(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、さく岩機は、
図11に示すように、さく岩機本体100の前端部にシャンクロッド102が挿着されている。シャンクロッド102には、さく孔用のビット21を取付けたロッド22がスリーブ23で連結されている。さく岩機が稼働されると、打撃機構103の打撃ピストン131がシャンクロッド102を打撃する。その打撃エネルギは、シャンクロッド102からロッド22を経てビット21に伝達され、ビット21が破砕対象である岩盤Rに貫入して破砕する。
【0003】
打撃エネルギは、その100%が岩盤Rの破砕に消費されるわけではなく、一部が反射エネルギErとして岩盤Rから戻ってくる。このときの反射エネルギErは、ビット21からロッド22、シャンクロッド102を経てさく岩機本体100に伝達される。そのため、この反射エネルギErによってさく岩機本体100は一旦後退する。その後、さく岩機本体100は、送り装置(図示略)の推力により一打撃による破砕長分だけもとの位置よりもさらに前進し、ビット21が岩盤Rに当接したところで打撃機構103が次の打撃を行う。この行程を繰り返すことによりさく孔作業が行われる。
【0004】
従来のさく岩機本体100は、
図12に示すように、チャック111を介してシャンクロッド102に回転を与えるチャックドライバ112を備えている。チャックドライバ112には、シャンクロッド102の大径部後端102bに当接するチャックドライバブッシュ113が装着されている。チャックドライバブッシュ113は、さく岩機本体100に前方への推力が与えられると、この推力をシャンクロッド102に伝達するものであり、打撃時のビット21からの反射エネルギErもシャンクロッド102からチャックドライバブッシュ113を介してさく岩機本体100に伝達される。
【0005】
ここで、本発明においては、「工具」とビット(21)は同義であり、「伝達部材」は、ロッド(22)、スリーブ(23)、シャンクロッド(102)、およびチャックドライバブッシュ(113)からなる部材群を総称するものである。なお、本明細書では説明を省略するが、油圧打撃装置がブレーカである場合は、ロッド(またはチゼル)が、「工具」と「伝達部材」の役割を兼ねている。
【0006】
この反射エネルギErをチャックドライバブッシュ113で直接さく岩機本体100に伝達すると、その衝撃でさく岩機本体100が損傷するおそれがある。また、さく岩機本体100が一旦後退した後に、次の打撃が行われるまでには、速やかに所要距離だけ前進させる必要がある。
【0007】
そこで、
図12に示すように、プッシングピストン104とダンピングピストン105とを有する緩衝機構をチャックドライバブッシュ113の後側に設けたものも用いられている。緩衝機構の油圧回路には、圧油供給源として油圧ポンプPが接続され、プッシングピストン104に推力を与えるように油圧ポンプPからの圧油がプッシング油室141に供給され、ダンピングピストン105に推力を与えるように油圧ポンプPからの圧油がダンピング油室151供給されている。プッシング油室141とダンピング油室151とは給油孔152を介して連通している。緩衝機構と油圧ポンプPの間にはアキュムレータ164が設けられている。
【0008】
ここで、さく岩機本体100に与えられる推力をF1、プッシングピストン104に与えられる推力をF4、ダンピングピストン105に与えられる推力をF5とすると、これらは、各部材の受圧面積等を異ならせることにより、下記(式)の関係に設定されている(特許文献1参照)。
【0009】
F4<F1<F5 (式)
【0010】
同図において、シャンクロッド102からチャックドライバブッシュ113に伝達される反射エネルギErは、プッシングピストン4とダンピングピストン5の後退により緩衝される。このプッシングピストン104とダンピングピストン105の後退運動エネルギ(すなわち、反射エネルギEr)は、最終的にアキュムレータ164に圧油として蓄圧される。プッシングピストン104とダンピングピストン105は、油圧ポンプPから吐出される圧油と、この緩衝作用によってアキュムレータ164に蓄圧された圧油とによって推力を得ている。
【0011】
岩盤Rからの反射エネルギErによって一旦後退したさく岩機本体100は、次の打撃時までには、所定の打撃位置(ビット21が岩盤Rに接する状態)まで前進する。このとき、「工具」を含めた「伝達部材」の質量は、さく岩機本体100の質量よりもはるかに小さいので、プッシングピストン104とダンピングピストン105は、さく岩機本体100よりも速やかに前進し、ダンピングピストン105の前進ストローク端まで到達する。
