特許第6571675号(P6571675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571675
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20190826BHJP
   H01B 11/06 20060101ALI20190826BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20190826BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20190826BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   H01B11/00 J
   H01B11/06
   H01B7/00 304Z
   H01B7/00 310
   H01B7/18 D
   H01B7/18 H
   H01B7/02 Z
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-555084(P2016-555084)
(86)(22)【出願日】2015年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2015005281
(87)【国際公開番号】WO2016063520
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2018年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-215031(P2014-215031)
(32)【優先日】2014年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(72)【発明者】
【氏名】吉野 功高
(72)【発明者】
【氏名】坪井 覚
(72)【発明者】
【氏名】牧島 誠
(72)【発明者】
【氏名】村上 知倫
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−110254(JP,A)
【文献】 実開平1−119115(JP,U)
【文献】 特開2004−158328(JP,A)
【文献】 特開2009−224075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 11/06
H01B 7/00
H01B 7/02
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動伝送用の少なくとも2本の第1および第2の信号ケーブルと、グラウンド用の第3のケーブルと、電源供給用の第4のケーブルと、前記第1および第2の信号ケーブルを覆う金属シートと、金属シートによって覆われた前記第1および第2の信号ケーブルと前記第3および第4のケーブルとを収納する被覆材と、前記被覆材の内部空間に充填された、磁性粉と樹脂が混合された磁性粉混合樹脂とを備え、
前記磁性粉混合樹脂の磁性粉の混合比率が70重量%以上95重量%以下であるケーブル。
【請求項2】
前記磁性粉は、フェライトまたはパーマロイである請求項1記載のケーブル。
【請求項3】
前記第1および第2の信号ケーブルが撚られている請求項1又は2記載のケーブル。
【請求項4】
前記第1および第2の信号ケーブルは、複数の銅線とアラミド繊維で構成されている請求項1から3までのいずれかに記載のケーブル。
【請求項5】
複数の銅線とアラミド繊維で構成されている第1および第2の信号ケーブルの被膜が絶縁樹脂で構成されている請求項記載のケーブル。
【請求項6】
前記第3および第4のケーブルは、複数の銅線とアラミド繊維で構成されている請求項1から5のいずれかに記載のケーブル。
【請求項7】
複数の銅線とアラミド繊維で構成されている第3および第4のケーブルの被膜が絶縁樹脂で構成されている請求項記載のケーブル。
【請求項8】
前記第1および第2の信号ケーブルと共に、ドレインが前記金属シートによって覆われた請求項1から7のいずれかに記載のケーブル。
【請求項9】
USB規格の伝送に使用される請求項1から8のいずれかに記載のケーブル。
【請求項10】
請求項1に記載のケーブルの一部区間を取り囲むフェライトコアが設けられ、前記フェライトコアの外側に成型樹脂が配されたケーブル。
【請求項11】
成型樹脂が磁性粉が混合されたものである請求項1に記載のケーブル。
