特許第6571709号(P6571709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571709
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】粒子測定装置及び空気清浄機
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/04 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   G01N15/04 D
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-52063(P2017-52063)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155573(P2018-155573A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】塩家 洋一
(72)【発明者】
【氏名】坂野 晋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 利浩
【審査官】 多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−128795(JP,A)
【文献】 特開2012−117882(JP,A)
【文献】 特開平11−258145(JP,A)
【文献】 特開2015−210189(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0016357(US,A1)
【文献】 特開平10−311784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体又は液体である流体中に含まれる粒子の粒径を測定する粒子測定装置であって、
検知領域に光を投光する投光素子と、前記検知領域に位置する前記粒子によって散乱された光の散乱光を受光する受光素子とを有する粒子検知センサと、
前記受光素子からの出力を示すセンサ信号に含まれる前記粒子に対応した波形に対し、ピークの上がり始め値とピークの下がり始め値との差、及び、ピークの上がり始め値によって決まる係数とを用いる計算に基づき、粒径を演算することを特徴とする粒子測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子測定装置を備えることを特徴とする空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体又は液体である流体中に含まれる粒子を測定する粒子測定装置、当該粒子測定装置を備える空気清浄機、及び、粒子測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光散乱式粒子検出センサは、投光素子と受光素子とを備える光電式センサであり、測定対象の気体を取り込んで、投光素子の光を当該気体に照射し、その散乱光によって気体に含まれる粒子の有無を検出するものである。例えば、大気中に浮遊するホコリ・花粉・煙等の粒子を検出することができる。
【0003】
この種の光散乱式粒子検出センサを含む粒子測定装置として、当該光散乱式粒子検出センサからの検知信号を用いて、大気中に含まれる粒子について、粒径の小さな粒子(微小粒子)から大きな粒子(粗大粒子)までを測定する方法で、かつ、粒子測定装置の長期信頼性を確保する手法が説明されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−128795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、装置を微小粒子の粒径に合わせて調整した場合、粗大粒子が測定できないことがある課題を解決するもので、(i)受光素子からの出力を示すセンサ信号に含まれる前記粒子に対応したパルス波形のピーク値が所定の閾値未満の場合、当該ピーク値を用いて前記粒子の粒径を演算し、(ii)前記ピーク値が前記閾値以上の場合、前記閾値未満の所定の値における前記パルス波形の時間幅を用いて前記粒子の粒径を演算する演算部とを備える特徴をもつ。
【0006】
しかしながら、この技術では、粒子が高濃度である場合に、測定に課題がある。
【0007】
具体的には、粒子が高濃度であると、センサ信号に含まれる粒子に対応したパルス波形は複数重なるため、ピーク値の読み値がそのまま粒径に対応させられない場合や、複数のピークを単一ピークと捉えて粗大粒子である、と誤って判定してしまう場合が発生しうる。
