(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571660
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】抗体の分析
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20190826BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20190826BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20190826BHJP
【FI】
G01N33/543 501J
G01N33/53 N
G01N33/53 U
!C07K16/00
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-541386(P2016-541386)
(86)(22)【出願日】2014年12月16日
(65)【公表番号】特表2017-502285(P2017-502285A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2014077897
(87)【国際公開番号】WO2015091438
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年10月27日
(31)【優先権主張番号】61/919,156
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/019,945
(32)【優先日】2014年7月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502043547
【氏名又は名称】フアデイア・アー・ベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モベラレ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,カミラ
(72)【発明者】
【氏名】ベネマルム,レンナルト
【審査官】
磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/132000(WO,A1)
【文献】
特表2011−510291(JP,A)
【文献】
特表2013−527444(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0040027(US,A1)
【文献】
特表2011−506943(JP,A)
【文献】
LUNDKVIST, M. et al.,Characterization of anti-natalizumab antibodies in multiple sclerosis patients,Multiple Sclerosis Journal,2012年,Vol. 19, No. 6,pp. 757-764
【文献】
STUBENRAUCH, K. et al.,Evaluation of a biosensor immunoassay for simultaneous characterization of isotype and binding region of human anti-tocilizumab antibodies with control by surrogate standards,Analytical Biochemistry,2009年,Vol. 390,pp. 189-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノアッセイにおけるFc−Fc相互作用により引き起こされる非特異的結合を減少させるための方法であって、IgG4アイソタイプの1つ以上の抗薬物抗体(ADA)が、
a)溶液を、前記ADAにより結合され得るIgG分子が付着した固相に接触させること、
b)前記ADAを、IgG分子に特異的に結合させ、過剰な溶液は除去してもよく、
c)前記ADAに特異的に結合し得る標識IgG4特異的抗体を加えること、
d)過剰な試薬を除去すること、および
e)結合した、または結合していない標識を検出して、溶液中の前記ADAの存在または濃度を直接的または間接的に測定すること
により、溶液中で解析され、
ステップa)において、IgG分子は、リンカーを介して固相から分離され、前記リンカーは、付着IgG分子とIgG4特異的抗体との間のFc−Fc相互作用を助長する付着IgG分子の構造内における、固相により誘導される変化の程度を、付着IgG分子を固相付近から遠ざけることにより減少させる、方法。
【請求項2】
前記ADAが、IgG1薬物に対するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