【請求項12】
前記一部区間の被覆材が取り除かれている請求項10又は11に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばUSB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-definition multimedia interface)等の差動シリアル伝送規格に適用できるケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
USB規格に使用されるケーブル(USBケーブル)は、1組の差動型のデータラインと電源ラインとグラウンドラインとの4本の電線を有している。一般的にケーブルから外部に出るノイズと、外部から内部に飛び込む電磁波を抑制するために、銅線を編み込んだシールド層が設けられる。このシールド層の両端部が接地電位部に接続される。
【0003】
しかしながら、接地電位が確かでない場合には、電磁シールドの効果が不十分となる問題がある。さらに、接続される2つの機器の接地電位が等しくない場合には、シールド層を介して電流が流れ、ノイズが機器に伝達される問題があった。さらに、この問題に対する対策として、シールド層を覆う被覆材にフェライト等の電波吸収材を混ぜた樹脂を使用してノイズを抑制することが提案されている。さらに、機器と接続されるケーブルの接続部にインダクタンス等のノイズ抑制部材を設けることによって対策を行っている。
【0004】
例えば特許文献1の図2には、導体1が絶縁体2で被覆された絶縁電線3を複数本有し、その外側に銅網組4が卷かれ、さらに、その外側に絶縁材料からなるシース5が配され、絶縁電線3と銅網組4との間にフェライト含有樹脂6が設けられている構成が記載されている。かかる特許文献1に記載のケーブルは、銅網組4によって主に高周波領域(10kHz〜1GHz)のノイズを抑制でき、絶縁体2に含有されているフェライト粉末によって(1kHz〜10kHz)のノイズを抑制でき、フェライト含有樹脂6によって低周波ノイズを低減することができるとされている。
【0005】
特許文献2には、特許文献1に記載のものがシールド層を有しており、シールド層を確実に基準電位に接続されていないと、シールド層からEMIノイズが外部に輻射する問題があると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−31913号公報
【特許文献2】特許第4032898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献2の場合、電源線の絶縁体が磁性粉混合樹脂層6と絶縁層7の二重構造となっているので、機械的特性、成型性が良好であり、磁性粉混合樹脂層6によってノイズ抑制効果を持つことができる。さらに、シース層11が磁性粉混合樹脂層6と保護シート層12の二重構造となっているので、機械的特性、成型性が良好であり、ノイズ抑制効果を持つことができる。さらに、特許文献2では、信号線3からのノイズがシールド9から洩れたとしても、磁性粉混合樹脂層6により、電源線2に浸入することを抑制できるとされている。
【0008】
しかしながら、特許文献2では、信号線3に関するノイズ対策をシールド9(網組線)によって行うために、シールド9からのノイズが発生する。特許文献2では、介在を使用しなくても良いとされており、このノイズを外周の磁性粉混合樹脂層6によって抑制するようになされる。したがって、ノイズの量に対して磁性粉混合樹脂層6の厚み(体積)が不十分な場合には、ノイズ減衰が不十分となる可能性があった。さらに、電源線2に対する磁性粉混合樹脂層6と、ケーブル全体のシース層11の磁性粉混合樹脂層6とを設けるので、磁性粉混合樹脂層6の被覆工程が2回必要となり、ケーブルの製造工程が複雑化するおそれがあった。
【0009】
特許文献1においても、シールドのために銅網組線を使用している。しかしながら、網組線を使用する場合、ビッグテールと呼ばれる問題がある。図1を参照してビッグテールについて説明する。図1Aに示すように、内部導体51の周囲を絶縁被膜52で覆い、絶縁被膜52の外周面に網組線53が配され、さらに、外皮54が設けられている同軸ケーブルにおいて、網組線53を束ねてワイヤ状とした部分55(ビッグテールと称される)を一カ所のグラウンドに接続する。
【0010】
