【実施例】
【0061】
症例研究
材料/方法
従前の疼痛コントロールの診療経験に基づき、またヒトがHCGを使用することに安全性が確立されていることに基づき(The role of hCG in reproductive medicine.BJOG:an International Journal of Obstetrics and Gynaecology.November 2004,Vol.111,pp.1218−1228を参照されたい)、本発明者らは、標準様式での臨床的使用の有効性を患者の代表24名において判定することを狙いとした(患者特性を表1に示す)。
【0062】
【0063】
ここに挙げた患者の大半を、毎日150IU/日のHCGを6週間皮下注射するのに加えて500cal/日の食事を要求するHCG体重減量プログラムに入れた。HCGを、5,000IUまたは10,000IUのバイアルに入れた凍結乾燥粉末形態で患者に提供し、使用する前に再構成し、混合後は効能を維持するために冷蔵するように求めた(HCG5000IUバイアル、KRS Global、Boca Raton、FL;HCG10,000IUバイアル、商標名Abraxis(商標);HCG10,000IUバイアル、商標名Pregnyl(商標))。全てのHCGの供給元は中国の主要な供給業者であり、FDAの承認を受け、CGMP(現行適正製造基準(Current Good Manufacturing Practices))に準拠した施設からのものであった。これらの施設から得たHCGは、妊娠中の女性の尿(u−HCG)由来または組換えDNA(r−HCG)製造プロトコール由来である。
【0064】
本発明者らの研究において、患者#13及び#20はr−HCGに対して初期疼痛反応があり、u−HCGに置換しても同一の持続的な反応が続いた。患者#2はu−HCGに対して初期に疼痛反応があり、次にr−HCGを使用し、u−HCGに戻したが、反応において逸脱はなかった。
【0065】
患者には、食事制限期間中、処方された医薬の全てを続けることを許可し、全員に、総合ビタミン剤、消化酵素、プロバイオティクス、アミノ酸、カリウム、マグネシウム、カルシウム及び1−カルニチンの1日分混合物を含む特別な栄養支援レジメンを施した。
【0066】
ここに挙げた症例のうち2例を除いた他は皆、体重減量プログラム及び毎日のHCG投与を終了後に疼痛を再発し、その後、疼痛コントロールのために150IUのHCGの毎日の皮下注射を再開する必要があった。殆どの患者が体重減量プログラムを終了して数週間後に再来院し、疼痛の再来を報告し、処置の再開を希望した。HCG処置を再開すると例外なく、処置を続けている)限り、全ての患者に同一の臨床反応が持続した。現在までにタキフィラキシーまたは追加の疼痛コントロール処置の必要性が生じた患者はいない。
【0067】
患者に一過性の脱毛及び卵巣過剰刺激症候群(OHS)の徴候または症状を含む何らかの処置毒性がないか、入念に記録管理した。しかし、臨床経験の蓄積(例えばThe role of hCG in reproductive medicine.BJOG:an International Journal of Obstetrics and Gynaecology.November 2004,Vol.111,pp.1218−1228)から、予想されるかかる毒性は、通常、1500IU/日を超えるより高投与量のHCGに関連していると言える。本発明者らは、現在までに、継続処置を受けたどの患者にも毒性の証拠を観察していない。
【0068】
患者の反応をDoloTest(商標)を利用して数値化した。これは疼痛患者用の承認された健康関連クオリティオブライフ(HRQoL)ツールであり、疼痛のみならず、慢性疼痛が厳しく影響することのあるクオリティオブライフの他の領域をも評価するものである。(Kristiansen K,Lyhgholm−Kjaerby P,Moe C.Introduction and Validation of DoloTest:A Health Related Quality of Life Tool Used in Pain Patients.Pain Practice 2010 Sep−Oct;10(5):396−403を参照されたい。]]
【0069】
患者には、HCG曝露前及びHCG処置開始後の両方の機能レベルに関して調査員が提示した質問に答えてもらった。回答に対して経時での評価はせず、2つのエンドポイントのみを評価した。即ち(1)HCG処置をしているとき及び(2)HCG処置をしていないときの2つである。
【0070】
全ての症例において、何らかの追加の疼痛コントロールの介入の必要性はかなりまたは完全に排除された。医療の介入的疼痛管理またはカイロプラクティック治療のために診療所に継続来院する必要性は排除された。最も重要なことに、DoloTest(商標)の指標は全て、ここに挙げた患者全員において大いに向上した。患者全員が全ての質問に回答した。
