【課題を解決するための手段】
【0003】
この目的は、特に、独立特許請求項の特徴を有する半導体レーザによって達成される。好ましい発展形態は、従属請求項の主題である。
【0004】
少なくとも一実施形態によれば、本半導体レーザは、半導体積層体を備えている。半導体積層体は、n型導電性のn領域を備えている。半導体積層体は、同様に、p型導電性のp領域を有する。n領域とp領域との間に活性ゾーンが位置している。活性ゾーンは、エレクトロルミネセンス(electroluminescence)に基づいてレーザ放射を生成するように設計されている。言い換えれば、n領域、活性ゾーンおよびp領域は、半導体積層体の成長方向に沿って、またはその逆方向に、互いに重なっている、好ましくは互いに上下に直接隣接している。
【0005】
半導体積層体は、III−V族化合物半導体材料系であることが好ましい。この半導体材料は、例えば、窒化物化合物半導体材料(Al
nIn
1−n−mGa
mNなど)、またはリン化物化合物半導体材料(Al
nIn
1−n−mGa
mPなど)、さらにまたはヒ化物化合物半導体材料(Al
nIn
1−n−mGa
mAsなど)(各場合において0≦n≦1、0≦m≦1、n+m≦1)である。この場合、半導体積層体は、ドーパントおよび追加の構成成分を有することができる。しかしながら説明を簡潔にするため、半導体積層体の結晶格子の本質的な構成成分(すなわちAs、Ga、In、NまたはP)のみを示してあり、これらの構成成分は、その一部分を少量の別の物質に置き換える、または少量の別の物質によって補うことができる。
【0006】
少なくとも一実施形態によれば、レーザ放射は、最大強度が近紫外スペクトル領域内にある波長を有する。近紫外スペクトル領域とは、特に、200nm〜420nmの範囲内(両端値を含む)、または320nm〜420nmの範囲内(両端値を含む)を指定する。これに代えて、本半導体レーザは、可視レーザ放射(例えば青色レーザ放射または赤色レーザ放射)を放出するように構成されている。青色光は、少なくとも420nmおよび/または最大で490nmの主波長に関連していることが好ましい。赤色光とは、特に、600nm〜700nmの範囲内(両端値を含む)の主波長を指す。さらには、レーザ放射が近赤外放射(すなわち最大強度が例えば700nm〜1600nmの範囲内(両端値を含む)である波長を有する放射)であることも可能である。さらに、490nm〜600nmの範囲内の緑色または黄色のスペクトル領域内のレーザ放射を生成することもできる。
【0007】
少なくとも一実施形態によれば、本半導体レーザは、p接触層を有する。p接触層は、p領域の上に直接位置していることが好ましい。さらにp接触層は、電流を印加するため、p領域に直接設けられている。
【0008】
p接触層は、金属からなる、または透明導電性酸化物(略してTCO)の種類の材料からなる(例えばZnOまたはITOからなる)ことが好ましい。
【0009】
少なくとも一実施形態によれば、本半導体レーザは、pコンタクト構造を備えている。pコンタクト構造は、p接触層の上に直接位置していることが好ましい。p接触層には、pコンタクト構造を介して電流が供給される。したがって、pコンタクト構造は導電性である。
【0010】
少なくとも一実施形態によれば、pコンタクト構造は、金属または金属合金から形成されている。pコンタクト構造は、複数の部分層から構成することができる。pコンタクト構造は、次の金属、すなわち、Au、Ag、Ni、Sn、Pd、Pt、Rh、Ti、のうち、1種類または複数種類(混合されている、または部分層に分けられている)を含む、または1種類または複数種類からなることが好ましい。p接触層は、同じ金属から形成することができる。
【0011】
少なくとも一実施形態によれば、半導体積層体は、2つ、または3つ以上のファセットを有する。ファセットは、共振器(この中でレーザ放射が生成されて導かれる)の端面を形成していることが好ましい。特に、ファセットの1つは高い反射性であるように被覆されており、したがってレーザ放射に対するこのファセットの反射率は、好ましくは少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%、または少なくとも99.8%である。さらなるファセットは、本半導体レーザからレーザ放射を取り出すように設計されていることが好ましい。このファセットは、例えば、レーザ放射に対して最大で50%、または最大で70%、または最大で85%の比較的低い反射率を有する。言い換えれば、これら2つのファセット(半導体積層体の互いに反対側の端部に位置していることが好ましい)が、レーザ放射のための2つの共振器端面を形成しており、これらの端面の間に共振器が延びている。
