特許第6571673号(P6571673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571673ARDSを検出する方法及びARDSを検出するためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571673
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】ARDSを検出する方法及びARDSを検出するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20190826BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20190826BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   A61B10/00 L
   A61M16/00 370Z
   A61B5/08
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-552556(P2016-552556)
(86)(22)【出願日】2015年2月11日
(65)【公表番号】特表2017-511718(P2017-511718A)
(43)【公表日】2017年4月27日
(86)【国際出願番号】EP2015052806
(87)【国際公開番号】WO2015124468
(87)【国際公開日】20150827
【審査請求日】2018年2月8日
(31)【優先権主張番号】14155767.8
(32)【優先日】2014年2月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ウェダ ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンク テウニス ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ワン ユアンユエ
(72)【発明者】
【氏名】ボス リーウウェ ダーク ヤコブス
(72)【発明者】
【氏名】ナイセン タマラ マセア エリザベス
【審査官】 佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/065452(WO,A1)
【文献】 国際公開第00/041623(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/098627(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0155166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者についての急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の指標を提供するためのシステムであって、
患者の呼気のガス試料を得るための試料採取装置と、
患者の呼気の前記ガス試料の中のn‐オクタンの含有量を測定するための測定ユニットと、
者の呼気の前記ガス試料の中のn‐オクタンの前記含有量が所定の閾値を超えることに基づき、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるというARDSの指標を決定するコントローラと、
ARDSの前記指標をユーザに示すためのユーザインターフェースと、
を含む、システム。
【請求項2】
アセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量を測定するための測定ユニットと、患者の呼気中のn‐オクタンの前記含有量、並びにアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの前記含有量に基づき、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを区別することができるコントローラと、を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記試料採取装置は、吸着管及び/又はエアバッグを含む、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記試料採取装置及び前記測定ユニットは、呼気のオンライン測定を可能にする、請求項1乃至3の何れか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記試料採取装置は、患者に人工呼吸を施すためのシステムの一部である人工呼吸器のホースから呼気を試料採取する装置である、請求項1乃至4の何れか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記コントローラは更に、他の患者パラメータを利用する、請求項1乃至5の何れか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記他の患者パラメータは、患者の肺障害予測スコアを含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
患者についての急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の指標を提供するためのシステムの作動方法であって、
ガス試料を得るために患者の呼気の一部を試料採取するステップと、
前記ガス試料中のn‐オクタンの含有量を測定するステップと、
前記ガス試料中のn‐オクタンの前記含有量が、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを区別する所定の閾値を超えるかどうかを決定するステップと、を含む、
