特許第6571572号(P6571572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571572サーボ制御装置、サーボ制御方法及びサーボ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571572
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】サーボ制御装置、サーボ制御方法及びサーボ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20190826BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   G05B11/36 501C
   G05B11/36 E
   G05B13/02 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-59938(P2016-59938)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-174180(P2017-174180A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】飯島 一憲
【審査官】 大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−225632(JP,A)
【文献】 特開2016−034224(JP,A)
【文献】 特開2007−185014(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/148623(WO,A1)
【文献】 特開2010−148178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00− 7/04
11/00−13/04
17/00−17/02
19/18−19/416
19/42−19/46
21/00−21/02
G05D 3/00− 3/20
13/00−13/66
B25J 1/00−21/02
H02P 4/00
25/08−25/098
29/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータの速度指令値を作成する速度指令作成部と、
前記サーボモータの速度を検出する速度検出部と、
速度制御ループの制御ゲインである速度制御ゲインと、
前記サーボモータへのトルク指令値を作成するトルク指令作成部と、
前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させる少なくとも一個のフィルタと、
所定の周波数範囲で正弦波掃引を行う正弦波掃引入力部と、
掃引される正弦波の周波数特性を算出する周波数特性算出部と、
前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整するフィルタ調整部と、を備え、
前記速度制御ゲイン、前記トルク指令作成部、前記フィルタ及び前記速度検出部は前記速度制御ループを構成し、
前記速度制御ゲインには、前記速度指令値と検出された前記速度との差に前記正弦波掃引入力部から出力される正弦波が加えられた信号が入力され、
前記フィルタ調整部は、前記速度制御ゲインの値を変更しながら前記周波数特性算出部が算出する周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインが共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって前記フィルタを調整し、
前記フィルタ調整部は、前記速度制御ゲインの値と前記周波数特性算出部から得られる周波数特性の共振ピーク振幅との定量関係によって、複数の周波数範囲での、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅の増大の速さを評価し、該速さが速い周波数範囲を優先的に前記フィルタを調整するサーボ制御装置。
【請求項2】
サーボモータの速度指令値を作成し、
前記サーボモータの速度を検出し、
前記速度指令値と検出された前記速度との差に、所定の周波数範囲で掃引される正弦波が加えられた信号を速度制御ゲインに入力し、
前記速度制御ゲインからの出力に基づいて前記サーボモータへのトルク指令値を作成し、
前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を少なくとも一個のフィルタで減衰させ、
前記特定の周波数帯成分が減衰された前記トルク指令値によって前記サーボモータを駆動する、サーボ制御装置のサーボ制御方法であって、
前記所定の周波数範囲で掃引される前記正弦波の周波数特性を算出し、前記速度制御ゲインの値を変更しながら、算出された周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインの値が共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整し、
