(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アセンブリー(MEA)が、該MEAシステムを、制御された電流(I)-電圧(V)条件の下に維持することにより、制御された量の水を発生させ、かつ該システム内で電気浸透ドラッグを駆動させることによって、燃料電池テストステーションの製造に使用され、リン酸の浸出が、高温燃料電池のための、リン酸による膜のその場での電流-電圧(I-V)支援ドーピングによって減じられる、請求項5記載の膜電極アセンブリー(MEA)。
【背景技術】
【0002】
目下のところ、高温ポリマー電解質膜燃料電池(High Temperature Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cells)(HT-PEMFC)は、プロトン伝導膜として、リン酸(PA)をドープしたポリベンズイミダゾール(PBI)を使用している。これらPBIベースの膜電極アセンブリー(MEA)は、150℃よりも高い温度においてさえも機能するが、長期作動中のこれらMEAに係る性能の劣化が主な関心事となっており、また多くの努力が、この問題を解決すべく実行されている。この理由のために、多くの研究作業が、電解触媒に関心を向けている。該電極並びに燃料電池の動作中における該PBI膜からのPAの浸出は、燃料電池性能に係る全体としての劣化における主要な関心事である。
PAは上記PBIベース膜における主なプロトン伝導源であり、従ってPAの浸出は、上記MEAの全体的な性能に影響を及ぼす。多くの複合膜が、該プロトン伝導率を改善するために導入されているが、燃料電池作動中の該PAの浸出は、依然として関連する一問題点となっている。燃料電池反応中の、その電極上での水蒸気の形成は、該膜内の該PAにより容易に吸収される可能性があり、これは該膜からのPAの浸出へと導く。
【0003】
Kim等は、改善された方法を使って、該触媒層中にイオノマーを組込むことによる、トリプル相境界(triple phase boundary)の効率的な形成を記載している。該カソード及びアノードは、触媒及びイオノマーを含有するスラリーを、ガス拡散層に流延し、かつこの得られた層を乾燥して、触媒層を形成することにより製造される。該イオノマーは、NMP内に溶解され、また該Pt/C触媒は別途NMP中で混合された。その後、これら2つの溶液を十分に混合し、相分離用の第二の溶媒(ヘキサンまたは水)に添加された。また、該イオノマーフィルムを、該触媒表面上に化学的に吸着させる。これは、標準的な方法よりもむしろ、イオノマーによるPt/Cの効果的な被覆へと導くであろう。これは、従来の方法により製造された電極と比較して、改善された燃料電池性能を与える。(US 2006/0105226 A1, 5月18日, 2006)。
上記方法は、上記伝導性触媒材料、上記プロトン伝導性材料及び第一の溶媒を混合する工程、及びこの得られた混合物を支持層上に流延する工程を含む。該混合物を乾燥して、伝導性触媒含有フィルムを形成し、また該伝導性触媒含有フィルムを、該支持層から分離し、かつ粉砕する。この発明によれば、該伝導性触媒材料と比較して、該イオノマーの割合は、1-50%の範囲内にある。この範囲を超えるまたはそれより低い比率は、低い燃料電池性能へと導くであろう。この発明は、また塗布又は被覆後の該触媒層を乾燥するための温度範囲についても述べている。その適当な温度は60-150℃であり、60℃より低いと、該塗膜は十分に乾燥されず、また150℃を超えると、該炭素支持体は、酸化されるであろう。(US 8,039,414 B2, 10月18日, 2011)。
【0004】
Liu等は、燃料電池における膜電極アセンブリーを研究した。彼らは、良好な性能を持つ電極を製造した。彼らの電極において、そのバインダは、少なくとも1種のトリアゾール変性ポリマーを含むことができ、該ポリマーは、該触媒が確実に該電解質膜表面と接触するように構成されている。ここで、該トリアゾール基は、該プロトン伝導路として作用し、またこれは、水の沸点以上で効果的である。(US 7,947,410 B2, 5月24日, 2011)。
