特許第6571544号(P6571544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571544
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】核酸の単離
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   C12N15/10 110Z
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-5930(P2016-5930)
(22)【出願日】2016年1月15日
(62)【分割の表示】特願2011-521638(P2011-521638)の分割
【原出願日】2009年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-82980(P2016-82980A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年2月12日
【審判番号】不服2017-17901(P2017-17901/J1)
【審判請求日】2017年12月1日
(31)【優先権主張番号】0814570.8
(32)【優先日】2008年8月8日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】チュア,イー レン
(72)【発明者】
【氏名】リッチー,アリソン ビクトリア
【合議体】
【審判長】 長井 啓子
【審判官】 常見 優
【審判官】 小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−502856(JP,A)
【文献】 特表2007−509620(JP,A)
【文献】 特開2007−244375(JP,A)
【文献】 特表2008−525043(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/068437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を単離する方法であって、以下:
(i) 結合緩衝剤の存在下、第一のpHで、核酸を固相に結合させる工程、ここで当該第一のpHは酸性である
(ii) 結合した核酸を洗浄溶液で洗浄する工程;及び
(iii) 前記第一のpHよりも高い第二のpHで、核酸を固相から溶出させる工程;
を含み、前記洗浄溶液が、前記第一のpHよりも高いpHを包含する緩衝範囲(buffering range)を有する緩衝剤を含み、且つ前記洗浄溶液のpHが、前記結合緩衝剤の緩衝範囲内であるが、前記洗浄溶液の緩衝剤の緩衝範囲よりも低く;前記洗浄溶液のpHがpH6.0以下であり、前記核酸の固相からの溶出が常温を上回る温度で実施され、前記方法が、カオトロピック剤及び有機溶媒の非存在下で実施される、前記方法。
【請求項2】
前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲が、第一のpHよりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第二のpHが、洗浄緩衝剤の緩衝範囲内である、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲がpH5.0よりも高い、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一のpHが、pH3〜6又はpH3〜5の範囲内である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第二のpHが、pH6.5〜10、好ましくはpH7〜9である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記洗浄溶液のpHがpH3.0〜6.0である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第一のpHが結合緩衝剤の緩衝範囲内である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記結合緩衝剤の緩衝範囲の下端がpH3.0以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