図1Bおよび図1Cに示すように、回路基板56がシールドケース57内に収納されている。回路基板56には、信号パターン58とアースパターン59とが形成されている。アースパターン59がシールドケース57のグラウンドに接続されている。同軸ケーブルのビッグテール55をグラウンドに接続する場合、図1Bに示すように、ビッグテール55をシールドケース57に接続する方法と、図1Cに示すように、ビッグテール55をアースパターン59に接続する方法とが可能である。
【0011】
図1Bに示す接続方法は、ビッグテール55によってシールドの効果が損なわれ、また、比較的遠い箇所のシールドケース57のグラウンドを介して信号の電流が帰ることになる。このような場合、信号の電流によってグラウンドにノイズが誘導され、網組線53がこのノイズのアンテナとして働く問題が生じる。
【0012】
図1Cに示す接続方法は、信号の電流の帰り道としては問題がないが、シールドケース57のグラウンドと、同軸ケーブルのグラウンドとが切り離されている。そのために、シールド効果が著しく損なわれる。このように、網組線を使用する特許文献1および特許文献2の何れも、シールド効果の点で問題を生じる。
【0013】
したがって、本開示の目的は、かかる従来の問題点を解消したケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、差動伝送用の少なくとも2本の第1および第2の信号ケーブルと、グラウンド用の第3のケーブルと、電源供給用の第4のケーブルと、第1および第2の信号ケーブルを覆う金属シートと、金属シートによって覆われた第1および第2の信号ケーブルと第3および第4のケーブルとを収納する被覆材と、被覆材の内部空間に充填された、磁性粉と樹脂が混合された磁性粉混合樹脂とを備え、
磁性粉混合樹脂の磁性粉の混合比率が70重量%以上95重量%以下であるケーブルである。
また、かかるケーブルの一部区間を取り囲むフェライトコアが設けられ、フェライトコアの外側に成型樹脂が配されたケーブルである。
【発明の効果】
【0015】
少なくとも一つの実施形態によれば、信号ケーブル、電源ケーブルおよびグラウンドケーブルが絶縁被膜と磁性粉混合樹脂とによって覆われているので、シールド効果を得ることができる。信号ケーブルが金属シートによって覆われているので、磁性粉混合樹脂が信号ケーブルの外周を覆っている場合でも、高周波信号の差動伝送を問題なく行うことができる。さらに、磁性粉混合樹脂を電源線とケーブル全体とに設ける必要がなく、ケーブルの製造工程が簡単とできる。なお、以下の説明における例示された効果により本開示の内容が限定して解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】網組線を使用する場合の問題点の説明に使用する略線図である。
図2】本開示の第1の実施の形態に係るケーブルの横断面図である。
図3】本開示の第1の実施の形態におけるケーブルの一例の斜視図である。
図4】磁性粉混合樹脂の透磁率の周波数特性を示すグラフである。
図5】本開示の信号伝送特性の説明に使用するグラフである。
図6】本開示の信号伝送特性の説明に使用するグラフである。
図7】本開示の第2の実施の形態に係るケーブルの横断面図である。
図8】本開示の第3の実施の形態に係るケーブルの略線図および横断面図である。
図9】本開示の第4の実施の形態に係るケーブルの略線図である。
図10】本開示の第4の実施の形態に係るケーブルの接続図である。
図11】信号用コモンモードチョークコイルのインピーダンス周波数特性のグラフである。
図12】電源用コモンモードチョークコイルのインピーダンス周波数特性のグラフである。
図13】ノイズ除去用キャパシタの挿入損失の周波数特性のグラフである。
図14】USBコネクタの一例の断面図である。
図15】使用した成型用樹脂のロスファクタの周波数特性のグラフである。
図16】USBコネクタの他の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
<1.第1の実施の形態>
<2.第2の実施の形態>
<3.第3の実施の形態>
<4.第4の実施の形態>
<5.変形例>
なお、以下に説明する実施の形態は、本開示の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本開示の範囲は、以下の説明において、特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの実施の形態に限定されないものとする。
【0018】
<1.第1の実施の形態>
「ケーブルの構成」