Li等は、PBI及び酸をドープしたPBI膜による水の取込みを研究した。この研究は、低い酸ドーピング割合において、該イミダゾールリングの活性サイトがドープされた酸分子により占有されていることから、該膜による水の取込みが少ないことを示している。一方で、高い酸ドーピングレベルにおいて、該水の取込み割合は、ナフィオン膜の水の取込み割合よりも高く、またこれは、該酸ドープ膜の吸湿性によるものである。同様に、この研究は、PBI膜に必要とされるドーピング時間についても述べており、また室温にて該PBI膜をドーピングするのに約50時間が必要とされる。この研究は、またより高い酸ドーピングレベルにおいて、該過剰量の酸が、伝導性に寄与するであろうこと、及び同時に、十分な液体が該膜上に存在する場合には、該酸が、浸出を被ることをも述べている。(Solid State Ionics, 168, 177-185 (2004))。
【0005】
He等は、温度、酸ドーピングレベル及び相対湿度との関連で、リン酸をドープしたPBI膜の伝導性を研究した。同様に、本研究は、該PBI複合膜、例えばリン酸ジルコニウム、リンタングステン酸及びケイタングステン酸等の無機プロトン伝導性材料を含むPBIをも扱っている。同様に、これら複合膜に係る伝導性は、様々なパラメータに関して研究され、また200℃及び5% RHにおいて、リン酸ジルコニウムを含むPBI複合体についてより高い伝導性を得ている。(Journal of Membrane Science, 226, 169-184 (2003))。
Seland等は、Pt/CにおけるPt含有率及び同様に該触媒の装填量(loading)を変更することによって、最適のアノード及びカソード組成を研究した。彼は、アノード及びカソード両者における高いプラチナ含有率及び薄い触媒層が、全体的に最良の性能を与えることを見出した。これは、該様々な触媒表面積、該電解質膜に関する該触媒の位置、及び特に該触媒層内に分散されたPBIの量によるものであった。(Journal of Power Sources, 160, 27-36 (2006))。
従って、商業的応用のための、PA-PEMFCsの首尾よい浸透を実現するために、この問題を克服するための実際の解決策が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、改善された燃料電池性能及び安定性を持つ、ポリベンズイミダゾール(PBI)ベースの膜電極アセンブリー(MEA)の製造方法を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、PAによる膜のその場での電流-電圧(I-V)支援ドーピングによる、燃料電池作動中の、その膜からのPAの浸出を克服するための簡単な方策を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、電池作動中のリン酸の浸出を克服することにより達成される高い安定性及び改善された燃料電池性能を持つ、膜電極アセンブリー(MEA)を製造するための改良法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、改善された燃料電池性能を持つ、高温燃料電池用の膜電極アセンブリー(MEA)の製造方法を提供するものであり、該方法は以下の工程を含む:
a. 80-85%リン酸(H
3PO
4)を、アノード及びカソード電極表面に塗布して、塗布された電極を得る工程;
b. 該工程(a)の2つの電極間に、50-60μmの範囲の厚みで、H
3PO
4をドープしたポリベンズイミダゾール(PBI)膜を保持して、アセンブリーを得る工程;及び
c. 該工程(b)のアセンブリーをホットプレス加工して、前記MEAを得る工程。
本発明の一態様において、工程(b)においてPBIに対する上記ドープされたリン酸は、繰返し単位当たり9-11モルの比にある。
本発明の一態様において、1-2mLのH
3PO
