特許第6571889号(P6571889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6571889-電気推進システムの温度制御方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571889
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】電気推進システムの温度制御方法
(51)【国際特許分類】
   F03H 1/00 20060101AFI20190826BHJP
   G01K 7/16 20060101ALI20190826BHJP
   G01K 1/14 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   F03H1/00 A
   G01K7/16 Z
   G01K1/14 L
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-567786(P2018-567786)
(86)(22)【出願日】2017年7月6日
(65)【公表番号】特表2019-521278(P2019-521278A)
(43)【公表日】2019年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2017066972
(87)【国際公開番号】WO2018007540
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2019年1月28日
(31)【優先権主張番号】1656529
(32)【優先日】2016年7月7日
(33)【優先権主張国】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517342903
【氏名又は名称】エアバス・ディフェンス・アンド・スペース・エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ワルテルスキー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】サンベリー,グザヴィエ
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−531755(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第2973081(FR,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103471738(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0010851(US,A1)
【文献】 米国特許第5048974(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0096366(US,A1)
【文献】 特開2001−159387(JP,A)
【文献】 特表2010−539374(JP,A)
【文献】 特開2015−145650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03H 1/00
G01K 1/14
G01K 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気推進システム(1)の温度を制御する方法であって、前記電気推進システムは、放電路(2)と、アノード(40)と、カソード(50)と、前記放電路(2)内に推進剤ガスを注入するための注入システム(10)と、前記放電路内に磁場を生成するための少なくとも1つの磁気巻線(20,30)を含む磁気回路と、を備え、当該方法は、
前記電気推進システム(1)の熱基準点における温度を特定するステップと、
前記電気推進システムの停止フェーズ中に、前記特定された温度が所定の最低温度未満であるときに、前記磁気回路に電流を印加することよるジュール効果によって前記電気推進システム(1)を加熱するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電気推進システム(1)の運転フェーズ中に、前記特定された温度が所定の最高温度を超えているときに、前記電気推進システムを一時停止させる、請求項1に記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項3】
前記温度を特定するステップは、
前記磁気回路に電流を印加するサブステップと、
前記電気推進システムの電気的パラメータを特定するサブステップであって、前記磁気回路の電圧を測定するサブステップと、前記磁気回路に流れる電流の強度を特定するサブステップと、を含むサブステップと、
前記特定された電気的パラメータに基づいて、予め構築されたモデルにより前記温度を特定するサブステップと、を含む、請求項1または2に記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項4】