【0008】
そこで、本発明は、粒子が高濃度で存在するときでも、粒子の大小の分布をより適切に捉えることができる粒子測定装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る粒子測定装置は、気体又は液体である流体中に含まれる粒子の粒径を測定する粒子測定装置であって、検知領域に光を投光する投光素子と、前記検知領域に位置する前記粒子によって散乱された光の散乱光を受光する受光素子とを有する粒子検知センサと、前記受光素子からの出力を示すセンサ信号に含まれる前記粒子に対応した波形に対し、ピークの上がり始め値とピークの下がり始め値との差、及び、ピークの上がり始め値によって決まる係数とを用いる計算に基づき、粒径を演算することを特徴とする。
【0010】
なお、本発明の粒径を演算する機能は、構造物としての粒子測定装置と一体となっている形態でも良いし、一部の機能を別の機器が役割を担う形態であっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高濃度の粒子でも、粒子の大小の分布がより適切に捉えることができる粒子測定装置などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る粒子測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る粒子測定装置の粒子検知センサの構成の一例を示す図である。
図3】実施の形態に係る検知領域で、粒子が検知されるイメージを示す図である。
図4】実施の形態に係る受光素子から出力される電流信号を電圧信号に変換した一例を示す波形図である。
図5】実施の形態に係る図4の波形図を説明するための図である。
図6】実施の形態に係る図4及び図5の波形図と検知される粒子の関連を説明するためのイメージ図である。
図7】実施の形態に係る信号処理部の動作を示すフローチャートである。
図8】実施の形態に係る粒径演算処理を示すフローチャートである。
図9】実施の形態に係る空気中のフライアッシュで検知・演算された結果の一例を示す図である。
図10】実施の形態に係る空気中のフライアッシュで、所定の時刻ごとに検知・演算された結果の一例を示す図である。
図11】実施の形態に係るフライアッシュの粒度分布の一例である。
図12】実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、粒径と高さ1mからの落下時間の関係を示す図である。
図13】実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、高さ1mから落下することを考慮して算術処理した粒度分布を示す図である。
図14】実施の形態に係るセンサ信号の粒径への換算事例である。
図15A】実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、センサの検知結果と沈降速度式を考慮した計算結果とを比較するフローチャートの一例である。
図15B】実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、センサの検知結果と沈降速度式を考慮した計算結果とを比較する図である。
図16】実施の形態に係る空気中の石松子で、所定の時刻ごとに検知・演算された結果の一例を示す図である。
図17】は、実施の形態に係る石松子の粒度分布の一例である。
図18】は、実施の形態に係る空気中の石松子において、粒径と高さ1mからの落下時間の関係を示す図である。
図19】実施の形態に係る空気中の石松子において、高さ1mから落下することを考慮して算術処理した粒度分布を示す図である。
図20】実施の形態に係る空気中のフライアッシュ及び石松子において、所定の時刻ごとに検知・演算された結果の一例を示す図である。
図21】実施の形態に係る空気中のフライアッシュの例(図10)及び石松子の例(図16)を合成した図である。
図22】実施の形態に係る空気清浄機の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態に係る粒子測定装置などについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、並びに、ステップ及びステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0014】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、同じ構成部材については同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する場合がある。