【0012】
ダンピングピストン105が前進ストローク端まで到達したタイミングでビット21が岩盤Rに接していなければ、プッシングピストン104はダンピングピストン105から離れて前進し、伝達部材を介してビット21を岩盤Rへと接触させる。この間、さく岩機本体100も前進しており、打撃機構103によって次の打撃が行われるまでにさく岩機本体100が所定距離前進すると、プッシングピストン104は、岩盤Rからさく岩機本体100の推力F1の反力を受けることになる。
【0013】
ここで、さく岩機本体100、プッシングピストン104、およびダンピングピストン105は、それぞれの推力F1、F4、F5の関係がF4<F1<F5である。これにより、反力F1によってプッシングピストン104が後退してダンピングピストン105に当接し、ダンピングピストン105が前進ストローク端で停止した位置(以下、「通常打撃位置」とする)で、かつ、ビット21が岩盤Rに当接した状態となって打撃機構103が次の打撃を行う。この行程を繰り返すことによりさく孔作業が行われる。
【0014】
この通常打撃位置は、打撃ピストン131が前進してシャンクロッド102後端を打撃する際に最も効率良く打撃エネルギを伝達する位置関係となるように設定されている。
通常であれば上述のさく孔行程が繰り返される。一方、何らかの要因で次の打撃が行われるまでに岩盤Rとビット21との間に隙間が生じる場合は、プッシングピストン104は、通常打撃位置から速やかに前進して、伝達部材を介してビット21を岩盤Rに接触させるので、打撃ピストン131の打撃エネルギを岩盤Rに伝達することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
この緩衝機構においては、反射エネルギは、プッシングピストンとダンピングピストンの運動エネルギに変換された後に、アキュムレータに圧油として蓄圧されることで緩衝作用を発揮しており、続いて、アキュムレータに蓄圧された圧油は放出され、プッシングピストンとダンピングピストンの運動エネルギに変換された後に、再び反射エネルギとしてロッドへと伝達される。この一連のメカニズムは、文字通り緩衝作用であり反射エネルギによってさく岩機本体が損傷することを抑制するという意味では充分に効果が認められるものである。
【0017】
ところで、油圧打撃装置において打撃機構の高出力化は、本出願人を含め各社が常に追求している課題である。
【0018】
ここで、打撃出力をUboとし、1打撃当りの打撃エネルギをEbとし、単位時間当たりの打撃数をNbとすると、打撃出力は打撃エネルギと打撃数の積、即ち、以下の(式)で表わされる。
Ubo=Eb×Nb・・・(式)
【0019】
高出力化のアプローチとして、1打撃あたりの打撃エネルギを大きくする方策、および打撃数を増大する方策、あるいはこの両方の方策を併せて実施す場合がある。しかし、1打撃あたりの打撃エネルギを増大させた場合には、反射エネルギも増大することになるので、上述した従来の緩衝機構では、アキュムレータに圧油として蓄圧された反射エネルギが、結果としてそのまま再びロッド側へと戻され、増大した反射エネルギによってロッドやスリーブ等の伝達部材に損傷が生じるおそれがある。
【0020】
また、打撃数を増大させた場合には、隔壁を介して非圧縮性流体である圧油のエネルギを圧縮性流体である封入気体のエネルギに変換して圧力上昇を抑えるというアキュムレータの機能上の問題から、従来の緩衝機構では、アキュムレータの応答速度が、増大する打撃数に追いつくことが困難となる。即ち、次の打撃までにビットの岩盤への接触が間に合わなくなり、緩衝作用が適切に発揮されずに、さく岩機本体に損傷が生じるおそれがある。
【0021】
すなわち、上述した従来の緩衝機構では、打撃機構の高出力化に際し、さく岩機本体と伝達部材の両方の損傷を抑制するためには、未だ解決すべき課題がのこされている。
【0022】
そこで、本発明は、油圧打撃装置の緩衝機構における上記のような問題点に着目してなされたものであって、緩衝作用をより強化してさく岩機本体と伝達部材の両方の損傷を抑制しつつ、打撃ピストンの打撃エネルギを充分に岩盤に伝達可能な油圧打撃装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る油圧打撃装置は、工具に破砕対象側への推力を伝達する伝達部材と、該伝達部材の後部を打撃する打撃機構とを備えた油圧打撃装置であって、前記伝達部材の直接後側に配設されて当該油圧打撃装置の装置本体の推力よりも小さな推力を有するプッシングピストンと、前記プッシングピストンの後側に位置するとともに前記プッシングピストンと相互に前後摺動するように配設されて当該油圧打撃装置の装置本体の推力よりも大きな推力を有するダンピングピストンと、前記プッシングピストンに前記小さな推力を与えるように圧油供給源からの圧油が供給されるプッシング油室と、前記ダンピングピストンに前記大きな推力を与えるように圧油供給源からの圧油が供給されるダンピング油室と、
