【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明において、核酸を単離する方法であって、以下:
(i) 結合緩衝剤の存在下、第一のpHで、核酸を固相に結合させる工程;
(ii) 結合した核酸を洗浄溶液で洗浄する工程;及び
(iii) 前記第一のpHよりも高い第二のpHで、核酸を固相から溶出させる工程;を含み、前記洗浄溶液が、前記第一のpHよりも高いpHを包含する緩衝範囲(buffering range)を有する緩衝剤を含み、且つ前記洗浄溶液のpHが、前記結合緩衝剤の緩衝範囲内であるが、前記洗浄溶液の緩衝剤(即ち洗浄緩衝剤)の緩衝範囲よりも低い、前記方法が提供される。
【0006】
出願人は、本発明の方法が、Hourfar et alにより記載された方法等の従来の方法と比較して、核酸の収量の驚異的な増大をもたらすことを見出した。本発明の方法の使用による収量の改善は、従来技術と比較した場合の、洗浄工程で固相から除去される核酸の量の減少、及び/又は溶出工程で固相から放出される核酸の量の増大によるものと考えられる。
【0007】
核酸の収量の改善は、洗浄溶液中の酵素(プロテアーゼ等)の存在、又は有機溶媒若しくはカオトロピック剤の使用を必要とせずに、本発明の方法を使用して達成され得る。故に、洗浄溶液は、例えばHourfar et alの方法で必要な洗浄溶液と比較して単純化され、プロテアーゼ又は他の酵素を別個に保管する必要が無い。カオトロピック剤又は有機溶媒を必要としないので、そのような薬剤又は溶媒が単離された核酸のその後の酵素処理を阻害するのを回避できる。
【0008】
好ましくは、前記第一のpHは酸性のpHであって、好ましくはpH3〜6、又はpH3〜5の範囲内である。好ましくは、前記第二のpHは、pH6.5以上であり、好ましくはpH7.0以上であり、又はアルカリ性のpHである。適切には、前記第二のpHは、pH6.5〜10、好ましくはpH7〜9の範囲内である。そのようなpH値は、低いpHで核酸を結合させ、そして高いpHで核酸を放出することが可能なシリカベースの固相等の固相で典型的に使用されるものである。核酸にダメージを与えかねない極端なpHは避けられる。
【0009】
好ましくは、前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲は、前記第一のpHよりも高い(即ち洗浄緩衝剤の緩衝範囲の下端が前記第一のpHよりも高い)。好ましくは、当該洗浄緩衝剤の緩衝範囲は、pH5.0よりも高い。好ましくは、前記第二のpHは、前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲内である。このことは、洗浄工程後に固相上に存在する残留洗浄溶液のpHが、溶出工程の間に最も効率的に第二のpHに転換されることにより、固相から放出される核酸の量を最大にすると考えられるため、好ましい。
【0010】
好ましくは、前記洗浄溶液のpHは、pH6.3以下、好ましくはpH6.0以下、より好ましくはpH3.0〜pH6.0である。これらの好ましい範囲内のpHの洗浄溶液の使用は、好ましい結合及び洗浄緩衝剤の緩衝範囲に適合する。
【0011】
好ましくは、前記第一のpHは、結合工程のpHが結合緩衝剤により調整されるように、結合緩衝剤の緩衝範囲内である。好ましくは、結合緩衝剤の緩衝範囲の下端は、結合工程における極端なpHを避けるように、pH3.0以上である。
【0012】
溶解、結合、洗浄及び溶出緩衝剤に通常使用される緩衝剤の緩衝範囲は、当業者に知られている。幾つかの重要な生物学的緩衝剤のpKa値及び緩衝範囲を、緩衝範囲により区別して、下記表1に示す(Sigma−Aldrichからの引用)。
【0013】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0014】
本発明の方法は、結合緩衝剤の存在下、第一のpHで核酸を結合させ、及び第二のpHで核酸を溶出させることが出来る固相と共に、公知の結合緩衝剤及び/又は溶出緩衝剤を使用して実施される場合もある。
【0015】
