特許第6571563号(P6571563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571563
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20190826BHJP
   B01D 46/52 20060101ALI20190826BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20190826BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20190826BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20190826BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   B01D39/16 A
   B01D46/52 A
   B03C3/28
   D04H1/4374
   D04H1/435
   B32B5/26
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-46606(P2016-46606)
(22)【出願日】2016年3月10日
(65)【公開番号】特開2017-159249(P2017-159249A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田辺 邦弘
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−115570(JP,A)
【文献】 特開平9−268490(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/130019(WO,A1)
【文献】 韓国登録特許第10−0954314(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−39/20
B01D 46/52
B03C 3/28
D04H 1/435
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と帯電不織布層とを有するエアフィルタ用濾材であり、該支持体は、延伸ポリエステル繊維と、バインダー繊維として未延伸ポリエステル繊維とガラス転移点が40〜80℃の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有してなることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体と帯電不織布層とを有するエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル、工場、自動車、一般家庭などで使用される空調機や空気清浄機などにエアフィルタは広く使用されている。エアフィルタの形状は、用途や装置の設計などにより、多種多様である。中でも濾材を波状に折り畳んだプリーツ形状は、比較的狭い容積に広い面積の濾材を収納することができ、一般的なフィルタ形状の一つとして知られている。
【0003】
プリーツ形状のフィルタに使用される濾材は、フィルタとしての強度を保ち、かつ高捕集、低圧損化を図るため、異なる密度の複数の層を形成する積層体が多く使用されている。積層体としては、少なくともフィルタとしての強度を保つための支持体と粒子を捕集するための集塵層とを含む積層体が知られている。特に、支持体は、高強度、低圧損であることが要求される。
【0004】
特許文献1や特許文献2では、ガラス繊維シートを骨材(支持体)に用いて、そのガラス繊維シートにメルトブロー不織布やエレクトレット化シートを重ね合わせた複合濾材が提案されている。この複合濾材を用いたフィルタは強度が高く、圧力損失を押さえることが可能となるが、この複合濾材をプリーツ加工する場合、ガラス繊維が折れやすいことから、折れたガラス繊維が飛散し、濾材を傷付けたり、濾材からの毛羽立ちが起こりやすいという問題点がある。
【0005】
特許文献3では、ガラス繊維シートの両面に不織布を設けることで、プリーツ加工時にガラス繊維の飛散や毛羽立ちを防止することが提案されている。しかし、ガラス繊維シートの両面に不織布を設ける必要があるため、圧力損失が上昇しやすくなるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−198108号公報
【特許文献2】特開平6−205915号公報
【特許文献3】特開2002−18216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、プリーツ加工時に濾材を傷付けることなく、濾材が高い強度を持ち、プリーツ加工適性に優れたエアフィルタ用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記発明を見出した。
【0009】
