【文献】
J. Clin. Invest., 2007, Vol.117, No.5, pp.1305-1313
【文献】
Cancer Immunol. Immunother., 1995, Vol.41, pp.302-308
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1つ以上の重鎖フレームワークアミノ酸が、別のヒト抗体アミノ酸配列由来の1つまたは複数の対応するアミノ酸で置き換えられている、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗体。
1つ以上の軽鎖フレームワークアミノ酸が、別のヒト抗体アミノ酸配列由来の1つまたは複数の対応するアミノ酸で置き換えられている、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体。
軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含む、形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、該軽鎖可変領域および重鎖可変領域が、以下の(i)または(ii):
(i) (a)配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および
(b)配列番号12に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
または
(ii) (a’)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および
(b’)配列番号4に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
である、抗体。
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の、重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子または核酸分子のセットを含み、重鎖可変領域および軽鎖可変領域核酸が、別々の核酸で発現されるか、または同じ核酸上で発現される、請求項16に記載の宿主細胞。
チャイニーズハムスター卵巣細胞、サル腎臓CV1細胞系、ヒト胎児腎臓細胞系、ベビーハムスター腎臓細胞、マウスセルトリ細胞、サル腎臓細胞、ヒト子宮癌細胞、イヌ腎臓細胞、バッファローラット肝臓細胞、ヒト肺臓細胞、ヒト肝臓細胞、マウス乳腺腫瘍、TRI細胞、MRC細胞、FS4細胞、およびヒトヘパトーマ細胞系からなる群から選択される、請求項18に記載の宿主細胞。
請求項16から19のいずれか一項に記載の宿主細胞を使用して抗体を生成する方法であって、好適な条件下で請求項16から19のいずれか一項に記載の宿主細胞を培養する工程と、前記抗体を回収する工程とを含む、方法。
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体または請求項21に記載の無菌薬学的組成物を含む、TGFβ発現に関連した疾患、状態または障害を治療するための薬学的組成物。
前記疾患、状態または障害が、癌、眼の疾患、状態または障害、眼線維症または目の線維症、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢気道疾患(例えば閉塞性細気管支炎)、肺気腫、成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI);病原菌または毒物に起因する肺線維症;腎臓線維症、全ての病因の糸球体腎炎(GN)、メサンギウム増殖性GN、免疫性GN、および半月体形成性GN、糸球体硬化症、尿細管間質損傷、腎間質線維症、腎線維症および腎間質線維症の全ての原因、薬物暴露の合併症からもたらされる腎線維症、移植レシピエントのシクロスポリン処置、HIV関連ネフロパシー、移植ネクロパシー、糖尿病性腎臓疾患(糖尿病性ネフロパシー)、腎性全身性線維症、糖尿病、特発性後腹膜線維症、強皮症、肝線維症、過度の瘢痕および進行性硬化に関連した肝疾患、肝硬変、胆管の障害、感染症に起因する肝機能異常、線維嚢胞症、心血管疾患、鬱血性心不全、拡張型心筋症;心筋炎;血管狭窄心線維症(梗塞後心線維症)、心筋梗塞後、左心室肥大、静脈閉塞症、再狭窄、血管形成後の再狭窄、動静脈移植不全、アテローム性動脈硬化、高血圧、高血圧性心疾患、心臓肥大、肥大型心筋症、心不全、大動脈疾患、全身性進行性硬化症、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、ファシスト、レイノー症候群、関節リウマチ、ペイロニー病、全身性硬化症、脊髄損傷後、骨粗しょう症、カムラチ・エンゲルマン病、クローン病、瘢痕、マルファン症候群、早発閉経、アルツハイマー病およびパーキンソン病、外科的切開または機械的外傷に起因する線維症、眼科手術に関連した線維症;ならびに、外傷または外科的創傷からもたらされる創傷治癒中に生じる真皮における過度または肥大性の瘢痕またはケロイド形成からなる群から選択される、請求項22に記載の薬学的組成物。
前記疾患、状態または障害が、線維増殖性障害、目の線維症、眼線維症、網膜機能不全、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、ならびに糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離からなる群から選択される眼の疾患、状態または障害である、請求項23に記載の薬学的組成物。
前記抗体または組成物が、腫瘍内のナチュラルキラー(NK)細胞の数を増加させ、かつ/またはNK細胞の細胞溶解活性を改善する、請求項26に記載の薬学的組成物。
前記癌が、肺癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、食道癌、直腸結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、線維性癌、神経膠腫および黒色腫からなる群から選択される、請求項26から31のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
TGFβ発現に関連した状態または障害の治療における使用のための、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体または請求項21に記載の薬学的組成物を含む、組成物。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、TGFβ発現に関連した疾患または障害の治療のための方法および組成物を提供する。本開示は、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体を提供する。本明細書に記載の抗体は、TGFβアイソフォームのいずれかまたは全てに対して差別的な親和性を有し得ることが記載される。さらに、本明細書において、開示されるTGFβ特異的抗体が、予想外にも、腫瘍内の免疫細胞を調整(例えば腫瘍に浸潤)することが見出され、TGFβ発現に関連した腫瘍、およびTGFβ発現に関連した他の状態または障害の治療に企図される。
【0008】
一態様において、本開示は、形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、(a)表1もしくは配列番号13、19および25に記載の重鎖相補性決定反復(CDR)1アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、(b)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号14、20および26に記載の重鎖CDR2アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、(c)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号15、21および27に記載の重鎖CDR3アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体とを含む抗体を提供する。
【0009】
関連する態様において、本開示は、形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、(a)表1もしくは配列番号13、19および25に記載の重鎖CDR1アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、(b)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号14、20および26に記載の重鎖CDR2アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、(c)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号15、21および27に記載の重鎖CDR3アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体とを含む抗体を提供する。
【0010】
さらなる態様において、本開示は、形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、(a)表1もしくは配列番号13、19および25に記載の重鎖CDR1アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、(b)独立して選択される、表1もしくは配列番号14、20および26に記載の重鎖CDR2アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、(c)独立して選択される、表1もしくは配列番号15、21および27に記載の重鎖CDR3アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体とを含む抗体を企図する。
【0011】
ある特定の実施形態において、重鎖CDR1、CDR2またはCDR3アミノ酸配列の少なくとも2つが、表1または配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載されている。関連する実施形態において、重鎖CDR1、CDR2またはCDR3アミノ酸配列の3つが、表1または配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載されている。
【0012】
いくつかの実施形態において、抗体は、表1または配列番号2、6および10に記載の重鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含むことが企図される。関連する実施形態において、抗体は、表1または配列番号2、6および10に記載の重鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0013】
さらに他の実施形態において、抗体は、重鎖可変領域における3つ全てのHCDRであるHCDR1、HCDR2およびHCDR3の配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチド配列を含む。
【0014】
ある特定の実施形態において、1つ以上の重鎖フレームワークアミノ酸は、別のヒト抗体アミノ酸配列由来の1つまたは複数の対応するアミノ酸で置き換えられている。
【0015】
本明細書に記載の抗体は、表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載の軽鎖CDRアミノ酸配列のいずれか1つをさらに含むことが企図される。いくつかの実施形態において、抗体は、表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載の軽鎖CDRアミノ酸配列の少なくとも2つを含む。他の実施形態において、抗体は、表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載の軽鎖CDRアミノ酸配列の少なくとも3つを含む。
【0016】
別の態様において、本明細書に記載の抗体は、(a)表1もしくは配列番号16、22および28に記載の軽鎖CDR1アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、(b)(a)と同じ軽鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号17、23および29に記載の軽鎖CDR2アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、(c)(a)と同じ軽鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号18、24および30に記載の軽鎖CDR3アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体とを含む。
【0017】
代替の実施形態において、本明細書において企図される抗体は、(a)表1もしくは配列番号16、22および28に記載の軽鎖CDR1アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、(b)独立して選択される、表1もしくは配列番号17、23および29に記載の軽鎖CDR2アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、(c)独立して選択される、表1もしくは配列番号18、24および30に記載の軽鎖CDR3アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体とを含む。
【0018】
ある特定の実施形態において、軽鎖CDR1、CDR2またはCDR3アミノ酸配列の少なくとも2つが、表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載されている。
【0019】
さらに、本明細書に記載の抗体は、軽鎖可変領域の3つ全てのLCDRであるLCDR1、LCDR2およびLCDR3の配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチド配列を含むことが企図される。
【0020】
一実施形態において、本明細書において企図される抗体は、表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む。関連する実施形態において、抗体は、表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態において、抗体は、表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む。さらに別の実施形態において、抗体は、表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。
【0021】
さらなる実施形態において、本明細書に記載の抗体は、(i)軽鎖可変領域の3つ全てのLCDRであるLCDR1、LCDR2およびLCDR3の配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列、ならびに(ii)重鎖可変領域の3つ全てのHCDRであるHCDR1、HCDR2およびHCDR3の配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0022】
別の態様において、本開示は、軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含む、形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、(a)軽鎖可変領域は、配列番号16、22および28もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号17、23および29もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに/または配列番号18、24および30もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/あるいは(b)重鎖可変領域は、配列番号13、19および25もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号14、20および26もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに/または配列番号15、21および27もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む、抗体を提供する。一実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号16もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号17もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号18もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または重鎖可変領域は、配列番号13もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号14もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号15もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む。
【0023】
関連する実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号22もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号23もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号24もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または重鎖可変領域は、配列番号19もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号20もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号21もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む。
【0024】
ある特定の実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号28もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号29もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号30もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または重鎖可変領域は、配列番号25もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号26もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号27もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む。
【0025】
上記抗体配列のいずれか1つの同一性パーセントは、本明細書に開示される重鎖もしくは軽鎖可変領域またはHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2もしくはLCDR3のいずれかと、少なくとも70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一となり得ることが企図される。
【0026】
いくつかの実施形態において、本開示の抗体は、重鎖定常領域をさらに含み、重鎖定常領域は、改変もしくは非改変のIgG、IgM、IgA、IgD、IgE、それらの断片、またはそれらの組み合わせである。
【0027】
ある特定の実施形態において、1つ以上の軽鎖フレームワークアミノ酸が、別のヒト抗体アミノ酸配列由来の1つまたは複数の対応するアミノ酸で置き換えられている抗体が提供される。
【0028】
一態様において、本開示の抗体は、XPA.42.089、XPA.42.068およびXPA.42.681からなる群から選択される。XPA.42.089の重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、それぞれ配列番号6および8に記載されている。XPA.42.068の重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、それぞれ配列番号2および4に記載され、XPA.42.681の重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、それぞれ配列番号10および12に記載されている。
【0029】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、前記軽鎖可変領域に結合したヒト軽鎖定常領域をさらに含む。いくつかの実施形態において、軽鎖定常領域は、改変もしくは非改変のラムダ軽鎖定常領域、カッパ軽鎖定常領域、それらの断片、またはそれらの組み合わせである。
【0030】
好ましい実施形態において、本開示は、10
−6M以下の親和性Kdを有するTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に特異的な抗体を提供する。例示的実施形態において、本明細書に記載の抗TGFβ抗体は、TGFβの少なくとも1つのアイソフォームに、10
−6M、10
−7M、10
−8M、10
−9Mまたはそれ以下の親和性で結合し、あるいは、随意に、2つのTGFβアイソフォーム、またはTGFβ1、2、もしくは3の全てに、アイソフォームの1つ以上に対して10
−6M、10
−7M、10
−8M、10
−9M、10
−10M、10
−11M、または10
−12M以下の親和性で結合する。他の実施形態において、本明細書に記載の抗体は、TGFβ3への結合と比較して、TGFβ1およびTGFβ2に、少なくとも2〜50倍、10〜100倍、2倍、5倍、10倍、25倍、50倍もしくは100倍、または20〜50%、50〜100%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%高い親和性で結合する(例えば、TGFβ1およびTGFβ2に優先的に結合する)。代替として、本明細書に記載の抗体は、TGFβアイソフォームTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3のそれぞれに、互いの3倍、5倍または10倍以内の親和性で結合する。ある特定の実施形態において、抗体は、TGFβ1およびTGFβ2に、TGFβ3よりも大きい親和性で結合する。ある特定の実施形態において、親和性は、表面プラズモン共鳴またはKINEXAアッセイにより測定される。
【0031】
いくつかの実施形態において、抗体は、TGFβ3よりも高い程度までTGFβ1およびTGFβ2の活性を中和する。いくつかの実施形態において、TGFβ1およびTGFβ2の抗体中和は、TGFβ3の中和よりも、少なくとも2〜50倍、10〜100倍、2倍、5倍、10倍、25倍、50倍もしくは100倍、または20〜50%、50〜100%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%強力である。本明細書において企図される例示的な中和アッセイは、限定されないが、インターロイキン−11放出アッセイおよびHT−2細胞増殖アッセイを含む。さらに、本明細書において開示される抗体が、1つのTGFβアイソフォームを優先的に阻害するかどうかを決定するために、pSMADリン酸化アッセイまたはrhLAP結合アッセイを含むTGFβ活性アッセイを行うことができる。さらなる実施形態において、抗体は、TGFβ3と比較して、TGFβ1およびTGFβ2に対しより低いIC50(すなわち、より良好な結合、より大きな有効性)を有する。
【0032】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載の重鎖および/または軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子を提供する。
【0033】
さらなる態様において、本開示は、発現制御配列に作用可能に結合した本明細書において企図される核酸分子を含む発現ベクターを提供する。また、本開示の発現ベクターまたは核酸分子を含む宿主細胞も企図される。ある特定の実施形態において、本開示は、重鎖および軽鎖可変領域をコードする核酸分子を含み、重鎖および軽鎖核酸が、別々の核酸で発現されるか、または同じ核酸上で発現される、宿主細胞を提供する。
【0034】
関連する態様において、本開示は、本明細書に記載の宿主細胞を使用して抗体を生成する方法であって、好適な条件下で宿主細胞を培養する工程と、前記抗体を回収する工程とを含む方法を提供する。また、本明細書において開示される方法により生成される抗体が提供される。
【0035】
本開示は、さらに、本明細書において開示される抗体および薬学的に許容される担体を含む、無菌薬学的組成物を企図する。
【0036】
別の態様において、本開示は、TGFβ発現に関連した疾患、状態または障害を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療上効果的な量の本明細書において企図される抗体または薬学的組成物を投与するステップを含む方法を提供する。ある特定の実施形態において、疾患、状態または障害は、癌、目の(例えば、眼球、視覚性、眼もしくは眼科的)疾患、状態もしくは障害、線維症に関連した疾患、状態もしくは障害、例えば線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または、関連した線維症を有する疾患、状態もしくは障害からなる群から選択される。
【0037】
線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患は、限定されないが、皮膚、肺、腎臓、心臓、脳および目を含む、体内の任意の器官または組織に影響するものを含む。線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患は、限定されないが、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢気道疾患(例えば閉塞性細気管支炎)、肺気腫、成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI);病原菌または毒物に起因する肺線維症;腎臓線維症、全ての病因の糸球体腎炎(GN)、メサンギウム増殖性GN、免疫性GN、半月体形成性GN、糸球体硬化症、尿細管間質損傷、腎間質線維症、腎線維症および腎間質線維症の全ての原因、移植レシピエントのシクロスポリン処置を含む、薬物暴露の合併症からもたらされる腎線維症、HIV関連ネフロパシー、移植ネクロパシー、糖尿病性腎臓疾患、糖尿病性ネフロパシー、腎性全身性線維症、糖尿病、特発性後腹膜線維症、強皮症、肝線維症、過度の瘢痕および進行性硬化に関連した肝疾患、全ての病因に起因する肝硬変、胆管の障害、感染症に起因する肝機能異常、線維嚢胞症、心血管疾患、鬱血性心不全、拡張型心筋症;心筋炎;血管狭窄心線維症、梗塞後心線維症、心筋梗塞後、左心室肥大、静脈閉塞症、再狭窄、血管形成後の再狭窄、動静脈移植不全、アテローム性動脈硬化、高血圧、高血圧性心疾患、心臓肥大、肥大型心筋症、心不全、大動脈疾患、全身性進行性硬化症、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、ファシスト、レイノー症候群、関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、眼科手術、緑内障の処置、網膜復位術、水晶体摘出、または任意の種類のドレナージ術等に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症、角膜混濁に関連した線維症、小柱網の線維症、緑内障に関連した線維症、後眼部線維症、線維血管性瘢痕、目の網膜血管または脈絡膜血管における線維症、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症、加齢黄斑変性、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離、ペイロニー病、全身性硬化症、脊髄損傷後、骨粗しょう症、カムラチ・エンゲルマン病、クローン病、瘢痕、マルファン症候群、早発閉経、アルツハイマー病、パーキンソン病、外科的切開または機械的外傷に起因する線維症、眼科手術に関連した線維症;ならびに、外傷または外科的創傷からもたらされる創傷治癒中に生じる真皮における過度または肥大性の瘢痕またはケロイド形成を含む。
【0038】
例示的な目の疾患(例えば、眼球、視覚性、眼もしくは眼科的疾患)、状態または障害は、限定されないが、線維増殖性障害、目の線維症、眼線維症、網膜機能不全、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、眼科手術、例えば緑内障の治療、網膜復位術、水晶体摘出、または任意の種類のドレナージ術等に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0039】
例示的な目の線維増殖性疾患、状態もしくは障害、目の線維症、眼球の線維症、または眼線維症は、限定されないが、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性に関連した線維症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷に関連した線維症、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0040】
様々な実施形態において、目の線維増殖性疾患、状態または障害は、増殖性硝子体網膜症、眼科手術に関連した線維症、白内障手術後の水晶体の線維症、角膜実質の線維症およびアルカリ熱傷からなる群から選択される。
【0041】
関連する態様において、本開示は、癌を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療上効果的な量の本明細書において企図される抗体または薬学的組成物を投与することを含む方法を提供する。ある特定の実施形態において、癌は、肺癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、食道癌、直腸結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、線維性癌、神経膠腫および黒色腫からなる群から選択される。
【0042】
いくつかの実施形態において、抗体または組成物は、腫瘍内のナチュラルキラー(NK)細胞の数を増加させる。様々な実施形態において、抗体または組成物は、NK細胞の細胞溶解活性を増加させる。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、NK細胞によるパーフォリンおよびグランザイム産生を増加させる。一実施形態において、抗体は、XPA.42.089またはXPA.42.681である。
【0043】
様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、腫瘍内の調節性T細胞の数を減少させ、かつ/または調節性T細胞機能を阻害する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、免疫反応を下方調節する、または免疫反応の部位に移動するTregの能力を阻害する。
【0044】
様々な実施形態において、抗体または組成物は、腫瘍内の細胞傷害性T細胞の数を増加させ、かつ/またはCTL活性を向上させる、例えばCTL活性を増進、増加もしくは促進する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、CTLによるパーフォリンおよびグランザイム産生を増加させ、CTLの細胞溶解活性を増加させる。一実施形態において、抗体は、XPA.42.068、XPA.42.089またはXPA.42.681である。
【0045】
別の実施形態において、抗体または組成物は、腫瘍内の単球由来幹細胞(MDSC)の数を減少させ、かつ/またはMDSC機能を阻害する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、免疫反応を抑制するMDSCの能力を阻害し、MDSCの免疫抑制活性を阻害し、ならびに/またはTregの増加および/もしくは機能を促進するMDSCの能力を阻害する。様々な実施形態において、抗体は、XPA.42.089、XPA.42.068およびXPA.42.681からなる群から選択される。
【0046】
様々な実施形態において、抗体は、腫瘍内の樹状細胞(DC)の数を減少させ、かつ/または樹状細胞の寛容原性機能(例えば寛容原性作用)を阻害する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、CD8+樹状細胞の寛容原性作用を低下させる。一実施形態において、抗体は、XPA.42.089またはXPA.42.681である。
【0047】
別の態様において、本開示は、線維症を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療上効果的な量の本明細書において企図される抗体または薬学的組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0048】
様々な実施形態において、抗体は、第2の薬剤とともに投与される。一実施形態において、第2の薬剤は、細胞外基質分解タンパク質、抗線維症薬、外科治療、化学療法、細胞傷害性薬、または放射線療法薬からなる群から選択される。例示的な第2の薬剤は、発明を実施するための形態においてより詳細に開示される。
【0049】
様々な実施形態において、治療は、定期的に、例えば毎時間、毎日、毎週、2週間毎、3週間毎、毎月、またはそれより長い間隔で投与される。関連する実施形態において、例示的な治療では、本明細書に開示される抗体は、約1mg/日、5mg/日、10mg/日、20mg/日、50mg/日、75mg/日、100mg/日、150mg/日、200mg/日、250mg/日、500mg/日または1000mg/日の用量で投与され得る。これらの濃度は、単回投薬形態として、または複数回投薬として投与され得る。
【0050】
また、TGFβに結合する本開示の上記抗体もしくは組成物のいずれかを含む組成物、または、TGFβ発現に関連した本明細書に記載の障害のいずれかの治療のための医薬の調製におけるその使用が企図される。また、上記抗体または組成物のいずれかを含み、任意選択で好適な取扱説明書を有する、シリンジ、例えば使い捨てまたは事前に充填されたシリンジ、滅菌密閉容器、例えばバイアル、ボトル、槽、および/またはキットもしくはパッケージも企図される。
【0051】
本明細書に記載のそれぞれの特徴もしくは実施形態、または組み合わせは、非限定的であり、本発明の態様のいずれかの実例であり、したがって、本明細書に記載される他の特徴もしくは実施形態、または組み合わせと組み合わせることができることを意図することが理解される。例えば、「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「ある特定の実施形態」、「さらなる実施形態」、「具体的な例示的実施形態」、および/または「別の実施形態」等の言葉とともに特徴が説明される場合、これらの種類の実施形態のそれぞれは、全ての可能な組み合わせを列挙する必要なく、本明細書に記載の任意の他の特徴、または特徴の組み合わせと組み合わされることが意図される特徴の限定されない例である。そのような特徴または特徴の組み合わせは、本発明の態様のいずれにも適用される。範囲内に含まれる値の例が開示される場合、これらの例のいずれも、範囲の可能な端点として企図され、そのような端点の間のありとあらゆる数値が企図され、上の端点および下の端点のありとあらゆる組み合わせが想定される。
[本発明1001]
形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、
(a)表1もしくは配列番号13、19および25に記載の重鎖CDR1アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、
(b)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号14、20および26に記載の重鎖CDR2アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、
(c)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号15、21および27に記載の重鎖CDR3アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と
を含む、抗体。
[本発明1002]
形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、
(a)表1もしくは配列番号13、19および25に記載の重鎖CDR1アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、
(b)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号14、20および26に記載の重鎖CDR2アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、
(c)(a)と同じ重鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号15、21および27に記載の重鎖CDR3アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と
を含む、抗体。
[本発明1003]
形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、
(a)表1もしくは配列番号13、19および25に記載の重鎖CDR1アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、
(b)独立して選択される、表1もしくは配列番号14、20および26に記載の重鎖CDR2アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と、
(c)独立して選択される、表1もしくは配列番号15、21および27に記載の重鎖CDR3アミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその変異体と
を含む、抗体。
[本発明1004]
前記重鎖CDR1、CDR2またはCDR3アミノ酸配列の少なくとも2つが、表1または配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載されている、本発明1001から1003のいずれかの抗体。
[本発明1005]
前記重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列の3つが、表1または配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載されている、本発明1001から1003のいずれかの抗体。
[本発明1006]
表1または配列番号2、6および10に記載の重鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む、本発明1001から1005のいずれかの抗体。
[本発明1007]
表1または配列番号2、6および10に記載の重鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、本発明1001から1006のいずれかの抗体。
[本発明1008]
重鎖可変領域における3つ全てのHCDRであるHCDR1、HCDR2およびHCDR3の配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチド配列を含む、本発明1001から1003のいずれかの抗体。
[本発明1009]
1つ以上の重鎖フレームワークアミノ酸が、別のヒト抗体アミノ酸配列由来の1つまたは複数の対応するアミノ酸で置き換えられている、本発明1001から1008のいずれかの抗体。
[本発明1010]
表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載の軽鎖CDRアミノ酸配列のいずれか1つをさらに含む、本発明1001から1009のいずれかの抗体。
[本発明1011]
表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載の軽鎖CDRアミノ酸配列の少なくとも2つを含む、本発明1001から1010のいずれかの抗体。
[本発明1012]
表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載の軽鎖CDRアミノ酸配列の少なくとも3つを含む、本発明1001から1011のいずれかの抗体。
[本発明1013]
(a)表1もしくは配列番号16、22および28に記載の軽鎖CDR1アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、
(b)(a)と同じ軽鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号17、23および29に記載の軽鎖CDR2アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、
(c)(a)と同じ軽鎖可変領域に由来する、表1もしくは配列番号18、24および30に記載の軽鎖CDR3アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と
を含む、本発明1001から1009のいずれかの抗体。
[本発明1014]
(a)表1もしくは配列番号16、22および28に記載の軽鎖CDR1アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、
(b)独立して選択される、表1もしくは配列番号17、23および29に記載の軽鎖CDR2アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と、
(c)独立して選択される、表1もしくは配列番号18、24および30に記載の軽鎖CDR3アミノ酸配列、または1つもしくは2つのアミノ酸が変更されたその変異体と
を含む、本発明1001から1009のいずれかの抗体。
[本発明1015]
前記軽鎖CDR1、CDR2またはCDR3アミノ酸配列の少なくとも2つが、表1または配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載されている、本発明1013または1014の抗体。
[本発明1016]
表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む、本発明1010から1015のいずれかの抗体。
[本発明1017]
表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む、本発明1016の抗体。
[本発明1018]
表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、本発明1016の抗体。
[本発明1019]
表1または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、本発明1018の抗体。
[本発明1020]
軽鎖可変領域の3つ全てのLCDRであるLCDR1、LCDR2およびLCDR3の配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチド配列を含む、本発明1013から1015のいずれかの抗体。
[本発明1021]
(i)軽鎖可変領域の3つ全てのLCDRであるLCDR1、LCDR2およびLCDR3の配列番号16〜18、22〜24および28〜30に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列、ならびに(ii)重鎖可変領域の3つ全てのHCDRであるHCDR1、HCDR2およびHCDR3の配列番号13〜15、19〜21および25〜27に記載のアミノ酸配列にわたり少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む、本発明1013から1015のいずれかの抗体。
[本発明1022]
軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含む、形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、
(a)前記軽鎖可変領域が、配列番号16、22および28もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号17、23および29もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに/または配列番号18、24および30もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/あるいは
(b)前記重鎖可変領域が、配列番号13、19および25もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号14、20および26もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに/または配列番号15、21および27もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む、抗体。
[本発明1023]
(a)前記軽鎖可変領域が、配列番号16もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号17もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、および配列番号18もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または
(b)前記重鎖可変領域が、配列番号13もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号14もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、および配列番号15もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む、本発明1022の抗体。
[本発明1024]
(a)前記軽鎖可変領域が、配列番号22もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号23もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、および配列番号24もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または
(b)前記重鎖可変領域が、配列番号19もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号20もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、および配列番号21もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む、本発明1022の抗体。
[本発明1025]
(a)前記軽鎖可変領域が、配列番号28もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号29もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、および配列番号30もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または
(b)前記重鎖可変領域が、配列番号25もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号26もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、および配列番号27もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む、本発明1022の抗体。
[本発明1026]
重鎖定常領域をさらに含み、前記重鎖定常領域が、改変もしくは非改変のIgG、IgM、IgA、IgD、IgE、それらの断片、またはそれらの組み合わせである、本発明1001から1025のいずれかの抗体。
[本発明1027]
1つ以上の軽鎖フレームワークアミノ酸が、別のヒト抗体アミノ酸配列由来の1つまたは複数の対応するアミノ酸で置き換えられている、本発明1013から1026のいずれかの抗体。
[本発明1028]
XPA.42.089、XPA.42.068およびXPA.42.681から選択される、本発明1001から1003、1013から1014、または1022のいずれかの抗体。
[本発明1029]
前記軽鎖可変領域に結合したヒト軽鎖定常領域をさらに含む、本発明1013から1028のいずれかの抗体。
[本発明1030]
前記軽鎖定常領域が、改変もしくは非改変のラムダ軽鎖定常領域、カッパ軽鎖定常領域、それらの断片、またはそれらの組み合わせである、本発明1029の抗体。
[本発明1031]
10
−6M以下の親和性KdでTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する、前記本発明のいずれかの抗体。
[本発明1032]
TGFβ3に対してよりも高い親和性でTGFβ1およびTGFβ2に結合する、本発明1001から1031のいずれかの抗体。
[本発明1033]
TGFβ3よりも高い程度までTGFβ1およびTGFβ2の活性を中和する、本発明1001から1032のいずれかの抗体。
[本発明1034]
