(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
規則的に形成された複数の貫通孔を有する第1基材層と、規則的に形成された複数の貫通孔を有する第2基材層と、両基材層の間に配置されたナノファイバの濾過層とを備えた積層シートを含んで構成された光透過性微粒子濾過材であって、
前記積層シートは、その全光線透過率が55%以上であり、
第1基材層に形成された前記貫通孔と、第2基材層に形成された前記貫通孔との相互干渉に起因して生じるモアレ周期Wの値が5000μm以下である、光透過性微粒子濾過材。
第1基材層に形成された前記貫通孔及び第2基材層に形成された前記貫通孔の開口ピッチがそれぞれ独立に、100μm以上2000μm以下である請求項1又は2に記載の光透過性微粒子濾過材。
第1基材層及び第2基材層がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1区画部と、第1区画部と直交する方向に直線状に延びる第2区画部とを有し、両区画部よって各基材層に四辺形の前記貫通孔が形成されており、
第1基材層の第1区画部の延びる方向と、第2基材層の第1区画部の延びる方向とのなす角度が5度以上90度以下の範囲となるように、両基材層が積層されている請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光透過性微粒子濾過材。
第1基材層及び第2基材層がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1の線状材と、第1の線状材と交差する方向に直線状に延びる第2の線状材とが織られて形成された網目体からなり、該網目体は、第1の線状材と第2の線状材との交点が固定化されている請求項1ないし6のいずれか一項に記載の光透過性微粒子濾過材。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1に示す濾過材10はシート状のものであり、その構成部材の一つとして濾過層13を有する。濾過層13はシート状のものであり、その一方の面に第1基材層11が配置されているとともに、他方の面に第2基材層12が配置されている。第1基材層11及び第2基材層12もシート状のものである。このように濾過層13は、第1基材層11と第2基材層12によって挟持されている。濾過層13と第1基材層11とは直接に接しており、両者の間に他の層は介在していない。同様に、濾過層13と第2基材層12とも直接に接しており、両者の間に他の層は介在していない。
【0013】
濾過層13は、濾過材10において、濾過の対象物である流体中に含まれる微粒子を捕集する目的で用いられる。この目的のために、濾過層13はナノファイバを含んで構成されている。濾過層13がナノファイバを含んでいることで、圧力損失を大きくすることなく、換言すれば通気抵抗を大きくすることなく、微小な粒子、例えば平均粒子径が0.3μm以上の粒子を捕集することが可能となる。本明細書においてナノファイバとは、その直径が、一般に10nm以上3000nm以下、特に10nm以上1000nm以下の繊維のことである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡 (SEM)によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(ナノ繊維の塊、ナノ繊維の交差部分、ポリマー液滴)を除いた繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、繊維径を直接読み取ることで測定することができる。微粒子の捕集性や濾過材10の光透過性を考慮すると、ナノファイバの直径は50nm以上であることが好ましく、また900nm以下であることが好ましく、300nm以下であることが更に好ましい。例えばナノファイバの直径は50nm以上900nm以下であることが好ましく、50nm以上300nm以下であることが更に好ましい。濾過層13は、そのすべてがナノファイバから構成されていることが好ましいが、濾過機能が損なわれない範囲において、ナノファイバ以外の繊維が濾過層13中に含まれていてもよい。
【0014】
濾過層13を構成するナノファイバは、連続フィラメントの形態であってもよく、あるいは短繊維の形態であってもよい。ナノファイバがどのような形態であるかは、ナノファイバの製造方法に依存する場合が多い。ナノファイバの形態によらず、ナノファイバはランダムに堆積した状態で濾過層13を構成していることが好ましい。そのようなランダムな堆積状態でのナノファイバの目開きの大きさ(網目の大きさ)を数値化することは容易でない。そこで本発明においては、ナノファイバの太さ及びナノファイバの坪量によって、ナノファイバの目開きの大きさの尺度に代えることとする。しかるに、ナノファイバの太さについては上述のとおりであるところ、ナノファイバの坪量に関しては、0.05g/m
2以上であることが好ましく、0.1g/m
2以上であることが更に好ましい。上限値に関しては、0.5g/m
2以下であることが好ましく、0.3g/m
2以下であることが更に好ましい。具体的には、ナノファイバの坪量は、0.05g/m
2以上0.5g/m
2以下であることが好ましく、0.1g/m
2以上0.3g/m
2以下であることが更に好ましい。この範囲の坪量を採用することで、微細な粒子を確実に捕集することができ、また濾過材10の光透過性を十分に高くすることができる。
【0015】
ナノファイバから構成される濾過層13の坪量は、次の方法によって測定可能である。濾過材10を10cm角の大きさに切り出して測定用のサンプルとする。次いでこのサンプルの質量を測定する。このサンプルからナノファイバを完全に除去し、基材層11,12のみの質量を測定する。濾過材10の質量から基材層11,12の質量を差し引いて、その値を濾過層13の質量とする。その質量に、更に100を乗じることで、1m
