(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記層状物質は、スメクタイト又は酸化グラフェンであり、前記粒状物質は、セラミック粒子であることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の電気化学センサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学センサの銀塩化銀電極は、例えば、電気化学センサの基材上に設けられた下地電極上に形成されている。近年の電気化学センサの各電極(作用電極、対電極、下地電極)のサイズは極めて小さくなっている。また、電極間の間隔も狭くなっているため、近年の電気化学センサは、短絡が生じないように銀塩化銀電極を形成することが困難となっている。また、電気化学センサで長時間測定する場合には、銀塩化銀の溶出により、参照電極の電位が安定しないことが問題であった。
【0006】
非特許文献1では、Agスパッタリング膜をAgCl化することで作製された凹凸の小さなAg/AgCl電極に酸化グラフェンを塗布している。しかし、非特許文献1では、Ag/AgCl電極と他電極との短絡を抑止することの解決には至っていない。
【0007】
本発明の課題は、銀塩化銀電極の形成範囲や形成位置に関するマージンを広げることができ、かつ、銀塩化銀の溶出を抑え、銀塩化銀電極(参照電極)の電位を安定させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の電気化学センサは、基材と、前記基材上に配置された導体と、前記導体の一部が露出する状態で前記導体を覆う絶縁層と、少なくとも前記導体の露出した部分上に形成された銀塩化銀電極と、水分透過性を有する層状物質又は粒状物質を含み、前記銀塩化銀電極を覆う保護膜と、を備える。
【0009】
すなわち、本発明の電気化学センサの導体(及び基材)上には、導体の一部が露出する状態で導体を覆う絶縁層が設けられている。従って、本発明の電気化学センサでは、絶縁層の外縁よりも内側に銀塩化銀電極が形成されることで、銀塩化銀電極と基材上の他電極(作用電極や対電極)との短絡は生じない。また、導体の一部が露出する状態で導体を覆う絶縁層は、導体よりも大きい。そのため、本発明の構成を採用することにより、絶縁層が導体上に設けられていない電気化学センサよりも、銀塩化銀電極の形成範囲や形成位置に関するマージンが広い電気化学センサが得られる。さらに、本発明の電気化学センサは
、水分透過性を有する層状物質又は粒状物質を含み、銀塩化銀電極を覆う保護膜を備えている。そのため、本発明の電気化学センサでは、当該保護膜により、銀塩化銀の溶出が抑えられ、参照電極としての銀塩化銀電極の電位が安定することにもなる。
【0010】
また、本発明の電気化学センサを、前記導体の露出した部分及び前記絶縁層上に形成されている銀塩化銀電極を備えたものとして構成(製造)しておけば、絶縁層が導体上に設けられていない電気化学センサよりも、センサ内の銀塩化銀電極の量が多いが故に長寿命なセンサが得られることになる。
【0011】
本発明の電気化学センサの絶縁層の形状は、基材上の他電極(作用電極や対電極)を過度に覆わないものでありさえすれば、“導体の露出した部分”の近傍のみを覆う形状であっても良い。ただし、絶縁層の外形サイズが大きい方が、銀塩化銀電極の形成が容易であり、より大きな銀塩化銀電極を絶縁層上に形成することができる。従って、絶縁層の形状は、絶縁層が他電極を覆わない(又は、他電極を過度に覆わない)という条件下、絶縁層の各部の幅が極力広くなるように定めておくことが好ましい。
【0012】
本発明の電気化学センサの保護膜は、銀イオン及び/又は銀クロライド錯体の外部溶液
