(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の内部電極層が誘電体層を介して積層された容量部と、容量部の積層方向両側それぞれを覆う誘電体カバー部とを有するコンデンサ本体を備えた積層セラミックコンデンサであって、
前記容量部の各誘電体層と前記各誘電体カバー部はマンガン元素を含んでおり、前記マンガン元素は、前記各誘電体カバー部の外面から前記容量部の各誘電体層に向かう深さ方向において元素数が減少する分布を形成しており、
前記容量部の各誘電体層はアルミニウム元素を含んでおり、前記アルミニウム元素は、前記各誘電体カバー部の外面から前記容量部の各誘電体層に向かう深さ方向において元素数が増加する分布を形成している、
積層セラミックコンデンサ。
複数の内部電極層が誘電体層を介して積層された容量部と、容量部の積層方向両側それぞれを覆う誘電体カバー部とを有するコンデンサ本体を備えた積層セラミックコンデンサであって、
前記容量部の各誘電体層と前記各誘電体カバー部はチタン元素とマンガン元素を含んでおり、マンガン元素数/チタン元素数で表される前記マンガン元素の元素数と前記チタン元素の元素数との比は、前記各誘電体カバー部の外面から前記容量部の各誘電体層に向かう深さ方向において減少する分布を形成しており、
前記容量部の各誘電体層はアルミニウム元素を含んでおり、アルミニウム元素数/チタン元素数で表される前記アルミニウム元素の元素数と前記チタン元素の元素数との比は、前記各誘電体カバー部の外面から前記容量部の各誘電体層に向かう深さ方向において増加する分布を形成している、
積層セラミックコンデンサ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、
図1を用いて、本発明を適用した積層セラミックコンデンサ10の基本構成について説明する。以下の説明では、
図1(A)の左右方向を長さ方向、
図1(A)の上下方法を幅方向、
図1(B)の上下方向を高さ方向と表記するとともに、各方向に沿う寸法を長さ、幅、高さと表記する。
【0011】
積層セラミックコンデンサ10は、略直方体状のコンデンサ本体11と、コンデンサ本体11の長さ方向一端部に設けられた第1外部電極12と、コンデンサ本体11の長さ方向他端部に設けられた第2外部電極13とを備えている。
【0012】
コンデンサ本体11は、複数の内部電極層11a1が誘電体層11a2を介して積層された容量部11aと、容量部11aの高さ方向両側それぞれを覆う誘電体カバー部11bとを有している。複数の内部電極層11a1は略同じ矩形状輪郭と略同じ厚さを有しており、これらの端縁は第1外部電極12と第2外部電極13に交互に接続されている。なお、
図1では、図示の便宜上、計12の内部電極層11a1を描いているが、内部電極層11a1の数に特段の制限はない。
【0013】
コンデンサ本体11の内部電極層11a1を除く部分、即ち、容量部11aの各誘電体層11a2の主成分と各誘電体カバー部11bの主成分は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸バリウム、酸化チタン等の誘電体材料(誘電体セラミック材料)である。容量部11aの各内部電極層11a1の主成分は、ニッケル、銅、パラジウム、白金、銀、金、これらの合金等の金属材料である。また、第1外部電極12と第2外部電極13それぞれの主成分は、ニッケル、銅、パラジウム、白金、銀、金、これらの合金等の金属材料である。
【0014】
また、容量部11aの各誘電体層11a2と各誘電体カバー部11bはマンガン元素を含んでおり、このマンガン元素は、各誘電体カバー部11bの外面から容量部11aの各誘電体層11a2に向かう深さ方向(
図1(C)を参照)において元素数が徐々に減少する分布を形成している(
図3(A)を参照)。
【0015】
さらに、各容量部11aの各誘電体層11a2はアルミニウム元素を含んでおり、このアルミニウム元素は、各誘電体カバー部11bの外面から容量部11aの各誘電体層11a2に向かう深さ方向(
図1(C)を参照)において元素数が徐々に増加する分布を形成している(
図3(B)を参照)。
【0016】
次に、
