特許第6571595号(P6571595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571595
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   G05B19/18 X
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-130387(P2016-130387)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-5489(P2018-5489A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2017年7月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊平
【審査官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−220384(JP,A)
【文献】 特開2010−113443(JP,A)
【文献】 特開平7−152411(JP,A)
【文献】 特開平6−19520(JP,A)
【文献】 特開2008−176579(JP,A)
【文献】 特開2016−31643(JP,A)
【文献】 特開2015−229224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 − 19/416
G05B 19/42 − 19/46
G05B 9/00 − 9/05
G05B 23/00 − 23/02
B23Q 17/00 − 17/24
B25J 1/00 − 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械を駆動するのに用いられる入力電源の電圧値を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧値に電圧低下状態が発生したとき、当該電圧低下状態の発生時刻及び継続時間を計時する計時部と、
前記電圧検出部が検出した電圧値と、前記計時部が計時した電圧低下状態の継続時間とに基づいて、所定の低電圧異常判定条件及び所定の停電判定条件に従って、入力電源に低電圧異常もしくは停電が発生したか否かを判定する異常判定部と、
工作機械の加工条件の指令及び加工情報の取得を行う加工管理部と、
入力電源に低電圧異常が発生したと前記異常判定部が判定したときにおける、前記電圧検出部が検出した電圧値と、前記計時部が計時した電圧低下状態の発生時刻と、前記加工管理部が取得した加工情報と、を記憶する記憶部と、
を備え、
前記所定の低電圧異常判定条件は、入力電源に低電圧異常が発生したか否かの判断基準となる第1の電圧閾値及び第1の時間閾値を含み、
前記所定の停電判定条件は、入力電源に停電が発生したか否かの判断基準となる第2の電圧閾値及び第2の時間閾値を含み、
前記第2の電圧閾値は、前記第1の電圧閾値よりも小さく、
前記第2の時間閾値は、前記第1の時間閾値よりも長く、
前記異常判定部は、前記電圧検出部が検出した電圧値が前記第1の電圧閾値未満である状態が前記第1の時間閾値以上にわたって継続した場合、入力電源に低電圧異常が発生したと判定して工作機械による加工を継続し、前記電圧検出部が検出した電圧値が前記第2の電圧閾値未満である状態が前記第2の時間閾値以上にわたって継続した場合、入力電源に停電が発生したと判定して工作機械による加工を停止する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記記憶部に記憶された、前記電圧検出部が検出した電圧値と、前記計時部が計時した電圧低下状態の発生時刻と、前記加工管理部が取得した加工情報と、を出力する出力部をさらに備える、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
入力電源に停電が発生したと前記異常判定部が判定したときに工作機械、当該工作機械に設けられた工具、及び当該工具により加工されるワークの損傷を防ぐための退避動作指令を出力する保護動作部をさらに備える、請求項1または2に記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、モータは、ワークや工具(ツール)が取り付けられた主軸を駆動するための駆動源(主軸モータ)及び主軸やワークを移動させる送り軸を駆動するための駆動源(送り軸モータ)として用いられる。このような工作機械では、交流電源側から供給された交流電力を整流器にて直流電力に一旦変換したのちさらに逆変換器にて交流電力に変換し、この交流電力を駆動軸ごとに設けられたモータの駆動電力として用いている。工作機械の制御装置により、各逆変換器からの交流出力を所望の電圧および所望の周波数に制御することで、各逆変換器の交流側に接続されたモータそれぞれの速度、トルク、もしくは回転子の位置を制御する。
