【文献】
Xueqin Zhao,(外5名),Antimonate and antimonite adsorption by a polyvinyl alcohol-stabilized granular adsorbent containing,Chemical Engineering Journal,2014年,Vol.247,page.250-257
【文献】
徳村 雅弘 (外1名),鉄粉(ZVI)を用いた水処理技術,用水と廃水,日本,2013年,Vol.55 No.8,第574−581頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バインダ樹脂は、澱粉、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、リグニンスルホン酸塩類、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、スチレン−アクリル共重合物からなる群から選択される1種以上である、
請求項6に記載のアンチモン含有水処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0026】
≪アンチモン含有水処理装置≫
図1は、本実施形態に係るアンチモン含有水処理装置の概略図である。このアンチモン含有水処理装置1は、0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されており、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水して通水後水を得る通水部11と、通水後水にアルカリ剤を添加して沈殿物を生成させる沈殿部12と、沈殿物をろ過するろ過部13と、アルカリ剤の添加前の通水後水における、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を予め求めておき、鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように、通水後水pHを所定の範囲内に調整するに際して、通水後水pHの測定値をフィードバックして、通水部に通水する前のアンチモン含有水に添加するpH調整剤及び/又は緩衝剤の添加量を調整する、第1の制御部14と、沈殿部において、鉄イオン濃度に応じて、水酸化鉄として沈殿させるのに必要量のアルカリ剤を投入する第2の制御部15を備える。なお、
図1においては、第1の制御部14及び第2の制御部15は一つの制御ユニットとして構成する例を記載しているが、この例に限定されず、第1の制御部14及び第2の制御部15はそれぞれ別の制御ユニットとして構成してもよい。
【0027】
アンチモン含有水処理装置1においては、このような処理を行うことにより、アンチモン含有水からアンチモンを低濃度まで除去することができる。以下、各構成要素について説明する。
【0028】
[通水部]
通水部11は、0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されており、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水させて通水後水を得ることができるものである。
【0029】
通水部11としては、上述した吸着剤粒子を充填した状態で、アンチモン含有水を通水可能なものであれば、特に限定されない。例えば、カラム状のものや、反応塔のようなものを用いることができる。
【0030】
なお、本発明において、「通水後水」とは、pH1以上6以下のアンチモン含有水を、0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されている通水部に通水して得られる水をいう。すなわち、通水部11の下流の水、より具体的には、通水部11と沈殿部12の間を流れる水を言う。
【0031】
[沈殿部]
沈殿部12は、少なくとも上述した通水部11の下流に配置され、通水後水にアルカリ剤を添加して沈殿物を生成させるものである。沈殿部12としては、各種反応装置・反応容器を用いることができる。
【0032】
沈殿部12には、撹拌部121を配置することができる。これにより、通水後水とアルカリ剤を効率良く混合することができる。撹拌部としては、例えば上部撹拌、下部撹拌、水中ミキサー等を用いることができる。
【0033】
また、沈殿部12のアルカリ剤投入部151の下流側には、pH測定部122を設けることができる。pH測定部122としては、水溶液のpHを測定することができるものであれば特に限定されず、例えばpHメーター等を用いることができる。後述するpH測定部141,144についても同様である。
【0034】
[ろ過部]
ろ過部13は、少なくとも上述した沈殿部12の下流側に配置され、沈殿部12にて生じた沈殿物をろ過するものである。ろ過部13としては、例えば各種ろ紙、ろ過膜等を用いることができる。
【0035】
[第1の制御部]
第1の制御部14は、アルカリ剤の添加前の通水後水における、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を予め求めておき、鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように、通水後水pHを所定の範囲内に調整するに際して、通水後水pHの測定値をフィードバックして、通水部に通水する前のアンチモン含有水に添加するpH調整剤及び/又は緩衝剤の添加量を調整するものである。第1の制御部14としては、例えば各種制御ユニットを用いることができる。
【0036】
第1の制御部14は、通水部11の下流側且つ沈殿部12の上流側に通水後水pHを測定するpH測定部141を備える。また、第1の制御部14は、そのpH測定部141におけるpHの測定結果に基づきpH調整剤を添加するpH調整剤添加部142、緩衝剤を添加する緩衝剤添加部143、それらの剤の添加後且つ通水部11を通過前のpHを測定するpH測定部144、アンチモン含有水の流量(流速)を制御する流量制御部145を備える。
【0037】
[第2の制御部]