4の塗布は、アノード及びカソード電極表面について行われる。
本発明のもう一つの態様において、アノード及びカソード電極は、各電極上に1mg/cm
2というPt装填量を持つ40% Pt/Cである。
本発明の更に別の態様において、膜電極アセンブリー(MEA)は、
a. 1-2mLの85%リン酸で塗布されたガス拡散アノード及びカソード電極、
b. ポリマー電解質膜であって、50-60μmの厚みの固体電解質としてのリン酸でドープされたPBIと、該記膜とで構成される、及び
c. 場合によりジルコニア、シリカ、多孔質グラフェン及びナノ-ホーン(nano-horns)から選択される添加剤、
を含んでいる。
【0008】
本発明の更に別の態様において、上記膜電極アセンブリー(MEA)は、該MEAシステムを、制御された電流(I)-電圧(V)条件の下に維持することにより、制御された量の水を発生させ、該システム内で電気浸透ドラッグ(drag)を駆動(mobilize)させることにより、燃料電池テストステーションを製造するのに使用され、リン酸の浸出は、高温燃料電池のために、リン酸による膜のその場での電流-電圧(I-V)支援ドーピングによって減じられる。
本発明の更に別の態様において、燃料電池テストステーションは、ジルコニア、シリカ、多孔質グラフェン及びナノ-ホーンからなる群から選択される添加剤を場合によって含み、かつ該添加剤は、上記燃料電池が作動状態にある間に、より一層制御された様式で、上記被覆されたH
3PO
4分子を保持し、かつ該酸を遊離して、該燃料電池の性能を改善することを可能とする。
略号の一覧
HT-PEMFC:高温ポリマー電解質膜燃料電池;
MEA:膜電極アセンブリー;
PA:リン酸;
PBI:ポリベンズイミダゾール。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、PAによる膜のその場での電流-電圧(I-V)支援ドーピングによる、燃料電池作動中の、該膜からのPAの浸出を克服するための簡単な方策に関する。
本発明は、膜電極アセンブリー(MEA)を工夫するための改良された方法に係り、該アセンブリーは、電池作動中のリン酸の浸出を克服することにより、該燃料電池性能を改善する。上記その場でのドーピングは、効率的な電極-電解質界面を作り出し、それにより該電極における電荷移動抵抗を減じ、また該電池の性能を著しく改善する、プロトン伝導率に対する抵抗を低下する。
最も好ましいポリマー膜は、ポリ2,2'-(m-フェニレン)-5,5'-ビベンズイミダゾール製品、PBIから選択される。該ポリベンズイミダゾールは、425-436°Cというガラス転移温度を持つアモルファス熱可塑性ポリマーである。該PBI膜は、85% H
3PO
4で、3時間に渡り100℃にてドーピングされる。
本発明の更なる一局面は、ポリマー電解質膜燃料電池(PEMFC)用の固体電解質に係り、該固体電解質は、リン酸(85%)でドープされたPBIを含む。
【0011】
一局面において、本発明は、高温燃料電池用の膜電極アセンブリー(MEA)の製造方法に係り、ここにおいて該MEAは、電池作動中のリン酸の浸出を克服することにより、改善された燃料電池性能を与え、該方法は以下の工程を含む:
1. 一定量(1mL)のH
3PO
4(85質量%)を、アノード及びカソード電極(ガス拡散層上に塗布されたPt触媒(1 mg/cm
2))表面に塗布して、塗布電極を得る工程;
2. H
3PO
4ドープされたPBI膜を、上記工程(1)の2つの電極間に保持して、アセンブリーを得る工程;及び
3. 上記工程(2)のアセンブリーをホットプレス加工して、該所望のMEAを得る工程。
本発明の好ましい一局面において、燃料電池の作動中のその膜からのリン酸(PA)の浸出は、PAによる膜のその場での電流-電圧(I-V)支援ドーピングによって低下される。
【0012】
ガス拡散電極の製造
上記アノード及びカソード電極ガス拡散電極は、各々1 mg/cm
2というPt塗布量及び0.4というN/C(イオノマー対炭素)比を持つ40% Pt/Cを含む。
