特許第6571610号(P6571610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571610
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】ヒートシンクの製造システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20190826BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20190826BHJP
   B22D 45/00 20060101ALI20190826BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   H01L23/36 Z
   B22D17/00 B
   B22D45/00 B
   B05C9/14
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-163330(P2016-163330)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-32701(P2018-32701A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2018年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593078257
【氏名又は名称】株式会社メックインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】河原 文雄
(72)【発明者】
【氏名】久野 真弘
(72)【発明者】
【氏名】高味 克浩
【審査官】 川原 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−202683(JP,A)
【文献】 特開昭53−020157(JP,A)
【文献】 特開2009−006395(JP,A)
【文献】 特開2015−193848(JP,A)
【文献】 特開2015−214631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
B05C 9/14
B22D 17/00
B22D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗材と、該粗材の表面に形成された熱放射性塗料皮膜とからなるヒートシンクを製造するヒートシンクの製造システムであって、
前記ヒートシンクの製造システムは、
成形型と、該成形型に提供される溶湯を保持する溶湯保持炉と、から構成された鋳造装置と、
前記鋳造装置にて成形された前記粗材に対し、熱放射性塗料を噴出するスプレーノズルを備えた塗布装置と、
前記粗材が載置され、載置されている該粗材を加温する加温治具と、前記溶湯保持炉に接するとともに該加温治具にも接して流体が流通する流通管と、該加温治具の温度に基づいて該流通管を流通する流体の流量を調整する流量調整弁と、から構成された加温装置と、を備えているヒートシンクの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗材と、粗材の表面に形成された熱放射性塗料皮膜とからなるヒートシンクを製造するヒートシンクの製造システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の電気回路は小型化が進み、この小型化に伴って発熱密度が上昇していることから、電気回路の放熱性能の向上が重要な開発要素の一つとなっている。
【0003】
発熱量の大きな電気回路は当該電気回路を収容する筐体をアルミダイカストで製作するのが一般的であるが、金属は熱伝導率が高い一方で空気への熱伝達率が低い傾向にある。
【0004】
そこで、金属製の筐体の表面に対し、空気への熱伝達率の高い物質である、カーボンや窒化物、樹脂等からなる皮膜を形成する試みがおこなわれている。
【0005】
ここで、特許文献1には、平均粒径が0.1〜50μmで、酸化亜鉛粉末あるいは酸化チタン粉末又はその両方を含むセラミックス粉末と、バインダーと、を含み、バインダー成分100質量部に対してセラミックス粉末成分を25〜100質量部含む熱放射性塗料が平均膜厚1〜50μmで塗布されたヒートシンクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−246365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のヒートシンクによれば、熱放射性塗料からなる皮膜を有することで赤外領域の放射率が高められ、効率よく放熱できるとしている。
【0008】
ところで、ヒートシンクの製造は、成形型にて粗材を鋳造した後、成形型から粗材を取り出し、粗材を所定の塗布領域に搬送し、粗材の表面にたとえば上記する熱放射性塗料を塗布し、焼付けや溶剤の揮発をおこなって熱放射性塗料皮膜を形成することにより、その製造がおこなわれる。