【0015】
まず、本発明の実施の形態に係る粒子測定装置の全体構成について説明する。図1は、実施の形態に係る粒子測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0016】
同図に示すように、粒子測定装置1は、粒子検知センサ2、アナログ信号処理部、及び、電源部を含むセンサモジュールと、汎用MPU(Micro Processing Unit)とを備え、大気(気体)のうち、本実施の形態に係る粒子測定装置1の近傍に漂う空気(以下、周辺空気と称する)に含まれる粒子の粒径を測定する。
【0017】
この変形例として、信号処理部のすべて、又は一部を、別の機器が役割を担う形態であっても良い。
【0018】
図2は、実施の形態に係る粒子測定装置の粒子検知センサの構成の一例を示す図である。
以下、粒子測定装置1の各構成について、具体的に説明する。
【0019】
粒子検知センサ2は、投光素子3と受光素子4とを備える光電式センサであり、検知領域9における粒子Pによる投光素子3からの光の散乱光を受光素子4で受光することにより周辺空気中に含まれる粒子Pを検出するものである。これらの投光素子3、受光素子4及び検知領域9は、外光が照射されないように、筐体10の内部に配置され、投光素子3及び受光素子4は当該筐体10によって保持されている。また、本実施の形態における粒子検知センサ2は、さらに、周辺空気を加熱して粒子測定装置1の内部空間へ引き込む流動を引き起こす加熱部11を有する。流体を流すファンなどの手段を備えている場合、加熱部11は、あってもなくても良い。
【0020】
投光素子3は、所定の波長の光を発する光源(発光部)であり、例えば、LED(Light Emitting Diode)や半導体レーザ等の固体発光素子である。投光素子3としては、赤外光、青色光、緑色光、赤色光又は紫外光を発する発光素子を用いることができる。この場合、投光素子3は、2波長以上の混合波を発するように構成されてもよい。本実施の形態では、粒子Pによる光の散乱強度に鑑みて、投光素子3として、例えば、400nm〜1000nmの波長の光を出力する砲弾型のLEDを用いる。
【0021】
なお、投光素子3の発光波長が短いほど、粒径の小さな粒子Pを検出しやすくなる。また、投光素子3の発光制御方式は特に限定されるものではなく、投光素子3から出射する光は、DC駆動による連続光又はパルス光等とすることができる。また、投光素子3の出力の大きさは、時間的に変化していてもよい。
【0022】
投光素子3から出射された光は、例えば、投光素子3の前方に配置された投光レンズを介して検知領域9を通過する。この際、検知領域9を粒子Pが通過していると、当該粒子Pによって投光素子3からの光が散乱される。
【0023】
受光素子4は、検知領域9における粒子Pによる投光素子3からの光の散乱光を受光する受光部であり、例えば、フォトダイオード、フォトICダイオード、フォトトランジスタ、又は、光電子倍増管等、光を受けて電気信号に変換する素子(光検出器)である。具体的には、受光素子4は、電気信号として電流信号を生成する。つまり、受光素子4は、受光した光強度に応じた電流信号を出力する。
【0024】
粒子Pによる散乱光は、例えば、検知領域9と当該受光素子4との間に配置された受光レンズによって、受光素子4に集光される。
【0025】
筐体11は、遮光性を融資、粒子Pを含む周辺空気(気体)が流れる筒状の空間領域である粒子流路が設けられた部材である。例えば、筐体10は、迷光を減衰させやすいように、少なくとも内面が黒色である。具体的には、筐体10の内面における反射は、鏡面反射でなくてもよく、光の一部が散乱反射されてもよい。
【0026】
ここで、迷光は、粒子Pによる散乱光以外の光であり、具体的には、投光素子3が出射した光のうち検知領域9において粒子Pに散乱されることなく、筐体10内を進行する光等である。また、迷光には、粒子流路によって筐体10の内部に侵入した外光も含まれる。
【0027】
筐体10は、例えば、ABS樹脂などの樹脂材料を用いた射出成形により形成される。このとき、例えば、黒色の顔料又は染料を添加した樹脂材料を用いることで、筐体10の内面を黒色面にすることができる。あるいは、射出成形後に内面に黒色塗料を塗布することで、筐体10の内面を黒色面にすることができる。また、筐体10の内面にシボ加工などの表面処理を行うことによって、迷光を減衰させてもよい。
【0028】