への拡散溶出を抑制する制限膜であることが好ましい。これにより、銀塩化銀電極近傍に銀及び銀クロライド錯体が保持され、平衡状態がAgClの電離及びクロライド錯体の形成が起こらない方向へシフトし、銀塩化銀電極の継続的な溶解が抑制される。また、当該保護膜に含まれる層状物質及び粒状物質は、無機物質であっても良い。更に、銀塩化銀電極を覆う保護膜に含まれる層状物質は、スメクタイト又は酸化グラフェンであっても良いし、銀塩化銀電極を覆う保護膜に粒状物質は、セラミック粒子であっても良い。尚、本発明の電気化学センサに、どの程度の水分透過性を有する層状物質又は粒状物質を採用するかは、電気化学センサの用途や具体的な構成等に基づき定めることができる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の電気化学センサの製造方法は、基材、前記基材上に配置された導体、及び、前記導体の一部が露出する状態で前記導体を覆う絶縁層を含む構造体を形成する工程と、少なくとも前記導体の露出した部分と接触するように前記構造体上に銀塩化銀電極を形成する工程と、水分透過性を有する層状物質又は粒状物質を含み、前記銀塩化銀電極を覆う保護膜を形成する工程と、を含む。
【0014】
すなわち、本発明の電気化学センサの製造方法には、『基材、前記基材上に配置された導体、及び、前記導体の一部が露出する状態で前記導体を覆う絶縁層を含む構造体』上に、少なくとも導体の露出した部分と接触するように銀塩化銀電極を形成する工程が含まれる。そして、当該工程において、絶縁層の外縁よりも内側に銀塩化銀電極が形成されることで、銀塩化銀電極と基材上の他電極(作用電極や対電極)との短絡は生じない。従って、本発明の電気化学センサの製造方法によれば、絶縁層が導体上に設けられていない電気化学センサの製造時よりも銀塩化銀電極の形成範囲や形成位置に関するマージンが広い形で、電気化学センサを製造することができる。また、本発明の電気化学センサの製造方法によれば、絶縁層が導体上に設けられていない電気化学センサの製造時よりもセンサ内の銀塩化銀電極の量が多い電気化学センサを容易に製造することができる。さらに、本発明の電気化学センサの製造方法により製造される電気化学センサは、水分透過性を有する層状物質又は粒状物質を含み、銀塩化銀電極を覆う保護膜を備えている。そのため、本発明の電気化学センサの製造方法により製造される電気化学センサでは、当該保護膜により、銀塩化銀の溶出が抑えられ、参照電極としての銀塩化銀電極の電位が安定することにもなる。
【0015】
本発明の電気化学センサの製造方法における“銀塩化銀電極を形成する工程”は、どのような内容/手順のものであっても良い。ただし、当該工程として、銀塩化銀インクを前
記構造体上に塗布する工程を含むものを採用しておけば、他の工程(例えば、マスク層の形成、真空蒸着等からなる工程)を採用した場合よりも、容易に銀塩化銀電極を形成することができる。
【0016】
また、本発明の電気化学センサの銀塩化銀電極は、絶縁層により覆われた導体の露出した部分と接触するように形成され、保護膜にて覆われている構成を有する。従って、本発明の電気化学センサの銀塩化銀電極は、形成範囲や形成位置に関するマージンが広い電極となっている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、銀塩化銀電極の形成範囲や形成位置に関するマージンを広げることができ、かつ、銀塩化銀の溶出を抑え、銀塩化銀電極の電位を安定させる技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る電気化学センサの構成を、製造手順と共に説明する。尚、本発明の一実施形態に係る電気化学センサは、血中又は皮下の間質液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を持続的に測定するために、人体の腹部や肩等の皮膚下にその先端側が挿入されるセンサである。ただし、本発明に係る参照電極(銀塩化銀電極)関連の構造は、銀塩化銀電極を備えた電気化学センサであれば、その用途によらず、適用できるものである。
【0020】
図1は、実施形態に係る電気化学センサにおける銀塩化銀電極23が設けられている部分の、基材11の短手方向に平行な断面図を示している。
