【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人日本機械学会が平成27年10月9日に第28回計算力学講演会論文集を収録したDVDを配布することにより公開
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1から
図17を参照し、本発明の一実施形態に係る衛生陶器の製造時の変形予測方法について説明する。
【0025】
はじめに、大便器、小便器、洗面器、手洗い器等の衛生陶器(セラミックス製陶器製品)は、原料となる泥漿(原料)を石膏型あるいは樹脂型を用いて所定の形状に成形した後、20℃〜110℃で製品内部の水分を蒸発させる乾燥工程、千数百℃で製品を焼結させる焼成工程を経て製造される。
【0026】
そして、この乾燥工程では、製品内部の水分の蒸発によって約3%の収縮変形が生じ、焼成工程では、加熱による急激な緻密化によって約10%の収縮変形が生じる。さらに、これら乾燥工程や焼成工程では、製品の自重によるクリープ変形も生じる。このため、型を用いて所定の形状に成形しても、収縮変形やクリープ変形によって精度よく所望の形状の製品が製造できないケースが多々ある。
【0027】
本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法は、このような乾燥工程や焼成工程における陶器製品の変形を精度よく予想し、ひいては精度よく且つ亀裂等の欠損を生じさせずに所望の製品形状の完成品を製造できるようにするための方法に関するものである。
【0028】
具体的に、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法では、衛生陶器の製造工程における乾燥工程と焼成工程での変形挙動を明らかにし、CAE(有限要素法)を用いて予測を行う。
【0029】
そして、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法は次のように利用する。
まず、型設計を行い、CAE用いた本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法によって乾燥工程、焼成工程での変形予測を行い、この予測に基づいて型を修正し、修正後の型を用いて製品を製造する。これにより、乾燥工程と焼成工程でそれぞれ変形が生じたとしても、この変形が考慮されているため、精度よく、且つ亀裂等の欠損が生じることのない所望の形状の衛生陶器の完成品を好適に製造できることになる。
【0030】
<乾燥工程時の変形予測>
より具体的に、乾燥工程時の変形予測方法から説明する。
【0031】
本実施形態では、原材料と水分と解膠剤(分散剤)を混合した泥漿(原料)を、型を用いて所定の形状に成形し、乾燥工程で乾燥処理する。
【0032】
そして、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法では、この泥漿の水分が蒸発して減少していく乾燥工程における1)水分量(含水率)減少による収縮、2)水分量に依存した弾性、3)水分量に依存したクリープの3つの現象について、予め実験(第1試験、第2試験、第3試験)を行い、各現象の材料特性のデータを取得する。
【0033】
[水分量(含水率)減少による収縮に関する実験:第1試験]
本実施形態において、1)水分量減少による収縮率の測定では、試験体の時間経過と長手方向の収縮量の関係、時間経過と質量の関係を取得する。例えば、
図1に示すように、100×10×10mmの直方体で初期含水率が約18%の試験体10を用い、試験体10の両端の変位をレーザーセンサ1で経時的に測定するとともに、試験体10の質量変化を電子秤2で経時的に測定する。
【0034】
そして、本実施形態では、実験結果から、水蒸気拡散速度を示す式(5)を式(6)のように線形近似し、実験結果からA、Bを同定する。このように式(5)を式(6)のように線形近似することによって、水分濃度Cの減少により表面拡散率Dが∞に発散することを防ぐことが可能になる。
なお、Qは水蒸気拡散速度(g/sec・mm
2)、Cは水分濃度(g/mm
3)、C∞は平衡水分濃度(g/mm
3)、D
surfは表面拡散率(mm/sec)である。
【0037】
例えば、実験結果から、A=−5.3282E−1、B=2.8287E−4などのようにAとBを同定することができる。
【0038】
これにより、水分量と収縮率の変化よって水分量依存の収縮率を求めることができる。言い換えれば、試験体の温度度変化に対する熱膨張率を水分濃度に対する収縮率で、収縮変形の構成側を求めることができる。また、水分量の時間変化よって、表面からの蒸発スピードを求めることが可能になる。
