(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態に基づく分析システムを示している。本実施形態の分析システムA1は、分析装置1および分析チップ2を備えて構成されている。分析システムA1は、試料Saを対象として電気泳動法による分析方法を実行するシステムである。試料Saは特に限定されないが、本実施形態においては、人体から採取された血液を例として説明する。試料Saに含まれる成分のうち分析の対象となる成分を分析成分と定義する。
【0019】
前記分析成分としては、ヘモグロビン(Hb)、アルブミン(Alb)、グロブリン(α1、α2、β、γグロブリン)、フィブリノーゲン等が挙げられる。前記ヘモグロビンとしては、たとえば、正常ヘモグロビン(HbA0)、糖化ヘモグロビン、修飾ヘモグロビン、胎児ヘモグロビン(HbF)等が挙げられる。前記糖化ヘモグロビンとしては、たとえば、ヘモグロビンA1a(HbA1a)、ヘモグロビンA1b(HbA1b)、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、GHbLys等が挙げられる。前記ヘモグロビンA1cとしては、たとえば、安定型HbA1c(s−HbA1c)、不安定型HbA1c(l−HbA1c)等が挙げられる。前記修飾ヘモグロビンとしては、たとえば、カルバミル化Hb、アセチル化Hb等が挙げられる。以降の説明においては、前記分析成分が、Hbである場合を例に説明する。
【0020】
分析チップ2は、試料Saを保持し、且つ分析装置1に装填された状態で試料Saを対象とした分析の場を提供するものである。本実施形態においては、分析チップ2は、1回あるいは特定回数の分析を終えた後に廃棄されることが意図された、いわゆるディスポーザブルタイプの分析チップとして構成されている。
図2〜
図5に示すように、分析チップ2は、本体21、混合槽22、導入槽23、排出槽25およびキャピラリー管27を備えている。
図2は、分析チップ2の平面図である。
図3は、
図2のIII−III線に沿う断面図であり、
図4は、
図2のIV−IV線に沿う断面図である。
図5は、
図3のV−V線に沿う要部拡大断面図である。なお、図中において、x方向は、キャピラリー管27が延びる方向に相当し、y方向は、キャピラリー管27の幅方向に相当し、z方向は、キャピラリー管27や導入槽23の深さ方向に相当する。
【0021】
本体21は、分析チップ2の土台となるものであり、その材質は特に限定されず、例えば、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等があげられる。本実施形態においては、本体21は、上部21aおよび下部21bが貼り合わされた構成とされている。なお、本体21を一体的に形成した構成であってもよい。
【0022】
混合槽22は、後述する試料Saと希釈液Ldとを混合する混合工程が行われる混合部の一例である。混合槽22は、たとえば、本体21の上部21aに形成された貫通孔によって構成されている。
【0023】
導入槽23は、混合槽22における混合工程によって得られた混合試料Smが導入される槽である。本実施形態の導入槽23は、2つの開口部23a,23bを有しており、縦
穴部23c、縦穴部23dおよび横穴部23eからなる。2つの開口部23a,23bは、y方向に離間して配置されており、いずれもがz方向上方に向けて開口している。2つの開口部23a,23bは、後述するように、分析装置1の流動駆動源からの駆動力が付与されることにより、導入槽23への所定量の混合試料Smの導入が完了した後に、導入槽23中において混合試料Smを流動させる流動手段に相当する。また、本発明で言う「試料」とは、分析方法において分析の対象となる液体を指し、本実施形態においては、導入槽23に導入される混合試料Smがこれに相当する。なお、混合工程によって得られた混合試料Sm以外に、他の処理が施された試料や、なんら処理が施されていない試料Saを、本発明の分析方法における試料として導入槽23に導入してもよい。
【0024】
