(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒コート層の後端面からx(mm)の位置の触媒コート厚(μm)が、後端面からの距離(x(mm))及び触媒コート層に含まれるOSC材中のセリア濃度(y(%))(但し、セリア濃度y(%)は、後端面からの距離x(mm)に対して一定である)に基づき、下記式:0.88x−0.34y+26(式中、0≦x≦80である)で計算される値の±15%の範囲内である、自動車排ガス浄化用触媒。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれており、これらの有害成分は排ガス浄化用触媒によって浄化されてから大気中に放出されている。従来、排ガス浄化用触媒には、CO、HCの酸化とNOxの還元とを同時に行う三元触媒が用いられており、三元触媒としては、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、チタニア(TiO
2)等の多孔質酸化物担体に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属を担持したものが広く用いられている。
【0003】
このような三元触媒を用いて効率的に排ガス中の有害成分を浄化するためには、内燃機関に供給される混合気の、空気と燃料の比率である空燃比(A/F)が理論空燃比(ストイキ)近傍でなければならない。しかし、実際の空燃比は、自動車の走行条件等によって、ストイキを中心に、リッチ(燃料過剰:A/F<14.6)又はリーン(酸素過剰:A/F>14.6)になり、これに対応して排ガスもリッチ又はリーンになる。
【0004】
従って、三元触媒のみでは高い浄化性能を確保することができるとは限らないので、排ガス中の空燃比変動(雰囲気変動)を吸収・緩和して理論空燃比近傍に保ち、三元触媒の排ガス浄化性能を高めるために、酸素吸放出能(OSC性能)を有する酸素吸放出材(OSC材)が用いられている。OSC材としては、セリア−ジルコニア(CeO
2−ZrO
2)複合酸化物が広く用いられている。
【0005】
このような排ガス浄化用触媒として、特許文献1には、排ガス浄化用触媒において、排ガス流れ方向の上流側の位置に前段触媒が、下流側の位置に後段触媒がそれぞれ基材上に設けられ、前段触媒及び後段触媒のいずれにもOSC材が含まれ、前段触媒及び後段触媒に含まれる貴金属が担持されていないOSC材(OSC材(N))の合計量に対する後段触媒に含まれるOSC材(N)の割合が0〜50質量%の範囲内であることを特徴とする排ガス浄化用触媒が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の排ガス浄化用触媒では、排ガス流れ方向の下流側の後段触媒においてOSC材量が少なくなることがあるため、特に、排ガス流量が多い場合や、触媒の容量が小さい場合には、十分なOSC性能を確保して雰囲気変動を吸収・緩和することができなくなってしまう。この場合、触媒のコート量を増加させて、触媒中のOSC材量を増加させることによりOSC性能を確保することはできるものの、触媒のコート量が増加することで圧損(圧力損失)が上昇してしまう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の自動車排ガス浄化用触媒は、基材と、基材上に形成された触媒コート層とを有する。
【0014】
基材としては、特に限定されずに一般に排ガス浄化用触媒において用いられる任意の材料を使用することができる。具体的には、基材として、多数のセルを有するハニカム構造を有するモノリス基材を使用することができ、例えばコージェライト、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素等の耐熱性を有するセラミックス材料や、ステンレス鋼等の金属箔からなるメタル材料を使用することができる。
【0015】
触媒コート層は基材上に形成されている。排ガス浄化用触媒に供給された排ガスは、基材の流路を流動している間に触媒コート層に接触することによって有害成分が浄化される。例えば、排ガスに含まれるCOやHCは触媒層の触媒機能によって酸化されて水(H
2O)や二酸化炭素(CO