【0071】
結果
SPSSvl5.0を使用して全ての記述分析及び推測分析を行った。(表2を参照)
【0072】
同一のデータについて複合分析を実施することで、合計10種の分析を実施した。第1種の過誤の危険性が高まるのを是正するため、ボンフェローニの補正を実施して、帰無仮説の棄却に対する有意水準を調整した。この方法を使用して、全ての分析でp値が.005以下の場合に帰無仮説の棄却を決定した。(表2を参照)
【0073】
一連の8つの2×2混合ANOVA分析をデータに対して実施した。全ての分析での群間変数は上記の2つの分類の患者群であり、群内独立変数は時間、即ち(a)処置前DoloTestスコア及び(b)処置後DoloTestスコアの2つの分類であった。
【0074】
両群の全ての患者に対して分析した8つのDoloTest(商標)範囲の各々において、スコアは、分析した各範囲でHCG処置後にp値<.0005にて有意に低下即ち改善した。(表2を参照)
【0075】
疼痛及び気分
最終的に、2つの構成概念をDoloTest(商標)法から得た。即ち(a)身体的局面及び(b)精神的、社会的及び睡眠の局面である。身体的局面は、軽い身体活動の問題、活発な身体活動の問題、仕事に関する問題並びにエネルギー及び体力の低下を含むものであった。社会的、精神的及び睡眠の局面は、気力阻喪、社会生活の減退及び睡眠の問題を含むものであった。
【0076】
各群において、各分類の合計スコアを変数の数で除算して、HCGでの処置前と処置後の両方について平均スコアを得た。次いで、2つの構成概念または群の平均差スコアに対してピアソンの相関を実施して、慢性疼痛の副次的影響であるこれら2つの局面の関連性を評価した。結果は統計学的に有意であり(p<.0005)、予想したとおり、2つの構成概念または群の間に強力な直接相関を示唆していた。即ち、身体的局面でスコアが上昇または下降すると、精神的/社会的/睡眠の構成概念でスコアが相似的に動く。明らかに、疼痛指数と他のDoloTest(商標)項目のスコアとの間の直接相関が、処置前の群と処置後の群の両方に見られた。上記のとおり、特に興味深いのは、これらの患者の殆どについて(91.66%)、継続的なHCG投与の他に疼痛のための継続的な補助剤処置の必要性は排除されたという事実である。
【0077】
ここに挙げた全ての患者について、好ましい臨床反応が表れるのに要した時間は、即時及び1〜2日間以内であった。処置した患者の殆どについて、継続的な反応の維持のために、継続的なHCG投与の必要性があった。これらの患者においてHCGを中止すると、一様に、処置前のレベルと認知されるものとして疼痛症候群が再発している。経皮下にて150IU/日でHCG治療を再開すると、1〜2日以内に素早く疼痛が軽減した。
【0078】
現在までのところ、疼痛コントロールのための継続的なHCG投与を要求している患者からは、いかなる反応の低下も追加の疼痛処置の必要性も報告されていない。このシリーズにおいてかかる安定した反応を伴っている最も長期間の患者は患者#9であり、現在24か月である。
【0079】
患者#11及び#13は双方とも、最初のHCG体重減量サイクルを進める状況において疼痛の軽減反応がはっきりと表れた。このサイクルは、十分持続したという状態まで続け、継続的HCG投与もさらなる疼痛の臨床的介入も必要としなくなった。患者#11には重度の帯状疱疹後神経痛があり、1日複数回用量の麻薬を必要としていたが、6週間HCGに曝露しただけで完全に治癒した。患者#13は線維筋痛症及びRAに罹患し、毎週Enbrel(商標)注射を必要としていたが、その後、最初のHCG曝露以来1年にわたって処置を必要としていない。
【0080】
その他の患者については、140〜170IU/日でのHCGの毎日の投薬を、継続的疼痛コントロールのために必要としている。
【0081】
【0082】
考察
本発明者らの研究の最も興味深い局面の1つは、HCGは慢性疼痛及び中枢性感作の他の続発症の処置において、120〜170IU/日で、より特定すると140〜160IU/日できわめて効果的であるようだが、他の投与量ではそうではないようであるということである。従って、200IU/日、300IU/日及び500IU/日の投与量は全て明らかに効果が劣り、より低い投与量でも明らかに効果が劣る。これは、年齢(少なくとも成人では)、性別、体重及び他の要因に関係なく当てはまるようである。
【0083】
本明細書及び添付の特許請求の範囲は、いかなる特定の理論または作用機序の正当性によっても制約を受けるべきではないが、本発明者らは、本明細書に記載した驚くべき結果を説明する際に重要な正当性を有する可能性のある理論的枠組みを企図した。
【0084】
HCGは、今や、全身に多面的な作用を有することが認識されている。なぜなら、CNSを含む多数の細胞内コンパートメント中にHCGの受容体が存在することが文書化されて立証されているからである。Rao CV. An overview of the
