(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程1において、(メタ)アクリル酸系化合物の使用量が、アルコール成分とカルボン酸成分の合計100モルに対して、2モル以上35モル以下である、請求項1記載の電子写真用トナーの製造方法。
工程2の重合性単量体組成物における、工程1で得られたポリエステル樹脂の量が、スチレンアクリル樹脂の原料モノマー100質量部に対して、2質量部以上30質量部以下である、請求項1又は2記載の電子写真用トナーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、
工程1:アルコール成分とカルボン酸成分とを含むポリエステル樹脂の原料モノマーと(メタ)アクリル酸系化合物とを、所定の温度で所定時間重縮合して、低酸価のポリエステル樹脂を得る工程、並びに
工程2:スチレンアクリル樹脂の原料モノマーに、工程1で得られたポリエステル樹脂、着色剤及び離型剤を溶解させた重合性単量体組成物を水系媒体中で懸濁重合する工程
を含む方法により、電子写真用トナーを製造する方法である。
また、本発明は、工程1と工程2を含む方法により得られる電子写真用トナーである。
【0010】
本発明の方法により得られるトナーが、低温定着性、トナーの発色性、及びトナーの飛散抑制に優れる理由は定かではないが、次のように推察される。
通常、ポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂は非相溶であり、ポリエステル樹脂をスチレンアクリル樹脂に微細に分散させるのは困難であるが、末端に不飽和結合を有するポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂の原料モノマーは相溶するため、予め、(メタ)アクリル酸系化合物を用いて末端に不飽和結合を有するポリエステル樹脂を製造し(工程1)、このポリエステル樹脂をスチレンアクリル樹脂の原料モノマーに溶解させた状態で、原料モノマーを重合させることによって(工程2)、ポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂が不飽和結合を介して結合し、スチレンアクリル樹脂中にポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂とが重合した樹脂が均一に分散したトナーが得られる。これにより、定着時、定着性に優れたポリエステル樹脂とともに、スチレンアクリル樹脂も溶解し、低温定着性が向上する。
また、着色剤はポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂とが重合した樹脂とのなじみがよいため、ポリエステル樹脂とともに着色剤も均一に分散し、発色性が向上する。
さらに、離型剤を、ポリエステル樹脂とともに、スチレンアクリル樹脂へ溶解させてトナー粒子を形成する場合、離型剤は、トナー表面に移行しやすい。そして、離型剤がトナー表面に存在すると、離型剤と樹脂の界面で割れやすく、トナー飛散の原因となる。しかしながら、本発明では、ポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂が不飽和結合を介して結合するため、ポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂が固定化され、離型剤のトナー表面への移行が阻害され、トナー飛散が抑制される。
【0011】
工程1は、アルコール成分とカルボン酸成分とを含むポリエステル樹脂の原料モノマーと(メタ)アクリル酸系化合物とを、180℃以上250℃以下で1時間以上重縮合して、酸価が5.0mgKOH/g以下のポリエステル樹脂を得る工程である。
【0012】
ポリエステル樹脂の原料モノマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、2価以上のアルコールを含有するアルコール成分や、2価以上のカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分が挙げられる。
【0013】
2価以上のアルコールとしては、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール等が挙げられ、低温定着性及び保存安定性の観点から、脂肪族ジオールを含むことが好ましい。
【0014】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール等が挙げられ、α,ω−脂肪族ジオールが好ましい。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0015】
脂肪族ジオールの炭素数は、保存安定性及びトナー飛散抑制の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは9以上であり、そして、低温定着性及びトナー飛散抑制の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。
【0016】
ポリエステル樹脂の原料モノマーに含まれるアルコール成分中の、脂肪族ジオールの含有量は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
ポリエステル樹脂の原料モノマーに含まれるアルコール成分中の、炭素数6以上の脂肪族ジオールの含有量は、低温定着性と耐熱保存性の両立に優れる観点から、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0017】
芳香族ジオールとしては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物としては、式(I):
【0019】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上、好ましくは1.5以上であり、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である)
で表される化合物が好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂の原料モノマーに含まれるアルコール成分中の、芳香族ジオールの含有量は、低温定着性と保存性の両立の観点から、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0021】
一方、2価以上のカルボン酸系化合物としては、トナーの耐熱保存性に優れる観点から、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物;脂肪族ジカルボン酸系化合物;1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸系化合物等が挙げられ、低温定着性及び保存安定性の観点から、脂肪族ジカルボン酸系化合物を含むことが好ましい。