2)等に変換(浄化)され、NOxは触媒層の触媒機能によって還元されて窒素(N
2)に変換(浄化)される。
触媒コート層は、触媒金属及びOSC材を含む。
【0016】
触媒金属としては触媒貴金属が好ましく、従来公知の触媒貴金属を用いることができる。具体的には、触媒貴金属として、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)等の貴金属を用いることができ、好ましくはロジウム(Rh)を用いる。
【0017】
OSC材は、酸化セリウム(セリア:CeO
2)を含む。OSC材は、酸素吸放出能(OSC性能)を有する無機材料であり、排ガス中の酸素含有量に応じて、リーン排ガスが供給された際に酸素を吸蔵し、リッチ排ガスが供給された際に吸蔵した酸素を放出する。OSC材としては、例えばセリア及びセリアを含む複合酸化物(例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物)等が挙げられるが、高いOSC性能を有しており、かつ比較的安価であるため、セリア−ジルコニア複合酸化物を用いることが好ましい。OSC材は、触媒金属を担持する担体として用いることができる。
【0018】
OSC材の粒径は、ガスの拡散性やコート層の強度確保などの観点から、好ましくは1〜12μmである。本発明において、粒径とは、レーザー回折散乱法により測定した50%累積粒子径の値(D50径)をいう。
【0019】
OSC材の比表面積は、酸素吸放出速度の確保や貴金属を担持する場合の貴金属分散性などの観点から、好ましくは30〜80m
2/gである。
【0020】
OSC材中のセリア濃度は適宜設定することができ、例えば、所望の触媒コート厚に応じて設定することができる。
【0021】
本発明において、触媒コート層は、触媒金属及びOSC材に加えて、上記OSC材以外の担体を含むことができる。上記OSC材以外の担体としては、多孔質であり、かつ、耐熱性に優れた金属酸化物が挙げられ、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ:Al
2O
3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO
2)、酸化ケイ素(シリカ:SiO
2)、又はこれらの金属酸化物を主成分とした複合酸化物等を用いることができる。上記OSC材以外の担体は、通常、OSC材:OSC材以外の担体=1:0.05〜1:4、好ましくは1:0.1〜1:3の重量比で用いることができる。
【0022】
また、触媒コート層は、副成分として他の材料(典型的には無機酸化物)を含んでいてもよい。触媒コート層に添加し得る物質としては、例えば、ランタン(La)、イットリウム(Y)等の希土類元素、カルシウム等のアルカリ土類元素、その他遷移金属元素等が挙げられる。これらの中で、ランタン、イットリウム等の希土類元素は、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上できるため、安定化剤として好適に用いられる。また、副成分の含有割合は、OSC材に対して、好ましくは15重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0023】
触媒コート層の全長は、排ガス中の有害成分の適切な浄化並びに製造コスト及び機器設計上の自由度の観点から特に限定されない。
【0024】
触媒コート層の基材に対するコート量は、例えば基材1L当たり100〜400g/Lであり、好ましくは150〜300g/Lである。
【0025】
本発明の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の後端面からの距離及びOSC材中のセリア濃度に応じて触媒コート厚を設定する。すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒において、触媒コート層の後端面からx(mm)の位置の触媒コート厚(μm)は、触媒コート層の後端面からの距離をx(mm)とし、触媒コート層に含まれるOSC材中のセリア濃度をy(%)として、下記式:0.88x−0.34y+26(式中、0≦x≦80である)で計算される値の±15%の範囲内である。本発明の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の後端面からの距離及びOSC材中のセリア濃度に応じて触媒コート厚を設定することで、触媒コート層の所定の位置に存在するセリア量が最適化されるので、圧損を抑制しつつ、最小限のOSC材でOSC性能を確保することができる。