縦穴部23cは、開口部23aにつながっており、縦穴部23dは、開口部23bに繋がっている。縦穴部23cおよび縦穴部23dは、z方向に掘り進むように形成されている。横穴部23eは、縦穴部23cおよび縦穴部23dのz方向下端付近同士を繋いでおり、y方向に延びる、外部に露出しない部位である。本実施形態においては、横穴部23eのy方向中央付近にキャピラリー管27が繋がっている。
【0025】
排出槽25は、電気泳動法における電気浸透流の下流側に位置する槽である。排出槽25は、たとえば、本体21の上部21aに形成された貫通孔によって構成されている。
【0026】
キャピラリー管27は、導入槽23と排出槽25とを繋いでおり、電気泳動法における電気浸透流が生じる場である。キャピラリー管27は、たとえば本体21の下部21bに形成された溝によって構成されている。なお、本体21には、キャピラリー管27への光の照射およびキャピラリー管27を透過した光の出射を促進するための凹部等が形成されていてもよい。キャピラリー管27のサイズは特に限定されないが、その一例を挙げると、その幅が25μm〜100μm、その深さが25μm〜100μm、その長さが5mm〜150mmである。分析チップ2全体のサイズは、キャピラリー管27のサイズおよび混合槽22、導入槽23および排出槽25のサイズや配置等に応じて適宜設定される。
【0027】
本実施形態においては、
図3および
図4に示すように、縦穴部23c、縦穴部23dおよび横穴部23eは、本体21の上部21aに形成された貫通孔や凹部によって構成されている。
図4に示すように、キャピラリー管27は、横穴部23eのy方向中央付近においてz方向下方から繋がっている。また、横穴部23eのx方向寸法およびy方向寸法は、横穴部23eに露出するキャピラリー管27の開口部のx方向寸法およびy方向寸法よりも顕著に大である。
【0028】
分析装置1は、試料Saが点着された分析チップ2が装填された状態で、試料Saを対象とした分析処理を行う。分析装置1は、電極31,32、光源41、光学フィルタ42、レンズ43、スリット44、検出器5、分注器6、ポンプ61、希釈液槽71、泳動液槽72および制御部8を備えている。
【0029】
電極31および電極32は、電気泳動法においてキャピラリー管27に所定の電圧を印加するためのものである。電極31は、分析チップ2の導入槽23に挿入されるものであり、電極32は、分析チップ2の排出槽25に挿入されるものである。電極31および電極32に印加される電圧は特に限定されないが、たとえば0.5kV〜20kVである。
【0030】
光源41は、電気泳動法において吸光度測定するための光を発する部位である。光源41は、たとえば所定の波長域の光を出射するLEDチップを具備する。光学フィルタ42は、光源41からの光のうち所定の波長の光を減衰させつつ、その余の波長の光を透過させるものである。レンズ43は、光学フィルタ42を透過した光を分析チップ2のキャピラリー管27の分析箇所へと集光するためのものである。スリット44は、光学フィルタ
42によって集光された光のうち、散乱などを引き起こしうる余分な光を除去するためのものである。
【0031】
検出器5は、分析チップ2のキャピラリー管27を透過してきた光を受光するものであり、たとえばフォトダイオードやフォトICなどを具備して構成されている。
【0032】
分注器6は、所望の量の希釈液Ldや泳動液Lmおよび混合試料Smを分注するものであり、たとえばノズルを含む。分注器6は図示しない駆動機構によって分析装置1内の複数の所定位置を自在に移動可能である。ポンプ61は、分注器6への吸引源および吐出源である。また、ポンプ61は、分析装置1に設けられた図示しないポートの吸引源および吐出源として用いてもよい。これらのポートは、泳動液Lmの充填などに用いられる。また、ポンプ61とは別の専用のポンプを備えてもよい。ポンプ61は、本発明で言う流動駆動源の一例に相当する。また、上述した別の専用のポンプを、流動駆動源として用いてもよい。
【0033】
希釈液槽71は、希釈液Ldを貯蔵するための槽である。希釈液槽71は、分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の希釈液Ldが封入された容器が分析装置1に装填されたものであってもよい。泳動液槽72は、泳動液Lmを貯蔵するための槽である。泳動液槽72は、分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の泳動液Lmが封入された容器が分析装置1に装填されたものであってもよい。