【0009】
ところが、成形型から取り出され、搬送される過程で粗材の温度が低下してしまい、塗料を塗布するのに適した温度未満の温度まで低下してしまうことが問題となっている。また、たとえば粗材に塗料をスプレー塗布している最中に、粗材の温度が塗料を塗布するのに適した温度未満の温度まで低下してしまうことも問題となる。
【0010】
温度低下した粗材を焼成炉に収容して熱放射性塗料の焼付けや溶剤の揮発をおこなうに当たり、塗料を塗布するのに適した温度まで粗材を昇温させ、さらに塗料の焼付けや溶剤の揮発をおこなう必要があることから、多大な熱エネルギを要することになる。
【0011】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、成形型にて粗材を成形し、粗材の表面に熱放射性塗料皮膜を形成してヒートシンクを製造するシステムに関し、多大な熱エネルギを不要としながら、塗料の塗布に適した温度状態に粗材を保持して塗料を塗布しながらヒートシンクを製造することのできる、ヒートシンクの製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明によるヒートシンクの製造システムは、粗材と、該粗材の表面に形成された熱放射性塗料皮膜とからなるヒートシンクを製造するヒートシンクの製造システムであって、前記ヒートシンクの製造システムは、成形型と、該成形型に提供される溶湯を保持する溶湯保持炉と、から構成された鋳造装置と、前記鋳造装置にて成形された前記粗材に対し、熱放射性塗料を噴出するスプレーノズルを備えた塗布装置と、前記粗材が載置され、載置されている該粗材を加温する加温治具と、前記溶湯保持炉に接するとともに該加温治具にも接して流体が流通する流通管と、該加温治具の温度に基づいて該流通管を流通する流体の流量を調整する流量調整弁と、から構成された加温装置と、を備えているものである。
【0013】
本発明のヒートシンクの製造システムは、鋳造装置から取り出された粗材を加温しながら載置する加温治具と、溶湯保持炉に接するとともに加温治具にも接して流体が流通する流通管とから構成された加温装置を備えることにより、溶湯保持炉からの排熱で加温された流体にて粗材を加温し、加温された粗材に対して熱放射性塗料が塗布されることで、多大な熱エネルギを不要としながら、粗材を塗料の塗布に適した温度状態に保持できるものである。
【0014】
たとえば溶融したアルミニウムが収容された溶湯保持炉では、溶湯の熱が700℃程度もあることから、この排熱により、溶湯保持炉に接した状態で配設された流通管内を流通する流体は効果的に加温される。
【0015】
また、加温装置がさらに流量調整弁を備えており、この流量調整弁にて加温治具の温度に基づいて流通管を流通する流体の流量が調整されることで、たとえば粗材が長時間自然放熱下に置かれた場合でも、粗材を所望の温度状態に保持することができる。
【0016】
加温治具の温度の計測は、たとえば熱電対等の熱センサにておこなわれ、熱センサのセンシングデータに基づいて流量調整弁の開度の調整がおこなわれることにより、流通管を流通する流体の流量が調整される。
【0017】
また、加温された粗材に対して熱放射性塗料が塗布されることから、粗材の有する熱で熱放射性塗料の焼付けや溶剤の揮発もおこなうことができ、焼付け工程や溶剤の揮発工程にて必要となっていた焼成炉を不要にでき、焼付け工程や溶剤の揮発工程も不要にできて製造効率性が高まる。
【0018】
ここで、流通管を流通する流体としては、圧縮エアや水、油等が挙げられる。また、流通管や加熱治具は、熱伝導性の良好な銅等から形成されたものを適用するのが好ましい。
【0019】
なお、流体に圧縮エアが適用される場合は、この圧縮エアがスプレーノズルに提供されるように構成し、加温された圧縮エアと熱放射性塗料をスプレーノズルから噴出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明のヒートシンクの製造システムによれば、鋳造装置から取り出された粗材を加温しながら載置する加温治具と、溶湯保持炉に接するとともに加温治具にも接して流体が流通する流通管とから構成された加温装置を備えることにより、溶湯保持炉からの排熱で加温された流体にて粗材を加温し、塗料塗布に適した温度に保持された粗材に対して熱放射性塗料が塗布されることで、多大な熱エネルギを不要としながら、粗材の表面に熱放射性塗料皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のヒートシンクの製造システムの実施の形態を示した模式図である。
図2】加温装置で粗材を加温している状況を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明のヒートシンクの製造システムの実施の形態を説明する。
【0023】
(ヒートシンクの製造システムの実施の形態)
図1は本発明のヒートシンクの製造システムの実施の形態を示した模式図である。図示する製造システム400は、鋳造装置100、塗布装置200、および加温装置300から構成されている。
【0024】