図2は、実施形態に係る電気化学センサの製造過程で形成されるセンサ用構造体の平面図を示している。
【0021】
本実施形態に係る電気化学センサ(
図1参照)は、
図2に示したセンサ用構造体の下地電極23c及び絶縁層30上に、銀塩化銀電極23を形成した後、少なくとも銀塩化銀電極23を覆う保護膜32を形成し、少なくとも保護膜32を覆うポリマー膜34を形成することにより製造される。
【0022】
まず、
図2を参照して、センサ用構造体について説明する。
図2に示すように、センサ用構造体は、細長い基材11と、基材11の一方の端部上に形成された対電極21、作用電極22及び下地電極23cとを備える。また、センサ用構造体は、作用電極22上に形成された酵素試薬層24、及び、基材11の他方の端部上に形成されたコンタクトパッド26a〜26cを備える。さらに、センサ用構造体は、基材11上に形成された、コンタクトパッド26aと対電極21との間を接続する配線25a、コンタクトパッド26bと
作用電極22との間を電気的に接続する配線25b及びコンタクトパッド26cと下地電極23cとの間を電気的に接続する配線25cを備える。
【0023】
センサ用構造体の各コンタクトパッド26x(x=a〜c)は、製造完了後の電気化学センサの使用時に、電気化学センサ用の測定装置に設けられている対応する端子と接続される端子である。尚、電気化学センサの使用時には、通常、コンタクトパッド26aとコンタクトパッド26cとの間の電位が制御されて、コンタクトパッド26aとコンタクトパッド26bとの間を流れる電流量が検出される。
【0024】
下地電極23cは、銀塩化銀電極23(
図1)の下地電極として基材11上に形成されている導体である。
図1及び
図2に示すように、センサ用構造体(電気化学センサ)の下地電極23c上には、下地電極23cの一部が露出する状態で下地電極23cを覆う絶縁層30が設けられている。すなわち、絶縁層30は開口部を有し、絶縁層30の開口部から下地電極23cが露出している。
【0025】
絶縁層30は、基材11の上面に形成されている。絶縁層30の外形サイズは、下地電極23cの外形サイズよりも大きい。絶縁層30の外形サイズ及び下地電極23cの外形サイズは、基材11の上面の法線方向から見た平面視におけるサイズである。また、絶縁層30は、下地電極23cの一部が露出する状態で下地電極23cを覆っている。
【0026】
既に説明したように、本実施形態に係る電気化学センサでは、下地電極23c及び絶縁層30上に銀塩化銀電極23(
図1)が形成される。従って、絶縁層30の外形サイズが大きくなるほど、銀塩化銀電極23の形成が容易となり、より大きな外形サイズの銀塩化銀電極23を絶縁層30上に形成できる。銀塩化銀電極23の外形サイズは、基材11の上面の法線方向から見た平面視におけるサイズである。絶縁層30の外形サイズは、下地電極23cの外形サイズよりも僅かに大きくてもよいが、絶縁層30の外形サイズは大きい方がより好ましい。ただし、絶縁層30によって下地電極23cの隣接電極(
図2では、作用電極22)を覆ってしまうことは好ましくない。
【0027】
そのため、絶縁層30の形状は、絶縁層30が下地電極23cの隣接電極を覆わない(又は、隣接電極を過度に覆わない)という条件下、絶縁層30の各部の幅が極力広くなるように定めておくことが好ましい。尚、絶縁層30の各部の幅とは、絶縁層30の開口部(そこから下地電極23cが露出する部分)と絶縁層30の外縁との間の距離(間隔)のことである。
【0028】
センサ用構造体の基材11の構成材料としては、適当な絶縁性及び可撓性を有する、人体への害がない材料、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)のような熱可塑性樹脂を用いることができる。基材11の構成材料として、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0029】