図2を用いて、容量部11aの各誘電体層11a2の主成分と各誘電体カバー部11bの主成分がチタン酸バリウムで、各内部電極層11a1の主成分がニッケルで、第1外部電極12と第2外部電極13それぞれの主成分がニッケルである場合を例として、前記積層セラミックコンデンサ10の具体構成をその製造方法等を交えて説明する。なお、この説明中の「実施品」は前記積層セラミックコンデンサ10に対応する積層セラミックコンデンサを指し、「比較品」は前記積層セラミックコンデンサ10に対応しない積層セラミックコンデンサを指す。
【0017】
実施品と比較品のサイズは長さ600μm、幅300μm、高さ300μmであり、各々の内部電極層(11a1)の厚さは1μmで総数が100、誘電体層(11a2)の厚さは1μm、各誘電体カバー部(11b)の厚さは50μmである。また、各誘電体層(11a2)の主成分と各誘電体カバー部(11b)の主成分はチタン酸バリウム、各内部電極層(11a1)の主成分がニッケル、第1外部電極(12)と第2外部電極(13)それぞれの主成分がニッケルである。
【0018】
実施品の製造に際しては、先ず、チタン酸バリウム粉末と、有機溶剤と、有機バインダーと、必要に応じて分散剤等の添加剤を含有した誘電体層用セラミックスラリーと誘電体カバー部用セラミックスラリーを用意する。
【0019】
誘電体層用セラミックスラリーは、
図2の実施品欄に示したように、チタン酸バリウム(BaTiO
3)100molに対し、マンガン元素(Mn)を酸化マンガン(II)(MgO)換算で0.5mol、アルミニウム元素(Al)を酸化アルミニウム(Al
2O
3)換算で0.01mol、ホロミウム元素(Ho)を酸化ホロミウム(Ho
2O
3)換算で0.5mol、ケイ素元素(Si)を二酸化ケイ素(SiO
2)換算で1.0mol、含有している。
【0020】
一方、誘電体カバー部用セラミックスラリーは、
図3の実施品欄に示したように、チタン酸バリウム(BaTiO
3)100molに対し、マンガン元素(Mn)を酸化マンガン(II)(MgO)換算で1.0mol、ホロミウム元素(Ho)を酸化ホロミウム(Ho
2O
3)換算で0.5mol、ケイ素元素(Si)を二酸化ケイ素(SiO
2)換算で1.0mol、含有している。即ち、誘電体カバー部用セラミックスラリーは、誘電体層用セラミックスラリーと比べ、アルミニウム元素(Al)を含んでおらず、マンガン元素(Mn)の含有量が多い。
【0021】
また、内部電極層ペーストとして、ニッケル粉末と、有機溶剤と、有機バインダーと、必要に応じて分散剤等の添加剤を含有したペーストを用意する。さらに、外部電極ペーストとして、ニッケル粉末と、有機溶剤と、有機バインダーと、必要に応じて分散剤等の添加剤を含有したペーストを用意する。
【0022】
続いて、キャリアフィルムの表面に誘電体層用セラミックスラリーを塗工して乾燥することにより、第1シートを作製する。また、この第1シートの表面に内部電極層ペーストを印刷して乾燥することにより、内部電極層パターン群が形成された第2シートを作製する。さらに、キャリアフィルムの表面に誘電体カバー部用セラミックスラリーを塗工して乾燥することにより、第3シートを作製する。
【0023】
続いて、第3シートから取り出した単位シートを所定枚数に達するまで積み重ねて熱圧着する作業を繰り返すことにより、一方の誘電体カバー部(11b)に対応した部位を形成する。続いて、第2シートから取り出した単位シート(内部電極層パターン群を含む)を所定枚数に達するまで積み重ねて熱圧着する作業を繰り返すことにより、容量部(11a)に対応した部位を形成する。続いて、第3シートから取り出した単位シートを所定枚数に達するまで積み重ねて熱圧着する作業を繰り返すことにより、他方の誘電体カバー部(11b)に対応した部位を形成する。最後に、積み重ねられた全体を本熱圧着することにより、未焼成積層シートを作製する。
【0024】
続いて、未焼成積層シートを格子状に切断することにより、コンデンサ本体11に対応した未焼成コンデンサ本体を作製する。続いて、ディップやローラ塗布等の手法によって、未焼コンデンサ本体の長さ方向両端部それぞれに外部電極ペーストを塗布して乾燥することにより、未焼成外部電極を作製する。続いて、未焼成外部電極を有する未焼成コンデンサ本体を焼成炉に投入し、還元雰囲気下で、且つ、チタン酸バリウムとニッケルに応じた温度プロファイルにて多数個一括で焼成(脱バインダ処理と焼成処理を含む)を行う。
