3】特開昭52−30952
【特許文献4】特開2001−349682
【特許文献5】特開2014−5419
【特許文献6】特開2014−5418
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低温から高温までの幅広い温度環境下での安定した迅速な冷却性能を有し、さらに、金属に対する反応性が低く、熱安定性、安全性、環境性能にも優れる、沸騰冷却装置用媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、沸騰冷却装置用媒体として、沸点が100℃以上であって二重結合を有するハイドロフルオロカーボンを使用することにより、上記目的を達成することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.沸点が100℃以上であって二重結合を有するハイドロフルオロカーボンを含む、沸騰冷却装置用媒体。
2.ハイドロフルオロカーボンがエーテル結合を含むハイドロフルオロエーテルである、1.に記載の沸騰冷却装置用媒体。
3.ハイドロフルオロエーテルがアルコキシパーフルオロアルケンである、2.に記載の沸騰冷却装置用媒体。
4.パーフルオロアルケンの炭素数が5〜8である、3.に記載の沸騰冷却装置用媒体。5.アルコキシ基の炭素数が1〜3である、3.または4.に記載の沸騰冷却装置用媒体。
6.アルコキシパーフルオロアルケンがメトキシパーフルオロヘプテンである、3.〜5.のいずれかに記載の沸騰冷却装置用媒体。
7.1.〜6.のいずれかに記載の沸騰冷却装置用媒体と、それより沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンを混合してなる、沸騰冷却装置用媒体。
8.沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンが1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンのいずれかである、7.に記載の沸騰冷却装置用媒体。
9.1.〜8.のいずれかに記載の沸騰冷却装置用媒体を用いた沸騰冷却装置。
10.半導体冷却に用いる、9.に記載の沸騰冷却装置。
11.自動車搭載半導体冷却に用いる、10.に記載の沸騰冷却装置。
12.1.〜6.のいずれかに記載の沸騰冷却装置用媒体と、それより沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンを混合することによる、沸騰冷却装置用媒体の沸点調整方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の沸騰冷却装置用媒体は、低温から高温までの幅広い温度環境下での、安定した迅速な冷却を実現でき、特に、発熱量の大きなパワー半導体、中でも、自動車(電気自動車やハイブリッド車)に搭載されるパワー半導体の冷却に最適である。
また、本発明の沸騰冷却装置用媒体は、大気中で分解されやすく、環境性能が優れている(オゾン破壊係数(ODP)、及び地球温暖化係数GWPが小さい)。特に、地球温暖化係数(GWP)が非常に小さく、優れている。
【0012】
さらに、本発明の沸騰冷却装置用媒体は、アルミニウムなどの金属に対する反応性が低いことから、装置の金属材料を腐食することがなく、熱安定性(変性、分解しない)、安全性(低可燃または不燃性、低毒性)にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例に用いた沸騰冷却装置の概略図である。
【
図2】メトキシパーフルオロヘプテン異性体混合物(MPHE)と1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(DFP)の混合比を変えて測定した冷却性能を示すグラフである。
【
図3】メトキシパーフルオロヘプテン異性体混合物(MPHE)とシス−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFB)の混合比を変えて測定した冷却性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、沸騰冷却装置用媒体とは、沸騰冷却方式の熱交換器(沸騰冷却装置)に使用される相変化する熱媒体(冷媒)であり、媒体の気化(潜熱の吸収)と液化(潜熱の放出)を繰り返すことによって発熱体(冷却対象部)を冷却する。この潜熱を利用した冷却は、液体と気体との間で相変化を伴わない顕熱を利用した冷却と比較して、高い冷却効果が得られる。
【0015】
本発明の沸騰冷却装置用媒体は、沸点が100℃以上であって二重結合を有するハイドロフルオロカーボンを含む。
【0016】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンは、沸点が100℃以上であって二重結合を有する、炭素、水素、フッ素原子よりなる化合物、その異性体およびその異性体の混合物であり、その炭素鎖にエーテル結合を含んでいてもよい。
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンの沸点は、100℃以上、好ましくは105℃以上、より好ましくは110℃以上である。また、本発明に使用されるハイドロフルオロカーボンの融点は、例えば、−50℃以下、好ましくは−70℃以下、より好ましくは−90℃以下である。本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンは、高沸点であることから、高温条件下での発熱体の冷却に好適に使用できる。さらに、高沸点でありながら低融点であることから、幅広い温度環境下での使用が可能である。