past,present,and future of non−gonadal LH/hCG actions in reproductive biology and medicine.Semin Reprod Med,2001;19:7−17;及びLei ZM,Rao CV.Neural actions of luteinizing hormone and human chorionic gonadotropin.Semin Reprod Med,2001;9:103−109を参照されたい。この受容体の正確な機能は十分に解明されていないが、本発明者らが下記に引用するとおり、推定上の機能に関する指摘は記載されている。
【0085】
成人のCNS内で、HCG受容体は、海馬体、視床下部、大脳皮質、脳幹、小脳、下垂体、神経網膜、脊髄及び上衣領域に存在することがわかっている(Lei ZM,Rao
CV,Kornyei JL,Licht P,Hiatt ES.Novel expression of human chorionic gonadotropin/luteinizing hormone receptor gene in brain.Endocrinology,1993;132:2262−2270)。神経細胞及びグリア細胞の両方がHCGの受容体を発現することが示されている(Lei ZM,Rao CV,Kornyei JL,Licht P,Hiatt ES.Novel expression of human chorionic gonadotropin/luteinizing hormone receptor gene in brain.Endocrinology,1993;132:2262−2270)。更に、HCGは、以下の各期に重要なシグナル伝達の役割を果たす可能性があると仮定されている。胚盤胞期には層をなす生殖細胞からの組織サブセットの分化及び発生において(Gallego MJ, Porayette P, Kaltcheva MM The Pregnancy Hormones HCG and Progesterone Induce Human Embryonic Stem Cell Proliferation and Diferentiation into Neuroectodermal Rosettes.Stem Cell Research
and Therapy 2010;1:28)、胎生期には器官発生に対して(Abdallah MA,Lei ZM,Lix,Greenwold N Human Fetal Non−Gonadal Tissues Contain HCG/LH Receptors.J Clin Endo Metabol 2004;89:952−56)及び成人では、おそらく何らかのより微妙な、しかし臨床的に重要な形においてである。最近の証拠によると、成人のCNS内にHCG受容体の存在が確認され、追加の証拠によると、HCGは組織分化及び成長のためのシグナル伝達ホルモンとして裏付けがされている。Rao CV,Lei ZM The past,present and future of non−gonadal LH/hCG actions in reproductive biology and medicine.Mol Cell Endocrinol.2007 Apr 15;269(l−2):2−8も参照されたい。
【0086】
種々のモデルが、HCGが適切に投薬された場合に提供することができる神経可塑性効果を、本発明者らが慢性疼痛患者に見出す臨床的有益性を促進するものとして指摘している。本発明者らが確認している疼痛コントロール現象に関連するものは、Meng、Wennert及びChanの研究であり(Meng X,Rennert O,Chan,W Human chorionic gonadotropin induces neuronal differentiation of PC12 cells through activation of stably expressed lutropin/choriogonadotropin receptor.Endocrinology 2007;148(12)5765−5873)、彼らはラットの褐色細胞腫由来のPC12細胞株での神経細胞分化について研究を行った。この研究基盤は、ヒトにおける神経細胞の分化及びシグナル伝達の研究に関して、確立され、認められた理論モデルである(Greene LA,Tischler AS Establishment of a noradrenergic clonal line of rat adrenal pheochromocytoma cells which respond to nerve growth factor.Proced Nat
Acad Sci 1976.73:2424−2428)。
【0087】