(1)支持体と帯電不織布層とを有するエアフィルタ用濾材であり、該支持体は、延伸ポリエステル繊維と、バインダー繊維として未延伸ポリエステル繊維とガラス転移点が40〜80℃の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有してなることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエアフィルタ用濾材は、支持体と帯電不織布層とを有しており、該支持体は延伸ポリエステル繊維と、バインダー繊維として未延伸ポリエステル繊維とガラス転移点が40〜80℃の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有しているため、濾材の強度が強く、プリーツ加工適性に優れた良好なエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエアフィルタ用濾材は、支持体と帯電不織布層とを有しており、該支持体は、延伸ポリエステル繊維と、バインダー繊維として未延伸ポリエステル繊維とガラス転移点が40〜80℃の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有してなることを特徴とする。
【0013】
本発明において、支持体にバインダー繊維として用いられる未延伸ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びそれを主体とした共重合体などのポリエステルを紡糸速度800〜1,200m/分で紡糸した未延伸繊維が挙げられる。これらの未延伸ポリエステル繊維が熱カレンダー処理によって熱圧融着されることにより、強度の高い支持体を得ることができる。
【0014】
本発明において、バインダー繊維として用いられる芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部はガラス転移点が40〜80℃の共重合ポリエステルである。共重合ポリエステルとしては、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分を含有し、かつ、イソフタル酸成分、アジピン酸成分、セバシン酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、ジエチルグリコール成分、1,4−ブタンジオール成分及び脂肪族ラクトン成分の群から選ばれる少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルが挙げられる。この共重合ポリエステルは非晶質でも良いし、結晶性でも良い。
【0015】
芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部における共重合ポリエステルのガラス転移点が40℃以上である場合、鞘部の機械的強度が高くなるため、該ガラス転移点が40℃未満の場合と比較して、プリーツ加工後の折山の強度が高くなる。一般にプリーツ加工を行う場合、折り目を強く付け、折山の形状を維持する目的で、折った直後に加熱を行う。該ガラス転移温度が40℃未満の場合、プリーツ加工時に隣接する折山の支持体同士が熱接着してしまい、以降の工程のプリーツを切り分ける作業やフィルタを組み立てる作業の作業性が低下する。また、支持体同士がより強固に接着した場合、フィルタの組み立てができなくなる。さらに、無理に熱接着した支持体同士を剥がした場合、折山の強度が低下し、フィルタ性能が劣化する。一方、該ガラス転移点が80℃以下である場合、鋭角な折山が得られ、強度が高く、圧力損失の低い良好なフィルタが得られるが、該ガラス転移点が80℃を超える場合、濾材の剛性が高くなり、折り目が付きにくく、鋭角な折山が得られなくなり、該ガラス転移点が80℃以下の場合と比較すると、フィルタ性能が劣る。
【0016】
本発明において、芯鞘型ポリエステル複合繊維の芯部は、主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであるポリエステルであり、耐熱性の高いポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0017】
本発明において、芯鞘型ポリエステル複合繊維の断面形状は特に限定しないが、円形が好ましい。また、芯部と鞘部の比率は、体積比で芯/鞘=30/70〜70/30の範囲が好ましく、40/60〜60/40がより好ましい。
【0018】
本発明において、バインダー繊維の含有量は30〜60質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。バインダー繊維の含有量が30質量%未満では、繊維間の接着強度が不十分となり、フィルタの強度が低下し、フィルタ性能が劣る場合がある。一方、バインダー繊維の含有量が60質量%を超えると、支持体の表面にバインダー繊維が露出する割合が増え、プリーツ加工時に隣接する折山の支持体同士が接着し、プリーツ加工及びフィルタ作製の以後の工程で作業性が低下する場合がある。また、特に全融タイプのバインダー繊維の場合、溶融によって、圧力損失が高くなる場合がある。
【0019】
本発明において、芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有することにより、バインダー繊維の一部として熱溶融しない芯部を有する芯鞘型ポリエステル複合繊維を含むことにより、バインダー繊維の熱溶融による皮膜化を抑制し、圧力損失を低く保ったまま、強度を発現することが可能となる。