【0022】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、例えば、コハク酸(炭素数:4)、フマル酸(炭素数:4)、グルタル酸(炭素数:5)、アジピン酸(炭素数:6)、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン2酸(炭素数:12)、テトラデカン2酸(炭素数:14)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸、これらの酸の無水物、それらの炭素数1〜3のアルキルエステル等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸系化合物における鎖状炭化水素基は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、飽和炭化水素基であることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、流動性の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上であり、そして、低温定着性及びトナー飛散抑制の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。なお、本発明において、カルボン酸系化合物には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、又は炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。ただし、アルキルエステル部のアルキル基の炭素数は、脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数には含めない。
【0024】
ポリエステル樹脂の原料モノマーに含まれるカルボン酸成分中の、脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
ポリエステル樹脂の原料モノマーに含まれるカルボン酸成分中の、炭素数6以上の脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、トナーの耐熱保存性に優れる観点から、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0025】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、分子量調整等の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0026】
また、工程1に供するポリエステル樹脂の原料モノマーにおいて、カルボン酸成分とアルコール成分との当量比(COOH基/OH基)は、保存安定性の観点から、等量に近いことが好ましく、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。
【0027】
(メタ)アクリル酸系化合物としては、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれた1種又は2種以上が挙げられるが、低温定着性及びトナーの発色性と飛散抑制の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。アルキルエステルのアルキル基のアルコール成分がエステル交換反応により、ポリエステル樹脂のカルボン酸末端と反応して、重縮合物同士の架橋反応を抑制することができると考えられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数は、反応性が高く、系外に揮発され難いため、低温定着性及びトナーの発色性と飛散抑制の効果が高い観点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、そして、発色性の観点から、好ましくは22以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは16以下、さらに好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは6以下である。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、低温定着性及びトナーの発色性と飛散抑制の効果が高い観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは4以上であり、そして、発色性の観点から、好ましくは18以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下、さらに好ましくは2以下である。
【0029】
工程1における(メタ)アクリル酸系化合物の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の合計100モルに対して、ポリエステル樹脂に導入する不飽和結合量を考慮して、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上、さらに好ましくは4モル以上、さらに好ましくは7モル以上、さらに好ましくは10モル以上であり、そして、ポリエステル樹脂の主鎖の長さを保ち、保存安定性を向上する観点から、好ましくは35モル以下、より好ましくは30モル以下、さらに好ましくは27モル以下、さらに好ましくは25モル以下、さらに好ましくは15モル以下である。
【0030】
工程1における重縮合反応の温度は、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を促進する観点から、180℃以上、好ましくは185℃以上、より好ましくは190℃以上であり、そして、原料モノマーの変性を抑制する観点から、250℃以下、好ましくは240℃以下、より好ましくは235℃以下である。
【0031】
重縮合反応の圧力は、常圧であってもよいが、反応性の観点から、減圧が好ましい。減圧とは、常圧(101.3kPa)未満の圧力であり、好ましくは80kPa以下、より好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは20kPa以下であり、そして、好ましくは1kPa以上、より好ましくは3kPa以上、さらに好ましくは5kPa以上である。
【0032】