【0026】
本発明において、触媒コート層の後端面とは、触媒コート層の排ガス流れ方向の下流側の端面をいう。また、本発明において、触媒コート厚とは、触媒コート層の厚さのことをいう。
【0027】
本発明の排ガス浄化用触媒において、上記式の適用範囲は、触媒コート層の後端面から、後端面から80mmまでの範囲(すなわち、0≦x≦80)である。触媒コート層の後端面からの距離が増加するほど、上記式から計算される触媒コート厚は厚くなるが、触媒コート層の後端面から80mm以上の位置では、圧損上昇を抑制する観点より、触媒コート厚をそれ以上厚くせずにほぼ一定とすることが好ましいためである。触媒コート層の後端面から80mm以上の位置では、触媒コート厚は、後端面から80mmの位置の触媒コート厚と同じにすることが好ましい。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、OSC材中のセリア濃度が一定の場合、触媒コート厚は、触媒コート層の後端面から、後端面から80mmの位置にかけて厚くなる。これにより、触媒コート層の排ガス流れの下流側にいくにつれてOSC材量が少なくなるので、OSC材の使用量を最適化することができる。この実施形態において、触媒コート厚は、触媒コート層の後端面から、後端面から80mmの位置にかけて、ほぼ直線状の傾きをもつように増加してもよく、また、2段以上の階段状となって段階的に増加してもよい。
【0029】
本発明の別の好ましい実施形態において、触媒コート層の後端面からの距離が一定の場合、OSC材中のセリア濃度が高くなるほど、触媒コート厚は薄くなる。これにより、OSC材の使用量を最適化することができる。
【0030】
本発明の排ガス浄化用触媒は、当業者に公知の方法によって、触媒スラリー等を基材上にコートして触媒コート層を形成させることで製造できる。例えば、触媒金属、OSC材及び必要に応じて触媒コート層の他の成分を含む層を、公知のウォッシュコート法等によって基材に所定のコート厚にてコートし、その後、所定の温度及び時間において乾燥及び焼成等することにより基材上に触媒コート層を形成する。例えば、予め含浸法等によって触媒金属を担持したOSC材及び/又は他の担体の粉末を用いてウォッシュコートを行うことができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例)
触媒コート層の後端面から所定の距離の位置における触媒コート厚を求めるための式を以下の通りにして決定した。
【0033】
まず、以下の通りにして触媒を調製した。硝酸ロジウム水溶液を用い、OSC材としてのセリア−ジルコニア化合物A(比表面積:30m
2/g、粒径(D50):10μm、セリア(CeO
2)濃度:60%)80gに対し0.06gの割合となるようにロジウム(Rh)を担持した粉末を調製した。得られたRh担持粉末と、酸化アルミニウム(Al
2O
3)担体の粉末20gと、水とを混合してスラリーを調製した。得られたスラリーを、モノリス基材(セル密度:600cpsi、壁厚:3mil)に、モノリス基材の容量に対し100g/Lの割合となるようにコートし、乾燥し、500℃で焼成して、基材上に触媒コート層が形成した触媒を得た。得られた触媒の触媒コート層の厚さは22μmであった。
【0034】
また、Al
2O
3担体の量を20gから120g又は220gに変えた以外は上記と同様にして、Al
2O
3担体の量が異なる2種類のスラリーを調製し、得られた各スラリーを上記と同様にして、コート量がそれぞれ200g/L又は300g/Lとなるようにモノリス基材にコートして2種類の触媒を得た。得られた触媒の触媒コート層の厚さは、コート量200g/Lのものは51μmであり、コート量300g/Lのものは78μmであった。
【0035】
