特許第6571569号(P6571569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571569
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】内燃機関の可変動弁機構
(51)【国際特許分類】
   F01L 13/00 20060101AFI20190826BHJP
   F01L 1/18 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   F01L13/00 302A
   F01L1/18 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-55014(P2016-55014)
(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公開番号】特開2017-166460(P2017-166460A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博之
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 憲
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−534005(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0275712(US,A1)
【文献】 特表2014−532840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 13/00
F01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動時にはバルブ(7)を駆動し、幅方向中間部に空所(39)が形成されているアウタアーム(30)と、空所(39)内に揺動可能に設けられ、カム(10)に駆動されて揺動するインナアーム(20)と、インナアーム(20)とアウタアーム(30)とを一緒に揺動するように連結した連結状態とその連結を解除した非連結状態とに切り替える切替装置(40)と、非連結状態のときにインナアーム(20)をカム(10)に付勢するロストモーションスプリング(50)とを備えた可変動弁機構において、
ロストモーションスプリング(50)は、空所(39)外から空所(39)内にまで延びる延出部(53)を備え、延出部(53)は、空所(39)内でインナアーム(20)に当接する当接部(53b)を備え、インナアーム(20)の揺動に伴い揺動するように構成され、
アウタアーム(30)の上下中間部に、延出部(53)における当接部(53b)よりも揺動量が小さい箇所をその揺動を許容するように通す通し孔(35)が、該通し孔の上下両側に繋ぎ部(36)を残す形で貫設されていることを特徴とする内燃機関の可変動弁機構。
【請求項2】
ロストモーションスプリング(50)は、空所(39)外に設置されるコイル状のコイル部(51)と、コイル部(51)から空所(39)内にまで延びる前記延出部(53)とを備え、
延出部(53)は、その基端(53a)から通し孔(35)を通過して空所(39)に差し掛かる位置までの長さ(L1)が、該基端(53a)から当接部(53b)に差し掛かる位置までの長さ(L2)の50%以下である請求項1記載の内燃機関の可変動弁機構。
【請求項3】
アウタアーム(30)にコイル部(51)を格納する格納部(34)が設けられ、格納部(34)の一部は空所(39)にまで連通しており、該連通している部分が前記通し孔(35)を構成している請求項2記載の内燃機関の可変動弁機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバルブを駆動すると共に、内燃機関の運転状況に応じてバルブの駆動状態を変更する可変動弁機構に関する。
【背景技術】
【0002】
可変動弁機構の中には、次に示すものがある。すなわち、アウタアームと、アウタアームの内側に設けられたインナアームと、インナアームとアウタアームとを連結した連結状態とその連結を解除した非連結状態とに切り替える切替装置と、非連結状態のときにインナアームをカムに付勢するロストモーションスプリングとを備えている。そして、このような可変動弁機構を示す文献としては、次の示す特許文献1,2等がある。
【0003】
その特許文献1では、ロストモーションスプリングを、アウタアームの外側からアウタアームの上側を通して内側のインナアームに掛けている。
【0004】