反応時間は、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を進行させる観点から、1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上であり、そして、好ましくは40時間以下、より好ましくは35時間以下、さらに好ましくは30時間以下、さらに好ましくは25時間以下である。
【0033】
工程1における重縮合反応は、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒等の存在下で行ってもよい。
【0034】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。
【0035】
エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0036】
工程1で得られるポリエステル樹脂の酸価は、ポリエステル樹脂部分とスチレンアクリル樹脂が均一に分散したトナーを得るために、5.0mgKOH/g以下、好ましくは4.0mgKOH/g以下、より好ましくは3.0mgKOH/g以下である。
【0037】
また、工程1で得られるポリエステル樹脂の酸価と水酸基価の和は、ポリエステル樹脂の末端を不飽和結合で封止するために、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下、さらに好ましくは15mgKOH/g以下、さらに好ましくは10mgKOH/g以下である。
【0038】
ポリエステル樹脂の軟化点は、低温定着性及び耐熱保存性に優れる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0039】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、耐熱保存性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは4,000以上、さらに好ましくは5,000以上であり、そして、ポリエステル樹脂の製造上の観点から、好ましくは15,000以下、より好ましくは12,000以下、さらに好ましくは10,000以下である。
【0040】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、耐熱保存性の観点から、好ましくは8,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上であり、そして、懸濁粒子の製造上の観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは30,000以下である。
【0041】
工程2は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーに、少なくとも工程1で得られたポリエステル樹脂、着色剤及び離型剤を溶解させた重合性単量体組成物を水系媒体中で懸濁重合する工程である。
工程2により、系内には次の2種類の樹脂、即ち、トナー母体樹脂のスチレンアクリル樹脂と、トナー母体樹脂のスチレンアクリル樹脂とポリエステルの不飽和結合とが重合した樹脂が存在している。前者のスチレンアクリル樹脂も、後者のスチレンアクリル樹脂の部位も、同一の条件(同一温度・同一の開始剤・同一の時間)で重合されているため、分子量分布が非常に近いものができる。このため、トナー中のポリエステル樹脂の分散性が非常に優れている。これに対し、本発明と同程度のスチレンアクリル樹脂と結合したポリエステル樹脂を、工程2で添加すると、重合前の段階では、本発明よりポリエステル樹脂の分子量が高いために、系内の粘度が高くなり、懸濁時にせん断力で十分に均一な粒子を作製することが困難になる。
【0042】
スチレンアクリル樹脂の原料モノマーとしては、少なくとも、スチレン化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを意味する。
【0043】
スチレン化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体等が挙げられ、スチレンが好ましい。
【0044】
スチレン化合物、好ましくはスチレンの含有量は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマー中、低温定着性及び発色性の観点から、好ましくは55質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0045】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。ここで、「(イソ又はターシャリー)」、「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの双方の場合を含むことを示す。
【0046】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数は、ポリエステル樹脂製造中の蒸発を抑制する観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上であり、そして、耐熱保存性の観点から、好ましくは22以下、より好ましくは15以下である。なお、該アルキルエステルの炭素数は、エステルを構成するアルコール成分由来の炭素数をいう。
【0047】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマー中、低温定着性及び発色性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0048】
スチレンアクリル樹脂の原料モノマーには、スチレン化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の原料モノマー、例えば、ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン化合物;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸エステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物類等が含まれていてもよい。
【0049】
重合性単量体組成物において、工程1で得られたポリエステル樹脂の含有量は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマー100質量部に対して、低温定着性の観点から、好ましくは2質量部以上、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは7質量部以上であり、そして、保存安定性、発色性、及びトナー飛散抑制の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0050】