彼らは、これらの細胞に存在するHCG受容体を刺激すると、神経突起生成及び神経突起伸長、即ち細胞の大きさの増大及び新たなより複雑で機能的なネットワーク結合の樹立を含む、可視的に認められる神経可塑性効果を生むことを示した。神経可塑性とは、機能性を変更し、このケースにおいては新たな結合を形成する、またはおそらく古い結合を再樹立させる、神経細胞の能力を意味する用語である。上記の神経可塑性の変化が進行する状況において、HCGがPC12細胞の神経細胞分化を刺激するのも示された。成人の脳内では、神経細胞の大部分は有糸分裂後であるが、上記のとおり、生涯を通して若い神経細胞を産生する多能性神経幹細胞/前駆細胞がある(Colcci−D’Amato L,Bonavita V,di Porzio U.The end of the central dogma of neurobiology:stem cells and neurogenesis in adult CNS.2006 Neurol Sci.27:266−270)。これらの概念を裏付ける動物モデルは、HCGに刺激された神経可塑性及び神経細胞の再生の証拠を示している。特に、1つのグループは、脊髄損傷の動物にHCGを投与すると、運動機能の回復を大幅に向上させることができると報告した(Patil AA,Nagaraj MP.The effect of
human chorionic gonadotropin (HCG) on functional recovery of spinal cord sectioned rats.Acta Neurochir(Wien)1983(69):205−218を参照されたい)。
【0088】
Mengの研究において更に興味深いのは、これらの効果がはっきりと表れるようにHCG濃度を200〜1000ng/mlの範囲に維持するということであった。初期の研究では初代神経細胞及びグリア細胞に対する上記のHCG効果は、100〜250ng/mlという環境濃度のHCGでのみ顕著であると示されている。本発明者らは、観察された臨床活性を説明することができるこれらの神経可塑性効果がはっきりと表れるのに必要なHCG濃度には重要な範囲があると確信している。濃度が高すぎるとこの効果は弱まる。これは、効果には狭い範囲の濃度が必要であるHCGの作用の他のモデルと一貫性がある(Maymo JL,Perez AP,Sanchez−Margalet V,Duenas JL.Up−regulation of placental leptin by human chorionic gonadotropin.Endocrinology 2009;150(l):304−313)。これは、より高用量のリガンドに反応しての、二次メッセンジャーの産生の一過性の欠損(脱感作)及び/または細胞表面受容体の欠損(ダウンレギュレーション)に付随すると仮定される。例えばこの現象と一致して、きわめてより高用量のHCG(5000IU〜7000IU/週まで)で性腺機能低下症の処置をした男性らにおいて、本発明者らはこの疼痛コントロール現象を観察していない。
【0089】
ホルモンの濃度が異なると、環境の受容体組織密度の特性により、体内で、異なる閾値で、意図された及び起こりうる効果が異なるということが完全に想定される。
【0090】
概念を統合すると、140〜170IU/日の狭い範囲内でHCGを投与すると、イオンチャネル活性、電気的シグナル伝達、細胞内の分子のシグナル伝達及び遺伝子転写における移動を包含する「神経可塑性効果」を開始し、それにより、中枢性感作が仲介する慢性疼痛に罹患しているものを鎮痛する。中枢性感作に特異的に対応するHCGの鎮痛効果は、医学界でこれまでに確認されていない。
【0091】
本発明者らの遡及的なシリーズにおいて観察された反応の速さを考慮すると、本発明者らは、患者の初期反応及びおそらく持続的な反応は、神経可塑性が仲介する即時の効果から得られるものであろうと仮定する。
【0092】
このタイプの即時の神経可塑性効果の1つの局面の例には、次のものを含めることができる。慢性疼痛の「中枢性感作」理論のために提案されたモデルにおいて、グリア細胞は、この設定において、炎症仲介物質(一酸化窒素、活性酸素種、プロスタグランジン、炎症性サイトカイン、神経成長因子)の不適応な分泌の供給源であり、炎症仲介物質はサブスタンスP及びグルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の継続的な放出を容易にするように働き、興奮性神経伝達物質は疼痛伝達神経細胞(PTN)のシナプス後過剰興奮性を亢進するように働き、これが疼痛信号の伝達を増大させ、中枢性感作現象及び慢性疼痛に見られる痛覚過敏反応及びアロディニア反応をもたらす、ということが記録されている。本発明者らの理論は、HCGは、これらのグリア細胞に対して有益な神経可塑性効果を有し、グリア細胞の機能をこれらの仲介物質の放出から、慢性疼痛を抑制するまたは除去することに関与するより正常な生理学的機能の状態へと移行させる可能性がある、というものである。Bradley LA.Pathophysiology of fibromyalgia.Am J Med.2009 December;122(12 Suppl)S22も参照されたい。