検知領域9は、測定対象の気体に含まれる粒子Pであり、投光素子3の光が投光される空間領域と投光素子3の光が粒子Pに当たって発生した散乱光を受光素子4に導くための空間領域とが重なる空間領域である。また、検知領域9は、粒子流路内に存在するように設定されており、測定対象の気体は、粒子流路の入口12から筐体10の内部に侵入し、粒子流路を通って検知領域9に導かれ、粒子流路の出口13から筐体10の外部に流出される。
【0029】
なお、本実施の形態において、粒子流路の流路方向(測定対象の気体が流れる方向)は、図2の紙面上上下方向としているが、図2の紙面垂直方向としてもよい。つまり、本実施の形態では、粒子流路の流路軸は、投光素子3及び受光素子4の各光軸が通る平面上に存在するように設定しているが、当該平面と直交するように設定されていてもよい。
【0030】
加熱部11は、粒子Pを含む周辺空気を検知領域9に導入するために気体を加熱するものであり、粒子流路内に流れる気体の流れを促進させるための気流を発生させる気流発生装置として機能する。具体的には、加熱部11は、ヒータ抵抗等であり、本実施の形態では、粒子流路内に配置されている。つまり、加熱部11は、粒子流路内の気体を加熱して、上昇気流を発生させるので、図2に示すように、粒子流路の下方部分に設置するとよい。なお、加熱部11が動作していない状態でも、気体は、粒子流路内を通過することができる。
【0031】
また、粒子流路内を通過する気体の流れを促進するために、送風ファンを使用してもよい。送風ファンを使用しない場合、粒子Pは、検知領域9を漂うだけで、同じ粒子を複数回検知する可能性もある。一方、送風ファンを使用した場合、粒子Pは、流体又は気体の乱流に従って検知領域9を通過する確率が高くなるため、同じ粒子Pが漂うことを検出される可能性は小さくできる。このため、送風ファンを使用する場合、加熱部11はあっても無くてもよい。
【0032】
粒子流路内に流れる気体の流れを促進するため、送風ファンを使用することが好的である。ただし、粒子を粒子流路の入口12に導くための風量を変化させるときは、粒径の演算設定を変更する必要がある。
【0033】
図3は、実施の形態に係る検知領域で、粒子が検知されるイメージを示す図である。
検知領域9は、投光素子3と受光素子4との光軸が交わる領域であり、この検知領域9にて投光素子3からの光が、粒子表面で散乱され、受光素子4で受光される。ここでは、略球形の粒子Pで説明するが、粒子Pの曲率に従い、散乱の強い部分14と弱い部分15が存在する。(A)で示すような小さい粒子は曲率が小さいため、散乱の強い部分14が小さく、(C)で示すような大きい粒子は曲率が大きいため、散乱の強い部分14が大きい。このような散乱の強弱に従い、受光素子4からの信号が変化することで、粒径の大小に対応させられる。
【実施例1】
【0034】
図4は、実施の形態に係る受光素子から出力される電流信号を電圧信号に変換した一例を示す波形図である。
【0035】
実施条件としては、1立方メートルのアクリル樹脂製容器内で、JIS Z8901に規定された試験用粉体1の5種(フライアッシュ)0.05gを散布させ、45秒後から粒子検知装置を作動させ、1ミリ秒ごとに取得したIV変換後の電圧信号である。粒子を散布させた直後であるため、信号が重なって観測されている。この信号が重なった部分について、簡易的に信号を分けて示したのが図5である。
【0036】
つまり、図4で重なって観測された信号は、図5中、(ア)(イ)(ウ)(エ)で示す、4つの粒子に対応する信号と解釈できる。
【0037】
図5で、例えば、(エ)では、本来のピーク値は見なしピーク値VPCとなるべきであるが、ピークの下がり始め値V2に相当するピーク値VPを読んだのでは、適切なデータ取得ができなくなる。
【0038】
また、図5中の(ア)(イ)の信号と、これらの信号に対する粒子の検知領域の通過のイメージを、図6に示す。
【0039】
矢印16は、粒子群の通過方向を示す矢印であり、時間の経過に伴い、(a)(b)(c)(d)(e)と、粒子Pが検知領域9を通過するところを図示した。
(a)で(ア)の粒子の通過が始まり、(c)で(ア)の粒子による散乱光が最大となり、その後(d)に掛けて信号は下がっていき、(イ)の粒子の通過が始まる(e)で、再び信号は上がり始める。このように信号が重なった場合、ピーク値VPの絶対値で読み取ったのでは、信号が適切に読めなくなるおそれがある。
【0040】
本発明は、このように信号が適切に読めなくなるおそれを低減する手段を提供する。
【0041】
次に、信号処理部(アナログ信号処理部及び汎用MPU)の動作について、説明する。
【0042】
図7は、実施の形態に係る信号処理部の動作を示すフローチャートである。
【0043】
同図に示すように、まず、IV変換部5は、受光素子4から出力された電流を電圧に変換することにより、電圧信号を生成する。つまり、受光素子4から出力された電流信号は電圧信号へと変換される。