【0025】
なお、比較品が実施品と異なる点は、製造時に使用する誘電体層用セラミックスラリーの組成にある。即ち、
図2の比較品欄に示したように、比較品を製造する際に用いた誘電体層用セラミックスラリーは、実施品を製造する際に用いた誘電体層用セラミックスラリーと比べ、アルミニウム元素(Al)を含んでいない。ちなみに、比較品を製造する際に用いた誘電体カバー部用セラミックスラリーの組成は、実施品を製造する際に用いた誘電体カバー部用セラミックスラリーの組成と同じである。また、比較品の製法方法は、前述の実施品の製造方法と同じである。
【0026】
次に、
図3(A)に示したマンガン元素の元素数の分布と
図3(B)に示したアルミニウム元素の元素数の分布をそれぞれ描くために実施したデータ収集方法について説明する。
【0027】
データ収集には、レーザーアブレーション装置(NWR213、ESI社製)と、質量分析装置(7900ICP−MS、アジレントテクノロジー社製)を用いた。
【0028】
データ収集に際しては、レーザーアブレーション装置から、実施品の
図1(C)対応の断面における被測定箇所に向けて、照射エネルギー14J/cm
2、周波数10Hzのレーザ−光を照射時間は30secでスポット照射する。そして、スポット照射により発生したエアロゾルを、ヘリウムガスによって質量分析装置の誘導結合プラズマ室に送り込む。
【0029】
続いて、質量分析装置において、誘導結合プラズマ室に取り込まれたエアロゾルをRFパワー1550Wでプラズマ励起してプラスイオンにする。そして、プラスイオン、特に測定したい質量電荷比の元素イオンを四重極形質量分析計に送り込む。そして、四重極形質量分析計において、時間分析を行って、送り込まれた元素数を相対的にカウントする。
【0030】
続いて、前記の測定手順を実施品の
図1(C)対応の断面における他の被測定箇所に対しても同様に行って、具体的には実施品の各誘電体カバー部(11b)の外面から容量部(11a)の各誘電体層11a2に向かう深さ方向(
図1(C)を参照)に沿って順に行って、必要なデータを収集する。
【0031】
図3(A)では縦軸を「Mn元素数/Ti元素数」としてあるが、チタン元素数は各誘電体カバー部(11b)と容量部(11a)の各誘電体層11a2で同じであるので(
図2の実施品欄を参照)、この
図3(A)からは、マンガン元素が、各誘電体カバー部(11b)の外面から容量部(11a)の各誘電体層(11a2)に向かう深さ方向において元素数が徐々に減少する分布を形成していることが理解できる。
【0032】
また、
図3(B)では縦軸を「Al元素数/Ti元素数」としてあるが、前記同様に、チタン元素数は各誘電体カバー部(11b)と容量部(11a)の各誘電体層11a2で同じであるので(
図2の実施品欄を参照)、この
図3(B)からは、アルミニウム元素が、各誘電体カバー部(11b)の外面から容量部(11a)の各誘電体層(11a2)に向かう深さ方向において元素数が徐々に増加する分布を形成していることが理解できる。なお、
図3(B)において、各誘電体カバー部(11b)の一部にアルミニウム元素が存在する理由は拡散によるものと思われる。
【0033】
次に、前記積層セラミックコンデンサ10によって絶縁抵抗の低下を抑制できるか否かについて確認するために実施した検証方法及びその結果について説明する。
【0034】
検証に際しては、前述の実施品100個と比較品100個に対して湿中負荷試験を実施することによって行った。具体的には、温度85℃で湿度85%の雰囲気において直流電圧10Vを印加し、印加時間が100時間を経過した後に、絶縁抵抗が1MΩに達した個数を確認することによって行った。
【0035】
確認結果は、実施品100個のうちで絶縁抵抗が1MΩに達した個数は0個であり、比較品100個のうちで絶縁抵抗が1MΩに達した個数は10個であった。即ち、前記積層セラミックコンデンサ10に対応する実施品については、前記積層セラミックコンデンサ10に対応しない比較品と比べて、絶縁抵抗の低下を抑制できていることが検証できた。換言すれば、実施品にあっては、絶縁抵抗の低下を招来するクラックや剥離がコンデンサ本体(11)の内部、特に容量部(11a)と各誘電体カバー部(11b)との境界部分に存在し難いことが検証できた。