IgG分子が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
リンカーが、有機分子、アミノ酸、ペプチド、タンパク質またはタンパク質由来分子、単糖、オリゴ糖または多糖である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
リンカーが、IgG分子を、天然ポリマーを含む固相から延びる分子に共有結合させることにより形成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
天然ポリマーが、セルロースである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
IgG分子が、既知の特異性を有する抗体であり、リンカーが、その標的リガンドである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
IgG分子が、ビオチンで標識されており、リンカーが、ストレプトアビジンである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
IgG分子が、リガンド結合分子とIgG分子のFc領域との少なくとも1つの融合タンパク質であり、リンカーが、その標的リガンドである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
内因的に形成された抗体に結合し得る標識IgG4特異的抗体が、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
溶液が、生物学的試料である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
治療用抗体に対する患者の抗体反応をモニターするための、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項13】
薬物開発における請求項1から11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的分析の分野に関し、より詳細には生物製剤の関連において有用である方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物薬剤学は、バイオテクノロジーを用いて製造される医薬品を対象とする研究である。治療での使用が最初に承認されたこのような物質は、組換えDNA技術により作製された生合成インスリンであった。製薬業界におけるインスリン後の主要な着目点は、他の組換えタンパク質やモノクローナル抗体のような、他の潜在的収益源を見出すことであった。モノクローナル抗体療法には、例えばがん治療において、患者の標的細胞に特異的に結合した後、免疫系を刺激してこれらの細胞を攻撃するモノクローナル抗体の使用が含まれる。細胞外または細胞表面の標的のほぼすべてに特異的なモノクローナル抗体を創製することが可能である。そのため、近年、数多くの深刻な疾病に関するモノクローナル抗体を創製しようとする膨大な数の研究や開発が着手されている。具体的な例としては、関節リウマチの治療において、モノクローナル抗体は、炎症反応の一部である腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)に対する反応を抑制する。別の例としては、多発性硬化症の治療において、モノクローナル抗体を白血球上のある種のインテグリンに対して産生し、これを用いて血液脳関門を通過する白血球の浸潤を予防している。
【0003】
しかし、すべての患者が、生物学的製剤に対し、期待通りの反応を示すわけではない。生物学的製剤に対する内因的な抗体形成、いわゆる抗薬物抗体(ADA)が大きな問題である。それは、このようなADAは、薬物の作用を中和し、有害反応さえ引き起こすことがあるからである。したがって、ADAのモニタリングは、医学上の観点、保健経済学的理由のいずれにとっても重要であると考えられてきた。その結果、ADA形成の分析は、新規生物学的製剤の開発の重要部分となっており、規制機関から要求されるまでになっている。
【0004】
ADA分析については、様々なアッセイのフォーマットが記載されている。これらには、薬物中和抗体(NAb)分析用の細胞アッセイや薬物結合抗体(BAb)分析用のクロマトグラフィー法および表面プラズモン共鳴法が含まれる。しかし、使用されているもののほとんどは、簡便で効率的な方法において、ADAの高い処理能力によるスクリーニングおよび分析のための多様なイムノアッセイの変形である。
【0005】