2当たりの濾過層13の質量を求め、その値を濾過層13の坪量とする。
【0016】
ナノファイバは一般に高分子化合物から構成されている。使用される高分子化合物は、繊維形成能を有し、且つ濾過の対象物である流体に対して不溶性であることが有利である。流体の種類にもよるが、一般に高分子化合物としてポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系繊維、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂並びにそれらの任意のブレンド物及び共重合物などを用いることができる。これらの高分子化合物を用いたナノファイバの製造方法としては、例えばエレクトロスピニング法及びメルトブローン法などが挙げられる。
【0017】
濾過層13をその各面から挟持する第1基材層11及び第2基材層12は、細径であり保形性に乏しい層である濾過層13を支持し、且つ濾過層13の濾過機能が十分に発現するようにする目的で用いられている。この目的のために、第1基材層11及び第2基材層12として、濾過層13よりも目開きが大きいものを用いることが好ましい。
【0018】
第1基材層11及び第2基材層12はそれぞれ独立に、規則的に形成された複数の貫通孔14を有している。貫通孔14の形状は、濾過の対象物である流体の透過性、濾過層13の支持性、濾過材10の光透過性及び基材層11,12の強度確保の観点から、四辺形、例えば長方形及び正方形のような直角四辺形及び非直角の平行四辺形であることが好ましい。
図1には、長方形ないし正方形である貫通孔14が示されている。
【0019】
図2(a)及び(b)にはそれぞれ、貫通孔14が正方形である第1基材層11及び第2基材層12を平面視した状態が示されている。
図2(a)に示すとおり、第1基材層11はそれぞれ独立に、第1方向Xに沿って直線状に延びる第1区画部111と、第1区画部111と直交する第2方向Yに沿って直線状に延びる第2区画部112とを有している。そして両区画部111,112によって区画された四辺形の貫通孔14が第1基材層11に形成されている。第1区画部111は互いに平行に第1方向Xに向けて延びている。一方、第2区画部112は互いに平行に、第1区画部111の延びる方向と直交する第2方向Yに向けて延びている。各区画部111,112はその延びる方向に沿う幅が任意の位置において同じになっている。したがって正方形をした貫通孔14は、四辺のうち、対向する二対の辺のうちの一方の一対の辺が第1方向Xと平行に延び、且つ他方の一対の辺が第2方向Yと平行に延びている。
図2(a)に示すとおり、開口ピッチω
111,ω
112は、第1区画部111又は第2区画部112の幅d
111,d
112と、当該幅の方向に沿う貫通孔14の開口長さD
111,D
112との和で定義される。
【0020】
第2基材層12の構造は第1基材層11と同様であり、
図2(b)に示すとおり、第2基材層12はそれぞれ独立に、第1方向Xに沿って直線状に延びる第1区画部121と、第1区画部121と直交する第2方向Yに沿って直線状に延びる第2区画部122とを有している。そして両区画部121,122によって区画された四辺形の貫通孔14が第2基材層12に形成されている。第1区画部121は互いに平行に第1方向Xに向けて延びている。一方、第2区画部122は互いに平行に、第1区画部121の延びる方向と直交する第2方向Yに向けて延びている。各区画部121,122はその延びる方向に沿う幅が任意の位置において同じになっている。したがって正方形をした貫通孔14は、四辺のうち、対向する二対の辺のうちの一方の一対の辺が第1方向Xと平行に延び、且つ他方の一対の辺が第2方向Yと平行に延びている。
図2(b)に示すとおり、開口ピッチω
121,ω
122は、第1区画部121又は第2区画部122の幅d
121,d
122と、当該幅の方向に沿う貫通孔14の開口長さD
121,D
122との和で定義される。
【0021】
第1基材層11及び第2基材層12の第1区画部111,121及び第2区画部112,122はそれぞれ独立に、例えば高分子材料からなる線状材であり得る。あるいは第1区画部111,121及び第2区画部112,122はそれぞれ独立に、幅に対して厚みが小さい帯状材であり得る。そして
図1に示す濾過材10においては、第1基材シート11の第1区画部111と、第2基材シート12の第1区画部121とが同方向となるように、両基材シート11,12が重ね合わされている。
【0022】
濾過材10においては、2枚の基材層11,12がそれぞれ第1区画部111,121及び第2区画部112,122を有していることに起因して、これら2枚の基材層11,12を積層したときに、相互干渉に起因してモアレ現象が発生する可能性がある。モアレ現象の発生は、濾過材10の外観を低下させる一因となる場合があり、ひいては濾過材10の光透過性に影響を与える可能性がある。モアレ現象の発生と、濾過材10の外観の低下との関係を本発明者が検討した結果、濾過材10においては、発生したモアレ周期Wが特定の値以下、具体的には5000μm以下になると、モアレの発生に起因する外観の低下が大幅に抑制されることが判明した。特にモアレ周期Wの値が3200μm以下であると、濾過材10の外観の低下が一層大幅に抑制される。後述するように、例えば各基材層11,12における開口ピッチω
111,ω
121,ω
112,ω
122を適切に調整した場合、モアレ周期Wの値は特に1400μm以下であることが好ましく、800μm以下であることが一層好ましい。後述するように、例えば第1基材層11における第1区画部111と第2基材層12における第1区画部121との交差角度を適切に調整した場合、モアレ周期Wの値は特に1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることが一層好ましく、500μm以下であることが更に一層好ましい。モアレ周期Wの下限値に特に制限はなく、小さければ小さいほど濾過材10の外観が低下しづらくなるが、モアレ周期Wの値が300μm程度に小さくなれば、本発明の目的は十分に達成される。