前記ダンピング油室および前記プッシング油室とは常時隔絶して設けられて、前記プッシングピストンと前記ダンピングピストンの摺接箇所からの圧油のリークをタンクへと排出するドレン回路と、前記ダンピング油室および前記プッシング油室と前記圧油供給源との間の高圧回路に設けられて、前記圧油供給源側から前記ダンピング油室および前記プッシング油室側への圧油の流入を許容する一方、前記ダンピング油室および前記プッシング油室側から前記圧油供給源側への圧油の流出を規制する方向規制手段と、前記ドレン回路に設けられた絞りと
、を備えることを特徴とする。
【0024】
本発明の一態様に係る油圧打撃装置では、打撃機構が伝達部材を介して工具に打撃を与えると、その打撃エネルギで工具が破砕対象に貫入して破砕をする。このときの反射エネルギは、工具から伝達部材を経て油圧打撃装置に伝達されるので、この反射エネルギによって油圧打撃装置は一旦後退し、装置本体への推力により前進した後に、打撃機構が次の打撃を行う。
【0025】
ここで、工具から伝達部材に伝達される反射エネルギは、プッシングピストンとダンピングピストンの後退動作により緩衝される(以下、「緩衝機構」ともいう)。このとき、本発明の一態様に係る油圧打撃装置によれば、プッシング油室およびダンピング油室は、方向規制手段により圧油供給源側への圧油の「流出」が規制されている。
そのため、行き場を失った圧油は、緩衝機構の、摺動するプッシングピストンとダンピングピストンの部材同士の摺接箇所の隙間(クリアランス)から高い圧力勾配(即ち、発熱)を伴いながらリークする。緩衝機構からの圧油のリークは、ドレン回路に設けられた絞りによって流量が調整されており緩衝作用を制御している。
【0026】
緩衝行程が終わると前進行程に移るが、本発明の一態様に係る油圧打撃装置の緩衝機構では、ダンピング油室とプッシング油室側とに圧油供給源から供給される圧油の状態が方向規制手段によって維持(許容)されているので、プッシングピストンとダンピングピストンはそれぞれ所定の推力を遅滞無く発揮することができる。
【0027】
このように、本発明の一態様に係る油圧打撃装置においては、反射エネルギを、発熱を伴う圧油のリークへと変換することで緩衝作用が発揮される。そして、リークした圧油は、熱エネルギを随伴してタンクへと回収されるので、熱エネルギ分が消費されている。すなわち、本発明の一態様に係る油圧打撃装置の緩衝機構では、メカニズム的には減衰作用が発揮されているといえる。
【0028】
したがって、本発明の一態様に係る油圧打撃装置によれば、伝達部材へと戻るエネルギ量を、減衰作用を発揮する緩衝機構によって低減できるので、伝達部材の損傷を減少させることが可能であり、特に、高打撃エネルギ仕様の打撃機構に好適である。
また、本発明の一態様に係る油圧打撃装置の緩衝機構は、方向規制手段の応答速度が充分早いため、常に適切に緩衝作用を維持できる。そのため、さく岩機本体の損傷を安定して減少させることが可能であり、特に、高打撃数仕様の打撃機構に好適である。
【0029】
そして、プッシングピストンとダンピングピストンは、前進行程では、圧油供給源から供給される圧油の状態が維持(許容)されているので、速やかに所定の位置(すなわち通常打撃位置)まで前進し、ビットが岩盤に接した状態で次の打撃が行われる。また、何らかの要因で次の打撃が行われるまでに岩盤とビットとの間に隙間が生じる場合は、プッシングピストンは、通常打撃位置から速やかに前進してビットを岩盤に接触させるので、打撃ピストンの打撃エネルギを岩盤に伝達することができる。
【発明の効果】
【0030】
上述のように、本発明の一態様に係る油圧打撃装置によれば、緩衝作用をより強化してさく岩機本体と伝達部材の両方の損傷を抑制しつつ、打撃ピストンの打撃エネルギを充分に岩盤に伝達することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0033】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
本実施形態のさく岩機の基本的な構成は、
図1に示すように、さく岩機本体1の前端部にシャンクロッド2が挿着され、その後側にシャンクロッド2に打撃を与える打撃機構3が設けられている。シャンクロッド2には、さく孔用のビット21を取付けたロッド22がスリーブ23で連結されている。
【0034】