本発明1001から1033のいずれかの重鎖または軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子。
[本発明1035]
発現制御配列に作用可能に結合した本発明1034の核酸分子を含む、発現ベクター。
[本発明1036]
本発明1035のベクターまたは本発明1034の核酸分子を含む、宿主細胞。
[本発明1037]
重鎖および軽鎖可変領域をコードする核酸分子を含み、重鎖および軽鎖核酸が、別々の核酸で発現されるか、または同じ核酸上で発現される、本発明1036の宿主細胞。
[本発明1038]
本発明1036または1037の宿主細胞を使用して抗体を生成する方法であって、好適な条件下で本発明1036または1037の宿主細胞を培養する工程と、前記抗体を回収する工程とを含む、方法。
[本発明1039]
本発明1038の方法により生成される、抗体。
[本発明1040]
本発明1001〜1033および1039のいずれかの抗体ならびに薬学的に許容される担体を含む、無菌薬学的組成物。
[本発明1041]
TGFβ発現に関連した疾患、状態または障害を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療上効果的な量の本発明1001から1033のいずれかの抗体または本発明1040の薬学的組成物を投与するステップを含む方法。
[本発明1042]
前記疾患、状態または障害が、癌、眼の疾患、状態または障害、眼線維症または目の線維症、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢気道疾患(例えば閉塞性細気管支炎)、肺気腫、成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI);病原菌または毒物に起因する肺線維症;腎臓線維症、全ての病因の糸球体腎炎(GN)、メサンギウム増殖性GN、免疫性GN、および半月体形成性GN、糸球体硬化症、尿細管間質損傷、腎間質線維症、腎線維症および腎間質線維症の全ての原因、薬物暴露の合併症からもたらされる腎線維症、移植レシピエントのシクロスポリン処置、HIV関連ネフロパシー、移植ネクロパシー、糖尿病性腎臓疾患(糖尿病性ネフロパシー)、腎性全身性線維症、糖尿病、特発性後腹膜線維症、強皮症、肝線維症、過度の瘢痕および進行性硬化に関連した肝疾患、肝硬変、胆管の障害、感染症に起因する肝機能異常、線維嚢胞症、心血管疾患、鬱血性心不全、拡張型心筋症;心筋炎;血管狭窄心線維症(梗塞後心線維症)、心筋梗塞後、左心室肥大、静脈閉塞症、再狭窄、血管形成後の再狭窄、動静脈移植不全、アテローム性動脈硬化、高血圧、高血圧性心疾患、心臓肥大、肥大型心筋症、心不全、大動脈疾患、全身性進行性硬化症、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、ファシスト、レイノー症候群、関節リウマチ、ペイロニー病、全身性硬化症、脊髄損傷後、骨粗しょう症、カムラチ・エンゲルマン病、クローン病、瘢痕、マルファン症候群、早発閉経、アルツハイマー病およびパーキンソン病、外科的切開または機械的外傷に起因する線維症、眼科手術に関連した線維症;ならびに、外傷または外科的創傷からもたらされる創傷治癒中に生じる真皮における過度または肥大性の瘢痕またはケロイド形成からなる群から選択される、本発明1041の方法。
[本発明1043]
前記疾患、状態または障害が、線維増殖性障害、目の線維症、眼線維症、網膜機能不全、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、ならびに糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離からなる群から選択される眼の疾患、状態または障害である、本発明1042の方法。
[本発明1044]
前記疾患、状態または障害が、線維増殖性の眼疾患、状態もしくは障害、目の線維症、または眼線維症である、本発明1042の方法。
[本発明1045]
癌を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療上効果的な量の本発明1001から1033のいずれかの抗体または本発明1040の薬学的組成物を投与する工程を含む、方法。
[本発明1046]
前記抗体または組成物が、腫瘍内のナチュラルキラー(NK)細胞の数を増加させ、かつ/またはNK細胞の細胞溶解活性を改善する、本発明1045の方法。
[本発明1047]
前記抗体または組成物が、腫瘍内の調節性T細胞の数を減少させ、かつ/または調節性T細胞機能を阻害する、本発明1045の方法。
[本発明1048]
前記抗体または組成物が、腫瘍内の細胞傷害性T細胞(CTL)の数を増加させ、かつ/またはCTL機能を向上させる、本発明1045の方法。
[本発明1049]
前記抗体が、腫瘍内の骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)の数を減少させ、かつ/またはMDSC機能を阻害する、本発明1045の方法。
[本発明1050]
前記抗体が、腫瘍内の樹状細胞(DC)の数を減少させ、かつ/または樹状細胞の寛容原性機能を阻害する、本発明1044の方法。
[本発明1051]
前記癌が、肺癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、食道癌、直腸結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、線維性癌、神経膠腫および黒色腫からなる群から選択される、本発明1045から1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
線維症を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療上効果的な量の本発明1001から1033のいずれかの抗体または本発明1040の薬学的組成物を投与する工程を含む、方法。
[本発明1053]
TGFβ発現に関連した状態または障害の治療における使用のための、本発明1001から1033のいずれかの抗体または本発明1040の薬学的組成物を含む、組成物。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本開示は、TGFβ発現に関連した状態または障害、例えば癌および線維症を治療するための治療薬を提供する。本開示は、TGFβと相互作用して、例えばTGFβの結合相手を介したシグナル伝達等のその機能的効果の1つ以上を阻害する、分子または薬剤を提供する。本明細書において開示される組成物は、腫瘍内の免疫細胞活性を調整する能力を有利に有し、それにより、一態様において、腫瘍の成長に直接的または間接的に影響する細胞集団に影響することにより癌を治療する方法を提供する。
【0054】
本開示をより完全に理解することができるように、いくつかの定義を記載する。
【0055】
本明細書において使用する際、「標的」または「標的抗原」は、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3を含むTGF−β分子のいずれかまたは全てを指す。
【0056】
本明細書において使用する際、「TGFβ」は、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3またはその変異体を含む、TGFβのアイソフォームのいずれか1つ以上を指す。同様に、用語「TGFβ受容体」は、別段に指定されない限り、少なくとも1つのTGFβアイソフォームに結合する任意の受容体を指す。
【0057】
本明細書において使用する際、抗標的抗体の「所望の生物活性」は、TGFβに結合し、その機能的効果の1つ以上を阻害する能力である。
【0058】
本明細書において使用する際、「状態」または「標的発現に関連した障害」は、標的活性が有害である状態または障害であり、高レベルの標的が、障害の病態生理学の原因、もしくは障害の悪化に寄与する因子のいずれかである、またはそれが疑われることが示されている疾患および他の障害、ならびに高レベルの標的発現が望ましくない臨床的兆候または症状に関連している疾患および他の障害を含む。そのような障害は、例えば、分泌される、および/もしくは細胞表面上の標的のレベルの増加、ならびに/または障害を患っている対象の罹患細胞もしくは組織におけるシグナル伝達の増加により明らかとなり得る。標的レベルの増加は、例えば、本明細書に記載のような標的特異的抗体を使用して検出され得る。
【0059】
TGFβに結合する抗体物質(例えば本開示の抗体)により処置され得るTGFβ発現に関連した例示的な疾患、状態または障害は、癌、例えば肺癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、食道癌、直腸結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、線維性癌、神経膠腫および黒色腫、目の(例えば、眼球、視覚性、眼もしくは眼科的)疾患、状態もしくは障害、線維症に関連した疾患、状態もしくは障害、例えば、線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患、状態もしくは障害を含む。
【0060】
線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患、状態もしくは障害は、限定されないが、皮膚、肺、腎臓、心臓、脳および目を含む、体内の任意の器官または組織に影響するものを含む。線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患は、限定されないが、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢気道疾患(例えば閉塞性細気管支炎)、肺気腫、成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI);病原菌または毒物に起因する肺線維症;腎臓線維症、全ての病因の糸球体腎炎(GN)、例えば、メサンギウム増殖性GN、免疫性GN、および半月体形成性GN、糸球体硬化症、尿細管間質損傷、腎間質線維症、腎線維症および腎間質線維症の全ての原因、移植レシピエントのシクロスポリン処置、例えばシクロスポリン処置を含む、薬物暴露の合併症からもたらされる腎線維症、HIV関連ネフロパシー、移植ネクロパシー、糖尿病性腎臓疾患(例えば糖尿病性ネフロパシー)、腎性全身性線維症、糖尿病、特発性後腹膜線維症、強皮症、肝線維症、全ての病因に起因する肝硬変を含む過度の瘢痕および進行性硬化に関連した肝疾患、胆管の障害、感染症に起因する肝機能異常、線維嚢胞症、心血管疾患、例えば鬱血性心不全、拡張型心筋症;心筋炎;血管狭窄心線維症(例えば、梗塞後心線維症)、心筋梗塞後、左心室肥大、静脈閉塞症、再狭窄(例えば、血管形成後の再狭窄)、動静脈移植不全、アテローム性動脈硬化、高血圧、高血圧性心疾患、心臓肥大、肥大型心筋症、心不全、大動脈疾患、全身性進行性硬化症、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、ファシスト、レイノー症候群、関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、または緑内障の処置、網膜復位術、水晶体摘出、もしくは任意の種類のドレナージ術等の眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば、角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば、緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離、ペイロニー病、全身性硬化症、脊髄損傷後、骨粗しょう症、カムラチ・エンゲルマン病、クローン病、瘢痕、マルファン症候群、早発閉経、アルツハイマー病、パーキンソン病、外科的切開または機械的外傷に起因する線維症、眼科手術に関連した線維症;ならびに、外傷または外科的創傷からもたらされる創傷治癒中に生じる真皮における過度または肥大性の瘢痕またはケロイド形成を含む。
【0061】
例示的な目の疾患(例えば、眼球、視覚性、眼もしくは眼科的疾患)、状態または障害は、限定されないが、線維増殖性障害、目の線維症、眼線維症、網膜機能不全、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0062】
例示的な目の線維増殖性疾患、状態もしくは障害、目の線維症、眼球の線維症、または眼線維症は、限定されないが、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性に関連した線維症、眼科手術、例えば緑内障の治療、網膜復位術、水晶体摘出、または任意の種類のドレナージ術等に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷に関連した線維症、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0063】
様々な実施形態において、目の線維増殖性疾患、状態または障害は、増殖性硝子体網膜症、眼科手術に関連した線維症、白内障手術後の水晶体の線維症、角膜実質の線維症およびアルカリ熱傷からなる群から選択される。
【0064】
「免疫グロブリン」または「天然抗体」は、四量体糖タンパク質である。天然に存在する免疫グロブリンでは、それぞれの四量体は、2つの同一のポリペプチド鎖対からなり、それぞれの対は、1つの「軽鎖」(約25kDa)と1つの「重鎖」(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部は、抗原認識に主に関与する、約100〜110個、またはそれ以上のアミノ酸を有する可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部は、エフェクター機能に主に関与する定常領域を画定する。ヒト軽鎖は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)軽鎖に分類される。重鎖は、ミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)、およびエプシロン(ε)に分類され、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEと定義する。軽鎖および重鎖内で、可変領域および定常領域は、約12個以上のアミノ酸を有する「J」領域によって連結し、このとき重鎖は、約10個以上のアミノ酸を有する「D」領域も含む。概して、Fundamental Immunology,Ch.7(Paul,W.,ed.,2nd ed.Raven Press,N.Y.(1989))(参照によりあらゆる目的で全体が援用される)を参照されたい。それぞれの軽鎖/重鎖対の可変領域は、無傷の免疫グロブリンが2つの結合部位を有するように、抗体結合部位を形成する。
【0065】
各重鎖は、一端(VH)に1つの可変ドメイン、続いて複数の定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端(VL)に可変ドメイン、その他端に定常ドメインを有し;軽鎖の定常ドメインは、重鎖の最初の定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の界面を形成すると考えられている(Chothia et al.,J.Mol.Biol.196:901−917,1987)。
【0066】
免疫グロブリン可変ドメインは、同じ一般的構造の3つの超可変領域またはCDRが連結した比較的保存されたフレームワーク領域(FR)を示す。N末端からC末端にかけて、軽鎖および重鎖はいずれもドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987 and 1991))、またはChothia & Lesk(J.Mol.Biol.196:901−917,1987)、Chothia et al.,(Nature 342:878−883,1989)の定義に従う。
【0067】
抗体の超可変領域とは、抗原結合に関与する抗体のCDRアミノ酸残基を指す。超可変領域は、CDRからのアミノ酸残基[例えば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)に記載されるように、軽鎖可変ドメインの残基24〜34(L1)、50〜56(L2)、および89〜97(L3)、および重鎖可変ドメインの残基31〜35(H1)、50−65(H2)、および95〜102(H3)]、および/または超可変ループからの残基(例えば、[Chothia et al.,J.Mol.Biol.196:901−917(1987)]に記載されるような、軽鎖可変ドメインの残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、および91〜96(L3)、ならびに重鎖可変ドメインの残基26〜32(H1)、53〜55(H2)、および96〜101(H3))を含む。また、CDRは、ImMunoGenTics(IMGT)付番に従い特定および番号付けされており(Lefranc,M.−P.,The Immunologist,7,132−136(1999);Lefranc,M.−P.et al.,Dev.Comp.Immunol.,27,55−77(2003))、これは軽鎖および重鎖可変ドメインにおけるCDR位置を以下のように説明している:CDR1、約残基27から38;CDR2、約残基56から65;およびCDR3、約残基105から116(生殖系列)または残基105から117(再配列))。一実施形態において、CDRは、本明細書において開示されるものとほぼ同様の長さの抗体重鎖または軽鎖の軽鎖可変ドメインの約残基26〜31(L1)、49〜51(L2)および88〜98(L3)、ならびに重鎖可変ドメインの約残基26〜33(H1)、50〜58(H2)および97〜111(H3)に位置することが企図される。しかしながら、当業者には、CDR残基の実際の場所は、特定の抗体の配列が特定される際、上述の予測される残基から変動し得ることが理解される。
【0068】
フレームワークすなわちFR残基は、超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0069】
「重鎖可変領域」とは、本明細書において使用する際、前記抗体重鎖可変ドメインの少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む抗体分子の領域を指す。重鎖可変領域は、前記抗体重鎖の1個、2個、または3個のCDRを含み得る。
【0070】
「軽鎖可変領域」とは、本明細書において使用する際、前記抗体軽鎖可変ドメインの少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む抗体分子の領域を指す。軽鎖可変領域は、前記抗体重鎖の1個、2個、または3個のCDRを含み得、これは抗体によってカッパまたはラムダ軽鎖のいずれかであり得る。
【0071】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、完全に組み立てられた抗体、四量体抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗原に結合し得る抗体断片(例えばFab'、F'(ab)2、Fv、一本鎖抗体、二特異性抗体)、および、上記を含む組み換えペプチド(ただしそれらは、所望の生物活性を示す)を含む。「免疫グロブリン」または「四量体抗体」は、それぞれ可変領域および定常領域を含む、2つの重鎖および2つの軽鎖からなる四量体糖タンパク質である。抗原結合部分は、組み換えDNA技術により、または無傷抗体の酵素的もしくは化学的開裂により生成され得る。抗体断片または抗原結合部分は、とりわけ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、ドメイン抗体(dAb)、相補性決定領域(CDR)断片、CDR−グラフト抗体、一本鎖抗体(scFv)、一本鎖抗体断片、キメラ抗体、二特異性抗体、三特異性抗体、四特異性抗体、ミニボディ、直鎖状抗体;キレート性組み換え抗体、トリボディまたはバイボディ、細胞内抗体、ナノボディ、小モジュール免疫薬(SMIP)、抗原結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、VHH含有抗体、またはそれらの変異体もしくは誘導体、および抗体が所望の生物活性を保持する限り、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つのCDR配列等、ポリペプチドに特異的抗原結合を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含有するポリペプチドを含む。
【0072】
「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る可能な自然発生突然変異以外は同一である。
【0073】
「抗体変異体」とは、本明細書において使用する際、参照抗体可変領域ドメインの可変領域に少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、または挿入を含む抗体ポリペプチド配列を指す。変異体は、改変していない抗体と実質的に相同または実質的に同一であってよい。
【0074】
「キメラ抗体」とは、本明細書において使用する際、典型的には異なる種を起源とする、2つの異なる抗体に由来する配列を含む抗体(例えば、米国特許4,816,567号を参照)を指す。最も典型的には、キメラ抗体は、ヒトおよび齧歯動物の抗体断片、一般的にヒト定常領域およびマウス可変領域を含む。
【0075】
「中和抗体」は、それが結合する標的抗原の生物学的機能を排除するか、または著しく減少させることが可能な抗体分子である。したがって、「中和」抗標的抗体は、酵素活性、リガンド結合、または細胞内シグナル伝達等の生物学的機能を排除する、または著しく減少させることができる。
【0076】
「単離」抗体は、その自然環境の成分から特定、分離および回収された抗体である。その自然環境の混入成分は、抗体の診断的または治療的使用を妨げるであろう物質であり、これは酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を含み得る。好ましい実施形態において、抗体は、(1)ローリー法で測定したときに抗体の95重量%を上回るまで、最も好ましくは99重量%を上回るまで、(2)スピニングカップシークエネーターの使用によってN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(3)クマシーブルーもしくは好ましくは銀染色を用いて、還元もしくは非還元条件下でSDS−PAGEにより均質となるまで精製される。単離抗体は、組み換え細胞内のin situの抗体を含むが、これは抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しなくなるためである。しかしながら、通常、単離抗体は、少なくとも1つの精製ステップにより調製されるであろう。
【0077】
本明細書において使用する際、「特異的に結合する」、「標的特異的」である、標的に「特異的」である、または標的抗原と「免疫反応性」である抗体は、同様の抗原よりも大きな親和性で標的抗原に結合する抗体または抗体物質を指す。本開示の一態様において、標的結合ポリペプチド、またはその断片、変異体、もしく誘導体は、他の標的、すなわち非ヒト種に対するその結合親和性と比較して、ヒト標的に対してより高い親和性で結合するが、標的の相同分子種を認識してそれに結合する結合ポリペプチドも、提供される範囲内である。
【0078】
例えば、その同種抗原に「特異的な」その抗体または断片であるポリペプチドは、抗体の可変領域が、検出可能な優先性をもって対象ポリペプチドを認識しそれに結合する(すなわち、ファミリーメンバーの間の局所的な配列同一性、相同性、または類似性の存在の可能性にもかかわらず、結合親和性の測定可能な差異のために、対象ポリペプチドを同じファミリーの他の既知のポリペプチドと区別することができる)ことを示す。特定の抗体はまた、抗体の可変領域の外、特に分子の定常領域内の配列との相互作用を介して、他のタンパク質(例えば、黄色ブドウ球菌タンパク質AまたはELISA技術における他の抗体)と相互作用し得ることが理解される。本開示の方法における使用のための抗体の結合特異性を決定するためのスクリーニングアッセイは、周知であり、当該技術分野において習慣的に実践されている。そのようなアッセイの総合的な考察に関しては、Harlow et al.(Eds),Antibodies A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory;Cold Spring Harbor,NY(1988),Chapter 6を参照されたい。方法における使用のための抗体は、当該技術分野において知られている任意の方法を使用して生成され得る。
【0079】
「エピトープ」という用語は、抗原結合領域の1つまたは複数において、選択的結合剤が認識し、結合することができるあらゆる分子の部分を指す。エピトープは通常、アミノ酸または炭水化物側鎖等の分子の化学的に活性な表面基からなり、特定の三次元構造特性および特定の電荷特性を有する。エピトープは、本明細書において使用する際、隣接または非隣接であってよい。さらに、エピトープは、抗体を生成するために使用されるエピトープと同一の三次元構造を含むが、抗体免疫反応を刺激するために使用された標的において見られるアミノ酸残基を含まないか、またはそのいくつかのみを含む、模倣剤(ミモトープ)であってもよい。本明細書において使用する際、ミモトープは、選択的結合剤が結合するエピトープとは異なる抗原であるとはみなされず、選択的結合剤は、エピトープおよびミモトープの同じ三次元構造を認識する。
【0080】
「誘導体」という用語は、本開示の抗体物質およびポリペプチドに関連して用いる場合、ユビキチン化、治療薬または診断薬への複合体化、標識化(例えば、放射性核種または様々な酵素による)、ペグ化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)等のポリマー共有結合、およびヒトタンパク質に通常存在しない、オルニチン等のアミノ酸の化学合成による挿入または置換等の技術によって化学的に改変されたポリペプチドを指す。誘導体は、本開示の非誘導体化分子の結合特性を保持する。
【0081】
「検出可能部分」または「標識」とは、分光的、光化学的、生化学的、免疫化学的、または化学的手段によって検出可能な組成物を指す。例えば、有用な標識は、32P、35S、蛍光色素、電子密度の高い試薬、酵素、(例えば、ELISAにおいて一般的に用いられているもの)、ビオチン−ストレプトアビジン、ジオキシゲニン、それに対する抗血清もしくはモノクローナル抗体が入手可能なハプテンおよびタンパク質、または標的と相補的な配列を有する核酸分子を含む。検出可能部分は、しばしば、試料中の結合した検出可能部分の量を定量化するために使用可能な放射性、発色性、または蛍光性のシグナル等の測定可能なシグナルを生成する。
【0082】
「治療上効果的な量」という用語は、本明細書において、標的タンパク質発現に関連した疾患の症状または兆候を改良または低下させるのに効果的な、本開示の標的特異的組成物の量を示す。
【0083】
「治療する」、「治療すること」および「治療」という用語は、本明細書における方法に関して使用される場合、TGFβ発現に関連した事象、疾患または状態の臨床症状、発現または進行を、一時的または永久的に、部分的または完全に排除、低減、抑制または改善することを指す。そのような治療は、有用であるために絶対的である必要はない。
【0084】
本開示は、表1に記載の例示的な配列を含み得る標的特異的抗体、その断片、変異体および誘導体、上に列挙された標的特異的抗体を含む薬学的製剤、薬学的製剤を調製する方法、ならびに薬学的製剤および化合物で患者を治療する方法を提供する。
【0085】
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMに割り当てることができ、これらは、サブクラスまたはアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2にさらに分類され得る。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構成が周知である。異なるアイソタイプは異なるエフェクター機能を有し、例えば、IgG1およびIgG3アイソタイプは、ADCC活性を有する。本明細書において開示される抗体は、定常ドメインを含む場合、これらのサブクラスまたはアイソタイプのいずれかであってもよい。
【0086】
本開示の抗体は、約10
−5M以下、約10
−6M以下、または約10
−7M以下、または約10
−8M以下、または約10
−9M、10
−10M、10
−11M、または10
−12M以下のKdの、1つ以上のTGFβ抗原に対する結合親和性を示し得る。そのような親和性は、従来の技術を使用して、例えば平衡透析により、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用して(例えば、BIAcore 2000機器、製造者により概説された一般手順を使用)、125I標識化標的抗原を使用した放射免疫測定法により、または以下の実施例に記載の、もしくは当業者に知られた別の方法により、容易に決定され得る。親和性データは、例えば、Scatchardら(Ann N.Y.Acad.Sci.,51:660,1949)の方法により分析され得る。
【0087】
KinExA結合平衡除外アッセイもまた、抗体のその抗原に対する親和性を測定するために有用である。KinExA技術は、液相と固相との間の結合事象ではなく、液相における結合事象を測定する。さらに、結合事象を測定するための多くの方法は、少なくとも1つの反応物質が固定化または標識化により改変されることを必要とするが、KinExA法は、研究対象分子の改変を必要としない。KinExA法によって、現在利用可能な他の方法よりも広範囲の結合定数を測定することができると考えられている。KinExAデバイスおよび抗体特性決定のための操作に関するさらなる説明は、製造者(Sapidyne Instruments,Inc.、Boise、ID)から入手可能であり、公開された文献、例えば米国特許第6,664,114号、およびDarling et al.,"Kinetic Exclusion Assay Technology:Characterization of Molecular Interactions."Assay and Drug Development Technologies,2004,2:647−657において見出すことができる。
【0088】
形質転換成長因子β
TGFβは、分泌前に切断されて成熟TGFβを生成する約400アミノ酸(aa)のプレプロタンパク質として合成される、ジスルフィド結合二量体である。「潜在関連ペプチド」(LAP)としても知られるN末端切断断片は、二量体に非共有結合的な結合を維持し、それによりTGFβを不活性化することができる。in vivoで単離されたTGFβは、不活性な「潜在的」形態で主に見られ、すなわちLAPに関連している。潜在的TGFβ複合体は、いくつかの様式で、例えば、カチオン非依存性マンノース−6−リン酸/インスリン様成長因子II受容体と呼ばれる細胞表面受容体への結合により活性化され得る。結合は、LAP内のグリコシル化部位に結合したマンノース−6−リン酸残基を介して生じる。受容体への結合後、TGFβは、成熟形態で放出される。成熟した活性TGFβは、次いで、その受容体に自由に結合し、その生物学的機能を発揮する。II型TGFβ受容体における主要なTGFβ結合ドメインは、19アミノ酸配列にマッピングされている(Demetriou et al.,J.Biol.Chem.,271:12755,1996)。また、米国特許第7,867,496号も参照されたい。
【0089】
現在、TGFβの5つのアイソフォームが知られており(TGFβ1からTGFβ5;TGFβ1〜3は哺乳動物、TGFβ4はニワトリに見られ、TGFβ5はカエルに見られる)、それらの全ては、互いに相同であり(60〜80%の同一性)、約25kDaのホモ二量体を形成し、一般的なTGFβ受容体(TGFβ−RI、TGFβ−RII、TGFβ−RIIB、およびTGFβ−RIII)に作用する。TGFβおよびTGFβ受容体の構造的および機能的態様は、当該技術分野において周知である(例えば、Cytokine Reference,eds.Oppenheim et al.,Academic Press,San Diego,Calif.,2001を参照されたい)。TGFβは、種の間でよく保存される。例えば、ラットおよびヒト成熟TGFβ1のアミノ酸配列は、ほぼ同一である。米国特許第7,867,496号もまた参照されたい。
【0090】
TGFβ1は、生物組織における創傷治癒のプロセスにおいて重要な役割を担う(New Engl.J.Med.,Vol.331,p.1286,1994およびJ.Cell.Biol.,Vol.119,p.1017,1992)。創傷組織の部位において、炎症細胞および線維芽細胞の浸潤、細胞外基質(ECM)の産生および血管新生、ならびにその後の組織再生に向けた細胞成長等の生体反応が生じて、損傷組織を修復する。米国特許第7,579,186号もまた参照されたい。
【0091】
TGFβ2欠損マウスは、心臓、肺、頭蓋顔面、四肢、脊椎、目、耳および泌尿生殖器欠陥を含む、著しい発育障害を示す(Dunker et al.,Eur J Biol 267:6982−8,2001)。TGFβ3欠損マウスは、出生後24時間までにほぼ100%の致死率を示す。これらのマウスは、著しい口蓋障害および肺発育遅延を示す(Dunker et al.、上記参照)。TGFβ2はまた、緑内障の発達(Luthen−Driscoll,Experimental Eye Res 81:1−4,2005)、クローン病に関連した線維症(Van Assche et al.,Inflamm Bowel Dis.10:55−60,2004)、創傷治癒および糖尿病性ネフロパシー(Pohlers et al.,Biochim Biophys Acta 1792:746−56,2009)にも関与が示されている。
【0092】
多くのヒト腫瘍(deMartin et al.,EMBO J.,6:3673(1987)、Kuppner et al.,Int.J.Cancer,42:562(1988))および多くの腫瘍細胞系(Derynck et al.,Cancer Res.,47:707(1987)、Roberts et al.,Br.J.Cancer,57:594(1988))がTGFβを産生することが観察されており、それらの腫瘍が通常の免疫監視を逃れる可能なメカニズムを示唆している。
【0093】
癌におけるTGFβアイソフォーム発現は、特に癌において異なる役割を有するTGFβアイソフォームの異なる組み合わせにより、複雑で変動する。例えば、米国特許第7,927,593号を参照されたい。例えば、TGFβ1およびTGFβ3は、卵巣癌およびその進行においてTGFβ2よりも大きな役割を担う可能性があり、一方TGFβ1およびTGFβ2発現は、より高い悪性度の軟骨肉腫腫瘍においてTGFβ3よりも著しい。ヒト乳癌においては、TGFβ1およびTGFβ3が顕著に発現し、TGFβ3発現は、全体的な生存に関連するようであり、結節転移および陽性TGFβ3発現を有する患者は、予後および転帰の不良を有する。しかしながら、結腸癌においては、TGFβ1およびTGFβ2は、TGFβ3よりも顕著に発現し、癌を有さない個体の場合よりも高い循環レベルで存在する。神経膠腫においては、TGFβ2は細胞移動に重要である。
【0094】
また、TGFβ発現は、腎硬化、肺線維症および肝硬変等の様々な組織線維症の発症、ならびに慢性肝炎、関節リウマチ、血管再狭窄、および皮膚のケロイド等の様々な状態に関与することが示されている。疾患もしくは障害(例えば線維増殖性疾患もしくは障害)、または疾患もしくは障害の処置に関連した線維症を含む、企図される線維症は、限定されないが、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢気道疾患(例えば閉塞性細気管支炎)、肺気腫、成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI);病原菌または毒物に起因する肺線維症;腎臓線維症、全ての病因の糸球体腎炎(GN)、例えば、メサンギウム増殖性GN、免疫性GN、および半月体形成性GN、糸球体硬化症、尿細管間質損傷、腎間質線維症、腎線維症および腎間質線維症の全ての原因、移植レシピエントのシクロスポリン処置、例えばシクロスポリン処置を含む、薬物暴露の合併症からもたらされる腎線維症、HIV関連ネフロパシー、移植ネクロパシー、糖尿病性腎臓疾患(例えば糖尿病性ネフロパシー)、腎性全身性線維症、糖尿病、特発性後腹膜線維症、強皮症、肝線維症、全ての病因に起因する肝硬変を含む過度の瘢痕および進行性硬化に関連した肝疾患、胆管の障害、感染症に起因する肝機能異常、線維嚢胞症、心血管疾患、例えば鬱血性心不全、拡張型心筋症;心筋炎;血管狭窄心線維症(例えば、梗塞後心線維症)、心筋梗塞後、左心室肥大、静脈閉塞症、再狭窄(例えば、血管形成後の再狭窄)、動静脈移植不全、アテローム性動脈硬化、高血圧、高血圧性心疾患、心臓肥大、肥大型心筋症、心不全、大動脈疾患、全身性進行性硬化症、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、ファシスト、レイノー症候群、関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、緑内障、網膜機能不全に関連した線維症の処置、網膜復位術、水晶体摘出、もしくは任意の種類のドレナージ術等の眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば、角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば、緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離、ペイロニー病、全身性硬化症、脊髄損傷後、骨粗しょう症、カムラチ・エンゲルマン病、クローン病、瘢痕、マルファン症候群、早発閉経、アルツハイマー病、パーキンソン病、外科的切開または機械的外傷に起因する線維症、眼科手術に関連した線維症;ならびに、外傷または外科的創傷からもたらされる創傷治癒中に生じる真皮における過度または肥大性の瘢痕またはケロイド形成を含む。
【0095】
肺線維症および腎硬化においては、TGFβの濃度が高く、線維症等の病的状態の進行をもたらす(Yamamoto et al.,Kidney Int.45:916−27,1994およびWestergren−Thorsson et al.,J.Clin.Invest.92:632−7,1993)。持続性組織損傷は、TGFβを発現するためのシグナルを連続的に変換し、ECMによるTGFβ発現に対するマイナスの調節シグナルを抑制するか、または、肺線維症および腎硬化において両方の事象を相乗的にもたらすと推測されている。TGFβの阻害剤を使用して、線維症疾患の診断および治療においてTGFβ活性および細胞外基質蓄積を抑制することが、WO1991/04748、WO1993/10808およびWO2000/40227において開示されている。抗TGF−βを中和することが、実験的糖尿病性腎臓疾患の治療において使用されている(Han and Ziyadeh,Peritoneal dialysis international,19 Suppl 2:S234−237(1999))。また、様々な適応症におけるTGFβの阻害剤の使用をさらに記載している、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,527,791号を参照されたい。
【0096】
例示的な目の疾患(例えば、眼球、視覚性、眼もしくは眼科的疾患)、状態または障害は、限定されないが、線維増殖性障害、目の線維症、眼線維症、網膜機能不全、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0097】
例示的な目の線維増殖性疾患、状態もしくは障害、目の線維症、眼球の線維症、または眼線維症は、限定されないが、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性に関連した線維症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷に関連した線維症、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0098】
様々な実施形態において、目の線維増殖性疾患、状態または障害は、増殖性硝子体網膜症、眼科手術に関連した線維症、白内障手術後の水晶体の線維症、角膜実質の線維症およびアルカリ熱傷からなる群から選択される。
【0099】
抗体ポリペプチド
本開示は、標的特異的抗体をコードするアミノ酸分子を包含する。例示的実施形態において、本開示の標的特異的抗体は、ヒトカッパ(κ)もしくはヒトラムダ(λ)軽鎖またはそれに由来するアミノ酸配列、あるいはヒト重鎖またはそれに由来する配列、あるいは重鎖および軽鎖の両方を一本鎖、二量体、四量体、または他の形態で一緒に含んでもよい。いくつかの実施形態において、標的特異的免疫グロブリンの重鎖および軽鎖は、異なるアミノ酸分子である。他の実施形態において、同じアミノ酸分子が、標的特異的抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含有する。
【0100】
いくつかの実施形態において、ヒト抗標的抗体のアミノ酸配列は、表1または配列番号4、8および12に記載の抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681、あるいはCDRグラフト化、改変、ヒト化、キメラ、もしくはヒト操作抗体または本明細書に記載の任意の他の変異体を含むそれらの変異体の成熟(すなわちシグナル配列を有さない)軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列の1つ以上のCDRを含む。いくつかの実施形態において、VLは、上記抗体のいずれか1つの軽鎖のCDR1の始めからCDR3の終わりまでのアミノ酸配列を含む。
【0101】
一実施形態において、標的特異的抗体は、それぞれが配列番号4、8および12に記載のVL領域のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する抗体のCDR1、CDR2およびCDR3領域から独立して選択される、軽鎖CDR1、CDR2またはCDR3((LCDR1、LCDR2、LCDR3)、配列番号4、8、および12に記載の、または配列番号3、7、および11に記載のVL領域をコードする核酸分子によりコードされるVH領域をコードする核酸を含む。一実施形態において、Chothiaの付番に従い、軽鎖CDR1は、約残基24〜34であり、CDR2は、約残基50〜56であり、CDR3は、約残基89〜97の範囲である。代替の実施形態において、ImMunoGenTics(IMGT)付番に従い、重鎖CDRは、約残基27から38(CDR1)、約残基56から65(CDR2)、および約残基105から116(生殖系列)または残基105から117(CDR3)に位置することが企図される。一実施形態において、軽鎖CDRは、本明細書において開示されるものとほぼ同様の長さの抗体軽鎖の軽鎖可変ドメインにおける約残基26〜31(L1)、49〜51(L2)および88〜97(L3)に位置することが企図される。標的特異的抗体のポリペプチドは、XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681からなる群から選択されるVL領域のアミノ酸配列を含む抗体のCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでもよい。
【0102】
いくつかの実施形態において、ヒト標的特異的抗体は、表1もしくは配列番号2、6および10に記載の抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681またはそれらの変異体の成熟(すなわちシグナル配列を有さない)重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列の1つ以上のCDRを含む。いくつかの実施形態において、VHは、上記抗体の重鎖のいずれか1つのCDR1の始めからCDR3の終わりまでのアミノ酸配列を含む。
【0103】
一実施形態において、標的特異的抗体は、それぞれが配列番号2、6および10に記載のVH領域のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を有する抗体のCDR1、CDR2およびCDR3領域から独立して選択される、重鎖CDR1、CDR2またはCDR3(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、配列番号2、6、および10に記載の、または配列番号1、5、および9に記載のVH領域をコードする核酸分子によりコードされるVH領域をコードする核酸を含む。さらに、標的特異的抗体は、それぞれ配列番号2、6、および10に記載のVH領域のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を有する抗体のCDR1、CDR2およびCDR3領域から独立して選択される、重鎖CDR1、CDR2またはCDR3を含むことが企図される。一実施形態において、重鎖CDRの位置は、Chothiaの付番に従うと、CDR1は、約残基26〜35であり、CDR2は、約残基50〜58であり、CDR3は、約残基95〜102(または95〜111または95〜118)の範囲である。代替の実施形態において、ImMunoGenTics(IMGT)付番に従うと、重鎖CDRは、CDR1、約残基27から38(CDR1)、約残基56から65(CDR2)、およびCDR3、約残基105から116(生殖系列)または残基105から117(CDR3)に位置することが企図される。一実施形態において、重鎖CDRは、本明細書において開示されるものとほぼ同様の長さの抗体重鎖の重鎖可変ドメインにおける約残基26〜33(H1)、50〜58(H2)および97〜111(H3)に位置することが企図される。標的特異的抗体のポリペプチドは、XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681からなる群から選択されるVH領域のアミノ酸配列を含む抗体のCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでもよい。
【0104】
別の実施形態において、抗体は、表1に記載のように随意に対形成した、上に開示されるような成熟軽鎖可変領域および成熟重鎖可変領域を含む。
【0105】
例示的実施形態において、本開示は、以下を企図する:
【0106】
それぞれ配列番号13、19および25;14、20および26;15、21および27、ならびに配列番号16、22および28;17、23および29;および18、24および30のいずれか1つのHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、またはLCDR3の任意の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つを保持するモノクローナル抗体(随意にそのようなCDR(複数を含む)のいずれかにおける1つまたは2つの突然変異、例えば、保存的または非保存的置換を含み、随意に表1に記載のように対形成している);
【0107】
HCDR1、HCDR2、HCDR3、または配列番号13、19および25;14、20および26;ならびに15、21および27のいずれか1つの重鎖可変領域の全てを保持するモノクローナル抗体(随意にそのようなCDR(複数を含む)のいずれかにおける1つまたは2つの突然変異を含み、随意に任意の好適な重鎖定常領域、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、もしくはIgE、そのヒト配列、またはそのハイブリッドをさらに含む);
【0108】
LCDR1、LCDR2、LCDR3、または配列番号16、22および28;17、23および29;ならびに18、24および30のいずれか1つの軽鎖可変領域の全てを保持するモノクローナル抗体(随意にそのようなCDR(複数を含む)のいずれかにおける1つまたは2つの突然変異を含み、随意に任意の好適な軽鎖定常領域、例えば、カッパもしくはラムダ軽鎖定常領域、そのヒト配列、またはそのハイブリッドをさらに含む)。
【0109】
いくつかの実施形態において、抗体は、表1に記載のように対形成した、3つ全ての軽鎖CDR、3つ全ての重鎖CDR、または軽鎖および重鎖の6つ全てのCDRを含む。いくつかの例示的実施形態において、抗体からの2つの軽鎖CDRは、異なる抗体からの第3の軽鎖CDRと組み合わされてもよい。代替として、1つの抗体からのLCDR1は、特にCDRが極めて相同である場合、異なる抗体からのLCDR2、およびさらに別の抗体からのLCDR3と組み合わされてもよい。同様に、抗体からの2つの重鎖CDRは、異なる抗体からの第3の重鎖CDRと組み合わされてもよく、または、1つの抗体からのHCDR1は、特にCDRが極めて相同である場合、異なる抗体からのHCDR2、およびさらに別の抗体からのHCDR3と組み合わされてもよい。
【0110】
いくつかの実施形態において、配列番号2、6、および10に記載の重鎖可変領域と少なくとも約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一であるアミノ酸配列、ならびに/または配列番号4、8および12に記載の軽鎖可変領域と少なくとも約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一であるアミノ酸配列アミノ酸配列を有するポリペプチドを含む抗体が提供され、抗体は、さらに、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2またはLCDR3の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または全てを含む。いくつかの実施形態において、軽鎖可変領域に対する同一性パーセントを有するアミノ酸配列は、軽鎖CDRの1つ、2つまたは3つを含んでもよい。他の実施形態において、重鎖可変領域に対するパーセント同一性を有するアミノ酸配列は、重鎖CDRの1つ、2つまたは3つを含んでもよい。
【0111】
別の実施形態において、表1中の抗体配列の重鎖可変領域における3つ全てのHCDR、配列番号13、19および25;14、20および26;ならびに15、21および27に記載のCDRと少なくとも約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む抗体が提供される。
