(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571872
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】再吸収可能な架橋された形状安定膜
(51)【国際特許分類】
A61L 27/46 20060101AFI20190826BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20190826BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20190826BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20190826BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20190826BHJP
A61L 27/24 20060101ALN20190826BHJP
A61L 27/12 20060101ALN20190826BHJP
【FI】
A61L27/46
A61F2/28
A61L27/36 311
A61L27/36 100
A61L27/36 110
A61L27/58
A61L27/56
!A61L27/24
!A61L27/12
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-528626(P2018-528626)
(86)(22)【出願日】2016年12月2日
(65)【公表番号】特表2018-537193(P2018-537193A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(86)【国際出願番号】EP2016079622
(87)【国際公開番号】WO2017093502
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2018年8月17日
(31)【優先権主張番号】15198070.3
(32)【優先日】2015年12月4日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508326459
【氏名又は名称】ガイストリッヒ ファーマ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シュティーフェル,ニクラウス
(72)【発明者】
【氏名】シュテンツェル,セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン,ラファエル
【審査官】
岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−515035(JP,A)
【文献】
特開2002−248119(JP,A)
【文献】
特開平07−088174(JP,A)
【文献】
特開平11−199209(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0193477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/46
A61F 2/28
A61L 27/36
A61L 27/56
A61L 27/58
A61L 27/12
A61L 27/24
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔で使用するための再吸収可能な架橋された形状安定膜であって、1重量部のコラーゲン材料に対して1.5〜3.5重量部の無機セラミックを含むコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を含み、前記複合層は予備延伸した弾性コラーゲン材料(その応力・ひずみ曲線の線形/弾性領域になるように延伸したコラーゲン材料)の二つの層で挟まれ、前記コラーゲン材料は50〜100%(w/w)のコラーゲン及び0〜50%(w/w)のエラスチンを含む、再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項2】
コラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層が1重量部のコラーゲン材料に対して2.0〜3.0重量部の無機セラミックを含む、請求項1記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項3】
コラーゲン材料が70〜90%(w/w)のコラーゲン及び10〜30%(w/w)のエラスチンを含む、請求項1又は2記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項4】
コラーゲン材料が、哺乳類の腹膜又は心膜、胎盤膜、小腸粘膜下層組織(SIS)、真皮、硬膜、靭帯、腱、隔膜(例えば横隔膜)、網、及び筋肉又は臓器の筋膜からなる群から選択される天然起源の組織に由来する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項5】
コラーゲン材料が、豚、牛、又は馬の、腹膜又は心膜、小腸粘膜下組織(SIS)又は筋肉の筋膜に由来する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項6】
予備延伸した弾性コラーゲン材料が、2〜150MPaの弾性率を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項7】
予備延伸した弾性コラーゲン材料が、5〜500μmの孔を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項8】
無機物粒子が、150〜500μmの大きさを有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項9】
無機セラミックが、ヒドロキシアパタイトである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項10】
無機セラミックが、ヒドロキシアパタイトの骨無機物である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項11】
化学的に架橋された、請求項1〜10のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項12】
脱水加熱処理(DHT)により架橋された、請求項1〜10のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜を製造する方法であって、
(a)無機セラミック粒子及びコラーゲン材料の複合層を製造し、場合によりその複合層を架橋する工程、
(b)コラーゲン材料の延伸を応力・ひずみ曲線の線形領域に導く張力がけに付したコラーゲン材料の二つの層の間に、前記コラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を組み立て、及び接着し、それにより予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を提供する工程、並びに
(c)予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子のその複合層を架橋し、その後親水性化処理を行う工程
を含む、方法。
【請求項14】
親水化処理が、予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の架橋された複合層を塩化ナトリウム溶液に浸すことを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ヒト又は動物の、何も含まない歯骨欠損部位における、骨形成、骨再生、骨修復、及び/又は骨置換を支援するためのインプラントとして使用する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の再吸収可能な架橋された形状安定膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内で使用される新規の再吸収可能な架橋された形状安定膜(resobable closslinked form stable membrane)、その膜を製造する方法、並びにヒト又は動物の、何も含まない(囲まれていない)歯骨欠損部位(non-containing dental bony defect site)における、骨形成、骨再生、骨修復、及び/又は骨置換を支援するためのインプラントとしてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