前記電流を特定するステップは、前記磁気回路に流れる電流を測定するサブステップ、または前記電流の制御値を読み取るサブステップ、を含む、請求項3に記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項5】
前記温度を特定するサブステップは、前記測定された電圧および前記特定された電流の値から、前記少なくとも1つの磁気巻線の電気抵抗を計算するサブステップを含み、前記モデルにより、前記電気抵抗と前記温度とを対応付ける、請求項3または4に記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項6】
前記温度を特定するサブステップは、前記測定された電圧および前記特定された電流の値から、前記磁気回路の構成材料の電気抵抗率を計算するサブステップを含み、前記モデルにより、前記電気抵抗率と前記温度とを対応付ける、請求項3〜5のいずれかに記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項7】
前記電気推進システムの運転中に、前記温度を特定するために印加される電流は、前記電気推進システムの推進効果を生じさせることを可能とするように適応させて前記磁気回路に印加される電流である、請求項3〜6のいずれかに記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項8】
前記電気推進システムの停止フェーズ中に、前記温度を特定するために印加される電流は、一定または可変である、請求項3〜6のいずれかに記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項9】
前記温度の特定は、前記電気推進システムの外面の領域に位置する基準点において行う、請求項1〜8のいずれかに記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【請求項10】
前記温度の特定は、前記電気推進システムの内部において行う、請求項1〜8のいずれかに記載の、電気推進システム(1)の温度を制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙推進の分野に属する。より具体的には、本発明は、電気推進システムに関するものである。
【0002】
本発明は、電気推進システムの温度を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電気推進システムは、宇宙推進の分野において、特に、より具体的には衛星である宇宙船の操縦および軌道制御のために使用されることが増えつつある。実際に、利用できる様々なタイプの電気推進システムは、一般的に化学推進システムよりも高い比推力が得られ、これが、同じ操縦に対する推進剤消費を減少させる一助となり、その結果、衛星の寿命および/またはペイロードは増加する。
【0004】
様々なタイプの電気推進システムの中でも、特に静電推進システムと呼ばれるものがあり、この場合、推進流体をイオン化して、電場で直接加速する。いわゆるホール効果推進システムがこのカテゴリに属する。
【0005】
電気推進システムは、(最低温の部分で温度が少なくとも300℃に達する)運転中と、または(電気推進システムは、衛星の外側に配置されるので、冷空間に直接接触する)停止中と、その両方で過酷な熱的条件を受ける。
【0006】
電気推進システムは、一般的に、所与の温度範囲に適格なものであるため、その温度範囲外では、損傷を受けることがある。従って、電気推進システムの温度を制御することが重要である。
【0007】
現在のところ、そのような極端な温度に耐えることができるサーミスタ式または熱電対式の測定装置および電気推進システムの再加熱装置は、数少なく、実現するには複雑であり、嵩高かつ高重量であり、非常に高価である。
【0008】
既存のソリューションは、電気推進システムを衛星構造に連結する支持構造上に、サーミスタまたは熱電対のような温度センサおよび電気推進システムの再加熱装置を配置することにある。
【0009】
ところが、これらのソリューションには多くの欠点がある。
【0010】
第1に、電気推進システムの温度センサおよび再加熱装置は、電気推進システムに直接固定されるのではなく、断熱性を有する支持構造を介して固定される。従って、温度の測定は非常に間接的に行われるので、温度センサで測定される温度は、電気推進システム内部の温度を表すものではない。
【0011】