上記ガス拡散カソードは、通常酸素-含有オキシダントガスを還元するのに使用され、また上記ガス拡散アノードは、燃料ガス、特に水素に富む燃料ガスを酸化するのに使用される。好ましいポリマー電解質膜において、該アノード及びカソードは、好ましくはPt触媒を含む。
本発明のポリマー電解質膜において使用するための上記触媒は、周期律表第VIII族の貴金属、特にプラチナ(Pt)、ルテニウム(Ru)、Pt-Ru合金等から選択される。該触媒は、典型的に該触媒を担持する金属-炭素粒子として使用される。
電極の製造において、Pt/C触媒は、バインダとしてナフィオンを、またその溶媒としてのイソ-プロピルアルコールを使用する、従来の刷毛塗法によって、ガス拡散層(GDL)上に塗布/装填(coated/loaded)される。該GDLの表面上にPt/C触媒を刷毛塗した後、これを125℃にて乾燥する。該電極は9cm
2〜45cm
2の面積を持つ正方形の形状とされる。該プラチナの塗布量は約1 mg/cm
2である。
本発明のもう一つの好ましい局面において、上記電極は、更に1mLの量を用いてリン酸(85%)で塗布される。このようにして得られる該塗布された電極は、何時でも組立てられる。
次いで、上記膜電極の組立ては、上記リン酸をドープしたPBI膜を、上記酸で塗布されたアノードと電極との間に挟み、かつ125〜135℃の範囲の温度にて、0.5-1トンの圧力を10-25分間に渡り印加することにより、該アセンブリーをホットプレス加工することにより行われる。
【0013】
上記ポリマー電解質膜は、55μmの厚みを持ち、またMEAの厚みは、主として上記触媒の塗布量、触媒比率及び圧力に依存する。
本発明の方法により製造された上記膜電極アセンブリー(MEA)は、以下のものを含む:
1. リン酸で塗布されたガス拡散アノード及びカソード電極;及び
2. 固体電解質並びに上記膜としての、リン酸でドープされたPBIで構成されるポリマー電解質膜;及び
3. 該MEAの両側に保持され、210μmという厚みを持つ、ガス漏れを防止するためのガスケット。
好ましい一態様において、MEAを製造するためのパラメータは、以下の表1に示されている通りである:
【0015】
もう一つの局面において、本発明は、燃料電池テストステーションの製造方法を提供するものであり、該方法は以下の工程を含む:
a. PAをドープした膜を目的として行われる、電極(アノード及びカソード)上にPAの薄膜を塗布し、その後MEAを調製する工程;
b. 該工程(a)のMEAシステムを、制御された電流(I)-電圧(V)条件下に維持して、制御された量の水を生成させ、かつ該システム内で電気浸透ドラッグ(electro-osmotic drag)を移動させる工程。
MEAがその場でのドーピング技術により製造された場合、該膜のプロトン伝導率並びにR
CT両者は、その場でのドーピング工程なしに誘導されたMEAと比較して改善されている。該膜を介するプロトン伝導に対する抵抗における約2倍の低下及び電荷移動抵抗における10倍の低下が、その場でのドーピング技術を通して製造されたMEAについて観測される(
図1及び2、表1A)。これらの低下された抵抗は、
図4及び5及び表1Aに示されているように、単電池性能において有意に反映される。
【0017】
好ましい一局面において、本発明は、以下の表2に示すように、MEAs(その場でドープしたPAを持つ及び持たない)に係る燃料電池性能のデータを提供する。
【0019】
上記PA(リン酸)塗布電極ベースのMEA(膜電極アセンブリー)の再現性を更に分析するために、45cm
-2の活性面積及び1 mg cm
-2のPt塗布量を持つ10種の異なるMEAsの分極を、上記アノード及びカソード両者について行った。分極は、オキシダントとしての酸素及び空気両者及び燃料としての水素中で行った。酸素及び空気をオキシダントとして使用した場合(表3及び4)、これら10種のMEAs(これら10個のMEAs全ては、前のPA塗布MEAsについて述べたものと同一のプロトコールを利用することによって製造された)に係る、0.6Vにおける出力密度及び電流密度において、何ら顕著な差異は観測されなかった。かくして、高温PEM燃料電池用のMEAを製造するためのこの検討中の改良法は、高度に再現性である。
