特許第6571669号(P6571669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571669応力負担能力を強化した改良されたころ軸受
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571669
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】応力負担能力を強化した改良されたころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20190826BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20190826BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20190826BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   F16C33/58
   F16C19/26
   F16C33/64
   F16C23/08
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-548451(P2016-548451)
(86)(22)【出願日】2015年4月7日
(65)【公表番号】特表2016-533466(P2016-533466A)
(43)【公表日】2016年10月27日
(86)【国際出願番号】IN2015000165
(87)【国際公開番号】WO2015162623
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年4月13日
(31)【優先権主張番号】637/MUM/2014
(32)【優先日】2014年4月8日
(33)【優先権主張国】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510334583
【氏名又は名称】エヌアールビー ベアリングス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182176
【弁理士】
【氏名又は名称】武村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】シャタック,チャールズ
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5902022(US,A)
【文献】 実開平6−4432(JP,U)
【文献】 米国特許第8157451(US,B2)
【文献】 特開2010−106974(JP,A)
【文献】 実開平5−86024(JP,U)
【文献】 特開2008−39035(JP,A)
【文献】 実開平3−12015(JP,U)
【文献】 特公昭46−18323(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 23/08
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側表面を有する円筒状の転動体を備えるころ軸受システムであって、前記円筒状の転動体が前記ころ軸受システムの外輪内に収容され、前記外輪が内径表面及び外径表面を有し、前記外輪が、前記円筒状の転動体により最初に直接的に接触された第1端部を有し、前記外輪の前記内径表面が、前記円筒状の転動体の前記外側表面に面する連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルを有し、軸への荷重が増大して前記軸の振れが増大すると、前記円筒状の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触が前記外輪の前記第1端部から離れる方向に移動し、前記円筒状の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触長さが次第に増大して、接触長さを最大にするのを容易にし、前記円筒状の転動体の前記外側表面と前記軸の外側表面との間の接触領域が前記軸の振れ度合いとともに変化しないように、前記プロファイルが構成されている、ころ軸受システム。
【請求項2】
前記円筒状の転動体が、円筒状のころ及び/又は端部にテーパの付いたころである、請求項1に記載のころ軸受システム。
【請求項3】
前記円筒状の転動体の外径の長さが、円筒状の接触領域全体の軸方向長さの少なくとも4分の3である、請求項1に記載のころ軸受システム。
【請求項4】