固相への核酸の結合が、コスモトロピック剤の存在下で実施される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記コスモトロピック剤が硫酸アンモニウムである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記固相が、第一のpHと第二のpHの間のpKaを有する陰イオン化基(negatively ionisable group)を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記固相が無機酸化物、好ましくはシリカを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
細胞から核酸を単離する方法であって、細胞を溶解して細胞から核酸を放出させる工程、及び放出された核酸を請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法を使用して単離する工程を含む、前記方法。
【請求項15】
前記溶解が結合緩衝剤を使用して行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記結合緩衝剤がコスモトロピック剤を含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
溶出緩衝剤の存在下で前記核酸が固相から溶出され、第二のpHが溶出緩衝剤の緩衝範囲内である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記溶出緩衝剤の緩衝範囲が、前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲と重複し、又はこれに包含される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸が、50〜90℃、60〜85℃、又は70〜80℃の温度で固相から溶出される、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を単離するための改善された方法、並びに当該方法に使用される溶液、組成物及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
既存の核酸を単離する方法は、カオトロピック剤、例えばグアニジウムチオシアネート、及び細胞を溶解(lysis)するための有機溶媒、及び分解タンパク質(ヌクレアーゼ等、その他核酸を分解するタンパク質)を使用する。例えば、Boom et al. (Journal of Clinical Microbiology, 1990, Vol. 28(3): 495−503)は、ヒトの血清又は尿を含有する試料を、グアニジウムチオシアネートを含有する溶解/結合緩衝剤の存在下で、シリカ粒子と接触させて行われる方法を記載する。放出された核酸は、シリカ粒子と結合し、それを、グアニジウムチオシアネートを含有する洗浄緩衝剤で、続いてエタノールで、続いてアセトンで洗浄する。結合した核酸は、続いて、水性低塩濃度緩衝剤(Tris−HCl、EDTA、pH8.0)中で溶出される。
【0003】
しかしながら、そのような方法は、カオトロピック剤及び有機溶媒が酵素反応に対し高度に阻害的であるという短所を有する。溶出した試料中にキャリーオーバーされるこれらの物質の残存量は、単離された核酸のその後の酵素的プロセス、例えばシークエンシング又は増幅等に、干渉する可能性がある。カオトロピック剤及び有機溶媒は、これらの試薬が、毒性で、取り扱いが困難で、及び処分に特別な規定がある点においても望ましくない。カオトロピック剤の使用の更なる短所は、それらが高いモル濃度を要するため、保存中に溶液内に沈殿が生じる場合があることである。これらの薬剤を含有する溶液は、使用前に加熱することにより、カオトロピック剤を再溶解させることが必要な場合もある。
【0004】
カオトロピック塩及び有機溶媒の必要性は、Hourfar et al, (Clinical Chemistry, 2005, 51 (7): 1217−1222)が記載した方法において、回避されている。コスモトロピック塩(硫酸アンモニウム)を含有する溶解/結合緩衝剤の存在下、血漿試料を磁気シリカ粒子と混合し、その後プロテイナーゼKを添加する。磁気粒子を分離した後、プロテイナーゼKを含有する洗浄緩衝剤で洗浄し、そして80℃で溶出緩衝剤(Tris−HCl、pH8.5)を用いて溶出する。そのような方法を使用して妥当な量の核酸を取得することは可能であるが、なおも核酸の収量の増大が要求されている。また、プロテイナーゼK等の酵素を何ら必要とせずに実施できる方法の提供も要求されている。酵素を使用する場合、前記方法を実施するコストが増大し、また、安定性を維持するために、別個の特別な条件(例えば、低温又は凍結乾燥形態等)下で酵素を保存することが必要となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明において、核酸を単離する方法であって、以下:
(i) 結合緩衝剤の存在下、第一のpHで、核酸を固相に結合させる工程;
(ii) 結合した核酸を洗浄溶液で洗浄する工程;及び
(iii) 前記第一のpHよりも高い第二のpHで、核酸を固相から溶出させる工程;を含み、前記洗浄溶液が、前記第一のpHよりも高いpHを包含する緩衝範囲(buffering range)を有する緩衝剤を含み、且つ前記洗浄溶液のpHが、前記結合緩衝剤の緩衝範囲内であるが、前記洗浄溶液の緩衝剤(即ち洗浄緩衝剤)の緩衝範囲よりも低い、前記方法が提供される。
【0006】
出願人は、本発明の方法が、Hourfar et alにより記載された方法等の従来の方法と比較して、核酸の収量の驚異的な増大をもたらすことを見出した。本発明の方法の使用による収量の改善は、従来技術と比較した場合の、洗浄工程で固相から除去される核酸の量の減少、及び/又は溶出工程で固相から放出される核酸の量の増大によるものと考えられる。
【0007】
核酸の収量の改善は、洗浄溶液中の酵素(プロテアーゼ等)の存在、又は有機溶媒若しくはカオトロピック剤の使用を必要とせずに、本発明の方法を使用して達成され得る。故に、洗浄溶液は、例えばHourfar et alの方法で必要な洗浄溶液と比較して単純化され、プロテアーゼ又は他の酵素を別個に保管する必要が無い。カオトロピック剤又は有機溶媒を必要としないので、そのような薬剤又は溶媒が単離された核酸のその後の酵素処理を阻害するのを回避できる。
【0008】
好ましくは、前記第一のpHは酸性のpHであって、好ましくはpH3〜6、又はpH3〜5の範囲内である。好ましくは、前記第二のpHは、pH6.5以上であり、好ましくはpH7.0以上であり、又はアルカリ性のpHである。適切には、前記第二のpHは、pH6.5〜10、好ましくはpH7〜9の範囲内である。そのようなpH値は、低いpHで核酸を結合させ、そして高いpHで核酸を放出することが可能なシリカベースの固相等の固相で典型的に使用されるものである。核酸にダメージを与えかねない極端なpHは避けられる。
【0009】
好ましくは、前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲は、前記第一のpHよりも高い(即ち洗浄緩衝剤の緩衝範囲の下端が前記第一のpHよりも高い)。好ましくは、当該洗浄緩衝剤の緩衝範囲は、pH5.0よりも高い。好ましくは、前記第二のpHは、前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲内である。このことは、洗浄工程後に固相上に存在する残留洗浄溶液のpHが、溶出工程の間に最も効率的に第二のpHに転換されることにより、固相から放出される核酸の量を最大にすると考えられるため、好ましい。
【0010】
好ましくは、前記洗浄溶液のpHは、pH6.3以下、好ましくはpH6.0以下、より好ましくはpH3.0〜pH6.0である。これらの好ましい範囲内のpHの洗浄溶液の使用は、好ましい結合及び洗浄緩衝剤の緩衝範囲に適合する。
【0011】
好ましくは、前記第一のpHは、結合工程のpHが結合緩衝剤により調整されるように、結合緩衝剤の緩衝範囲内である。好ましくは、結合緩衝剤の緩衝範囲の下端は、結合工程における極端なpHを避けるように、pH3.0以上である。
【0012】
溶解、結合、洗浄及び溶出緩衝剤に通常使用される緩衝剤の緩衝範囲は、当業者に知られている。幾つかの重要な生物学的緩衝剤のpKa値及び緩衝範囲を、緩衝範囲により区別して、下記表1に示す(Sigma−Aldrichからの引用)。
【0013】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0014】
本発明の方法は、結合緩衝剤の存在下、第一のpHで核酸を結合させ、及び第二のpHで核酸を溶出させることが出来る固相と共に、公知の結合緩衝剤及び/又は溶出緩衝剤を使用して実施される場合もある。
【0015】
前記固相は、イオン化基を有し、周囲の条件に従って電荷を変化させる。イオン化基のpKaは、固相に核酸が結合し、及び固相から核酸が放出されるのに要求される条件に適合する。一般に、核酸は、pKaより低い、又は概ね等しいpHで、固相と結合し得て、そしてより高いpH(通常はpKaを超える)で固相から放出され得る。第一のpHで核酸と結合し、そして結合した核酸を第一のpHよりも高いpHで溶出する適切な固相は、当業者に周知である。例えば、第一のpHで固相は正の電荷を有し、そして第二のpHで固相の正電荷は小さくなり、中性になり、又は負電荷を有し得る。あるいは、又は加えて、第一のpHにおいて、固相は中性又は負の電荷を有し、そして第二のpHで固相は負電荷又は更なる負電荷を有し得る。そのような電荷の変化により、核酸は、第一のpHで核酸に吸着され、そして第二のpHで核酸から放出される。