前記速度制御ゲインの値と前記算出された周波数特性の共振ピーク振幅との定量関係によって、複数の周波数範囲での、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅の増大の速さを評価し、該速さが速い周波数範囲を優先的に前記フィルタを調整する、サーボ制御装置のサーボ制御方法。
【請求項3】
サーボモータのサーボ制御装置としてのコンピュータに、
サーボモータの速度指令値を作成する処理と、
前記サーボモータの速度を検出する処理と、
前記速度指令値と検出された前記速度との差に、所定の周波数範囲で掃引される正弦波が加えられた信号を速度制御ゲインに入力する処理と、
前記速度制御ゲインからの出力に基づいて前記サーボモータへのトルク指令値を作成する処理と、
前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を少なくとも一個のフィルタで減衰させる処理と、
前記特定の周波数帯成分が減衰された前記トルク指令値によって前記サーボモータを駆動する処理と、を実行させ、
前記所定の周波数範囲で掃引される前記正弦波の周波数特性を算出し、前記速度制御ゲインの値を変更しながら、算出された周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインの値が共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整し、
前記速度制御ゲインの値と前記算出された周波数特性の共振ピーク振幅との定量関係によって、複数の周波数範囲での、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅の増大の速さを評価し、該速さが速い周波数範囲を優先的に前記フィルタを調整する、サーボ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ制御装置、サーボ制御方法及びサーボ制御プログラムに関わり、特にサーボモータのサーボ制御装置、サーボ制御方法及びサーボ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータのサーボ制御装置が、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1では、サーボ制御装置において、速度制御ゲインの調整時に、トルク指令又は電流指令のサンプリング値を、周波数におけるサーボモータのトルクの強さへ変換し、サーボモータのトルクの強さがピークとなる周波数帯域を発振帯域と判断し、発振帯域におけるサーボモータのトルクの強さを減衰させるように帯域阻止フィルタを設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−126266号公報(要約、段落0008、図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、制御ゲインの与える影響が共振ピーク振幅だけでなく共振周波数に対してもある場合に、その周波数変動分も考慮に入れたフィルタ調整を行うことができなかった。
【0005】
本発明は、制御ゲインの与える影響が共振ピーク振幅だけでなく共振周波数に対してもある場合に、その周波数変動分も考慮に入れたフィルタ調整を行うことができるサーボ制御装置、サーボ制御方法及びサーボ制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わるサーボ制御装置(例えば、後述のサーボ制御装置10)は、サーボモータ(例えば、後述のサーボモータ20)の速度指令値を作成する速度指令作成部(例えば、後述の速度指令作成部100)と、前記サーボモータの速度を検出する速度検出部(例えば、後述の速度検出部107)と、速度制御ループの制御ゲインである速度制御ゲイン(例えば、後述の速度制御ゲイン101)と、前記サーボモータへのトルク指令値を作成するトルク指令作成部(例えば、後述のトルク指令作成部102)と、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させる少なくとも一個のフィルタ(例えば、後述のフィルタ103)と、所定の周波数範囲で正弦波掃引を行う正弦波掃引入力部(例えば、後述の正弦波掃引入力部104)と、掃引される正弦波の周波数特性を算出する周波数特性算出部(例えば、後述の周波数特性算出部105)と、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整するフィルタ調整部(例えば、後述のフィルタ調整部106)と、を備え、 前記速度制御ゲイン、前記トルク指令作成部、前記フィルタ及び前記速度検出部は前記速度制御ループを構成し、前記速度制御ゲインには、前記速度指令値と検出された前記速度との差に前記正弦波掃引入力部から出力される正弦波が加えられた信号が入力され、前記フィルタ調整部は、前記速度制御ゲインの値を変更しながら前記周波数特性算出部が算出する周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインが共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって前記フィルタを調整し、前記フィルタ調整部は、前記速度制御ゲインの値と前記周波数特性算出部から得られる周波数特性の共振ピーク振幅との定量関係によって、複数の周波数範囲での、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅の増大の速さを評価し、該速さが速い周波数範囲を優先的に、前記フィルタを調整するサーボ制御装置である。