【0044】
次に、増幅部6は、当該電圧信号を所定の帯域で増幅する。
【0045】
その後、AD変換部7は、増幅部6で増幅されたアナログ信号である電圧信号をデジタル変換(AD変換)することにより、デジタルデータを生成する。つまり、AD変換部7は、サンプリング及び量子化することにより、受光素子4からの出力を示すセンサ信号がデジタル化された時系列のデジタルデータを生成して、演算部8に出力する。
【0046】
次に、粒径演算処理の手順について、説明する。
【0047】
図8は、実施の形態に係る粒径演算処理を示すフローチャートである。
【0048】
このフローチャートについて、より具体的に手順を説明する。
【0049】
(手順1)前後の差の演算17として、所定の時刻の信号(電圧値)に対し、直後と直前の時刻の信号(電圧値)の差を求める。例えば、時刻6.300秒時点の信号に対しては、6.301秒時点の電圧値と6.299秒時点の電圧値の差を求める。このようにして、各時刻に対し、信号(電圧値)の差を求める。この前後の差の値18の符号が、マイナスからプラスに変わった時点の信号(電圧値)を『ピークの上がり始め値V1』と決め、プラスからマイナスに変わった時点の信号(電圧値)を『ピークの下がり始め値V2』と決める。
【0050】
(手順2)前記の『ピークの上がり始め値V1』と『ピークの下がり始め値V2』の差を求め、これを「ピーク差VD」と定める(「ピーク差VD」の演算19)。
【0051】
(手順3)『ピークの上がり始め値V1』について、次の判定を行い、補正係数を決める(補正係数の演算20)。
(a)『ピークの上がり始め値V1』≦0.5Vのとき、補正係数を1とする。
(b)『ピークの上がり始め値V1』>0.5Vのとき、補正係数を「『ピークの上がり始め値V1』×2+0.5」とする。
【0052】
この判定方法は一例であり、センサの種類、感度などによって変化させる必要がある。
【0053】
(手順4)前記「ピーク差VD」に、補正係数を乗じて算出された値を「見なしピーク値VPC」と定める(「見なしピーク値VPC」の演算21)。
【0054】
(手順5)「見なしピーク値VPC」を3乗した値を「見なし体積換算指数NV」と定める(「見なし体積換算指数NV」の演算22)。この「見なし体積換算指数NV」を使って、ダストセンサなど他の測定機器の結果と関連付けするデータに変換することもできる。
【0055】
(手順6)この結果をヒストグラムにするときには、粒径の演算23を行い、粒径の階級値ごとに「見なし体積換算指数NV」を合計し、「体積換算頻度FV」として記録する(「体積換算頻度FV」の演算24)。
【0056】
この実施例に用いたセンサは、信号(電圧値)が粒径と線形関係にあるため、体積頻度を算出する際に、信号に基づく値(「見なしピーク値VPC」)を3乗して換算した。なお、センサによっては、面積で捉えるタイプもあるが、その際は、信号に基づく値を1.5乗とすることで体積頻度に換算することが好的である。
【0057】
つまり、「見なしピーク値VPC」は、複数の粒子に基づく信号が重なった場合においても、信号が重なった粒子が一粒ごとに通過した場合に観測されるであろうピーク値VPに相当する値である。
【0058】
「見なし体積換算指数NV」は、体積頻度で表す粒度分布を作成する際の各粒子の体積と関連付けられるようにするための指数である。
【0059】
「体積換算頻度FV」は、「見なし体積換算指数NV」を階級値ごとに積算した数であり、体積頻度で表す粒度分布と関連付けられるようにするための数である。
【0060】
図4で示した結果、つまり、1立方メートルのアクリル樹脂製容器内で、JIS Z8901に規定された試験用粉体1の5種(フライアッシュ)0.05gを分散させ、45秒後乃至55秒後の間、粒子検知装置を作動させたとき得られた電圧信号について、以上の手順に従って求めた「見なしピーク値VPC」及び「見なし体積換算指数NV」について、0.2V刻みで階級値ごとに集計して「体積換算頻度FV」を求め、ヒストグラムを作成すると、図9のような分布図が得られる。
【0061】
以下は、この粒径演算処理の手法の適切性について説明する。
【0062】
図9で行ったことと同様の手順を行い、フライアッシュ0.05gについて、散布後から、45秒後乃至55秒後、4分後乃至4分10秒後、8分後乃至8分10秒後の検知結果をまとめると図10のようになる。なお、粒子を粒子流路の入口12に導くための風量は、0.03m/分とした。
【0063】
いずれの結果も、4分後乃至4分10秒後、8分後乃至8分10秒後と、時間の経過を経るに従い、「見なしピーク値VPC」の大きい方から、「体積換算頻度FV」が低下していく傾向が見られた。