【0003】
工作機械に使用されるモータ駆動装置及びその周辺機器の運転が継続不可能となるような停電が発生した場合、モータの動作に障害が生じ、当該モータを駆動するモータ駆動装置、当該モータ駆動装置が駆動するモータに接続され工具、当該工具により加工されるワーク、当該モータ駆動装置を有する製造ラインなどが、破損したり変形したりするなどといった何らかの障害が生じる可能性がある。
【0004】
そのため、工作機械の制御装置は、工作機械を駆動するのに用いられる入力電源の停電を検出する手段を備え、停電を検出した場合にはアラームを出力し、上記障害を回避するかもしくは最小限に抑えるための保護動作を行うのが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、工作機械の分野では、アラーム発生履歴は工作機械の制御装置に記憶されて工作機械の稼働状況などの把握や故障診断に広く用いられている。また、これに限らず、一般的な機械においても、電源異常が発生したときにそれに関連する情報を記憶しておき、その後、記憶された情報を何らかの動作のために利用することが行われている。
【0006】
例えば、洗濯機において、入力電源の停電発生日時及び運転動作状況を記憶部に記憶させ、復電後に記憶部の内容を読み出し、可能であれば停電発生時の運転を再開させるものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−209936号公報
【特許文献2】特開2015−43794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、モータ制御技術の進歩に伴い工作機械の加工精度の向上が著しいが、仕上げ加工などのような高精度が要求される加工においては、一時的な電圧低下や軽微な電圧低下、あるいは瞬停といったような軽度の電源異常であっても、加工精度に及ぼす影響が懸念される。このようなことから、工作機械において高精度の加工を実現するために、停電のみならず軽度の電源異常に対しても状況を把握できるような何らかの対策が求められる。
【0009】
こうした軽度な電源異常は、停電判定条件を満たさないので停電としては検知されず、工作機械による製品の加工は継続する。その結果、アラームは発生せず、当然のことながらアラーム発生履歴も記憶されない。したがって、工作機械により加工された製品に不良が発生した場合、その原因が、軽度な電源異常によるものなのか、あるいは別の要因によるものなのか、故障診断における原因の特定が難しいという問題がある。
【0010】
一方で、停電と判断されやすいように停電判定条件を緩くすると、軽度な電源異常であっても停電として判断され、保護動作が実行されて工作機械は停止してしまい、その結果、機械稼働率の低下を招くことになる。一旦保護動作が実行されると、製造ラインが停止することで経済的損失が発生するので、高精度が要求されない加工では保護動作の実行を最小限に抑えることが好ましい。
【0011】
したがって本発明の目的は、上記問題に鑑み、工作機械を駆動するのに用いられる入力電源の異常発生時において、工作機械により加工された製品に不良が発生した際の原因特定やトレーサビリティを容易にする工作機械の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を実現するために、本発明においては、工作機械の制御装置は、工作機械を駆動するのに用いられる入力電源の電圧値を検出する電圧検出部と、電圧検出部が検出した電圧値に電圧低下状態が発生したとき、当該電圧低下状態の発生時刻及び継続時間を計時する計時部と、電圧検出部が検出した電圧値と、計時部が計時した電圧低下状態の継続時間とに基づいて、所定の低電圧異常判定条件及び所定の停電判定条件に従って、入力電源に低電圧異常もしくは停電が発生したか否かを判定する異常判定部と、工作機械の加工条件の指令及び加工情報の取得を行う加工管理部と、入力電源に低電圧異常が発生したと異常判定部が判定したときにおける、電圧検出部が検出した電圧値と、計時部が計時した電圧低下状態の発生時刻と、加工管理部が取得した加工情報と、を記憶する記憶部と、を備える。
【0013】
ここで、記所定の低電圧異常判定条件は、入力電源に低電圧異常が発生したか否かの判断基準となる第1の電圧閾値及び第1の時間閾値を含み、異常判定部は、電圧検出部が検出した電圧値が第1の電圧閾値未満である状態が第1の時間閾値以上にわたって継続した場合、入力電源に低電圧異常が発生したと判定する。
【0014】
また、所定の停電判定条件は、入力電源に停電が発生したか否かの判断基準となる第2の電圧閾値及び第2の時間閾値を含み、第2の電圧閾値は、第1の電圧閾値よりも小さく、第2の時間閾値は、第1の時間閾値よりも長く、異常判定部は、電圧検出部が検出した電圧値が第2の電圧閾値未満である状態が第2の時間閾値以上にわたって継続した場合、入力電源に停電が発生したと判定する。