【0036】
次に、
図3(A)及び
図3(B)に示した元素数の分布と、前述の検証結果とを踏まえて、前記積層セラミックコンデンサ10によって得られる効果について説明する。
【0037】
前記積層セラミックコンデンサ10は、容量部11aの各誘電体層11a2と各誘電体カバー部11bがマンガン元素を含んでいるものの、このマンガン元素は、
図3(A)に示したように、各誘電体カバー部11bの外面から容量部11aの各誘電体層11a2に向かう深さ方向(
図1(C)を参照)において元素数が徐々に減少する分布を形成している。即ち、マンガン元素がこのような元素数の分布を形成するが故に、絶縁抵抗の低下を招来するクラックや剥離がコンデンサ本体11の内部、とりわけ容量部11aと各誘電体カバー部11bとの境界部分に存在し難いと推測される。依って、
図3(A)に示したようなマンガン元素の元素数の分布を採用すれば、容量部11aの各誘電体層11a2に含まれるマンガン元素の含有量を各誘電体カバー部11bに含まれるマンガン元素の含有量よりも低くした場合でも、前記のクラックや剥離の発生に起因する前記積層セラミックコンデンサ10の絶縁抵抗の低下を確実に抑制することができる。
【0038】
前記積層セラミックコンデンサ10は、容量部11aの各誘電体層11a2がアルミニウム元素を含んでおり、このアルミニウム元素は、
図3(B)に示したように、各誘電体カバー部11bの外面から容量部11aの各誘電体層11a2に向かう深さ方向(
図1(C)を参照)において元素数が徐々に増加する分布を形成している。即ち、アルミニウム元素がこのような元素数の分布を形成するが故に、各誘電体カバー部11bに含まれているマンガン元素が容量部11aの各誘電体層11a2に拡散することが抑制され、これによりマンガン元素が
図3(A)に示したような元素数の分布を形成するのに役立っていると推測される。依って、
図3(B)に示したようなアルミニウム元素の元素数の分布を採用すれば、
図3(A)に示したようなマンガン元素の元素数の分布をより的確に形成して、前記のクラックや剥離の発生に起因する前記積層セラミックコンデンサ10の絶縁抵抗の低下をより確実に抑制することができる。
【0039】
《他の実施形態》
図1に示した第1外部電極12と第2外部電極13それぞれの形状は、
図4(A)に示した形状であってもよい。即ち、
図4(A)に示した第1外部電極12-1は、コンデンサ本体11の長さ方向一端面を覆う部分と、コンデンサ本体11の高さ方向両面の一部を覆う部分とを連続して有しており、第2外部電極13-1は、コンデンサ本体11の長さ方向他端面を覆う部分と、コンデンサ本体11の高さ方向両面の一部を覆う部分とを連続して有している。また、
図1に示した第1外部電極12と第2外部電極13それぞれの形状は、
図4(B)に示した形状であってもよい。即ち、
図4(B)に示した第1外部電極12-2は、コンデンサ本体11の長さ方向一端面を覆う部分と、コンデンサ本体11の高さ方向一面の一部を覆う部分とを連続して有しており、第2外部電極13-2は、コンデンサ本体11の長さ方向他端面を覆う部分と、コンデンサ本体11の高さ方向一面の一部を覆う部分とを連続して有している。つまり、
図4(A)に示した外部電極形状であっても、
図4(B)に示した外部電極形状であっても、前記同様の効果を得ることができる。
【0040】
また、
図1に示した第1外部電極12と第2外部電極13それぞれの層構造は、
図4に示した第1外部電極12-1と第2外部電極13-1、並びに、第1外部電極12-2と第2外部電極13-2を含め、必ずしも単層構造である必要はない。つまり、第1外部電極と第2外部電極それぞれの表面にメッキ膜等の別の金属膜を1層以上形成した多層構造としても、前記同様の効果を得ることができる。
【0041】
さらに、
図1を用いた説明では、積層セラミックコンデンサ10の長さ、幅及び高さの関係やこれらの寸法値を明示していないが、長さ、幅及び高さの関係は長さ>幅=高さの他、長さ>幅>高さや、長さ>高さ>幅や、幅>長さ=高さや、幅>長さ>高さや、幅>高さ>長さであってもよく、長さ、幅及び高さの寸法値にも特段の制限はない。つまり、積層セラミックコンデンサ長さ、幅及び高さの関係やこれら寸法値が如何様な場合でも、前記同様の効果を得ることができる。