【0039】
[水分量に依存した弾性に関する実験:第2試験]
次に、本実施形態において、2)水分量依存の弾性率の測定では、例えば、115×15×10mmの直方体の試験体10を用いて行う。ここでは含水率が19.5%、18.9%、17.6%、15.8%の4つの試験体10を用いた。
【0040】
また、例えば、
図2に示すように、試験体10を100mmスパンで支持しつつ中央に荷重を掛ける3点曲げ試験装置3を用いて試験を行い、弾性率を測定する。また、3点曲げ試験では、ロードセル4によって押込速度を1.5mm/minで試験体10の中央を押し込み、中央鉛直方向変位量と荷重の関係を測定する。
すなわち、3点曲げ試験装置3を用いて、含水率毎のクリープ試験を実施する。
【0041】
そして、
図3に示すような試験結果から(変形初期における傾きから)弾性率を求め、水分量依存の弾性率(E(γ
m))の式である式(7)を用いて水分量に依存した弾性特性を同定する(
図4参照)。式(7)は、水分濃度依存の弾性率構成則であり、γ
mは水分濃度(g/mm
3)、H
E、W
E、E
Cは係数である。
【0043】
これにより、例えば
図4に示すように、弾性率と水分量の関係(特性曲線)を得ることができる。
【0044】
[水分量に依存したクリープに関する実験:第3試験]
本実施形態において、3)水分量依存のクリープ特性の測定では、例えば、221×33.5×6.5mmの直方体の試験体10を用いて行う。また、ここでは含水率が17.3%、14.6%、11.7%、9.1%の4つの試験体を用いた。さらに、この水分量依存のクリープ特性の測定では、例えば、
図5に示すように、試験体10を180mmスパンで支持しつつ中央の時刻歴鉛直変位をレーザーセンサ5で測定する。
【0045】
そして、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法では、式(8)に上記の試験結果を当てはめ、この式(8)を用いて弾性率及び水分濃度依存のクリープ特性を求める。
なお、式(8)において、Δγはクリープひずみ、σ
eqは相当応力、tは時間である。また、C
1、C
2、C
3、XA、f
c、W
c、γ
cは係数である。また、式(8)はNorton則をもとに、前述の弾性率のケース同様、ある水分濃度を境に急激に特性が変化することを表現するため、双曲線関数を用いた構成式となっている。
【0047】
そして、
図6に示すように、各含水率の試験結果に対してDE(Differential Evolution)による同定解析を実施し、同定解析を回して誤差を最小化し、クリープ発展則の式(8)の各係数を同定する。
【0048】
本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法では、上記の第1試験と第2試験と第3試験の結果を基にし、まず、
図7に示すように、水分濃度の時間変化を計算するとともに熱伝導解析を用いたシミュレーション(非定常伝熱解析)を行って、製品の乾燥工程時の表面からの水分蒸発スピードを熱伝導率で表し、さらに水分変化と非機械ひずみの収縮率の関係を求める。
【0049】
また、
図8に示すように、水分濃度に応じた変形解析を用いたシミュレーション(非定常静的解析)を行って、製品の乾燥工程時の水分変化と粘塑性材料による非機械ひずみのクリープ変形及び弾性変形の関係を求める。
【0050】
これらシミュレーション結果によって、
図9に示すように、第1試験と第2試験と第3試験の結果に基づく、水分量減少による収縮変形、弾性変形、クリープ変形を足し合わせた乾燥工程時の時間と総変形量を得ることができる。すなわち、水分変化に基づく物性変化を考慮した乾燥収縮・変形の経時変化を求めることができ、乾燥工程完了時の形状を精度よく特定/予測することが可能になる。
【0051】
ここで、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法を用いて水洗大便器の変形予測を行い、実機との比較を行った結果について説明する。
【0052】
まず、製品の水洗大便器(衛生陶器/原料)の寸法測定箇所を
図10に示す。
【0053】
そして、
図11は、各測定箇所における本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法と実機の計測結果を比較した結果であり、この結果から、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法を用いた予測結果は、実機に対し、測定箇所7点の平均測定誤差が0.74%程度で納まることが確認された。