一般的に、ADAの分析に関して記載されているイムノアッセイは、ADAの多価性を利用して、溶液中の生物学的製剤および/または固相へ付着させた生物学的製剤の複合体を形成する架橋アッセイであり;サンドウィッチ型の抗体免疫吸着アッセイ、例えば酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、これは生物学的製剤を固相に結合させ、そこにADAを結合させてから検出することに基づく、;および、選択したアイソタイプのすべての免疫グロブリンがそれらの抗原特異性に関係なく、アイソタイプ特異的抗体またはタンパク質Aもしくはタンパク質Gのような捕捉試薬によって固相に結合され、そこで、後にADAがそれらの薬物結合能により検出される、間接ELISAまたは液相RIAとしても既知である逆抗体アッセイである。
【0006】
IgG4抗体は、生物学的製剤の投与を受けている患者を個別に分析するために、特に重要であることが分かっている。アレルギー疾患の臨床試験において広く用いられるイムノCAP(商標)特異的IgG4(www.phadia.comより入手可能)のようなIgG4抗体の臨床測定では市販の製品が利用できる。
【0007】
リウマチ因子(RF)は、ヒトIgGのFc部に対する抗体として定義された自己抗体の名称である。RFは、関節炎の任意の形態を持つことが疑われる患者において評価されることが多く、関節リウマチの一般的な疾病基準の一部である。RFのアイソタイプは通常IgMであるが、IgGを含む、免疫グロブリンの任意のアイソタイプが記載されている。
【0008】
WO2009/077127(F.Hoffmann−La Roche AG)は、識別アッセイであって、薬物抗体に対する抗体が、固相にコンジュゲートした薬物抗体である捕捉薬物抗体と、検出標識にコンジュゲートした薬物抗体であるトレーサー薬物抗体とを含むイムノアッセイを用いて、試料中で測定される識別アッセイに関する。この捕捉薬物抗体は、(i)試料、(ii)モノマー型の薬物抗体を加えた試料、および(iii)オリゴマー型の薬物抗体を加えた試料に、別々に接触させられる。薬物抗体に対する抗体の測定は、(i)においては陽性イムノアッセイ、ならびに(ii)および(iii)においては陰性イムノアッセイにより行われる。
【0009】
任意のイムノアッセイの開発において、アッセイのバックグラウンドにより問題が生じることは周知である。抗体の分析に関する免疫吸着アッセイでは、全免疫グロブリンによる干渉が偽陽性の結果および低感受性を起こすことがあり、これは、通常、抗原特異的抗体が、試料中の全免疫グロブリンのわずかな分画としてのみ存在するためである。血清および血漿中のIgG濃度が高いことから、IgG干渉は、IgG抗体免疫吸着アッセイにおいて頻発する問題点である。別の干渉問題が抗体の結晶化可能フラグメント(Fcフラグメント)間の相互作用により引き起こされ、よってFc−Fc相互作用として知られている。例えば、アイソタイプIgG4のADAを標的とする免疫吸着アッセイでは、Fc−Fc相互作用は、IgG4と、固相に付着した抗体として使用した他のIgG分子、例えば治療用IgG抗体との間で起こることがある。
【0010】
抗体免疫吸着アッセイにおけるFc−Fc相互作用を克服する一つの方法は、単純にFcフラグメントを有することを避けることであり、その代わりに、固相に付着した抗体としてIgG分子の酵素で切断したF(ab’)2フラグメントまたはFabフラグメント精製物を使用することである。別法として、抗体免疫吸着アッセイフォーマットの使用の代わりに、固相に付着したIgG4特異的試薬によって試料中のすべてのIgG4を結合し、その後、検出剤または試薬として標識したIgG全体またはそのフラグメントを加える、逆抗体アッセイの使用が可能である。
【0011】
WO2012/02774(Roche Diagnostics GmbH)は、治療用モノクローナル抗体に結合する抗体の測定のためのアッセイであって、表面に結合された治療用モノクローナル抗体のFabフラグメントが、治療用モノクローナル抗体に対する抗体を含む試料とインキュベートされるアッセイに関する。
【0012】
Rispensら(Rispens T、Ooievaar−De HP、Vermeulen E、Schuurman J、van der Neut KM、Aalberse RC。Human IgG4 binds to IgG4 and conformationally altered IgG1 via Fc−Fc interactions.J Immunol、2009年、182巻、4275−81頁)は、Fc−Fc相互作用の物理化学的側面を研究しており、生物学的および医学的観点から、起こり得る影響を考察している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2009/077127号