何も含まない(囲まれていない)骨欠損(non-containing bony defect)を骨形成によって再生するためには、例えば上顎又は下顎中の水平又は垂直方向の増強の際に、その欠損の機械的な安定化が求められる。(Bendkowski 2005「成長のための空間(Space to Grow)」The Dentist:3;Merli,Migani et al.2007 Int.J.Oral Maxillofac.Implants22(3):373−82;Burger 2010 J.Oral Maxillofac.Surg.68(7):1656−61;Louis 2010 Oral Maxillofac.Surg.Clin.North Am.22(3):353−68)。実際に、口腔組織は咀嚼、嚥下、舌の動き、発話、歯の動き、及び矯正治療の間に、複雑な機械的な力に曝される。特に外科手術後の創傷治癒の間に、再生デバイス及び新規に形成された組織の上に圧力、せん断力、曲げモーメントを引き起こす、内部及び外部の力が発生しうる。
【0003】
それらの力に耐える形状安定膜はその機械的安定性をもたらすための有効な手段である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この目的のために、チタンメッシュ(Ti‐Meshes)、チタンプレート(Ti‐plates)、又はチタン強化PTFE(Ti‐Reinforced PTFE)形状安定膜を使用することは公知であるが、それらは骨再生後に第2の手術の間に除去される必要がある。市販のチタン強化PTFE形状安定膜の例としてCytoplast(登録商標)膜がOsteogenicsより販売されている。しかしながら、拡張されたチタン強化膜を使用した時に、離開(開裂)又は他の困難な事態の発生が高くなることが報告されている(Strietzel 2001 Mund Kiefer Gesichtschir.5(1):28−32;Merli,Migani et al.2007 supra;Rocchietta,Fontana et al.2008 J.Clin.Periodontol.35(8 Suppl):203−15)。
【0005】
非強化PTFE膜は、1996年の再吸収可能なコラーゲン膜の採用に先立って広く使用されたが、コラーゲン膜の採用後は急速に消滅した。
【0006】
第2の手術での形状安定膜又はメッシュの除去の必要性を避けるために、再吸収可能な形状安定膜が興味を引いている。実質的にPLA(ポリ乳酸)又はPLGA(乳酸、グリコール酸コーポリマー)から作られた、いくつかの再吸収可能な形状安定膜又はメッシュが記載されている。例としてはとりわけ、(1)KLS Martin社からの“Sonic Weld RX(登録商標)”及び“Resorb‐X(登録商標)”、(2)Sunstar Americas社からの“Guidor(登録商標)”、(3)Curasan社からの“Inion GTR System(商標)”、(4)Depuy Synthes社からの“RapidSorb(登録商標)”、がある。それらの膜の不都合な点は、それらのインビボでの加水分解の間に、それらが組織の刺激及び阻害された創傷治癒の組織学的兆候の原因となる乳酸、及び/又はグリコール酸を放出することである(Coonts,Whitman et al.1998 Biomed.Mater.Res.42(2):303−11;Heinze 2004 Business briefing:Lobal Surgery:4;Pilling,Mai et al.2007 BrJ.Oral Maxillofac.Surg.45(6):447−50)。
【0007】
PLGA/PLAの創傷治癒に関連した問題を克服するために、患者からの自家骨ブロック及び部分的又は完全に精製した骨ブロック、たとえば、Geistlich Bio‐Oss(登録商標)Block(Geistlich Pharma A.G.)又はPuros(登録商標)Allograft Block(RTI Surgical Inc.)、などの使用が広く容認されている。自家骨ブロックはそれらの別の部位からの採取が、さらなる痛みを引き起こすという欠点を有している(Esposito,Grusovin et al.2009 Eur.J Oral Implantol.2(3):167−84)。
【0008】
手術中に採取した自家骨片の使用を可能にするために、通常異種骨移植片との組み合わせで、下顎からの自家皮質骨を利用する、いわゆる骨保護(bone shield)技術が開発された(Khoury,Hadi et al.2007「口腔インプラント学における骨増強(Bone Augmentation in Oral Implantology)」,London,Quintessence)。この方法の欠点は、それが極めて炎症を起こしやすい技法であり、かつ他の部位の合併症及びさらなる痛みと関連していることである。さらに骨保護は横方向のみに適用され、そのために欠損の歯冠面からの機械的な保護は得られないことである。用語「骨保護」はPLA/PLGA膜並びに部分的に脱灰された皮質骨保護(Semi‐Soft and Soft Lamina Osteobiol(登録商標)Tecnoss社製)の宣伝のために使用された。この脱灰された骨保護の欠点は、この湾曲した骨保護を常に固定しなければならないこと、それらが例えばTi強化PTFE膜と比較して相対的に厚いこと、及びそれらが骨欠損の歯冠面上に曲がった端を伴い唯一円形状で付随することである。歯科医にとって歯槽堤(ridge)の歯冠面には6〜8mm幅の平坦域(plateau)がよりいっそう好ましい(Wang and AL−Shammari2002 Int.J.Periodontics Restorative Dent.22(4):335−43)。
【0009】
無事な治癒及び形状安定性を兼ね備える試みとして、米国特許公報第8353967−B2号に開示されている再吸収可能な形状安定膜があるが、その膜は5〜25%エタノール/水中のコラーゲン懸濁液を型に入れ、凍結乾燥し、100から140℃に加熱することで製造される。そのような膜が米国Osseous Technologies社により製造され、そして商標名“Zimmer CurV Preshaped Collagen Membrane”のもとにZimmer社より市販されている。その業務用膜は弱い形状安定性、及び食塩水中のインキュベートの後におおよそ約2.3mmに膨張する約1.5mmの厚みを有しているが、これは高い離開率の危険性につながる可能性がある。
【0010】
要約すれば、現在の解決法は、上に述べたように、歯科医又は患者にとって十分に満足するものではない。あるいは第2の手術が必要になり、及び/又は、多事な創傷治癒の高い危険性がある。多事な創傷治癒の高い危険性に関与しない解決法は、第2の手術を要求する又は他の不都合を有する形状安定膜ではない。
【0011】
米国特許出願公開第2013/0197662号は、a)コラーゲンを含む適量のゲルを非多孔質でコラーゲンをベースとした材料の接合表面に適合し、多孔質のコラーゲンベースの材料を、接合表面に適用したゲルと接触させて、材料間の境界面でその多孔質の材料の一部分を部分的に水和すること、b)それらの材料を一緒に接合するためにゲルを乾燥すること、及びc)接合層中のコラーゲンを架橋すること、を含む生体材料の製造方法を開示している。製造し得られた生体材料は多孔質のコラーゲンをベースとした材料(それは無機質化されてもよいが[0042]、[0048])と、機械的強度のある非多孔質のコラーゲンをベースとする材料を結びつけるが、この結果として耐力組織(とりわけ半月板、関節軟骨、腱、および靭帯)の再生のための骨組を提供し、それは多孔性及び機械強度を共に有する、すなわち圧縮及び引張りの力に耐えうる。その結合された生体材料の曲げモーメントに対する耐性、又は無機質化した多孔質のコラーゲンをベースとした材料の組成については何も開示していない。
【0012】
米国特許出願公開第2014/0193477号は可溶性コラーゲンから得られたコラーゲンマットの製造において、架橋する前にそのコラーゲンを引き伸ばすと機械的強度、とりわけ、最大抗張力(UTS)、剛性及び弾性率(ヤング率)が増加することを教示している(特に[0109]、[0110]を参照のこと)。
【0013】
Langdon,Shari E et al.,Biomaterials 1998,20(2),137−153 CODEN、及びChaChra,Debbie et al.,Biomaterials 1996,17(19),1865−1875 CODENは、心膜由来の膜を架橋前に引き伸ばすと引っ張り強度及び剛性が増加することを開示している。
【0014】