方法。
【請求項9】
前記閾値は、ガス試料を得るために試料採取する前記ステップ、及び前記ガス試料中のn‐オクタンの含有量を測定する前記ステップのために用いられる化学センサの感度と特異度とをバランスさせることによって決定されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
患者についての急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の指標を提供するためのシステムの作動方法であって、
ガス試料を得るために患者の呼気の一部を試料採取するステップと、
前記ガス試料中のn‐オクタンの含有量を測定するステップと、
前記ガス試料中のn‐オクタンの測定された前記含有量を用いて、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するステップであって、前記含有量が所定の閾値を超えている場合に、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあると判定するステップと、を含む、
方法。
【請求項11】
アセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量が測定され、
患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するステップが、前記ガス試料中のn‐オクタンの測定された前記含有量、並びにアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの測定された前記含有量を用いることによって実行される、請求項8乃至10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
患者の呼気の一部を試料採取する前記ステップは、吸着管及び/又はエアバッグを用いて実行される、請求項8乃至11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
試料採取する前記ステップ及び前記含有量の測定は、オンラインで実行される、請求項8乃至11の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
患者は、人工呼吸を施された患者である、請求項8乃至13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するときに、n‐オクタンの測定された前記含有量の関連性を検証するために、他の患者パラメータが用いられる、請求項8乃至14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記他の患者パラメータは、患者の肺障害予測スコアを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者が、ARDSとも呼ばれる急性呼吸窮迫症候群を有するか、又はARDSを発症しつつあるかどうかを決定するための方法を対象とする。また、本発明は、ARDSを検出するためのシステムを対象とする。
【背景技術】
【0002】
挿管され、人工呼吸が施される患者の肺は、人工気道、非生理的気道陽圧の使用、及び一回換気量/圧力に関連する肺組織の過伸展が少なくとも原因の一部で、感染や障害を起こしやすい。よく見られる合併症は、人工呼吸器感染肺炎(VAP)及び人工呼吸器関連肺障害(VALI)である。肺炎及び/又は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に起因する元からある肺障害は、人工呼吸によって悪化し、高まった罹患率及び死亡率をもたらす恐れがある。胸部X線での肺浸潤を含む、感染及び/又は障害の臨床症状には、肺の内部の分子及び細胞の変化が先行する。分子及び細胞の主要な病態生理学的メカニズムの適時適切な検出は、潜在的に、迅速な治療の開始や標的を狙った治療的介入につながり得る。したがって、肺障害、とりわけARDSのための早期且つ正確な生物学的マーカが、患者内のARDSの発症を予測するためか、又はARDSを発症しているときに早期の診断を強化するために、大いに必要とされる。
【0003】
更に、ARDSのための有効且つ信頼性のある定義は、臨床管理のために、また、一貫性のある患者表現型の臨床試験への登録を容易にするために重要であると考えられる。現在用いられているベルリン基準は、経験的に選択された臨床的、放射線学的、及び生理学的な可変要素である。この定義は、疫学的研究のために高度に適するが、死後の病理学的所見との緩やかな相関しか示さない。ARDSは依然として肺炎又は心原性肺水腫(CPE)と間違われる恐れがあり、逆も同じである。
【0004】
Crader等の「J Pulmonar Respirat Med 2012, 2:1」において、患者のためにARDSを予測するための、可能性のある多数のバイオマーカが説明されている。この概説論文は、呼気及び呼気凝縮体中のバイオマーカを評価するための多数のアプローチが提案されているが、今のところ一つも用いられていないと述べている。また論文は、呼気バイオマーカを用いることは、ARDSの発症に寄与する恐れのある条件を直接且つ繰り返し分析する非侵襲的な態様を提供し得るので、呼気バイオマーカを用いることの可能性がかなりあるとも述べている。
【0005】