【特許文献2】国際公開第2012/02774号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Rispens T、Ooievaar−De HP、Vermeulen E、Schuurman J、van der Neut KM、Aalberse RC、「Human IgG4 binds to IgG4 and conformationally altered IgG1 via Fc−Fc interactions.」、J Immunol、2009年、182巻、4275−81頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、例えばFc−Fc相互作用によって引き起こされる非特異的結合を減少し得る新規のアッセイフォーマットが、当分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の要旨)
本発明は、先行技術の方法の代案として有用である方法に関する。有利な実施形態において、本発明は、イムノアッセイにおける、Fc−Fc相互作用の結果として起こり得る非特異的結合に起因するノイズの低減に使用される。
【0017】
本発明の第一の態様は、内因的に形成された1つ以上の抗体の溶液における分析のための方法であって、
a)溶液を、前記内因的に形成された抗体に結合し得る分子が付着した固相に接触させること、
b)前記内因的に形成された抗体を、付着した分子に特異的に結合させ、任意選択的に、過剰な溶液を除去すること、
c)内因的に形成された抗体と特異的に結合し得る標識したアイソタイプ特異的試薬を加えること、
d)過剰な試薬を除去すること、およびe)結合した、または結合していない標識を検出して、溶液中の内因的に形成された抗体の存在または濃度を直接的または間接的に測定すること
を含み、
ステップa)において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子はリンカーを介して固相に付着している、方法である。
【0018】
本発明の第二の態様は、治療用抗体に対する患者の抗体反応をモニターするために、本発明による方法を使用することである。
【0019】
本発明の第三の態様は、免疫吸着アッセイのような固相イムノアッセイにおいて、ADAまたはRFのような内因的に形成された抗体を検出するための部品のキットであって、固相および標識アイソタイプ特異的試薬に付着した少なくとも1つのIgG分子ならびにその使用指示書が含まれ、前記IgG分子は、リンカーを介して固相に付着しており、試薬は前記内因的に形成された抗体に特異的であるキットである。
【0020】
本発明の第四の態様は、リンカーを介して薬物IgG分子が付着した固相を含む免疫センサー装置である。
【0021】
他の実施形態、利点、および詳細は、添付の特許請求の範囲、また下記の詳細な説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】既知のADAについての抗体結合免疫吸着アッセイの既知のフォーマットの原理を示した概略図である。
【
図2】Fc−Fc相互作用に起因した、IgG4抗体免疫吸着アッセイにおけるバックグラウンド増加の問題点を例示する概略図である。
【
図3】IgG4抗体免疫吸着アッセイにおいて、固相付近からIgG分子を除去するために、本発明によりリンカーをどのように使用し得るかを示す概略図である。
【
図4】IgG4抗体免疫吸着アッセイにおいて、固相付近からIgG分子を除去するために、本発明により抗体標的をどのように使用し得るかを示す概略図である。
【
図5】下記の実験部において説明するように、従来技術により試験した、4つのADA陰性試料、アッセイ希釈剤および1つのADA陽性試料を示す図である。
【
図6A】他のアッセイを用いてインフリキシマブに対しADA陽性と定義された7つの血清試料(左から数えて7本の棒)、ADA陰性と定義された7つの試料(次の7本の棒)、およびイムノCAP(商標)特異的IgG4アッセイを用いてインフリキシマブに対するIgG4抗体を分析したアッセイ希釈剤(最後の棒)を示す図である。
【
図6B】他のアッセイを用いてインフリキシマブに対しADA陽性と定義された7つの血清試料(左から数えて7本の棒)、ADA陰性と定義された7つの試料(次の7本の棒)、およびイムノCAP(商標)特異的IgG4アッセイを用いてインフリキシマブに対するIgG4抗体を分析したアッセイ希釈剤(最後の棒)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
「IgG分子」という用語は、本明細書において、免疫グロブリンの、少なくとも1つのFc領域、または非特異的結合を起こし得る少なくとも1つの定常部ドメインを含む任意の分子を意味する。
【0024】
本明細書において使用される場合、「結合し得る」という句は、その最も広義で、すなわち、結合に関与し得る、または結合され得るという意味で理解されたい。例えば、「抗体により結合され得る分子」という句は、本明細書において、抗体が前記分子に結合することを含む。
【0025】