【0016】
例えば、固相は、pKaが第一及び第二のpHの間である陰イオン化基を含み得る。核酸は、当該固相が中性又は負電荷が小さいときに固相に結合し、そして、固相が負電荷を有するとき、又は更なる負電荷を有するとき、固相から放出される。
【0017】
あるいは、又は加えて、固相は、pKaが第一及び第二のpHの間である陽イオン化基を含み得る。核酸は、当該固相が正電荷を有するときに固相に結合し、そして、中性又は正電荷が小さいとき、固相から放出される。
【0018】
本発明において使用され得る固相の例として、無機酸化物、例えばシリカ又はガラス(例えばBoom et al又はHourfar et alに記載のもの)、若しくは酸化アルミニウム等、多糖類、電荷切り替え材料(例えばWO 02/48164に記載のもの)等が挙げられる。
【0019】
前記固相は、例えば、膜、ゲル、又は粒子、例えば磁気粒子等の、任意の適切な形態をとる場合がある。シリカ膜又はゲル、及び磁気シリカ粒子は、好ましい例である。シリカ膜は、特に好ましい。これは、磁気シリカ粒子(Hourfar, et al等により使用される)よりも廉価で、磁気シリカ粒子と異なり、冷凍保存を必要としない。
【0020】
核酸と固相との結合はカオトロピック剤の存在により促進され得るが、そのような薬剤の残留は、単離された核酸の酵素処理を阻害し、及び毒性を有する。そのため、本発明の方法は、カオトロピック剤の非存在下で実施されるのが好ましい。
【0021】
好ましくは、前記固相は、核酸との結合がコスモトロピック剤の存在により促進される固相である。好ましくは、核酸と固相との結合は、コスモトロピック剤の存在下で実施される。そのような薬剤は、シリカベースの固相等の固相と核酸との結合を促進するものとして公知である。
【0022】
「カオトロピック」及び「コスモトロピック」剤という用語は、Hofmeister series (Cacace et al., Q Rev Biophys 1997;30:241−77)が起源であって、これらの薬剤を、それらが巨大分子及び水の構造に与える影響に依存して区分するものである。カオトロープは、溶媒の構造を破壊する物質として、そしてコスモとロープは、溶媒の構造を強化する物質として定義され得る。Cacace et al.の図1は、Hofmeister series、及びタンパク質の構造/機能に影響するありふれた有機溶媒を示す。カオトロピック剤は、当業者に知られており、例えばヨウ化ナトリウム、過塩素酸根トリウム、グアニジウムチオシアネート及びグアニジウムハイドロクロライド等が挙げられる。コスモトロピック剤は、当業者に知られており、例えば硫酸アンモニウム及び塩化リチウム等が挙げられる。
【0023】
本発明において、細胞から核酸を単離する方法が提供され、当該方法は、細胞を溶解して核酸を放出させる工程、及び放出された核酸を本発明の方法を使用して単離する工程を含む。
【0024】
溶解は、好ましくは結合緩衝剤を使用して実施される。細胞溶解用に使用され得る結合緩衝剤は、当業者に知られたものである。Boom et alにより使用される溶解緩衝剤は、グアニジウムチオシアネート、pH6.4のTris塩酸、EDTA(pH8に調整)、及びTriton X−100を含有する。しかしながら、溶解緩衝剤は、カオトロピック剤を含有しないのが好ましい。本発明における使用に好ましい溶解/結合緩衝剤は、コスモトロピック剤を含有する。好ましくは、前記緩衝剤は酸性の緩衝剤であり、適切にはpKa(25℃)が3〜5の範囲の強酸性の緩衝剤である。
【0025】
核酸の収量の更なる改善は、常温を上回る温度、例えば50〜90℃、60〜80℃、又は70〜80℃で、固相から核酸を溶出することにより達成され得る。
【0026】
好ましくは、前記核酸は、溶出緩衝剤の存在下で、固相から溶出される。好ましくは、第二のpHは、溶出時のpHが溶出緩衝剤により調整されるように、溶出緩衝剤の緩衝範囲内である。
【0027】
好ましい態様において、前記溶出緩衝剤の緩衝範囲は、前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲と重複し、又はこれに包含される。これは、洗浄工程後の固相上に残留する洗浄溶液のpHが、溶出工程の間に速やかに第二のpHまで上昇するのを助ける。
【0028】
本発明において、更に、本発明の方法における洗浄溶液として使用される溶液が提供される。
【0029】