【0007】
また本発明に係るサーボ制御装置は、サーボモータの速度指令値を作成する速度指令作成部と、前記サーボモータの速度を検出する速度検出部と、速度制御ループの制御ゲインである速度制御ゲインと、前記サーボモータへのトルク指令値を作成するトルク指令作成部と、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させる少なくとも一個のフィルタと、所定の周波数範囲で正弦波掃引を行う正弦波掃引入力部と、掃引される正弦波の周波数特性を算出する周波数特性算出部と、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整するフィルタ調整部と、を備え、 前記速度制御ゲイン、前記トルク指令作成部、前記フィルタ及び前記速度検出部は前記速度制御ループを構成し、前記速度制御ゲインには、前記速度指令値と検出された前記速度との差に前記正弦波掃引入力部から出力される正弦波が加えられた信号が入力され、前記フィルタ調整部は、前記速度制御ゲインの値を変更しながら前記周波数特性算出部が算出する周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインが共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって前記フィルタを調整し、前記フィルタ調整部は、前記速度制御ゲインの値と前記周波数特性算出部から得られる周波数特性の共振周波数との定量関係によって、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅を生じさせる周波数のシフトを評価し、前記共振ピーク振幅を生じさせる周波数で前記フィルタを適用するサーボ制御装置である。
【0008】
本発明に係るサーボ制御方法は、サーボモータの速度指令値を作成し、前記サーボモータの速度を検出し、前記速度指令値と検出された前記速度との差に、所定の周波数範囲で掃引される正弦波が加えられた信号を速度制御ゲインに入力し、前記速度制御ゲインからの出力に基づいて前記サーボモータへのトルク指令値を作成し、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を少なくとも一個のフィルタで減衰させ、前記特定の周波数帯成分が減衰された前記トルク指令値によって前記サーボモータを駆動する、サーボ制御装置のサーボ制御方法であって、 前記所定の周波数範囲で掃引される前記正弦波の周波数特性を算出し、前記速度制御ゲインの値を変更しながら、算出された周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインの値が共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整し、前記速度制御ゲインの値と前記算出された周波数特性の共振ピーク振幅との定量関係によって、複数の周波数範囲での、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅の増大の速さを評価し、該速さが速い周波数範囲を優先的に、前記フィルタを調整する、サーボ制御装置のサーボ制御方法である。
【0009】
本発明に係わるサーボ制御方法は、サーボモータの速度指令値を作成し、前記サーボモータの速度を検出し、前記速度指令値と検出された前記速度との差に、所定の周波数範囲で掃引される正弦波が加えられた信号を速度制御ゲインに入力し、前記速度制御ゲインからの出力に基づいて前記サーボモータへのトルク指令値を作成し、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を少なくとも一個のフィルタで減衰させ、前記特定の周波数帯成分が減衰された前記トルク指令値によって前記サーボモータを駆動する、サーボ制御装置のサーボ制御方法であって、 前記所定の周波数範囲で掃引される前記正弦波の周波数特性を算出し、前記速度制御ゲインの値を変更しながら、算出された周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインの値が共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整し、前記速度制御ゲインの値と前記算出された周波数特性の共振周波数との定量関係によって、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅を生じさせる周波数のシフトを評価し、前記共振ピーク振幅を生じさせる周波数で前記フィルタを適用する、サーボ制御装置のサーボ制御方法である。
【0010】