第2の制御部15は、沈殿部12において、鉄イオン濃度に応じて、水酸化鉄として沈殿させるのに必要量のアルカリ剤を投入するものである。第2の制御部15としては、例えば各種制御ユニットを用いることができる。
【0038】
第2の制御部15は、必要量のアルカリ剤を投入する機能を有するアルカリ剤投入部151を備える。このアルカリ剤投入部151は、第1の制御部で制御した通水後水pHに対応する鉄イオン濃度に応じて、アルカリ剤を添加する。
【0039】
[pH調整部]
必須の態様ではないが、アンチモン含有水処理装置1は、pH調整部16を備えることができる。このpH調整部16は、通水部に通水するアンチモン含有水を所定のpH範囲に調整するための、pH調整の場である。pH調整部16は、各種反応器、容器であってよい。
【0040】
pH調整部16には、pH調整剤添加部142、緩衝剤添加部143及びpH測定部144が配置される。
【0041】
[加熱部]
必須の態様ではないが、アンチモン含有水処理装置1は、加熱部17を備えることができる。この加熱部17は、通水部に通水するアンチモン含有水を所定の温度範囲に調整するための、温度調整の場である。
【0042】
加熱部17には、撹拌部171を設けることができる。これにより、アンチモン含有水の温度を均一に加熱することができる。撹拌部としては、例えば上部撹拌、下部撹拌、水中ミキサー等を用いることができる。
【0043】
≪アンチモン含有水処理方法≫
本実施形態に係るアンチモン含有水処理方法は、0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されている通水部に、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水して通水後水を得る第1工程と、通水後水にアルカリ剤を添加して沈殿物を生成させ、沈殿物をろ過する第2工程と、を備え、第1工程においては、アルカリ添加工程前の通水後水における、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を予め求めておき、鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように、通水後水pHを所定の範囲内に調整するに際して、通水後水pHの測定値をフィードバックして、通水部に通水する前のアンチモン含有水に添加するpH調整剤及び/又は緩衝剤の添加量を調整する、第1の制御工程を備え、第2工程においては、鉄イオン濃度に応じて、水酸化鉄として沈殿させるのに必要量のアルカリ剤を投入する第2の制御工程を備える。
【0044】
そして、このように2段階でアンチモンを除去することにより、アンチモン含有水からアンチモンを効率良く吸着分離し、処理水中のアンチモン濃度を低濃度に減少させることができる。一方で、2段階でアンチモンを除去するものの、その除去における制御すなわち、第1の制御工程及び第2の制御工程の双方を、通水後水pHという一つのパラメータによって制御することにより、簡便な制御を行うことができ、この制御に要する手間やコストを低減することができる。
【0045】
以下においては、
図1に示すアンチモン含有水処理装置1を用いて、本実施形態のアンチモン含有水処理方法を行う方法について具体的に説明する。
【0046】
[準備工程]
本実施形態のアンチモン含有水処理方法は、準備工程を備えるものである。この準備工程は、当該アンチモン含有水処理方法の前処理として行う工程である。具体的に、準備工程は、アルカリ添加工程前の通水後水における、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を予め求める工程である。
【0047】
通水部11には、0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されている。ここにpH1以上6以下のアンチモン含有水を通水すると、アンチモン含有水が酸性であるために、還元鉄粉が溶解してpHが上昇する。この通水後水のpHは、通水部11から溶出する鉄イオンの量(濃度)と相関がある。一方で、後述する第2工程では、鉄イオン濃度に応じた量のアルカリ剤を投入して、第1工程でアンチモン含有水に溶出した鉄イオンと還元鉄粉に吸着されなかったアンチモンを除去し、アンチモン濃度を極めて低くしている。そこで、第2工程における適正なアルカリ剤の量を算出すべく、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を予め求めておく。これにより、アンチモン含有水処理方法を行う際に、通水後水に含まれる溶出鉄イオン濃度を、通水後水pHを測定するのみで簡易に見積もることができる。適正なアルカリ剤の量に対してアルカリ量が著しく低いと、鉄イオンとアンチモンの共沈が不十分となることがあり、一方で、適正なアルカリ剤の量に対してアルカリ量が著しく高い場合、鉄イオンとアンチモンの共沈を十分に達成することはできるが、アルカリ濃度及びpHが高くなり、放流前にさらなる中和が必要となることがある。
【0048】
0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を求める場合には、実際にアンチモン含有水処理を行う装置と同様の装置で行う。特に、アンチモン含有水の流量や温度、通水部11の長さや径、通水部11内に含まれる0価の還元鉄粉の量等は、実際にアンチモン含有水処理を行う条件と同様の条件とすることを要する。なお、通水部11に含まれる0価の還元鉄粉の量は、繰り返し述べているとおり、徐々に溶出するものではあるが、その溶出量は少ないため、例えば還元鉄粉1kgあたり5000L、好ましくは3000L以上、より好ましくは1000L以上を処理するまでは、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係は概ね一定と考えてよい。
【0049】