現在、胸部X線は、進行した段階でのARDSの診断を可能にする。欠点は、胸部X線は患者を放射線の投与量に曝すことである。気道吸引又は気道洗浄は、早期検出を提供する。これらのやり方の欠点は、これらは患者にとって侵襲的で有害であることである。更に、上記のやり方は全て、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかの頻繁なチェックに適さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、迅速な治療開始や標的を狙った治療的介入につながり得る、ARDSの適時適切な検出を提供することのできる方法及びシステムを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これは、以下の方法によって達成される。当該方法は、ガス試料を得るために患者の呼気の一部を試料採取するステップと、ガス試料中のn‐オクタンの含有量を測定するステップと、ガス試料中のn‐オクタンの測定された含有量を用いて、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するステップとを含む。
【0008】
出願人は、ARDSを有しない患者の呼気中のn‐オクタンの含有量と比較して、より高い呼気中のn‐オクタンの含有量は、ARDSに関する指標となることを見出した。したがってn‐オクタンは、患者がARDSを発症しているかどうかを評価するための適切な呼気バイオマーカである。したがってこの方法は、ARDSの適時検出を強化する。更に、方法は、ARDS疾病の重症度、人工呼吸器の設定、又は併存疾患の影響を受けないことが見出された。
【0009】
また、本発明は、
患者についてのARDSの指標を提供するためのシステムであって、
患者の呼気のガス試料を得るための試料採取装置と、
患者の呼気中のn‐オクタンの含有量を測定するための測定ユニットと、
患者についてのARDSの指標をもたらす患者の呼気中のn‐オクタンの含有量に基づき、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを区別することができ、患者についてのARDSの指標に関する出力を提供するためのプロトコルを備えるコントローラと、
ARDSの指標をユーザに示すためのユーザインターフェースと、
を含む、システムも対象とする。
【0010】
好ましくは、方法は、例えば挿管を介して侵襲的に、又は例えばマスクを用いて非侵襲的に人工呼吸を施された患者のために用いられる。方法は、家庭で、サービスフラットや老人ホーム内で、及び病院内で実行され得る。方法は特に、病院の集中治療室内で治療される患者のために適している。
【0011】
ガス試料中のn‐オクタンの測定された含有量を用いて、患者がARDSを発症する恐れがあるかどうか、また、とりわけ患者がARDSを有するかどうかを決定するステップは、測定された含有量が、ARDSに関する予測となると見出された所定の閾値を超えるかどうかを決定することによって実行される。また、n‐オクタンの含有量の一部の値に関する予測の感度が実際の使用のために十分ではなく、追加の検証が必要とされることも想定される。斯様な検証のための、可能性のある追加の測定値及びデータは、下記に説明される。また、例えば方法をオンラインで実行するときに、n‐オクタンの含有量が継続的に又は半継続的に測定されるときには、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定する測定値として、患者の呼気中のn‐オクタンの含有量の増加率を用いることも可能である。患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかの決定は、下記に更に説明されるように、ユーザインターフェースによってユーザに伝達される。
【0012】
更に出願人は、ARDSを有しない患者の呼気中のアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量と比較したときに、より低いアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量も、ARDSに関する指標となることを見出した。好ましくは、これら化合物のうちの一方あるいは両方の測定された含有量は、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するために用いられる。より好ましくは、これら化合物のうちの一方あるいは両方の測定された含有量は、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するときに、n‐オクタンの測定された含有量の関連性を検証するために用いられる。出願人は、ARDSを決定するためにあまり有意ではない領域内にあるn‐オクタンの含有量が測定されるときに、斯様な追加のデータは、方法の感度を改善することを見出した。追加的に又は代替的に、方法の感度は、他の患者パラメータを用いても改善され得る。他の患者パラメータとは、上述の患者の呼気中のn‐オクタン、アセトアルデヒド、及び/又は3‐メチルヘプタンではない、患者に関する任意の情報を意味する。斯様な他の患者パラメータは例えば、人工呼吸器の設定及び/又はパラメータ、例えば心拍数、酸素化、体温等といった患者の監視データ、並びに、例えば肺炎、心不全、敗血症、膵炎等といった患者病歴のデータである。斯様な他の患者パラメータの例は、患者の肺障害予測スコア(LIPS)を含む。出願人は、LIPSは、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するときに、n‐オクタンの測定された含有量の関連性を検証するために用いられ得ることを見出した。肺障害予測スコア(LIPS)はよく知られており、Gaijc O.等によって「Am J Respir Crit Care Med 2011 Feb 15; 183(4):462-70」において説明されている。
【0013】