本発明の目的は、圧力、剪断力、及び曲げモーメントに対して適切に耐え、例えば、何も含まない(囲まれていない)骨欠損部位(non-containing bony defect site)における、骨形成、骨再生、骨修復、及び/又は骨置換などを適切に支援する、特に上顎又は下顎の水平又は垂直方向の増強の際、口腔内で使用される再吸収可能な形状安定膜を提供することであるが、この膜は上記の欠点を有しない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本目的は特許請求の範囲において定義される本発明により達成される。
【0016】
本発明は予備延伸した弾性コラーゲン材料(elastic pretensed collagen material)の2つの層の間に挟まれた1重量部のコラーゲン材料に対して1.5〜3.5重量部の無機セラミックを含むコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を含む、口腔に用いられる再吸収可能な架橋された形状安定膜を提供するが、ここで、このコラーゲン材料は50〜100%(w/w)のコラーゲン及び0〜50%(w/w)のエラスチンを含む。
【0017】
用語「コラーゲン材料」はここで50〜100%(w/w)のコラーゲンと0〜50%(w/w)のエラスチンを含むコラーゲンをベースとする材料を意味する。エラスチン含量は、ここで加水分解及びRP−HPLCを伴う公知の方法を改良した方法にしたがったデスモシン/イソデスモシンの定量により測定される。(例えばGuida E.et al.1990 「組織中のデスモシンの定量のための高性能クロマトグラフィー法の開発と検証(Development and validation of a high performance chromatography method for the determination of desmosines in tissues)」in Journal of Chromatography、又はRodriguqe P 2008 「出産前発達中のマウス肺のエラスチン定量化(Quantification of mouse Lung Elastin During Prenatal Developement)」in The Open Respiratory Medicine Journalを参照のこと)。乾燥エラスチンのデスモシン/イソデスモシンの含量を測定するために、コラーゲン材料のエラスチンは1976年にStarcher及びGalioneにより記述されたエラスチン単離工程に供される(「異なる動物種からのエラスチンの精製と比較(Purification and Comparison of Elastin from Different Animal Species)」in Analytical Biochemistry)。
【0018】
このコラーゲン材料はそのようなコラーゲンとエラスチンの比率を含む天然起源の組織から適切に抽出される。そのような組織の例としては脊椎動物の、特に哺乳類(例えば豚、牛、馬、羊、ヤギ、ウサギ)の腹膜又は心膜、胎盤の膜組織、小腸粘膜下組織(SIS)、真皮、硬膜、靭帯、腱、隔膜(横隔膜)、網、筋肉又は臓器の筋膜を含む。上記組織で好ましくは豚、牛、馬のものである。興味深い組織は豚、牛、馬の腹膜の膜組織である。
【0019】
通常このコラーゲンは主にコラーゲンI型、コラーゲンIII型、又はそれらの混合物である。そのコラーゲンはまた、とりわけコラーゲンII型、IV型、VI型、若しくはVIII型、又はそれらのいかなる組み合わせ、又はいかなるコラーゲンの型を一定割合含んでいてもよい。
【0020】
好ましくは、このコラーゲン材料は70〜90%(w/w)のコラーゲン及び30〜10%(w/w)のエラスチンを含む。
【0021】
そのようなコラーゲン材料を製造するための適切な出発材料の例は、欧州特許第B1-1676592号の実施例に記載されたものと同様の方法で製造された豚、牛、又は馬の腹膜若しくは心膜からのコラーゲン膜、又は同様の方法で豚の腹膜から製造された膜Geistlich Bio‐Gide(登録商標)(Geistlich Pharma A.G.,Switzerlandより入手可能)である。
【0022】
好ましくは、コラーゲン材料は豚、牛、又は馬の、腹膜又は心膜、小腸粘膜組織(SIS)、または、筋肉筋膜由来のものである。
【0023】
このコラーゲン材料は通常及び好ましくは、天然の線維構造を伴うか、又は断裁されたコラーゲン線維としての線維状のコラーゲン材料である。
【0024】
しかしながら、十分な生体適合性及び再吸収可能性を有する分子コラーゲン又は架橋されたコラーゲン断片から再構成された原線維のような非線維状のコラーゲン材料はまた、コラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層に使用されてもよく、又は予備延伸した弾性コラーゲン材料の層に使用されてよいが、ただしそのコラーゲン材料は弾性率並びに最大引っ張り強度について十分な機械的安定性を有するコラーゲン材料である(以下を参照のこと)。
【0025】
用語「再吸収可能な」はここで、架橋された形状安定膜が、特にコラゲナーゼ及びエラスターゼの働きを通してインビボで吸収されることが可能であることを意味する。架橋された形状安定膜の制御されたインビボでの再吸収可能性は過度な炎症又は離開の無い治癒に不可欠である。以下に詳細を記述したClostridium histolicum由来のコラゲナーゼを用いた酵素分解試験はインビボでの再吸収可能性の良い予測を与える。
【0026】
本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜のすべての試験されたプロトタイプは、試験4時間後に、(コラーゲンI型を標準として用いたDCタンパク質分析により評価した時に)少なくとも10%のコラーゲンの分解を示したが、このコラーゲン分解速度は(Geistlich Bio‐Gide(登録商標)膜より低いが)用いられた架橋条件に依存する。
【0027】
用語「架橋された」は再吸収可能な形状安定膜が少なくとも一つの架橋工程、通常化学架橋(例えばEDC及びNHSを使用する)又は脱水加熱処理(DHT)による架橋の工程に従ったことを意味するが、この工程は、予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれるように組み立てられたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層について、通常化学架橋(例えばEDC及びNHSを使用する)又は脱水加熱処理(DHT)により行われる。場合によっては、このコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層は、通常は化学架橋又は脱水加熱処理によって、本発明の膜に組み立てる前に架橋される。
【0028】
用語「口腔内で使用される形状安定膜」は再吸収可能な架橋された膜が、ヒト又は動物の、何も含まない(囲まれていない)歯骨欠損部位(non-containing dental bony defect site)における、骨形成、骨再生、骨修復、及び/又は骨置換をその欠損の機械的安定性(すなわち口腔内で発生する圧力、剪断力、及び曲げモーメントに対する耐性)を提供することで支援することが可能であることを意味する。本発明の膜の形状安定性は、以下に詳細を記述する(実施例42中で)3点1軸曲げ試験により評価される:その試験はEN ISO178及びASTM D6272−10に記載された方法と同様であるが、本発明の膜は温度37℃及びpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に沈められる。その試験では本発明による膜は競合のPLA膜Resorb-X(登録商標)(KLS Martin)よりも実質的により強い安定性をもたらした。
【0029】
通常その3点1軸曲げ試験において、再吸収可能な架橋された形状安定膜は8mmのひずみのための少なくとも0.20N、好ましくは少なくとも0.30Nの力に対して耐える。
【0030】
用語「予備延伸した弾性コラーゲン材料層」は、架橋に先立って、そのコラーゲン層が応力・ひずみ曲線のつま先(toe)領域から線形(弾性とも呼ばれる)領域にコラーゲン材料層の初期の寸法を伸張又は延伸に導く張力がけ(tensioning)に付したことを意味する(Blayne A.Roder et al.,2002,Journal of Biomechanical Engineering,124,214−222,具体的にはFig.3,216ページ,又は本願のFig.5を参照のこと)。この線形領域内で弾性率は最も高く、それ故に最も高い剛性が達成されうる。その張力がけはコラーゲン材料片に、例えば、ばね類により放射状に行われてもよい。コラーゲン材料を応力・ひずみ曲線の線形領域への伸張又は延伸に導く上記の張力がけに適用される力は、そのコラーゲン材料に依存する。コラーゲン材料が豚、牛、又は馬の腹膜の膜組織由来の場合、そのコラーゲン材料の応力・ひずみ曲線の線形領域に導く張力がけは、コラーゲン材料片に放射状に、ばねにより1〜3Nで行われてもよく、コラーゲン材料層の初期の寸法の40〜100%の伸張又は延伸に導く。