【0012】
少なくとも一実施形態によれば、pコンタクト構造は、関連する電流保護領域が上に位置しているファセットと同一平面内で終了している。この構造は、最大で5μm、または最大で2μm、または最大で0.5μmの公差で適用されることが好ましい。すなわちコンタクト構造は、関連するファセットよりも突き出しておらず、逆も同様である。
【0013】
少なくとも一実施形態によれば、本半導体レーザは、電流保護領域を有する。電流保護領域は、ファセットの少なくとも1つのすぐ上に位置している。電流保護領域は、レーザ放射が通過するファセットそれぞれに存在していることが好ましい。少なくとも1つの電流保護領域においては、p領域への電流の印加が抑制される。例えば、電流保護領域における電流の印加は、p領域の他の領域と比較して、少なくとも1/10、または少なくとも1/100、または少なくとも1/500に減少する。p領域は活性ゾーンに平行な方向に低い導電率を有することが好ましいため、ファセットの直近においては活性ゾーンに電流が供給されることを防止することが可能である。
【0014】
少なくとも一実施形態によれば、電流保護領域は、関連するファセットに垂直な方向において、0より大きい範囲を有する。この範囲は、特に、少なくとも0.5μm、または少なくとも5μm、または少なくとも10μmである。これに代えて、またはこれに加えて、電流保護領域の範囲は、最大で100μm、または最大で30μm、または最大で20μmである。さらには、電流保護領域の範囲を、レーザ放射のための共振器の長さの最大で20%、または最大で10%、または最大で5%、または最大で2%とすることが可能である。
【0015】
少なくとも一実施形態においては、本半導体レーザは、半導体積層体を備えている。半導体積層体は、n型導電性のn領域と、p型導電性のp領域と、レーザ放射を生成する中間の活性ゾーンと、を備えている。電流を印加する目的で、導電性のp接触層がp領域の上に直接位置している。p接触層には、導電性であり金属のpコンタクト構造が直接結合されている。半導体積層体の2つのファセットは、レーザ放射のための共振器端面を形成している。ファセットの少なくとも1つのすぐ上の少なくとも1つの電流保護領域においては、p領域への電流の印加が抑制される。pコンタクト構造は、関連するファセットと同一平面内で終了している。
【0016】
レーザに基づく用途(例えば投影、照明、または材料加工)の比較的堅調に成長している市場において、従来のレーザダイオードは、その最大出力パワー、効率、および耐用年数の面で制限されている。本明細書に記載されている半導体レーザの場合、電流保護領域のおかげで、ファセットへの光損傷(光学損傷(略してCOD)とも称する)に起因する自然故障率が減少する。
【0017】
これに加えて、電流保護領域が存在するにもかかわらず、(例えばウェハ上に成長した)半導体積層体の標準的な分離工程を使用することができる。このことが可能であるのは、特に、半導体積層体にpコンタクト構造が領域全体にわたり連続的に形成されており、個片化するまで連続的な金属層として残ることができるためである。これにより、従来の個片化工程と比較して、半導体積層体の歪みの変化を回避することができる。
【0018】
少なくとも一実施形態によれば、p接触層およびpコンタクト構造は、活性ゾーンに平行な方向において、少なくとも1つ、好ましくはすべてのファセット、および/または、共振器端面と、同一平面内で終了している。
【0019】
少なくとも一実施形態によれば、本半導体レーザの動作時、レーザ放射がp接触層に達しない、または著しく達することはない。言い換えれば、p領域は、レーザ放射をp接触層から遮蔽するうえで十分に厚い。これに代えて、p接触層がレーザ放射に対して透明であり、本半導体レーザにおける導波システムの一部を構成することが可能である。
【0020】
少なくとも一実施形態によれば、p接触層は、少なくとも1つの電流保護領域から、またはすべての電流保護領域から、特に完全に、除去されている。p領域にはp接触層のみを介して電流が印加されることが好ましいため、電流保護領域は電流の供給から除外される。