【0023】
本発明においてモアレ周期Wとは、モアレ現象によって生じる干渉縞の周期のことである。濾過材10に生じるモアレ周期Wは、各基材層11,12における開口ピッチ、及び基材層11,12における各区画部どうしの交差角度を、マイクロスコープなどにより測定し、測定された値に基づき、後述の計算式から求めることができる。また、モアレ周期Wは、発生したモアレ干渉縞を画像解析することでも求めることができる。例えば、(i)モアレ干渉縞をデジタルカメラで撮影し、画像処理ソフトウエアなどによってモアレ干渉縞どうしの間隔を計測する、(ii)モアレ干渉縞によって発生する明暗部の周期をフーリエ変換によって求める、などの方法でモアレ周期Wを求めることができる。
【0024】
モアレ周期Wが上述の値を満たすようにするためには、例えば各基材層11,12における開口ピッチω
111,ω
121,ω
112,ω
122を適切に調整したり、第1基材層11における第1区画部111と第2基材層12における第1区画部121との交差角度を適切に調整したりすればよい。それらの具体例については後述する。
【0025】
計算に用いる基材層11,12の開口ピッチω
111,ω
112,ω
121,ω
122は、基材層11,12の四隅を粘着テープを用いて試料台に固定し、マイクロスコープなどを用いて拡大観察し、その二次元画像の画像解析によって求めるものとする。
図2(a)及び(b)に示すとおり、基材層11,12の各第2区画部112,122の延びる方向に沿う開孔ピッチω
111,ω
121、各第1区画部111,121の延びる方向に沿う開口ピッチω
112,ω
122は、区画部の延びる方向と直交する方向に直線を引き、第1区画部111,121又は第2区画部112,122の幅と、当該幅の方向に沿う貫通孔14の開口長さとの和を直接計測することで求める。任意に選んだ10箇所の開口ピッチを計測し、その平均値を求める。交差角度θは、基材層11,12を重ね合わた状態で四隅を粘着テープを用いて試料台に固定し、マイクロスコープなどを用いて拡大観察し、その二次元画像の画像解析によって求めるものとする。重ね合わされた基材層11,12の、第1区画部111,121と第2区画部112,122の交点におけるそれぞれの区画部どうしがなす角度(≦90度)を計測することで求める。各区画部111,112,121,122どうしの交点の組み合わせは6通り存在し、それぞれの交差角度を求める。任意に選んだ10箇所の交点における交差角度を計測し、その平均値を求める。
【0026】
図3(a)に示すとおり、第1基材層11と第2基材層12とを、それらの第1区画部111,121が同方向を向くように重ねると、
図3(b)ないし
図3(g)に示す6つの組み合わせについてモアレ現象が発生する可能性があり、かかる6つの組み合わせについてモアレ周期Wを求めることが必要となる。第1基材層11及び第2基材層12における貫通孔14が正方形であり、それぞれの組み合わせにおける各開口ピッチをω
a(第1基材層11の開口ピッチ)、ω
b(第2基材層12の開口ピッチ)、ω
a<ω
b、区画部どうしの交差角度をθとした場合、6つの組み合わせについてのモアレ周期Wは以下の式(1)で表される。式中のω
a,ω
b,及びθには、前段落に記載した手順で求めた各組み合わせの開口ピッチ及び交差角度の値を代入する。
【0028】
モアレは基材層どうしの区画部及び開口部の重なりによる明暗部の発生に起因するため、モアレ周期は音波など2つの波の重なりにより生じる「うなり」の周期と同様に考えることができる。うなりは近い周期を持つ2つの波の干渉により生じるため、1.5×ω
a<ω
bのように、ω
bに対して、ω
aよりもω
aの倍数の方が周期が近くなる場合には、これらのピッチの干渉について考慮する必要がある。したがって、モアレ周期Wを求める際、式(1)に用いるω
anの値は、「ω
bに最も近いω
aの倍数」とする。
例えば、θ=0度、ω
a=254μm、ω
b=510μmの場合、ω
an=ω
a×n=254×2=508μmとし、式(1)に代入することで、モアレ周期を求めることができる。ここでnはω
an=ω
a×nとなる正の整数を示す。
「ω
bに最も近いω
aの倍数」は、例えば米国Microsoft(商標登録)社のExcel(商標登録)のMROUND関数などを用いることで容易に導出できる。
【0029】
なお式(1)において、開口ピッチω
aと、開口ピッチω
bとが等しく、ω
a=ω
b=ωである場合、モアレ周期Wは以下の式(2)で表される。
【0031】
したがって、
図3(b)ないし
図3(g)のうち、
図3(b)、
図3(e)、
図3(f)及び
図3(g)については、θ=90度として式(1)の計算を行いモアレ周期Wを算出する。また
図3(c)及び
図3(d)については、θ=0度として式(1)の計算を行いモアレ周期Wを算出する。このようにして6つの組み合わせについてそれぞれモアレ周期Wを算出し、それらの値のうち最も大きなモアレ周期Wが上述の値を満たすことで、該濾過材10の外観が良好になる。
【0032】
図4には、第1基材層11と第2基材層12とが別の態様で配置される状態が示されている。
図4(a)においては、第1基材層11の第1区画部111と、第2基材層12の第1区画部121とが45度の角度でもって交差するように、第1基材層11と第2基材層12とが積層されている。この場合には、
図4(b)ないし
図4(g)に示す6つの組み合わせについてモアレ現象が発生する可能性があり、かかる6つの組み合わせについてモアレ周期Wを求めることが必要となる。第1基材層11及び第2基材層12における貫通孔14が正方形であり、各組み合わせにおける開口ピッチをそれぞれω