本発明において、第一のpHで核酸と結合し、第二のより高いpHで核酸を溶出する固相を洗浄する緩衝剤を含有する溶液も提供され、ここで、当該溶液のpHは、pH6.3以下、好ましくはpH6.0以下、より好ましくはpH3.0〜pH6.0であり、当該緩衝剤の緩衝範囲よりも低い。
【0030】
好ましくは、本発明の溶液は、カオトロピック剤を含有しない。好ましくは、当該溶液は、有機溶媒を含有しない。
【0031】
好ましくは、前記緩衝剤の緩衝範囲は、pH5.0よりも高く、好ましくはpH6.0よりも高い。好ましくは、当該緩衝剤の緩衝範囲は、pH6.5〜10の範囲と重複し、これに包含され、又はこれを包含する。幾つかの好ましい態様において、当該緩衝剤の緩衝範囲は、pH7.0よりも高い。
【0032】
好ましくは、本発明の溶液のpHは、pH5.0以下、好ましくはpH3.5〜5である。
【0033】
本発明の洗浄溶液又は溶液のための好ましい緩衝剤の例として、Tris緩衝剤、好ましくはTris−HCl、及び2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝剤が挙げられる。Tris−HCl緩衝剤の緩衝範囲は、pH7.1〜9である。MES緩衝剤の緩衝範囲は、pH5.5〜6.7である。
【0034】
本発明において、更に、液体に溶解されることで本発明の溶液を形成する、乾燥形態の組成物が提供される。当該組成物は、凍結乾燥品であってもよい。そのような組成物は、例えば、本発明の溶液を調製し、それを凍結乾燥して、乾燥形態の組成物を形成すること等により調製される場合がある。
【0035】
好ましい態様において、本発明の洗浄溶液又は溶液は、更に、洗剤を含有する。洗剤は、単離された核酸のその後の処理に干渉し得る阻害因子の除去を助け得る。適切な例として、ドデシル硫酸リチウム(LDS)等のイオン性洗剤、又はNP−40及びTriton−X等の非イオン性洗剤が揚げられる。
【0036】
当然のことながら、洗剤は、本発明の乾燥組成物中には存在しない。乾燥形態の組成物を使用して調製された溶液中に洗剤を含有させる必要があるのであれば、当該組成物が水溶液中に溶解した後に、これを添加し得る。
【0037】
核酸の収量の増大は、本発明の方法を使用することで、洗浄溶液中にプロテアーゼを含有させること無く達成することが出来る。好ましくは、本発明の洗浄溶液又は溶液は、プロテアーゼを含有しない。
【0038】
本発明において、核酸を単離するためのキットが提供され、当該キットは、以下:
(i) 第一のpHで固相に核酸を結合させるための結合緩衝剤;
(ii) 前記第一のpHよりも高いpHを包含する緩衝範囲を有する緩衝剤を含有する洗浄溶液であって、pHが、前記結合緩衝剤の緩衝範囲内であるが、前記洗浄溶液の緩衝剤の緩衝範囲よりも低い、前記洗浄溶液;及び任意で
(iii) 前記第一のpHよりも高い第二のpH値をとる、固相から核酸を溶出するための溶液;
を備える。
【0039】
本発明において、核酸を単離するためのキットが提供され、当該キットは、以下:
(i) 第一のpHで固相に核酸を結合させるための結合緩衝剤;
(ii) 前記第一のpHよりも高いpHを包含する緩衝範囲を有する緩衝剤を含有する洗浄溶液であって、pHが、前記結合緩衝剤の緩衝範囲内であるが、前記洗浄溶液の緩衝剤の緩衝範囲よりも低い、前記洗浄溶液を、液体に溶解されることで形成する、乾燥形態の組成物;及び任意で
(iii) 前記第一のpHよりも高い第二のpH値をとる、固相から核酸を溶出するための溶液を、液体に溶解されることで形成する、乾燥形態の組成物;
を備える。
【0040】
それらのキットは、本発明の方法を実施するのに使用され得る。
【0041】
前記結合緩衝剤は、溶液として、液体に溶解される乾燥形態(例えば凍結乾燥品)として提供されてもよい。
【0042】
前記液体に溶解されることで洗浄溶液を形成する乾燥形態の組成物、及び/又は前記液体に溶解されることで溶出溶液を形成する乾燥形態の組成物は、凍結乾燥品であってもよい。凍結乾燥品は、例えば、洗浄溶液又は溶出溶液を調製し、当該溶液を凍結乾燥して、乾燥形態の組成物を形成することにより、調製されてもよい。
【0043】
本発明の結合緩衝剤、又は組成物を溶解するための溶液は、適切には、水又は水溶液である。
【0044】
本発明のキットの洗浄溶液は、好ましくは、本発明の溶液である。
【0045】
前記洗浄溶液を提供する乾燥形態の組成物は、好ましくは、本発明の組成物である。
【0046】
好ましくは、前記キットは、カオトロピック剤及び有機溶媒のいずれも含有しない。好ましくは、前記キットの結合緩衝剤は、コスモトロピック剤を含有する。適切なコスモトロピック剤の例として、硫酸アンモニウム及び塩化リチウムが挙げられる。硫酸アンモニウムが好ましい。
【0047】