第2に、電気推進システム内部の正確な温度が把握されないと、特に、運転中でないときの電気推進システムを十分な高温に維持することを確保するために、電気推進システム再加熱装置はオーバサイズとなる。従って、そのような電気推進システム再加熱装置は、非常にエネルギー集約的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、外部再加熱装置を必要とすることなく、電気推進システムの温度制御を可能とする、単純かつ経済的なソリューションを提案することにより、特に上述のものである従来技術によるソリューションの限界のすべてまたは一部を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため、本発明は、電気推進システムの温度を制御する方法に関し、その電気推進システムは、放電路と、アノードと、カソードと、放電路内に推進剤ガスを注入するための注入システムと、放電路内に磁場を生成するための少なくとも1つの磁気巻線を含む磁気回路と、を備える。本方法は、
− 電気推進システムの熱基準点における温度を特定するステップと、
− 電気推進システムの停止フェーズ中に、特定された温度が所定の最低温度未満であるときに、磁気回路に電流を印加することよるジュール効果によって電気推進システムを加熱するステップと、を含む。
【0014】
熱基準点とは、特に特性および/または認定の地上試験の際に、温度センサを設置することが可能であるとともに、その温度により電気推進システム内部の熱挙動についての信頼性の高いイメージが得られるような、電気推進システムの特定の物理領域または物理点を指す。
【0015】
この熱基準点は、電気推進システムの内部または電気推進システムの外面の領域に位置し得る。
【0016】
この熱基準点が、電気推進システムと電気推進システムの支持構造との間の連結部に位置している場合、その温度を把握することにより、地上試験または飛行試験において、電気推進システムとその支持構造との間で交換される熱流を特徴付けることも可能となる。この場合、この熱基準点の温度を制御することは、これにより、熱的観点から、電気推進システムおよびこれに連結された衛星領域の両方の正常な機能を同時に確保するのに十分である。
【0017】
加熱ステップにおいて印加される電流は、好ましくは、電気推進システムの推進効果を生じさせるために磁気回路に印加される必要がある電流の強度よりも低強度である。
【0018】
このようなプロセスの後の、電気推進システムの温度制御は、推進システム内部の部品によって、すなわち磁気回路によって行う。
【0019】
これにより、外部再加熱装置を付設する必要なく、電気推進システムの最適な熱制御が可能である。
【0020】
本発明による方法は、効果的には、推進効果を生じさせるために磁気巻線を用いる任意のタイプの電気推進システムにおいて、特にホール効果推進システムにおいて、実施される。
【0021】
具体的な実施形態において、本方法は、さらに以下の特徴の1つ以上を、単独で、または技術的に可能な任意の組み合わせで、備えることができる。
【0022】
好ましい実施形態では、電気推進システムの運転フェーズ中に、特定された温度が所定の最高温度を超えているときに、推進システムを、その冷却を可能とするために一時停止させる。
【0023】
好ましい実施形態では、温度を特定するステップは、電気推進システムの内部または外面の領域において実施し、
− 磁気回路に電流を印加するサブステップと、
− 電気推進システムの電気的パラメータを特定するサブステップであって、磁気回路の電圧を測定するサブステップと、磁気回路に流れる電流の強度を特定するサブステップと、を含むサブステップと、
− 特定された電気的パラメータに基づいて、予め構築されたモデルにより温度を特定するサブステップと、を含む。
【0024】
予め構築されたモデルとは、本発明における意味の範囲内では、電気的パラメータ(強度、電圧)から熱基準点の温度を推定することを可能とする、任意のグラフ、任意のテーブル、または任意の式を指す。
【0025】
従って、このような予め構築されたモデルは、非限定的な例として、対応テーブル、データベース、計算盤、数値モデル、解析モデル、テーブル形式の数値関数、解析関数、半解析モデルまたは準数値モデルのような、様々な形式で提示することができる。
【0026】
予め構築されたモデルによって、電気的パラメータ(強度、電圧)を電気推進システム内の温度に1対1で対応付けることが可能である。
【0027】
一例の実施形態では、一方で電圧と電流強度との比率値と、他方で熱基準点における対応する温度と、を関係付ける対応テーブルを用いる。
【0028】
磁気回路の電流の印加は、PPU(「Power Processing Unit:電源ユニット」)と呼ばれる電気推進システムの電力供給ユニットによって、例えば電流源を介し、電気配線を通して行う。
【0029】
電圧の測定は、少なくとも1つの磁気巻線の両端子で行うか、または電気推進システムの電力供給ユニットにおいて遠隔で行うか、いずれかとすることができる。
【0030】
磁気回路に流れる電流を特定するための一実施形態では、電流強度を測定する。この測定は、少なくとも1つの磁気巻線の両端子で行うか、または電気推進システムの電力供給ユニットにおいて遠隔で行うか、いずれかとすることができる。
【0031】
