【文献】
Seminars in Oncology,2010年,Vol.37, No.3, Suppl 1,p.S12-S19
【文献】
Therapeutic Advances in Medical Oncology,2009年,Vol.1, No.3,p.123-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乳がんを患う被験体における骨分解を回避および/または防止するための組成物であって、前記組成物は骨分解を回避または防止することが可能な作用物質を含み、前記被験体は、対照試料と比較して増大したc−MAF遺伝子発現レベルを有するとして同定されていることを特徴とする、組成物。
前記骨分解を回避または防止することが可能な作用物質が、ビスホスホネート、RANKLインヒビター、PTH類似体またはPRG類似体、ラネル酸ストロンチウム、エストロゲン受容体モジュレーター、カルシトニン、およびカテプシンKインヒビターからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、当技術分野では、ER−乳がんまたはER+乳がんなどの特定の乳がんを患う患者が転移を患うかどうかの診断および/または予後診断を可能とする遺伝子マーカーが存在せず、したがって、前記がんを患う被験体に適用することが可能な適切な治療も存在しない。したがって、ER+乳がんまたはER−乳がんを患う被験体における転移の存在を診断し、かつ/またはER+乳がんまたはER−乳がんを患う被験体が転移を生じる可能性を予測することを可能とする、新たなマーカーを同定することが必要である。新たな予後診断因子の同定は、最も適切な処置を選択する指針として用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の発明者らは、ER+乳がんが転移、および、特に、骨転移を引き起こす傾向の増大と関連するマーカーとしてのc−MAFを同定および検証した。この過剰発現は、c−MAF遺伝子が位置する16q22−q24遺伝子座の増幅に一部起因する。特に、いかなる理論によって拘束されることも意図しないが、エストロゲン受容体(ER)のシグナル伝達経路は、前記転移を引き起こすのに必要な分子イベントをもたらす乳がんの転移に寄与すると考えられる。
【0020】
ER+乳がんの転移におけるc−MAF遺伝子の役割は、MCF7細胞系(ヒトER+乳がんの細胞系)を免疫不全マウスへと接種し、次いで、前記MCF7細胞の骨転移から得られる細胞系と関連する発現プロファイルを得ることによって、本発明者らにより特徴づけられている。前記発現プロファイルから、および、多様な基準を適用することにより、発現レベルの変化により、示される原発性乳がん腫瘍の骨への再発が予測される、c−MAF遺伝子を選択した。その後、c−MAF発現レベルを、乳がんを有する患者に由来する原発性腫瘍および乳がん患者に由来する転移の発現プロファイルおよび臨床記録を含有する2つの異なるデータベースにおいて研究したところ、c−MAF遺伝子の発現が、観察される再発および転移を含めた、異なる臨床パラメータと正に相関した。加えて、乳がんからの骨転移におけるc−MAF発現レベルを決定したところ、高c−MAFレベルが観察されるのは、ER+腫瘍およびER−腫瘍に由来する転移においてであった。最後に、c−MAF遺伝子を、in vivo転移コロニー形成アッセイにより、続いて、レンチウイルスベクターによる機能獲得実験および干渉RNA(siRNA)を用いることによる機能喪失実験によって個別に検証した。これらの研究は、c−MAFの、予後診断マーカーとしての役割、および乳がんの転移、特に、乳がんの骨転移における標的遺伝子としての役割を示した。同様に、本発明者らは、c−MAF遺伝子を含めた16q22−q24遺伝子座の増幅を、乳がんを有する被験体における転移の存在と関連付け、乳がん細胞系におけるc−MAF遺伝子の増幅を、骨転移を形成する傾向と関連付けた。
【0021】
したがって、第1の態様では、本発明は、ER+乳がんを有する被験体における転移の診断および/またはER+乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断のためのin vitroにおける方法であって、
(i)前記被験体の腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)既に得られた発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
前記遺伝子の発現レベルが、対照試料における前記遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、前記被験体が、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される方法に関する。
【0022】
第2の態様では、本発明は、ER+乳がんを有する被験体のためのカスタマイズ治療をデザインするためのin vitroにおける方法であって、
(i)前記被験体の腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)既に得られた発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
発現レベルが、対照試料における前記遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、前記被験体が、前記転移を防止および/または処置することを目的とする治療を受け入れ易い、方法に関する。
【0023】
第3の態様では、本発明が、骨転移を伴う乳がんを有する被験体のためのカスタマイズ治療をデザインするin vitroにおける方法であって、
(i)前記被験体の骨転移性腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)ステップ(i)で得られた発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
c−MAF遺伝子発現レベルが、対照試料における前記遺伝子の発現レベルに対して増大すれば、前記被験体が、骨分解を防止することを目的とする治療を受け入れ易い、方法に関する。
【0024】
第4の態様では、本発明が、乳がんを有する被験体における転移の診断、および/または乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断のためのin vitroにおける方法であって、c−MAF遺伝子が前記被験体の腫瘍組織試料において増幅されるかどうかを決定するステップを含み、ここで、前記遺伝子が対照試料に対して増幅される場合、前記被験体が、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される方法に関する。
【0025】
第5の態様では、本発明が、乳がんの転移を処置および/または防止するための医薬品の調製におけるc−MAF阻害性作用物質(agente inhibidor)の使用に関する。
【0026】
最後の態様では、本発明が、乳がんを患い、転移性腫瘍組織試料におけるc−MAFレベルが対照試料に対して上昇している被験体における骨転移を処置するための医薬品の調製における、骨分解を回避または防止することが可能な作用物質の使用に関する。
本発明の好ましい実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
ER+乳がんを有する被験体における転移の診断のための、および/またはER+乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断のためのin vitroにおける方法であって、
(i)該被験体の腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)既に得られた該発現レベルを、対照試料における該遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
ここで、該遺伝子の発現レベルが、該対照試料における該遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、該被験体が、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される方法。
(項目2)
ER+乳がんを有する被験体に対するカスタマイズ治療をデザインするためのin vitroにおける方法であって、
(i)該被験体の腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)既に得られた該発現レベルを、対照試料における該遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
ここで、該発現レベルが、該対照試料における該遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、該被験体が、転移を防止および/または処置することを目的とする治療を受け入れ易い、方法。
(項目3)
前記転移が骨転移である、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記骨転移が骨溶解性転移である、項目3に記載の方法。
(項目5)
骨転移を伴う乳がんを有する被験体に対するカスタマイズ治療をデザインするためのin vitroにおける方法であって、
(i)該被験体の骨転移性腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)ステップ(i)で得られた該発現レベルを、対照試料における該遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
該c−MAF遺伝子発現レベルが、該対照試料における該遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、該被験体が、骨分解を防止することを目的とする治療を受け入れ易い、方法。
(項目6)
前記骨分解を防止する作用物質が、ビスホスホネート、RANKLインヒビター、PTH類似体またはPRG類似体、ラネル酸ストロンチウム、エストロゲン受容体モジュレーター、カルシトニン、およびカテプシンKインヒビターからなる群から選択される、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記RANKLインヒビターが、RANKL特異的抗体およびオステオプロテゲリンからなる群から選択される、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記RANKL特異的抗体がデノスマブである、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記ビスホスホネートがゾレドロン酸である、項目6に記載の方法。
(項目10)
前記乳がんがER+またはER−である、項目5から9のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記c−MAF遺伝子発現レベルの定量化が、該遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)、または該mRNAの断片、該遺伝子の相補性DNA(cDNA)、または該cDNAの断片を定量化するステップを含む、項目1から10のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記発現レベルを、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはDNAアレイもしくはRNAアレイにより定量化する、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記c−MAF遺伝子発現レベルの定量化が、前記遺伝子によりコードされるタンパク質またはその変異体のレベルを定量化するステップを含む、項目1から10のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記タンパク質のレベルを、ウェスタンブロット、ELISA、またはタンパク質アレイにより定量化する、項目13に記載の方法。
(項目15)
乳がんを有する被験体における転移の診断のための、および/または乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断のためのin vitroにおける方法であって、c−MAF遺伝子が該被験体の腫瘍組織試料において増幅されるかどうかを決定するステップを含み、ここで、該遺伝子が増幅される場合、該被験体が、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される方法。
(項目16)
前記乳がんがER+またはER−である、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記c−MAF遺伝子の増幅を、遺伝子座16q22−q24の増幅を決定することによって決定する、項目15または16に記載の方法。
(項目18)
前記c−MAF遺伝子の増幅を、c−MAF遺伝子特異的プローブを用いることによって決定する、項目15または16に記載の方法。
(項目19)
対照試料が、転移を患っていない被験体に由来する乳がんの腫瘍組織試料である、項目15から18のいずれかに記載の方法。
(項目20)
前記増幅を、in situハイブリダイゼーションまたはPCRによって決定する、項目15から19のいずれかに記載の方法。
(項目21)
前記転移が骨転移である、項目15から20のいずれかに記載の方法。
(項目22)
前記骨転移が骨溶解性転移である、項目21に記載の方法。
(項目23)
乳がんからの骨転移を処置および/または防止するための医薬品の調製におけるc−MAF阻害性作用物質の使用。
(項目24)
前記乳がんがER+またはER−である、項目23に記載の使用。
(項目25)
前記c−MAF阻害性作用物質が、c−MAF特異的siRNA、c−MAF特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド、c−MAF特異的リボザイム、c−MAF阻害性抗体、ドミナントネガティブc−MAF変異体、および表1または表2の化合物からなる群から選択される、項目23または24に記載の使用。
(項目26)
乳がんを患い、転移性腫瘍組織試料におけるc−MAFレベルが対照試料に対して上昇している被験体における骨転移を処置するための医薬品の調製における、骨分解を回避または防止することが可能な作用物質の使用。
(項目27)
前記骨分解を回避または防止することが可能な作用物質が、ビスホスホネート、RANKLインヒビター、PTH類似体またはPRG類似体、ラネル酸ストロンチウム、エストロゲン受容体モジュレーター、カルシトニン、およびカテプシンKインヒビターからなる群から選択される、項目26に記載の使用。
(項目28)
前記RANKLインヒビターが、RANKL特異的抗体およびオステオプロテゲリンの群から選択される、項目27に記載の使用。
(項目29)
前記RANKL特異的抗体がデノスマブである、項目28に記載の使用。
(項目30)
前記ビスホスホネートがゾレドロン酸である、項目27に記載の使用。
(項目31)
前記乳がんがER+またはER−である、項目26から30のいずれかに記載の使用。
(項目32)
前記骨転移が骨溶解性転移である、項目26から31のいずれかに記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0028】
c−MAF発現レベルに基づいて乳がんの転移を診断および予後診断するための方法