本発明に係わるサーボ制御プログラムは、サーボモータのサーボ制御装置としてのコンピュータに、 サーボモータの速度指令値を作成する処理と、前記サーボモータの速度を検出する処理と、前記速度指令値と検出された前記速度との差に、所定の周波数範囲で掃引される正弦波が加えられた信号を速度制御ゲインに入力する処理と、 前記速度制御ゲインからの出力に基づいて前記サーボモータへのトルク指令値を作成する処理と、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を少なくとも一個のフィルタで減衰させる処理と、前記特定の周波数帯成分が減衰された前記トルク指令値によって前記サーボモータを駆動する処理と、を実行させ、 前記所定の周波数範囲で掃引される前記正弦波の周波数特性を算出し、前記速度制御ゲインの値を変更しながら、算出された周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインの値が共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整し、 前記速度制御ゲインの値と前記算出された周波数特性の共振ピーク振幅との定量関係によって、複数の周波数範囲での、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅の増大の速さを評価し、該速さが速い周波数範囲を優先的に、前記フィルタを調整する、サーボ制御プログラムである。 また本発明に係わるサーボ制御プログラムは、サーボモータのサーボ制御装置としてのコンピュータに、 サーボモータの速度指令値を作成する処理と、前記サーボモータの速度を検出する処理と、前記速度指令値と検出された前記速度との差に、所定の周波数範囲で掃引される正弦波が加えられた信号を速度制御ゲインに入力する処理と、前記速度制御ゲインからの出力に基づいて前記サーボモータへのトルク指令値を作成する処理と、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を少なくとも一個のフィルタで減衰させる処理と、前記特定の周波数帯成分が減衰された前記トルク指令値によって前記サーボモータを駆動する処理と、を実行させ、 前記所定の周波数範囲で掃引される前記正弦波の周波数特性を算出し、前記速度制御ゲインの値を変更しながら、算出された周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、前記速度制御ゲインの値が共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、前記トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるように前記フィルタを調整し、前記速度制御ゲインの値と前記算出された周波数特性の共振周波数との定量関係によって、前記速度制御ゲインの値の変動に対する前記共振ピーク振幅を生じさせる周波数のシフトを評価し、前記共振ピーク振幅を生じさせる周波数で前記フィルタを適用する、サーボ制御プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、制御ゲインの与える影響が共振ピーク振幅だけでなく共振周波数に対してもある場合に、その周波数変動分も考慮に入れたフィルタ調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係わる一実施形態のサーボ制御装置、サーボモータ、及び伝達機構を含むシステムを示すブロック図である。
図2】本発明に係わる一実施形態のサーボ制御装置における、速度制御ゲインが変動する場合の、周波数とゲイン(振幅)との関係を示す特性図である。
図3】本発明に係わる一実施形態のサーボ制御装置における、速度制御ゲインをデシベルで横軸(x軸)に示し、共振ピークゲイン(共振ピーク振幅)をデシベルで縦軸(y軸)に示した特性図である。
図4】本発明の一実施形態のサーボ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明に係わる一実施形態のサーボ制御装置、サーボモータ、及び伝達機構を含むシステムを示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、サーボ制御装置10は、サーボモータ20の速度指令値を作成する速度指令作成部100と、速度制御ループの制御ゲインである速度制御ゲイン101と、サーボモータ20のトルク指令値を作成するトルク指令作成部102と、トルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるフィルタ103と、を備えている。
またサーボ制御装置10は、サーボモータ20の速度を検出する速度検出部107、速度制御ループへ、所定の周波数範囲で正弦波掃引を行う正弦波掃引入力部(正弦波外乱入力部)104、正弦波掃引入力部104により掃引される正弦波の周波数特性を算出する周波数特性算出部105、及びトルク指令値に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるようにフィルタ103を調整するフィルタ調整部106を備えている。