【0112】
関連する実施形態において、表1中の抗体配列の軽鎖可変領域における3つ全てのLCDR、配列番号16、22および28;17、23および29;ならびに18、24および30に記載のCDRと少なくとも約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む抗体が提供される。
【0113】
さらなる実施形態において、表1中の抗体配列の重鎖および軽鎖可変領域における6つ全てのCDR、配列番号13、19および25;14、20および26;および15、21、27;16、22および28;17、23および29;ならびに18、24および30に記載のCDRと少なくとも約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む抗体が提供される。
【0114】
本開示の抗体は、抗体のCDR領域に1つまたは2つ以上のアミノ酸置換、例えば非保存的または保存的置換を有してもよいことが企図される。
【0115】
関連する実施形態において、フレームワークの残基が改変される。改変され得る重鎖フレームワーク領域は、重鎖CDR残基を包囲するH−FR1、H−FR2、H−FR3およびH−FR4で指定される領域内に存在してもよく、改変され得る軽鎖フレームワーク領域の残基は、軽鎖CDR残基を包囲するL−FR1、L−FR2、L−FR3およびL−FR4で指定される領域内に存在してもよい。フレームワーク領域内のアミノ酸は、例えば、ヒトフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークにおいて特定される任意の好適なアミノ酸と置換されてもよい。
【0116】
例示的実施形態において、本明細書に記載の抗TGFβ抗体は、TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3からなる群から選択されるTGFβの少なくとも1つのアイソフォームに特異的に結合する。他の実施形態において、抗TGFβ抗体は、(a)TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3(「汎反応性抗体」または「汎結合抗体」);(b)TGFβ1およびTGFβ2;(c)TGFβ1およびTGFβ3;ならびに(d)TGFβ2およびTGFβ3に特異的に結合する。例示的実施形態において、本明細書に記載の抗TGFβ抗体は、TGFβの少なくとも1つのアイソフォームに、10
−6M、10
−7M、10
−8M、10
−9M、10
−10M、10
−11M、または10
−12M以下(より低い値は、より高い結合親和性を意味する)の親和性で結合し、または随意に、2つのTGFβアイソフォームに、またはTGFβ1、2、もしくは3の全てに、アイソフォームの1つ以上に対して10
−6M、10
−7M、10
−8M、10
−9M、10
−10M、10
−11M、または10
−12M以下の親和性で結合する。他の実施形態において、本明細書に記載の抗体は、TGFβ3への結合と比較して、TGFβ1およびTGFβ2に、少なくとも2〜50倍、10〜100倍、2倍、5倍、10倍、25倍、50倍もしくは100倍、または20〜50%、50〜100%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%高い親和性で結合する(例えば、TGFβ1およびTGFβ2に優先的に結合する)。代替として、本明細書に記載の抗体は、TGFβアイソフォームTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3のそれぞれに、互いの3倍、5倍または10倍以内の親和性で結合する。
【0117】
いくつかの実施形態において、TGFβ1およびTGFβ2の抗体中和は、TGFβ3の中和よりも、少なくとも2〜50倍、10〜100倍、2倍、5倍、10倍、25倍、50倍もしくは100倍、または20〜50%、50〜100%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%強力である。
【0118】
XPA.42.089の重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、それぞれ配列番号6および8に記載されている。XPA.42.068の重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、それぞれ配列番号2および4に記載され、XPA.42.681の重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、それぞれ配列番号10および12に記載されている。
【0119】
抗体核酸
本開示はまた、標的特異的抗体をコードするアミノ酸分子を包含する。いくつかの実施形態において、別々の核酸分子が、標的特異的抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードする。他の実施形態において、同じ核酸分子が、標的特異的抗体の重鎖および軽鎖可変領域をコードする。一実施形態において、核酸は、本開示の標的特異的抗体、および本明細書に記載の核酸によりコードされたポリペプチドのいずれかをコードする。
【0120】
一態様において、本開示の核酸分子は、配列番号4、8および12に記載の抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681のVLアミノ酸配列またはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む。関連する態様において、VLアミノ酸配列は、コンセンサス配列である。いくつかの実施形態において、核酸は、前記抗体の軽鎖CDRのアミノ酸配列をコードする。いくつかの実施形態において、前記一部は、CDR1〜CDR3を含む連続部分である。一実施形態において、前記一部は、軽鎖CDR1、CDR2、またはCDR3領域の少なくとも1つ、2つまたは3つを、随意に異なるヒトまたはヒトコンセンサスフレームワークとともに、および随意に、3つのCDR全体において1つ、または2つまで、または3つまでの突然変異とともに含む。
【0121】
一実施形態において、本開示は、配列番号2、6および10ならびに4、8および12のいずれか1つに記載の可変領域アミノ酸配列を有する、機能的断片を含む抗原結合化合物を提供する。関連する実施形態において、上述の抗原結合化合物は、完全に組み立てられた四量体抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体;ヒト抗体;キメラ抗体;多重特異性抗体、抗体断片、Fab、F(ab')2;Fv;scFvもしくは一本鎖抗体断片;二特異性抗体;三特異性抗体、四特異性抗体、ミニボディ、直鎖状抗体;キレート性組み換え抗体、トリボディもしくはバイボディ、細胞内抗体、ナノボディ、小モジュール免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、VHH含有抗体、または、1つ以上の本開示のCDR配列を含み、所望の生物活性を示すこれらの抗体のいずれか1つの変異体もしくは誘導体、または2つ以上の抗体の混合からなる群から選択される。本開示の抗原結合化合物は、表面プラズモン共鳴により測定して、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3の1つ以上に対し、好ましくは10
−6、10
−7、10
−8、10
−9、10
−10、10
−11Mまたはそれ以下の結合親和性を保持する。
【0122】
一態様において、本開示の抗体は、表1において対形成されるような、それぞれアミノ酸配列の配列番号2、6および10ならびに配列番号4、8および12に記載の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含む。さらに、抗体は、上記アミノ酸配列に記載の抗体の全てまたは一部を含んでもよいことが企図される。一実施形態において、抗体は、表1において対形成されるような、配列番号2、6および10の重鎖のCDR1、CDR2、もしくはCDR3の少なくとも1つ、または配列番号4、8および12の軽鎖のCDR1、CDR2もしくはCDR3の少なくとも1つを含む。
【0123】
一実施形態において、重鎖は、重鎖CDR3配列として特定されるアミノ酸配列を含む。そのような「重鎖CDR3配列」(HCDR3)は、表1ならびに配列番号15、21および27に記載の重鎖CDR3配列として特定されるアミノ酸配列を含む。代替として、HCDR3配列は、表1において特定される任意のHCDR3アミノ酸配列と比較して、1つ以上のアミノ酸の変更(例えば、置換、挿入または欠失)を含有するアミノ酸配列を含む。好ましい置換は、表1の別のHCDR3内の対応する位置でのアミノ酸への置換を含む。代替として、HCDR3配列は、本明細書に記載のHCDR3のコンセンサスアミノ酸配列を含んでもよい。
【0124】
上述のHCDR3配列を含む重鎖は、さらに、「重鎖CDR1配列」(HCDR1)を含んでもよく、これは、配列番号13、19および25ならびに表1におけるHCDR1として特定されるアミノ酸配列、配列番号13、19および25ならびに表1において特定される任意のHCDR1と比較して1つ以上のアミノ酸の変更、好ましくは表1の別のHCDR1内の対応する位置におけるアミノ酸への置換を含有するアミノ酸配列、または本明細書に記載のHCDR1のコンセンサス配列のいずれかを含む。
【0125】
代替として、上述のHCDR3配列を含む重鎖は、さらに、「重鎖CDR2配列」(HCDR2)を含んでもよく、これは、配列番号14、20および26ならびに表1におけるHCDR2として特定されるアミノ酸配列、配列番号14、20および26ならびに表1において特定される任意のHCDR2と比較して1つ以上のアミノ酸の変更、好ましくは表1の別のHCDR2内の対応する位置におけるアミノ酸への置換を含有するアミノ酸配列、または本明細書に記載のHCDR2のコンセンサス配列のいずれかを含む。
【0126】
上述の重鎖CDR3配列を含む重鎖はまた、(a)上述の重鎖CDR1配列および(b)上述の本発明の重鎖CDR2配列の両方を含んでもよい。
【0127】
本開示の一態様は、以下に記載の重鎖CDR配列の任意の1つ、2つおよび/または3つを含む重鎖を含む標的抗原に結合する抗体を提供する。
【0128】
また、上述の重鎖CDR配列のいずれも、CDRのいずれかの端部に追加されたアミノ酸を含んでもよい。親和性成熟またはアミノ酸類似体を含有する変異体もしくは誘導体の調製を含む、本発明の抗体および抗原結合化合物の変異体および誘導体の調製が、本明細書においてさらに詳細に説明される。例示的な変異体は、アミノ酸配列内の対応するアミノ酸の保存的もしくは非保存的置換、または異なるヒト抗体配列の対応するアミノ酸によるアミノ酸の置き換えを含有するものを含む。
【0129】
上述の重鎖のいずれか1つを含む抗体は、さらに、軽鎖、好ましくは標的抗原に結合する軽鎖、最も好ましくは以下に記載の軽鎖CDR配列を含む軽鎖を含んでもよい。
【0130】
本開示の別の態様は、以下に記載の軽鎖CDR配列の任意の1つ、2つおよび/または3つを含む軽鎖を含む標的抗原に結合する抗体を提供する。
【0131】
好ましくは、軽鎖は、軽鎖CDR3配列として特定されるアミノ酸配列を含む。そのような「軽鎖CDR3配列」(LCDR3)は、表1および配列番号18、24および30内の軽鎖CDR3配列として特定されるアミノ酸配列を含む。代替として、軽鎖CDR3配列は、表1において特定される任意の軽鎖CDR3アミノ酸配列と比較して、1つ以上のアミノ酸の変更(例えば、置換、挿入または欠失)を含有するアミノ酸配列を含む。好ましい置換は、表1の別の軽鎖CDR3内の対応する位置でのアミノ酸への置換を含む。
【0132】
上述の軽鎖CDR3配列を含む軽鎖は、さらに、「軽鎖CDR1配列」を含んでもよく、これは、配列番号16、22および28または表1における軽鎖CDR1として特定されるアミノ酸配列、配列番号16、22および28または表1において特定される任意の軽鎖CDR1と比較して1つ以上のアミノ酸の変更、好ましくは表1の別の軽鎖CDR1内の対応する位置におけるアミノ酸への置換を含有するアミノ酸配列のいずれかを含む。
【0133】
代替として、上述の軽鎖CDR3配列を含む軽鎖は、さらに、「軽鎖CDR2配列」を含んでもよく、これは、配列番号17、23および29または表1における軽鎖CDR2として特定されるアミノ酸配列、表1において特定される任意の軽鎖CDR2と比較して1つ以上のアミノ酸の変更、好ましくは配列番号17、23および29または表1の別の軽鎖CDR2内の対応する位置におけるアミノ酸への置換を含有するアミノ酸配列のいずれかを含む。
【0134】
関連する態様において、本開示は、配列番号13〜15、19〜21および25〜27の少なくとも1つのHCDR、または配列番号16〜18、22〜24および28〜30のLCDRを含む精製ポリペプチドを企図し、重鎖可変領域のフレームワーク領域および軽鎖可変領域のフレームワーク領域は、ヒト抗体からのフレームワーク領域を含む。別の実施形態において、重鎖可変領域のフレームワーク領域および軽鎖可変領域のフレームワーク領域は、異なるヒト抗体配列とより相同となるようにアミノ酸置換により化学的に改変される。例えば、各重鎖フレームワーク領域(H−FR1−4)内において、重鎖可変領域の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、または少なくとも6つの天然フレームワーク領域残基が、アミノ酸置換により改変されており、各軽鎖フレームワーク領域(L−FR1−4)内において、軽鎖可変領域の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、または少なくとも6つの天然フレームワーク残基が、アミノ酸置換により改変されている。
【0135】
上述の軽鎖CDR3配列を含む軽鎖はまた、(a)上述の軽鎖CDR1配列および(b)上述の軽鎖CDR2配列の両方を含んでもよい。
【0136】
上述の軽鎖可変領域のいずれか1つを含む抗体は、さらに、随意に表1に記載のように対形成された重鎖可変領域、好ましくは標的抗原に結合する重鎖可変領域、最も好ましくは上述の重鎖CDR配列を含む重鎖可変領域を含んでもよい。
【0137】
さらに別の実施形態において、抗体は、配列番号2、6および10からなる群から選択される重鎖可変領域、ならびに配列番号4、8および12からなる群から選択される軽鎖可変領域を含む。
【0138】
関連する態様において、核酸分子は、配列番号4、8および12の1つの軽鎖アミノ酸配列またはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、核酸分子は、配列番号3、7および11のいずれか1つまたはその一部の軽鎖ヌクレオチド配列を含む。本開示の核酸分子は、さらに、配列番号1、3、5、7、9および11の配列を含む全ての核酸配列を含み、核酸配列は、本明細書に記載の抗体の重鎖および軽鎖可変領域、または本明細書に記載の、ならびに配列番号2、4、6、8、10、12および13〜30に記載のような任意のHCDRもしくはLCDRのアミノ酸配列をコードする、遺伝コードの多様性に基づく縮重コドンを含み、また本明細書に記載のもの等の極めてストリンジェントな条件下で、本明細書に記載の抗体の重鎖および軽鎖可変領域、または本明細書に記載の、ならびに配列番号2、4、6、8、10、12および13〜30に記載のような任意のHCDRもしくはLCDRのアミノ酸配列をコードする核酸配列にハイブリダイズする核酸を含む。
【0139】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号4、8および12に記載のVLアミノ酸配列と少なくとも60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%同一であるVLアミノ酸配列をコードする。本開示の核酸分子は、本明細書に記載のもの等の極めてストリンジェントな条件下で、配列番号4、8および12の軽鎖可変領域アミノ酸配列をコードする核酸配列、または配列番号3、7および11の軽鎖可変領域核酸配列を有する核酸配列にハイブリダイズする核酸を含む。
【0140】
さらに、本開示の核酸分子は、抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681のいずれか1つのVHアミノ酸配列またはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、核酸は、前記抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列をコードする。いくつかの実施形態において、前記一部は、重鎖CDR1〜CDR3を含む連続部分である。一実施形態において、前記一部は、重鎖CDR1、CDR2、またはCDR3領域の少なくとも1つ、2つまたは3つを、随意に異なるヒトまたはヒトコンセンサスフレームワークとともに、および随意に、総合した3つのCDRにおいて1つ、または2つまで、または3つまでの突然変異とともに含む。
【0141】
関連する態様において、核酸分子は、配列番号2、6および10の重鎖の1つの重鎖アミノ酸配列またはその一部をコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、核酸分子は、配列番号1、5および9またはその一部の重鎖ヌクレオチド配列を含む。
【0142】
いくつかの実施形態において、核酸分子は、配列番号2、6および10に記載のVHアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるVHアミノ酸配列をコードする。関連する態様において、VHアミノ酸配列は、コンセンサス配列である。本開示の核酸分子は、さらに、本明細書に記載のもの等の極めてストリンジェントな条件下で、配列番号2、6および10の重鎖可変領域アミノ酸配列をコードする核酸配列、または配列番号1、5および9のいずれか1つの重鎖可変領域核酸配列を有する核酸配列にハイブリダイズする核酸を含む。
【0143】
さらに、本開示の核酸は、XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681から選択される抗体の全長軽鎖または重鎖をコードしてもよく、全長軽鎖または全長重鎖は、それぞれ軽鎖定常領域または重鎖定常領域を含み、軽鎖定常領域は、随意に、非改変または改変カッパまたはラムダ領域を含み、重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA、IgD、またはIgE等のクラスのいずれかの非改変または改変定常領域を含む。
【0144】
一態様において、全長軽鎖抗体は、配列番号4、8および12に記載の配列を含む。さらに、全長軽鎖をコードするヌクレオチドは、配列番号4、8および12をコードし、配列番号3、7および11に記載のヌクレオチド配列を含むことが企図される。
【0145】
一態様において、全長重鎖抗体は、配列番号2、6および10のいずれか1つの配列を含む。さらに、全長重鎖をコードするヌクレオチドは、配列番号2、6および10の配列重鎖をコードし、配列番号1、5および9のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含むことが企図される。
【0146】
さらなる実施形態において、本開示は、軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含む、形質転換成長因子β(TGFβ)1、TGFβ2およびTGFβ3に結合する抗体であって、(a)軽鎖可変領域は、配列番号16、22および28もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号17、23および29もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに/または配列番号18、24および30もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/あるいは(b)重鎖可変領域は、配列番号13、19および25もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号14、20および26もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに/または配列番号15、21および27もしくはそれと少なくとも80%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む抗体を提供する。
【0147】
関連する実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号16もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号17もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号18もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または重鎖可変領域は、配列番号13もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号14もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号15もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む。
【0148】
別の実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号22もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号23もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号24もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または重鎖可変領域は、配列番号19もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号20もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号21もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む。
【0149】
さらに別の実施形態において、軽鎖可変領域は、配列番号28もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号29もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号30もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含み;かつ/または重鎖可変領域は、配列番号25もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR1、配列番号26もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR2、ならびに配列番号27もしくはそれと少なくとも90%同一である配列から選択されるCDR3を少なくとも含む。
【0150】
例示的実施形態において、本開示の抗体は、ヒトカッパ(κ)もしくはヒトラムダ(λ)軽鎖またはそれに由来するアミノ酸配列、あるいはヒト重鎖またはそれに由来する配列、あるいは重鎖および軽鎖の両方を一本鎖、二量体、四量体、または他の形態で一緒に含む。
【0151】
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す。モノクローナル抗体は、一般に極めて特異的であり、典型的には同じまたは異なる決定基(エピトープ)に対して特異化された異なる複数の抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、単一の抗原部位に対して特異化され得る。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、異なる特異性および特性を有する他の免疫グロブリンにより汚染されない均質培養により合成されるという点で有利である。
【0152】
モノクローナル抗体は、Kohlerら(Nature,256:495−7,1975)により初めて説明されたハイブリドーマ法により作製することができ(Harlow & Lane;Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,New York(1988);Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59−103(Academic Press,1986))、または、組み換えDNA法により作製することができる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)。モノクローナル抗体はまた、例えば、Clackson et al.(Nature 352:624−628,1991)およびMarks et al.(J.Mol.Biol.222:581−597,1991)に記載の技術を使用して、ファージ抗体ライブラリから単離することができる。モノクローナル抗体を生成するためのさらなる方法は、当業者に周知である。
【0153】
上記方法により生成されるもの等のモノクローナル抗体は、例えばタンパク質Aセファロース、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、および/または親和性クロマトグラフィー等の従来の免疫グロブリン精製手順により、培養培地、腹水、または血清から好適に分離される。
【0154】
さらに、本開示の抗体は、当該技術分野において周知の、および本明細書に記載の、抗体のより小さい抗原結合断片として使用され得ることが企図される。
【0155】
抗体断片
抗体断片は、無傷の全長抗体の一部、好ましくは無傷の抗体の抗原結合または可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFv断片;二特異性抗体;直鎖状抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv);例えば二重特異性抗体、三重特異性抗体等の多重特異性抗体断片(例えば、二特異性抗体、三特異性抗体、四特異性抗体);ミニボディ;キレート性組み換え抗体;トリボディまたはバイボディ;細胞内抗体;ナノボディ;小モジュール免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質;ラクダ化抗体;VHH含有抗体;ならびに抗体断片から形成される他のポリペプチドを含む。例えば、Holliger & Hudson(Nat.Biotech.23:1126−36(2005))を参照されたい。
【0156】
抗体のパパイン分解により、それぞれ単一の抗原結合部位を有するVL、VH、CLおよびCHドメインからなる一価断片である、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片、ならびに残りの「Fc」断片(この名前は容易に結晶化するその能力を反映している)を生成する。ペプシン処理により、抗体のVHおよびVLドメインを含む2つの「一本鎖Fv」または「scFv」抗体断片を有するヒンジ領域においてジスルフィド架橋により結合した2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab')2断片が得られ、それらのドメインは、単一ポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドは、Fvが抗原結合のために望ましい構造を形成して一本鎖抗体(scFv)をもたらすことを可能にする、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含み、VLおよびVH領域は、それらが単一タンパク質鎖として生成されるのを可能とする合成リンカーを介して対となって一価分子を形成する(Bird et al.,Science 242:423−426,1988、およびHuston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883,1988)。scFvの検討に関しては、Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.l 13,Rosenburg and Moore eds.,Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994)を参照されたい。Fd断片は、VHおよびCH1ドメインからなる。
【0157】
さらなる抗体断片は、VH ドメインからなるドメイン抗体(dAb)断片(Ward et al.,Nature 341:544−546,1989)を含む。二特異性抗体は、二価抗体であり、VHおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で発現しているが、同じ鎖上での2つのドメインの間の対形成を可能とするには短すぎるリンカーを使用しており、それによりドメインを強制的に別の鎖の相補的ドメインと対形成させ、2つの抗原結合部位を形成する(例えば、EP404,097;WO 93/11161;Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448,1993、およびPoljak et al.,Structure 2:1121−1123,1994を参照されたい)。二特異性抗体は、二重特異性または単一特異性となり得る。
【0158】
軽鎖を有さない機能的重鎖抗体は、テンジクザメ(Greenberg et al.,Nature 374:168−73,1995)、オオセ(Nuttall et al.,Mol Immunol.38:313−26,2001)およびラクダ科(Hamers−Casterman et al.,Nature 363:446−8,1993;Nguyen et al.,J.Mol.Biol.275:413,1998)、例えばラクダ、ヒトコブラクダ、アルパカおよびラマにおいて自然に発生する。抗原結合部位は、これらの動物において、単一のドメインであるVHHドメインに縮退している。これらの抗体は、重鎖可変領域のみを用いて抗原結合領域を形成し、すなわちこれらの機能的抗体は、構造H2L2のみを有する重鎖のホモ二量体である(「重鎖抗体」または「HCAb」と呼ばれる)。ラクダ科VHHは、ヒンジ、CH2、およびCH3ドメインを含有し、CH1ドメインが欠如したIgG2およびIgG3定常領域と再結合することが報告されている(Hamers−Casterman et al.、上記参照)。例えば、ラマIgG1は、VHがヒンジ、CH1、CH2およびCH3ドメインを含有する定常領域と再結合する従来の(H2L2)抗体アイソタイプであり、一方ラマIgG2およびIgG3は、CH1ドメインが欠如し、軽鎖を含有しない重鎖のみのアイソタイプである。ラクダ科VHHドメインは、高い親和性で抗原に結合し(Desmyter et al.,J.Biol.Chem.276:26285−90,2001)、溶液中で高い安定性を有する(Ewert et al.,Biochemistry 41:3628−36,2002)ことが判明している。従来のVHのみの断片は、可溶性形態で生成することが困難であるが、フレームワーク残基がよりVHH様となるように改変されれば、可溶性および特異的結合の改善を得ることができる。(例えば、Reichman,et al.,J Immunol Methods 1999,231:25−38を参照されたい。)ラクダ科重鎖を有する抗体を生成するための方法は、例えば、米国特許出願公開第20050136049号および同第20050037421号に記載されている。
【0159】
抗体重鎖の可変ドメインは、わずか15kDaの分子量を有する最小の完全機能的抗原結合断片であり、この物質は、ナノボディと呼ばれる(Cortez−Retamozo et al.,Cancer Research 64:2853−57,2004)。ナノボディライブラリは、Conrath et al.(Antimicrob Agents Chemother 45:2807−12,2001)に記載のように、またはRevets et al,Expert Opin.Biol.Ther.5(1):111−24(2005)に記載のように組み換え法を用いて、免疫化ヒトコブラクダから生成することができる。
【0160】
二重特異性Fab−scFv(「バイボディ」)および三重特異性Fab−(scFv)(2)(「トリボディ」)の産生は、Schoonjans et al.(J Immunol.165:7050−57,2000)およびWillems et al.(J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci.786:161−76,2003)に記載されている。バイボディまたはトリボディに関して、scFv分子はVL−CL(L)およびVH−CH1(Fd)鎖の1つまたは両方に融合し、例えば、2つのscFvsがFabのC末端に融合したトリボディを生成し、一方バイボディにおいては、1つのscFvがFabのC末端に融合している。
【0161】
ペプチドリンカー(ヒンジなし)を介して、またはIgGヒンジを介してCH3に融合したscFvからなる「ミニボディ」は、Olafsen,et al.,Protein Eng Des Sel.17(4):315−23,2004に記載されている。
【0162】
細胞内抗体は、細胞内発現を示す一本鎖抗体であり、細胞内タンパク質機能を操作することができる(Biocca,et al.,EMBO J.9:101−108,1990;Colby et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.101:17616−21,2004)。細胞内領域に抗体構築物を保持する細胞シグナル配列を含む細胞内抗体は、Mhashilkarら(EMBO J 14:1542−51,1995)およびWheelerら(FASEB J.17:1733−5.2003)に記載されているように生成することができる。透過抗体は、タンパク質導入ドメイン(PTD)が一本鎖可変断片(scFv)抗体と融合している細胞透過性抗体である(Heng et al.,Med Hypotheses.64:1105−8,2005)。
【0163】
さらに、標的タンパク質に特異的なSMIPまたは結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である抗体が企図される。これらの構築物は、抗体エフェクター機能の実行に必要な免疫グロブリンドメインに融合した抗原結合ドメインを含む一本鎖ポリペプチドである。例えば、WO03/041600、米国特許出願公開第20030133939号および米国特許出願公開第20030118592号を参照されたい。
【0164】
1つ以上のCDRが、共有結合的または非共有結合的に分子に組み込まれ、それを免疫アドヘシンとすることができる。免疫アドヘシンは、CDR(複数を含む)を、より大きなポリペプチド鎖の一部として組み込むことができ、CDR(複数を含む)を別のポリペプチド鎖に共有結合させることができ、またはCDR(複数を含む)を非共有結合的に組み込むことができる。CDRは、免疫アドヘシンを、特定の対象抗原に特異的に結合させることができる。
【0165】
したがって、抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域の1つ、2つ、および/または3つのCDR(例えば、単独もしくはタンデムの単一CDR、2つ、3つ、もしくはCDRの他の複数の反復;または単独もしくはタンデム反復の2つもしくは3つのCDRの組み合わせ;随意に、CDRまたは反復の間のスペーサーアミノ酸配列を有する)を含む様々な組成物を、当該技術分野において知られた技術により生成することができる。
【0166】
多重特異性抗体
いくつかの実施形態において、同じまたは異なる分子の少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する多重特異性(例えば二重特異性)抗標的抗体を生成することが望ましくなり得る。例示的な二重特異性抗体は、標的分子の2つの異なるエピトープに結合することができる。代替として、標的特異的抗体アームは、細胞防御メカニズムを標的に集中させるように、細胞表面分子、例えばT細胞受容体分子(例えば、CD2もしくはCD3)、またはIgGのFc受容体(FcγR)、例えばFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)に結合するアームと組み合わされてもよい。二重特異性抗体はまた、標的を発現させる、または取り込む細胞に細胞傷害性薬を局在化させるために使用することができる。これらの抗体は、標的結合アーム、および細胞傷害性薬(例えば、サポリン、抗インターフェロン60、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセートまたは放射性同位体ハプテン)に結合するアームを有する。二重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0167】
二重特異性抗体を作製するための別の手法によれば、抗体分子の対の間の界面を、組み換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体のパーセンテージを最大化するように操作することができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法において、第1の抗体分子の界面からの1つ以上の小さいアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)と置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖をより小さな側鎖(例えば、アラニンまたはトレオニン)で置き換えることにより、大きな側鎖(複数を含む)と同一または同様のサイズの代償的な「空隙」が、第2の抗体分子の界面上に形成される。これは、ホモ二量体等の他の望ましくない最終生成物よりも、ヘテロ二量体の収率を増加させるためのメカニズムを提供する。WO96/27011を参照されたい。
【0168】
二重特異性抗体は、架橋または「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体の一方はアビジンに結合し、他方はビオチンに結合することができる。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の好都合な架橋法を使用して作製され得る。好適な架橋剤は、当該技術分野において周知であり、いくつかの架橋技術とともに米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0169】
抗体断片から二重特異性抗体を生成するための技術もまた、文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を使用して調製することができる。Brennanら(Science 229:81−83,1985)は、無傷の抗体をタンパク質分解により切断してF(ab')2断片を生成する手順を説明している。これらの断片は、隣接ジチオールを安定化して分子間ジスルフィド形成を防止するために、ジチオール錯化剤亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元される。生成されたFab'断片は、次いで、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換される。次いで、Fab'−TNB誘導体の1つが、メルカプトエチルアミンでの還元によりFab'−チオールに再変換され、等モル量の他のFab'−TNB誘導体と混合されて、二重特異性抗体を形成する。生成された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための薬剤として使用することができる。さらなる実施形態において、大腸菌(E.coli)から直接回収されたFab'−SH断片をin vitroで化学的に結合させ、二重特異性抗体を形成することができる。(Shalaby et al.,J.Exp.Med.175:217−225(1992))
【0170】
Shalaby et al.,J.Exp.Med.175:217−225(1992)は、完全ヒト化二重特異性抗体F(ab')2分子の生成を説明している。各Fab'断片が、大腸菌から別個に分泌され、in vitroでの特異的化学的結合に供され、二重特異性抗体を形成した。このようにして形成された二重特異性抗体は、HER2受容体を過剰発現する細胞および正常ヒトT細胞に結合するとともに、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘引することができた。
【0171】
組み換え細胞培養から直接二重特異性抗体断片を作製および単離するための様々な技術もまた説明されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを使用して生成されている(Kostelny et al.,J.Immunol.148:1547−1553,1992)。FosおよびJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合により、2つの異なる抗体のFab'部分に結合させた。抗体ホモ二量体がヒンジ領域において還元されてモノマーを形成し、次いで再び酸化されて抗体へテロ二量体を形成した。この方法はまた、抗体ホモ二量体の生成にも利用することができる。Hollingerら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−48,1993)により説明される「二特異性抗体」技術は、二重特異性抗体断片の作製のための代替的メカニズムを提供した。
【0172】
その断片は、同じ鎖上での2つのドメインの間の対形成を可能とするには短すぎるリンカーにより軽鎖可変領域(VL)に接続された重鎖可変領域(VH)を含む。したがって、1つの断片のVHおよびVLドメインは、強制的に別の断片の相補的VLおよびVHドメインと対形成され、それにより2つの抗原結合部位を形成する。一本鎖Fv(scFv)の使用による二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略もまた報告されている。Gruber et al.,J.Immunol.152:5368(1994)を参照されたい。
【0173】
代替として、二重特異性抗体は、Zapata et al.Protein Eng.8:1057−62(1995)に記載のように産生される「直鎖状抗体」であってもよい。直鎖状抗体は、抗原結合領域の対を形成するタンデムFdセグメント(VH −CH1−VH −CH1)の対を含む。直鎖状抗体は、二重特異性または単一特異性となり得る。
【0174】
さらなる実施形態において、二重特異性抗体は、キレート性組み換え抗体(CRAb)であってもよい。キレート性組み換え抗体は、標的抗原の隣接および非重複エピトープを認識し、両方のエピトープに同時に結合するのに十分柔軟性である(Neri et al.,J Mol Biol.246:367−73,1995)。
【0175】
3以上の結合価を有する抗体もまた企図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。(Tutt et al.,J.Immunol.147:60,1991)。
【0176】
キメラおよびヒト化抗体
キメラまたはヒト化抗体は、親非ヒト(例えばマウス)モノクローナル抗体よりもヒトにおいて免疫原性が低いため、それらははるかに低いアナフィラキシーの危険性を伴って人間の治療に使用することができる。
【0177】
非ヒト(例えばマウス)モノクローナル抗体の可変Igドメインがヒト定常Igドメインに融合したキメラモノクローナル抗体は、当該技術において知られた標準的手順を使用して生成することができる(Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81,6841−6855(1984);およびBoulianne et al,Nature 312,643−646,(1984)を参照されたい)。
【0178】
ヒト化抗体は、例えば、(1)非ヒト相補性決定領域(CDR)をヒトフレームワークおよび定常領域にグラフトすること(当該技術分野において「CDRグラフト」によるヒト化と呼ばれるプロセス)、(2)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、表面残基の置き換えによりヒト様表面でそれらを「被覆する」こと(当該技術分野において、「張り合わせ」と呼ばれるプロセス)、または、代替として、(3)抗原結合もしくはタンパク質折り畳みに悪影響を及ぼす可能性が低いが、ヒト環境内で免疫原性を低減し得ると断定される位置でヒトアミノ酸を置換すること(例えばHUMAN ENGINEERING(商標))を含む、様々な方法により実現することができる。本開示において、ヒト化抗体は、「ヒト化」、「張り合わされた」、および「HUMAN ENGINEERED(商標)」抗体のいずれをも含む。これらの方法は、例えば、Jones et al.,Nature 321:522 525(1986);Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.,81:6851−6855(1984);Morrison and Oi,Adv.Immunol.,44:65−92(1988);Verhoeyer et al.,Science 239:1534−1536(1988);Padlan,Molec.Immun.28:489−498(1991);Padlan,Molec.Immunol.31:169−217(1994);Studnicka et al.米国特許第5,766,886号;Studnicka et al.,(Protein Engineering 7:805−814,1994;Co et al.,J.Immunol.152,2968−2976(1994);Riechmann,et al.,Nature 332:323−27(1988);およびKettleborough et al.,Protein Eng.4:773−783(1991)に開示されており、これらはそれぞれ、参照により本明細書に組み込まれる。
【0179】
CDRグラフトは、マウス重鎖および軽鎖可変Igドメインからの6つのCDRの1つ以上を、ヒト可変Igドメインの適切な4つのフレームワーク領域に導入することを含む。この技術(Riechmann,et al.,Nature 332:323−27(1988))は、保存されたフレームワーク領域(FR1〜FR4)を、主に抗原と接触するCDRループを支持するための骨格として使用する。しかしながら、CDRグラフトの欠点は、フレームワーク領域のアミノ酸が抗原結合に寄与し得るため、およびCDRループのアミノ酸が2つの可変Igドメインの会合に影響し得るため、元のマウス抗体よりも実質的に低い結合親和性を有するヒト化抗体をもたらし得ることである。ヒト化モノクローナル抗体の親和性を維持するために、CDRグラフト技術は、元のマウス抗体のフレームワーク領域に最も酷似したヒトフレームワーク領域を選択することにより、および抗原結合部位のコンピュータモデリングによって補助されたフレームワークまたはCDR内の単一アミノ酸の部位特異的突然変異誘発により(例えば、Co et al.,J.Immunol.152,2968−2976(1994))改善され得る。
【0180】
形質転換動物からのヒト抗体
標的タンパク質へのヒト抗体はまた、内因性免疫グロブリン産生を有さず、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含有するように操作された形質転換動物を使用して生成することができる。例えば、WO98/24893は、ヒトIg遺伝子座を有する形質転換動物を開示しており、動物は、内因性重鎖および軽鎖遺伝子座の不活性化に起因して、機能的内因性免疫グロブリンを産生しない。また、WO91/00906は、免疫原に対する免疫反応を組み込むことができる形質転換非霊長類哺乳動物宿主を開示しており、抗体は、霊長類定常および/または可変領域を有し、内因性免疫グロブリンコード遺伝子座は、置換または不活性化される。WO96/30498および米国特許第6,091,001号は、哺乳動物における免疫グロブリン遺伝子座を改変する、例えば定常または可変領域の全てまたは一部を置き換えて改変抗体分子を形成するためのCre/Lox系の使用を開示している。WO94/02602は、不活性化内因性Ig遺伝子座および機能的ヒトIg遺伝子座を有する非ヒト哺乳動物宿主を開示している。米国特許第5,939,598号は、形質転換マウスを作製する方法を開示しており、マウスは、内因性重鎖を欠如し、1つ以上の異種定常領域を含む外因性免疫グロブリン遺伝子座を発現する。米国特許第6,114,598号、米国特許第6,657,103号および米国特許第6,833,268号もまた参照されたい。
【0181】
上述の形質転換動物を使用して、選択された抗原分子に対して免疫反応を生成することができ、抗体産生細胞が、動物から取り出され、ヒトモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを産生するため使用され得る。免疫化プロトコル、アジュバント等は当該技術分野において既知であり、例えば、WO96/33735に記載のような形質転換マウスの免疫化に使用される。この公開公報は、IL−6、IL−8、TNFa、ヒトCD4、Lセレクチン、gp39、および破傷風毒素を含む様々な抗原分子に対するモノクローナル抗体を開示している。モノクローナル抗体は、対応するタンパク質の生物活性または生理学的効果を阻害または中和する能力に関して試験することができる。WO96/33735は、IL−8で免疫化された形質転換マウスの免疫細胞に由来するIL−8に対するモノクローナル抗体が、好中球のIL−8誘導機能をブロックしたことを開示している。形質転換動物を免疫化するために使用される抗原に対する特異性を有するヒトモノクローナル抗体はまた、WO96/34096および米国特許出願第20030194404号;ならびに米国特許出願第20030031667号に開示されている。
【0182】