【0021】
少なくとも一実施形態によれば、電流保護領域におけるpコンタクト構造は、p領域に直接接触している。特に、電流保護領域におけるpコンタクト構造は、領域全体にわたりp領域に形成されている。
【0022】
少なくとも一実施形態によれば、少なくとも1つの電流保護領域においてp領域の上に、好ましくはp領域の上に直接、電気絶縁体層が位置している。絶縁体層は、電気絶縁性である、または低い導電性であり、したがって絶縁体層の導電率は、p接触層の導電率の少なくとも1/10、または少なくとも1/100、または少なくとも1/1000である。絶縁体層は、例えば、セラミック材料、ガラス、誘電体、窒化物、および/または酸化物、から形成されている。例えば、絶縁体層は、次の材料、すなわち、Al
2O
3、SiO
2、TiO
2、Ta
2O
5、HfO
2、Si
3N
4、AlN、SiC、ダイヤモンドライクカーボン(略してDLC)(diamond-like carbon)、のうちの1種類または複数種類からなる、または1種類または複数種類を含む。絶縁体層は、原子層成長法(略してALD)によって作製されることが好ましい。これに代えて、絶縁体層を、スパッタリング、化学気相成長法、または熱蒸着によって作製することが可能である。
【0023】
少なくとも一実施形態によれば、絶縁体層は、電流保護領域の全体において一定の厚さを有する。言い換えれば、絶縁体層の厚さの特定の変化は設定されていない。
【0024】
少なくとも一実施形態によれば、絶縁体層の厚さは、p接触層の厚さの最大で75%、または最大で50%、または最大で20%、または最大で5%である。これに代えて、またはこれに加えて、絶縁体層の厚さは、少なくとも20nm、または少なくとも50nm、または少なくとも100nmである、および/または、最大で1μm、または最大で500nm、または最大で100nmである。これに代えて、絶縁体層が、p接触層と同じ厚さである、またはp接触層より厚いことも可能である。
【0025】
少なくとも一実施形態によれば、絶縁体層は、主面においてp領域に直接隣接しており、反対側の主面においてpコンタクト構造に直接隣接している。両方の主面は、p領域の材料およびpコンタクト構造の材料によって完全に覆われていることが好ましい。言い換えれば、この場合に絶縁体層は、その全体がpコンタクト構造とp領域との間に直接的に位置している。横方向には(すなわち活性ゾーンに平行な方向には)、絶縁体層はp接触層に直接隣接していることができる。
【0026】
少なくとも一実施形態によれば、絶縁体層は、関連するファセットを部分的に、または完全に覆っている。特に、ファセットにおける活性ゾーンの領域が絶縁体層によって覆われている。
【0027】
少なくとも一実施形態によれば、絶縁体層は、複数の層から構成されている。したがって、絶縁体層は積層体とすることができ、この積層体によって、関連するファセットの反射率が設定される。例えば、絶縁体層は、反射防止層として、または高い反射性のミラーとして、設計されている。絶縁体層は、レーザ放射に対する屈折率の高い層と低い層とが交互に並ぶ一連の層を有することができる。
【0028】
少なくとも一実施形態によれば、絶縁体層は、良好な熱伝導率を有する材料から形成されている。これにより、関連するファセットに近い領域から、好ましくは高い熱伝導性のpコンタクト構造への熱結合が確保される。この場合、絶縁体層の材料は、特に、ダイヤモンドライクカーボン、SiC、またはAlNである。この場合には、絶縁体層の材料の特定の熱伝導率は、好ましくは少なくとも10W/m・K、または少なくとも50W/m・K、または少なくとも100W/m・Kである。
【0029】
少なくとも一実施形態によれば、少なくとも1つの電流保護領域においてp領域が修正されている。この修正の結果として、この電流保護領域においてはp領域への電流注入が阻止される、または大幅に減少する。例えば、電流保護領域においてp領域に粗面化部を形成する、あるいは、半導体積層体の結晶品質および/またはp型導電性を低下させる。これは、例えば、半導体積層体への逆スパッタリングまたはエッチングによって、あるいはプラズマ損傷(plasma damage)によって、達成することができる。言い換えれば、修正によって、p接触層とp領域の間の接触抵抗、および/または、pコンタクト構造とp領域の間の接触抵抗、が高まる。