【0020】
本発明において、芯鞘型ポリエステル複合繊維の含有量は20〜40質量%であることが好ましく、20〜35質量%がより好ましい。芯鞘型ポリエステル複合繊維の含有量が20質量%未満では、繊維間の接着として点接着の割合が多くなり、強度が低下する場合がある。一方、40質量%を超えると、支持体の表面にバインダー繊維が露出する割合が増え、プリーツ加工時に隣接する折山の支持体同士が接着し、プリーツ加工及びフィルタ作製の以後の工程で作業性が低下する場合がある。
【0021】
本発明において、バインダー繊維の繊維径は2〜25μmが好ましく、5〜20μmがより好ましく、10〜20μmが更に好ましい。繊維径が2μm未満のバインダー繊維を使用した場合には、支持体の強度が不十分となる場合がある。一方、繊維径が25μmを超えるバインダー繊維を使用した場合には、相対的に繊維間の接着点が少なくなるため、支持体の強度が低下する場合がある。
【0022】
本発明において、支持体は、主体繊維として延伸ポリエステル繊維を含有する。支持体を製造する際、バインダー繊維が軟化又は融解するまで温度を上げることにより、十分な強度を持った支持体となる。その際、延伸ポリエステル繊維は軟化又は溶融せず、主体繊維として、支持体の骨格を形成する。また、厚みが薄くなりすぎることを抑制することができ、繊維間の空隙を保つため、圧力損失を低く保つことができる。該延伸ポリエステル繊維としては、主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであるポリエステルが挙げられるが、耐熱性の高いポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。また、繊維の断面形状は円形が好ましい。ただし、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、他の特性を阻害しない範囲で使用することができる。
【0023】
延伸ポリエステル繊維の繊維径は、2〜35μmが好ましく、5〜30μmがより好ましく、7〜27μmが更に好ましい。繊維径が2μm未満の繊維を使用した場合には、支持体の強度が不十分になったり、圧力損失が高くなる場合がある。一方、繊維径が35μmを超える繊維を使用した場合には、相対的に繊維本数が少なくなり、繊維間の空隙が大きくなりすぎるため、支持体の強度が低下する場合がある。
【0024】
本発明において、支持体には、必要に応じて、上記した延伸ポリエステル繊維及びバインダー繊維以外の繊維を加えても良い。具体的には、合成繊維としては、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ベンゾエート、ポリクラール、フェノール系などの繊維が挙げられる。天然繊維としては、皮膜の少ない麻パルプ、コットンリンター、リント、再生繊維としては、リヨセル繊維、レーヨン、キュプラ、半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス、無機繊維としては、アルミナ繊維、アルミナ・シリカ繊維、ロックウール、ガラス繊維、マイクロガラス繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミナウィスカ、ホウ酸アルミウィスカなどの繊維が挙げられる。上記の繊維の他に、植物繊維として、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプや藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類を使用することもできる。また、上記の繊維は、通気性を阻害しない範囲であれば、フィブリル化されていてもなんら差し支えない。さらに、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維等も使用することができる。また、断面形状がT型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も含有できる。
【0025】
本発明のエアフィルタ用濾材における支持体は、示差走査熱分析によって芯鞘型ポリエステル複合繊維由来のガラス転移点が求められることが好ましい。芯鞘型ポリエステル複合繊維の含有量が低い場合や、シート化する際の加熱処理によって芯鞘型ポリエステル複合繊維の結晶性が高くなった場合、ガラス転移点を求めることができない支持体となる場合がある。該ガラス転移点が求められる支持体は、該ガラス転移点が求められない支持体と比較して、フィルタの剛性が高くなり、プリーツ加工適性に優れる傾向にある。
【0026】
なお、本発明における芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部と、エアフィルタ用濾材の支持体のガラス転移点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。ガラス転移点は、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の段階状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0027】