【0022】
本発明は、PAによる膜のその場での電流-電圧(I-V)支援ドーピングによる、燃料電池の作動中の、該膜からのPAの浸出を克服するための簡単な方策を開示する。この方法は、高い安定性と共に、改善された燃料電池性能を得るためのより良好なMEA開発戦略であることがはっきりした。
この方法は、PAをドープした膜を目的として行われる、電極(アノード及びカソード)上へのPAの薄膜塗布、その後のMEAの製造を含む。該システムは、制御された量の水を生成し、またそれ故に該システム内で電気浸透ドラッグを移動させるために、制御された電流(I)-電圧(V)条件の下に維持されるであろう。
制御された条件下での上記燃料電池運転のコンディショニング中に、その電極上に製造される水は、該電極表面由来のPAの膜に対する再ドーピングを支援する。同様に、この水の流れも該電極へのリン酸のドーピングを援助して、Pt触媒との効果的なトリプル相境界を維持する。
燃料電池作動中のこの再ドーピング技術は、上記膜におけるPA含有率を維持し、それ故にPA浸出の問題を防止する。また、電池作動温度(160℃)は、I-V支援PA再ドーピングを促進する。普通のPAをドープしたPBIベースのMEAと比較して、PBI膜のその場での再ドーピングは以下の諸性能を与える:
・高いプロトン伝導率;
・低い電極の電荷移動抵抗;
・高い燃料電池性能;
・電池性能の改善された安定性。
【0023】
最も重要なことに、I-V支援によるその場でのドーピング工程は、極めて単純かつ容易に処理可能である。
本発明の主要な特徴は、上記その場でのドーピングにある。従来技術の何れも、高められた効率をもたらすこのメカニズムについて論じていない。普通のドーピングとその場でのドーピングとを比較している添付された表は、関連する本発明の工程を裏付ける、改善された安定性、性能に係る明確な証拠を与える。
もう一つの局面において、本発明は、燃料電池テストステーションの製造方法を提供しており、ここで該電池の性能は、該電池の作動状態中に、より一層制御された様式で、その被覆されたH
3PO
4分子を保持し、かつ該酸を遊離するための、ジルコニア、シリカ等の材料を添加することにより、更に改善することができる。
更に別の局面において、本発明は、燃料電池テストステーションの製造方法を提供しており、ここで該電池の性能は、高い多孔度を持つ材料、例えば多孔質グラフェンを添加することにより更に改善することができ、またナノ-ホーンも、高温H
3PO
4ドープPBIベースのPEMFCsにおける、リン酸保持材料として使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下の実施例は、実際に本発明が実施される場合の作業の実例として与えられ、また本発明の範囲を何ら限定するものと解釈すべきではない。
実施例1
実験的詳細:
H
3PO
4をドープした膜の製造
上記Pt/C(アノード及びカソード各々の上で、1 mg/cm
2というPt塗布量を持つ40% Pt/C)触媒を、バインダとしてナフィオンを、またその溶媒としてイソプロピルアルコールを使用する、公知の刷毛塗法によって、ガス拡散層(GDL)上に塗布した。該GDLの表面にPt/C触媒を刷毛塗した後、これを125℃にて、オーブン内で一夜(15時間)乾燥した。該電極は、45cm
2の面積を持つ正方形の形状とされた。
上記PBI膜を、100℃にて3時間に渡り、85%H
3PO
4酸でドープした。
電極の塗布
電極(アノード及びカソード)表面へのH
3PO
4(1 mL)の薄層の塗布を行って、塗布された電極を得る。
膜電極アセンブリー(MEAs)の製造
1) アノード及びカソード電極表面上に、一定量(1 mL)のH
3PO
4(85質量%)を塗布し;
2) 上記H
3PO
4をドープしたPBI膜(厚み55μm)を、これら2つの電極間に保持し;
3) これらのアセンブリーを、130℃にて、15分間に渡り、0.5〜1トンを適用することにより、ホットプレス加工する。