工程2において、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーに、工程1で得られたポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂とともに、公知の結着樹脂又はその原料モノマーを溶解させてもよい。即ち、本発明の方法により得られるトナーには、結着樹脂として、本発明の効果を損なわない範囲で、工程1で得られたポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂以外の公知のトナー用結着樹脂又はその原料モノマー、例えば、他のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂又はその原料モノマーが併用されていてもよいが、工程1で得られたポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂又はその原料モノマーの総含有量は、結着樹脂中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0051】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0052】
着色剤の含有量は、トナーの発色性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0053】
離型剤としては、低温定着性の観点から、炭化水素系ワックス及びエステル系ワックスからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、トナー飛散抑制の観点から、炭化水素系ワックスが好ましい。
【0054】
炭化水素系ワックスとしては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス;マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス又はそれらの酸化物等が挙げられ、これらの中では、パラフィンワックスが好ましい。
【0055】
エステル系ワックスとしては、カルナウバワックス、モンタンワックス、それらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等が挙げられる。
【0056】
他の離型剤としては、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0057】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0058】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上であり、そして、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。
【0059】
また、重合性単量体組成物には、荷電制御剤、磁性粉、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤等の添加剤が含有されていてもよく、離型剤及び荷電制御剤が含有されていることが好ましい。
【0060】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0061】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0062】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0063】
重合性単量体組成物は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーに、工程1で得られたポリエステル樹脂、離型剤及び着色剤と、必要に応じて、荷電制御剤等の添加剤を混合し、加熱等により、ポリエステル樹脂を溶解させて調製することが好ましい。連鎖移動剤や可塑剤や油剤を添加してもよい。
【0064】
水系媒体は、水を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上含有するものである。水単独でもよいが、水と混和可能な溶剤を併用することもできる。水と混和可能な溶剤としては、アルコール(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等)、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、セルソルブ(登録商標)類(メチルセルソルブ等)、低級ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)等が挙げられる。
【0065】
水系媒体量は、トナー粒子の粒径制御の観点から、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーの好ましくは3質量倍以上、より好ましくは5質量倍以上であり、そして、生産性の観点から、好ましくは10質量倍以下、より好ましくは8質量倍以下である。
【0066】
重合性単量体組成物を、水系媒体と混合し、撹拌して懸濁液とした後、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーを懸濁重合することが好ましい。
【0067】
重合性単量体組成物と水系媒体の撹拌には、ホモミキサー、高速攪拌機、超音波分散機等の高速分散機を用いることができ、これにより、重合性単量体を水系媒体中に均一に分散させ、容易に懸濁液を調製することができる。
【0068】
重合性単量体組成物と水系媒体の撹拌は、窒素雰囲気下、加熱条件下で行うことが好ましい。
【0069】
スチレンアクリル樹脂の原料モノマーの懸濁重合は、懸濁液中の重合性単量体組成物の粒子が粒子状態を維持し、かつ粒子の浮遊や沈降が生じることがないよう、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0070】
懸濁重合は、分散安定剤の存在下で行うことが好ましく、分散安定剤は、予め水系媒体に添加しておくことが好ましい。分散安定剤としては、トナー粒子の製造性の観点から、リン酸塩又は界面活性剤が好ましく、これらはそれぞれ単独で又は両者を併用して用いることができる。従って、懸濁重合は、リン酸塩及び界面活性剤の存在下で行うことが好ましい。
【0071】
リン酸塩としては、リン酸三カルシウム(第三リン酸カルシウム)、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等が挙げられ、これらの中ではリン酸三カルシウムが好ましい。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。ここで、リン酸三カルシウムの分子式の例としては、Ca
3(PO
4)
2、3[Ca