また、絶縁層30の構成材料としては、絶縁性を有する薄膜を容易に製造できる材料、例えば、パレリン(日本パリレン合同会社の登録商標)を用いることができる。
【0030】
基材11上の、対電極21と配線25aとコンタクトパッド26aとからなる部分は、金属(例えばAu(金))等の導電性材料で形成された導電性パターン自体であっても、そのような導電性パターン上の一部に他の導電性材料層を形成したものであっても良い。基材11上の、作用電極22と配線25bとコンタクトパッド26bとからなる部分、下地電極23cと配線25cとコンタクトパッド26cとからなる部分も、上記のような導電性パターン自体であっても、上記のような導電性パターン上の一部に他の導電性材層を
形成したものであっても良い。
【0031】
作用電極22上の酵素試薬層24は、グルコース酸化還元酵素を固定した層である。グルコース酸化還元酵素としては、GOD(グルコースオキシダーゼ)、GDH(グルコースデヒドロゲナーゼ)を用いることができる。また、グルコース酸化還元酵素の固定法としては、公知の手法を用いることができる。具体的には、グルコース酸化還元酵素の固定法としては、重合可能なジェル、ポリアクリルアミド、またはリンのようなポリマーを用いた方法、シランカップリング剤によりリン脂質ポリマーを結合させたMPCポリマーを用いた方法、またはたん白皮膜による方法を用いることができる。
【0032】
銀塩化銀電極23について説明する。銀塩化銀電極23は、参照電極として、少なくとも下地電極23cの露出した部分上に形成される銀塩化銀(銀と塩化銀の混合物)である。この銀塩化銀電極23の形成プロセスは、どのようなプロセスであっても良い。例えば、銀塩化銀インクをセンサ用構造体上にスクリーン印刷法により塗布することによって、銀塩化銀電極23を形成しても良い。
【0033】
また、銀塩化銀電極23の外形サイズは、下地電極23cと同程度の外形サイズであっても良い。ただし、本実施形態に係る電気化学センサでは、絶縁層30の外縁よりも内側に銀塩化銀電極23を形成することにより、銀塩化銀電極23と他電極(対電極11や作用電極22)との短絡は生じない。そして、電気化学センサ内の銀塩化銀電極23の量が多い方が、電気化学センサの寿命は長くなる。そのため、銀塩化銀電極23の外形サイズを、下地電極23cの外形サイズよりも大きくすることが好ましい。尚、銀塩化銀電極23の外形サイズの上限は、銀塩化銀電極23の形成プロセスの位置精度と絶縁層30の外形サイズとから求めることができる。
【0034】
保護膜32について説明する。保護膜32は、銀塩化銀電極23及びその周辺部分を覆っている。保護膜32は、水分透過性を有する層状物質又は粒状物質を含んでいる。層状物質として、例えば、酸化グラフェン及びスメクタイトが挙げられる。酸化グラフェン及びスメクタイトは、水分透過性を有する無機物質である。酸化グラフェンは、単層又は複層であってもよい。複層の酸化グラフェンは、酸化グラファイトとも呼ばれる。スメクタイトは、内部に層を複数有する複層構造である。粒状物質として、例えば、セラミック粒子が挙げられる。セラミック粒子は、多孔性であり、水分透過性を有する無機物質である。保護膜32が、複数のセラミック粒子を含む場合、複数のセラミック粒子が凝集した状態において、セラミック粒子同士の間を水分が透過する。尚、保護膜32として、どの程度の水分透過性を有する膜を採用するかは、電気化学センサの用途や具体的な構成等に基づき定めることができる。
【0035】
ポリマー膜34は、外層膜として機能する。ポリマー膜34は、保護膜32及びその周辺部分のみを覆うものであっても良いし、電気化学センサの先端側を全て覆うもの(
図1参照)であっても良い。尚、
図1には、ポリマー膜34上に他の層が存在していない電気化学センサを示してあるが、ポリマー膜34上に他の層が存在していても良い。ポリマー膜34上に、他の層、例えば、基質(グルコース)の透過を制限するための外層膜が設けられていても良い。