また、特許文献2では、アウタアームにインナアームの揺動方向に延びるスロット穴(長孔)を設けている。そして、インナアームに突設したスプリング掛け部を、該スロット穴からアウタアームの側方に突出させている。そして、アウタアームの側方で、スプリング掛け部にロストモーションスプリングを掛けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0275712号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0290608号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ロストモーションスプリングをアウタアームの上側から通す部分で、該通すためのスペースが取られ、アウタアームの上方への肉厚が制限される。そのため、該通す部分ではその下側だけで繋がる構造となり、アウタアームの強度が低くなる懸念がある。
【0007】
また、特許文献1とは反対に、ロストモーションスプリングをアウタアームの下側から通すものもある。しかしながら、この構造では、ロストモーションスプリングを下側から通す部分で、該通すためのスペースが取られ、アウタアームの下方への肉厚が制限される。そのため、該通す部分ではその上側だけで繋がる構造となり、特許文献1と同様、アウタアームの強度が低くなる懸念がある。
【0008】
また、特許文献2では、スロット穴の上下両側で繋がるため、アウタアームの強度は比較的高くなるが、スロット穴の揺動方向の長さによりインナアームの揺動量に制約が生じる。他方、スロット穴を長くすれば、アウタアームの強度が低くなる懸念がある。
【0009】
そこで、アウタアームの強度を高くし、かつ、インナアームの揺動量も充分大きく確保することを、本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の可変動弁機構は、次のように構成されている。すなわち、揺動時にはバルブを駆動し、幅方向中間部に空所が形成されているアウタアームと、空所内に揺動可能に設けられ、カムに駆動されて揺動するインナアームと、インナアームとアウタアームとを一緒に揺動するように連結した連結状態とその連結を解除した非連結状態とに切り替える切替装置と、非連結状態のときにインナアームをカムに付勢するロストモーションスプリングとを備えている。
【0011】
この内燃機関の可変動弁機構において、次の特徴を備えている。すなわち、ロストモーションスプリングは、空所外から空所内にまで延びる延出部を備えている。その延出部は、空所内でインナアームに当接する当接部を備え、インナアームの揺動に伴い揺動するように構成されている。そして、アウタアームの上下中間部に、延出部における当接部よりも揺動量が小さい箇所をその揺動を許容するように通す通し孔が、該通し孔の上下両側に繋ぎ部を残す形で貫設されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロストモーションスプリングの延出部を通す通し孔が、その上下両側に繋ぎ部を残す形で貫設されているため、上下片側だけで繋がる構造(特許文献1等)に比べて、高い強度が得られる。
【0013】
また、通し孔は、延出部における当接部よりも揺動量が小さい箇所を通しているため、該通し孔のスプリング揺動方向(延出部の揺動方向)の長さを、さほど大きくしなくても、当接部では、充分な大きさの揺動量が得られる。よって、アウタアームの強度を充分高く確保しつつ、インナアームの揺動量も充分大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の可変動弁機構を示す側面図である。
図2】その可変動弁機構における連結状態を示す側面断面図である。
図3】その可変動弁機構における非連結状態を示す側面断面図であり、(a)は図4(a)に示すIIIa−IIIa断面図であり、(b)は図4(a)に示すIIIb−IIIb断面図である。
図4】(a)はその可変動弁機構を示す平面図であり、(b)は背面図である。
図5】(a)はその可変動弁機構を示す平面断面図(図5(b)に示すVa−Va断面図)であり、(b)は背面断面図(図5(a)に示すVb−Vb断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ロストモーションスプリングの態様は、特に限定されないが、次の態様を例示する。
[i]ロストモーションスプリングは、前記延出部のみからなる板バネである態様。
[ii]ロストモーションスプリングは、空所外に設置されるコイル状のコイル部と、コイル部から空所内にまで延びる前記延出部とを備えている態様。
【0016】