前記円筒状の転動体の前記外側表面の前記軸との接触領域が前記軸の振れ度合いとともに変化しないように、前記外輪の内径がカスタマイズされている、請求項1に記載のころ軸受システム。
【請求項5】
前記連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルを付けることが、前記円筒状の転動体に面する突起及び傾斜のある輪郭を含み、前記円筒状の転動体が前記外輪の内側で効果的に回転することを容易にする、請求項1に記載のころ軸受システム。
【請求項6】
前記連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルが、前記円筒状の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触長さが前記軸の振れ度合いに直接的に比例するような幾何形状である、請求項1に記載のころ軸受システム。
【請求項7】
様々な作動条件が、無荷重条件、最小荷重条件、中荷重条件、及び最大荷重条件を含む、請求項1に記載のころ軸受システム。
【請求項8】
円筒状の外側表面を有し、外輪の内側に収容された転動体を備えるころ軸受装置であって、
前記外輪が内径表面及び外径表面を有し、前記外輪が、前記転動体により最初に直接的に接触された第1端部を有し、
前記外輪の前記内径表面が、円筒状の転動体の前記外側表面に面する連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルを有し、軸への荷重が増大して前記軸の振れが増大すると、前記円筒状の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触が前記外輪の前記第1端部から離れる方向に移動し、前記円筒状の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触長さが次第に増大するように、前記プロファイルが構成されている、ころ軸受装置。
【請求項9】
前記転動体が、円筒状のころ及び/又は端部にテーパの付いたころである、請求項8に記載のころ軸受装置。
【請求項10】
前記円筒状の転動体の外径の長さが、円筒状の接触領域全体の軸方向長さの少なくとも4分の3である、請求項8に記載のころ軸受装置。
【請求項11】
前記円筒状の転動体の前記外側表面の前記軸との接触領域が前記軸の振れ度合いとともに変化しないように、前記外輪の内径がカスタマイズされている、請求項8に記載のころ軸受装置。
【請求項12】
前記連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルを付けることが、前記転動体に面する突起及び傾斜のある輪郭を含み、前記転動体が前記外輪の内側で効果的に回転することを容易にする、請求項8に記載のころ軸受装置。
【請求項13】
前記連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルが、前記円筒状の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触長さが前記軸の振れ度合いに直接的に比例するような幾何形状である、請求項8に記載のころ軸受装置。
【請求項14】
それぞれが円筒状の外側表面を有し、外輪の内側に収容された複数の転動体を備えるころ軸受装置であって、
前記外輪が内径表面及び外径表面を有し、前記外輪が、前記複数の転動体により最初に直接的に接触された第1端部を有し、
前記外輪の前記内径表面が、円筒状の複数の転動体の前記外側表面に面する連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルを有し、軸への荷重が増大して前記軸の振れが増大すると、前記円筒状の複数の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触が前記外輪の前記第1端部から離れる方向に移動し、前記円筒状の複数の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触長さが次第に増大するように、前記プロファイルが構成されている、ころ軸受装置。
【請求項15】
前記複数の転動体が、円筒状のころ及び/又は端部にテーパの付いたころである、請求項14に記載のころ軸受装置。
【請求項16】
前記円筒状の転動体の外径の長さが、円筒状の接触領域全体の軸方向長さの少なくとも4分の3である、請求項14に記載のころ軸受装置。
【請求項17】
前記円筒状の転動体の前記外側表面の前記軸との接触領域が前記軸の振れ度合いとともに変化しないように、前記外輪の内径がカスタマイズされている、請求項14に記載のころ軸受装置。