本発明者らは、c−MAF遺伝子が、乳がんの転移、特に、ER+腫瘍において過剰発現し、原発性腫瘍におけるc−MAF発現レベルが、乳がんの異なる臨床パラメータ、特に、再発および転移の確率と相関することを示した。したがって、本発明の例において認められる通り(実施例2を参照されたい)、c−MAFの過剰発現は、ER+乳房腫瘍の骨における転移の発症と相関する(
図1を参照されたい)。したがって、c−MAFは、ER+乳がんを有する被験体における転移の診断および/または予後診断のためのマーカーとして用いることができる。
【0029】
したがって、一態様では、本発明は、ER+乳がんを有する被験体における転移の診断および/またはER+乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断のためのin vitroにおける方法(以下では、本発明の第1の方法)であって、
(i)前記被験体に由来する腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)既に得られた発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
前記遺伝子の発現レベルが、対照試料における前記遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、前記被験体が転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される、方法に関する。
【0030】
c−MAF遺伝子(また、MAFまたはMGC71685としても公知である、筋腱膜線維肉腫のがん遺伝子であるv−maf(トリ)の相同体遺伝子)とは、ホモ二量体様またはヘテロ二量体様に作用するロイシンジッパーを含有する転写因子である。DNA結合部位に応じて、コードされるタンパク質は、転写アクチベーターの場合もあり、転写リプレッサーの場合もある。c−MAFをコードするDNA配列は、受託番号NG_016440(配列番号1)の下、NCBIデータベースに記載されている。前記DNA配列からは2つのメッセンジャーRNAが転写され、それらの各々が、αアイソフォームおよびβアイソフォームの2つのc−MAFタンパク質アイソフォームのうちの1つをもたらす。前記アイソフォームの各々に対する相補性DNA配列はそれぞれ、受託番号NM_005360.4(配列番号2)および同NM_001031804.2(配列番号3)の下、NCBIデータベースに記載されている。
【0031】
本発明の文脈では、「転移」が、それが発生した器官から種々の器官へのがんの増殖として理解される。転移は一般に、血液系またはリンパ系を介して生じる。がん細胞が拡大し、新たな腫瘍を形成する場合、後者を続発性腫瘍または転移性腫瘍と称する。続発性腫瘍を形成するがん細胞は、元の腫瘍のがん細胞に類似している。乳がんが、例えば、肺へと拡大する(転移する)場合、続発性腫瘍は、悪性乳がん細胞から形成される。この肺における疾患は、転移性乳がんであり、肺がんではない。本発明の方法の特定の実施形態では、転移は、骨へと拡大した(転移した)ER+乳がんである。
【0032】
本発明では、「ER+乳がん」を、その腫瘍細胞がエストロゲン受容体(ER)を発現する乳がんとして理解する。これにより前記腫瘍がエストロゲンに感受性となり、このことは、エストロゲンががん性の乳房腫瘍を増殖させることを意味する。これに対し、「ER−乳がん」は、その腫瘍細胞がエストロゲン受容体(ER)を発現しない乳がんとして理解する。
【0033】
本発明では、「乳がんを有する被験体における転移の診断」を、疾患(転移)を、その徴候を研究することによって、すなわち、本発明の文脈では、乳がん腫瘍組織におけるc−MAF遺伝子発現レベルの、対照試料に対する増大(すなわち、過剰発現)によって同定することとして理解する。
【0034】
本発明では、「ER+乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断」を、前記被験体が有するER+乳がんが将来において転移するかどうかを徴候に基づいて知ることとして理解する。本発明の文脈では、その徴候は、c−MAF遺伝子の腫瘍組織における過剰発現である。
【0035】
本発明の方法は、第1のステップにおいて、被験体に由来する腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化することを含む。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明の第1の方法は、単一のマーカーとしてのc−MAF遺伝子発現レベルだけを定量化するステップを含む、すなわち、この方法は、任意のさらなるマーカーの発現レベルを決定するステップを包含しない。
【0037】
本明細書で用いられる「被験体」または「患者」という用語は、哺乳動物として分類される全ての動物を指し、これらには、家畜動物および農場動物、霊長動物およびヒト、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、または齧歯動物が含まれるがこれらに限定されない。被験体は、年齢または人種が任意であるヒトの男性または女性であることが好ましい。
【0038】
本発明では、「腫瘍組織試料」を、原発性ER+乳がん腫瘍に由来する組織試料として理解する。前記試料は、関連する医療技術分野における当業者に周知の方法を用いる従来の方法、例えば、生検によって得ることができる。生検試料を得るための方法には、腫瘍の大型断片への分断、または顕微解剖、または当技術分野で公知の他の細胞分離法が含まれる。加えて、腫瘍細胞は、小ゲージの針を用いる吸引を介する細胞診によって得ることができる。試料の保存および操作を簡単にするため、試料をホルマリン中で固定し、パラフィン中に浸すこともでき、あるいは、まず凍結し、次いで、急速な凍結を可能とする極低温媒体中の浸漬により、OCT化合物などの組織凍結媒体に浸すこともできる。
【0039】
当業者に理解される通り、遺伝子発現レベルは、前記遺伝子のメッセンジャーRNAレベルまたは前記遺伝子によりコードされるタンパク質レベルを測定することにより定量化することができる。
【0040】
この目的のために、生物学的試料を処理して、組織構造または細胞構造を物理的または機械的に破壊し、細胞内成分を水溶液または有機溶液へと放出し、核酸を調製することができる。その核酸は、当業者に公知である商業的に入手可能な方法によって抽出する(Sambroock, J.ら、「Molecular cloning: a Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、N.Y.、1〜3巻)。
【0041】
したがって、c−MAF遺伝子発現レベルは、前記遺伝子の転写から結果として生じるRNA(メッセンジャーRNAまたはmRNA)から定量化することもでき、代替的に、前記遺伝子の相補性DNA(cDNA)から定量化することもできる。したがって、本発明の特定の実施形態では、c−MAF遺伝子発現レベルの定量化は、c−MAF遺伝子のメッセンジャーRNAもしくは前記mRNAの断片、c−MAF遺伝子の相補性DNAもしくは前記cDNAの断片、またはこれらの混合物の定量化を含む。
【0042】
c−MAF遺伝子またはそれらの対応するcDNAによりコードされるmRNAレベルを検出および定量化するために、本発明の範囲内にある、事実上任意の従来の方法を用いることができる。非限定的な例示を目的として述べると、前記遺伝子によりコードされるmRNAレベルは、従来の方法、例えば、電気泳動および染色など、mRNAの増幅および前記mRNAの増幅産物の定量化を含む方法を用いて定量化することもでき、あるいは、代替的に、サザンブロットおよび適切なプローブを用いることによって、ノーザンブロットおよび目的の遺伝子(c−MAF)のmRNAに特異的なプローブまたはそれらの対応するcDNAに特異的なプローブを用いることによって、S1ヌクレアーゼ用いるマッピングによって、RT−PCRによって、ハイブリダイゼーションによって、マイクロアレイなどによって、好ましくは適切なマーカーを用いるリアルタイム定量的PCRによって、定量化することもできる。同様に、c−MAF遺伝子によりコードされる前記mRNAに対応するcDNAレベルはまた、従来の技法を用いることにより定量化することもできるが、この場合、本発明の方法は、対応するmRNAの逆転写(RT)により対応するcDNAを合成した後に、前記cDNAの増幅産物を増幅および定量化するステップを包含する。発現レベルを定量化するための従来の方法は、例えば、Sambrookら、2001年(上記で引用した)において見出すことができる。
【0043】
特定の実施形態では、c−MAF遺伝子発現レベルを、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはDNAアレイもしくはRNAアレイによって定量化する。
【0044】
加えて、c−MAF遺伝子発現レベルはまた、前記遺伝子によりコードされるタンパク質、すなわち、c−MAFタンパク質(c−MAF)[NCBI、受託番号:O75444]またはc−MAFタンパク質の機能的に同等な任意の変異体の発現レベルを定量化することによって定量化することもできる。2つのc−MAFタンパク質アイソフォームである、403アミノ酸からなるαアイソフォーム(NCBI、NP_005351.2)(配列番号4)および373アミノ酸からなるβアイソフォーム(NP_001026974.1)(配列番号5)が存在する。c−MAF遺伝子発現レベルは、c−MAFタンパク質アイソフォームのうちの任意の発現レベルを定量化することによっても定量化することができる。したがって、特定の実施形態では、c−MAF遺伝子によりコードされるタンパク質レベルの定量化は、c−MAFタンパク質の定量化を含む。
【0045】
本発明の文脈では、「c−MAFタンパク質の機能的に同等な変異体」を、(i)アミノ酸残基のうちの1または複数が、保存的アミノ酸残基もしくは非保存的アミノ酸残基(保存的アミノ酸残基であることが好ましい)で置換されており、ここで、このような置換されたアミノ酸残基が、遺伝子コードによりコードされるアミノ酸残基の場合もあり、そうでない場合もある、c−MAFタンパク質の変異体(配列番号4または配列番号5)、または(ii)1もしくは複数のアミノ酸の挿入もしくは欠失を含み、c−MAFタンパク質と同じ機能、すなわち、DNA結合性転写因子として作用する機能を有する変異体として理解する。c−MAFタンパク質の変異体は、国際特許出願WO2005/046731において示されている通り、c−MAFがin vitroにおける細胞増殖を促進する能力に基づく方法を用いて同定することもでき、WO2008098351において記載されている通り、サイクリンD2プロモーターもしくはc−MAFを発現する細胞において、c−MAF応答性領域(MAREまたはc−MAF応答性エレメント)を含有するプロモーターの制御下で、いわゆるインヒビターがレポーター遺伝子の転写能を遮断する能力に基づく方法を用いて同定することもでき、あるいは、US2009048117Aにおいて記載されている通り、NFATc2およびc−MAFを発現する細胞において、PMA/イオノマイシンによる刺激に応答するIL−4プロモーターの制御下、いわゆるインヒビターがレポーター遺伝子の発現を遮断する能力に基づく方法を用いて同定することもできる。
【0046】
本発明による変異体は、c−MAFタンパク質アイソフォーム(配列番号4または配列番号5)のうちのいずれかのアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列類似性を有することが好ましい。上記変異体と既に規定した特定のc−MAFタンパク質配列との間の類似度は、当業者に広く公知のアルゴリズムおよびコンピュータ処理を用いて決定する。2つのアミノ酸配列の間の類似性は、BLASTPアルゴリズム[「BLAST Manual」、Altschul, S.ら、NCBI NLM NIH Bethesda、Md.20894;Altschul, S.ら、J. Mol. Biol.、215巻:403〜410頁(1990年)]を用いて決定することが好ましい。
【0047】
c−MAFタンパク質の発現レベルは、被験体に由来する試料における前記タンパク質を検出および定量化することを可能とする任意の従来の方法によって定量化することができる。非限定的な例示を目的として述べると、前記タンパク質レベルは、例えば、c−MAF結合能を有する抗体(または抗原決定基を含有するそれらの断片)およびその後に形成される複合体の定量化を用いることにより定量化することができる。これらのアッセイにおいて用いられる抗体は、標識することもでき、標識せずにおくこともできる。用いうるマーカーの例示的な例としては、放射性同位元素、酵素、フルオロフォア、化学発光試薬、酵素基質または共因子、酵素インヒビター、粒子、色素などが挙げられる。本発明において用いうる公知のアッセイであって、標識されていない抗体(一次抗体)および標識された抗体(二次抗体)を用いるアッセイは広範にわたり、これらの技法には、ウェスタンブロットまたはウェスタン転写、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、競合的EIA(競合的酵素イムノアッセイ)、DAS−ELISA(二重抗体サンドウィッチELISA)、免疫細胞化学法および免疫組織化学法、特異的抗体を包含するタンパク質マイクロアレイもしくはバイオチップの使用に基づく技法、またはディップスティックなどのフォーマットにおけるコロイド沈殿に基づくアッセイが挙げられる。前記c−MAFタンパク質を検出および定量化するための他の方法には、アフィニティークロマトグラフィー法、リガンド結合アッセイなどが挙げられる。免疫学的方法を用いる場合は、c−MAFタンパク質に高アフィニティーで結合することが公知である任意の抗体または試薬を、それらの量を検出するために用いることができる。にもかかわらず、抗体、例えば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマの上清またはモノクローナル抗体、抗体断片、Fv、Fab、Fab’、およびF(ab’)2、scFv、ヒト化ダイアボディー、トリアボディー、テトラボディーおよび複数の抗体の使用。例えば、ab427抗体、ab55502抗体、ab55502抗体、ab72584抗体、ab76817抗体、ab77071抗体(Abcam plc、330 Science Park、Cambridge CB4 0FL、英国)、AbD Serotec製のO75444モノクローナル抗体(マウス抗ヒトMAFアジド非含有モノクローナル抗体、非コンジュゲート型、クローン6b8)などのような、本発明の文脈で用いうる抗c−MAFタンパク質抗体が入手可能な。Abnova Corporation、Bethyl Laboratories、Bioworld Technology、GeneTexなど多くの商業的企業が抗c−MAF抗体を提供している。
【0048】
特定の実施形態では、c−MAFタンパク質レベルを、ウェスタンブロット、ELISA、またはタンパク質アレイによって定量化する。
【0049】
本発明の第1の方法は、第2のステップにおいて、被験体に由来する腫瘍試料から得られるc−MAF遺伝子発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較することを含む。
【0050】
ER+乳がんを有する被験体に由来する腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを測定し、対照試料と比較して、前記遺伝子の発現レベルが、対照試料におけるその発現レベルに対して増大する場合、前記被験体が、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断されることを結論づけることができる。