図2に示すように、さく岩機本体1は、チャック11を介してシャンクロッド2に回転を与えるチャックドライバ12を備える。チャックドライバ12には、シャンクロッド2の大径部後端2aに当接するチャックドライバブッシュ13が、チャックドライバ12内で前後に摺動可能に装着されている。チャックドライバブッシュ13の後側には、プッシングピストン4とダンピングピストン5とが配設され緩衝機構を構成している。
【0035】
ダンピングピストン5は、
図3に示すように、長手方向の前後に、前端面50eおよび後端面50fが形成された円筒状のピストンである。ダンピングピストン5は、その円筒状の外周面に、外径大径部50aおよび外径小径部50bを有するとともに、その円筒状の内周面に、内径大径部50cおよび内径小径部50dを有する。
【0036】
図2に示すように、さく岩機本体1には、中央段部14と後側段部15とが設けられている。ダンピングピストン5は、中央段部14と後側段部15との間で前後に移動可能に装着されている。そして、ダンピングピストン5は、外径大径部50aと中央段部14側の内径大径部14aとが摺接し、外径小径部50bと後方段部15側の内径小径部15aとが摺接している。
【0037】
ダンピングピストン5には、その外径側と内径側とを連通する連通孔として、前方から後方へ向けて順に、ドレン孔53a、給油孔52、およびドレン孔53bが設けられている。給油孔52の内径側には、円環状のプッシング油室41が形成され、プッシング油室41を境界として、前側が上記内径大径部50c、後側が上記内径小径部50dとなっている。また、ドレン孔53aの前側内周面には、シール54a、ドレン孔53bの後側内周面にはシール54bが設けられている。
【0038】
プッシングピストン4は、
図3に示すように、鍔付き円筒状のピストンであり、その円筒状の外周面に、前方から後方へ向けて順に、外径大径部40a、外径中径部40b、および外径小径部40cを有する。鍔形状を呈した外径大径部40aの前側には、前端面40dが形成され、鍔形状の後側には中央端面40eが形成されている。
【0039】
図2に示すように、さく岩機本体1には、前方段部16が設けられており、プッシングピストン4は、前方段部16とダンピングピストン5の前端面50eとの間で、鍔形状を呈した外径大径部40aが前後に移動可能に装着されている。そして、プッシングピストン4とダンピングピストン5とは、中径部40bと内径大径部50cが相互に摺接し、小径部40cと内径小径部50dとが相互に摺接している。なお、本実施形態におけるプッシングピストン4の内周面には、その前後に小径部と大径部が形成されているが、これは、打撃ピストン31との干渉を避けるための形状であり、緩衝機能には影響が無い。
【0040】
さく岩機本体1の内周面には、
図2に示すように、内径大径部14aに、ダンピングピストン5のドレン孔53aに対向する位置にドレンポート18aが設けられている。ドレンポート18aの前側にはシール19aが設けられている。さらに、さく岩機本体1の内周面には、内径小径部15aに、ダンピングピストン5の給油孔52に対向する位置にプッシングポート17が設けられている。また、さく岩機本体1の内径小径部15aには、ドレン孔53bに対向する位置に、ドレンポート18bが設けられ、ドレンポート18bの後側にはシール19bが設けられている。そして、内径大径部14aと内径小径部15aの境界には、ダンピング油室51が形成されている。
【0041】
そして、さく岩機本体1には、油圧ポンプPが高圧回路6を介して接続されるとともに、タンクTがドレン回路7を介して接続されている。本実施形態では、高圧回路6の一端は、油圧ポンプPに接続され、他端はプッシング通路61とダンピング通路62に分岐しており、プッシング通路61がプッシングポート17に接続され、ダンピング通路62がダンピング油室51に接続されている。
【0042】
ここで、プッシング通路61には、チェック弁8が介装されている。チェック弁8は、油圧ポンプP側からプッシングポート17側への圧油の流入を許容する一方、プッシングポート17側から油圧ポンプ側への圧油の流出を規制する方向規制手段として設けられている。
また、ダンピング通路62には、チェック弁9が介装されている。チェック弁9は、油圧ポンプP側からダンピング油室51側への圧油の流入を許容する一方、ダンピング油室51側から油圧ポンプ側への圧油の流出を規制する方向規制手段として設けられている。
【0043】
ドレン回路7の一端にはタンクTが接続されており、ドレン回路7の他端は、ドレン通路71aとドレン通路71bとに分岐している。そして、ドレン通路71aがドレンポート18aに接続され、ドレン通路71bがドレンポート18bに接続されている。ドレン回路7には可変絞り10が設けられている。