3(PO
4)
2]・Ca(OH)
2、3Ca
3(PO
4)
2・Ca(OH)
2、Ca
10(PO
4)
6(OH)
2等が挙げられる。
【0072】
リン酸塩の使用量は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマー100質量部に対して、製造安定性の観点から、好ましくは3質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、そして、製造時のコストの観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0073】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0074】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート等が挙げられる。
【0075】
アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩等が挙げられる。
【0076】
水系媒体中の界面活性剤濃度は、トナー粒子の製造性の観点から、好ましくは10
-3M以下、より好ましくは10
-2M以下、さらに好ましくは10
-3M以下であり、そして、好ましくは0M以上である。
【0077】
懸濁重合の温度は、製造性及び発色性の観点から、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは65℃以上であり、そして、トナーの熱物性の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0078】
懸濁重合の時間は、重合反応を終了させる観点から、好ましくは4時間以上、より好ましくは6時間以上であり、そして、微粒子凝集抑制の観点から、好ましくは20時間以下、より好ましくは15時間以下である。
【0079】
懸濁重合は、必要に応じて、重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。
【0080】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤;ベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の過酸化物系重合開始剤等が挙げられ、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーに溶解するものが好ましい。
【0081】
重合開始剤の10時間半減期温度は、製造性及び発色性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
【0082】
重合開始剤の使用量は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0083】
重合開始剤は、重合性単量体組成物を調製する際に他の添加剤とともに混合してもよく、水系媒体中に懸濁させる直前に重合性単量体組成物中に混合してもよい。また、造粒中や造粒完了後、すなわち重合反応を開始する直前に、必要に応じて重合性単量体や他の溶媒に溶解した状態で加えることもできる。重合反応の終了は、スチレンアクリル樹脂の原料モノマーが、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上反応した時点とすることが好ましい。また、反応終了時の残存モノマー量は、生成したスチレンアクリル樹脂に対して、5000ppm(wt/wt)以下であることが好ましい。
【0084】
重合後、常法により、残存モノマーを除去し、撹拌を続けながら室温まで冷却し、洗浄、乾燥することで、トナー粒子が得られる。
【0085】
トナー粒子には、転写性を向上させるために、外添剤と混合する外添処理を行うことが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0086】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0087】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0088】
外添剤の使用量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0089】
本発明の方法により得られるトナーの体積中位粒径(D
50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D
50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0090】
トナーのガラス転移温度は、耐熱保存性の観点から、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは45℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
【0091】
また、本発明の方法により得られるトナーは、トナー飛散を低減する観点から、粒度分布がシャープであり、円形度の高いことが好ましい。かかる観点から、トナーの粒度分布のCV値は、好ましくは40%以下、より好ましくは33%以下であり、また、トナーの円形度は、好ましくは0.980以上、より好ましくは0.985以上である。
【0092】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0094】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0095】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/minで0℃まで冷却しそのまま1分間維持させる。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの頂点の温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0096】
〔樹脂の酸価及び水酸基価〕
JIS K 0070の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0097】
〔樹脂の数平均分子量及び重量平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により数平均分子量及び重量平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに、40℃で溶解させる。次いで、この溶液を孔径0.20μmのPTFEタイプメンブレンフィルター「DISMIC-25JP」(東洋濾紙(株)製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製のA-500(5.0×10