本発明において、支持体は、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、脱臭剤などを含有させることにより、その機能性を付与することができる。これら機能材は支持体をシート化する際に添加したり、シート化した後に含浸加工や塗工により、付与することができる。
【0028】
本発明において、支持体の坪量は、30〜200g/mが好ましく、60〜150g/mがより好ましく、80〜120g/mが更に好ましい。30g/m未満の場合には、濾材の強度が不十分となる場合がある。また、200g/mを超えた場合には、圧力損失が高くなったり、濾材の厚みが増し、必要量の濾材面積が収納できなくなったり、フィルタのサイズが大きくなる場合がある。
【0029】
本発明において、支持体の厚みは、0.2〜1.2mmであることが好ましく、0.3〜0.8μmであることがより好ましく、0.4〜0.6mmであることが更に好ましい。厚みが1.2mmを超えると、収納できる濾材面積が少なくなり、フィルタの寿命が短くなる場合がある。一方、厚みが0.2mm未満の場合には、十分な強度が得られない場合がある。
【0030】
本発明において、支持体となる不織布の製造方法としては、カード法、エアレイド法、エアスルー法、湿式抄造法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、スパンボンド法などの公知の方法から任意に選択することができる。
【0031】
本発明のエアフィルタ用濾材において、帯電不織布層としては、エレクトレット加工されたスパンボンド不織布やメルトブロー不織布等が用いられ、高い集塵性能が得られるメルトブロー不織布が好ましい。帯電不織布層の繊維に使用される樹脂としてはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂などの合成高分子材料などの高い電気抵抗率を有する材料が好ましく、低融点であり、メルトブロー不織布の製造が容易なポリプロピレンがより好ましい。また、帯電不織布層に使用される樹脂に、帯電性、耐候性、熱安定性、機械的特性、着色、表面特性、又はその他の特性を強化し改良するために、各種の添加剤を加えることができる。特に、エレクトレット加工を行うため、帯電性を強化する目的で、エレクトレット添加剤を含むことが好ましい。エレクトレット添加剤としては、ヒンダードアミン系化合物及びトリアジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のエレクトレット添加剤が含まれていることが好ましい。
【0032】
該ヒンダードアミン系化合物としては、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン社製、商品名:キマソーブ(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(BASF・ジャパン社製、商品名:チヌビン(登録商標)622LD)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(BASF・ジャパン社製、商品名:チヌビン(登録商標)144)などが挙げられる。
【0033】
また、該トリアジン系化合物としては、前述のポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン社製、商品名:キマソーブ(登録商標)944LD)、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−((ヘキシル)オキシ)−フェノール(BASF・ジャパン社製、商品名:チヌビン(登録商標)1577FF)などを挙げることができる。
【0034】
本発明において、帯電不織布層には、上記の化合物の他に、熱安定剤、耐候剤、重合禁止剤等の一般にエレクトレット加工される不織布に使用されている通常の添加剤を添加することもできる。
【0035】
本発明において、帯電不織布層に含まれる繊維の平均単繊維径は、0.1〜8.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜6.0μmであり、さらに好ましくは、1.0〜4.0μmである。平均単繊維径が8.0μmを超えると、帯電不織布層の繊維間の空隙が大きくなり、捕集効率が低下する場合がある。一方、平均単繊維径が0.1μm未満では、繊維間の空隙が狭くなり、圧力損失が高くなる場合がある。
【0036】
本発明において、帯電不織布層の坪量は10〜50g/mが好ましく、より好ましくは15〜40g/mである。坪量が50g/mを超えると圧力損失が高くなる場合があり、逆に、坪量が10g/m未満であると、捕集効率が低下する場合がある。
【0037】
本発明のエアフィルタ用濾材において、支持体と帯電不織布層を形成する方法としては、支持体と帯電不織布層をそれぞれシート化した後、貼り合わせる方法や、支持体の上に直接、帯電不織布層を形成する方法などが使用される。本発明においては、支持体と帯電不織布層の選択の幅が広い、貼り合わせる法が好ましい。また、支持体と帯電不織布を貼り合わせる方法としては、支持体と帯電不織布層の間に粉状の接着剤を撒布して加熱接着するシンター方式、支持体と帯電不織布層の間にスプレーにて熱溶融状態の接着剤を噴霧して接着する方式、支持体と帯電不織布層を重ねて超音波溶着させる超音波方式などが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における部や百分率は断りのない限り、すべて質量によるものである。