【0093】
これは本発明者らが理論化するものの一例または一部を表している。本発明者らが理論化するものは、HCGがCNS及び末梢神経系(PNS)内のいくつかのレベルに働いて、細胞の機能及び指令を回復させ、それによって疼痛を軽減する可能性がある多面的な効果の相乗的パターンである。PNSまたはCNSに対する神経の破損は、侵害受容経路に不適応な神経可塑性反応を誘発し、自発痛及び感覚の増幅を引き起こす。この不適応な可塑性により、変化が継続することになり、これは上記のとおり、真の疾患状態と考えられるべきである。CNSにおいて、脳脊髄幹の多数のレベルでの遺伝子調節異常、シナプスの促通、疼痛抑制経路の損失は、全てが一斉に作用して疼痛シグナル伝達の中枢での増幅を導く。Costgan M,Scholz J,Woolf CJ Neuropathic pain:A maladaptive response of the nervous system to damage.Annu Rev Neurosci.2009;32:1−32を参照されたい。
【0094】
遺伝子、細胞及び分子の要素が多数相互に絡み合い、相互に連絡して慢性神経障害性疼痛を引き起こすことを考慮すると、この多面的な病態生理を調節して、所望の効果が得られるような単一薬剤を作り出すことが困難であるため、目標とする薬物治療は期待外れの結果となることがきわめて多いであろう。
【0095】
より広範なレベルで、本発明者らは、特定の低量投薬範囲でHCGを投与することが、正常な生理機能及び機能を復旧するように我々を若返らせる能力を有し、この場合、より機能的な疼痛伝達経路を回復し、それにより、慢性疼痛を軽減すると考える。本発明者らは、上記のことから、種々のレベルで生理学的な機能を再設定するのに主要な役割を果たすのはHCGであると仮定する。病理学が成熟するとき、機構が−または機能の青写真が−まだ適所にあり利用可能であるなら、臨床的な回答を探すのにこれ以上優れた場があるのであろうか?ただ求められるのは適切な活性化であろう。この適切な活性化は、本発明者らがこれらの報告された症例で観察している可能性があると確信しているものである。HCGは固有の情報またはシグナル伝達能力をもち、これらの細胞可塑性効果が「正常な」恒常性または健康な神経細胞の機能を回復し、同時に疼痛を軽減または排除するのを容易にすることができるようにする。
【0096】
正確に解明された場合に機序が立証するものがどのようなものであれ、本発明者らは、非経腸的に140〜170IU/日の投薬量でHCGを投与することは、HCG処置以前に本発明者らの患者が必要としていた疼痛コントロール介入に伴っていた毒性及びQOLの負荷と比較して、疼痛コントロールのための無毒性の介入であると仮定する。毎日の注射の遵守は100%であった。
【0097】
線維筋痛症は、中心的要素として慢性神経障害性疼痛を伴う複雑であまり解明されていない障害であるが、これについては、FDAが承認した線維筋痛症痛を処置するための医薬でさえ−そのうち2つは実際には抗うつ薬である−、この障害にも関連したうつ病及び不安には効果がない。本発明者らは、HCGが、その多面的で相乗的な神経可塑性効果によって、本発明者らのシリーズ中の対象に対してうつの症状を顕著に改善することを発見した。DoloTest(商標)の精神的/社会的/睡眠の構成概念で見出したことは、この臨床効果を明確に示し、以下の情報によって裏付けがなされている。これは、特にこの患者群にとって注目に値する追加の有益性である。Recla J.New and emerging therapeutic agents for the treatment of fibromyalgia:an update J Pain Res.2010;3:89−103を参照されたい。
【0098】
大うつ病性障害(MDD)及び任意の慢性疼痛症候群は、併存症として存在することが多いことが指摘されてきた(1つの報告書には30〜60%の症例)(Bair MJ,Wu J,Damush TM,Sutherland JM,Kroenke K.Association of depression and anxiety alone and in combination with chronic musculoskeletal pain in primary care patients.Psychosom Med,2008:70(8);890−7)。
【0099】