【0036】
ポリマー膜34として、例えば、セルロースアセテート、ポリウレタン、シリコン系ポリマー(ポリシロキサン)、ハイドロゲル、ポリビニルアルコール、HEMA(ヒドロキ
シエチルメタクリレート)及びこれらを含むコポリマーを用いることができる。ポリマー
膜34は、単一の材料であってもよいし、複数の材料を用いた混合膜であってもよい。
【0037】
以下、実施例1、2及び比較例に基づき、本実施形態に係る電気化学センサの機能につ
いてさらに詳細に説明する。尚、以下で説明する実施例1、2及び比較例に係る電気化学センサは、主として、保護膜32の機能評価のために製造したものである。
【0038】
《実施例1》
まず、基材11としてのポリエーテルエーテルケトン基材上にAu(金)をスパッタ法により形成した。次いで、基材11上のAu膜をレーザートリミングすることにより基材11上に下地電極23c、配線25c及びコンタクトパッド26c等を形成した。その後、下地電極23c等を形成した基材11上をパリレン(日本パリレン合同会社の登録商標)で被覆した。次いで、フォトレジスト貼付後のドライエッチングによりパリレンをパターニングすることで、0.04mm
2の開口部を有し、開口部から下地電極23cが露出
する形状の絶縁層30を形成した。
【0039】
絶縁層30の開口部(上記0.04mm
2の領域)を包含する0.06mm
2の領域に、銀塩化銀インク(Gwent Electronic Materials C2121101D1(開発品))をスクリーン印刷
法で塗布することにより、下地電極23c及び絶縁層30上に銀塩化銀電極23が形成されたセンサを得た。その後、銀塩化銀電極23を覆うように、酸化グラフェン(5g/L)を分注装置で40nL(ナノリットル)塗布した。次いで、当該センサを40℃で2時間乾燥させることにより、銀塩化銀電極23を覆う保護膜32を形成した。このように形成された保護膜32の厚さは、例えば、0.5μm以上1μm以下である。
【0040】
次に、当該センサを100℃で2時間熱処理を行うことにより、酵素試薬層24を硬化させた。その後、セルロースアセテートとポリウレタンの混合膜を塗布することにより、保護膜32を覆うポリマー膜34を形成して、実施例1に係る電気化学センサを得た。尚、
図1に示すように、当該センサの最外層をポリマー膜34が覆っていてもよい。
【0041】
《実施例2》
実施例2に係る電気化学センサは、実施例1に係る電気化学センサを得る処理(工程)と同じ手順で銀塩化銀電極23の形成までを行ったセンサに対して、以下の処理を行うことにより製造したものである。
【0042】
銀塩化銀電極23を覆うように、0.57%(w/v)スメクタイト(商品名「ルーセンタイトSWN」、コープケミカル社製)を分注装置で40nL塗布した。次いで、当該センサを40℃で2時間乾燥させることにより、銀塩化銀電極23を覆う保護膜32を形成した。このように形成された保護膜32の厚さは、例えば、0.5μm以上1μm以下である。
【0043】
次に、当該センサを100℃で2時間熱処理を行うことにより、酵素試薬層24を硬化させた。その後、セルロースアセテートとポリウレタンの混合膜を塗布することにより、保護膜32を覆うポリマー膜34を形成して、実施例2に係る電気化学センサを得た。尚、
図1に示すように、当該センサの最外層をポリマー膜34が覆っていてもよい。
【0044】
《比較例1》
比較例1に係る電気化学センサでは、実施例1、2に係る電気化学センサと同じ手順で銀塩化銀電極23の形成を行い、銀塩化銀電極23を覆うようにポリマー膜34を形成した。従って、比較例1に係る電気化学センサでは、銀塩化銀電極23上に保護膜32を形成していない。
【0045】
《実施例1、2及び比較例に係る電気化学センサの評価方法及び評価結果》
上記のようにして製造した実施例1、2及び比較例に係る電気化学センサの銀塩化銀電極23の電位の安定性を評価した。
【0046】
・銀塩化銀電極23の電位の安定性の評価法及び評価結果
