【実施例1】
【0034】
図4は、実施の形態に係る受光素子から出力される電流信号を電圧信号に変換した一例を示す波形図である。
【0035】
実施条件としては、1立方メートルのアクリル樹脂製容器内で、JIS Z8901に規定された試験用粉体1の5種(フライアッシュ)0.05gを散布させ、45秒後から粒子検知装置を作動させ、1ミリ秒ごとに取得したIV変換後の電圧信号である。粒子を散布させた直後であるため、信号が重なって観測されている。この信号が重なった部分について、簡易的に信号を分けて示したのが
図5である。
【0036】
つまり、
図4で重なって観測された信号は、
図5中、(ア)(イ)(ウ)(エ)で示す、4つの粒子に対応する信号と解釈できる。
【0037】
図5で、例えば、(エ)では、本来のピーク値は見なしピーク値VPCとなるべきであるが、ピークの下がり始め値V2に相当するピーク値VPを読んだのでは、適切なデータ取得ができなくなる。
【0038】
また、
図5中の(ア)(イ)の信号と、これらの信号に対する粒子の検知領域の通過のイメージを、
図6に示す。
【0039】
矢印16は、粒子群の通過方向を示す矢印であり、時間の経過に伴い、(a)(b)(c)(d)(e)と、粒子Pが検知領域9を通過するところを図示した。
(a)で(ア)の粒子の通過が始まり、(c)で(ア)の粒子による散乱光が最大となり、その後(d)に掛けて信号は下がっていき、(イ)の粒子の通過が始まる(e)で、再び信号は上がり始める。このように信号が重なった場合、ピーク値VPの絶対値で読み取ったのでは、信号が適切に読めなくなるおそれがある。
【0040】
本発明は、このように信号が適切に読めなくなるおそれを低減する手段を提供する。
【0041】
次に、信号処理部(アナログ信号処理部及び汎用MPU)の動作について、説明する。
【0042】
図7は、実施の形態に係る信号処理部の動作を示すフローチャートである。
【0043】
同図に示すように、まず、IV変換部5は、受光素子4から出力された電流を電圧に変換することにより、電圧信号を生成する。つまり、受光素子4から出力された電流信号は電圧信号へと変換される。
【0044】
次に、増幅部6は、当該電圧信号を所定の帯域で増幅する。
【0045】
その後、AD変換部7は、増幅部6で増幅されたアナログ信号である電圧信号をデジタル変換(AD変換)することにより、デジタルデータを生成する。つまり、AD変換部7は、サンプリング及び量子化することにより、受光素子4からの出力を示すセンサ信号がデジタル化された時系列のデジタルデータを生成して、演算部8に出力する。
【0046】
次に、粒径演算処理の手順について、説明する。
【0047】
図8は、実施の形態に係る粒径演算処理を示すフローチャートである。
【0048】
このフローチャートについて、より具体的に手順を説明する。
【0049】
(手順1)前後の差の演算17として、所定の時刻の信号(電圧値)に対し、直後と直前の時刻の信号(電圧値)の差を求める。例えば、時刻6.300秒時点の信号に対しては、6.301秒時点の電圧値と6.299秒時点の電圧値の差を求める。このようにして、各時刻に対し、信号(電圧値)の差を求める。この前後の差の値18の符号が、マイナスからプラスに変わった時点の信号(電圧値)を『ピークの上がり始め値V1』と決め、プラスからマイナスに変わった時点の信号(電圧値)を『ピークの下がり始め値V2』と決める。
【0050】
(手順2)前記の『ピークの上がり始め値V1』と『ピークの下がり始め値V2』の差を求め、これを「ピーク差VD」と定める(「ピーク差VD」の演算19)。
【0051】
(手順3)『ピークの上がり始め値V1』について、次の判定を行い、補正係数を決める(補正係数の演算20)。
(a)『ピークの上がり始め値V1』≦0.5Vのとき、補正係数を1とする。
(b)『ピークの上がり始め値V1』>0.5Vのとき、補正係数を「『ピークの上がり始め値V1』×2+0.5」とする。
【0052】
この判定方法は一例であり、センサの種類、感度などによって変化させる必要がある。
【0053】