【0044】
ここで、
図3に示すように、プッシングピストン4の外径は、プッシング油室41の前方の外径中径部40bの直径をD1とし、後方の外径小径部40cの直径をD2とし、プッシング油室41の油圧をPd1とすると、プッシング油室41によってプッシングピストン4に与えられる推力F4
0は、下記式(1)となる。
F4
0=π(D1
2−D2
2)Pd1/4・・・(1)
【0045】
一方、ダンピングピストン5の外径は、ダンピング油室51の前方の外径大径部50aの直径をD3とし、後方の外径小径部50bの直径をD4とすると、ダンピング油室51の油圧は、プッシング油室41の油圧Pd1と等しいので、ダンピング油室51によってダンピングピストン5に与えられる推力F5
0は、下記式(2)となる。
F5
0=π(D3
2−D4
2)Pd1/4・・・(2)
そして、さく岩機本体1に与えられる推力をF1とすると、上記推力F40、推力F50および推力F1の関係は、下記式(3)となるように設定されている。
F4
0<F1<F5
0・・・(3)
【0046】
次に、上記さく岩機本体1の動作について説明する。
さく孔作業の際には、打撃機構3の打撃ピストン31がシャンクロッド2を打撃すると、その打撃エネルギは、シャンクロッド2からロッド22を経てビット21に伝達され、ビット21が破砕対象である岩盤Rに貫入して破砕する。このときの反射エネルギErは、ビット21からロッド22、シャンクロッド2、チャックドライバブッシュ13を経てプッシングピストン4に伝達される。
【0047】
プッシングピストン4がダンピングピストン5に接した状態、すなわち、
図1に示すような通常打撃位置で反射エネルギErが伝達される場合は、プッシングピストン4とダンピングピストン5は一体となってさく岩機本体1に相対して後退する。このときの摺接箇所は、さく岩機本体1の内径(内径大径部14a、内径小径部15a)とダンピングピストン5の外径(外径大径部50a、外径小径部50b)である。ダンピングピストン5が後退すると、ダンピング油室51内の圧油は、チェック弁9によって油圧ポンプP側への流出が規制されているので昇圧され、上記摺接箇所のクリアランスから発熱を伴ってリークする。
【0048】
そして、摺接箇所のクリアランスからリークした圧油は、熱エネルギを随伴してタンクTへと回収されるので、反射エネルギErは熱エネルギ分を消費して減衰する。このとき、リークする圧油は、ドレンポート18a,18b、及びドレン回路7を経てタンクTへと排出されるところ、ドレン回路7には可変絞り10が設けられており、この可変絞り10によって、リークする圧油のリーク量の上限、即ちダンパの消費油量を制御している。
【0049】
プッシングピストン4がダンピングピストン5を離れて前進した位置(例えば、前方段部16に前端面40dが当接する位置)で反射エネルギErが伝達される場合は、プッシングピストン4は、ダンピングピストン5に相対して後退するとともに、ダンピングピストン5は、さく岩機本体1に相対して後退する。
このときの摺接箇所は、プッシングピストン4の外径(外径中径部40b、外径小径部40c)とダンピングピストン5の内径(内径大径部50c、内径小径部50d)、および、さく岩機本体1の内径(内径大径部14a、内径小径部15a)とダンピングピストン5の外径(外径大径部50a、外径小径部50b)である。
【0050】
プッシングピストン4が後退すると、プッシング油室41内の圧油は、チェック弁8によって油圧ポンプP側へと流出することが規制されている。また、ダンピングピストン5が後退するとダンピング油室51内の圧油は、チェック弁9によって油圧ポンプP側への流出が規制されている。このため、行き場を失った両油室内の圧油は昇圧され、前述した摺接箇所のクリアランスから、高い圧力勾配(即ち発熱)を伴いながらリークする。
【0051】
そして、リークした圧油は、熱エネルギを随伴し、タンクTへと回収されるので、反射エネルギErは熱エネルギ分を消費して減衰する。このとき、リークする圧油は、ドレン穴53a,53b、ドレンポート18a,18b、ドレン通路71a,71b、及びドレン回路7を経てタンクTへと排出されるが、ドレン回路7には可変絞り10が設けられており、可変絞り10により、リークする圧油のリーク量の上限、即ちダンパの消費油量を制御している。
【0052】
ここで、プッシングピストン4およびダンピングピストン5が後退する際、すなわち、緩衝作用が発揮される際に、プッシング油室41によってプッシングピストン4に与えられる緩衝推力をF4
1とし、ダンピング油室51によってダンピングピストン5に与えられる緩衝推力をF5
