特許第6571703号(P6571703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571703
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】搬送用ツール
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/00 20060101AFI20190826BHJP
   B21D 43/05 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   B25J15/00 Z
   B21D43/05 U
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-23887(P2017-23887)
(22)【出願日】2017年2月13日
(65)【公開番号】特開2018-130771(P2018-130771A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2018年3月14日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 健
【審査官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0239184(US,A1)
【文献】 特開2007−210085(JP,A)
【文献】 特開2010−46706(JP,A)
【文献】 特開平8−141969(JP,A)
【文献】 特開2010−94695(JP,A)
【文献】 特開2016−49539(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0282066(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
B21D 43/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略帯板状のフレームと、
該フレームの厚さ方向の一側に、該フレームの長手方向に沿って移動可能に設けられ、ロボットの手首に取り付けられる手首側スライダと、
前記フレームの厚さ方向の他側に、該フレームの長手方向に沿って移動可能に設けられたワーク側スライダと、
該ワーク側スライダに取り付けられた先端揺動軸とを備え、
該先端揺動軸が、前記フレームの幅方向に延びる軸線回りに前記ワーク側スライダに揺動可能に支持されワークを支持するワーク支持部と、前記ワーク側スライダに取り付けられ前記ワーク支持部を揺動させるアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータが、前記軸線と非同軸に配置されるモータと、該モータの回転を減速する減速機と、該減速機の出力を前記ワーク支持部に伝達する動力伝達部とを備え、
前記ワーク支持部が、前記フレームの幅方向両側に延びるシャフトと、該シャフトの両端に設けられた一対のインタフェイス部とを備え
前記動力伝達部が、歯の噛み合いによって動力を伝達する機械要素からなり、前記減速機の出力を減速して前記ワーク支持部に伝達する搬送用ツール。
【請求項2】
一対の前記インタフェイス部が、互いに平行な取付面を備える請求項1に記載の搬送用ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送用ツールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス装置間のワークの搬送の高速化およびリーチ拡大を図る目的で、多関節ロボットの手首先端に取り付けられワークを一方向に直線状に移動させるスライド機構からなる搬送用ツールが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この特許文献1に記載された搬送用ツールは、帯板状のフレームの表裏面に、フレームの長手方向に沿って直線移動可能にそれぞれ支持されるとともにベルトによって相互に連結された2つのスライダを備えている。
【0003】
この搬送用ツールによれば、多関節ロボットの手首に固定された手首側スライダをフレームの長手方向に沿って一方向に駆動すると、ワークを支持するワーク側スライダが逆方向に移動するので、ワークの搬送を高速に行うことができるとともに、各スライダの可動範囲分のリーチ拡大を図り、各スライダの可動範囲の2倍のストロークを得ることができる。
【0004】