本発明のキットは、更に、核酸が結合できる固相を備える。適切な固相は、上に記載している。好ましい固相は、核酸が当該固相に結合できる第一のpHと、当該固相から核酸が溶出できる第二のpHとの間にpKaを有する、陰イオン化基を有する。好ましくは、当該固相は、無機酸化物であり、好ましくはシリカである。
【0048】
本発明のキットは、更に、結合緩衝剤と一緒に使用されるプロテアーゼを備え得る。好ましくは、当該プロテアーゼは凍結乾燥品であって、結合緩衝剤と別個に備えられる(及びキットの他の構成から隔離される)。
【0049】
本発明のキットは、当該キットの構成を使用して核酸の単離を実施する為の指示を備え得る。
【0050】
更に、本発明のキットは、一旦単離された核酸の精製及び/又は検出に必要な試薬を備える。
【0051】
本発明のキットは、典型的には、当該キットの構成(即ち、結合緩衝剤、洗浄緩衝剤(又は液体に溶解することで洗浄溶液を形成する乾燥形態の組成物)、及び(存在するのであれば)溶出溶液(又は液体に溶解することで溶出溶液を形成する乾燥形態の組成物))が、個別に包装して提供され、又は当該キットが提供される容器の別個の区画中で保存される。
【0052】
出願人は、洗浄工程の過程で、核酸が固相との結合を維持し、洗い流されないようにするために、洗浄緩衝剤が、固相表面に残留する結合緩衝剤と混合したときに、第一のpHに近いpH値に維持されるべきであると考えた。しかしながら、流出工程の過程で、核酸が固相から効率的に放出されるようにするため、残留する洗浄緩衝剤は、流出溶液と混合したときに、第二のpHに変化するべきである。理論に拘束されず、本発明の方法を使用して収量の改善を達成できるのは:(i)洗浄溶液が洗浄工程の過程で固相から顕著な量の核酸を除去せず(洗浄溶液のpHが結合緩衝剤の緩衝範囲内であるため);及び(ii)固相上に残留した洗浄緩衝剤のpHが溶出溶液と混合したときに速やかに第二のpHに変化する(洗浄緩衝剤の緩衝範囲であるため)ためであると考えられる。
【0053】
本発明において、核酸を単離するための、本発明の溶液若しくは組成物の使用、又は本発明のキットの使用も提供される。
【0054】
出願人は、本願の方法により、生体試料から、僅か25コピーの核酸、具体的にはウイルスRNAの抽出が可能なことを見出した。ウイルスの濃度が低い場合、本発明の方法を使用して達成される核酸の収量は、カオトロピック塩及び有機溶媒を使用する典型的な核酸抽出方法の場合と同等であり、そうでない場合も再現可能性は良好である。
【0055】
本発明の方法は、カオトロピック塩及び/又は有機溶媒を使用する公知の幾つかの核酸抽出方法と異なり、無害で、特別な廃棄方法を必要としない緩衝剤製剤を用いて実施され得る。使用される緩衝剤製剤は、安定で、保存の過程で沈殿した構成を再溶解するための使用前の冷蔵又は加熱を必要としない。当該方法は、核酸の単離において、並びに病院及び研究室での試験において使用されてもよく、そして、フィールドでの現場(on−site)核酸試験、及びポイントオブケア(point−of−care)核酸試験において特に重要である。
【0056】
本発明の態様は、例示のみを目的として、以下に付する図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】pH4及びpH5での酸性及びアルカリ性の洗浄緩衝剤を使用して達成される核酸の収量の比較を示す。
【0058】
図2】洗浄緩衝剤のpHに対する残留した溶解緩衝剤の影響、及び溶出緩衝剤のpHに対する残留した洗浄緩衝剤の影響を示す。
【0059】
図3】様々なpH洗浄緩衝剤で達成される核酸の収量の比較(MESを含有する洗浄緩衝剤を使用する)を示す。
【0060】
図4】核酸を単離するQiagenの方法と比較した、本発明の方法を使用して達成されるRNAの回収の結果を示す。
【実施例】
【0061】
実施例1
pH4及びpH5での酸性及びアルカリ性の洗浄緩衝剤を使用して達成される核酸の収量の比較を示す。
HIVウイルスRNAを、水ベースの溶解緩衝剤(pH4.0のTris酢酸含有)を使用して単離し、シリカベースの固相に結合させ、そして、pH4若しくは5の10mM Tris−HCl(緩衝範囲pH7.1〜9)、pH4若しくは5の10mM クエン酸ナトリウム(緩衝範囲pH3.0〜6.2)、又はpH4若しくは5の10mM Tris酢酸(緩衝範囲pH3.6〜5.6)のいずれかの洗浄緩衝剤で洗浄する。pH4及び5の10mM Tris−HClは、本発明の溶液の態様である。
【0062】
固相に結合した洗浄された核酸を、溶出緩衝剤(pH8.5のTris−HClを含有する)で溶出した。当該単離された核酸を、増幅及び検出した。図1は、平均の検出シグナル強度を示し、エラーバーは、平均の標準誤差を示す。