【請求項18】
前記連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルを付けることが、前記転動体に面する突起及び傾斜のある輪郭を含み、前記転動体が前記外輪の内側で効果的に回転することを容易にする、請求項14に記載のころ軸受装置。
【請求項19】
前記連続的に湾曲した非対称な凸状のプロファイルが、前記円筒状の複数の転動体の前記外側表面と前記外輪の前記内径表面との間の接触長さが前記軸の振れ度合いに直接的に比例するような幾何形状である、請求項14に記載のころ軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関する。より詳細には、本発明は、軸受の応力レベルを最適化して摩損を軽減するために修正されたころ軸受の幾何形状を開示する。
【背景技術】
【0002】
軸受は、2つの物体間の相対運動(回転)を容易にする装置である。典型的な構造では、軸受は、孔を通して軸に取り付けられ、その外径の周りを囲んでいる。軸受は、そのタイプによって、様々な荷重条件に耐えられるように設計されている。玉軸受及びころ軸受は、エンジニアリング業界では最も一般的に使用される軸受の2つである。玉軸受は、転動体として様々に構成された玉(球形)を含むような簡単な設計のため、広く使用されている。ころ軸受は、転動体として円筒状の物体であるころを含む。ころ軸受は、大アスペクト比(長さ/直径)、小アスペクト比、球形、又はテーパ状の転動体を含むことができる。荷重負担能力が実質的に高く、長期の耐久性とともに高い効率を必要とする中及び高負荷の用途で、ころ軸受の使用が実質的に増加してきた。
【0003】
ころ軸受は、回転力を一つの軸から別の軸へ移送することにおいて重要な役割を果たす。これは、すべての平面で軸の共線運動を容易にする連結器として働く。作動中、重荷重及びその他の使用条件により、軸のミスアライメントの確率は非常に高い。そのようなミスアライメントにより、ころ要素の接触領域の有効長さが減少し、ころ要素に著しい摩損を引き起こす応力が生じる。ミスアライメントには偏心又は偏角があり、それは、ころ軸受の転動体の許容レベルをバランスさせることによって抑制及び保持することができる。ころ軸受の摩損は、保持器の変形、ころの曲がり又は歪み、及び広い範囲の表面欠陥を含む。後者は、腐食、粗粒及び細粒スポーリング、並びにブリネル圧こん(brinelling)を含む。このような摩損を抑制すること、及び、ころ軸受の接触面の応力を最適に低減することができる程度に、ころ軸受の既存の幾何形状を修正することは重要である。
【0004】
従来の円筒ころ軸受の構造は、プロファイルが本質的に直線である内側軌道及び外側軌道を用いる。荷重によるミスアライメント及び/又はゆがみによるこれらの軌道間の角変位を許容するために、転動体は、その端部では接触応力を低減するようなプロファイルが付けられている(profiled)。基本的に、このようにテーパをつけると、端部での転動体の「ピンチング(pinching)」を最小限にする。これは基本的な課題を解決する一方、転動体と軌道との間の接触長さが、接触応力を最小にし、軸受疲労寿命を最大にする最適な長さよりも必ず短くなることを意味する。
【0005】
技術の進展とともに、軸受をより耐久性があり効率的にするように、軸受の幾何的な構造を修正/改良するためのいくつかの試みがなされた。このような従来技術の一つとして、接触応力制御型ころ軸受が開示されている。前記の従来技術では、外側軌道と内側軌道との間に、実質的に端部に逃がしのない円筒状の構成のころが配置されている。前記ころによって加えられた接触力は、外側軌道及び内側軌道の接触領域にわたって分配されて、外側軌道及び内側軌道の最大接触応力が生じ、それぞれ、外側軌道の寿命及び内側軌道の寿命を決定する。外側軌道の寿命を内側軌道の寿命と実質的に等しくするために、外側軌道の接触領域における計算された最大接触応力を、内側軌道の接触領域における最大接触応力に対して調整するように、外側軌道はクラウニングされている。しかしながら、従来技術では、接触表面領域の応力をすべての作動条件のもとで低減し、それによってその寿命を延ばすためのころ軸受の幾何形状の最適化が教示されていない。
【0006】
別の従来技術では、軌道及びころが曲面のプロファイルを有するころ軸受であって、その曲率半径が軌道面の中心軸線とそれらの包絡面との間の最大距離よりも実質的に大きく、さらにそのころ用の保持器を有するころ軸受が開示されている。前記保持器は、軌道面が相互に傾いているときに、ころの必要な軸方向変位を許容するように設計されている。しかしながら、ここでもまた、作動条件に応じてころの長さを調節する方法は開示されていない。