【0031】
用語「予備延伸した弾性コラーゲン材料」は、かくして、応力・ひずみ曲線の線形/弾性領域になるように延伸したコラーゲン材料を意味する。
【0032】
この予備延伸した弾性コラーゲン材料の弾性率(ヤング率とも呼ばれる)、すなわちMPaで表現される応力・ひずみ曲線の線形領域の傾きは通常1〜1000MPaであり、好ましくは2〜150MPaであり、とりわけ5〜80MPaである。
【0033】
コラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を挟み込む「予備延伸した弾性コラーゲン材料」の二つの層の存在は、その膜が引っ張り、圧縮、剪断の力及び曲げモーメントに付されるとき、複合層を破壊から守るために必要であるように思われる。
【0034】
好ましくは、予備延伸した弾性コラーゲン材料層の一つは5〜500μmの孔を含む。その膜が所定の位置にあるとき、予備延伸した弾性コラーゲン材料の穿孔された層は骨欠損の方向に向い、その孔は造骨細胞が無機セラミックコラーゲン複合材料に容易に侵入することを可能にする。
【0035】
この無機セラミックは例えばヒドロキシアパタイト又は天然骨無機物のような骨再生を促進する生体適合性材料である。
【0036】
歯、歯周、あご顔面の骨の欠損において骨の成長を促進する周知の自然骨無機物はGeistlich Phara AGより購入可能なGeistlic Bio-OSS(登録商標)である。そのヒドロキシアパタイトをベースとした骨無機物材料は米国特許第5,167,961号に記載の方法により自然骨から製造されるが、これは、その自然骨の小柱構造及びナノ結晶構造の維持を可能にする。
【0037】
好ましくは、この無機セラミックはヒドロキシアパタイトをベースとする、例えばGeistlich Bio‐Oss(登録商標)などの自然骨無機物である。
【0038】
この無機セラミック粒子は通常50〜600μm、好ましくは150〜500μm、とりわけ250〜400μmの大きさを有する。
【0039】
コラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合材料は1重量部のコラーゲン材料に対して、1.5〜3.5重量部、好ましくは2.0〜3.0重量部の無機セラミックを含む。
【0040】
実際に、1重量部のコラーゲン材料に対して無機セラミックが1.5重量部未満、又は1重量部のコラーゲン材料に対して無機セラミックが3.5重量部を上回ると、その膜は、上記に規定され、かつ以下に詳細に記述する3点1軸の曲げ試験(実施例4.2)により評価された「形状安定」ではないことが予想外に見出された。形状安定性はコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合材料が1重量部のコラーゲン材料に対して2.0〜3.0重量部の無機セラミックを含むときに特に高い。
【0041】
本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜は親水性であり、通常PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中に5〜10分で完全に湿潤される。
【0042】
本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜は、離開(開裂)又は過度の炎症の割合の低い良好な治癒特性により知られているGeistlich Bio‐Gide(登録商標)のそれらと同様な細胞接着特性を有する。これは離開又は過度の炎症のような不利な出現のない良好な治癒特性を暗示している。
【0043】
このような良好な治癒特性は、本発明の架橋された形状安定膜をウサギの頭蓋骨に起こった骨欠損を保護するために移植する際に観察された。
【0044】
本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜の厚みは通常0.5〜2.5mm、好ましくは1.0〜2.0mm、とりわけ1.2〜1.8mmである。
【0045】
本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜の通常の形状及び通常の寸法は
図1に示される。
【0046】
本発明はまた、ヒト又は動物の、何も含まない(囲まれていない)歯骨欠損部位(non-containing dental bony defect site)における、骨形成、骨再生、骨修復、及び/又は骨置換を支援するためのインプラントとして使用される上記再吸収可能な架橋された形状安定膜に関する。
【0047】
本発明はまた予備延伸された弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を含む、上に定義された再吸収可能な架橋された形状安定膜を製造する方法に関するが、その工程は
(a)コラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層(場合によってその複合層は架橋される)を製造する工程、
(b)コラーゲン材料を応力・ひずみ曲線の線形領域への延伸に導く張力がけに付した二つのコラーゲン材料の層の間にコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を組み立て、接着し、それにより予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれた、コラーゲン材料及び無機セラミック材料の複合層を提供する工程、及び
(c)予備延伸した弾性コラーゲン材料の2つの層の間に挟まれたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を架橋し、その後親水化処理を施す工程を含む。
【0048】
工程(a)は以下によって行われてもよい:
‐無機セラミック粒子として、米国特許公開公報第A−5417975号に記載の方法と同様の工程により、又はその代りにGeistlich Bio‐Oss Small Granules(Geistlich Pharma AGより入手可能)を更に微粒子に粉砕することにより、皮質又は網状の骨から得たヒドロキシアパタイト骨無機物粒子を製造し、それら粒子を所望の範囲の(例えば150〜500μm又は250〜400μm)篩にかけ、それにより篩別されたヒドロキシアパタイト骨無機物粒子を提供する。
‐線維状のコラーゲン材料を、
・豚、牛、又は馬の腹膜又は心膜からのコラーゲン豊富な組織を欧州登録特許公報第1676592号(B1)の実施例に記載されたものと同様の工程にかけること、又はそれに代えて同様の工程で豚の腹膜から調製されたGeistlich Bio‐Gide membrane(Geistlich Pharma AGより入手可能)又はGeistlich Bio‐Gide membraneの工業生産時の滅菌前に入手した中間製品、ここでは非滅菌Geistlich Bio‐Gide membraneと呼ぶ、から開始すること、
・上記に記載した方法で得たコラーゲン線維組織を(例えばはさみにより)裁断片にし、それらコラーゲン線維組織の裁断片をドライアイスと共にナイフミルを用いて混合し、この方法で断裁したコラーゲン線維を供給すること、
・コラーゲン線維組織片を篩別を伴うカッティングミルで断裁し、この方法でコラーゲン線維断片の篩別された分別物を提供すること、
により製造する。
‐線維状のコラーゲン材料及びヒドロキシアパタイト骨無機物粒子の複合層を、
・0〜40重量%の断裁したコラーゲン線維及び上記で得られた60〜100重量%の篩別したコラーゲン線維断片の篩別された分別物をリン酸緩衝生理食塩水PBS中で混合及び振とうすること、
・上のパラグラフの中で得られた1重量部の線維状のコラーゲンに1.5〜3.5重量部、とりわけ2.0〜3.0重量部の上記で得られた篩別されたヒドロキシアパタイト骨無機物粒子を加え、2000〜6000xg(遠心加速度)、好ましくは3000〜5000xgで遠心分離し、得られたペレットを長方形の型に注ぎ、へらを用いて板状に成形すること、その線維状のコラーゲン材料及びヒドロキシアパタイト骨無機物粒子の複合層を真空乾燥器中で乾燥する、
により製造する。
【0049】
(a)の最後で乾燥したコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を架橋することは必須ではないが、このことは、工程(b)の間にその複合層の扱いを容易にする利点を有する。
【0050】