方法は、ガス試料を得るために患者の呼気の一部を試料採取するステップと、これに続く、ガス試料のn‐オクタンの含有量についてのガス試料の測定、並びにオプションでガス試料のアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量についてのガス試料の測定も含む。呼気は、オフライン又はオンラインで試料採取され、測定される。斯様なオフラインの方法での使用のためのシステムの試料採取装置は、吸着管及び/又はエアバッグを好適に含む。オフラインで実行される方法の例は以下のとおりであり、患者は一定の時間量の間、例えばテドラー(登録商標)バッグといったエアバッグの中へと息を吐く。これは、バッグが患者の呼気で充填されることをもたらす。エアバッグの内容物は直接測定される。代替的に、ポンプ及び質量流量コントローラがバッグに接続され、収集されたエアが吸着管を通って、一定の時間量の間、一定の流量で押し出されるか、又は引き込まれてもよい。バッグの中に息を吐くことができない人工呼吸を施された患者は、吸着管を通じて直接呼気試料を引き込む、ベッドサイドにある小さなポンプによって、オフラインで試料採取される。斯様に得られる吸着管は、患者の呼気中に存在する化合物の代表量を含む。
【0014】
続いて、試料採取装置内に存在するn‐オクタン、並びにオプションでアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量が、分析技術によって測定される。好ましくは、斯様な技術は、例えば飛行時間型質量分析(TOF‐MS)、赤外分光法、及びイオン移動度分光分析(IMS)等の分光分析技術、並びに好ましくはガスクロマトグラフィ質量分析(GC‐MS)である。これらの技術は、個々の分子化合物についての知識を提供し、呼気試料中のn‐オクタンの含有量、並びにオプションのアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量についての正確な測定を提供し得る。したがって、呼気の一部を試料採取するステップは、吸着管を用いて実行され、含有量を測定するステップは、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC‐MS)によって実行される。しかしながら斯様な方法は、かなり面倒な手順、比較的大きな装置、及び訓練されたオペレータを必要とする。
【0015】
上記の理由のために、方法は好ましくは、オンラインで実行される。斯様なオンラインの方法では、患者の呼気がセンサ又はセンサのアレイに受動的又は能動的に運ばれる。このアプローチは、監視に関して、処理の容易さ及び速さのおかげで好ましい。この方法を用いると、例えばポンプを用いることによって人工呼吸器のホースから呼気を試料採取する装置内に、呼気分析器が組み込まれる。呼気試料中のn‐オクタン、並びにオプションのアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量のオンライン測定は例えば、いわゆる電子の鼻(eNose)、又は、例えば小型化GC(マイクロGC)のような小型化分光分析ユニット、質量分析法、イオン移動度分光法(IMS)、及び/若しくはFAIMS(強磁場波形IMS)によって実行される。好ましくは、斯様な呼気分析器は、n‐オクタン、並びにオプションでアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンを特異的に測定する。
【0016】
eNoseは、計量化学処理ツールと組み合わされた非特異的なガスの化学センサのアレイからなる。的確なタイプの化学センサ及び計量化学処理手法に関して、様々な技術が存在する。センサ及び処理手法の選択は、n‐オクタン、並びにオプションでアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンにも依存する。可能性のある測定手法は、分子インプリンティング又は赤外線照明を用いた光学技術に基づく。当業者は、感度と特異度とをバランスさせながら閾値を調節することによって、斯様な装置のための最適な設定が見出され得ることを知っているであろう。
【0017】
より好ましいオンラインの方法では、呼気分析器は、人工呼吸器システム内に組み込まれるか、又は患者モニタ内に組み込まれる。これは、患者のベッドサイドでの追加の装置の必要性をなくし、また、継続的な呼気の監視を可能にする。更に、ARDS患者の肺は、圧力の変化に対して脆弱である。人工呼吸器のチューブに追加の装置をつなげるか、又は切り離すことは、人工呼吸器システムにおける継続的な圧力に悪影響を与え、ひいては肺を損傷する恐れがある。呼気分析器を人工呼吸器システム内へと組み込むために、eNoseのタイプの技術が用いられるか、又は、例えば上述の小型化分光分析ユニットのような、n‐オクタン、アセトアルデヒド、及び/若しくは3‐メチルヘプタンの専用センサが用いられてもよい。
【0018】
また、本発明は、ARDSのインビボ(生体内)診断における使用のためのn‐オクタン、並びにARDSのインビボ診断における使用のためのアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンも対象とする。
【0019】
また、本発明は、上述のシステムも対象とする。患者についてのARDSの指標を提供するための斯様なシステムは、患者の呼気のガス試料を得るための試料採取装置を含む。システムは、患者の呼気中のn‐オクタン、並びにオプションでアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量を測定するための測定ユニットを更に含む。また、システムは、患者についてのARDSの指標をもたらす患者の呼気中のn‐オクタン、アセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量に基づき、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを区別することができ、患者についてのARDSの指標に関する出力を提供するためのプロトコルを備えるコントローラも含む。コントローラは、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかの決定のための上述の論理を、本発明による方法のために好適に用いる。また、システムは、ARDSの指標をユーザに示すためのユーザインターフェースも含む。斯様なユーザインターフェースは、患者の傍ら(ポイント・オブ・ケア)に存在するか、人工呼吸器ユニットのモニタの一部であるか、又は1以上の本発明によるシステムとの組合せで用いられる携帯型インターフェースであってさえよい。