また、特許文献1の搬送用ツールは、ワーク側スライダに、フレームの幅方向に延びる軸線回りにワークを揺動させる先端揺動軸を備えている。この先端揺動軸を作動させることにより、搬送用ツールのフレームを移動させることなく、支持したワークの姿勢を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/239184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の搬送用ツールは、ワーク側スライダを軽量化するために先端揺動軸を駆動するモータを手首側スライダに配置し、タイミングベルトによって駆動することとしている。しかしながら、タイミングベルトはフレームの長さの2倍程度の長さを有するため、予張力を適正な値に維持することが困難であり、予張力の低下により、先端揺動軸を精度よく駆動することが困難となるという不都合がある。また、タイミングベルトは剛性が低いので、先端揺動軸に作用する負荷トルク変動をモータに伝達し難く、モータの電流値変化では、先端揺動軸の負荷トルク変動を迅速に検出することが困難であるという不都合がある。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、ワーク側スライダにおける小型軽量化を図りながら、先端揺動軸を精度よく駆動し、かつ、先端揺動軸における負荷トルク変動を迅速に検出することができる搬送用ツールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、略帯板状のフレームと、該フレームの厚さ方向の一側に、該フレームの長手方向に沿って移動可能に設けられ、ロボットの手首に取り付けられる手首側スライダと、前記フレームの厚さ方向の他側に、該フレームの長手方向に沿って移動可能に設けられたワーク側スライダと、該ワーク側スライダに取り付けられた先端揺動軸とを備え、該先端揺動軸が、前記フレームの幅方向に延びる軸線回りに前記ワーク側スライダに揺動可能に支持されワークを支持するワーク支持部と、前記ワーク側スライダに取り付けられ前記ワーク支持部を揺動させるアクチュエータとを備え、前記アクチュエータが、前記軸線と非同軸に配置されるモータと、該モータの回転を減速する減速機と、該減速機の出力を前記ワーク支持部に伝達する動力伝達部とを備え、前記ワーク支持部が、前記フレームの幅方向両側に延びるシャフトと、該シャフトの両端に設けられた一対のインタフェイス部とを備え、前記動力伝達部が、歯の噛み合いによって動力を伝達する機械要素からなり、前記減速機の出力を減速して前記ワーク支持部に伝達する搬送用ツールを提供する。
【0009】
本態様によれば、手首側スライダをロボットの手首に固定し、ワーク側スライダに取り付けられた先端揺動軸のワーク支持部にワークを支持させた状態で、フレームの長さ方向に手首側スライダおよびワーク側スライダを移動させることにより、ワークをフレームの長手方向に高速に搬送することができるとともに、各スライダの可動範囲分のリーチ拡大を図り、各スライダの可動範囲の2倍のストロークを得ることができる。
【0010】
また、先端揺動軸のアクチュエータの作動により、ワーク支持部を揺動させることにより、ワーク支持部に支持したワークの姿勢をフレームの幅方向に延びる軸線回りに変更することができる。
この場合において、ワーク支持部がワーク側スライダに固定されたアクチュエータによって駆動されるので、アクチュエータとワーク支持部とを近接して配置することができ、アクチュエータの動力をワーク支持部に伝達するための長く剛性の低いタイミングベルトが不要となる。これにより、タイミングベルトにおいて発生する摩擦損失を大幅に低減し、アクチュエータの動力を効率よくワーク支持部に伝達して、ワーク支持部を精度よく駆動し、かつ、先端揺動軸における負荷トルク変動を迅速に検出することができる。
【0011】
上記態様においては、前記アクチュエータが、前記モータの回転を減速する減速機と、該減速機の出力を前記ワーク支持部に伝達する動力伝達部とを備え
このようにすることで、モータの回転が減速機によって減速されることにより増幅されたトルクが動力伝達部によってワーク支持部に伝達される。これにより、モータの小型軽量化を図ることができる。
【0012】
また、上記態様においては、前記動力伝達部が、前記減速機の出力を減速して前記ワーク支持部に伝達する
このようにすることで、動力伝達部においても減速機から出力されたトルクが増幅されて伝達されるので、減速機を小型軽量化することができる。
【0013】
また、上記態様においては、前記モータが、前記軸線と非同軸に配置され、前記ワーク支持部が、前記フレームの幅方向両側に延びるシャフトと、該シャフトの両端に設けられた一対のインタフェイス部とを備え
このようにすることで、フレームを中心として幅方向の両側に延びるワーク着脱用のハンド等の機器をシャフトの両側の一対のインタフェイス部に容易に取り付けて重量バランスよく配置することができる。モータをワーク支持部の揺動軸線と非同軸に配置することにより、シャフトをフレームの幅方向の両側に延びる構造を容易に採用することができる。
【0014】
また、上記態様においては、一対の前記インタフェイス部が、互いに平行な取付面を備えていてもよい。