当面の結果が示唆するのは、HCGは、きわめて類似した感作または「燃え上がり」現象(うつ病の各エピソードがそれに続くうつ病エピソードをより起こりやすくし、ストレスまたは病気などの外部の刺激への依存度を下げることを意味する)を受けやすい、MDDに関与する神経路に同様に作用し、その場合、細胞の構造及び機能は、同じCNSシナプスの、細胞シグナル伝達及び転写経路の多くを通して調節され、変更されて、うつ病に影響を及ぼすということである。正にこのトピックに関する優れたレビューは次のように仮定している。MDD、FM、神経障害性疼痛及び他の慢性疼痛症候群に共通の神経生物学的基盤が真に存在する可能性があり、これがHCG処置の選択肢を更により興味深い概念にしている。その理由は、単一薬剤として、これらの関連した併存症であるCNS障害に、現在利用可能な選択肢と比較して最小限の毒性で併用的に真に対処することができるためである。(Maletic V.,Raison CL Neurobiology
of depression,fibromyalgia and neuropathic pain.Frontiers in Bioscience.June 1,2009;(14):5291−5338)。Robert Postは、「燃え上がり現象」及び感作は、遺伝子発現における神経可塑性による変化及び変更など、同様の神経生物学的基礎を有している可能性があると最初に提起した(Post RM. Kindling and sensitization as models for affective episode recurrence,cyclicity,and tolerance phenomenon,Neurosci Biobehav Rev.2007;31(6):858−73.Epub 2007 Apr 24。
【0100】
疼痛コントロールと称されるもののためのHCGの使用について報告している人々もいるが、本発明者らが使用し、推奨しているものより遙かに上の高投薬量を主張している。Tennantはこの報告書の中で週1〜3回与えられる500〜1000IUを使用することを推奨し、疼痛コントロールを報告している。しかし、参照された1つの数値化した症例は、疼痛コントロールのためのモルヒネを、ベースライン時の3500mgから、なお1400mg必要としていた(Tennant F.Human chorionic gonadotropin:Emerging use in Pain Management.2010 Published on Internet and in
Practical Pain Management,June 1,2009)。また、主張されたこのような高投薬量では、まだ卵巣のある女性においては、卵巣過剰刺激の著しいリスクを負うことになるということに留意すべきである。このようなより多い投与量が著しい鎮痛効果を有するのであれば、この効果は、類似の投薬レジメンで男性の性腺機能低下症を長期間処置している何千人もの患者において、より大きな規模で観察されているであろうと推測することもできる。本発明者らの知るところによれば、かかる報告はない。
【0101】
本発明者らは、HCGが本明細書に記載したように使用されると、中枢性感作経路が働いている任意の慢性疼痛状態の有用な臨床処置となることが判明するであろうと確信している。これが、最初は末梢の障害であったが、PNSまたはCNSの構造の破損または損傷によって永続的になったものが原因であろうと、最初の障害は不明または不明確であるが、それにもかかわらず中枢性感作経路が活性化されている症例においてであろうと、上記のことを確信している。これらの障害には以下を含めることになるが、これらに限定されない。線維筋痛症、変形性関節症、関節リウマチ、突起した椎間板が原因のニューロパチー及び慢性疼痛、術後疼痛症候群、外陰部痛;脳卒中、脊髄損傷及び多発性硬化症などのCNS障害が原因の慢性疼痛、並びに直接的な神経外傷、中毒性ニューロパチー及び代謝性ニューロパチー、帯状疱疹及びAIDSを含むPNS病変または疾患。
【0102】
既に記載したものに加えて更に多くの変更形態が、本明細書の発明の概念から逸脱することなく可能であることが、当業者には明らかであるはずである。従って、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の範囲内を除いて、限定されるべきではない。更に、明細書及び特許請求の範囲の両方の解釈において、全ての用語は、文脈に矛盾しない可能な限り広い意味で解釈されるべきである。
【0103】
明細書及び特許請求の範囲がA、B、C・・・・及びNからなる群から選択された何某のうち少なくとも1つと言及している場合、その文は、その群からの1つの要素のみを必要としているものと解釈されるべきであり、AにNを加えたものでもBにNを加えたものなどでもない。更に、各実施形態が示すものは発明の要素の1つの組合せのみであるが、本発明の主題は、開示した要素の可能な全ての組合せを含むものであると考えられる。従って、1つの実施形態が要素A、B及びCを含み、第2の実施形態が要素B及びDを含む場合には、本発明の主題は、明示的に開示されていない場合でも、やはりA、B、CまたはDの、残る他の組合せを含むものと考えられる。