2)、A-1000(1.01×10
3)、A-2500(2.63×10
3)、A-5000(5.97×10
3)、F-1(1.02×10
4)、F-2(1.81×10
4)、F-4(3.97×10
4)、F-10(9.64×10
4)、F-20(1.90×10
5)、F-40(4.27×10
5)、F-80(7.06×10
5)、F-128(1.09×10
6))を標準試料として作成したものを用いる。括弧内は分子量を示す。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー(株)製)
分析カラム:TSKgel GMH
XL+TSKgel G3000H
XL(東ソー(株)製)
【0098】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0099】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0100】
〔トナーの体積中位粒径(D
50)及びCV値〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター(株)製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D
50)を求める。
また、CV値(%)は下記式に従って算出する。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積中位粒径(D
50))×100
【0101】
〔トナーのガラス転移温度〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0102】
〔トナーの円形度〕
トナーの円形度は、以下の条件で測定する。
・測定機:湿式フロー式粒子径・形状分析装置「FPIA-3000」(Malvern Instruments Ltd社製)
・分散液:電解液にポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン109P」(花王(株)製)、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの。
・分散条件:前記分散液5mLに測定試料50mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、蒸留水20mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させた。
【0103】
実施例1〜20及び比較例1〜4
(実施例5、6は参考例である)
〔工程1〕
<樹脂A〜H、J〜P、R>
表1〜3に示すポリエステル樹脂の原料モノマーと(メタ)アクリル酸化合物の全量を、温度計、ステンレス製撹拌棒、冷却管を装備した脱水管、流下式コンデンサー、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、140℃から200℃まで6時間かけて昇温した後、表1〜3に示す2-エチルヘキサン酸錫(II)及び没食子酸を加え、200℃にて1時間保持した。その後、8kPaにて1時間保持することで、ポリエステル樹脂を得た。
【0104】
<樹脂I>
表2に示す、アジピン酸を除くポリエステル樹脂の原料モノマーと(メタ)アクリル酸化合物の全量を、温度計、ステンレス製撹拌棒、冷却管を装備した脱水管、流下式コンデンサー、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、表2に示す2-エチルヘキサン酸錫(II)及び没食子酸を加えた後に、235℃まで昇温し、223℃にて6時間保持した。その後、190℃まで温度を下げ、表2に示すアジピン酸を加えた後、200℃まで昇温し、8kPaにて所望の熱物性になるまで反応を続け、ポリエステル樹脂を得た。
【0105】
<樹脂Q>
表3に示すポリエステル樹脂の原料モノマーと(メタ)アクリル酸化合物の全量を、温度計、ステンレス製撹拌棒、冷却管を装備した脱水管、流下式コンデンサー、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、140℃から200℃まで6時間かけて昇温した後、系内の温度を170℃に下げた後、表3にスチレンアクリル樹脂の原料モノマー及び重合開始剤を1時間かけて全量滴下した。170℃に1時間保持した後、200℃まで昇温し、8kPaにて1時間保持することで、複合樹脂を得た。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
〔工程2〕
<実施例1〜7、10、11、14〜18、比較例2〜4>
300mL容のガラスビーカー中で、表4、5に示す工程1により得られた樹脂10g、スチレン85g、n-ブチルアクリレート15g、着色剤「ピグメントブルー15:3」(大日精化工業(株)製)5g、荷電制御剤「ボントロンE-88」(オリエント化学工業(株)製、サリチル酸アルミニウム)1g、及び離型剤「HNP-9」(日本精蝋(株)製、パラフィンワックス、融点:75℃)15gを、撹拌混合し、60℃に昇温して均一に溶解させた。その後、重合開始剤「V-65」(和光純薬工業(株)製、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))、10時間半減期温度:51℃)4gを添加し、樹脂溶液を調製した。1リットル容のガラスビーカーに、イオン交換水150g、第三リン酸カルシウム(3[Ca
3(PO
4)
2]・Ca(OH)
2)10質量%スラリー「TCP-10・U」(太平化学産業(株)製)500g及びアニオン性界面活性剤「ネオペレックスG-15」(花王(株)製、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.004gを添加し、撹拌して水系媒体(界面活性剤濃度:1.1×10
-5M)を調製した。水系媒体を60℃に加温し、60℃を保ちながら、樹脂溶液を一気に加え、ホモミキサーMARKII 2.5型(プライミクス(株)製)で、12,000r/minにて4分間撹拌し、懸濁液を得た。
【0110】
懸濁液をセパラブルフラスコに移し、70℃、200r/minで撹拌しながら7時間重合した。その後、80℃に昇温し、減圧下で残存モノマーを留去した。撹拌を続けながら20℃まで冷却し、系内のpHが1以下になるまで塩酸を入れた。洗浄、乾燥を経て体積中位粒径(D
50)8.0μmの粒子を得た。
【0111】
〔外添工程〕
前記粒子100質量部に、外添剤として疎水性シリカ「アエロジル R-972」(日本アエロジル(株)製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、トナーを得た。