「生物製剤」という用語は、治療用抗体としても既知である抗体に基づくこともある「生物学的製剤」と同義に用いられ、ムロモマブ−CD3およびトシツモマブなどの全マウスモノクローナル抗体、インフリキシマブおよびセツキシマブなどのヒト/マウスキメラモノクローナル抗体、ナタリズマブおよびオマリズマブなどのヒト化モノクローナル抗体、およびアダリムマブおよびゴリムマブなどの完全ヒトモノクローナル抗体;モノクローナル抗体の標的結合領域;Fc領域などの抗体の部分から構成される融合タンパク質;およびサイトカイン受容体、例えばエタネルセプトなどの他の分子が含まれるが、それだけに限定されない。
【0026】
「抗薬物抗体」またはADAという用語は、上述の「背景技術」の中で広い意味で説明したが、本明細書において、その広義で用いられる。このように、ADAは、1つ以上の免疫グロブリンFcのガンマ鎖のような、抗体の1つ以上の部分またはドメインを含む薬物に対して産生されたと考えられる。別法として、ADAに対する「IgG薬物」抗体は、本明細書において使用される場合、1つ以上の抗体および/もしくは抗原の部分が存在する融合タンパク質であっても、またはこれを含んでいてもよい。本出願において、「に対して産生される」と「に対する」という用語は、抗体がどの分子または化合物に対するものであり、特異的であるかを説明するために、抗体との関連において同義に用いられる。
【0027】
第一の態様において、本発明は、内因的に形成された1つ以上の抗体の溶液における分析方法であって、
a)溶液を、前記内因的に形成された抗体に結合し得る分子が付着した固相に接触させること、
b)前記内因的に形成された抗体を、付着した分子に特異的に結合させ、任意選択的に、過剰な溶液を除去すること、
c)内因的に形成された抗体と特異的に結合し得る標識したアイソタイプ特異的試薬を加えること、
d)過剰な試薬を除去すること、および
e)結合した、または結合していない標識を検出して、溶液中の内因的に形成された抗体の存在または濃度を直接的または間接的に決定すること
を含み、
ステップa)において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子はリンカーを介して固相に付着している、方法である。
【0028】
本方法の一実施形態において、内因的に形成された抗体は、IgGに対するものである。
【0029】
一実施形態において、内因的に形成された抗体はADAである。この実施形態において、ADAは、生物学的製剤で治療を受けている患者で内因的形成によりまたはインビトロで得られた、組換えタンパク質、融合タンパク質、またはタンパク質フラグメントに対するものであってもよい。ADAはまた、生物学的製剤の治療を受けていない患者における既存の1つ以上の抗体であってもよい。
【0030】
当業者であれば理解するように、ADAのクラスは、ADAを産生させる生物学的製剤または生物製剤の性質、および製剤形態および投与に依存する。具体的な実施形態において、ADAは、IgG薬物、例えばIgG1のような生物製剤の一般的な群、に対するものである。
【0031】
当業者であれば理解するように、ADAは、免疫グロブリンA、D、E、GまたはMのようないずれのアイソタイプの抗体であってもよい。有利な実施形態において、ADAは免疫グロブリンGである。同様に、ADAのサブクラスは、免疫グロブリンGのサブクラスIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4からなる群より選択してもよく、有利な実施形態において、サブクラス4である。
【0032】
したがって、本方法の具体的な実施形態において、ADAは、IgG4のようなIgG分子である。
【0033】
別法として、生物製剤以外の物質に対する抗体を分析する。したがって、この実施形態において、内因的に形成された抗体は、関節リウマチに関連する、いわゆるRFである。
【0034】
上記から明らかなように、本発明の一態様は、生物製剤の関連における、特許請求した方法の使用である。したがって、内因的に形成された抗体分子に結合し得る分子は、治療用抗体であってもよい。IgGは有益にはヒトであるがマウス等のような供給源であってもよい。一実施形態において、IgG分子はモノクローナル抗体であり、別の実施形態において、IgG分子はポリクローナル抗体である。
【0035】
内因的に形成された抗体に結合し得る分子は、IgG分子であってもよい。一実施形態において、前記内因的に形成された抗体に結合し得る分子は、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択される。
【0036】
一実施形態において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子は、完全なIgGのような完全な抗体である。別の実施形態において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子は、IgGのような抗体の1つ以上のFc領域のような抗体のフラグメントである。具体的な実施形態において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子は、IgGの1つ以上の定常部ドメインのような1つ以上の定常部ドメインである。