a,ω
bとし、基材層11の各区画部と基材層12の各区画部の交差角度θを45度とした場合、
図4(b)ないし
図4(g)のうち、
図4(b)及び
図4(e)については、θ=90度として式(1)の計算を行いモアレ周期Wを算出する。また
図4(c)及び
図4(d)、
図4(f)及び
図4(g)については、θ=45度として式(1)の計算を行いモアレ周期Wを算出する。
【0033】
図5には、
図3及び
図4よりも複雑な態様で第1基材層11と第2基材層12とが積層される態様が示されている。
図5(a)における第1基材層11は、第1区画部111と第2区画部112とが直交しており、正方形の貫通孔14が形成されている。一方、第2基材層12は、第1区画部121に対して第2区画部122が45度の交差角度で交差しており、菱形の貫通孔14が形成されている。この場合には、
図5(b)ないし
図5(g)に示す6つの組み合わせについてモアレ現象が発生する可能性があり、かかる6つの組み合わせについてモアレ周期Wを求めることが必要となる。各組み合わせにおける開口ピッチをそれぞれω
a,ω
b、第1基材層11の第1区画部111と、第2基材層12の第1区画部121とが同方向に延びている場合、
図5(b)ないし
図5(g)のうち、
図5(b)及び
図5(g)についてはθ=90度として式(1)の計算を行いモアレ周期Wを算出する。
図5(c)についてはθ=0度として式(1)の計算を行いモアレ周期Wを算出する。また
図5(d)、
図5(e)及び
図5(f)については、θ=45度として式(1)の計算を行いモアレ周期Wを算出する。
【0034】
以上のとおり、第1基材層11及び第2基材層12における第1区画部111,121及び第2区画部112,122が、互いに異なる一方向に延び、それによって四辺形の貫通孔14が各基材層11,12に形成されている場合には、各基材層11,12における各区画部111,121,112,122を分解すれば、モアレ周期を算出することができる。
【0035】
濾過材の大きさに対して、モアレ周期Wの値が大きくなるほどモアレは生じにくくなるが、実際には基材層の僅かな構造のゆがみや、基材層どうしの交差角度の僅かなずれが存在するため、濾過材表面の局所においてモアレが発生する可能性がある。このため、本発明においては、第1基材層11と第2基材層12との積層に起因してモアレ現象が発生することを防止するのではなく、モアレ現象が発生することは許容した上で、モアレ周期Wを小さくすることで、巨視的にモアレ現象を知覚させづらくしている。この観点から、第1基材層11及び第2基材層12がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1区画部111,121と、第1区画部111,121と直交する方向に直線状に延びる第2区画部112,122とを有し、各区画部によって各基材層11,12に四辺形の貫通孔14が形成されている場合には、第1基材層11に形成された貫通孔14、及び第2基材層12に形成された貫通孔14の開口ピッチがそれぞれ独立に、100μm以上であることが好ましい。また開口ピッチは、2000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることが更に好ましい。例えば貫通孔14の開口ピッチは、それぞれ独立に100μm以上2000μm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることが更に好ましい。
【0036】
同様の観点から、組み合わせされる開口ピッチω
bに最も近い開口ピッチω
aの倍数ω
an、及び開口ピッチω
bの比率は、以下の関係であることが好ましい。ω
an>ω
bとした場合のω
an/ω
bの値と、ω
an<ω
bとした場合のω
b/ω
anの値は1.05以上であることが好ましく、1.1以上であることが更に好ましく、1.2以上であることが一層好ましい。また1.95以下であることが好ましく、1.9以下であることが更に好ましく、1.8以下であることが一層好ましい。例えば1.05以上1.95以下であることが好ましく、1.1以上1.9以下であることが更に好ましく、1.2以上1.8以下であることが一層好ましい。
【0037】
更に同様の観点から、第1基材層11及び第2基材層12がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1区画部111,121と、第1区画部と直交する方向に直線状に延びる第2区画部112,122とを有し、各区画部によって各基材層11,12に四辺形の貫通孔14が形成されている場合には、第1基材層11の第1区画部111の延びる方向と、第2基材層12の第1区画部121の延びる方向とのなす角のうち、90度以下の側の角度が好ましくは5度以上、更に好ましくは15度以上、一層好ましくは30度以上となるように両基材層を積層する。例えば前記角度が好ましくは5度以上90度以下、更に好ましくは15度以上90度以下、一層好ましくは30度以上90度以下となるように両基材層を積層する。
【0038】
濾過層13の支持性や、濾過材10の光透過性の観点から、各基材層11,12における各区画部111,112,121,122の幅dは、各基材層11,12を平面視したときに、それぞれ独立に10μm以上であることが好ましく30μm以上であることが更に好ましい。また200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。例えば平面視における各区画部111,112,121,122の幅dはそれぞれ独立に、10μm以上200μm以下であることが好ましく30μm以上100μm以下であることが更に好ましい。なお、各区画部111,112,121,122の幅dは、理論上モアレ現象の発生には影響を与えない。例えば、第1区画部の幅がd