【0007】
さらに別の従来技術では、特別に構成されたころを備えたころ軸受が開示されている。前記の従来技術では、ころ軸受は外側及び内側レース(race)を有している。レース間のころは、特別に構成された長手方向の外表面を有する。ころの長さに沿って、ころの直径は変化し、曲率半径は変化している。その直径は、ころに沿った接触応力、ころの長さ、内側レース軸線に対するころの軸線の接触角度の任意のミスアライメント、及び軸受の有効直径の関数である。また、許容誤差限界内で、ころの長さに沿って一様に各ころに接触応力がかかるように直径が変化している。所望により、ころの代わりに、内側レースの外側表面、又は外側レースの内側表面の形状を調整して、一様な接触応力にすることができる。しかしながら、前記の従来技術では、ころ軸受を修正せずに応力負担能力を強化する機構は開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の、及びいくつか他で論じる限界を克服するために、本発明は、幾何形状を修正して応力レベルを最適化し、それによって、耐久性及び効率を向上させたころ軸受を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、円筒状の外側軌道を有する転動体を備えるころ軸受システムを開示し、そのころ軸受システムは、前記転動体が軸受システムの外輪の内側に収容され、前記外輪が内径表面及び外径表面を有し、一端から回転可能な軸に接続され、外輪の前記内径表面が、転動体に面する非対称な凸状のプロファイルを有し、いかなる作動条件においても接触領域を最大にするのを容易にする。様々な作動条件は、最小荷重条件、中間荷重条件、及び最大荷重条件を含む。
【0010】
本発明の実施形態では、転動体は、円筒状のころ又は端部に幾分テーパの付いたころである。さらに、円筒状の転動体の外径の長さは、円筒状の接触領域全体の軸方向長さの少なくとも4分の3である。
【0011】
本発明の別の実施形態では、非対称な凸状のプロファイルを付けることが、転動体に面する突起及び傾斜のある輪郭を含み、転動体が外輪の内側で効果的に回転することを容易にする。さらに、凸状曲線は、いかなる作動条件であっても又は軸の振れ度合いがいかなるものであっても、転動体の外側表面と外輪の内径表面との間の接触領域が最大に保たれるような幾何形状となっている。
【0012】
前述の、及び他の態様は、添付の図面と併せて検討するとき、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0013】
したがって、本発明の目的は、その外側レースのプロファイルが、すべての作動条件のもとで応力レベルを低減し、したがって、寿命を延ばすように設計された、ころ軸受を設計することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、両極端の条件の間の移行が、すなわち、外側レースと転動体との間の応力レベルが、徐々に且つ自動的に調節される、ころ軸受を設計することである。
【0015】
本発明の目的は、外側レースのプロファイルが、各軸受の用途に対してカスタマイズされ、それによって軸受寿命を最大化することができる、ころ軸受機構を設計することである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】プロファイル付きの転動体を備えた従来の円筒ころ軸受システムの軽荷重条件での従来技術の図である。
図2】プロファイル付きの転動体を備えた従来の円筒ころ軸受システムの重荷重条件での従来技術の図である。
図3】円筒状のころ要素を備えた応力制御型ころ軸受システムの軽荷重条件での従来技術の図である。
図4】円筒状のころ要素を備えた応力制御型ころ軸受システムの重荷重条件での従来技術の図である。
図5】本発明の実施形態の最小荷重条件の図である。
図6】本発明の実施形態の、2つの極端な条件の間にある中間荷重条件の図である。
図7】本発明の実施形態の最大荷重条件の図である。
図8】従来設計と本発明の軸受試験寿命を比較した表である。
図9】従来設計と本発明の軸受システムの転動体と内側レースとの間の応力レベルの表である。
図10】従来設計と本発明の外側レースの接触応力レベルの表である。
図11】転動体が重荷重を受けたときの、従来設計と本発明のハウジングと外輪との間の界面における接触応力レベルの表である。
図12A】従来技術と本発明の転動体の構造と軸との配置での比較解析の図である。
図12B】従来技術と本発明の転動体の構造と軸との配置での比較解析の図である。