【0020】
好ましくは、測定ユニットは、n‐オクタンの含有量を測定するためのユニットであり、コントローラは、好ましくは、患者の呼気中のn‐オクタンの含有量に基づき、とりわけ上述の方法により、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを区別することができる。
【0021】
試料採取装置は、呼気中の特異的な化合物の含有量のオフライン測定に適している。好適には、試料採取装置は吸着管及び/又はエアバッグを含み、測定ユニットは、上記の方法に関して説明された分光分析ユニットである。
【0022】
より好ましくは、試料採取装置及び測定ユニットは、呼気のオンライン測定を可能にする。上述のとおり、斯様な試料採取装置は、好適には、患者に人工呼吸を施すためのシステムの一部である人工呼吸器のホースから呼気を試料採取する装置である。斯様なオンラインシステムの測定ユニットは、好適には、前述の電子の鼻、例えば小型化形式のGC(マイクロGC)のような小型化分光分析ユニット、質量分析法、イオン移動度分光法(IMS)、及び/又はFAIMS(強磁場波形IMS)であり、斯様な測定ユニットは、n‐オクタン、並びにオプションでアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンを特異的に測定する。
【0023】
好ましくは、方法及びシステムは、特に規制上の問題との関連で、人工呼吸器を圧力及び流量の点で妨害してはならない。したがって、例えば図1に示されるようなサイドストリームのアプローチが好ましい。図1は、人工呼吸を施された患者4からのエアがいわゆるサイドストリームのアプローチを用いて試料採取される、オフラインシステムのための概略的なセットアップを示す。導管6と熱及び湿度交換器(HME)3を介して人工呼吸器ユニット7に接続される挿管チューブ5の外側部分が示される。人工呼吸器ユニット7は、流量センサと、コントローラと、ガス流発生器とを含む。エアは、ポンプ及び流量コントローラ1を用いて、サイドストリーム導管8を介して収集される。ポンプ及び流量コントローラ1は、小さな機械式ポンプを用いて、吸着管2を通過する呼気の制御された流れを可能にする。オンラインシステムでは、図1におけるのと同様に、吸着管が組み込まれていなくてもよい。斯様なシステムでは、ポンプ及び流量コントローラ1は、n−オクタン、並びにオプションでアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量を測定するための測定ユニットも含む。好適には、斯様なサイドストリームのアプローチは、人工呼吸器装置に一体化され、ベッドサイドでの余分な装置を回避し、また、脆弱な肺に損害を与える恐れがある人工呼吸器システムでの急激な圧力変化を回避する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、人工呼吸を施された患者4からのエアがいわゆるサイドストリームのアプローチを用いて試料採取される、オフラインシステムの概略的なセットアップを示す。
図2】ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC‐MS)によって、吸着管内のn‐オクタンの含有量が分析された。図2に結果が提示される。
図3図3は、いわゆる受診者動作特性(ROC)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例)
臨床試験では、人工呼吸を施された集中治療室の54人(ARDSの24人、ARDSではない30人)の患者が、図1に示されるシステムを用いた呼気分析の対象となった。ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC‐MS)によって、吸着管内のn‐オクタンの含有量が分析された。図2に結果が提示される。この図では、ARDSを有しない患者の呼気中のn‐オクタンの存在量との比較において、ARDSを有する患者に関するn‐オクタンの存在量に、有意差が観察される。n‐オクタンの存在量は、電子イオン化を用いて様々な質量電荷比(m/z)のフラグメントを生成するGC‐MSの一部としての質量分析計によって測定される、m/z=114でのGC‐MSフラグメントの数で表現される。分類器モデルを構築してこれを内部検証することは、呼気分析を用いてn‐オクタンの存在量を監視することによって、ARDSを有しない患者からARDSを有する患者を区別し得ることを示している。これは図3によって示される。図3は、いわゆる受診者動作特性(ROC)を示す。図3は、3つのカーブを示し:
破線は、ARDS患者を区別する際にn‐オクタン(C8)に基づく、分類器の性能を表す(AUC:0.80(95%‐CI:0.71‐0.88))。
点線は、ARDS患者を区別する際にLIPSに基づく、分類器の性能を表す(AUC:0.78(95%‐CI:0.70‐0.87))。
実線は、ARDS患者を区別する際にn‐オクタン(C8)に基づき、LIPSによって検証される、分類器の性能を表す(AUC:0.91(95%‐CI:0.85‐0.97))。
【0026】