図2は、本開示の第1の実施の形態に係るケーブルの横断面図である。第1の実施の形態は、USBケーブル(USB規格のType−AおよびType−B)に本開示を適用した例である。USBケーブルは、1組の差動型伝送(ディファレンシャルモード)のための第1の信号ケーブル21a、第2の信号ケーブル21bと、電源ケーブル22と、グラウンドケーブル23との4本のケーブル(電線)を有している。これらのケーブル21a、21b、22および23は、それぞれ芯線としての導線24の周囲を絶縁被膜25で被覆したものである。
【0019】
導線24としては、銅が使用され、1本の導線からなる単線と、細い導線をより合わせて1本の導線としたより線の何れの構成を使用しても良い。より線を使用する場合、引っ張り強度および線材の柔軟性を確保するために、図3に示すように、複数本の銅線41の中心部にアラミド繊維の糸42を配置し、銅線41と糸42とをよった構成としても良い。銅線41と糸42とをよったものに対して、絶縁樹脂の被膜が設けられる。図3の構成は、信号ケーブル21a、21b、電源ケーブル22と、グラウンドケーブル23の何れもがとりうるものである。信号ケーブル21a、21bは、例えばより対線として構成しても良い。
【0020】
信号ケーブル21aおよび21bは、金属シート26によって覆われている。金属シート26としては、銅またはアルミニウムの箔で覆う構成、銅またはアルミニウムのリボンを信号ケーブル21aおよび21bに対して巻き付ける構成、これらの二つの方法を併用する構成を使用することができる。金属シート26は、接地に対して接続されていないので、網組線を使用することによるビッグテールの問題を生じない利点がある。
【0021】
金属シート26によって覆われた信号ケーブル21aおよび21bと電源ケーブル22およびグラウンドケーブル23とが被覆材27によって覆われる。被覆材27の内部に、磁性粉混合樹脂28が充填される。被覆材27の内周面と信号ケーブル21aおよび21bと電源ケーブル22とグラウンドケーブル23との間には、磁性粉混合樹脂28が介在するようになされる。金属シート26によって信号ケーブル21aおよび21bを覆っているので、磁性粉混合樹脂28の影響を受けずに信号を伝送することができる。
【0022】
導線24の絶縁被膜25および被覆材27としては、種々の材料を使用することができる。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、PVC(ポリ塩化ビニル)、エラストマー等の材料を使用することができる。
【0023】
磁性粉混合樹脂28は、磁性粉を合成樹脂に混合させたものである。合成樹脂の一例は、スチレン系エラストマーである。これ以外のオレフィン系エラストマー、PVC等の合成樹脂を使用するようにしても良い。磁性粉の一例は、Ni−Zn系フェライトである。混合の比率の一例は、フェライトが89重量%である。磁性粉としては、Ni−Cu−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト、軟磁性金属系、銅系、マグネシウム系、リチウム系、亜鉛系、鉄系(例えばパーマロイ)、コバルト系等の磁性粉を使用することもできる。
【0024】
混合の比率は、上述した割合で限定されるものではない。磁性粉の混合の比率が高いほど高周波ノイズを吸収する特性を良好とできるが、成型性、柔軟性、引っ張り強度等の機械的特性が劣化するので、両方を満足するような割合とされる。概ねフェライトの比率が70重量%以上で、95%以下であると高周波ノイズを吸収することができる。
【0025】
Ni−Zn系フェライトを上述した割合でスチレン系エラストマーコンパウンドと混合した磁性粉混合樹脂28の透磁率の周波数特性を図4に示す。
【0026】
「第1の実施の形態の伝送特性」
上述した本開示の第1の実施の形態においては、信号ケーブル21a、21bが金属シート26によってシールドされ、その外側が磁性粉混合樹脂28によって被覆され、さらに、外側が被覆材27によって被覆されている。かかる構成によって、信号を正しく伝送することができることを確認した。
【0027】
参考例1として、信号ケーブル21a、21bに相当する2本のケーブルに高周波信号を差動伝送する。この場合、金属シート26のようなシールド材は、ケーブルに対して設けない。さらに、磁性粉混合樹脂28に相当する部材として、円筒体のフェライトコアを使用し、フェライトコアの中心穴をケーブルがそれぞれ貫通するようになされる。入力ポート付近で各ケーブルが貫通する2個のフェライトコアと、出力ポート付近で各ケーブルが貫通する2個のフェライトコアとが使用される。
【0028】