磁気回路に流れる電流を特定するための他の一実施形態では、電流制御の精度に応じて、場合によっては数値モデルで再調整された、電流源による印加電流の強度値を用いる。これは、すなわち、電流の制御値を単に読み取ることである。
【0032】
このように、本方法は、熱測定自体のための専用ではない部品に電流を流すことを提案する。
【0033】
このようにして、特に電気推進システムにおいて推進効果を生じさせることを可能とするための磁場を生成するために電気推進システムに元々設けられている磁気回路の電気的測定から、電気推進システムの熱基準点における温度を取得する。
【0034】
従って、極めて効果的に、電気推進システムの熱基準点における温度を特定するために、電気推進システムの外部のサーミスタ式または熱電対式の部品は必要としない。
【0035】
このように、電気推進システムの温度を特定するステップは、電気推進システムとこれを衛星に連結する電力供給ユニットとの間のあらゆるタイプの電気配線アーキテクチャの場合に総じて実現可能である。
【0036】
電気的パラメータと電気推進システムの熱基準点における温度との関係付けを可能とする予め構築されたモデルは、特に電気推進システムのタイプに応じて、予め決定されたものである。
【0037】
予め構築されたモデルにより、電気推進システムに関わる部品および電気推進システム周辺の部品に関するいくつかの不確かさを、簡単かつ効果的に解消することが可能となる。従って、同じ衛星に、様々に異なるアーキテクチャを有する様々なタイプの電気推進システムを搭載することが可能であるとともに、各タイプの推進システムに対して特定の予め構築されたモデルを用いつつ、温度を特定する方法は同じに維持することが可能である。
【0038】
あるいは、既に構築されているモデルに、電気推進システムとこれを衛星に連結する電力供給ユニットとの間の電気配線アーキテクチャの影響を組み込むことができる。
【0039】
このようにして、電気推進システムの極めて高温が電気推進システムの正常運転のための推奨最高温度を超えないように制御される場合である電気推進システムの運転フェーズ中、または温度が所定の最低温度を下回らないように制御される場合である電気推進システムの停止フェーズ中のいずれかにおいて、推進システムの熱基準点における温度を特定するステップにより、その点が推進システム内にあるときに、電気推進システムの心臓部における温度を正確に特定することが、特に電圧および電流強度の測定値がPPUにおいて取得される場合に電気推進システムから遠隔で正確に特定することが、効果的に可能となる。
【0040】
具体的な実施形態では、温度を特定するサブステップは、測定された電圧値および特定された電流強度値から、少なくとも1つの磁気巻線の電気抵抗を計算するサブステップを含む。計算された電気抵抗値に対して、予め構築されたモデルにより、対応する温度値を関係付けることが可能である。
【0041】
少なくとも1つの磁気巻線は、その抵抗が温度に応じて変化するコイル状の導線で形成されているので、本方法は、効果的に、この特性を利用して、電気推進システムの熱基準点における温度を特定する。
【0042】
具体的な実施形態では、温度を特定するサブステップは、測定された電圧値および特定された電流強度値から、磁気回路の構成材料の電気抵抗率を計算するサブステップを含む。計算された電気抵抗率値に対して、モデルにより、対応する温度値を関係付けることが可能である。
【0043】
具体的な実施形態では、電気推進システムの運転中に、温度を特定するために印加される電流は、電気推進システムの推進効果を生じさせることを可能とするように適応させて磁気回路に印加される電流である。
【0044】
具体的な実施形態では、電気推進システムの停止フェーズ中に、温度を特定するために印加される電流は、一定または可変である。それは、例えば、電気推進システムの推進効果を生じさせることを可能とするように適応させて磁気回路に印加される電流の強度よりも低強度であり得る。
【0045】
一例の実施形態では、磁気回路への電流の印加は、磁場を生成するために使用される電流源とは別個の電流源によって行う。
【0046】
好ましい一例の実施形態では、少なくとも1つの磁気巻線への電流の印加は、磁場を生成するために使用される電流源によって行う。電力消費を抑えるために、より低強度レベルの電流を印加することができる。
【0047】
このような実施形態は、本方法を、効果的に、電気推進システムの動作範囲外で用いることが可能であることを示している。
【0048】
具体的な実施形態では、温度を特定するステップは、例えばサーミスタ式または熱電対式の温度測定装置のような任意の手段によって実施することができる。
【0049】
例示的な実施形態では、温度の特定は、電気推進システムの外面の領域に位置する熱基準点において行う。このようにして、測定を、特にサーミスタ式または熱電対式の温度測定装置である任意の手段によって実施することができる。
【0050】