図3における結果は、n‐オクタンは、ARDSのための良好なバイオマーカであり、所与の特異度における感度は、n‐オクタンの測定された含有量を患者のLIPSを用いて検証することによって、更に一層強化され得ることを示す。
【0027】
出願人の実験において、出願人は更に、アセトアルデヒド及び3‐メチルヘプタンをARDSのための好適なバイオマーカとして特定した。更に出願人は、ARDSを有する患者とARDSを有しない患者との間の呼気のイソプレン濃度において、差が観察されなかったことを見出した。イソプレンは、Schubert等の「Application of a new method for analysis
of exhaled gas in critically ill patients」、Intensive
Care Med 1998;24:415-421によって、バイオマーカとして報告されている。結果における相違は、この研究対象の患者は、ICU入院の後24時間以内、よってARDSの発症の早期である患者が含まれたのに対し、Schubert等の研究における患者は、病気の経過の後の患者が含まれたという事実に起因すると思われる。したがって、本発明による方法及びシステムは、ARDSの発症初期を検出するのに、より有効である。
いくつかの態様を記載しておく。
〔態様1〕
患者についての急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の指標を提供するためのシステムであって、
患者の呼気のガス試料を得るための試料採取装置と、
患者の呼気中のn‐オクタンの含有量を測定するための測定ユニットと、
患者の呼気中のn‐オクタンの前記含有量に基づき、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを区別して患者についてのARDSの指標を与えることができ、患者についてのARDSの前記指標に関する出力を提供するためのプロトコルを備えるコントローラと、
ARDSの前記指標をユーザに示すためのユーザインターフェースと、
を含む、システム。
〔態様2〕
アセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量を測定するための測定ユニットと、患者の呼気中のn‐オクタンの前記含有量、並びにアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの前記含有量に基づき、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを区別することができるコントローラと、を含む、態様1に記載のシステム。
〔態様3〕
前記試料採取装置は、吸着管及び/又はエアバッグを含む、態様1又は2に記載のシステム。
〔態様4〕
前記試料採取装置及び前記測定ユニットは、呼気のオンライン測定を可能にする、態様1乃至3の何れか一項に記載のシステム。
〔態様5〕
前記試料採取装置は、患者に人工呼吸を施すためのシステムの一部である人工呼吸器のホースから呼気を試料採取する装置である、態様1乃至4の何れか一項に記載のシステム。
〔態様6〕
前記コントローラは更に、他の患者パラメータを利用する、態様1乃至5の何れか一項に記載のシステム。
〔態様7〕
前記他の患者パラメータは、患者の肺障害予測スコアを含む、態様6に記載のシステム。
〔態様8〕
ガス試料を得るために患者の呼気の一部を試料採取するステップと、前記ガス試料中のn‐オクタンの含有量を測定するステップと、前記ガス試料中のn‐オクタンの前記含有量が所定の閾値を超えるかどうかを決定するステップと、を含む、方法。
〔態様9〕
前記閾値は、ARDSに関する予測となるように決定されている、態様8に記載の方法。
〔態様10〕
前記閾値は、ガス試料を得るために試料採取する前記ステップ、及び前記ガス試料中のn‐オクタンの含有量を測定する前記ステップのために用いられる化学センサの感度と特異度とをバランスさせることによって決定されている、態様8又は9に記載の方法。
〔態様11〕
ガス試料を得るために患者の呼気の一部を試料採取するステップと、前記ガス試料中のn‐オクタンの含有量を測定するステップと、前記ガス試料中のn‐オクタンの測定された前記含有量を用いて、患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するステップと、を含む、方法。
〔態様12〕
アセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの含有量が測定され、
患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するステップが、前記ガス試料中のn‐オクタンの測定された前記含有量、並びにアセトアルデヒド及び/又は3‐メチルヘプタンの測定された前記含有量を用いることによって実行される、態様8乃至11の何れか一項に記載の方法。
〔態様13〕
患者の呼気の一部を試料採取する前記ステップは、吸着管及び/又はエアバッグを用いて実行される、態様8乃至12の何れか一項に記載の方法。
〔態様14〕
試料採取する前記ステップ及び前記含有量の測定は、オンラインで実行される、態様8乃至12の何れか一項に記載の方法。
〔態様15〕
患者は、人工呼吸を施された患者である、態様8乃至14の何れか一項に記載の方法。
〔態様16〕
患者がARDSを有するか、又はARDSを発症する恐れがあるかどうかを決定するときに、n‐オクタンの測定された前記含有量の関連性を検証するために、他の患者パラメータが用いられる、態様8乃至15の何れか一項に記載の方法。
〔態様17〕
前記他の患者パラメータは、患者の肺障害予測スコアを含む、態様16に記載の方法。
〔態様18〕
ARDSの診断における使用のための、n‐オクタン。
〔態様19〕
前記診断はインビボ診断である、態様18に記載のARDSの診断における使用のためのn‐オクタン。
図1
図2
図3