上記手順で製造した実施例1、2及び比較例に係る電気化学センサを、37℃のPBS(Phosphate Buffered Saline)溶液中に浸漬し、各センサの銀塩化銀電極23の電位を、
ビー・エー・エス社製銀塩化銀電極(内部液3M NaCl)を基準に測定し、各電位の推移を10日間記録した。
【0047】
図3〜
図5に、各電気化学センサの銀塩化銀電極23の電位推移の記録結果を示す。
図3は、実施例1及び比較例の電位推移の記録結果を示している。実施例1については、酸化グラフェン(5g/L)を20nL塗布した電気化学センサと、酸化グラフェン(5g/L)を40nL塗布した電気化学センサとを用いた。また、実施例1については、ポリマー膜34が保護膜32を覆っている電気化学センサを用いた。
【0048】
図3から明らかなように、銀塩化銀電極23を保護膜32が覆っていない比較例の電気化学センサでは、測定開始後3日又は5日までに、電位のドリフトが観察された。一方、銀塩化銀電極23を保護膜32が覆っている実施例1の電気化学センサでは、測定開始後5日経過しても、電位が安定しており、電気化学センサの参照電極(銀塩化銀電極23)の電位の安定化に有効であることが確認できた。
【0049】
図4は、実施例1、2及び比較例の電位推移の記録結果を示している。実施例1については、酸化グラフェン(5g/L)を60nL塗布した電気化学センサを用いた。実施例2については、0.57%(w/v)スメクタイトを60nL塗布した電気化学センサを用いた。また、実施例1、2については、ポリマー膜34が保護膜32を覆っていない電気化学センサを用いた。
【0050】
図4から明らかなように、銀塩化銀電極23を保護膜32が覆っていない比較例の電気化学センサでは、測定開始後3日までに、電位のドリフトが観察された。一方、銀塩化銀電極23を保護膜32が覆っている実施例1、2の電気化学センサでは、測定開始後5日経過しても電位が安定しており、電気化学センサの参照電極(銀塩化銀電極23)の電位の安定化に有効であることが確認できた。
【0051】
図5は、実施例1、2及び比較例の電位推移の記録結果を示している。実施例1については、酸化グラフェン(5g/L)を60nL塗布した電気化学センサを用いた。実施例2については、0.57%(w/v)スメクタイトを60nL塗布した電気化学センサを用いた。また、実施例1、2については、ポリマー膜34が保護膜32を覆っている電気化学センサを用いた。
【0052】
図5から明らかなように、銀塩化銀電極23を保護膜32が覆っていない比較例の電気化学センサでは、測定開始後5日又は7日までに、電位のドリフトが観察された。一方、銀塩化銀電極23を保護膜32が覆っている実施例1、2の電気化学センサでは、測定開始後7日経過しても電位が安定しており、電気化学センサの参照電極(銀塩化銀電極23)の電位の安定化に有効であることが確認できた。
【0053】
ここでは、酸化グラフェン又はスメクタイトを含む保護膜32を備える電気化学センサの電位の安定性を評価した。セラミック粒子を含む保護膜32を備える電気化学センサについても、参照電極(銀塩化銀電極23)の電位の安定化に有効である。セラミック粒子は、溶媒に分散可能であり、塗布や噴霧により、銀塩化銀電極23を覆う保護膜32を形成することが可能である。
【0054】
以上、説明したように、本実施形態に係る電気化学センサの下地電極23c及び基材1
1上には、下地電極23cの一部が露出する状態で下地電極23cを覆う絶縁層30が設けられている。そのため、本実施形態に係る電気化学センサでは、絶縁層30の外縁よりも内側に銀塩化銀電極23を形成することにより、銀塩化銀電極23と他電極(対電極11や作用電極22)との短絡は生じない。
【0055】
一方、絶縁層30が設けられていない場合、
図6に模式的に示したように、プロセス誤差により、銀塩化銀電極23の形成位置が下地電極23cと配線25aとの間の間隔と同程度ずれただけで、銀塩化銀電極23により下地電極23cと配線25aとの間が短絡してしまう。