(手順4)前記「ピーク差VD」に、補正係数を乗じて算出された値を「見なしピーク値VPC」と定める(「見なしピーク値VPC」の演算21)。
【0054】
(手順5)「見なしピーク値VPC」を3乗した値を「見なし体積換算指数NV」と定める(「見なし体積換算指数NV」の演算22)。この「見なし体積換算指数NV」を使って、ダストセンサなど他の測定機器の結果と関連付けするデータに変換することもできる。
【0055】
(手順6)この結果をヒストグラムにするときには、粒径の演算23を行い、粒径の階級値ごとに「見なし体積換算指数NV」を合計し、「体積換算頻度FV」として記録する(「体積換算頻度FV」の演算24)。
【0056】
この実施例に用いたセンサは、信号(電圧値)が粒径と線形関係にあるため、体積頻度を算出する際に、信号に基づく値(「見なしピーク値VPC」)を3乗して換算した。なお、センサによっては、面積で捉えるタイプもあるが、その際は、信号に基づく値を1.5乗とすることで体積頻度に換算することが好的である。
【0057】
つまり、「見なしピーク値VPC」は、複数の粒子に基づく信号が重なった場合においても、信号が重なった粒子が一粒ごとに通過した場合に観測されるであろうピーク値VPに相当する値である。
【0058】
「見なし体積換算指数NV」は、体積頻度で表す粒度分布を作成する際の各粒子の体積と関連付けられるようにするための指数である。
【0059】
「体積換算頻度FV」は、「見なし体積換算指数NV」を階級値ごとに積算した数であり、体積頻度で表す粒度分布と関連付けられるようにするための数である。
【0060】
図4で示した結果、つまり、1立方メートルのアクリル樹脂製容器内で、JIS Z8901に規定された試験用粉体1の5種(フライアッシュ)0.05gを分散させ、45秒後乃至55秒後の間、粒子検知装置を作動させたとき得られた電圧信号について、以上の手順に従って求めた「見なしピーク値VPC」及び「見なし体積換算指数NV」について、0.2V刻みで階級値ごとに集計して「体積換算頻度FV」を求め、ヒストグラムを作成すると、
図9のような分布図が得られる。
【0061】
以下は、この粒径演算処理の手法の適切性について説明する。
【0062】
図9で行ったことと同様の手順を行い、フライアッシュ0.05gについて、散布後から、45秒後乃至55秒後、4分後乃至4分10秒後、8分後乃至8分10秒後の検知結果をまとめると
図10のようになる。なお、粒子を粒子流路の入口12に導くための風量は、0.03m
3/分とした。
【0063】
いずれの結果も、4分後乃至4分10秒後、8分後乃至8分10秒後と、時間の経過を経るに従い、「見なしピーク値VPC」の大きい方から、「体積換算頻度FV」が低下していく傾向が見られた。
【0064】
この理由としては、大きい粒子から先に落下していくためであるが、これらの結果が適切であることを示すため、粒子の沈降速度式を用いて、以下説明する。
【0065】
図11は、実施の形態に係るフライアッシュの粒度分布の一例である。ここで用いたフライアッシュは、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定結果に基づくと、中央粒径10μmで、1μmから133μmまでの広い粒径範囲をもつ。
【0066】
一方、媒質中を落下する粒子について、Stokes式と呼ばれる沈降速度式は、球形状粒子に対して、次の式1のように与えられることが知られている。
【0067】
【数1】
【0068】
これは、媒質中を落下する粒子の沈降速度vから粒径を求める方法である沈降法に、利用されてきた式である。
【0069】
なお、沈降速度(落下速度)の逆数から、粒子の落下時間が求められる。
【0070】
ここで、実施例1における各変数は下記の通りである。
・フライアッシュの密度(ρ
p):2.0g/cm
3
・空気の密度(ρ
0):1.205×10
−3g/cm
3(1気圧、20℃)
・空気の粘度(η):18.2×10
−6Pa・s(1気圧、20℃)