準備工程では、例えば、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水部11に通水するに際し、pH調整剤添加部142において添加する酸又はアルカリ(詳細は後述する)の量を調整して、通水部11の入口におけるアンチモン含有水のpHを調整して、通水部11に通水し、通水後水に含まれる鉄イオン濃度を測定する。ここで、通水部11の入口における酸性水溶液のpHが変化すると、通水後水のpHも変化する。この変化を利用して、複数(例えば、好ましくは3点以上、より好ましくは4点以上)のpHを有する通水後水について、そこに含まれる鉄イオン濃度を測定し、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を求める。なお、上記においては、アンチモン含有水を例示したが、準備工程については、アンチモンを含有しない酸性水様液を用いて0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を求めてもよい。鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係は、通水される水におけるアンチモン濃度に大きく影響を及ぼさないからある。
【0050】
[第1工程]
第1工程は、0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されている通水部11に、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水して通水後水を得る工程である。そして、この第1工程においては、アルカリ添加工程前の通水後水における、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を予め求めておき、鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように、通水後水pHを所定の範囲内に調整するに際して、通水後水pHの測定値をフィードバックして、通水部11に通水する前のアンチモン含有水に添加するpH調整剤及び/又は緩衝剤の添加量を調整する、第1の制御工程を備えるものである。
【0051】
0価の還元鉄粉は、pH1以上6以下の環境において、アンチモンやその化合物を、その価数を問わず吸着・保持する特性を有する。このため、アンチモン含有水に還元鉄粉を接触させることにより、アンチモンを吸着させることができる。このように、アンチモン含有水に還元鉄粉を接触させるだけでアンチモンを回収することができるので、複数の薬剤投入や複数の処理工程(例えば、前処理としての酸化処理又は還元処理)が必要となる従来の処理方法に比べて、アンチモン含有水からアンチモンを効率的に除去することができる。
【0052】
以下、このような0価の還元鉄粉を用いたアンチモンの吸着及び沈殿反応について、考えられるメカニズムを、反応式を用いて説明する。
【0053】
初めに、以下の(1)〜(3)式に示す酸化還元反応により、5価のアンチモンは、3価のアンチモンに還元される。
Sb
5+ + 2e
− → Sb
3+ ・・・ (1)
Fe → Fe
2+ + 2e
− ・・・ (2)
Fe
2+ → Fe
3+ + e
− ・・・ (3)
【0054】
その後、(1)式により生成した3価アンチモンは、還元鉄粉の表面の酸化・腐食により発生する酸化鉄又は水酸化鉄と、以下の(4)、(5)式に示すように共沈して、還元鉄粉の表面に吸着される。つまり、本発明においては、3価アンチモンはもちろんのこと、5価のアンチモンも効果的に除去できる。
Sb
3+ → Sb(OH)
3↓ ・・・ (4)
Fe
3+ → Fe(OH)
3↓ ・・・ (5)
【0055】
なお、(1)式においては、便宜上、5価アンチモンを「Sb
5+」と表記しているが、5価アンチモンはこれに限定されず、例えば、5価アンチモンの主要な水溶性分子種であるSb(OH)
6−等、5価アンチモンの錯体等を含むものである。つまり、本発明におけるアンチモンとは、種々のアンチモン化合物を含む意図である。
【0056】
(第1の制御工程)
第1の制御工程においては、通水部11に通水させるアンチモン含有水は、pH1以上6以下とするとともに、通水後水に含まれる鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように、通水後水pHを所定の範囲内に調整する。
【0057】
通水後水に含まれる鉄イオン濃度の範囲としては、例えば30mg/L以上であることが好ましく、40mg/L以上であることがより好ましく、50mg/L以上であることがさらに好ましい。一方、通水後水に含まれる鉄イオン濃度の範囲としては、300mg/L以下であることが好ましく、250mg/L以下であることがより好ましく、250mg/L以下であることがさらに好ましく、200mg/L以下であることが特に好ましい。このように鉄イオンを溶出させ、通水後水に一定量の鉄イオンを含有させて、その後アルカリ剤を添加することで、鉄イオンと、通水後水になおも含まれるアンチモンとを共沈させることができる。なお、通水後水に含まれる鉄イオン濃度が250mg/L超であると、鉄の溶出量が多くなり、アルカリ剤添加後のFe(OH)
3の沈殿量が多くなり、ろ過膜への負荷が大きくなるおそれがある。
【0058】
設定する通水後水pH(測定値)としては、特に限定されないが、例えば6.7以上であることが好ましく、6.8以上であることがより好ましく、6.9以上であることがさらに好ましい。また、通水後水のpHとしては、例えば8.2以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、7.7以下であることがさらに好ましく、7.6以下であることが特に好ましい。通水後水のpHが6.7以上8.2以下であることにより、通水後水に、アンチモンを共沈させるためにより適当な量の鉄イオンを溶出させることができる。また、特に通水後水のpHが6.9以上7.6以下の範囲であることにより、後段でアルカリ剤を添加することにより鉄イオンが沈殿して生じるFe(OH)
3粒子の粒径が粗大になり、分離が容易となる。そしてこのようにして鉄イオンが存在することにより、この鉄イオンと通水後水になおも含まれるアンチモンとを共沈させることができる。
