(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、エアークッション工法を説明するための説明図である。このうち、
図1(a)では大型の貯蔵槽(タンク)10を浮上させる様子を示している。かかる貯蔵槽としては、ボルトタンク(フランジタイプ)や溶接タンクを含む。具体的に、まず、貯蔵槽10の下部に貯蔵槽浮上装置100のゴムスカート120を這わせる。ここで、貯蔵槽浮上装置100の送風部(ブロア)130からゴムスカート120に空気を送風すると、
図1(b)の如く、ゴムスカート120が膨張するとともに、貯蔵槽10の底面下方にも空気が挿通し、貯蔵槽10の質量と同等の揚圧力が生じる。こうして、
図1(b)中、白抜き矢印で示すように、水平方向のバランスがとれた状態で、所定の高さ(例えば0.3m)分だけ貯蔵槽10を浮上させることができる。
【0014】
そして、
図1(c)の鳥瞰図で示すように、貯蔵槽10が浮上している状態を維持しつつ、牽引車(フォークリフトまたはブルドーザ)12と浮上安定機構(ウィンチ)14を用いて、
図1(c)中、白抜き矢印で示したようにゴムスカート120ごと貯蔵槽10を水平移動させることができる。
【0015】
(貯蔵槽浮上装置100)
図2は、貯蔵槽浮上装置100の構成を説明するための外観図である。貯蔵槽浮上装置100は、上述したゴムスカート120、送風部130に加え、リング金具材110を含んで構成される。以下、貯蔵槽浮上装置100を構成するリング金具材110、ゴムスカート120、送風部130それぞれの機能を詳述する。
【0016】
(リング金具材110)
図1を用いて説明したように、エアークッション工法では、貯蔵槽10の下部にゴムスカート120を這わせ、ゴムスカート120に空気を送風することで、揚圧力により貯蔵槽10を浮上させている。このとき、ゴムスカート120を貯蔵槽10に密着させ、空気の漏洩を防止しなければならないが、貯蔵槽10の外形によっては、その外周にゴムスカート120を適切に固定できない場合がある。
【0017】
図3は、貯蔵槽10の外形を例示した上面図である。貯蔵槽10の外周は、
図3(a)のように、上方から見たときに1/4円となる板材が高さ方向に延在した複数(ここでは4つ)の側壁(側板)10a、10b、10c、10dで形成される。ただし、分割数は4つに限られない。また、それぞれの側壁10a、10b、10c、10dには、側壁の周方向の端部から径方向外方に突出したフランジ(継手)10eが高さ方向に延在して設けられている。そして、側壁10a、10b、10c、10dそれぞれのフランジ10e同士を、
図3(b)のように締結(連結)することで、側壁10a、10b、10c、10d同士が連結し、筒形状(中空形状)の貯蔵槽10が形成される。
【0018】
このようなフランジタイプの貯蔵槽10では、締結部材により締結されたフランジ10eが貯蔵槽10の径方向外方に突出している(連結された連結部位が径方向外方に突出している)ので、貯蔵槽10の周囲の外平面が連続しないことになる。そうすると、貯蔵槽10にゴムスカート120を固定する際に周方向の段差が生じ、その隙間から空気が漏洩して、必要な揚圧力を得られなくなってしまう。
【0019】
そこで、貯蔵槽10にゴムスカート120を適切に固定すべく、貯蔵槽10の周方向の少なくともフランジ10eに隣接する位置で、フランジ10eより外方に突出した鉛直面を有する複数のリング金具材110を設ける。
【0020】
図4は、貯蔵槽10にリング金具材110を設置した状態を示した説明図である。
図4(a)の上面図では、
図3(b)同様、フランジ10eが外方に突出した貯蔵槽10に対し、
図4(a)中、ハッチングで示すように、フランジ10e以上(ここではフランジ10eと同じ長さ)に外方に突出したリング金具材110を、フランジ10e間に配設する。具体的に、側壁10aのフランジ10e間にリング金具材110aを、側壁10bのフランジ10e間にリング金具材110bを、側壁10cのフランジ10e間にリング金具材110cを、側壁10dのフランジ10e間にリング金具材110dを配設している。
【0021】
ここで、貯蔵槽10は、