【0034】
希釈液Ldは、試料Saと混合されることにより、混合試料Smを生成するためのものである。希釈液Ldの主剤は特に限定されず、水、生理食塩水が挙げられ、好ましい例として後述する泳動液Lmと類似の成分の液体が挙げられる。また、希釈液Ldは、前記主剤に、陰極性基含有化合物が添加されたものである。前記陰極性基含有化合物は、たとえば、陰極性基含有多糖類である。前記陰極性基含有多糖類は、たとえば、硫酸化多糖類、カルボン酸化多糖類、スルホン酸化多糖類およびリン酸化多糖類からなる群から選択される少なくとも一つの多糖類である。前記カルボン酸化多糖類は、アルギン酸またはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)が好ましい。前記硫酸化多糖類は、たとえば、コンドロイチン硫酸である。コンドロイチン硫酸は、A、B、C、D、E、H、Kの七種類があり、いずれを用いてもよい。以降の説明においては、希釈液Ldが、泳動液Lmと同成分である主剤にコンドロイチン硫酸が添加されたものである場合を例に説明する。前記陰極性基含有化合物(コンドロイチン硫酸)の濃度は、例えば、0.01〜5重量%の範囲である。
【0035】
泳動液Lmは、電気泳動法による分析工程において、排出槽25およびキャピラリー管27に充填され、電気泳動法における電気浸透流を生じさせる媒体である。泳動液Lmは、特に制限されないが、酸を用いたものが望ましい。前記酸は、例えば、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、こはく酸、フマル酸、フタル酸、マロン酸、リンゴ酸がある。また、泳動液Lmは、弱塩基を含むことが好ましい。前記弱塩基としては、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリス等がある。泳動液LmのpHは、例えば、pH4.5〜6の範囲である。泳動液Lmのバッファーの種類は、MES、ADA、ACES、BES、MOPS、TES、HEPES等がある。また、泳動液Lmにも、希釈液Ldの説明で述べた前記陰極性基含有化合物が添加される。前記陰極性基含有化合物(コンドロイチン硫酸)の濃度は、例えば、0.01〜5重量%の範囲である。
【0036】
制御部8は、分析装置1における各部を制御するものである。制御部8は、たとえばCPU、メモリおよびインターフェースなどを具備する。
【0037】
次に、分析システムA1を用いた本発明の第1実施形態に基づく分析方法について、以
下に説明する。
図6は、本実施形態の分析方法を示すフロー図である。本分析方法は、試料採取工程S1、混合工程S2、泳動液充填工程S3、導入工程S4、流動工程S5および電気泳動工程S6を有する。
【0038】
<試料採取工程S1>
まず、試料Saを用意する。本実施形態においては試料Saは、人体から採取された血液である。血液としては、全血、または溶血処理が施された溶血等であってもよい。そして、
図7に示すように試料Saが分注された分析チップ2を分析装置1に装填する。
【0039】
<混合工程S2>
次いで、試料Saと希釈液Ldとを混合する。具体的には、
図7に示すように、所定量の試料Saが分析チップ2の混合槽22に点着されている。次いで、分注器6によって希釈液槽71の希釈液Ldを所定量吸引し、
図8に示すように、所定量の希釈液Ldを分析チップ2の混合槽22に分注する。そして、ポンプ61を吸引源および吐出源として、分注器6から希釈液Ldの吸引および吐出を繰り返す。これにより、混合槽22において試料Saと希釈液Ldとが混合され、混合試料Smが得られる。試料Saと希釈液Ldとの混合は、分注器6の吸引および吐出以外の方法によって行ってもよい。この混合工程S2により、前記分析成分であるHbとコンドロイチン硫酸とが結合した複合体が生成される。
【0040】
<泳動液充填工程S3>
次いで、分注器6によって泳動液槽72の泳動液Lmを所定量吸引し、
図9に示すように、所定量の泳動液Lmを分析チップ2の排出槽25に分注する。そして、上述したポートからの吸引や吐出を適宜実施するなどの手法により、排出槽25およびキャピラリー管27に泳動液Lmを充填する。