また、本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンは、地球温暖化係数(GWP)が低減される。これは、二重結合を有することにより、紫外線の存在下でOHラジカルとの反応が促進され、二重結合が切断・分解されるので、大気寿命が短くなることによるものと考えられる。
【0017】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンの蒸発潜熱は、例えば、80kJ/kg以上、好ましくは90kJ/kg以上、より好ましくは100kJ/kg以上、特に好ましくは110kJ/kg以上である。蒸発潜熱が大きいと、除去できる熱量が増えるため好ましい。
【0018】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンの炭素数は、少ないと沸点が低くなりすぎ、蒸発潜熱も小さくなることから、好ましくは6個以上、より好ましくは7個以上、特に好ましくは8個以上である。また、炭素数の上限は、特に限定されるものではないが、多すぎると沸点が高くなりすぎ、冷却用途に適さなくなることから、好ましくは11個以下、より好ましくは10個以下、特に好ましくは9個以下である。
【0019】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンのオゾン破壊係数(ODP)は、低いことが好ましく、特に好ましくはゼロである。
【0020】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンの地球温暖化係数(GWP)は、低いことが好ましく、例えば100以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは10以下である。
【0021】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンは、好ましくは、エーテル結合を含むハイドロフルオロエーテル、すなわち、沸点が100℃以上であって二重結合を有する、炭素、水素、フッ素および酸素原子よりなるエーテル結合を有する化合物、その異性体ならびにその異性体の混合物である。ハイドロフルオロエーテルは、大気寿命が短く、GWPが低減される。これは、求電子剤によってエーテル結合が切断されるためと考えられる。更には、液の動粘度が低下して沸騰冷却装置内で移動しやすくなり、冷却能力が向上する、融点が低下して使用可能な温度範囲が広がるといった利点も有するが、これは、エーテル結合部で分子構造が柔軟になるためと考えられる。
【0022】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロエーテルは、好ましくは、アルコキシパーフルオロアルケン、すなわち、アルコキシ基を有するパーフルオロアルケンである。具体的には、アルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個であり、一方、パーフルオロアルケンの炭素数は、好ましくは5〜8個、より好ましくは6〜8個である。アルコキシ基中の水素原子がフッ素で置換されていても良い。
【0023】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンの具体例としては、メトキシパーフルオロヘプテン(沸点110.5℃)、エトキシパーフルオロヘプテン(沸点120〜122℃)、メトキシパーフルオロオクテン(沸点133〜135℃)が挙げられ、好ましくはメトキシパーフルオロヘプテンである。
【0024】
本発明に使用される上記ハイドロフルオロカーボンの異性体としては、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシパーフルオロヘプテンの場合、cis/trans−2−メトキシ−トリデカフルオロ−2−ヘプテン、cis/trans−3−メトキシ−トリデカフルオロ−3−ヘプテン、cis/trans−4−メトキシ−トリデカフルオロ−2−ヘプテン、cis/trans−4−メトキシ−トリデカフルオロ−3−ヘプテン、cis/trans−5−メトキシ−トリデカフルオロ−3−ヘプテンが挙げられる。
【0025】
本発明に使用されるハイドロフルオロカーボンは、既知の方法(例えば、特表2012−518010号公報)により調製することができ、また、市販されているものを使用することもできる。
本発明に好適に使用される市販のハイドロフルオロカーボンとしては、例えば、バートレル(登録商標)シネラ
TMが挙げられる。
【0026】
本発明の沸騰冷却装置用媒体に含まれる、沸点が100℃以上であって二重結合を有するハイドロフルオロカーボンは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
また、本発明の沸騰冷却装置用媒体において、それより沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンを、1種または2種以上混合してもよい。2種以上のハイドロフルオロカーボンを含む沸騰冷却装置用媒体の沸点は、高沸点成分と低沸点成分の間の温度となることから、沸点差のあるハイドロフルオロカーボンを任意の割合で混合して沸点を調整することにより、その調整された沸点範囲内で任意の冷却温度を選択することができる。
【0028】
本発明の沸騰冷却装置用媒体と混合することができるそれより沸点が20℃以上低いハイドロフルオロカーボンは、その炭素鎖にエーテル結合を含んでいてもよく、本発明の沸騰冷却装置用媒体との沸点差が、20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、100℃未満であれば特に限定されるものではない。具体例としては、例えば、メチルノナフルオロブチルエーテル(沸点:61℃)、エチルノナフルオロブチルエーテル(沸点:76℃)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ
ペンタン(沸点:55℃)、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(沸点:33℃)であり、好ましくは1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンである。混合する上記ハイドロフルオロカーボンの沸騰冷却装置用媒体中の割合は、使用する目的・条件に応じて任意に適宜設定することができる。
【0029】
各種冷却に使用される沸騰冷却装置では、冷却する部分によって求められる冷却温度が異なるが、本発明により沸騰冷却装置用媒体の沸点を調整することにより、目的の冷却温度に応じて安定した迅速な冷却が可能となる。さらに、沸点の異なる2種以上の混合により、沸点に達しても蒸発が起きないオーバー・シュートの低減の効果も期待できる。
【0030】
本発明の沸騰冷却装置用媒体はまた、その他の溶剤と混合せずに用いることが好ましいが、蒸発潜熱向上のため、少量の有機溶剤と混合してもよい。混合する有機溶剤としては、例えば、炭化水素類、塩素化炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類およびこれらの混合物が挙げられる。ここで、炭化水素類としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等、塩素化炭化水素類としては、ジクロロエチレン等、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール等、ケトン類としてはアセトン、メチルイソブチルケトン等、エステル類としては、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等が挙げられる。混合する上記有機溶剤の沸騰冷却装置用媒体中の割合は、5質量%を超えず、引火点を有さない範囲で適宜設定することができる。
【0031】
本発明において、沸騰冷却装置とは、特に限定されるものではないが、例えば、ヒートパイプであり、この場合、内部の毛細管構造(ウィック)の有無や、冷却対象物が放熱板を介して媒体と接触するか、直接媒体に浸漬されるかは問わない。
【0032】
本発明において、沸騰冷却装置により冷却される冷却対象物は、特に限定されるものではないが、例えば、半導体であり、中でも、発熱量が大きな、電力制御に用いられるパワー半導体およびパワー半導体デバイスを組み込んだパワーモジュールである。パワー半導体は、自動車、例えば、電気自動車やハイブリッド車のパワーコントロールユニット(PCU)に採用されており、車両の高性能化、高機能化に伴うPCUの高出力化・大電力化には、それに伴う温度上昇をいかに抑制するかが課題となる。本発明の沸騰冷却装置用媒体を用いた沸騰冷却装置は、発熱量の大きな半導体、中でも、自動車に搭載される大電力を扱うパワー半導体の冷却に好適に用いることができる。
【0033】
特に、自動車用途において、本発明の沸騰冷却装置用媒体は、自動車に搭載される半導体の冷却に求められる、低温から高温までの幅広い温度環境下での安定した冷却性能を実現できる。さらに、自動車用途には、安全性が厳しく求められ、使用される冷却温度ごとに異なる媒体それぞれについて、安全性、適合性等の検証試験が必要とされるが、本発明は、最低2種の沸点の異なる媒体を混合して沸点を調整できることから、上記検証試験にかかるコスト、労力の低減を図ることができる。
【0034】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない
【実施例】
【0035】
実施例1
800Wの熱源を媒体タンク外側に貼り付け、上部に冷却機能を有するフィン(図示せず)および冷却ファンを取り付けた沸騰冷却装置<住友精密工業株式会社製 サイフォレックス(型式RA1728、媒体タンクの幅135mm、厚さ(奥行)20mm、高さ145mm、内容積約0.4L)>に、約150mlの沸騰冷却装置用媒体を充填し、密封
した(
図1)。800Wの熱源と媒体タンクの間に熱電対を差し込んで、熱源の温度を測定した。沸騰冷却装置用媒体には、メトキシパーフルオロヘプテン異性体混合物<三井・デュポンフロロケミカル株式会社製バートレル(登録商標)シネラ
TM、沸点:110.5℃>(MPHE)と1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン<三井・デュポンフロロケミカル株式会社製バートレル(登録商標)XF、沸点:55℃>(DFP)を用い、これらの混合比(質量比)を変えて熱源の温度を測定した(MPHF:DFP=100:0、70:30、50:50、30:70、0:100)。
【0036】
22℃〜25℃でコントロールした部屋内に装置を静置し、冷却ファンを回転させた後、熱源の電源を入れて発熱させた。熱源の温度を2秒に1度読み取る記録計にて記録しながら、熱源の温度が一定になるまで加熱を続けた。
熱源の温度の測定結果を
図2に示す。高沸点成分と低沸点成分の混合により、任意の冷却温度を選択できることがわかる。
【0037】
実施例2
沸騰冷却装置用媒体として、メトキシパーフルオロヘプテン異性体混合物<三井・デュポンフロロケミカル株式会社製バートレル(登録商標)シネラ
TM、沸点:110.5℃>(MPHE)とシス−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン<沸点:33℃>(HFB)を用いた以外は、実施例1と同様に、これらの混合比(質量比)を変えて熱源の温度を測定した(MPHF:HFB=100:0、75:25、50:50、25:75、0:100)。
熱源の温度の測定結果を
図3に示す。高沸点成分と低沸点成分の混合により、任意の冷却温度を選択できることがわかる。
【符号の説明】
【0038】
1 冷却ファン
2 熱源
3 熱電対
4 媒体タンク