モノクローナル抗体を作製するのに有用なさらなる形質転換動物は、米国特許第5,770,429号およびFishwild,ら(Nat.Biotechnol.14:845−851(1996))に記載のMedarex HuMAb−MOUSE(登録商標)を含み、これは、ヒト抗体の重鎖および軽鎖をコードする非再配列ヒト抗体遺伝子からの遺伝子配列を含有する。HuMAb−MOUSE(登録商標)の免疫化により、標的タンパク質に対する完全ヒトモノクローナル抗体の生成が可能になる。
【0183】
また、Ishidaら(Cloning Stem Cells.4:91−102(2002))は、ヒトDNAのメガ塩基対サイズのセグメントを含み、ヒト免疫グロブリン(hIg)遺伝子座全体を組み込んだTransChromo Mouse(TCMOUSE(商標))を説明している。TCMOUSE(商標)は、hIgの完全に多様なレパートリーを有し、IgGの全てのサブクラス(IgG1〜G4)を含む。様々なヒト抗原によるTCMOUSE(商標)の免疫化は、ヒト抗体を含む抗体反応を生成する。
【0184】
Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255−258(1993);Bruggermann et al.,Year in Immunol.,7:33(1993);および米国特許第5,591,669号、米国特許第5,589,369号、米国特許第5,545,807号;および米国特許出願公開第20020199213号も参照されたい。米国特許出願公開第20030092125号は、動物の免疫反応を所望のエピトープに偏らせるための方法を説明している。また、ヒト抗体は、in vitroで活性化されたB細胞により生成することができる(米国特許第5,567,610号および米国特許第5,229,275号を参照されたい)。
【0185】
ディスプレイ技術からのヒト抗体
組み換えヒト抗体遺伝子のレパートリーを作製するための技術、および線維状バクテリオファージの表面上でのコード抗体断片のディスプレイの開発は、ヒト抗体を直接作製するための手段を提供した。ファージ技術により生成された抗体は、細菌内の抗原結合断片−通常はFvまたはFab断片−として生成され、したがってエフェクター機能を喪失している。エフェクター機能は、2つの戦略の1つにより導入することができ、すなわち、断片は、例えば、哺乳動物細胞における発現のために完全抗体に操作することができるか、または、エフェクター機能を誘引し得る第2の結合部位を有する二重特異性抗体断片に操作することができる。
【0186】
本開示は、標的特異的抗体またはその抗原結合部分を生成するための方法であって、ファージ上でヒト抗体のライブラリを合成するステップと、ライブラリを標的タンパク質またはその一部でスクリーニングするステップと、標的に結合するファージを単離するステップと、ファージから抗体を得るステップとを含む方法を企図する。例として、ファージディスプレイ技術における使用のための抗体のライブラリを調製するための1つの方法は、標的抗原を有するヒト免疫グロブリン遺伝子座またはその抗原部分を含む非ヒト動物を免疫化して、免疫反応を生成するステップと、免疫化動物から抗体産生細胞を抽出するステップと、抽出された細胞からRNAを単離するステップと、RNAを逆転写してcDNAを生成するステップと、プライマーを使用してcDNAを増幅するステップと、抗体がファージ上で発現されるようにcDNAをファージディスプレイベクターに挿入するステップとを含む。本開示の組み換え標的特異的抗体は、このようにして得ることができる。
【0187】
別の例において、抗体産生細胞は、非免疫化動物から抽出することができ、抽出された細胞からRNAが単離され、逆転写されてcDNAを生成し、これがプライマーを使用して増幅され、抗体がファージ上で発現されるようにファージディスプレイベクターに挿入される。ファージディスプレイプロセスは、線維状バクテリオファージの表面上での抗体レパートリーのディスプレイにより免疫選択を模倣し、続いて選択される抗原への結合によりファージが選択される。1つのそのような技術は、WO99/10494に記載されており、これは、そのような手法を用いたMPLおよびmsk受容体に対する高親和性および機能的作動性抗体の単離を説明している。本開示の抗体は、ヒトリンパ球由来のmRNAから調製されたヒトVLおよびVH cDNAを使用して調製された、組み換えコンビナトリアル抗体ライブラリ、好ましくはscFvファージディスプレイライブラリのスクリーニングにより単離することができる。そのようなライブラリを調製およびスクリーニングするための方法は、当該技術分野において知られている。例えば、米国特許第5,969,108号を参照されたい。ファージディスプレイライブラリを生成するための市販のキットがある(例えば、Pharmacia Recombinant Phage Antibody System、カタログ番号27−9400−01;およびStratagene SurfZAP(商標)ファージディスプレイキット、カタログ番号240612)。また、抗体ディスプレイライブラリの生成およびスクリーニングにおいて使用され得る他の方法および試薬がある(例えば、Ladner et al.米国特許第5,223,409号;Kang et al.PCT公開第WO92/18619号;Dower et al.PCT公開第WO91/17271号;Winter et al.PCT公開第WO92/20791号;Markland et al.PCT公開第WO92/15679号;Breitling et al.PCT公開第WO93/01288号;McCafferty et al.PCT公開第WO92/01047号;Garrard et al.PCT公開第WO92/09690号;Fuchs et al.(1991) Bio/Technology 9:1370−1372;Hay et al.(1992) Hum.Antibod.Hybridomas 3:81−85;Huse et al.(1989) Science 246:1275−1281;McCafferty et al.,Nature(1990) 348:552−554;Griffiths et al.(1993) EMBO J 12:725−734;Hawkins et al.(1992) J.Mol.Biol.226:889−896;Clackson et al.(1991) Nature 352:624−628;Gram et al.(1992) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:3576−3580;Garrad et al.(1991) Bio/Technology 9:1373−1377;Hoogenboom et al.(1991) Nuc Acid Res 19:4133−4137;およびBarbas et al.(1991) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7978−7982を参照されたい)。
【0188】
一実施形態において、所望の特性を有する標的抗原に特異的なヒト抗体を単離するために、ヒトVHおよびVLライブラリが、所望の特異性を有する抗体断片の選択のためにスクリーニングされる。この方法において使用される抗体ライブラリは、好ましくは、本明細書において、および当技術分野において説明されているように調製およびスクリーニングされたscFvライブラリである(McCafferty et al.,PCT公開第WO92/01047号、McCafferty et al.,(Nature 348:552−554(1990));およびGriffiths et al.,(EMBO J 12:725−734(1993))。scFv抗体ライブラリは、好ましくは、抗原として標的タンパク質を使用してスクリーニングされる。
【0189】
代替として、抗体のFd断片(VH−CH1)および軽鎖(VL−CL)がPCRにより別個にクローニングされ、コンビナトリアルファージディスプレイライブラリにおいてランダムに再結合され、次いでこれが特定抗原への結合に選択され得る。Fab断片は、ファージ表面上で発現し、すなわち、それらをコードする遺伝子に物理的に結合する。したがって、抗原結合によるFabの選択は、Fabコード配列を同時に選択し、これは後に増幅され得る。パニングと呼ばれる手順である数ラウンドの抗原結合および再増幅により、抗原に特異的なFabが濃縮され、最終的に単離される。
【0190】
1994年に、「誘導選択」と呼ばれる抗体のヒト化のための手法が説明された。誘導選択は、マウスモノクローナル抗体のヒト化のためのファージディスプレイ技術の力を利用する(Jespers,L.S.,et al.,Bio/Technology 12,899−903(1994)を参照されたい)。このために、マウスモノクローナル抗体のFd断片をヒト軽鎖ライブラリと組み合わせて提示させることができ、得られるハイブリッドFabライブラリは、次いで抗原に関して選択され得る。それにより、マウスFd断片は、選択を誘導するための鋳型を提供する。その後、選択されたヒト軽鎖は、ヒトFd断片ライブラリと組み合わされる。得られるライブラリの選択により、完全ヒトFabが得られる。
【0191】
ファージディスプレイライブラリからヒト抗体を得るための様々な手順が説明されている(例えば、Hoogenboom et al.,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol,222:581−597(1991);米国特許第5,565,332号および同第5,573,905号;Clackson,T.,and Wells,J.A.,TIBTECH 12,173−184(1994)を参照されたい)。具体的には、ファージディスプレイライブラリから得られる抗体のin viro選択および進化は、強力なツールとなった(Burton,D.R.,and Barbas III,C.F.,Adv.Immunol.57,191−280(1994);Winter,G.,et al.,Annu.Rev.Immunol.12,433−455(1994);米国特許出願公開第20020004215号およびWO92/01047;米国特許出願公開第20030190317号;ならびに米国特許第6,054,287号および同第5,877,293号を参照されたい)。
【0192】
Watkins,"Screening of Phage−Expressed Antibody Libraries by Capture Lift,"Methods in Molecular Biology,Antibody Phage Display:Methods and Protocols 178:187−193(2002)、および米国特許出願公開第20030044772号(2003年3月6日公開)は、キャプチャーリフトによるファージ発現抗体ライブラリまたは他の結合分子のスクリーニングのための方法、固体支持体上への候補結合分子の固定化を含む方法を説明している。
【0193】
Fv断片は、(例えばM13遺伝子IIIとの)ファージタンパク質融合として発現する1つの鎖の会合により、ファージの表面上にディスプレイされ、相補的な鎖は、可溶性断片として発現する。ファージは、クラスIファージ:fd、M13、f1、If1、lke、ZJ/Z、Ffの1つ、ならびにクラスIIファージXf、Pf1およびPf3の1つ等の、線維状ファージであってもよいことが企図される。ファージは、M13またはfdまたはそれらの誘導体であってもよい。
【0194】
最初のヒトVLおよびVHセグメントが選択されたら、好ましいVL/VH対の組み合わせを選択するために、最初に選択されたVLおよびVHセグメントの異なる対が標的結合に関してスクリーニングされる「ミックスアンドマッチ」実験が行われる。さらに、抗体の品質をさらに改善するために、自然免疫反応中の抗体の親和性突然変異を担うin vivo体細胞突然変異プロセスに類似したプロセスにおいて、好ましくはVHおよび/またはVLのCDR1、CDR2またはCDR3領域のいずれかにおいて、好ましいVL/VH対(複数を含む)のVLおよびVHセグメントをランダムに突然変異させることができる。このin vitro親和性突然変異は、それぞれVH CDR1、CDR2、およびCDR3、またはVL CDR1、CDR2、およびCDR3に相補的なPCRプライマーを使用したVLおよびVH領域の増幅により達成することができ、得られるPCR生成物が、ランダム突然変異が導入されているVLおよびVHセグメントをVHおよび/またはVL CDR3領域にコードするように、これらのプライマーには、ある特定の位置において4つのヌクレオチド塩基のランダムな混合物が「注入」されている。これらのランダムに変異したVLおよびVHセグメントは、標的抗原への結合に関して再びスクリーニングすることができる。
【0195】
組み換え免疫グロブリンディスプレイライブラリからの標的特異的抗体のスクリーニングおよび単離の後、選択された抗体をコードする核酸を、ディスプレイパッケージから(例えばファージゲノムから)回収し、標準組み換えDNA技術により他の発現ベクターにサブクローニングすることができる。所望により、核酸をさらに操作して、以下で説明されるような本開示の他の抗体形態を形成することができる。コンビナトリアルライブラリのスクリーニングにより単離された組み換えヒト抗体を発現させるために、抗体をコードするDNAは、組み換え発現ベクターにクローニングされ、本明細書に記載のような哺乳動物宿主細胞に導入される。
【0196】
ファージディスプレイ法は、細菌または宿主細胞の突然変異誘発株において行われてもよいことが企図される。突然変異誘発株は、その中で複製されるDNAを、その親DNAに対して突然変異させる遺伝子欠陥を有する宿主細胞である。例示的な突然変異誘発株は、NR9046mutD5およびNR9046 mut T1である。
【0197】
また、ファージディスプレイ法は、ヘルパーファージを使用して行われてもよいことが企図される。これは、欠陥ファージゲノムを含有する細胞を感染させるように使用され、欠陥を補うように機能するファージである。欠陥ファージゲノムは、遺伝子配列をコードするいくつかの機能が取り除かれたファージミドまたはファージであってもよい。ヘルパーファージの例は、M13K07、M13K07遺伝子III no.3;およびカプシドタンパク質に融合した結合分子をディスプレイまたはコードするファージである。
【0198】
抗体はまた、WO92/01047において開示されるように、階層的な二重コンビナトリアル手法を使用したファージディスプレイスクリーニング法により生成され、HまたはL鎖クローンを含有する個々のコロニーが、他の鎖(LまたはH)をコードするクローンの完全ライブラリを感染させるために使用され、得られる2本鎖特異的結合メンバーは、当該文献に記載されるもの等のファージディスプレイ技術に従い選択される。この技術はまた、Marks et al,(Bio/Technology,10:779−783(1992))にも開示されている。
【0199】
酵母、微生物および哺乳動物細胞の表面上でのペプチドのディスプレイのための方法もまた、抗原特異的抗体を特定するために使用されている。例えば、米国特許第5,348,867号;同第5,723,287号;同第6,699,658号;Wittrup,Curr Op.Biotech.12:395−99(2001);Lee et al,Trends in Biotech.21(1) 45−52(2003);Surgeeva et al,Adv.Drug Deliv.Rev.58:1622−54(2006)を参照されたい。抗体ライブラリは、凝集素等の酵母タンパク質に結合し、免疫系におけるB細胞による抗体の細胞表面ディスプレイを効果的に模倣することができる。
【0200】
ファージディスプレイ方法に加えて、抗体は、in vitroディスプレイ法、ならびにリボソームディスプレイおよびmRNAディスプレイを含む微生物細胞ディスプレイを使用して単離され得る(Amstutz et al,Curr.Op.Biotech.12:400−05(2001))。リボソームディスプレイを使用したポリペプチドの選択が、Hanes et al.,(Proc.Natl Acad Sci USA,94:4937−4942(1997))およびKawasakiに対して発行された米国特許第5,643,768号および同第5,658,754号に記載されている。リボソームディスプレイはまた、抗体の迅速な大量突然変異分析に有用である。選択的突然変異誘発手法はまた、リボソームディスプレイ技術を使用して選択され得る改善された活性を有する抗体を生成する方法を提供する。
【0201】
アミノ酸配列変異体
抗体の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、および/または6つのCDRを含む改変ポリペプチド組成物が生成され、CDRが標的分子に対する増加した特異性または親和性を提供するように改変されることが企図される。抗体CDR内の部位は、典型的には、例えば、第1の部位を保存的な選択肢で置換し(例えば、疎水性アミノ酸が非同一疎水性アミノ酸に置換される)、次いでより異なる選択肢で置換する(例えば、疎水性アミノ酸が荷電アミノ酸に置換される)ことにより連続して改変され、次いで、標的部位において欠失または挿入が行われてもよい。例えば、CDRを包囲する保存フレームワーク配列を使用して、これらのコンセンサス配列に相補的なPCRプライマーが生成され、プライマー領域間に位置する抗原特異的CDR配列を増幅する。ヌクレオチドおよびポリペプチド配列をクローニングするための技術は、当該技術分野において十分確立されている[例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor,New York(1989)を参照されたい]。増幅されたCDR配列は、適切なプラスミドに連結される。1つ、2つ、3つ、4つ、5つおよび/または6つのクローニングされたCDRを含むプラスミドは、随意に、CDRに結合した追加のポリペプチドコード領域を含有する。
【0202】
改変CDRを含む抗体物質は、元の抗原に対する結合親和性に関してスクリーニングされる。加えて、抗体またはポリペプチドは、標的抗原の活性を中和するその能力に関してさらに試験される。例えば、本開示の抗体は、標的抗原の生物活性に干渉する能力を決定するために、実施例に記載のように分析されてもよい。
【0203】
改変は、以下でより詳細に説明される保存的または非保存的アミノ酸置換により行うことができる。「挿入」または「欠失」は、好ましくは、約1個から20個のアミノ酸、より好ましくは1個から10個のアミノ酸の範囲内である。組み換えDNA技術を使用して、抗体ポリペプチド分子内のアミノ酸の置換を系統的に行うことにより、および得られた変異体を活性に関して分析することにより、変異を導入することができる。核酸の改変は、異なる種からの核酸(可変位置)または極めて保存された領域(定常領域)において異なる部位に行うことができる。抗体配列を改変し、本開示において有用な抗体ポリペプチド組成物を発現させるための方法は、以下でより詳細に説明される。
【0204】
アミノ酸配列挿入は、1つの残基から100以上の残基を含有するポリペプチドまでの長さの範囲のアミノおよび/またはカルボキシ末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例は、N末端メチオニル残基を有する抗体、またはエピトープタグもしくはサルベージ受容体エピトープに融合した抗体(抗体断片を含む)を含む。抗体分子の他の挿入変異体は、例えばN末端またはC末端における、抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドへの融合を含む。
【0205】
「エピトープタグ化」という用語は、エピトープタグに融合した抗体を指す。エピトープタグポリペプチドは、それに対する抗体を作製することができるエピトープを提供するのに十分な残基を有するが、抗体の活性に干渉しないように十分短い。エピトープタグは、好ましくは、それに対する抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように十分一意的である。好適なタグポリペプチドは、一般に、少なくとも6個のアミノ酸残基、通常は約8〜50個のアミノ酸残基(好ましくは約9〜30個の残基)を有する。例は、インフルエンザ血球凝集素(HA)タグポリペプチドおよびその抗体12CA5(Field et al.,Mol.Cell.Biol.8:2159−2165(1988));c−mycタグおよびそれに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7および9E10抗体(Evan et al.,Mol.Cell.Biol.5:3610−16(1985));ならびに単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(gD)タグおよびその抗体(Paborsky et al.,Protein Engineering 3:547−53(1990))を含む。他の例示的なタグは、ニッケルキレート化を使用してそのように標識化された化合物の単離を可能とする、概して約6個のヒスチジン残基のポリ−ヒスチジン配列である。当該技術分野において周知であり習慣的に使用される他の標識およびタグ、例えばFLAG(登録商標)タグ(Eastman Kodak、Rochester、NY)が、本開示に包含される。
【0206】
本明細書において使用する際、「サルベージ受容体結合エピトープ」という用語は、IgG分子のin vivo血清半減期の増加を担う、IgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のFc領域のエピトープを指す。
【0207】
別の種類の変異体は、アミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗体分子内の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、その代わりに異なる残基が挿入されている。超可変もしくはCDR領域またはフレームワーク領域のいずれかにおける置換突然変異誘発が企図される。保存的置換は、アミノ酸をそのクラスの別のメンバーで置き換えることを含む。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを、別のクラスのメンバーで置き換えることを含む。
【0208】
保存的アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の性質に基づいて行われる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン(Ala、A)、ロイシン(Leu、L)、イソロイシン(Ile、I)、バリン(Val、V)、プロリン(Pro、P)、フェニルアラニン(Phe、F)、トリプトファン(Trp、W)、およびメチオニン(Met、M)を含み;極性中性アミノ酸は、グリシン(Gly、G)、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)、システイン(Cys、C)、チロシン(Tyr、Y)、アスパラギン(Asn、N)、およびグルタミン(Gln、Q)を含み;正電荷(塩基性)アミノ酸は、アルギニン(Arg、R)、リシン(Lys、K)、およびヒスチジン(His、H)を含み;負電荷(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸(Asp、D)およびグルタミン酸(Glu、E)を含む。
【0209】
また、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防止するために、抗体の適切な配座の維持に関与しない任意のシステイン残基が、一般にセリンと置換されてもよい。逆に、安定性を改善するために、システイン結合(複数を含む)が抗体に追加されてもよい(特に抗体がFv断片等の抗体断片である場合)。
【0210】
親和性成熟
親和性成熟は、一般に、親抗体のCDR内に置換を有する抗体変異体を調製およびスクリーニングすることと、親抗体と比較して1つ以上の改善された生物学的特性、例えば結合親和性を有する変異体を選択することとを含む。そのような置換変異体を生成するのに都合の良い方法は、ファージディスプレイを使用した親和性成熟である。簡潔に述べると、いくつかの超可変領域部位(例えば6〜7部位)を突然変異させて、各部位に全ての可能なアミノ置換を生成する。このようにして生成された抗体変異体を、線維状ファージ粒子から、各粒子内に封入されたM13の遺伝子III産物への融合として一価の状態で提示させる。次いで、ファージ上で提示された変異体を、生物活性(例えば結合親和性)に関してスクリーニングする。例えば、WO92/01047、WO93/112366、WO95/15388およびWO93/19172を参照されたい。
【0211】
現在の抗体親和性成熟方法は、確率論的および非確率論的の2つの突然変異誘発カテゴリーに属する。エラープローンPCR、突然変異誘発細菌株(Low et al.,J.Mol.Biol.260,359−68(1996) Irving et al.,Immunotechnology 2,127−143(1996))、および飽和突然変異誘発(Nishimiya et al.,.J.Biol.Chem.275:12813−20(2000);Chowdhury,P.S.Methods Mol.Biol.178,269−85(2002))は、確率論的な突然変異誘発法の典型的な例である(Rajpal et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.102:8466−71(2005))。非確率論的な技術は、しばしばアラニンスキャニングまたは部位特異的突然変異誘発を使用して、特定の変異体の限定された集合を生成する。いくつかの方法を以下でより詳細に説明する。
【0212】
パニング法による親和性成熟−組み換え抗体の親和性成熟は、一般的に、漸減量の抗原の存在下での候補抗体の数ラウンドのパニングによって行われる。ラウンド毎に抗原の量を減らすことにより、その抗原に対して最も高い親和性を有する抗体が選択され、それによって膨大な出発材料のプールから高親和性の抗体が得られる。パニングによる親和性成熟は、当該技術分野において周知であり、例えば、Hulsら(Cancer Immunol Immunother.50:163−71(2001))に記載されている。ファージディスプレイ技術を使用した親和性成熟の方法は、本明細書の別の箇所に記載されており、当該技術分野において知られている(例えば、Daugherty et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.97:2029−34(2000)を参照されたい)。
【0213】
ルックスルー突然変異誘発−ルックスルー突然変異誘発(LTM)(Rajpal et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.102:8466−71(2005))は、抗体結合部位を迅速にマッピングするための方法を提供する。LTMでは、20個の天然アミノ酸によって提供される主要な側鎖化学を代表する9個のアミノ酸を選択して、抗体の6つ全てのCDR中のあらゆる位置における結合への官能性側鎖の寄与を分析する。LTMは、CDR内に一連の位置的な単一突然変異を生成し、それぞれの「野生型」残基が、9個の選択されたアミノ酸のうちの1つで系統的に置換される。突然変異CDRを組み合わせて、全ての変異体の定量的ディスプレイを妨げることなく複雑性およびサイズが増加する、コンビナトリアル一本鎖可変断片(scFv)ライブラリを生成する。正の選択後、結合が改善されたクローンを配列決定し、有益な突然変異をマッピングする。
【0214】
エラープローンPCR−エラープローンPCRは、異なる選択ラウンド間の核酸の無作為化を含む。無作為化は、使用するポリメラーゼの固有エラー率によって低い率で生じるが、転写中の高い固有エラー率を有するポリメラーゼ(Hawkins et al.,J Mol Biol.226:889−96(1992))を用いたエラープローンPCRによって増進することができる(Zaccolo et al.,.J.Mol.Biol.285:775−783(1999))。突然変異サイクル後、当該技術分野における習慣的方法を使用して、抗原に対する親和性が改善されたクローンを選択する。
【0215】
DNAシャフリング−核酸シャフリングは、より短いまたは小さいポリヌクレオチドのプールを、in vitroまたはin vivoで相同組み換えして、変異体ポリヌクレオチドを生成するための方法である。DNAシャフリングは、米国特許第6,605,449号、米国特許第6,489,145号、WO02/092780およびStemmer,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:10747−51(1994)に記載されている。一般に、DNAシャフリングは、3つのステップ、すなわちDNase Iによるシャッフルすべき遺伝子の断片化、断片のランダムハイブリダイゼーションおよびDNAポリメラーゼの存在下でのPCR(セクシャルPCR)による断片化された遺伝子の再組み立てまたはフィリング、ならびに、再組み立てされた産物の従来のPCRによる増幅からなる。
【0216】
DNAシャフリングは、逆の連鎖反応であるという点でエラープローンPCRとは異なる。エラープローンPCRでは、ポリメラーゼ開始部位の数および分子の数が、指数関数的に増加する。対照的に、ランダムポリヌクレオチドの核酸再組み立てまたはシャフリングでは、開始部位の数およびランダムポリヌクレオチドの数(サイズではない)は、時間とともに減少する。
【0217】
抗体の場合、DNAシャフリングは、例えば、全てのCDR1と全てのCDR2と全てのCDR3との自由な組み合わせ関係を可能にする。複数の配列ファミリーを、同じ反応でシャッフルできることが想定される。さらに、シャフリングは、例えば、CDR2の位置にCDR1が見られなくなるように、一般に相対的順序を保存する。シャフラント(shufflant)は、まれに多数の最良の(例えば、最高の親和性の)CDRを含み、これらの希少なシャフラントをその優れた親和性に基づいて選択することができる。
【0218】
DNAシャフリングで使用でき得る鋳型ポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAであってよい。それは、組み換えまたは再組み立てを行う遺伝子またはより短いもしくは小さいポリヌクレオチドのサイズに応じて、様々な長さであってもよい。好ましくは、鋳型ポリヌクレオチドは、50bp〜50kbである。鋳型ポリヌクレオチドは、多くの場合二本鎖であるべきである。
【0219】
遺伝子選択の最初のステップにおいて、鋳型ポリヌクレオチドと同一の領域および鋳型ポリヌクレオチドと異種の領域を有する一本鎖または二本鎖の核酸ポリヌクレオチドを、鋳型ポリヌクレオチドに付加してもよいことが想定される。また、2つの異なるが関連するポリヌクレオチド鋳型を最初のステップにおいて混合してよいことも想定される。
【0220】
アラニンスキャニング−アラニンスキャニング突然変異誘発は、抗原結合に著しく寄与する超可変領域残基を特定するために行うことができる。Cunningham and Wells,(Science 244:1081−1085(1989))。残基または標的残基の群が特定され(例えば、arg、asp、his、lys、およびglu等の荷電残基)、中性または負電荷アミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)により置き換えられて、アミノ酸の抗原との相互作用に影響する。次いで、置換への機能的感受性を示すそれらのアミノ酸位置は、置換部位で、または置換部位に対してさらなるまたは他の変異体を導入することにより精密化される。
【0221】
コンピュータ補助設計−代替として、または追加的に、抗体と抗原との間の接触点を特定するために抗原−抗体複合体の結晶構造を分析すること、またはコンピュータソフトウェアを使用してそのような接触点をモデル化することが有益となり得る。そのような接触残基および隣接残基は、本明細書において詳説される技術に従う置換の候補である。そのような変異体が生成されたら、変異体のパネルが本明細書に記載のようにスクリーニングに供され、1つ以上の関連したアッセイにおいて優れた特性を有する抗体がさらなる開発に選択され得る。
【0222】
代替として、または追加的に、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、特許出願公開WO2009/088933;WO2009/088928;WO2009/088924;ならびにClackson et al.,Nature 352:624−628,1991;Marks et al.,Biotechnology 10:779−783,1992;Virnekas et al.,Nucleic Acids Res.22:5600−5607,1994;Glaser et al.,J.Immunol.149:3903−3913,1992;Jackson et al.,J.Immunol.154:3310−3319,1995;Schier et al.,J.Mol.Biol.255:28−43,1996;およびYang et al.,J.Mol.Biol.254:392−403,1995に記載の技術を含む、当該技術分野において知られた様々な他の親和性成熟技術が使用されてもよい。
【0223】
改変されたグリコシル化
親抗体と比較して変更されたグリコシル化パターン、例えば、抗体中に見られる1つまたは複数の炭水化物部分の欠失、および/または抗体中に存在しない1つ以上のグリコシル化部位の付加を有する抗体変異体もまた生成され得る。
【0224】
抗体のグリコシル化は、典型的にはN結合型またはO結合型のいずれかである。N結合型とは、アスパラギン残基の側鎖との炭水化物部分の結合を指す。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(式中、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在すると、潜在的グリコシル化部位が生じる。したがって、N結合型グリコシル化部位は、これらのトリペプチド配列のうちの1つまたは複数を含むようにアミノ酸配列を変更することによって、抗体に付加することができる。O結合型グリコシル化とは、糖類であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つと、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリンまたはトレオニンであるが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンも使用可能である)との結合を指す。O結合型グリコシル化部位は、元の抗体の配列に、1つまたは複数のセリンもしくはトレオニン残基を挿入または置換することによって、抗体に付加することができる。
【0225】
Fcグリカンは、Fc受容体およびC1qに対するIgGの結合に影響し、したがってIgGエフェクター機能に重要である。改変Fcグリカンおよび改変されたエフェクター機能を有する抗体変異体が生成され得る。例えば、シアル酸、コアフコース、分岐N−アセチルグルコサミン、およびマンノース残基等の改変末端糖を有する抗体は、FcγRIIIa受容体への改変された結合および改変されたADCC活性を有し得る。さらなる例において、改変末端ガラクトース残基を有する抗体は、C1qへの改変された結合および改変されたCDC活性を有し得る(Raju,Curr.Opin.Immunol.20:471−78(2008))。
【0226】
また、改善されたADCC活性を示す、フコシル化が不在または減少した抗体分子も想定される。これを達成するための様々な方法が、当分野で既知である。例えば、ADCCエフェクター活性は、抗体分子のFcγRIII受容体との結合によって媒介され、これはCH2ドメインのAsn−297におけるN結合型グリコシル化の糖鎖構造に依存することが示されている。非フコシル化抗体は、向上した親和性でこの受容体に結合し、天然のフコシル化抗体よりも効果的にFcγRIII媒介エフェクター機能を誘発する。例えば、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ酵素を欠損させたCHO細胞における非フコシル化抗体の組み換え産生は、ADCC活性が100倍に増加した抗体を生じる(Yamane−Ohnuki et al.,Biotechnol Bioeng.87:614−22(2004))。同様の効果は、例えばsiRNAまたはアンチセンスRNA処理によってこの酵素またはフコシル化経路の他の酵素の活性を減少させることによって、細胞系を操作して酵素を欠損させることによって、または選択的グリコシル化阻害剤とともに培養することによっても達成することができる(Rothman et al.,Mol Immunol.26:1113−23(1989))。いくつかの宿主細胞株、例えばLec13またはハイブリドーマYB2/0細胞系は、より低いフコシル化レベルの抗体を自然に生成する(Shields et al.,J Biol Chem.277:26733−40(2002)、Shinkawa et al.,J Biol Chem.278:3466−73(2003))。GnTIII酵素を過剰発現する細胞中で組み換えによって抗体を産生することによる分岐炭水化物のレベルの上昇も、ADCC活性を増加させることが確認されている(Umana et al.,Nat Biotechnol.17:176−80(1999))。2つのフコース残基のうちの1つのみの不在が、ADCC活性を増加させるのに十分であり得ると予測されている(Ferrara et al.,Biotechnol Bioeng.93:851−61(2006))。
【0227】
改変されたエフェクター機能を有する変異体
抗体の他の改変が企図される。一態様において、エフェクター機能に関して本開示の抗体を改変すること、例えば、癌の治療における抗体の有効性を向上させることが望ましくなり得る。エフェクター機能を改変するための1つの方法は、システイン残基(複数を含む)がFc領域に導入されてもよく、それによりこの領域における鎖間ジスルフィド結合形成を可能とすることを教示している。このようにして生成されたホモ二量体抗体は、改善された内在化能力、ならびに/または増加した補体媒介細胞死滅および抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を有し得る。Caron et al.,(J.Exp Med.176:1191−1195(1992))およびShopes,B.(J.Immunol.148:2918−2922(1992))を参照されたい。また、向上した抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体は、Wolff et al.,(Cancer Research 53:2560−2565(1993))に記載のようなヘテロ二機能性架橋剤を使用して調製され得る。代替として、二重Fc領域を有する抗体が設計されてもよく、またそれにより向上した補体溶解およびADCC能力を有することができる。Stevenson et al.,(Anti−Cancer Drug Design 3:219−230(1989))を参照されたい。さらに、CDR内の配列が、抗体をMHCクラスIIに結合させ、望ましくないヘルパーT細胞反応を誘引させ得ることが示されている。保存的置換は、抗体に、結合活性を保持するが、その望ましくないT細胞反応を誘引する能力を失わせることを可能にする。また、マウス可変領域がヒトガンマ1、ガンマ2、ガンマ3、およびガンマ4定常領域と連結したキメラ抗体を説明した、Steplewski et al.,(Proc Natl Acad Sci U S A.85:4852−56(1998))を参照されたい。
【0228】
本開示のある特定の実施形態において、例えば腫瘍浸潤を増加させるために、無傷の抗体ではなく抗体断片を使用することが望ましくなり得る。この場合、例えばその血清半減期を増加させるために抗体断片を改変し、PEGまたは多糖類ポリマーを含む他の水溶性ポリマー等の分子を抗体断片に追加して半減期を増加させることが望ましくなり得る。これはまた、例えば、サルベージ受容体結合エピトープの抗体断片への組み込みにより(例えば、抗体断片中の適切な領域の突然変異により、またはエピトープをペプチドタグに組み込み、次いでこれを、例えばDNAもしくはペプチド合成によって抗体断片にいずれかの端部もしくは中間において融合させることにより)達成され得る(例えばWO96/32478を参照されたい)。
【0229】
サルベージ受容体結合エピトープは、好ましくは、Fcドメインの1つまたは2つのループからのいずれか1つ以上のアミノ酸残基が抗体断片の類似部分に移入された領域を構成する。さらにより好ましくは、Fcドメインの1つまたは2つのループからの3つ以上の残基が移入される。さらにより好ましくは、エピトープが(例えばIgGの)Fc領域のCH2ドメインから取り出され、抗体のCH1、CH3、もしくはVH領域、または2つ以上のそのような領域に移入される。代替として、エピトープは、Fc領域のCH2ドメインから取り出され、抗体断片のCL領域もしくはVL領域、またはその両方に移入される。Fc変異体およびそのサルベージ受容体との相互作用を説明している、国際出願第WO97/34631号および国際出願第WO96/32478号もまた参照されたい。
【0230】
したがって、本開示の抗体は、ヒトFc部分、ヒトコンセンサスFc部分、またはFcサルベージ受容体と相互作用する能力を保持するそれらの変異体を含んでもよく、変異体は、ジスルフィド結合に関与するシステインが改変もしくは除去された、ならびに/または、metがN末端に付加された、および/もしくはN末端20アミノ酸の1つ以上が除去された、ならびに/または補体と相互作用する領域、例えばC1q結合部位が除去された、ならびに/または、ADCC部位が除去された変異体を含む[例えば、Sarmay et al.,Molec.Immunol.29:633−9(1992)を参照されたい]。
【0231】
これまでの研究では、FcRのヒトおよびマウスIgG上の結合部位を、主に、IgG残基233〜239からなるより低いヒンジ領域にマッピングしていた。他の研究は、追加的な広範なセグメント、例えばヒトFc受容体IのGly316〜Lys338、ヒトFc受容体IIIのLys274〜Arg301およびTyr407〜Arg416を提案し、または、より低いヒンジの外のいくつかの特異的残基、例えば、マウスFc受容体IIと相互作用するマウスIgG2bのAsn297およびGlu318を発見した。ヒトFc受容体IIIAを有するヒトIgG1 Fc断片の3.2Å結晶構造の報告は、IgG1残基Leu234〜Ser239、Asp265〜Glu269、Asn297〜Thr299、およびAla327〜Ile332を、Fc受容体IIIAへの結合に関与するものとして説明した。結晶構造に基づき、より低いヒンジ(Leu234〜Gly237)に加えて、IgG CH2ドメインループFG(残基326〜330)およびBC(残基265〜271)における残基が、Fc受容体IIAへの結合において役割を果たす可能性があることが示唆されている。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Shields et al.,(J.Biol.Chem.,276:6591−604(2001))を参照されたい。Fc受容体結合部位内の残基の突然変異は、改変されたエフェクター機能、例えば改変されたADCCもしくはCDC活性、または改変された半減期をもたらし得る。上述のように、可能性のある突然変異は、1つ以上の残基の挿入、欠失または置換を含み、これは、アラニンによる置換、保存的置換、非保存的置換、または異なるIgGサブクラスからのものと同じ位置での対応するアミノ酸残基による置き換え(例えば、IgG1残基の、その位置における対応するIgG2残基での置き換え)を含む。
【0232】
Shieldsらは、全てのヒトFc受容体への結合に関与するIgG1残基が、ヒンジに近位のCH2ドメインに位置し、以下のような2つのカテゴリーに含まれることを報告した:1)全てのFcRと直接相互作用し得る位置は、Leu234〜Pro238、Ala327、およびPro329(およびおそらくはAsp265)を含み;2)炭水化物の性質または位置に影響する位置は、Asp265およびAsn297を含む。Fc受容体IIへの結合に影響したさらなるIgG1残基は、以下の通りである:(最も大きい効果)Arg255、Thr256、Glu258、Ser267、Asp270、Glu272、Asp280、Arg292、Ser298、ならびに(より小さい効果)His268、Asn276、His285、Asn286、Lys290、Gln295、Arg301、Thr307、Leu309、Asn315、Lys322、Lys326、Pro331、Ser337、Ala339、Ala378、およびLys414。A327Q、A327S、P329A、D265AおよびD270Aは、結合を低減した。全てのFcRに対する上で特定された残基に加え、Fc受容体IIIAへの結合を40%以上低減したさらなるIgG1残基は、以下の通りである:Ser239、Ser267(Glyのみ)、His268、Glu293、Gln295、Tyr296、Arg301、Val303、Lys338、およびAsp376。FcRIIIAへの結合を改善した変異体は、T256A、K290A、S298A、E333A、K334A、およびA339Tを含む。Lys414は、FcRIIAおよびFcRIIBに対する結合の40%の低減を示し、Arg416は、FcRIIAおよびFcRIIIAに対する30%の低減を示し、Gln419は、FcRIIAに対する30%の低減およびFcRIIBに対する40%の低減を示し、Lys360は、FcRIIIAに対する23%の改善を示した。参照によりその全体が本明細書に組み込まれるPresta et al.,(Biochem.Soc.Trans.30:487−490,2001)もまた参照されたいが、これは、特異的Fcガンマ受容体(R)のみに対する結合を改善し、同時に1種類のFcガンマRへの結合を改善し、別の種類への結合を低減したIgG1のFc領域におけるいくつかの位置が発見されたことを記載している。次いで、FcガンマRIIIaへの結合が改善された選択されたIgG1変異体が、in vitro抗体依存性細胞傷害性(ADCC)アッセイにおいて試験され、末梢血単核細胞または天然キラー細胞が使用された場合にADCCの向上を示した。
【0233】
例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,194,551号は、ヒトIgG Fc領域のアミノ酸位置329、331または322(Kabat付番を使用)において突然変異を含有する改変されたエフェクター機能を有する変異体を説明しており、そのいくつかは、低減したC1q結合またはCDC活性を示す。別の例として、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,737,056号は、ヒトIgG Fc領域のアミノ酸位置238、239、248、249、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、294、295、296、298、301、303、305、307、309、312、315、320、322、324、326、327、329、330、331、333、334、335、337、338、340、360、373、376、378、382、388、389、398、414、416、419、430、434、435、437、438または439(Kabat付番を使用)において突然変異を含有する改変されたエフェクターまたはFc−ガンマ−受容体結合を有する変異体を説明しており、そのいくつかは、低減したADCCまたはCDC活性に関連した受容体結合プロファイルを示す。これらのうち、アミノ酸位置238、265、269、270、327または329における突然変異は、FcRIへの結合を低減することが述べられ、アミノ酸位置238、265、269、270、292、294、295、298、303、324、327、329、333、335、338、373、376、414、416、419、435、438または439における突然変異は、FcRIIへの結合を低減することが述べられ、アミノ酸位置238、239、248、249、252、254、265、268、269、270、272、278、289、293、294、295、296、301、303、322、327、329、338、340、373、376、382、388、389、416、434、435または437における突然変異は、FcRIIIへの結合を低減することが述べられている。
【0234】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,624,821号は、マウス抗体のClq結合活性が、重鎖のアミノ酸残基318、320または322を突然変異させることにより改変され得ること、および残基297(Asn)の置き換えが溶解活性の除去をもたらすことを報告している。
【0235】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20040132101号は、アミノ酸位置240、244、245、247、262、263、266、299、313、325、328、もしくは332(Kabat付番を使用)または位置234、235、239、240、241、243、244、245、247、262、263、264、265、266、267、269、296、297、298、299、313、325、327、328、329、330、もしくは332(Kabat付番を使用)において突然変異を有する変異体を説明しており、そのうち位置234、235、239、240、241、243、244、245、247、262、263、264、265、266、267、269、296、297、298、299、313、325、327、328、329、330、または332における突然変異は、ADCC活性を低減し得る、またはFcガンマ受容体への結合を低減し得る。
【0236】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるChappelら(Proc Natl Acad Sci U S A.88:9036−40(1991))は、IgG1の細胞親和活性が、その重鎖CH2ドメインの固有特性であることを報告している。IgG1のアミノ酸残基234〜237のいずれかにおける単一点突然変異は、その活性を大幅に低下または無効化した。完全な結合活性を修復するためには、IgG1残基234〜237(LLGG)の全てをIgG2およびIgG4に置換することが必要であった。全ELLGGP配列(残基233〜238)を含有するIgG2抗体は、野生型IgG1よりも活性であることが観察された。