Aであり、開口長さがD
Aである基材層Aと、第1区画部の幅がd
Bであり、開口長さがD
Bである基材層Bとでは、d
A+D
A=d
B+D
Bである限り、ある基材層Cに基材層Aを重ねたときに観察されるモアレ周期W
ACと、ある基材層Cに基材層Bを重ねたときに観察されるモアレ周期W
BCとは理論上同じになる。
【0039】
同様に、濾過層13の支持性や、濾過材10の光透過性の観点から、各基材層11,12の開口率はそれぞれ独立に50%以上であることが好ましく、55%以上であることが更に好ましい。また、95%以下であることが好ましく、90%以下であることが更に好ましい。例えば、各基材層11,12の開口率はそれぞれ独立に50%以上95%以下であることが好ましく、55%以上90%以下であることがより好ましい。
【0040】
濾過材10においては、2枚の基材層11,12間に配置されている濾過層13が、ナノファイバから構成されているので、濾過材10の全体としての光透過性が損なわれにくくなっている。したがって濾過材10は、透明性の高い、すなわち光透過性の高い微粒子濾過材として好適なものとなる。濾過材10の光透過性の程度は、全光線透過率で表して55%以上であることが好ましく、75%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが一層好ましい。全光線透過率の上限値に特に制限はなく、高ければ高いほど透明性が高くなり好適であるが、85%程度に高ければ、光透過性微粒子濾過材として十分に有用なものとなる。全光線透過率の測定は、例えば日本電色工業株式会社製のヘイズメーターであるNDH5000を用いて行うことができる。
【0041】
各基材層11,12としては、例えば高分子材料からなるメッシュシート、高分子材料からなる開口シート及び高分子材料からなる織物や編み物などを用いることができる。使用できる高分子化合物は、濾過の対象物である流体に対して不溶性であることが有利である。流体の種類にもよるが、一般に高分子化合物としてポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系繊維、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂並びにそれらの任意のブレンド物及び共重合物などを用いることができる。
【0042】
以上の説明から明らかなとおり、第1基材層11及び第2基材層12における各貫通孔14のピッチや交差角度等の数値がわかれば、前記の式(1)に基づきモアレ周期Wを計算で求めることができる。したがって、例えば同一の2つの基材層を完全に重ねた場合には、計算上はモアレ周期Wの値が∞となり、モアレ現象は発生しないことになる。しかし実際には、各基材層11,12の製造時の条件の振れに起因して、同一の2つの基材層を完全に重ねた場合であってもモアレ現象が発生することがある。特に、第1基材層及び第2基材層がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1の線状材と、第1の線状材と交差する方向に直線状に延びる第2の線状材とが織られて形成された網目体からなる場合、例えば平織りの網状体からなる場合には、第1の線状材と第2の線状材との交点が固定化されていないので、貫通孔のピッチが変動しやすく、モアレ現象が意図せず発生しやすい。そこでそのような網状体を基材層として用いる場合には、該網目体における、第1の線状材と第2の線状材との交点を固定化することが有利である。それによって、貫通孔のピッチが意図せず変化して、モアレ現象が発生してしまうことを効果的に防止することができる。交点の固定化の手段としては、例えば接着剤による接合、熱融着、超音波接合、熱を伴うか又は伴わない圧着などを用いることができる。
【0043】
濾過材10においては、濾過層13と、これをその両側から挟持する各基材層11,12とは、単に積層されているだけでもよく、あるいはこれら三者が接合手段によって接合されていてもよい。これら三者が接合されている場合には、濾過材10の濾過性能を損なわないようにする観点から、部分的な接合を行うことが好ましい。接合手段としては、例えば接着剤による接合、熱融着、超音波接合、熱を伴うか又は伴わない圧着などを用いることができる。あるいは、濾過層13と基材層11,12との絡合によって両者を接合することもできる。
【0044】
以上のとおりの構成を有する濾過材10は、ナノファイバを含む濾過層13に起因する濾過性能と、一対の基材層11,12の組み合わせに起因するモアレ現象の発生防止と、高い光透過性とを活かして、種々の分野に適用することができる。例えば衛生マスクや網戸として用いることができる。
図6及び
図7には、濾過材10を衛生マスクに適用した例が示されている。
【0045】
衛生マスク1は、
図6及び
図7に示すように、マスク本体2と、マスク本体2の左右両側に設けられた耳掛け部3とを備えている。マスク本体2は、横長の矩形状の形状を有している。衛生マスク1は、マスク本体2の横方向の両端部分を除く中央部分が、
図7に示すように、着用者の顔面を被覆する顔面被覆部分4となっており、その顔面被覆部分4が濾過材10から構成されている。マスク本体2の横方向の両端部分には、濾過材10をその両面から挟み込むようにサイドシート5が取り付けられており、サイドシート5によって補強された両端部分に、耳掛け部3を形成するための耳掛け紐6が固定されている。顔面被覆部分4は、
図7に示すように、着用者の顔面の少なくとも口許及び鼻の穴の周辺を覆うことが好ましい。サイドシート5としては、例えば、幅狭の短冊状の縦長シートをその縦中心線に沿って二つ折りしたものが用いられる。サイドシート5及び耳掛け紐6は、それぞれ、ヒートシールや超音波シールによる融着、接着剤を用いた接着、縫合などの公知の方法により取り付けられている。