その架橋は化学的に行われてもよく、又は脱水加熱処理(DHT)によって行われてもよい。
【0051】
化学薬品を用いる架橋は、架橋された形状安定膜に要求される機械的強度を付与することの可能ないかなる薬学的に許容できる架橋剤を用いて行われてもよい。かかる適切な架橋剤は、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、1,4‐ブタンジグリシジルエーテル(BDDGE)、N‐スルホサクシニミジル‐6‐(4’‐アジド‐2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノアート、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDC)、シアナミド(cynamide)、ジフェニルホスホリルアジド、ゲニピン、EDC(1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)‐カルボジイミド)並びにEDC及びNHS(N‐ヒドロキシスクシンイミド)の混合物を含む。
【0052】
化学薬品を用いる架橋はEDC及びNHSの混合物を使用し都合よく行われる。
【0053】
その場合、上記により得られた乾燥された線維状のコラーゲン材料及びヒドロキシアパタイト骨無機物粒子の複合層は、0.1M MES(2‐(N‐モルホリノ)‐エタンスルホン酸)及び40%エタノール溶液中の10〜400mM EDC及び13〜520mM NHSの中でpH5.5、室温で1〜3時間、架橋されてもよい。その反応はその後0.1M Na
2HPO
4の緩衝液でpH9.5、1〜3時間を2回、プロトタイプをインキュベートすることで停止されてもよい。極性の残渣は1M 塩化ナトリウム溶液で1時間及び2M 塩化ナトリウム溶液で1時間を2回、プロトタイプをインキュベートすることにより除去されてもよい。化学的に架橋されたプロトタイプは蒸留水中で30〜60分間合計8回洗浄してもよい。次に乾燥はエタノール中で15分間合計5回の浸漬により実施し、その後5分間のジエチルエーテル処理を3回行い、続く乾燥を40℃及び10mbarで一晩行ってもよいが、又は凍結乾燥(標準の凍結乾燥処理による−5℃未満の凍結及び乾燥)によってもよい。あるいは架橋は0.1〜10mbar及び80〜160℃で1〜4日間の脱水加熱処理(DHT)で行ったが、この場合は続く乾燥方法は不必要である。
【0054】
工程(b)は以下によって行われてもよい:
‐コラーゲン線維の接着剤を、
・上記コラーゲン線維断片の篩別された分別物を3%濃度でpH3.5のH
3PO
4水溶液中で高圧ホモジナイザーを用いて1500〜2000barで混合し、その混合を数回繰り返すこと、
・結果として得られたスラリーを水酸化ナトリウム溶液を加えることによりpH7.0に中和し、そのコラーゲンを凍結乾燥により濃縮し、そしてその後者をナイフミルで均質化すること、
・それをpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水PBS中で2〜10%の溶液とし、60℃で更なる粒子が見えなくなるまで加熱し得られたスラリーからコラーゲン線維接着剤を製造すること、そして
‐たとえば
図2と同様の装置を用いて、コラーゲン材料の二つの予備湿潤した層を応力・ひずみ曲線の線形領域にコラーゲン材料を延伸に導く張力がけに付し、それにより湿潤した予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層を提供し、
上記のコラーゲン線維接着剤で膨潤した(a)で得られたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を、上記湿潤した予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に差し挟み、
例えば
図3のそれと同様の装置を用いて、湿潤した予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層を、コラーゲン線維接着剤で膨潤したコラーゲン材料及び無機セラミック材料の複合層に対してプレスし、そして、
湿潤した予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子の複合層を減圧下(たとえば20〜1mbar)で乾燥すること。
【0055】
上記に記載された手法において、予備湿潤したコラーゲン材料層の一つは5〜500μmの孔を含むように針で穿孔されてもよい。
【0056】
工程(c)において、予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層の間に挟まれたコラーゲン材料及び無機セラミック粒子のその複合層の架橋は化学薬品(例えばEDC及びNHSを用いる)を用いて行ってもよく、又は脱水加熱処理DHTにより行ってもよい。
【0057】
化学架橋は、架橋された形状安定膜に要求される機械的強度を付与することの可能ないかなる薬学的に許容できる架橋剤を用いて行ってもよい。かかる最適な架橋剤は、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、1,4‐ブタンジグリシジルエーテル(BDDGE)、N‐スルホサクシニミジル‐6‐(4’‐アジド‐2’‐ニトロフェニルアミノ)ヘキサノアート、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDC)、シアナミド(cynamide)、ジフェニルホスホリルアジド、ゲニピン、EDC(1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)‐カルボジイミド)並びにEDC及びNHS(N‐ヒドロキシスクシンイミド)の混合物を含む。
【0058】
この化学薬品を使用する架橋はEDC及びNHSの混合物を使用し都合よく行われる。
【0059】
その場合、上記により得られた乾燥された線維状のコラーゲン材料及びヒドロキシアパタイト骨無機物粒子の複合層は、0.1M MES(2‐(N‐モルホリノ)‐エタンスルホン酸)及び40%エタノール溶液中の10〜400mM EDC及び13〜520mM NHSの中において、pH5.5、室温で1〜3時間架橋してもよい。その反応はその後プロトタイプを0.1M Na
2HPO
4の緩衝液でpH9.5、1〜3時間で2回インキュベートすることにより停止してもよい。極性の残渣は1M 塩化ナトリウム溶液で1時間及び2M 塩化ナトリウム溶液で1時間で2回プロトタイプをインキュベートすることにより除去してもよい。化学的に架橋されたプロトタイプは蒸留水中で30〜60分間、合計8回洗浄してもよい。次に脱水及び乾燥はエタノール中で、15分間合計5回浸漬し、その後5分間のジエチルエーテル処理を3回行い、続く乾燥を10mbar及び40℃で30分間行い実施してもよいが、或いは溶剤処理を用いず凍結乾燥(従来の凍結乾燥処理による−10℃未満の凍結及び乾燥)により実施してもよい。
【0060】
あるいは、架橋は0.1〜10mbar及び80〜160℃で1〜4日間の脱水加熱処理(DHT)で行ったが、この場合は続く乾燥方法は不必要である。
【0061】
工程(c)の親水化処理は通常、予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層に挟まれた架橋されたコラーゲン材料及び無機セラミック材料の複合層を塩化ナトリウム溶液(好ましくは100〜300g/l、とりわけ150〜250g/lの塩化ナトリウム溶液である)のような生理学的に許容される塩溶液に、親水化するよう浸漬することを含む。
【0062】
好ましくは、この親水化処理は、予備延伸した弾性コラーゲン材料の二つの層に挟まれた架橋されたコラーゲン材料及び無機セラミック材料の複合層を塩化ナトリウム水溶液に、親水化するよう浸漬することを含む。
【0063】
本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜はX線、β線、γ線照射により滅菌してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明は、本発明の好ましい実施態様の具体例となる実施例及び添付図面を参照にして更なる詳細が後述の中で説明されるが、そのなかで:
【
図1】
図1は本発明による再吸収可能な架橋された形状安定膜の代表的な形状及び代表的な寸法を示す。それらの膜は、前面、左側若しくは右側の湾曲、又は義歯の後部に位置している1〜3の歯(切歯類、犬歯、小臼歯、又は大臼歯類)の歯槽空間に合致している、平面状の(1)、(1’)、U字形状で直線状の(2)、(2’)、又はU字形状で曲線状の(3)、(3’)でもよい。前部の製品の寸法は後部の製品のサイズに類似しているが、湾曲の半径は歯槽堤に合致するようになっている。代表的な寸法はa=5〜20mm、b=8〜20mm、c=6〜10mm、d=25〜40mm、e=15mm、f=20〜40mmである。