【0237】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるIsaacsら(J Immunol.161:3862−9(1998))は、FcガンマR結合に重要なモチーフ内の突然変異(グルタメート233からプロリン、ロイシン/フェニルアラニン234からバリン、およびロイシン235からアラニン)が、標的細胞の枯渇を完全に防止したことを報告している。グルタメート318からアラニンの突然変異は、マウスIgG2bのエフェクター機能を排除し、またヒトIgG4の有効性を低減した。
【0238】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるArmourら(Mol Immunol.40:585−93(2003))は、野生型IgG1より少なくとも10分の1低い効率で活性化受容体FcgammaRIIaと反応するが、阻害受容体FcgammaRIIbへの結合はわずか4分の1低減されるIgG1変異体を特定した。突然変異は、アミノ酸233〜236の領域ならびに/またはアミノ酸位置327、330および331に形成された。参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO99/58572もまた参照されたい。
【0239】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるXuら(J Biol Chem.269:3469−74(1994))は、IgG1 Pro331からSerへの突然変異が、C1q結合を著しく減少させ、溶解活性を事実上排除したことを報告している。対照的に、IgG4におけるProからSer331への置換は、IgG4 Pro331変異体に部分的な溶解活性(40%)を与えた。
【0240】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるSchuurmanら(Mol Immunol.38:1−8(2001))は、重鎖間結合形成に関与するヒンジシステインの1つであるCys226からセリンへの突然変異が、より安定な重鎖間結合をもたらしたことを報告している。IgG4ヒンジ配列Cys−Pro−Ser−CysからIgG1ヒンジ配列Cys−Pro−Pro−Cysへの突然変異もまた、重鎖間の共有結合的相互作用を著しく安定化する。
【0241】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるAngalら(Mol Immunol.30:105−8(1993))は、IgG4におけるアミノ酸位置241からプロリン(IgG1およびIgG2におけるその位置に見られる)への突然変異が、均質な抗体の産生をもたらすとともに、元のキメラIgG4と比較して血清半減期を延長し、組織分布を改善したことを報告している。
【0242】
共有結合改変
抗体の共有結合改変もまた、本開示の範囲内に含まれる。それらは、妥当な場合は、化学合成により、または抗体の酵素的もしくは化学的切断により作製され得る。抗体の他の種類の共有結合改変は、抗体の標的アミノ酸残基を、選択される側鎖またはNもしくはC末端残基と反応することができる有機誘導体化剤と反応させることにより、分子内に導入される。
【0243】
最も一般的には、システイニル残基を、クロロ酢酸またはクロロアセトアミド等のα−ハロアセテート(および対応するアミン)と反応させ、カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を生成する。システイニル残基はまた、ブロモトリフルオロアセトン、α−ブロモ−β−(5−イミドゾリル)プロピオン酸、クロロアセチルホスフェート、N−アルキルマレイミド、3−ニトロ−2−ピリジルジスルフィド、メチル2−ピリジルジスルフィド、p−クロロメルカプトベンゾエート、2−クロロメルクリ−4−ニトロフェノール、またはクロロ−7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾールとの反応により誘導体化される。
【0244】
ヒスチジル残基は、pH5.5〜7.0でのジエチルピロカーボネートとの反応により誘導体化されるが、これは、この薬剤が比較的ヒスチジル側鎖に特異的であるためである。パラ−ブロモフェナシルブロミドもまた有用であり、反応は、好ましくは0.1Mカコジル酸ナトリウム中でpH6.0で行われる。
【0245】
リシニルおよびアミノ末端残基は、コハク酸または他のカルボン酸無水物と反応させる。これらの薬剤による誘導体化は、リシニル残基の電荷を反転させる効果を有する。アルファ−アミノ含有残基を誘導体化するための他の好適な試薬は、イミドエステル、例えばメチルピコリンイミデート、ピリドキサールリン酸、ピリドキサール、クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O−メチルイソウレア、2,4−ペンタンジオン、およびグリオキシレートとのトランスアミナーゼ触媒反応物を含む。
【0246】
アルギニル残基は、1種または複数の従来の試薬、中でもフェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンとの反応により改変される。アルギニン残基の誘導体化には、グアニジン官能基の高いpKaのために、反応がアルカリ条件下で行われることが必要である。さらに、これらの試薬は、リシンの基およびアルギニンイプシロン−アミノ基と反応し得る。
【0247】
チロシル残基の特異的改変が行われてもよく、特に、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応により、チロシル残基に分光標識を導入することが興味深い。最も一般的には、N−アセチルイミジゾールおよびテトラニトロメタンを使用して、それぞれO−アセチルチロシル種および3−ニトロ誘導体を形成する。チロシル残基は、
125Iまたは
131Iを使用してヨウ化され、放射免疫測定法における使用のための標識化タンパク質が調製される。
【0248】
カルボジイミド(R−N.dbd.C.dbd.N−R')(式中、RおよびR'は、異なるアルキル基である)、例えば1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3−(4−アゾニア−4,4−ジメチルペンチル)カルボジイミドとの反応により、カルボキシル側基(アスパルチルまたはグルタミル)が選択的に改変される。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応により、アスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。
【0249】
グルタミニルおよびアスパラギニル残基は、それぞれ対応するグルタミルおよびアスパルチル残基にたびたび脱アミド化される。これらの残基は、中性または塩基性条件下で脱アミド化される。これらの残基の脱アミド化形態は、本開示の範囲に含まれる。
【0250】
他の改変は、プロリンおよびリシンのヒドロキシル化、セリルまたはトレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リシン、アルギニン、およびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,Proteins:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman & Co.,San Francisco,pp.79−86(1983))、N末端アミンのアセチル化、ならびに任意のC末端カルボキシル基のアミド化を含む。
【0251】
別の種類の共有結合改変は、グリコシドを抗体に化学的または酵素的に結合させることを含む。これらの手順は、NまたはO結合グリコシル化のためのグリコシル化能力を有する宿主細胞における抗体の産生を必要としない点で有利である。使用される結合様式に依存して、糖(複数を含む)は、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)遊離スルフヒドリル基、例えばシステインの遊離スルフヒドリル基、(d)遊離ヒドロキシル基、例えばセリン、トレオニン、もしくはヒドロキシプロリンの遊離ヒドロキシル基、(e)芳香族残基、例えばフェニルアラニン、チロシン、もしくはトリプトファンの芳香族残基、または(f)グルタミンのアミド基に結合し得る。これらの方法は、WO87/05330およびAplin and Wriston,(CRC Crit.Rev.Biochem.,pp.259−306(1981))に記載されている。
【0252】
抗体上に存在する任意の炭水化物部分の除去は、化学的または酵素的に達成され得る。化学的脱グリコシル化は、抗体を化合物トリフルオロメタンスルホン酸、または同等の化合物に暴露することを必要とする。この処理は、結合糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)を除いて、ほとんどまたは全ての糖の切断をもたらしながら、抗体を無傷に保つ。化学的脱グリコシル化は、Hakimuddin,et al.,(Arch.Biochem.Biophys.259:52(1987))およびEdge et al.,(Anal.Biochem.118:131(1981))により説明されている。抗体上の炭水化物部分の酵素的切断は、Thotakura et al.,(Meth.Enzymol.138:350(1987))により説明されているように、様々なエンドおよびエキソグリコシダーゼの使用により達成され得る。
【0253】
抗体の別の種類の共有結合改変は、抗体を様々な非タンパク質ポリマーの1つ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリオキシエチル化ソルビトール、ポリオキシエチル化グルコース、ポリオキシエチル化グリセロール、ポリオキシアルキレン、またはポリサッカリドポリマー、例えばデキストランに結合させることを含む。そのような方法は、当該技術分野において知られており、例えば、米国特許第4,640,835号、同第4,496,689号、同第4,301,144号、同第4,670,417号、同第4,791,192号、同第4,179,337号、同第4,766,106号、同第4,179,337号、同第4,495,285号、同第4,609,546号またはEP315456を参照されたい。
【0254】
誘導体
上述のように、誘導体は、ユビキチン化、標識化(例えば、放射性核種または様々な酵素による)、PEG化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)等のポリマー共有結合、およびオルニチン等のアミノ酸の化学合成による挿入または置換等の技術によって化学的に改変されたポリペプチドを指す。二重特異性抗体等の本発明の抗体物質の誘導体はまた、治療薬剤としても有用であり、本明細書における方法により生成され得る。
【0255】
コンジュゲート部分は、例えば放射性ヌクレオチド、もしくはストレプトアビジンにより認識されるビオチニル化ヌクレオチドの組み込み等、共有結合により、またはイオン結合、分子間力もしくは水素結合により抗体物質に組み込む、または結合させることができる。
【0256】
ポリエチレングリコール(PEG)は、抗体物質に結合して、in vivoでより長い半減期を提供し得る。PEG基は、都合の良い任意の分子量のものであってもよく、また直鎖または分岐鎖であってもよい。PEGの平均分子量は、好ましくは、約2キロダルトン(「kD」)から約100kDa、より好ましくは約5kDaから約50kDa、最も好ましくは約5kDaから約10kDaの範囲である。PEG基は、一般に、PEG部分上の天然または操作された反応基(例えば、アルデヒド、アミノ、チオール、またはエステル基)を介した抗体物質上の反応基(例えば、アルデヒド、アミノ、またはエステル基)へのアクリル化または還元アルキル化により、本開示の抗体物質に結合する。抗体物質へのPEG部分の付加は、当該技術分野において周知の技術を使用して行うことができる。例えば、国際特許公開第WO96/11953号および米国特許第4,179,337号を参照されたい。
【0257】
抗体物質のPEGとの連結は、通常、水相において生じ、逆相分析HPLCにより容易に監視することができる。PEG化物質は、分取HPLCにより精製され、分析HPLC、アミノ酸分析およびレーザ脱離質量分析により特性決定される。
【0258】
抗体コンジュゲート
抗体は、「裸の」または非コンジュゲート化形態で投与され得るか、または、他の治療薬または診断薬に直接コンジュゲートされ得るか、または、そのような他の治療薬または診断薬を含む担体ポリマーに間接的にコンジュゲートされ得る。いくつかの実施形態において、抗体は、細胞傷害性薬、例えば化学療法薬、薬物、成長阻害剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、もしくは動物起源、またはその断片の酵素活性毒素)あるいは放射性同位体(すなわち放射性コンジュゲート)にコンジュゲートされる。好適な化学療法薬は、ダウノマイシン、ドキソルビシン、メトトレキセート、およびビンデシン(Rowland et al.,(1986)、上記参照)を含む。好適な毒素は、細菌毒素、例えばジフテリア毒素;植物毒素、例えばリシン;小分子毒素、例えばゲルダナマイシン(Mandler et al J.Natl.Cancer Inst.92(19):1573−81(2000);Mandler et al.,Bioorg.Med.Chem.Letters 10:1025−1028(2000);Mandler et al.,Bioconjugate Chem.13.786−91(2002))、マイタンシノイド(EP1391213;Liu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:8618−23(1996))、アウリスタチン(Doronina et al.,Nat.Biotech.21:778−84(2003)およびカリケアミシン(Lode et al.,Cancer Res.58:2928(1998);Hinman et al.,Cancer Res.53:3336−3342(1993))を含む。
【0259】
抗体は、放射性同位体、親和性標識(例えば、ビオチン、アビジン等)、酵素標識(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)、蛍光または発光もしくは生体発光標識(例えば、FITCまたはローダミン等)、常磁性原子等の使用により検出可能に標識化され得る。そのような標識化を達成するための手順は、当該技術分野において周知であり、例えば、(Sternberger,L.A.et al.,J.Histochem.Cytochem.18:315(1970);Bayer,E.A.et al.,Meth.Enzym.62:308(1979);Engval,E.et al.,Immunol.109:129(1972);Goding,J.W.J.Immunol.Meth.13:215(1976))を参照されたい。
【0260】
抗体部分のコンジュケート化は、米国特許第6,306,393号に記載されている。また、一般的な技術が、Shih et al.,Int.J.Cancer 41:832−839(1988);Shih et al.,Int.J.Cancer 46:1101−1106(1990);およびShih et al.,米国特許第5,057,313号に記載されている。この一般的方法は、酸化炭水化物部分を有する抗体成分を、少なくとも1つの遊離アミン官能基を有し、複数の薬物、毒素、キレート剤、ホウ素付加物、または他の治療薬剤が投入された担体ポリマーと反応させることを含む。この反応は、初期シッフ塩基(イミン)結合をもたらし、これは、2級アミンに還元して最終コンジュゲートを形成することにより安定化することができる。
【0261】
担体ポリマーは、例えば、少なくとも50アミノ酸残基のアミノデキストランまたはポリペプチドであってもよい。薬物または他の薬剤を担体ポリマーにコンジュゲートするための様々な技術が、当該技術分野において知られている。アミノデキストランの代わりにポリペプチド担体を使用することができるが、ポリペプチド担体は、少なくとも50アミノ酸残基、好ましくは100〜5000アミノ酸残基を鎖内に有するべきである。アミノ酸の少なくともいくつかは、リシン残基またはグルタメートもしくはアスパルテート残基であるべきである。リシン残基のペンダントアミンならびにグルタミンおよびアスパルテートのペンダントカルボキシレートは、薬物、毒素、免疫刺激剤、キレート剤、ホウ素付加物または他の治療薬剤を結合させるために好都合である。好適なポリペプチド担体の例は、ポリリシン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、それらのコポリマー、およびこれらのアミノ酸と、得られる投入担体およびコンジュゲートに対し所望の溶解特性を付与するための他のもの、例えばセリンとの混合ポリマーを含む。抗体がコンジュゲートされ得る薬剤の例は、本明細書に記載の細胞傷害性または化学療法薬のいずれかを含む。
【0262】
代替として、コンジュゲート抗体は、抗体成分を治療薬剤と直接コンジュゲートさせることにより調製され得る。一般的手順は、コンジュゲート化の間接的方法と類似しているが、但し、治療薬剤が酸化抗体成分に直接結合する。例えば、抗体の炭水化物部分をポリエチレングリコールに結合させて、半減期を延長することができる。
【0263】
代替として、治療薬剤は、ジスルフィド結合形成により、またはヘテロ二官能性架橋剤、例えばN−スクシニル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)を使用して、還元された抗体成分のヒンジ領域に結合し得る。Yu et al.,Int.J.Cancer56:244(1994)。そのようなコンジュゲート化のための一般的技術は、当該技術分野において周知である。例えば、Wong,Chemistry Of Protein Conjugation and Cross−Linking(CRC Press 1991);Upeslacis et al.,"Modification of Antibodies by Chemical Methods,"in Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birch et al.(eds.),pages 187−230(Wiley−Liss,Inc.1995);Price,"Production and Characterization of Synthetic Peptide−Derived Antibodies,"in Monoclonal Antibodies:Production,Engineering and Clinical Application,Ritter et al.(eds.),pages 60−84(Cambridge University Press 1995)を参照されたい。N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばアジプイミド酸ジメチルHCL)、活性エステル(例えばスベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えばグルタレルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えばビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えばビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトリエン2,6−ジイソシアネート)、およびビス−活性フッ素化合物(例えば1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)等の様々な二官能性タンパク質結合剤が当該技術分野において知られている。
【0264】
抗体融合タンパク質
抗体融合タンパク質を作製する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、米国特許第6,306,393号を参照されたい。インターロイキン−2部分を含む抗体融合タンパク質は、Boleti et al.,Ann.Oncol.6:945(1995)、Nicolet et al.,Cancer Gene Ther.2:161(1995)、Becker et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 93:7826(1996)、Hank et al.,Clin.Cancer Res.2:1951(1996)、およびHu et al.,Cancer Res.56:4998(1996)により説明されている。さらに、Yang et al.,(Hum.Antibodies Hybridomas 6:129(1995))は、F(ab')2断片および腫瘍壊死因子アルファ部分を含む融合タンパク質を説明している。抗体融合タンパク質のさらなる例は、Pastan et al,Nat.Reviews Cancer 6:559−65(2006)により説明されている。
【0265】
組み換え分子が1つ以上の抗体成分および毒素または化学療法薬を含む抗体−毒素融合タンパク質を作製する方法もまた、当業者に知られている。例えば、抗体−シュードモナス外毒素A融合タンパク質が、Chaudhary et al.,Nature 339:394(1989)、Brinkmann et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 88:8616(1991)、Batra et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 89:5867(1992)、Friedman et al.,J.Immunol.150:3054(1993)、Wels et al.,Int.J.Can.60:137(1995)、Fominaya et al.,J.Biol.Chem.271:10560(1996)、Kuan et al.,Biochemistry 35:2872(1996)、およびSchmidt et al.,Int.J.Can.65:538(1996)により説明されている。ジフテリア毒素部分を含有する抗体−毒素融合タンパク質が、Kreitman et al.,Leukemia 7:553(1993)、Nicholls et al.,J.Biol.Chem.268:5302(1993)、Thompson et al.,J.Biol.Chem.270:28037(1995)、およびVallera et al.,Blood 88:2342(1996)により説明されている。Deonarain et al.,Tumor Targeting 1:177(1995)は、RNase部分を有する抗体−毒素融合タンパク質を説明しており、一方Linardou et al.,Cell Biophys.24−25:243(1994)は、DNase I成分を含む抗体−毒素融合タンパク質を生成した。Wang et al.,Abstracts of the 209th ACS National Meeting,Anaheim,Calif.,Apr.2−6,1995,Part 1,BIOT005の抗体−毒素融合タンパク質における毒素部分として、ゲロニンが使用された。さらなる例として、Dohlsten et al.,Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 91:8945(1994)は、ブドウ球菌エンテロトキシン−Aを含む抗体−毒素融合タンパク質を報告した。
【0266】
そのような融合タンパク質の調製に好適に使用される例示的な毒素は、リシン、アブリン、リボヌクレアーゼ、DNase I、ブドウ球菌エンテロトキシン−A、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ゲロニン、ジフテリン毒素、シュードモナス外毒素、およびシュードモナス内毒素である。例えば、Pastan et al.,Cell 47:641(1986)、およびGoldenberg,CA−−A Cancer Journal for Clinicians 44:43(1994)を参照されたい。他の好適な毒素は、当業者に知られている。
【0267】
本開示の抗体はまた、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法薬、WO81/01145を参照されたい)を活性抗癌剤に変換するプロドラッグ活性化酵素に抗体をコンジュゲートすることにより、ADEPTにおいて使用され得る。例えば、WO88/07378および米国特許第4,975,278号を参照されたい。
【0268】
ADEPTに有用な免疫抱合体の酵素成分は、プロドラッグをより活性な細胞傷害性形態に変換するようにプロドラッグに作用することができる任意の酵素を含む。
【0269】
本開示において有用な酵素は、限定されないが、ホスフェート含有プロドラッグを遊離薬物に変換するために有用なアルカリホスファターゼ;サルフェート含有プロドラッグを遊離薬物に変換するために有用なアリールサルフェート;非毒性5−フルオロシトシンを抗癌剤、5−フルオロウラシルに変換するために有用なシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離薬物に変換するために有用なプロテアーゼ、例えばセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、サブチリシン、カルボキシペプチダーゼおよびカテプシン(例えばカテプシンBおよびL);D−アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するために有用なD−アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化プロドラッグを遊離薬物に変換するために有用な炭水化物切断酵素、例えばα−ガラクトシダーゼおよびノイラミニダーゼ;β−ラクタムで誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するために有用なβ−ラクタマーゼ;ならびに、アミン窒素において、それぞれフェノキシアセチルまたはフェニルアセチル基で誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するために有用なペニシリンアミダーゼ、例えばペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼを含む。代替として、当該技術分野において抗体酵素としても知られる酵素活性を有する抗体を使用して、本開示のプロドラッグを、遊離活性薬物に変換することができる(例えば、Massey,Nature 328:457−458(1987)を参照されたい)。抗体酵素の腫瘍細胞集団への送達のために、抗体−抗体酵素コンジュゲートを本明細書に記載のように調製することができる。
【0270】
上記酵素は、上述のヘテロ二官能性架橋剤の使用等の当技術分野において周知の技術により、抗体に共有結合され得る。代替として、本開示の酵素の少なくとも機能的に活性な部分に結合した本開示の抗体の少なくとも抗原結合領域を含む融合タンパク質が、当該技術分野において周知の組み換えDNA技術を使用して構築され得る(例えば、Neuberger et al.,Nature 312:604−608(1984)を参照されたい)。
【0271】
抗体の組み換え産生
本開示の抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)単離および配列決定され得る。通常、これには、抗体をコードするDNA、または好ましくはmRNA(すなわちcDNA)のクローニングが必要である。クローニングおよび配列決定は、標準的技術、例えばポリメラーゼ 連鎖反応(PCR)(例えば、参照により本明細書に組み込まれるSambrook et al.(1989) Molecular Cloning:A Laboratory Guide,Vols 1−3,Cold Spring Harbor Press;Ausubel,et al.(Eds.),Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1994)を参照されたい)等を使用して行われる。
【0272】
ヌクレオチドプローブ反応および他のヌクレオチドハイブリダイゼーション反応は、特定条件下で互いにハイブリダイズするポリヌクレオチドの特定を可能にする条件で行われる。1つの例示的な一連の条件は、以下の通りである:50%ホルムアミド、5×SSC、20mM NaPO4、pH6.8中、42℃でのストリンジェントなハイブリダイゼーション;および1×SSC中、55℃で30分間の洗浄。等価のハイブリダイゼーション条件の計算および/または所望のレベルのストリンジェンシーを達成するための他の条件の選択のための式は、周知である。当該技術分野において、等価のストリンジェンシーの条件は、温度および緩衝剤、または、Ausubel,et al.(Eds.),Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1994),pp.6.0.3 to 6.4.10に記載のような塩濃度の変動により達成することができることが理解されている。ハイブリダイゼーション条件における変更は、実験的に決定するか、または、プローブのグアノシン/シトシン(GC)塩基対の長さおよびパーセンテージに基づいて正確に計算することができる。ハイブリダイゼーション条件は、Sambrook,et al.,(Eds.),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,New York(1989),pp.9.47 to 9.51に記載のように計算することができる。
【0273】
本明細書において使用する際、「単離」核酸分子または「単離」核酸配列は、(1)核酸の天然源において通常会合している少なくとも1つの混入核酸分子から特定および分離された、または(2)対象核酸の配列が決定され得るようにバックグラウンドの核酸からクローニングされた、増幅された、タグ化された、もしくは別様に区別された核酸分子であり、単離されたとみなされる。単離核酸分子は、天然に見られる形態または環境以外のものである。したがって、単離核酸分子は、天然細胞において存在するような核酸分子から区別される。しかしながら、単離核酸分子は、例えば、核酸分子が天然細胞の染色体位置とは異なる染色体位置にある、通常抗体を発現する細胞に含有される核酸分子を含む。
【0274】
クローニングおよび配列決定に使用されるRNAの1つの供給源は、形質転換マウスからB細胞を得、B細胞を不死化細胞に融合することにより生成されるハイブリドーマである。ハイブリドーマを使用する利点は、それらを容易にスクリーニングし、対象ヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを容易に選択することができることである。代替として、RNAは、免疫化動物のB細胞(または全脾臓)から単離され得る。ハイブリドーマ以外の供給源が使用される場合、特異的結合特性を有する免疫グロブリンまたは免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列に関してスクリーニングすることが望ましくなり得る。そのようなスクリーニングのための1つの方法は、ファージディスプレイ技術の使用である。ファージディスプレイは、本明細書においてさらに説明されており、また当技術分野において周知である。例えば、それぞれ参照により本明細書に組み込まれるDower et al.,WO91/17271、McCafferty et al.,WO92/01047、およびCaton and Koprowski,(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:6450−54(1990))を参照されたい。ファージディスプレイ技術を使用した一実施形態において、免疫化形質転換マウスからのcDNA(例えば、全脾臓cDNA)が単離され、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して免疫グロブリンポリペプチドの一部、例えばCDR領域をコードするcDNA配列が増幅され、増幅された配列がファージベクターに挿入される。所望の結合特性を有する対象ペプチド、例えば可変領域ペプチドをコードするcDNAは、パニング等の標準的技術により特定される。
【0275】
典型的には、免疫グロブリンポリペプチドの全可変領域をコードする配列が決定されるが、時折、可変領域の一部のみ、例えばCDRコード部分のみを配列決定することで十分となる。典型的には、配列決定される部分は、少なくとも30塩基の長さであり、より頻繁には、可変領域の長さの少なくとも約3分の1または少なくとも約2分の1の塩基コーディングが配列決定される。
【0276】
配列決定は、標準的技術を使用して行われる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Sambrook et al.(1989) Molecular Cloning:A Laboratory Guide,Vols 1−3,Cold Spring Harbor Press、およびSanger,F.et al.(1977) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:5463−5467を参照されたい)。クローニングされた核酸の配列を、ヒト免疫グロブリン遺伝子およびcDNAの公開されている配列と比較することにより、当業者は、配列決定される領域に依存して、(i)免疫グロブリンポリペプチドの生殖系列セグメントの使用(重鎖のアイソタイプ含む)、ならびに(ii)N−領域付加および体細胞突然変異から生じる配列を含む、重鎖および軽鎖可変領域の配列を、容易に決定することができる。免疫グロブリン遺伝子配列情報の1つの供給源は、National Center for Biotechnology Information、National Library of Medicine、National Institutes of Health、Bethesda、Mdである。
【0277】
単離したら、DNAを発現ベクター内に入れることができ、次いで大腸菌、シミアンCOS細胞、ヒト胎児腎臓293細胞(例えば293E細胞)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞等の、別様には免疫グロブリンタンパク質を産生しない宿主細胞にトランスフェクトして、組み換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体の組み換え産生は、当該技術分野において周知である。
【0278】
発現制御配列は、特定の宿主生物における作用可能に結合したコード配列の発現に必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適な制御配列は、プロモーター、随意にオペレーター配列、およびリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを利用することが知られている。
【0279】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれた場合、作用可能に結合する。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドのDNAに作用可能に結合し、プロモーターもしくはエンハンサーは、配列の転写に影響する場合、コード配列に作用可能に結合し、または、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように位置付けられる場合、コード配列に作用可能に結合する。一般に、作用可能に結合するとは、結合しているDNA配列が連続的であり、分泌リーダーの場合には、連続的かつリーディングフェーズにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、連続的である必要はない。結合は、好都合な制限酵素認識部位での連結により達成される。そのような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣習に従い使用される。
【0280】
細胞、細胞系、および細胞培養物は、しばしば交換可能に使用され、全てのそのような称号は、本明細書において後代を含む。形質転換体および形質転換細胞は、形質転換の数を問わず、初代対象細胞およびそこから得られた培養物を含む。また、全ての後代は、意図的な、または意図的でない突然変異により、DNA含量において正確に同一でなくてもよいことが理解される。元の形質転換細胞においてスクリーニングされるような同じ機能または生物活性を有する突然変異後代が含まれる。異なる称号が意図される場合、文脈から明らかとなる。
【0281】
代替の実施形態において、対象免疫グロブリンのアミノ酸配列は、直接的タンパク質配列決定により決定されてもよい。好適なコードヌクレオチド配列は、汎用コドン表に従い設計することができる。
【0282】
アミノ酸配列変異体は、適切なヌクレオチドの変更をコードDNAに導入することにより、またはペプチド合成により調製され得る。そのような変異体は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/または該残基への挿入、および/または該残基の置換を含む。最終構築物が所望の特性を有する限り、欠失、挿入、および置換の任意の組み合わせを行って最終構築物に到達する。また、アミノ酸の変更は、分子の翻訳後プロセス、例えばグリコシル化部位の数または位置の変更を改変し得る。
【0283】
抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当該技術分野において知られた様々な方法により調製される。これらの方法は、限定されないが、天然源からの単離(自然発生的アミノ酸配列変異体の場合)またはオリゴヌクレオチド媒介(もしくは部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、および抗体の以前に調製された変異体または非変異体形態のカセット突然変異誘発を含む。
【0284】
本開示はまた、宿主細胞により認識される制御配列に随意に作用可能に結合した、本開示の抗体をコードする単離核酸、核酸を含むベクターおよび宿主細胞、ならびに、核酸が発現されるように宿主細胞を培養する工程と、随意に、宿主細胞培養物または培養培地から抗体を回収する工程とを含み得る、抗体産生のための組み換え技術を提供する。抗体産生のための様々なシステムおよび方法が、Birch & Racher(Adv.Drug Deliv.Rev.671−685(2006))により考察されている。
【0285】
抗体の組み換え産生において、それをコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のために、複製可能なベクターに挿入される。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離および配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分は、一般に、限定されないが、シグナル配列、複製起点、1つ以上の選択的マーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、および転写停止配列の1つ以上を含む。
【0286】
(1)シグナル配列成分
本開示の抗体は、直接的だけでなく、好ましくはシグナル配列、または成熟タンパク質もしくはポリペプチドのN末端における特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとして、組み換えにより産生され得る。好ましく選択されるシグナル配列は、宿主細胞により認識および処理(すなわち、シグナルペプチドにより切断)されるものである。原核宿主細胞が天然抗体シグナル配列を認識および処理しない場合、シグナル配列は、例えば、ペクチン酸リアーゼ(例えばpelB)、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または耐熱性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択されるシグナル配列により置換され得る。酵母分泌においては、天然シグナル配列は、例えば、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(サッカロミセスおよびクリベロマイセスα因子リーダーを含む)、もしくは酸ホスファターゼリーダー、C.アルビカンスグルコアミラーゼリーダー、またはWO90/13646に記載のシグナルにより置換され得る。哺乳動物細胞発現において、哺乳動物シグナル配列およびウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。
【0287】
そのような前駆体領域のDNAは、リーディングフレームにおいて、抗体をコードするDNAに連結される。
【0288】
(2)複製起点成分
発現およびクローニングベクターは両方とも、ベクターが1つ以上の選択された宿主細胞内で複製することを可能にする核酸配列を含有する。一般に、クローニングベクターにおいて、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAとは独立して複製することを可能にする配列であり、複製起点または自己複製配列を含む。そのような配列は、様々な細菌、酵母およびウイルスにおいて周知である。プラスミドpBR322からの複製起点は、ほとんどのグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド起点は、酵母に好適であり、様々なウイルス起点は、哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターには必要ではない(早期プロモーターを含有することだけを理由に、SV40起点が典型的に使用され得る)。
【0289】
(3)選択的マーカー成分
発現およびクローニングベクターは、選択可能マーカーとも呼ばれる選択的遺伝子を含有し得る。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、テトラサイクリン、G418、ジェネティシン、ヒスチジノール、もしくはミコフェノール酸に対する耐性を付与する、(b)栄養要求性欠損を補完する、または(c)複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする(例えばバチルス属に対するD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)。
【0290】
選択スキームの一例は、宿主細胞の増殖を停止させるための薬物を利用する。異種遺伝子により成功裏に形質転換されたそれらの細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、したがって選択レジメンを生き残る。そのような優勢選択の例は、薬物メトトレキセート、ネオマイシン、ヒスチジノール、ピューロマイシン、ミコフェノール酸およびハイグロマイシンを使用する。
【0291】
哺乳動物細胞に対する好適な選択可能マーカーの別の例は、抗体コード核酸を取り込む能力を有する細胞の特定を可能にするもの、例えばDHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−IおよびII、好ましくは霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等である。
【0292】
例えば、DHFR選択遺伝子により形質転換された細胞は、まず、形質転換体の全てを、DHFRの競合拮抗薬であるメトトレキセート(Mtx)を含有する培養培地中で培養することにより特定される。野生型DHFRが使用される場合の適切な宿主細胞は、DHFR活性が欠乏したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系である。
【0293】
代替として、本開示の抗体をコードするDNA配列、野生型DHFRタンパク質、および別の選択可能マーカー、例えばアミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(APH)で形質転換または同時形質転換された宿主細胞(具体的には、内因性DHFRを含有する野生型宿主)が、アミノグリコシド系抗生物質、例えばカナマイシン、ネオマイシン、またはG418等の選択可能マーカーのための選択剤を含有する培地中での細胞増殖により選択され得る。米国特許第4,965,199号を参照されたい。
【0294】
酵母における使用に好適な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb et al.,Nature,282:39(1979))。trp1遺伝子は、例えば、ATCC No.44076またはPEP4−1等のトリプトファン中で成長する能力が欠如した酵母の突然変異株に対する選択マーカーである。Jones,(Genetics 85:12(1977))。次いで、酵母宿主細胞におけるtrp1欠損の存在は、トリプトファンの非存在下での増殖により形質転換の検出に有効な環境を提供する。同様に、Leu2−欠損酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドにより補完される。Ura3−欠損酵母株は、ura3遺伝子を有するプラスミドにより補完される。
【0295】
さらに、1.6μm環状プラスミドpKD1から得られるベクターを、クリベロマイセス酵母の形質転換に使用することができる。代替として、組み換え仔牛キモシン大量生成のための発現系が、K.ラクチスに対して報告されたVan den Berg,(Bio/Technology,8:135(1990))。クリベロマイセスの工業用菌株による、成熟組み換えヒト血清アルブミンの分泌のための安定な多コピー発現ベクターもまた開示されている(Fleer et al,Bio/Technology,9:968−975(1991))。
【0296】
(4)プロモーター成分
発現およびクローニングベクターは、通常、宿主生物により認識され、抗体コード核酸に作用可能に結合するプロモーターを含有する。原核宿主との使用に好適なプロモーターは、アラビノース(例えばaraB)プロモーターphoAプロモーター、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターを含む。しかしながら、他の既知の細菌プロモーターも好適である。また、細菌系における使用のためのプロモーターは、本開示の抗体をコードするDNAに作用可能に結合したシャイン−ダルガノ(S.D.)配列を含有する。
【0297】
プロモーター配列は、真核生物において知られている。事実上全ての真核生物遺伝子が、転写が開始する部位から約25から30塩基上流に位置するATリッチ領域を有する。多くの遺伝子の転写の開始部から70から80塩基上流に見られる別の配列は、Nが任意のヌクレオチドであってもよいCNCAAT領域である。ほとんどの真核生物遺伝子の3'端には、コード配列の3’端へのポリA尾部の付加のためのシグナルであってもよいAATAAA配列がある。これらの配列の全てが、真核生物発現ベクターに好適に挿入される。
【0298】
酵母宿主との使用に好適なプロモーター配列は、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ、または他の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ、およびグルコキナーゼのプロモーターを含む。
【0299】
成長条件により制御される転写のさらなる利点を有する誘導可能なプロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ならびにマルトースおよびガラクトース利用を担う酵素のプロモーター領域である。酵母発現における使用に好適なベクターおよびプロモーターは、EP73,657にさらに記載されている。酵母エンハンサーもまた、酵母プロモーターとともに有利に使用される。
【0300】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの抗体転写は、例えば、Abelson白血球ウイルス、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えばアデノウイルス2)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、最も好ましくはサイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスのゲノムから、異種哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーターから、熱衝撃プロモーターから得られるプロモーターにより制御されるが、但しそのようなプロモーターは宿主細胞系に適合する。
【0301】
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点も含有するSV40制限断片として好都合に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターは、HindIII E制限断片として好都合に得られる。ベクターとしてウシ乳頭腫ウイルスを使用して哺乳動物宿主においてDNAを発現させるための系が、米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の修正は、米国特許第4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルスからのチミジンキナーゼプロモーターの制御下でのマウス細胞におけるヒトβ−インターフェロンcDNAの発現に関する、Reyes et al.,Nature 297:598−601(1982)も参照されたい。代替として、ラウス肉腫ウイルスの長い末端反復が、プロモーターとして使用され得る。
【0302】
(5)エンハンサー要素成分
高等真核生物による本発明の抗体をコードするDNAの転写は、多くの場合エンハンサー配列をベクターに挿入することにより増加する。哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテインおよびインスリン)からの多くのエンハンサー配列が知られている。しかしながら、典型的には、真核細胞ウイルスからのエンハンサーが使用される。その例は、複製起点(bp100−270)の後期側のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーを含む。真核生物プロモーターの活性化のための増強要素に関するYaniv,Nature 297:17−18(1982)もまた参照されたい。エンハンサーは、抗体コード配列の5'または3'位でベクター中にスプライスされてもよいが、好ましくはプロモーターから5'位に位置している。