【0046】
前記の衛生マスク1は、顔面被覆部分4に濾過材10を用いることにより、光透過性が高く着用者の表情の視認性に優れるとともに、細菌や花粉に対するバリア性にも優れている。また衛生マスク1は、軽量化が容易で、従来市販されている不織布製のマスクに比べて軽く、装着しているのが気にならないという利点もある。更に、0.1g/m
2程度の坪量のナノファイバでバリア性を発現できるため、息苦しくなりにくいという点でも有利である。衛生マスク1は、装着していることを感じさせにくくする観点から、総質量を2g未満にすることが好ましく、1.5g以下にすることが更に好ましく、また、0.7g以上にすることが好ましく、より具体的には0.7g以上2.0g未満とすることが好ましく、0.7g以上1.5g以下にすることが更に好ましい。なお、バリア性は繊維径が細く、且つ坪量が大きいほど良好になる。
【0047】
衛生マスク1は、細菌バリア性を有するものであり、風邪などの感染症の予防や感染症の拡散対策を主目的とするマスクや、外科手術を始めとする医療分野で用いられるマスクとして好ましく用いられる。その他、花粉やハウスダストの吸い込み防止を主目的とするマスク、食品の製造、調理、弁当の製造を始めとする食品分野で用いられるマスク、半導体製造用のクリーンルームで用いられるマスク、各種製造業の分野などで防塵に用いられるマスク等としても好適に用いられる。
【0048】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態の濾過材10は、一対の基材層11,12間に、ナノファイバから構成される濾過層13が介在配置された三部材の構成のものであったが、これに代えて少なくとも一方の基材層11,12の外面に、1又は2以上の他の層が積層されていてもよい。
【0049】
また
図6及び
図7に示す実施形態の衛生マスクにおいて、マスク本体に濾過材10を使用するときには、該濾過材10に単数又は複数の襞状の折り込み部を形成してもよい。また、濾過材10からなる左右のパネル部を形成し、それらのパネル部を顔の幅方向中央の位置で非直線状に接合して立体的な形状の顔面被覆部分を形成してもよい。更に、耳掛け紐に代えて、開口やスリットを形成したシート材から、耳掛け部を形成していてもよい。
【0050】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の光透過性微粒子濾過材及び衛生マスクを開示する。
<1>
規則的に形成された複数の貫通孔を有する第1基材層と、規則的に形成された複数の貫通孔を有する第2基材層と、両基材層の間に配置されたナノファイバの濾過層とを備えた積層シートを含んで構成された光透過性微粒子濾過材であって、
前記積層シートは、その全光線透過率が55%以上であり、
第1基材層に形成された前記貫通孔と、第2基材層に形成された前記貫通孔との相互干渉に起因して生じるモアレ周期Wの値が5000μm以下である、光透過性微粒子濾過材。
【0051】
<2>
モアレ周期Wの値が3200μm以下である前記<1>に記載の光透過性微粒子濾過材。
<3>
各基材層における開口ピッチを調整した場合、モアレ周期Wの値が特に1400μm以下が好ましく、800μm以下が更に好ましく、
第1基材層における第1区画部と第2基材層における第1区画部との交差角度を調整した場合、モアレ周期Wの値が特に1500μm以下が好ましく、1000μm以下が更に好ましく、500μm以下が一層好ましい前記<1>又は<2>に記載の光透過性微粒子濾過材。
<4>
モアレ周期Wが以下の式(1)で表される前記<1>ないし<3>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
式(1)中、開口ピッチω
a,ω
bは、第1区画部又は第2区画部の幅と、当該幅の方向に沿う貫通孔の開口長さとの和で定義される。θは各区画部どうしの交差角度とする。
【0053】
<5>
第1基材層に形成された前記貫通孔及び第2基材層に形成された前記貫通孔の開口ピッチがそれぞれ独立に、100μm以上2000μm以下である前記<1>ないし<4>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<6>
第1基材層に形成された貫通孔及び第2基材層に形成された貫通孔の開口ピッチがそれぞれ独立に、100μm以上であることが好ましく、また開口ピッチは、2000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることが更に好ましく、貫通孔の開口ピッチは、それぞれ独立に100μm以上2000μm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることが更に好ましい前記<1>ないし<5>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
【0054】
<7>
第1基材層及び第2基材層に形成されている貫通孔がいずれも正方形である場合、組み合わせされる各開口ピッチをω
an,ω
bとし、ω
an>ω
bとした場合のω
an/ω
bの値と、ω
an<ω
bとした場合のω
b/ω
anの値は1.05以上であることが好ましく、1.1以上であることが更に好ましく、1.2以上であることが一層好ましく、また1.95以下であることが好ましく、1.9以下であることが更に好ましく、1.8以下であることが一層好ましい。例えば1.05以上1.95以下であることが好ましく、1.1以上1.9以下であることが更に好ましく、1.2以上1.8以下であることが一層好ましい前記<1>ないし<6>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<8>