【0063】
図1は、pH4及びpH5の10mM Tris−HClを用いて達成される核酸の収量が、pH4及び5の10mM クエン酸ナトリウム、並びにpH4及び5の10mM Tris酢酸を用いた場合よりも顕著に高かったことを示す。
【0064】
前記の酸性の洗浄緩衝剤は、固相上に残留した緩衝剤が溶出緩衝剤のpHを低下させることにより、核酸の溶出の効率を下げ、収量を低下させたために、pH4又は5の10mM Tris−HClほど効果的ではなかったと考えられる。
【0065】
実施例2
洗浄緩衝剤のpHに対する残留した溶解緩衝剤の影響、及び溶出緩衝剤のpHに対する残留した洗浄緩衝剤の影響
残留した溶解緩衝剤と洗浄緩衝剤との間の、及び残留した洗浄緩衝剤と溶出緩衝剤との間の相互作用は、これらの緩衝剤を混合することにより調査された。20μlの溶解緩衝剤(pH4のTris酢酸を含有する)を500μlの洗浄緩衝剤(pH4の10mM Tris−HCl、pH6の10mM Tris−HCl、又はpH4の10mM クエン酸ナトリウム)と混合し、及び、20μlの洗浄緩衝剤(pH4の10mM Tris−HCl、pH6の10mM Tris−HCl、又はpH4の10mM クエン酸ナトリウム)を120μlの溶出緩衝剤(pH8.5のTris−HClを含有する)と混合することにより、様々な緩衝剤の相互作用を記載した。混合物のpHを、pH紙を用いて測定した。結果を、図2に示す。
【0066】
当該結果は、pH4の10mM Tris−HCl及びpH6の10mM Tris−HClが、溶解緩衝剤と混合しても酸性を維持することを示す。pH4のTris−HCl又はpH6のTris−HClを溶出緩衝剤と混合しても、混合物はpH8.5に維持される。しかしながら、10mMのクエン酸ナトリウムを溶出緩衝剤と混合した場合、得られる溶液のpHは酸性である。
【0067】
実施例3
異なるpHの洗浄緩衝剤(MESを含有する洗浄緩衝剤を使用する)で達成される核酸の収量の比較
HIVウイルスRNAを、水ベースの溶解緩衝剤(pH4.0のTris酢酸含有)を使用して単離し、シリカベースの固相に結合させ、そして、pH4.5若しくは6の10mM MES(緩衝範囲pH5.5〜6.7)で洗浄する。核酸を溶出緩衝剤(pH8.5の10mM Tris−HCl)で溶出した。単離された核酸を、増幅及び検出した。図3は、平均の検出シグナル強度を示し、エラーバーは、平均の標準誤差を示す。
【0068】
結果は、pH4及び5(MES緩衝剤の緩衝範囲より低い)では、取得される核酸の量は、pH6(MES緩衝剤の緩衝範囲内)の場合よりも、顕著に多いことを示す。
【0069】
収量の改善は、洗浄緩衝剤の緩衝範囲よりも低い酸性のpHの洗浄緩衝剤を使用することにより達成されると結論付けられる。
【0070】
実施例4
本発明の方法を使用して達成されるRNA回収率の、Qiagenの核酸単離方法との比較
HIV陽性血漿試料から、本発明の方法及びQiagenの方法を使用して、ウイルスRNAを単離した。そして、単離された核酸を増幅及び検出した。
【0071】
本発明の態様の方法は、以下のように実施された:溶解緩衝剤(pH4,5のクエン酸ナトリウム含有する)を、血漿試料と混合し、インキュベーションし、その後プロテイナーゼKを添加した。当該混合物をインキュベーションし、そして、シリカ若しくはグラスファイバーの固相上にロードした。結合した核酸を洗浄緩衝剤(pH3.8のTris−HCl)で洗浄し、そして、75〜80℃で、溶出緩衝剤(pH8.5のTris−HClを含有する)で溶出した。
【0072】
図4は、平均シグナル強度を示し、エラーバーは、平均の標準誤差を示す。本発明の態様に係る方法の結果を黒色の柱で示し、Qiagenの方法の結果を白色の柱で示す。
【0073】
図4に示された結果は、本発明の方法は、僅か25コピーの核酸、具体的にはウイルスRNAを、生体試料から抽出することを可能とすることを示す。ウイルスの濃度が低い場合、本発明の態様に係る方法を使用して達成される核酸の収量は、カオトロピック塩及び有機溶媒を使用する典型的な核酸抽出方法の場合と同等であり、そうでない場合も再現可能性は良好である。
【0074】
使用される緩衝剤製剤は、カオトロピック塩及び/又は有機溶媒を使用する公知の幾つかの核酸抽出方法と異なり、無害で、特別な廃棄方法を必要としない。使用される緩衝剤製剤は、安定で、冷蔵を必要としない。当該方法は、核酸の単離において、並びに病院及び研究室での試験において使用されてもよく、そして、フィールドでの現場(on−site)核酸試験、及びポイントオブケア(point−of−care)核酸試験において特に重要である。
図1
図2
図3
図4