1とすると、緩衝推力F4
1と緩衝推力F5
1は、可変絞り10の開度を調整することでそれぞれ所望の設定値に制御可能である。
【0053】
すなわち、緩衝推力F4
1、緩衝推力F5
1、および、前述した式(1)との関係は、下記式(4)と式(5)となり、式(4)と式(5)の間で可変絞り10の開度を調整する。
(A)可変絞り10の開度を最大にする場合(=絞り効果の下限値)
F1<F4
1min<F5
1min・・・(4)
ここで、F4
0<F4
1min、F5
0<F5
1min
(B)可変絞り10の開度を全閉にする場合(=絞り効果の上限値)
F1<F4
1max=F5
1max・・・(5)
ここで、F5
1min<F4
1max=F5
1max
【0054】
プッシングピストン4がダンピングピストン5よりも前進した位置で反射エネルギErが伝達された場合は、プッシングピストン4の緩衝推力F4
1は、ダンピングピストン5の緩衝推力F5
1よりも小さいので、プッシングピストン4が先に後退し、中央端面40eが前端面50eに当接して、最終的にはプッシングピストン4とダンピングピストン5は一体となって後退する。
【0055】
ここで、緩衝推力F4
1は緩衝推力F4
0よりも大きいので、プッシングピストン4による初期の緩衝作用は充分効果的である。例えば、プッシングピストン4が後退してダンピングピストン5に当接する局面では、プッシングピストン4とダンピングピストン5の両部材が衝突するが、
図12にて説明した従来の緩衝機構に比べ、本実施形態の緩衝機構であれば、衝突速度が低減するので、騒音も低く抑えられるという効果がある。
【0056】
そして、プッシングピストン4とダンピングピストン5は、所定距離(例えば、後端面50fが後側段部15に当接するまで)後退すると、反射エネルギErは充分に減衰されながらさく岩機本体1に伝達され緩衝行程が終了する。
このように、本実施形態の緩衝機構であれば、プッシングピストン4とダンピングピストン5は、常に安定して減衰作用を伴う緩衝作用を発揮するので、さく岩機本体1および工具ならびに伝達部材の損傷が少なくなる。なお、岩盤Rからの反射エネルギErが伝達され、プッシングピストン4とダンピングピストン5が後退しながら減衰作用を伴う緩衝作用を発揮する行程を緩衝行程という。
【0057】
岩盤Rからの反射エネルギErによって一旦後退したさく岩機本体1は、次の打撃時までにはビット21が岩盤Rに接する状態、すなわち、所定の打撃位置まで前進する。このとき、工具を含めた伝達部材の質量は、さく岩機本体1の質量よりもはるかに小さいので、プッシングピストン4とダンピングピストン5は、さく岩機本体1よりも速やかに前進し、ダンピングピストン5の前進ストローク端、すなわち、前端面50eが中央段部14と当接する基準位置まで前進して停止する。
【0058】
ダンピングピストン5が前進ストローク端まで到達したタイミングでビット21が岩盤Rに接していなければ、プッシングピストン4はダンピングピストン5から離れて前進し、伝達部材を介してビット21を岩盤Rへと接触させる。この間、さく岩機本体1も前進しており、その後、ダンピングピストン5がさく岩機本体1の前端面14と当接した状態のさく岩機本体1がプッシングピストンに追い付き、打撃機構3によって次の打撃が行われるまでに当接する。
【0059】
ここで、さく岩機本体1、プッシングピストン4、およびダンピングピストン5は、それぞれの推力F1、F4
0、F5
0の関係がF4
0<F1<F5
0であることから、反力F1によってプッシングピストン4が後退してダンピングピストン5に当接し、ダンピングピストン5が前進ストローク端で停止した状態、すなわち、通常打撃位置の状態、かつ、ビット21が岩盤Rに当接し、推力F1が作用した状態で打撃機構3が次の打撃を行う。
【0060】
通常であれば、上述のさく孔行程が繰り返されるが、何らかの要因で次の打撃が行われるまでに岩盤Rとビット21との間に隙間が生じる場合は、プッシングピストン4は、通常打撃位置から速やかに前進して伝達部材を介してビット21を岩盤Rに接触させる。これにより、打撃ピストン31の打撃エネルギを岩盤Rに伝達することができる。なお、緩衝行程の後に、プッシングピストン4とダンピングピストン5が前進し、ビット21が岩盤Rに接触した状態を整える行程を前進行程という。
【0061】
この前進行程は、緩衝行程終了後に速やかに行われなければならないが、ダンピング油室51およびプッシング油室41は、それぞれチェック弁9およびチェック弁8によって圧油が油圧ポンプP側へと流出することが規制される一方で、油圧ポンプP側からの圧油が常時供給されているので応答性が非常に優れており、前進行程は速やかに行われる。