【0015】
工作機械の制御装置は、記憶部に記憶された、電圧検出部が検出した電圧値と、計時部が計時した電圧低下状態の発生時刻と、加工管理部が取得した加工情報と、を出力する出力部をさらに備える。
【0016】
工作機械の制御装置は、入力電源に停電が発生したと異常判定部が判定したときに工作機械、当該工作機械に設けられた工具、及び当該工具により加工されるワークの損傷を防ぐための退避動作指令を出力する保護動作部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、工作機械を駆動するのに用いられる入力電源の異常発生時において、工作機械により加工された製品に不良が発生した際の原因特定やトレーサビリティを容易にする工作機械の制御装置を実現することができる。
【0018】
本発明によれば、入力電源に低電圧異常が発生したか否かの判断基準として第1の電圧閾値及び第1の時間閾値を設定し、入力電源に停電が発生したか否かの判断基準として第2の電圧閾値及び第2の時間閾値を設定し、第2の電圧閾値は第1の電圧閾値よりも小さくかつ第2の時間閾値は第1の時間閾値よりも長いという関係を有するようにするので、工作機械の通常運転が困難な電源異常である停電発生時の保護動作を確実に実行することができ、さらには、工作機械の通常運転動作は継続可能ではあるが高精度加工などへの影響が懸念されるような軽度な電源異常である低電圧異常の発生時にはその発生状況を記憶してディスプレイ等に表示するので、工作機械により加工された製品に不良が発生した際の原因特定やトレーサビリティが容易となる。
【0019】
また、本発明によれば、表示部に、電圧低下状態(低電圧異常及び停電のいずれか)の発生時刻に関連付けて電圧検出部が検出した電圧値及び加工管理部が取得した加工情報が表示されるので、作業者は、いつどのような電源異常が発生し、その時の加工にどのような影響が出たかトレースすることが容易となる。例えば、作業者は、表示部に表示された低電圧異常の発生時刻とその時の加工情報に基づいて、その時間に加工されていた不良ワークを探し出すことが容易になるので(トレーサビリティの向上)、検品対処のワークの総数を減らして検品時間を削減することができるとともに、不良品の検出取りこぼしを防止することができる。また例えば、不良ワークが発生してしまった際には、作業者は、表示部の表示内容に基づいて、不良の原因特定(故障診断)を容易に行うことができ、今後の不良防止対策や生産計画の立案などに利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態による工作機械の制御装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態における異常判定部において用いられる低電圧異常判定条件及び停電判定条件を説明する図である。
図3】本発明の実施形態における表示部による表示例を示す図である。
図4】本発明の実施形態による工作機械の制御装置の動作フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は本発明を実施するための一つの例であり、本発明は図示された形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態による工作機械の制御装置の構成を示す図である。一般に工作機械においては、駆動軸ごとにモータが設けられるが、ここでは、一例として1個のモータ104を駆動制御する例について説明する。ただし、モータ104の個数は、本発明を特に限定するものではない。工作機械において、モータ104は、例えば、ワークや工具(ツール)が取り付けられた主軸を駆動するための駆動源(主軸モータ)や、主軸やワークを移動させる送り軸を駆動するための駆動源(送り軸モータ)として用いられるが、ここでは説明を簡明にするために、ワーク、工具及びこれらに関連する機構については図示を省略している。工作機械の例としては、NC工作機械、射出成形機、アーク溶接などの産業用ロボット、PLC、搬送機、計測器、試験装置、プレス機、圧入器、印刷機、ダイカストマシン、食品機械、包装機、溶接機、洗浄機、塗装機、組立装置、実装機、木工機械、シーリング装置、または切断機などがあるが、工作機械の種類自体は本発明を特に限定するものではない。
【0023】
また、モータ104の種類や構成は本発明を限定するものではなく、誘導モータや同期モータのような交流モータであっても、あるいは直流モータであってもよい。
【0024】
図1では、一例として、モータ104を三相交流モータとし、電源を交流電源103とした場合における一般的なモータ駆動装置の構成を示している。この場合、モータ104は、交流電源103側から供給された交流電力を整流器101にて直流電力に一旦変換したのちさらに逆変換器102にて変換された交流電力を駆動電力として用いる。