【0039】
<延伸PET繊維>
ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径13μm、繊維長5mmの延伸ポリエステル繊維を使用した。
【0040】
<未延伸PET繊維>
ポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸からなる、繊維径11μm、繊維長5mmの未延伸ポリエステル繊維を使用した。
【0041】
<芯鞘PET繊維1>
芯部がポリエチレンテレフタレート、鞘部がポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸からなる非晶性の共重合ポリエステル(ガラス転移点:72℃)であり、繊維径15μm、繊維長5mm、芯部/鞘部の体積比が50/50の芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維1とした。
【0042】
<芯鞘PET繊維2>
芯部がポリエチレンテレフタレート、鞘部がポリエチレンテレフタレートと1,4−ブタンジオールとε−カプロラクトンからなる結晶性の共重合ポリエステル(ガラス転移点:45℃)であり、繊維径15μm、繊維長5mm、芯部/鞘部の体積比が50/50の芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維2とした。
【0043】
<芯鞘PET繊維3>
芯部がポリエチレンテレフタレート、鞘部がポリエチレンテレフタレートと1,4−ブタンジオールからなる結晶性の共重合ポリエステル(ガラス転移点:86℃)であり、繊維径15μm、繊維長5mm、芯部/鞘部の体積比が50/50の芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維3とした。
【0044】
<芯鞘PET繊維4>
芯部がポリエチレンテレフタレート、鞘部がポリエチレンテレフタレートと1,4−ブタンジオールとε−カプロラクトンからなる結晶性の共重合ポリエステル(ガラス転移点:32℃)であり、繊維径15μm、繊維長5mm、芯部/鞘部の体積比が50/50の芯鞘型ポリエステル複合繊維を、芯鞘PET繊維4とした。
【0045】
実施例1〜9、比較例1〜4のエアフィルタ用濾材を、以下のような工程を得て、作製した。
【0046】
(支持体の作製)
2mの分散タンクに水を投入後、表1に示す原料配合比率(%)で配合し、分散濃度0.2質量%で5分間分散して、坪量100g/mを目標にして、円網抄紙機で湿紙を形成し、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、その後、200℃の表面温度の金属ロールと対向する弾性ロールにて熱カレンダー処理を行い、実施例1、3〜9及び比較例1〜4のエアフィルタ用濾材の支持体を得た。
【0047】
また、熱カレンダー処理の金属ロールの表面温度を230℃とした以外は、実施例1、3〜9及び比較例1〜4のエアフィルタ用濾材の支持体と同様の方法にて、実施例2のエアフィルタ用濾材の支持体を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
(帯電不織布層の作製)
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、商品名:S10AL)にヒンダードアミン系添加剤(BASF・ジャパン社製、商品名:キマソーブ(登録商標)944)を10ppm添加し、メルトブロー方式により得られた坪量15g/m、平均単繊維径7.2μmの不織布に、コロナ放電方式でエレクトレット加工を施すことにより、得られたメルトブロー不織布を、帯電不織布層に使用した。
【0050】
(支持体と帯電不織布層の貼り合わせ)
該メルトブロー不織布と実施例1〜9及び比較例1〜4のエアフィルタ用濾材の支持体との間に熱溶融状態の湿気硬化型ウレタン樹脂をスプレーにて噴霧して接着し、実施例1〜9及び比較例1〜4のエアフィルタ用濾材を得た。
【0051】
上記のようにして得られた実施例1〜9及び比較例1〜4の支持体のガラス転移点、及び実施例1〜9及び比較例1〜4のエアフィルタ用濾材のプリーツ加工適性について、下記のようにして、測定及び評価を行った。測定及び評価結果を表2に示す。
【0052】
(支持体のガラス転移点)
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。ガラス転移点は、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の段階状変化部分の曲線とが交わる点の温度から求めた。
【0053】
(エアフィルタ用濾材のプリーツ加工適性)