図12C】従来技術と本発明の転動体の構造と軸との配置での比較解析の図である。
図12D】従来技術と本発明の転動体の構造と軸との配置での比較解析の図である。
図12E】従来技術と本発明の転動体の構造と軸との配置での比較解析の図である。
図12F】従来技術と本発明の転動体の構造と軸との配置での比較解析の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来技術としてころ軸受の既存の構造を論じる図1及び図2を参照する。
【0018】
図1及び2には、外輪12の内側に収容された転動体20を備える従来の軸受システム10が示されている。転動体20は両端からプロファイルが付けられている。前記転動体20は、外輪12と軸16との間に挟まれて、転動体20の外側転動面24は軸16の内側表面18に当たって回転する。転動体20の端部はプロファイル付きのため、転動体20の末端と外側の外輪12の内径との間に隙間14及び22が存在する。部分26及び「A」で示した領域は、転動体20の唯一の接触領域であり、外輪12及び軸16の外側表面とそれぞれ接触している。
【0019】
(図2に示すような)重荷重及びその他の使用条件により、軸受システムが支える回転軸16は、アライメントがずれる傾向にある。過大に高い接触応力を生じさせる端部でのピンチングを起こさずに、このミスアライメントの発生を許容するために、プロファイル付きのころ20が必要となる。この構造の不利な点は、軸16の内径と直接接触しているころの有効長さ(図では長さ「A」で示される)が、常に短く、これによって、全荷重が、転動体20の表面全体にわたって一様に分布することなく、転動体20の短い長さ(本質的には、「A」及び符号26の部分)で担われることである。このようなミスアライメントにより、軸受表面の摩損が増え、軸受の寿命全体に悪い影響を及ぼす。
【0020】
図1及び図2で論じたものに比べると進歩した幾何形状の構造を典型的に開示している図3及び図4をさらに参照する。この図3及び図4では、それぞれ軽荷重及び重荷重の条件のもとでの、本質的に円筒状の転動体を備えた応力制御型ころ軸受が示されている。
【0021】
前記の従来技術で示したように、ころ要素にプロファイルを付けることによって、転動体の接触領域は、軸の接触領域とともに著しく小さくなり、それによって、軸受機構の荷重負担能力が低下する。この従来技術は、転動体にプロファイルを付けるのではなく、外輪の内径に対称的なクラウニング(crowning)を施すように幾何形状を修正することを教示するよう企図している。対称的なクラウニングにより、すべての作動条件で、転動体と軸との間の接触領域が維持され、それによって摩損が軽減される。
【0022】
図3及び図4に示すように、軸受システムは、外輪32の内側に収容された円筒状の転動体40を備える。外輪32の内径は、転動体40の回転表面と位置合わせされた、中央で対称的なクラウニング46になるようなプロファイルが付けられている。外輪32の内径の対称的なクラウニング46により、外輪32の末端と転動体40の末端との間に隙間34が存在する。(図3に示すような)軽荷重条件で、転動体40と軸との間の接触領域は「B」として示されている。
【0023】
しかしながら、(図4に示すような)重荷重条件でも、外側レースに対称的なクラウニング46を施すことによって、いかなるミスアライメントのときにも、「B」で示された接触領域を容易に維持する。
【0024】
上記の従来技術では、ころ軸受組立体の幾何的構造を修正して、それによって、最小の修正で最大の接触領域を達成することができるような有効な機構が提供されていない。従来技術において論じたように、転動体にプロファイルを付けること、又は外輪の内径に対称的なクラウニングを施すことによって、末端に隙間が生じ、そのため、全体的な荷重負担能力が低減する。本明細書で、及びいくつか他で論じる限界を克服するために、本発明では、転動体の円滑な回転を容易にするだけでなく、応力レベルを下げて、それによって全体的な摩損を軽減することも考えられている。
【0025】
軸受システムの幾何形状を修正した本発明を示している図5、6、及び7を参照する。図5は最小荷重条件を示し、図7は最大荷重条件を扱い、図6はこれら2つの極端な条件の間にある典型的な荷重条件を示している。
【0026】
図5図6、及び図7は、本条件の様々な実施形態を示している。しかしながら、これもまた、本発明を限定するものとして解釈してはならない。前記軸受システムは、外輪42の内側に収容された円筒状の転動体40を有する。転動体と軸36との接触領域が、最大荷重条件で、軸の振れ度合いとともに変化しないように、外輪42の内径46はカスタマイズされている。ここで、「B」として示した接触表面領域が、最小荷重条件とともに最大荷重条件でも、同じままであることを言及することは適切である。本発明の唯一の目的は、付与された荷重条件のそれぞれに対して接触長さを調節して転動体と外輪42の内径表面46との間の応力レベルを最適化することによって、軸受システムの寿命を最大化することである。