【0062】
次に、
図4と
図5を適宜参照して、本実施形態の緩衝行程における減衰作用および作用効果について説明する。
図4は、緩衝行程におけるダンピングピストン5のストロークとダンピング油室51の圧力の様子を模式的に表したものであり、
図12にて説明した従来の緩衝機構を同図(a)、本実施形態の緩衝機構を同図(b)として対比している。
【0063】
図4において、従来のダンピングピストン105のストロークをSd1、本実施形態のダンピングピストン5のストロークをSd2とし、従来のダンピング油室151の圧力をPd1、本実施形態のダンピング油室51の圧力をPd2として示す。
【0064】
反射エネルギErとの関係は、下記式(6)で表される。
Er=Pd1×Sd1=Pd2×Sd2・・・(6)
ここで、圧力Pd2は、ダンピングピストン5が後退時の油圧であり、チェック弁9により行き場を失ったダンピング油室51の圧油が、摺接箇所のクリアランスからリークする際の通路抵抗により昇圧され、Pd2>Pd1となるので、Sd2<Sd1となる。したがって、本実施形態のダンピングピストン5の後退ストロークは、従来のダンピングピストン105の後退ストロークよりも短いことがわかる。
【0065】
また、本実施形態のダンピング油室51の圧力は、緩衝行程と前進行程ではPd2>Pd1と変化するため、ヒステリシスが発生しこれが減衰エネルギとなる。この減衰エネルギは、前述した通り、緩衝行程において熱エネルギとして消費されるものであり、これをEdとすると、減衰エネルギEdは、下記式(7)で表される。
Ed=(Pd2−Pd1)×Sd2・・・(7)
すなわち、減衰エネルギEdは、
図4(b)のハッチングの部分に相当する。
【0066】
従来の緩衝機構で伝達部材に戻るエネルギをEr'1とし、本発明のそれをEr'2とすると、
図4(a)および
図4(b)より、
Er'1=Pd1×Sd1(=Er)
Er'2=Pd2×Sd2
Sd1>Sd2
∴Er'1>Er'2
【0067】
即ち、
図12に示した従来の緩衝機構に比べ、本実施形態の緩衝機構は、伝達部材に戻るエネルギを大幅に低減することができる。そのため、伝達部材への負荷軽減に寄与し、特に打撃エネルギが大きいほど効果を発揮する。
【0068】
図5は、緩衝行程におけるダンピングピストン5のストロークとダンピング油室51の緩衝時間の様子を模式的に表したものであり、同図では、
図12に示した従来の緩衝機構(a)と、本実施形態の緩衝機構(b)とを対比して示している。なお、
図12に示した従来のダンピングピストン105のストロークをSd1、本実施形態のダンピングピストン5のストロークをSd2とし、従来の緩衝時間をt1、本実施形態の緩衝時間をt2として示している。
【0069】
前述した通り、本実施形態のダンピングピストン5の後退ストロークは、従来のダンピングピストン105の後退ストロークよりもSd2<Sd1と短いため、
図5に示すように、緩衝時間についてもt2<t1と短縮されていることが見て取れる。ダンピングピストン5の後退ストロークが短いということは、続いて行う前進行程へと速やかに移行することが可能である。よって、本実施形態の緩衝機構は、緩衝行程と前進行程のどちらも短時間のうちに完了させることができ、特に、単位時間当たりの打撃数が多いほど効果を発揮する。
なお、本発明に係る油圧打撃装置は、上記第1実施形態に限定されるものではない。以下、他の実施形態について更に説明する。
【0070】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態を示しており、第2実施形態は、高圧回路6に第二の絞り63を追加した以外は、上述した第1実施形態と同じ構成である。第二の絞り63の流量調整量(絞り量)は、可変絞り10の流量調整量よりも少なく設定してある。
【0071】
ここで、高圧通路61、62には、上述した第1実施形態同様、方向規制手段としてチェック弁8、9が設けられているところ、これらチェック弁8、9も油圧機器であるからにはごく僅かな内部リークがあるので、圧油の流出を完全に防止することは困難である。
【0072】
このように、高圧回路6で圧油の流出が生じる場合は、流出した圧油の脈動により、図示しないコントロールバルブや油圧配管等の油圧機器に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、この第2実施形態によれば、方向規制手段であるチェック弁8、9と油圧ポンプPとの間の高圧回路6に第二の絞り63を設けたので、いわば二重の方向規制手段を備えることになり、高圧回路6での圧油の流出問題を解消することができる。
【0073】
[第3実施形態]