第1基材層及び第2基材層がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1区画部と、第1区画部と直交する方向に直線状に延びる第2区画部とを有し、両区画部よって各基材層に四辺形の前記貫通孔が形成されており、
第1基材層の第1区画部の延びる方向と、第2基材層の第1区画部の延びる方向とのなす角度が5度以上90度以下の範囲となるように、両基材層が積層されている前記<1>ないし<7>のいずれか一項に記載の光透過性微粒子濾過材。
<9>
第1基材層及び第2基材層がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1区画部と、第1区画部と直交する方向に直線状に延びる第2区画部とを有し、両区画部よって各基材層に四辺形の貫通孔が形成されている場合には、第1基材層の第1区画部の延びる方向と、第2基材層の第1区画部の延びる方向とのなす角のうち、90度以下の側の角度が好ましくは5度以上、更に好ましくは15度以上、一層好ましくは30度以上となるように両基材層を積層し、前記角度が好ましくは5度以上90度以下、更に好ましくは15度以上90度以下、一層好ましくは30度以上90度以下となるように両基材層を積層する前記<1>ないし<7>のいずれか一項に記載の光透過性微粒子濾過材。
<10>
前記ナノファイバの濾過層の坪量が0.05g/m
2以上0.5g/m
2以下である前記<1>ないし<9>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<11>
ナノファイバの坪量は、0.05g/m
2以上であることが好ましく、0.1g/m
2以上であることが更に好ましく、上限値に関しては、0.5g/m
2以下であることが好ましく、0.3g/m
2以下であることが更に好ましく、ナノファイバの坪量は、0.05g/m
2以上0.5g/m
2以下であることが好ましく、0.1g/m
2以上0.3g/m
2以下であることが更に好ましい前記<1>ないし<10>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
【0055】
<12>
前記積層シートは、その全光線透過率が75%以上である前記<1>ないし<11>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<13>
前記積層シートは、その全光線透過率が80%以上である前記<1>ないし<12>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<14>
第1基材層及び第2基材層がそれぞれ独立に、一方向に直線状に延びる第1の線状材と、第1の線状材と交差する方向に直線状に延びる第2の線状材とが織られて形成された網目体からなり、該網目体は、第1の線状材と第2の線状材との交点が固定化されている前記<1>ないし<13>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<15>
濾過層13の支持性や、濾過材10の光透過性の観点から、各基材層11,12における各区画部の幅dは、各基材層11,12を平面視したときに、それぞれ独立に10μm以上であることが好ましく30μm以上であることが更に好ましい。また200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。例えば平面視における各区画部の幅dはそれぞれ独立に、10μm以上200μm以下であることが好ましく30μm以上100μm以下であることが更に好ましい前記<1>ないし<14>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<16>
各基材層の開口率はそれぞれ独立に50%以上であることが好ましく、55%以上であることが更に好ましく、95%以下であることが好ましく、90%以下であることが更に好ましく、
各基材層の開口率はそれぞれ独立に50%以上95%以下であることが好ましく、55%以上90%以下であることがより好ましい前記<1>ないし<15>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
【0056】
<17>
各基材層として、高分子材料からなるメッシュシート、高分子材料からなる開口シート及び高分子材料からなる織物や編み物などを用い、
前記高分子化合物は、濾過の対象物である流体に対して不溶性であり、
前記高分子化合物としてポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系繊維、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂並びにそれらの任意のブレンド物及び共重合物などを用いる前記<1>ないし<16>のいずれか1に記載の光透過性微粒子濾過材。
<18>
<1>ないし<17>のいずれか一項に記載の光透過性微粒子濾過材を備えた衛生マスク。
<19>
総質量が2g未満であることが好ましく、1.5g以下であることが更に好ましく、また0.7g以上であることが好ましく、より具体的には0.7g以上2.0g未満とすることが好ましく、0.7g以上1.5g以下にすることが更に好ましい前記<18>に記載の衛生マスク。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0058】
〔実施例1〕
図1に示す構成の濾過材を以下の手順で製造した。
(1)基材層
第1基材層及び第2基材層としてポリエステル樹脂からなり、貫通孔が正方形をした異なる種類のメッシュシートを用いた。各メッシュシートにおける網目の交点は超音波シールされて固定化されていた。第1基材層は、開口ピッチ254μm、開口率61%、線径55μmであった。第2基材層は、開口ピッチ188μm、開口率58%、線径48μmであった。
【0059】
(2)濾過層