前記固相は、イオン化基を有し、周囲の条件に従って電荷を変化させる。イオン化基のpKaは、固相に核酸が結合し、及び固相から核酸が放出されるのに要求される条件に適合する。一般に、核酸は、pKaより低い、又は概ね等しいpHで、固相と結合し得て、そしてより高いpH(通常はpKaを超える)で固相から放出され得る。第一のpHで核酸と結合し、そして結合した核酸を第一のpHよりも高いpHで溶出する適切な固相は、当業者に周知である。例えば、第一のpHで固相は正の電荷を有し、そして第二のpHで固相の正電荷は小さくなり、中性になり、又は負電荷を有し得る。あるいは、又は加えて、第一のpHにおいて、固相は中性又は負の電荷を有し、そして第二のpHで固相は負電荷又は更なる負電荷を有し得る。そのような電荷の変化により、核酸は、第一のpHで核酸に吸着され、そして第二のpHで核酸から放出される。
【0016】
例えば、固相は、pKaが第一及び第二のpHの間である陰イオン化基を含み得る。核酸は、当該固相が中性又は負電荷が小さいときに固相に結合し、そして、固相が負電荷を有するとき、又は更なる負電荷を有するとき、固相から放出される。
【0017】
あるいは、又は加えて、固相は、pKaが第一及び第二のpHの間である陽イオン化基を含み得る。核酸は、当該固相が正電荷を有するときに固相に結合し、そして、中性又は正電荷が小さいとき、固相から放出される。
【0018】
本発明において使用され得る固相の例として、無機酸化物、例えばシリカ又はガラス(例えばBoom et al又はHourfar et alに記載のもの)、若しくは酸化アルミニウム等、多糖類、電荷切り替え材料(例えばWO 02/48164に記載のもの)等が挙げられる。
【0019】
前記固相は、例えば、膜、ゲル、又は粒子、例えば磁気粒子等の、任意の適切な形態をとる場合がある。シリカ膜又はゲル、及び磁気シリカ粒子は、好ましい例である。シリカ膜は、特に好ましい。これは、磁気シリカ粒子(Hourfar, et al等により使用される)よりも廉価で、磁気シリカ粒子と異なり、冷凍保存を必要としない。
【0020】
核酸と固相との結合はカオトロピック剤の存在により促進され得るが、そのような薬剤の残留は、単離された核酸の酵素処理を阻害し、及び毒性を有する。そのため、本発明の方法は、カオトロピック剤の非存在下で実施されるのが好ましい。
【0021】
好ましくは、前記固相は、核酸との結合がコスモトロピック剤の存在により促進される固相である。好ましくは、核酸と固相との結合は、コスモトロピック剤の存在下で実施される。そのような薬剤は、シリカベースの固相等の固相と核酸との結合を促進するものとして公知である。
【0022】
「カオトロピック」及び「コスモトロピック」剤という用語は、Hofmeister series (Cacace et al., Q Rev Biophys 1997;30:241−77)が起源であって、これらの薬剤を、それらが巨大分子及び水の構造に与える影響に依存して区分するものである。カオトロープは、溶媒の構造を破壊する物質として、そしてコスモとロープは、溶媒の構造を強化する物質として定義され得る。Cacace et al.の
図1は、Hofmeister series、及びタンパク質の構造/機能に影響するありふれた有機溶媒を示す。カオトロピック剤は、当業者に知られており、例えばヨウ化ナトリウム、過塩素酸根トリウム、グアニジウムチオシアネート及びグアニジウムハイドロクロライド等が挙げられる。コスモトロピック剤は、当業者に知られており、例えば硫酸アンモニウム及び塩化リチウム等が挙げられる。
【0023】
本発明において、細胞から核酸を単離する方法が提供され、当該方法は、細胞を溶解して核酸を放出させる工程、及び放出された核酸を本発明の方法を使用して単離する工程を含む。
【0024】
溶解は、好ましくは結合緩衝剤を使用して実施される。細胞溶解用に使用され得る結合緩衝剤は、当業者に知られたものである。Boom et alにより使用される溶解緩衝剤は、グアニジウムチオシアネート、pH6.4のTris塩酸、EDTA(pH8に調整)、及びTriton X−100を含有する。しかしながら、溶解緩衝剤は、カオトロピック剤を含有しないのが好ましい。本発明における使用に好ましい溶解/結合緩衝剤は、コスモトロピック剤を含有する。好ましくは、前記緩衝剤は酸性の緩衝剤であり、適切にはpKa(25℃)が3〜5の範囲の強酸性の緩衝剤である。
【0025】
核酸の収量の更なる改善は、常温を上回る温度、例えば50〜90℃、60〜80℃、又は70〜80℃で、固相から核酸を溶出することにより達成され得る。