【0054】
したがって、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法によれば、乾燥工程で、上記のように第1試験、第2試験、第3試験に基づいて係数の同定を行い、変形予測を行うことによって、高精度で優れた変形予測を行うことが可能になる。
【0055】
<焼成工程時の変形予測>
次に、本実施形態の焼成工程時の変形予測方法について説明する。
【0056】
焼成工程では、加熱による急激な鰍密化によって乾燥工程後の製品がさらに約10%程度の収縮変形が生じる。また、製品の自重によるクリープ変形も大きいことから、その変形予測をさらに複雑化させるばかりでなく、製品内部の残留応力によって局所的に亀裂等の欠損が発生することもある。
【0057】
これに対し、本実施形態では、焼成工程における製品の変形を数値的に予測する。このとき、材料の焼成工程における材料特性を再現可能な材料構成則とそのパラメータの同定手法を確立して予測を行うこととした。
【0058】
具体的には、乾燥工程とほぼ同様にして、焼成工程における変形を予測可能な構成則を構築する。
【0059】
まず、焼結域における急激な収縮変形に対しては緻密化速度式を用いた非機械線形として扱い、有限変形理論の枠組みでクリープ構成則を定式化する。そして、STC試験(Stairway Thermal Cycle試験)を実施して焼結ひずみに関する材料パラメータを同定する。
【0060】
次に、材料の弾性特性は、従来では行われていない試験体の3点曲げ試験を焼成過程で実行し、各温度域における得られた応力ひずみ曲線の接線から温度依存の弾性特性を決定する。
【0061】
さらに、熱膨張・収縮特性やクリープ特性はそれぞれ別々の試験を行い、メタヒューリスティクスによる最適化手法を用いてそれらの材料パラメータを決定する(パラメータを同定する)。
【0062】
[焼成工程における力学現象]
ここで、焼成工程における力学現象について説明する。
【0063】
まず、
図12に焼成工程における時間に対する温度と相対密度の変化を示す。なお、相対密度とは、現在の密度を焼成試験が完了した段階の密度で除することによって得られる密度の代替的な指標として用いられる無次元量である。
【0064】
このとき、陶器は図中上部の矢印で示す3つの領域でそれぞれ異なる力学挙動を示す。
【0065】
第一の領域R1である焼成開始段階では温度増加に対して材料の熱膨張変形が生じし、膨張変形によって体積が増加する影響で密度が減少する。
【0066】
第二の領域R2では高温状態の焼結域に到達し、材料の急激な収縮変形が生じる。これが材料の焼結現象であり、この領域で急激な轍密化が生じる。また同時に、この領域では高温状態であるためクリープ変形も支配的であり、全体として他の領域よりも非常に大きな変形となって現れる。
【0067】
その後、第三の領域R3に達すると焼結が終了し、温度の低下に伴い熱収縮変形が生ずるため密度が少しずつ上昇してゆく。
【0068】
そして、本願発明者らは、このような焼成工程における材料(原料)の全体的な挙動を、弾性、クリープ、熱膨張(収縮)、焼結現象の4つの要因に分解して考えることを見出した。すなわち、セラミック材料の焼成工程における主な変形要因は、温度増加に対する急激な収縮変形特性とクリープ変形特性であり、これらの要因は時間と温度や密度変化に対して強い依存性を有していることを見出し、これに基づき、焼成工程における変形予測が行えると考えた。
【0069】
[運動学的変数の設定]
これを実現するために、まず、本実施形態では、運動学的変数の設定を行う。
全変形勾配Fを次の式(9)のように乗算分解する。F
miは非機械変形勾配、F
mは機械変形勾配である。
【0071】
F
imは等方的な体積膨張として発展すると仮定し、式(10)のように定義する。ε
t、ε
sはそれぞれ熱膨張ひずみと焼結ひずみである。
【0073】
次に、機械変形の発展を記述するために、式(11)のような機械変形速度テンソルd
mを弾性変形速度テンソルd
eとクリープ変形速度テンソルd
vpに加算分解する。
【0075】
[相対密度]
次に、焼成工程における材料挙動はその密度変化に強く依存する。このため、本実施形態では、計測方向の長さがhのサンプルに対する熱機械分析(従来用いられていなかった熱機械分析:以下、TMAという)を行うことを前提として、そのような構成則の密度依存性を考慮するために相対密度を導入する。
【0076】
質量密度として定義した焼成前段階、すなわち、初期配置の密度ρ