【0027】
接触領域を維持するという目的を達成するために、内径表面は、非対称な凸状表面が常に転動体40に面するようなプロファイルが付けられている。さらに、この凸面の大きさ及び配置は、いかなる荷重及び軸の触れの度合いにおいても、転動体と接触している外輪表面の領域が全軸受寿命を最大化するのに適切であるようにカスタマイズされる。
【0028】
図5では、軽荷重でのこの接触長さ(図5で示す「C」)は短く示されているが、これは、接触応力レベルが比較的低いので許容される。荷重と軸の振れが増大すると、外側レースの接触領域は比例的に増大する。これは、接触長さ(図6で示す「D」)が実質的に増大した図6を見れば分かる。図7に示すように、接触長さ(図7で示す「E」)は、最大荷重で最長に達する。これは、こうしていなければ転動体40及び外輪42の表面及び表面下に著しい損傷を引き起こし得る最も厳しい負荷条件下で、応力を最小化することに役立つ。外側レースのプロファイルは、各軸受の用途に対してカスタマイズすることができる。
【0029】
さらに、各特定の用途に対して本発明をカスタマイズすることができる軸の振れの範囲について言及することは適切である。本発明において、例示のために厳密に言えば、開発計画の特定な用途は、ゼロから2.2ミリラジアン、これは0.0022の斜度に相当、までの軸の振れの範囲を要求する。このように高い振れ及び傾きの度合いにもかかわらず、本発明は十分に同様に達成した。
【0030】
本発明の別の実施形態では、すべての作動条件のもとで応力を最小化し、したがって寿命を最大化するように、用途に適応して外側レースのクラウニングを設計することができる。さらに、外側レースのクラウニングのカスタマイズは、軸受システムに使用されるころ要素のタイプに応じて変わり得る。
【0031】
さらに別の実施形態では、荷重が増大すると、軸のミスアライメントもまた比例的に増大し、それによって、軸受は、付与された荷重に合うように、利用可能な能力にそれ自体を自動的に調節する。これによって、接触長さを長くして、応力レベルを最小化するように、転動体が接触する外側レースの部分が漸増的に移動する。要するに、付与された荷重が最も軽ければ、外側レースの接触長さは最も短く、最も重い荷重では、接触長さは最も長くなる。これらの間を極めて徐々に且つ完全に自動的に移行する。様々な実施形態でこのように開示したことは、様々な試験データによって裏付けられ、これらは、外輪の内径に凸状のプロファイルを付けることで、軸受システムの寿命が著しく延びたことを示している。
【0032】
本発明の図8は、従来設計と本発明の軸受試験寿命の比較を表した表を示している。軸受の平均寿命は155時間と考えられているが、本発明に対比して試験された従来技術では、以下の所与の「試験条件」で、ほとんど248時間の寿命であった(棒Aで示す)。
試験条件
軸受当たりの半径方向荷重:2500kg
軸受の動定格荷重:47200N
潤滑剤:BOT350M3
軸受速度:1250RPM
計算L10寿命:155時間
【0033】
安全率を計算すると、従来技術の安全率は1.6と計算された。前記安全率は許容できるが、特定の使用条件が予想される水準を超える事象では、或いは、将来、特定の用途の定格荷重が増大する場合には、大きな余裕ではない。いずれにしても、なんらかのパラメータが変わった場合、従来技術は機能することができず、期待される結果を与えることができない。上記の試験条件のもとでの試験結果を参照しやすくするために、以下に表の形式で示す。
【0034】
【表1】
【0035】
本発明は、従来技術に対して定められた試験条件と同じ条件で試験すると、従来の軸受の試験寿命を大幅に超えたことを、上記の表は示している。特定の試験では、本発明の軸受寿命は、522時間に達し(棒Bで示す)、それは、軸受システムの平均寿命のほとんど3.4倍である。同様な試験条件での本発明のさらなる試験では、軸受寿命は727時間に達し(棒Cで示す)、それは、従来のころ軸受の標準予想寿命の4.7倍である。したがって、様々な試験条件での本発明の性能は、従来技術の性能より大いに良好であることは、試験を実施した後に得たデータから明らかである。
【0036】
図9は、従来設計と本発明の軸受システムの転動体と内側レースとの間の応力レベルの表を示している。
【0037】