【0059】
上述したとおり、後段の第2工程においては、鉄イオン濃度に応じて、ここに含まれる鉄イオンを水酸化鉄として沈殿させるのに必要量のアルカリ剤を投入する。そして、この水酸化鉄の沈殿により、還元鉄粉の表面に吸着されずに残留して通水後水に含まれるアンチモンを水酸化アンチモンとして共沈させることができる。これによりアンチモンを極めて低い濃度まで除去することができる。このため、鉄イオン濃度を所定の範囲として、アンチモンとの共沈に用いる一定量の鉄イオンをあえて溶出させることが必要となる。ここで通水後水に含まれる鉄イオンは、還元鉄粉を構成する鉄原子がアンチモン含有水へ溶解した結果として生じるものであるから、通水後水に含まれる鉄イオン濃度は、主として通水部11に通水させる前のアンチモン含有水のpHに依存する。したがって、本実施形態に係るアンチモン含有水除去方法では、通水部11においての吸着量のみを考慮してpH1以上6以下とするだけでは十分でなく、これに加えて通水後水に含まれる鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように、通水後水pHを所定の範囲内に調整する必要がある。
【0060】
アンチモン含有水は、排出の経緯によりそれぞれpHが異なるものであり、通水後水pHは必ずしも目的とする範囲になるとは限らない。そこで、アンチモン含有水のpHが目的とする範囲に含まれない場合、例えば、pH調整剤を用いてpHを調整することができる。pH調整剤としては、pHを上昇させたい場合、塩基性化合物であれば特に限定されず、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム等を用いることができる。また、pHを減少させたい場合、酸性化合物であれば特に限定されず、例えば、硫酸等を用いることができる。
【0061】
上述したとおり、アンチモン含有水のpHは少なくとも1以上6以下の範囲内で調整する。アンチモン含有水のpHが1以上6以下であることにより、還元鉄粉のアンチモン吸着能が高くなる。アンチモン含有水のpHが1未満となると、通水後水への鉄の溶出量が大幅に多くなるため、アルカリ剤添加後のFe(OH)
3の沈殿量が多くなり、ろ過膜への負荷が大きくなるおそれがある。また、アンチモン含有水のpHとしては3以上5.5以下の範囲内で調整することが好ましく、3.5以上5.5以下の範囲内で調整することが好ましい。アンチモン含有水のpHを3以上5.5以下の範囲内で調整することにより、特に高いアンチモン吸着能を有し、アンチモンをより効果的に吸着させることができる。
【0062】
pHの調整方法としては、例えば、アンチモン含有水にpH調整剤を添加しながらpHを測定して、アンチモンを含有する水のpHが所定の値となったところで添加を停止する方法等が挙げられる。
【0063】
また、アンチモン含有水のpHを適切な範囲に維持するため、緩衝剤を用いることができる。緩衝剤としては、特に限定されず、pKaが1以上7以下の範囲内にあるものが好ましく、2以上6.5以下の範囲内にあるものがより好ましく、3以上6以下の範囲内にあるものがさらに好ましく、4以上5.5以下の範囲内にあるものが特に好ましい。具体的に、このような緩衝剤としては、酢酸アンモニウム水溶液や酢酸ナトリウム水溶液等を用いることができる。
【0064】
以上のとおり、本実施形態に係るアンチモン含有水処理方法では、通水部11に通水された後の水(通水後水)に基づき、通水部11に通水される前のアンチモン含有水のpHを少なくともpH1〜6の範囲内において調整する。したがって、通水部11の前後でpHを測定する必要がある。したがって、例えば
図1においては、通水部11の前後にpH測定部144,141を設けている。なお、
図1におけるpH測定部122のように、アルカリ添加後の水(添加後水)のpHを測定して、アルカリが過不足なく添加されているか、またpHが排出基準を満たしているか確認してもよい。
【0065】
(加熱)
必須の態様ではないが、第1の制御工程の前及び/又は後に、加熱部17によりアンチモン含有水を加熱してもよい。なお、
図1のアンチモン含有水処理装置を用いてアンチモン含有水処理を行う場合、第1の制御工程の後に加熱することとなるが、この態様に限定されるものではない。
【0066】
加熱部17は、例えばその内部に撹拌部171及び伝熱部172(例えば、電熱線)が設けられており、通水部11に通水させるアンチモン含有水を加熱するものである。この伝熱部172は、例えば電源に接続されており、加熱部17内のアンチモン含有水を加熱するものである。このように加熱部17によりアンチモン含有水を加熱することにより、還元鉄粉における重金属の吸着力の向上を図ることができ、アンチモンをより効果的に除去することができる。
【0067】
アンチモン含有水の加熱温度としては、特に限定されず、例えば室温(25℃)以上に調整することが好ましく、30℃以上に調整することが好ましく、35℃以上に調整することがより好ましい。還元鉄粉の吸着力は、温度が高くなるにつれて高くなる。したがって、混合工程においてアンチモン含有水の温度を上昇させることにより、還元鉄粉におけるアンチモンの吸着力の向上を図ることができ、アンチモンをより効果的に除去することができる。一方で、アンチモン含有水の温度としては、例えば、80℃以下とすることが好ましく、60℃以下とすることがより好ましく、50℃以下とすることがさらに好ましく、45℃以下とすることが特に好ましい。排水の排出基準が45℃であるため、アンチモン含有水の温度があまりに高すぎると、冷却にコストを要する場合もある。
【0068】
(通水)
以上のようにして少なくともpHを調整したアンチモン含有水を通水部11に通水して通水後水を得る。これにより、アンチモン含有水中に含まれるアンチモンを、吸着剤粒子に吸着させることができる。
【0069】
より具体的に、通水工程は、例えば吸着剤粒子を通水部内に充填し、その通水部にアンチモン含有水を通水させることにより、アンチモン含有水からアンチモンを吸着する。
【0070】