【0303】
(6)転写停止成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、または他の多細胞生物からの有核生物)において使用される発現ベクターは、転写の停止のために、またはmRNAを安定化させるために必要な配列もまた含有する。そのような配列は、真核生物またはウイルスDNAもしくはcDNAの5'、時には3'非翻訳領域から一般に利用可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分におけるポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含有する。1つの有用な転写停止成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。WO94/11026およびそれに開示される発現ベクターを参照されたい。別の転写停止成分は、マウス免疫グロブリン軽鎖転写ターミネーターである。
【0304】
(7)宿主細胞の選択および形質転換
本明細書におけるベクター中のDNAをクローニングまたは発現させるための好適な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、または高等真核細胞である。この目的に好適な原核生物は、グラム陰性またはグラム陽性生物等の真正細菌、例えば、エシェリキア属(Escherichia)、例えば大腸菌、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシェラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えばネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えばセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescans)、および赤痢菌(Shigella)等の腸内細菌(Enterobacteriaceae)、ならびに、バチルス属(Bacilli)、例えば枯草菌(B. subtilis)およびリケニホルミス菌(B. licheniformis)(例えば、1989年4月12日公開のDD266,710に開示されているリケニホルミス菌41P)、シュードモナス属(Pseudomonas)、例えば緑膿菌(P. aeruginosa)、およびストレプトマイセス属(Streptomyces)を含む。1つの好ましい大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31,446)であるが、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31,537)および大腸菌W3110(ATCC27,325)等の他の系統も好適である。これらの例は、限定ではなく例示である。
【0305】
原核生物に加えて、真核生物微生物、例えば糸状菌または酵母が、抗体コードベクターに好適なクローニングまたは発現宿主である。サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、または一般にパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クリベロマイセス(Kluyveromyces)宿主、例えばK.ラクチス(K. lactis)、K.フラジリス(K. fragilis)(ATCC12,424)、K.ブルガリクス(K. bulgaricus)(ATCC16,045)、K.ウィッケルハミ(K. wickeramii)(ATCC24,178)、K.ワルチ(K. waltii)(ATCC56,500)、K.ドロソフィラルム(K. drosophilarum)(ATCC36,906)、K.サーモトレランス(K. thermotolerans)、およびK.マルキシアヌス(K. marxianus);ヤロウィア(yarrowia)(EP402,226);ピキア・パストリス(Pichia pastors)(EP183,070);カンジダ(Candida);トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(EP244,234);アカパンカビ(Neurospora crassa);シュワニオミセス(Schwanniomyces)、例えばシュワニオミセス・オキシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);ならびに糸状菌、例えばニューロスポラ(Neurospora)、ペニシリン(Penicillium)、トリポクラジウム(Tolypocladium)、およびアスペルギルス(Aspergillus)宿主等、例えばA.ニデュランス(A. nidulans)およびクロコウジカビ(A. niger)等の、多くの他の属、種および系統が一般的に入手可能であり、本明細書において有用である。
【0306】
グリコシル化抗体の発現に好適な宿主細胞は、多細胞生物から得られる。無脊椎動物細胞の例は、植物および昆虫細胞を含む。多数のバキュロウイルス株および変異体、ならびにヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ)、およびカイコ(Bombyx mori)等の宿主からの対応する許容昆虫宿主細胞が特定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス株、例えばオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL−1変異体およびカイコNPVのBm−5株が公的に入手可能であり、またそのようなウイルスは、具体的にはヨトウガ細胞のトランスフェクションのために、本開示に従い本明細書のウイルスとして使用され得る。
【0307】
綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、タバコ、ウキクサ、および他の植物細胞もまた、宿主として利用することができる。
【0308】
有用な哺乳動物細胞系の例は、CHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB−11、DG−44、およびチャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣細胞;SV40により形質転換されたサル腎臓CV1系(COS−7、ATCC CRL1651);ヒト胎児腎臓系(293または懸濁培養における増殖のためにサブクローニングされた293細胞、(Graham et al.,J.Gen Virol.36:59,1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,(Biol.Reprod.23:243−251,1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587);ヒト子宮癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺臓細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.383:44−68(1982));MRC5細胞;FS4細胞;およびヒトヘパトーマ系(Hep G2)である。
【0309】
宿主細胞は、抗体産生のための上述の発現またはクローニングベクターで形質転換またはトランスフェクトされ、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適切となるように改変された従来の栄養培地中で培養される。さらに、選択的マーカーにより隔てられた転写単位の複数の複製を有する新規ベクターおよびトランスフェクトされた細胞系が、標的に結合する抗体の発現に特に有用であり好ましい。
【0310】
(8)宿主細胞の培養
本開示の抗体を生成するために使用される宿主細胞は、様々な培地中で培養され得る。Ham’s F10(Sigma社)、Minimal Essential Medium(MEM)(Sigma社)、RPMI−1640(Sigma社)、およびダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma社)等の市販の培地が、宿主細胞.の培養に好適である。さらに、Ham et al.,(Meth.Enz.58:44,1979)、Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255(1980)、米国特許第4,767,704号;同第4,657,866号;同第4,927,762号;同第4,560,655号;もしくは同第5,122,469号;WO90103430;WO87/00195;または米国再発行特許第30,985号に記載の培地のいずれも、宿主細胞用の培養培地として使用することができる。これらの培地のいずれも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸塩)、緩衝剤(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えばゲンタマイシン薬)、微量元素(通常マイクロモル範囲内の最終濃度で存在する無機化合物として定義される)、ならびにグルコースまたは同等のエネルギー源が添加されていてもよい。また、任意の他の必要な補助物質が、当業者に知られている適切な濃度で含まれてもよい。温度、pH等の培養条件は、発現のために選択された宿主細胞において以前に使用された条件であり、当業者には明らかである。
【0311】
(9)抗体の精製
組み換え技術を使用する場合、抗体は、細胞内、細胞周辺腔内で産生されるか、または微生物培養を含む培地に直接分泌され得る。抗体が細胞内で産生される場合、第1のステップとして、宿主細胞または溶解断片のいずれかの粒子状破片が、例えば遠心分離または限外濾過により除去される。Betterら(Science 240:1041−43,1988;ICSU Short Reports 10:105(1990);およびProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:457−461(1993)は、大腸菌の細胞周辺腔に分泌された抗体を単離するための手順を説明している[Carter et al.,Bio/Technology 10:163−167(1992)もまた参照されたい]。
【0312】
微生物または哺乳動物細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーまたは鳥交換クロマトグラフィー、および親和性クロマトグラフィーを使用して精製することができ、親和性クロマトグラフィーが好ましい精製技術である。親和性リガンドとしてのタンパク質Aの適性は、抗体内に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。タンパク質Aは、ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1−13,1983)に基づき抗体を精製するために使用することができる。タンパク質Gは、全てのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に対して推奨される(Guss et al.,EMBO J.5:15671575(1986))。親和性リガンドが結合するマトリックスは、最も多くはアガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。孔径制御ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリックスは、アガロースを用いて達成され得るものよりも速い流速およびより短い処理時間を可能にする。抗体がCH 3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,N.J.)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画化、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(登録商標)クロマトグラフィーにおけるアニオンもしくはカチオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)でのクロマトグラフィー、クロマト分画、SDS−PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿等の他のタンパク質精製技術もまた、回収される抗体に依存して利用可能である。
【0313】
スクリーニング方法
効果的な治療法は、著しい毒性を有さない効果的薬剤の特定に依存する。抗体は、当該技術分野において知られた方法により、結合親和性に関してスクリーニングされ得る。例えば、ゲルシフトアッセイ、ウェスタンブロット、放射性標識競合アッセイ、クロマトグラフィーによる同時分画化、共沈、架橋、ELISA等を使用することができ、これらは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Current Protocols in Molecular Biology(1999) John Wiley & Sons,NYに記載されている。
【0314】
本開示の一実施形態において、標的抗原の活性を調整する抗体のスクリーニングの方法は、試験抗体を標的ポリペプチドと接触させること、および抗体と標的リガンドとの間の複合体の存在に関して分析することを含む。そのようなアッセイにおいて、リガンドは、典型的には標識化されている。好適なインキュベーションの後、結合形態で存在するリガンドから遊離リガンドが分離され、遊離した非複合化標識の量が、標的リガンドに結合する特定の抗体の能力の指標となる。
【0315】
本開示の別の実施形態において、標的ポリペプチドに対する好適な結合親和性を有する抗体断片またはCDRのハイスループットクリーニングが使用される。簡潔に述べると、多数の異なる小分子ペプチド試験化合物を、固体基板上に合成する。ペプチド試験抗体を、標的ポリペプチドと接触させ、洗浄する。次いで、結合したポリペプチドを、当該技術分野において周知の方法により検出する。また、本開示の精製抗体は、上述の薬物スクリーニング技術における使用のために、プレート上に直接コーティングされ得る。さらに、非中和抗体を使用して、標的を捕捉し、固体支持体上に固定化することがでる。
【0316】
TGFβおよび抗TGFβ抗体の中和生物活性を評価するための方法は、当該技術分野において知られている。例えば、米国特許第7,867,496号を参照されたい。in vitroバイオアッセイの例は、(1)EGFの存在下、軟寒天中でのNRK細胞のコロニー形成の誘導(Roberts et al.(1981) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:5339−5343);(2)軟骨表現型を発現させるための原始的間葉細胞の分化の誘導(Seyedin et al.(1985) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:2267−2271);(3)Mv1Luミンク肺上皮細胞(Danielpour et al.(1989) J.Cell.Physiol.,138:79−86)およびBBC−1サル腎臓細胞(Holley et al.(1980) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:5989−5992)の成長阻害;(4)C3H/HeJマウス胸腺細胞の有糸分裂誘発阻害(Wrann et al.(1987) EMBO J.,6:1633−1636);(5)ラットL6筋芽細胞の分化阻害(Florini et al.(1986) J.Biol.Chem.,261:16509−16513);(6)フィブロネクチン産生の測定(Wrana et al.(1992) Cell,71:1003−1014);(7)ルシフェラーゼレポーター遺伝子に融合したプラスミノーゲン活性化因子阻害剤I(PAI−1)プロモーターの誘導(Abe et al.(1994) Anal.Biochem.,216:276−284);(8)サンドイッチ酵素結合免疫吸着法(Danielpour et al.(1989) Growth Factors,2:61−71);ならびに(9)Singh et al.(2003) Bioorg.Med.Chem.Lett.,13(24):4355−4359に記載の細胞アッセイを含む。
【0317】
いくつかの実施形態において、TGFβ1およびTGFβ2の抗体中和は、TGFβ3の中和よりも、少なくとも2〜50倍、10〜100倍、2倍、5倍、10倍、25倍、50倍もしくは100倍、または20〜50%、50〜100%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%強力である。
【0318】
TGFβの生物活性および中和(例えばTGFβ抗体による)を評価するための追加的方法は、実施例に記載されている。例えば、中和は、中和アッセイにより測定され、IC50値として表現され得る。IC50値は、所与の分子に対して、第2の分子または細胞活性の最大生物学的反応の半分の阻害を引き出すために必要な分子の濃度を決定することにより計算され得る。IC50が低い程、所与のタンパク質活性を阻害する分子の有効性が大きい。本明細書において企図される例示的な中和アッセイは、限定されないが、インターロイキン−11放出アッセイおよびHT−2/IL−4細胞増殖アッセイを含む。さらに、抗体が1つのTGFβアイソフォームを優先的に阻害するかどうかを決定するために、pSMADリン酸化アッセイまたはrhLAP結合アッセイを含むTGFβ活性アッセイを行うことができる。さらなる実施形態において、抗体は、TGFβ3と比較して、TGFβ1およびTGFβ2に対しより低いIC50(すなわち、より良好な結合、より大きな有効性)を有する。
【0319】
併用療法
一実施形態において、本開示の抗体は、本明細書に記載の疾患または障害の治療に有用な第2の薬剤とともに投与される。標的抗原への結合に効果的な2つ以上の抗体が特定される場合、標的抗原の異なるエピトープに対する、および/またはTGFβの異なるアイソフォームに優先的に結合する2つ以上の抗体が、抗体同士の組み合わせが標的ポリペプチドに関連した状態または障害に対するさらに改善された効力を提供するように混合され得ることが企図される。本発明の1つ以上の抗体を含む組成物が、標的ポリペプチドに関連した治療されるべき状態または障害に罹患している、または罹患しやすい人物または動物に投与され得る。
【0320】
2種類の治療薬剤の併用投与は、薬剤がその治療効果を発揮している期間に重複が存在する限りは、薬剤が同時に、または同じ経路で投与されることを必要としない。同時または逐次投与が企図され、異なる日または週での投与もまた企図される。
【0321】
第2の薬剤は、サイトカイン、成長因子、他の標的抗原に対する抗体、抗炎症薬、抗凝固薬、細胞外基質産生を阻害する薬剤、血圧を低下または低減する薬剤、コレステロール、トリグリセリド、LDL、VLDL、もしくはリポタンパク質(a)を低減する薬剤またはHDLを増加させる薬剤、コレステロール調節タンパク質のレベルを増加または低下させる薬剤、抗新生物薬または分子等の他の治療薬剤であってもよい。癌または腫瘍等の過剰増殖性障害を有する患者に対しては、放射線療法、化学療法、光線力学的療法、または手術等の第2の治療法との組み合わせもまた企図される。
【0322】
本開示の抗体および第2の薬剤は、同じ剤形で同時に投与されてもよいことが企図される。さらに、薬剤は、別個の剤形で投与され、同時に投与されることが企図されるが、同時とは、薬剤が互いに30分以内に投与されることを指す。
【0323】
別の態様において、第2の薬剤は、抗体組成物の投与前に投与される。前投与とは、抗体による治療の1週間前から、抗体の投与の30分前までの範囲内の第2の薬剤の投与を指す。さらに、第2の薬剤が、抗体組成物の投与の後に投与されることが企図される。後の投与とは、抗体処置の30分後から抗体投与の1週間後の投与を示すことを意図する。
【0324】
さらに、適切な場合には他の補助療法が施されてもよいことが企図される。例えば、患者には、細胞外基質分解タンパク質、外科的療法、化学療法、細胞傷害性薬、または適切な場合には放射線療法が施されてもよい。
【0325】
さらに、抗体が第2の薬剤と組み合わせて投与される場合、例えば、第2の薬剤がサイトカインもしくは成長因子、または化学治療薬である場合、投与はまた、放射線治療薬または放射線療法の使用を含むことが企図される。抗体組成物と組み合わせて施される放射線療法は、処置する医師により決定されるように、および癌の処置を受けている患者に典型的に与えられる用量で施される。
【0326】
細胞傷害性薬は、細胞の機能を阻害もしくは防止し、および/または細胞の破壊をもたらす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、I131、I125、Y90およびRe186)、化学療法薬、および細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素活性毒素または合成毒素等の毒素、あるいはそれらの断片を含むことを意図する。非細胞傷害性薬は、細胞の機能を阻害もしくは防止せず、および/または細胞の破壊をもたらさない物質を指す。非細胞傷害性薬は、細胞傷害性となるように活性化され得る薬剤を含み得る。非細胞傷害性薬は、ビーズ、リポソーム、マトリックスまたは粒子を含み得る(例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2003/0028071号および同第2003/0032995号を参照されたい)。そのような薬剤は、本開示による抗体とコンジュゲート、結合、連結または会合されてもよい。
【0327】
本開示の抗体との使用が企図される化学療法薬は、限定されないが、表Iに列挙されるものを含む。
【0329】
また、第2の薬剤は、抗線維症薬であることが企図される。例示的な抗線維症薬は、限定されないが、1つ以上のTGF−βアイソフォームを標的化する抗体、TGF−β受容体キナーゼTGFBR1(ALK5)およびTGFBR2の阻害剤、ならびに受容体以降のシグナル伝達経路のモジュレーターを含む、形質転換成長因子−β(TGF−β)の活性を低減する他の薬剤(限定されないが、GC−1008(Genzyme/MedImmune);レルデリムマブ(CAT−152;Trabio、Cambridge Antibody);メテリムマブ(CAT−192、Cambridge Antibody,);LY−2157299(Eli Lilly);ACU−HTR−028(Opko Health)を含む);ケモカイン受容体シグナル伝達;エンドセリン受容体AおよびBの両方を標的化する阻害剤およびエンドセリン受容体Aを選択的に標的化する阻害剤を含む、エンドセリン受容体拮抗薬(限定されないが、アンブリセンタン;アボセンタン;ボセンタン;クラゾセンタン;ダルセンタン;BQ−153;FR−139317、L−744453;マシテンタン;PD−145065;PD−156252;PD163610;PS−433540;S−0139;シタキセンタンナトリウム;TBC−3711;ジボテンタンを含む);結合組織成長因子(CTGF)の活性を低減し(限定されないが、FG−3019、FibroGenを含む)、また他のCTGF−中和抗体も含む薬剤;マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤(限定されないが、MMPI−12、PUP−1およびチガポチドトリフルテートを含む);限定されないが、エルロチニブ、ゲフィチニブ、BMS−690514、セツキシマブ、EGF受容体を標的化する抗体、EGF受容体キナーゼの阻害剤、および受容体以降のシグナル伝達経路のモジュレーターを含む、上皮成長因子受容体(EGFR)の活性を低減する薬剤;血小板由来成長因子(PDGF)の活性を低減し(これに限定されないが、イマチニブメシレート(Novartis)を含む)、またPDGF中和抗体、PDGF受容体(PDGFR)を標的化する抗体、PDGFRキナーゼ活性および受容体以降のシグナル伝達経路の阻害剤を含む薬剤;血管内皮成長因子(VEGF)の活性を低減し(限定されないが、アキシチニブ、ベバシズマブ、BIBF−1120、CDP−791、CT−322、IMC−18F1、PTC−299、およびラムシルマブを含む)、またVEGF−中和抗体、VEGF受容体1(VEGFR1、Flt−1)およびVEGF受容体2(VEGFR2、KDR)を標的化する抗体、VEGFを中和するVEGFR1(sFlt)およびその誘導体の可溶化形態、ならびにVEGF受容体キナーゼ活性の阻害剤を含む薬剤;複数の受容体キナーゼの阻害剤、例えば血管内皮成長因子、線維芽細胞成長因子、および血小板由来成長因子の受容体キナーゼを阻害するBIBF−1120;インテグリン機能に干渉し(限定されないが、STX−100およびIMGN−388を含む)、またインテグリン標的化抗体も含む薬剤;IL−4(限定されないが、AER−001、AMG−317、APG−201、およびsIL−4Rαを含む)およびIL−13(限定されないが、AER−001、AMG−317、アンルキンズマブ、CAT−354、シントレデキンベスドトックス、MK−6105、QAX−576、SB−313、SL−102、およびTNX−650を含む)の線維症促進活性に干渉し、またいずれかのサイトカインに対する中和抗体、IL−4受容体またはIL−13受容体を標的化する抗体、IL−4およびIL−13の両方に結合し中和することが報告されているIL−4受容体またはその誘導体の可溶化形態、IL−13の全てまたは一部を含むキメラタンパク質および毒素、特にシュードモナス内毒素、JAK−STATキナーゼ経路を介したシグナル伝達を含む薬剤;mTorの阻害剤を含む上皮間葉移行に干渉する薬剤(これに限定されないが、AP−23573を含む);テトラチオモリブデート等の銅のレベルを低減する薬剤;N−アセチルシステインおよびテトラチオモリブデートを含む、酸化ストレスを低減する薬剤;ならびにインターフェロンガンマを含む。また、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)の阻害剤(これに限定されないが、ロフルミラストを含む);ホスホジエステラーゼ5(PDE5)の阻害剤(これに限定されないが、ミロデナフィル、PF−4480682、シルデナフィルシトレート、SLx−2101、タダラフィル、ウデナフィル、UK−369003、バルデナフィル、およびザプリナストを含む);または、シクロオキシゲナーゼおよび5−リポキシゲナーゼ阻害剤(これに限定されないが、ジロイトンを含む)を含むアラキドン酸経路の調整剤である薬剤も企図される。さらに、プロリルヒドロラーゼ阻害剤(限定されないが、1016548、CG−0089、FG−2216、FG−4497、FG−5615、FG−6513、フィブロスタチンA(武田)、ルフィロニル、P−1894B、およびサフィロニルを含む)ならびにペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)−ガンマ作動薬(限定されないが、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンを含む)を含む、組織改造または線維症を低減する化合物が企図される。
【0330】
企図される他の具体的な抗線維症薬は、リラキシン、ピルフェニドン、ウフィロニル、スリホニル、CAT−192、CAT−158;アンブリセンタン、セリン;FG−3019、CTGF抗体;抗EGFR抗体;EGFRキナーゼ阻害剤;タルセバ;ゲフィチニブ;PDGF抗体、PDGFRキナーゼ阻害剤;グリベック;BIBF−1120、VEGF、FGF、およびPDGF受容体阻害剤;抗インテグリン抗体;IL−4抗体;テトラチオモリブデート、銅キレート剤;インターフェロン−ガンマ;NAC、システインプロドラッグ;肝細胞成長因子(HGF);KGF;アンジオテンション受容体遮断薬、ACE阻害剤、レニン阻害剤;COXおよびLO阻害剤;ジロイトン;モンテルカスト;アバスチン;スタチン;PDE5阻害剤、例えばシルデナフィル、ウデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、またはザプリナスト;ロフミラスト;エタネルセプト(エンブレル);凝固促進剤;プロスタグランジン、例えばPGE2、PRX−08066、5HT2B受容体拮抗薬;シントレデキンベスドトックス、遺伝子操作されたシュードモナス外毒素にコンジュゲートしたキメラヒトIL13;ロフルミラスト、PDE4阻害剤;FG−3019、抗結合組織成長因子ヒトモノクローナル抗体;GC−1008、TGF−βヒトモノクローナル抗体;トレプロスチニル、プロスタサイクリン類似体;インターフェロン−α;QAX−576、IL13モジュレータ;WEB2086、PAF−受容体拮抗薬;イマチニブメシレート;FG−1019;スラミン;ボセンタン;IFN−1b;抗IL−4;抗IL−13;タウリン、ナイアシン、NF−κBアンチセンスオリゴヌクレオチド;ならびに酸化窒素シンターゼ阻害剤を含む。
【0331】
障害の治療
別の実施形態において、本開示は、標的特異的抗体を、それを必要とする患者に投与することにより標的活性を阻害するための方法を提供する。本明細書に記載の抗体の種類のいずれも、治療的に使用することができる。例示的実施形態において、標的特異的抗体は、ヒト、キメラまたはヒト化抗体である。別の例示的実施形態において、標的はヒトであり、患者はヒト患者である。代替として、患者は、標的特異的抗体が交差反応する標的タンパク質を発現する哺乳動物であってもよい。抗体は、獣医学目的で、またはヒト疾患の動物モデルとして、抗体が交差反応する標的タンパク質を発現する非ヒト哺乳動物(すなわち霊長類)に投与され得る。そのような動物モデルは、本開示の標的特異的抗体の治療有効性を評価するために有用となり得る。
【0332】
一実施形態において、本開示は、TGFβ発現に関連した状態または障害を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、治療上効果的な量の本明細書に記載の抗体または薬学的組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0333】
TGFβに結合する抗体物質(例えば本開示の抗体)により治療され得るTGFβ発現に関連した例示的な状態または障害は、癌、例えば肺癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、食道癌、直腸結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、線維性癌、神経膠腫および黒色腫、目の(例えば、眼球、視覚性、眼もしくは眼科的)疾患、状態もしくは障害、線維症に関連した疾患、状態もしくは障害、例えば、線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患、状態もしくは障害を含む。
【0334】
線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患は、限定されないが、皮膚、肺、腎臓、心臓、脳および目を含む、体内の任意の器官または組織に影響するものを含む。線維増殖性疾患、状態もしくは障害、または関連した線維症を有する疾患は、限定されないが、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢気道疾患(例えば閉塞性細気管支炎)、肺気腫、成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI);病原菌または毒物に起因する肺線維症;腎臓線維症、全ての病因の糸球体腎炎(GN)、例えば、メサンギウム増殖性GN、免疫性GN、および半月体形成性GN、糸球体硬化症、尿細管間質損傷、腎間質線維症、腎線維症および腎間質線維症の全ての原因、移植レシピエントのシクロスポリン処置、例えばシクロスポリン処置を含む、薬物暴露の合併症からもたらされる腎線維症、HIV関連ネフロパシー、移植ネクロパシー、糖尿病性腎臓疾患(例えば糖尿病性ネフロパシー)、腎性全身性線維症、糖尿病、特発性後腹膜線維症、強皮症、肝線維症、全ての病因に起因する肝硬変を含む過度の瘢痕および進行性硬化に関連した肝疾患、胆管の障害、感染症に起因する肝機能異常、線維嚢胞症、心血管疾患、例えば鬱血性心不全、拡張型心筋症;心筋炎;血管狭窄心線維症(例えば、梗塞後心線維症)、心筋梗塞後、左心室肥大、静脈閉塞症、再狭窄(例えば、血管形成後の再狭窄)、動静脈移植不全、アテローム性動脈硬化、高血圧、高血圧性心疾患、心臓肥大、肥大型心筋症、心不全、大動脈疾患、全身性進行性硬化症、多発性筋炎、全身性紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、ファシスト、レイノー症候群、関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、または緑内障の処置、網膜復位術、水晶体摘出、もしくは任意の種類のドレナージ術等の眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば、角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば、緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離、ペイロニー病、全身性硬化症、脊髄損傷後、骨粗しょう症、カムラチ・エンゲルマン病、クローン病、瘢痕、マルファン症候群、早発閉経、アルツハイマー病、パーキンソン病、外科的切開または機械的外傷に起因する線維症、眼科手術に関連した線維症;ならびに、外傷または外科的創傷からもたらされる創傷治癒中に生じる真皮における過度または肥大性の瘢痕またはケロイド形成を含む。
【0335】
例示的な目の疾患(例えば、眼球、視覚性、眼もしくは眼科的疾患)、状態または障害は、限定されないが、線維増殖性障害、目の線維症、眼線維症、網膜機能不全、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷(例えば、角膜へのアルカリ熱傷)、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0336】
例示的な目の線維増殖性疾患、状態もしくは障害、目の線維症、眼球の線維症、または眼線維症は、限定されないが、増殖性硝子体網膜症、任意の病因の硝子体網膜症、網膜機能不全に関連した線維症、滲出型または乾燥黄斑変性に関連した線維症、緑内障の処置、網膜再付着術、水晶体摘出術、または任意の種類のドレナージ術などの眼科手術に関連した線維症、角膜および結膜における瘢痕、角膜内皮における線維症、アルカリ熱傷に関連した線維症、白内障手術後の水晶体嚢の線維症、斜視手術における外眼筋周囲組織における過度の瘢痕、前嚢下白内障および後嚢混濁、前眼部線維症、角膜実質の線維症(例えば角膜混濁に関連)、小柱網の線維症(例えば緑内障に関連)、後眼部線維症、線維血管性瘢痕(例えば、目の網膜血管または脈絡膜血管における)、網膜線維症、網膜上線維症、網膜グリオーシス、網膜下線維症(例えば、加齢黄斑変性に関連)、網膜手術および緑内障手術後に関連した線維症、糖尿病性網膜症における組織の収縮に関連した牽引性網膜剥離を含む。
【0337】
様々な実施形態において、目の線維増殖性疾患、状態または障害は、増殖性硝子体網膜症、眼科手術に関連した線維症、白内障手術後の水晶体の線維症、角膜実質の線維症およびアルカリ熱傷からなる群から選択される。
【0338】
本発明による抗体物質で治療され得る例示的な癌は、肺癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、食道癌、直腸結腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、繊維性癌、神経膠腫および黒色腫等の癌を含む。
【0339】
多くのヒト腫瘍(deMartin et al.,EMBO J.,6:3673(1987)、Kuppner et al.,Int.J.Cancer,42:562(1988))および多くの腫瘍細胞系(Derynck et al.,Cancer Res.,47:707(1987)、Roberts et al.,Br.J.Cancer,57:594(1988))がTGFβを産生することが観察されており、それらの腫瘍が通常の免疫監視を逃れる可能なメカニズムを示唆している。
【0340】
癌におけるTGFβアイソフォーム発現は、特に癌において異なる役割を有するTGFβアイソフォームの異なる組み合わせにより、複雑で変動する。TGFβ分子は、腫瘍抑制因子および腫瘍プロモーターの両方として機能し得る。例えば、動物におけるTGFβシグナル伝達の欠失または下方調節は、乳癌、腸癌、膵臓癌、結腸癌および、扁平上皮細胞癌をもたらし得るが、これはTGFβの存在が、腫瘍の進行を防止または抑制するために重要であることを示している(Yang et al.,Trends Immunol 31:220−27,2010)。しかしながら、TGFβの過剰発現は、腫瘍形成促進性であることが知られており、多くの腫瘍型において増加した発現が検出されている(Yang et al.、上記参照)。
【0341】
また、さらなる複雑性が、米国特許第7,927,593号に開示されている。例えば、異なるTGFβアイソフォームが、異なる種類の癌により関連していると思われる。TGFβ1およびTGFβ3は、卵巣癌およびその進行においてTGFβ2よりも大きな役割を担う可能性があり、一方TGFβ1およびTGFβ2発現は、より高い悪性度の軟骨肉腫腫瘍においてTGFβ3よりも著しい。ヒト乳癌においては、TGFβ1およびTGFβ3が顕著に発現し、TGFβ3発現は、全体的な生存に関連し、一方結節転移および陽性TGFβ3発現を有する患者は、予後および転帰の不良を有する。しかしながら、結腸癌においては、TGFβ1およびTGFβ2は、TGFβ3よりも顕著に発現し、癌を有さない個体の場合よりも高い循環レベルで存在する。神経膠腫においては、TGFβ2は細胞移動に重要である。最近の研究からは、どのTGFβアイソフォームが特定の癌をどの程度まで阻害するのに最も有用であるかは明らかではない。
【0342】
免疫細胞の腫瘍部位への浸潤は、腫瘍成長の一般的な要因であると考えられている。これらの免疫細胞浸潤物は、腫瘍を除去するのを助けることにより有益な効果を有し得るが、腫瘍抗原に対する耐性を可能とすることにより有害な効果もまた有し得る。TGFβは、腫瘍内の免疫細胞のレベルに影響し得ることが示されている(例えば、Yang et al.,Trends Immunol 31:220−27,2010;Flavell et al.,Nature Immunol 10:554−567,2010;Nagarau et al.,Expert Opin Investig Drugs 19:77−91,2010を参照されたい)。例えば、TGFβは、体から腫瘍を除去するために腫瘍に浸潤するナチュラルキラー細胞を抑制する。TGFβはまた、腫瘍の除去を補助する細胞傷害性T細胞およびCD4+ヘルパーT細胞の活性を抑制する(Yang,上記参照)。TGFβはまた、例えば損傷部位への移動および免疫反応を促進するための抗原の提示を阻害することにより、樹状細胞活性の調節において役割を担う。樹状細胞は、TGFβに応答するとともにTGFβを分泌する。例えば、樹状細胞は、腫瘍に浸潤して細胞を取り込み、TGFβを分泌して調節性T細胞を活性化し、一方でこれが腫瘍除去を防止し得る(Flavell et al.,上記参照)。さらに、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)は、腫瘍の進行中に増加する骨髄由来細胞である。MDSCは、T細胞増殖を阻害し、樹状細胞成熟を抑制し、ナチュラルキラー細胞活性を阻害し、それにより細胞が免疫反応を逃れるのを助ける(Li et al.,J Immunol.182:240−49,2009)。TGFβは、ナチュラルキラー細胞活性の阻害に対するMDSCの効果に寄与することが実証されている(Li et al.,上記参照;Xiang et al.,Int J Cancer124:2621−33,2009)。これらの免疫プロセスのそれぞれにおける様々なTGFβアイソフォームの役割は不明である。TGFβアイソフォームの選択的標的化および様々な程度でのそれらの阻害は、腫瘍と闘いそれを除去するための宿主免疫反応の調整に役立ち得る。
【0343】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、腫瘍内の免疫細胞を調整する。いくつかの実施形態において、抗体または組成物は、腫瘍内のナチュラルキラー(NK)細胞の数を増加させ、および/またはNK細胞の細胞溶解活性を増加させる。様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、腫瘍内の調節性T細胞の数を減少させ、かつ/または調節性T細胞機能を阻害する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、免疫反応を下方調節する、または免疫反応の部位に移動するTregの能力を阻害する。
【0344】
様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、腫瘍内の細胞傷害性T細胞の数を増加させ、かつ/またはCTL活性を向上させる、例えばCTL活性を増進、増加もしくは促進する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、CTLによるパーフォリンおよびグランザイム産生を増加させ、CTLの細胞溶解活性を増加させる。
【0345】
様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、腫瘍内の単球由来幹細胞(MDSC)の数を減少させ、かつ/またはMDSC機能を阻害する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、免疫反応を抑制するMDSCの能力を阻害し、MDSCの免疫抑制活性を阻害し、ならびに/またはTregの増加および/もしくは機能を促進するMDSCの能力を阻害する。
【0346】
様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、腫瘍内の樹状細胞(DC)の数を減少させ、かつ/または樹状細胞の寛容原性機能(例えば寛容原性作用)を阻害する。例えば、様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体または組成物は、CD8+樹状細胞の寛容原性作用を低下させる。
【0347】
様々な実施形態において、本明細書に記載の抗体XPA.42.068、XPA.42.089もしくはXPA.42.681またはそれらの変異体は、上述の免疫活性の1つ以上を調整する。
【0348】
前述のように、また、TGFβ発現は、腎硬化、肺線維症および肝硬変等の様々な組織線維症の発症、ならびに慢性肝炎、関節リウマチ、血管再狭窄、および皮膚のケロイド等の様々な状態に関与している。いくつかの例示的実施形態において、本明細書に記載の抗体は、線維症または線維性状態を治療するために使用される。例示的な線維症または線維性疾患は、限定されないが、糸球体腎炎、成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、糖尿病、糖尿病性腎臓疾患、肝線維症、腎臓線維症、肺線維症、梗塞後心線維症、線維嚢胞性疾患、線維性癌、心筋梗塞後、左心室肥大、肺線維症、肝硬変、静脈閉塞症、脊髄損傷後、網膜手術および緑内障手術後、血管形成後の再狭窄、腎間質線維症、動静脈移植不全および瘢痕を含む。
【0349】
一実施形態において、これらの障害または状態のを必要とする動物における前記治療は、動物に、効果的な量の本明細書に記載の抗体または抗体を含む組成物を投与することを含む。
【0350】
本開示の方法により治療可能な状態は、好ましくは、哺乳動物において生じる。哺乳動物は、例えば、ヒトおよび他の霊長類、ならびにイヌおよびネコ等のペットまたはコンパニオンアニマル、ラット、マウスおよびウサギ等の実験動物、ならびにウマ、ブタ、ヒツジおよびウシ等の農業動物を含む。
【0351】
治療以外の用途
本開示の抗体は、標的用の親和性精製薬剤として、または標的タンパク質の診断アッセイ、例えば、特定の細胞、組織もしくは血清における発現の検出において使用されてもよい。抗体はまた、in vivo診断アッセイに使用されてもよい。一般に、これらの目的において、抗体は、免疫シンチグラフィーを使用して抗体が特定され得るように、放射性核種(例えば、
111In、
99Tc、
14C、
131I、
125I、
3H、
32Pまたは
35S)で標識化される。
【0352】
本開示の抗体は、任意の知られたアッセイ法、例えば競合的結合アッセイ、直接的および間接的サンドイッチアッセイ、例えばELISA、ならびに免疫沈降アッセイにおいて使用され得る。Zola,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,pp.147−158(CRC Press,Inc.1987)。抗体はまた、当該技術分野において知られている方法を使用して組織または細胞試料を標識化するために、免疫組織化学に使用され得る。
【0353】
標的特異的抗体は、全て当該技術分野において周知の技術である、ELISA、RIA、FACS、組織免疫組織化学、ウェスタンブロット、または免疫沈降法を制限なく含む、従来の免疫測定法において使用され得る。本開示の抗体は、ヒトおよび他の哺乳動物における標的を検出するために使用され得る。本開示は、生体試料における標的を検出するための方法であって、生体試料を本開示の標的特異的抗体と接触させることと、結合した抗体を検出することとを含む方法を提供する。一実施形態において、標的特異的抗体は、検出可能な標識で直接標識化される。別の実施形態において、標的特異的抗体(第1の抗体)は標識化されず、標的特異的抗体に結合し得る第2の抗体または他の分子は標識化される。当業者には周知であるように、第1の抗体の特定の種およびクラスに特異的に結合することができる第2の抗体が選択される。例えば、標的特異的抗体がヒトIgGである場合、第2の抗体は抗ヒトIgGであってもよい。抗体に結合し得る他の分子は、タンパク質Aおよびタンパク質Gを制限なく含み、それらは両方とも、例えばPierce Chemical Co.から市販されている。
【0354】
上に開示される免疫測定法は、多くの目的で使用されることが企図される。例えば、標的特異的抗体は、細胞培養物中の細胞内もしくは細胞表面上の標的、または組織培養培地中に分泌される標的を検出するために使用され得る。標的特異的抗体は、様々な化合物で処理された細胞表面上の標的または組織培養培地中に分泌された標的の量を決定するために使用され得る。この方法は、標的発現または分泌を阻害または活性化するのに有用な化合物を特定するために使用され得る。この方法によれば、細胞の1つの試料が試験化合物で一定期間処理され、一方別の試料が未処理とされる。標的の全レベルが測定される場合、細胞が溶解され、上述の免疫測定法の1つを使用して全標的レベルが測定される。未処理細胞に対する処理細胞における標的の全レベルが比較され、試験化合物の効果が決定される。
【0355】
標識
いくつかの実施形態において、抗体物質は、その検出を促進するために標識化される。「標識」または「検出可能部分」は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的、または他の物理的手段により検出可能な組成物である。例えば、本開示における使用に好適な標識は、放射性標識(例えば、32P)、フルオロフォア(例えば、フルオレセイン)、電子密度の高い試薬、酵素(例えば、ELISAで一般的に使用されるようなもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン、またはハプテン、ならびに、例えばハプテンもしくはペプチドに放射性標識を組み込むことによって検出可能にすることができるか、またはハプテンもしくはペプチドと特異的に反応する抗体を検出するために使用可能なタンパク質を含む。
【0356】
本発明における使用に好適な標識の例には、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミンなど)、放射性標識(例えば、
3H、
125I、
35S、
14C、または
32P)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、およびELISAで一般的に使用される他の酵素)、および比色標識、例えばコロイド金、着色ガラス、またはプラスチックビーズ(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)が含まれるが、これらに限定されない。
【0357】
標識は、当分野で周知の方法によるアッセイの所望の成分に直接的または間接的に結合させてよい。好ましくは、一実施形態における標識は、本開示による作用物質のコンジュゲート化のためのイソシアネート試薬を用いてバイオポリマーに共有結合させてもよい。本開示の一態様では、本開示の二官能性イソシアネート試薬を使用して、標識をバイオポリマーとコンジュゲートして、作用物質をそれに結合させずに、標識バイオポリマーコンジュゲートを形成することができる。標識バイオポリマーコンジュゲートは、本開示による標識されたコンジュゲートの合成のための中間体として使用してもよく、あるいはバイオポリマーコンジュゲートを検出するのに使用してもよい。前述のように、多種多様な標識を使用することができ、この標識の選択は、要求される感度、アッセイの所望の成分とのコンジュゲート化の容易性、安定性要件、利用可能な器具、および廃棄設備に依存する。非放射性標識は、間接的手段によって結合されることが多い。一般に、リガンド分子(例えば、ビオチン)が、その分子に共有結合される。次にそのリガンドを本質的に検出可能であるか、または例えば検出可能な酵素、蛍光化合物、もしくは化学発光化合物などのシグナル系に共有結合した別の分子(例えば、ストレプトアビジン)分子に結合する。
【0358】