【0051】
c−MAF遺伝子発現レベルの決定は、対照試料または基準試料の値と相関しなければならない。解析される腫瘍の種類に応じて、対照試料の正確な性質は変化しうる。したがって、万一、診断を評価する場合は、基準試料は、転移していないER+乳がんを有する被験体に由来する腫瘍組織試料か、または転移していないER+乳がんを有する被験体に由来する生検試料の腫瘍組織コレクションにおいて測定されるc−MAF遺伝子発現レベルの中央値に対応する腫瘍組織試料である。
【0052】
前記基準試料は典型的に、被験体集団に由来する等量の試料を組み合わせることにより得られる。一般に、典型的な基準試料は、臨床的に十分記録されており、転移の非存在が十分に特徴づけられている被験体から得られる。このような試料では、バイオマーカー(c−MAF遺伝子)の通常濃度(基準濃度)を、例えば、基準集団にわたる平均濃度を示すことにより決定することができる。上記マーカーの基準濃度を決定する場合は、多様な検討項目を考慮に入れる。このような検討項目には、患者の年齢、体重、性別、全身状態などがある。例えば、好ましくは前出の検討項目により、例えば、多様な年齢区分により分類した、被験体を少なくとも2例、少なくとも10例、少なくとも100例〜好ましくは1000例超とする総計が等しい群を基準群として選択する。そこから基準レベルを導出する試料コレクションは、研究の患者対象と同じ種類のがんを患う被験体により構成されることが好ましい。
【0053】
この中央値を確立したら、患者に由来する腫瘍組織において発現したこのマーカーのレベルを、この中央値と比較し、これにより、発現レベルの「増大」に割り当てることができる。被験体間のばらつき(例えば、年齢、人種などに言及する側面)に起因して、c−MAF発現の絶対基準値を確立することは極めて困難である(事実上不可能というわけではないにせよ)。したがって、特定の実施形態では、c−MAF発現の「増大」または「低減」についての基準値を、その疾患が、上述した方法のうちのいずれかによって、c−MAF発現レベルについて十分に記録されている被験体から単離された1または複数の試料においてアッセイを実施することを包含する、従来の手段による百分位数を計算することにより決定する。よって、c−MAFレベルの「低減」は、例えば、発現レベルが正常集団における第六十分位数以下、正常集団における第七十分位数以下、正常集団における第八十分位数以下、正常集団における第九十分位数以下、および正常集団における第九十五分位数以下を含めた、c−MAF発現レベルが正常集団における第五十分位数以下である試料に割り当てうることが好ましい。よって、c−MAF遺伝子発現レベルの「増大」は、例えば、発現レベルが正常集団における第六十分位数以上、正常集団における第七十分位数以上、正常集団における第八十分位数以上、正常集団における第九十分位数以上、および正常集団における第九十五分位数以上を含めた、c−MAF遺伝子発現レベルが正常集団における第五十分位数以上である試料に割り当てうることが好ましい。
【0054】
本発明では、「発現レベルの増大」を、それが基準試料または対照試料におけるc−MAF遺伝子のレベルより大きいc−MAF遺伝子のレベルを指す場合の発現レベルとして理解する。特に、試料は、上記基準試料における発現レベルが、上記患者から単離された試料に関して、少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、またはさらに大きい場合に、c−MAF発現レベルが高いと考えることができる。
【0055】
本発明の文脈では、前記被験体が患うER+乳がんが、体の他の器官へと転移した場合、特定の実施形態では骨へと転移した場合に、「被験体が転移について陽性と診断される」ことが理解される。
【0056】
さらにより好ましい実施形態では、骨への転移は、骨溶解性骨転移である。本明細書で用いられる「骨溶解性骨転移」という表現は、骨吸収(漸進的な骨密度の喪失)が、腫瘍細胞による破骨細胞活性の刺激から結果として生じる、転移の近傍でもたらされる種類の転移を指し、重度の疼痛、病理学的骨折、高カルシウム血症、脊髄圧迫、および神経圧迫から結果として生じる他の症候群を特徴とする。
【0057】
他方、本発明では、被験体が患うER+乳がんが将来において転移する確率が高い場合に、「被験体が転移を生じる傾向を増大させている」ことが理解される。
【0058】
当業者においては、原発性乳房腫瘍が転移する傾向の予測が、同定される全ての被験体について(すなわち、被験体の100%について)正確であることを意図しないことを理解する。にもかかわらず、この用語は、被験体のうちの統計学的に有意な部分(例えば、コホート研究におけるコホート)の同定を可能とすることを必要とする。ある部分が統計学的に有意であるかどうかは、当業者が、周知の多様な統計学的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのT検定、マン−ホイットニー検定などを用いて単純な方法で決定することができる。詳細は、DowdyおよびWearden、「Statistics for Research」、John Wiley and Sons、New York、1983年において示されている。信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であることが好ましい。p値は、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001であることが好ましい。集団の被験体のうちの少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%を、本発明の方法によって適切に同定しうることがより好ましい。
【0059】
ER+乳房腫瘍を有する患者における本発明のカスタマイズ治療をデザインするための方法
当技術分野で公知の通り、がんを患う被験体に投与される処置は、このがんが悪性腫瘍であるかどうか、すなわち、このがんが転移する確率がが高いかどうか、またはこのがんが良性腫瘍であるかどうかに依存する。第1の仮定では、選り抜きの処置は、化学療法などの全身処置であり、第2の仮定では、選り抜きの処置は、放射線療法などの局部処置である。
【0060】
したがって、本明細書で記載される通り、乳がん細胞におけるc−MAF遺伝子の過剰発現が転移の存在と関連することを踏まえると、c−MAF遺伝子発現レベルにより、前記がんを患う被験体に最も適切な治療に関して決定を下すことが可能となる。
【0061】
したがって、別の態様では、本発明は、ER+乳がんを有する被験体のためのカスタマイズ治療をデザインするin vitroにおける方法(以下では、本発明の第2の方法という)であって、
(i)前記被験体の腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)既に得られた発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較するステップと
を含み、
ここで、発現レベルが、対照試料における前記遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、前記被験体が、転移を防止および/または処置することを目的とする治療を受け入れ易い、方法に関する。
【0062】
特定の実施形態では、転移は骨転移である。より好ましい実施形態では、骨転移は骨溶解性転移である。
【0063】
「被験体」、「ER+乳がん」、「腫瘍組織試料」、「転移」、「発現レベルの決定」、「c−MAF遺伝子」、「発現レベルの増大」、および「対照試料」という用語および表現は、本発明の第1の方法との関連で詳細に記載されており、本発明の第2の方法および第3の方法にも同様に適用可能である。
【0064】
本発明の第2の方法は、第1のステップにおいて、ER+乳がんを患う被験体における腫瘍組織試料のc−MAF遺伝子発現レベルを定量化することを含む。
【0065】
好ましい実施形態では、本発明の第2の方法は、単一のマーカーとしてのc−MAF遺伝子発現レベルだけを定量化するステップを含む、すなわち、この方法は、任意のさらなるマーカーの発現レベルを決定するステップを含まない。
【0066】
本発明の第2の方法の場合、試料は、被験体の原発性腫瘍組織試料である。第2のステップでは、被験体の腫瘍試料において得られるc−MAF遺伝子発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較する。c−MAF遺伝子発現レベルの決定は、対照試料または基準試料の値と関連付けなければならない。解析される腫瘍の種類に応じて、対照試料の正確な性質は変化しうる。したがって、基準試料は、転移していないER+乳がんを有する被験体に由来する腫瘍組織試料か、または転移していないER+乳がんを有する被験体の生検試料の腫瘍組織コレクションにおいて測定されるc−MAF遺伝子発現レベルの中央値に対応する腫瘍組織試料であることが好ましい。
【0067】
試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを測定し、対照試料と比較して、前記遺伝子の発現レベルが、対照試料におけるそれらの発現レベルに対して増大したら、前記被験体が、転移を防止(被験体においていまだ転移がおきていない場合)および/または処置(被験体において既に転移がおきている場合)することを目的とする治療を受け入れ易い、と結論づけることができる。
【0068】
上記がんが転移した場合は、化学療法、ホルモン処置、免疫療法、またはこれらの組合せが含まれるがこれらに限定されない全身処置を用いる。加えて、放射線療法および/または手術も用いることができる。処置の選択は一般に、原発性がんの種類、サイズ、転移の場所、患者の年齢、全身状態、および既に用いられた処置の種類に依存する。
【0069】
全身処置とは、体内全体に到達する処置である。
【0070】
・化学療法とは、がん細胞を破壊する薬物の使用である。その薬物は一般に、経口経路または静脈内経路を介して投与する。化学療法は、放射線照射処置と併せて用いる場合もある。
【0071】
・ホルモン療法は、一部のホルモンが、一部のがん増殖を促進するという事実に基づく。例えば、卵巣が生成する、女性におけるエストロゲンは、乳がんの増殖を促進する場合がある。これらのホルモンの生成を停止させるための複数の方法が存在する。1つの方法は、それらを生成させる器官:女性の場合における卵巣、男性の場合における精巣を除去することである。より頻繁には、これらの器官がホルモンを産生することを防止するか、またはホルモンががん細胞に作用することを防止する薬物を用いることができる。
【0072】
・免疫療法とは、患者の免疫系自体ががんと闘うことの一助となる処置である。転移患者を処置するための、複数種類の免疫療法が用いられている。これらには、サイトカイン、モノクローナル抗体、および抗腫瘍ワクチンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0073】
骨転移を有する乳がん患者における本発明のカスタマイズ治療をデザインするための方法
本発明の発明者らは、骨転移を引き起こす能力が高く、c−MAFを過剰発現する、原発性乳房腫瘍から得られた細胞系の順化培地が、c−MAFを過剰発現させない細胞よりも、より高い程度で破骨細胞の形成を誘導できることを明確に示した。したがって、既に骨へと転移しており、c−MAFレベルの上昇が認められる、ER−乳がんを患う患者は特に、破骨活性の増大により引き起こされる骨分解を防止することを目的とする治療から利益を得ることができる。
【0074】
したがって、別の態様では、本発明は、骨転移を伴うER−乳がんを有する被験体のためのカスタマイズ治療をデザインするin vitroにおける方法(以下では、本発明の第3の方法という)であって、
(i)前記被験体の骨に由来する転移性腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを定量化するステップと、
(ii)既に得られた発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較するステップとを含み、
ここで、上記遺伝子発現レベルが、対照試料における前記遺伝子の発現レベルに対して増大する場合、前記被験体が、骨分解を防止することを目的とする治療を受け入れ易い、方法に関する。
【0075】
「被験体」、「ER+乳がん」、「腫瘍組織試料」、「転移」、「発現レベルの決定」、「c−MAF遺伝子」、「発現レベルの増大」、および「対照試料」という用語および表現は、本発明の第1の方法との関連で詳細に記載されており、本発明の第2の方法および第3の方法にも同様に適用可能である。
【0076】
好ましい実施形態では、骨転移は骨溶解性転移である。
【0077】
本発明の第3の方法は、第1のステップにおいて、乳がんを患う被験体における腫瘍組織試料のc−MAF遺伝子発現レベルを定量化することを含む。本発明の第3の方法の場合、試料は、骨転移に由来する組織試料である。
【0078】
好ましい実施形態では、本発明の第3の方法は、単一のマーカーとしてのc−MAF遺伝子発現レベルだけを定量化するステップを含み、すなわち、この方法は、任意のさらなるマーカーの発現レベルを決定するステップを含まない。
【0079】
第2のステップでは、被験体の腫瘍試料において得られるc−MAF遺伝子発現レベルを、対照試料における前記遺伝子の発現レベルと比較する。c−MAF遺伝子発現レベルの決定は、対照試料または基準試料の値と関連付けなければならない。解析される腫瘍の種類に応じて、対照試料の正確な性質は変化しうる。したがって、本発明の第3の方法を伴う場合には、基準試料は、転移を患っていない、乳がんを有する被験体の腫瘍組織試料であるか、または転移を患っていない、乳がんを有する被験体の生検試料の腫瘍組織コレクションにおいて測定されるc−MAF遺伝子発現レベルの中央値に対応する腫瘍組織試料である。
【0080】
試料におけるc−MAF遺伝子発現レベルを測定し、対照試料と比較して、前記遺伝子の発現レベルが、対照試料におけるその発現レベルに対して増大したら、前記被験体が、骨分解を回避または防止することを目的とする治療を受け入れ易い、と結論づけることができる。
【0081】
本明細書で用いられる「骨分解を回避または防止するための作用物質(agente)」とは、骨芽細胞の増殖を刺激するかまたは破骨細胞の増殖を阻害することのいずれかにより、骨分解を処置するかまたはこれを停止させることが可能な任意の分子を指す。骨分解を回避および/または防止するのに用いられる作用物質の例示的な例には、以下が挙げられるがこれらに限定されない。
【0082】
・副甲状腺ホルモン(PTH)またはその組換え形態(PTHのアミノ酸1〜34に対応するテリパラチド(teriparatida))。このホルモンは、骨芽細胞を刺激し、それらの活性を増大させることにより作用する。
【0083】
・ラネル酸ストロンチウム:これは、代替的な経口処置であり、それらが骨芽細胞の増殖を刺激し、かつ、破骨細胞の増殖を阻害するために、「二重作用型骨作用物質」(DABA)と称する薬物群の一部をなす。
【0084】
・「エストロゲン受容体モジュレーター」(SERM)とは、その機構に関わらず、エストロゲンのその受容体への結合に干渉するかまたはこれを阻害する化合物を指す。エストロゲン受容体モジュレーターの例には、とりわけ、エストロゲン、プロゲステロン(progestageno)、エストラジオール、ドロロキシフェン、ラロキシフェン、ラソフォキシフェン、TSE−424、タモキシフェン、イドキシフェン、LY353381、LY117081、トレミフェン、フルヴェストラント、4−[7−(2,2−ジメチル−1−オキソプロポキシ−4−メチル−2−[4−[2−(1−ピペリジニル)エトキシ]フェニル]−2H−1−ベンゾピラン−3−イル]−フェニル−2,2−ジメチルプロパノエート 4,4’ジヒドロキシベンゾフェノン−2,4−ジニトロフェニル−ヒドラゾン、およびSH646が含まれる。