【0056】
そして、上記したように、本実施形態に係る電気化学センサでは、絶縁層30の外縁よりも内側に銀塩化銀電極23を形成することにより、銀塩化銀電極23と他電極(対電極11や作用電極22)との短絡は生じない。従って、本実施形態に係る電気化学センサの構成を採用することにより、絶縁層30を備えない電気化学センサよりも、銀塩化銀電極23の形成位置等に関するマージンが広いセンサを実現できることになる。
【0057】
図6に示すように、絶縁層30が設けられていない場合、下地電極23cと配線25aとの間の短絡や下地電極23cと配線25cとの間の短絡を抑止するためには、下地電極23cと配線25aとの間の間隔を広くしたり、下地電極23cと配線25cとの間の間隔を広くしたりすることになる。本実施形態に係る電気化学センサの構成を採用することにより、下地電極23cと配線25aとの間の間隔を狭くし、下地電極23cと配線25cとの間の間隔を狭くすることができる。その結果、本実施形態に係る電気化学センサの構成を採用することにより、絶縁層30を設けていない電気化学センサよりも、微小な電極を備える電気化学センサを実現できる。
図1と
図6とを比較すれば明らかなように、本実施形態に係る電気化学センサの構成を採用することにより、絶縁層30を設けていない電気化学センサよりも、センサ内の銀塩化銀電極23の量が多い電気化学センサを実現できる。
【0058】
本実施形態に係る電気化学センサの銀塩化銀電極23上には、水分透過性を有する層状物質又は粒状物質を含む保護膜32が設けられている。保護膜32は、銀イオン及び/又
は銀クロライド錯体の外部溶液への拡散溶出を抑制する制限膜としての機能を有する。従って、銀塩化銀電極23の近傍に銀及び銀クロライド錯体が保持され、平衡状態がAgClの電離及びクロライド錯体の形成が起こらない方向へシフトし、銀塩化銀電極23の継続的な溶解が抑制される。また、本実施形態に係る電気化学センサでは、作用電極22を活性化する工程やポリマー膜34の塗布工程で用いる有機溶媒に保護膜32が溶解しないため、これらの工程において保護膜32の浸食は起こらない。本実施形態に係る電気化学センサでは、保護膜32により銀塩化銀の溶出が抑えられ、銀塩化銀電極23(参照電極)の電位が安定する(
図3〜
図5参照)。
【0059】
《変形形態》
上記した実施形態に係る電気化学センサは、各種の変形が可能である。例えば、センサ用構造体(電気化学センサ)の基材11の形状、基材11上の各部の形状及び位置関係は、
図2に示した通りのものでなくても良い。ただし、下地電極23cと他電極(対電極21及び/又は作用電極22)とが基材11の短手方向に並んだ構成を採用した場合には、絶縁層30の、基材11の短手方向のサイズが、基材11上の他電極の存在により制限されることになる。従って、下地電極23cと他電極とが基材11の短手方向に並んだ電気化学センサと、各電極が基材11上に基材11の長手方向に沿って並んだ電気化学センサ(
図2参照)とを同じ基材11を用いて製造した場合、前者の電気化学センサは、後者の電気化学センサよりも、絶縁層30のサイズが小さくなる。
【0060】
一方、各電極が基材11の長手方向に並んでいれば(
図2)、下地電極23cの位置がどこであっても、基材11の両長辺に至るサイズの絶縁層30を形成することができる。従って、センサ用構造体(電気化学センサ)には、電極の順番は上記したものとは同じでなくても良いが、各電極が基材11上に基材11の長手方向に沿って並んだ構成を採用しておくことが好ましい。
【0061】
また、上記した実施形態に係る電気化学センサは、対電極21、作用電極22、参照電極としての銀塩化銀電極23を備えたものであったが、対電極21を省略して、銀塩化銀電極23を参照電極及び対電極21として利用しても良い。さらに、各部の構成材料として、上記した材料以外の材料を用いても良い。また、上記した技術に基づき、ブドウ糖の濃度測定用のものではない電気化学センサを製造しても良い。