図4(b)の側壁10a、10bの斜視図のように形成されているとする。すなわち、側壁10aの端部から外方にフランジ10eが突出しており、さらに、フランジ10eには、水平方向に延長するリブ10fが形成されている。このときフランジ10e同士は、ボルト等の締結部材10gで締結されている。そして、リング金具材110(110a、110b、110c、110d)は、側壁10a、10b、10c、10dそれぞれに対して高さ方向上下に離隔して2つずつ配設される。
【0022】
具体的に、リング金具材110は、フランジ10e以上に径方向外方に突出した水平板110eと、その水平板110eから連続する鉛直面を有する鉛直板110fとの断面L字(アングル)構造となっている。そして、水平板110eに固定された掛止部材110gと水平板110eとで側壁10a、10bのリブ10fを挟み込んで高さ方向の位置決めがなされる。さらに、水平板110eと、掛止部材110gから水平に伸びる板に螺合した締結部材(ボルト)110hとで、リブ10fを高さ方向上下から締め付け、リング金具材110の移動を制限する。
【0023】
また、上下2段のリング金具材110のうち、下方のリング金具材110には、鉛直板110fに、さらに、付設板110iが重畳されている。したがって、付設板110iによってもリング金具材110の外周の鉛直面は確保される。なお、付設板110iは、貯蔵槽10の底板10hと所定の高さ離隔するように配される。また、上方のリング金具材110と下方のリング金具材110との離間距離は、ゴムセグメント122の形状に応じて決定される。
【0024】
ここでは、側壁10aに配置されたリング金具材110aと、側壁10bに配置されたリング金具材110bとがボルト等の締結部材110jで周方向に締結され、
図4(a)のように、リング金具材110a、110b、110c、110d同士が連続して、貯蔵槽10を囲繞することとなる。ここでは、リング金具材110の径方向の長さが、フランジ10eの径方向の長さと等しくなるように形成されているので、リング金具材110の鉛直板110fや付設板110iの鉛直面が周方向に連続し、フランジ10eによる周方向の段差が吸収される。
【0025】
なお、ここでは、リング金具材110の径方向の突出長を等しくし、リング金具材110の鉛直面と側壁10a、10b、10c、10dの外平面とを平行に構成することで、貯蔵槽10の横断面に相似する円周形状を形成しているが、かかる場合に限らず、リング金具材110が、フランジ10eの段差によるゴムスカート120への影響を抑制できれば足り、例えば、フランジ10eに対し周方向に隣接する位置のみフランジ10e以上、外方に突出した鉛直面を有すればよい。
【0026】
このように、追加加工が困難な貯蔵槽10の周囲を、加工可能なリング金具材110で囲繞することで、適切にゴムスカート120を貯蔵槽10に取り付けることが可能となる。また、フランジタイプの貯蔵槽10の周囲にリング金具材110を設けることで、ゴムスカート120を取り付ける高さ位置に連続した鉛直面を形成できるので、貯蔵槽10の全周にゴムスカート120を適切に固定し、必要な揚圧力を得ることができる。
【0027】
(ゴムスカート120)
ゴムスカート120は、弾性部材からなる複数のゴムセグメント122が連設してなる。かかる複数のゴムセグメント122は、それぞれリング金具材110に固定される。そして、任意のゴムセグメント122に送風された空気が隣接するゴムセグメント122に次々に伝達し、最終的に全てのゴムセグメント122に空気が行き渡る。こうして、複数のゴムセグメント122によりゴムスカート120が形成され、揚圧力によって貯蔵槽10が浮上する。
【0028】
図5は、ゴムセグメント122単体の取付状態を示した斜視図であり、
図6は、ゴムセグメント122単体の取付状態を示した正面図および側面図である。
図5および
図6に示すように、ゴムセグメント122は、隣接するゴムセグメント122と接触し、外方端が円弧状に形成された2つの側面部122aと、2つの側面部122aの外方端同士を連続させる外面部122bと、側面部122aの内方端を、貯蔵槽10の鉛直方向に離隔した複数の領域で固定する固定機構122cとを含んで構成される。ただし、2つの側面部122aの内方端同士は離隔しており、その間には空隙が形成されている。