【0037】
本発明者らは、前記内因的に形成された抗体に結合し得る分子をリンカーを介して固相へ付着させることが、イムノアッセイにおけるFc−Fc相互作用によってしばしば起こる非特異的結合を低減し得ることを示した。
【0038】
いかなる理論にも拘泥するものではないが、前記内因的に形成された抗体に結合し得る前記分子を固相付近から遠ざけると、上記で論じた望ましくないFc−Fc相互作用を助長するような、固相が誘導する付着分子構造内の変化の程度が低減されると示唆することができる。
【0039】
本方法において使用されるリンカーは、有機分子、アミノ酸、ペプチド、タンパク質またはタンパク質由来分子、単糖、オリゴ糖または多糖のようなこの目的を達成する任意の存在であってもよい。リンカーは、ポリL−リジン、デンドリマー、エチレングリコロールのオリゴマー、エチレングリコロールのポリマーのような合成リンカーまたはヒト血清アルブミンのようなタンパク質であってもよい。別法として、リンカーは、本出願の中の他の箇所でさらに詳細に記載したように、本発明により提供される、干渉を有利に低減および/または消失さえし得るいかなる他の分子であってもよい。したがって、一実施形態において、リンカーは、有機分子、アミノ酸、ペプチド、タンパク質またはタンパク質由来分子、単糖、オリゴ糖または多糖である。
【0040】
一実施形態において、リンカーを固相の一部として提供して、IgGまたは他の分子を固相にコンジュゲートさせてもよい。したがって、固相から張り出した分子が本発明による有利な効果を提供するリンカーとして働く。
【0041】
したがって、本方法の一実施形態において、リンカーは、内因的に形成された抗体に結合し得る分子を、セルロースのような天然ポリマーを含む固相から延びる分子に共有結合させることによって形成される。
【0042】
当業者は、特定の所望の利点を提供するリンカーを具体的に構築すること、または選択することによって、本発明による方法において有用なアッセイを設計することができる。したがって、一実施形態において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子は、既知の特異性を有する少なくとも1つの抗体であり、リンカーはこの標的リガンドである。
【0043】
本方法で使用されるリンカーは、周知のストレプトアビジン/ビオチン結合系を用いて提供することができ、より具体的には、周知の手順に従い、ビオチンをIgG分子に付着させること、および、ストレプトアビジンをELISAにおいて一般的に用いられるような吸着、またはイムノCAP(商標)試験で一般的に用いられるような共有結合により固相に付着させることにより提供することができる。したがって、ここではストレプトアビジン分子がビオチン標識IgG分子に結合して、IgG分子を固相付近から遠ざけるリンカーとして働き、このことが干渉の低減、特に望ましくないFc−Fc相互作用のレベルの低減に関して予想外の利点を提供することが、本発明により明らかにされた。したがって、本方法の具体的な実施形態において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子はビオチンで標識されており、リンカーはストレプトアビジンである。
【0044】
様々なタンパク質からの2つ以上の要素、またはタンパク質の様々な部分を含む融合タンパク質を作製する技術は、当分野において周知であり、一般的に用いられている。本発明によれば、融合タンパク質は、本方法において有用な要素を含んで構築してもよい。このように、一実施形態において、内因的に形成された抗体に結合し得る分子は、リガンド結合分子とIgG分子のFc領域との少なくとも1つの融合タンパク質であり、リンカーはこの標的リガンドである。
【0045】
本方法の一実施形態において、内因的に形成された抗体に結合し得る標識アイソタイプ特異的試薬は、IgGのようなモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0046】
本発明により分析された内因性抗体は、治療用抗体のような生物学的製剤を使って治療を受けている個人で産生されたものであってもよい。したがって、一実施形態において、溶液は、血液のような生物学的試料である。
【0047】
本発明は、例えばIgG分子に対する抗体、例えばIgG4などの分析において有用である、新規の原理または方法を記載する。本発明による抗体免疫吸着アッセイは、これによって、新規生物学的製剤の開発における使用のみならず、患者管理に関する臨床判断のためにも使用することができる。
【0048】