円筒状(またはリング状)のフェライトコアの中心穴をケーブルが貫通することによってコイルが構成される。したがって、高周波になるほど高いインピーダンスを有する。さらに、フェライトコアで構成されるコイルに電流が流れると、フェライトコアに生じる磁気損失によってエネルギーが失われる効果があり、インピーダンス(抵抗成分)が高くなる。フェライトコアを使用した場合のインピーダンス特性は、フェライトコアの材料、フェライトコアによって形成される円筒体の寸法(長さ、直径、中心穴の径)、ターン数等で決定される。フェライトコアからなる円筒体の中心穴をケーブルが貫通する構成は、1ターンと称され、円筒体にケーブルを1回巻き付ける構成は、2ターンと称される。ターン数が増えると、インピーダンスが高くなる。
【0029】
このように、信号ケーブルを金属シートで覆わないで、フェライトコアを使用する参考例1の場合、図5に示すような伝送特性となる。すなわち、フェライトコアによって信号伝送が正常になされないことになる。横軸が周波数であり、縦軸が挿入損失である。
【0030】
次に、参考例1と同じ2本のケーブルをツイストペアの構成とし、さらに、編組シールドで覆った構成の参考例2に関して伝送特性を調べた結果を図6の破線の周波数特性として示す。図5と同様に、横軸が周波数であり、縦軸が挿入損失である。図6に示すように、参考例2の場合、信号が入力側から出力側に少ない減衰量でもって伝送される。したがって、信号伝送が正常になされている。
【0031】
さらに、参考例2において、各ケーブルがフェライトコア(参考例1と同一のもの)を貫通するようにした構成(本開示と同様の構成)についての伝送特性を図6の実線として示す。図6のグラフから分かるように、フェライトコアを設けてもシールドを設けることによって伝送特性が殆ど変化しないものとできる。したがって、本開示の第1の実施の形態は、差動伝送の信号ケーブル21a、21bの外側を磁性粉混合樹脂28が覆っていても信号を正常に伝達することができる。
【0032】
<2.第2の実施の形態>
図7を参照して本開示をUSB3.1規格によって新たに追加されたType−Cに適用した第2の実施の形態について説明する。図7は、第2の実施の形態の横断面図である。上述した第1の実施の形態は、USB規格のType−AおよびType−Bのいずれに対しても適用できる。Type−Cの規格は、双方向の伝送および給電が可能なものであり、最大データ転送速度(10Gbps (USB3.1規格))をサポートするものである。
【0033】
図7に示すように、第1の実施の形態と同様に、絶縁被膜付きの信号ケーブル21a、21bが金属シート26によって覆われており、絶縁被膜付きの電源ケーブル22およびグラウンドケーブル23が設けられる。信号ケーブル21a、21bは、C信号ケーブル(差動伝送用)と称される。
【0034】
第2の実施の形態では、さらに、A信号ケーブル(差動伝送用)31a、31bおよびドレイン31cが金属シート33によって覆われており、B信号ケーブル(差動伝送用)32a、32bおよびドレイン32cが金属シート34によって覆われている。ドレイン31cおよび32cは、絶縁被膜を有しないものである。
【0035】
上述した第2の実施の形態も第1の実施の形態と同様に、各ケーブルが被覆材27と磁性粉混合樹脂28によってシールドされているので、ノイズが外部に輻射されたり、外部からノイズが飛び込む問題を抑制できる。さらに、各信号ケーブルが金属シート26、33および34によって覆われているので、磁性粉混合樹脂28によって高周波信号の伝送が正常にできなくなる問題を生じない。
【0036】
<3.第3の実施の形態>
図8を参照して本開示の第3の実施の形態について説明する。上述した第1の実施の形態によるケーブルの適当な箇所(1箇所または複数箇所)の一部区間、被覆材27を取り除き、磁性粉混合樹脂28を露出させる。この磁性粉混合樹脂28の露出している区間に円筒状に成型されているフェライトコア35を配置する。磁性粉混合樹脂28の外径よりフェライトコア35の内径がやや大とされている。
【0037】
さらに、フェライトコア35の全体を覆う成型樹脂36が設けられる。成型樹脂36は、フェライトが混合されている成型樹脂である。このように、ケーブルの途中にフェライトコア35を入れて成型樹脂36によって覆うことによって、ノイズ除去能力を向上させることができる。なお、被覆材27を取り除かなくてもよいし、成型樹脂36がフェライトを含まなくてもよい。
【0038】
<4.第4の実施の形態>