上記MEA製造プロトコールは、以下の表5に示されている:
【0025】
【0026】
燃料電池テストステーション
上記MEAを、ガスケットを用いて燃料電池取付け具内に固定して、該取付け具内でのガス漏れを防止する。次いで、該取付け具を、上記燃料電池テストステーションに接続し、またアノードを介してH2を、及びカソードを介してO
2/空気を、各側面に0.1slpmという流量を使用してパージする。
燃料電池のテスト中、上記取付け具を、該取付け具に接続されている外部温度調節器を用いて継続的に加熱した。該電池を、50分間に渡り開回路電圧(Open Circuit Voltage: OCV)条件に維持し、また該取付け具が120℃に至った際に、1 Aという一定の電流をドラッグし、かつ一定時間間隔の間維持した。5 Aという一定量の電流を周期的にドラッグし、かつこの電流ドラッグ工程を、該電池電圧が0.6Vに達した際に停止した。該電池をこの電圧にて2時間という一定期間に渡り維持し、次いで該電池の分極を測定した。
上記その場でのPBI膜上へのH
3PO
4ドーピング及び上記高められた燃料電池性能に関する明白な根拠が、該インピーダンスプロット(
図1)により明らかにされた。ここで、抵抗に係る実数部分は、虚数部分に対してプロットされており、また通常はナイキスト(Nyquist)プロットと呼ばれている。このナイキストプロットは、膜抵抗及び電荷移動抵抗(R
CT)両者を与える。H
3PO
4塗布MEAに関する膜抵抗及び電荷移動抵抗値両者は、H
3PO
4塗膜を持たないMEAよりも低い。H
3PO
4塗布されたMEAs及び塗布MEAsを持たないものに関するこれらR
CTの値は、夫々0.081 Ω-cm
2及び0.708 Ω-cm
2であり、またH
3PO
4塗布されたMEAsを持つ及びこれを持たないものに関する膜抵抗値は、夫々0.025Ω及び0.043Ωである。H
3PO
4塗布後には、電荷移動抵抗における約10倍の低下が観測された。該膜抵抗及びR
CT値の低下は、H
3PO
4塗布されたMEAの場合には、より高い燃料電池性能を得るのに役立つ。
【0027】
図2は、上記H
3PO
4塗膜を持つMEAsに係るコンディショニング及び耐久テストを示す。該MEAのコンディショニングは、電流-電圧(IV)コンディショニング法により行われ、ここでは異なる電流が一定の時間間隔でドラッグされた。電流ドラッギング(current dragging)中、該電池内で水が生成され、またこの水は、上記PBI膜上へのその場でのH
3PO
4ドーピングを支援した。一層明らかなことに、各電流ドラッグ中に発生する該水は、電気浸透及び濃度勾配のためにカソードからアノードへ移動するであろう。該水が一方の側から他方の側に移動するので、これは該H
3PO
4分子を運搬し、またこの酸分子は該膜への該その場でのドーピングを支援する。該電池の作動温度は、100℃よりも高く、また同時に膜ドーピングにとって適した一条件であった。電気浸透ドラッグのために、水は、またカソードからアノードへも移動する。60時間のコンディショニング後においてさえ、電流並びに電位における如何なる顕著な差も存在しなかった。H
3PO
4塗布されたMEAは、0.6Vにおいて35 Aという電流を与えたが、これは上記H
3PO
4塗膜を持たないMEAよりも3.5倍高い(
図3)。
【0028】
図3は、上記電極表面上にH
3PO
4塗膜を持たないMEAに係るコンディショニングを示す。ここで、該システムは0.6Vにおいて僅かに10 Aの電流を放出した。
図4は、H
3PO
4塗布されたMEAsを持つもの及び持たないものに関する相対的な分極データを与え、該MEAsは、コンディショニング後に、夫々アノード及びカソードにおいてH
2及びO
2をパージすることによりテストされた。約6倍の改善が、H
3PO
4塗布されたMEAsの性能において達成された。0.6Vにおいて、この場合に得られた電流密度は0.912 A/cm
2であり、また最大出力密度は1.108 W/cm