sを参照して、焼成工程で連続的に変化する現配置の密度を、TMAに使用するサンプル長さから次の式(12)のように表す。ここで、Jはヤコビアンであり、焼成工程における変形に等方性を仮定すると、試験体試験前長さh
sと変位δhを用いて次の式(13)で算出される。
【0079】
そして、式(13)を式(12)に代入すると密度が変位量の関数として次の式(14)で与えられる。
【0081】
一般に、材料構成則に密度の影響を考慮する際には、ひずみのような無次元量が望ましいため、次の式(15)で定義される相対密度ρ
relを導入する。ρ
fは焼成後の密度であり、試験終了後の室温環境下におけるサンプルの長さh
fに対して次の式(16)で算出する。
【0084】
相対密度は式(15)に示すようにサンプルの計測軸方向の寸法変化に依存するため、温度の履歴(あるいはヒートカーブ)やその速度に間接的に影響されながら変化する。したがって、異なるヒートカーブや昇温速度のデータを用いる場合には毎回、相対密度を算出する必要がある。なお、試験終了後には相対密度は必ず100%となる。
【0085】
[非機械変形]
非機械変形である熱膨張ひずみと焼結時間変化率との間には次の式(17)に示す比例関係が成り立つものとする。ここで、α
Tは熱膨張係数である。また、熱膨張域と熱収縮域では熱膨張量が異なることを想定して、それぞれで異なる熱膨張係数を使用する。
【0087】
次に、焼結ひずみの時間変化率は、密度の相対的な時間変化率を意味する緻密化速度ρ(上に・)/ρを用いて次の式(18)のように表す。ここで、式(18)の負号は密度増加に対して焼結ひずみが収縮量として算出されることを意味する。そして、この緻密化速度には、次の式(19)のような関係式を用いる。ρ
∞rel(T)は材料がある温度Tの等温環境下で最終的に落ち着く際の相対密度である終局相対密度、Ω(T)、n(T)は温度依存の材料パラメータである。
【0090】
式(19)を式(18)に代入することで、最終的に焼結ひずみの時開発展則は次の式(20)となる。
【0092】
なお、本実施形態では、焼結変形は焼結域のみで発展する量であり熱膨張変形に対して支配的であることから、焼結域では焼結ひずみの発展のみを考慮し、熱膨張域と熱収縮域では熱膨張ひずみ発展のみを考慮することにした。
【0093】
[機械変形]
次に、機械変形において、弾性変形速度テンソルd
eに対し応力速度σ(上に▽)=σ(上に・)−wσ+σwを用いた亜弾性構成則の式(21)を用いる。
【0095】
ここで、焼成工程では等方的な弾性変形を仮定するが温度に依存して剛性が変化することを考慮するため、ヤング率に対して温度依存性を付与した。ただし、ポアソン比は定数として与える。
【0096】
一方、クリープ変形速度の時間発展はクリープ乗数γ(上に・)vpと流れベクトルN=s/||s||を用いた次の式(22)の流れ則に従うものとする。
【0098】
ここで、s は偏差応力である。また、乾燥工程と同様、このクリープ乗数には金属材料に対して一般的に用いられている初期・定常クリープ現象を表現可能なNorton則を採用し、von−Misesの相当応力σ
eq=√(3/2×s:s : s)、時間t、温度T、相対密度ρ
relの依存性をすべて加味した次の式(23)を用いる。
【0100】
ここで、C
1、C
2、C
3、C
4、T
0、Wはそれぞれクリープパラメータ(係数)である。温度項にはクリープ変形が生じ始める基準温度T
0以降の高温域で支配的にクリープが進展することを考慮して双曲線正接関数を用いた。また、相対密度項にはArrhenius則の相対密度項を転用した。
【0101】
[非機械変形に関する材料パラメータの同定]
次に、非機械変形に関する材料パラメータの同定について説明する。
【0102】
[焼結ひずみの時間発展則]
焼結ひずみの時間発展則に関するパラメータは、STC試験(特殊な焼成試験)から同定した。
【0103】
STC試験の方法は、焼結域において一定の間隔で等温状態を保ちながら温度を階段状に変化させるものである。このような焼成試験では、線形的な温度変化を設定する場合に比べて材料の瞬間的な等温状態や温度上昇の影響が緩和される。このため、材料内部の特異な温度摂動が計測に反映されにくく、焼結時の精確な密度変化を計測可能であり、焼結ひずみの時間発展則の関数形を同定するための情報量が少なくて済むといった利点がある。
【0104】
そして、本実施形態では、BC泥漿を石膏型を用いて成形・乾燥した後、寸法が高さ 20mm×縦4.5mm×横4.5mmの試験体10を制作し、試験体10の上面に荷重98Nの負荷を与えながらTMA試験装置を用いてSTC試験を行った。