このようにすることで、一対のインタフェイス部に機器を取り付ける際に、インタフェイス部毎に機器との角度合わせを行う手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ワーク側スライダにおける小型軽量化を図りながら、先端揺動軸を精度よく駆動し、かつ、先端揺動軸における負荷トルク変動を迅速に検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る搬送用ツールを装着したロボットシステムを示す斜視図である。
図2図1の搬送用ツールを手首側スライダ側から見た斜視図である。
図3図1の搬送用ツールをワーク側スライダ側から見た斜視図である。
図4図1の搬送用ツールのワーク側スライダに設けられた先端揺動軸を示す正面図である。
図5図2の先端揺動軸の一部を破断して示す平面図である。
図6図1のロボットシステムによるプレス装置に対するワークの供給および取り出しを説明する斜視図である。
図7図1の搬送用ツールに取り付けられるツールの一例を示す斜視図である。
図8図1の搬送用ツールの先端揺動軸によりワークの角度を変更する場合の多関節ロボットの動作範囲を示す正面図である。
図9図1の搬送用ツールにおいて、先端揺動軸を用いることなくワークの角度を変更する場合の多関節ロボットの動作範囲を示す正面図である。
図10図1の搬送用ツールの先端揺動軸を構成するシャフトの両端に設けられるインタフェイス部の一例を示す斜視図である。
図11図10のインタフェイス部の他の例を示す斜視図である。
図12図10のインタフェイス部のシャフトへの取付の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る搬送用ツール1について、図面を参照しながら以下に説明する。
本実施形態に係る搬送用ツール1は、図1に示されるように、多関節ロボット(ロボット)30の手首先端に取り付けられるスライドアーム型の装置である。
【0018】
多関節ロボット30は、例えば、図1に示されるように、支持台2に固定される基台3と、基台3の一側面に水平な第1軸線A回りに回転可能に支持される旋回ベース4と、第1軸線Aと間隔をあけた平行な軸線(図示略)に直交する第2軸線B回りに揺動可能に支持された第1アーム5と、第1アーム5の長手方向に直線移動可能に支持された第2アーム6と、第2アーム6の先端に配置された手首ユニット(手首)7とを備えている。
【0019】
すなわち、多関節ロボット30は、基台3に対して旋回ベース4を第1軸線A回りに回転させる第1軸J1と、旋回ベース4に対して第1アーム5を第2軸線B回りに揺動させる第2軸J2と、第1アーム5に対して第2アーム6を第1アーム5の長手方向に直線移動させる第3軸J3とを備えている。
手首ユニット7としては、相互に交差する軸線C,D,E回りに回転する2以上の回転軸を備えていればよい。
【0020】
手首ユニット7は、相互に直交する軸線C,D,E回りに回転する3つの回転軸(第4軸J4、第5軸J5および第6軸J6)を備え、末端の回転軸J6にツール等を固定するためのフェイスプレート8が配置されている。第4軸J4は、第2アーム6に対して第1アーム5の長手方向に平行な第4軸線(回転軸)C回りに第1手首ハウジング9を回転させ、第5軸J5は、第4軸線Cに直交する第5軸線(回転軸)D回りに第2手首ハウジング10を回転させ、第6軸J6は、第5軸線Dに直交する第6軸線(回転軸)E回りにフェイスプレート8を回転させるようになっている。図中、符号11から符号16は、それぞれ第1軸J1から第6軸J6のモータである。
【0021】
第1軸J1は、旋回ベース4を水平な第1軸線A回りに回転させるので、旋回ベース4および該旋回ベース4に取り付けられている第1アーム5から手首ユニット7までを振り子のように揺動させるようになっている。この振り子状の動作範囲は、第1軸線Aを含む略水平面以下に配置されている。振り子状の動作によってワーク(図示略)を搬送する場合においては、重力は常に加速または減速を補助する方向に作用するので、第1軸J1の作動による揺動動作は高速かつ省エネルギで行うことができる。
【0022】
第2軸J2は、旋回ベース4に対する第1アーム5の傾きを変更することができるようになっている。第3軸J3は第1アーム5に対して第2アーム6を直線移動させ、第1アーム5と第2アーム6とからなるアーム全体の長さを伸縮させることができるようになっている。
すなわち、第1軸J1から第3軸J3によって、手首ユニット7を動作範囲内の任意の位置に配置することができるようになっている。そして、第4軸J4から第6軸J6によってフェイスプレート8に取り付けるワークの姿勢を任意に調整することができるようになっている。
【0023】
本実施形態に係る搬送用ツール1は、帯板状(長方形の平板状)の形態を有するフレーム18と、該フレーム18を厚さ方向に挟んだ両側に配置された2つのスライダ19,20と備えている。
【0024】
2つのスライダ19,20は、図2および図3に示されるように、フレーム18の表裏面に、フレーム18の長手方向に沿って配置されたガイドレール31に沿って長手方向に移動可能に支持されている。また、2つのスライダ19,20はフレーム18の長手方向の両端に平行な軸線回りに回転可能に支持されたプーリ32に掛け渡されたベルト21によって連結されている。