通水工程では、吸着剤粒子として0価の還元鉄粉を含む粒子を用いる。ここで、還元鉄粉とは、0価に還元された鉄粉をいい、具体的には、JFEスチール株式会社JIP240M、JIP255M、JIP270M、JIP270MS、JIP255M−90や、DOWAエレクトロニクス株式会社製DCC、DNC、DCC−200、DG、DR、DR−150、DE−50、DE、DE−150、RK−200等を用いることができる。
【0071】
還元鉄粉の粒径としては、100μm以下であることが好ましい。還元鉄粉は、粒径が小さい方が、質量(鉄使用量)あたりの表面積の割合が増加するため、より多くのアンチモンを吸着、保持することができる。なお、本明細書において、「粒径」とは、レーザー回析・散乱法により測定された平均粒径(メジアン径D
50)をいう。
【0072】
還元鉄粉は、銀、リン酸及び硫黄を含まないことが好ましい。還元鉄粉が銀又はリン酸を含むことにより、還元鉄粉のコストが向上するおそれがある。また、還元鉄粉が硫黄を含むことにより、混合時に硫化硫黄が発生するおそれがあり、除去等の対策が必要となる。同様に、添加剤としても銀、リン酸及び硫黄を添加しないことが好ましい。なお、例えば、原料由来又は製造工程由来等の不可避的不純物として、還元鉄粉に含有される銀、リン酸及び硫黄を排除するものではなく、例えばそれぞれの成分について100ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下の少量の含有は許容される。
【0073】
吸着剤粒子としては、還元鉄粉そのもの、還元鉄粉を所定の大きさに成型したもの、還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているもの等を用いることができる。その中でも、還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているものを用いることが好ましい。還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されていることにより、アンチモン含有水中に含まれるアンチモンを効率的に回収することができる。また、粒子化(ペレット化)することにより、耐圧性も増すので、吸着剤粒子を充填した状態、長期間の連続運転が可能となる。
【0074】
吸着剤粒子の形状としては、吸着剤粒子を通水部に充填し、その通水部にアンチモン含有水を通水させることにより、アンチモン含有水からアンチモンを吸着するのが効率的であることから、通水部に充填でき、その通水部に被処理水を通過させる際の圧力損失が低い形状のものが好ましい。このような形状としては、例えば、球状、立方体状、柱状、中空柱状等の形状等を挙げることができる。なお、吸着剤粒子としてバインダ樹脂を含まない物を用いる場合、圧力損失が低い形状(例えば、球状等)とすることが好ましい。
【0075】
吸着剤粒子の粒径としては、特に限定されず、例えば粒径1mm以上5mm以下であることが好ましい。粒径が1mm以上5mm以下であることにより、吸着剤粒子を充填した場合に通水性を保つとともに、吸着剤粒子に含まれる還元鉄粉とアンチモン含有水とを十分に接触させることができる。
【0076】
吸着剤粒子として、還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているものを用いる場合、バインダ樹脂としては、特に限定されず、例えば親水性で、少なくとも強い酸性域で溶解しないものを用いることが好ましい。具体的に、天然物としては澱粉、アラビアゴム等、半合成品としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、リグニンスルホン酸塩類等、合成品としては、ポリビニルアルコール(PVA)、フェノール樹脂、スチレン−アクリル共重合物等を用いることができる。
【0077】
吸着剤粒子として、還元鉄粉そのものを所定の大きさに成型したものを用いる場合又は還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているものを用いる場合、吸着剤粒子に含まれる還元鉄粉の平均粒径としては、特に限定されず、100μm以下であることが好ましい。還元鉄粉は、粒径が小さい方が、重量に対する表面積の割合が増加するため、より多くのアンチモンを吸着・保持することができる。
【0078】
このようにしてpHが調整された後、アンチモン含有水は、吸着剤粒子が充填された通水部11を上向流(通水部の下部から上部へ向けた通水)にて一定速度で通水する。なお、本発明は、通水が上向流のみに限定されるものではなく、下向流、横向流等、あらゆる方向への通水を採用することができる。なお、
図1において、pH調整部16は、通水部11の上流に接続されているが、この例に限定されるものではなく、通水部11内に配置することもでき、また、これらの箇所のうち複数箇所に接続することもできる。
【0079】
より具体的な構成として、通水部11としての吸着塔には、例えば還元鉄粉をバインダ樹脂に分散させて粒径1mm以上5mm以下に粒状化させた吸着剤粒子や、粒径100μm以下の鉄粉を転動造粒等の方式で直径1mm以上5mm以下に成型・造粒して構成した吸着剤粒子、粒径1mm以上5mm以下に成型した還元鉄粉そのものからなる吸着剤粒子(例えば、成型時に1mmメッシュ、2mmメッシュ、5mmメッシュ等を用いて分級・篩分けした還元鉄粉)等が充填されている。なお、吸着剤粒子としては、還元鉄粉を含むものであれば特に限定されない。吸着塔には、通水速度(以下、「SV値」という。)を、好ましくは1以上10以下、より好ましくは2以上9以下、さらに好ましくは3以上8以下、特に好ましくは4以上7以下の範囲に設定してアンチモン含有水が通水される。
【0080】
ここで、SV値とは、単位時間あたりに、処理に用いた吸着剤粒子体積の何倍のアンチモン量を処理(吸着)できるかを表す指標である。具体的に、SV値は、処理水量(L/H)/吸着剤粒子体積(L)で算出することができる値である。
【0081】