【0025】
整流器101は、交流電源103側から供給された交流電力を直流電力に変換し、直流側であるDCリンクに出力する。本発明では、用いられる整流器101の実施形態は特に限定されず、例えばダイオード整流器、あるいは内部に半導体スイッチング素子を備えるPWM制御方式の整流器などがある。整流器101がPWM制御方式の整流器である場合は、半導体スイッチング素子およびこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなる。この場合、半導体スイッチング素子の例としては、IGBT、サイリスタ、GTO(Gate Turn−OFF thyristor:ゲートターンオフサイリスタ)、トランジスタなどがあるが、半導体スイッチング素子の種類自体は本発明を限定するものではなく、その他の半導体スイッチング素子であってもよい。
【0026】
整流器101の直流出力側と逆変換器102の直流入力側とを接続するDCリンクには、平滑コンデンサ(DCリンクコンデンサとも称する)105が設けられる。平滑コンデンサ105は、整流器101の直流出力の脈動分を抑える機能とともに、直流電力を蓄積する機能も有する。
【0027】
逆変換器102は、整流器101が出力した直流電力を、モータ104を駆動するための交流電力に変換して出力する。逆変換器102は、例えばPWMインバータなどのような、半導体スイッチング素子およびこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなる。この場合、半導体スイッチング素子の例としては、IGBT、サイリスタ、GTO、トランジスタなどがあるが、半導体スイッチング素子の種類自体は本発明を限定するものではなく、その他の半導体スイッチング素子であってもよい。また、逆変換器102は、後述する加工管理部14から受信したモータ駆動指令に基づき内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、DCリンクを介して整流器101から供給される直流電力を、モータ104を駆動するための所望の電圧および所望の周波数の交流電力に変換する。これにより、モータ104は、供給された電圧可変および周波数可変の交流電力に基づいて動作することになる。
【0028】
本発明の実施形態による工作機械の制御装置1は、電圧検出部11と、計時部12と、異常判定部13と、加工管理部14と、記憶部15とを備える。また、制御装置1は、出力部16と、表示部17と、保護動作部18とを備える。
【0029】
電圧検出部11は、工作機械を駆動するのに用いられる入力電源の電圧値を検出する。図1に示す例では、入力電源として三相交流電源が用いられるので、電圧検出部11による交流電圧検出方法として、例えば、整流器101の交流電源103側の三相座標上の交流電圧を三相二相変換して得られる二相座標上のベクトルノルムを交流電圧値とする方法、整流器101の交流電源103側の三相座標上の交流電圧の電圧波高値を交流電圧値とする方法などを用いればよい。電圧検出部11によって検出された電圧値は、計時部12及び異常判定部13に送られるが、必要に応じて記憶部15へも送られる。
【0030】
計時部12は、電圧検出部11が検出した電圧値に電圧低下状態が発生したとき、当該電圧低下状態の発生時刻及び継続時間を計時する。
【0031】
異常判定部13は、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した電圧低下状態の継続時間とに基づいて、所定の低電圧異常判定条件及び所定の停電判定条件に従って、入力電源に低電圧異常もしくは停電が発生したか否かを判定する。図2を参照してより詳細に説明すると次の通りである。
【0032】
図2は、本発明の実施形態における異常判定部において用いられる低電圧異常判定条件及び停電判定条件を説明する図である。図2において、横軸は、電圧検出部11が検出した電圧値に電圧低下状態が発生したときの当該電圧低下状態の継続時間を示し、縦軸は、電圧検出部11が検出した入力電源の電圧値を示す。
【0033】