【0041】
<導入工程S4>
次いで、
図10に示すように、混合槽22から所定量の混合試料Smを分注器6によって採取する。そして、分注器6から導入槽23に所定量の混合試料Smを導入する。この導入においては、開口部23aまたは開口部23bのいずれかに分注器6を挿入する。本例においては、
図11に示すように、開口部23aに分注器6を挿入する。また、開口部23bには、分析装置1に備えられたノズル62を連結する。ノズル62は、大気開放または、上述した流動駆動源に繋がっている。分注器6からのSm導入が開始されると、導入槽23内にあった空気は、ノズル62を通じて導入槽23から排出される。この際、ノズル62は大気開放であってもよいし、分注器6に吐出力を付与するポンプ61とは別の流動駆動源としてのポンプなどから吸引力が付与されてもよい。
【0042】
図12は、導入槽23内が混合試料Smによって充填され、導入工程S4が完了した状態を示している。本実施形態においては、導入槽23が混合試料Smによって完全に満たされた時点が、導入工程S4の完了時点に相当する。ただし、本発明において導入工程が完了した時点の判断は、後述する分析工程を実施するのに必要とされる所定量の試料の導入が完了した時点を指し、かならずしも導入槽が試料によって満たされた時点のみを指すものではない。
【0043】
<流動工程S5>
次いで、
図13に示すように、流動工程S5を行う。本実施形態においては、
図12に示した導入工程S4の完了時点よりも後の期間において、ポンプ61を吐出源および吸引源とした分注器6からの混合試料Smの吐出および吸引を繰り返すことにより、導入槽23内において混合試料Smを流動させる。この流動は、導入工程S4において所定量の混合試料Smを導入槽23に導入するために不可避的に生じる流動ではなく、所定量の混合
試料Smの導入が完了した後の流動である。この流動により、導入槽23の横穴部23eにおいて、混合試料Smが主にy方向に往復するような挙動を示す。すなわち、導入槽23の横穴部23eとキャピラリー管27との接続部においては、横穴部23e内の混合試料Smがy方向に顕著に往復し、キャピラリー管27内の泳動液Lmがほとんど移動しないことによるせん断流が生じる。この結果、横穴部23eとキャピラリー管27との接続部においては、混合試料Smと泳動液Lmとの明瞭な境界が生じた状態が実現される。
【0044】
<電気泳動工程S6>
次いで、
図1に示すように、導入槽23に電極31を挿入し、排出槽25に電極32を挿入する。続いて、制御部8からの指示により電極31および電極32に電圧を印加する。この電圧は、たとえば0.5kV〜20kVである。これにより電気浸透流を生じさせ、導入槽23から排出槽25へとキャピラリー管27中において混合試料Smを徐々に移動させる。この際、導入槽23に混合試料Smが充填されているため、キャピラリー管27において混合試料Smが連続的に供給されている状態で電気泳動させることとなる。また、光源41からの発光を開始し、検出器5による吸光度の測定を行う。そして、電極31および電極32からの電圧印加開始時から経過時間と吸光度との関係を測定する。ここで、混合試料Sm中の移動速度が比較的速い成分に対応した吸光度ピークは、前記電圧印加開始時からの経過時間が比較的短い時点で現れる。一方、混合試料Sm中の移動速度が比較的遅い成分に対応した吸光度ピークは、前記電圧印加開始時からの経過時間が比較的長い時点で現れる。これにより、混合試料Sm中の各成分の分析(分離測定)が行われる。さらに、測定された前記吸光度を演算処理(たとえば、制御部8による微分処理、差分処理等)することによりエレクトロフェログラムを作成する。このエレクトロフェログラムのピーク高さやピークの面積を計算することにより、混合試料Sm中の成分比率等を求める。
【0045】
次に、本分析方法の実施例について説明する。
【0046】
<実施例1>