【0030】
少なくとも一実施形態によれば、少なくとも1つの電流保護領域におけるp領域において、p接触層が直接修正されている。p接触層を修正することによって、この電流保護領域においてはp領域への電流注入が減少する。例えば、p接触層に透明導電性酸化物が使用されている場合、p領域への接触抵抗および/または導電率は、選択的な被覆と組み合わせての適合した温度処理によって設定することができる。修正された領域は、領域全体にわたりpコンタクト構造および/またはp接触層に直接隣接することができる。
【0031】
少なくとも一実施形態によれば、少なくとも1つの電流保護領域において、p接触層が部分的にのみ除去されている。この場合、この電流保護領域において、p接触層は本半導体レーザの別の構成要素によって置き換えられていないことが好ましい。例えば、この電流保護領域におけるp接触層の位置に、凹部または空洞部が形成されている。
【0032】
少なくとも一実施形態によれば、電流保護領域において、p接触層が部分的に除去されている。除去されたp接触層の領域は、さらなる材料によって満たすことができる。さらなる材料は、レーザ放射に対する低い光屈折率を有することが好ましく、かつ電気絶縁性であることが好ましい。さらなる材料は、絶縁体層と同じ材料とすることができる。この点において、さらなる材料に関しては、絶縁体層に関する記述を参照されたい。
【0033】
少なくとも一実施形態によれば、少なくとも1つの電流保護領域において、p接触層が部分的にのみ除去されており、かつ、関連するファセットに向かう方向に減少していく厚さを有する。この厚さは、ファセットに向かう方向に単調に、または厳密に単調に減少することが好ましい。厚さの減少は、直線状に、または曲線を伴って行うことができる。
【0034】
少なくとも一実施形態によれば、p接触層が、関連するファセットの直近において完全に除去されている。p接触層が完全に除去されているこの領域は、このファセットに垂直な方向において、少なくとも0.5μm、または少なくとも2μm、または少なくとも5μmである、あるいは、またはこれに加えて、関連する電流保護領域(すなわちp接触層が少なくとも部分的に除去されている領域)の範囲の最大で70%、または最大で50%、または最大で20%の範囲、を有することが好ましい。
【0035】
少なくとも一実施形態によれば、p接触層が電流保護領域に存在する。この場合、p接触層は、電流保護領域全体にわたり一定の厚さで延在していることが好ましい。特に、p接触層が、活性ゾーンに平行な方向において、関連するファセットと同一平面内で終了している、および/または、pコンタクト構造と端部が揃っている、ことが可能である。
【0036】
少なくとも一実施形態によれば、pコンタクト構造の材料は、p接触層の材料よりも、p領域における高い接触抵抗を有する。電流保護領域の境界部のうち、関連するファセットとは反対側の境界部においては、p接触層およびpコンタクト構造は、領域全体にわたり互いに接触していることが好ましい。
【0037】
少なくとも一実施形態によれば、p接触層は、活性ゾーンに平行な方向において、pコンタクト構造から隔てられている。この場合、活性ゾーンに平行な方向において、p接触層とpコンタクト構造との間に空洞部を形成することができる。
【0038】
少なくとも一実施形態によれば、本半導体レーザは、ストライプレーザ(strip laser)である。ストライプレーザは、リッジ導波路(ridge waveguide)を有する。ファセット間の共振器におけるレーザ放射の導波は、このリッジ導波路を介して可能になる。リッジ導波路は、特に、p領域の一部をp領域の残りの領域より高くすることによって形成されている。レーザ放射のための共振器に垂直な方向におけるリッジ導波路の幅は、例えば、少なくとも1μm、または少なくとも5μm、および/または、最大で50μm、または最大で15μmである。
【0039】
以下では、本発明の半導体レーザについて、例示的な実施形態に基づいて図面を参照しながらさらに詳しく説明する。個々の図において、同じ参照記号は同じ要素を示している。しかしながらこの場合、要素間の関係を正しい縮尺では示しておらず、むしろ、深く理解できるようにする目的で、個々の要素を誇張した大きさで表現していることがある。