【0112】
<実施例8、9>
懸濁液をセパラブルフラスコに移した後の重合温度(実施例1では70℃)を、実施例8では65℃、実施例9では75℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0113】
<実施例12、13>
離型剤として、「HNP-9」の代わりに、実施例12では「WEP-8」(日油(株)製、エステルワックス、融点:75℃)15g、実施例13では「HNP-1」(日本精蝋(株)製、パラフィンワックス、融点:64℃)15gを使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0114】
<実施例19、20>
工程1により得られた樹脂(樹脂A)の使用量(実施例1では10g)を、実施例19では5g、実施例20では30gに変更した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0115】
<比較例1>
実施例1と同様にトナーの製造を試みたが、工程2において、懸濁液をセパラブルフラスコに移し、70℃、200r/minで撹拌しながら7時間重合後、80℃に昇温し、減圧下で残存モノマーを留去し、撹拌を続けながら20℃まで冷却した際に、系内に数cmの塊が多数でき、トナー化できなかった。
【0116】
<比較例4>
実施例1と同様にトナーの製造を試みたが、7時間重合後、液面に一部粒子が浮いてきて二相分離してしまったため、トナー化できなかった。
【0117】
試験例1〔保存安定性〕
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、上から100gの重りをのせ、50℃及び相対湿度60%の環境で72時間保持した。
パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上にトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。
篩いA上に残存したトナー質量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー質量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー質量WC(g)を、それぞれ測定し、式:
α=100−(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
に従って算出される値(α)をもとに、保存安定性を評価した。結果を表4、5に示す。値(α)が100に近いほど、保存安定性に優れ、値(α)は、55以上が好ましく、70以上がより好ましく、85以上がさらに好ましい。
【0118】
試験例2〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した。この装置にトナーを実装し、シャープ(株)製の紙[CopyBond SF-70NA(75g/m
2)]上に、トナー付着量が0.5mg/cm
2となるように未定着の状態で印刷物を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度200mm/sec)を用い、定着ローラーの温度を90℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で前記未定着状態の印刷物の定着試験を行った。
500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機を通して定着された画像を5往復こすり、こする前後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(こすり後/こすり前)が最初に70%を超える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。結果を表4、5に示す。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れ、最低定着温度は、165℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましい。
【0119】
試験例3〔発色性〕
粉末測定容器(直径2.5cm、高さ5cm)にトナー3.0gを入れ、容器にキャップし、平らな机上に約5mmの高さから10回落下させ、表面を平滑にした後、測定容器を試料台にセットし、色差計(SZ-Σ80、日本電色(株)相当品)でL値を測定した。結果を表4、5に示す。L値が低い方が、色が濃く、発色性に優れ、L値は、42以下が好ましく、39以下がより好ましく、37以下がさらに好ましい。
【0120】
試験例4〔トナーの飛散抑制〕
非磁性一成分現像方式のプリンター「MICROLINE 5400」((株)沖データ製)のイメージドラムユニット(ID-C4BC)を、内部のトナーを洗浄、感光体を外した後、トナー30gを封入、現像機のみを外部治具にて200r/minにて、1時間駆動を行った、駆動後、現像器の下部に設置したトレーに蓄積したトナー(飛散トナー)を回収し、その量(飛散量)を計測した。結果を表4、5に示す。飛散量が少ないほど、飛散抑制に優れ、200mg以下が好ましく、50mg以下がより好ましい。
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
以上の結果より、実施例1〜20のトナーは、保存安定性を維持しつつ、トナーの低温定着性、発色性、及び飛散抑制に優れることが分かる。
これに対し、工程1で得られたポリエステル樹脂の酸価が高い比較例1では、粒度分布を狭くすることができず、均一なトナー粒子が得られていない。
また、工程1で(メタ)アクリル酸系化合物を使用していない比較例2のトナーは、ポリエステル樹脂にスチレンアクリル樹脂との反応部位がなく、スチレンアクリル系樹脂の原料モノマー中での分散性が良好な状態で維持されず、トナー中のポリエステルの分散性の悪化が生じ、特に、定着性及び発色性が悪化し、トナー飛散の発生も顕著である。
また、工程1でポリエステル樹脂にスチレンアクリル樹脂を複合化した複合樹脂を得た比較例3のトナーは、トナー飛散が顕著である。これは、実施例のように、工程1で予めポリエステル樹脂を得た後、工程2の懸濁重合下で、ポリエステル樹脂がスチレンアクリル樹脂と複合化されたものに対し、複合樹脂中のスチレンアクリル樹脂部分が短いためと推定される。
さらに、比較例4のように、(メタ)アクリル酸系化合物の代わりに、ポリエステル樹脂の原料モノマーの一部に不飽和結合を有する脂肪族の原料モノマーを使用すると、ポリエステル樹脂の分子鎖中に多数の不飽和結合が導入される。分子鎖中に多数の不飽和結合を有するポリエステル樹脂は、工程2の懸濁重合時に架橋剤のように作用するため、比較例4のように二相分離化等が生じ、トナーの製造性が悪化する。