実施例1〜9及び比較例1〜4のエアフィルタ用濾材について、加工温度80℃に設定したレシプロ式プリーツ加工機にて、毎分50山の速度にて、幅235mmにスリットしながら、山高さ28mmにてプリーツ加工を行った。その後、50山毎にプリーツを切り分け、ホットメルト接着剤を塗布した不織布枠を用いてフィルタユニットを作製した。プリーツ加工時の状況やフィルタユニット作製後の折山の整然さを目視にて判定し、プリーツ加工適性の評価とした。フィルタユニットについて、折山の先端が鋭角であり、直線性があること、プリーツが等間隔に整然と揃っていること、プリーツ加工上の問題がないこと、といった観点にて「◎」、「○」、「△」、「×」とランク付けし、「△」以上を合格とし、「×」は性能又は加工に問題があるものとした。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例1及び2の結果より、実施例2のエアフィルタ用濾材の支持体は熱カレンダー処理時に金属ロールの表面温度を230℃にして作製したため、芯鞘PET繊維2の鞘部分の結晶性が高くなり、支持体の示差走査熱分析により、芯鞘PET繊維2由来のガラス転移点を求められなかった。そのため、支持体の示差走査熱分析により、芯鞘PET繊維2由来のガラス転移点が求められる実施例1のエアフィルタ用濾材の方がプリーツ加工適性に優れていた。
【0056】
実施例3及び4の結果より、実施例4のエアフィルタ用濾材の支持体は芯鞘PET繊維1の含有量が20質量%未満であり、支持体の示差走査熱分析により、芯鞘PET繊維1由来のガラス転移点を求められなかった。そのため、芯鞘PET繊維を20質量%含有し、支持体の示差走査熱分析により、芯鞘PET繊維1由来のガラス転移点が求められる実施例3のエアフィルタ用濾材の方がプリーツ加工適性に優れていた。
【0057】
実施例3及び5の結果より、実施例5のエアフィルタ用濾材の支持体はバインダー繊維の含有量が30質量%未満であるため、実施例3のエアフィルタ用濾材と比較すると、濾材の強度が弱く、実施例3のエアフィルタ用濾材で作製されたフィルタユニットの方が、折山が鋭角で直線性があり、プリーツ加工適性に優れていた。
【0058】
実施例6及び7の結果より、実施例7のエアフィルタ用濾材の支持体はバインダー繊維の含有量が60質量%を超えており、支持体の表面に露出するバインダー繊維の割合が増えたため、プリーツ加工時に、隣接する折山の支持体同士が手で剥がせる程度に接着した。バインダー繊維の含有量が60質量%である実施例6のエアフィルタ濾材の方がプリーツ加工適性、及びプリーツ加工時の作業性に優れていた。
【0059】
実施例6及び8の結果より、実施例8のエアフィルタ用濾材の支持体は芯鞘PET繊維1の含有量が40質量%を超えており、支持体の表面に露出するバインダー繊維の割合が増えたため、プリーツ加工時に、隣接する折山の支持体同士が手で剥がせる程度に接着した。芯鞘PET繊維1の含有量が40質量%である実施例6のエアフィルタ濾材の方がプリーツ加工適性、及びプリーツ加工時の作業性に優れていた。
【0060】
実施例3及び9の結果より、実施例3のエアフィルタ用濾材の支持体のガラス転移点が、実施例9のエアフィルタ用濾材の支持体のガラス転移点よりも高いため、実施例9のエアフィルタ用濾材と比較すると、濾材の強度が強く、実施例3のエアフィルタ用濾材で作製されたフィルタユニットの方が、折山が鋭角で直線性があり、プリーツ加工適性に優れていた。
【0061】
実施例3と比較例1及び2の結果より、比較例1のエアフィルタ用濾材の支持体はガラス転移点が40〜80℃の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含有していないため、支持体の示差走査熱分析により、芯鞘型ポリエステル複合繊維由来のガラス転移点が求められなかった。また、濾材の強度が弱く、比較例1で作製されたフィルタユニットは、折山の直線性がなく、プリーツ加工適性が劣っていた。また、比較例2のエアフィルタ用濾材の支持体は未延伸PET繊維を含有していないため、熱カレンダー処理を行っても、濾材の強度が上がらず、比較例2で作製されたフィルタユニットは折山の直線性がなく、プリーツ加工適性に劣っていた。
【0062】
実施例3と比較例3及び4の結果より、比較例3のエアフィルタ用濾材の支持体は、ガラス転移点が80℃超の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含み、支持体の示差走査熱分析により求められた芯鞘型ポリエステル複合繊維由来のガラス転移点が80℃を超えるため、濾材の剛性が高すぎ、プリーツ加工時に折山を鋭角に折ることができなかった。そのため、比較例3のエアフィルタ濾材で作製されたフィルタユニットは折山が丸みを帯びており、折山の間隔が不揃いになっている箇所も見られ、プリーツ加工適性に劣っていた。また、比較例4のエアフィルタ濾材の支持体は、ガラス転移点が40℃未満の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維を含み、支持体の示差走査熱分析により求められた芯鞘型ポリエステル複合繊維由来のガラス転移点が40℃未満であり、加工温度80℃に設定されたプリーツ加工時に、隣接する折山の支持体同士が接着し、フィルタユニットを組み立てることができなかった。

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のエアフィルタ用濾材はビル、工場、自動車、一般家庭などで使用される空調機や空気清浄機などに使用されるエアフィルタに利用できる。