なお、このようにしてアンチモンを吸着した吸着剤粒子については、脱着処理により再生し、再度吸着処理に利用することができる。脱着処理に用いる脱着剤としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いることができる。吸着剤粒子を廃棄処理する場合にも、吸着剤粒子は主成分である鉄は環境に影響を及ぼし得るものでなく、また、アンチモンは吸着剤粒子に強固に保持されていて溶出することがないため、吸着剤粒子を容易に処理することができる。
【0082】
[第2工程]
第2工程は、通水後水にアルカリ剤を添加して沈殿物を生成させ、沈殿物をろ過する工程である。そして、この第2工程においては、鉄イオン濃度に応じて、水酸化鉄として沈殿させるのに必要量のアルカリ剤を投入する第2の制御工程を備える。
【0083】
アンチモン含有水を還元鉄粉に通水させるだけでも、日本国や中華人民共和国のアンチモン排出基準を達成し得るが、接触工程の後段にこの第2工程を設けてアルカリを添加することにより、溶出した鉄と残留アンチモンが共沈し、アンチモン濃度を極めて低濃度に抑制することができる。しかしながら、上述した通水のみでは、例えば紡績業の生産排水を処理する場合、混合後水中に比較的高い濃度で鉄が溶出することがあり、再利用又は排出するためには、いずれの場合でも鉄イオン濃度を低減させる必要があるが、本実施形態に係るアンチモン含有水除去方法では、意図的に、第1工程において得られる通水後水に所定の濃度範囲に制御して鉄イオンを残留させる。これにより、第1工程において還元鉄粉に吸着されずに通水後水になおも残留した微量のアンチモンを、アルカリを添加するだけで除去することができ、これにより、アンチモン濃度も極めて低く低減させることができる。特に、処理対象たる生産排水の種類によっては、共存物質が混合工程における還元鉄粉のアンチモン除去能を低下させること等により、長期の稼働により通水部11のアンチモン除去性能が低下する可能性もある。しかしながら、このような場合でも、第2工程においてより確実にアンチモン濃度を低減することができる。
【0084】
上述したように、アルカリ剤を投入することにより、通水後水に含まれるFe
2+を水酸化物に変化させることができる。以下、この具体的なメカニズムを説明する。通水後水にアルカリを添加すると、下記(6)式の反応により水酸化物を生成させることができる。このようにして生成した水酸化物は水中で撹拌されることで下記(7)式の反応でFe(OH)
3が生成される。通水後水に残存している微量のアンチモンと(4)、下記(7)式の反応により共沈し、Sb(OH)
3がその表面に付着したFe(OH)
3が固体状で得られる。この固体を分離除去することで、アンチモンが処理水から除去される。
Fe
2++2OH
− → Fe(OH)
2↓
・・・ (6)
4Fe(OH)
2+O
2+2H
2O → 4Fe(OH)
3↓
・・・ (7)
【0085】
なお、鉄イオン及びアンチモンを除去するには、他に酸化剤を添加して個々のイオンを沈殿させる方法も考えられる。しかしながら、このようなアンチモン含有水除去方法においてアルカリ剤は、酸化剤に比べて工程の簡素化及び薬剤のコストの観点から利点が大きい。具体的に、酸化剤を添加した場合に、アンチモンがより環境への影響が多い5価のアンチモンへ酸化される。もっともアルカリ条件で酸化すれば、5価のアンチモンは直ちに水酸化物を形成し殆どの割合が除去される。しかしながら、この調整や検査等により工程が複雑化することがある。また、アルカリ剤としては、詳細は後述するが、例えば水酸化ナトリウム等を用いることができる。このようなアルカリ剤は、一般的に酸化剤と比べて薬剤のコストが低い。
【0086】
(第2の制御工程)
第1の制御工程によって通水後水のpHを調整することにより、それに応じて通水後水に含まれる鉄イオン濃度も制御される。この第2の制御工程においては、第1の制御工程により制御した鉄イオン濃度に応じて、水酸化鉄として沈殿させるのに必要量のアルカリ剤を投入する。
【0087】
アルカリとしては、OH基を有するものであれば特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム等を用いることができる。操作性、反応性から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化カルシウムを用いることが好ましい。
【0088】
アルカリ剤の投入量としては特に限定されないが、水酸化物イオン換算で、鉄イオン濃度に対するモル比で3.5倍以上であることが好ましく、3.7倍以上であることがより好ましく、3.8倍以上であることがさらに好ましい。一方で、アルカリ剤の投入量としては、鉄イオン濃度に対するモル比で4.5倍以下であることが好ましく、4.4倍以下であることがより好ましく、4.2倍以下であることがさらに好ましい。ここで、通水部11において溶出する鉄イオンは主としてFe
2+である。そして、アルカリの添加では酸化数に大きな影響を及ぼさないから、アルカリを投入して、第1段階目の反応(上記(6)式)にて生ずる沈殿はFe(OH)
2である。すなわち、沈殿部12において、Fe(OH)
2にするためのアルカリ剤の投入量の等量は2倍量である。したがって、上述した量は等量と比べて非常に多い。理由は明らかではないが、投入量をこのような範囲とすることにより、鉄の沈殿量が多くなり、結果としてアンチモンの共沈量も多くなる。なお、ここでの「鉄イオン濃度」は、予め求めた鉄イオン濃度と水後水pHとの関係に基づく、フィードバック制御によって調整した通水後水pHに対する鉄イオン濃度の値である。
【0089】
なお、具体的なアルカリ剤の投入量としては、特に限定されないが、過剰の注入(添加)によるpH上昇を抑制するために濃度は1%以下が好ましい。
【0090】
アルカリ剤の投入及びその後の混合(撹拌)は、大気中等、酸素雰囲気で行うことが好ましい。酸素雰囲気で行うことにより、この反応をより速く進めることができる。
【0091】
アルカリ剤の投入方法としては、水酸化物の生成が成し得るものであれば特に限定されず、連続的に添加しても断続的に添加してもよい。
【0092】
アルカリ剤添加及び水中での撹拌により生成する表面にアンチモンが付着したFe(OH)
3粒子(以下、単にFe(OH)