【0026】
好ましくは、前記核酸は、溶出緩衝剤の存在下で、固相から溶出される。好ましくは、第二のpHは、溶出時のpHが溶出緩衝剤により調整されるように、溶出緩衝剤の緩衝範囲内である。
【0027】
好ましい態様において、前記溶出緩衝剤の緩衝範囲は、前記洗浄緩衝剤の緩衝範囲と重複し、又はこれに包含される。これは、洗浄工程後の固相上に残留する洗浄溶液のpHが、溶出工程の間に速やかに第二のpHまで上昇するのを助ける。
【0028】
本発明において、更に、本発明の方法における洗浄溶液として使用される溶液が提供される。
【0029】
本発明において、第一のpHで核酸と結合し、第二のより高いpHで核酸を溶出する固相を洗浄する緩衝剤を含有する溶液も提供され、ここで、当該溶液のpHは、pH6.3以下、好ましくはpH6.0以下、より好ましくはpH3.0〜pH6.0であり、当該緩衝剤の緩衝範囲よりも低い。
【0030】
好ましくは、本発明の溶液は、カオトロピック剤を含有しない。好ましくは、当該溶液は、有機溶媒を含有しない。
【0031】
好ましくは、前記緩衝剤の緩衝範囲は、pH5.0よりも高く、好ましくはpH6.0よりも高い。好ましくは、当該緩衝剤の緩衝範囲は、pH6.5〜10の範囲と重複し、これに包含され、又はこれを包含する。幾つかの好ましい態様において、当該緩衝剤の緩衝範囲は、pH7.0よりも高い。
【0032】
好ましくは、本発明の溶液のpHは、pH5.0以下、好ましくはpH3.5〜5である。
【0033】
本発明の洗浄溶液又は溶液のための好ましい緩衝剤の例として、Tris緩衝剤、好ましくはTris−HCl、及び2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝剤が挙げられる。Tris−HCl緩衝剤の緩衝範囲は、pH7.1〜9である。MES緩衝剤の緩衝範囲は、pH5.5〜6.7である。
【0034】
本発明において、更に、液体に溶解されることで本発明の溶液を形成する、乾燥形態の組成物が提供される。当該組成物は、凍結乾燥品であってもよい。そのような組成物は、例えば、本発明の溶液を調製し、それを凍結乾燥して、乾燥形態の組成物を形成すること等により調製される場合がある。
【0035】
好ましい態様において、本発明の洗浄溶液又は溶液は、更に、洗剤を含有する。洗剤は、単離された核酸のその後の処理に干渉し得る阻害因子の除去を助け得る。適切な例として、ドデシル硫酸リチウム(LDS)等のイオン性洗剤、又はNP−40及びTriton−X等の非イオン性洗剤が揚げられる。
【0036】
当然のことながら、洗剤は、本発明の乾燥組成物中には存在しない。乾燥形態の組成物を使用して調製された溶液中に洗剤を含有させる必要があるのであれば、当該組成物が水溶液中に溶解した後に、これを添加し得る。
【0037】
核酸の収量の増大は、本発明の方法を使用することで、洗浄溶液中にプロテアーゼを含有させること無く達成することが出来る。好ましくは、本発明の洗浄溶液又は溶液は、プロテアーゼを含有しない。
【0038】
本発明において、核酸を単離するためのキットが提供され、当該キットは、以下:
(i) 第一のpHで固相に核酸を結合させるための結合緩衝剤;
(ii) 前記第一のpHよりも高いpHを包含する緩衝範囲を有する緩衝剤を含有する洗浄溶液であって、pHが、前記結合緩衝剤の緩衝範囲内であるが、前記洗浄溶液の緩衝剤の緩衝範囲よりも低い、前記洗浄溶液;及び任意で
(iii) 前記第一のpHよりも高い第二のpH値をとる、固相から核酸を溶出するための溶液;
を備える。
【0039】
本発明において、核酸を単離するためのキットが提供され、当該キットは、以下:
(i) 第一のpHで固相に核酸を結合させるための結合緩衝剤;
(ii) 前記第一のpHよりも高いpHを包含する緩衝範囲を有する緩衝剤を含有する洗浄溶液であって、pHが、前記結合緩衝剤の緩衝範囲内であるが、前記洗浄溶液の緩衝剤の緩衝範囲よりも低い、前記洗浄溶液を、液体に溶解されることで形成する、乾燥形態の組成物;及び任意で
(iii) 前記第一のpHよりも高い第二のpH値をとる、固相から核酸を溶出するための溶液を、液体に溶解されることで形成する、乾燥形態の組成物;
を備える。
【0040】
それらのキットは、本発明の方法を実施するのに使用され得る。