【0025】
フレーム18の幅方向の一端面には長手方向に沿ってラックギヤ33が固定されている。ラックギヤ33には、図3に示されるように、スライダ(手首側スライダ)19に取り付けられたモータ22のピニオンギヤ34が噛み合っている。モータ22を駆動することにより、スライダ19をフレーム18の表面において長手方向の一方向に移動させると、ベルト21によって連結された他方のスライダ(ワーク側スライダ)20が、ベルト21によって牽引されることによりフレーム18の裏側において、長手方向の他方向に移動させられるようになっている。すなわち、2つのスライダ19,20は、フレーム18の長手方向に沿って、相互に逆方向に相対移動させられるようになっている。
【0026】
スライダ19は、手首ユニット7の第6軸J6に固定されている。他方のスライダ20には、図4および図5に示されるように、ワークを吸着する複数の吸着パッド35を備えたツールS(図6および図7参照。)を取り付けるワーク支持部36と、該ワーク支持部36をフレーム18の幅方向に延びる軸線F回りに揺動させる先端揺動軸37とが設けられている。
【0027】
ワーク支持部36は、軸線F回りに回転可能にスライダ20に取り付けられた直棒状のシャフト38と、例えば、図10または図11に示されるように、該シャフト38の両端に固定された2つのインタフェイス部39,40とを備えている。2つのインタフェイス部39,40は、互いに平行な取付面41を有している。これにより、インタフェイス部39,40にツールSを取り付ける際の角度合わせを行う必要がなく、簡易に取り付けることができるようになっている。
【0028】
先端揺動軸37は、図4および図5に示されるように、モータ(アクチュエータ)42と、該モータ42の回転を減速する減速機(アクチュエータ)43と、該減速機43の出力トルクをシャフト38に伝達する一対のギヤ(動力伝達部、アクチュエータ)44,45とを備えている。減速機43の出力軸、一対のギヤ44,45およびシャフト38を回転可能に支持するベアリング46はギヤボックス47内に収容され、一括して潤滑されている。
【0029】
ギヤボックス47はスライダ20に固定され、モータ42は減速機43を介してギヤボックス47に固定されている。モータ42は、シャフト38の軸線Fと平行に配置されている。一対のギヤ44,45は、例えば、平歯車であって、減速機43の出力軸に固定された駆動ギヤ44と、シャフト38に固定された従動ギヤ45とを備えている。従動ギヤ45を駆動ギヤ44より十分に大径に形成することにより、駆動ギヤ44の回転が減速されてシャフト38に伝達されるようになっている。
【0030】
ツールSは、図6に示されるように、シャフト38の両端の一対のインタフェイス部39,40にそれぞれ固定される支柱部48と、該支柱部48からそれぞれ枝分かれして延びる複数の分岐部49とを備え、各分岐部49に複数の吸着パッド35が同一方向に向けて配置されている。
ツールSは、例えば、図7に示されるように、プレス装置24,25に平板状のワークWを供給し、プレス装置24,25において加工された後のワークWを取り出す際に、吸着パッド35によりワークWを吸着および解放するようになっている。
【0031】
また、多関節ロボット30には、図1に示されるように、手首ユニット7のフェイスプレート8と該フェイスプレート8に固定される一方のスライダ19とを所定の傾斜角度をなして固定する傾斜連結部材23が備えられている。
傾斜連結部材23は、第1アーム5を第2軸線B回りに所定角度だけ揺動させるとともに、手首ユニット7を真っ直ぐに配置したとき、すなわち、第4軸線Cと第6軸線Eとが一直線上に配置された状態で、搬送用ツール1の幅方向および長手方向が略水平となるように、手首ユニット7の第6軸J6と搬送用ツール1とを連結するようになっている。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る搬送用ツール1の作用について、特に、図6に示されるプレス加工システム50のように、間隔をあけて隣接する2つのプレス装置24,25間において、ワークWの供給および取り出しを行う場合について説明する。
多関節ロボット30によれば、図1に示されるように、第1アーム5を第2軸線B回りに所定角度だけ揺動させることにより、搬送用ツール1のフレーム18を略水平の姿勢に配置する。このとき、搬送用ツール1の幅方向の中心が、プレス装置24,25の中心を結ぶ直線(プレス中心線)P上に配置されるように配置する。
【0033】
次いで、図6に示されるように、旋回ベース4を基台3に対して第1軸線A回りに一方向に回転させて、第1アーム5および第2アーム6を振り子状に動作させるとともに、手首ユニット7の各回転軸J4,J5,J6を動作させることによって、搬送用ツール1の略水平な姿勢と、長手方向および幅方向を一定方向に保ちながら、搬送用ツール1をプレス中心線Pに沿って移動させる。また、このとき搬送用ツール1のモータ22を作動させて、フレーム18が、第1アーム5の揺動方向前方に延びるように2つのスライダ19,20を相対移動させる。