よって、一実施形態において、本発明は、治療用抗体に対する患者の抗体反応をモニターするために、本発明による方法を使用することに関する。
【0049】
別法として、上記で指摘したように、内因的に形成された抗体はRFであってもよい。したがって、本発明による方法は、診断および/または疾患予後において、何らかの関節炎の形態を有することが疑われる患者を評価するために使用することができる。
【0050】
別の実施形態において、本発明は、薬物開発における上述したイムノアッセイの使用に関する。
【0051】
本発明のこの態様のさらに別の実施形態において、本発明によるイムノアッセイは、患者試料中のRFの存在を分析するために使用される。
【0052】
本発明によるキットは、以下のフォーマット、すなわち、サンドウィッチ型のアッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、発光イムノアッセイ(LIA)または電気化学発光アッセイ(ECL);マルチプレックスアッセイ、例えばマルチアレイベースのアッセイまたは粒子ベースのアッセイ;例えばポイントオブケア用途のラテラルフローアッセイ;プロキシミティアッセイ;凝集法;比濁法;またはネフェロメトリックアッセイのうちのいずれかにおいて使用するために作製することができる。
【0053】
ECLフォーマットは、洗浄ステップを省略してもよいため、好適であると考えられる。キットは、複数の分析対象の同時検出/測定が可能な系におけるADAまたはRF分析用に設計してもよい。
【0054】
キットの一実施形態は、上述した方法を使用する、ADAまたはRF分析用の、ニトロセルロース膜のような微細孔膜の毛管作用に基づくポイントオブケア(POC)検査である。
【0055】
キットの別の実施形態は、薬物をある種類の供与体ビーズを意味するビーズのような固相に付着させ、検出試薬を別の種類の受容体ビーズを意味するビーズのような固相に付着させる、プロキシミティイムノアッセイ用である。したがって、このようなキットは、供与体ビーズ、受容体ビーズ、およびビーズが分析対象により錯体化した時にシグナルを発生する手段を含む。このフォーマットの利点は、洗浄ステップを省略できることである。
【0056】
本発明によるキットは、ADAまたはRF検出のための取扱説明書、好適な数の適切な大きさの容器、溶媒、試薬等を含んでいてもよい。
【0057】
第三の態様において、本発明は、部品のキットに関する。
【0058】
本態様の一実施形態において、本発明によるキットは、親和性のある一対の片方が上述したようにリンカーを介して付着した固相、IgG分子のような選択分子への付着に対する標識であって、前記親和性のある一対のもう片方である標識、およびIgG4特異的試薬溶液を含む。当業者であれば、本明細書および特許請求の範囲の技術に基づき、具体的な適用のために適切な抗体を使用してどのようにキットの他のフォーマットを設計するかを理解し、これによって特定の抗体の存在および/または量を測定することができる。
【0059】
第四の態様において、本発明は、IgG分子がリンカーを介して付着した固相を含む免疫センサー装置に関する。本発明による装置は、本発明による分析方法を有効にするために設計される。したがって、一実施形態において、免疫センサー装置は、上記で論じたように、IgG分子のような内因的に形成された抗体に結合し得る薬物分子が、リンカーを介して付着した固相を含む。
【0060】
図面の詳細な説明
図1は、抗薬物抗体(ADA)についての、固相ELISAとしても既知の抗体結合免疫吸着アッセイの原理を示す概略図である。
【0061】
図2は、固相至近における、IgG1アイソタイプの治療用抗体であってもよいIgG分子とADA陰性試料中のIgG4との間のFc−Fc相互作用に起因した、IgG4抗体免疫吸着アッセイにおけるバックグラウンド増加の問題点を例示する概略図である。
【0062】
図3は、IgG4抗体免疫吸着アッセイの固相付近から、IgG1アイソタイプの治療用抗体であってもよいIgG分子を除去するために、本発明によりリンカーをどのように使用し得るかを示す概略図である。
【0063】
図4は、IgG4抗体免疫吸着アッセイにおける固相付近から、IgG1アイソタイプの治療用抗体であってもよいIgG分子を除去するために、有利には抗原である抗体標的をどのように使用し得るかを示す概略図である。
【0064】
図5は、様々なインフリキシマブのイムノCAP(商標)テストの変形形態を用いて、下記の実験部の中で記載したようにイムノCAP(商標)特異的IgG4アッセイで試験した、4つのADA陰性試料、アッセイ希釈剤および1つのADA陽性試料を示す図である。
・IFX:イムノCAP(商標)固相に直接結合したインフリキシマブ、
・SA+bio−IFX:本発明による、ストレプトアビジン固定イムノCAP(商標)に結合させたビオチン化インフリキシマブ、および