【0064】
この理由としては、大きい粒子から先に落下していくためであるが、これらの結果が適切であることを示すため、粒子の沈降速度式を用いて、以下説明する。
【0065】
図11は、実施の形態に係るフライアッシュの粒度分布の一例である。ここで用いたフライアッシュは、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定結果に基づくと、中央粒径10μmで、1μmから133μmまでの広い粒径範囲をもつ。
【0066】
一方、媒質中を落下する粒子について、Stokes式と呼ばれる沈降速度式は、球形状粒子に対して、次の式1のように与えられることが知られている。
【0067】
【数1】
【0068】
これは、媒質中を落下する粒子の沈降速度vから粒径を求める方法である沈降法に、利用されてきた式である。
【0069】
なお、沈降速度(落下速度)の逆数から、粒子の落下時間が求められる。
【0070】
ここで、実施例1における各変数は下記の通りである。
・フライアッシュの密度(ρ):2.0g/cm
・空気の密度(ρ):1.205×10−3g/cm(1気圧、20℃)
・空気の粘度(η):18.2×10−6Pa・s(1気圧、20℃)
図12は、実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、粒径と高さ1mからの落下時間の関係を示す図である。粒子の落下時間は、各粒径に対し、式1にて、フライアッシュの密度、空気の密度(1気圧、20℃)、空気の粘度(1気圧、20℃)を代入して計算した。
【0071】
図11図12の考慮をしたグラフを図13に示す。
【0072】
図13は、実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、高さ1mから落下することを考慮して算術処理した粒度分布を示す図である。
【0073】
図12の考慮について、具体的には、各時刻で、どれだけの粒子が落下しないで残存しているかの考慮をするため、式2で求めた。
【0074】
【数2】
【0075】
式2は、粒度分布中の各粒径の粒子がStokesの沈降速度式(式1)に従って落下するときの落下時間に対し、各時刻(各経過時間)を減じたときの比を求め、この比を体積頻度の粒度分布に乗じる式である(ただし、この比の符号がマイナスになるときは、0とおく)。この乗算は、粒子がStokesの沈降速度式に従って落下したことを想定した粒度分布を得ることを目的とする。
【0076】
10μmサイズのフライアッシュ、45秒後であれば、次の式3のような計算式により、5.5(任意単位)となる。
【0077】
【数3】
【0078】
図10図13は、時間経過に伴い、「見なしピーク値VPC」が大きい側で、分布強度が低下しており、図10の結果が傾向を適切に表していることが確認できた。
フライアッシュの粒度分布は、1〜133μm(中央粒径10μm)(レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定値)であるが、大きい粒子から落下していることに相当している。
【0079】
以上の実施例、及び、タバコの副流煙の結果に基づき、「見なしピーク値VPC」と粒径の関係を表1にまとめる。
【0080】
【表1】
【0081】
表1は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定値に基づく粒径と「見なしピーク値VPC」の関係である。
【0082】
表1は、「見なしピーク値VPC」の粒径への換算事例となるが、グラフに表すと図14のようになる。近似直線のRは、0.98であり、適切に相関が得られることを確認できた。
【0083】
ここで、表1及び図14に基づき、「見なしピーク値VPC」から計算した粒径を「計算粒径」と称することとする。
【0084】
さらに、フライアッシュ0.05g散布後、4分後の結果について、センサの検知結果(実測)と粒子の落下を考慮した計算値を比較することとする。
【0085】
この処理及び比較の手順のフローチャートを図15Aに示す。
【0086】
具体的には、次の3つの結果を比較する。
「45秒後(実測)の粒度分布演算25の結果」:45秒後乃至55秒後のセンサの検知結果。
「4分後(実測)の粒度分布演算26の結果」:4分後乃至4分10秒後のセンサの検知結果。
「4分後(計算)の粒度分布演算27の結果」:45秒後乃至55秒後のセンサの検知結果に、Stokes沈降速度式を掛け合わせて計算した4分後の結果。
【0087】
結果の比較を図15Bに示す。
【0088】