異常判定部13による異常判定処理に用いられる低電圧異常判定条件に関し、入力電源に低電圧異常が発生したか否かの判断基準として、第1の電圧閾値VTh1及び第1の時間閾値tTh1を設定する。また、異常判定部13による異常判定処理に用いられる停電判定条件に関し、入力電源に停電が発生したか否かの判断基準として、第2の電圧閾値VTh2及び第2の時間閾値tTh2を設定する。第2の電圧閾値VTh2は、第1の電圧閾値VTh1よりも小さい値に設定し、第2の時間閾値tTh2は、第1の時間閾値tTh1よりも長い値に設定する。特に第1の電圧閾値VTh1及び第1の時間閾値tTh1については、工作機械により加工される製品の精度に応じて適宜設定すればよい。例えば、電圧低下状態が発生した場合において、低電圧異常を検知して高精度な加工を確保ができる程度の値に第1の電圧閾値VTh1及び第1の時間閾値tTh1を設定したり、あるいは、高精度が要求されない製品を加工する場合は、工作機械の継続運転を優先して第1の電圧閾値VTh1を低めに設定し第1の時間閾値tTh1を長めに設定したりすることが考えられる。なお、低電圧異常判定条件及び停電判定条件を構成するこれら閾値は、異常判定部13内に設けられた共通の記憶領域(図示せず)に書き換え可能に記憶される。工作機械の制御装置1の動作時には、異常判定部13は低電圧異常判定条件及び停電判定条件をこの記憶領域から取得する。
【0034】
異常判定部13は、電圧検出部11が検出した電圧値が第1の電圧閾値VTh1未満である状態が第1の時間閾値tTh1以上にわたって継続した場合、入力電源に低電圧異常が発生したと判定し、ウォーニング(Warning)信号を後述する記憶部15へ出力する。また、異常判定部13は、電圧検出部11が検出した電圧値が第2の電圧閾値VTh2未満である状態が第2の時間閾値tTh2以上にわたって継続した場合、入力電源に停電が発生したと判定し、アラーム(Alarm)信号を後述する記憶部15及び保護動作部18へ出力する。なお、図2から分かるように、異常判定部13が入力電源に「停電が発生した」と判定した場合には「低電圧異常が発生した」とも判定されている関係となる。
【0035】
加工管理部14は、工作機械の加工条件の指令及び加工情報の取得を行うものであり、例えば数値制御装置内に設けられる。
【0036】
加工管理部14による工作機械の加工条件の指令は加工プログラム(NCプログラム)に基づくものであり、一例として、モータ104によって、ワークや工具(ツール)が取り付けられた主軸を駆動したり、主軸やワークを移動させる送り軸を駆動したりするプログラムがある。
【0037】
加工管理部14が取得する工作機械の加工情報には、例えば、加工プログラム(NCプログラム)に加え、工作機械の装置内外の温度、湿度もしくは気圧などがあり、あるいはこれら以外の情報を含めてもよい。工作機械の装置内外の温度、湿度もしくは気圧は、加工管理部14に接続された各種センサ(図示せず)によって検知される。
【0038】
記憶部15は、入力電源に低電圧異常が発生したと異常判定部13が判定したときにおける、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した当該電圧低下状態(すなわち低電圧異常)の発生時刻と、加工管理部14が取得した加工情報と、を記憶する。上述のように、「低電圧異常が発生した」と判定される場合の中には「停電が発生した」と判定される場合も含まれるので、入力電源に停電が発生したと異常判定部13が判定したときにも、記憶部15には、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した当該電圧低下状態(すなわち停電)の発生時刻と、加工管理部14が取得した加工情報と、が記憶されることになる。また、入力電源に停電が発生したと異常判定部13が判定したときには、「アラームが発生した」事実についても記憶部15に記憶する。このように、記憶部15には、当該電圧低下状態(すなわち停電)の発生時刻に関連付けて、電圧検出部11が検出した電圧値及び加工管理部14が取得した加工情報が記憶されることになる。なお、記憶部15は、例えばバッテリでバックアップされた不揮発性メモリで構成される。異常判定部13が入力電源に低電圧異常が発生したと判定したか否かは、異常判定部13がウォーニング信号を出力したか否かで判別することができる。
【0039】
出力部16は、記憶部15に記憶された、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した電圧低下状態の発生時刻と、加工管理部14が取得した加工情報と、を出力する。出力部16は、例えば各種コネクタにて単独に構築されてもよく、あるいは無線通信装置として構築されてもよい。
【0040】
表示部17は、記憶部15に記憶された、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した電圧低下状態の発生時刻と、異常判定部13で判定された異常状態(ウォーニング/アラーム)と、加工管理部14が取得した加工情報と、を表示する。表示部17の例としてはパソコンやタッチパネルのディスプレイや工作機械に付属のディスプレイなどがある。またあるいは、プリンタを用いて紙面等にプリントアウトして表示させる形態をとってもよい。またあるいは、出力部16を介して出力した電圧検出部11が検出した電圧値、計時部12が計時した電圧低下状態の発生時刻、及び加工管理部14が取得した加工情報を、例えばハードディスク、CD−RあるいはDVD−Rなどの記録メディアやネットワークストレージ上などに保存しておき、作業者の所望の時期に表示部17に表示させるようにしてもよい。図1では、表示部17と出力部16とが並列となるように記載したが、出力部16の後段に表示部17を設けてもよい。