【0034】
これにより、手首ユニット7をプレス装置24,25の外部に配置した状態で、搬送用ツール1のみを一方のプレス装置24内に挿入することができる。そして、この位置で、スライダ19に設けたツールSによってプレス装置24内のワークW、例えば、プレス加工の一工程が終了した板金を吸着してプレス装置24の金型(図示略)から取り外すことができる。
【0035】
この状態で、旋回ベース4、第1アーム5および第2アーム6を振り子状に動作させて手首ユニット7を他方のプレス装置25に近接させ、手首ユニット7を動作させて搬送用ツール1の姿勢を維持するとともに、搬送用ツール1を作動させて、フレーム18およびツールSで把持したワークWが他方のプレス装置25内に挿入されるよう2つのスライダ19,20を相対移動させる。この場合にも、搬送用ツール1はプレス中心線Pに沿って移動させられるので、ツールSを作動させて、搬送してきたワークWを解放し、他方のプレス装置25の金型に引き渡すことができる。
【0036】
すなわち、搬送用ツール1は帯板状のフレーム18を有し、手首ユニット7と比較して、厚さ寸法を十分に小さく構成できる。したがって、プレス装置24,25内の上下に開かれた金型間の狭い隙間であっても、搬送用ツール1を容易に挿入してワークWの把持または解放を行うことができる。
特に、プレス装置24,25間でワークWを搬送する場合には、プレス装置24,25の金型が開き始めた直後にワークWを把持するためのツールSを進入させ、金型が閉じる直前にプレス装置24,25内から退出させることにより、プレス工程の効率化を図ることが求められている。したがって、厚さ寸法の小さい搬送用ツール1は、プレス装置24,25内に進入する機構として好適である。
【0037】
また、3軸J4,J5,J6の手首ユニット7によって搬送用ツール1の姿勢を一定に維持しながら、旋回ベース4の回転、第1アーム5の揺動および第2アーム6の直線移動によって、手首ユニット7を直線状の軌跡に沿って移動させるので、搬送用ツール1を同一平面内で移動させることができて、プレス装置24,25の各部と搬送用ツール1との干渉を回避することができるという利点がある。
【0038】
さらに、第1アーム5に対してその長手方向に第2アーム6を直線移動させることで、第1アーム5と第2アーム6とからなるアーム全体の形態を、常に略直線状に維持することができ、第1アーム5および第2アーム6の各部がプレス装置24,25の各部や周辺機器に干渉することを回避することができるという利点もある。
【0039】
また、搬送用ツール1は、2つのスライダ19,20を水平方向に相対移動させることにより、フレーム18を水平移動させるので、フレーム18の移動方向をワークWの搬送方向に一致させておくことにより、ワークWの搬送時に手首ユニット7を大きく移動させなくても、搬送用ツール1の作動によってワークWを高速に搬送することができるという利点がある。
【0040】
また、多関節ロボット30においては、傾斜連結部材23によって、手首ユニット7の第6軸線Eを搬送用ツール1のフレーム18の幅方向に傾斜させて取り付けているので、搬送用ツール1のフレーム18を略水平な姿勢のまま移動させる際に、手首ユニット7の各回転軸J4,J5,J6に無理な動作をさせずに済むという利点がある。
【0041】
すなわち、傾斜連結部材23によって、手首ユニット7の全ての回転軸J4,J5,J6を原点位置に配置した状態でも搬送用ツール1のフレーム18を略水平な姿勢に設定することにより、ワークWの搬送中の手首ユニット7の各回転軸J4,J5,J6の回転角度は大きくならず、ワークWの搬送速度を向上することができるという利点がある。
【0042】
また、本実施形態に係る搬送用ツール1においては、2つのスライダ19,20の内、手首ユニット7の第6軸J6に固定されるスライダ19とは、フレーム18の反対側に配置されるスライダ20に、先端揺動軸37を介してツールSが取り付けられているので、先端揺動軸37の動作によって、フレーム18の幅方向に沿う軸線F回りのツールSの角度を変更することができる。
【0043】
プレス加工されるワークWの形状の多様化により、プレス装置24,25の金型からワークWを取り外す方向は鉛直方向には限られない。このような場合に、図8に示されるように、先端揺動軸37を動作させてツールSを傾斜させることにより、搬送用ツール1の姿勢を変更しなくてもツールSの傾きをワークWの取り出し方向に合わせることができる。図8は傾斜連結部材23を有しない場合を示している。
【0044】