速度制御ゲイン101、トルク指令作成部102、フィルタ103、及び速度検出部107は、サーボモータ20の回転速度を制御する速度制御ループを構成する。フィルタ13は図1では1個示されているが、複数個設けてもよい。
【0015】
伝達機構30は工作機械の送り軸、サーボモータ20の回転数を減速させる減速機、サーボモータ20の回転運動を直線運動に変換する変換機構等である。
【0016】
フィルタ調整部106は、速度制御ゲイン101の値を変更しながら速度制御ゲイン101の出力値を参照し、周波数特性算出部105が算出する周波数特性に含まれる共振周波数を検出し、速度制御ゲイン101がその共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、フィルタ103の、減衰させる周波数帯を調整する。例えば、図2に示すように、フィルタ調整部106が速度制御ゲイン101の速度制御ゲインの値ωを、200、400、800、1600()に変更しながら、速度制御ゲイン101の出力値を参照し、周波数特性算出部105が算出する周波数特性に含まれる共振周波数を検出する。そして、フィルタ調整部106は、速度制御ゲイン101がその共振周波数及び共振ピーク振幅に与える影響を測定することによって、トルク指令に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるようにフィルタ103を調整する。
【0017】
上述したように、図2は速度制御ゲインが変動する場合の、周波数とゲイン(振幅)との関係を示す特性図である。図2に示すように、速度制御ゲインの値ωを、200、400、800、1600()に変更すると、速度制御ゲインの上昇に対応して、共振ピークが増大していくことが分かる。また速度制御ゲインの値ωを、200、400、800、1600()に変更すると、速度制御ゲインの上昇に対応して、860Hz近傍の周波数領域で2つの共振ピークゲインの値の大小関係が変わり(最大共振ピークゲインが得られる共振周波数が高周波側にシフトする)、1150Hz近傍、1310Hz近傍の周波数領域で共振ピークゲインが得られるときの共振周波数が低周波数側にシフトしていくことが分かる。
【0018】
なお、共振周波数のずれは他の要因によっても生じ、例えば、非特許文献1(H.-C. Mo¨hring (2) et al. CIRP Annals-Manufacturing Technology 64 (2015) 725-748)では、機械構造の共振について報告がなされており、ねじり振動よりも曲げ振動のほうが共振周波数のずれが相対的に大きく、曲げに起因する共振モードは、共振周波数が変化しやすいことが記載されている。本実施形態では、このような特性に着目し、速度制御ゲイン101の与える影響が共振周波数に対して顕著である場合には、その周波数変動分も考慮に入れて、トルク指令に含まれる特定の周波数帯成分を減衰させるようにフィルタ103を調整する。
【0019】
フィルタ調整部106は速度制御ゲイン101の値と周波数特性算出部105から得られる周波数特性の共振ピーク振幅との定量関係を数式に記述して共振特性の評価及びフィルタの適用可能性を決定することができる。図3は、速度制御ゲインをデシベルで横軸(x軸)に示し、共振ピークゲイン(共振ピーク振幅)をデシベルで縦軸(y軸)に示した特性図である。図3では、860Hz近傍の周波数範囲での共振ピークゲイン、1150Hz近傍の周波数範囲での共振ピークゲイン、1310Hz近傍の周波数範囲での共振ピークゲインを示している。これらの周波数範囲は図2においてそれぞれ点線で示されている。
【0020】
速度制御ゲインと共振ピークゲインとの定量関係は、速度制御ゲインが200、400、800、1600の場合に、それぞれ図3に示す、次の3つの数式(数1−数3)で示す直線で表すことができる。yは共振ピークゲイン、xは速度制御ゲインを示している。図3において、Rは決定係数であり、数1−数3で表される直線がどの程度当てはまっているかの目安を表すものである。
【0021】
【数1】
【0022】
【数2】
【0023】
【数3】
【0024】
ここで、速度制御ゲインと共振ピークゲインとの定量関係は、線形系(バネマスダンパ系)ならば、直線の傾きは1になるべきである。しかし、数1から数3に示されるように、傾きは1より大きくなっている。1より大きな傾き共振が増大するのは、非線形な共振成長の“速さ”を表している。この“速さ”の順にフィルタ適用の優先度を決定すれば、非線形な共振成長が速いほど優先的にフィルタを調整することができる。数1から数3から明らかなように、傾きは1.3368>1.2633>1.1812となっているので、優先順位は、優先順位の上から、1150HZ近傍の周波数範囲、860HZ近傍の周波数範囲、1310HZ近傍の周波数範囲となる。したがって、速度制御ゲインに対して各ゲインピーク(共振モード)の成長の仕方を調べ、それを定量化したパラメータ値によって優先度を明確に決定することができる。その結果、異なる制御ゲイン下での複数回の周波数応答計測による共振モードの定量評価、それに基づくフィルタ強度調整及び優先度の決定を実現することができる。
【0025】