鋳造装置100は、成形型10と、成形型10に提供される溶湯を保持する溶湯保持炉20と、溶湯保持炉20から成形型10に溶湯を提供する溶湯供給管30とから構成されている。
【0025】
成形型10は、第一型1と第二型2から構成され、図示する型閉め状態においてその内部に鋳造用のキャビティCが画成される。
【0026】
溶湯保持炉20には溶融したアルミニウム等の溶融金属が収容されており、アルミ溶湯の場合にはその内部温度が700℃程度になっている。
【0027】
一方、塗布装置200は、熱放射性塗料を収容する塗料収容容器40と、スプレーノズル50と、塗料収容容器40からスプレーノズル50へ熱放射性塗料を提供する塗料供給管40Aと、から構成されている。
【0028】
ここで、熱放射性塗料としては、ポリアミドイミド(PAI)や、エポキシ系塗料もしくはフェノール系樹脂などを挙げることができる。
【0029】
また、加温装置300は、成形型10にて成形された粗材が載置され、載置されている粗材を加温する加温治具60と、溶湯保持炉20に接するとともに加温治具60にも接して流体が流通する流通管70と、加温治具60の温度に基づいて流通管70を流通する流体の流量を調整する流量調整弁80とから構成されている。
【0030】
より詳細には、流通管70の上流側に流量調整弁80が配設されており、加温治具60には熱電対等の熱センサ80Bが取り付けられている。加温装置300はさらに制御機器80Aを有しており、制御機器80Aが熱センサ80Bによるセンシングデータを受信し、この受信したセンシングデータに基づいて流量調整弁80の開度を調整するようになっている。図示を省略するが、この制御機器80Aでは、CPU、ROM、RAM、データ受信部、温度と調整弁の開度の相関を規定する相関テーブルを格納する格納部、受信した温度データと格納部内の相関テーブルから調整弁の開度を決定する判定部、などがバスを介して相互に接続されている。
【0031】
流通管70の一部は加温治具60内に埋設されており、流通管70内に加温された流体が流通する過程で加熱治具60が所望温度に調整されるようになっている。なお、流通管70を流通する流体としては、圧縮エアや水、油等が挙げられる。
【0032】
ここで、流通管70や加熱治具60は、熱伝導性の良好な銅等から形成されている。
【0033】
次に、製造システム400を用いたヒートシンクの製造方法を概説する。
【0034】
成形型10のキャビティCの壁面に離形剤を塗布した後、図1で示すように型閉めされた成形型10のキャビティCに対し、溶湯保持炉20から金属溶湯を供給し(X1方向)、キャビティC内で粗材を鋳造する。
【0035】
次に、図2で示すように、金属溶湯が凝固して粗材Wが成形されたら、成形型10を型開きして粗材Wを取り出し、塗布領域にある加温治具60に搬送して位置決めする。なお、この脱型から粗材Wの搬送過程で粗材Wの温度は低下する。
【0036】
加温治具60への粗材Wの載置に先行して、溶湯保持炉20に接する流通管70に流体を流通させ(X2方向)、溶湯保持炉20からの排熱にて加温された流体を加温治具60の内部に流通させ(X2方向)、加温治具60を塗料を塗布するのに適した温度に調整しておく。
【0037】
この加温治具60の温度調整に当たり、熱センサ80Bにてセンシングされているセンシングデータが制御機器80Aに随時送信され、制御機器80Aは受信したセンシングデータに基づいて流量調整弁80の開度を調整し、流量が調整された加温流体にて加温治具60が塗料を塗布するのに適した温度となるような調整が実行される。
【0038】
成形型10から脱型され、搬送される過程で温度低下した粗材Wが加温治具60に載置されることで、粗材Wの温度は塗料を塗布するのに適した温度まで昇温され、この温度状態が保持される。
【0039】
加温治具60にて塗料を塗布するのに適した温度に保持された粗材Wに対し、スプレーノズル50から熱放射性塗料が噴出され、粗材Wの表面に塗布される。
【0040】
このように、溶湯保持炉20からの排熱で加温された流体にて粗材Wを塗料塗布に適した温度まで昇温し、保持することで、多大な熱エネルギを不要としながら、粗材Wに対する塗料塗布を実現することができる。
【0041】
さらに、加温治具60にて加温された粗材Wの有する熱により、粗材Wの表面に塗布された熱放射性塗料の焼付けや溶剤の揮発もおこなうことが可能になる。この場合、従来の焼付け工程や溶剤の揮発工程にて必要となっていた焼成炉が不要になるとともに、焼付け工程や溶剤の揮発工程も不要になることから、製造システムの製作コストを削減でき、かつヒートシンクの製造効率を格段に向上させることができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0043】
1…第一型、2…第二型、10…成形型、20…溶湯保持炉、30…溶湯供給管、40…塗料収容容器、50…スプレーノズル、60…加温治具、70…流通管、80…流量調整弁、80A…制御機器、80B…熱センサ、100…鋳造装置、200…塗布装置、300…加温装置、400…(ヒートシンクの)製造システム、W…粗材
図1
図2