本発明は、単一の図面を参照して、非限定的な例として提示される以下の説明を読解することで、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、本発明によるホール効果推進システムの部分断面斜視図を示しており、その一般構造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0052】
明確にするために、図示の部品は、別段の規定がある場合を除き、縮尺通りではない。
【0053】
本発明は、電気推進システムの温度制御に関するものである。
【0054】
この電気推進システムは、ミッションを目的として例えばGEO軌道または低地球軌道(LEO)に乗せられるための衛星に搭載されるように構成されている。
【0055】
以下の説明では、非限定的に、ホール効果推進システムの場合について記載する。しかしながら、例えば、磁気プラズマダイナミック(MPD)推進システム、高効率多段プラズマ(HEMP)推進システム、またはヘリコン推進システムなど、磁気回路を備えるものであれば、他の電気推進システムを想定することを除外するものではない。単一図面の部分断面斜視図に示す、推進システム1と呼ぶホール効果推進システムは、それ自体は従来のものである。
【0056】
推進システム1は、中心軸Xに関して同心の内壁3と外壁4によって画成された放電路2と呼ばれる環状路を備える。内壁3は、中心コア5を画成している。
【0057】
「内」という用語は、より中心軸Xに近い部分を指し、「外」という用語は、より中心軸Xから遠い部分を指す。
【0058】
内壁3および外壁4は、好ましくはセラミック材料で構成される。
【0059】
放電路2は、開放された下流端22と、閉鎖された上流端21と、を有する。
【0060】
放電路2は、さらに、その上流端21に、放電路2内に推進剤ガスを注入するための注入システム10を有する。
【0061】
推進剤ガスは、高分子量かつ比較的低いイオン化ポテンシャルという利点があるキセノンであり得る。
【0062】
この文脈における「上流」および「下流」という用語は、放電路の中心軸Xで規定される方向への推進剤ガスの正常な流れ方向に関して定義される。
【0063】
推進システム1は、さらに、磁気回路を備える。この磁気回路は、
− 外壁4の周囲に配置された、外周磁気巻線20と呼ぶ第1の磁気巻線と、
− 内壁3付近で中心コア5内に同心状に配置された、中央磁気巻線30と呼ぶ第2の磁気巻線と、を有する。
【0064】
中央磁気巻線30および外周磁気巻線20は、放電路2内に径方向磁場を生成するためのものであり、その強度は、放電路の下流端22のほうに向かって最大である。
【0065】
中央磁気巻線30および外周磁気巻線20のそれぞれは、導線の巻線で構成される。
【0066】
ダブル磁気巻線(外周磁気巻線と中央磁気巻線)を備えた推進システムは、最も典型的な構成となる。
【0067】
一実施形態では、中央磁気巻線30と外周磁気巻線20である2つの磁気巻線は、直列に接続されている。
【0068】
別の実施形態では、中央磁気巻線30と外周磁気巻線20である2つの磁気巻線は、相互接続されていない。
【0069】
磁気回路の他の実施形態では、その磁気回路は、例えば中央磁気巻線であるシングル磁気巻線を有する。
【0070】
推進システム1は、放電路2の上流端21に位置するアノード40と、放電路2の開放下流端22の下流に位置するカソード50と、アノード40とカソード50との間の電圧源61と、を有する電気回路60を備える。
【0071】
電圧源は、それ自体は従来のものであるPPUと呼ばれる電力供給ユニット内に配置されている。
【0072】
PPUは、さらに磁気回路にも、好ましくは直流である電流を供給する。電気配線により、PPUを磁気回路に接続している。
【0073】
中央磁気巻線30と外周磁気巻線20である2つの磁気巻線が相互接続されていない場合には、それぞれの磁気巻線に異なる電流を供給する。PPUは、2つの別個の電流源(図示せず)を介して磁気回路に電流を供給する。
【0074】
最もよく見られるケースである、中央磁気巻線30と外周磁気巻線20である2つの磁気巻線が直列に接続されている場合には、同じ電流を用いる。PPUは、単一の電流源(図示せず)を介して磁気回路に電流を供給する。
【0075】
第1のアーキテクチャでは、磁気回路に供給する電流源は、アノード40に供給する電流源と共通である。
【0076】
第2のアーキテクチャでは、磁気回路に供給する電流源は、アノード40に供給する電流源とは別個である。
【0077】
供給電流を選択する際の選択は、推進システム1の使用フェーズに依存する。従って、推進システム1の運転中には、磁気回路とアノード40の両方に通電し、一方、推進システム1の停止中には、磁気回路のみに通電する。選択されたアーキテクチャに応じて、供給電流を選択する際のこの選択は、例えば、第1のアーキテクチャの場合のスイッチ、および第2のアーキテクチャの場合の2つの電流源の制御回路のような、当業者に周知の手段を用いて可能である。
【0078】