得られたコート量が100g/L、200g/L又は300g/Lの各触媒を長さ20mmに切断し、切断した長さ20mmの各触媒を、コート量が同じものについて、1〜4個のうち所定の個数で組み合わせてケースに挿入し、酸素吸放出量(OSC量)を計測した。OSC量は、触媒入りの空燃比を14.1と15.1で切り替え、触媒の後ろに配置した酸素センサーが空燃比の変化を検出するまでの間に触媒に吸収又は放出された酸素量の平均値とした。組み合わせた触媒の個数とOSC量との関係を
図1に示す。
【0036】
次に、1〜4個の個数で組み合わせた触媒に対し、触媒の数を1つずつ増やした際のOSC量の変化量(ΔOSC)を求めた。コート量100g/L、200g/L又は300g/Lのそれぞれの場合について、触媒の個数の変化とΔOSCとの関係を
図2に示す。また、各コート量について、触媒の数を1つずつ増やした際のOSC材の活用効率(OSC活用効率)を求めた。ここで、OSC活用効率は、コート量100g/Lにおける触媒の個数を3個から4個に増やした場合のΔOSCに対する各コート量及び触媒の個数の変化についてのΔOSCの割合とした。
図2より、触媒の個数を3個から4個に増やした場合(
図2中、3→4)と、触媒の個数を2個から3個に増やした場合(
図2中、2→3)とを比較すると、コート量が100g/L及び200g/Lの場合にはΔOSCが同じ値となっていることから、OSC活用効率は100%となるが、コート量が300g/Lの場合にはΔOSCの値が減少しており、OSC活用効率は70%程度であることが分かる。
【0037】
次に、OSC活用効率の低下がみられたコート量300g/Lの触媒について、触媒の個数の変化とOSC活用効率に基づいて、触媒コート層の後端面からの距離と有効コート厚との関係を求めた。ここで、有効コート厚は、触媒コート層の後端面から所定の距離の位置におけるコート厚にOSC活用効率を掛けた値とした。また、触媒コート層の後端面から所定の距離の位置におけるOSC活用効率は、上記の長さ20mmの触媒を1個から2個に増やした場合のOSC活用効率を、2つ目の触媒の中間の位置である、触媒後端面から30mmの距離の位置のOSC活用効率とし、同様に、触媒を2個から3個に増やした場合のOSC活用効率を、3つ目の触媒の中間の位置である、触媒後端面から50mmの距離の位置におけるOSC活用効率とし、触媒を3個から4個に増やした場合のOSC活用効率を、4つ目の触媒の中間の位置である、触媒後端面から70mmの距離の位置におけるOSC活用効率として、有効コート厚を求めた。
【0038】
また、上記の触媒の調製に用いたセリア−ジルコニア化合物Aの代わりにセリア−ジルコニア化合物B(比表面積:65m
2/g、粒径(D50):2μm、セリア(CeO
2)濃度:20%)を用い、コート量を300g/Lとした以外は上記と同様にして、OSC材中のセリア濃度が異なる触媒を得た。得られた触媒について、上記と同様にしてOSC量を測定し、同様の手順により、触媒コート層の後端面から所定の距離の位置における有効コート厚を求めた。OSC材中のセリア濃度が60%及び20%の各場合(
図3中、それぞれ材料A及び材料Bと表す)について、触媒コート層の後端面からの距離と有効コート厚との関係を
図3に示す。
【0039】
図3より、触媒コート層の後端面から所定の距離の位置における有効コート厚は、材料のOSC材のセリア濃度に依存して変化することが分かる。また、OSC材のセリア濃度が一定の場合、有効コート厚は、触媒コート層の後端面からの距離に依存して変化することが分かる(
図3中、直線で示す)。
図3中のこの関係式より、各セリア濃度(20%、30%、40%、50%、60%)について、触媒コート層の後端面からの距離と有効コート厚との関係を整理した結果を
図4に示す。
図4のデータを基に多変量解析して、触媒コート層の後端面からの距離をx(mm)とし、OSC材中のセリア濃度をy(%)として、有効コート厚を求める下記式:
有効コート厚(μm)=0.88x−0.34y+26
を得た。触媒コート厚は、上記式で求めた有効コート厚の±15%の範囲内とすることが望ましい。また、上記式より、触媒コート層の後端面からの距離が増加すると有効コート厚は厚くなるが、圧損上昇を抑制する観点より、触媒コート層の後端面からの距離が80mm以上の位置では、触媒コート厚は一定にすることが望ましい。よって、上記式の適用範囲は、触媒コート層の後端面から80mmまでの範囲(0≦x≦80)である。