内側接触応力が、アプリケーションのコンピュータシミュレーションに基づいて、従来技術と本発明に対して評価された。棒Dで示す数字は従来技術の内側レースの接触応力で、約3917MPaであり、一方、本発明の内側レースの接触応力の値は、棒Eで示され、3360MPaであった。実際的な試験条件において、本発明の性能は実質的に向上した。
【0038】
図10は、従来設計と本発明の転動体と外側レースとの間の接触応力レベルの表を示している。
【0039】
外側接触応力が、アプリケーションのコンピュータシミュレーションに基づいて、従来技術と本発明に対して評価された。棒Fで示す数字は従来技術の外側レースの接触応力で、約3305MPaであり、一方、本発明の外側レースの接触応力の値は、棒Gで示され、3051MPaであった。実際的な試験条件において、本発明の性能は実質的に向上した。このタイプの軸受の外側レースは通常、内側レースほど頑丈ではなく、また、応力が低くなると軸受寿命が大きく改善されるので、これは重要である。
【0040】
図11は、転動体が重荷重を受けているときの、従来設計と本発明のハウジングと外輪との間の界面での接触応力レベルの表を示している。
【0041】
ハウジングの接触応力が、アプリケーションのコンピュータシミュレーションに基づいて、従来技術と本発明に対して評価された。棒Hで示す数字は従来技術のハウジングの接触応力で、約948MPaであり、一方、本発明のハウジングの接触応力の値は、棒Iで示され、871MPaであった。実際的な試験条件において、本発明の性能は実質的に向上した。
【0042】
従来技術とともに本発明の転動体50の構造と軸55に対する配置の比較解析を論じている図12A、12B、12C、12D、12E、及び12Fを参照する。図12A及び12Bは、それぞれ、軽荷重条件及び重荷重条件でのすべての従来の円筒ころ軸受の構造を示す。同様に、図12C及び12Dは、それぞれ、軽荷重条件及び重荷重条件でのすべての応力制御型ころ軸受の構造を示す。
【0043】
図12A及び12Bに示すように、従来のクラウニングされた転動体50は、荷重条件で生じるピンチングを軽減する能力を有していない。重荷重条件では、図12Bに示すように、転動体50と軸55との間の接触領域は著しく減少して、軸受寿命に危険を及ぼす摩損を引き起こす。軸の振れを許容するために、転動体はクラウニングしてピンチング及び高接触応力を避けなければならない。この従来の構造(図12A及び12B)では、転動体と軸との間に集中した応力パターンが生じることが分かる。これは早期の軸の損傷につながる。
【0044】
従来技術のうちのいくつかでは、従来技術の図12C及び12Dに示すように、クラウニングを外側レースに移し、ころのプロファイルをそのほとんどの長さに対して基本的に円筒状のプロファイルに変えることによって、従来の構造を改良している。これは、転動体と軸との間の高応力の問題を解決するが、転動体と外側レースとの間の接触応力には対処していない。これらのことは、従来技術に伴う問題と基本的に同じままである。
【0045】
図12E及び12Fに示すように、本発明は、従来技術のクラウニングされていないころを利用する。しかしながら、これは、転動体と外側レースとの間の接触領域を拡大することによって軸受寿命を改善することを検討する方に向かっている。図示するように、外側レースと転動体との間の接触領域は、軸の振れ度合いに直接的に比例する。この非対称の凸状のプロファイルによって、外側レースと転動体との間の接触領域が増大するのが容易になり、それによって、摩損が軽減される。この構造はさらに、その界面での接触応力を低減し、クラウニングされていない転動体と軸との応力をより低くすることによって軸受寿命を延ばす。これは、軸受の疲労寿命を大きく延ばし、荷重下での軸の振れ量に自動的にうまく対応するように設計される。下記の表は、実験データに基づいた現象を説明している。
【0046】
【表2】
【0047】
開示された実施形態の上記の説明は、当業者が本発明を作製又は使用することができるようにするために提供される。これらの実施形態への様々な修正は当業者にとっては容易に明らかとなり、本明細書に記載の包括的な原理は本発明の精神又は範囲から逸脱することなく他の実施形態に適用可能である。したがって、本明細書で提示される記載及び図面は、現時点での好ましい本発明の実施形態を示しており、したがって、本発明によって広く企図される主題を代表するものであることを理解されたい。本発明の範囲は、当業者には明白となる他の実施形態を完全に包含し、本発明の範囲はそれに応じて制限されるものではないことはさらに理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F