図12は、実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、粒径と高さ1mからの落下時間の関係を示す図である。粒子の落下時間は、各粒径に対し、式1にて、フライアッシュの密度、空気の密度(1気圧、20℃)、空気の粘度(1気圧、20℃)を代入して計算した。
【0071】
図11に
図12の考慮をしたグラフを
図13に示す。
【0072】
図13は、実施の形態に係る空気中のフライアッシュにおいて、高さ1mから落下することを考慮して算術処理した粒度分布を示す図である。
【0073】
図12の考慮について、具体的には、各時刻で、どれだけの粒子が落下しないで残存しているかの考慮をするため、式2で求めた。
【0074】
【数2】
【0075】
式2は、粒度分布中の各粒径の粒子がStokesの沈降速度式(式1)に従って落下するときの落下時間に対し、各時刻(各経過時間)を減じたときの比を求め、この比を体積頻度の粒度分布に乗じる式である(ただし、この比の符号がマイナスになるときは、0とおく)。この乗算は、粒子がStokesの沈降速度式に従って落下したことを想定した粒度分布を得ることを目的とする。
【0076】
10μmサイズのフライアッシュ、45秒後であれば、次の式3のような計算式により、5.5(任意単位)となる。
【0077】
【数3】
【0078】
図10と
図13は、時間経過に伴い、「見なしピーク値VPC」が大きい側で、分布強度が低下しており、
図10の結果が傾向を適切に表していることが確認できた。
フライアッシュの粒度分布は、1〜133μm(中央粒径10μm)(レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定値)であるが、大きい粒子から落下していることに相当している。
【0079】
以上の実施例、及び、タバコの副流煙の結果に基づき、「見なしピーク値VPC」と粒径の関係を表1にまとめる。
【0080】
【表1】
【0081】
表1は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による測定値に基づく粒径と「見なしピーク値VPC」の関係である。
【0082】
表1は、「見なしピーク値VPC」の粒径への換算事例となるが、グラフに表すと
図14のようになる。近似直線のR
2は、0.98であり、適切に相関が得られることを確認できた。
【0083】
ここで、表1及び
図14に基づき、「見なしピーク値VPC」から計算した粒径を「計算粒径」と称することとする。
【0084】
さらに、フライアッシュ0.05g散布後、4分後の結果について、センサの検知結果(実測)と粒子の落下を考慮した計算値を比較することとする。
【0085】
この処理及び比較の手順のフローチャートを
図15Aに示す。
【0086】
具体的には、次の3つの結果を比較する。
「45秒後(実測)の粒度分布演算25の結果」:45秒後乃至55秒後のセンサの検知結果。
「4分後(実測)の粒度分布演算26の結果」:4分後乃至4分10秒後のセンサの検知結果。
「4分後(計算)の粒度分布演算27の結果」:45秒後乃至55秒後のセンサの検知結果に、Stokes沈降速度式を掛け合わせて計算した4分後の結果。
【0087】
結果の比較を
図15Bに示す。
【0088】
「45秒後(実測)」と「4分後(計算)」を比較すると、粒径が大きくなるに従いセンサで検知される程度が小さくなっていると推定されている。一方、「4分後(実測)」においては、10μm以上の粒子でも、まだ存在することを示している。しかし、「4分後(計算)」と「4分後(実測)」は、体積換算頻度FVが最大となる計算粒径が一致している(図で6.6μmの粒径)。これらのセンサの検知結果と計算結果を比較することにより、全体として粒子は沈降速度式に従うように落下している傾向があるが、まだ空気中に漂っている粒子もある、ということを判断することができる。
【0089】
なお、ここでは、体積換算頻度FVが最大となる粒径を比較しているが、この比較方法は本発明の実施形態の一例である。
【0090】
もうひとつの実施例として、石松子の実施例を述べる。