また、本開示の化合物は、例えば、酵素またはフルオロフォアとのコンジュゲート化により、シグナル生成化合物と直接コンジュゲートされ得る。標識としての使用に好適な酵素は、加水分解酵素、特にホスファターゼ、エステラーゼおよびグリコシダーゼ、またはオキシドターゼ、特にペルオキシダーゼを含むが、これらに限定されない。標識としての使用に好適な蛍光化合物、すなわちフルオロフォアは、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン等を含むが、これらに限定されない。好適なフルオロフォアのさらなる例は、エオシン、TRITC−アミン、キニン、フルオレセインW、アクリジンイエロー、リサミンローダミン、Bスルホニルクロリドエリスロセイン、ルテニウム(トリス、ビピリジニウム)、テキサスレッド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド等を含むが、これらに限定されない。標識としての使用に好適な化学発光化合物は、ルシフェリンおよび2,3−ジヒドロフタラジンジオン、例えばルミノールを含むが、これらに限定されない。本開示の方法において使用することができる様々な標識化またはシグナル生成系の考察に関しては、米国特許第4,391,904号を参照されたい。
【0359】
標識を検出するための手段は、当業者に周知である。したがって、例えば、標識が放射性である場合、検出のための手段には、シンチレーションカウンターまたはオートラジオグラフィーで使用する写真フィルムが含まれる。標識が蛍光標識である場合、適切な波長の光で蛍光色素を励起し、その結果生じた蛍光を検出することによって、この標識を検出することができる。蛍光は、視覚的に、あるいは電子検出装置、例えば電荷結合素子(CCD)または光電子増倍管などの使用などによって検出することができる。同様に、酵素標識は、その酵素に適切な基質を提供し、その結果生じた反応生成物を検出することによって検出することができる。比色標識または化学発光標識は、単に標識に関連する色を観察することによって検出することができる。本開示の方法における使用に好適な他の標識および検出系は、当業者に容易に認識されるであろう。このような標識されたモジュレーターおよびリガンドは、疾患または健康状態の診断に使用することができる。
【0360】
薬学的組成物の製剤化
本開示の抗体物質をヒトまたは試験動物に投与するには、抗体物質を、1つ以上の薬学的に許容される担体を含む組成物として製剤化することが好ましい。「薬学的または薬理学的に許容される」という語句は、後述のように当該技術分野において周知の経路を使用して投与された場合に、アレルギーまたは他の有害反応を生成しない分子的実体および組成物を指す。「薬学的に許容される担体」は、ありとあらゆる臨床的に有用な溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤等を含む。
【0361】
さらに、化合物は、水または一般的な有機溶媒と溶媒和物を形成し得る。そのような溶媒和物も同様に企図される。
【0362】
抗体は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、および鼻腔内、ならびに、局所処置に望ましい場合は病巣内投与を含む、任意の好適な手段により投与される。非経口注入は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮内または皮下投与を含む。さらに、抗体は、パルス注入により、特に抗体の用量を減少させて好適に投与される。好ましくは、投薬は、投与が短時間であるか持続的であるかにある程度依存して、注射により、最も好ましくは静脈内または皮下注射により与えられる。局所的、特に経皮、経粘膜、経直腸、経口、または例えば所望の部位近くに留置されたカテーテルによる局所投与を含む他の投与方法が企図される。注射、特に静脈内注射が好ましい。
【0363】
活性成分として本開示の抗体物質を含有する本開示の薬学的組成物は、投与経路に依存して薬学的に許容される担体または添加剤を含有してもよい。そのような担体または添加剤の例は、水、薬学的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリルナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアガム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、薬学的に許容される界面活性剤等を含む。使用される添加剤は、これに限定されないが、本開示の投薬形態に依存して、適宜に上記またはそれらの組み合わせから選択される。
【0364】
薬学的組成物の製剤は、選択される投与経路により変動する(例えば、溶液、エマルジョン)。投与されるべき抗体を含む適切な組成物は、生理学的に許容されるビヒクルまたは担体中で調製され得る。溶液またはエマルジョンの場合、好適な担体は、例えば、生理食塩水および緩衝媒体を含む、水性またはアルコール/水性の溶液、エマルジョンまたは懸濁液を含む。非経口ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロース(Ringer’s dextrose)、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液、または不揮発性油を含む。静脈内ビヒクルは、様々な添加剤、保存料、または流体、栄養物もしくは電解質補給物を含み得る。
【0365】
様々な水性担体、例えば無菌リン酸緩衝生理食塩水、滅菌蒸留水、水、緩衝水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン等があり、穏やかな化学改変等に供される、向上した安定性のための他のタンパク質、例えばアルブミン、リポタンパク質、グロブリン等を含んでもよい。
【0366】
抗体の治療製剤は、所望の純度を有する抗体を、随意の生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で保存用に調製される(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用される用量および濃度において被投与者に非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシン;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む、単糖類、二糖類、および他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール等の糖;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);ならびに/または非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0367】
また、本明細書における製剤は、治療される特定の適応症に対して、必要に応じて2種以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有してもよい。そのような分子は、好適には、意図される目的に効果的な量で組み合わされて存在する。
【0368】
また、活性成分は、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョン中の、例えば液滴形成技術または界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル内に捕捉されてもよい。そのような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0369】
in vivo投与に使用される製剤は、無菌でなければならない。これは、無菌濾過膜を通した濾過により容易に達成される。
【0370】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に好適な賦形剤と混合された活性化合物を含有してもよい。そのような賦形剤は、懸濁化剤、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアカシアガムであり;分散または湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、例えばレシチン、またはアルキレンオキシドの脂肪酸との縮合生成物、例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪酸アルコールとの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから得られる部分エステルとの縮合物、例えばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から得られる部分エステルとの縮合生成物、例えばモノオレイン酸ポリエチレンソルビタンであってもよい。また、水性懸濁液は、1種以上の保存料、例えばエチル、またはn−プロピル、p−ヒドロキシベンゾエートを含有してもよい。
【0371】
本開示の抗体は、保存用に凍結乾燥され、使用前に好適な担体中で再構成され得る。この技術は、従来の免疫グロブリンとともに効果的であることが示されている。任意の好適な凍結乾燥および再構成技術を使用することができる。凍結乾燥および再構成は、様々な程度の抗体活性損失をもたらす可能性があること、また使用レベルを調節してそれを補うことができることが、当業者には理解される。
【0372】
水の添加による水性懸濁液の調製に好適な分散性粉末および顆粒は、分散または湿潤剤、懸濁化剤および1つ以上の保存料と混合された活性化合物を提供する。好適な分散または湿潤剤および懸濁化剤は、すでに上述されたものにより例示される。
【0373】
これらの製剤中の抗体の濃度は、例えば約0.5%未満、通常は少なくとも約1%から、15または20重量%程度の高い濃度まで広く変動することができ、選択される特定の投与形態に従い、主に流体体積、粘度等に基づいて選択される。したがって、非経口注射用の典型的な薬学的組成物は、1mlの滅菌緩衝水および50mgの抗体を含有するように作製され得る。静脈内注入用の典型的な組成物は、250mlの滅菌リンゲル液および150mgの抗体を含有するように作製され得る。非経口投与可能な組成物を調製するための実際の方法は、当業者に周知である、または明白であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Science,15th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(1980)により詳細に説明されている。抗体の効果的な用量は、投与当たり、体重1kg当たり0.01mgから1000mgの範囲内である。
【0374】
薬学的組成物は、滅菌注射用水性、油性懸濁液、分散液、または、滅菌注射液もしくは分散液の即時調製用の滅菌粉末の形態であってもよい。懸濁液は、既知の技術に従い、上述した好適な分散または湿潤剤、および懸濁化剤を使用して製剤化され得る。また、滅菌注射用調合薬は、例えば1,3−ブタンジオール中溶液等の、非毒性の非経口用として許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液であってもよい。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)、それらの好適な組み合わせ、植物油、リンゲル液および等張食塩水を含む、溶媒または分散媒であってもよい。さらに、溶媒または懸濁化媒体として、従来から滅菌不揮発性油が使用される。この目的のために、合成モノ−またはジ−グリセリドを含む任意の低刺激性の不揮発性油を使用することができる。また、オレイン酸等の脂肪酸が、注射製剤の調製に使用される。
【0375】
あらゆる場合において、形態は無菌でなければならず、容易な注射可能性(syringability)が存在する程度に流動的でなければならない。例えばレシチン等のコーティングを使用することにより、分散の場合は必要な粒径を維持することにより、および界面活性剤の使用により、適正な流動性を維持することができる。これは製造および保管条件において安定でなければならず、細菌や真菌等の微生物の汚染作用に対し保護されなければならない。微生物の活動の防止は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によりもたらすことができる。多くの場合において、等張剤、例えば砂糖または塩化ナトリウムを含めることが望ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤の組成物、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン中での使用によりもたらすことができる。
【0376】
投与に有用な組成物は、その有効性を増加させるために、取り込みまたは吸収促進剤とともに製剤化されてもよい。そのような促進剤は、例えば、サリチレート、グリココレート/リノレエート、グリコレート、アプロチニン、バシトラシン、SDS、カプレート等を含む。例えば、Fix(J.Pharm.Sci.,85:1282−1285(1996))およびOliyai and Stella(Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.,32:521−544(1993))を参照されたい。
【0377】
抗体組成物は、標的の同種受容体またはリガンドへの結合、標的媒介シグナル伝達等を含む標的活性を阻害するための使用に企図される。具体的には、組成物は、実質的に副作用のない濃度で阻害特性を示し、したがって広範な処置プロトコルに有用である。例えば、抗体組成物の別のより有毒な細胞傷害性薬との共投与は、患者における有毒な副作用を効果的に低減しながら、処置されている状態または疾患の有益な阻害を達成することができる。
【0378】
さらに、本開示における使用に企図される組成物の親水性および疎水性の特性は良好にバランスがとられ、それによりin vitroおよび特にin vivoでの使用の両方における実用性が向上するが、そのようなバランスを欠いた他の組成物は、実質的により実用性が低い。具体的には、本開示における使用に企図される組成物は、体内での吸収およびバイオアベイラビリティを可能とする水性媒体に対する適度の溶解性を有する一方で、化合物が想定作用部位に向けて細胞膜を横断することを可能にする、脂質に対するある程度の溶解性も有する。したがって、企図される抗体組成物は、標的抗原活性の部位に送達することができれば最大限に効果的となる。
【0379】
投与および投薬
一態様において、本開示の方法は、薬学的組成物を投与するステップを含む。ある特定の実施形態において、薬学的組成物は、無菌組成物である。
【0380】
本開示の方法は、限定されないが、注射、経口摂取、鼻腔内、局所的、経皮、非経口、吸入スプレー、膣内または直腸内投与を含む、治療薬を直接的または間接的に哺乳動物対象に導入するための医学的に許容される手段を使用して実行することができる。非経口という用語は、本明細書において使用する際、皮下、静脈内、筋肉内、および嚢内注射、ならびにカテーテルまたは注入技術を含む。皮内、乳房内、腹腔内、くも膜下、眼球後方、肺内注射および/または特定部位への外科的移植による投与もまた企図される。
【0381】
一実施形態において、投与は、部位への直接注射により、または製剤を体内で送達し得る持続送達もしくは持続放出メカニズムにより、治療を必要とする癌、線維症または罹患組織の部位に行われる。例えば、組成物(例えば、可溶性ポリペプチド、抗体、または小分子)の持続送達が可能な生分解性ミクロスフェアもしくはカプセルまたは他の生分解性ポリマー構成を、癌、線維症または罹患組織もしくは器官の部位に、またはその近くに移植される本開示の製剤に含めることができる。
【0382】
また、治療組成物は、複数の部位で患者に送達され得る。複数投与は、同時になされてもよく、または、ある期間にわたり投与されてもよい。ある特定の場合において、治療組成物の連続流を提供することが有益である。追加的な治療薬が、定期的に、例えば毎時間、毎日、毎週、2週間毎、3週間毎、毎月、またはそれより長い間隔で投与されてもよい。
【0383】
また、本開示において、複数の薬剤、例えば、限定されないが、化学療法薬または線維症の処置に有用な薬剤を含む本明細書に記載の第2の薬剤と併せた抗体組成物の投与が企図される。
【0384】
所与の用量における抗体組成物の量は、治療が施されている個体のサイズ、および治療されている障害の特性により変動し得る。例示的な治療において、約1mg/日、5mg/日、10mg/日、20mg/日、50mg/日、75mg/日、100mg/日、150mg/日、200mg/日、250mg/日、500mg/日または1000mg/日を投与することが必要となり得る。これらの濃度は、単回投薬形態として、または複数回投薬として投与され得る。まず動物モデル、次いで臨床試験における標準的な用量反応試験により、特定の疾患状態および患者集団に対する最適用量が明らかになる。
【0385】
また、従来の治療薬が本開示の治療薬と組み合わせて投与される場合、投薬は修正され得ることが明らかである。
【0386】
キット
追加的態様として、本開示は、本開示の方法を実践するためのその使用を促進する様式でパッケージされた、1つ以上の化合物または組成物を備えるキットを含む。一実施形態において、そのようなキットは、密閉された瓶または槽等の容器内にパッケージされた、本明細書に記載の化合物または組成物(例えば、標的特異的抗体を単独で、または第2の薬剤と組み合わせて含む組成物)を含み、本方法の実践における化合物または組成物の使用を説明するラベルが、容器に貼付されているかまたはパッケージ内に含まれる。好ましくは、化合物または組成物は、単位剤形でパッケージされる。キットは、特定の投与経路による組成物の投与、またはスクリーニングアッセイの実践に好適なデバイスをさらに含んでもよい。好ましくは、キットは、抗体組成物の使用を説明するラベルを含む。
【0387】
本開示の追加的態様および詳細は、限定ではなく例示を意図する以下の実施例から明らかとなる。
【実施例】
【0388】
実施例1.抗体ファージディスプレイライブラリからの抗TGFβ抗体の単離
ヒトTGFβの活性を中和することができる抗体のパネルを単離するために、TGFβタンパク質の3つのアイソフォーム、すなわちTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3を、後述のようなヒト抗体ファージディスプレイライブラリのパニングに使用した。
【0389】
パニング:
まず、TGFβ抗原(PeproTech、Rocky Hill、NJ #100−21、100−35B、100−36E)を、製造者のプロトコルを使用して、NHS−PEG4−ビオチン(Pierce、Rockford、IL)によるビオチニル化により調製した。簡潔に述べると、低pH緩衝液中で保存されたTGFβ抗原を、20×PBSを添加してpHを約6.0にすることにより中和した。30倍モル過剰の上記の事前に活性化されたビオチンを添加および混合し、次いで室温で20分間保持した。次いで、等体積の10mMグリシン(pH3.0)を添加し、試料を、即座に、10mMクエン酸緩衝液(pH3.5)に対する6〜8kDaカットオフ透析ユニットを使用した透析に供した。Fabファージディスプレイライブラリ(XOMA、Berkeley、CA)を、可溶性パニング法を用いてビオチニル化TGFβでパニングした。3回の選択ラウンドで各TGFβアイソフォームを別個にパニングした。カッパおよびラムダサブライブラリを別個にパニングした。
【0390】
ファージパニングの第1のラウンドにおいて、50×ライブラリ当量(約2×10
12cfu)のライブラリを、氷上で1時間、1mLの5%ミルク/PBS中でブロックした。ブロックされたファージをストレプトアビジン被覆磁性DYNABEADS(登録商標)M−280に添加し、回転させながら30分間インキュベートすることにより、ストレプトアビジンへの結合剤を、ブロックされたファージから除外した。除外ステップをもう一度繰り返した。磁石を使用して、ファージからビーズを分離した。除外ステップと同時に、回転させながら室温で30分間インキュベートすることにより、200pモルのビオチニル化TGFβをストレプトアビジン被覆磁性DYNABEADS(登録商標)M−280に結合させた。結合後、5%ミルク−PBSでビオチニル化TGFβビーズを2回洗浄した。除外されたファージを、磁性ストレプトアビジンビーズに結合したビオチニル化TGFβに添加し、回転させながら1.5から2時間インキュベートすることにより、選択を行った。選択後、ビーズを迅速にPBS−0.1%TWEENで3回洗浄し、続いて迅速にPBSでさらに3回洗浄するようにプログラムされたKingfisher磁性粒子プロセッサ(Thermo Scientific)を使用して、未結合ファージをビーズから洗浄した。洗浄ステップの後に、100mMトリエチルアミンを添加し、回転させながら室温で30分間インキュベートすることにより、結合ファージをビーズから溶出した。溶出したファージを、等体積の1M Tris−HCl(pH7.4)の添加により中和した。次いで、溶出した中和ファージを50mLのFalcon管(Falcon No 352070)に収集し、対数増殖TG1細菌細胞に感染させるために使用した(OD
600 約0.5)。感染は、振盪なしで37℃で30分間行い、続いて90rpmで振盪しながら37℃でさらに30分間インキュベートした。細胞を、100μg/mLカルベニシリンおよび2%グルコースを添加した2YT培地(2YTCG)の寒天バイオアッセイプレート上に播種し、30℃で一晩インキュベートして、一晩菌叢増殖させた。
【0391】
次のラウンドへの投入物としての使用に備えて、前のラウンドの生成物の100×をMK07ヘルパーファージを使用した重感染によりレスキューした。これは、2YTCG培地を、前のパニングラウンド生成物から擦り落とした細胞で接種することにより行った。出発培養物に対してOD
600nmを測定し、約0.05の出発OD
600nmを反映するように調節した。細胞がOD
600nm約0.5の対数増殖相に達するまで、細胞を振盪しながら37℃で増殖させた。細胞を、振盪なしで37℃で30分間、感染効率(MOI)=約20でMK07(New England Biolabs、MA)に感染させ、続いて150rpmで振盪しながら37℃で30分間さらにインキュベートした。37℃での感染後、細胞をペレット化して、50μg/mLカナマイシンおよび100μg/mLカルベニシリンを添加した新たな2YT培地(2YTCK)に移した。培養物を25℃で一晩増殖させた。遠心分離により細胞および残屑からファージを分離し、得られた上清を回収して、次のパニングラウンドへの投入物として使用した。各パニングラウンドに使用した投入物の量および得られたファージ生成物の滴定量により、選択濃縮を監視した。
【0392】
第2および第3のパニングラウンドにおいて、以下を除いてラウンド1で従った同じ溶液相プロトコルを使用した。パニングラウンド2および3において使用したファージ投入量は、約1.0×10
11cfuであった。ラウンド2では、100pモルのビオチニル化抗原を選択に使用し、ラウンド3では、50pモルのビオチニル化抗原を使用した。Kingfisherを使用して、選択後のビーズから未結合ファージを洗浄した。ラウンド2では、ビーズをPBS−0.1%TWEENで2分間、3回洗浄し、続いて1ml PBSで2分間、3回洗浄を繰り返すようにKingfisherをプログラムした。ラウンド3パニングでは、ビーズをPBS−0.1%TWEENで6分間、3回洗浄し、続いてPBSによる2回の4分間洗浄および1回の6分間洗浄を行った。
【0393】
TGFβ結合剤のスクリーニングにおける使用のための分泌抗体断片を含有する細菌ペリプラズム抽出物を、標準的方法により調製した。個々のコロニーを、100μg/mLカルベニシリンおよび0.1%グルコースを添加した2YTC培地で満たした96ウェルプレートに採取した。対数増殖相(OD
600nm=0.5)に達するまで、培養物を振盪しながら37℃で増殖させた。次いで、1mM IPTG(最終)を添加することにより、可溶性断片抗体を産生するようにコロニーを誘導し、振盪しながら25℃で一晩インキュベートした。1:3体積比の氷冷PPB溶液(Teknova、Hollister、CA)および完全EDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル錠を含む再蒸留水(ddH
2O)を添加する標準的方法を用いて、可溶性断片抗体を含有するペリプラズム抽出物(PPE)を、誘導した細胞から調製した。次いで、PPEをTGF−β結合剤のスクリーニングに使用した。
【0394】
スクリーニング:
3つ全てのTGFβアイソフォームに結合するクローンを含み、それらの配列において一意的である、TGFβに結合するクローンを特定するために、2つの代替的スクリーニングアッセイ形式を使用した。第1のスクリーニングアッセイは、プレートベースの免疫アッセイを使用し、他方のスクリーニングアッセイは、SPRスクリーニング法を用いて行われた。プレートベースのアッセイは、不透明384ウェル白色EIAプレートを、1μg/mLの抗His抗体クローンAD.1.10(R&D Systems、Minneapolis、MN)で、PBS緩衝液中1μg/mLで、室温で4時間コーティングすることを含んだ。次いで、プレートを3回PBS−TWEEN中で洗浄し、次いで、PBS−TWEEN中0.5%BSAで、室温で1時間ブロックした。次に、30μL/ウェルのビオチニル化TGFβを、TGFβ1およびTGFβ2に対しては0.1μg/mL、ならびにTGFβ3に対しては0.2μg/mL(ブロック緩衝液中で希釈)の間で添加した。次いで、30μLのペリプラズム抽出物を添加し、穏やかなプレート振盪器上で、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBS−TWEEN中で3回洗浄し、次いで、DELFIAアッセイ希釈緩衝液(PerkinElmer)中で希釈された50μL/ウェルの2.5μg/mLストレプトアビジン−ユーロピウム(SA−Eu、PerkinElmer)を各ウェルに添加し、振盪器上で室温で30分間インキュベートした。プレートをPBS−TWEENで7回洗浄し、50μL/ウェルのDELFIA促進試薬(PerkinElmer)を添加し、室温で8分間振盪器上に置き、次いで、Molecular Devices FlexStation 3プレートリーダで、200〜1200μs収集時間、ならびにExc.=345nm、Emm.=618nm、およびカットオフ=590nm、High PMT設定、20読出し/ウェルのTRFモードで読み出した。陰性PPE対照シグナルよりも2.1倍超高いシグナルを有する試料を、陽性とみなした。
【0395】
SPRアッセイを、BIACORE A100直接結合アッセイにより行った。このアッセイにおいて、BIACORE Amine Couplingキット(GE Healthcare、Piscataway、NJ)を使用した標準アミン結合化学により、CM5 BIACOREチップを調製した。TGFβ抗原をアセタート(pH4.0)中6μg/mLに希釈し、7分間(TGFβ1であるスポット1)ならびに10分間(TGFβ2およびTGFβ3であるスポット2および4)注入した。これは、3400から4800RUの間の各TGFβ抗原を固定化する。1Mエタノールアミンで試料を不活性化した。2mg/mL BSAを含むHBS−EP+(Teknova)でペリプラズム抽出物を1:1に希釈し、0.2uM Millex GVフィルタプレート(Millipore)を通して濾過し、次いで、30μL/分で240秒間(30秒の解離)注入した。各PPE注入後の再生は、10秒の100mM HClであった。BIACORE A100ソフトウェアにおける安定性初期報告ポイントを使用して、PPE結合レベルを評価した。各TGFβアイソフォームに対して、バックグラウンドレベルを視覚的に超えるものとして、独立してカットオフレベルを決定した。RUカットオフは、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に対して、それぞれ245、175、および125であった。
【0396】
親和性成熟:
TGFβ3と比較して、TGFβ1およびTGFβ2に対し大幅に高い結合および中和活性を有する1つの抗体XPA.42.068を、TGFβ3に対するその親和性および有効性を増加させるために親和性成熟に供した。親和性成熟から生成された配列変異体のライブラリを、TGFβ2およびTGFβ3を使用してパニングし、生成クローンを主に改善されたTGFβ3結合に関してスクリーニングした。
【0397】
スクリーニングのために、SPRアッセイを、BIACORE A100直接結合アッセイにより行った。このアッセイにおいて、BIACORE Amine Couplingキットを使用した標準アミン結合化学により、CM5 BIACOREチップを調製した。TGFβ抗原をアセテート(pH4.0)中1μg/mLに希釈し、5分間(それぞれTGFβ3およびTGFβ1であるスポット1および5)ならびに8分間(TGFβ2であるスポット2)注入した。これは、200から450RUの間の各TGFβを固定化する。1Mエタノールアミンで試料を不活性化した。2mg/mL BSAを含むHBS−EP+でペリプラズム抽出物を1:1に希釈し、0.2uM Millex GVフィルタプレート(Millipore)を通して濾過し、次いで、30μL/分で240秒間(600秒の解離)注入した。各PPE注入後の再生は、10秒の100mM HClであった。参照を差し引いたデータをプロットし、より大きな安定性またはより高い結合レベルを有すると思われるクローンについて視覚的に検査した。TGFβ3への結合の向上を示したXPA.42.681と指定される1つの誘導体クローンを、さらなる特性決定試験に含めた。
【0398】
選択されたクローンを、IgG2抗体として再編成した。後述の試験を含むさらなる特性決定用の材料を生成するための標準的方法を使用して、選択されたFab断片の可変重鎖(VH)および軽鎖(VL)をPCR増幅し、抗体定常領域配列を含有するプラスミドベクターにクローニングし、一時的に293E細胞にトランスフェクトした。
【0399】
実施例2.TGFβ抗体の結合親和性の測定
表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用して、TGFβアイソフォームTGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3に対して、その結合親和性(KD)、オフ速度(kd)およびオン速度(ka)について抗体を特性決定した。分析は、2つの方法を用いて行った。1つの方法は、TGFβタンパク質が低密度で表面に固定され、抗体が反応速度分析のために複数の濃度で注入される抗原直接固定化法であった。他方の方法は、様々な濃度の注入TGFβタンパク質の注入を使用した固定化抗体法であった。
【0400】
固定化抗体反応速度法:
CM4センサチップ(GE Healthcare)を、BIACORE 2000システム(GE Healthcare)で使用した。固定化の前に、それぞれ100mM HCl、グリシン(pH2.0)、50mM NaOH、および流通緩衝液の50μL/分の流速で2回の30秒注入でチップを事前に調整した。固定化のための流通緩衝液は、10mM Hepes、150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、および0.05%ポリソルベート20(Teknova)を含むHEPES緩衝生理食塩水(HBS−EP+)であった。0.1M N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および0.4M 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)の新たに混合した1:1溶液の10μL/分での7分注入により、チップ表面を活性化した。活性化注入の後、アセテート(pH4.5)中1μg/mLの抗TGFβ抗体を、10μL/分で1分間注入し、注入は120RUを目標とした。1Mエタノールアミン塩酸塩−NaOH(pH8.5)を8分注入して表面をブロックした。使用したNHS、EDC、およびエタノールアミンは、BIACORE Amine Coupling Kitからのものであった。
【0401】
完全に脱気した形態の、1mg/mL BSA(Sigma Aldrich、St.Louis MO)を添加した上記HBS−EP+緩衝液の流通緩衝液を使用して、反応速度分析を行った。TGFβ試料注入は、50μL/分で4分間(900秒の解離時間)行った。各TGFβタンパク質(TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3)を、10nM、2nM、0.4nM、0.08nM(5倍連続希釈の350ng/mL)で注入し、各濃度シリーズおよび4回の注入の間にブランクを注入した。次いで、それぞれ3M MgCl
2中の100mM HClの30秒の3回の注入、続いて最終的な30秒のブランク緩衝液注入を行って再生を行った。
【0402】
Scrubber2(BioLogic Software、Campbell Australia)を使用してデータを分析し、ブランクフローセルデータおよび平均化した間のブランク注射の両方を差し引くことにより、二重参照した。(KD)をオフ速度(kd)およびオン速度(ka)で同時にフィッティングすることによりデータをフィッティングしたが、これを以下の表2に示す。BM−1(1D11、R&D Systems MAB1835)で指定される以前に測定されたコンパレータ抗体のデータもまた表2に含まれている。BM−1データは、BIACORE A100で生成した。簡潔に述べると、BM−1抗体は、高密度ウサギ抗マウスFc CM5チップ表面(GE Healthcare)上で、約100RU密度で捕捉された。TGFβタンパク質は、30μL/分で、上述と同じ濃度で注入した。これらのデータは、二重参照され、BIACORE A100ソフトウェアで分析された。
【0403】
(表2)固定化抗体および注入TGFβを利用したアッセイからの親和性データ
【0404】
固定化抗体を使用したこのアッセイにおいて測定された親和性データは、XPA.42.681が、TGFβの3つのアイソフォームのそれぞれに対する抗体のいずれかの最も強い(最も強固な)結合を有すること、および同様の親和性でTGFβアイソフォームのそれぞれに結合したことを示した。さらに、抗体XPA.42.068およびXPA.42.089は、BM−1 抗体と比較して、TGFβ1およびTGFβ2アイソフォームに対して同様の、またはより強い結合を有したが、BM−1抗体と比較して、またはTGFβ1およびTGFβ2結合と比べて、TGFβ3アイソフォームに対して大幅に弱い結合を示した。
【0405】
固定化TGFβ親和性方法:
平面−COOH表面を有するCM1センサチップ(GE Healthcare)を、BIACORE 2000システムで使用した。固定化の前に、それぞれ100mM HCl、グリシン(pH2.0)、50mM NaOH、1% SDS、および流通緩衝液の50μL/分の流速で2回の30秒注入でチップを事前に調整した。固定化のための流通緩衝液は、10mM Hepes、150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、および0.05%ポリソルベート20を含むHEPES緩衝生理食塩水(HBS−EP+)であった。0.1M N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および0.4M 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)の新たに混合した1:1溶液の20μL/分での4分注入により、チップ表面を活性化した。活性化注入の後、アセテート(pH4.0)中0.1μg/mLのTGFβの溶液を、20μL/分で数分間注入した。TGFβ1がFc2に、TGFβ2がFc3に、TGFβ3がFc4に固定化され、Fc1が活性化および非活性化ブランクとなるように、各TGFβは独自のフローセルで別個の活性化ステップを利用した。TGFβの注入は、1分から2分の一連の注入として行い、各注入の間の固定化レベルを観察した。各TGFβリガンドの目標固定化密度は、30RUであった。TGFβ固定化注入の後、1Mエタノールアミン塩酸塩−NaOH pH8.5を4分注入して表面をブロックした。使用したNHS、EDC、およびエタノールアミンは、BIACORE Amine Coupling Kitからのものであり、TGFβ1、TGFβ2、およびTGFβ3は、R&D Systemsからのものであった。
【0406】
親和性分析のために、流通緩衝液を、完全に脱気した形態の、1mg/mL BSA(Sigma Aldrich、St.Louis MO)を添加した上記HBS−EP+緩衝液に切り替えた。抗体のそれぞれを、流通緩衝液中で5μg/mL(33.3nM)に希釈し、続けて4回の5倍希釈物を調製し、それぞれ33.33nM、6.67nM、1.33nM、267pM、および53pMの濃度を設定した。次いで、Kinject設定を使用して、これらを50μL/分で4分注入した(900秒の解離時間)。次いで、100mM HClの50μL/分で12μL(14.4秒)の注入、続いて18秒の緩衝液注入で再生を行った。注入は、全てのフローセルにわたり同時に行い、試料を4回注入し、各抗体の減少濃度注入群の各セットの間にブランク注入を行った。これは、同じ試料が2回目に注入される前に、全ての抗体の全ての他の濃度が一度注入されたことを意味する。
【0407】
Scrubber2(BioLogic Software、Campbell Australia)を使用してデータを分析し、ブランクフローセルデータおよび平均化した間のブランク注射の両方を差し引くことにより、二重参照した。(KD)をオフ速度(kd)およびオン速度(ka)で同時にフィッティングすることによりデータをフィッティングしたが、これを以下の表3に示す。
【0408】
(表3)固定化TGFβおよび注入抗体を利用したアッセイからの親和性データ
【0409】
表2からの固定化抗体の結果と一致して、固定化抗原を使用したアッセイにおいて測定された親和性データ(表3)もまた、XPA.42.681が、TGFβアイソフォームのそれぞれに対して同様の親和性で、TGFβの3つのアイソフォームのそれぞれに対する抗体のいずれかの最も強い(最も強固な)結合を有することを示した。さらに、XPA.42.068およびXPA.42.089は、BM−1と比較して、TGFβ1およびTGFβ2アイソフォームに対して同様の、またはより強い結合を有したが、BM−1抗体と比較して、またはTGFβ1結合と比べて、TGFβ3アイソフォームに対して大幅に弱い結合を有した。固定化抗原アッセイに対する固定化抗体を使用して測定された速度定数の差は、系の固有の複雑性に起因する可能性があるが、それにもかかわらず、それぞれ、比較的高品質の反応速度データ、ならびにTGFβアイソフォームにわたる、および抗体間の互いに対する結合特性の一貫性を提供する。
【0410】
実施例3.TGFβ抗体による受容体競合の測定
TGFβ受容体に対する3つのTGFβリガンドのそれぞれの結合を阻害またはブロックする能力に関して、SPR競合アッセイにおいて抗体を特性決定した。TGFβは、セリントレオニンキナーゼ膜貫通タンパク質であって、活性化にはTGFβ受容体1型タンパク質(TGFβ−R1)の細胞質会合を必要とする、TGFβII型受容体(TGFβ−RII)を介してシグナル伝達する。TGFβ−RIのリガンド結合の役割は明らかではなく、TGFβ−RIの組み換え形態は、試験された濃度においては、TGFβ1、TGFβ2もしくはTGFβ3リガンド、またはそれらのリガンドのTGFβ−RII結合形態のいずれに対してもいかなる結合も示さず、したがって受容体競合実験において評価することができなかった。TGFβIII型受容体(TGFβ−RIII)は、膜結合および可溶性形態の両方を有し、TGFβシグナル伝達には関与しないと考えられている。TGFβ−RIIbは、N末端の近くに26アミノ酸挿入を含有し、TGFβアイソフォームの3つ全てに対し良好な親和性で結合する独特の特性を有するスプライス変異体である。TGFβ−RIIは、TGFβ1およびTGFβ3リガンドのみに強固に結合し、TGFβ−RIIIは、TGFβ2リガンドに最も良好に結合する。
【0411】
CM5センサチップ(GE Healthcare)を、BIACORE 2000システムで使用した。固定化の前に、それぞれ100mM HClおよび50mM NaOHの50μL/分の流速で数回の30秒注入でチップを事前に調整した。固定化のための流通緩衝液は、10mM Hepes、150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、および0.05%ポリソルベート20を含むHEPES緩衝生理食塩水(HBS−EP+)であった。0.1M N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および0.4M 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)の新たに混合した1:1溶液の10μL/分での7分注入により、チップ表面を活性化した。活性化注入の後、アセテート(pH4.5)中5μg/mLのTGFβ−RII、TGFβ−RIIb、またはTGFβ−RIII(R&D Systems)を、20μL/分で4分間注入すると、TGFβ受容体のそれぞれに対し1000−4000RUの固定化が得られた。次いで、1Mエタノールアミン塩酸塩−NaOH(pH8.5)を8分注入して表面をブロックした。使用したNHS、EDC、およびエタノールアミンは、BIACORE Amine Coupling Kitからのものであった。Fc1は、活性化および不活性化対照であった。
【0412】
完全に脱気した形態の、1mg/mL BSAを添加した上記HBS−EP+緩衝液の流通緩衝液を使用して、競合アッセイを行った。ブランク対照以外、全ての注入においてTGFβリガンドを100ng/mL(10nM)から40ng/mL(4nM)で使用し、10μg/mL(66.6nM)の競合物および対照抗体を用いて調製した。BIACORE操作を開始する前に、試料を室温で40分間平衡化させた。次いで、平衡化試料を10μL/分で2分間注入した。pH2.5グリシンの50μL/分で9.6秒(8μL)の1回の注入により、サイクル毎に再生を行った。少なくとも2回試料を試験し、結合したTGFβのレベルを分析した。
【0413】
以下の表4に示されるように、抗体XPA.42.068、XPA.42.089、XPA.42.681およびBM−1コンパレータに対する結果は、これらの抗体のそれぞれが、3つ全てのTGFβリガンドのTFGβ−RIIおよびTGFβ−RIII受容体に対する会合をブロックすること、ならびに明確な区別はなされなかったことを示唆している。この受容体競合パターンは、試験された他の抗体の全ての間で普遍的ではないが、そのデータは本開示には示されていない。
【0414】
(表4)受容体競合アッセイEC50(nM抗体)
【0415】
受容体競合におけるXPA.42.068、XPA.42.089、XPA.42.681およびBM−1抗体の有効性は、概して、TGFβの様々なアイソフォームに対するその親和性と相関していた。
【0416】
実施例4.TGFβ抗体間のエピトープ競合の測定
XPA.42.068およびXPA.42.089抗体がTGFβタンパク質上の独立または重複エピトープに結合する能力を評価した。この対分析は、TGFβの異なるアイソフォーム間での抗体の様々な親和性、およびホモ二量体当たり2つのIgGの比での結合(例えば、自己対形成)をもたらすTGFβリガンドの共有結合性ホモ二量体化に起因して単純ではなかったが、可溶性競合ベースアッセイを開発した。
【0417】
CM5センサチップ(GE Healthcare)を、BIACORE 2000システムで使用した。固定化の前に、100mM HClの50μL/分の流速で4回の30秒注入でチップを事前に調整した。固定化のための流通緩衝液は、10mM Hepes、150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、および0.05%ポリソルベート20を含むHEPES緩衝生理食塩水(HBS−EP+)であった。0.1M N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および0.4M 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)の新たに混合した1:1溶液の10μL/分での7分注入により、チップ表面を活性化した。活性化注入の後、アセテート(pH4.5)中1μg/mLの抗体XPA.42.089を、10μL/分で数分間注入した。注入を順次監視して行い、300RUに極めて近い固定化レベルを確立した。1Mエタノールアミン塩酸塩−NaOH(pH8.5)を8分注入して表面をブロックした。使用したNHS、EDC、およびエタノールアミンは、BIACORE Amine Coupling Kitからのものであった。Fc1は、活性化および不活性化対照であった。
【0418】
完全に脱気した形態の、1mg/mL BSAを添加した上記HBS−EP+緩衝液の流通緩衝液を使用して、競合アッセイを行った。ブランク対照以外、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3を全ての注入において0.1μg/mL(4nM)で使用し、20μg/mL(133nM)の競合抗体を用いて調製した。TGFβ−RIIb−Fc組み換え受容体(R&D Systems)もまた、競合物として含めた。BIACORE操作を開始する前に、試料を室温で40分間平衡化させた。次いで、フローセルの全てにわたり、平衡化試料を30μL/分で3分間注入した。50mM NaOHの50μL/分で6秒(5μL)の1回の注入、続いて30秒の緩衝液注入により、サイクル毎に再生を行った。2回試料を試験し、3分の最後に結合したTGFβのレベルを分析した。
【0419】
(表5)結合競合(固定化XPA.42.089)
【0420】
上記表5に示されるように、データは、XPA.42.068およびXPA.42.089が、TGFβアイソフォームのそれぞれの結合に対して互いに強い競合を示したことを示している。値は、複合体の注入中に測定された平均RUまたはTGFβ結合のシグナル強度を表す。これは、複合化抗体が存在する場合シグナルが大きく低減されることを示す。注入中の複合体のいかなる解離も、遊離または一価結合TGFβにXPA.42.089捕捉抗体が結合するのを可能にし得る。TGFβ2とのTGFβ−RIIbの相互作用は、TGFβ1およびTGFβ3タンパク質よりもはるかに弱く、速いオフ速度は、高親和性XPA.42.089に対するTGFβ2の比較的低い競合を可能にすることが示されている。XPA.42.068から得られるXPA.42.681抗体は、競合アッセイにおいて試験しなかった。
【0421】
実施例5.TGFβ抗体によるrhLAP競合の測定
抗体がTGFβの潜在的形態とも相互作用するかどうかを決定するために、更なる競合アッセイを行った。TGFβ前駆タンパク質は、フューリン様転換酵素により、ゴルジ内でN末端249アミノ酸潜在関連ペプチドおよびC末端112アミノ酸成熟TGFβ1に切断される。
【0422】
CM5センサチップ(GE Healthcare)を、BIACORE 2000システムで使用した。固定化の前に、それぞれ100mM HClおよび50mM NaOHの50μL/分の流速で数回の30秒注入でチップを事前に調整した。固定化のための流通緩衝液は、10mM Hepes、150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、および0.05%ポリソルベート20を含むHEPES緩衝生理食塩水(HBS−EP+)であった。0.1M N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および0.4M 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)の新たに混合した1:1溶液の10μL/分での7分注入により、チップ表面を活性化した。活性化注入の後、アセテート(pH4.5)中2μg/mLの組み換えヒトTGFβ1潜在関連ペプチド(rhLAP)(R&D Systems)を、10μL/分で4分間注入すると、rhLAPの400RUの固定化が得られた。1Mエタノールアミン塩酸塩−NaOH(pH8.5)を8分注入して表面をブロックした。Fc1は、活性化および不活性化対照であった。
【0423】
完全に脱気した、1mg/mL BSAを添加した上記HBS−EP+緩衝液の流通緩衝液を使用して、rhLAP競合アッセイを行った。ブランク対照以外、全ての注入においてTGFβ1を0.25μg/mL(10nM)で使用し、10μg/mL(66.6nM)の競合物および対照抗体を用いて調製した。BIACORE操作を開始する前に、試料を室温で40分間平衡化させた。次いで、対照およびrhLAP表面にわたり平衡化試料を40μL/分で2分間注入した。100mM HClの100μL/分で9.6秒(16μL)の2回の注入により、サイクル毎に再生を行った。2回試料を試験し、結合したTGFβ1のレベルを分析した。
【0424】
抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびBM−1コンパレータを、それぞれrhLAP競合アッセイにおいて試験した。XPA.42.068から得られるXPA.42.681抗体は試験しなかった。
図1に示されるように、XPA.42.068、XPA.42.089およびBM−1はそれぞれ、rhLAPとの高レベルの競合を示したが、これは、抗体がTGFβの活性形態と相互作用し、潜在的TGFβを認識しないことを示している。
【0425】
実施例6.HT−2アッセイにおけるTGFβ抗体による中和の測定
抗体がTGFβアイソフォームを機能的に中和するかどうかを決定するために、Ruegemerら(J Immunol.144:1767−76;1990)のアッセイ方法を適合させ、HT−2マウスT細胞を、IL−4とともに、およびTGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3の添加あり、またはなしで増殖させる。TGFβアイソフォームは、細胞周期停止を促進する遺伝子のトランス活性化により、HT−2細胞のIL−4依存性増殖を阻害する。IL−4は、c−mycおよびGM−CSF等の標的を活性化することにより分裂促進遺伝子発現プログラムをトランス活性化し、一方TGFβシグナル伝達は、c−mycおよびGM−CSF発現を抑制する遺伝子をトランス活性化する。抗体を中和することによりTGFβシグナル伝達が無効化されれば、HT−2細胞が増殖する。増殖の差は、ATPを代謝活性細胞の計測値として測定するCELL TITERGLO(登録商標)(Promega #G7571)生存能力アッセイによりスコア化した。
【0426】