次に、本開示の第4の実施の形態について説明する。図9に示すように、第4の実施の形態は、一例として、ケーブル61の一端に標準USBコネクタ(Type−A)71が接続され、他端にマイクロ(μと適宜略す)USBコネクタ(Type−A)81が接続された形態のケーブルのノイズ対策に関するものである。標準USBコネクタ(以下、単にUSBコネクタと適宜称する)71がホスト側(パーソナルコンピュータ、充電器(所謂ACアダプタ)等)と接続され、μUSBコネクタ81がデバイス側(スマートフォンや、タブレット等)と接続される。ケーブル61としては、上述した本開示によるノイズ抑圧性能が優れたケーブルまたは既存のシールド付のケーブルが使用される。
【0039】
10に示すように、例えばパーソナルコンピュータ70のレセプタクルにUSBコネクタ71が接続され、携帯端末80のレセプタクルにμUSBコネクタ81が接続される。USBコネクタ71のピン配置は、下記のものとされている。
ピン1:Vbus,ピン2:D−,ピン3:D+,ピン4:GND
【0040】
μUSBコネクタ81のピン配置は、下記のものとされている。
ピン1:Vbus,ピン2:D−,ピン3:D+,ピン4:ID,ピン5:GND
【0041】
USBコネクタ71のデータ端子D−およびD+に、コモンモードチョークコイル(コモンモードフィルタと称される場合もある)72の一方の2個の端子が接続される。コモンモードチョークコイル72の他方の2個の端子がケーブル61を介してμUSBコネクタ81に設けられているコモンモードチョークコイル82の一方の2個の端子に接続される。コモンモードチョークコイル82の他方の2個の端子がデータ端子D−およびD+に接続される。
【0042】
USBコネクタ71の電源端子VbusおよびGNDにコモンモードチョークコイル73の一方の2個の端子が接続される。コモンモードチョークコイル73の他方の2個の端子の間にノイズ除去用のキャパシタ74が挿入されている。コモンモードチョークコイル73の他方の2個の端子がケーブル61と、μUSBコネクタ81に設けられているフェライトビーズ83および84を介して電源端子VbusおよびGNDに接続される。識別用端子IDと電源端子GNDの間に識別用抵抗85が接続されている。
【0043】
データ伝送ラインに対して2個のコモンモードチョークコイル72および82が挿入されているが、一方のコモンモードチョークコイルを省略してもよい。μUSBコネクタ81において電源ラインに対するコモンモードチョークコイルをフェライトビーズの代わりに設けてもよい。なお、USB Type−Cのコネクタ規格の場合では、ホスト側もデバイス側も使用することができるので、この場合には、両方のコネクタ側にコモンモードチョークコイルを実装することが必要とされる。
【0044】
コモンモードチョークコイルは、共通のコアに対して2つのコイルが逆向きに卷かれたものである。コモンモードチョークコイル72および82は、2本のデータ線に対してそれぞれコイルが挿入されている。コモンモードチョークコイル73は、2本の電源ラインに対してそれぞれコイルが挿入されている。
【0045】
コモンモードチョークコイルは、ディファレンシャルモードの信号電流を通過させ、コモンモードのノイズ電流を除去することができる。すなわち、ディファレンシャルモードの場合には、二つのコイルを流れる電流が逆方向となり、インダクタとして働かなくなり、コモンモードの場合には、二つのコイルを流れる電流が同一方向となり、インダクタとして働くことになる。ノイズは、コモンモードであるので、除去することができる。実際は、各コイルで発生した磁束の一部が洩れ磁束となるので、インダクタンス成分が0とはならない。したがって、信号周波数が非常に高い領域では、このインダクタンス成分が無視できない場合がある。さらに、ノイズ除去用のキャパシタ74によってノイズを除去することができる。フェライトビーズ83および84によって高い周波数のノイズを除去することができる。
【0046】
このように、電源伝送に対してノイズ除去の性能を高めることによって、USBコネクタ71が接続される充電器や、パーソナルコンピュータにおいて発生したノイズによって、携帯端末80の受信レベルが低下することを防止することができる。
【0047】
図11に、信号用のコモンモードチョークコイル72(82)のインピーダンス周波数特性を示す。実線86で示す特性がコモンモードに対するインピーダンス周波数特性であり、破線87がディファレンシャルモードに対するインピーダンス周波数特性である。例えば100MHz付近において、ディファレンシャルモードに対するインピーダンスが低いものとなり、信号伝送に対する影響が小さいものとされている。