ロストモーションスプリングの配置等は、特に限定されないが、延出部の基端のできるだけ近くに通し孔がくるように配置するのが好ましい。通し孔のスプリング揺動方向の長さをより小さく抑えられるからである。具体的には、延出部は、その基端から通し孔を通過して空所に差し掛かる位置までの長さが、該基端から当接部に差し掛かる位置までの長さの50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
【0017】
アウタアーム等の具体的な態様は、特に限定されないが、延出部の基端の近くに通し孔がくる点で、次の態様が好ましい。すなわち、アウタアームにコイル部を格納する格納部が設けられている。その格納部の一部は空所にまで連通しており、該連通している部分が前記通し孔を構成している。
【実施例1】
【0018】
次に、本発明の実施例を示す。但し、本発明は実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で各部の構成や形状を任意に変更して実施することもできる。
【0019】
図1図5に示す本実施例1の可変動弁機構1は、バルブスプリング8が取り付けられたバルブ7を周期的に押圧することで、バルブ7を開閉する機構である。この可変動弁機構は、カム10と、インナアーム20と、アウタアーム30と、切替装置40と、ロストモーションスプリング50とを含み構成されている。なお、以下では、アウタアーム30の幅方向を左右方向といい、アウタアーム30の長さ方向を前後方向という。そして、ロストモーションスプリング50の延出部53の、非連結状態におけるアウタアーム30に対する揺動方向を、スプリング揺動方向といい、該延出部53の各部の、非連結状態におけるアウタアーム30に対する揺動量を、その部分のスプリング揺動量という。
【0020】
[カム10]
カム10は、図1等に示すように、内燃機関が2回転する毎に1回転するカムシャフト9に設けられており、そのカムシャフト9と一緒に回転する。このカム10は、図2等に示すように、断面形状が円形のベース円11と、該ベース円11から突出したノーズ12とから構成されている。また、図1等に示すように、カムシャフト9のカム10の左右両側方に位置する部位には、ベース円のみからなる休止カム15が設けられている。
【0021】
[インナアーム20]
インナアーム20は、図4等に示すように、アウタアーム30の空所39に設けられており、図2等に示すように、前端部がアウタアーム30の前端部に軸材29によって揺動可能に軸着されている。そして、後端部に、カム10に当接するローラ28が、ローラシャフト26及びベアリング27を介して回転可能に取り付けられている。そして、ローラシャフト26の両端には、図3(b)等に示すように、掛合突起26bが設けられている。
【0022】
[アウタアーム30]
アウタアーム30は、図4等に示すように、インナアーム20の左右両側に一枚ずつ設けられた側板部31と、左右の側板部31の後端どうしを繋いだ基部33とにより、前方に開いたコ字形に形成されている。そのコ字形の内側が空所39になっている。よって、アウタアーム30は、幅方向中央部に空所39を備えている。そして、左右の側板部31の前端部の下端部どうしは、架橋部32によって繋がっている。このアウタアーム30は、図2等に示すように、基部33の下面に凹設された半球状凹部33aが、ピボット60の上端の半球部63により、揺動可能に支持されている。そして、架橋部32が、バルブ7のステムエンドに当接している。そして、左右の側板部31の上端部には、休止カム15に摺接するスリッパ31aが設けられている。
【0023】
そして、図5等に示すように、左側の側板部31と基部33との両方に掛かる部分に、左側の格納部34が設けられ、右側の側板部31と基部33との両方に掛かる部分に、右側の格納部34が設けられている。詳しくは、左側の格納部34は、左方及び後方の両方に開口しており、右側の格納部34は、右方及び後方の両方に開口している。さらに、左右両方の格納部34の前側の一部は、空所39にまで連通している。その連通している部分が、通し孔35を構成している。よって、その通し孔35は、アウタアーム30の上下中間部に、該通し孔35の上下両側に繋ぎ部36を残す形で貫設されている。その通し孔35は、ロストモーションスプリング50の延出部53における当接部53bよりもスプリング揺動量が小さい箇所を、その揺動を許容できるように通す孔である。そして、左右両方の格納部34の内側には、左右の各内壁から左右外方に延びる突起37が設けられている。
【0024】
[切替装置40]