2であった。
上記H
2-空気分極の場合において、改善された性能が、H
3PO
4塗布されたMEAにおいて観測された。
図5は、H
2-空気系における上記2種のMEAsに係る比較分極を示す。H
3PO
4塗布されたMEAを使って及び使わずに得られた最大出力密度は、夫々0.549 W/cm
2及び0.124 W/cm
2であった。H
3PO
4を持つ及び持たない場合に関する0.6Vにおける電流密度は、以下において表6に示したように、夫々0.338 A/cm2及び0.055 A/cm2である。そういうわけで、該電極の表面におけるH
3PO
4塗膜はその電池の性能を高めている。
【0029】
【0030】
上記電池の性能は、該電池の作動状態の間に、より一層制御された様式で、上記塗布されたH
3PO
4分子を支持し、かつ該酸を解放するために、ジルコニア、シリカ等の物質を添加することにより、更に改善することができる。同様に、高い多孔度を持つ物質、例えば多孔質グラフェン及びナノ-ホーンもまた、高温H
3PO
4ドープPBIベースPEMFCsにおけるリン酸支持物質として使用することができる。
【0031】
〔発明の効果〕
上述の本発明のその場でのドーピング法に係る顕著な特徴は、以下の通りである:
a. 上記膜におけるPA含有率の維持;
b. 上記電極に関する低い電荷移動抵抗;
c. 該膜に関する高いプロトン伝導率;
d. 燃料電池の動作に対する高い燃料電池性能及び改善された安定性;
e. I-V支援されたその場でのドーピング法は、極めて単純であり、かつ容易に処理できる。
本発明の別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕改善された燃料電池性能を持つ、高温燃料電池用の膜電極アセンブリー(MEA)の製造方法であって、以下の工程、
a. 80-85%リン酸(H3PO4)を、アノード及びカソード電極表面に塗布して、被覆電極を得る工程、
b. 該工程(a)の2つの電極間に、50-60μmの範囲の厚みのH3PO4をドープしたポリベンズイミダゾール(PBI)膜を保持して、アセンブリーを得る工程、及び
c. 該工程(b)のアセンブリーをホットプレス加工して、前記MEAを得る工程、
を含むことを特徴とする方法。
〔2〕工程(b)における前記ドープされたリン酸対PBIが、繰返し単位当たり9〜11モルの比にある、前記〔1〕記載の方法。
〔3〕1-2mLのH3PO4の塗布が、アノード及びカソード電極表面で行われる、前記〔1〕記載の方法。
〔4〕アノード及びカソード電極が、各電極上に1mg/cm2のPt装填の40%Pt/Cである、前記〔1〕記載の方法。
〔5〕前記〔1〕記載の方法により製造された膜電極アセンブリー(MEA)であって、該アセンブリーが以下のもの:
a. 1-2mLの85%リン酸で塗布された、ガス拡散アノード及びカソード電極、
b. ポリマー電解質膜であって、50-60μmの厚みの固体電解質としてリン酸でドープされたPBIと、前記膜とから構成されるポリマー電解質膜、及び
c. 場合によりジルコニア、シリカ、多孔質グラフェン及びナノ-ホーンから選択される添加剤、
を含むことを特徴とする膜電極アセンブリー。
〔6〕前記アセンブリー(MEA)が、該MEAシステムを、制御された電流(I)-電圧(V)条件の下に維持することにより、制御された量の水を発生させ、かつ該システム内で電気浸透ドラッグを駆動させることによって、燃料電池テストステーションの製造に使用され、リン酸の浸出が、高温燃料電池のための、リン酸によるその場での電流-電圧(I-V)支援ドーピングによって減じられる、前記〔5〕記載の膜電極アセンブリー(MEA)。
〔7〕燃料電池テストステーションが、ジルコニア、シリカ、多孔質グラフェン及びナノ-ホーンからなる群から選択される添加剤を場合により含み、該添加剤が、前記被覆されたH3PO4分子を保持し、前記燃料電池が作動状態にある間に、より一層制御された様式で該酸を遊離して、該燃料電池の性能を改善することを可能とする、前記〔5〕記載の膜電極アセンブリー(MEA)。