図7は、本発明の第3実施形態を示しており、第3実施形態は、高圧回路6に設けたチェック弁8、9と第二の絞り63との間の高圧回路6に、アキュムレータ64を追加した以外は、上記第2実施形態と同じ構成である。
上述したように、高圧回路6内の流出対策として、第二の絞り63を高圧回路6に設けることは有効である。しかし、第二の絞り63を高圧回路6に設ける場合は、油圧ポンプP側からプッシング油室41およびダンピング油室51側への圧油の供給に対しても抵抗となることは避けられない。
【0074】
これに対し、チェック弁8、9と第二の絞り63との間の高圧回路6に、アキュムレータ64を追加すれば、緩衝行程から前進行程に転じた瞬間に、圧油の流出によってプッシング油室41およびダンピング油室51内で圧油の供給量が不足した場合であっても、流出した圧油がアキュムレータ64に蓄圧されるので、これを吐出して供給することで不足した圧油を補うことができる。ここで、圧油の流出は、第二の絞り63を超えて油圧ポンプP側へ流出することが規制され、その殆どがアキュムレータ64に蓄圧されるので、アキュムレータの利用効率は優れている。
【0075】
また、チェック弁8、9と第二の絞り63との間の高圧回路6には、打撃に伴う圧油の脈動が発生する場合があるが、アキュムレータ64により脈動を速やかに収束させることができる。特に、高打撃数仕様の打撃機構においては、脈動が減衰する前に次の脈動が発生して脈動の振幅が倍増し機器を破損するおそれがあるが、アキュムレータ64を配置することで脈動問題を解消することができる。
【0076】
[第4実施形態]
図8は本発明の第4実施形態を示しており、第4実施形態は、高圧通路62の方向規制手段として、チェック弁9の代わりに絞り91を設けたこと以外は、上記第3実施形態と同じ構成である。
【0077】
例えば、さく岩機の仕様諸元によっては、発生する反射波の波長が短くなり、反射波が緩衝機構に作用する時間も短くなる場合がある。このような場合、緩衝機構は、短時間で充分な緩衝作用を発揮させなければならず、そのためには、方向規制手段の応答速度を高める必要がある。
【0078】
ここで、方向制御手段としては、チェック弁に加えて絞りを採用可能であるところ、緩衝作用の応答速度の面では絞りの方が優れている。一方、緩衝から前進に転じた後の前進速度の面では絞りよりもチェック弁の方が優れている。したがって、この第4実施形態では、ダンピング通路62の方向制御手段として絞り91を採用し、プッシング通路61の方向制御手段としてチェック弁8を採用している。なお、第4実施形態での各絞りの調整量は、方向制御手段としての当該絞り91<ドレン回路7の可変絞り10<第二の絞り63の関係である。
【0079】
[第5実施形態]
図9は本発明の第5実施形態を示しており、第5実施形態は、高圧通路6を分岐通路65a、65bに分岐し、分岐通路65aをダンピング油室51に、分岐通路65bをプッシングポート17にそれぞれ接続している。そして、二つの分岐通路65a、65bの分岐点よりもポンプP側に、方向規制手段として一つのチェック弁81を設けたこと以外は、上記第3実施形態と同じ構成である。このように構成することで、方向規制手段を一つ削減することができ、構成が簡素となりコストが下がる。
【0080】
[第6実施形態]
図10は本発明の第6実施形態を示しており、第6実施形態は、ダンピング油室51とプッシングポート17を統合して一つの緩衝油室55とし、高圧回路6を分岐せずに接続したこと以外は、上記第5実施形態と同じ構成である。このように構成することで、ポートを一つ削減することができ、構成がより簡素となりコストが下がる。
【0081】
なお、上述した第5実施形態および第6実施形態は、他の実施形態のようにプッシングピストン4とダンピングピストン5のそれぞれに対して個別に設けられた油圧系統を一つに統合することで、構成を簡素化しコスト低減を図るというものである。但し、油圧系統を共有することで、プッシングピストン4とダンピングピストン5のそれぞれの作動に起因する圧油の脈動の影響も共有することになる。また、油圧系統を共有する場合、第4実施形態のように、プッシングピストン4とダンピングピストン5のそれぞれの特性に対応して方向規制手段の仕様を決定するということもできない。
【0082】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して説明したが、本発明に係る液圧式打撃装置は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しなければ、その他の種々の変形や各構成要素を変更することが許容されることは勿論であるし、上記実施形態相互の構成を適宜に組み合わせることもできる。