【0085】
・カルシトニン:カルシトニン受容体を介して破骨細胞活性を直接阻害する。カルシトニン受容体は、破骨細胞の表面において同定されている。
【0086】
・ビスホスホネート:骨粗鬆症など骨吸収および骨再吸収を伴う疾患、ならびに骨転移を伴うがんの防止および処置に用いられる医薬品群であり、後者は、高カルシウム血症を伴う場合もあり、伴わない場合もあり、乳がんおよび前立腺がんと関連する。本発明の第3の方法によりデザインされる治療で用いうるビスホスホネートの例には、窒素性ビスホスホネート(例えば、パミドロネート、ネリドロネート、オルパドロネート、アレンドロネート、イバンドロネート、リセドロネート、インカドロネート、ゾレドロネートまたはゾレドロン酸など)および非窒素性ビスホスホネート(例えば、エチドロネート、クロドロネート、チルドロネートなど)が含まれるがこれらに限定されない。
【0087】
・「カテプシンKインヒビター」とは、カテプシンKシステインプロテアーゼ活性に干渉する化合物を指す。カテプシンKインヒビターの非限定的な例には、4−アミノ−ピリミジン−2−カルボニトリル誘導体(Novartis Pharma GMBHの名義下にある国際特許出願WO03/020278において記載されている)、特許公開WO03/020721(Novartis Pharma GMBH)および特許公開WO04/000843(ASTRAZENECA AB)において記載されているピロロ−ピリミジン類のほか、Axys Pharmaceuticalsによる特許公開PCT WO00/55126、Merck Frosst Canada & Co.およびAxys Pharmaceuticalsによる同WO01/49288において記載されているインヒビターが含まれる。
【0088】
・本明細書で用いられる「RANKLインヒビター」とは、RANK活性を低減することが可能な任意の化合物を指す。RANKLは、骨芽細胞膜の表面、間質細胞の表面およびTリンパ球細胞の表面において見出されるが、これらのTリンパ球細胞は、RANKLを分泌する能力を示したTリンパ球細胞だけである。その主要な機能は、骨吸収に関与する細胞である、破骨細胞の活性化である。RANKLインヒビターは、RANKLのその受容体(RANK)への結合を遮断することにより作用する場合もあり、RANK介在型シグナル伝達を遮断することにより作用する場合もあり、RANKLの転写または翻訳を遮断することによりRANKLの発現を低減することにより作用する場合もある。限定なしに述べると、本発明で用いるのに適するRANKLアンタゴニストまたはRANKLインヒビターには、以下が含まれる。
【0089】
○適切なRANKタンパク質であって、RANKLに結合することが可能であり、RANKタンパク質の細胞外ドメインの全体または断片を含むRANKタンパク質。可溶性RANKは、シグナルペプチドおよびマウスRANKポリペプチドまたはヒトRANKポリペプチドの細胞外ドメインを含む場合もあり、または、代替的に、上記シグナルペプチドを除去した上記タンパク質の成熟形態を用いることもできる。
【0090】
○RANKL結合能を伴うオステオプロテゲリンまたはその変異体。
【0091】
○RANKL特異的なアンチセンス分子
○RANKLの転写産物をプロセシングすることが可能なリボザイム
○特異的な抗RANKL抗体。本明細書では、「抗RANKL抗体またはRANKLに対して向けられた抗体」を、核因子κB活性化受容体リガンド(RANKL)に特異的に結合し、1または複数のRANKL機能を阻害することが可能な全ての抗体と理解する。これらの抗体は、当業者に公知の方法のうちのいずれかを用いて調製することができる。こうして、ポリクローナル抗体は、動物を、阻害されるタンパク質で免疫することによって調製する。モノクローナル抗体は、Kohler、Milsteinら(Nature、1975年、256巻:495頁)により記載されている方法を用いて調製する。本発明の文脈で適切な抗体には、抗原結合可変領域および定常領域を含むインタクトな抗体、「Fab」断片、「F(ab’)2」断片および「Fab’」断片、Fv断片、scFv断片、ダイアボディー、ならびに二重特異性抗体が含まれる。
【0092】
好ましい実施形態では、抗RANKL抗体は、モノクローナル抗体である。さらにより好ましい実施形態では、抗RANKL抗体はデノスマブである(Pageau、Steven C.(2009年)、mAbs、1巻(3号):210〜215頁、CAS番号:615258−40−7)。本発明の文脈において、デノスマブとは、RANKLに結合し、その活性化を防止するモノクローナル抗体である(デノスマブは、RANK受容体には結合しない)。
【0093】
好ましい実施形態では、骨分解を防止する作用物質(agente)はビスホスホネートである。さらにより好ましい実施形態では、ビスホスホネートはゾレドロン酸である。
【0094】
代替的に、上述した作用物質からの複数の作用物質を組み合わせて転移を処置および/または防止するか、あるいは前記作用物質をカルシウムもしくはビタミンDなどの他の補充物質、またはホルモン処置と組み合わせる、組合せ処置を実施することもできる。
【0095】
c−MAF遺伝子の増幅を検出することに基づく、乳がんにおける転移の診断法または予後診断法
本発明の発明者らは、転移能が高いER+乳房腫瘍から得られるどの細胞系が、c−MAF遺伝子に対応する遺伝子座を包含する16q22−q24遺伝子座の増幅、およびc−MAF遺伝子の増幅を示すかを同定した。
【0096】
したがって、一態様では、本発明は、乳がんを有する被験体における転移の診断(以下では、本発明の第4の診断法という)および/または乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断のためのin vitroにおける方法であって、c−MAF遺伝子が前記被験体の腫瘍組織試料において増幅されるかどうかを決定するステップを含み、ここで、前記遺伝子が対照試料に対して増幅される場合、前記被験体が、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される方法に関する。
【0097】
特定の実施形態では、本発明の第4の方法において診断される乳がんは、ER+またはER−乳がんである。
【0098】
「c−MAF遺伝子」、「転移」、「腫瘍組織試料」、「ER+乳がん」、「ER+乳がんを有する被験体における転移の診断」、「ER+乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断」、「被験体」、「患者」、「転移について陽性と診断される被験体」、「転移を生じる傾向が増大した被験体」という用語は、本発明の第1の方法の文脈で詳細に記載されており、本発明の第4の方法にも同様に適用可能である。
【0099】
特定の実施形態では、c−MAF遺伝子の増幅度を、前記遺伝子を含有する染色体領域の増幅を決定することによって決定することができる。その増幅がc−MAF遺伝子の増幅の存在を示す染色体領域は、c−MAF遺伝子を包含する16q22−q24遺伝子座であることが好ましい。16q22−q24遺伝子座は、第16染色体の長腕内のバンド22〜バンド24の範囲に位置する。NCBIデータベースでは、この領域が、コンティーグであるNT_010498.15およびNT_010542.15に対応する。別の好ましい実施形態では、c−MAF遺伝子の増幅度を、前記遺伝子に特異的なプローブを用いることによって決定することができる。
【0100】
本発明の第4の診断法/予後診断法は、第1のステップにおいて、c−MAF遺伝子が被験体の腫瘍組織試料において増幅されているかどうかを決定することを含む。この目的で、腫瘍試料におけるc−MAF遺伝子の増幅を、対照試料に対して比較する。
【0101】
本明細書で理解される「遺伝子の増幅」という用語は、遺伝子または遺伝子断片の多様なコピーが、個別の細胞または細胞系において形成されるプロセスを指す。遺伝子のコピーは、必ずしも同じ染色体内に位置するわけではない。複製された領域は、「アンプリコン」と称することが多い。通常、生成するmRNAの量、すなわち、遺伝子発現レベルもまた、特定の遺伝子コピー数に比例して増大する。
【0102】
特定の実施形態では、乳がんを有する被験体における転移の診断および/または乳がんを有する被験体における転移を生じる傾向の予後診断のための本発明の第4の方法は、前記被験体の腫瘍組織試料におけるc−MAF遺伝子コピー数を決定するステップと、前記コピー数を対照試料または基準試料のコピー数と比較するステップとを含み、ここで、c−MAFのコピー数が対照試料のc−MAFコピー数に対して多い場合、被験体は、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される。
【0103】
対照試料とは、転移を患っていない、ER+乳がんもしくはER−乳がん(被験体が患うがんの種類による)を有する被験体の腫瘍組織試料か、または転移を患っていない、ER+乳がんもしくはER−乳がんを有する被験体の生検試料の腫瘍組織コレクションにおいて測定されるc−MAF遺伝子コピー数の中央値に対応する腫瘍組織試料を指す。前記基準試料は典型的に、被験体集団に由来する等量の試料を組み合わせることにより得られる。c−MAF遺伝子コピー数が、対照試料における前記遺伝子コピー数に対して多い場合、被験体は、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される。
【0104】
本明細書で用いられる「遺伝子コピー数」という用語は、細胞における核酸分子のコピー数を指す。遺伝子コピー数は、細胞のゲノム(染色体)DNAにおける遺伝子コピー数を包含する。正常細胞(非腫瘍細胞)では、遺伝子コピー数は、通常2つのコピー(染色体対の各メンバーにおいて1つのコピー)である。遺伝子コピー数は、細胞集団の試料から採取される遺伝子コピー数の半分を包含する場合もある。
【0105】
本発明では、「遺伝子コピー数の増大」を、c−MAF遺伝子コピー数が基準試料または対照試料のコピー数より多くなる場合として理解する。特に、コピー数が、c−MAF遺伝子の2を超えるコピー、例えば、3、4、5、6、7、8、9、または10コピーである、およびさらに10を超えるコピーである場合、試料のc−MAFコピー数が増大したと考えることができる。
【0106】
特定の実施形態では、増幅またはコピー数を、in situハイブリダイゼーションまたはPCRによって決定する。
【0107】
当技術分野では、c−MAF遺伝子または染色体領域である16q22−q24が、増幅されるかどうかを決定するための方法が広く公知である。限定なしに述べると、前記方法には、in situハイブリダイゼーション(ISH)(蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、発色in situハイブリダイゼーション(CISH)、または銀in situハイブリダイゼーション(SISH)など)、比較ゲノムハイブリダイゼーション、またはポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイム定量的PCRなど)が含まれる。任意のISH法では、増幅またはコピー数を、蛍光点、着色点、または染色体内または核内において銀を伴う点の数をカウントすることにより決定することができる。
【0108】
蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)とは、染色体における特定のDNA配列の存在または非存在を検出および位置決定するのに用いられる細胞遺伝学的技法である。FISHでは、高度の配列類似性を示す、染色体のある部分だけに結合する蛍光プローブを用いる。典型的なFISH法では、DNAプローブを、典型的には、ニック翻訳またはPCRなどの酵素反応を用いてDNAに組み込まれる、Fluor−dUTP、ジゴキシゲニン−dUTP、ビオチン−dUTP、またはハプテン−dUTPの形態にある蛍光分子またはハプテンで標識する。遺伝物質(染色体)を含有する試料をスライドガラス上に置き、ホルムアミド処理によって変性させる。次いで、標識したプローブを、当業者が決定する適切な条件下で、遺伝物質を含有する試料とハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの後、試料を、直接的(フッ素で標識したプローブの場合)または間接的に(ハプテンを検出するための蛍光標識された抗体を用いる)検査する。
【0109】
CISHの場合は、プローブをジゴキシゲニン、ビオチン、またはフルオレセインで標識し、適切な条件において、遺伝物質を含有する試料とハイブリダイズさせる。
【0110】
DNAに結合しうる任意のマーキング分子または標識分子を用いて、本発明の第4の方法で用いられるプローブを標識することができ、これにより、核酸分子の検出が可能となる。標識づけのための標識の例には、放射性同位元素、酵素基質、共因子、リガンド、化学発光剤、フルオロフォア、ハプテン、酵素、およびこれらの組合せが含まれるがこれらに限定されない。異なる目的に適する標識を選択するための標識法および指針は、例えば、Sambrookら(「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor、New York、1989年)およびAusubelら(「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、New York、1998年)において見出すことができる。
【0111】
c−MAF遺伝子の増幅を直接決定することによるか、または16q22−q24遺伝子座の増幅を決定することによるかのいずれかで増幅の存在を決定して、対照試料における前記遺伝子の増幅と比較した後に、c−MAF遺伝子の増幅が検出される場合、それは、被験体が、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断されるという事実を示す。
【0112】
c−MAF遺伝子の増幅の決定は、転移を患っていない、乳がんを有する被験体の腫瘍組織試料か、または転移を患っていない、乳がんを有する被験体の生検試料の腫瘍組織コレクションにおいて測定されるc−MAF遺伝子の増幅の中央値に対応する腫瘍組織試料において測定されるc−MAF遺伝子の増幅レベルに対応する対照試料または基準試料の値と相関することを必要とする。前記基準試料は典型的に、被験体集団に由来する等量の試料を組み合わせることにより得る。一般に、典型的な基準試料は、臨床的に十分記録されており、転移の非存在が十分に特徴づけられている被験体から得る。そこから基準レベルを導出する試料コレクションは、研究の患者対象と同じ種類のがんを患う被験体の試料コレクションから構成することが好ましい。この中央値を確立したら、患者の腫瘍組織におけるc−MAFの増幅レベルをこの中央値と比較することができ、これにより、増幅が認められる場合、被験体は、転移についてまたは転移を生じる傾向の増大について陽性と診断される。
【0113】
好ましい実施形態では、転移は骨転移である。さらにより好ましい実施形態では、骨転移は骨溶解性骨転移である。本明細書で用いられる「骨溶解性骨転移」という表現は、骨吸収(漸進的な骨密度の喪失)が、腫瘍細胞による破骨細胞活性の刺激から結果として生じる、転移の近傍でもたらされる種類の転移を指し、重度の疼痛、病理学的骨折、高カルシウム血症、脊髄圧迫、および神経圧迫から結果として生じる他の症候群を特徴とする。
【0114】
本発明の治療法
c−MAF阻害性作用物質を用いる骨転移の処置