【0041】
表示部17の表示により、作業者は容易に、低電圧異常もしくは停電の発生日時、当該低電圧異常もしくは当該停電の発生時に電圧検出部11が検出した電圧値の波形、当該低電圧異常もしくは当該停電に対応する加工情報を知ることができる。図3は、本発明の実施形態における表示部による表示例を示す図である。図3の例示では、表示部17には、低電圧異常もしくは停電の発生日時に対応して、そのときの電圧検出部11が検出した電圧値の波形、および加工情報(図示の例では加工プログラム)が表示されている。
【0042】
一例として、第1の電圧閾値VTh1を180ボルト、第2の電圧閾値VTh2を140ボルト、第1の時間閾値tTh1を1ミリ秒、第2の時間閾値tTh2を15ミリ秒に設定した場合を考える。図3に示す例では、発生時刻「2016年5月12日10時30分」では5ミリ秒間にわたって0ボルトの状態が継続したので低電圧異常と判定され、発生時刻「2016年5月12日15時00分」では50ミリ秒間にわたって0ボルトの状態が継続したので停電と判定され、発生時刻「2016年5月13日16時00分」では10ミリ秒間にわたって60ボルトの状態が継続したので低電圧異常と判定された場合を示しており、各時の加工情報として加工プログラムが示されている。なお、図3に示した数値及びプログラムなどの表示内容はあくまでも一例である。
【0043】
このように、表示部17には、電圧低下状態(低電圧異常及び停電のいずれか)の発生時刻に関連付けて電圧検出部11が検出した電圧値及び加工管理部14が取得した加工情報が表示されるので、作業者は、いつどのような電源異常が発生し、その時の加工にどのような影響が出たかトレースすることが容易となる。例えば、作業者は、表示部17に表示された低電圧異常の発生時刻とその時の加工情報に基づいて、その時間に加工されていた不良ワークを探し出すことが容易になるので(トレーサビリティの向上)、検品対処のワークの総数を減らして検品時間を削減することができるとともに、不良品の検出取りこぼしを防止することができる。また例えば、不良ワークが発生してしまった際には、作業者は、表示部17の表示内容に基づいて、不良の原因特定(故障診断)を容易に行うことができ、今後の不良防止対策や生産計画の立案などに利用することもできる。
【0044】
保護動作部18は、入力電源に停電が発生したと異常判定部13が判定したときに工作機械、当該工作機械に設けられた工具及び当該工具により加工されるワークの損傷を防ぐための退避動作指令を出力する。異常判定部13が入力電源に停電が発生したと判定したか否かは、異常判定部13がアラーム信号を出力したか否かで判別することができる。保護動作部18は、異常判定部13からアラーム信号を受信した場合、入力電源に停電が発生したと異常判定部13が判定したときに工作機械、当該工作機械に設けられた工具及び当該工具により加工されるワークの損傷を防ぐための退避動作指令を、加工管理部14に対して出力する。加工管理部14は、保護動作部18からの退避動作指令を受けて、所定の保護動作(退避動作)を行うよう各部に指令する。保護動作(退避動作)の一例として、モータ104が所定の保護動作(退避動作)を行うための電力を出力するよう逆変換器102に対して回生動作指令を出力し、モータ104を停止させる動作が挙げられる。これにより、モータ104、モータ104に接続され工具や駆動軸、当該工具により加工されるワーク、これらを含む製造ラインを保護するための各種保護動作を行い、工作機械は停止する。
【0045】
上述の計時部12、異常判定部13、記憶部15、出力部16、表示部17、及び保護動作部18のうちのいくつかもしくは全てを、加工管理部14が内部に含まれる数値制御装置内に設けてもよい。計時部12、異常判定部13、加工管理部14、及び保護動作部18は、例えばソフトウェアプログラム形式で構築されてもよく、あるいは各種電子回路とソフトウェアプログラムとの組み合わせで構築されてもよい。例えばこれらをソフトウェアプログラム形式で構築する場合は、このソフトウェアプログラムに従って動作させるための演算処理装置を設けたり、クラウドサーバ上においてこのソフトウェアプログラムを動作させたりすることで、上述の各部の機能を実現することができる。またあるいは、計時部12、異常判定部13、加工管理部14、及び保護動作部18を、各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。
【0046】