3粒子と言う。)としては、平均粒径(メジアン径D
50)が10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。一般的に粒径が大きいほど、自重や遠心分離等で沈降しやすくなり、また、ろ過膜の目詰まりも起こしにくくなるので、後段におけるろ過が容易となる。なお、このFe(OH)
3粒子は、1次粒子が生成して2次粒子として粗大な粒子を形成し得る。この沈殿反応は、例えば酸化反応等、他に考え得る鉄イオンの沈殿方法と比較して遅い反応である。したがって、粒子は比較的小さい1次粒子が生成し、その後この1次粒子同士が凝集しやすくなることで、2次粒子としては大きな粒子を形成することができる。以下、このFe(OH)
3を含む水を「沈殿後水」と言う。
【0093】
(ろ過)
アルカリ剤の添加後、Fe(OH)
3粒子をろ過する。このようにして固体状としてFe(OH)
3粒子とともに処理対象であるアンチモンを回収し、放流可能な水に浄化することができる。
【0094】
ろ過装置としては、濃縮(膜濃縮)できるものであれば特に限定されないが、Fe(OH)
3との接触時間(共沈反応時間)を増やすことで、Sb(OH)
3の低減が図れることから、MF膜を用いてクロスフロー方式通水する装置が好ましい。また、通水方式としては、全圧ろ過装置を用いることができる。また、膜分離装置に用いる膜は、UF(限外ろ過膜)であってもよい。いずれの場合でもろ過膜としては、孔径が小さいほどFe(OH)
3粒子を除去できる。ただし、あまりに孔径が小さすぎると、細孔が詰まりやすくなり、多量の沈殿後水をろ過しにくくなる。そこで、ろ過膜の孔径としては、例えば0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましく、0.5μm以上であることが特に好ましい。また、ろ過膜の孔径としては、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。これにより生成されるFe(OH)
3粒子をより確実に回収することができる。
【0095】
[制御の動作]
以下、アンチモン含有水処理方法における制御の一例について、
図1を用いてより詳細に説明する。
【0096】
第1の制御部14は、少なくともpH測定部141、pH調整剤添加部142、緩衝剤添加部143、pH測定部144とそれぞれ通信可能な状態で接続されている。
【0097】
第2の制御部15は、少なくともアルカリ剤投入部151通信可能な状態で接続されている。また、第2の制御部15は、第1の制御部14又はpH測定部141の少なくともいずれかと通信可能な状態で接続される必要があるが、以下の例においては、第2の制御部15が第1の制御部14と一体化されている例(すなわち、事実上両者が接続されている例)について説明する。
【0098】
アンチモン含有水処理装置1の実運用の前に、同システムにpHの異なる酸性水溶液を流し、通水後の水のpHを例えば6〜8.5、好ましくは7〜8の範囲内で5回鉄イオン濃度を測定する。これにより、鉄イオン濃度と、通水後水pHとの対応関係を求めるとともに、処理対象であるアンチモン含有量との兼ね合いから溶出させる(通水後水に含まれる)鉄イオン濃度に対応する通水後水pHの範囲(例えば、pH=7〜7.5)を設定する。なお、以下、この設定値のことを「設定通水後水pH」という。設定通水後水pHの範囲は第1の制御部に保存されている。また、還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と通水後水pHとの関係は、第2の制御部に保存されている。
【0099】
次いで実運用を開始し、アンチモン含有水処理装置1内にアンチモン含有水が導入されると、流量制御部145を介してpH調整部16に移送される。ここで、アルカリ剤や緩衝剤を添加してpH1〜6の範囲として、加熱部17に移送される。加熱部では、アンチモン含有水を例えば45℃に加熱して、通水部11に通水される。この通水により、アンチモン含有水に含まれる大部分のアンチモンが通水部11の内部に収容された還元鉄粉に吸着される。一方で、酸性溶液と接触した鉄はイオンとなって溶け出し、通水後に含まれることとなる。また、このように鉄が酸性溶液と接触したことにより、通水後水は、通水前のアンチモン含有水に比べてpHが高い。pH測定部141は、通水部11から排出された通水後水のpHを測定する。ここで、pH測定部141で測定したpHは、第1の制御部14に送られ設定通水後水pHと対比される。そして、pH測定部141で測定したpHが例えば設定通水後水pH(pH=7〜7.5)より低い(例えば、pH=6.5)ときは、アンチモン含有水のpHを高くするように、第1の制御部14からpH調整剤添加部142や緩衝剤添加部143に指示を送信する。そのような指示を受けたpH調整剤添加部142では、例えば酸の添加量を減らすか、又はアルカリの添加量を多くして、pH測定部141で測定したpHが7〜7.5となるようにフィードバック制御を行う。これに対し、pH測定部141で測定したpHが例えば設定通水後水pH(pH=7〜7.5)より低い(例えば、pH=8.5)ときは、pH調整剤添加部142では、例えば酸の添加量を増加させるか、又はアルカリの添加量を少なくする。
【0100】
次に、第2の制御部15では、第1の制御部14から現在制御している通水後水pHの範囲を受信し、第2の制御部15に保存された還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と通水後水pHとの関係から、通水後水に含まれる鉄イオン濃度を見積もり、この量に応じて(例えば、鉄イオン量に対する4モル倍量の水酸化物イオン)添加するアルカリ剤の量をアルカリ剤投入部151に指示する。この指示を受信したアルカリ剤投入部151では、指示された量だけ沈殿部12にアルカリ剤を投入する。
【0101】
一方で、通水後水は、沈殿部12に移送され、アルカリ剤が投入される。これにより、(6)、(7)式に示す反応式を経てFe(OH)
3粒子が生成する。このように固体が混じったままの状態で沈殿後水がろ過部13に移送されて、ろ過され固液分離されて、Fe(OH)