本発明の発明者らは、この目的で実験的異種移植モデルを用いて、乳がん細胞におけるc−MAF発現を阻害すると、前記細胞からの骨転移の形成の統計学的に有意な低減が引き起こされることを明確に示した。逆にいうと、この同じ系の腫瘍細胞においてc−MAFを過剰発現すると、前記細胞の転移能が増大する。したがって、c−MAF遺伝子発現阻害性作用物質または前記遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害性作用物質を、乳がんの転移を処置および/または防止するのに用いることができる。
【0115】
したがって、別の態様では、本発明は、乳がんの転移を処置および/または防止するための医薬品の調製における、c−MAF遺伝子発現阻害性作用物質または前記遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害性作用物質(以下では、本発明の阻害性作用物質という)の使用に関する。代替的に、本発明は、乳がんの転移の処置および/または防止において用いられる、c−MAF遺伝子発現阻害性作用物質または前記遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害性作用物質に関する。代替的に、本発明は、被験体における乳がんの転移を処置するための方法であって、c−MAFインヒビターを前記被験体に投与するステップを含む方法に関する。
【0116】
本明細書で用いられる「c−MAF阻害性作用物質」とは、前記遺伝子の発現産物が生成することを防止すること(c−MAF遺伝子の転写を妨害すること、および/またはc−MAF遺伝子の発現から生じるmRNAの翻訳を遮断すること)、およびc−MAFタンパク質の活性を直接阻害することの両方により、c−MAF遺伝子の発現を完全または部分的に阻害することが可能な任意の分子を指す。c−MAF遺伝子発現インヒビターは、国際特許出願WO2005/046731に示されるものなど、in vitroにおける細胞増殖を促進するc−MAFの能力を遮断する、いわゆるインヒビターの能力に基づく方法を用いて同定することもでき、WO2008098351において記載されているものなど、サイクリンD2プロモーターもしくはc−MAFを発現する細胞において、c−MAF応答領域(MAREまたはc−MAF応答性エレメント)を含有するプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の転写能を遮断する、いわゆるインヒビターの能力に基づく方法を用いて同定することもでき、あるいは、US2009048117Aにおいて記載されているものなど、NFATc2およびc−MAFを発現する細胞において、PMA/イオノマイシンによる刺激に応答するIL−4プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現を遮断する、いわゆるインヒビターの能力に基づく方法を用いて同定することもできる。
【0117】
非限定的な例示を目的として述べると、本発明で用いるのに適するc−MAF阻害性作用物質には、アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉RNA(siRNA)、触媒性RNA、または特異的リボザイム、および阻害性抗体が含まれる。
【0118】
アンチセンスオリゴヌクレオチド
本発明のさらなる態様は、その活性が阻害される、c−MAFをコードする核酸の発現を阻害する、例えば、その活性が阻害される、c−MAFをコードする核酸の転写および/または翻訳を阻害するための、単離された「アンチセンス」核酸の使用に関する。アンチセンス核酸は、従来の塩基の相補性により薬物の潜在的標的に結合する場合もあり、例えば、二本鎖DNAへの結合の場合は、二重螺旋の主溝における特異的相互作用を介して薬物の潜在的標的に結合する場合もある。一般に、これらの方法は、当技術分野で一般に用いられるある範囲の技法を指すが、これらには、オリゴヌクレオチド配列への特異的結合に基づく任意の方法が含まれる。
【0119】
本発明のアンチセンス構築物は、例えば、細胞内で転写されると、c−MAFをコードする細胞mRNAの少なくとも1つの固有の部分と相補的なRNAをもたらす発現プラスミドとして施行することができる。代替的に、アンチセンス構築物とは、ex vivoにおいて生成させ、細胞内に導入すると、標的核酸のmRNAおよび/または遺伝子配列とハイブリダイズして遺伝子発現の阻害をもたらすオリゴヌクレオチドプローブである。このようなオリゴヌクレオチドプローブは、内因性ヌクレアーゼ、例えば、エクソヌクレアーゼおよび/またはエンドヌクレアーゼに対して耐性であり、したがって、in vivoにおいて安定な、改変されたオリゴヌクレオチドであることが好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いられる核酸分子の例は、DNA類似体であるホスホルアミデート、ホスホロチオエート(fosfotionato)、およびメチルホスホネートである(また、米国特許第5176996号;同第5264564号;および同第5256775号も参照されたい)。加えて、アンチセンス療法において有用なオリゴマーを構築するための一般的な近似法も、例えば、Van der Krolら、BioTechniques、6巻:958〜976頁、1988年;およびSteinら、Cancer Res、48巻:2659〜2668頁、1988年において総説されている。
【0120】
アンチセンスオリゴヌクレオチドについては、翻訳の開始部位、例えば、標的遺伝子の−10〜+10の間に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチド領域が好ましい。アンチセンス近似法は、標的ポリペプチドをコードするmRNAと相補的なオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)のデザインを伴う。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、転写されるmRNAに結合し、翻訳を防止する。
【0121】
mRNAの5’末端、例えば、開始コドンであるAUGを含め最長5’側非翻訳配列に相補的なオリゴヌクレオチドは、翻訳を阻害するのに最も有効な方法で機能しなければならない。にもかかわらず、近年ではまた、mRNAの3’側非翻訳配列と相補的な配列もmRNAの翻訳を阻害するのに有効であることが示されている(Wagner、Nature、372巻:333頁、1994年)。したがって、相補的なオリゴヌクレオチドであれば、そのmRNAの翻訳を阻害するため、アンチセンス近似法において、遺伝子の5’側非翻訳領域または3’側非翻訳領域、非コード領域で用いうる。mRNAの5’側非翻訳領域と相補的なオリゴヌクレオチドは、開始コドンであるAUGの相補体を包含しなければならない。mRNAのコード領域と相補的なオリゴヌクレオチドは、翻訳インヒビターの有効性では劣るが、本発明では、それらもまた、用いることができる。それらを、mRNAの5’側領域、3’側領域、またはコード領域とハイブリダイズするようにデザインする場合、アンチセンス核酸は、少なくとも6ヌクレオチド長であり、かつ、好ましくは、約100ヌクレオチド長未満であり、より好ましくは約50ヌクレオチド長未満、25ヌクレオチド長未満、17ヌクレオチド長未満、または10ヌクレオチド長未満でなければならない。
【0122】
まず、アンチセンスオリゴヌクレオチドが遺伝子発現を阻害する能力を定量化する、in vitroにおける研究を実施することが好ましい。これらの研究では、オリゴヌクレオチドによるアンチセンス遺伝子阻害と非特異的な生物学的効果とを識別する対照を用いることが好ましい。また、これらの研究では、標的RNAまたは標的タンパク質のレベルを、RNAまたはタンパク質の内部対照のレベルと比較することも好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて得られる結果は、対照のオリゴヌクレオチドを用いて得られる結果と比較することができる。対照のオリゴヌクレオチドは、アッセイされるオリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであり、オリゴヌクレオチド配列がアンチセンス配列と異なる程度は、標的配列との特異的なハイブリダイゼーションを防止するのに必要であるとみなされる程度を超えないことが好ましい。
【0123】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖DNAもしくは一本鎖RNAまたは二本鎖DNAもしくは二本鎖RNAの場合もあり、それらのキメラ混合物または誘導体もしくは改変バージョンの場合もある。オリゴヌクレオチドは、塩基、糖基、またはリン酸骨格において改変して、例えば、その分子の安定性、そのハイブリダイゼーション能などを改善することができる。オリゴヌクレオチドには、ペプチド(例えば、それらを宿主細胞の受容体へと導く)、または細胞膜(例えば、Letsingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、86巻:6553〜6556頁、1989年;Lemaitreら、Proc. Natl. Acad. Sci.、84巻:648〜652頁、1987年;PCT公開WO88/09810を参照されたい)もしくは血液脳関門(例えば、PCT公開WO89/10134を参照されたい)を介する輸送を促進する作用物質、挿入剤(例えば、Zon、Pharm. Res.、5巻:539〜549頁、1988年を参照されたい)など他の結合基が含まれうる。この目的で、オリゴヌクレオチドは、例えば、ペプチド、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発型切断剤など他の分子にコンジュゲートすることができる。
【0124】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの改変された塩基群を含みうる。アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースが含まれるがこれらに限定されない群から選択される、少なくとも1つの改変された糖基も含みうる。アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、核酸ペプチドと類似する骨格も含有しうる。このような分子は、ペプチド核酸(PNA)オリゴマーとして公知であり、例えば、Perry−O’Keefeら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、93巻:14670頁、1996年;およびEglomら、Nature、365巻:566頁、1993年に記載されている。
【0125】
さらに別の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの改変されたリン酸骨格を含む。さらに別の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アルファ−アノマーオリゴヌクレオチドである。
【0126】
標的mRNA配列のコード領域と相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いうる一方で、また、転写される非翻訳領域と相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドも用いることができる。
【0127】
場合によっては、内因性mRNAの翻訳を抑制するのに十分なアンチセンスの細胞内濃度に到達するのが困難でありうる。この場合は、好ましい近似法により、アンチセンスオリゴヌクレオチドが強力なプロモーターであるpol IIIまたはpol IIの制御下に置かれる組換えDNA構築物を用いる。
【0128】
代替的に、遺伝子制御領域(すなわち、プロモーターおよび/またはエンハンサー)と相補的なデオキシリボヌクレオチド配列を、体内の標的細胞における遺伝子転写を防止する三重螺旋構造を形成するように誘導することにより、標的の遺伝子発現を低減することもできる(一般に、Helene、Anticancer Drug Des.、6巻(6号):569〜84頁、1991年を参照されたい)。特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンスモルホリンである。
【0129】
siRNA
低分子干渉RNAまたはsiRNAとは、RNA干渉によって標的遺伝子の発現を阻害することが可能な作用物質である。siRNAは、化学合成することもでき、in vitroにおける転写によって得ることもでき、あるいは、in vivoの標的細胞において合成することもできる。典型的に、siRNAは、15〜40ヌクレオチド長の二本鎖RNAからなり、1〜6ヌクレオチドの3’側突出領域および/または5’側突出領域を含有しうる。突出領域の長さは、siRNA分子の全長に依存しない。siRNAは、転写後の標的メッセンジャーの分解またはサイレンシングにより作用する。
【0130】
本発明のsiRNAは、c−MAFをコードする遺伝子のmRNA、または前記タンパク質をコードする遺伝子配列と実質的に相同である。「実質的に相同な」は、siRNAが、RNA干渉を介して標的mRNAを分解することが可能となるように、標的mRNAと十分に相補的であるかまたは十分に類似する配列を有することとして理解する。前記干渉を引き起こすのに適するsiRNAには、RNAにより形成されるsiRNAのほか、
・ヌクレオチド間の結合が、ホスホロチオエート(fosforotioato)結合などの、天然において出現する結合と異なるsiRNA、
・RNA鎖の、フルオロフォアなどの機能的試薬とのコンジュゲート、
・RNA鎖末端の改変、特に、2’位における異なるヒドロキシル官能基による改変による3’末端の改変、
・2’−O−メチルリボースまたは2’−O−フルオロリボースと同様に、2’位におけるO−アルキル化残基などの改変された糖を有するヌクレオチド、
・ハロゲン化塩基(例えば、5−ブロモウラシルおよび5−ヨードウラシル)、アルキル化塩基(例えば、7−メチルグアノシン)などの改変された塩基を有するヌクレオチドなど、異なる化学修飾を含有するsiRNAが含まれる。
【0131】
siRNAは、すなわち、前記の特徴を有する二本鎖RNAの形態にあるsiRNAとして用いることができる。代替的に、目的の細胞におけるそれらの発現に適するプロモーターの制御下では、siRNAのセンス鎖配列およびアンチセンス鎖配列を含有するベクターの使用も可能である。
【0132】
siRNAを発現させるのに適するベクターとは、siRNAの2つの鎖をコードする2つのDNA領域が、1つの同じDNA鎖において、スペーサー領域により隔てられてタンデムで配置されており、転写されるとループを形成し、ここで、単一のプロモーターによりshRNAをもたらすDNA分子の転写を誘導するベクターである。
【0133】
代替的に、siRNAを形成する鎖の各々が、異なる転写単位の転写から形成されるベクターの使用も可能である。これらのベクターは、分岐転写ベクターと収束転写ベクターとに分けられる。分岐転写ベクターでは、各DNA鎖の転写が、同じ場合もあり異なる場合もある、その固有のプロモーターに依存するように、siRNAを形成するDNA鎖の各々をコードする転写単位が、ベクター内にタンデムで配置されている(Wang, J.ら、2003年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、100巻:5103〜5106頁;およびLee, N.S.ら、2002年、Nat. Biotechnol.、20巻:500〜505頁)。収束転写ベクターでは、siRNAをもたらすDNA領域が、2つのリバースプロモーターが隣接するDNA領域のセンス鎖およびアンチセンス鎖を形成する。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖の転写の後、アンチセンスRNA鎖は、機能的siRNAを形成するためのハイブリッド体を形成する。2つのU6プロモーター(Tran, N.ら、2003年、BMC Biotechnol.、3巻:21頁)、マウスU6プロモーターとヒトH1プロモーター(Zheng, L.ら、2004年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、135〜140頁;およびWO2005026322)、およびヒトU6プロモーターとマウスH1プロモーター(Kaykas, A.およびMoon, R.、2004年、BMC Cell Biol.、5巻:16頁)を用いるリバースプロモーター系を有するベクターが記載されている。