試料Saとして、人体から採取された全血95μLを用いた。希釈液Ldとして、40mMクエン酸、1.0%(w/v)コンドロイチン硫酸C−ナトリウム、500mM NDSB−201(Anatarace社製)、0.1%(w/v)LS−110(花王株式会社製)、0.1%(w/v)アジ化ナトリウムを用いて調製し、ジメチルアミノエタノール(pH調整用)を用いてpH6.0としたものを用いた。泳動液Lmとして、40mMクエン酸、1.25%(w/v)コンドロイチン硫酸C−ナトリウム、0.1%(w/v)LS−110(花王株式会社製)、0.1%(w/v)アジ化ナトリウムを用いて調製し、ジメチルアミノエタノール(pH調整用)を用いてpH5.0としたものを用いた。
【0047】
分析チップ2については、容量20μLの導入槽23および容量10μLの排出槽25と幅40μm、深さ40μm、全長30mm(分離長20mm)のキャピラリー管27を用意した。キャピラリー管27の内壁には、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDADMAC:Sigma社製)をコーティングした。
【0048】
混合工程S2においては、試料Saを希釈液Ldによって41倍に希釈し、混合試料Smを得た。泳動液充填工程S3における泳動液Lmの充填量は9μLである。導入工程S4においては、18μLのSmを導入した。そして、流動工程S5においては、分注器6による吐出及び吸引を複数回繰り返した。電気泳動工程S6においては、電極31および電極32の電圧は0.5kV〜20kV、電流は76μAであった。検出器5においては、波長415nmの吸光度を測定し、前記エレクトロフェログラムを得た。
【0049】
<比較例>
流動工程S5を実施しない点のみを除き、実施例1と同様の測定を行った。この場合、分析チップ2の導入槽23とは異なる、1つのみの開口部を有する従来の導入槽を具備する分析チップを用いた。
【0050】
実施例1によって得られたエレクトロフェログラムを
図14に、比較例によって得られたエレクトロフェログラムを
図15に、それぞれ示す。これらのエレクトロフェログラムにおいては、横軸が検出時間(単位:秒)、縦軸が吸光度変化率(単位:mAbs/sec)である。
【0051】
次に、分析チップ2、分析システムA1および本分析方法の作用について説明する。
【0052】
図14に示すように、実施例1のエレクトロフェログラムにおいては、分析成分であるl−HbA1c、s−HbA1cおよびHbA1d1のピークが、互いに時間を隔てて、それぞれ個別かつ明瞭に現れている。これに対し、
図15に示すように、比較例のエレクトロフェログラムにおいては、分析成分であるl−HbA1c、s−HbA1cおよびHbA1d1のピークが互いに個別のピークとして明瞭には現れていない。発明者らの試験によれば、導入槽23とキャピラリー管27との接続部分において、導入工程S4の以前、最中または直後などの期間に、キャピラリー管27内の泳動液Lmが導入槽23内に漏れ出すことが、明瞭なピークが現れない原因であるとの知見を得た。すなわち、導入槽23に泳動液Lmが漏れだすと、キャピラリー管27に繋がる導入槽23の部分においては、純粋な混合試料Smではなく、泳動液Lmによって薄められた混合試料Smが滞留する。または、導入工程S4の以前に漏れだした泳動液Lmが、キャピラリー管27に繋がる導入槽23の部分周辺において蒸発乾燥し、泳動液Lmの成分が濃縮された領域が生じ、導入工程S4の期間に、泳動液Lmの成分を過剰に含んだ混合試料Smが滞留する。あるいは、泳動液Lmと混合試料Smとが相互に拡散してしまい、混合試料Smの成分比率が不明瞭な領域が生じることが懸念される。電気泳動工程S6を開始すると、この不当に薄められた、または過剰に泳動液Lm成分を含んだ、あるいは成分比率が不明瞭な混合試料Smが分析されることとなり、分析結果の精度が顕著に低下してしまう。これに対し、実施例1においては、流動工程S4を行うことにより、導入槽23とキャピラリー管27との接続部分に混合試料Smと泳動液Lmとの明瞭な境界が形成される。言い換えると、仮にキャピラリー管27の泳動液Lmが導入槽23に漏れ出す等の事態が生じても、薄められた、または過剰に泳動液Lm成分を含んだ、あるいは成分比率が不明瞭な混合試料Smが流動工程S4におけるせん断流によって洗い流される。この結果、導入槽23とキャピラリー管27との接続部分に、純粋な混合試料Smを滞留させることができる。これにより、
図14に示すように分析成分の明瞭なピークが得られ、より簡易な構成によって分析精度を高めることが可能である。