運転中は、カソード50とアノード40との間に電圧を確立する。このとき、カソード50は、放電路2の下流端22付近で電子の放出を開始する。これらの電子は、カソード50とアノード40との電位差により発生する電場の影響を受けて、注入システム10に向かって放電路内を移動し、その大部分は、放電路2の下流端22付近の磁場Bによってトラップされる。
【0079】
このようにして、それらの電子は、放電路2内で、その開放下流端22において円周軌道を辿らされる。推進剤ガスを、放電路2内に注入システム10を介して注入する。このとき、それらの電子により、放電路2内を上流から下流に流れる推進剤ガスの原子は衝撃によってイオン化し、これによりイオンが発生する。さらに、それらの電子により軸方向電場Eが発生し、これにより、それらのイオンはアノード40から下流端22に向けて加速され、その結果、それらのイオンは、放電路2から、その下流端によって高速で放出され、これにより、中心軸Xに概ね一致する方向の推力を発生する。
【0080】
本発明の方法により推進システムの温度を制御するために、第1のステップで、推進システムの熱基準点における温度を特定する。
【0081】
この第1のステップの実施形態の第1の例では、温度の特定を、推進システムの外面の領域に位置する熱基準点において、特に推進システム構造の外面の一方の側に位置する熱基準点において行う。その熱基準点は、例えば、推進システムの後部に、または推進システムの一方の側に、または推進システムを衛星構造に連結する支持構造もしくは推進システム配備機構に、位置し得る。
【0082】
熱点が衛星との連結部に位置する場合に、その熱基準点における温度を特定することにより、効果的に、推進システムが過度の高温または過度の低温であるかどうかを判断するための推進システムに関する情報と、過度の高温であり得る推進システムに接触することによる衛星の損傷を回避するための衛星に関する情報と、その両方を得ることが可能となる。
【0083】
第1のステップの実施形態の第2の例では、温度の特定を、推進システム内部に位置する基準点において行う。すなわち、温度は、推進システム内で特定される。
【0084】
実施形態の第1の例と比較して、実施形態のこの第2の例は、推進システムの温度のより正確な特定が可能となる。
【0085】
熱基準点が推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、熱基準点における温度を特定するためには、最初に推進システムの磁気回路に電流を印加する。
【0086】
中央磁気巻線30と外周磁気巻線20である2つの磁気巻線が相互接続されていない場合には、第1の電流源を介して、所与の強度の第1の定電流を中央磁気巻線30の両端子間に印加し、第2の電流源を介して、第1の電流の強度と同じまたは異なる所与の強度の第2の定電流を外周磁気巻線20の両端子間に印加する。
【0087】
中央磁気巻線30と外周磁気巻線20である2つの磁気巻線が直列に接続されている場合には、PPU内に配置されている電流源を介して、所与の強度の単一の定電流を印加し、中央磁気巻線30および外周磁気巻線20に通電する。
【0088】
一例の実施形態では、推進システム1の運転中には、推進効果を生じさせることを可能とするように適応させた磁場を生成する目的で磁気回路に既に流れている電流を利用する。それは、中央磁気巻線30に流れる電流、または外周磁気巻線20に流れる電流、または中央磁気巻線と外周磁気巻線の両方に流れる電流、のいずれかであり得る。磁気回路に流れる電流は、典型的には以下の値を有する。100ワット〜500ワットの間の放電電力を必要とする電気推進システムの場合には、電流強度は1A〜2Aの間であり、より高い1.5kワット〜5kワットの間の放電電力を必要とする電気推進システムの場合には、電流強度は典型的には4A〜10Aの間である。
【0089】
他の一例の実施形態では、推進システム1の停止中には、わざわざ電流を磁気回路に注入する。より具体的には、中央磁気巻線30、または外周磁気巻線20、または中央磁気巻線と外周磁気巻線の両方、のいずれかに電流を注入する。注入される電流は、推進効果を生じさせることを可能とするように適応させた電流の強度よりもはるかに低い最大強度を有する。中央磁気巻線30と外周磁気巻線20である2つの磁気巻線が直列に接続されている場合に、磁気回路に流れる注入電流は、典型的には、推進効果を生じさせることを可能とするように適応させた電流の1%〜10%程度である。その電流値は、例えば、ミッションの熱的状況、エンジンおよびその衛星との連結部の設計、に依存する。
【0090】
電流は、必要に応じて、連続的または断続的に印加することができる。
【0091】
磁気回路の中央磁気巻線30、または外周磁気巻線20、または中央磁気巻線30と外周磁気巻線20の両方、のいずれかに電流を印加したら、電気推進システムの電気的パラメータを特定する。
【0092】
好ましくは、特定されるべき電気推進システムの電気的パラメータは、磁気回路の電圧および磁気回路に流れる電流の強度である。
【0093】