「45秒後(実測)」と「4分後(計算)」を比較すると、粒径が大きくなるに従いセンサで検知される程度が小さくなっていると推定されている。一方、「4分後(実測)」においては、10μm以上の粒子でも、まだ存在することを示している。しかし、「4分後(計算)」と「4分後(実測)」は、体積換算頻度FVが最大となる計算粒径が一致している(図で6.6μmの粒径)。これらのセンサの検知結果と計算結果を比較することにより、全体として粒子は沈降速度式に従うように落下している傾向があるが、まだ空気中に漂っている粒子もある、ということを判断することができる。
【0089】
なお、ここでは、体積換算頻度FVが最大となる粒径を比較しているが、この比較方法は本発明の実施形態の一例である。
【0090】
もうひとつの実施例として、石松子の実施例を述べる。
【実施例2】
【0091】
石松子0.05gについて、散布後から、45秒後乃至55秒後、4分後乃至4分10秒後、8分後乃至8分10秒後の検知結果をまとめると図16のようになる。なお、粒子を粒子流路の入口12に導くための風量は、0.03m/分とした。
【0092】
いずれの結果も、4分後乃至4分10秒後、及び、8分後乃至8分10秒後では、粒子はほとんど検知されていない。この理由としては、石松子の粒度分布が、19〜59μm(中央粒径32μm)(レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定値)と大きい粒子であり、落下しきってしまうためである。フライアッシュの場合と同様に、以下に説明する。
【0093】
図17は、実施の形態に係る石松子の粒度分布の一例である。ここで用いた石松子は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定結果に基づくと、中央粒径32μmで、19μmから59μmまでの粒径範囲をもつ。
【0094】
図18は、実施の形態に係る空気中の石松子において、粒径と高さ1mからの落下時間の関係を示す図である(石松子の密度は、1.1g/cm)。
【0095】
図17図18の考慮をしたグラフを図19に示す。
【0096】
ここでいう図18の考慮は、図12の考慮と同義である。
【0097】
すなわち、図19は、実施の形態に係る空気中の石松子において、高さ1mから落下することを考慮して算術処理した粒度分布を示す図である。
【0098】
図16にて、4分後乃至4分10秒後、及び、8分後乃至8分10秒後で、粒子がほとんど観測されない現象は図19と同様であり、適切に説明できることが確認できた。
【実施例3】
【0099】
図20は、実施の形態に係る空気中のフライアッシュ(0.05g)及び石松子(0.05g)において、1立方メートルのアクリル樹脂製容器内で検知・演算された見なしピーク値VPCの分布を示す図である。送風ファンの風量は、0.03m/分である。ここで、フライアッシュと石松子は、同時に散布した。
図21は、実施の形態に係る1立方メートルのアクリル樹脂製容器内で検知・演算された見なしピーク値VPCの分布の結果について、フライアッシュ(0.05g)の結果(図10)、及び、石松子(0.05g)の結果(図16)を合成した図である(いずれも送風ファンの風量は0.03m/分)。
【0100】
フライアッシュ及び石松子を同時に投じた例(図20)は、それぞれの単独の結果を足したもの(図21)と同様であり、本発明の効果を表すことができた。
【0101】
以上、実施例1乃至3により、「ピークの上がり始め値V1」と「ピークの下がり始め値V2」の差を求めてから、粒径を演算する本発明の効果が説明できた。
【0102】
図22は、実施の形態に係る空気清浄機の一例を示すものである。
【符号の説明】
【0103】
1 粒子測定装置、2 粒子検知センサ、3 投光素子、4 受光素子、5 IV変換部、6 増幅部、7 AD変換部、8 演算部、9 検知領域、10 筐体、11 加熱部、12 粒子流路の入口、13 粒子流路の出口、14 散乱の強い部分、15 散乱の弱い部分、16 粒子群の通過方向を示す矢印、17 前後の差の演算、18 前後の差の値、19 「ピーク差VD」の演算、20 補正係数の演算、21 「見なしピーク値VPC」の演算、22 「見なし体積換算指数NV」の演算、23 粒径の演算、24 「体積換算頻度FV」の演算、25 45秒後(実測)の粒度分布演算、26 4分後(実測)の粒度分布演算、27 4分後(計算)の粒度分布演算、P 粒子、M 空気清浄機、V1 ピークの上がり始め値、V2 ピークの下がり始め値、VD ピーク差、VP ピーク値、VPC 見なしピーク値、NV 見なし体積換算指数、FV 体積換算頻度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22