仮に、先端揺動軸37を使用することなく、あるいは、先端揺動軸37を有しない場合には、図9に示されるように、ツールSの傾きの変更は、多関節ロボット30の手首ユニット7の位置の移動による搬送用ツール1の姿勢変更を伴うことになり、第2アーム6や手首ユニット7および搬送用ツール1がプレス装置24,25や周辺機器と干渉する可能性が高くなる。図9において破線は、ツールSによってワークWを把持するための手首ユニット7の動作範囲を示している。
【0045】
すなわち、本実施形態に係る搬送用ツール1は、図9に示されるように、先端揺動軸37を備えることにより、プレス装置24,25や周辺機器との干渉を容易に回避することができ、また、ツールSの角度変更のための旋回ベース4、第1アーム5、第2アーム6および手首ユニット7の動作を最小限に抑えて、搬送時間の増大を防止することができるという利点がある。
【0046】
さらに、本実施形態に係る搬送用ツール1によれば、ワーク支持部36を軸線F回りに揺動させるための動力を発生するモータ42がワーク支持部36を回転可能に支持するスライダ20上にワーク支持部36に近接して搭載されているので、従来のようにフレーム18の長手方向の寸法の2倍の長さを有する先端揺動軸駆動用のベルト(図示略)で駆動する必要がなく、ワーク支持部36を効率よく揺動させることができる。その結果、ベルト駆動の場合に発生する摩擦を低減して動力を効率よく利用でき、ワーク支持部36を駆動するためのモータ42を小型化することができる。
【0047】
さらに、モータ42の出力をリジッドな機械要素である減速機43およびギヤ44,45を介してシャフト38に伝達しているので、シャフト38に作用する負荷トルクの変動をモータ42の電流値変化によって容易に検出することができる。これにより、ツールSやワークWが周辺機器と干渉したか否か等を高精度に検出することができる。また、先端揺動軸駆動用のベルトと比較してメインテナンス頻度を大幅に低減することができるという利点もある。
【0048】
また、本実施形態に係る搬送用ツール1によれば、減速機43の出力軸をワーク支持部36に直結することなく、一対のギヤ44,45を介して連結しているので、モータ42をワーク支持部36の軸線F上に同軸に配置せずに済み、ワーク支持部36をフレーム18の幅方向の両側に延ばして、両端に一対のインタフェイス部39,40を設けることができる。
【0049】
これにより、図6に示されるように、比較的大きなワークWを搬送するために、ツールSおよびワークWをフレーム18の幅方向の両側に延びるように配置する場合に、ツールSをフレーム18の幅方向の両側に配置されたインタフェイス部39,40に取り付けて、フレーム18をツールSおよびワークWのほぼ重心位置に容易に配置することができる。これにより、大きなツールSおよびワークWの重量バランスを容易に保ちながら搬送することができるという利点がある。
【0050】
また、本実施形態においては、減速機43の出力軸とワーク支持部36との間の一対のギヤ44,45が、減速機43の出力の回転を減速してワーク支持部36に伝達する減速比を有しているので、減速機43の出力トルクを増幅してワーク支持部36に伝達することができる。これにより、モータ42および減速機43のさらなる小型軽量化を図ることができる。
【0051】
なお、本実施形態においては、先端揺動軸37が、シャフト38を揺動させる軸線Fに平行に配置されたモータ42を備え、モータ42および減速機43からの動力を一対のギヤ44,45によってシャフト38に伝達することとしたが、これに限定されるものではなく、モータ42をシャフト38に交差させて配置し、ベベルギヤによって動力を伝達することにしてもよい。また、動力伝達部としては、平歯車からなる一対のギヤ44,45に限定されるものではなく、複数のギヤからなるギヤ列によって構成してもよい。
【0052】
また、減速機43としては独自の密封手段によって潤滑材を封入可能な構造のものを採用し、ギヤボックス47内の潤滑とは分離することにしてもよい。これにより、減速機43の交換を容易にすることができる。
【0053】
また、シャフト38の両端のインタフェイス部39,40としては、シャフト38に一体に固定されているものの他、図12に示されるように、くさび効果を利用して丸棒状のシャフト38の外周面に摩擦により着脱可能に固定される摩擦継手51を採用することにしてもよい。これにより、ツールSに合わせて適切なインタフェイス部39,40を採用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 搬送用ツール
7 手首ユニット(手首)
18 フレーム
19 スライダ(手首側スライダ)
20 スライダ(ワーク側スライダ)
30 多関節ロボット(ロボット)
36 ワーク支持部
37 先端揺動軸
38 シャフト
39,40 インタフェイス部
41 取付面
42 モータ(アクチュエータ)
43 減速機(アクチュエータ)
44 ギヤ(駆動ギヤ、動力伝達部、アクチュエータ)
45 ギヤ(従動ギヤ、動力伝達部、アクチュエータ)
51 摩擦継手(インタフェイス部)
F 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12