・TNF−α+IFX:本発明による、TNF−アルファ結合イムノCAP(商標)に結合させたインフリキシマブ。
後者2つの変形形態は、IgG4抗体分析のためにIgG分子をリンカーを介して固相に付着させる、本発明による実施例である。
【0065】
図6は、他のアッセイによってインフリキシマブに対しADA陽性と定義された7つの血清試料(初めの7本の棒)、ADA陰性と定義された7つの試料(次の7本の棒)、および下記の実施例2の中で記載したように分析したアッセイ希釈剤(最後の棒、灰色)を示す図である
【実施例】
【0066】
実験の部
本実施例は、例示のためにのみ提供され、いかなる方法においても本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。本出願において以下または他の箇所で提示した参照はすべて、これによって参照により本明細書に含まれる。
【0067】
[実施例1]:Fc−Fc相互作用に起因するアッセイの干渉
Fc−Fc相互作用を供するアッセイの干渉の一例として、実験用イムノCAP(商標)テストに結合させて市販のイムノCAP(商標)特異的IgG4アッセイ(www.phadia.comより入手可能)において使用する、インフリキシマブ(レミケードとしても既知の、自己免疫疾患の治療に用いられる腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)に対するキメラモノクローナル抗体、例えばJANSSEN BIOTECH INCより入手可能)またはアダリムマブ(HUMIRA(「Human Monoclonal Antibody in Rheumatoid Arthritis(関節リウマチにおけるヒトモノクローナル抗体)」、例えばAbbott Labsより入手可能)のヒトIgG1 Fcドメインを有する治療用抗体を使用して示すことができる。このアッセイは、検出試薬として、酵素をコンジュゲートしたヒトIgG1に対するマウスモノクローナル抗体を有する。この検出用抗体は、ヒトIgG1に対する明確な交差反応性は示さない(データ非表示)。治療用抗体は、この治療用抗体の反応性アミノ基、およびイムノCAP(商標)テストのカプセル内に配置されたセルローススポンジ基質のCNBrで活性化された基を使用して、固相に共有結合される。これは、イムノCAP(商標)特異的IgG4アッセイにおいて、インフリキシマブまたはアダリムマブに対する既知のADAを持たない陰性対照対象からの試料を試験する際に、イムノCAP(商標)テストで高レベルのバックグラウンドを引き起こす。(下記の表1。ここでRUは反応単位、n/aは該当なしを意味する。)。
【0068】
【表1】
【0069】
[実施例2]:リンカーを有するまたは有さない固相へのインフリキシマブの結合
リンカーの長さおよび性質は、各固相およびIgG分子に対して最適化されなければならない。リンカーは、アッセイのバックグラウンドを低減するために最適化されて、陽性試料について高いS/N比が維持されるべきである。
【0070】
本実施例は、抗体免疫吸着アッセイの固相へIgG分子を付着するためにリンカーを使用することの効果を示しており、結果は
図5および6に示す。
【0071】
図5は、本発明による、ストレプトアビジン/ビオチン結合系に基づくリンカーを介して、また腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)であるそのリガンドに基づくリンカーを介して、イムノCAP(商標)(www.phadia.comより入手可能)の固相に付着した、IgG1アイソタイプの治療用抗体であるインフリキシマブ(IFX)(レミケードとしても既知、例えばJANSSEN BIOTECH INCより入手可能)を使用した実験の結果を示す。イムノCAP(商標)特異的IgG4アッセイにおける陰性試料のテストの際に、固相への直接的なインフリキシマブの結合では高いバックグラウンドが生じる一方、リンカーを介したインフリキシマブの結合ではバックグラウンドは低く、薬物の免疫応答性は維持される。TNF−αと結合したインフリキシマブを使用したイムノCAP(商標)テストについては、わずかなS/N比の低下が認められる。
【0072】
図6は、本発明によるリンカーとしてのヒト血清アルブミン(HSA)を介してイムノCAP(商標)の固相に付着したインフリキシマブ(IFX)を使用した実験の結果を示す。イムノCAP(商標)特異的IgG4アッセイにおける陰性試料のテストにおいて、固相への直接的なインフリキシマブの結合では高いバックグラウンドが生じる一方(
図6A)、本発明によるリンカーとしてのHSAを介したインフリキシマブの結合ではバックグラウンドは低く、また薬物の免疫応答性は維持される(
図6B)。
【0073】
[実施例3]:リンカーのサイズの多様性
様々なサイズのリンカーを用意し、本発明によるインフリキシマブアッセイで試験した。結果は下記の表2に示す。
【0074】
【表2】