HT−2マウスT細胞を、RPMI+10%FBS、10mM Hepes、2mMグルタミン、50μM 2−ME中で、2〜3日毎に1.5e4〜2.5e4細胞/mLで分裂することにより維持した。濃縮ストックから、新鮮な組み換えマウスIL−2(R&D Systems)を200IU/mLで各フラスコに添加した。1日目に、細胞を培地中で洗浄してIL−2を除去し、不透明96ウェルプレートにウェル当たり10,000細胞で2000 IU/ml組み換えマウスIL−4(R&D Systems)で分注した。TGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3(PeproTech #100−21、100−35B、100−36E)を、滴定シリーズにわたり、抗体あり、または抗体なしでの1時間のプレインキュベーション後に添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、製造者の推奨に従い、CELL TITERGLO(登録商標)を使用して、生存細胞集団をMDS Flexstation3でスコア化した。
【0427】
(表6)HT−2細胞中和アッセイ
【0428】
抗体を、まずTGFβ2活性の中和に関して、HT−2アッセイにおける単一10μg/mL希釈点で試験したが、抗体のそれぞれは陽性であり、抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681は、試験された単一点においてBM−1コンパレータ抗体よりも高い有効性を有することが確認された。次いで、TGFβ1およびTGFβ3の中和を決定し、6点希釈シリーズにわたり各抗体のIC50を計算した。この場合も、XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681のそれぞれが、TGFβ1中和に関してBM−1コンパレータよりも高い有効性を示したが、XPA.42.681だけが、より高い有効性のTGFβ3中和を示すことが判明し、したがって、最も有効なTGFβの汎阻害剤であった(表6)。XPA.42.681は、このアッセイにおいて向上した有効性を示し、試験した最も低い濃度でTGFβ1を著しく阻害し、したがって特定のIC50計算は行うことができなかった。
【0429】
実施例7.IL−11放出アッセイにおけるTGFβ抗体による中和の測定
第2の中和アッセイは、肺線維芽細胞および上皮細胞における線維症促進反応の一部である、A549肺癌細胞からのIL−11のTGFβ媒介分泌をスコア化した。TGFβはまた、骨への転移を促進するMDA−MB−231細胞からのIL−11の分泌を媒介する。このアッセイは、線維症および転移疾患に寄与するTGFβ媒介生物学的反応をモデル化する。IL−11放出アッセイは、Rapozaら(J Immunol.Methods 316:18−26;2006)から適合され、A549細胞は、96ウェルプレート内に播種され、翌日、細胞を、中和抗体あり、またはなしでプレインキュベートしたTGFβアイソフォームありまたはなしで処理した。IL−11放出は、ELISAにより細胞培養上清中でスコア化された。
【0430】
このアッセイにおいて、A549細胞をF12+10%血清中で増殖させた。分析の前日、細胞をヴェルセンで剥離し(受容体発現を保持するため)、96ウェル平底プレート内に40,000細胞/ウェルで播種した。翌日、細胞への添加前に、希釈シリーズにわたり、EC80のTGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3を、抗体あり、またはなしで1時間プレインキュベートした。対照として、TGFβのみ、TGFβ+抗KLH−G2対照抗体、または培地のみをプレートに添加した。37℃で24時間後、上清を採取し、製造者の推奨に従い、IL−11 Duo Set ELISAキット(R&D Systems)を使用して、IL−11をELISAによりスコア化した。
【0431】
(表7)IL−11放出アッセイ−IC50(ng/mL)
【0432】
上記表7に示されるように、またHT−2アッセイに類似して、IL−11放出アッセイ結果は、TGFβの3つのアイソフォームのそれぞれに対して、XPA.42.681が抗体のうち最も効果的であることを示した。HT−2アッセイとは対照的に、XPA.42.681抗体は、IL−11放出に対して用量依存的な効果を示し、これがIC50決定を可能にし、また各TGFβアイソフォームに対し概して類似したIC50を明確に示した。また、抗体XPA.42.068およびXPA.42.089は、TGFβ1およびTGFβ2アイソフォームの良好な中和を示した(BM−1コンパレータよりも有効)が、BM−1抗体と比較して、またはTGFβ1およびTGFβ2の中和と比べて、TGFβ3の中和は大幅に低かった。
【0433】
実施例8.pSMAD2アッセイにおけるTGFβ抗体による中和の測定
抗体をさらに特性決定するために、ホスホ−SMAD2(pSMAD2)アッセイを開発し、TGFβRII/TGFβRI受容体複合体を介したTGFβシグナル伝達の中和をスコア化した。Detroit 562細胞をIMDM+10%FBS中に維持した。細胞をヴェルセンで剥離し、6ウェル皿内にウェル当たり500,000細胞で播種した。翌日、細胞を無血清IMDM中で3時間血清飢餓状態としてから、抗体あり、またはなしで1時間プレインキュベートしたTGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3に30分暴露した。37℃で30分後、細胞を溶解し、検出のための製造者の推奨に従い、市販のキット(Cell Signaling Technology、Danvers、MA)を使用して、pSMAD2および全SMAD2をELISAによりスコア化した。pSMAD2のパーセンテージを全SMAD2に正規化し、抗KLH対照に対する正規化%pSMAD2から、各クローンに対してパーセント阻害を計算した(
図2)。T検定(両側)は、XPA.42.681抗体が、全てのTGFβアイソフォームにわたり、pSMADシグナル伝達の中和において、BM−1コンパレータ抗体よりも有意に有効であることを示した(p<0.05)。さらに、XPA.42.068は、BM−1コンパレータと比べてTGFβ2に対して有意に有効であった。
【0434】
実施例9.調節性T細胞アッセイにおけるTGFβ抗体活性の測定
内因性TGFβに対する抗体の活性を特性決定するために、Tranら(Blood 110:2983−2990;2007)と同様の方法に基づき調節性T(Treg)細胞アッセイを確立した。EasySep T細胞濃縮キット(StemCell Technologies、Vancouver、BC)を使用して、ヒトPBMCの凍結バイアルからT細胞を単離した。プレート結合抗ヒトCD3抗体(eBioscience、San Diego、CA)を10μg/mLで、および可溶性抗ヒトCD28抗体(eBioscience)を2μg/mLで用いて、T細胞を活性化した。また、細胞を、同時に15μg/mLのTGFβ抗体または対照で処理した。4日後、細胞を、4℃で30分間、抗ヒトCD4−FITC(BD Biosciences)および抗ヒトCD25−A647(BioLegend、San Diego、CA)で染色した。細胞を室温で20分間FOXP3固定緩衝液(BioLegend)で固定し、室温で15分間FOXP3透過処理緩衝液(BioLegend)で透過処理した。細胞を、1:25希釈の抗ヒトFOXP3−PE(BioLegend)で染色し、BD FACSCanto(商標)システムで分析した。CD4+細胞をゲートし、CD4+CD25+Foxp3+亜集団をFlowjoソフトウェアで定量化した。このアッセイにおいて、4つまたは5つの異なるPBMCドナーを使用して抗体を評価したが、2つのドナーからの代表的なデータを示す(
図3)。
【0435】
細胞集団におけるドナー依存的差異に起因して、活性の幅が見られたが、概して、XPA.42.681およびBM−1コンパレータ抗体は、Treg細胞集団を阻害し、一方でXPA.42.068およびXPA.42.089抗体は、このアッセイにおいて部分活性を提供した。
【0436】
実施例10.EMTアッセイにおけるTGFβ抗体活性の測定
上皮間葉移行(EMT)は、腫瘍細胞の自己再生を可能にし、癌の浸潤および転移を促進する。EMTの誘発は、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3を含むサイトカインにより誘導され、3つ全てのアイソフォームは、組織型に依存してEMTにおいて順次に関与し得る(Boyer et al.,Dev.Biol.208:530−545,1999;Bhowmick et al.,Mol.Biol.Cell 12:27−36,2001;Camenisch et al.,Dev.Biol.248:170−181,2002)。EMTアッセイを、Maniら(Cell 133:704−715;2008)と同様に、抗体がin vitroでこのプロセスを阻害するかどうかを決定するために、初代ヒト乳房上皮細胞(HMEC)を使用して開発した。
【0437】
ヒト乳房上皮細胞(Lonza、Basel、Switzerland)を、MEGM完全培地(Lonza)中で、製造者により推奨されるように増殖させた。継代培養のために、細胞をトリプシン処理し、トリプシン中和溶液(Lonza)で処理してから播種した。HMEC細胞を、8ウェルチャンバースライド内で3500細胞/cm
2で播種し、2.5ng/mlのTGFβあり、またはなしで処理し、抗体あり、またはなしで30分間プレインキュベートした。細胞を37℃で8日間インキュベートし、4日後に新鮮な培地+試薬を添加した。8日目に、細胞を室温で15分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞をPBS中で2回濯ぎ、PBS+0.25%Triton X−100中で10分間透過処理してから、PBS−TWEEN+10%ヤギ血清で30分間ブロックした。間葉マーカーには抗ヒトビメンチン(Cell Signaling Technology、Danvers、MA)を使用して、上皮マーカーには抗ヒトE−Cadherin(Cell Signaling Technology)を使用して(それぞれ1:200または1:500に希釈)、細胞を4℃で一晩染色した。細胞をPBS中で3回洗浄し、ブロック溶液中で希釈した適切な2次抗体Alexa Fluor 488ヤギ抗ウサギまたはAlexa Fluor 568ヤギ抗ウサギ(Invitrogen、Carlsbad、CA)で室温で1時間インキュベートし、光から保護した。スライドを洗浄し、Gold Anti−Fade/DAPIを設置してから、蛍光顕微鏡法を行った。
【0438】
抗KLH対照抗体の存在下でのHMEC細胞のTGFβへの暴露は、増加したビメンチン染色および全細胞密度の低減をもたらし、TGFβ媒介増殖停止および間葉表現型への分化と一致する。TGFβ1媒介EMTの中和は、低減したビメンチン染色に基づき明らかであったが、これは、XPA.42.681、XPA.42.068およびXPA.42.089抗体に対する増加した細胞密度に相関し、一方で、BM−1コンパレータに対して、ビメンチン染色が存在する場合、中間的反応が観察されたが、抗KLH対照と同じ程度ではなかった(データは示さず)。さらに、抗体のそれぞれは、TGFβ2により誘導されるEMTを阻害したが、BM−1コンパレータ抗体は、ビメンチンシグナル強度、E−カドヘリン染色および増加した細胞密度に基づき、より有効性が低いようであった。TGFβ3媒介EMTの中和のためには、XPA.42.681抗体が最も有効であり、続いてBM−1およびXPA.42.068が有効であり、一方XPA.42.089は、抗KLH対照と変わらないようであった。
【0439】
実施例11.異種移植マウスモデルにおけるTGFβ抗体による腫瘍阻害
抗体XPA.42.068およびXPA.42.089を、ヒト咽頭癌細胞系であるDetroit 562から得られた異種移植片モデルにおける腫瘍成長を阻害する能力について評価した(Van Aarsen et al.,Cancer Res.68:561−70;2008)。8から9週齢のNu/Nuマウス(Charles River Laboratories)の左下腹部領域に、動物当たりBD MATRIGEL(商標)(1:1、200uL)中の5×10
6のDetroit 562細胞を皮下移植した。動物を、抗KLHヒトIgG2アイソタイプ対照(10mg/kg)、XPA.42.068(1、3もしくは10mg/kg用量)、XPA.42.089(1、3、もしくは10mg/kg用量)、BM−1コンパレータ(3mg/kg)、またはマウスアイソタイプ対照IgG1(3mg/kg)の、それぞれ12匹のマウスの試験群に無作為割り当てをした。投薬および腫瘍体積測定を週2回行った(
図4)。動物を最後の投薬後の日(28日目)、抗体処置の7回の投薬後に動物を致死させた。全ての測定において、統計的有意性は、片側のStudentのt検定により決定した。
【0440】
図4に示されるように、XPA.42.089で処置された腫瘍は、XPA.42.068で処置された腫瘍よりも小さい傾向にあり、抗KLHヒトIgG2対照と比較するとより高い投薬レベルにおいて有意な差があった。全ての試験群において、28日目にパーセント腫瘍成長阻害(TGI)をIgG対照抗体と比較した。XPA.42.068(3および10mg/kg)、XPA.42.089(3および10mg/kg)、さらにBM−1コンパレータ(3mg/kg)処置群からの腫瘍は、28日目において、1mg/kg処置群よりも有意に小さかった(P値<0.05)。さらに、10mg/kgでのXPA.42.068ならびに3および10mg/kgでのXPA.42.089は、TukeyのANOVA検定を使用すると、IgG対照と比較して有意な差を示した(表8)。
【0441】
(表8)異種移植片腫瘍モデルにおける腫瘍成長阻害
【0442】
抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681を使用して、Detroit 562異種移植片モデルにおけるさらなる評価を行った。8から9週齢のNu/Nuマウス(Charles River Laboratories)の左下腹部領域に、動物当たりBD MATRIGEL(商標)(1:1、200uL)中の5×10
6のDetroit 562細胞を皮下移植した。動物を、抗KLHヒトIgG2アイソタイプ対照(3mg/kg)、XPA.42.068(1または3mg/kg用量)、XPA.42.089(1または3mg/kg用量)、XPA.42.681(1または3mg/kg用量)、BM−1コンパレータ(1または3mg/kg)の、それぞれ12匹のマウスの試験群に無作為化した。投薬および腫瘍体積測定を週2回行った(
図5)。動物を最後の投薬後の日(30日目)、抗体処置の7回の投薬後に動物を致死させた。全ての測定において、統計的有意性は、片側のStudentのt検定により決定した。
【0443】
図5および表9に示されるように、XPA.42.681、XPA.42.089、およびBM−1コンパレータで3mg/kgで処置された腫瘍は、30日目におけるパーセントTGIおよび平均腫瘍体積において、対照抗体と比較して有意な差を示した。これらの群の間の比較は、TukeyのANOVA検定を使用すると、有意な差を示さなかった。
【0444】
(表9)異種移植片腫瘍モデルにおける腫瘍成長阻害
【0445】
実施例12.同系マウスモデルにおけるTGFβ抗体による腫瘍阻害
抗体XPA.42.068およびXPA.42.089を、さらに、Namら(Cancer Res.68:3915−23;2008)から適合させたプロトコルを用いて、4T1乳癌細胞を使用して同系モデルにおける腫瘍成長を阻害する能力について評価した。0日目に、8週齢のBalb/c雌マウスの第4乳房脂肪体に、250,000 4T1細胞を皮下移植した。動物を、それぞれ12匹のマウスの試験群に無作為割り当てをし、抗KLHヒトIgG2アイソタイプ対照、XPA.42.068、XPA.42.089、BM−1コンパレータ、またはマウスアイソタイプ対照IgG1を用い、10mg/kgの単回投薬レベルで週3回抗体を投与した(1日目に開始)。実験を通して腫瘍体積を週2回測定したが、データを
図6に示す。試験最後の腫瘍体積データは、XPA.42.068およびXPA.42.089の両方が、KLH対照抗体と比較して腫瘍成長を有意に阻害したことを示した。
【0446】
さらに、最終試験日(23日目)に動物を致死させ、腫瘍を取り出して腫瘍重量を測定した。XPA.42.089、XPA.42.068およびBM−1抗体はそれぞれ、ヒトまたはマウス対照抗体に比べて腫瘍質量を有意に低減した(
図7)。
【0447】
抗体XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681を使用して、4T1同系モデルにおけるさらなる評価を行った。0日目に、8週齢Balb/cマウスの第4乳房脂肪体に、250,000 4T1細胞を皮下移植した。動物を、それぞれ12匹のマウスの試験群に無作為割り当てをし、抗KLHヒトIgG2アイソタイプ対照、XPA.42.068、XPA.42.089、XPA.42.681、BM−1、またはマウスアイソタイプ対照IgG1を用い、10mg/kgの単回投薬レベルで週3回抗体を投与した(1日目に開始)。実験を通して腫瘍体積を週2回測定したが、データを
図8に示す。試験最後の腫瘍体積データは、抗体XPA.42.068、XPA.42.089、XPA.42.681およびBM−1がそれぞれ、ヒトまたはマウス対照抗体と比較して腫瘍成長を有意に阻害することを示した。
【0448】
さらに、最終試験日(21日目)に動物を致死させ、腫瘍を取り出して腫瘍重量を測定した。XPA.42.089、XPA.42.068、XPA.42.681およびBM−1抗体はそれぞれ、ヒトまたはマウス対照抗体に比べて腫瘍質量を有意に低減した(
図9)。
【0449】
実施例13.マウス腫瘍モデルにおける、NK細胞に対するTGFβ抗体のin vivo効果
TGFβ抗体が腫瘍に存在するナチュラルキラー(NK)細胞に対してin vivoで免疫調整効果を示したかどうかを評価するために、上記4T1同系モデル実験におけるマウスから取り出した分離腫瘍を消化させ、単一細胞懸濁液を生成した。簡潔に述べると、新しく採取された腫瘍を細かくし、HBSS中2.5mg/mLコラゲナーゼIIおよび2.5mg/mLコラゲナーゼIV中で消化させた(37℃で15分)。細胞を計数し、PBS、0.5%BSA、0.1%NaN3および10μg/mLの2.4G2抗マウスFc遮断抗体(eBioscience、San Diego、CA)中に2e6/mLで再懸濁し、4℃で15分間インキュベートした。0.5%BSAを含むPBS中で洗浄した後、フローサイトメトリー分析(BioLegend、San Diego、CA)による免疫蛍光染色のためにコンジュゲートした抗CD335(抗NKp46)抗体で、細胞を4℃で30分間染色した。NKp46としても知られるCD335は、CD3−CD56+NK細胞にのみ発現する細胞表面マーカーであり、NK細胞の普遍的マーカーであるとされている。新しく調製した2%パラホルムアルデヒド中で細胞を固定し、BD FACSCanto(商標)システムで分析した。比較のために、単一色対照もまた調製した。
図10に示されるように、XPA.42.089抗体は、アイソタイプ対照抗体と比較して、マウスから取り出された腫瘍内のNK細胞マーカーNKp46(CD335)の発現を有意に増加させた。BM−1、XPA.42.068およびXPA.42.681抗体は、NKp46の同様の増加をもたらさなかった。
【0450】
実施例14.マウス腫瘍モデルにおける、MDSCに対するTGFβ抗体のin vivo効果
TGFβ抗体が腫瘍に存在する骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)(CD11b+/Gr1+)に対してin vivoで免疫調整効果を示したかどうかを評価するために、4T1同系モデル実験におけるマウスから取り出した分離腫瘍を上記のように調製し、フローサイトメトリー分析(BioLegend、San Diego、CA)による免疫蛍光染色のためにコンジュゲートした抗CD11bおよび抗Gr1抗体で、4℃で30分間染色した。α
M−インテグリンとしても知られるCD11b、およびLy6Gとしても知られる骨髄細胞系分化抗原Gr1は、MDSC上に同時発現する細胞表面マーカーである。新しく調製した2%パラホルムアルデヒド中で細胞を固定し、BD FACSCanto(商標)システムで分析した。比較のために、単一色対照もまた調製した。
図11に示されるように、XPA.42.068、XPA.42.089およびXPA.42.681抗体は、アイソタイプ対照抗体と比較して、マウスから取り出された腫瘍内の骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC、CD11b+/Gr1+)の蓄積を有意に減少させた。BM−1コンパレータ抗体は、MDSCの同様の減少を示さなかった。
【0451】
実施例15.マウス腫瘍モデルにおける、樹状細胞に対するTGFβ抗体のin vivo効果
TGFβ抗体が腫瘍に存在する樹状細胞(DC)に対してin vivoで免疫調整効果を示したかどうかを評価するために、4T1同系モデル実験におけるマウスから取り出した分離腫瘍を上記のように調製し、フローサイトメトリー分析(BioLegend、San Diego、CA)による免疫蛍光染色のためにコンジュゲートした抗CD11c抗体で、4℃で30分間染色した。α
Xインテグリンとしても知られるCD11cは、DC上に見られる細胞表面マーカーである。新しく調製した2%パラホルムアルデヒド中で細胞を固定し、BD FACSCanto(商標)システムで分析した。比較のために、単一色対照もまた調製した。
図12に示されるように、XPA.42.089抗体は、アイソタイプ対照抗体と比較して、マウスから取り出された腫瘍内のDCマーカーCD11cの発現を有意に減少させた。BM−1、XPA.42.068およびXPA.42.681抗体は、CD11cの同様の減少を示さなかった。
【0452】
実施例16.マウス腫瘍モデルにおける、調節性T細胞に対するTGFβ抗体のin vivo効果
TGFβ抗体が腫瘍に存在する調節性T細胞(Treg)に対してin vivoで免疫調整効果を示したかどうかを評価するために、4T1同系モデル実験におけるマウスから取り出した分離腫瘍を上記のように調製し、フローサイトメトリー分析(BioLegend、San Diego、CA)による免疫蛍光染色のためにコンジュゲートした抗CD4、抗CD25および抗FOXP3抗体で、4℃で30分間染色した。L3T4としても知られるCD4、および低親和性IL−2Rαとしても知られるCD25、さらにForkheadボックスタンパク質P3としても知られるFOXP3は、それぞれTreg細胞上に見られる細胞表面マーカーである。新しく調製した2%パラホルムアルデヒド中で細胞を固定し、BD FACSCANTO(商標)システムで分析した。比較のために、単一色対照もまた調製した。
図13に示されるように、XPA.42.068抗体は、アイソタイプ対照抗体と比較して、マウスから取り出された腫瘍内のTreg細胞の蓄積を有意に減少させた。BM−1、XPA.42.089およびXPA.42.681抗体は、T−reg細胞の同様の減少を示さなかった。
【0453】
実施例17.マウス腫瘍モデルにおける、細胞傷害性T細胞に対するTGFβ抗体のin vivo効果
TGFβ抗体が腫瘍に存在する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)に対してin vivoで免疫調整効果を示したどうかを評価するために、4T1同系モデル実験におけるマウスから取り出した分離腫瘍を上記のように調製し、フローサイトメトリー分析(BioLegend、San Diego、CA)による免疫蛍光染色のためにコンジュゲートした抗CD8抗体で、4℃で30分間染色した。CD8は、CTL上に見られる細胞表面マーカーである。新しく調製した2%パラホルムアルデヒド中で細胞を固定し、BD FACSCANTO(商標)システムで分析した。比較のために、単一色対照もまた調製した。
図14に示されるように、XPA.42.068抗体は、アイソタイプ対照抗体と比較して、マウスから取り出された腫瘍内のCTLのレベルを有意に増加させた。BM−1、XPA.42.089およびXPA.42.681抗体は、CTLの同様の減少を示さなかった。
【0454】
上記の結果は、本明細書において開示される抗TGFβ抗体が、腫瘍体積サイズを減少させるとともに、腫瘍に浸潤して腫瘍成長に寄与する免疫細胞をin vivoで調整する能力を有することを実証している。これは、本明細書に記載の抗TGFβ抗体が、癌の治療において、具体的には上記実施例における免疫細胞の任意の1つ以上が腫瘍細胞に浸潤する癌において、治療上の利益を提供することを示唆している。
【0455】
実施例18.NK細胞の細胞溶解活性の改善
NK細胞の細胞溶解活性を改善する抗TGFβ抗体の能力を評価するために、in vivoでのNK細胞と腫瘍細胞との間の慢性的相互作用を模倣するようにナチュラルキラー(NK)細胞共培養系を開発した。TGFβ産生マウス乳癌細胞系、4T1を使用した。正常Balb/cマウスの脾臓からNK細胞を精製し、6ウェルプレート内で、CFSE標識化4T1腫瘍細胞とともに48時間、IL−2(500IU/ml)の存在下で共培養した。抗TGFβおよび対照抗体を共培養系に添加し、48時間後にNK細胞を採取した。NK細胞のIFNγ産生を、細胞内染色により共培養の直後に測定した。NK細胞をCFSE陰性細胞として分類し、その細胞溶解活性を、Yac−1腫瘍細胞系に対する標準的な死滅アッセイにより分析した。NK細胞を、20:1のエフェクター:標的(E:T)比で4時間、96ウェル丸底プレート内でCFSE標識化Yac−1細胞と共培養した。ヨウ化プロピジウム(PI)染色を使用して細胞死をマーキングした。
【0456】
NK細胞は、抗KLH標的化群と比較して、抗体標的化群の間でIFNγ産生の上昇を示したが、有意な増加を示さなかった。死滅アッセイにおいて、20:1のエフェクター:標的比で、BM−1抗体ならびにXPA.42.089およびXPA.42.681抗体の両方は、NK細胞の細胞溶解活性を有意に改善した(
図15)。さらに、XPA.42.089およびXPA.42.681抗体は両方とも、標的腫瘍細胞を死滅させるNK細胞の能力を97.8%および96.7%まで増加させたが、これらのレベルは、基準コンパレータよりも有意に高いレベルであった(P<0.0001)。この結果は、本開示のTGFβ中和抗体が、in vitroにおいてTGFβ産生腫瘍細胞との慢性相互作用により減衰するNK細胞の細胞溶解活性を有意に改善し得ることを示している。
【0457】
実施例19.CD8+樹状細胞の寛容原性機能の阻害
CD8+樹状細胞(DC)に対するTGF−βの寛容原性機能を阻害する抗TGFβ抗体の能力を評価するために、混合リンパ球反応(MLR)に基づくin vitro系を開発した。MLRは、外部抗原を系に添加することなくDC抗原の提示を試験するために使用される古典的な実験である。正常Balb/cマウスからの脾臓を微小断片に切断し、10%RPMIおよび1mg/mlコラゲナーゼIV型中、37℃で1時間振盪インキュベータ内でインキュベートした。さらに5分間EDTAを添加した後、ナイロンメッシュを通して溶液を濾過した。CD11c+DCを、ビオチニル化抗CD11c抗体で染色し、Stemcell Technologies社製ビオチン精製キットを使用して、正の選択を行った。CD11c+DCを、CD8抗体で染色した。CD8+およびCD8−集団を、BD FACSARIA(商標)細胞分類機で分類した。CD8+ DCを、抗TGFβ抗体または対照抗体とともに24時間培養し、CD8− DCに1:10比で混合した。Stemcell Technologies社製T細胞陰性選択キットを使用して、正常B6脾臓からT細胞を精製し、CFSEで標識化した。次いで、96ウェル丸底プレート内で、混合DCをB6 T細胞とともに5日間共培養した。CD8+ DCの免疫阻害機能を、T細胞増殖により評価した。CD8+ DCが、抗原を提示するCD8− DCの能力を阻害する場合、B6 T細胞の増殖はより少ない。抗TGFβ抗体が自己分泌TGFβをブロックし、CD8+ DC寛容原性機能を減衰させる場合、B6 T細胞の増殖はより多い。
【0458】
図16に示されるように、BM−1処置群においては、抗KLH対照群と比較して、T細胞増殖の変化はほとんど観察されなかった。対照的に、XPA.42.089およびXPA.42.681抗体は両方とも、対照抗KLH処置群と比較して、T細胞増殖を有意に増加させ、T細胞増殖に対するXPA.42.681の効果は、基準抗体BM−1と比較して有意であった。これらのデータは、TGF−βをブロックすることにより、免役原性DCに対するCD8+ DCの寛容原性作用を低減することができることを示しており、これは、免役原性DCによる向上した抗原提示を提供し得る。
【0459】
実施例20.CTL機能の向上
腫瘍条件下でのCTLの活性化を模倣し、CTL機能が抗TGFβ抗体により向上され得るかどうかを決定するためにin vitro系を開発した。パーフォリンおよびグランザイムB(GzmB)の染色によって、CD25の発現および機能によりCTL活性化を評価した(Massague et al.Cancer Cell 8:369−380,2005)。T細胞陰性選択(Stemcell Technologies)により、正常Balb/c脾臓からT細胞を精製した。Miltenyi Biotec(Auburn、CA)によるT細胞活性化/発現キットを用いて、MACビーズを抗CD3および抗CD28抗体でコーティングした。96ウェル丸底プレート内で、抗TGFβ抗体および対照抗体とともに、T細胞ならびに抗CD3および抗CD28コーティングMACビーズを、20μlの4T1培養物上清の存在下で、2×10e6/mLの濃度で1:1比で48時間共培養した。細胞表面上のCD25発現によりCTL活性化を評価し、FoxP3染色プロトコルを使用した細胞内染色により決定される、GzmB(
図17A)およびパーフォリン(
図17B)の発現により機能を評価した。
【0460】
公開データと一致して、抗体処置群および対照群との間でCD25発現における変化は観察されなかった。BM−1処置CTLは、GzmBおよびパーフォリン発現の両方で最小の変化を示した。しかしながら、XPA.42.089およびXPA.42.681抗体は両方とも、対照抗KLH処置と比較して、CTLにおけるGzmB発現を有意に増加させた(P<0.001)。さらに、XPA.42.089処置CTLにおけるGzmB発現の増加は、コンパレータBM−1(P<0.05)よりも有意に大きかった。パーフォリン発現において、XPA.42.089およびXPA.42.681処置CTLは両方とも、対照抗KLH処置CTL(P<0.05)と比較して有意により多くのパーフォリンを産生した。さらに、XPA.42.681は、有意にBM−1コンパレータよりもCTLにおけるパーフォリン発現を改善した(P<0.05)。したがって、XPA.42.089およびXPA.42.681は両方とも、このin vitro培養系において、腫瘍細胞から分泌されたTGF−βにより抑制されたGzmBおよびパーフォリンの両方の発現を修復することができ、したがって、腫瘍細胞により産生されたTGFβを中和することによりCTL機能を促進するためのメカニズムを提供する。
【0461】
実施例21.MDSCおよびTreg機能の阻害
調節性T細胞(Treg)の増加および機能に対する骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)の効果、ならびにMDSCおよびTreg活性を阻害する本開示の抗TGFβ抗体の能力を評価するために、in vitro共培養系を開発した。
【0462】
MDSCは、腫瘍に対する免役反応を抑制し、腫瘍浸潤および転移を促進するとともに、免役反応を下方調節することが知られているTregの増加および機能を促進することが知られている。雌BALB/cマウスの腹部乳腺に、50μlの1×PBS中の7×10
34T1腫瘍細胞を接種する。21日目に脾臓を採取し、ビオチン標識化CD11b抗体およびビオチン陽性選択キット(Stemcell Technologies)によりMDSCを精製する。同時に、正常BALB/c脾臓を採取し、T細胞陰性選択キット(Stemcell Technologies)によりT細胞を精製する。細胞を、抗CD4−FITCおよび抗CD25−PEで染色する。二重陽性細胞をFACSARIA(商標)細胞分類機(BD Bioscience)で分類する。Treg集団をCFSE標識化し、抗TGFβまたは対照抗体の存在下で、4T1腫瘍注入マウスからのMDSCとともに1:1比で5日間共培養する。Tregの増加をCFSE分割により測定する。Treg機能に対するMDSCの効果を評価するために、4T1注入BalB/cマウスから採取されたMDSCをCFSE標識化し、抗TGFβまたは対照抗体の存在下で、Tregとともに5日間共培養する。Tregを、共培養物からCFSE陰性集団として分類する。正常BALB/cマウスからのT細胞をCFSE標識化し、抗CD3および抗CD28ビーズで2×10
6細胞/mlで播種する。分類したTregを、培養系に添加する。T細胞のCFSE分割の数を分析することにより、Tregの阻害機能を測定する。
【0463】
実施例22.マウスモデルにおけるTGFβ抗体による線維症の阻害
本開示の抗体を、さらに、線維症の動物モデルにおいて、線維症(例えば、肺線維症、腎臓線維症)を阻害する能力について評価する。
【0464】
腎臓線維症
腎臓線維症モデルを使用して、抗TGFβ抗体を評価した(Ling et al.,J.Am.Soc.Nephrol.14:377−388;2003)。シクロスポリンA(CsA、30mg/kg)またはビヒクル対照としてのオリーブ油を、低塩食(LSD、50〜100ppm NaCl)の6〜7週齢雄ICRマウスに1日1回4週間皮下注射し、腎臓線維症疾患を発症させた。対照マウスは通常食で維持され、CsAを与えられなかった。CsA処置を開始する1日前に、抗TGFβ抗体XPA.42.089またはIgG対照抗体の腹腔内投薬(2.5mg/kg、TIW)を開始した。動物を安楽死させ、組織学および腎機能評価項目を評価するために、血清、尿および腎臓を採取した。
【0465】
標準的技法を用いて、ホルマリン固定およびパラフィン包埋腎臓切片(5μm)をヘマトキシリン−エオシン(H&E)およびMassonトリクロムで染色することにより、組織病理学検査を行った。CsA誘導病理学的変化の評価は、一般的に認められているコード化された切片の半定量的スコア化(Ling et al.,Am.J.Physiol.277:F383−F390,1999)、ならびに、例えば、腎臓切片当たりの疾患領域のパーセンテージを数えることによるスコア化を含む、管損傷、間質浸潤、細動脈の肥大、尿細管間質性膨張、および線維症のいずれかまたは全てに基づく評価を含み得る。正常対照、CsA注入およびXPA.42.089抗体処置マウスからの矢状腎臓切片を、Massonのトリクロム染色で染色した。CsA注入マウスの尿細管間質において、CsAにより誘導された線維症の発達が観察されたが、対照動物においては観察されなかった。さらに、CsA処置マウスにおいて、いくつかの尿細管の内腔径の増加が観察された。XPA.42.089抗体による処置は、尿細管間質において観察されたCsA誘導線維症の量を低減し、尿細管直径を低減した。
【0466】
また、腎機能は、腎機能障害の血清クレアチニン、血中尿素窒素、および尿バイオマーカーのいずれかまたは全てにより評価することができる。
【0467】
血清血中尿素窒素(BUN)は、腎機能障害の指標である。本試験において、BUNは、餌またはLSDを与えた対照マウスと比較して、CsAに暴露されたマウスにおいて有意に増加した(
図18)。XPA.42.089による処置は、IgG対照抗体と比較して、血清BUNを有意に低減した。
【0468】
タンパク尿症、すなわち尿中のアルブミン蓄積の増加は、罹患腎臓における糸球体機能障害の特徴である。本試験において、尿中アルブミンは、餌またはLSDを与えた対照マウスに比べ、CsAマウスにおいてほぼ4倍増加した(
図19)。XPA.42.089による処置は、IgG対照抗体処置マウスと比較して、タンパク尿症の有意な改善をもたらした。
【0469】
腎臓におけるECM堆積および線維症の程度を反映する尿中IV型コラーゲンのレベルは、餌またはLSDを与えた対照マウスに比べ、CsAマウスにおいて有意に増加した(
図20)。XPA.42.089による処置は、IgG対照抗体と比較して、尿中IV型コラーゲンを適度に減少させた。
【0470】
腎臓組織に対して定量RT−PCRを行い、線維症に関与する遺伝子の発現を測定した。RNeasy Kit(Qiagen、Germantown、MD)を使用して、製造者のプロトコルに従い、全RNAを腎臓(皮質および髄質)から分離した。ランダムプライマーおよびMULTISCRIBE(商標)RT(Applied Biosystems、Carlsbad、CA)を使用して、第1鎖cDNAを合成した。次いで、LIGHTCYCLER 480 Real Time PCRシステム(Roche Applied Science、Indianapolis、IN)でSYBR Green mix(Roche)を使用して、2μlのcDNAに対し定量RT−PCRを行った。値は、シクロフィリンに正規化し、比較CT法を用いて計算した。TGF−β1は、線維芽細胞分化およびIII型コラーゲンを含むECMタンパク質の堆積の有効な指標である。TGF−β1発現は、対照マウスと比較すると、CsA処置動物においてほぼ2倍高かった(
図21A)。XPA.42.089による処置は、IgG対照抗体と比較して、腎臓内のTGF−β1の発現レベルを有意に低減した。III型コラーゲンの発現においても同様の効果が観察され、CsA処置マウスにおいて穏やかな上昇が観察された(
図21B)。XPA.42.089による処置は、IgG対照抗体処置マウスと比較して、III型コラーゲン発現レベルの低下をもたらした。
【0471】
肺線維症
本質的にWilsonら(J.Exp.Med.207:535−552;2010)により説明されるように、肺線維症モデルを使用することができる。C57BL/6マウスを麻酔し、−1、3および5日目に、抗体(例えば、群当たりn=10、500μg)あり、またはなしで、生理食塩水中0.15U硫酸ブレオマイシン(Calbiochem、La Jolla、CA)を気管内注入する。肺組織学、肺コラーゲン含量(例えば、コラーゲン堆積)、および炎症性浸潤の分析のために、7日目に動物を致死させる。肺組織学では、パラフィン包埋肺組織の5μm切片を、Massonのトリクロムで染色する。気管支肺胞洗浄(BAL)コラーゲンおよび肺におけるコラーゲン堆積として測定される肺損傷は、Sircolアッセイを用いて定量化される。炎症性浸潤は、フローサイトメトリーによりBALにおいて測定される。
【0472】
実施例23.TGFβ媒介眼科的疾患の処置
本開示の抗TGF−β抗体は、例えば目における線維症疾患(例えば線維増殖性状態に関連した疾患)を含む、多くの眼科的(例えば目)疾患および状態の治療に使用され得る。
【0473】
網膜色素上皮細胞におけるTGFβ1の中和
上皮表現型の維持は、組織の恒常性に重要である。網膜においては、網膜色素上皮(RPE)の脱分化は、網膜機能不全および線維症をもたらし、TGFβは、多くのメカニズムにより網膜脱分化に寄与し、そのメカニズムのいくつかはSMAD2経路の活性化に依存する。pSMAD2アッセイを使用して、RPE細胞におけるTGFβ反応の活性化を相殺する能力について、本開示の抗体を評価した。
【0474】
網膜色素上皮(RPE)細胞(Lonza #194987)を、網膜色素上皮細胞成長培地(Lonza#00195409)中に維持した。細胞をトリプシンで剥離し、トリプシンを中和し(トリプシン中和溶液、Lonza#CC−5002)、細胞をペレット化し、1e6細胞/mLで再懸濁させ、6ウェル皿内に100,000〜200,000細胞/ウェルで播種した。翌日、細胞を洗浄し、RPE基本培地(Lonza#00195406)を添加して、細胞をG0/G1期で停止させた。翌日、10μg/mLの抗TGFβ抗体XPA.42.068、XPA.42.089、およびXPA.42.681、基準抗体BM−1およびBM−2、または対照抗KLH−G2抗体ありまたはなしで5分間プレインキュベートされた10ng/mlのTGFβ1(Peprotech #100−21)で、細胞を処理した。37℃で30分後、新鮮な状態で添加された1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を含有する細胞溶解緩衝液(Cell Signaling Technology、Danvers、MA)中で、細胞を溶解した。4℃で5分間振盪した後、細胞を擦り落とし、96ディープウェルプレート内に分注して20分間氷上で溶解させた。溶解物を、4℃で5分間3Kで沈降させた。溶解物を希釈し、製造者の推奨に従い、ホスホ−SMAD2(細胞シグナル伝達#7348)および全SMAD2(細胞シグナル伝達#7244)検出に供した。
【0475】
図22に示されるように、TGFβ1処置は、RPE細胞中のpSMAD2の確実な増加をもたらし、これは、抗体XPA.42.089、XPA.42.068およびXPA.42.681、ならびに基準抗体のそれぞれにより有意に中和された。これらのデータは、XPA.42.089、068および681がRPE細胞中のTGFβ媒介シグナル伝達を相殺することを示唆し、抗体が網膜機能不全の処置に有用となり得ることを示している。
【0476】
増殖性硝子体網膜症
増殖性硝子体網膜症(PVR)は、網膜剥離手術の失敗の最も一般的な原因である。PVRは、網膜の上および下の硝子体腔内の線維性血管膜の形成を特徴とし、その後の網膜剥離をもたらす。様々な因子がPVRの進行に寄与し、TGFβは中心的役割を果たすと考えられている。TGFβは、PVR患者の硝子体内に豊富に含まれ、TGFβの特徴的機能、例えば上皮間葉移行(EMT)の誘導、細胞外基質産生の刺激、細胞膜の収縮、および炎症の誘導が、全てPVRの進行におけるマイナス要因である。
【0477】
本開示の抗体の効果を評価するために、実験的PVRをウサギモデルにおいて誘導する(Oshima et al.,2002,Gene Ther.9:1214−1220;Fastenberg et al.,Gene Ther.2002,9:1214−1220)。イソフルランまたはケタミンおよびキシラジンの筋肉内注射により成体有色ウサギを麻酔する。1滴の10%塩酸フェニレフリン、1%トロピカミド、および1%硫酸アトロピンで瞳孔を散大させる。各ウサギの一方の目の硝子体腔内に、毛様体扁平部を通して、0.1ml BSS溶液中の5.0×10e5ウサギ結膜線維芽細胞を注入する。経扁平部硝子体切除術は、PVRモデルを誘導する。その直後に、BSS、抗TGFβ抗体(例えば、XPA.42.089、XPA.42.681、5mg)または対照抗体(例えば、抗KLH−G2)の1回の硝子体内注入を10匹の動物の群に施し、随意に毎週繰り返す。注入された全ての目を1、3、5、7、10、14および28日目に検眼鏡検査し、Fastenberg et al.,Am.J.Ophthalmol.93:565−572,1982により説明される臨床基準を使用して、PVRを6段階に分類する。
【0478】
角膜へのアルカリ熱傷
角膜へのアルカリ熱傷の形態での眼球外傷は、深刻な臨床上の問題であり、重度および永久的な視力障害をもたらし得る。角膜細胞、すなわち角膜実質細胞および上皮細胞の活性化、ならびに単球/マクロファージ等の炎症細胞の流入は、角膜におけるアルカリ組織損傷後の傷害の病因に関与し、持続性の上皮欠陥をもたらし得る。さらに、これらの細胞により分泌されるマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP、ゼラチナーゼ)による基底膜の破壊は、病原性の潰瘍化および間質の穿孔に寄与する。角膜縁幹細胞の損失後の角膜表面の結膜化は、混濁および角膜実質の新血管形成とともに、全て後の治癒段階において患者の視覚を低下させる。TGF−βを含む多くの成長因子およびサイトカインが、アルカリ熱傷後に角膜に生じる組織破壊および後の瘢痕に関与すると考えられている。
【0479】
本開示の抗体の効果を評価するために、マウスアルカリ熱傷モデルを使用する(Saika et al.,Am.J.Pathol.2005,166:1405−18)。簡潔に述べると、3μlの1N水酸化ナトリウム溶液を成体C57BL/6マウスの右目に適用し(n=72)、全身および局所麻酔の両方において眼表面アルカリ熱傷を生成する。抗TGF−β抗体(例えば、XPA.42.089、XPA.42.681)または対照抗体(例えば、抗KLH−G2)を、アルカリ暴露から2時間後ならびに5、10および15日目に投与する(n=24/群)。角膜のフルオレセイン染色を使用して、表面欠陥(例えば損傷上皮)を可視化する。角膜フルオレセイン検査後、ブロモデオキシウリジンで標識化してから2時間後に眼球を摘出し、3、5、10、および20日目に、パラフィンまたは低温切片のいずれかにおける組織学的検査用に処理する。
【0480】
水晶体線維症
損傷後、水晶体上皮細胞は、損傷した水晶体における線維性組織の形成に寄与するEMTを呈する。水晶体摘出および人口眼内レンズの移植後のヒト水晶体嚢においても、同様の現象が観察される。そのようなEMT関連線維症反応は、残された前水晶体嚢の混濁および収縮、ならびに後嚢の混濁をもたらし得るため、臨床的に好ましくない。目の房水は、豊富なTGF−βを含有し、水晶体上皮細胞での損傷関連EMTにおけるTGF−βの役割が示唆されている。
【0481】
本開示の抗体の効果を評価するために、マウスモデルにおいて実験的角膜線維症を誘導する(Saika,et al.,Am J Pathol.2004,164:651−663)。成体マウス(4から6週齢)を、ペントバルビタールナトリウム(70mg/kg)の腹腔内注射で麻酔する。散瞳薬および麻酔薬としてのオキシブプロカイン点眼液の局所適用後に、26ゲージ皮下注射針の刃の部分を用いて、右目における角膜切開を通して中央前嚢に小切開を行う。その直後、抗TGFβ抗体(例えば、XPA.42.089、XPA.42.681)または対照抗体(例えば、抗KLH−G2)(n=24/群)を、試験期間中週2回、目に投与する。左目は非損傷対照として役立つ。損傷の深さは、約300μm、または針の刃の部分の長さの約4分の1であり、これは、嚢破断部周囲の線維性組織の形成をもたらす。オフロキサシン軟膏の注入後、動物を6時間から8週間治癒させる。増殖細胞を、ブロモデオキシウリジンの腹腔内注射により標識化し、続いて2時間後に動物を致死させ、分析のためにそれぞれの目を摘出する。
【0482】
術後緑内障手術
緑内障手術の長期転帰の主要な決定因子は、創傷治癒反応である。結膜および強膜切開部位のレベルの過度の術後瘢痕は、低い術後眼圧制御に関連する。そのような手術における抗増殖剤5−フルオロウラシル(5−FU)およびマイトマイシンC(MMC)の使用はまた、広範な細胞死およびアポトーシスを引き起こし、角膜びらんおよび嚢胞性無血管性小疱をもたらし得る。
【0483】
緑内障手術に関連したこれらの状態に対する本開示の抗体の効果を評価するために、ウサギモデルを使用する(Mead et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.2003,44:3394−3401)。全身麻酔(ケタミンおよびキシラジン)下のニュージーランドホワイトウサギ(12および14週齢)に対し、緑内障濾過手術を行う。部分厚8−0シルク角膜牽引縫合糸を12時方向に設置し、上結膜への露出を得た。円蓋部基底結膜弁を上げ、角膜輪部後方15mmの距離まで結膜下腔の鈍的切開を行う。MVRブレードを使用して、部分厚強膜トンネルを形成し、角膜輪部後方4mmから開始して、刃がちょうど前部角膜実質内に見えるまで継続する。次いで、22ゲージ/25mm静脈内カニューレを、カニューレ針が透明な角膜内に見えるまで強膜トンネルに通過させる。カニューレの針を前眼房に進入させ、カニューレを瞳孔中央領域に前進させ、針を引き抜く。最後に、挿入点から1mm突出するように強膜端部でカニューレを調整して傾斜させ、10−0ナイロン縫合糸を使用して、管を強膜表面に固定する。結節縫合および針上の中央マットレス型10−0ナイロン縫合で結膜切開部を閉じ、水密性の閉鎖部を形成した。手術の最後に、硫酸アトロピン1%およびリン酸ベタメタゾンナトリウム0.1%、硫酸ネオマイシン0.5%軟膏を1滴注入する。次いで、抗TGFβ抗体(例えば、XPA.42.089、XPA.42.681)または対照抗体(例えば、抗KLH−G2)(例えば、5mg/mL;16/群)の結膜下注射(100μL) の術後コースを受けさせるために、動物を無作為に配分する。結膜下注射を、手術(0日目)から2、3、4、7、9、11、および14日目に、30ゲージ針を使用して、局所麻酔下(プロキシメタカイン塩酸塩0.5%点眼液、眼当たり1滴)で与える。抗体を、上直筋の鼻側縁の角膜輪部後方5mmに注射する。手術部位から180°に5−FUを投与する。
【0484】
両目における眼圧の測定を、0.5%プロキシメタカインHCl点眼液の局所注入後に、携帯型眼圧計で行う。結膜外観および排液領域を観察する。全ての動物は、手術から所定時間後に盲検的に観察者により検査される。0日目から4日目まで毎日、およびその後一定期間、少なくとも週2回、両目の評価(対側の未処理の目を対照として使用)を行う。ノギスを用いて、長さ、幅および高さを含む小疱の特徴を測定し、眼圧を記録する。結膜領域を四分円に分割し、外観をスコア化(0、無血管;+1、正常血管分布;+2、充血;および+3、非常に充血)することにより、排液小疱血管分布特性を類別する。両方の前眼房活性(0、静穏;1、細胞;2、フィブリン;および3、前房蓄膿)および前眼房深度(深い(+2)、浅い(+1)または平坦(0)として記録される)を特定するために、細隙灯検査を行う。左目へのリグノカインフルオレセインの局所注入後に角膜上皮症の期間の評価を行い、罹患角膜の面積に従い類別する(0、なし;1、<5%;2、<50%;3、<75%;4、<90%;5、100%まで)。小疱の生存率を、主要な有効性評価項目として記録する。小疱の不全を、深い前眼房の存在下での平坦な血管新生化および瘢痕化小疱の外観として定義する。四分円毎の小疱の面積および高さ、前眼房の深さおよび活性、ならびに結膜血管分布を全て分析する。また、いくつかの動物からの組織を、組織学的検査(例えば、結膜下コラーゲン堆積)用に処理する。
【0485】
本明細書に開示される抗TGFβ抗体は、目における線維症の発症中のTGFβ活性を阻害し、それにより線維性堆積を減少させ、目の線維症に関連した症状を改善すると期待される。
【0486】
上記の例示的な実施例に記載のように、本開示における数々の修正および変形が生じることが、当業者に予測される。結果として、添付の特許請求の範囲に見られるような限定のみが、本開示に適用されるべきである。
【0487】
(表1)