【0134】
収束発現ベクターまたは分岐発現ベクターからのsiRNAの発現において使用するのに適するプロモーターには、siRNAを発現する細胞と適合する任意のプロモーターまたはプロモーター対が含まれる。したがって、本発明に適するプロモーターには、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、SV40、CMV、トリ肉腫ウイルス、B型肝炎ウイルスなど、真核ウイルスのゲノムに由来する構成的プロモーター、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子プロモーター、レトロウイルスのLTR領域、免疫グロブリン遺伝子プロモーター、アクチン遺伝子プロモーター、EF−1アルファ遺伝子プロモーターなどの構成的プロモーターのほか、テトラサイクリン系、NFカッパB/UV光系、Cre/Lox系、および熱ショック遺伝子プロモーター、WO/2006/135436において記載されている制御性RNAポリメラーゼIIプロモーターなど、タンパク質の発現が分子の付加または外因性シグナルに依存する誘導性プロモーター、ならびに特定の組織プロモーター(例えば、WO2006012221において記載されているPSAプロモーター)が含まれるが必ずしもこれらに限定されない。好ましい実施形態では、プロモーターは、構成的に作用するRNAポリメラーゼIIIプロモーターである。RNAポリメラーゼIIIプロモーターは、5S RNA、tRNA、7SL RNA、およびU6 snRNAなど、限られた数の遺伝子において見出される。他のRNAポリメラーゼプロモーターと異なり、III型プロモーターは、任意の遺伝子内配列を必要とせず、−34位および−24位のTATAボックス、−66〜−47位の間に近位配列エレメントまたはPSE、および、場合によっては、−265〜−149位の間に遠位配列エレメントまたはDSEを含む5’方向の配列を必要とする。好ましい実施形態では、III型RNAポリメラーゼIIIプロモーターは、ヒトH1遺伝子プロモーターとヒトU6遺伝子プロモーターであるかまたはマウスH1遺伝子プロモーターとマウスU6遺伝子プロモーターである。さらにより好ましい実施形態では、これらのプロモーターは、2つのヒトU6プロモーターもしくはマウスU6プロモーター、マウスU6プロモーターとヒトH1プロモーター、またはヒトU6プロモーターとマウスH1プロモーターである。本発明の文脈では、ERアルファ遺伝子プロモーターまたはサイクリンD1遺伝子プロモーターがとりわけ適切であり、したがって、これらのプロモーターが、乳房腫瘍、好ましくはER+乳房腫瘍における目的の遺伝子を特異的に発現させるのにとりわけ好ましい。
【0135】
siRNAは、siRNAを形成するアンチパラレル鎖がループ領域またはヘアピン領域により連結されることを特徴とする、いわゆるshRNA(短ヘアピンRNA)から、細胞内で生じさせることができる。shRNAは、プラスミドまたはウイルス、特に、レトロウイルスによってコードさせることが可能であり、プロモーターの制御下にある。shRNAを発現させるのに適するプロモーターは、上記の段落で示した、siRNAを発現させるためのプロモーターである。
【0136】
siRNAおよびshRNAを発現させるのに適するベクターには、pUC18、pUC19、Bluescript、およびそれらの誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、CoIEl、pCRl、RP4などの原核細胞発現ベクター、pSA3およびpAT28などのファージベクターおよびシャトルベクター、2ミクロンプラスミド型のベクター、組込みプラスミド、YEPベクター、セントロメアプラスミドなどの酵母発現ベクター、pACシリーズのベクターおよびpVLシリーズのベクターなどの昆虫細胞発現ベクター、pIBIシリーズ、pEarleyGateシリーズ、pAVAシリーズ、pCAMBIAシリーズ、pGSAシリーズ、pGWBシリーズ、pMDCシリーズ、pMYシリーズ、pOREシリーズのベクターなどの植物発現ベクター、ならびにウイルスベクターベース(アデノウイルスベクターベース、アデノ随伴ウイルスベクターベースのほか、レトロウイルスベクターベース、特に、レンチウイルスベクターベース)の高等真核生物細胞発現ベクター、またはpcDNA3、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEFl/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAXl、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2dおよびpTDTlなどの非ウイルスベクターが含まれる。好ましい実施形態では、ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0137】
本発明のsiRNAおよびshRNAは、当業者に公知である一連の技法を用いて得ることができる。siRNAをデザインするためのベースとして採用されるヌクレオチド配列の領域は、限定的なものではなく、コード配列の領域(開始コドンと終止コドンとの間の領域)を含有する場合もあり、代替的に、好ましくは25〜50ヌクレオチド長であり、開始コドンに対して3’方向の位置の任意の位置に5’側非翻訳領域または3’側非翻訳領域の配列を含有する場合もある。siRNAをデザインする1つの方法は、AA(N19)TTモチーフ[配列中、Nはc−MAF遺伝子配列中の任意のヌクレオチドであり得る]の同定、およびG/C含量が高いものの選択を伴う。前記モチーフが見出されない場合は、NA(N21)モチーフ[配列中、Nは任意のヌクレオチドであり得る]を同定することが可能である。
【0138】
c−MAF特異的なsiRNAには、その鎖のうちの1つが、ACGGCUCGAGCAGCGACAA(配列番号6)である、WO2005046731において記載されているsiRNAが含まれる。他のc−MAF特異的なsiRNA配列には、CUUACCAGUGUGUUCACAA(配列番号7)、UGGAAGACUACUACUGGAUG(配列番号8)、AUUUGCAGUCAUGGAGAACC(配列番号9)、CAAGGAGAAAUACGAGAAGU(配列番号10)、ACAAGGAGAAAUACGAGAAG(配列番号11)、およびACCUGGAAGACUACUACUGG(配列番号12)が含まれるがこれらに限定されない。
【0139】
DNA酵素
他方、本発明はまた、c−MAF遺伝子の発現を阻害するための本発明のDNA酵素の使用も意図する。DNA酵素は、アンチセンス法およびリボザイム法の両方の機構的特徴のうちの一部を組み込む。DNA酵素は、それらがアンチセンスオリゴヌクレオチドと類似する特定の標的核酸配列を認識するが、にもかかわらず、リボザイムと同様に、それらが触媒性であり、標的核酸を特異的に切断するようにデザインする。
リボザイム
標的mRNAの転写産物を触媒的に切断して、その活性が阻害されるc−MAFをコードするmRNAの翻訳を防止するようにデザインされるリボザイム分子も用いることができる。リボザイムとは、特異的なRNA切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。(総説については、Rossi、Current Biology、4巻:469〜471頁、1994年を参照されたい)。リボザイムの作用機構は、リボザイム分子配列の、相補的な標的RNAへの特異的なハイブリダイゼーションの後で、エンドヌクレアーゼによる(endonucleolytic)切断イベントを伴う。リボザイム分子の組成は、標的mRNAと相補的な1または複数の配列、およびmRNAまたは機能的に同等な配列を切断する一因となる周知の配列(例えば、米国特許第5093246号を参照されたい)を包含することが好ましい。
【0140】
本発明で用いられるリボザイムには、ハンマーヘッド型リボザイム、エンドリボヌクレアーゼRNA(以下では、「チェック型リボザイム」という)(Zaugら、Science、224巻:574〜578頁、1984年)が含まれる。
【0141】
リボザイムは、改変されたオリゴヌクレオチド(例えば、安定性、ターゲティングなどを改善するように改変された)によって形成することができ、それらはin vivoにおいて標的遺伝子を発現する細胞に分配されるはずである。好ましい分配方法は、トランスフェクトした細胞が、内因性の標的メッセンジャーを破壊し、翻訳を阻害するのに十分な量のリボザイムを生成するように、強力な構成的プロモーターであるpol IIIまたはpol IIの制御下でリボザイム「をコードする」DNA構築物を用いることを包含する。リボザイムは、他のアンチセンス分子とは異なり触媒性であるので、それが有効であるには、細胞内濃度の低いことが要求される。
【0142】
阻害性抗体
本発明の文脈では、「阻害性抗体」を、c−MAFタンパク質に特異的に結合し、前記タンパク質の機能、好ましくは転写と関連する機能のうちの1または複数を阻害することが可能な任意の抗体として理解する。上記抗体は、それらのうちの一部については上記した、当業者に公知の方法のうちのいずれかを用いて調製することができる。こうして、ポリクローナル抗体は、阻害されるべきタンパク質で、動物を免疫することにより調製する。モノクローナル抗体は、Kohler、Milsteinら(Nature、1975年、256巻:495頁)により記載されている方法を用いて調製する。本発明の文脈では、適切な抗体に、抗原結合可変領域および定常領域を含むインタクトな抗体、「Fab」断片、「F(ab’)2」断片および「Fab’」断片、Fv断片、scFv断片、ダイアボディー、ならびに二重特異性抗体が含まれる。c−MAFタンパク質への結合能を有する抗体を同定したら、阻害性作用物質同定アッセイを用いて、このタンパク質の活性を阻害することが可能な抗体を選択する。
【0143】
阻害性ペプチド
本明細書で用いられる「阻害性ペプチド」という用語は、c−MAFタンパク質に結合し、上記で説明した通りにその活性を阻害する、すなわち、c−MAFが遺伝子転写を活性化することができるようになるのを防止できる、ペプチドを指す。
【0144】
ネガティブc−MAFドミナント
mafファミリーに由来するタンパク質は、FosおよびJunなど、他のAP−1ファミリーメンバーとホモ二量体化およびヘテロ二量体化することが可能であるので、c−MAF活性を阻害する1つの方法は、c−MAFと二量体化することが可能であるが、転写を活性化する能力を欠くネガティブドミナントを用いることによるものである。したがって、ネガティブc−MAFドミナントは、細胞内に存在し、トランス活性化ドメイン(例えば、mafKドメイン、mafFドメイン、mafgドメイン、およびpi8ドメイン)を含有するアミノ末端のうちの3分の2を欠く小型のmafタンパク質のうちのいずれかでありうる(Fujiwaraら(1993年)、Oncogene、8巻、2371〜2380頁;Igarashiら(1995年)、J. Biol.Chem.、270巻、7615〜7624頁;Andrewsら(1993年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90巻、11488〜11492頁;Kataokaら(1995年)、Mol. Cell. Biol.、15巻、2180〜2190頁;Kataokaら(1996年)、Oncogene、12巻、53〜62頁)。
【0145】
代替的には、ネガティブc−MAFドミナントに、他のタンパク質と二量体化する能力は維持するが、転写を活性化する能力は欠くc−MAFの変異体が含まれる。これらの変異体は、例えば、タンパク質のN末端に位置する、c−MAFのトランス活性化ドメインを欠く変異体である。したがって、例示的な方法では、ネガティブc−MAFドミナント変異体に、少なくともアミノ酸1〜122、少なくともアミノ酸1〜187、または少なくともアミノ酸1〜257(US6274338において記載されているヒトc−MAFの番号付けを考慮することによる)を除去した変異体が含まれる。
【0146】
本発明は、ネガティブc−MAFドミナント変異体および標的細胞における発現に適するプロモーターの作動的制御下でc−MAFをコードするポリヌクレオチドの両方の使用を意図する。ポリヌクレオチド転写を制御するのに用いうる本発明のプロモーターは、構成的プロモーター、すなわち、基底レベルで転写を誘導するプロモーターである場合もあり、転写活性が外部シグナルを必要とする誘導性プロモーターである場合もある。転写を制御するのに適する構成的プロモーターは、とりわけ、CMVプロモーター、SV40プロモーター、DHFRプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、1a伸長因子(EFla)プロモーター、アルブミンプロモーター、ApoA1プロモーター、ケラチンプロモーター、CD3プロモーター、免疫グロブリン重鎖または軽鎖プロモーター、神経線維プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター、L7プロモーター、CD2プロモーター、ミオシン軽鎖キナーゼプロモーター、HOX遺伝子プロモーター、チミジンキナーゼプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター、MyoD遺伝子プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)遺伝子プロモーター、低密度リポタンパク質(LDL)プロモーター、アクチン遺伝子プロモーターである。好ましい実施形態では、トランス活性化因子の発現を制御するプロモーターは、PGK遺伝子プロモーターである。好ましい実施形態では、ポリヌクレオチド転写を制御する本発明のプロモーターは、T7ファージのRNAポリメラーゼプロモーターである。
【0147】
本発明の文脈で用いうる誘導性プロモーターは、誘導剤に応答する誘導性プロモーターであって、誘導剤の非存在下で示す基底の発現がゼロであるかまたは無視できる程度であり、3’位に位置する遺伝子の活性化を促進することが可能な誘導性プロモーターであることが好ましい。誘導剤の種類に応じて、誘導性プロモーターは、Tet オン/オフ(on/off)プロモーター(Gossen, M.およびH. Bujard(1992年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89巻:5547〜5551頁;Gossen, M.ら、1995年、Science 268巻:1766〜1769頁;Rossi, F.M.V.およびH.M. Blau、1998年、Curr. Opin. Biotechnol、9巻:451〜456頁);Pip オン/オフプロモーター(US6287813);抗プロゲスチン依存性プロモーター(US2004132086)、エクジソン依存性プロモーター(Christophersonら、1992年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89巻:6314〜6318頁;Noら、1996年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、93巻:3346〜3351頁、Suhrら、1998年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、95巻:7999〜8004頁;およびWO9738117)、メタロチオネイン依存型プロモーター(WO8604920)、およびラパマイシン依存型プロモーター(Riveraら、1996年、Nat. Med. 2巻:1028〜32頁)として分類される。