切替装置40は、図2等に示すように、切替ピン41と油圧経路42とスプリング43とを含み構成されている。切替ピン41は、アウタアーム30の基部33の左右中央部に貫設された前後に延びるピン穴48の内側に取り付けられており、前側の連結位置p1と後側の非連結位置p2とに変位可能に設けられている。前側の連結位置p1は、図2等に示すように、切替ピン41の前端部が基部33から前方の空所39内に突出することで、該前端部がインナアーム20の後端部24の下方に入り込むようになる位置である。その連結位置p1に配されると、図2に矢印で示すように、インナアーム20とアウタアーム30とが、ピボット60の半球部63を軸に一緒に揺動してバルブ7を駆動するようになる。他方、後側の非連結位置p2は、図3(a)等に示すように、切替ピン41の前端部が基部33に退入することで、該前端部がインナアーム20の後端部24の下方に入り込まなくなる位置である。その非連結位置p2に配されると、図3(a)に矢印で示すように、インナアーム20がアウタアーム30に対して軸材29を軸に揺動(空振り)してバルブ7の駆動を休止するようになる。
【0025】
油圧経路42は、切替ピン41を後側の非連結位置p2に変位させるための油圧を供給する経路である。この油圧経路42は、シリンダヘッド6からピボット60を経由してアウタアーム30のピン穴48内にまで延びている。そして、非連結状態の時は、図3(a)等に示すように、油圧を切替ピン41に後方に向けて加える。スプリング43は、油圧経路42の油圧が下がったときに、図2等に示すように、切替ピン41を前側の連結位置p1に変位させるための部材であって、ピン穴48内における切替ピン41の後方に設置されている。そして、スプリング43の後端部は、ピン穴48の後端部付近に取り付けられたリテーナ44により保持されている。
【0026】
[ロストモーションスプリング50]
ロストモーションスプリング50は、非連結状態のときにインナアーム20をカム10に付勢するためのスプリングであって、図4等に示すように、左側のロストモーションスプリング50と、右側のロストモーションスプリング50とがある。各ロストモーションスプリング50は、コイル部51と延出部53と第二延出部58とを含み構成されている。
【0027】
コイル部51は、コイル状の部位であって、突起37に外嵌されることで格納部34内に設置されている。
【0028】
延出部53は、図3(b)等に示すように、コイル部51から通し孔35を通過して空所39内にまで延びており、その先端部は、ローラシャフト26の掛合突起26bに下方から当接して掛合している。その当接した部分が、インナアーム20との当接部53bを構成している。この延出部53は、非連結状態の時には、図3(b)に矢印で示すように、インナアーム20の揺動に伴いアウタアーム30に対して揺動する。この延出部53は、その基端53aから通し孔35を通過して空所39に差し掛かる位置までの長さL1が、該基端53aから当接部53bに差し掛かる位置までの長さL2の5〜40%である。
【0029】
第二延出部は、図1等に示すように、コイル部51から後斜め上方に延びており、図4等に示すように、後端部が格納部34の上面に設けられた係止部34aに係止されている。よって、インナアーム20から当接部53bに加わった力は、延出部53、コイル部51及び第二延出部58を経て係止部34aに伝わる。このとき、コイル部51が撓むことで、インナアーム20をカム10に付勢する付勢力が生じる。
【0030】
本実施例1によれば、次の効果を得ることができる。すなわち、ロストモーションスプリング50の延出部53を通す通し孔35が、その上下両側に繋ぎ部36を残す形で貫設されているため、上下片側だけで繋がる構造(特許文献1等)に比べて、高い強度が得られる。また、強度が充分な場合には、軽量化が可能である。
【0031】
また、通し孔35は、延出部53における当接部53bよりもスプリング揺動量が小さい箇所を通しているため、該通し孔35のスプリング揺動方向の長さを、さほど(強度が下がるほど)大きくしなくても、当接部53bでは、充分な大きさのスプリング揺動量が得られる。よって、アウタアーム30の強度を充分高く確保しつつ、インナアーム20の揺動量も充分大きく確保することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 可変動弁機構
7 バルブ
10 カム
20 インナアーム
30 アウタアーム
34 格納部
35 通し孔
36 繋ぎ部
39 空所
40 切替装置
50 ロストモーションスプリング
51 コイル部
53 延出部
53a 延出部の基端
53b 延出部の当接部
L1 延出部の基端から空所に差し掛かる位置までの長さ
L2 延出部の基端から当接部に差し掛かる位置までの長さ
図1
図2
図3
図4
図5