一実施形態では、磁気回路の電圧の値を測定する。
【0094】
電流源によって印加される電流の強度を把握している一実施形態では、特に電流源の制御が十分に正確であると考えられる場合に、この電流強度値を用いるという選択が可能である。必要に応じて、電流源が不正確である場合に、試験または製造業者からの情報に従って、電流強度値を再調整して、これにより、実際に印加された電流の強度値を、実際に測定する必要なく、より正確に推定するために、キャリブレーションモデルを使用することが可能である。
【0095】
好ましい代替実施形態では、電流源によって印加される電流の強度値に関わりなく、磁気回路に流れる電流の強度値を測定する。この測定により、特に電流源の不完全性または不安定性を排除することができるとともに、磁気回路に流れる電流の強度値の正確な値を得ることが可能となる。さらに、この測定は、完全に電気的に軌道に乗るために使用されるような複数の動作点を有する電流源と共に用いるのに、より一層容易である。
【0096】
一例の実施形態では、電圧を測定する。
【0097】
一例の実施形態では、推進システムの電気的パラメータである電圧および電流強度の測定は、好ましくは、電気推進システムの電力供給ユニットにおいて行う。
【0098】
あるいは、推進システムの電気的パラメータである電圧および電流強度の測定は、少なくとも1つの磁気巻線の両端子間で行う。
【0099】
電気的パラメータを取得したら、予め構築されたモデルにより、電気推進システムの熱基準点における温度を特定する。
【0100】
このモデルは、熱基準点が電気推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、測定された電圧および電流強度の値を入力として取り込み、熱基準点における温度を出力する。
【0101】
一実施形態では、少なくとも1つの磁気巻線の電気抵抗を計算する。
【0102】
例えば、オームの法則を用いて、この電圧値と電流強度値のペアに関係付けられた電気抵抗を計算する。次に、計算された電気抵抗値に対して、予め構築されたモデルを用いて、対応する温度を関係付ける。
【0103】
本例では、予め構築されたモデルは、熱基準点が電気推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、計算された電気抵抗値を入力として取り込み、熱基準点における温度を出力する。
【0104】
計算された電気抵抗値が、そのモデルに存在しない場合には、計算された抵抗値の周辺の2つの値の間の補間によって、温度値を見つけることが可能である。隣接する2つの値の間の間隔が小さいほど、その補間は、より正確となる。
【0105】
他の実施形態では、磁気回路の構成材料の電気抵抗率を計算する。
【0106】
電気抵抗率は、磁気回路の中央磁気巻線30および/または外周磁気巻線20の両端子の電圧と、それに流れる電流の測定値、ならびに巻線の断面と長さおよび電気推進システムの内部構造の値、から推定する。この電気抵抗率の測定値と、さらに磁気回路の構成材料のタイプを把握したら、その温度を推定し、ひいては、熱基準点が推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、熱基準点における温度を推定する。
【0107】
このモードでは、予め構築されたモデルは、計算された電気抵抗率値を入力として取り込み、電気推進システムの熱基準点における温度を出力する。
【0108】
予め構築されたモデルの入力データ(電圧、電流、抵抗、抵抗率)が何であるかに関わりなく、そのモデルは、各タイプの電気推進システムについての一連の測定によって、地上で予め定義されたものである。
【0109】
一例の実施形態では、電気推進システムを加熱する。同時に、熱基準点が電気推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、熱基準点に設置された温度センサを用いて、その温度を測定するとともに、磁気回路の電圧および電流強度を測定する。
【0110】
抵抗−温度モデルの実施形態の例では、関係付けられる電気抵抗を、例えばオームの法則を用いて計算する。測定された温度点のそれぞれについて、そのモデルにおいて、測定された抵抗値を対応させる。
【0111】
温度に応じた電気抵抗の変化プロファイルは、抵抗値の全範囲にわたって線形ではない場合がある。従って、モデルにおける値の総数を制限しつつ、温度特定の精度を最大限に高めるために、可変間隔でモデルを作成することができる。抵抗−温度曲線の傾きが大きいほど、間隔は小さくなり、抵抗−温度曲線の傾きが小さいほど、間隔は大きくなる。
【0112】
そのモデルは、打ち上げ前に衛星に予め搭載しておくことができる。
【0113】
また、地上で登録されているモデルに遠隔から衛星が問い合わせ可能であることも想定できる。従って、衛星は、測定された電圧値と電流値のペアまたは計算された電気抵抗値のいずれかを地上局に送信して、対応する温度値についての応答を待つことができる。従って、地上で多数の値をテーブルに登録して、衛星に搭載されるメモリを節約することが可能となる。また、アポステリオリに、衛星の打ち上げ後に、いくつかの動作範囲について地上で測定を再実施し、これにより温度測定をアポステリオリに改善することも可能である。