【
図2】
図2は本発明の形状安定膜を平面形状又はU字形状に組み立てる前に、そのポリマー層を張力がけすることを可能にするために適切な装置の模式図である。
【
図3】
図3は平面形状の形状安定膜の組み立て(集合体)を示すが、ここで(1)は鋼板、(2)は圧縮されたポリウレタンスポンジ、(3)はポリアミドの網(ネット)、(4)は予備延伸した弾性コラーゲンの層、及び(5)は架橋されたヒドロキシアパタイト‐コラーゲンの板である。
【
図4】
図4はPLA膜Resorb‐X(登録商標)(KLS Martin)と比較したEDC/NHS又はDHTにより架橋された本発明の再吸収可能な形状安定膜の3点曲げ試験のひずみの作用の関数としての応力の変化を示す。
【
図5】
図5は本発明による再吸収可能な架橋された形状安定膜の、予備延伸した弾性コラーゲン材料の層中で使用可能ないくつかの市販されている、湿潤し、滅菌したコラーゲン材料の応力・ひずみ曲線を示すが、これらの材料は、すなわち、豚の腹膜由来のGeistlich Bio‐Gide(登録商標)コラーゲン膜(Geistlich Parma AG)、豚の心膜由来のJason(登録商標)コラーゲン膜(aap Biomaterials/Botiss)、豚のSIS由来のDynamatrix(登録商標)コラーゲン膜(Cook Biotech Inc.)、及び筋肉の筋膜由来のコラーゲン材料である。それらの応力・ひずみ曲線のそれぞれには、最小の応力値での大きなひずみによって特徴づけられるつま先領域、単位応力あたりのひずみの直線的増加によって特徴づけられる線形すなわち弾性領域、及び高分子線維の断裂により特徴づけられる破断領域がある。この図に表示される応力・ひずみ曲線において、弾性率(又はヤング率、すなわち応力・ひずみ曲線の直線領域の傾き)はGeistlich Bio‐Gide(登録商標)膜で約8MPa、Jason膜で約64MPa、Dynamatrix(登録商標)膜で約54MPa、及び筋肉の筋膜由来のコラーゲン材料で約56MPaである。
【
図6】
図6はGeistlich Bio‐Gide(登録商標)コラーゲン膜、DHTにより架橋された本発明の再吸収可能な形状安定膜(FRM)のプロトタイプ、及びCystoplast(登録商標)PTFE膜(Keystone Dental)について37℃のリン酸緩衝生理食塩水PBSで24時間インキュベートした後に、膜に接着していた、ヒトの歯肉の線維芽細胞を百分率の単位で示した棒グラフである。
【0065】
以下の実施例は、その範囲を限定せず、本発明を説明する。
【実施例1】
【0066】
原材料の製造
250〜400μmの大きさを有するヒドロキシアパタイト微粒子(A)の製造
ヒドロキシアパタイトの骨の無機物微粒子は、米国特許公報第A‐5417975号の実施例1〜4に記載のように、250〜400μmの間の篩別工程を用いながら、皮質又は網状骨から製造した。
【0067】
別法として、ヒドロキシアパタイトの骨の無機物微粒子はGeistlich Bio‐Oss(登録商標)Small Granules(Geistlich Phama AG,CH‐6110,Switzerlandより入手可能)を、ピストルを使用して、注意深く衝撃を与えることにより粉砕し、そしてさらに250〜400μmで篩別する工程を用いて製造した。
【0068】
上記により製造した250〜400μmの大きさを有するヒドロキシアパタイト骨の無機物微粒子(A)は使用するまでガラス瓶に保管した。
【0069】
コラーゲン線維(B)の製造
欧州特許出願公開公報第1676592号の実施例に記載のとおり、若い豚からの腹膜の膜組織を機械的方法で肉及び油脂を完全に除去し、流水で洗浄後、2%のHaOH水溶液で12時間処理した。その膜を、その後、流水で水洗し、0.5%のHClで酸性にした。その膜を全体の厚みを通して(約15分)酸処理した後、その材料をpH3.5になるまで水洗した。その材料を7%の食塩水で収縮させ、1%の炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)溶液で中和し、流水で洗浄した。この材料はその後アセトンで脱水し、そしてn‐ヘキサンで脱脂し、そしてエタノールエーテルを用いて乾燥した。
【0070】
このようにして得られたコラーゲン膜を、はさみを用いて、手で2×2cm片に裁断した。
【0071】
別法として、Geistlich Bio‐Gide(登録商標)(Geistlich Parma AGより入手可能)を、はさみを用いて、手で2×2cm片に裁断した。
【0072】
上記より得られたコラーゲン膜の2×2cm片1gを200mlのドライアイスと混合し、ナイフミル(Retsch(登録商標)Grindomix)中で5000rpmでブロッキングが起こらなくなるまで混合した。その後20〜30秒で6000、7000、9000、及び10,000rpmと速度を上げ、それぞれの時間にドライアイスを50mlずつ加えた。
【0073】
ドライアイスを気化し、このようにして得られたコラーゲン線維(B)はMinigrip Plastic wrapで包装し、先の使用まで保管した。
【0074】
ミル断裁したコラーゲン線維断片(C)の製造
上記により得られた2×2cmコラーゲン線維片を1500rpm、0.8mm篩でカッティングミル中で断裁し、ミル断裁したコラーゲン線維断片(C)の篩別された分別物を得た。
【0075】
コラーゲン線維接着剤(D)の製造
ミル断裁したコラーゲン線維断片(C)の篩別された分別物を水中で混合し、3%の溶液を得、pHをリン酸H
3PO
4を加えることにより3.5に調整し、そしてその懸濁液を1500〜2000barで高圧均質化し、これを3〜5回繰り返した。
得られたスラリーに水酸化ナトリウム溶液NaOHを加え、pHを約7に中和し、4℃で一晩かけゲル化した。そのコラーゲンを−40℃で4時間凍結させた後−10℃、0.310mbarで凍結乾燥により濃縮し、そしてナイフミルで均質化した。
【0076】
コラーゲン線維接着剤(D)はpH7.4のリン酸緩衝食塩水中で更なる粒子が見えなくなるまで60℃で加熱することにより、2〜10%の溶液として得られたスラリーから製造した。
【実施例2】
【0077】
場合により架橋されたヒドロキシアパタイト/コラーゲン板(E)の製造
実施例1で製造された4gのコラーゲン線維(B)及び6gのミル断裁したコラーゲン線維断片(C)を140gのリン酸緩衝食塩水と混合し、混合ミキサー中で振とうした。別の実施例ではコラーゲン線維を完全にミル断裁したコラーゲン線維断片に置き換えた。
実施例1で製造した20gのヒドロキシアパタイト微粒子(A)を加え、手で混合した。
34.14gのこの混合物を7000g(重力加速度の7000倍)で2分間遠心分離した。
【0078】
その沈殿物を8×12cmの平らな長方形の型の中の2枚のポリアミドの網(細孔径21μm及び合計17%の開口構造)の間に注ぎ、実験用匙で過剰の水を除去することでその中身を濃縮した。得られた平板を1〜1.7kPaの圧で圧縮し、真空乾燥機中で30℃/50mbarで2時間、その後30℃/10mbarで8時間乾燥した。ポリアミドの網は除去した。
【0079】
場合により架橋されたヒドロキシアパタイト‐コラーゲン板
このヒドロキシアパタイト‐コラーゲン板の扱いを容易にするために、後者を化学的に又は脱水加熱処理(DHT)により架橋した。
【0080】
EDC/NHSを用いてそのコラーゲンの化学架橋を行ない、ヒドロキシアパタイト‐コラーゲン板の全体の安定性を増加させた。乾燥した板はその後0.1MのMES(2‐(N‐モルホリノ)‐エタンスルホン酸)及び40%のエタノールの中の10〜400mMのEDC及び13〜520mMNHS中で室温、pH5.5で2時間架橋した。
【0081】
その反応を、プロトタイプを0.1mol/lのNa
2HPO
4緩衝剤中pH9.5で1時間のインキュベートを2回行うことにより停止した。極性の残渣は、そのプロトタイプを1mol/lの塩化ナトリウム溶液中で1時間、及び2mol/lの塩化ナトリウム溶液中で1時間2回インキュベートすることにより除去した。化学的に架橋されたプロトタイプを蒸留水中で30〜60分間の洗浄を合計8回行い、その後エタノール中で15分間の浸漬を合計5回行い脱水した。その後5分間のジエチルエーテル処理を3回行ない、次いで10mbarで40℃30分間の乾燥を行うか、又は凍結乾燥(従来の凍結乾燥処理による−10℃未満の凍結及び乾燥)を行った。
【0082】
別法として、架橋は0.1〜10mbar及び80〜120℃で脱水加熱処理(DHT)により行った。この場合は続く乾燥方法は不要であった。
【実施例3】
【0083】