3粒子が除去され、外部に放流される。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0103】
(準備工程)
図1に示す構成のアンチモン処理装置を構成した。アンチモン濃度1mg/Lのアンチモン含有水を、SV値を5として送水するよう設定した。また、加熱部17では加熱温度を45℃に設定した。
【0104】
pH測定部141におけるpHの指示値を、7.0、7.5、8.0、8.1、8.3、8.5となるようpH調整剤添加部142を制御して、アンチモン含有水を通水部11に通水した。なお、pH調整剤として硫酸を用いた。緩衝剤添加部143を用いた緩衝剤の添加は行わなかった。pHの指示値が目的の値で安定してから1時間後に、通水部11を透過した通水後水をサンプリングし、その通水後水中の鉄イオン濃度をJIS K 0102:2013に基づき測定した。
【0105】
図2は、通水後水中の鉄イオン溶出濃度(mg/L)対通水後水のpHのグラフである。通水後水のpHを7に調整すると200mg/L、pHを7.5に調整すると50mg/Lの鉄イオンが溶出することがわかった。
【0106】
(Fe(OH)
3粒子の粒度分析)
以上に示した準備工程の実験結果に基づきpH調整剤添加部142では、pH調整剤の添加量を、pH測定部141におけるpHの指示値が7となるようにpH調整剤添加部142によって制御し、200mg/Lの鉄が通水後水に含まれるようにした。それ以外は、準備工程と同様の条件とした。アルカリ投入部151では、1L当り(4[倍当量]×200[mg]/56[mg/mol])モル量の水酸化ナトリウムを添加した。この際の投入後の水(沈殿後水)のpH測定部122におけるpHの指示値は稼働中、ほぼ8であった。24時間アンチモン処理装置を稼動し、水酸化物生成部13の析出したFe(OH)
3粒子を、ろ過部12を設置した孔径0.1μmのろ紙によってろ過し回収した。回収したFe(OH)
3粒子は、水に分散し、レーザー回折式粒度分布測定装置(Bettersize Instruments Ltd.製、BT−9300ST Intelligent Laser Particle Size Analyzer)により、粒度分布を測定した。
【0107】
図3は、通水後水pH7のときの沈殿後水中のFe(OH)
3粒子の粒度分布(頻度分布及び積算分布)のグラフである。
図3において、横軸はFe(OH)
3粒子の粒径(μm)、縦軸は粒子の存在割合(%)を示す。アルカリ添加制御部13に析出したFe(OH)
3粒子の平均粒径(メジアン径(D
50))は73.24μmであり、粒径0.51〜1.35μmの粒子の割合0.8%、粒径0.74μm未満の粒子の割合は0%であった。
【0108】
以上の結果から、1μmの孔径を有するMF膜やろ紙で簡易に分離可能であることが分かった。
【0109】
次に、通水後水pHを8に変更し、同様にしてアンチモン含有水の処理を行った。
図4は、通水後水pH8のときの沈殿後水中のFe(OH)
3粒子の粒度分布(頻度分布及び積算分布)のグラフである。通水後水pHが7のとき(
図3参照)に比べて、粒径分布が小さくなっていることが分かる。これは、通水後水pHが7のときに比べて、鉄の含有量が少ないためであると考えられる。使用するMF膜やろ紙の細孔は小さくなるが、アンチモンは十分に回収できる。
【0110】
(アルカリ添加量の水酸化物析出に対する効果の検討)
pH測定部118におけるpHの指示値が7.0に調整した場合とpHの指示値が7.5に調整した場合それぞれで、アルカリとして水酸化ナトリウムを用いて、溶出鉄イオンに対して2当量倍、4当量倍の水酸化物イオンとなるように調整した以外、上記「Fe(OH)
3粒子の粒度分析」と同様にしてアンチモン含有水処理を行った。沈殿部12で30分、60分、120分、150分撹拌後にMF膜(1.0μm)を透過させたろ過水をサンプリングし、そのろ過後水(ろ過部13の後段、ろ過に付された後の水を言う。)中の鉄濃度をJIS K 0102:2013に基づき測定した。これにより、アルカリ添加量が水酸化物生成後水中の鉄析出に与える影響を検討した。
【0111】
図5は、水酸化物生成後水の鉄溶出濃度(mg/L)対アルカリ投入後の撹拌時間(分)のグラフである。溶出鉄イオンに対して4当量倍の水酸化物イオンとなるように水酸化ナトリウムを投入すると、2当量倍の水酸化物イオンとなるように水酸化ナトリウムを投入した場合に比べて早く鉄イオン濃度が減少し、30分程度でFe(OH)
3が析出することが分かった。
【0112】
また、4当量倍の水酸化物イオンとなるように水酸化ナトリウムを投入した場合、30分の撹拌でろ過後水のアンチモン濃度が検出限界(0.002未満)となった。
【0113】
以上の結果より、第1工程で所定の制御を行い、アンチモンを吸着除去することにより、アンチモン含有水からアンチモンを効率良く吸着分離するとともに、第2工程で所定の制御を行い、還元鉄粉から溶出するFe
2+を水酸化物生成してFe(OH)
3としてSb(OH)
3と共沈させることで、アンチモン濃度及び鉄濃度を極めて低濃度に低減することができることが分かった。
【解決手段】0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されている通水部に、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水して通水後水を得る第1工程と、通水後水にアルカリ剤を添加して沈殿物を生成させてろ過する第2工程と、を備え、第1工程においては、通水後水における、0価の還元鉄粉から溶出する鉄イオン濃度と、通水後水pHとの関係を予め求めておき、鉄イオン濃度が所定の範囲内となるように、通水後水pHを所定の範囲内に調整するに際して、通水後水pHの測定値をフィードバックして、通水部に通水する前のアンチモン含有水に添加するpH調整剤の添加量を調整する、第1の制御工程を備え、第2工程においては、鉄イオン濃度に応じて、水酸化鉄として沈殿させるのに必要量のアルカリ剤を投入する第2の制御工程を備える。