また、フィルタ調整部106は速度制御ゲイン101の値と周波数特性算出部105から得られる周波数特性の共振周波数との定量関係によって共振特性の評価及びフィルタの適用可能性を決定することができる。上述したように、図2から、速度制御ゲインの値ωを、200、400、800、1600()に変更すると、共振ピーク振幅のときの共振周波数が高周波側又は低周波数側にシフトしていくことが分かる。そこで、速度制御ゲインの値に対応して、共振ピークがどの周波数で生じるかを評価でき、どの周波数帯域でフィルタを適用すべきかを判断することができる。
【0026】
次に、サーボ制御装置の動作について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0027】
先ず、速度指令作成部100が速度指令値(速度の目標値)を出力し、正弦波掃引入力部104が所定の周波数範囲で正弦波(正弦波外乱)を出力する(ステップS201)。例えば、正弦波掃引入力部104は例えば、500Hzから2000Hz周波数範囲で正弦波掃引を行う。速度検出部107がサーボモータ20の実際の速度値を検出して(ステップS202)、速度検出値を出力する。
【0028】
次に、速度指令値と実際の速度検出値との速度誤差(Vsub)に、正弦波(α)を加えて、速度制御ゲイン101に入力する。速度制御ゲイン101の速度制御ゲインの値ωはフィルタ調整部106によって設定される。トルク指令作成部102は速度制御ゲイン101の出力値(ω・(Vsub+α))に基づいてトルク指令値を生成し(ステップS203)、フィルタ103に出力する。周波数特性算出部105は、正弦波掃引入力部104によって掃引される正弦波の周波数特性を算出する(ステップS204)。
【0029】
フィルタ調整部106は速度制御ゲイン101の出力値(ω・(Vsub+α))と周波数特性算出部105で算出された周波数特性とに基づいて、周波数特性算出部105が算出する周波数特性に含まれる共振周波数と共振ピーク振幅とを検出する(ステップS205)。
【0030】
次に、フィルタ調整部106は速度制御ゲインを変更して再度、周波数特性を算出するかどうかを判断する(S206)。速度制御ゲインを変更して再度、周波数特性を算出する場合には(S206のyes)、フィルタ調整部106が速度制御ゲインを調整し(ステップS207)、ステップS201に戻る。
【0031】
一方、速度制御ゲインを変更しない場合には(S206のno)、フィルタ調整部106は速度制御ゲインとそれぞれの共振ピーク振幅及び共振周波数との定量関係をそれぞれフィッティングし(ステップS208)、フィルタを適用すべき共振を決定し(ステップS209)、フィルタ103に対してフィルタ対象の共振のためのフィルタ特性を指定する(S210)。
【0032】
以上説明した実施形態のサーボ制御装置の全部又は一部は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組合せにより実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。ハードウェアで構成する場合、図1に示す、サーボ制御装置の一部又は全部を、例えば、LSI(Large Scale Integrated circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ゲートアレイ、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路(IC)で構成することができる。
【0033】
サーボ制御装置の全部又は一部をソフトウェアで構成する場合、図4のフローチャートで示されるサーボ制御装置の動作の全部又は一部を記述したプログラムを記憶した、ハードディスク、ROM等の記憶部、演算に必要なデータを記憶するDRAM、CPU、及び各部を接続するバスで構成されたコンピュータにおいて、演算に必要な情報をDRAMに記憶し、CPUで当該プログラムを動作させることで実現することができる。
【0034】
プログラムは、様々なタイプのコンピュータ可読媒体(computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。コンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。コンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。
【0035】
以上説明した本実施形態のサーボ制御装置及びサーボ制御方法によれば、ゲインとフィルタを一体化して挙動を把握した上で共振特性を分析することで、感覚に頼らない調整が自動で可能であり、有限個のフィルタを最大限活用することができる。
【0036】
また本実施形態のサーボ制御装置及びサーボ制御方法によれば、共振モードの非線形挙動を含めて定量化することによって、調整の正確さを向上しつつ、よりロバストな制御系を容易に実現できる。
【符号の説明】
【0037】
10 サーボ制御装置
20 サーボモータ
30 伝達機構
100 速度指令作成部
101 速度制御ゲイン
102 トルク指令作成部
103 フィルタ
104 正弦波掃引入力部
105 周波数特性算出部
106 フィルタ調整部
107 速度検出部
図1
図2
図3
図4