水不溶性高分子化合物であるポリビニルブチラール(エスレック(登録商標)BM−1、積水化学工業株式会社)を用いた。1.15gのポリビニルブチラールを8.85gの溶媒(エタノール:1−ブタノール=8:2質量比)に溶解したのち、花王株式会社製の第四級アンモニウム塩系界面活性剤(サニゾールC(登録商標))を0.5g添加して水不溶性ナノファイバ形成液を得た。電界紡糸装置を用い、第1基材層の表面に向けて、水不溶性ナノファイバ形成液を噴霧して水不溶性のナノファイバからなる濾過層を形成した。印加電圧は35kV、電極間距離は280mm、液吐出量は1mL/hとした。また、ナノファイバの形成は、基材層を直径200mmのドラム型コレクターに巻き付け、ドラムの線速度が200m/minになるよう調整しながら行った。ナノファイバの直径は204nmであり、坪量は0.1g/m
2であった。この上に第2基材層を積層して、
図1に示す構成の濾過材を得た。第2基材層は、第1基材層との交差角度がゼロとなるように積層した。
【0060】
〔実施例2ないし4〕
第2基材層として、以下の表1に示す開口ピッチを有するものを用いた以外は、実施例1と同様にして濾過材を得た。
【0061】
〔実施例5〕
第1基材層及び第2基材層として同種のメッシュシートを用いた。このメッシュシートにおける網目の交点は超音波シールされて固定化されていた。このメッシュシートは、開口ピッチ254μm、開口率61%、線径55μmであった。このメッシュシートを2枚用い、両メッシュシートの交差角度が表1になるように両メッシュシートを積層した。これ以外は実施例1と同様にして濾過材を得た。
【0062】
〔実施例6ないし9〕
両メッシュシートの交差角度が表1になるように両メッシュシートを積層した。これ以外は実施例5と同様にして濾過材を得た。
【0063】
〔実施例10〕
実施例1において、濾過層の坪量を表1に示す値とした。これ以外は実施例1と同様にして濾過材を得た。
【0064】
〔比較例1〕
第1基材層及び第2基材層として同種のメッシュシートを用いた。このメッシュシートにおける網目の交点は固定化されていた。このメッシュシートは、開口ピッチ254μm、開口率61%、線径55μmであった。このメッシュシートを2枚用い、両メッシュシートの交差角度がゼロになるように両メッシュシートを積層した。これ以外は実施例1と同様にして濾過材を得た。
【0065】
〔比較例2〕
第2基材層として、以下の表1に示す開口ピッチを有するものを用いた以外は、実施例1と同様にして濾過材を得た。
【0066】
〔比較例3〕
実施例1において、濾過層の坪量を表1に示す値とした。これ以外は実施例1と同様にして濾過材を得た。
【0067】
〔比較例4〕
比較例1において、濾過層の坪量を表1に示す値とした。これ以外は実施例1と同様にして濾過材を得た。
【0068】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた濾過材について、上述の方法でモアレ周期W及び全光線透過率を測定した。また、以下の方法で微粒子捕集率、通気抵抗並びにモアレ及び透明性についての官能評価を行った。それらの結果を以下の表1に示す。
【0069】
〔微粒子捕集率〕
ポンプ等を用いて濾過材に一定量の空気を通過させ、濾過材通過前の微粒子数N
1、及び濾過材通過後の微粒子数N
2をレーザー光散乱によって測定し、濾過材通過前後の微粒子量変化率N
2/N
1を微粒子捕集率とした。
微粒子捕集率の測定には柴田科学株式会社製のマスクテスター MTS−2を用いた。濾過材を装置にセットし、流量10L/minで10秒間空気を通過させた際の、空気中に含まれる平均直径0.3μmから0.5μmの微粒子捕集率を測定した。
【0070】
〔通気抵抗〕
ポンプ等を用いて濾過材に一定流量Vで空気を通過させた際の、濾過材前後における圧力差ΔPを圧力ゲージにより測定し、通気抵抗R=圧力差ΔP/流量Vより通気抵抗Rを求めた。
通気抵抗の測定にはカトーテック株式会社製の通気度試験機であるKES−F8−AP1を用いた。濾過材を装置にセットし、流量0.04L/sで空気を通過させ、通気抵抗を測定した。
【0071】
〔モアレ及び透明性についての官能評価〕
実施例及び比較例で得られた濾過材について、モアレ及び透明性について官能評価を行った。官能評価は評価者3名により実施した。
濾過材のモアレ現象の発生は以下の条件で評価した。濾過材を黒台紙の上に置き、50cm離れた位置から濾過材の表面に発生するモアレの状態を目視によって観察した。モアレの状態に応じて以下の基準で数値化した。表1には3名の合計点を示す。
5:モアレがほぼ見えない(表面が均一)
4:モアレがあまり見えない
3:モアレが見える
2:大きなモアレが見える
1:非常に大きなモアレが見える
濾過材の透明性は以下の条件で評価した。A4サイズの白台紙の表面全体に渡ってひらがな50音を印字(黒色、MSゴシック、フォントサイズ14)し、その1cm上に濾過材を置き、濾過材から50cm離れた位置から、濾過材を通して白台紙の印字を見る。評価時の周囲の明るさは500から600ルクスとした。印字の見え方に応じて以下の基準で数値化した。表1には3名の合計点を示す。
5:透明性が非常によい(文字が良く見える)
4:透明性がよい
3:透明性がややよい
2:透明性があまりよくない
1:透明性がよくない(文字が見えない)
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた濾過材は、高い微粒子捕集率を維持しつつ、光透過性が高く、モアレ現象の発生が抑制されていることが判る。また通気抵抗が低く抑えられていることが判る。
これに対して比較例1及び2の濾過材は、微粒子捕集率及び透明性は高いものの、モアレ現象が顕在化してしまうものであることが判る。比較例3及び4の濾過材は、モアレ現象の発生がある程度は抑制されているが、光透過性に劣るものであることが判る。