【0148】
ネガティブc−MAFドミナント変異体をコードするポリヌクレオチドを発現するのに適するベクターには、pUC18、pUC19、Bluescript、およびそれらの誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColEl、pCRl、RP4などの原核細胞発現ベクター、pSA3およびpAT28などのファージベクターおよびシャトルベクター、2ミクロンプラスミド型のベクター、組込みプラスミド、YEPベクター、セントロメアプラスミドなどのような酵母発現ベクター、pACシリーズのベクターおよびpVLシリーズのベクターなどの昆虫細胞発現ベクター、pIBIシリーズ、pEarleyGateシリーズ、pAVAシリーズ、pCAMBIAシリーズ、pGSAシリーズ、pGWBシリーズ、pMDCシリーズ、pMYシリーズ、pOREシリーズのベクターなどのような植物発現ベクター、ならびにウイルスベクターベース(アデノウイルスベクターベース、アデノ随伴ウイルスベクターベースのほか、レトロウイルスベクターベース、特に、レンチウイルスベクターベース)の高等真核生物細胞発現ベクター、またはpSilencer4.1−CMV(Ambion)、pcDNA3、pcDNA3.1/hyg、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEFl/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAXl、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2dおよびpTDTlなどの非ウイルスベクターが含まれる。
c−MAFタンパク質活性に対する他の阻害性化合物
本発明で用いるのに適する他のc−MAF阻害化合物には:
【0153】
【表1-5】
が含まれる。
他のc−MAFインヒビターは、以下の表(表2)に示されるc−MAFインヒビターなど、特許出願WO2005063252において記載されている。
【0156】
【表2-3】
好ましい実施形態では、c−MAF阻害性作用物質を、骨転移の処置および/または防止のために用いる。さらにより好ましい実施形態では、骨転移は骨溶解性転移である。
【0157】
c−MAF阻害性作用物質は、典型的に、薬学的に許容されるキャリアと組み合わせて投与する。
【0158】
「キャリア」という用語は、それにより有効成分を投与するための希釈剤または賦形剤を指す。このような薬学的キャリアは、水およびラッカセイ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油など、石油、動物油、植物油、または合成由来の油を含めた油など、無菌の液体とすることができる。水または水性の生理食塩液および水性のデキストロース液およびグリセロール液、特に、注射用溶液をキャリアとして用いることが好ましい。適切な薬学的キャリアは、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、1995年において記載されている。本発明のキャリアは、州政府もしくは連邦政府の規制機関により承認されているか、または米国薬局方もしくは他の薬局方に列挙されて、動物におけるその使用、および、より具体的には、ヒトにおけるその使用について一般に認められていることが好ましい。
【0159】
本発明の薬学的組成物の所望の薬学的剤形を製造するのに必要なキャリアおよび補助物質は、とりわけ、選択される薬学的剤形に依存する。薬学的組成物の前記薬学的剤形は、当業者に公知の従来の方法により製造される。有効成分を投与するための種々の方法、用いられる賦形剤およびそれらを生成させるためのプロセスについての総説は、「Tratado de Farmacia Galenica」、C. FauliおよびTrillo、Luzan 5, S.A.、1993年版において見出すことができる。薬学的組成物の例には、経口投与、局所投与、または非経口投与のための任意の固体組成物(錠剤、丸薬、カプセル剤、顆粒剤など)または液体組成物(液剤、懸濁剤、または乳剤)が挙げられる。さらに、薬学的組成物は、必要であるとみなされるのに応じて、安定化剤、懸濁化剤、防腐剤、界面活性剤などを含有しうる。
【0160】
医療において使用するためには、c−MAF阻害性作用物質は、単独の、またはさらなる活性剤と組み合わせるかのいずれかのプロドラッグ、塩、溶媒和物、または包接体の形態で提供することができ、薬学的に許容される賦形剤と併せて製剤化することができる。本発明で用いるのに好ましい賦形剤には、糖、デンプン、セルロース、ゴム、およびタンパク質が挙げられる。特定の実施形態では、本発明の薬学的組成物を、固体の薬学的剤形(例えば、錠剤、カプセル剤、丸薬、顆粒剤、坐剤、再構成して液体形態を提供しうる滅菌の結晶固体またはアモルファス固体など)、液体の薬学的剤形(例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤、ローション、軟膏など)、または半固体の薬学的剤形(ゲル、軟膏、クリームなど)に製剤化する。本発明の薬学的組成物は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、動脈内経路、髄内経路、髄腔内経路、脳室内経路、経皮経路、皮下経路、腹腔内経路、鼻腔内経路、腸経路、局所経路、舌下経路、または直腸経路が挙げられるがこれらに限定されない任意の経路により投与することができる。有効成分を投与するための種々の方法、用いられる賦形剤およびそれらの製造プロセスについての総説は、「Tratado de Farmacia Galenica」、C. FauliおよびTrillo、Luzan 5, S.A.、1993年版;ならびに「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(A.R. Gennaro編)、第20版、Williams & Wilkins PA、USA (2000年)において見出すことができる。薬学的に許容されるキャリアの例は当技術分野で公知であり、これらには、リン酸緩衝生理食塩液、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、異なる種類の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。前記キャリアを含む組成物は、当技術分野で公知の従来のプロセスによって製剤化することができる。
【0161】
万一、核酸(siRNA、siRNAもしくはshRNAをコードするポリヌクレオチド、またはネガティブc−MAFドミナントをコードするポリヌクレオチド)を投与する場合は、本発明が、特に、前記核酸を投与するために調製された薬学的組成物を意図する。薬学的組成物は、前記ネイキッド核酸、すなわち、体内のヌクレアーゼによる分解から核酸を保護する化合物の非存在下にある核酸であって、トランスフェクションに用いられる試薬と関連する毒性を消失させる利点を伴う核酸を含みうる。ネイキッド化合物に適する投与経路には、血管内経路、腫瘍内経路、頭蓋内経路、腹腔内経路、脾臓内経路、筋肉内経路、網膜下経路、皮下経路、経粘膜経路、局所経路、および経口経路が挙げられる(Templeton、2002年、DNA Cell Biol.、21巻:857〜867頁)。代替的に、上記核酸は、コレステロールにコンジュゲートしたリポソームの一部を形成するか、またはHIV−1のTATタンパク質に由来するTatペプチド、D.melanogasterのアンテナペディアタンパク質のホメオドメインの第3のへリックス、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質、アルギニンオリゴマー、およびWO07069090(Lindgren, A.ら、2000年、Trends Pharmacol. Sci、21巻:99〜103頁、Schwarze, S.R.ら、2000年、Trends Pharmacol. Sci.、21巻:45〜48頁、Lundberg, Mら、2003年、Mol Therapy、8巻:143〜150頁;ならびにSnyder, E.L.およびDowdy, S.F.、2004年、Pharm. Res.、21巻:389〜393頁)において記載されているペプチドなど、細胞膜を介するトランスロケーションを促進することが可能な化合物にコンジュゲートしたリポソームの一部を形成して、投与され得る。代替的に、そのポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクター、好ましくは、アデノウイルスベースのベクターの一部を形成して、投与され得、アデノ随伴ウイルスにより投与することもでき、マウス白血病ウイルス(MLV)またはレンチウイルス(HIV、FIV、EIAV)に基づくウイルスなど、レトロウイルスにより投与することもできる。
【0162】
c−MAF阻害性作用物質またはそれらをを含有する薬学的組成物は、体重1kg当たり10mg未満、好ましくは、体重1kg当たり5mg未満、2mg未満、1mg未満、0.5mg未満、0.1mg未満、0.05mg未満、0.01mg未満、0.005mg未満、0.001mg未満、0.0005mg未満、0.0001mg未満、0.00005mg未満、または0.00001mg未満の用量で投与することができる。単位用量は、注射投与で投与することもでき、吸入投与で投与することもでき、局所投与で投与することもできる。
【0163】
その用量は、重症度および処置される状態の応答に依存し、数日間〜数カ月間または状態が消失するまでの間で変化しうる。最適用量は、患者の体内における薬剤の濃度を定期的に測定することにより決定することができる。最適用量は、既往のin vitroアッセイまたは動物モデルにおけるin vivoアッセイにより得られるEC50値から決定することができる。単位用量は、1日1回、または1日1回未満、好ましくは2日ごとに1回未満、4日ごとに1回未満、8日ごとに1回未満、または30日ごとに1回未満投与することができる。代替的に、開始用量の後、1または複数回分の、一般に開始用量より低量である維持用量を投与することが可能である。維持レジメンは、1日当たり体重1kg当たり0.01μg〜1.4mg、例えば、1日当たり体重1kg当たり10mg、1mg、0.1mg、0.01mg、0.001mg、または0.00001mgの範囲の用量で患者を処置することを伴いうる。維持用量は、最大で5日ごとに1回、10日ごとに1回、または30日ごとに1回投与することが好ましい。処置は当分の間持続させなければならないが、その期間は、患者が患う障害の種類、それらの重症度、および患者の状態により変化する。処置の後、患者の経過をモニタリングして、万一疾患が処置に応答しない場合は用量を増量するべきか、または疾患の改善が観察される場合または有害な副作用が観察される場合は用量を低減するかを決定しなければならない。
c−MAFレベルが上昇した骨転移を伴う乳がん患者における骨分解の処置または防止
本発明の発明者らは、乳房腫瘍からの骨転移では、c−MAFレベルが上昇することを実証した。同様に、本発明の発明者らは、骨転移を引き起こす能力が高く、c−MAFを過剰発現する、原発性乳房腫瘍から得られた細胞系の順化培地により破骨細胞の形成が誘導されうる程度が、c−MAFを過剰発現しない細胞より高いことも明確に示した。したがって、骨に転移しており、該転移におけるc−MAFレベルの上昇が認められる、乳がんを患う患者は特に、破骨活性の増大により引き起こされる骨分解を防止することを目的とする治療から利益を得ることができる。
【0164】
したがって、別の態様では、本発明は、乳がんを患い、転移性腫瘍組織試料におけるc−MAFレベルが対照試料に対して上昇している被験体における骨転移を防止および/または処置するための医薬品の調製における、骨分解を回避または防止するための作用物質の使用に関する。
【0165】
代替的に、本発明は、乳がんを患い、転移性腫瘍組織試料におけるc−MAFレベルが対照試料に対して上昇している被験体における骨転移の防止および/または処置において用いられる、骨分解を回避または防止するための作用物質に関する。
【0166】
代替的に、本発明は、乳がんを患い、転移性腫瘍組織試料におけるc−MAFレベルが対照試料に対して上昇している被験体における、上記分解を防止および/または処置する方法であって、骨分解を回避または防止するための作用物質を前記被験体に投与するステップを含む方法に関する。
【0167】
特定の実施形態では、骨転移は骨溶解性転移である。別の具体的な実施形態では、乳がんはER+またはER−乳がんである。
【0168】
「被験体」、「ER+乳がん」、「腫瘍組織試料」、「転移」、「c−MAF遺伝子」、「発現レベルの増大または上昇」、および「対照試料」という用語および表現は、本発明の第1の方法との関連で詳細に記載されており、骨分解を回避または防止するための作用物質にも同様に適用可能である。
【0169】
本明細書で記載されている療法に適する、骨分解を回避または防止することが可能な作用物質については、カスタマイズ療法の文脈において上記で詳細に説明されている。
【0170】
基準試料または対照試料とは、転移を患っていない、ER+乳がんもしくはER−乳がんを有する被験体の腫瘍組織試料であるか、または転移を患っていない、ER+乳がんを有する被験体の生検試料の腫瘍組織コレクションにおいて測定されるc−MAF遺伝子発現レベルの中央値に対応する腫瘍組織試料である。
【0171】
c−MAFレベルが対照試料に対して上昇しているかどうかを決定または定量化するための方法は、本発明の第1の方法との関連で詳細に記載されており、それは、骨分解を回避または防止するための作用物質にも同様に適用可能である。
【0172】
代替的に、上述した作用物質からの、骨分解を回避または防止するための複数の作用物質を組み合わせて、転移を処置および/または防止する組合せ処置も実施することができ、または、前記作用物質を、カルシウムまたはビタミンDなど、他の補充物質、またはホルモンと組み合わせることもできる。
【0173】
骨分解を回避または防止するための作用物質は、典型的に、薬学的に許容されるキャリアと組み合わせて投与する。「キャリア」という用語およびキャリアの種類は、c−MAF阻害性作用物質ならびにそれらを投与しうる剤形および用量について上記で定義したが、それは、骨分解を回避または防止するための作用物質にも同様に適用可能である。
【0174】
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、それらの範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0175】
I.材料および方法
実験的研究モデル
ER+乳がんにおける転移を研究するための新たな実験モデルを開発した。この目的で、GFP/ルシフェラーゼの発現を可能とするベクターにより安定的な方法でトランスフェクトした、MCF7と称するヒトER+乳がん細胞系を用いた。この細胞系を、脳室内注射または尾静脈注射により免疫不全マウス(Balb−c/ヌードマウス)に接種して、種々の器官に転移能を有する細胞を選択することを可能とした。マウスには、皮下エストロゲン埋没物を施して、この実験を通してこのホルモンの存在を確実にした。