【0041】
前記結合緩衝剤は、溶液として、液体に溶解される乾燥形態(例えば凍結乾燥品)として提供されてもよい。
【0042】
前記液体に溶解されることで洗浄溶液を形成する乾燥形態の組成物、及び/又は前記液体に溶解されることで溶出溶液を形成する乾燥形態の組成物は、凍結乾燥品であってもよい。凍結乾燥品は、例えば、洗浄溶液又は溶出溶液を調製し、当該溶液を凍結乾燥して、乾燥形態の組成物を形成することにより、調製されてもよい。
【0043】
本発明の結合緩衝剤、又は組成物を溶解するための溶液は、適切には、水又は水溶液である。
【0044】
本発明のキットの洗浄溶液は、好ましくは、本発明の溶液である。
【0045】
前記洗浄溶液を提供する乾燥形態の組成物は、好ましくは、本発明の組成物である。
【0046】
好ましくは、前記キットは、カオトロピック剤及び有機溶媒のいずれも含有しない。好ましくは、前記キットの結合緩衝剤は、コスモトロピック剤を含有する。適切なコスモトロピック剤の例として、硫酸アンモニウム及び塩化リチウムが挙げられる。硫酸アンモニウムが好ましい。
【0047】
本発明のキットは、更に、核酸が結合できる固相を備える。適切な固相は、上に記載している。好ましい固相は、核酸が当該固相に結合できる第一のpHと、当該固相から核酸が溶出できる第二のpHとの間にpKaを有する、陰イオン化基を有する。好ましくは、当該固相は、無機酸化物であり、好ましくはシリカである。
【0048】
本発明のキットは、更に、結合緩衝剤と一緒に使用されるプロテアーゼを備え得る。好ましくは、当該プロテアーゼは凍結乾燥品であって、結合緩衝剤と別個に備えられる(及びキットの他の構成から隔離される)。
【0049】
本発明のキットは、当該キットの構成を使用して核酸の単離を実施する為の指示を備え得る。
【0050】
更に、本発明のキットは、一旦単離された核酸の精製及び/又は検出に必要な試薬を備える。
【0051】
本発明のキットは、典型的には、当該キットの構成(即ち、結合緩衝剤、洗浄緩衝剤(又は液体に溶解することで洗浄溶液を形成する乾燥形態の組成物)、及び(存在するのであれば)溶出溶液(又は液体に溶解することで溶出溶液を形成する乾燥形態の組成物))が、個別に包装して提供され、又は当該キットが提供される容器の別個の区画中で保存される。
【0052】
出願人は、洗浄工程の過程で、核酸が固相との結合を維持し、洗い流されないようにするために、洗浄緩衝剤が、固相表面に残留する結合緩衝剤と混合したときに、第一のpHに近いpH値に維持されるべきであると考えた。しかしながら、流出工程の過程で、核酸が固相から効率的に放出されるようにするため、残留する洗浄緩衝剤は、流出溶液と混合したときに、第二のpHに変化するべきである。理論に拘束されず、本発明の方法を使用して収量の改善を達成できるのは:(i)洗浄溶液が洗浄工程の過程で固相から顕著な量の核酸を除去せず(洗浄溶液のpHが結合緩衝剤の緩衝範囲内であるため);及び(ii)固相上に残留した洗浄緩衝剤のpHが溶出溶液と混合したときに速やかに第二のpHに変化する(洗浄緩衝剤の緩衝範囲であるため)ためであると考えられる。
【0053】
本発明において、核酸を単離するための、本発明の溶液若しくは組成物の使用、又は本発明のキットの使用も提供される。
【0054】
出願人は、本願の方法により、生体試料から、僅か25コピーの核酸、具体的にはウイルスRNAの抽出が可能なことを見出した。ウイルスの濃度が低い場合、本発明の方法を使用して達成される核酸の収量は、カオトロピック塩及び有機溶媒を使用する典型的な核酸抽出方法の場合と同等であり、そうでない場合も再現可能性は良好である。
【0055】
本発明の方法は、カオトロピック塩及び/又は有機溶媒を使用する公知の幾つかの核酸抽出方法と異なり、無害で、特別な廃棄方法を必要としない緩衝剤製剤を用いて実施され得る。使用される緩衝剤製剤は、安定で、保存の過程で沈殿した構成を再溶解するための使用前の冷蔵又は加熱を必要としない。当該方法は、核酸の単離において、並びに病院及び研究室での試験において使用されてもよく、そして、フィールドでの現場(on−site)核酸試験、及びポイントオブケア(point−of−care)核酸試験において特に重要である。
【0056】
本発明の態様は、例示のみを目的として、以下に付する図面を参照して記載される。