【0029】
本実施形態において、固定機構122cは、上下に離隔した2つのリング金具材110それぞれに対してゴムセグメント122を固定する。具体的に、上方の固定機構122cでは、上方のリング金具材110の鉛直板110fに形成されたネジ溝に外面部122bを狭持してボルト等の締結部材124aで締結し、その上から貯蔵槽10の周方向に延長されたワイヤーロープ124bで拘束する。
【0030】
また、下方の固定機構122cでは、下方のリング金具材110の付設板110iから突出した掛止部材110kに内方端を掛止する。ただし、固定機構122cは、ゴムセグメント122をリング金具材110に固定できさえすれば、どのような手段を用いても構わない。
【0031】
ここで、
図5および
図6では、複数連設されるゴムセグメント122のうち、側壁10aと側壁10bとに跨がって配されるゴムセグメント122の例を挙げているので、側面部122aの内方端の間にはフランジ10eや締結部材110jが存在していることになる。しかし、ゴムセグメント122が膨張すると、側面部122aや外面部122bがリング金具材110と離隔して接触することはないので、側壁10aと側壁10bとに跨がって配されても問題ない。
【0032】
このようにゴムセグメント122は、複数連設した状態でリング金具材110に固定され、ゴムスカート120を形成する。そして、空気圧入によりゴムセグメント122それぞれが膨張し、ゴムスカート120全体で貯蔵槽10を浮上させる。そうすると、
図6に示した地面GLの位置が破線から一点鎖線のように変化する。このとき、固定機構122cで固定されたゴムセグメント122には、空気の膨張により、径方向の圧力が生じる。
【0033】
図7は、ゴムセグメント122にかかる圧力を説明するための説明図である。ゴムセグメント122は、弾性部材で形成されているため、内部の空気圧と弾性力とが釣り合うまで膨張する。ただし、ゴムスカート120は、複数のゴムセグメント122を周方向に連設しているので、全てのゴムセグメント122に空気が圧入されると、揚圧力のみならず、
図7(a)のように、ゴムスカート120が全体として径方向外方に膨らむことになる。
【0034】
そうすると、ゴムスカート120の径方向外方への力により、固定機構122cを通じて、
図7(b)の上面図に示すようにリング金具材110も径方向外方に牽引され、リング金具材110と貯蔵槽10との固定関係が弱まり、貯蔵槽10にゴムスカート120を適切に固定することができなくなってしまう。
【0035】
そこで、本実施形態においては、リング金具材110とフランジ10eとの水平方向の間に空隙を設け、
図7(c)の如く、上下いずれのリング金具材110においても、水平方向に位置するリング金具材110同士を締結部材110jで事前に高い締付トルク(所定値以上の軸力)で締め付けておくことで、予め貯蔵槽10の内方への締め付け力を与えておく。かかる貯蔵槽10の内方への締め付け力は、ゴムセグメント122が空気圧入により貯蔵槽10の外方に膨張する力以上(例えば、その1.5倍の力)であればよい。
【0036】
こうして、
図7(c)に白抜き矢印で示したように、貯蔵槽10の径方向内方に向かう力を先行して発生させることができる。したがって、貯蔵槽10の浮上の際、ゴムスカート120を通じて径方向外方に膨らむ力と、予め生じさせておいた径方向内方へ向かう力とが釣り合うことで、リング金具材110と貯蔵槽10との固定関係を保持し、必要な揚圧力を得ることが可能となる。
【0037】
(送風部130)
送風部130は、エアダクトを通じて任意のゴムセグメント122に空気を送風する。任意のゴムセグメント122に送風された空気が隣接するゴムセグメント122に次々に伝達し、最終的に全てのゴムセグメント122、すなわち、ゴムスカート120全体に空気が行き渡る。そして、空気の揚圧力が貯蔵槽10の重量以上となると、貯蔵槽10が浮上する。
【0038】
ところで、
図5および