以上、一例として、モータ104を三相交流モータとし、電源を交流電源103とした場合における一般的なモータ駆動装置の構成を説明したが、例えばモータ104を三相交流モータとし電源を直流電源としてもよく、この場合は、整流器101及び平滑コンデンサ105は設けられず、電圧検出部11は直流電圧を検出するものとして構成される。また例えばモータ104を直流モータとし電源を交流電源103としてもよく、この場合は、逆変換器102は設けられず、電圧検出部11は交流電圧を検出するものとして構成される。また例えばモータ104を直流モータとし電源を直流電源としてもよく、この場合は、整流器101、逆変換器102及び平滑コンデンサ105は設けられず、電圧検出部11は直流電圧を検出するものとして構成される。
【0047】
図4は、本発明の実施形態による工作機械の制御装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0048】
工作機械の制御装置1が動作してモータ104を駆動している状態において、ステップS101において、電圧検出部11は、工作機械を駆動するのに用いられる入力電源の電圧値を検出する。
【0049】
ステップS102において、異常判定部13は、低電圧異常判定条件を上記記憶領域から取得する。
【0050】
ステップS103において、異常判定部13は、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した電圧低下状態の継続時間とに基づいて、低電圧異常判定条件を満たすか否かを判定する。すなわち、異常判定部13は、電圧検出部11が検出した電圧値が第1の電圧閾値VTh1未満である状態が第1の時間閾値tTh1以上にわたって継続した場合は低電圧異常判定条件を満たすので、入力電源に低電圧異常が発生したと判定し、ウォーニング(Warning)信号を記憶部15へ出力し、ステップS104へ進む。一方、異常判定部13が低電圧異常判定条件を満たさないと判定した場合はステップS101へ戻る。
【0051】
ステップS104では、記憶部15は、異常判定部13から受信したウォーニング信号に応答して、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した当該電圧低下状態(すなわち低電圧異常)の発生時刻と、加工管理部14が取得した加工情報と、を記憶する。
【0052】
ステップS105において、異常判定部13は、停電判定条件を上記記憶領域から取得する。
【0053】
ステップS106において、異常判定部13は、電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した電圧低下状態の継続時間とに基づいて、停電判定条件を満たすか否かを判定する。すなわち、異常判定部13は、電圧検出部11が検出した電圧値が第2の電圧閾値VTh2未満である状態が第2の時間閾値tTh2以上にわたって継続した場合は停電判定条件を満たすので、入力電源に停電が発生したと判定し、アラーム信号を記憶部15及び保護動作部18へ出力し、ステップS107へ進む。一方、異常判定部13が停電判定条件を満たさないと判定した場合はステップS101へ戻る。
【0054】
ステップS107では、記憶部15は、異常判定部13から受信したアラーム信号に応答して、ステップS104において既に記憶されていた電圧検出部11が検出した電圧値と、計時部12が計時した当該電圧低下状態(この場合は停電)の発生時刻と、加工管理部14が取得した加工情報と併せて、「アラームが発生した」事実を記憶する。
【0055】
ステップS108では、保護動作部18は、異常判定部13から受信したアラーム信号に応答して、工作機械、当該工作機械に設けられた工具もしくは当該工具により加工されるワークの損傷を防ぐための退避動作指令を加工管理部14に対して出力する。加工管理部14は、保護動作部18からの退避動作指令を受けて、所定の保護動作(退避動作)を行うよう各部に指令する。これにより、モータ104、モータ104に接続され工具や駆動軸、当該工具により加工されるワーク、これらを含む製造ラインを保護するための各種保護動作を行い、工作機械は停止する(ステップS109)。
【0056】
上述の処理を経て記憶部15に記憶された内容は、出力部16によって出力され、表示部17によって表示される。表示部17には電圧低下状態(低電圧異常及び停電のいずれか)の発生時刻に関連付けて電圧検出部11が検出した電圧値及び加工管理部14が取得した加工情報が表示されるので、作業者は、いつどのような電源異常が発生し、その時の加工にどのような影響が出たかトレースすることが容易となる。
【符号の説明】
【0057】
1 工作機械の制御装置
11 電圧検出部
12 計時部
13 異常判定部
14 加工管理部
15 記憶部
16 出力部
17 表示部
18 保護動作部
101 整流器
102 逆変換器
103 交流電源
104 モータ
105 平滑コンデンサ
図1
図2
図3
図4