【0105】
図13に、ヒートカーブと得られた軸方向変位量を示す。
焼結域の温度水準900degまでは約94minで線形的に加熱した後、図中で示すように温度900degから30deg毎に10minの等温域を設けてTMA試験を行った。これにより得られた試験体高さ方向の軸方向変位量は図中の破線で示した。
【0106】
以降、これを用いて緻密化速度のパラメータをそれぞれ決定していく。
【0107】
まず、この焼成試験から得られた試験体軸方向変位から緻密化速度を算出するために、焼結ひずみ速度が試験体の軸方向ひずみεzの時間変化率と等価であると仮定し、次の式(24)とする。軸方向ひずみは次の式(25)の対数ひずみで定義する。
【0110】
そして、この式(25)と
図13から時間増分Δtごとの時刻でのεzを定めて前進差分によりε(上に・)s=ε(上に・)zを算出すれば、式(18)、式(26)より各時刻の緻密化速度が算定される。
【0112】
このようにして算出した焼結域の緻密化速度と相対密度の関係を
図14に示す。
【0113】
このように求めた
図14から、各等温工程において緻密化速度が低下している様子を確認することができる。そして、本実施形態では、それぞれの低下曲線を相対密度軸方向へ引き伸ばして交点(
図14中の破線参照)、すなわち、式(18)における終局相対密度の値を求める。
【0114】
こうして求めた終局相対密度と各等温工程における設定温度の関係を
図15に示す。
【0115】
焼結による緻密化が原因で、
図15では1000deg以降で終局相対密度が急激に増大する様子が確認できる。最小二乗法を用い、この関係を双曲線正接関数で近似すると次の式(27)のようになる。なお、式(27)中のa、b、c、dは定数である。
【0117】
次に、焼結ひずみの時間発展則の式(18)における残り二つのパラメータn(T)、Ω(T)を同定するために、次の式(28)のように、焼結ひずみの時間発展則の式(18)の両辺に絶対値と自然対数をとる。
【0119】
そして、式(27)、式(28)(
図14、
図15)を用いて各温度域におけるln[ρ
∞(T)−ρ
rel(δh)]とln[|ε(上に・)s(T,δh)|]を算出し、これらの関係を表すと
図16のようになる。
【0120】
式(28)におけるΩ(T)/3とn(T)は、それぞれこの図の切片と傾きであるため、各温度域のプロットを線形近似してこれらを算出する。得られたn(T)とΩ(T)を
図17に示す。このプロット点を用いて最小二乗法により2つの関数形を式(29)、式(30)として同定した。
なお、式(29)、式(30)中のa、b、c、d、e、f、g、h、i、j、k、l、m、n、p、q、r、u、v、w、x、y、zは定数である。
【0121】
これにより、焼結ひずみの時間発展則に関する全てのパラメータ(係数)を同定したことになる(同定することができる)。
【0124】
[熱膨張係数]
次に、熱膨張係数は、メタヒューリスティクスの一手法である差分進化法を用いた数値解析によって同定すればよい。
【0125】
例えば、まず異なる同定対象のパラメータを有する各粒子に対して実験と同じ条件でCAE(有限要素解析)を行う。算出された物理量を実験値と比較することによって誤差の計算を行い、誤差が最小となるような粒子を探す。
【0126】
そして、熱膨張係数については TMA試験装置を用いた無載荷状態での試験体の焼成試験の結果を用いて同定する。
【0127】
したがって、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法においては、乾燥工程で、上記のように第1試験、第2試験、第3試験に基づいて係数の同定を行い、変形予測を行うことによって、非常に優れた変形予測を行うことが可能になる。
【0128】
また、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法においては、焼成工程で、材料(原料)の全体的な挙動を、弾性、クリープ、熱膨張(収縮)、焼結現象の4つの要因に分解して考えて変形予測を行うことによって、非常に優れた変形予測を行うことが可能になる。
【0129】
そして、本実施形態の衛生陶器の製造時の変形予測方法によれば、例えば水洗大便器を製造する場合など、従来のように経験などに基づく熟練技術者の技量に頼って変形を予測し、修正/調整を行う場合と比較し、6か月以上もの長期の製造期間短縮(歩掛り削減)を図ることが可能になる。
【0130】
以上、本発明に係る衛生陶器の製造時の変形予測方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。