予備延伸した弾性コラーゲン層の二つをヒドロキシアパタイト/コラーゲン板(E)の2つの相対する面を合わせて接着することによる再吸収可能な架橋された形状安定膜(M)の製造
以下の記述は
図2及び3を参照することでより理解されるであろう。
【0084】
平面又はU字形状のプロトタイプの組み立ては、コラーゲン材料層の張力がけを可能にする固定され又は曲がることの可能な枠の使用を必要とする。
【0085】
平面又はU字形状のプロトタイプ(F)の形成
図2はコラーゲン材料層を本発明の平面又はU字形状の形状安定膜に組み立てる前に張力がけすることを可能にするための適切な装置の模式図である。
【0086】
その装置はいかなる適切な材料、例えば鋼、又はアルミニウム、からも製造可能な枠(a)からなる。その枠の主な目的は二つのコラーゲン層(c)に張力がけする、ばね(b)をしっかりと固定することである。そのヒドロキシアパタイト/コラーゲン板(E)は二つのコラーゲン層(c)の間に置かれる。
【0087】
もしU字形状の再吸収可能な架橋された形状安定膜が所望される場合、コラーゲン板(E)を曲げるための雌型(e)及び蝶番(f)を伴った枠台が使用されるが、この方法がU字形状で直線状のプロトタイプをもたらす。
【0088】
未滅菌のGeistlich Bio‐Gideコラーゲン層のコラーゲン材料層を、そのコラーゲン材料の応力・ひずみ曲線の線形領域になるように、各ばねあたり2〜3Nでの張力がけを通して初期の長さの40〜100%の伸張又は延伸になるまで予備延伸した。この線形領域内で弾性率は最も高く、そしてそれゆえ最も高い剛性が達成される。
【0089】
コラーゲン組織の粘弾性の性質により、濡れてかつ張力がけした材料を30分間張力がけした状態で保持した。その予備延伸したコラーゲン材料の緩和性により、コラーゲン材料の応力・ひずみ曲線の線形領域になるよう、そのばねを再び1〜3Nに張力がけをした。
【0090】
未滅菌のGeistlich Bio−Gide(登録商標)コラーゲン膜から切り出した直径10cmの二つの円形片を使用したが、その一つは0.88mmの軸直径を伴う1cm
2あたり50個の孔を含むニードルドラムで穿孔した。それら二つのコラーゲンの円形片を濡らし、それぞれ1〜3Nで張力をかけた12のばねにより、放射状に張力がけを行ったが、それはコラーゲン片の初期の寸法の40〜100%の伸張をもたらした。
【0091】
この工程の完了後、ヒドロキシアパタイト/コラーゲン板(E)をコラーゲン線維接着剤(C)で両面を濡らし、そしてその後ヒドロキシアパタイト/コラーゲン板を二つの予備延伸した弾性コラーゲン層の間に置いた。中央の桟(e)並びに蝶番(f)はU字形状のプロトタイプの製造に必要である(下記参照のこと)。
【0092】
その予備延伸した弾性膜を加熱板の上に置き、40℃に予熱した。
【0093】
実施例2で得られた架橋したBio‐Oss 板(E)を予熱したコラーゲン線維接着剤(D)に短時間浸し、二つの予備延伸した弾性コラーゲン膜の間に置いた。
ポリアミドの網、並びにスポンジ(厚さ5cm、比重約20〜25mg/cm
3、連通細孔を含む、ポリウレタン製)を両面に置き、最大120KPaの圧縮圧で50〜95%まで圧縮した。
【0094】
図3参照のこと、これは平面状の形状安定膜の集合体を示しているが、その中で、(1)は鋼板であり、(2)は圧縮されたポリウレタンスポンジであり、(3)はポリアミドの網であり、(4)は予備延伸した弾性コラーゲン層であり、そして(5)は架橋されたヒドロキシアパタイト‐コラーゲンの板である。
【0095】
その後、その構成物を真空乾燥機で40℃で常圧から10mbarに一定の減少率で下げ、合計32時間乾燥した。
【0096】
U字形状のプロトタイプの形成
当業者は
図2及び3の装置並びに上記方法を、その構成物を最適な雌型にわたって曲げ、一つのスポンジをより薄いポリウレタンスポンジ又は繊維の無い紙タオルで置き換えることにより、U字形状のプロトタイプを直線状又は曲線状にするために容易に適合させるであろう。
【0097】
平面又はU字形状のプロトタイプの架橋(G)
平面又はU字形状のプロトタイプ(F)をはさみ又は小型の丸のこで所望の寸法に裁断した。その後プロトタイプを化学的又は脱水加熱処理(DHT)により架橋した。
【0098】
化学架橋は0.1mol/lのMES緩衝液でpH5.5、並びにEDC及びNHSの濃度がそれぞれ10〜400mM及び13〜520mMの40体積%濃度のエタノール中で行った。プロトタイプの架橋溶液中の濃度は10%であった。均質の架橋を可能にするために、板は当初(<40mbar)の真空で処理し、そしてその架橋反応を4℃で2時間行い、すべての緩衝剤をこの温度まで予備冷却した。
【0099】
その反応を0.1mol/lNa
2HPO
4緩衝液中pH9.5で1時間、2回インキュベートすることで停止した。極性の残渣はそのプロトタイプを1mol/lの塩化ナトリウム溶液で1時間、及び2mol/lの塩化ナトリウム溶液で1時間、2回インキュベートすることで除去した。プロトタイプは蒸留水中で30〜60分間を合計8回洗浄した。脱水及び乾燥はその後5回の15分間のエタノール処理及び3回の5分間のジエチルエーテル処理、並びにその後10mbar及び40℃で一晩若しくはその製品が完全に乾燥するまで乾燥し、又は製品を溶剤処理しない従来の凍結乾燥(従来の凍結乾燥処理による−10℃未満の凍結及び乾燥)により乾燥した。
【0100】
あるいは、架橋は0.1〜10mbar及び80〜160℃で1〜4日間脱水加熱処理(DHT)により行ったが、この場合その後の乾燥方法は不必要であった。
【0101】
上記記載の方法で得られたプロトタイプは食塩水又はリン酸緩衝食塩水中で1又は2時間濡らした。
【0102】
10分以内での濡れを可能にするために、プロトタイプは蒸留水でおおよそ1〜2時間再び濡らす。この時に上記記載のニードルドラムを用いた片面の穿孔もまた可能である。塩化ナトリウムはプロトタイプを200g/lの塩化ナトリウム溶液中で40分間を3回インキュベートすることにより適用される。その塩化ナトリウムは下記記述(H)のように沈殿する。
【0103】
架橋された平面状又はU字形状のプロトタイプの乾燥(H)
この架橋されたプロトタイプを15分間、エタノール中で合計5回浸漬することにより脱水した。それらをその後溶剤乾燥(5分間のジエチルエーテル処理を3回並びにその後の10mbar及び40℃の乾燥)又は従来の凍結乾燥(従来の凍結乾燥処理による−10℃未満の凍結及び乾燥)のいずれかで乾燥した。
【0104】
濡れた状態での種々のプロトタイプの架橋された形状安定膜の厚みは1.0〜2.0mmで、ほとんどは1.2〜1.8mmであった。
【0105】
乾燥したプロトタイプは場合により27〜33kGyのX線照射により滅菌した。
【実施例4】
【0106】
再吸収可能な架橋された形状安定膜の性質
実施例3で得られた再吸収可能な架橋された形状安定膜の次の特性を測定した。:(1)PBS中の濡れ性、(2)機械的強度、(3)Clostridium histolyticum由来のコラゲナーゼを用いた酵素分解、及び(4)細胞接着、(5)予備延伸した弾性コラーゲン材料層の伸びの測定、(6)コラーゲン‐ヒドロキシアパタイト板及び最終プロトタイプの厚さの測定
【0107】
(1)リン酸緩衝食塩水中の濡れ性
再吸収可能な架橋された形状安定膜の種々のプロトタイプについて、リン酸緩衝食塩水中で完全に濡れる時間を目視で観察し評価したが、それは5〜10分であった。その時間は主にエタノールでの脱水及び乾燥の前の塩化ナトリウムの処理に依存した。
【0108】
(2)機械的強度
本発明の膜の形状安定性はEN ISO178及びASTM D6272‐10に記載の方法と同様の方法の3点1軸曲げ試験により評価したが、本発明の膜は、温度37℃、pH7.4のリン酸緩衝食塩水中に浸して評価した。
【0109】
何も含まない(囲まれていない)部位(non-containing site)における骨の欠損を機械的に安定させるために設計されたすべての形状安定膜は、曲げモーメントを経験するであろうから、この試験は最も有効であると考えられた。それ故、3又は4点曲げは、使用した材料を特徴付け、そして更に、例えば種々の厚みを有する種々の製品を比較する試験として使用し得る。材料の特徴付けにとって、曲げ弾性率が最も適したパラメーターである。しかしながら、種々の厚みを有する種々の製品を比較するために、8〜10mm圧入した後の最大の力がさらに妥当であり、それ故製品を特長付けるために使用される。
【0110】
用いた3点1軸曲げ試験において、試料は50×13mmの寸法に裁断し、そして目視による観察で完全に濡れるまで37℃のリン酸緩衝食塩水中でインキュベートした。
【0111】
機械的試験は1分あたり5mmの速度で、支持支点間距離幅26mm、及び各支持台半径5mmの3点支持曲げ試験機で実施した。曲げ弾性率は1〜5%の曲げひずみの中で計算した。得られた最大の力は中央圧子を8〜10mm下げた後に読み出した。