【0114】
測定される温度は、推進システムの作動フェーズ(運転中、停止中)に応じて、非常に異なるものとすることが可能である。あるいは、推進システムの作動フェーズごとに1つの、複数のモデルを作成することが可能である。
【0115】
また、複数の温度推定値の時間積分によって、電気推進システムの温度の変化方向を特定することも可能である。温度の上昇または下降に応じたヒステリシス効果が記録される場合に、どの時点においても、モデルのどの部分を選択すべきかを知ることが可能となる。
【0116】
なお、軌道上で、電気推進システムと測定位置とを接続する電力線の温度は変化するということに留意すべきである。これらの電力線の温度のこのような変化によって、それらの抵抗は変化し、これにより、推進システムの温度の推定に外乱が導入される。この現象は、例えば、これらの電力線の周囲の温度を推定または測定することにより、簡単に補正することができる。
【0117】
このように、熱基準点が推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、推進システムの熱基準点における温度を把握することにより、電気推進システムの熱挙動についての信頼性の高い監視が可能となる。これにより、サーミスタ式または熱電対式の測定装置およびそれに関連した取得システムを付設する必要なく、電気推進システムの最適な熱制御が可能となる。
【0118】
推進システムの運転フェーズ中には、熱基準点が推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、推進システムの熱基準点における温度の制御によって、その温度が規定された最高温度を超えないように確保することが可能となる。
【0119】
特定された温度が規定された最高温度を超えている場合には、推進システムを一時停止させることができる。
【0120】
推進システムの停止フェーズ中には、熱基準点が推進システムの内部にあるか外面の領域にあるかに関わりなく、推進システムの熱基準点における温度の制御によって、その温度が規定された最低温度を下回らないように確保することが可能となる。
【0121】
特定された温度が規定された最低温度未満である場合には、推進システムの再加熱を行う。
【0122】
一例の実施形態では、その再加熱は、ジュール効果によって実現する。このような再加熱は、磁気回路に電流を印加することからなることが可能である。印加される電流は、好ましくは、推進効果を生じさせることを可能とするように適応させた電流の強度よりも低い最大強度を有する。
【0123】
このように、宇宙推進システムの再加熱に従来使用されている、付属の電力供給システムを備えた再加熱器を使用する必要はもはやなくなる。
【0124】
複数の温度推定値の時間積分によって、推進システムの温度の変化方向を特定することが可能であるとともに、その経時的な変化率を監視することも可能である。推進システムの熱慣性を(予め地上で測定することにより)把握することによって、軌道上で、過熱を避けるために、推進システムの再加熱または停止の開始を予測することが可能となる。
【0125】
本発明は、推進におけるいくつかの熱制御モードでの応用が特に効果的であり、それは、地上からの誘導によるか、または地上とは独立に衛星が予め設定された閾値または計画に関して判断を行う自律モードであるか、または上記の2つのモードを組み合わせて、衛星はある程度の自律性を有しつつ地上とも連携するハイブリッドモードであるか、いずれかである。これらのモードに含まれる典型的なアクションは、既に説明されたものであり、特に、電流制御、再加熱の開始、推進システムの始動または停止、推進システム(群)の温度制御が含まれる。
【0126】
本発明は、非限定的な例によって上述した好ましい実施形態、および記載した変形例に限定されるものではない。また、本発明は、当業者が想到する範囲内の変形実施形態も包含する。
【0127】
上記の説明は、本発明により、その様々な特徴および効果によって、設定した発明の目的が達成されることを明確に示している。特に、電気推進システムの内部または外面の領域における温度を正確に制御するための、単純かつ信頼性の高い方法を提案している。本方法は、電気推進システムとPPUで構成されるペアに対して外部の要素を全く使用しないという利点を有する。特に、本発明により、取得系統(サーミスタまたは熱電対)および再加熱装置の電力供給を、PPU内に既に存在する系統および電力供給で置き換えることを可能とすることにより、宇宙船への推進システムの組み込みの単純化が可能となる。これにより、極めて良好に推進システムに組み込まれることで、結果的に、より低コストで、よりコンパクトに設置でき、より正確かつ効率的な運転が可能であるシステムが得られる。
図1