【0176】
転移性集団の選択
転移性病変の細胞を同定および単離することにより、種々の組織における転移性集団を選択した。この目的で、種々の時点に、目的の器官における腫瘍細胞の定着および増殖を検出し、存在する腫瘍細胞数を定量化することを可能とする技法を用いる、生物発光造影法を用いた。この技法を適用するため、ルシフェラーゼ遺伝子およびGFP遺伝子の発現について細胞に翻訳させ、したがって、in vivoにおけるリアルタイムの非侵襲的追跡法を可能とした。それらの感度および速度のため、好ましい方法としてのXenogen IVIS装置およびソフトウェアであるLivingimageを使用し、麻酔下の動物を用いて発光画像(ルシフェラーゼ活性)を捕捉する。転移性細胞を単離するために、腫瘍病変を切除し、その後、蛍光(GFP)によるレーザー走査サイトメトリー法により、転移性細胞を宿主生物の細胞から単離する。これらの細胞を単離したら、それらの種々の組織に対する指向性を富化するプロセスを反復した。これらの方法によって、骨転移を含めた組織特異性を有する、種々の転移性集団を単離した。
【0177】
転移性集団を同定および単離したら、高性能転写解析を実施した。この戦略は、全体として、それらの転写が増大し、一部は予後不良のがん性細胞において転移プロセスのメディエーターとして作用する遺伝子を同定することを可能とした。それらの発現が組織および特異的器官における転移性細胞によるコロニー形成において変化する遺伝子の関与を、偏りのないin vivo選択法によって確認した。
【0178】
ER+乳がんにおいて富化される骨転移遺伝子群の同定
転移性が高い細胞亜集団の遺伝子発現プロファイルと転移性が低い細胞亜集団の遺伝子発現プロファイルとを比較することによって、その過剰発現または抑制が骨転移の骨溶解性の表現型と関連する遺伝子群を同定した。骨の骨溶解性の転移性病変(分解)は、骨形成性の転移性病変(合成)と異なり、臨床的に侵襲性が高い骨転移性乳がんの形態と関連する。骨転移能が高い細胞系と関連する発現プロファイルは、標準化された方法を用いて得た。ER+乳房細胞に由来する、種々の骨転移性派生物を、それらの骨侵襲性の表現型およびそれらの発現プロファイルに関する偏りのない解析を介して分類した。いずれの場合においても、転移性細胞系の派生物であるBoM1およびBoM2は、遺伝子発現プロファイルレベルならびに表現型の両方において、出発細胞(MCF7)の挙動とは異なる転移性の挙動を示した(
図1A)。
【0179】
ER+乳がんにおける、骨転移について富化される遺伝子群には、サイトカイン、細胞接着分子、膜プロテアーゼ、シグナル伝達メディエーター、および転写因子が含まれる。
【0180】
次いで、ER+乳がんにおける骨転移能を制御する候補として選択された遺伝子群を、ヒトにおける臨床的検証に供した。この目的で、候補遺伝子の発現変化を、それぞれ、560例の乳房腫瘍および58例の転移を包含し、一方は原発性乳房腫瘍に由来するコホートであり、他方は転移に由来するコホートである、2つのコホートの遺伝子発現プロファイルにおいて生じる変化と比較した。
【0181】
ER+乳がんの骨転移において富化される遺伝子であって、ER−乳がんの骨転移に関連する遺伝子の同定
次に、ER+乳がんの骨転移において富化される遺伝子の、ER−亜型における役割を評価した。ER+乳がんにおける骨転移について富化される遺伝子群には、c−MAF転写因子が含まれる。
【0182】
バイオインフォマティックスおよびコンピュータ生物学
統計学的RパケットおよびBioconductorを用いて、転移において富化される遺伝子群を得、それらの臨床的相関を証明した。データ処理に特異的な機能および構造は、インポートしたが、これらは、www.bioconductor.orgを介して一般に公開されたアクセスからのものである。
【0183】
(実施例1)
関連遺伝子の選択
骨転移を形成する傾向を有する、ER+乳がん細胞系に由来する細胞において示差的な様式で発現する遺伝子の選択について解析を実施した(
図1A)。実施された解析により、骨に転移する能力を有するMCF7 ER+細胞系から得られた細胞系において富化されるかまたはサイレンシングされる、91の遺伝子を同定することが可能となった(
図1B)。以下の基準:
i)侵襲性のER+乳がんと骨転移との臨床的相関、
ii)侵襲性の表現型(例えば、骨再吸収、炎症、新脈管形成)と適合性であるプロセスに関与することによる既に公知の機能、
iii)上記したような親集団と比較した、転移性集団間における発現レベルの変化、および
iv)遺伝子制御ネットワークおよび細胞のシグナル伝達経路における中心的な役割
に従うより詳細な研究のために、遺伝子および単一決定因子の機能を選択した。これらの基準に基づき、c−MAF転写因子を同定し、その発現レベルの変化による、骨における原発性ER+乳がん腫瘍の再発を予測する方法を確立した。
【0184】
(実施例2)
乳がんの亜型に関わらず、骨転移について富化される遺伝子の治療的価値および予後診断的価値
骨転移において富化される遺伝子を、本明細書で実施される、転移性細胞集団を選択するための実験系により、560例の乳がん患者の原発性乳がん腫瘍および58例の乳がん患者の転移についての発現プロファイルおよび臨床記録を含有する2つの異なるデータベースに対して評価した。これらの腫瘍は、乳がんの全ての亜型および転移の場所を代表する。データベースおよびそれらの臨床記録のいずれもが、公に入手可能である(GSE 2603、2034、12276、および14020)。
【0185】
骨転移の遺伝子を有するER+原発性腫瘍における遺伝子発現は、再発、転移なしの生存、および生存(
図1CおよびD)と有意に相関した。
【0186】
加えて、58例の乳がん患者の転移コホート(GSE 14020)の転移性組織におけるc−MAF遺伝子発現レベルを評価した。これらの転移は、肺、肝臓、骨、および脳から単離した。腫瘍または転移性病変(
図2A)が属する乳がんの亜型であるER+乳がんまたはER−乳がんに関わらず、骨転移に特異的なc−MAF遺伝子の富化が確認された。
【0187】
(実施例3)
ER−乳がんにおけるc−MAF骨転移性遺伝子のin vivoにおける機能の検証
解析において陽性であったc−MAF転移性遺伝子を、マウスにおける乳がん転移の実験的移植モデルによる骨転移性コロニー形成アッセイにおいて機能性で検証した。骨における増殖能が高いER−乳がん細胞の選択は、高レベルのc−MAF転移性遺伝子の選択を伴う(
図2B)。
【0188】
転移プロセスを方向付ける候補遺伝子を検証するために実施される近似法を、機能獲得アッセイとした。この目的で、c−MAF遺伝子を、親MDA−MB−231細胞において発現させ、その後、転移に寄与する遺伝子(CTGF)の発現を誘導するその能力を評価した(
図2C)。
【0189】
(実施例4)
組織特異的な転移性遺伝子のin vivoにおける機能の検証
解析において陽性であったc−MAF転移性遺伝子を、マウスにおける乳がん転移の実験的移植モデルによる骨転移性コロニー形成アッセイにおいて機能性で検証した。
【0190】
転移プロセスを方向付ける候補遺伝子を検証するために実施される近似法を、機能喪失アッセイおよび機能獲得アッセイとした。この目的で、c−MAF遺伝子を、親細胞または骨転移性が高い細胞の派生物において発現させるかサイレンシングし、その後、in vivoにおけるその骨転移能を評価した。
【0191】
機能獲得アッセイ
c−MAF遺伝子を発現させるため、レンチウイルス系を用いて、親腫瘍細胞および低転移能により選択された腫瘍細胞における候補遺伝子の異種の(heterologa)発現を誘導した。c−MAF遺伝子の転移誘導能は、心内経路を介してマウスに接種した(「実験的研究モデル」の節で記載した)転移性細胞を、生物発光によって追跡するための技法により決定した。全ての場合において、タンパク質のc−MAFを発現しないレンチウイルスベクターを感染させた、対応する対照細胞を、陰性対照としての対応する動物コホートに一致する様式で注射した(
図3B)。
【0192】
機能喪失アッセイ
内因性のc−MAF遺伝子発現レベルが高く、骨転移性が高いBoM2細胞系において、c−MAF遺伝子の発現は抑制された(
図3Aおよび3C)。この目的で、c−MAF遺伝子の発現を、BoM2細胞系に存在するレベルと比べて80%低減する能力を有する干渉RNA(siRNA)の発現を可能とするレンチウイルスベクターを用いた。c−MAF遺伝子の発現がサイレンシングされたこの細胞集団を、心内経路を介して免疫抑制マウスに接種し(「実験的研究モデル」の節で記載した)、これらの動物をモニタリングし、生物発光造影法により転移活性を検出した。これらの実験では、転移プロセスには関連しない他の遺伝子の発現に対して有効に作用するsiRNAをコードするレンチウイルスベクターで感染させることによってBoM2細胞系から得られる細胞を、陰性対照として用いた。
【0193】
(実施例5)
破骨細胞の分化アッセイ
マウスの骨髄に由来する初代細胞を単離し、M−CSF(マクロファージコロニー刺激因子)の存在下で培養して増殖させた。3日後、細胞をトリプシン処理し、各実験条件について3連で、24−ウェルプレートに播種した(1ウェル当たり1.5×10
4細胞)。破骨細胞の分化を誘導するため、これらの前駆細胞を、c−MAF遺伝子の「短」アイソフォームおよび「長」アイソフォームを過剰発現しているかまたはしていないMCF7 ER+乳がん細胞に由来する順化培地と共に、RANKリガンドおよびM−CSFの存在下で培養した。培地は3日間ごとに交換し、7日目に、酒石酸耐性酸性ホスファターゼ酵素(TRAP)の検出からなる破骨細胞の特異的な染色を実施した。画像は、倒立光学顕微鏡法により得た。TRAP陽性細胞数を決定し、1フィールド当たりの細胞総数で除した。最後に、全ての値を、対照群であるMCF7細胞の値により標準化した。
図4に観察されうる通り、破骨細胞の前駆細胞を、c−MAFの短アイソフォームまたは長アイソフォームを過剰発現するMCF7 ER+乳がん細胞に由来する培地と接触させた場合に、破骨細胞数が増大した。
【0194】
このアッセイにより、転移性細胞の、骨転移性環境または転移性ニッチに由来する成分との相互作用を決定することが可能となる。破骨細胞は、骨の分解に関与し、この分解は、骨溶解性の転移性病変において示される。
【0195】
(実施例6)
chr16q22−q24領域(c−MAF遺伝子を包含する)における染色体増幅の同定
影響を受けたゲノム領域におけるゲノムの変化と遺伝子発現の異常との間には強い相関が認められるため、発現プロファイルの解析によるコピー数の変化(CNA)の検出は、理論的に可能である(Pollackら、2002年;PNAS;99巻:12963〜12968頁)。とりわけ、遺伝子発現の解析を用いるCNAの正確な検出は可能であるが、開始の発現データの種類からはその困難も生じる(Huら、2009年、Cancer Cell、15巻:9〜20頁)。
【0196】
ER+乳がんの骨転移において富化される遺伝子の役割を評価した。この目的で、研究そのものにより実験室において生成し、高レベルのc−MAF遺伝子の発現を特徴とする、MCF7乳がん細胞系に由来する骨転移性の高い細胞であるBoM2におけるゲノムコピー数の変化を解析した。この解析は、親細胞の遺伝子発現プロファイルとMCF7に由来するBoM2の遺伝子発現プロファイルとの比較に基づいた。BoM2細胞において、ヒト細胞に存在する23種類の染色体内のそれらの位置において親細胞と比較して観察される遺伝子発現の差違を、アラインメントして位置決定した。
【0197】
こうして、ゲノムDNAの増幅または欠失の指標である、BoM2細胞におけるそれらの発現が、親細胞と比較して過剰発現または過小発現する遺伝子を示すゲノム領域(
図5)を同定した(Huら、2009年、Cancer Cell、15巻:9〜20頁)。この目的で、ソフトウェア「Partek Genomic Suite 6.5」を用いた。このソフトウェアは、BoM2細胞におけるそれらの発現が、親細胞と比較して増大するかまたは低減する遺伝子を同定することを可能とした。これらの遺伝子を同定したら、各遺伝子について観察される発現の差違を前記遺伝子の対応する染色体位置において示した。これらの観察をグラフに示すことにより、連続する染色体位置についての遺伝子の発現の持続した増大または低減に基づき、染色体領域の獲得または染色体領域の喪失を同定することが可能となった(
図5)。本発明の発明者らは、周知である上記cytobandを用いてこれらの領域を位置決定することが可能となった。
【0198】
BoM2細胞における増幅がMCF7 ER+親乳がん細胞と比較して示差的である領域の間では、c−MAF遺伝子をコードする遺伝子座を包含する染色体領域16q22−q24における獲得が観察された。
【0199】
次いで、乳房腫瘍における遺伝子コピー数と、乳がん患者の転移における遺伝子コピー数との変化の比率を評価した。こうして、「Cox対数ハザード比(HR)」モデルを用いて、患者における転移と関連する有意な数の遺伝子を有する染色体領域を同定した。ACE(発現データにおけるコピー数についての変化解析)(Huら、2009年、上記で引用した)における概念に従い、コピー数の変化を伴う潜在的な領域を位置決定した。「PhenoTest」Rパケットの関数を用いた。こうして、交差検証を介してパラメータを選択し、加算モデルの一般化を介して、各遺伝子についての「log HR」を得、ゲノム全体を通じて「log HR」を並べ替え(1000カ所の並替え)、Benjamini−Hochberg法によってP値を調整して、偽発見率(FDR)を0.05のレベルで制御することにより、統計学的有意性を評価した。少なくとも15の連続する有意な遺伝子を有する領域だけを同定した(
図5B)。c−MAF遺伝子を包含する16q12−q24領域は、これらの領域に含まれる。
【0200】
その後、MCF7親細胞における、および骨組織において転移を形成する傾向が強いことを特徴とするBoM2細胞系におけるc−MAF遺伝子コピー数を、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)によって特徴づけた。IGH遺伝子コピー数も、本実験の対照として同時に決定した。結果は、被験MCF7細胞の大半における、c−MAF遺伝子コピー数とIGF遺伝子コピー数との比率は1.5以下である、すなわち、両方の遺伝子のコピー数が同様である(
図6)のに対し、被験BoM2細胞の大半が示したc−MAF遺伝子コピー数とIGF遺伝子コピー数との比率は2より大きい(
図6)ことを示した。これらの結果は、乳がん細胞による骨転移性表現型の獲得が、c−MAF遺伝子コピー数の増大を伴うことを実証する。
【0201】
結論
c−MAFは、乳がんの転移プロセス、特に、ER+乳がんからの骨転移において、診断および予後診断のマーカーであり、原因となる標的遺伝子である。この結論は、本発明の一部を形成する臨床的な検証データならびに機能獲得実験および機能喪失実験により裏付けられる。
【0202】
原発性腫瘍におけるc−MAFの発現により、乳がん患者において骨転移を患うリスクの高いことが予測されることが裏付けられる、本明細書で示される結果を考慮すると、また、腫瘍がゲノム領域chr16q22−q24における増幅またはc−MAF遺伝子の増幅を有する細胞を含有する患者も、高リスクで骨転移を被り易い。したがって、c−MAF遺伝子または16q22−q24遺伝子座の増幅の決定は、原発性乳がん腫瘍からの骨転移の診断法および予測法として有用である。
【0203】
同様に、本発明の実験(実施例4および5)は、c−MAFが、転移(ER+腫瘍およびER−腫瘍の両方に由来する転移)を処置および/または防止するのに適する標的であることも示唆する。したがって、c−MAFインヒビターであれば、乳がんを有する被験体における転移を処置するのに有用であろう。