【0112】
この試験は、EDC/NHSで架橋された厚さ1.5mmの本発明の膜、DHTで架橋された厚さ1.6mmの本発明の膜、及び厚さ0.137mmのKLS Martin社からのPLA膜Resorb-X(登録商標)について行った。
【0113】
図4はそれら膜のひずみの作用に応じた応力の変化を示すが、本発明のEDC/NHSで架橋された膜(8mmひずみで約0.65N)、又はDHTで架橋された膜(8mmひずみで約0.40N)の機械的安定性は実質的にPLA膜Resorb-X(登録商標)(8mmひずみで約0.10N)のそれよりも優れていることを示している。本発明の膜はそれ故に、何も含まない(囲まれていない)部位(non-containing site)の骨欠損をより安定にするであろう。
【0114】
(3)Clostridium histolyticum由来のコラゲナーゼを用いた酵素分解試験
人体において、コラーゲンはヒト組織のマトリクス・メタロプロテナーゼ(MMP)、カテプシン類、及び推定されるいくつかのセリン・プロテナーゼにより分解される。最も研究されたものはMMP類であるが、そこでコラゲナーゼ(とりわけMMP-1、MMP-8、MMP-13及びMMP-18)は直接のコラーゲン分解にとって最も重要な酵素類である(Lauer-Fields etal.2002「マトリクス・メタロプロテナーゼ及びコラーゲンの異化(Matrix metalloproteinases and collagen catabolism)」in Biopolymers-Peptide Science Section、及びSong et al.2006「マトリクス・メタロプロテナーゼに依存する又は依存しないコラーゲン分解(Matrix metalloproteinase dependent and independent collagen degradation)」in Frontiers in Bioscience)。
【0115】
コラゲナーゼがコラーゲン組織及び膜を分解する能力は、その基質の柔軟性及びコラーゲンの型、MMPの活性部位並びにMMPのエキソサイト(exosites)に依存する。
【0116】
コラゲナーゼ類は3重らせん状のコラーゲンに対し整列し、それをほぐし、続いて実質的にそれを開裂する(Song et al.2006,上記参照)。
【0117】
種々のコラーゲン型の間の分解の違いを克服する観点から、コラゲナーゼのコラーゲン分解は、高い触媒速度を有するClostridium histolyticum由来のコラゲナーゼを用いてしばしば評価されている(Kadler et al.2007Collagen at a glance in J Cell Sci)。一般的に、天然コラーゲン生成物は化学的に架橋されたコラーゲン生成物と比較して早く分解する。
【0118】
この試験において、コラーゲン生成物(1mg/mlコラーゲンの再吸収可能な架橋された形状安定膜の試料)をカルシウムを含むトリス緩衝液中のClostidium histolyticumから得た50単位/ml(1単位は、カルシウムイオンの存在下、37℃、pH7.4、5時間での、ニンヒドリン色で1.0マイクロモルのロイシンと等価の牛のアキレス腱由来のコラーゲンからの遊離ペプチドとして定義される)と共に37℃でインキュベートし、そしてコラーゲン基質の分解を、比較材料としてコラーゲンI型を用いて、目視及び“DC Protein Assay”(Bio-Rad Laboratories社より)(Hercules,USA,OrderNo.500-0116)で測定した。コラーゲン濃度はマイクロウエルプレート分光計Infinite M200(Tecan社より入手可能)により測定した。
【0119】
本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜のすべてのプロトタイプは4時間後に少なくとも10%のコラーゲン分解(コラーゲンI型を標準としてDC Protein Assayを用いて評価した)を示したが、そのコラーゲン分解の速度は(Geistlich Bio‐Gide(登録商標)よりも低い)使用した架橋条件に依存する。
【0120】
(4)細胞接着
種々の膜の細胞接着は、第一に、前もって蛍光脂溶性染料で標識化した100,000のヒト歯肉線維芽細胞を8mmのメンブレンパンチに播種し、リン酸緩衝食塩水中で37℃、24時間インキュベートし、その膜をリン酸緩衝食塩水中で洗浄することで非接着性の細胞を除去し、接着性細胞を溶解し、そしてそれらを485nmの蛍光発光を測定することで定量した。蛍光発光は溶解する前の洗浄していない細胞播種されたメンブレンパンチで規定した基準曲線を標準化した。その形状安定な再吸収可能な膜について得られた結果を図
6に示すが、それは種々のタイプの歯科用膜、本発明の再溶解可能な架橋された形状安定膜及びCystoplast(登録商標)PTFE膜(Keystone Dental)に接着可能な細胞を百分率で横軸に表示した棒グラフである。
【0121】
図
6は本発明の再吸収架橋された形状安定膜への接着は約10.5%であり、約4%のCystoplast(登録商標)PTFE膜への接着より約13%のGeistlich Bio-Gide(登録商標)膜への接着により近いことを示している。Geistlich Bio-Gide(登録商標)膜はその低い離開速度(Zitzmann,Naef et al.1997;Tal,Kozlovsky et al.2008)又は過度の炎症の無い(Jung,2012)良好な治癒特性により知られている。本発明の再吸収可能な架橋された形状安定膜に対するヒト歯肉線維芽細胞の接着の測定値は、過度な炎症又は離開のような不利な出現の無い軟組織の治癒を予測するものである。
【0122】
(5)予備延伸した弾性コラーゲン材料層の伸びの測定
このコラーゲン層の張力がけの量を測定するために、乾燥したコラーゲン層を張力がけ環(
図2のa部)にまだ張力がけされていないばね(
図2のb部)を使用して取り付ける。その膜の中心に少なくとも4点(それらは互いに数センチメートル離れている)、鉛筆又はペンを用いて印をつける。各点間の距離を定規で測定する。測定した距離は各点間の初期の長さと定義する。そのコラーゲン層を水中に沈め所望の力で張力がけする。そのコラーゲン層を水中で30分間インキュベートする。ほとんどのコラーゲン層の粘弾性の性質により、張力は減少する。それ故コラーゲン層は再び張力がけする必要がある。30〜40分のインキュベート後に各点間の距離を定規で測定する。ひずみの百分率は、張力がけした後の長さから初期の長さを引いたものを初期の長さで割り100を掛けることで決定する。
【0123】
通常、例えば未滅菌のGeistlich Bio-Gideの応力・ひずみ曲線の線形領域の結果は40〜100%のひずみ(伸張又は延伸)である。この方法で測定したひずみの値は通常の一軸伸び試験で得られるひずみの値と直接比較することはできない。
【0124】
(6)コラーゲンヒドロキシアパタイト板及び最終プロトタイプの厚みの測定
最終プロトタイプ又はコラーゲン/ヒドロキシアパタイト板(E)の厚みは上記に記載の方法又はノギスを用いて測定することができる。
【0125】
(7)異なったコラーゲン層の機械的特性の分析(図5)
種々の入手先からのコラーゲン層を比較し、それらの機械的特性を評価するために、標準の一軸張力がけした濡れた試料を用いた。一般的なそのような分析方法の設定はASTM882-09「薄いプラスチックシートの張力特性のための標準試験方法(Standard Test Method for Tensile Properties of Thin Plastic Sheeting)」に記載されている。使用されるコラーゲン材料の高い費用により、いくつかのテストのパラメーターを適応した。試料は例えば2×1cmの長方形のシートに裁断し、等張のリン酸緩衝食塩水であらかじめ濡らし、それぞれの試料取り付け具の間の距離を1cmにして張力試験機に取り付けた。試料は1分間あたり初期の長さの33%の一定速度で張力がけした。記録された100%の初期の長さにおける予備張力を50kPaに設定した。試料の伸び率は二つの試料つかみ具間の距離を用いて計算した。
【0126】
図5の応力・ひずみ曲線はこの方法で得た。
【0127】
本発明は図面及び前述の記述により詳細に例示的に説明されかつ記述されるが、それらの例証及び説明は実例的又は例示的であり、限定的と考えられるべきはない。したがって、本発明はその開示された態様により限定されない。
【0128】
その開示された態様に対する他の変形例は、当業者が本発明のクレームを実施する中で、図面、開示内容、及び補正されたクレームを検討することから理解され、有効化されることが出来る。
【0129】
クレームの中で単語「含む」は他の要素を排除しない。定冠詞「a」又は「an」は複数を排除しない。