【0048】
図12に、電源用のコモンモードチョークコイル73のインピーダンス周波数特性を示す。実線88で示す特性がコモンモードに対するインピーダンス周波数特性であり、破線89がディファレンシャルモードに対するインピーダンス周波数特性である。例えば100MHz付近において、コモンモードおよびディファレンシャルモードの両方に対するインピーダンスが比較的高いものとなり、何れのモードの高周波成分(すなわち、ノイズ)を抑えることができる。
【0049】
図13にノイズ除去用のキャパシタ74の挿入損失周波数特性を示す。例えばキャパシタ74の値が1.5μFとされている。キャパシタ74によってノイズを抑えることができる。
【0050】
第4の実施の形態では、さらに、USBコネクタ71およびμUSBコネクタ81のシールド対策を行っている。図14は、例えばUSBコネクタ71を図9におけるA−A線の概略的な断面図である。プリント配線基板91上にコモンモードチョークコイル72および73等の部品が実装されている。
【0051】
プリント配線基板91およびコモンモードチョークコイル72,73は、樹脂で覆われた構成とされている。樹脂は、コモンモードチョークコイル72,73を直接的に覆うポリプロピレ等の非導電性樹脂92の層と、その外側の導電性樹脂93の層とからなる。導電性樹脂93は、カーボンが樹脂に充填された成型可能な樹脂であって、電磁波に対して、吸収、反射等のシールド効果を持つものである。導電性樹脂93の代わりに、フェライトが樹脂に充填された成型可能な樹脂(フェライト樹脂)を使用してもよい。
【0052】
このような構成のUSBコネクタ71を作製する方法について説明する。プリント配線基板91上にノイズ対策のチップ部品(コモンモードチョークコイル72,73等)がマウントされた後に、コネクタとプリント配線基板91を半田付し、さらに、線材をプリント配線基板91と半田により接続した状態で、非導電性樹脂92で1次成型する。次に、導電性樹脂93(または、フェライト樹脂)で成型し、コネクタ部を形成する。樹脂のみで作るので、製造時間を短縮することができ、また、隙間なく、樹脂で覆うので、シールド性能を向上することができる。
【0053】
図15は、フェライト樹脂の一例のロスファクタμ’’の周波数特性を示す。例えばつなぎにポリプロピレンを用いて、フェライトの重量充填率が80%の周波数特性である。図15から分かるように、低い周波数で、ロスファクタのμツーダッシュが約4とすることができる。
【0054】
図16に示すように、上述したUSBコネクタ71の外側を非導電性樹脂94によって覆う構成としてもよい。すなわち、ノイズ対策のチップ部品が3層構造(非導電性樹脂92,導電性樹脂93,非導電性樹脂94)で覆われる構成とされている。3層構造によってより高いシールド性能を実現することができる。
【0055】
<5.変形例>
以上、本開示の実施の形態について具体的に説明したが、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施の形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いても良い。例えば本開示は、USB Type−Cの規格のケーブルまたはコネクタに対しても適用できる。
【0056】
さらに、USBケーブルに限らず、HDMI(登録商標)ケーブル、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers) 1394のケーブル等に対しても適用できる。すなわち、HDMI(登録商標)規格の場合、ビデオとオーディオと各種パケットのデータは、TMDS(Transition Minimized Differential Signaling )と呼ばれる方式で伝送される。TMDSチャンネルとしては、データ用に3チャンネル、クロック用に1チャンネルが用意されている。例えばデータ用およびクロック用のチャンネルの伝送線を金属シートで覆って、磁性粉混合樹脂を充填することによって上述したのと同様の効果を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
21a、21b 31a、31b、32a、32b 信号ケーブル
22 電源ケーブル
23 グラウンドケーブル
26、33、34 金属シート
27 被覆材
28 磁性粉混合樹脂
図1
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