図6を用いて説明したように、ゴムセグメント122は、側面部122a、外面部122b、固定機構122cを含んで構成される。そして、側面部122aの内方端に囲まれた領域が開口されており、かかる領域を通じ空気を導入して膨張するとともに、隣接するゴムセグメント122に空気を送出している。
【0039】
図8は、ゴムセグメント122の空気の流れを説明するための比較図であり、
図9は、本実施形態のゴムセグメント122を説明した説明図である。ここでは、仮に、
図8(a)に示すように、側面部122aの特に上下の固定機構122cの間の内方端が、ゴムセグメント122が取り付けられた状態で貯蔵槽10に接触しているとする。複数のゴムセグメント122全てに空気が行き渡り、貯蔵槽10が浮上した後は、
図8(a)のように、側面部122aの内方端に囲まれた領域のうち、下方の固定機構122cより下の領域126aが開放されるので、その領域を通じて空気が出入りできる。しかし、
図8(b)に示すように、複数のゴムセグメント122全てに空気が行き渡るまでは、貯蔵槽10が浮上していないので、側面部122aの内方端に囲まれた領域のうち、上下の固定機構122cの間の領域126bのみが空気の出入りを担うこととなる。
【0040】
しかし、ゴムセグメント122が、空気の圧入により三次元的な球状の膨張をすることによって、空気を取り込むため内方端が圧迫され、隣接するゴムセグメント122に空気を流通させる通気を十分に確保できない場合がある。そうすると、各ゴムセグメント122に空気が行き渡るまで、すなわち、貯蔵槽10が浮上するまで時間を要すこととなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、
図9(a)にハッチングで示すように、側面部122aに、側面部122aの内方端と貯蔵槽10とを離隔させる切欠部122dを形成し、隣接するゴムセグメント122間に、領域126bと連続する通気領域を作る。ここでは、切欠部122dにおける固定機構122c間の距離(例えば1m)と、貯蔵槽10と内方端の最大離隔距離(例えば15cm)との比を15/100としている。
【0042】
ただし、かかる場合に限らず、切欠部122dの面積は、側面部122aの面積の3〜15%の範囲内であればよい。これは、面積比が3%未満であると、通気を十分確保できず、15%より大きいと、ゴムセグメント122自体の有効面積が小さくなって効率的に揚圧力を得られないからである。
【0043】
また、隣接するゴムセグメント122同士の内方端をマジックテープ(登録商標)等で結合して、切欠部122d同士を連結させることもできる。かかる構成により、複数のゴムセグメント122全体に空気が行き渡っていない状態においても、隣接するゴムセグメント122同士が確実に連通しているので、空気導入時の空気漏洩を防止するとともに、効率的に空気を伝達することが可能となる。
【0044】
また、ゴムセグメント122の膨張によって生じる、隣接するゴムセグメント122への圧縮力を減少させて、ゴムスカート120を理想的な形状に維持することもできる。
【0045】
本実施形態において、切欠部122dの形状は、楕円の一部、換言すれば、三日月形状とするとよい。こうすることで、側面部122aへの風圧を均等に分散でき、圧損を低減することができる。ただし、切欠部122dの形状は、かかる場合に限らず、多角形の一部等、様々な形状を用いることができる。
【0046】
また、2つの側面部122aの切欠部122dの面積は、空気圧入により気体が流入する方が、気体が流出する方より大きくなるように形成してもよい。かかる構成により、全てのゴムセグメント122に空気が行き渡る時間を短縮することができる。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0048】
例えば、上述した実施形態では、フランジタイプの貯蔵槽10(ボルトタンク)においてフランジ10eが貯蔵槽10の径方向外方に突出している例を挙げて説明したが、かかる場合に限らず、複数の側壁が連結された貯蔵槽において、連結された部位が外方に突出していれば足り、例えば、溶接タイプの貯蔵槽(溶接タンク)において、溶接により連結された部位が径方向外方に突出している場合等にも適用できる。