【0053】
流動手段として2つの開口部23a,23bを用い、これらの開口部23a,23bの間において混合試料Smを流動させる構成は、混合試料Smを導入槽23に導入するための機構である分注器6を用いて流動工程S4を実行することができる。これは、分析システムA1の構成が複雑化することを回避するのに適している。特に、2つの開口部23a,23bが同じ方向に開口していることにより、分析チップ2を分析装置1に装填した際に、分注器6やノズル62を分析チップ2に対して同じ方向に配置することが可能である。これは、分析装置1の小型化などに好ましい。
【0054】
導入槽23のx方向寸法およびy方向寸法が、キャピラリー管27の開口部のx方向寸法およびy方向寸法よりも大であることにより、流動工程S4において、導入槽23内の混合試料Smを積極的に流動させるとともに、キャピラリー管27内の泳動液Lmを極力流動させること無くキャピラリー管27内にとどまらせておくことができる。これは、導
入槽23とキャピラリー管27との接続部において、混合試料Smと泳動液Lmとの境界をより明瞭化するのに有利である。
【0055】
図16および
図17は、分析チップ2の他の例を示している。本例においては、開口部23aおよび開口部23bが互いに異なる方向に開口している。
図16において、開口部23aは、y方向図中上方に開口しており、開口部23bは、y方向図中下方に開口している。また、導入槽23は、開口部23aと開口部23bとを繋ぐ横穴部23eのみよって構成されている。
図17に示すように、本例においても、キャピラリー管27は、横穴部23eの中央付近に繋がっている。また、横穴部23eのx方向寸法およびy方向寸法は、キャピラリー管27の開口部のx方向寸法およびy方向寸法よりも大である。このような分析チップ2が装填される分析装置1においては、上述した分注器6およびノズル62とは異なる姿勢または異なる形状の分注器6およびノズル62が適宜採用される。
【0056】
本例によっても、より簡易な構成によって分析精度を高めることが可能である。また、2つの開口部23a,23bが開口する向きは、互いに異なっていてもよい。たとえば、開口部23a,23bのいずれかがz方向に開口し、他方がy方向に開口してもよい。あるいは、開口部23a,23bがz方向において互いに反対方向に開口してもよい。
【0057】
さらに、導入槽23だけでなく、排出槽25が2つの開口を有する構成であってもよい。この場合、たとえば導入槽23および排出槽25をそれぞれ専用の槽と定義する使用方法に加えて、導入槽23および排出槽25が互いに入れ替わって用いられる使用方法が可能である。
【0058】
図18および
図19は、分析チップ2のさらに他の例を示している。本例においては、導入槽23にスターラーピース29が収容されている。本例の導入槽23は、1つのみの開口部23aを有している。スターラーピース29は、たとえば樹脂などの絶縁材料によってコーティングされたFeなどの磁性体からなり、本発明で言う流動手段の一例に相当する。
【0059】
図19は、分析チップ2が分析装置1に装填され、流動工程S5を行っている状態を示している。本例に用いられる分析装置1には、磁力駆動源65が備えられている。磁力駆動源65は、近接して配置された分析チップ2のスターラーピース29を回転させ得る磁力を発生するものである。導入槽23に所定量の混合試料Smが導入されると、導入工程S4が終了する。図示されたように、本例においては、導入槽23の全容積よりも導入されるべき所定量の混合試料Smの方が若干少量である。そして、流動工程S5においては、磁力駆動源65によってスターラーピース29を導入槽23内において回転させる。これにより、導入槽23内において混合試料Smに旋回流が発生し、導入槽23とキャピラリー管27との接続部に、混合試料Smと泳動液Lmとの明瞭な境界を生じさせるせん断流が発生する。本例によっても、より簡易な構成によって分析精度を高めることが可能である。
【0060】
本発明に係る分析方法、分析チップおよび分析システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る分析方法、分析チップおよび分析システムの具体的な構成は、種々に設計変更自在である。